クリープハイプ 全国ライブハウスツアー「今今ここに君とあたし」 @新木場STUDIO COAST 11/14
- 2018/11/15
- 00:11
5月に行われた、4年ぶりの日本武道館ワンマンでバンドのこれまでの道のりとこれから歩いていく道をしっかりと示した、クリープハイプ。その先にあったのは2年ぶりのフルアルバム「泣きたくなるほど嬉しい日々に」。今や様々なテレビ番組にも出演するようになり、作家としても確かな立ち位置を獲得している尾崎世界観は、リリースツアーの中盤にあたるこの日をどんな日々の中の1日にしてくれるのだろうか。
今やこのキャパでは「ファンクラブに入っていてもチケットが取れない」というぐらいにライブハウスでは収まりきらないバンドになっているだけに、客席は平日とはいえ開演前から超満員。そもそも武道館も平日なのにチケットを取れないという人がたくさんいただけに、ライブハウスでこうなるのは当然とも言えるのだが。
19時になるとBGMの音が大きくなるとともに、場内が暗転。紗幕が張られたステージに次々と現われるメンバーの姿がうっすらと。最後に紗幕越しにでも半袖Tシャツ姿なのがわかる尾崎世界観が登場すると、ひときわ大きな歓声が上がり、4人が音を鳴らし始めたのは、今回のアルバムの起点になった曲と言っていい「イト」。イントロを鳴らし始めて数秒で紗幕が落ちると、4人の姿が露わになり、髪型がより麗しくなっているベースの長谷川カオナシは早くもステージ前まで歩み寄って演奏し、いつものようにハットを被った小川幸慈は飄々と、柄シャツ着用の小泉拓は冒頭から力強く音を鳴らしており、この曲からスタートするという、今回のツアー初参加の身としては、まだ中盤とはいえツアーを回ってさらに経験や技術を向上させていることがはっきりとわかる。
また「イト」は音源では管楽器の音が入っているのだが、4人の音だけで演奏されることによって、特に尾崎が早くも客席に向けて
「ありがとうございます」
と言った後の間奏の小川のギターソロが、ポップでありながらもこのバンドが持つソリッドなギターロックバンドらしさを増幅させていく。
今回のツアーのタイトルにもなっている、昔話調で自身のバンドのことを歌う「今今ここに君とあたし」では、
「昔々あるところに独特の世界観を持ったバンドがおったそうな
変な声だと村人から石を投げられて泣いていたバンドを」
というフレーズまで歌ってから、
「救ってくれて本当にありがとうございます」
と、誰が聞いているのかが見えない音源とは違い、まさに今この変なバンドを救ってくれた村人たちが目の前にいるからこその歌詞に変えて歌い、この村に住んでいることの幸せをこの上なく感じさせてくれる。
バンド自身は村人たち(=ファン)に救われたということをこうして曲の中で示しているが、きっとバンドがそう思っている以上に、このバンドに人生を救われたと思っている人はたくさんいるはず。だからこそ外野から石を投げられてもバンドのことを守るし、こうして村人たちへの愛を素直に表明してくれるのが本当に嬉しいのだ。
自分は「音楽に救われた」という経験をしたはるか後にクリープハイプに出会っているので(救われたと思っている存在は、尾崎世界観がリスペクトを示すあのバンドである)、クリープハイプのことは「ひたすらに良い曲を作り続けているバンド」という捉え方であるのだが、かつてのこのバンドのライブを涙を流しながら見ていた女性の姿を何人も見てきたので、決して「イノチミジカシコイセヨオトメ」などの女性が主人公の曲に共感することはできないが、その気持ちは実によくわかるというか、「この人はクリープハイプの音楽に支えられて生きてきたんだな」と思うことは何度もあった。
「こうして偉そうにしてますが、10年くらい前までは、女の人に生活させてもらってました。その当時の曲も包み隠さず歌いたいと思います」
と前置きされたことで、この曲の歌詞がさらにリアルさを浮かび上がらせる「君の部屋」、「新しい「左耳」を作ろうと思った」とリリース時に尾崎が口にしていた「寝癖」と、序盤はソリッドなギターロック曲が続いたのだが、かつてドキュメント的な映像作品の中で
「尾崎の喉は壊れてしまったのか?」
と言われたほど、かつてはライブ序盤は声があまり出ず、曲を重ねるにつれて徐々に声が出るようになっていく(たまに最後まで声が出ないままの時すらもあったが)というライブを展開していたが、この日はこの序盤から不安を感じさせることがないくらいにしっかりと声が出ていた。
唯一不安だったのは、序盤から中盤にかけて機材の取り替えであったりと、曲と曲の合間が空く時間が多かったので、テンポの悪いライブになってしまうのではないか?と懸念していたが、
「突然ですが、私はちびっ子が嫌いです。なぜならちびっ子も私を嫌いだからです。表情が乏しいのが怖いみたいです。
しかし先日、友人の女性と会った時に、その女性が2歳くらいの少女を連れていたんですね。その子と遊んでいる時、「イト」という曲のMVを見せたんですが、母親が画面に映る私を指差して「この人だーれ?」と聞いたら、
「カオたん!」
って答えて。ちびっ子、最高ー!」
と前言を撤回するようなMCをしたカオナシの力などによって、そうした時間すらも楽しいものに変わっていく。
すると
「カオたん、そんなちびっ子を泣き止ませることができるのは、みんなのうたになったこの曲です」
と、そのカオナシが尾崎とともにコーラス部分をハモる「おばけでいいからはやくきて」では、まるでメンバーがおばけそのものであるかのように、スモークがステージ上のメンバーを覆い尽くしていく。
さらに「かえるの唄」から「グレーマンのせいにする」というカオナシボーカル曲を続ける中で緩やかにシフトチェンジをしていくのだが、ともすれば最新アルバムの曲+代表曲という構成になってしまいがちなアルバムのリリースツアーの中でこうして過去曲をたくさん聴けるというのは嬉しい誤算であるし、やはりカオナシボーカル曲をここまで聴けるというのはワンマンならではであり、チケット争奪戦の中でこうしてここにいられることにより一層感謝したくなる。
「ザキりん」と観客に呼ばれた尾崎が、かつて自身をそう呼んでいたというアルバイト先のギャル先輩のことを思い出しながら歌われたのは、アルバムタイトルである「泣きたくなるほど嬉しい日々に」というフレーズが出てくる「泣き笑い」で、ようやく新作のツアーらしくなってくると、
「一生のお願い聞いて〜 クリープハイプのライブの時だけはクリープハイプのことだけを考えていて〜」
と尾崎がギターを弾きながら導入で歌った「一生のお願い」と続くのだが、
「ねぇもっと側にきて 抱きしめて離さないよ」
という、一聴するとクリープハイプであるがゆえに平易にすら聴こえてしまうサビの入りの後に、
「そこのリモコン取って」
「加湿器に水入れて」
という日常の些細な一場面が「一生のお願い」として歌われることで、そうしたなんでもないような日々こそが「泣きたくなるほど嬉しい日々」であるということを否が応でも実感させる。
「眠れない夜ってありますか?眠れないとそのまま深夜というか朝になってしまうんですけど、そういう時の気持ちを忘れずにいたいというか、クリープハイプのライブを見た後に帰ってすぐ寝る、っていうよりは、クリープハイプのライブを見た日は寝れなくなってる、っていう方が嬉しいような気がします」
という尾崎なりの言葉で「眠れない夜」の大切さを口にし、それを曲にした「ラジオ」からはタイトルがそのもののようでありながら、やはり素直な禁煙ソングではない「禁煙」、インディーズ時代ながら独特の歌詞の世界観はすでに炸裂している「色んな意味で優しく包んでくれますか?」、
「新木場の大学生」
と歌詞を変えて(新木場に大学ないけど)歌われ、疾走感のあるビートがバンドのグルーヴをさらに前へ前へと走らせる「週刊誌」、最新作収録の、どう見ても他の人と一緒くたに束ねることのできない人間であるカオナシが
「束ねてよ 束ねてよ」
と歌う「私を束ねて」と、序盤でのテンポの悪さへの懸念はどこへやら、次々と曲を連発していくし、バンドからは疲れなど一切感じさせず、むしろ演奏のキレとグルーヴはさらに増す一方。それでいてまだまだライブが終わりそうな感じが全然しないというあたりも凄いものがある。
「全員が楽しいって感じるのは難しいと思うんですよ。隣の人が大声で歌っててムカつくとか、前の人が髪を束ねないから当たって気持ち悪いとか。だからライブは電車みたいなもんですよ。変なやついっぱいいるじゃないですか。リュックを絶対背負ったまんまのやつとか(笑)
他の人を気にし過ぎたせいで楽しめないというのももったいないんで、っていろんなことを気にしてる俺に言われたくないと思うけど(笑)、歌ってると思ったら声を2割減で、音に耳をそばだてるようにお願いします」
と、ライブの場での他者への気遣いを尾崎なりに伝えて、ここにいる全ての人に心から楽しんでもらいたいという思いを示すと、ブラックミュージックのエッセンスを導入したことにより、それまでからの一大変化作となった「世界観」の先行シングル「鬼」の後は、真っ赤な照明がステージを妖しく包む中で、尾崎のいろんなことを気にしがちな性質を表す「金魚(とその糞)」「身も蓋もない水槽」という怒りをぶちまけるような曲を連発。
尾崎のこうした気持ちというのはどれだけバンドがデカい存在になっても、テレビでおなじみの存在になっても消えていないし、それはこれからも消えることはないのだろう。しかしこうした曲ではそうした怒りのエネルギーによるバンドのハードな一面を見せてくれるし、ある意味では最もライブで映える曲と言えるのかもしれない。
小川のリフが性急な曲の展開を引っ張る「社会の窓と同じ構成」では尾崎が最後のサビ前に観客の歓声を煽り、何方かと言えばこの曲と似た構成なんじゃないか?と思う「HE IS MINE」では
「なんだ東京こんなもんかよ」
と今度は不敵に煽り、特にタメたり焦らしたりすることなくストレートに
「セックスしよう!」
の大合唱へ。合唱が大きければ大きいほど、メジャーデビュー当時はこの曲とかでダイブするような観客がいっぱいいたことを思い出す。今はもう一切いないけれども。
「久しぶりに東京に帰ってきました。東京は育った場所であり、生活してる場所だけど、いろんな人がいるからそう感じることはあまりなくて。でもこれから演奏する曲で東京で生活してるっていうことを感じてもらえたら」
と東京で生きてきた(千葉を拠点にしていた時代もあったから「鬼」に「津田沼」という地名も出てくるけれど)からこそ、こうして東京でライブをしていることに感慨を感じさせると、夜中はageHaという国内最大規模のクラブに変貌するこの会場ならではの巨大なミラーボールがダンスを促すように、というよりかは終わりの時間が近づいていることを示すように光り、それがまるで蛍の一生のような切なさを感じさせる「蛍の光」、
「生まれ育った東京へと」
と、直接的にここが「東京」であることを感じさせた「愛の標識」→「オレンジ」というメジャー1stの収録曲にしてバンドのアンセムと言ってもいい曲を連発すると、
「次で最後の曲なんですけど、今回はアンコールもやりません。最後の曲です、って言ってまた出てきてやるのもなんか白々しいし、どうせ出てくるんだろっていう予定調和な感じなのも嫌なんで。離れられたくもないけど、舐められたくもない。これからも対等な関係でいましょう。でもそのぶん、死ぬ気で演奏します」
と、かつて「アンコールはどうする?」というタイトルを冠したライブを行ったこともあるクリープハイプが、ただ同じように毎回ツアーを回るのではなく、自分たちや来てくれる人に刺激を与えるような新しい試み。そのイトをちゃんと自身の口で説明してくれるからこそ、アンコールをやらないのが残念とは感じないし、何よりもこの曲で24曲目というのは、アンコールをやる他のアーティストよりもはるかに多い曲数。だからこそアンコールがなくても充足感に満たされている。
そんな中で最後に演奏されたのは「栞」。最初はFM802のキャンペーンソングとして、今をときめく様々なボーカリストが集結して歌ったこの曲が、クリープハイプバージョンだとパンクさすら感じさせる、ポップというよりもソリッドなギターロックになっている。それは「イト」とも通じるところであるが、個人的には「泣きたくなるほど嬉しい日々に」はこの「栞」のアルバムである。それくらいにこの曲は強い曲だし、それはクリープハイプのみのバージョンになったことによってより強さを増している。武道館の時にもクライマックスで演奏されたことからも、これからのこのバンドを担っていく曲になっていくだろうし、別れとしての春という季節を代表する名曲になっていくのは間違いないだろう。
演奏が終わり、メンバーたちがステージから去っても、なかなかステージから離れようとせず、「それならもうちょっと曲やればいいじゃん」とすら思ってしまうくらいに名残惜しそうな尾崎。何度も何度も「ありがとう」と口にし、
「クリープハイプが好きっていうだけでメンヘラって言われるんだから、お前らも大変だよなぁ(笑)
でも、言われていいですよ。これからは我々が守りますから」
と、「今今ここに君とあたし」では
「変な声だと村人から石を投げられて泣いていたバンドを救ったのは
変な感性を持った変な村人だった」
と、ファンから守られてここまで大きくなったバンドが、そうした存在になれたからこそ、今度は自分たちが村人を守ろうとしている。
未だに尾崎は
「家族じゃなくて恋人だと思ってるから、どうせ離れるんだろ!」
と目の前にいる村人たちがいつかいなくなってしまう存在であると思っているが、クリープハイプという村にずっと住んでいて、クリープハイプというバンドが守ってくれているんだから、バンドが続いていて、これからも「良い曲だな」って思える曲を作り続けてくれる限り、そこから出ていくことなんてない。
そんな、クリープハイプと村人との愛情や絆をしっかりと感じることができた、集大成でもないしツアーもまだ中盤だけど、泣きたくなるほど嬉しい日々っていうのはこういう日のことを言うんだろうな、と思えた1日。翌日の2days2日目を終えるとバンドはまた東京から旅立つが、新しい街に行っても元気でね。
1.イト
2.今今ここに君とあたし
3.君の部屋
4.寝癖
5.おばけでいいからはやくきて
6.かえるの唄
7.グレーマンのせいにする
8.泣き笑い
9.一生のお願い
10.大丈夫
11.ラジオ
12.禁煙
13.色んな意味で優しく包んでくれますか?
14.週刊誌
15.私を束ねて
16.鬼
17.金魚(とその糞)
18.身も蓋もない水槽
19.社会の窓と同じ構成
20.HE IS MINE
21.蛍の光
22.愛の標識
23.オレンジ
24.栞
栞
https://youtu.be/j4XsCJHfplg
Next→ 11/16 amazarashi @日本武道館
今やこのキャパでは「ファンクラブに入っていてもチケットが取れない」というぐらいにライブハウスでは収まりきらないバンドになっているだけに、客席は平日とはいえ開演前から超満員。そもそも武道館も平日なのにチケットを取れないという人がたくさんいただけに、ライブハウスでこうなるのは当然とも言えるのだが。
19時になるとBGMの音が大きくなるとともに、場内が暗転。紗幕が張られたステージに次々と現われるメンバーの姿がうっすらと。最後に紗幕越しにでも半袖Tシャツ姿なのがわかる尾崎世界観が登場すると、ひときわ大きな歓声が上がり、4人が音を鳴らし始めたのは、今回のアルバムの起点になった曲と言っていい「イト」。イントロを鳴らし始めて数秒で紗幕が落ちると、4人の姿が露わになり、髪型がより麗しくなっているベースの長谷川カオナシは早くもステージ前まで歩み寄って演奏し、いつものようにハットを被った小川幸慈は飄々と、柄シャツ着用の小泉拓は冒頭から力強く音を鳴らしており、この曲からスタートするという、今回のツアー初参加の身としては、まだ中盤とはいえツアーを回ってさらに経験や技術を向上させていることがはっきりとわかる。
また「イト」は音源では管楽器の音が入っているのだが、4人の音だけで演奏されることによって、特に尾崎が早くも客席に向けて
「ありがとうございます」
と言った後の間奏の小川のギターソロが、ポップでありながらもこのバンドが持つソリッドなギターロックバンドらしさを増幅させていく。
今回のツアーのタイトルにもなっている、昔話調で自身のバンドのことを歌う「今今ここに君とあたし」では、
「昔々あるところに独特の世界観を持ったバンドがおったそうな
変な声だと村人から石を投げられて泣いていたバンドを」
というフレーズまで歌ってから、
「救ってくれて本当にありがとうございます」
と、誰が聞いているのかが見えない音源とは違い、まさに今この変なバンドを救ってくれた村人たちが目の前にいるからこその歌詞に変えて歌い、この村に住んでいることの幸せをこの上なく感じさせてくれる。
バンド自身は村人たち(=ファン)に救われたということをこうして曲の中で示しているが、きっとバンドがそう思っている以上に、このバンドに人生を救われたと思っている人はたくさんいるはず。だからこそ外野から石を投げられてもバンドのことを守るし、こうして村人たちへの愛を素直に表明してくれるのが本当に嬉しいのだ。
自分は「音楽に救われた」という経験をしたはるか後にクリープハイプに出会っているので(救われたと思っている存在は、尾崎世界観がリスペクトを示すあのバンドである)、クリープハイプのことは「ひたすらに良い曲を作り続けているバンド」という捉え方であるのだが、かつてのこのバンドのライブを涙を流しながら見ていた女性の姿を何人も見てきたので、決して「イノチミジカシコイセヨオトメ」などの女性が主人公の曲に共感することはできないが、その気持ちは実によくわかるというか、「この人はクリープハイプの音楽に支えられて生きてきたんだな」と思うことは何度もあった。
「こうして偉そうにしてますが、10年くらい前までは、女の人に生活させてもらってました。その当時の曲も包み隠さず歌いたいと思います」
と前置きされたことで、この曲の歌詞がさらにリアルさを浮かび上がらせる「君の部屋」、「新しい「左耳」を作ろうと思った」とリリース時に尾崎が口にしていた「寝癖」と、序盤はソリッドなギターロック曲が続いたのだが、かつてドキュメント的な映像作品の中で
「尾崎の喉は壊れてしまったのか?」
と言われたほど、かつてはライブ序盤は声があまり出ず、曲を重ねるにつれて徐々に声が出るようになっていく(たまに最後まで声が出ないままの時すらもあったが)というライブを展開していたが、この日はこの序盤から不安を感じさせることがないくらいにしっかりと声が出ていた。
唯一不安だったのは、序盤から中盤にかけて機材の取り替えであったりと、曲と曲の合間が空く時間が多かったので、テンポの悪いライブになってしまうのではないか?と懸念していたが、
「突然ですが、私はちびっ子が嫌いです。なぜならちびっ子も私を嫌いだからです。表情が乏しいのが怖いみたいです。
しかし先日、友人の女性と会った時に、その女性が2歳くらいの少女を連れていたんですね。その子と遊んでいる時、「イト」という曲のMVを見せたんですが、母親が画面に映る私を指差して「この人だーれ?」と聞いたら、
「カオたん!」
って答えて。ちびっ子、最高ー!」
と前言を撤回するようなMCをしたカオナシの力などによって、そうした時間すらも楽しいものに変わっていく。
すると
「カオたん、そんなちびっ子を泣き止ませることができるのは、みんなのうたになったこの曲です」
と、そのカオナシが尾崎とともにコーラス部分をハモる「おばけでいいからはやくきて」では、まるでメンバーがおばけそのものであるかのように、スモークがステージ上のメンバーを覆い尽くしていく。
さらに「かえるの唄」から「グレーマンのせいにする」というカオナシボーカル曲を続ける中で緩やかにシフトチェンジをしていくのだが、ともすれば最新アルバムの曲+代表曲という構成になってしまいがちなアルバムのリリースツアーの中でこうして過去曲をたくさん聴けるというのは嬉しい誤算であるし、やはりカオナシボーカル曲をここまで聴けるというのはワンマンならではであり、チケット争奪戦の中でこうしてここにいられることにより一層感謝したくなる。
「ザキりん」と観客に呼ばれた尾崎が、かつて自身をそう呼んでいたというアルバイト先のギャル先輩のことを思い出しながら歌われたのは、アルバムタイトルである「泣きたくなるほど嬉しい日々に」というフレーズが出てくる「泣き笑い」で、ようやく新作のツアーらしくなってくると、
「一生のお願い聞いて〜 クリープハイプのライブの時だけはクリープハイプのことだけを考えていて〜」
と尾崎がギターを弾きながら導入で歌った「一生のお願い」と続くのだが、
「ねぇもっと側にきて 抱きしめて離さないよ」
という、一聴するとクリープハイプであるがゆえに平易にすら聴こえてしまうサビの入りの後に、
「そこのリモコン取って」
「加湿器に水入れて」
という日常の些細な一場面が「一生のお願い」として歌われることで、そうしたなんでもないような日々こそが「泣きたくなるほど嬉しい日々」であるということを否が応でも実感させる。
「眠れない夜ってありますか?眠れないとそのまま深夜というか朝になってしまうんですけど、そういう時の気持ちを忘れずにいたいというか、クリープハイプのライブを見た後に帰ってすぐ寝る、っていうよりは、クリープハイプのライブを見た日は寝れなくなってる、っていう方が嬉しいような気がします」
という尾崎なりの言葉で「眠れない夜」の大切さを口にし、それを曲にした「ラジオ」からはタイトルがそのもののようでありながら、やはり素直な禁煙ソングではない「禁煙」、インディーズ時代ながら独特の歌詞の世界観はすでに炸裂している「色んな意味で優しく包んでくれますか?」、
「新木場の大学生」
と歌詞を変えて(新木場に大学ないけど)歌われ、疾走感のあるビートがバンドのグルーヴをさらに前へ前へと走らせる「週刊誌」、最新作収録の、どう見ても他の人と一緒くたに束ねることのできない人間であるカオナシが
「束ねてよ 束ねてよ」
と歌う「私を束ねて」と、序盤でのテンポの悪さへの懸念はどこへやら、次々と曲を連発していくし、バンドからは疲れなど一切感じさせず、むしろ演奏のキレとグルーヴはさらに増す一方。それでいてまだまだライブが終わりそうな感じが全然しないというあたりも凄いものがある。
「全員が楽しいって感じるのは難しいと思うんですよ。隣の人が大声で歌っててムカつくとか、前の人が髪を束ねないから当たって気持ち悪いとか。だからライブは電車みたいなもんですよ。変なやついっぱいいるじゃないですか。リュックを絶対背負ったまんまのやつとか(笑)
他の人を気にし過ぎたせいで楽しめないというのももったいないんで、っていろんなことを気にしてる俺に言われたくないと思うけど(笑)、歌ってると思ったら声を2割減で、音に耳をそばだてるようにお願いします」
と、ライブの場での他者への気遣いを尾崎なりに伝えて、ここにいる全ての人に心から楽しんでもらいたいという思いを示すと、ブラックミュージックのエッセンスを導入したことにより、それまでからの一大変化作となった「世界観」の先行シングル「鬼」の後は、真っ赤な照明がステージを妖しく包む中で、尾崎のいろんなことを気にしがちな性質を表す「金魚(とその糞)」「身も蓋もない水槽」という怒りをぶちまけるような曲を連発。
尾崎のこうした気持ちというのはどれだけバンドがデカい存在になっても、テレビでおなじみの存在になっても消えていないし、それはこれからも消えることはないのだろう。しかしこうした曲ではそうした怒りのエネルギーによるバンドのハードな一面を見せてくれるし、ある意味では最もライブで映える曲と言えるのかもしれない。
小川のリフが性急な曲の展開を引っ張る「社会の窓と同じ構成」では尾崎が最後のサビ前に観客の歓声を煽り、何方かと言えばこの曲と似た構成なんじゃないか?と思う「HE IS MINE」では
「なんだ東京こんなもんかよ」
と今度は不敵に煽り、特にタメたり焦らしたりすることなくストレートに
「セックスしよう!」
の大合唱へ。合唱が大きければ大きいほど、メジャーデビュー当時はこの曲とかでダイブするような観客がいっぱいいたことを思い出す。今はもう一切いないけれども。
「久しぶりに東京に帰ってきました。東京は育った場所であり、生活してる場所だけど、いろんな人がいるからそう感じることはあまりなくて。でもこれから演奏する曲で東京で生活してるっていうことを感じてもらえたら」
と東京で生きてきた(千葉を拠点にしていた時代もあったから「鬼」に「津田沼」という地名も出てくるけれど)からこそ、こうして東京でライブをしていることに感慨を感じさせると、夜中はageHaという国内最大規模のクラブに変貌するこの会場ならではの巨大なミラーボールがダンスを促すように、というよりかは終わりの時間が近づいていることを示すように光り、それがまるで蛍の一生のような切なさを感じさせる「蛍の光」、
「生まれ育った東京へと」
と、直接的にここが「東京」であることを感じさせた「愛の標識」→「オレンジ」というメジャー1stの収録曲にしてバンドのアンセムと言ってもいい曲を連発すると、
「次で最後の曲なんですけど、今回はアンコールもやりません。最後の曲です、って言ってまた出てきてやるのもなんか白々しいし、どうせ出てくるんだろっていう予定調和な感じなのも嫌なんで。離れられたくもないけど、舐められたくもない。これからも対等な関係でいましょう。でもそのぶん、死ぬ気で演奏します」
と、かつて「アンコールはどうする?」というタイトルを冠したライブを行ったこともあるクリープハイプが、ただ同じように毎回ツアーを回るのではなく、自分たちや来てくれる人に刺激を与えるような新しい試み。そのイトをちゃんと自身の口で説明してくれるからこそ、アンコールをやらないのが残念とは感じないし、何よりもこの曲で24曲目というのは、アンコールをやる他のアーティストよりもはるかに多い曲数。だからこそアンコールがなくても充足感に満たされている。
そんな中で最後に演奏されたのは「栞」。最初はFM802のキャンペーンソングとして、今をときめく様々なボーカリストが集結して歌ったこの曲が、クリープハイプバージョンだとパンクさすら感じさせる、ポップというよりもソリッドなギターロックになっている。それは「イト」とも通じるところであるが、個人的には「泣きたくなるほど嬉しい日々に」はこの「栞」のアルバムである。それくらいにこの曲は強い曲だし、それはクリープハイプのみのバージョンになったことによってより強さを増している。武道館の時にもクライマックスで演奏されたことからも、これからのこのバンドを担っていく曲になっていくだろうし、別れとしての春という季節を代表する名曲になっていくのは間違いないだろう。
演奏が終わり、メンバーたちがステージから去っても、なかなかステージから離れようとせず、「それならもうちょっと曲やればいいじゃん」とすら思ってしまうくらいに名残惜しそうな尾崎。何度も何度も「ありがとう」と口にし、
「クリープハイプが好きっていうだけでメンヘラって言われるんだから、お前らも大変だよなぁ(笑)
でも、言われていいですよ。これからは我々が守りますから」
と、「今今ここに君とあたし」では
「変な声だと村人から石を投げられて泣いていたバンドを救ったのは
変な感性を持った変な村人だった」
と、ファンから守られてここまで大きくなったバンドが、そうした存在になれたからこそ、今度は自分たちが村人を守ろうとしている。
未だに尾崎は
「家族じゃなくて恋人だと思ってるから、どうせ離れるんだろ!」
と目の前にいる村人たちがいつかいなくなってしまう存在であると思っているが、クリープハイプという村にずっと住んでいて、クリープハイプというバンドが守ってくれているんだから、バンドが続いていて、これからも「良い曲だな」って思える曲を作り続けてくれる限り、そこから出ていくことなんてない。
そんな、クリープハイプと村人との愛情や絆をしっかりと感じることができた、集大成でもないしツアーもまだ中盤だけど、泣きたくなるほど嬉しい日々っていうのはこういう日のことを言うんだろうな、と思えた1日。翌日の2days2日目を終えるとバンドはまた東京から旅立つが、新しい街に行っても元気でね。
1.イト
2.今今ここに君とあたし
3.君の部屋
4.寝癖
5.おばけでいいからはやくきて
6.かえるの唄
7.グレーマンのせいにする
8.泣き笑い
9.一生のお願い
10.大丈夫
11.ラジオ
12.禁煙
13.色んな意味で優しく包んでくれますか?
14.週刊誌
15.私を束ねて
16.鬼
17.金魚(とその糞)
18.身も蓋もない水槽
19.社会の窓と同じ構成
20.HE IS MINE
21.蛍の光
22.愛の標識
23.オレンジ
24.栞
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