Yap!!! Bichrome & Monochrome Release Tour ~Everyone Let's Dance~ @北浦和KYARA 11/9
- 2018/11/10
- 13:00
昨年、石毛輝の新バンドとして始動した、Yap!!!。当初はソロプロジェクト的な形であったが、汐碇真也(ベース)、柿内宏介(ドラム)のリズム隊が正式メンバーとなり、そのタイミングで「Bichrome」「Monochrome」というミニアルバム2枚をリリース。
なぜわざわざ2枚に分けてリリースしたかと言うと、「Bichrome」はゲストを迎えたコラボ盤、「Monochrome」はバンドオンリーで製作された盤という区分けが明確にされているからで、今回のツアーにはその「Bichrome」でコラボを果たした面々が対バンとして出演。
石毛輝のホームとでも言うべきこの日の北浦和KYARAでのツアー初日の対バンはNYANTORA。the telephones時代に「A.B.C.D.ep」をプロデュースし、lovefilmの初ライブ時にもKoji Nakamuraとして対バンをしている、元SUPERCARのナカコーがSUPERCAR時代から活動していたプロジェクトである。
・NYANTORA
遅刻してしまったため、めちゃくちゃ見たかった「NYANTORAのナカコー」を後半しか見れなかったのだが、KYARAの客席に入ると、フロアの上手側にCDJ2台とサンプラーなどのDJセットが設置されており、そこで演奏するナカコー。つまり、観客である我々と同じ目線で音を出しているのである。
この日のライブは6月にリリースされたアルバム「マイオリルヒト」の再現ライブとなることが事前に告知されていたのだが、アンビエント、ミニマルな要素が強いサウンドをその機材で構築していくナカコーは、時折ビールを飲みながらというリラックスっぷり。
NYANTORAはナカコーワークスの中でもマニアックサイドな、実験的なプロジェクトなのだが、そうしたサウンドの中にもSUPERCARの「HIGH VISION」のような美しさを感じられる音も随所に散りばめられており、聴いていると脳内にその音を具現化したような情景が浮かんでくる。
とはいえ自分はナカコーの魅力の一つはその低さが熱苦しくない熱量を感じさせるボーカルにあると思っているので、NYANTORAにおいてはそこが聴けないのは少し残念なところでもある。
全ての音を繋げるように作り上げてきたのがフェードアウト気味に収束へ向かうと、静寂が訪れたフロアに
「終わりです」
とボソッと一言発して終わるという相変わらずのナカコー節。目の前、しかも同じ目線でずっと見ているとやはり年齢を重ねてきたのがわかるようになってきたが、あらゆる音楽への好奇心がまるっきり薄れていないというか、歳を重ねるごとにさらに強くなってきているように感じるのは本当に素敵だ。
ナカコーがよく自身のホームページなどで紹介している音楽はあまりにマニアック過ぎて、聴いても「これはなんなんだろう?」って感じるようなものも多いのだが、SUPERCARやLAMAなどでポップなことだっていくらでもできるし、NYANTORAとしてこういう音楽もあるんだよ、って教えてくれる。それをずっと追いかけ続けてきただけに、やはりナカコーという男が自分の音楽人生に与えた影響は計り知れないくらいに大きい。
・Yap!!!
客席最後方から師匠であるナカコーのライブをずっと見ていた石毛輝率いるYap!!!がステージへ。上手にドラムで石毛が真ん中というスリーピースとしては珍しい立ち位置なのはこれまでと変わらないが、こうして小さいライブハウスで見ると、ステージを埋め尽くすようなその機材の多さに驚かされる。
「北浦和ー!」
と石毛が地元であるこの場所の名前をおなじみのハイトーンボイスで叫ぶと、アッパーかつダンサブルに始まるのかと思いきや、神聖かつロマンチックな「If I'm A Hero」でスタートするという嬉しい驚き。石毛の声の伸びやかさで歌われるタイトルフレーズは、こうしてライブに来ている人からしたら石毛輝という人間が我々のヒーローなんだよな、と思わされる。
ツアー開催直前に配信されたインスタライブにおいても演奏されていた「Story of a boring man」からはYap!!!の持ち味でもあるアッパーでダンサブルなバンドサウンドが発揮されていく。
アッパーかつダンサブルというとやはりthe telephones的なことをやっているのか、と思われがちだが、Yap!!!とthe telephonesは似ているようでいて全然違う。それはもちろんメンバーが違うし、編成も違うからなのだが、曲の作り方もやっぱり違うと思う。Yap!!!はこの3人で演奏するのを想定して作られていると思うし、the telephonesのように「DISCO」などのイメージに囚われないダンスミュージックを作ることができる。そもそもthe telephonesは今年からライブ活動を再開しているだけに、the telephones的なことはthe telephonesでできるわけである。
で、その最もYap!!!らしさが現れているのは、やはり「Bichrome」収録のコラボ楽曲たち。CHAIが参加した「Summer time chill out」はマナ&カナのボーカルが打ち込みで流れる形で演奏されたが、自身よりもはるかに若いCHAIとコラボした理由を石毛はインタビューで
「自分の感性が今の若い人に通用するのか挑戦してみたかった」
というようなことを語っていた。かつてthe telephonesで数え切れないくらいたくさんのライブキッズたちを踊らせ続けた石毛輝は、年齢を重ねて、同じように年齢を重ねた人たちだけをターゲットに音楽を作るのではなく、今も同世代だけではなく若い人にも自身の音楽を聴いて欲しいと思っているし、今の自身の経験や技術をフルに使ってそこに挑んでいる。それはやはり自身が10代の頃に音楽に出会って夢中になった時のことを今も覚えているからだと思う。自分も含め、そうやって夢中になれるものを無意識のうちに探している若い人たちの人生を最も面白くて楽しいものに変えてくれるのが音楽だった。そういう意味でも、Yap!!!の音楽は石毛輝の作る音楽をずっと聴いてきた人はもちろん、the telephonesのことを全然知らないような若い人たちにも聴いて欲しいものだと思うし、きっと響く人がたくさんいると思う。
しかし、リリース前からあらゆるライブで新曲として演奏されてきていただけに、「Queen of the night」(春フェスやその前の時点でよく演奏されていた)や「Now or never」という「Monochrome」の曲たちは新作に収録されている新曲とは思えないくらいの完成度をライブで発揮している。ツアーというのは初日はまだ手探り的な演奏から始まって、ファイナルで完成に達するというパターンがほとんどだが、もうこの初日の時点で完成していると言ってもいいのでは、と思ってしまう。
とはいえ、やはりツアー初日という感覚は演奏ではなくMCや客席のリアクションからはモロに出ていて、石毛もやや困惑したような感じであった。
ツアータイトルにもなった「Everyone let's go」は9mm Parabellum Bulletの菅原卓郎とBase Ball Bearの小出祐介という、かつて石毛がそのバンドのギタリストとしてステージに立ったことがある盟友たちを迎えたデュエット曲なのだが、さすがにこの日はどちらも不在ということで、ベースのマグナムこと汐碇とのデュエットという形で披露された。
最近になってそのあだ名がついたりしてキャラ的にも持ち味を発揮してきている汐碇だが、ベースはもちろんシンセも演奏しているし、さらにこうしてボーカルも担えるというマルチプレイヤーっぷりは石毛の相棒としてはこれ以上ない存在だし、どっからどう見ても良い人にしか見えない雰囲気がライブの幸福な空気を生み出している要素の一つにもなっていると思う。
この曲に参加しているボーカリスト3人からいつも刺激をもらっている身としては、このツアー中にライブで3人が揃って歌っている姿をなんとしても見てみたいものだが。
1stミニアルバム「I Wanna Be Your Hero」収録の「Too Young for Love」ではサビ以外ではほとんど全く石毛はギターを弾かずに身振り手振りを交えながら歌い、汐碇と柿内のビートが曲を作り出しているのだが、こうした曲ができるのは、うねるようなそのベースが一つの楽器でグルーヴを生み出している汐碇と、原曲よりも手数と力強さを増した、パワーとスピードを兼ね備えた柿内の2人がいるからこそできるもの。この曲をライブで聴くと、Yap!!!がこの3人である意味をこれ以上ないくらいに感じることができる。
一転してダークなサウンドの「The light」はDATS,YahyelのMONJOEとともに制作され、さらにRyohuのラップが乗るというアルバムの中でも異質なナンバーとも言えるが、石毛の音楽の趣向性を考えると全く違和感がないし、こうしたサイドの曲ももっと聴いてみたいと思う。タイトル通りに曲の最後には石毛のボーカルとRyohuのラップが光を導くような、確かな化学反応が起きている。
「ツアーとなると新しい曲をやりたくなるんですよ。やっぱりバンドは常に進化していかなきゃいけないと俺は思っているし。じゃあ1stアルバムの曲を…(笑)」
と嘯きながら演奏されたのは、なんとさらなる新曲。確かにthe telephones時代からワンマンではいきなり新曲をやるようなことが多かった(というか毎回のごとく新曲をやっていたし、そうしてライブで新曲を練り上げていくというライブバンドとしての新曲の作り方をずっとしてきた)が、この新曲がまさにバンドのさらなる進化を示す、一聴しただけで名曲であることが間違いなくわかる、石毛のポップセンスが全開になった曲。
「Life is short. No regret」
というフレーズからすると、サウンドこそキャッチーかつポップであるが、なんらかの深い意味が込められている歌詞な気がしてならないので、ツアーが始まったばかりだが是非とも早く音源を聴きたくなってしまう。
終盤はやはりアッパーに振り切っていくのだが、「Ahhh!!!」「Wake me up!!!」と連発されることによって、3人の演奏はさらに一つになり、個々のグルーヴが合わさって、それが客席にも広がり、確かな盛り上がりを見せていた。
下北沢で初ライブをやったのが去年の8月だから、まだ始動して1年ちょっと。でもその1年がとてつもなく濃いものであったというのがよくわかるくらいに、初ライブの時とは別バンドと言っていいくらいのバンドとしての強さを改めて見せつけられた。
アンコールではメンバー全員がツアーグッズに身を包んで登場。石毛はロンTにYap!!!のキャップを被って登場。いわく
「やっぱりグッズっていうのは普段から身につけられるものが1番良い」
という、the telephonesの時はライブの時しか着れないようなグッズを連発していたとは思えないことを。それくらい、確かに今回のグッズは普通にライブ以外の時も重宝しそうだし、ハイセンスである。
そんな中でやはりこの日の対バンであるナカコーをステージに招き、KYARAの楽屋にあるストIIを2人で対戦したらナカコーの圧勝だった、という微笑ましくもあり、両者が本当に世代を超えて信頼できる関係にあるんだな、ということを感じさせてくれるエピソードを披露したあとに演奏されたのは「Bichrome」でナカコーが参加した「Happysad」。今回のライブにはNYANTORAとして呼ばれているし、そうしたアンビエント的なサウンドにしようと思えばできたはずだが、この曲ではナカコーがギターを弾きながら歌う、iLLの頃を彷彿とさせる仕上がりに。「幸せな悲しみ」というタイトルのテーマは、ナカコーと石毛の両者の持つ音楽性を実に的確に表しているし、なによりも新代田FEVERでのiLLとthe telephones(COUNTDOWN JAPANのGALAXY STAGEでもコラボした)の時のように、こうして自分がずっと追いかけ続けてきた2人がこうして一緒にステージに立って演奏している姿がまた見れたというのは本当に幸せなことである。
石毛は
「ナカコーさんと一緒にやれるのを見れるのは貴重ですよ」
と言っていたが、また見れる日があるんならどこへでも行く。
さらに
「ナカコーさんにはthe telephonesのプロデューサーをやってもらってからずっとお世話になっていて。ナカコーさんからシンセを7台くらいもらってるんだけど(笑)、そのシンセの音も今回のアルバムに入ってます。そうやって音楽は受け継がれて行くんですよ」
と、自身の作った音楽の中にナカコーの音が入っていることも明かす。そのシンセはもしかしたらSUPERCAR時代からナカコーが使っていたものかもしれない。もしそうだとしたらYap!!!にSUPERCARのサウンドが入っていることになるし、石毛の言葉通りに、そうやってもう見ることのできないバンドの意志は、そのバンドを聴いて育った世代に受け継がれて行く。
当然、それはさらにこの先、石毛が作った音楽を聴いて育った、さらに下の世代へも受け継がれていく。そこにはわずかではあっても、ナカコーの音楽も入っているし、そのアーティストの音を聴けばきっとそれを感じることができる。そうすれば、もしその人がいなくなったり、音楽をやらなくなってもその人が生み出した音楽は生き続けていく。the telephones時代から先輩や海外のバンドへの憧れと愛を口にしてきた石毛だからこそ、そうした思いはより一層強く感じることができる。
「湿っぽく終わるのもなんだかあれなんで、最後はみんなで踊りましょう!」
と言ってさらに演奏されたのは「Dancing in Midnight」で、やっぱりYap!!!のライブはいろんなことを忘れてしまうくらいに楽しかったし、でもやっぱり「音楽とは」「バンドとは」というものを改めて考えさせてくれるものだった。
「本当にありがとう、北浦和。ここでできて幸せでした。もっとデカくなって帰ってきます!」
と石毛は言っていたが、「the telephonesの石毛のバンド」として、もっと大々的に宣伝したり打ち出したりしていきなりド派手にデビューするというやり方もあったはず。実際、そうしてMVやパフォーマンスで大きな話題を呼んで注目されるという、現代ならではの方法論を生かした若手バンドも多い。
でもYap!!!は下北沢の小さなライブハウスの4組くらい出演するイベントで初ライブを行ったし、今回のツアーも地道に小さいライブハウスを回るものだ。なぜそうした活動をするのか。それは石毛がthe telephones時代からずっと
「ライブハウス出身のバンドであることに誇りを持っている」
から。the telephonesだってその繰り返しで大きくなったし、そうした経験の中で石毛はバンドが本当の意味で大きく、強くなるにはどうするべきかというのをしっかりと理解している。それはこのツアーのファイナルでも間違いなく形になって現れるはずだし、そこには、やろうと思えばいくらでもバンドではない音楽の道で生きていけるけれど、それでもバンドマンとして生き続けることを選んだ男の覚悟が見える。
そこを自分は何よりも信頼しているし、そういう思いが見えるバンドや人間が好きで、そういう人の作る音楽に今でも感動したり心が動かされたりしている。また来月、ツアーファイナルで。
1.If I'm A Hero
2.Story of a boring man
3.Summer time chill out
4.Queen of the night
5.Now or never
6.Everyone let's go
7.Game of romance
8.Too Young for Love
9.The light
10.新曲
11.Ahhh!!!
12.Wake me up!!!
encore
13.Happysad feat.ナカコー
14.Dancing in Midnight
Next→ 11/14 クリープハイプ @新木場STUDIO COAST
なぜわざわざ2枚に分けてリリースしたかと言うと、「Bichrome」はゲストを迎えたコラボ盤、「Monochrome」はバンドオンリーで製作された盤という区分けが明確にされているからで、今回のツアーにはその「Bichrome」でコラボを果たした面々が対バンとして出演。
石毛輝のホームとでも言うべきこの日の北浦和KYARAでのツアー初日の対バンはNYANTORA。the telephones時代に「A.B.C.D.ep」をプロデュースし、lovefilmの初ライブ時にもKoji Nakamuraとして対バンをしている、元SUPERCARのナカコーがSUPERCAR時代から活動していたプロジェクトである。
・NYANTORA
遅刻してしまったため、めちゃくちゃ見たかった「NYANTORAのナカコー」を後半しか見れなかったのだが、KYARAの客席に入ると、フロアの上手側にCDJ2台とサンプラーなどのDJセットが設置されており、そこで演奏するナカコー。つまり、観客である我々と同じ目線で音を出しているのである。
この日のライブは6月にリリースされたアルバム「マイオリルヒト」の再現ライブとなることが事前に告知されていたのだが、アンビエント、ミニマルな要素が強いサウンドをその機材で構築していくナカコーは、時折ビールを飲みながらというリラックスっぷり。
NYANTORAはナカコーワークスの中でもマニアックサイドな、実験的なプロジェクトなのだが、そうしたサウンドの中にもSUPERCARの「HIGH VISION」のような美しさを感じられる音も随所に散りばめられており、聴いていると脳内にその音を具現化したような情景が浮かんでくる。
とはいえ自分はナカコーの魅力の一つはその低さが熱苦しくない熱量を感じさせるボーカルにあると思っているので、NYANTORAにおいてはそこが聴けないのは少し残念なところでもある。
全ての音を繋げるように作り上げてきたのがフェードアウト気味に収束へ向かうと、静寂が訪れたフロアに
「終わりです」
とボソッと一言発して終わるという相変わらずのナカコー節。目の前、しかも同じ目線でずっと見ているとやはり年齢を重ねてきたのがわかるようになってきたが、あらゆる音楽への好奇心がまるっきり薄れていないというか、歳を重ねるごとにさらに強くなってきているように感じるのは本当に素敵だ。
ナカコーがよく自身のホームページなどで紹介している音楽はあまりにマニアック過ぎて、聴いても「これはなんなんだろう?」って感じるようなものも多いのだが、SUPERCARやLAMAなどでポップなことだっていくらでもできるし、NYANTORAとしてこういう音楽もあるんだよ、って教えてくれる。それをずっと追いかけ続けてきただけに、やはりナカコーという男が自分の音楽人生に与えた影響は計り知れないくらいに大きい。
・Yap!!!
客席最後方から師匠であるナカコーのライブをずっと見ていた石毛輝率いるYap!!!がステージへ。上手にドラムで石毛が真ん中というスリーピースとしては珍しい立ち位置なのはこれまでと変わらないが、こうして小さいライブハウスで見ると、ステージを埋め尽くすようなその機材の多さに驚かされる。
「北浦和ー!」
と石毛が地元であるこの場所の名前をおなじみのハイトーンボイスで叫ぶと、アッパーかつダンサブルに始まるのかと思いきや、神聖かつロマンチックな「If I'm A Hero」でスタートするという嬉しい驚き。石毛の声の伸びやかさで歌われるタイトルフレーズは、こうしてライブに来ている人からしたら石毛輝という人間が我々のヒーローなんだよな、と思わされる。
ツアー開催直前に配信されたインスタライブにおいても演奏されていた「Story of a boring man」からはYap!!!の持ち味でもあるアッパーでダンサブルなバンドサウンドが発揮されていく。
アッパーかつダンサブルというとやはりthe telephones的なことをやっているのか、と思われがちだが、Yap!!!とthe telephonesは似ているようでいて全然違う。それはもちろんメンバーが違うし、編成も違うからなのだが、曲の作り方もやっぱり違うと思う。Yap!!!はこの3人で演奏するのを想定して作られていると思うし、the telephonesのように「DISCO」などのイメージに囚われないダンスミュージックを作ることができる。そもそもthe telephonesは今年からライブ活動を再開しているだけに、the telephones的なことはthe telephonesでできるわけである。
で、その最もYap!!!らしさが現れているのは、やはり「Bichrome」収録のコラボ楽曲たち。CHAIが参加した「Summer time chill out」はマナ&カナのボーカルが打ち込みで流れる形で演奏されたが、自身よりもはるかに若いCHAIとコラボした理由を石毛はインタビューで
「自分の感性が今の若い人に通用するのか挑戦してみたかった」
というようなことを語っていた。かつてthe telephonesで数え切れないくらいたくさんのライブキッズたちを踊らせ続けた石毛輝は、年齢を重ねて、同じように年齢を重ねた人たちだけをターゲットに音楽を作るのではなく、今も同世代だけではなく若い人にも自身の音楽を聴いて欲しいと思っているし、今の自身の経験や技術をフルに使ってそこに挑んでいる。それはやはり自身が10代の頃に音楽に出会って夢中になった時のことを今も覚えているからだと思う。自分も含め、そうやって夢中になれるものを無意識のうちに探している若い人たちの人生を最も面白くて楽しいものに変えてくれるのが音楽だった。そういう意味でも、Yap!!!の音楽は石毛輝の作る音楽をずっと聴いてきた人はもちろん、the telephonesのことを全然知らないような若い人たちにも聴いて欲しいものだと思うし、きっと響く人がたくさんいると思う。
しかし、リリース前からあらゆるライブで新曲として演奏されてきていただけに、「Queen of the night」(春フェスやその前の時点でよく演奏されていた)や「Now or never」という「Monochrome」の曲たちは新作に収録されている新曲とは思えないくらいの完成度をライブで発揮している。ツアーというのは初日はまだ手探り的な演奏から始まって、ファイナルで完成に達するというパターンがほとんどだが、もうこの初日の時点で完成していると言ってもいいのでは、と思ってしまう。
とはいえ、やはりツアー初日という感覚は演奏ではなくMCや客席のリアクションからはモロに出ていて、石毛もやや困惑したような感じであった。
ツアータイトルにもなった「Everyone let's go」は9mm Parabellum Bulletの菅原卓郎とBase Ball Bearの小出祐介という、かつて石毛がそのバンドのギタリストとしてステージに立ったことがある盟友たちを迎えたデュエット曲なのだが、さすがにこの日はどちらも不在ということで、ベースのマグナムこと汐碇とのデュエットという形で披露された。
最近になってそのあだ名がついたりしてキャラ的にも持ち味を発揮してきている汐碇だが、ベースはもちろんシンセも演奏しているし、さらにこうしてボーカルも担えるというマルチプレイヤーっぷりは石毛の相棒としてはこれ以上ない存在だし、どっからどう見ても良い人にしか見えない雰囲気がライブの幸福な空気を生み出している要素の一つにもなっていると思う。
この曲に参加しているボーカリスト3人からいつも刺激をもらっている身としては、このツアー中にライブで3人が揃って歌っている姿をなんとしても見てみたいものだが。
1stミニアルバム「I Wanna Be Your Hero」収録の「Too Young for Love」ではサビ以外ではほとんど全く石毛はギターを弾かずに身振り手振りを交えながら歌い、汐碇と柿内のビートが曲を作り出しているのだが、こうした曲ができるのは、うねるようなそのベースが一つの楽器でグルーヴを生み出している汐碇と、原曲よりも手数と力強さを増した、パワーとスピードを兼ね備えた柿内の2人がいるからこそできるもの。この曲をライブで聴くと、Yap!!!がこの3人である意味をこれ以上ないくらいに感じることができる。
一転してダークなサウンドの「The light」はDATS,YahyelのMONJOEとともに制作され、さらにRyohuのラップが乗るというアルバムの中でも異質なナンバーとも言えるが、石毛の音楽の趣向性を考えると全く違和感がないし、こうしたサイドの曲ももっと聴いてみたいと思う。タイトル通りに曲の最後には石毛のボーカルとRyohuのラップが光を導くような、確かな化学反応が起きている。
「ツアーとなると新しい曲をやりたくなるんですよ。やっぱりバンドは常に進化していかなきゃいけないと俺は思っているし。じゃあ1stアルバムの曲を…(笑)」
と嘯きながら演奏されたのは、なんとさらなる新曲。確かにthe telephones時代からワンマンではいきなり新曲をやるようなことが多かった(というか毎回のごとく新曲をやっていたし、そうしてライブで新曲を練り上げていくというライブバンドとしての新曲の作り方をずっとしてきた)が、この新曲がまさにバンドのさらなる進化を示す、一聴しただけで名曲であることが間違いなくわかる、石毛のポップセンスが全開になった曲。
「Life is short. No regret」
というフレーズからすると、サウンドこそキャッチーかつポップであるが、なんらかの深い意味が込められている歌詞な気がしてならないので、ツアーが始まったばかりだが是非とも早く音源を聴きたくなってしまう。
終盤はやはりアッパーに振り切っていくのだが、「Ahhh!!!」「Wake me up!!!」と連発されることによって、3人の演奏はさらに一つになり、個々のグルーヴが合わさって、それが客席にも広がり、確かな盛り上がりを見せていた。
下北沢で初ライブをやったのが去年の8月だから、まだ始動して1年ちょっと。でもその1年がとてつもなく濃いものであったというのがよくわかるくらいに、初ライブの時とは別バンドと言っていいくらいのバンドとしての強さを改めて見せつけられた。
アンコールではメンバー全員がツアーグッズに身を包んで登場。石毛はロンTにYap!!!のキャップを被って登場。いわく
「やっぱりグッズっていうのは普段から身につけられるものが1番良い」
という、the telephonesの時はライブの時しか着れないようなグッズを連発していたとは思えないことを。それくらい、確かに今回のグッズは普通にライブ以外の時も重宝しそうだし、ハイセンスである。
そんな中でやはりこの日の対バンであるナカコーをステージに招き、KYARAの楽屋にあるストIIを2人で対戦したらナカコーの圧勝だった、という微笑ましくもあり、両者が本当に世代を超えて信頼できる関係にあるんだな、ということを感じさせてくれるエピソードを披露したあとに演奏されたのは「Bichrome」でナカコーが参加した「Happysad」。今回のライブにはNYANTORAとして呼ばれているし、そうしたアンビエント的なサウンドにしようと思えばできたはずだが、この曲ではナカコーがギターを弾きながら歌う、iLLの頃を彷彿とさせる仕上がりに。「幸せな悲しみ」というタイトルのテーマは、ナカコーと石毛の両者の持つ音楽性を実に的確に表しているし、なによりも新代田FEVERでのiLLとthe telephones(COUNTDOWN JAPANのGALAXY STAGEでもコラボした)の時のように、こうして自分がずっと追いかけ続けてきた2人がこうして一緒にステージに立って演奏している姿がまた見れたというのは本当に幸せなことである。
石毛は
「ナカコーさんと一緒にやれるのを見れるのは貴重ですよ」
と言っていたが、また見れる日があるんならどこへでも行く。
さらに
「ナカコーさんにはthe telephonesのプロデューサーをやってもらってからずっとお世話になっていて。ナカコーさんからシンセを7台くらいもらってるんだけど(笑)、そのシンセの音も今回のアルバムに入ってます。そうやって音楽は受け継がれて行くんですよ」
と、自身の作った音楽の中にナカコーの音が入っていることも明かす。そのシンセはもしかしたらSUPERCAR時代からナカコーが使っていたものかもしれない。もしそうだとしたらYap!!!にSUPERCARのサウンドが入っていることになるし、石毛の言葉通りに、そうやってもう見ることのできないバンドの意志は、そのバンドを聴いて育った世代に受け継がれて行く。
当然、それはさらにこの先、石毛が作った音楽を聴いて育った、さらに下の世代へも受け継がれていく。そこにはわずかではあっても、ナカコーの音楽も入っているし、そのアーティストの音を聴けばきっとそれを感じることができる。そうすれば、もしその人がいなくなったり、音楽をやらなくなってもその人が生み出した音楽は生き続けていく。the telephones時代から先輩や海外のバンドへの憧れと愛を口にしてきた石毛だからこそ、そうした思いはより一層強く感じることができる。
「湿っぽく終わるのもなんだかあれなんで、最後はみんなで踊りましょう!」
と言ってさらに演奏されたのは「Dancing in Midnight」で、やっぱりYap!!!のライブはいろんなことを忘れてしまうくらいに楽しかったし、でもやっぱり「音楽とは」「バンドとは」というものを改めて考えさせてくれるものだった。
「本当にありがとう、北浦和。ここでできて幸せでした。もっとデカくなって帰ってきます!」
と石毛は言っていたが、「the telephonesの石毛のバンド」として、もっと大々的に宣伝したり打ち出したりしていきなりド派手にデビューするというやり方もあったはず。実際、そうしてMVやパフォーマンスで大きな話題を呼んで注目されるという、現代ならではの方法論を生かした若手バンドも多い。
でもYap!!!は下北沢の小さなライブハウスの4組くらい出演するイベントで初ライブを行ったし、今回のツアーも地道に小さいライブハウスを回るものだ。なぜそうした活動をするのか。それは石毛がthe telephones時代からずっと
「ライブハウス出身のバンドであることに誇りを持っている」
から。the telephonesだってその繰り返しで大きくなったし、そうした経験の中で石毛はバンドが本当の意味で大きく、強くなるにはどうするべきかというのをしっかりと理解している。それはこのツアーのファイナルでも間違いなく形になって現れるはずだし、そこには、やろうと思えばいくらでもバンドではない音楽の道で生きていけるけれど、それでもバンドマンとして生き続けることを選んだ男の覚悟が見える。
そこを自分は何よりも信頼しているし、そういう思いが見えるバンドや人間が好きで、そういう人の作る音楽に今でも感動したり心が動かされたりしている。また来月、ツアーファイナルで。
1.If I'm A Hero
2.Story of a boring man
3.Summer time chill out
4.Queen of the night
5.Now or never
6.Everyone let's go
7.Game of romance
8.Too Young for Love
9.The light
10.新曲
11.Ahhh!!!
12.Wake me up!!!
encore
13.Happysad feat.ナカコー
14.Dancing in Midnight
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