本来、サンボマスターは結成20周年である2021年の1月に横浜アリーナでワンマンライブを行う予定であった。もちろん自分もチケットを持っていたのであるが、やはりコロナ禍ということで我々が参加して開催することはできず、無観客で配信での開催になってしまった。(でもやっぱり配信でも泣いてしまうくらいに素晴らしいライブだった)
それから3年近く経ったこの日、ついにサンボマスターが横浜アリーナでワンマンをやるのを我々が客席から観ることができる日がやってきたのである。そのタイトルが「全員優勝フェスティバル」であるというのも実にサンボマスターらしいものである。
横浜アリーナに入る際には花が渡され、盟友から後輩まで様々なアーティストなどからフラワースタンドが送られてきているのであるが、周りを見渡すと驚くくらいに観客の年齢層が幅広い。まだブレイク前に自分が学生だった時代なんかはマジで客席がおっさんしかいなくて自分がズレているのだろうかなんて思ったりもしたが、女子高生くらいの2人組から、親子で一緒に来たような人までもいる。そんなあらゆる世代や年代の人にサンボマスターの音楽が届いていて、こうしてワンマンまで観に来ているということに始まる前からなんだか感動してしまっていた。
ステージには背面に巨大なスクリーン、両サイドにもスクリーンが設置されているのだが、そうしてスクリーンを設置するのもわかるくらいに、スタンド最上段の端(全然ステージが見えないであろう見切れ席)までも埋め尽くされた、完全ソールドアウトの中で、開演時間の17時を少し過ぎると場内が暗転。するとスクリーンに60秒前からのカウントダウンが映し出され、観客も手拍子と声で一緒にカウントダウンして0になると、
「あなたは「0」で何を思い出しますか?」
の文字が浮かび上がり、2021年1月のサンボマスターの横浜アリーナ公演が無観客、つまり0人であったことと同時に、その時の配信ライブの映像が映し出されるのであるが、この日は11518人もの観客が集まった完売御礼であることが発表されて拍手が起こったところで、ようやくおなじみの「モンキーマジック」のSEが流れてメンバー3人が登場するのであるが、いつもなら観客を煽りまくるメンバーがそうしたアクションをほとんどせずにステージにたどり着いたのは、スクリーンに
「始めるよ 準備はいいかい?」
という文字が映し出されていたから。それはもちろん「ミラクルをキミとおこしたいんです」の歌い出しのフレーズであり、その曲からこの日のライブは始まる。もちろん山口隆(ボーカル&ギター)は冒頭から、
「完売した横浜アリーナでは絶対盛り上がらない協会の皆さんですか?」
などと煽りまくっているのであるが、そうしなくてもすでにめちゃくちゃ盛り上がってるじゃないかと思ってしまうくらいに観客が踊りまくり、声を出しまくっている。周りを見ると、サンボマスターのライブ以外でこんなに体を動かすことはないだろうなと思うような年配の方から、普段からライブハウスやフェスに行っているような若い人、さらには親と手を繋いでいる子供まで。そんなあらゆる世代の人が等しく楽しみまくっている1曲目からこの日が全員優勝であることは決定したようなものであるが、スクリーンにはこれまでリリースしてきた曲のMVの数々(さすがに初期は若いというより痩せている)から、メンバーそれぞれを改めて紹介するような映像までもが映し出される。ほぼ無演出だった7年前の日本武道館のワンマンとは全く違うライブ。それは今のサンボマスターがこの規模でやるべきものであることがわかるのであるが、
「ロックの申し子、サンボマスターです!」
という曲終わりの挨拶は変わることはない。
そんなサンボマスターはニューアルバム「ラブ&ピース!マスターピース!」をリリースしたばかりであるということもあり、当然その収録曲である「はじまっていく たかまっていく」が鮮やかな緑色の映像や照明とともに鳴らされるのであるが、かつて主題歌を務めた「NARUTO」の続編にこのタイトルの曲を提供したというストーリーとバンドの思いにもグッとくるし、何よりもこの日はこのライブが始まったことによって我々の気持ちが高まっていくということを感じざるを得ない曲順での演奏である。
さらにはここで早くも代表曲の一つと言っていいような「世界をかえさせておくれよ」が演奏され、歌い出しのサビ部分から大合唱となるあたりが今でも変わらないこの曲のアンセムっぷりを感じさせながら、Aメロでは山口が刻むスカのリズムのギターに合わせて観客が踊りまくり、Cメロでは近藤洋一(ベース)、木内泰史(ドラム)とともに男女に分かれて「oh yeah!」のコーラスを叫びまくりながらも山口は
「まだ恥ずかしがってるやつがいる!今日は踊りまくって全員で優勝すんだよ!」
と煽りまくる。アリーナも指定席ではあるけれど、この熱気は配信ライブ時にも山口が言ったように紛れもなくライブハウスのものだ。
スクリーンには何も映らないような時間も多々あるのであるが、それは映像を使った方がいい曲と、ただ曲を演奏する姿を見てもらいたい曲とをバンドとスタッフがしっかり見極めているからだろう。だからこそ山口が
「みんなはどうやって来たんだ?横浜線か?新幹線か?俺たちは何で来たかって?俺たちは夜汽車に乗ってきたに決まってるだろうがよ!」
と言って演奏された初期の「夜汽車でやってきたアイツ」でも映像は使われずに、ただただ山口の熱いギター含めて演奏する姿を両サイドのスクリーンに映すのみであるのだが、かつては盟友である銀杏BOYZの峯田和伸とコラボしていたこの曲をこうして記念碑的なワンマンライブで聴くことができるのが本当に嬉しい。それは今のサンボマスターは出す曲出す曲が何らかのタイアップが付くという新曲たちの強さであるために、フェスやイベントではそうした曲がメインのセトリとなり、なかなか初期の曲を聴くことができないからだ。
「それでも それでも アイツのトレンチコート姿なら忘れてないよ
夜汽車でやってきたアイツ」
というサビの歌詞の文学性も今にして聴いても本当に素晴らしいと思う。
さらには山口がイントロのギターを鳴らしただけで大歓声が上がったのは、そのサウンドを聴くだけで否が応でもテンションが最大限に上がらざるを得ないメジャーデビューシングル「美しき人間の日々」であり、サビでは近藤も木内も叫ぶようにしてコーラスを歌う。もうこれが席がないスタンディングのライブハウスだったら完全に最前エリアに突っ込んでいる、あるいはもう飛んでいるだろうなというくらいに昂ってしまうのはまさに今この瞬間のバンドの演奏が本当に素晴らしいからであり、最後のサビ前で木内が思いっきり叫ぶようにするのがそれをさらに高まらせてくれる。リリース当時はまだこの曲では本格ブレイクとはならなかったのが不思議なくらいの大名曲だと今も思う。
そんな初期の曲が聴けるのもこうした総括的な最大規模のワンマンだからこそであるが、そんな曲たちの後にスクリーンには時刻が映し出され、それが8:00:00ちょうどになったということはもちろん「ラヴィット!」が始まる時間である。ステージ上にも番組に生出演して演奏したのが年間大賞に選ばれた時のトロフィーが置いてあっただけに、映像も完全に番組の協力あってのものであるのがわかるのだが、その「ラヴィット!」のテーマ曲である「ヒューマニティ!」では山口のコールに合わせて観客たちも手でラヴィット!のポーズを作るのであるが、やはり山口は
「あれ?今日来てる人たちは「ラヴィット!」を1回も観たことがない人たちなんですか?」
と煽りまくる。もはやおなじみの煽りであるが、そうしてどこまでもテンションが上がって踊りまくり、歌いまくるからこそ全員優勝できるということを山口も観客もわかっているのである。
さらには前述のNARUTOのタイアップ曲としてバンドとして最初のブレイクポイントとなったヒット曲「青春狂騒曲」では山口による燃え盛るようなギターのイントロに合わせてスクリーンも真っ赤に染まるのであるが、サビでは観客が飛び跳ねながら手を左右に振る光景はリリースされてからずっと変わらないものであり、こうして今では横浜アリーナでのワンマンでそれが観れていること、そこに観客の大合唱が重なっているということに感慨深さを感じてしまう。もちろん間奏では木内に合わせて観客も「オイ!オイ!」と叫びながら拳を振り上げる中で山口が前に出てきてギターソロを弾きまくり、
「やべぇ!俺、こんな晴れ舞台でもやっぱりめちゃくちゃギター上手いんですけどー!」
と自画自賛する。サンボマスターのメンバーは最初からみんな演奏が上手かったバンドであるけれど、そう言いたくなるくらいのギターソロもまた年々間違いなく進化している。
ワンマンらしくここまではMCなしで突っ走ってきたが、ここでようやく一息。観客側ですらもすでに暑いのに、ここまで水を飲むことすら全くしないという体力には恐れ入るばかりであるが、入り口で渡された花について近藤が
「僕がこのポーズを取る時が来たら出してください。今じゃないですよ!」
とステージに片膝をつくようなポーズを取ると山口もこの日はU-NEXTでライブが生配信されていることから、
「家で配信で見ている人も花か、それに準ずるものをご用意ください!」
と言うあたりは実に山口らしいのであるが、2人だとダラダラと喋り続けてしまうだけに木内にMCを締めてもらおうとするも、山口がギターを弾いて木内に繋げようとしたら気分が乗ってきてギターを弾き過ぎて木内よりも目立ってしまうというのも実にサンボマスターらしいものである。
そんなこんなありながらもMCを託された木内は
「結成して1年目に渋谷のGIG ANTICっていう会場でライブをやったら観客が0人だった。それから20年経って、前回の横浜アリーナも0人だった。もちろんコロナっていうのもあったけど、これは20年目にまた0からスタートしろってことなんだなと思った」
と、どこまでも前向きなのがさすが木内である。映像担当の人にオープニングの「0人」のところに「20年ぶり2回目」と入れようと言ったら猛反対されたというあたりも含めて。
しかしながらやはりMCを締めるのは木内でありながらも曲に繋げるのは山口の言葉であり、
「俺はロックンロールで抗うんだ。差別や貧困や暴力に。100じゃなくたっていい。50なくても、10なくてもいい。1だけでもあればいい」
と言って演奏された「可能性」はまさにロックンロールの力で世の中の不条理に抗うことができる可能性を示そうというように鳴らされるのであるが、スクリーンには演奏している3人の姿がサーモグラフィーのように加工されて映し出される中、間奏の山口のギターはやはりその音だけで大歓声と拍手が起こるくらいに上手い。それは自分の隣の席の人が
「凄いな…」
と思わず口に出さずにはいられないくらいに。
さらには
「俺にはおめぇが輝いて見えるんだよ!なんでかわかるか?それはお前が光だからだよ!」
という言葉によって放たれたのはこちらも久しぶりに演奏された感がある「光のロック」であり、山口のスピード感ある歌唱はギターだけではなくて歌も実に上手いことがよくわかるのであるが、その山口も木内も叫ぶようにしながらの
「少年少女!青春爆走!
君のことだけ考えさせておくれ!」
のフレーズでは観客も一緒になって叫ぶことによって、この日2回目の「ライブハウスだったら間違いなく最前に突っ込んでるか飛んでるかしてるな」と思うくらいの衝動を与えてくれる。座席指定のライブでそう思わせられることはそうそうないし、レポにそう書いたこともそうそうない。つまりはそれくらいにこの日のサンボマスターのライブが凄まじいものであるということがおわかりいただけるんじゃないかと思う。
すると山口が一度テンションを落ち着かせるようにして、
「昔の曲なんだけど、最近は全然ライブでやってない曲で。でも今回やりたいって言ったら木内と近ちゃんも「やろう」って言ってくれた曲」
という、本当に久しぶりの「ビューティフル」は2012年リリースのアルバム「ロックンロール イズ ノットデッド」収録曲であり、とかくタイトル曲があまりに強すぎるアルバムでもあるのだが、そんなアルバムにこうして他にも名曲が収録されている(というかサンボマスターはシングルやリード曲が強すぎるから他の曲はフェスなどではあまり陽の目を見ないけれど、アルバム曲にも名曲がありまくるバンドである)ということを示してくれる曲であるが、そうした曲でもサビではたくさんの腕が上がり、タイトルフレーズで合唱が起きるというのはこの日の観客たちがサンボマスターの様々な曲を愛してきたことの証明である。スクリーンに次々に映し出されていく曲の歌詞もまたこの曲のテーマ通りに実に人間の美しさを感じさせてくれるものである。
するとスクリーンには曲のタイトルだけが映し出されて、ステージには薄らとスモークが漂ってくる。そのタイトルは「戦争と僕」であり、大ヒット曲「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」を収録しながらも、そのヒットの反動によってか実に重い内容になったアルバム「僕と君の全てをロックンロールと呼べ」収録曲であり、その重さ(歌詞など曲の内容としての)を象徴するような、
「明日僕は 名も知らぬ街で名も知らぬ人を銃で撃つのさ
明日僕は 君を守るためと自分に言い聞かせて人を撃ってしまうのさ」
という歌詞からも、それまでの盛り上がりっぷりとは打って変わって聴きいらざるを得ない曲であるのだが、それはリリース当時とはまた違う形でこの曲のメッセージがリアリティを帯びて来てしまっている世界情勢だからこそというところもあるのだろう。山口による口笛もどこか切なさというか、なんとも言えないもの悲しさを感じさせるものになっている。
そんな曲の後だからこその観客の熱狂というよりも集中力の中で山口は無観客でのここでのライブが20周年を祝したものだったことに触れ、
「フェスとかでも年上の方になっていくんだよね。あんまり20周年を振り返ってどうこうみたいなことはないんだけど…楽しかったのは木内と近ちゃんといた時間の全て。要町で朝まで麻雀打ってた時間がずっと続けばいいと思って組んだのがこのバンドだから。
楽しくなかったことは、何もできないなと思った時。12年前に震災が起きて俺の故郷がめちゃくちゃになっちまった時も、戦争が起きた時も、大切な人がいなくなった時にも、あんなに大好きな人たちに何にもできないんだなって無力感を感じた」
と20年間を振り返って語ると、そのまま歌い始めたのは「ラブソング」であり、スクリーンにも星空が浮かび上がるのであるが、山口の弾き語り的に始まると木内も持っていたライトを曲に合わせて振り、それが客席のスマホライトに繋がっていく。席が前の方過ぎて全景を見ることは出来なかったのであるが、サンボマスターが決して無力だとは思わないのは、こうした景色を作ることができて、それが聴き手の生きる力に繋がっているからだ。そうしてサンボマスターに救われて生きている人がたくさんいるというだけで決して無力ではない。
また、サンボマスターのファンが空気が読めるというか、バンドへの敬意があるなと思うのはこの「ラブソング」でのブレイクの無音になる部分で誰も野次を飛ばしたり、何か叫んだりするような人が全くいないということ。それは楽曲とバンドの演奏によって生まれる緊張感によるものとも言えるけれども、この日は曲が終わった後の次の曲への曲間でだけ、
「歌ってくれてありがとうー!」
という声が飛んだ。それがここにいた人たちの総意だったのは、その声の後に拍手が起こったことが示していた。どこまでも温かくて優しい人たちだからこそ、観ている人たちもそうなれる。そんな感覚が確かにこの空間、この瞬間にはある。
そんなシリアスな空気から一転して山口のイントロでのキャッチーなコーラスが再びこの場所を明るく照らしてくれるように響くのは、女優ののんが脚本から主演、監督までを務めた映画の主題歌「ボクだけのもの」。それはこの日も会場にフラワースタンドを贈ってくれたのんが本当にサンボマスターが好きだから起用してくれたことがよくわかるし、サンボマスターの近年のタイアップはそうした双方からの愛によって生まれていることもよくわかる。
そんな最新作収録曲から、山口がイントロのギターを鳴らして大歓声が起こった最初期曲「そのぬくもりに用がある」へ。山口は
「声が聞こえたのは ここ横浜のライブハウス」
とおなじみの歌詞変えをして歌って大歓声を浴びると、間奏では木内が「オイ!オイ!」と煽りまくりながら情熱的なギターソロを弾く。自分がサンボマスターに出会った頃の曲なだけに横浜アリーナで聴ける、こんなにたくさんの人がこの曲で熱狂しているのが本当に感慨深いのであるが、その思いの強さは人が増えても薄まるどころか、むしろより濃くなっている感すらある。もうライブを観ているとそのくらいに拳を振り上げて声を上げざるを得ないのであるが、そんな熱さを確かに発していたからこそ、山口はやはり最後に
「横浜アリーナ一人一人の、そのぬくもりにだけ用がありました!」
と曲を締めるのであった。
さらにはイントロからキャッチーなサウンドと
「ウィーアー!」
のメンバーによる合唱が響き、木内が軽快な四つ打ちを鳴らすのは「君を守って 君を愛して」。サンボマスターのヒット曲が並ぶシングルのディスコグラフィーからしたら若干地味めな曲かもしれないが、それでも自分はリリースされた時からめちゃくちゃ良い曲だと思っていた。ただ良い曲なだけではなくて、心を晴れやかにしてくれる曲というか。
「流れ星が流れるまで 君と呼吸をあわせて
願いごとを祈る君を 守れますようにと祈るよ」
というCメロのメロディもやはり今聴いても抜群に美しいと思う。
そんなバンドの歴史を総括するような名曲たちが並ぶ中でやはり欠かせないのは、
「みんなで「愛と平和」を叫んで全員優勝すんだよ!」
と山口が捲し立ててから始まる「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」であるのだが、やはりこの曲のパワーは本当に物凄いものがあるとこの巨大な会場のワンマンで聴くと改めて思う。リリース自体はもう17年も前。主題歌になったドラマを観たことがないという人だってたくさんいるであろう中でも、全くその力は古びることはない。むしろサンボマスターを好きな人が間違いなく当時より増えたことによってさらなるパワーを曲が獲得した感すらある。それはもちろん「愛と平和!」の大合唱によって感じられるものであるのだが、山口は曲終わりに「どうだ?」とでもいうような表情を見せると、観客も含めて全員でタイトルを思いっきり叫ぶ。そこには紛れもなくどこよりも「愛と平和」が満ち溢れていた。
そんな熱狂を踊らせまくることによってさらに増幅させるのは、同期のサウンドも取り入れ、スクリーンには巨大なミラーボールが映し出されて回る「孤独とランデブー」であり、この曲の時だけはこの横浜アリーナが巨大なダンスフロアになったかのようですらある。サビでは観客も手を左右に振りまくるのであるが、間奏では山口も独特なステップを踏んだりと、メンバーも観客も踊りまくっている。
そうして踊りまくった後に山口は即完したことによって自分達が泊まるホテルが新横浜にあるのかを心配していた話をした後に、
「若いバンドからツアーの対バンに誘われて。まだ若手だからそんなに予算もないから、普段泊まってるとこよりもグレードが低いホテルになるかもしれませんって言われて。別にホテルなんかどうとかじゃなくて、一緒に音を鳴らしてロックンロールやればいいんだよって言って対バンしてホテルに行ったら、俺たちがずっと使ってるホテルだった(笑)」
という実にサンボマスターらしいエピソードを口にして爆笑を巻き起こすのであるが、そうして笑わせておきながらも、
「お前がクズだったことなんか生まれてから今まで一回もないんだからな!君はいた方がいいよ!だから生まれて来てくれてありがとう!」
と怒涛の勢いで捲し立てて言ってから演奏されたのは、スクリーンにもその
「君がいた方がいいよ」
というフレーズをはじめとした歌詞が映し出される「Future is Yours」。その「君はいた方がいいよ」は元々は「I Love You」という曲の歌詞でもあるのだが、それを今のサンボマスターでアッパーに鳴らして伝えているのがこの曲だと言えるだろう。その「Future is」と「Yours」で韻を踏んでいるあたりも実に見事であるし、また新たなサンボマスターのライブアンセムが生まれたと実感せざるを得ない。
さらには山口が、我々一人一人が輝いていて、だからこそ全員優勝できるということを口にしてから木内の力強いビートに導かれるようにして始まったのは「輝きだして走ってく」と、後半は今やフェスでもおなじみの怒涛の名曲ラッシュ。何よりも叫びまくりながらドラムを叩く木内も、ステージ前に出て来て観客を指差しながら演奏する近藤も、山口らしさが失われることない熱さが持続するばかりか高まる一方のボーカルも、全く熱量やテンションが落ちることはない。それはその姿を見せることによって、最後のサビ前でメンバー3人が声を重ねる
「負けないで 負けないで」
のフレーズに説得力を持たせているかのようである。
そんな「輝きだして〜」では周りに泣いている人もたくさんいた。その気持ちがめちゃくちゃわかるのは自分もすでにこの日何度もそうなっていたからであるのだが、それを察していたのか次に演奏されたのは新作からの「笑っておくれ」であり、山口も
「こんな最高のライブなのに泣いてるやつはいないよな?笑えー!」
と曲の歌詞に今この瞬間のメッセージを重ねる。不思議なものでその言葉を聞くと周りで泣いていた人(一緒に来た人の肩を借りるようにして泣いていた人もいた)も笑ってステージに向き合えるようになっていく。これこそがサンボマスターのライブにおける人間力の強さだ。感情によって音が鳴らされているというような。
そして山口はクライマックスを迎えたとばかりに
「まだ信じてねぇやつがいんだ。ここがウッドストックじゃないから、フジロックじゃないから、ロックインジャパンじゃないからできないって思ってんのか?できるってことを証明してくれ!」
と言って始まったのはもちろん「できっこないを やらなくちゃ」であり、もうイントロから歓喜して飛び跳ねまくる観客たちがサビの最後では
「アイワナビーア 君の全て!」
のフレーズをメンバーと一緒に叫ぶ。その瞬間に、やっぱりこれだと思った。コロナ禍の規制がある中でのサンボマスターのライブもひたすらにメンバーの演奏や思いが素晴らしい時間を作ってくれていたが、こうして我々が一緒になって歌い叫ぶことによって昇華されたり、満たされるような感覚が確かにある。そうやってずっとサンボマスターのライブに行ってこの曲をみんなで歌って叫んで、この日常を生きていく力をもらってきたんだ。サンボマスターもそれが伝説かつ優勝のための最大の力であることをわかっているから、「君はいた方がいいよ」ということをあらゆる曲やMCで示してきたのだ。この曲のこの瞬間、本当の意味でこの日が全員優勝としか言えないものであることがわかった。だからアウトロがまだ鳴らされている中で起きた拍手は、誰しもがここにいる全員の優勝を称えるためのものだったのだ。
しかしそんなクライマックスを超えたところで、もうすっかり忘れていた、最初のMCでやっていたポーズを近藤が取る。その手には花束を入れるもの(名称がわからない)があるのだが、観客も一斉に入り口でもらった花をかざしながら曲を聴くことによって、まさに横浜アリーナ全体が「花束」という曲そのものになっていく…かと思ったら間奏では近藤が花束を入れる袋を持ってステージから客席の前を通って場内を一周する。その際に観客と一緒にカメラに収まったりしていたのでかなり長い時間歩いていたのだが、やはりその客席には親子で来た人など、本当に世代の幅広さに驚くのであるが、そうして近藤が歩いているかなり長い時間で木内はドラムを叩き続け、山口は
「近藤洋一が今、時計で言うと11時の方角を歩いております!」
とギターを弾きながら実況中継をしているのが面白くもあり、メンバーの体力の凄さをも示している。そのステージではローディーの方々も一緒に花を振ったりしているのが本当に幸せに感じさせてくれるのであるが、近藤が戻ってきてサビを演奏すると、それでもなお近藤がモータウン的なベースを弾いて観客とコール&レスポンスを繰り返す。あまりにサンボマスターらしい、そして全員が花束になることで優勝できるという本編の締めであった。
アンコールで再びメンバー3人がステージに登場すると、山口と近藤による少しグダっとした会話に終止符を打つべく木内が
「俺たちだけじゃなくて、みんなで作ったライブだなって本当に思った。だからやっぱりライブの主役は君たちなんだよ」
といい感じのことを言って締めようとするも、山口が即興でギターを弾きながら
「主役は近藤でも木内でもなくてキミ〜」
という歌を歌い始め、コードを指示してすぐにそれがバンドのサウンドになっていくというように展開していく。そうして一瞬で合わせて曲が出来上がっていくのを見て、サンボマスターの音楽が出来上がる瞬間を目の当たりにしたような気がしていた。
そんなやり取りの後には先ほど見事なキメポーズを取った近藤が再び違うポーズを取ると、スクリーンにはすでに発表されている来年からのツアーのファイナルシリーズとして、山口の地元の会津から大阪城ホール、さらには2回目となる日本武道館ワンマンも行われることが発表されて客席からは拍手が送られるのであるが、山口からの要求は
「ここにいる人たちはツアー8本とファイナル3本の計11本」
という高いノルマを課せられる。そもそもツアー初日の柏ALIVEとか、今となっては行きたくてもチケットが取れないだろうというキャパの会場も多い。(自分は昔、柏ALIVEでサンボマスターのワンマンを見たことがあるけれど)
そして本編ラスト同様に山口が観客に再び花を出すことを促してから演奏されたのは「月に咲く花のようになるの」という選曲であり、スクリーンには月の映像が浮かび上がることによって、観客の振る花がまさに月に咲くように視界に映る。まさか今になってこの曲をこうした演出で聴けるとは思っていなかったけれど、「花束」に通じるようなテーマをサンボマスターがずっと初期から歌ってきたということでもある。
そして最後にメンバーそれぞれが一言ずつ観客への言葉を口にするのだが、
山口「売れるとかっていうのも素晴らしいことだと思うし、リスペクトするけど、でもそういうことじゃなくて、君たちが住んでいる場所にライブしに行って、その街のなんでもない定食屋やラーメン屋に行って、安いビジネスホテルに泊まって、ライブハウスでライブをやる。これがロックンロールだなって思ってる」
近藤「今年はTV番組とか映画の劇場とか、いろんなところでサンボマスターの曲を使ったりかけてもらったりしましたけど、それでもなんだか埋まらないものがどうしてもあって。それが今日埋まりました」
という素直すぎる言葉にグッと来てしまうし、これからもサンボマスターはずっと変わることはないだろうなと思わせてくれる。音楽だけではなくて言葉でもこんなに感動してしまうのは、木内がこのライブを作ってくれたスタッフへの感謝を口にして、観客も含めて全員優勝であると言った通りに、メンバーの人間性がそのまま言葉になって我々の耳に入ってくるからだ。
そうした締め的なMCをしてもまだ喋ろうとするのは名残惜しさによるものだろうが、それは我々も同じだ。終わって欲しくない、ずっと続いて欲しいと思う時間だったから。でも終わらなきゃいけないし、終わるからまた次を楽しみに生きていくことができる。最後に演奏された、イントロで金テープが発射された「ロックンロール イズ ノットデッド」はそれを示しているかのようであるが、
「誰にも言えない孤独だとか 君の不安を終わらせに来た
君が生きるなら僕も生きるよ ロックンロール イズ くたばるものか
ロックンロール イズ ノット ノットデッド!」
というフレーズをこの日のバンド、観客、スタッフ全員で体現していた。そしてそれはこの世のあらゆるロックバンドとそのファン、関わる人たちに向けられている。
これは何度か書いてきたことであるが、個人的にもこのブログのURLはこの曲から拝借させていただいている。それくらいにこの曲が好きで、この曲を聴いて何回も救われてきた。でもこの日はそんなこれまでをはるかに更新するくらいに、あまりに幸せで、あまりに楽しくて泣いてしまった。ああ、これからもずっとこうやって生きていきたいと思った。それこそが、君が生きるなら僕も生きるよという歌詞そのものだ。あまりにも完璧なサンボマスターの全員優勝ライブの最後だった。
演奏が終わるとおなじみのカーティス・メイフィールドの「Move on Up」のSEが流れる。山口も近藤もあらゆる方向の観客に手を振っていたが、最後に残ったのは両サイドの見切れ席の前まで走っていき、観客とハイタッチするようにしてから去った木内だった。それはライブ中はドラマーという性質上なかなか観客の近くに行けない彼が、最後に少しでも観客に近づきたいと意識を示したものだと思っていた。
サンボマスターが好きだと言ったり、サンボマスターのカッコよさをわかってくれるというだけでその人を無条件で信頼してしまうところがある。それはきっとその人は外見や表面だけではなくて、人間の中身を見てそう思う人だろうからだ。
ここに集まった11581人は紛れもなくそんな人たちばかりだっただろう。演奏そのものが素晴らしかったのはもちろん、そんな人たちの思いが結集したからこそ、全員優勝でしかない夜を作ることができたこの日の横浜アリーナは、今までのサンボマスターの全てのライブを更新する、間違いなく伝説のライブだった。それをこの目で目撃できたことは本当に幸せだと思っているし、伝説はまだまだ続く。これからも何回だって我々全員を優勝させてくれ。
1.ミラクルをキミとおこしたいんです
2.はじまっていく たかまっていく
3.世界をかえさせておくれよ
4.夜汽車でやってきたアイツ
5.美しき人間の日々
6.ヒューマニティ!
7.青春狂騒曲
8.可能性
9.光のロック
10.ビューティフル
11.戦争と僕
12.ラブソング
13.ボクだけのもの
14.そのぬくもりに用がある
15.君を守って 君を愛して
16.世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
17.孤独とランデブー
18.Future is Yours
19.輝きだして走ってく
20.笑っておくれ
21.できっこないを やらなくちゃ
22.花束
encore
主役はキミ (即興ソング)
23.月に咲く花のようになるの
24.ロックンロール イズ ノットデッド