クリープハイプ 「クリープハイプのすべて」 @日本武道館 5/11
- 2018/05/12
- 16:37
前回の武道館ワンマン2daysが、メジャーでのセカンドアルバムをリリースした後の4年前の2014年4月。ちょうどその頃はレーベル移籍にまつわるゴタゴタがあって注目を集めていたが、それからも武道館でワンマンをできるくらいの規模感がありながらも中野サンプラザあたりが主戦場になっていた、クリープハイプ。ついに4年ぶりに日本武道館のステージに立つ。
もはや確実に開演に間に合わないであろうくらいの物販の長蛇の列、さらには引換券つきチケット購入者対象の引き換え列、そして入場列が複雑に絡み合うという、平日とは思えないくらいの混雑っぷりの中で入場すると、ステージは至ってシンプルなものであり、かなり広いステージにもかかわらず、メンバーの楽器がセッティングされた位置が非常に近い。ライブハウスと全く変わらないくらいの4人の距離感である。また、ステージの真横よりもさらにステージ真後ろ方面にも席が作られており、見にくいけれども、見たい人ができる限り見にこれるようにしようというバンドサイドの気遣いが見える。
メンバーの背後にはスクリーンが上下に2つあり、18時半ちょうどくらいになると、下のLEDスクリーンに
「本日はクリープハイプの武道館公演にお越しいただきまことにありがとうございます。まずはこちらをご覧ください」
という文字の後に突如映し出されたのは、スーツ姿の小川(ギター)とOLに扮装したカオナシ(ベース)。就職支援サイト「ビズリーチ」のパロディで、クリープハイプが武道館ワンマンの実績のある「即戦力バンド」であるということを紹介して爆笑を巻き起こすと、その後もジョージアや一平ちゃん、アネッサにアマゾンのCMをメンバー主演で演じた映像が次々に流れる。とりわけ小泉(ドラム)が女性役に扮したアネッサは爆笑とともにどよめきを起こす。
映像が終わると会場が暗転し、メンバー4人がいたって普通に、武道館だからといって気取ることなくステージに登場。
「パロディではなくて、本物のクリープハイプです。
今日はなんにもないただの日ですが、最高の1日になりますように」
と尾崎世界観(ボーカル&ギター)と挨拶すると、その通りの歌い出しで始まる「ねがいり」でスタートするというやや落ち着いた立ち上がり。だからかどうもステージ上(特に尾崎)も客席も非常に緊張感に満ちているというか、異様な空気の中で演奏されている。
「前にここでやってから4年経って、本当に白髪が増えてきました」
と前置きされた「寝癖」でこれぞクリープハイプというストレートなギターロックに。カオナシは早くも下手側の、ステージ真横と言えるような位置のスタンドの観客の方まで行ってベースを弾く。
「今日は、すべてを見せないといけないから、早く行きましょう、その先へ」
と言って、タイトル通りにオレンジの照明に会場全体が包まれた中で演奏された「オレンジ」からようやくお互いに緊張が解けてきた感じもあったが、続く「エロ」で小川のギターがいつにも増してノイジーだったのはあえてなのか、そうなってしまったのか。
「…尾崎さーん!とか言ってもいいんじゃないの?(笑)こっちからつつかないと言わないとかさぁ、だからラウド系のファンに押されるんだよ!(笑)
ライブレポに「序盤は緊張感があって固かった」みたくしょうもないこと書かれるのは俺たちじゃなくてそっちがそうしてるんだからな!(笑)」
と、やはりこの序盤の緊張感は我々客席側の空気によるものらしい。しょうもないと言われながらもやはりそう書かざるを得ないような序盤であったが。
とはいえこのMCでお互いに緊張感が解けたのか、
「いろんな女性がいました。この場所にいる、女性の曲」
とやや意味深な言葉からの、かつて尾崎が「クリープハイプの1番核の曲」と評していた「左耳」からは目に見えて客席はバンドの鳴らす音に対して素直なリアクションを示すようになってきていた。
「この武道館にも怖い怖い火まつりがやってきました。火だるまになるのは私だけでいいのでしょうか」
とカオナシが相変わらずの独特な言い回しで自身のメインボーカルにつなげる「火まつり」では、全然使わないな、と思っていたスクリーンに火が燃え盛るような映像が映し出される。
「火まつりよりももっと怖いものがあります。それは、鬼です」
という「鬼」ではスクリーンに4分割されたメンバーの演奏する姿が映し出される。こうして中盤あたりに聴くと、改めてこの曲からバンドがストレートなギターロックだけではない新たな武器を手に入れたことがよくわかるし、それは
「カオナシさん、鬼よりも怖いものがありますよ。それは迷子です。だから迷子にならないようにみんなのうたを歌います」
と言って演奏された、まさかのNHK「みんなのうた」に起用された「おばけでいいからはやくきて」の4つ打ちではあるのにいわゆる4つ打ちダンスロックには聞こえない部分にも活かされている。それはブラックミュージックのグルーヴなのであるが、これから生まれてくるバンドの曲にも強く出てくるのだろうか。
「散々怖いものを挙げてきましたが、結局1番怖いのは嘘つきです。嘘つきが1番怖い!」
と怖いものシリーズの最後に演奏された「ウワノソラ」ではステージ前と客席2階スタンドの最もステージよりに置かれたミラーボールが輝き出し、武道館がダンスフロアに。軽快な4つ打ちロックというイメージが強い曲だが、今のメンバーの演奏からは軽快さはありながらも非常に強さと重さを感じられるものになっている。
間奏でカオナシが客席に向かって手拍子をし、客席からも大きな手拍子が起こった、
「さっきはごめんね、いつもありがとうね
それ位は歌じゃなくても言えますように」
というフレーズが「これでライブ終わりなのか」というくらいのクライマックス感を醸し出した「さっきはごめんね、ありがとう」では大量のシャボン玉がステージから客席に飛び、この演出もまたクライマックス感を醸成している。
尾崎がアコギに持ち替えると、歌を聴かせるようなタイプの曲のゾーンへ。酒場で楽しそうに仲間と飲む人々の映像が映し出された「大丈夫」、
「昔、バイトをしている時に、毎日100円貸してくれって言ってくるやつがいて。返して欲しいんだけど、100円でわざわざそう言うのもケチらしいんじゃないか、って思ってなかなか言えなくて。なんで貸してる方がこんなに下の立場みたいになってるんだろう、って。
でも曲ができるのってそういう日常の悔しさを感じる時で。クリープハイプはそういうことをこれからも曲にしていきたいです。大事な曲」
とバンドが音楽を作る原動力が今なお悔しさであることを語ってから演奏された、田舎の路線を走る電車の映像が映し出された「明日はどっちだ」と、メンバーの演奏する姿はスクリーン越しではなくあくまでステージを、映像は曲のイメージを引き立たせるため、というクリープハイプならではの大会場での映像の使い方を示す。
「本当に幸せです。生まれ変わっても、クリープハイプになりたいと思っています」
とバンドへの強い思いを口にしてから演奏された、バンドの代表曲にして人気曲の「イノチミジカシコイセヨオトメ」では女性の観客からすすり泣くような声が聞こえてくる中、
「生まれ変わったら何になろうかな
コピーにお茶汲み バンドマン!!!」
と力強く歌詞を変え、これからもバンドマンとして、クリープハイプとして生きていくという決意を感じさせる。
そんな心も体も震えるようなパフォーマンスの後に「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」の収録と同じように曲のアウトロから繋がるように演奏された「手と手」で、尾崎の歌い方もバンドのサウンドもさらにエモーションを増していくと、
「喋りすぎましたね。また書かれるんですよ、「クリープハイプのボーカルが喋りすぎて気持ち悪かった」って(笑)
こんなに喋り過ぎたのは…」
と前フリしてから、
「夏のせい 夏のせい」
と、早くも夏らしくなってきたこの日の気候のせいにするような「ラブホテル」では最後のサビ前に尾崎が「もっとくれ!」とばかりに観客の歓声を煽り、その歓声すらも自身の力にするように歌う。
そしてカオナシメインボーカルの「かえるの唄」では
「茹れ!武道館!」
とさらなる熱狂に叩き込みながら、ライブならではのどこか神聖さを感じさせるイントロのアレンジの「憂、燦々」と定番曲にして代表曲の応酬だが、普段のワンマンならこの辺りでもう終わってもいいくらいの曲数(ここですでに20曲)を演奏しているにもかかわらず、まだまだ終わる気配は見えない。
「ここからはヒット曲連発でトドメを刺します!」
と尾崎が言ったように、まだ演奏されていない代表曲があるからである。
カオナシがステージ前まで出ていってイントロを弾いた「HE IS MINE」では
「武道館は神聖な場所なんで、絶対に言うんじゃないぞ!」
と振ってから、やはり
「セックスしよう!」
の大合唱。しかし尾崎はそれでもまだまだ満足せず、「社会の窓」で
「最高です!」
のさらなる大合唱を招く。そして先日主題歌となった映画がテレビで放送された「イト」と代表曲が続いたので、そろそろこれで終わりかと思いきや、
「大事な、新しい曲ができました。でも、バンド以外の部分で話題になっているのが悔しいです」
とやはり悔しさがバンドの原動力であることを最後まで語って演奏されたのは、ラジオ局FM802のキャンペーンソングとして尾崎が作詞作曲し、尾崎以外に04 Limited SazabysのGEN、UNISON SQUARE GARDENの斎藤宏介、sumikaの片岡健太、あいみょん、スガシカオという錚々たる顔ぶれのボーカリストたちが参加した「栞」。この日はクリープハイプのみで演奏されたが、
「桜散る桜散る ひらひら舞う文字が綺麗
「今ならまだやり直せるよ」が風に舞う」
「桜散る桜散る お別れの時間がきて
「ちょっといたい もっといたい ずっといたい」」
という歌詞フレーズに合わせるかのように、ステージからは桜の花びらを思わせる大量の紙が舞った。「音楽で新生活を応援する」というテーマがあったからこそここまでストレートに出会いと別れを歌った曲になったのだと思うが、これからクリープハイプとして演奏されていくことで、バンドの新たな代表曲になることを予感させる名曲っぷり。
演奏が終わると尾崎はステージ両サイドのスタンドに座っていた観客たちに、
「見づらかったことでしょう。本当にありがとうございます」
と気遣いを見せた。その姿が、尖っていたりひねくれていたりするように見える尾崎が、本当に聞いてくれているファンのことを大事に思っていることを感じさせた。
すぐさま再登場したアンコール(尾崎がシャツを変えただけなのでほぼ着替えてないから)では、パンク的なビートのショートチューン「なぎら」を演奏すると、9月にアルバムをリリースするということ、そのアルバムのリリースツアーが開催されることを発表。その瞬間、この日最大の歓声が起こった。インディーズ期や1stアルバム期に強い思い入れを持つファンも非常に多いバンドだが、こうしてライブに来ている人たちは何よりもバンドが新しい作品と曲を出すこと、それを生で聴ける機会があることを本当に嬉しく思っている。つまり、クリープハイプの今を愛してるのである。
そんな、これからも前に進んでいくという決意を歌った「二十九、三十」でこの日のライブは終了…と思いきや、再びアンコールでメンバーが登場し、
「君の故郷を代表するようなバンドになりたい!」
と言って、メジャーデビューアルバムの1曲目に収録された「愛の標識」を演奏。
「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」
という最後のフレーズを、
「死ぬまで一生愛されてると思ってるよ」
と尾崎は変えて歌った。たった1文字変えただけ。でもその1文字変えるだけで、意味合いは全く変わってくる。それは曲ができた当時ではなく、今だからこそそう歌える。そう言えるような確信を、バンドは前回の武道館からの4年間でつかんできたから。
最後にはメンバー4人が前に出てきて、全員で手を繋いで観客に感謝の意を表した。ステージに出てくる時もステージから帰る時も実にすんなりと歩いていくバンドなだけに、クリープハイプのこんな姿はなかなか見れないよな、と思っていると、尾崎が
「今だけ、撮影していいですよ。僕がいるうちに撮ってください」
と言って撮影を促すと、自分で言ったのにもかかわらず、恥ずかしそうにしながらステージを去っていった。
代表曲はもちろん、インディーズ期やレア曲…そのどれもが名曲であることを示し、曲ができる原動力を語り、バンドへの想いを口にした尾崎。クリープハイプのすべてが確かにあった、怒りのエネルギーの逆噴射としての武道館ワンマンだった4年前とは全く違う、愛に溢れた日本武道館ワンマンだった。
「クリープハイプが好きだ」というのはなかなか胸を張って言えることではなかったりする。「メンヘラ」とか、よくわからないレッテルを貼られたりするから。でももうそういうイメージのバンドではない。クリープハイプは死ぬまで一生愛していけると思ってるよ、と思えるバンドなのだ。だからまた、アルバムのツアーで。
1.ねがいり
2.寝癖
3.おやすみ泣き声、さよなら歌姫
4.オレンジ
5.エロ
6.左耳
7.ABCDC
8.火まつり
9.鬼
10.おばけでいいからはやくきて
11.ウワノソラ
12.さっきはごめんね、ありがとう
13.ボーイズ END ガールズ
14.大丈夫
15.明日はどっちだ
16.イノチミジカシコイセヨオトメ
17.手と手
18.ラブホテル
19.かえるの唄
20.憂、燦々
21.HE IS MINE
22.社会の窓
23.イト
24.栞
encore1
25.なぎら
26.二十九、三十
encore2
27.愛の標識
Next→ 5/13 RHYMESTER presents 「人間交差点」 @お台場特設会場


もはや確実に開演に間に合わないであろうくらいの物販の長蛇の列、さらには引換券つきチケット購入者対象の引き換え列、そして入場列が複雑に絡み合うという、平日とは思えないくらいの混雑っぷりの中で入場すると、ステージは至ってシンプルなものであり、かなり広いステージにもかかわらず、メンバーの楽器がセッティングされた位置が非常に近い。ライブハウスと全く変わらないくらいの4人の距離感である。また、ステージの真横よりもさらにステージ真後ろ方面にも席が作られており、見にくいけれども、見たい人ができる限り見にこれるようにしようというバンドサイドの気遣いが見える。
メンバーの背後にはスクリーンが上下に2つあり、18時半ちょうどくらいになると、下のLEDスクリーンに
「本日はクリープハイプの武道館公演にお越しいただきまことにありがとうございます。まずはこちらをご覧ください」
という文字の後に突如映し出されたのは、スーツ姿の小川(ギター)とOLに扮装したカオナシ(ベース)。就職支援サイト「ビズリーチ」のパロディで、クリープハイプが武道館ワンマンの実績のある「即戦力バンド」であるということを紹介して爆笑を巻き起こすと、その後もジョージアや一平ちゃん、アネッサにアマゾンのCMをメンバー主演で演じた映像が次々に流れる。とりわけ小泉(ドラム)が女性役に扮したアネッサは爆笑とともにどよめきを起こす。
映像が終わると会場が暗転し、メンバー4人がいたって普通に、武道館だからといって気取ることなくステージに登場。
「パロディではなくて、本物のクリープハイプです。
今日はなんにもないただの日ですが、最高の1日になりますように」
と尾崎世界観(ボーカル&ギター)と挨拶すると、その通りの歌い出しで始まる「ねがいり」でスタートするというやや落ち着いた立ち上がり。だからかどうもステージ上(特に尾崎)も客席も非常に緊張感に満ちているというか、異様な空気の中で演奏されている。
「前にここでやってから4年経って、本当に白髪が増えてきました」
と前置きされた「寝癖」でこれぞクリープハイプというストレートなギターロックに。カオナシは早くも下手側の、ステージ真横と言えるような位置のスタンドの観客の方まで行ってベースを弾く。
「今日は、すべてを見せないといけないから、早く行きましょう、その先へ」
と言って、タイトル通りにオレンジの照明に会場全体が包まれた中で演奏された「オレンジ」からようやくお互いに緊張が解けてきた感じもあったが、続く「エロ」で小川のギターがいつにも増してノイジーだったのはあえてなのか、そうなってしまったのか。
「…尾崎さーん!とか言ってもいいんじゃないの?(笑)こっちからつつかないと言わないとかさぁ、だからラウド系のファンに押されるんだよ!(笑)
ライブレポに「序盤は緊張感があって固かった」みたくしょうもないこと書かれるのは俺たちじゃなくてそっちがそうしてるんだからな!(笑)」
と、やはりこの序盤の緊張感は我々客席側の空気によるものらしい。しょうもないと言われながらもやはりそう書かざるを得ないような序盤であったが。
とはいえこのMCでお互いに緊張感が解けたのか、
「いろんな女性がいました。この場所にいる、女性の曲」
とやや意味深な言葉からの、かつて尾崎が「クリープハイプの1番核の曲」と評していた「左耳」からは目に見えて客席はバンドの鳴らす音に対して素直なリアクションを示すようになってきていた。
「この武道館にも怖い怖い火まつりがやってきました。火だるまになるのは私だけでいいのでしょうか」
とカオナシが相変わらずの独特な言い回しで自身のメインボーカルにつなげる「火まつり」では、全然使わないな、と思っていたスクリーンに火が燃え盛るような映像が映し出される。
「火まつりよりももっと怖いものがあります。それは、鬼です」
という「鬼」ではスクリーンに4分割されたメンバーの演奏する姿が映し出される。こうして中盤あたりに聴くと、改めてこの曲からバンドがストレートなギターロックだけではない新たな武器を手に入れたことがよくわかるし、それは
「カオナシさん、鬼よりも怖いものがありますよ。それは迷子です。だから迷子にならないようにみんなのうたを歌います」
と言って演奏された、まさかのNHK「みんなのうた」に起用された「おばけでいいからはやくきて」の4つ打ちではあるのにいわゆる4つ打ちダンスロックには聞こえない部分にも活かされている。それはブラックミュージックのグルーヴなのであるが、これから生まれてくるバンドの曲にも強く出てくるのだろうか。
「散々怖いものを挙げてきましたが、結局1番怖いのは嘘つきです。嘘つきが1番怖い!」
と怖いものシリーズの最後に演奏された「ウワノソラ」ではステージ前と客席2階スタンドの最もステージよりに置かれたミラーボールが輝き出し、武道館がダンスフロアに。軽快な4つ打ちロックというイメージが強い曲だが、今のメンバーの演奏からは軽快さはありながらも非常に強さと重さを感じられるものになっている。
間奏でカオナシが客席に向かって手拍子をし、客席からも大きな手拍子が起こった、
「さっきはごめんね、いつもありがとうね
それ位は歌じゃなくても言えますように」
というフレーズが「これでライブ終わりなのか」というくらいのクライマックス感を醸し出した「さっきはごめんね、ありがとう」では大量のシャボン玉がステージから客席に飛び、この演出もまたクライマックス感を醸成している。
尾崎がアコギに持ち替えると、歌を聴かせるようなタイプの曲のゾーンへ。酒場で楽しそうに仲間と飲む人々の映像が映し出された「大丈夫」、
「昔、バイトをしている時に、毎日100円貸してくれって言ってくるやつがいて。返して欲しいんだけど、100円でわざわざそう言うのもケチらしいんじゃないか、って思ってなかなか言えなくて。なんで貸してる方がこんなに下の立場みたいになってるんだろう、って。
でも曲ができるのってそういう日常の悔しさを感じる時で。クリープハイプはそういうことをこれからも曲にしていきたいです。大事な曲」
とバンドが音楽を作る原動力が今なお悔しさであることを語ってから演奏された、田舎の路線を走る電車の映像が映し出された「明日はどっちだ」と、メンバーの演奏する姿はスクリーン越しではなくあくまでステージを、映像は曲のイメージを引き立たせるため、というクリープハイプならではの大会場での映像の使い方を示す。
「本当に幸せです。生まれ変わっても、クリープハイプになりたいと思っています」
とバンドへの強い思いを口にしてから演奏された、バンドの代表曲にして人気曲の「イノチミジカシコイセヨオトメ」では女性の観客からすすり泣くような声が聞こえてくる中、
「生まれ変わったら何になろうかな
コピーにお茶汲み バンドマン!!!」
と力強く歌詞を変え、これからもバンドマンとして、クリープハイプとして生きていくという決意を感じさせる。
そんな心も体も震えるようなパフォーマンスの後に「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」の収録と同じように曲のアウトロから繋がるように演奏された「手と手」で、尾崎の歌い方もバンドのサウンドもさらにエモーションを増していくと、
「喋りすぎましたね。また書かれるんですよ、「クリープハイプのボーカルが喋りすぎて気持ち悪かった」って(笑)
こんなに喋り過ぎたのは…」
と前フリしてから、
「夏のせい 夏のせい」
と、早くも夏らしくなってきたこの日の気候のせいにするような「ラブホテル」では最後のサビ前に尾崎が「もっとくれ!」とばかりに観客の歓声を煽り、その歓声すらも自身の力にするように歌う。
そしてカオナシメインボーカルの「かえるの唄」では
「茹れ!武道館!」
とさらなる熱狂に叩き込みながら、ライブならではのどこか神聖さを感じさせるイントロのアレンジの「憂、燦々」と定番曲にして代表曲の応酬だが、普段のワンマンならこの辺りでもう終わってもいいくらいの曲数(ここですでに20曲)を演奏しているにもかかわらず、まだまだ終わる気配は見えない。
「ここからはヒット曲連発でトドメを刺します!」
と尾崎が言ったように、まだ演奏されていない代表曲があるからである。
カオナシがステージ前まで出ていってイントロを弾いた「HE IS MINE」では
「武道館は神聖な場所なんで、絶対に言うんじゃないぞ!」
と振ってから、やはり
「セックスしよう!」
の大合唱。しかし尾崎はそれでもまだまだ満足せず、「社会の窓」で
「最高です!」
のさらなる大合唱を招く。そして先日主題歌となった映画がテレビで放送された「イト」と代表曲が続いたので、そろそろこれで終わりかと思いきや、
「大事な、新しい曲ができました。でも、バンド以外の部分で話題になっているのが悔しいです」
とやはり悔しさがバンドの原動力であることを最後まで語って演奏されたのは、ラジオ局FM802のキャンペーンソングとして尾崎が作詞作曲し、尾崎以外に04 Limited SazabysのGEN、UNISON SQUARE GARDENの斎藤宏介、sumikaの片岡健太、あいみょん、スガシカオという錚々たる顔ぶれのボーカリストたちが参加した「栞」。この日はクリープハイプのみで演奏されたが、
「桜散る桜散る ひらひら舞う文字が綺麗
「今ならまだやり直せるよ」が風に舞う」
「桜散る桜散る お別れの時間がきて
「ちょっといたい もっといたい ずっといたい」」
という歌詞フレーズに合わせるかのように、ステージからは桜の花びらを思わせる大量の紙が舞った。「音楽で新生活を応援する」というテーマがあったからこそここまでストレートに出会いと別れを歌った曲になったのだと思うが、これからクリープハイプとして演奏されていくことで、バンドの新たな代表曲になることを予感させる名曲っぷり。
演奏が終わると尾崎はステージ両サイドのスタンドに座っていた観客たちに、
「見づらかったことでしょう。本当にありがとうございます」
と気遣いを見せた。その姿が、尖っていたりひねくれていたりするように見える尾崎が、本当に聞いてくれているファンのことを大事に思っていることを感じさせた。
すぐさま再登場したアンコール(尾崎がシャツを変えただけなのでほぼ着替えてないから)では、パンク的なビートのショートチューン「なぎら」を演奏すると、9月にアルバムをリリースするということ、そのアルバムのリリースツアーが開催されることを発表。その瞬間、この日最大の歓声が起こった。インディーズ期や1stアルバム期に強い思い入れを持つファンも非常に多いバンドだが、こうしてライブに来ている人たちは何よりもバンドが新しい作品と曲を出すこと、それを生で聴ける機会があることを本当に嬉しく思っている。つまり、クリープハイプの今を愛してるのである。
そんな、これからも前に進んでいくという決意を歌った「二十九、三十」でこの日のライブは終了…と思いきや、再びアンコールでメンバーが登場し、
「君の故郷を代表するようなバンドになりたい!」
と言って、メジャーデビューアルバムの1曲目に収録された「愛の標識」を演奏。
「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」
という最後のフレーズを、
「死ぬまで一生愛されてると思ってるよ」
と尾崎は変えて歌った。たった1文字変えただけ。でもその1文字変えるだけで、意味合いは全く変わってくる。それは曲ができた当時ではなく、今だからこそそう歌える。そう言えるような確信を、バンドは前回の武道館からの4年間でつかんできたから。
最後にはメンバー4人が前に出てきて、全員で手を繋いで観客に感謝の意を表した。ステージに出てくる時もステージから帰る時も実にすんなりと歩いていくバンドなだけに、クリープハイプのこんな姿はなかなか見れないよな、と思っていると、尾崎が
「今だけ、撮影していいですよ。僕がいるうちに撮ってください」
と言って撮影を促すと、自分で言ったのにもかかわらず、恥ずかしそうにしながらステージを去っていった。
代表曲はもちろん、インディーズ期やレア曲…そのどれもが名曲であることを示し、曲ができる原動力を語り、バンドへの想いを口にした尾崎。クリープハイプのすべてが確かにあった、怒りのエネルギーの逆噴射としての武道館ワンマンだった4年前とは全く違う、愛に溢れた日本武道館ワンマンだった。
「クリープハイプが好きだ」というのはなかなか胸を張って言えることではなかったりする。「メンヘラ」とか、よくわからないレッテルを貼られたりするから。でももうそういうイメージのバンドではない。クリープハイプは死ぬまで一生愛していけると思ってるよ、と思えるバンドなのだ。だからまた、アルバムのツアーで。
1.ねがいり
2.寝癖
3.おやすみ泣き声、さよなら歌姫
4.オレンジ
5.エロ
6.左耳
7.ABCDC
8.火まつり
9.鬼
10.おばけでいいからはやくきて
11.ウワノソラ
12.さっきはごめんね、ありがとう
13.ボーイズ END ガールズ
14.大丈夫
15.明日はどっちだ
16.イノチミジカシコイセヨオトメ
17.手と手
18.ラブホテル
19.かえるの唄
20.憂、燦々
21.HE IS MINE
22.社会の窓
23.イト
24.栞
encore1
25.なぎら
26.二十九、三十
encore2
27.愛の標識
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