THE SUN ALSO RISES vol.168 佐々木亮介(a flood of circle) / 菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet) @F.A.D YOKOHAMA 1/18
- 2023/01/19
- 19:13
先月には銀杏BOYZの峯田和伸とピーズの大木温之の弾き語り2マンも開催されたが、毎回様々なアーティスト、バンド同士の対バンを企画している横浜F.A.Dの「THE SUN ALSO RISES」。その168回目となる今回は昨年にはa flood of circleとしても出演した佐々木亮介と、昨年も年明け直後にキツネツキとして出演した9mm Parabellum Bulletの菅原卓郎という、かつてバンド同士での2マンもたまに行なっていたフロントマン同士の弾き語り。どちらのバンドも毎回ツアーを見に行っている自分と他数名のためのような企画である。
この日の客席は前方が椅子席で後方がスタンディングという変わった方式であり、整理番号順に好きな位置で見れるというもの。そうした方式も弾き語りならではである。
・菅原卓郎
19時を少し過ぎたあたりでアコギを持って先にステージに現れたのは菅原卓郎。この日も黒いシャツと黒いパンツという実に卓郎らしい出で立ちであるが、現れるなりアコギをチューニングしながら、
「さっき早速中華街の洗礼を受けたんだけど、その話は最初の曲を歌ってからにするわ(笑)」
と言って焦らしながら、アコギを弾きながら「黒い森の旅人」を歌い始める。卓郎の歌声は実に艶っぽく、こうして弾き語りで歌うのを聴くとピッチや声量も含めて本当に上手いなと思う。それは9mmだけではなくこうした弾き語りやキツネツキ、歌謡曲をテーマにしたソロなど様々なアウトプットで歌い続けてきたからこそであるが、アコギでリズムを取りながら、バンドで滝が弾くギターのリフをファルセットで歌うという歌唱も見事としか言いようがない。
「喋ろうかと思ったけど、楽しくなったからそのまま歌うわ」
と「中華街の洗礼」が気になって仕方がない中で「名もなきヒーロー」を弾き語りし始めるのだが、卓郎のギターはやはりそれ単体でグルーヴを生み出せるような表現力を持っていることがわかるし、弾き語りだからこそこの曲に込めた我々に向けたメッセージが一語一句しっかり耳に、頭に、心に入ってくるのである。バンドでの間奏がまるっと吹っ飛ばされるコンパクトさというのもアコギだけの弾き語りならではである。
そのまま「白夜の日々」という、聴き手へのメッセージが強いシングル曲が続くのであるが、やはり卓郎の歌唱の素晴らしさがひたすらに押し寄せてくるかのような弾き語りである。9mmのバンドでの轟音サウンドで聴くと、滝、和彦、かみじょうの3人それぞれの凄まじさを感じざるを得ないが、こうした弾き語りだとバンドでは感じられない卓郎の歌の素晴らしさを実感できる。卓郎自身は2023年の初ライブということだが、年始も休んだりダラけることなくしっかり歌っていた生活を送っていたんだろうなと思う。
9mmが今年19周年という、バンド名的に特別な1年を迎えたことを語りつつ、昨年リリースしたフルアルバム「TIGHTROPE」について、
「9枚目のアルバムだからタイトルにも「9」を入れなきゃいけないんじゃないかと考えたりしてたんだけど(笑)
「TIGHTROPE」の意味って知ってる?綱渡りっていう意味なんだけど、ツアーを回ったら福岡が地震の影響で中止になってしまったりして。まさに綱渡りだったなっていう(笑)でも今年2月にリベンジしに行くんで」
と昨年を振り返りつつ、まだ関東には雪が降っていないことに触れながら、その「TIGHTROPE」に収録されている「淡雪」を弾き語り。確かに「TIGHTROPE」の中では弾き語りがよく似合うチョイスであるが、卓郎も「雪が溶けた後の季節の歌」と言っていたように、歌詞の別れの描写が弾き語りだからこそ強く突き刺さる。この寒い時期を超えたらすぐにその季節がやってくる。
「何の曲を弾き語りでやろうかなって考えてたんだけど、この曲をやって欲しいって友達に言われたんで。原曲がパンクっぽいアレンジだからどうしようかなと思ったんだけど、ここはみんなの手拍子を借りようかと」
と言って観客の手拍子とともに演奏されたのは、ジャカジャカとしたアコギのサウンドとそこに乗る卓郎の艶やかな歌唱がバンドとはまた違ったエモーショナルさを生み出す「君は桜」。確かにバンドバージョンは疾走感の溢れる(そして滝のコーラスが映える)アレンジであるのだが、弾き語りで聴くと元々生まれた時はこの形だったんじゃないかと思うくらいに弾き語りという形にハマっている。
ここでようやく思い出したかのように卓郎は「中華街の洗礼」として
「差し入れに小籠包を貰ったのね。小籠包って爆弾みたいなところあるじゃないですか(笑)
だから一口で食べようとしたら、張力的に当たり前なんだけど、口に入れた反対側から汁が大量に飛び出しまして、足にかかりました(笑)黒い服を着ていて良かったです(笑)」
と小籠包の汁がかかった状態でライブをしていることを明かし、キツネツキの「てんぐです」をまるでその出来事も全て天狗のせいですとばかりに歌うのであるが、歌詞を
「横浜の彼氏」
とこの日ならではのものにしたりというあたりはこうした弾き語りでも実に使い勝手の良い曲なのかもしれないとも思う。9mm本隊が周年イヤーで動いているとなかなかキツネツキで活動する余白がないかもしれないが、その曲に宿る歌謡性は9mmの曲同様にメロディの美しさを感じさせるだけに、またキツネツキのライブも早く見たいなと思わせる。
そんな卓郎は亮介を弟的な存在に思っているという。そういえば怒髪天の増子直純も
「バンドマンなんか息子にしたくないけど、卓郎と亮介が息子だったら…いいよね〜」
と言っていたことがあるだけに、やはりこの両者には通じるところがあるんだろうなと思う。
そんな中で演奏された「One More Time」はこの弾き語りという形態で演奏されるとはこれっぽっちも思っていなかった曲であるが、卓郎自身がどこか跳ねながら歌っているかのように見えるだけに椅子席の観客も体を揺らし、腕を挙げている人もいるくらいに弾き語りでもダンサブルさは確かに感じられたのであるが、曲中にはリズムだけではなくて原曲のリフまでも弾きながら歌う卓郎は歌唱だけではなくてギターもやはりめちゃくちゃ上手いなということがよくわかる。それはやはり1人での弾き語りだからこそ。
そんな弾き語りライブの最後はバンドと同様にクライマックスを描き出す「The Revolutionary」であるのだが、バンドの爆音ロックとは全く違う寂寞感を弾き語りだと感じられるのは卓郎の弾き語りでのアレンジによるところだろうが、少しだけなら声を出してもいいような状況になったことも卓郎がMCで言っていたように(ただ「3年経ってもまだこのくらいか」とも言っていた)、客席からは
「朝日が〜」
などのコーラスも聞こえてきたのであるが、それはもしかしたら観客のものというよりも、この日のライブの最後に飛び入りした男のものだったんじゃないだろうかとも思っていた。
そうして笑顔を絶やすことなくステージから去っていった卓郎の表情もリラックスした雰囲気も9mmでのライブとはやっぱり全然違う。そうした卓郎の愉快な部分や穏和な部分は亮介と一緒にやっているSHIKABANEでも感じられるものでもあるのだが、なかなかSHIKABANEは活動タイミングが難しいだろうだけに、こうして時には弾き語りでもライブをして欲しいと思う。ずっと9mmのライブを見てきた身としても卓郎の歌の上手さに驚かされてしまうくらいなのだから。
1.黒い森の旅人
2.名もなきヒーロー
3.白夜の日々
4.淡雪
5.君は桜
6.てんぐです
7.One More Time
8.The Revolutionary
・佐々木亮介
ステージ上ではマネージャー氏がアンプなどのセッティングをしている。弾き語りであるのにそうした転換を経て、金髪というよりは茶髪という感じが強い佐々木亮介がステージへ。すでに年始から色々と活動しているけれど、自分は2023年初の佐々木亮介のライブである。
そのセッティングされたのは本隊のa flood of circleでもおなじみのギブソンのブラックファルコンのエレキなのだが、弾き語りにも関わらずそのギターを使うことにしたのは卓郎の提案によるものらしい。終始立っていた卓郎とは対照的に椅子に座って
「中華街 八角の匂い」
などの即興的な「F.A.Dブルース」を歌い始めるのだが、そのギターの音量もボーカルの声量も到底弾き語りのそれではない。というか普段のフラッドのものそのものであるかのような爆音っぷりである。亮介が立ち上がってマイクを通さずに歌うのもその声量の大きさがあるからこそであるし、歌詞には自身がステージで愛飲しているお茶割りが自身のライブ時だけではなく完全にF.A.Dのドリンクのレギュラーメニューになったことも入れ、
「俺愛されてる〜」
と嬉しそうに歌う。それはもちろん亮介自身がこのF.A.Dというライブハウスが大好きで、あらゆる形態で出演しまくっているからである。
そんな亮介はそのF.A.Dのドリンクバーで提供されているお茶割りと、自身が持ち込んだ宝焼酎のお茶割りを交互に飲み、
「やっぱりここのやつの方が美味い」
と言いながら、スタンダード曲の「Fly Me To The Moon」を口ずさみながらそのままソロの「Blanket Song」へ。この時期のソロの曲は元からブルースの影響が強いものだったが、弾き語りとなるとよりその感覚が強くなる。何というか「だり〜」というフレーズもより実感がこもっているかのような。それは完成度が跳ね上がるバンド形態でのソロライブでは感じられないものである。
そもそもギターがエレキという段階で普通の弾き語りと呼べるものなのかというところもあるのだが、最もそう感じられたのは爆音でギターを鳴らしながら歌う「Black Eye Blues」であり、完全にフラッドというバンドの影が見えるというか、目を瞑るとテツとHISAYOと一丘が亮介の周りにいるかのような感覚にもなる。それくらいにバンドのブルースをそのまま1人でやっているかのようである。
しかし亮介はそんなエレキだからこそであろう曲をやっておきながら何の曲を歌うかをちゃんと決めていないらしく、たびたび緑茶割りを飲んだり、譜面台をパラパラとめくって辿り着いたのは
「中華街に1番似合わない飲み物の曲を」
と言って始まった「ホットチョコレート」。弾き語りではたびたび演奏されている曲であるが、やはりエレキで弾き語りということによってどこかバンド感を感じざるを得ないのであるが、それでもこの曲から感じられる穏やかさはこの季節に聴くからこそ我々の心を暖めてくれるかのように響く。
そんな亮介は卓郎から「弟」と認定されたことによって、
「9mmから影響を受けてる、弟になりたい人たくさんいるだろうけど、俺が公式に卓郎さんの弟になったから(笑)
俺が本当に卓郎さんの弟で、俺が中学生の時に卓郎さんが高校生で、卓郎さんの部屋のドアには「絶対入るな」って母親に向けて書いてある紙が貼ってあって…いや、でも卓郎さん母親と仲良さそうだよな?(笑)まぁ貼ってあるドアを開けてその部屋にあるCDを勝手に隠れて聴いて、それに衝撃を受けて…っていう妄想をしてるんだけど、今からやる曲は9mmが影響を受けてるかはわからないけど、間奏が9mmっぽい感じがするから影響受けてるのかな?って」
と、亮介の豊かな想像力というか妄想力によってチョイスされたのはThe Strokesのセカンドアルバム「Room on Fire」収録の「Reptilia」。歌詞にアルバムタイトルが含まれていることからも、この大ヒットアルバムを象徴する曲であるのだが、亮介は間奏のギターソロを
「ほら!ここ9mmっぽくない?」
と言って弾くも、亮介が弾き語りすると「ロックンロール・リバイバル」のムーブメントの先陣として2000年代のロックシーンを切り開いたこのバンドのスタイリッシュさすらも、独特の泥臭いロックンロールとブルース、つまりは亮介の曲でしかないような曲になる。それくらいに亮介の声はイメージや先入観や記憶すらも塗り替えてしまう力を持っているということである。だから普通にThe Strokesの曲を聴いたら思い出す2011年のサマソニでの素晴らしかったライブも良い意味で全く脳内に蘇ってこない。ひたすらに目の前で歌っている亮介の歌声に向き合わされるのである。
そんな歌声の力を持つ亮介は昨年にミックスまで全て自分で手がけた曲をリリースしたことを口にするのだが、元々歌詞を書くのが1番好きじゃなかったのが、ミックスを自分でやってみたことによって自分の好きじゃない仕事の1位にミックスが浮上したことを語ると、なんと同期の音まで流し始めるというより弾き語りじゃなくなる要素まで持ち込むのであるが、その同期の音があまりに大き過ぎたことによって椅子に座ったままでビクッとしていた人がたくさんいた。
その同期も駆使して歌い始めたのは、よりフラッドとは全く違うソロらしいサウンドへと向かった「JUDY JUDY JUDY」であるのだが、なんと1コーラス終わった段階で同期との音が合わずに途中で曲を終わらせるという、カラオケで1コーラス歌ってみたらなんか違うから演奏中止にした、くらいの感じで終わる自由さもまた亮介の弾き語りだからこそだ。それはフラッドでのライブ以上に酒を飲み続けていることが影響していたのかもしれないけれど。
すると同期どころかエレキすらも置いて、普段の弾き語りやフラッドのライブでも使っているハートの形をしたアコギ(自身が可愛くないからせめてギターだけは可愛くしているとのこと)に持ち替えて、
「卓郎さん、めちゃ可愛くない?そんな可愛すぎる卓郎さんのための曲。もう「卓」と書いて「かわ」と読んで、「郎」と書いても「かわ」と読むっていうくらいに(笑)」
と卓郎の可愛さを歌う曲へと変化したのは、THE KEBABSの最新シングル収録曲の「かわかわ」。アコギになったことによって弾き語りっぷりが増したかと思ったら亮介は立ち上がってマイクを通さずに、この日卓郎が小籠包の汁を自身にぶちまけたことをも歌詞に入れながら
「ずっきゅん」
という歌詞を歌い上げる亮介も実は可愛いんじゃないだろうかと思うし、こんなふざけたような曲でありながらもやはりメロディが抜群に良いのがさすがLiSAにも曲を提供している(その「シャンプーソング」は「鬼滅の刃」タイアップ曲より良い曲)亮介ならではである。
そんな亮介は「死ぬまでにやりたいTo Doリスト」として
「THE KEBABSとキツネツキでいつか対バンしたい。どっちも本気の、誇り高きサブバンドだから」
と、新たな対バンの可能性を口にすると、ウクライナに思いを馳せ(その辺りはバンドでも弾き語りでも変わらない亮介らしさだ)、それでもロックンロールを、ブルースをやるしかないという生き様を口にして演奏されたのはバンドのライブでもクライマックスとしておなじみになっている「花火を見に行こう」。亮介は曲中の時間をほとんど立ち上がって歌っていたのだが、やはりその声量は抜群であるし、そのくらい大きな声で歌うことができるからこそ伝わることがある。それがリリースが迫ってきたアルバムだったら良いなと思うし、そうして今年も亮介は
「ロックバンドってめんどくさいことばかりなんだけど、みんながロックバンドを好きでいてくれて本当に嬉しい」
と口にするバンドのフラッドで大きな花火を打ち上げようとしている。
そしてここからはこの弾き語り対バン恒例のコラボの時間に。
「髪型がオシャレ」
と亮介は卓郎を紹介して招くも、
「サボってるだけだけどね(笑)」
と天然パーマであることを卓郎が返すと、
亮介「我々、SHIKABANEっていうユニットもやってて。そこには我々のさらに兄貴の死体が2体ほどいるんですけど(笑)、その死体たちよりも先輩の、俺も卓郎さんも大好きな先輩の曲を。態度怖いし、暗闇でもサングラスをかけてる人のバンドです」
と言って、卓郎がアコギ、亮介がエレキという形でまずは1コーラス目を卓郎が歌い、2コーラス目を亮介が歌うという形で分けたのはピロウズ「Fool on the planet」で、さすが2人ともこの曲を歌い慣れている感が強い。滑らかかつ艶やかな卓郎と、声量が凄まじい亮介のコントラストはSHIKABANEでもそうであるが、実に良い兄弟コンビだと言える。
「誰もが忘れても
僕は忘れたりしないぜ
世界が笑っても
自分を疑わない」
というフレーズの通りに、ここにいた人たちはこの日のことを忘れないと思うし、
「時代が望んでも
流されて歌ったりしないぜ
全てが変わっても
僕は変わらない」
というフレーズで2人の声が重なるのは、その通りに自分の道を進み続けてきた2人だからこそ説得力を感じさせるものであった。
先ほどの亮介のTHE KEBABSとキツネツキの対バンという話に卓郎は
「いやー、THE KEBABSはちゃんとしてるもん(笑)」
という理由で難色を示すのだが、
亮介「前にクアトロでキツネツキのライブ見たんですけど、アルカラの稲村さんが出てて。あの取り憑かれシステムいいですよね」
卓郎「むしろ俺たちがケバブのトッピングになるよ(笑)キツネの肉は寄生虫ばっかりだろうけど(笑)」
亮介「SHIKABANEもまたやりたいですけどね。フラッドと9mmでも是非また対バンを」
卓郎「あ、それは全然やろう!我々2人とも社長だから「社長ナイト」って感じで。SOIL & "PIMP" SESSIONSの社長がDJで(笑)」
亮介「我々は社長だからギャラ2倍っていう感じで(笑)我々がギャラ出してるんだけど(笑)」
というさらなる対バンの可能性により楽しみになる中で、卓郎が是非歌いたいと言ったというフラッドの曲をコラボするのであるが、それは
卓郎「この曲、「2020」っていうアルバムに入ってるじゃん?イントロがカーテンを開ける音で始まるんだけど、コロナ禍でどこにも行けないような時でも起きたらカーテンを開けなきゃならないっていう感じに聞こえた」
という完璧なレビューを卓郎がしてから2人で歌ったのはフラッドの「人工衛星のブルース」。ロックンロールをぶっ放すというタイプのフラッドの曲ではない、こうして弾き語りで歌うのにふさわしいような穏やかなサウンドの曲だからこそ、
「あなたがここにいてほしい」
というサビのフレーズを歌う卓郎の歌声からは優しさを感じざるを得ないのである。もちろんファルセットを駆使する卓郎のボーカルは、卓郎もまた自身が歌うことによって人の曲を自分のものにできるボーカリストであるということを示してくれる。この曲のコラボが見れただけでもこの日ここに来た甲斐があったというくらいに。
そんなコラボの最後には
亮介「今日、キツネツキって散々言ってきましたけど…」
卓郎「気付いている人は気付いていたかもしれないけど、もうひとりのキツネの存在や声に(笑)」
と言って、まさかの9mmの滝善充もステージに登場。ハットを被ってマフラーをした滝は卓郎いわく
「スナフキンみたい」
という出で立ちで、亮介のアコギを手にして3人で演奏したのは最後のパーティーとばかりに「Black Market Blues」。卓郎はもちろん
「F.A.Dに辿り着いたぜー!」
と叫ぶと観客の手拍子も完璧に決まるのであるが、亮介も9mmトリビュートアルバムでこの曲をカバーしているだけに実に歌い慣れている感があったし、滝もかなり酒が入った状態だったからこそか、実に上機嫌にギターを弾いていた。つまりは普段は暗黒のダンスフロアになるこの曲が、またこうしてこの2人の弾き語りを見たいと思うくらいに祝福のダンスチューンになっていたのだ。去り際に亮介と卓郎が肩を組むようにして去っていくと、その余韻が強すぎて客席からはずっとアンコールを求める手拍子が鳴り響いていた。
こうして弾き語りを見るとこの公認兄弟の2人には共通点が多いことに気付く。どちらも事務所を立ち上げて社長をやっていたり、本気のサブバンドをやっていたり。きっとそれぞれのそうした活動に影響や刺激を受けてここまでやってこれたというところもあるはず。
だからこそ、THE KEBABSとキツネツキ、フラッドと9mm、またこうした弾き語り、SHIKABANE…そうやって何度でもこの2人が同じステージに立つのを見ていたいと思う。自分が心からカッコいいと思っていて、その生き様を信頼しているくらいに好きなバンドのボーカリスト同士のコラボなんて、まるで自分の妄想を具現化したかのような瞬間なのだから。
1.F.A.Dブルース
2.Fly Me To The Moon
3.Blanket Song
4.Black Eye Blues
5.ホットチョコレート
6.Reptilia (The Strokes)
7.JUDY JUDY JUDY
8.かわかわ
9.花火を見に行こう
10.Fool on the planet (ピロウズ)w/菅原卓郎
11.人工衛星のブルース w/菅原卓郎
12.Black Market Blues w/菅原卓郎、滝善充
この日の客席は前方が椅子席で後方がスタンディングという変わった方式であり、整理番号順に好きな位置で見れるというもの。そうした方式も弾き語りならではである。
・菅原卓郎
19時を少し過ぎたあたりでアコギを持って先にステージに現れたのは菅原卓郎。この日も黒いシャツと黒いパンツという実に卓郎らしい出で立ちであるが、現れるなりアコギをチューニングしながら、
「さっき早速中華街の洗礼を受けたんだけど、その話は最初の曲を歌ってからにするわ(笑)」
と言って焦らしながら、アコギを弾きながら「黒い森の旅人」を歌い始める。卓郎の歌声は実に艶っぽく、こうして弾き語りで歌うのを聴くとピッチや声量も含めて本当に上手いなと思う。それは9mmだけではなくこうした弾き語りやキツネツキ、歌謡曲をテーマにしたソロなど様々なアウトプットで歌い続けてきたからこそであるが、アコギでリズムを取りながら、バンドで滝が弾くギターのリフをファルセットで歌うという歌唱も見事としか言いようがない。
「喋ろうかと思ったけど、楽しくなったからそのまま歌うわ」
と「中華街の洗礼」が気になって仕方がない中で「名もなきヒーロー」を弾き語りし始めるのだが、卓郎のギターはやはりそれ単体でグルーヴを生み出せるような表現力を持っていることがわかるし、弾き語りだからこそこの曲に込めた我々に向けたメッセージが一語一句しっかり耳に、頭に、心に入ってくるのである。バンドでの間奏がまるっと吹っ飛ばされるコンパクトさというのもアコギだけの弾き語りならではである。
そのまま「白夜の日々」という、聴き手へのメッセージが強いシングル曲が続くのであるが、やはり卓郎の歌唱の素晴らしさがひたすらに押し寄せてくるかのような弾き語りである。9mmのバンドでの轟音サウンドで聴くと、滝、和彦、かみじょうの3人それぞれの凄まじさを感じざるを得ないが、こうした弾き語りだとバンドでは感じられない卓郎の歌の素晴らしさを実感できる。卓郎自身は2023年の初ライブということだが、年始も休んだりダラけることなくしっかり歌っていた生活を送っていたんだろうなと思う。
9mmが今年19周年という、バンド名的に特別な1年を迎えたことを語りつつ、昨年リリースしたフルアルバム「TIGHTROPE」について、
「9枚目のアルバムだからタイトルにも「9」を入れなきゃいけないんじゃないかと考えたりしてたんだけど(笑)
「TIGHTROPE」の意味って知ってる?綱渡りっていう意味なんだけど、ツアーを回ったら福岡が地震の影響で中止になってしまったりして。まさに綱渡りだったなっていう(笑)でも今年2月にリベンジしに行くんで」
と昨年を振り返りつつ、まだ関東には雪が降っていないことに触れながら、その「TIGHTROPE」に収録されている「淡雪」を弾き語り。確かに「TIGHTROPE」の中では弾き語りがよく似合うチョイスであるが、卓郎も「雪が溶けた後の季節の歌」と言っていたように、歌詞の別れの描写が弾き語りだからこそ強く突き刺さる。この寒い時期を超えたらすぐにその季節がやってくる。
「何の曲を弾き語りでやろうかなって考えてたんだけど、この曲をやって欲しいって友達に言われたんで。原曲がパンクっぽいアレンジだからどうしようかなと思ったんだけど、ここはみんなの手拍子を借りようかと」
と言って観客の手拍子とともに演奏されたのは、ジャカジャカとしたアコギのサウンドとそこに乗る卓郎の艶やかな歌唱がバンドとはまた違ったエモーショナルさを生み出す「君は桜」。確かにバンドバージョンは疾走感の溢れる(そして滝のコーラスが映える)アレンジであるのだが、弾き語りで聴くと元々生まれた時はこの形だったんじゃないかと思うくらいに弾き語りという形にハマっている。
ここでようやく思い出したかのように卓郎は「中華街の洗礼」として
「差し入れに小籠包を貰ったのね。小籠包って爆弾みたいなところあるじゃないですか(笑)
だから一口で食べようとしたら、張力的に当たり前なんだけど、口に入れた反対側から汁が大量に飛び出しまして、足にかかりました(笑)黒い服を着ていて良かったです(笑)」
と小籠包の汁がかかった状態でライブをしていることを明かし、キツネツキの「てんぐです」をまるでその出来事も全て天狗のせいですとばかりに歌うのであるが、歌詞を
「横浜の彼氏」
とこの日ならではのものにしたりというあたりはこうした弾き語りでも実に使い勝手の良い曲なのかもしれないとも思う。9mm本隊が周年イヤーで動いているとなかなかキツネツキで活動する余白がないかもしれないが、その曲に宿る歌謡性は9mmの曲同様にメロディの美しさを感じさせるだけに、またキツネツキのライブも早く見たいなと思わせる。
そんな卓郎は亮介を弟的な存在に思っているという。そういえば怒髪天の増子直純も
「バンドマンなんか息子にしたくないけど、卓郎と亮介が息子だったら…いいよね〜」
と言っていたことがあるだけに、やはりこの両者には通じるところがあるんだろうなと思う。
そんな中で演奏された「One More Time」はこの弾き語りという形態で演奏されるとはこれっぽっちも思っていなかった曲であるが、卓郎自身がどこか跳ねながら歌っているかのように見えるだけに椅子席の観客も体を揺らし、腕を挙げている人もいるくらいに弾き語りでもダンサブルさは確かに感じられたのであるが、曲中にはリズムだけではなくて原曲のリフまでも弾きながら歌う卓郎は歌唱だけではなくてギターもやはりめちゃくちゃ上手いなということがよくわかる。それはやはり1人での弾き語りだからこそ。
そんな弾き語りライブの最後はバンドと同様にクライマックスを描き出す「The Revolutionary」であるのだが、バンドの爆音ロックとは全く違う寂寞感を弾き語りだと感じられるのは卓郎の弾き語りでのアレンジによるところだろうが、少しだけなら声を出してもいいような状況になったことも卓郎がMCで言っていたように(ただ「3年経ってもまだこのくらいか」とも言っていた)、客席からは
「朝日が〜」
などのコーラスも聞こえてきたのであるが、それはもしかしたら観客のものというよりも、この日のライブの最後に飛び入りした男のものだったんじゃないだろうかとも思っていた。
そうして笑顔を絶やすことなくステージから去っていった卓郎の表情もリラックスした雰囲気も9mmでのライブとはやっぱり全然違う。そうした卓郎の愉快な部分や穏和な部分は亮介と一緒にやっているSHIKABANEでも感じられるものでもあるのだが、なかなかSHIKABANEは活動タイミングが難しいだろうだけに、こうして時には弾き語りでもライブをして欲しいと思う。ずっと9mmのライブを見てきた身としても卓郎の歌の上手さに驚かされてしまうくらいなのだから。
1.黒い森の旅人
2.名もなきヒーロー
3.白夜の日々
4.淡雪
5.君は桜
6.てんぐです
7.One More Time
8.The Revolutionary
・佐々木亮介
ステージ上ではマネージャー氏がアンプなどのセッティングをしている。弾き語りであるのにそうした転換を経て、金髪というよりは茶髪という感じが強い佐々木亮介がステージへ。すでに年始から色々と活動しているけれど、自分は2023年初の佐々木亮介のライブである。
そのセッティングされたのは本隊のa flood of circleでもおなじみのギブソンのブラックファルコンのエレキなのだが、弾き語りにも関わらずそのギターを使うことにしたのは卓郎の提案によるものらしい。終始立っていた卓郎とは対照的に椅子に座って
「中華街 八角の匂い」
などの即興的な「F.A.Dブルース」を歌い始めるのだが、そのギターの音量もボーカルの声量も到底弾き語りのそれではない。というか普段のフラッドのものそのものであるかのような爆音っぷりである。亮介が立ち上がってマイクを通さずに歌うのもその声量の大きさがあるからこそであるし、歌詞には自身がステージで愛飲しているお茶割りが自身のライブ時だけではなく完全にF.A.Dのドリンクのレギュラーメニューになったことも入れ、
「俺愛されてる〜」
と嬉しそうに歌う。それはもちろん亮介自身がこのF.A.Dというライブハウスが大好きで、あらゆる形態で出演しまくっているからである。
そんな亮介はそのF.A.Dのドリンクバーで提供されているお茶割りと、自身が持ち込んだ宝焼酎のお茶割りを交互に飲み、
「やっぱりここのやつの方が美味い」
と言いながら、スタンダード曲の「Fly Me To The Moon」を口ずさみながらそのままソロの「Blanket Song」へ。この時期のソロの曲は元からブルースの影響が強いものだったが、弾き語りとなるとよりその感覚が強くなる。何というか「だり〜」というフレーズもより実感がこもっているかのような。それは完成度が跳ね上がるバンド形態でのソロライブでは感じられないものである。
そもそもギターがエレキという段階で普通の弾き語りと呼べるものなのかというところもあるのだが、最もそう感じられたのは爆音でギターを鳴らしながら歌う「Black Eye Blues」であり、完全にフラッドというバンドの影が見えるというか、目を瞑るとテツとHISAYOと一丘が亮介の周りにいるかのような感覚にもなる。それくらいにバンドのブルースをそのまま1人でやっているかのようである。
しかし亮介はそんなエレキだからこそであろう曲をやっておきながら何の曲を歌うかをちゃんと決めていないらしく、たびたび緑茶割りを飲んだり、譜面台をパラパラとめくって辿り着いたのは
「中華街に1番似合わない飲み物の曲を」
と言って始まった「ホットチョコレート」。弾き語りではたびたび演奏されている曲であるが、やはりエレキで弾き語りということによってどこかバンド感を感じざるを得ないのであるが、それでもこの曲から感じられる穏やかさはこの季節に聴くからこそ我々の心を暖めてくれるかのように響く。
そんな亮介は卓郎から「弟」と認定されたことによって、
「9mmから影響を受けてる、弟になりたい人たくさんいるだろうけど、俺が公式に卓郎さんの弟になったから(笑)
俺が本当に卓郎さんの弟で、俺が中学生の時に卓郎さんが高校生で、卓郎さんの部屋のドアには「絶対入るな」って母親に向けて書いてある紙が貼ってあって…いや、でも卓郎さん母親と仲良さそうだよな?(笑)まぁ貼ってあるドアを開けてその部屋にあるCDを勝手に隠れて聴いて、それに衝撃を受けて…っていう妄想をしてるんだけど、今からやる曲は9mmが影響を受けてるかはわからないけど、間奏が9mmっぽい感じがするから影響受けてるのかな?って」
と、亮介の豊かな想像力というか妄想力によってチョイスされたのはThe Strokesのセカンドアルバム「Room on Fire」収録の「Reptilia」。歌詞にアルバムタイトルが含まれていることからも、この大ヒットアルバムを象徴する曲であるのだが、亮介は間奏のギターソロを
「ほら!ここ9mmっぽくない?」
と言って弾くも、亮介が弾き語りすると「ロックンロール・リバイバル」のムーブメントの先陣として2000年代のロックシーンを切り開いたこのバンドのスタイリッシュさすらも、独特の泥臭いロックンロールとブルース、つまりは亮介の曲でしかないような曲になる。それくらいに亮介の声はイメージや先入観や記憶すらも塗り替えてしまう力を持っているということである。だから普通にThe Strokesの曲を聴いたら思い出す2011年のサマソニでの素晴らしかったライブも良い意味で全く脳内に蘇ってこない。ひたすらに目の前で歌っている亮介の歌声に向き合わされるのである。
そんな歌声の力を持つ亮介は昨年にミックスまで全て自分で手がけた曲をリリースしたことを口にするのだが、元々歌詞を書くのが1番好きじゃなかったのが、ミックスを自分でやってみたことによって自分の好きじゃない仕事の1位にミックスが浮上したことを語ると、なんと同期の音まで流し始めるというより弾き語りじゃなくなる要素まで持ち込むのであるが、その同期の音があまりに大き過ぎたことによって椅子に座ったままでビクッとしていた人がたくさんいた。
その同期も駆使して歌い始めたのは、よりフラッドとは全く違うソロらしいサウンドへと向かった「JUDY JUDY JUDY」であるのだが、なんと1コーラス終わった段階で同期との音が合わずに途中で曲を終わらせるという、カラオケで1コーラス歌ってみたらなんか違うから演奏中止にした、くらいの感じで終わる自由さもまた亮介の弾き語りだからこそだ。それはフラッドでのライブ以上に酒を飲み続けていることが影響していたのかもしれないけれど。
すると同期どころかエレキすらも置いて、普段の弾き語りやフラッドのライブでも使っているハートの形をしたアコギ(自身が可愛くないからせめてギターだけは可愛くしているとのこと)に持ち替えて、
「卓郎さん、めちゃ可愛くない?そんな可愛すぎる卓郎さんのための曲。もう「卓」と書いて「かわ」と読んで、「郎」と書いても「かわ」と読むっていうくらいに(笑)」
と卓郎の可愛さを歌う曲へと変化したのは、THE KEBABSの最新シングル収録曲の「かわかわ」。アコギになったことによって弾き語りっぷりが増したかと思ったら亮介は立ち上がってマイクを通さずに、この日卓郎が小籠包の汁を自身にぶちまけたことをも歌詞に入れながら
「ずっきゅん」
という歌詞を歌い上げる亮介も実は可愛いんじゃないだろうかと思うし、こんなふざけたような曲でありながらもやはりメロディが抜群に良いのがさすがLiSAにも曲を提供している(その「シャンプーソング」は「鬼滅の刃」タイアップ曲より良い曲)亮介ならではである。
そんな亮介は「死ぬまでにやりたいTo Doリスト」として
「THE KEBABSとキツネツキでいつか対バンしたい。どっちも本気の、誇り高きサブバンドだから」
と、新たな対バンの可能性を口にすると、ウクライナに思いを馳せ(その辺りはバンドでも弾き語りでも変わらない亮介らしさだ)、それでもロックンロールを、ブルースをやるしかないという生き様を口にして演奏されたのはバンドのライブでもクライマックスとしておなじみになっている「花火を見に行こう」。亮介は曲中の時間をほとんど立ち上がって歌っていたのだが、やはりその声量は抜群であるし、そのくらい大きな声で歌うことができるからこそ伝わることがある。それがリリースが迫ってきたアルバムだったら良いなと思うし、そうして今年も亮介は
「ロックバンドってめんどくさいことばかりなんだけど、みんながロックバンドを好きでいてくれて本当に嬉しい」
と口にするバンドのフラッドで大きな花火を打ち上げようとしている。
そしてここからはこの弾き語り対バン恒例のコラボの時間に。
「髪型がオシャレ」
と亮介は卓郎を紹介して招くも、
「サボってるだけだけどね(笑)」
と天然パーマであることを卓郎が返すと、
亮介「我々、SHIKABANEっていうユニットもやってて。そこには我々のさらに兄貴の死体が2体ほどいるんですけど(笑)、その死体たちよりも先輩の、俺も卓郎さんも大好きな先輩の曲を。態度怖いし、暗闇でもサングラスをかけてる人のバンドです」
と言って、卓郎がアコギ、亮介がエレキという形でまずは1コーラス目を卓郎が歌い、2コーラス目を亮介が歌うという形で分けたのはピロウズ「Fool on the planet」で、さすが2人ともこの曲を歌い慣れている感が強い。滑らかかつ艶やかな卓郎と、声量が凄まじい亮介のコントラストはSHIKABANEでもそうであるが、実に良い兄弟コンビだと言える。
「誰もが忘れても
僕は忘れたりしないぜ
世界が笑っても
自分を疑わない」
というフレーズの通りに、ここにいた人たちはこの日のことを忘れないと思うし、
「時代が望んでも
流されて歌ったりしないぜ
全てが変わっても
僕は変わらない」
というフレーズで2人の声が重なるのは、その通りに自分の道を進み続けてきた2人だからこそ説得力を感じさせるものであった。
先ほどの亮介のTHE KEBABSとキツネツキの対バンという話に卓郎は
「いやー、THE KEBABSはちゃんとしてるもん(笑)」
という理由で難色を示すのだが、
亮介「前にクアトロでキツネツキのライブ見たんですけど、アルカラの稲村さんが出てて。あの取り憑かれシステムいいですよね」
卓郎「むしろ俺たちがケバブのトッピングになるよ(笑)キツネの肉は寄生虫ばっかりだろうけど(笑)」
亮介「SHIKABANEもまたやりたいですけどね。フラッドと9mmでも是非また対バンを」
卓郎「あ、それは全然やろう!我々2人とも社長だから「社長ナイト」って感じで。SOIL & "PIMP" SESSIONSの社長がDJで(笑)」
亮介「我々は社長だからギャラ2倍っていう感じで(笑)我々がギャラ出してるんだけど(笑)」
というさらなる対バンの可能性により楽しみになる中で、卓郎が是非歌いたいと言ったというフラッドの曲をコラボするのであるが、それは
卓郎「この曲、「2020」っていうアルバムに入ってるじゃん?イントロがカーテンを開ける音で始まるんだけど、コロナ禍でどこにも行けないような時でも起きたらカーテンを開けなきゃならないっていう感じに聞こえた」
という完璧なレビューを卓郎がしてから2人で歌ったのはフラッドの「人工衛星のブルース」。ロックンロールをぶっ放すというタイプのフラッドの曲ではない、こうして弾き語りで歌うのにふさわしいような穏やかなサウンドの曲だからこそ、
「あなたがここにいてほしい」
というサビのフレーズを歌う卓郎の歌声からは優しさを感じざるを得ないのである。もちろんファルセットを駆使する卓郎のボーカルは、卓郎もまた自身が歌うことによって人の曲を自分のものにできるボーカリストであるということを示してくれる。この曲のコラボが見れただけでもこの日ここに来た甲斐があったというくらいに。
そんなコラボの最後には
亮介「今日、キツネツキって散々言ってきましたけど…」
卓郎「気付いている人は気付いていたかもしれないけど、もうひとりのキツネの存在や声に(笑)」
と言って、まさかの9mmの滝善充もステージに登場。ハットを被ってマフラーをした滝は卓郎いわく
「スナフキンみたい」
という出で立ちで、亮介のアコギを手にして3人で演奏したのは最後のパーティーとばかりに「Black Market Blues」。卓郎はもちろん
「F.A.Dに辿り着いたぜー!」
と叫ぶと観客の手拍子も完璧に決まるのであるが、亮介も9mmトリビュートアルバムでこの曲をカバーしているだけに実に歌い慣れている感があったし、滝もかなり酒が入った状態だったからこそか、実に上機嫌にギターを弾いていた。つまりは普段は暗黒のダンスフロアになるこの曲が、またこうしてこの2人の弾き語りを見たいと思うくらいに祝福のダンスチューンになっていたのだ。去り際に亮介と卓郎が肩を組むようにして去っていくと、その余韻が強すぎて客席からはずっとアンコールを求める手拍子が鳴り響いていた。
こうして弾き語りを見るとこの公認兄弟の2人には共通点が多いことに気付く。どちらも事務所を立ち上げて社長をやっていたり、本気のサブバンドをやっていたり。きっとそれぞれのそうした活動に影響や刺激を受けてここまでやってこれたというところもあるはず。
だからこそ、THE KEBABSとキツネツキ、フラッドと9mm、またこうした弾き語り、SHIKABANE…そうやって何度でもこの2人が同じステージに立つのを見ていたいと思う。自分が心からカッコいいと思っていて、その生き様を信頼しているくらいに好きなバンドのボーカリスト同士のコラボなんて、まるで自分の妄想を具現化したかのような瞬間なのだから。
1.F.A.Dブルース
2.Fly Me To The Moon
3.Blanket Song
4.Black Eye Blues
5.ホットチョコレート
6.Reptilia (The Strokes)
7.JUDY JUDY JUDY
8.かわかわ
9.花火を見に行こう
10.Fool on the planet (ピロウズ)w/菅原卓郎
11.人工衛星のブルース w/菅原卓郎
12.Black Market Blues w/菅原卓郎、滝善充
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