SPACE SHOWER TVの主催するライブイベント、LIVE HOLIC。昨年は2daysでの開催で、今勢いがあるバンドが集結するというラインナップだったが、今年は「ROCK BAND DREAM」と銘打ち、
UNISON SQUARE GARDEN
フレデリック
Hump Back
という先輩バンドと、
AMUSEMENT LAGER
ペルシカリア
板歯目
という後輩バンドによる共演となった。
この日はMCとして元[Alexandros]の庄村聡泰も参加しているのだが、開演時間の15時になるとその聡泰が長い髪を靡かせてステージに登場し、10分という長い時間のオープニングを任されながらも、
「MCって日本語訳するとMaster of Ceremonyっていう意味なんだけど、そこは私はMad Cell、つまりは狂った細胞としてこのイベントをぶっ壊したいと思います(笑)」
と言いながらしっかりこのイベントの主旨説明をするなどして流暢なトークを展開するサトヤスはもうなんらかの音楽番組の司会をやっていてもいいくらいに本当に喋りが上手い。台本内の
「追いかけて」
のセリフで「ワタリドリ」のメロディを歌ってみせるというスペシャスタッフの悪意ある試みにしっかり対応してみせるあたりも含めて。
・ペルシカリア
そんなサトヤスに紹介されてスクリーンにバンド名が映し出されたのはFUTURE BANDのトップバッターにして、この日のイベントのトップバッターでもある、ペルシカリア。
SEが鳴る中でメンバーがステージに現れると、矢口結生(ボーカル&ギター)はステージ前まで出て観客を煽ろうとするのだが、あまりの前のめりさにステージからマジの転落をしてしまう。これはダイバーがこの落ち方したらライブ止めるくらいの感じだったけど大丈夫だろうかと思っていたのだが、すぐにステージを登ってくる。かなり痛そうであったが。
その矢口が
「埼玉県の4人組バンド、ペルシカリアです!」
とギターを鳴らしながら力強く挨拶すると、このバンドの現状の代名詞とでも言うようなエモーショナルなギターロック「さよならロングヘアー」が鳴らされる。ラブソングをそうしたサウンドに乗せるバンドというのはたくさんいるけれど、それは「今幸せ」的な満たされたものではなくて、過ぎ去ってしまったものだからこそこのギターのサウンドがエモーショナルに感じられるということを示している。そのギターを鳴らすフルギヤは長く量の多い髪を靡かせながら演奏している。
すると某超大物ドラマーと同じ名前であるドラマーの中村達也がビートを繋ぐようにして、中垣(ベース)がハイトーンなコーラスを重ねる曲からはギターロックの疾走感だけではなくて構築的な部分も感じさせる。サトヤスは「静と動のコントラストが素晴らしい」と評していたが、まさにその通りであるし、それをわずか2曲で感じさせる演奏をこのバンドが見せているということだ。正直、サトヤスの評が的を得すぎていて、こんなレポを見るよりサトヤスのトークを見て聞いてもらいたいくらいであるが。
そして矢口は
「今日は両親も見に来てくれてるんですけど、僕は小さい頃から足も速くなかったし、部活も下手だったし、勉強も出来なかった。そんな何にもない僕でもこの15分は誇りに思える」
と、この幕張メッセのステージに立つことができた感慨を口にしていた。それは何もない人でも楽器を持ってステージに立てばヒーローになれる可能性があるということだし、それこそがこのライブのタイトルに掲げられた「ROCK BAND DREAM」そのものだ。
持ち時間が15分しかないためにそんなMCの後にあっという間に最後の曲として演奏されたのは最新曲「歓声の先」。この曲はサビに
「ビートルズが悪だった 時代なんて疾うに終わって
喝采よりも浴びていた 副流煙が目に沁みただけ」
という歌詞がある。今になっては信じられないことだが、かつては「ロックバンドを聞くのは悪いことだ」みたいな時代や状況もあったという。そうした時代は終わった2023年にロックバンドとして今を生きていく意志を感じさせる。その歌詞が強く頭に残るのもメロディの良さがあるからであるし、演奏中に何度もスタッフがシンバルまわりのセッティングを直しに来ていたあたり、万全の状態ではなかったかもしれないけれど、それを全く感じさせない中村のドラムがバンドの演奏を引き締めている。彼の演奏技術が凄まじく高いことが短い時間でもわかるし、それはこのバンドが憧れの先にいる人たちに追いつくために自分たちの力を磨き続けていることを示している。
矢口は
「またライブハウスで会いましょう」
とも言っていたが、また会える気がするじゃなくて、そこに会いに行かなきゃいけないと思うのは、彼のツイッターのプロフィールに一言
「踏み込むぜアクセル」
と書いてあるからだ。それは自分に駆け引きなんてないロックバンドのライブの楽しさや広がりを教えてくれたアジカンの「遥か彼方」のフレーズ。それを掲げているということは、かつて自分を救ってくれたバンドにきっと彼も救われてきたからだろう。いつか、君じゃないなら意味はないのさってたくさんの人に思われるバンドになって欲しいと思っている。
・AMUSEMENT LAGER
転換中には出番を終えたバンドとサトヤスによるトークも展開され、ペルシカリアのボーカルの矢口がステージから転落したことを本当に痛がっていることを話したりした後にサトヤスが紹介してスクリーンにバンド名が映し出されると、ステージにはすでにメンバー3人が楽器を持ってスタンバイしている。
JAPAN JAMのオーディション枠で優勝したバンドであるだけにライブを見る前に音源は聴いていたのであるが、「ニコラシカ」からスタートすると、音源よりもはるかに音が大きく、しかも重いことがよくわかる。ギターロックバンドと言っていいサウンドではあるけれど、ペルシカリアとは全く違う。それはもちろんスリーピースバンドとフォーピースバンドとの違いでもあるのだけれど、ギター&ボーカルのゆーへーの弾くギターが明らかにスリーピースバンドのギター&ボーカルの弾けるようなそれではないくらいにテクニカルであり、たくと(ベース)の動きながらの演奏、さらには「ジパング」での4文字熟語を次々に並べる歌詞などはこの日出演するユニゾンの影響を感じさせる。
さすがにユニゾンほどのスケールやアニメのタイアップになりそうなくらいのキャッチーさはまだないけれど、そんな中でもゆーへーの
「誰にバカにされたとしても、自分の好きな音楽を信じ続けてください。俺たちもそうしていきます」
という言葉はユニゾンの活動方針に連なる意思の強さを感じさせるし、その言葉の後に最後に演奏された「東京清夏季節的衝動」の清冽なメロディーはこのバンドのこれからの可能性を多いに感じさせるものだ。それはもちろんこの3人の演奏力の高さあってこそのものであるが、少年時代にこの幕張メッセに恐竜展を毎年見に来ていたという巨漢ドラマーは演奏後にスティックを放り投げ、ゆーへーもステージにギターを放り出すようにして去って行った。憧れも垣間見えるけれど、このメンバーたちにはきっと自分たちの理想とするロックバンドの像があって、そうなるために音を鳴らし、こうしてライブをやっている。それは誰かの真似ではなくて、AMUSEMENT LAGERというバンドでしかないものであるはず。きっとこの日の中では最も名前が知られていない存在だろうけれど、いつかこの時期にライブを見たことを自慢できるような存在になって欲しい。
1.ニコラシカ
2.ジパング
3.東京清夏季節的衝動
・板歯目
そんなAMUSEMENT LAGERとサトヤスのトークタイムを終えると、こちらも紹介された時にはステージにスタンバイしている。この名前で「ばんしもく」と読む。すでに下北沢界隈のライブハウスではよく名前を聞くようになっているが、なんとまだ19歳のメンバー3人によるバンドである。
そんなメンバーが音を鳴らした瞬間に「うわ!」と思った。そう思うくらいに、音を鳴らすだけで目の前の世界を変えることができるバンドだ。それは音の重さはもちろん、3人それぞれが発しているオーラのようなもの。庵原大和(ドラム)は叫びながら立ち上がってドラムを連打し、細身で長身スーツのゆーへー(ベース)はこの段階では「なんでこの音楽性と他のメンバーの出で立ちの中でスーツ?」と思うくらいであり、金髪ショートのちが(ボーカル&ギター)は音源よりはるかにドスの効いた声で「ラブソングはいらない」というタイトルの曲を歌っている。ラブソングに特化したバンドが他にいなくて良かったなと思ってしまうくらいに。
そのまま曲間一切なしで繋がるようにして「コドモドラゴン」へ繋がっていくという運び方も実に見事…というより持ち時間15分という凄まじい短さの中でどれだけ自分たちらしさを出せるか?そのためにどうすればいいか?を考えた結果がこの曲間なしで音が途切れることなく曲を演奏しまくるという形なのかもしれない。他にライブを見たことがないだけに、普段からこうしたライブをやっているのかもしれないが。
歌詞も実に独創的というか、なんでこんな単語やフレーズを音に乗せようと思ったの?と思うくらいに独特な歌詞はライブだとそこまでは聞き取れないけれど、それは丁寧さというよりもライブは音源とは全く別で、とにかく自分たちの衝動を音に込めるという結果のものなのかもしれない。ゆーへーはステージを左右に移動しながら演奏しているのだが、そのベースを弾く位置が実に低いのは、ベースのモデルも含めてDIR EN GREYのToshiyaの影響によるものと後でサトヤスとのトークで語られていた。(サトヤスもDIRの大ファンであるだけに2人で盛り上がっていた)一見すると「なぜDIRの影響を受けた人がこのバンドに?」とも思うけれど、演奏技術の高さがあるからこそできる、このごった煮的なロックサウンドはDIRに通じるところがあると言えるかもしれない。
そんなゆーへーの驚きの演奏が見れるのは、ちがが歌詞をまくしたてまくりながら、
「でもバンド名が読めない!」
と自身のバンド名を自虐的に、でもメロディーは超絶キャッチーに歌う、音源で聴いた段階で「これはライブの最後にやる曲だろうな」と思った必殺曲「地獄と地獄」。その曲中でゆーへーはスタッフにベースを持たせて正面から弾くという、スーパードラマーのサトヤスをして「今まで見たことがない」という奏法をやってのける。もしかしたら前例があるのかもしれないが、この奏法を「ゆーへー奏法」と名付けたいくらいに衝撃的だった。その衝撃ももしかしたら初めてDIRのライブを見た時の、人間の持ちうる全ての感情がこのバンドのライブからは発せられている…という衝撃に通じるものかもしれない。
ただこの会場にいた人からしたら、このバンドもユニゾンに通じるものがあると思っただろう。1人1人がソロでもやっていけるくらいのとんでもないプレイヤーでありながらも、そのそれぞれの凄まじさをこのバンドの音楽を一緒に鳴らすためにフル活用している。そんな3人が揃っているというバンドの在り方は音楽性は全く違えど間違いなくユニゾンと通じている。ある意味ではこのバンドはユニゾンの3人が今10代だったらこうなっていたかもしれないと思わせてくれる存在でもある。
サトヤスも
「目撃しちまった、っていう感じ」
と言っていたように、年齢やバンド歴以外のあらゆる要素がすでにこの15分という枠に収まり切っていないバンドだ。音源を聴いた時には打首獄門同好会などのコミカルなラウドバンドという位置付けのバンドかと思っていたが、それどころじゃない。「アリーナまで行くな」とか「フェスのメインステージに立つな」っていう想像すらも飛び越えた、久しぶりにロックシーンを丸ごとひっくり返すんじゃないかと思うくらいのバンドのライブを見た。でも知らない人からしたらきっと、バンド名が読めない。
1.ラブソングはいらない
2.コドモドラゴン
3.Ball & Cube with Vegetable
4.KILLER, Muddy Greed
5.地獄と地獄
・Hump Back
そんな板歯目の衝撃と、サトヤスとゆーへーによるDIR EN GREYファントークの後には長めの転換時間が設けられる。ここからは若手バンドから、そのバンドに影響を与えるバンドへ変わるということである。
その先輩バンド(CURATOR BAND)のトップを切るのはHump Back。時間ギリギリまでリハで曲を演奏し、そのままステージに止まって本番をすぐに迎えるというのはこのバンドならではのフェスやイベントの戦い方であり、林萌々子(ボーカル&ギター)が弾き語りのようにして歌ってからの「Lilly」でスタートすると林は
「ええ歌歌いに来ましたよー!」
と相変わらず抜群の声量で叫ぶ。ライブハウスで生きてきたバンドであるが、ギター、ベース、ドラムだけのシンプルなサウンドでこのアリーナ規模に立ってきた、そしてそこをライブハウスに変えてきたバンドであることをオープニングから感じさせる。
そのライブバンドとしての説得力と林のボーカルの表現力によって切なさが倍増しているかのような「恋をしよう」でも緑色のメッシュが入った髪色のぴか(ベース)はぴょんぴょんと飛び跳ねながら演奏をし、激しい音のぶつかり合いから始まる「オレンジ」ではタイトルに合わせてステージをオレンジ色の照明が照らす中で林はモニターの上に乗ったままでマイクスタンドを自分の方に引き寄せて歌うのであるが、その姿を見ているとペルシカリアの矢口のようにステージから転落しないか心配になってしまう。そんな中でも美咲のドラムが激しさと強さをもって響く中で林は
「ライブハウスで生まれて、ライブハウスで育ってきた!ライブハウスのやり方しか知らんから、ここは今からライブハウスや!」
と曲中に口にする。観客が拳を挙げている光景は紛れもなくいつもより広いだけのライブハウスでしかない。
ぴかの跳ねるようなベースと、美咲の四つ打ち的なドラムのリズムを聴くと、このバンドの最大の影響源であるチャットモンチーの「シャングリラ」のイントロを思い出してしまうダンスチューン「ひまつぶし」では林が
「好きなように踊りやー!」
と言って自身はロボットダンスを踊るというあたりが全然曲に合っていないというのがこのバンドの自由さを示しているのであるが、ぴかとのツインボーカル的なサビも含めて実に楽しい曲である。
すると林はギターを弾きながら、
「ペルシカリアのボーカルの子、元気やったで。裏でなんかヒヤリハットみたいなの書かされてたけど(笑)
AMUSEMENT LAGERは演奏めちゃ上手かったなぁ。うちらとはうんでんの差や。うんでん?雲泥?学がないねん(笑)大学出てるけど(笑)
板歯目はもう凄かったな。本当にみんな出会ってしまった、みたいに思ってるんちゃう?」
と、この日の若手バンド1組ずつにしっかりコメントをする。そのあたりに優しさも垣間見えるのであるが、
「でも若い芽は早めに摘んでおかな。憧れるんじゃなくて、バンドやってても絶対に叶わんわ、って思うようなライブやります!」
と若手といえど真剣にねじ伏せようとするのは立ち位置こそ違えど自分たちと若手バンドを対等に見ているからだろう。それこそがこのバンドなりの若手への向き合い方である。
その思いはそのまま
「ああ もう泣かないで」
と林がギターを弾きながら歌い始めた「拝啓、少年よ」へと繋がっていく。林は曲中に
「今日は観客の年齢層が高いのわかってる!チケ代的になかなか学生は来られへんやろうからな!ウチらの曲は少年少女にしか響かへんようになってるから、ウチらの曲が響いたら少年少女っていうことやで!」
と口にするのであるが、そうした言葉と歌詞が完璧に合致した音楽を鳴らしているからこそ、泣かないでと言われてもライブを見ていて心が震えて泣きそうになってしまうのだ。
それは美咲の力強いドラムロールが響く中でぴかもその場で足を上げたり飛び跳ねたりしながら演奏する「ティーンエイジサンセット」でもそうであり、林は
「ペルシカリアのボーカルの子のご両親も来てるって言ってたな。あなたたちのお子さん、前のめりでカッコ良く生きてますよ!」
とも口にした。それは聞いていたら矢口本人も両親も本当に嬉しかったと思う。ここまで見ていただけでもロックバンドのカッコ良さをこんなにも見せつけてくれるバンドがそう言ってくれているのだから。反対する人も多いという両親がバンドをやってるのを応援してくれているっていうのが本当に素晴らしいことだと思う。
そんなHump Backも年齢的にはまだまだ若手と言っていい世代であり、そんな世代がこれからの音楽シーンを牽引していくというような頼もしさすら感じさせてくれるような「僕らの時代」ではパンクなビートの中でメンバーそれぞれのソロ回しも挟まれ、サビでは3人の声が重なる。時代の波が来るのを待っているのでも、引き寄せようとしているのでもなくて、このバンドは自分たちの手でそれを作ろうとしている。
すると林は観客に向かって、
「平日は真面目に働いたりして、それで稼いだ金でこうやって週末にライブハウスに来てるんやろ?それはめちゃくちゃカッコいいことやで」
と、我々を肯定してくれるかのような言葉を口にする。正直、週末どころか平日にもライブハウスに行きまくっている身であるのだが、それはやっぱり今でもHump Backのようなバンドがライブハウスで音を鳴らし続けてくれているからだ。それは
「曲変えるわ」
と言ってから演奏された「番狂わせ」の
「おもろい大人になりたいわ」
「しょうもないおとなになりたいわ」
というフレーズを聴いていて改めて思うものでもある。この曲は今自分がそうやって生きることができているかということを自分自身に問いかけるような曲でもある。それでもやっぱりこの音楽が響く自分は今でも少年少女のままだとも思えるのだ。
そんなライブの最後はやはりこの曲でも林が弾き語りのようにサビを歌ってから演奏された「星丘公園」で、ぴかはよりぴょんぴょんと飛び跳ねながらステージの端まで走って行ったりと、機材がシンプルであるだけに広いステージでもギュッとして集まっている感の強いこのバンドのライブでも最大限にステージを活用しているように見える。
きっとこの曲を作った時は林がこの日出演した若手バンドたちと同じくらいの年齢だったんだろうなと思っていたら、まだ時間が残っていたことによってまさにそうしたことを口にしてから、初期の名曲「月まで」を演奏する。音源とは比べ物にならないくらいに林のボーカルもバンドの演奏も力強くなっているけれど、今も衒いなくこの曲を演奏することができるバンドであり続けているということ。それはバンドの芯が林1人だった時と今で全く変わっていないということだ。それはきっと人類が普通に月に行けるようになったとしても、これからも変わることはない。
ついこの間まで、このバンドはチャットモンチーの最後のライブとなった主催フェスに出演した際に、チャットモンチーへの憧れを涙を流しながら口にしていた。ちょっと前までは憧れている側だった。でも今はもうこのバンドに憧れてバンドを始めたという人だってたくさんいるはず。そういう人がこのステージに立つようになるだろうなというイメージが最も浮かぶのがこのバンドだ。それは自分たちがそうやって今のこのバンドになったということを身をもって示してきたからである。「ROCK BAND DREAM」をその頃からずっと体現し続けているバンドなんじゃないかと思うくらいに。
リハ.生きて行く
リハ.宣誓
1.Lilly
2.恋をしよう
3.オレンジ
4.ひまつぶし
5.拝啓、少年よ
6.ティーンエイジサンセット
7.僕らの時代
8.番狂わせ
9.星丘公園
10.月まで
・フレデリック
この後半のバンドの転換にはサトヤスのMCもなしで、ひたすらバンドがサウンドチェックできる時間が続く。すでに前日と前々日に名古屋でワンマン2daysを行ってきただけに、このサウンドチェックでの演奏も本気でありながらもファンサービス的な精神の強さを感じさせるものになっているのだが、三原健司(ボーカル&ギター)は
「Hump Backがさっき「ここからの3バンドで若手の目を摘む」って言ってたけど、目を摘もうとは思ってないから(笑)でも格の違いは見せてやろうと思ってる」
と完璧に戦闘モードに入っている。そうやってフェスのメインステージまで達したバンドなのである。
ダンサブルなSEでメンバーが登場すると、
「40分1本勝負、フレデリックはじめます!」
と健司が口にして「KITAKU BEATS」からスタートすると、三原康司は飛び跳ねながらベースをうねらせまくり、赤頭隆児(ギター)も左右に動きつつ笑顔を浮かべながら演奏しているあたりに絶賛ツアー中の脂の乗りっぷりを感じさせるのであるが、そのツアーでの仕上がりっぷりを最も感じさせるのは高橋武のドラムの手数の増しっぷり。それはツアーを、ライブを重ねるごとにより進化している部分であり、常に楽曲に向き合い続けているこのバンドのストイックさを感じさせる。
そんなバンドのサウンドの進化とともに健司のボーカリストとしての表現力の進化を感じさせるのは歌い出しから拳を効かせた歌唱法になっている「YONA YONA DANCE」であり、それは元は和田アキ子に提供した曲のフレデリックバージョンだからであるが、和田アキ子が若いバンドのサウンドを自分の音楽の表現に取り入れて自身のアップデートを図っているのと同様に、フレデリックも和田アキ子の歌唱表現を取り入れて自分たちの進化に繋げている。これほど理想的なコラボレーションはないだろう。
しかし健司は
「まだなんかオーディションライブ的な空気が残ってるな。もっと自由に踊れますか、幕張!」
と客席の雰囲気の硬さを感じ取っていたのだが、それは自分たちがそうしたオーディションライブ(MASH A&R)をきっかけに世に出てきたからこそ感じるものがあったのだろうが、キャッチーな電子音的なサウンドをあくまで赤頭のギターが奏でる「Wake Me Up」でその硬さをほぐすように赤頭も康司もその場で回るように飛び跳ね、健司はハンドマイクでステージを歩き回りながら歌うのであるが、曲中に音を徐々に小さくしていってから一気に爆発させるように音を大きくさせるというアレンジもこうしてライブで鳴らし続けてきたからこそできる押し引きの表現力である。
すると高橋がビートを繋ぐようにする中で幽玄な照明と演奏にガラッと切り替わるのは「人魚のはなし」。CDJでも演奏されていた曲であるが、性急なリズムのダンスサウンドで踊らせるだけではなくて、こうしたサイケデリックな曲をフェスやイベントのセトリに入れることができるのはフレデリックだからこそだ。それはこの日は健司が
「まだ20歳くらいのインディーズの時に作った曲」
と言っていたように、自分たちがこの日出演した若手バンドの年齢くらいの時にこうした曲を生み出していたということを示すかのようであった。
そんな「人魚のはなし」を演奏したことによって客席の雰囲気は完全に変わり、健司も
「俺たち、昨日まで名古屋でワンマン2daysやってたんやけど、今日でワンマン3daysみたいな感じになってる」
というくらいにフレデリックのワンマンを見ているかのような空気になっている。それくらいにフレデリックはフェスやイベントを自分たちの色に染め上げることができる力を持ったバンドだということである。
そんなフレデリックらしさが炸裂するのは、昨年バンドが生み出した新たなキラーチューン「ジャンキー」で、高橋が立ち上がってバスドラを踏む中、それはこの日のライブタイトルの「HOLIC」と同じ意味を持っているというのは、健司も
「ずっとお世話になり続けている」
というスペシャとこのバンドの意思が通底しているということであるし、このイベントにフレデリックがふさわしい存在であるということを示すような曲である。その通りにフレデリックはコロナ禍以降にもライブをやりまくってきたジャンキーでありホリックなバンドであり、そのバンドのライブを見てきた我々もそうした存在であるということだ。何よりこの曲が凄まじい中毒性を持っているのだ。
それは高橋のイントロのビートがより疾走感を感じさせるようなアレンジになっている「オドループ」もそうであるのだが、この曲の
「踊ってない夜が気に入らないよ」
というフレーズもまたこの「LIVE HOLIC」にふさわしいものである。赤頭は間奏のギターソロ前にステージ端に隠れるようにしてから一気にステージ中央に立って思いっきり体を逸らすようにしてギターを弾きまくる。そのサウンドがより我々の体を踊りまくらせてくれるのである。
そんなライブの最後に演奏されたのは現在ボートレースのCMタイアップとして現在大量オンエアされている「スパークルダンサー」。キャッチーな電子音をふんだんに取り入れたダンスサウンドはフレデリックのど真ん中的なものでもありながらも、さらにその先へ向かうためのものだ。そうして「オドループ」や「ジャンキー」を抑えてこの最新曲をライブの最後に演奏するというあたりが健司が言っていたように
「今が1番尖っている」
という言葉を示しているし、こうして若手のインディーバンドと一緒にライブをやると、すでにアリーナでワンマンをやるくらいの影響力を持っていながらも、フレデリックのようなバンドって全くいないなと思える。それは真似することができないものをこのバンドがやっているということであるけれど、この日出演したAMUSEMENT LAGERのベースのたくとは
「目指すべきベーシストの存在が見つかった」
として康司の存在を挙げていた。バンドとして影響をそのまま形にすることはできないけれど、メンバーそれぞれの演奏やバンドの意志は確実に若手バンドたちに影響を与え続けている。それはひたすらに音楽への愛を自分たちの音楽のメッセージにしてきたこのバンドが撒いてきた種が芽吹きはじめてきているということだ。3月のNHKホールでのワンマンが待ち遠しくて仕方がないくらいに、やはり格の違いを見せつけたライブだった。
リハ.リリリピート
リハ.かなしいうれしい
1.KITAKU BEATS
2.YONA YONA DANCE
3.Wake Me Up
4.人魚のはなし
5.ジャンキー
6.オドループ
7.スパークルダンサー
・UNISON SQUARE GARDEN
そしてこの日のトリはUNISON SQUARE GARDEN。あまりこうしたイベントやフェスではトリを務めるようなイメージはないけれど、このイベントのコンセプトからしたら最年長かつ最もキャリアの長いこのバンドがトリを務めるのは当然と言えるところである。
おなじみのSE「絵の具」が流れる暗闇の中でメンバー3人がステージに登場。田淵智也(ベース)の靴の蛍光色部分が光っている中で最初に演奏されたのはなんとデビューミニアルバム「新世界ノート」の1曲目に収録されている、つまりはユニゾンの始まりの曲と言えるような「アナザーワールド」という予想だにしないようなオープニング。それはHump Back「月まで」やフレデリック「人魚のはなし」のような、この日出演した若手バンドと同じくらいの年齢の時にバンドが作った曲を演奏しているのかとも思ったのだが、そこはさすがユニゾン、鈴木貴雄のドラムの手数が当時とは全く違うレベルのものになっているし、それもちろん斎藤宏介(ボーカル&ギター)の歌声もそうである。まさに別世界であるかのようにステージには神聖な真っ白い光の柱のような照明が降り注いでいる。
すると鈴木のドラムが一気に加速し、白一色だった照明がモノクロからフルカラーになるかのように鮮やかな色彩を纏っていく「フルカラープログラム」へとつながり、田淵はステージ上を自在に走り回り、サビ入りではベースを抱えたままジャンプする。その全ての光景や鳴らされている音が紛れもなく、完全無欠のロックンロールである。
普段のフェスやイベントではMCを全くしないということの方が多いバンドであるのだが、この日は斎藤が
「今日はこのイベントと真っ向から向き合うために、僕らがメジャーデビューする前の曲だけでセットリストを組んできました!」
と宣言。だからこその冒頭の2曲だったのであるが、鈴木もMC中に客席に向かって手を振るというくらいにテンションが高く、普段のフェスやイベントとは全く違う内容のものになるということがこの時点でわかる。
だからこそロックバンドとしての衝動が炸裂するような「カラクリカルカレ」を今も全く変わることなく演奏できているというのはユニゾンが当時の曲を進化させながらも、その頃と地続きのままでバンドを続けているということだ。田淵の描く歌詞の独自さも当時から形は完成されていたということが今聴くとよくわかる。
さらには斎藤の刻むギターの音に合わせて田淵が体を揺らすのは「デイライ協奏楽団」であり、
「先生!」
のフレーズで観客が一斉に腕を上げるという光景もユニゾンが時折こうした初期の曲をライブで演奏しながら続いてきたからこそのものである。
そのままダンサブルなビートとサウンドになり、イントロから観客の手拍子が響くのは「等身大の地球」であり、曲中にもリズムに合わせた手拍子が起こる。リリース当時は間奏で斎藤が手拍子していて、観客がそれに合わせるという、まだライブのやり方が定まっていなかった頃のことを思い出したりもするのであるが、田淵の重さとうねりを見せつけるようなスラップベースによる間奏部分では鈴木のリズムに合わせて客席から手拍子が起こる。今は斎藤は手拍子をすることはないけれど、それはそうしたお決まりの盛り上がりをしなくてもそれぞれが自由に楽しんで欲しいというバンド側の姿勢が定まったことによるものである。
そしてスリーピースバンドだけの楽器のサウンドとは思えない音の圧力を感じさせるのは「マスターボリューム」であり、やはり鈴木のドラムはそんな圧力をさらに強くするかのように手数と一打の強さを増しまくっているのであるが、この曲のテーマである「混沌=カオス」は今も変わらぬこのバンドのテーマであるし、シングルリリース当時からこの曲の
「何が正しくて、何が間違っているのか
全部わかんないが、問題ない」
というフレーズが好きなのであるが、それはこうしてユニゾンの曲を聴いている、ライブを見ているということだけは間違っていない、正しいことであるということがわかるものだからだ。
そして再びカラフルなサウンドと軽快かつダンサブルなビートによる「MR.アンディ」では
「君が残像に」
のフレーズで田淵がポーズを決めるようにしながら、メンバー全員で声を重ね、客席からは手拍子が起こるのであるが、2コーラス目では田淵がベースを弾きながら斎藤の側に寄っていくと、コサックダンスを踊るような足捌きで踊りながら斎藤と目を合わせるようにして両者が演奏し、鈴木はビートをパンクなツービートに展開していく。ただ当時の曲を演奏するだけでなく、今の自分たちでのアップデートした形で演奏する。それこそがユニゾンの強さであるということを鳴らしている音だけで示してくれているのである。
そして斎藤が
「ラスト!」
と言って演奏されたのは、その斎藤のギターが象徴的なリフを刻む「23:25」であり、斎藤の高低を行き来するボーカルも実に見事で、それはそのままバンドの進化を示しているものになっている。
「揺らいでる風景も七色のステージに変えて キラキラ」
というフレーズに合わせてステージには再び虹色の照明が降り注ぐのであるが、
「今握り締めて走り出せば空も飛べるようなお年頃ですもの」
という締めのフレーズは紛れもなくこの日の若手バンドたちに向けられていたものだからこそ、この曲が最後に演奏されたのだろう。それはかつてユニゾンがそうだったように、彼ら若手バンドは今なんだってできる、どこにでも行ける、空だって飛べるような無敵の力を持っているような年頃だからだ。いや、もうベテランと言えるような年齢や経歴にあってもそうあり続けることができる。そんな姿を若手バンドに示そうとしていたのかもしれない。
そんなロックバンドの強さと優しさを持っているからこそ、斎藤は去り際に
「ロックバンド最高!」
と言ってからステージを去った。ユニゾンは今でも自主企画ライブでまだ世に知られていない若手バンドを招いたりしている。それはユニゾンがそうした若手バンドの音楽やライブに刺激を受け続けて自分たちの衝動や意欲にしているからだ。自分たちが若手バンドに影響を与えるだけではなくて、若手バンドからも影響を貰っているからこその、若手バンドへのメッセージであるかのような選曲。ちゃんとそこに意味が存在している。ユニゾンが完全無欠のロックンロールバンドである所以が詰まった40分間だった。
1.アナザーワールド
2.フルカラープログラム
3.カラクリカルカレ
4.デイライ協奏楽団
5.等身大の地球
6.マスターボリューム
7.MR.アンディ
8.23:25
演奏が終わると、アンコールがないことを謝罪しながらもサトヤスが最後のMCとしてその役割を全うする。その中で病気によってドラムが叩けなくなって[Alexandros]を勇退した自身が、少しずつだけどもドラムをまた叩けるようになってきたということを口にした。こうしてMCとして姿を見れる、話しているのを見れるのも嬉しいけれど、自分にとってドラマーというものがロックバンドにとってどれだけ大事な存在かということを教えてくれたサトヤスがまたドラムを叩く姿を見ることができるかもしれない。そう思えたのが本当に嬉しくて、最後まで残ってこのMCを聞いていて本当に良かったと思えた。
年間160本くらいライブを見ているという生活をしている自分は間違いなく中毒者と呼ばれるようなものだろう。それはそのままこのイベントのタイトルと通じるものであるし、そんなイベントがさらに毒性を強くするようなカッコいいバンドの存在を我々に紹介してくれている。去年も同じことを書いた気もするけれど、こんなにも自分のようなやつのためのイベントは他にないかもしれない。そんなイベントを作ってくれているスペシャには本当に感謝してもしきれないから、これからも主催イベントに足を運び続けて返していけたらと思っている。やっぱり、ロックバンド最高。