SUPER BEAVER 「都会のラクダSP 〜東京ラクダストーリービヨンド〜」 @有明アリーナ 12/10
- 2022/12/11
- 19:40
3月にはアルバム「東京」のリリース直後のホールツアー初日に松戸森のホールでワンマンを見ており、ワンマンはその日以来であるが、その間にもフェス、イベント、対バンなどあらゆる形でライブを見てきただけにこのバンドのライブバンドっぷりを実感してきた1年になった、SUPER BEAVER。
そんなワンマンツアーはアリーナ編に突入しており、すでに関東でも横浜アリーナで2daysを行なっているが、アルバムタイトルでもある東京でのアリーナはオープンしたばかりの有明アリーナでの2daysでこの日は初日となる。
初めて訪れる有明アリーナはどこの駅からも微妙に遠いという、強いて言うなら豊洲PITから割と近めの海沿いにあるキレイな新しいアリーナ会場であり、中に入ってもよくわからない構造を経て客席に入るとその大きさはぴあアリーナを彷彿とさせる。
18時を少し過ぎたあたりでBGMが少しずつ大きくなると場内がゆっくり暗転し、暗闇の中で藤原広明(ドラム)のシルエットが見え、ドラムを叩き始めるのだが、そこにはギターとベースの音も重なっているように聞こえてくる。でもドラムセット前に柳沢亮太(ギター)と上杉研太(ベース)の姿はなく、2人はどこに?と思っていたらアリーナ規模だからこそのステージ両サイドに伸びた通路の先の台の上に立って音を鳴らしている。そこにはマイクスタンドも設置されているだけに2人は定位置が2つあるということである。
その3人がオープニングセッション的に音を鳴らす中で渋谷龍太(ボーカル)がステージに現れると、渋谷はステージ前に伸びた花道の先へと歩き出していく。その先にもやはりマイクスタンドがすでに用意してあり、そのマイクに向かって渋谷が
「レペゼンジャパニーズポップミュージック、SUPER BEAVERです」
と挨拶すると、柳沢がギターを鳴らし始めたのは「東京流星群」。これは東京のアリーナだからという選曲なのかはわからないが、ステージ背面には演奏する4人の姿と同時にまさに流星というような星空の電飾、さらには花道の通路の上からは巨大なミラーボールも降りてきてそこに反射する輝きが会場を照らす。我々は声を出して歌うことはできないがそれでも渋谷はマイクを向けるような仕草を見せ、柳沢と上杉は我々の分まで思いっきり声を張り上げてくれているのがよくわかる。行った人から「音が良くない」と聞いていた会場であるが、特段そんな風に感じないのはすでにアリーナライブでの経験も豊富なビーバーの音作りによるものか、あるいはそのビーバーのボーカル、ギター、ベース、ドラムが一つずつというシンプル極まりないサウンドゆえか。いずれにせよかなり高さのある客席の最上段までしっかり、まっすぐに全ての音が届いていたはずだ。
その「東京流星群」の段階で全員と言っていいくらいの腕が上がっていたのだが、渋谷が花道からステージに戻って演奏された、メンバーの演奏が一気に強さと激しさを増す最新作収録の「スペシャル」という全くリリース時期が異なる楽曲でも当然のように客席全体で腕が上がり、完全にビーバーの全ての楽曲がここにいる人たちの、いやロックシーンの、それさえも超えた場所のアンセムになっていることを実感する。実際に中学生くらいの若い人や、それくらいの子供がいるかのような年齢の方もたくさんいただけに、タイアップや特集番組など様々な要素が重なって今のビーバーが全世代対応型のロックバンドになっていることがわかる。
「またひとつ歳を重ねて またひとつ意味を宿して
楽しくありたいと願うと 「誰かのため」が増える 人間冥利」
という絶大なインパクトを持つサビのフレーズは渋谷がライブのMCで口にした「人間冥利」という単語を柳沢が歌詞に使おうと思ったということがインタビューで語られていたけれど、このバンドの歌詞は作詞家の柳沢だけの思考ではなくて渋谷のものでもあり、誰よりも大きな声でコーラスする上杉のものでもあり、マイクを通さずとも歌いながらドラムを叩いている藤原のものでもある。だからこそ綺麗事だと思われたり、青臭く感じてしまいそうな歌詞にも絶大な説得力が宿っている。それはメンバー全員が共通して心から思っていることを歌詞にしていて、それを歌っているからである。
そんなこのバンドのスタンスやスタイルがより決定的になったなと自分が感じたのは次に演奏された「証明」がリリースされた時だった。もうそこまで毎回ライブで演奏されるような曲ではなくなってきたけれど、自身の前にある台の上に乗って歌う渋谷のボーカルの中で本当に伝えたいフレーズの意味を増強するように
「一人」
「産まれて死ぬまで一人なのは 誰も独りきりではないという」
のフレーズだけに重ねる柳沢と上杉のコーラスという足し算の妙と、
「あなたの目に映る顔を見て 僕の知らない僕を知った」
という、これまでも日本の様々な楽曲の中で歌われてきたことをビーバーならではの言葉で歌詞にしたサビの締め。この曲が、それまでは少しストレート過ぎて普通のバンドだと何回かライブを見て感じていた自分のビーバーに対するイメージを変えた。普通だと感じたからこそそれが今や普遍になっている。それをこの景色が示しているし、普通なんて今では1ミリも感じないくらいにビーバーはビーバーでないとできない、成立しないことをやっているバンドだと思う。
「アリーナ、ホール、ライブハウス。場所がどこだってあなたのために鳴らしてます。あなたと一緒に音楽をやりにきました、SUPER BEAVERです。一緒に音楽やってくれますか?一緒に最高の日を作ってくれますか?」
と煽るようにして観客の拍手や高く掲げる腕を引き出すと、そんな愛すべき存在である「あなた」に向けて歌われたのは軽快なリズムとサウンドによる「ラブソング」で、渋谷も柳沢も上杉も軽やかに踊るようにしながら演奏するのであるが、ここまでのセトリを見ても「東京」の収録曲を演出も含めてしっかりやるという内容だったホールツアーの時とは全く違う、「東京」をリリースした年ではあるけれど、それも踏まえてバンドの一つの集大成というか、アリーナで映えるべき曲を選んできたという意図が感じられる。この曲もステージが広いからこそ演奏されたと思われるものだ。
続け様に演奏された「突破口」ではステージ上にいるカメラマンがメンバーの演奏している姿をアップでスクリーンに映すのであるが、上杉も渋谷も唇がカメラの画面についてしまいそうなほどに接近している。それがどんなにカッコよくてもどこか可愛らしさを感じさせるものになっているというのはスーパーでありながらもビーバーであるというバンド名が示す通りである。
その「突破口」でバンドのサウンドはさらに力強さを増していくのだが、「東京」収録曲でそれを感じさせるのが「VS」であり、スクリーンに映るメンバーや楽器の輪郭を緑色の線で囲うというエフェクトがリアルタイムで施されており、それもまたこうした巨大なスクリーンがあるアリーナだからこそ映えるものであるし、演奏するメンバーの前では火柱が上がり、いくつものレーザーが飛び交いまくる。アリーナに立つべき歌唱と演奏と楽曲を持ったバンドがそうした場所にふさわしい演出をも得てアリーナを制圧しているということがよくわかる光景である。
しかしそんなこのアリーナはまだできたばかりということで構造などに馴染みがないのもあるが、渋谷は
「すごい不思議な会場なんだよここ。そこはアリーナじゃん?その上の席が2階で。3階がこのステージ正面の客席なんだけど、2階の上の席は4階になってる。3階と4階の1番上の高さが同じっていう(笑)」
という、この会場に足を踏み入れた人ならば誰もが納得するであろう会場構造の説明をし、そうした複雑な構造であってもしっかり
「アリーナ!2階!3階!4階!」
と呼びかけるライブにすることを誓う。そうしてその席にいる「あなた」と一緒にライブを作り、この日を最高なものにすることも。
そんなビーバーの最新曲である「ひたむき」が早くもこの中盤で演奏されるのだが、アルバムが出たばかりなのに早くも新曲がリリースされたということがホールからアリーナへという会場の変化とライブの選曲の変化を示しているのかもしれない。「僕のヒーローアカデミア」のオープニングテーマであり、その始まりを鳴らす柳沢のギターも曲のタイトルや歌詞やテーマもビーバーそのものという曲だ。スクリーンには疾走感を煽るようなイメージ的な映像とともに
「いつだって今日が人生のピーク 超えていけ」
というこのバンドが自分たちの姿で自分たちの人生のピークを更新し、その音で我々の人生のピークを更新してくれるフレーズが駆け抜けるように映し出されていく。
敵を倒すヒーローではなくて、誰かを救うヒーローとそれに憧れる少年少女というヒロアカの物語はビーバーと我々の関係性そのもののようだ。「ひたむき」というビーバーというバンドを一言で言い当てるようなフレーズも、これほど全てが合致したタイアップはないし、凄いのは全く寄せていないでそう感じさせるという点である。ただ自分たちの本質を歌った曲がアニメに最もふさわしいものになった。アニメでは流れない2コーラス目のコーラスパートで観客全員が両手を高く掲げていたが、次にこの曲をライブで聴く時にはこのコーラスをみんなで歌えたらいいなと思うし、メンバーもその想いを間違いなく込めているはずである。
さらには夜空の下で演奏しているかのように場内が薄暗くなった中での「名前を呼ぶよ」と、ビーバーの名前や存在を一気に知らしめたキラーチューンが続く。この曲は何度ライブで聴いても
「名前を呼んでよ 会いに行くよ 命の意味だ 僕らの意味だ」
と歌っている通りにビーバーがこうして我々に会いにきてくれて、全国の至る場所でそれを繰り返して生きているんだよなと思う。渋谷のボーカルに重なるメンバーのコーラスからもその思いが感じられるし、そのコーラスをしている時の表情が本当に100%の思いを込めて歌っているものである。
そんな思いは
「ライブやりすぎじゃない?って言われたりもするけど、はるか先のライブ予定が決まっていて、あなたが会いに来てくれるのを決めてくれるっていうのは生きているからできることで。今日だけじゃなくて明日もその先も」
という言葉に変換されるのだが、そんな未来にライブでまた会えるという約束があることが幸せに感じられるのは「未来の話をしよう」という曲に繋がっていくから。
「声も出ないほど 悲しかったこと
無理やり忘れなくていいんだよ
二度と来ない日を 心から愛して
そして未来の話をしよう」
というサビの歌詞がこの日のライブのことを、これから先に控えているビーバーを見れる日のことをより愛おしいものとして感じさせてくれる。
「このコロナ禍の中を生き抜いて、今日ライブに来るっていう選択をした、あなた自身に拍手!
150人くらいのライブハウスすら全然埋まらない時期が長かったから、こうしてアリーナにいっぱいの人が来てくれるっていうのが本当に感無量です。でもどんなにたくさんの人がいたって、あなたに歌ってる。あなたが聴いてくれなきゃ、一緒にライブをやってくれなきゃ意味がない」
というバンドのスタンスというかもはや生き様がそのまま曲になっているのはもちろん「人として」であり、スクリーンにはやはりこの曲の歌詞が映し出されることによってその曲が持つメッセージがより沁みてくる。それは演奏しているメンバーの表情や演奏している姿に宿る激情と言ってもいいものから感じられるかもしれないが、ビーバーの真っ直ぐさやひたむきさを見ていると本当に、人としてカッコよく生きていたいと思えるのだ。
そんなバラード曲と言っていいような流れは今からはるか昔、もうリリースされてから10年も経つ「未来の始めかた」収録の「Your Song」へと続く。都内の高速道路とその周りの夜景をレンズに雨が滴るカメラが映しているかのような映像とボーカルというか歌とメロディを際立たせるような、だからこそ支えるようにさりげない音量で演奏されるバンドサウンドは今こそこの曲の真価を発揮できるパフォーマンスをバンドができるようになったことを示している。少し体を揺らしながら聴くようなサウンドが実に心地良い。
そんな中でせっかくのアリーナワンマンということでメンバーそれぞれのMCも挟まれるのであるが、上杉は2週間ライブがなかったことによってまるで1年くらいライブをしていなかったように感じるというライブジャンキーっぷりを口にするのだが、藤原は
「言うことなんて何もないよ!最高!まだまだ続くよ〜!」
と言って柳沢にパスするのであるが柳沢はどんなテンションでMCを始めればいいかを迷ってしまった結果、藤原の「まだまだ続くよ〜!」からMCをやり直すという形に。やはり上杉同様に2週間ライブがなかったというのはかなり空いた感覚になるらしいのだが、個人的には実に共感できるものである。
そして渋谷は
「バンドマンっていうのは別にすごいわけじゃない。バンドはある一つの考えとかを提案したり提示したりすることはできるけど、それに賛同してくれたり、広めてくれるあなたがいないと意味がない。だからあなたに歌ってる。これからも頼ってもらいたいし、頼ることもあると思う。人らしく持ちつ持たれつでいきましょう!」
と口にして、観客の両腕を頭の上に高く挙げさせ、その両手をクラップさせる。それはもちろん「美しい日」の始まりの合図なのだが、渋谷が花道へ駆け出してあらゆる角度の客席を見渡すと、曲中の随所で全員の手拍子が起こっている。その光景を見ていると渋谷の「バンドマンの提案を広げていくのがあなた」というのは本当にその通りだなと思う。観客が5人とか10人しかいなかったらこんなに感動する光景は生まれ得ないし、コロナ禍という音楽が、ライブが不要不急と言われてきたことを経てきたからこそ、
「誰かにとって「たかがそれくらい」の ありふれた歓びでも
嬉しいと思えたら 特別じゃない今日はもうきっと
美しい 美しい日なんだよなあ」
という歌詞が本当に沁みる。そのことを証明してきたビーバーのこの3年近くだったんじゃないかと思うほどに。そしてやっぱりこの日は美しい日だったんだよなと思えるのだ。
渋谷はそのまま花道の通路の上で、
「バンドマンが本気で言う「愛してる」を聞いたことがあるか!?」
と言うと、
「愛してる」
というフレーズをこれが本気じゃなかったら何が本気なのかというくらいに熱量と感情を込めて歌い、「アイラヴユー」へと突入していく。
「今僕らに 必要なのは 想う気持ち 想像力
今あなたに 必要なのは 想われてる その実感」
という歌詞もまたコロナ禍を経たからこそ、そしてSUPER BEAVERのライブを見ているからこそ、より今の世界や社会を生きる人間において最も必要なものだと思えるし、サビでは渋谷だけではなくメンバーも本気を超えるような形相で歌声を重ねる。ある意味では最も使い古されているというような言葉やフレーズすらもビーバーがありったけの熱量を込めて歌うことによって上滑りすることない、オンリーワンなものとして伝わってくる。これはきっと最初のメジャー期に歌ってもここまで説得力を持たなかっただろう。「18年目の新人」と今でも言えるくらいにあらゆることを経験して乗り越えてきたこの4人だからこそそう感じさせてくれるのだ。
さらにはすぐさま柳沢と上杉がコーラスを歌い始め、渋谷が観客は歌えなくても心でその思いを、声を伝えろとばかりにジェスチャーするのはホールツアー初日の松戸で久しぶりに演奏された時に会場のたくさんの観客が涙を流していた「秘密」。それはコーラスがあってこそ成り立つこの曲は観客が歌えるようになるまで封印していたとも言えるのだが、それがなくてもこの曲の力をしっかり伝えることができると思えたからこそこうして解禁されたのだと思うし、この天井が高い会場の4階席や3階席の最上段からステージ目掛けて降ってくるような人間のパワーやエネルギーのようなものは合唱が起きていた時と何ら変わらないようにすら感じた。それはつまり、再び合唱することができるようになった時にはかつてよりもさらに圧倒的な景色を作れるようになるということだ。それはきっともうすぐそこにまで来ていると思う。
そしてホールツアーではオブジェなども使ってコンセプチュアルな演出を作り出していた「東京」もこの日はストレートなバンドサウンドを押し出したものになっている。だからこそ
「愛されていて欲しい人がいる
なんて贅沢な人生だ」
というこの曲を、ビーバーの生き様を象徴するような歌詞がスッと入り込んでくる。すでに「東京流星群」という東京の曲を持つこの東京で生きてきたバンドが歌う「東京」はそこまで東京の情景を歌っている曲じゃない。(強いて言うなら1コーラス目のAメロくらいか)
だからあまり他のアーティストが生み出してきた、それぞれの角度や人生から歌った「東京」というタイトルらしからぬ曲ではあるけれど、それは東京で生きてきたからバンドだからこそ自分たちの本質や生き様を生まれ育った「東京」という場所に重ねたんだと思う。かつて某SNS上に「「東京」というタイトルの曲は名曲が多い」という語り場があったが、今もそれがあったなら間違いなくそこに並ぶべき名曲であるし、そんな曲をこうしてライブでたくさんの同じ思いを持った人たちと一緒に聴いていられるというのは、なんて贅沢な人生だと思う。
そんなライブもいよいよクライマックスへ。渋谷はそれを感じさせるように、
「夢や希望を持っている人は凄いと思います。応援してます。でも夢や希望を持ってない、それが見つからない人も同じように応援してるし、それでいいと思ってます。夢や希望を過大評価しないでいたい。そういうものを持ってない人も置いていかないで手を伸ばしてるんで、ついていきたいなと思ったらこれからもついてきてください」
と言った。それを聞いて、自分の夢や希望ってなんだろうかと思った。こうしてライブに行くことだとは思っているけれど、それは自分がどうこうしているわけじゃなくて、ただチケットを買って見に来ているだけだ。そう考えたら高校生くらいの時からもう自分には夢や希望は存在していなかったのかもしれないし、そんな自分のような人間を「置いていかない」と言ってくれるバンドだからこそここまで惹かれるようになったんだと思うし、きっとこの日この会場にいた人でもこの言葉で同じように救われた人はたくさんいるはずだ。いろんなアーティストを見てきたけれど、こんなことを言ってくれるバンドは他にいなかったから。
そんな言葉に感動しっぱなしの中で観客が両手を高く掲げる中で演奏された「青い春」がまさに渋谷の言葉を音で示しているというのは、この曲が大層な夢や希望を歌うわけではなくて、普遍的な幸せを歌う曲だからだ。その歌詞を渋谷とともに歌っていた柳沢と上杉がこの曲では花道の先に駆け出してその先で演奏する。二人とも正面だけじゃなく、位置を入れ替わりながら左右の観客の姿もしっかり視界に捉えようとする。ギリギリまで花道で間奏のギターソロを弾いていた柳沢がダッシュでマイクスタンドまで戻ろうとする様を
「間に合う?(笑)」
と言っていた渋谷も実に面白い。泣いてしまうくらいに感動するような言葉や曲もたくさんあるけれど、それ以上にやっぱりビーバーのライブは「楽しい」を感じさせてくれるものだということを最後に実感させてくれる。
そんなライブの最後に演奏されたのは、曲中ずっとサビが続くような構成であるだけに観客の腕が1曲通して上がりっぱなしの「最前線」で、炸裂音の特効とともに紙吹雪がステージから舞いまくる。それはこの曲で歌われているようにひたすら最前線を走り続けるこのバンドの生き様を、そしてこの日まで生き抜いてきた我々をも祝福するかのようだった。シンプル極まりない歌詞であるだけに、我々が歌えるようになってもまたこうしてこの曲を最後に演奏して大合唱したいと思うとともに、これからも最前線を駆け抜けていくビーバーを最前線で見ていたいと思っていた。
アンコールでは渋谷が髪を結いて登場。こうした姿だけでも観客を驚かせ、喜ばせるあたりはさすがロックスターであり、その見た目は実にセクシーであるが、その姿のままですぐさま演奏されたのは「東京」のハイライト的な曲と言える「ロマン」。そう感じるのはこの日も渋谷の歌唱がこのバンドの意思やスタンスそのものだと思うくらいの熱量で
「一緒に頑張ろうは なんか違うと ずっと思っている
親愛なるあなたへ 心を込めて 頑張れ」
と歌われているからだ。
松戸で聴いた時も書いたことだが、一緒に頑張ろうと言っても直接的に我々の日々の生活での苦難や苦労をバンドが助けてくれるわけではないし、それは逆もまた然りだ。我々はバンドの活動を直接的に手伝ったりすることはできない。だから頑張るベクトルや方法は全く違う。だからこそこの曲の
「それぞれに頑張って それぞれに頑張って
それぞれに頑張って また会おう
それぞれに頑張って それぞれに頑張って
それぞれに頑張って また笑おう」
というサビのフレーズが我々の明日以降の生活に力を与えてくれる。ビーバーはビーバーで頑張っている。我々は我々で頑張る。そうすればまたすぐに会える時が来る。笑い合える時が来る。そう感じさせてくれるSUPER BEAVERはやはり人生を歌うバンドだ。
アウトロで先に渋谷がステージから去ると、最後に残った藤原が自分の腕などを全て消毒してからスティックを客席に投げ込み、ありったけの投げキスを放ってからステージを去って行った。それは渋谷に「かわい子ちゃん」と言われる所以が少しわかったような気がした。
この有明アリーナで2days、各地のアリーナでも同様に2days。こんな常にツアーファイナルみたいなライブをやっていたらすぐに燃え尽きてしまいそうな感じすらする。でもメンバーが言っていた通りに2週間ライブがなかっただけで違和感を感じてしまうような体質になっている。
それは我々がこうしてライブを見ることで生きている実感を得られているように、メンバーたちもライブをすることで生きている実感を得られているからだろうし、毎回ここまでのライブをやらないともう納得できないんだろうと思う。そうした生き様全てが曲になっている、人間=音楽というバンドだからこそ、今はもう斜に構えるよりもこれだけ真っ直ぐでひたむきな方が圧倒的にカッコいいし、自分もそういう人間になりたいとすら思える。これからもそうして生きる指針であって欲しいから、それぞれに頑張ってまた会おう。
1.東京流星群
2.スペシャル
3.証明
4.ラブソング
5.突破口
6.VS
7.ひたむき
8.名前を呼ぶよ
9.未来の話をしよう
10.人として
11.Your Song
12.美しい日
13.アイラヴユー
14.秘密
15.東京
16.青い春
17.最前線
encore
18.ロマン
そんなワンマンツアーはアリーナ編に突入しており、すでに関東でも横浜アリーナで2daysを行なっているが、アルバムタイトルでもある東京でのアリーナはオープンしたばかりの有明アリーナでの2daysでこの日は初日となる。
初めて訪れる有明アリーナはどこの駅からも微妙に遠いという、強いて言うなら豊洲PITから割と近めの海沿いにあるキレイな新しいアリーナ会場であり、中に入ってもよくわからない構造を経て客席に入るとその大きさはぴあアリーナを彷彿とさせる。
18時を少し過ぎたあたりでBGMが少しずつ大きくなると場内がゆっくり暗転し、暗闇の中で藤原広明(ドラム)のシルエットが見え、ドラムを叩き始めるのだが、そこにはギターとベースの音も重なっているように聞こえてくる。でもドラムセット前に柳沢亮太(ギター)と上杉研太(ベース)の姿はなく、2人はどこに?と思っていたらアリーナ規模だからこそのステージ両サイドに伸びた通路の先の台の上に立って音を鳴らしている。そこにはマイクスタンドも設置されているだけに2人は定位置が2つあるということである。
その3人がオープニングセッション的に音を鳴らす中で渋谷龍太(ボーカル)がステージに現れると、渋谷はステージ前に伸びた花道の先へと歩き出していく。その先にもやはりマイクスタンドがすでに用意してあり、そのマイクに向かって渋谷が
「レペゼンジャパニーズポップミュージック、SUPER BEAVERです」
と挨拶すると、柳沢がギターを鳴らし始めたのは「東京流星群」。これは東京のアリーナだからという選曲なのかはわからないが、ステージ背面には演奏する4人の姿と同時にまさに流星というような星空の電飾、さらには花道の通路の上からは巨大なミラーボールも降りてきてそこに反射する輝きが会場を照らす。我々は声を出して歌うことはできないがそれでも渋谷はマイクを向けるような仕草を見せ、柳沢と上杉は我々の分まで思いっきり声を張り上げてくれているのがよくわかる。行った人から「音が良くない」と聞いていた会場であるが、特段そんな風に感じないのはすでにアリーナライブでの経験も豊富なビーバーの音作りによるものか、あるいはそのビーバーのボーカル、ギター、ベース、ドラムが一つずつというシンプル極まりないサウンドゆえか。いずれにせよかなり高さのある客席の最上段までしっかり、まっすぐに全ての音が届いていたはずだ。
その「東京流星群」の段階で全員と言っていいくらいの腕が上がっていたのだが、渋谷が花道からステージに戻って演奏された、メンバーの演奏が一気に強さと激しさを増す最新作収録の「スペシャル」という全くリリース時期が異なる楽曲でも当然のように客席全体で腕が上がり、完全にビーバーの全ての楽曲がここにいる人たちの、いやロックシーンの、それさえも超えた場所のアンセムになっていることを実感する。実際に中学生くらいの若い人や、それくらいの子供がいるかのような年齢の方もたくさんいただけに、タイアップや特集番組など様々な要素が重なって今のビーバーが全世代対応型のロックバンドになっていることがわかる。
「またひとつ歳を重ねて またひとつ意味を宿して
楽しくありたいと願うと 「誰かのため」が増える 人間冥利」
という絶大なインパクトを持つサビのフレーズは渋谷がライブのMCで口にした「人間冥利」という単語を柳沢が歌詞に使おうと思ったということがインタビューで語られていたけれど、このバンドの歌詞は作詞家の柳沢だけの思考ではなくて渋谷のものでもあり、誰よりも大きな声でコーラスする上杉のものでもあり、マイクを通さずとも歌いながらドラムを叩いている藤原のものでもある。だからこそ綺麗事だと思われたり、青臭く感じてしまいそうな歌詞にも絶大な説得力が宿っている。それはメンバー全員が共通して心から思っていることを歌詞にしていて、それを歌っているからである。
そんなこのバンドのスタンスやスタイルがより決定的になったなと自分が感じたのは次に演奏された「証明」がリリースされた時だった。もうそこまで毎回ライブで演奏されるような曲ではなくなってきたけれど、自身の前にある台の上に乗って歌う渋谷のボーカルの中で本当に伝えたいフレーズの意味を増強するように
「一人」
「産まれて死ぬまで一人なのは 誰も独りきりではないという」
のフレーズだけに重ねる柳沢と上杉のコーラスという足し算の妙と、
「あなたの目に映る顔を見て 僕の知らない僕を知った」
という、これまでも日本の様々な楽曲の中で歌われてきたことをビーバーならではの言葉で歌詞にしたサビの締め。この曲が、それまでは少しストレート過ぎて普通のバンドだと何回かライブを見て感じていた自分のビーバーに対するイメージを変えた。普通だと感じたからこそそれが今や普遍になっている。それをこの景色が示しているし、普通なんて今では1ミリも感じないくらいにビーバーはビーバーでないとできない、成立しないことをやっているバンドだと思う。
「アリーナ、ホール、ライブハウス。場所がどこだってあなたのために鳴らしてます。あなたと一緒に音楽をやりにきました、SUPER BEAVERです。一緒に音楽やってくれますか?一緒に最高の日を作ってくれますか?」
と煽るようにして観客の拍手や高く掲げる腕を引き出すと、そんな愛すべき存在である「あなた」に向けて歌われたのは軽快なリズムとサウンドによる「ラブソング」で、渋谷も柳沢も上杉も軽やかに踊るようにしながら演奏するのであるが、ここまでのセトリを見ても「東京」の収録曲を演出も含めてしっかりやるという内容だったホールツアーの時とは全く違う、「東京」をリリースした年ではあるけれど、それも踏まえてバンドの一つの集大成というか、アリーナで映えるべき曲を選んできたという意図が感じられる。この曲もステージが広いからこそ演奏されたと思われるものだ。
続け様に演奏された「突破口」ではステージ上にいるカメラマンがメンバーの演奏している姿をアップでスクリーンに映すのであるが、上杉も渋谷も唇がカメラの画面についてしまいそうなほどに接近している。それがどんなにカッコよくてもどこか可愛らしさを感じさせるものになっているというのはスーパーでありながらもビーバーであるというバンド名が示す通りである。
その「突破口」でバンドのサウンドはさらに力強さを増していくのだが、「東京」収録曲でそれを感じさせるのが「VS」であり、スクリーンに映るメンバーや楽器の輪郭を緑色の線で囲うというエフェクトがリアルタイムで施されており、それもまたこうした巨大なスクリーンがあるアリーナだからこそ映えるものであるし、演奏するメンバーの前では火柱が上がり、いくつものレーザーが飛び交いまくる。アリーナに立つべき歌唱と演奏と楽曲を持ったバンドがそうした場所にふさわしい演出をも得てアリーナを制圧しているということがよくわかる光景である。
しかしそんなこのアリーナはまだできたばかりということで構造などに馴染みがないのもあるが、渋谷は
「すごい不思議な会場なんだよここ。そこはアリーナじゃん?その上の席が2階で。3階がこのステージ正面の客席なんだけど、2階の上の席は4階になってる。3階と4階の1番上の高さが同じっていう(笑)」
という、この会場に足を踏み入れた人ならば誰もが納得するであろう会場構造の説明をし、そうした複雑な構造であってもしっかり
「アリーナ!2階!3階!4階!」
と呼びかけるライブにすることを誓う。そうしてその席にいる「あなた」と一緒にライブを作り、この日を最高なものにすることも。
そんなビーバーの最新曲である「ひたむき」が早くもこの中盤で演奏されるのだが、アルバムが出たばかりなのに早くも新曲がリリースされたということがホールからアリーナへという会場の変化とライブの選曲の変化を示しているのかもしれない。「僕のヒーローアカデミア」のオープニングテーマであり、その始まりを鳴らす柳沢のギターも曲のタイトルや歌詞やテーマもビーバーそのものという曲だ。スクリーンには疾走感を煽るようなイメージ的な映像とともに
「いつだって今日が人生のピーク 超えていけ」
というこのバンドが自分たちの姿で自分たちの人生のピークを更新し、その音で我々の人生のピークを更新してくれるフレーズが駆け抜けるように映し出されていく。
敵を倒すヒーローではなくて、誰かを救うヒーローとそれに憧れる少年少女というヒロアカの物語はビーバーと我々の関係性そのもののようだ。「ひたむき」というビーバーというバンドを一言で言い当てるようなフレーズも、これほど全てが合致したタイアップはないし、凄いのは全く寄せていないでそう感じさせるという点である。ただ自分たちの本質を歌った曲がアニメに最もふさわしいものになった。アニメでは流れない2コーラス目のコーラスパートで観客全員が両手を高く掲げていたが、次にこの曲をライブで聴く時にはこのコーラスをみんなで歌えたらいいなと思うし、メンバーもその想いを間違いなく込めているはずである。
さらには夜空の下で演奏しているかのように場内が薄暗くなった中での「名前を呼ぶよ」と、ビーバーの名前や存在を一気に知らしめたキラーチューンが続く。この曲は何度ライブで聴いても
「名前を呼んでよ 会いに行くよ 命の意味だ 僕らの意味だ」
と歌っている通りにビーバーがこうして我々に会いにきてくれて、全国の至る場所でそれを繰り返して生きているんだよなと思う。渋谷のボーカルに重なるメンバーのコーラスからもその思いが感じられるし、そのコーラスをしている時の表情が本当に100%の思いを込めて歌っているものである。
そんな思いは
「ライブやりすぎじゃない?って言われたりもするけど、はるか先のライブ予定が決まっていて、あなたが会いに来てくれるのを決めてくれるっていうのは生きているからできることで。今日だけじゃなくて明日もその先も」
という言葉に変換されるのだが、そんな未来にライブでまた会えるという約束があることが幸せに感じられるのは「未来の話をしよう」という曲に繋がっていくから。
「声も出ないほど 悲しかったこと
無理やり忘れなくていいんだよ
二度と来ない日を 心から愛して
そして未来の話をしよう」
というサビの歌詞がこの日のライブのことを、これから先に控えているビーバーを見れる日のことをより愛おしいものとして感じさせてくれる。
「このコロナ禍の中を生き抜いて、今日ライブに来るっていう選択をした、あなた自身に拍手!
150人くらいのライブハウスすら全然埋まらない時期が長かったから、こうしてアリーナにいっぱいの人が来てくれるっていうのが本当に感無量です。でもどんなにたくさんの人がいたって、あなたに歌ってる。あなたが聴いてくれなきゃ、一緒にライブをやってくれなきゃ意味がない」
というバンドのスタンスというかもはや生き様がそのまま曲になっているのはもちろん「人として」であり、スクリーンにはやはりこの曲の歌詞が映し出されることによってその曲が持つメッセージがより沁みてくる。それは演奏しているメンバーの表情や演奏している姿に宿る激情と言ってもいいものから感じられるかもしれないが、ビーバーの真っ直ぐさやひたむきさを見ていると本当に、人としてカッコよく生きていたいと思えるのだ。
そんなバラード曲と言っていいような流れは今からはるか昔、もうリリースされてから10年も経つ「未来の始めかた」収録の「Your Song」へと続く。都内の高速道路とその周りの夜景をレンズに雨が滴るカメラが映しているかのような映像とボーカルというか歌とメロディを際立たせるような、だからこそ支えるようにさりげない音量で演奏されるバンドサウンドは今こそこの曲の真価を発揮できるパフォーマンスをバンドができるようになったことを示している。少し体を揺らしながら聴くようなサウンドが実に心地良い。
そんな中でせっかくのアリーナワンマンということでメンバーそれぞれのMCも挟まれるのであるが、上杉は2週間ライブがなかったことによってまるで1年くらいライブをしていなかったように感じるというライブジャンキーっぷりを口にするのだが、藤原は
「言うことなんて何もないよ!最高!まだまだ続くよ〜!」
と言って柳沢にパスするのであるが柳沢はどんなテンションでMCを始めればいいかを迷ってしまった結果、藤原の「まだまだ続くよ〜!」からMCをやり直すという形に。やはり上杉同様に2週間ライブがなかったというのはかなり空いた感覚になるらしいのだが、個人的には実に共感できるものである。
そして渋谷は
「バンドマンっていうのは別にすごいわけじゃない。バンドはある一つの考えとかを提案したり提示したりすることはできるけど、それに賛同してくれたり、広めてくれるあなたがいないと意味がない。だからあなたに歌ってる。これからも頼ってもらいたいし、頼ることもあると思う。人らしく持ちつ持たれつでいきましょう!」
と口にして、観客の両腕を頭の上に高く挙げさせ、その両手をクラップさせる。それはもちろん「美しい日」の始まりの合図なのだが、渋谷が花道へ駆け出してあらゆる角度の客席を見渡すと、曲中の随所で全員の手拍子が起こっている。その光景を見ていると渋谷の「バンドマンの提案を広げていくのがあなた」というのは本当にその通りだなと思う。観客が5人とか10人しかいなかったらこんなに感動する光景は生まれ得ないし、コロナ禍という音楽が、ライブが不要不急と言われてきたことを経てきたからこそ、
「誰かにとって「たかがそれくらい」の ありふれた歓びでも
嬉しいと思えたら 特別じゃない今日はもうきっと
美しい 美しい日なんだよなあ」
という歌詞が本当に沁みる。そのことを証明してきたビーバーのこの3年近くだったんじゃないかと思うほどに。そしてやっぱりこの日は美しい日だったんだよなと思えるのだ。
渋谷はそのまま花道の通路の上で、
「バンドマンが本気で言う「愛してる」を聞いたことがあるか!?」
と言うと、
「愛してる」
というフレーズをこれが本気じゃなかったら何が本気なのかというくらいに熱量と感情を込めて歌い、「アイラヴユー」へと突入していく。
「今僕らに 必要なのは 想う気持ち 想像力
今あなたに 必要なのは 想われてる その実感」
という歌詞もまたコロナ禍を経たからこそ、そしてSUPER BEAVERのライブを見ているからこそ、より今の世界や社会を生きる人間において最も必要なものだと思えるし、サビでは渋谷だけではなくメンバーも本気を超えるような形相で歌声を重ねる。ある意味では最も使い古されているというような言葉やフレーズすらもビーバーがありったけの熱量を込めて歌うことによって上滑りすることない、オンリーワンなものとして伝わってくる。これはきっと最初のメジャー期に歌ってもここまで説得力を持たなかっただろう。「18年目の新人」と今でも言えるくらいにあらゆることを経験して乗り越えてきたこの4人だからこそそう感じさせてくれるのだ。
さらにはすぐさま柳沢と上杉がコーラスを歌い始め、渋谷が観客は歌えなくても心でその思いを、声を伝えろとばかりにジェスチャーするのはホールツアー初日の松戸で久しぶりに演奏された時に会場のたくさんの観客が涙を流していた「秘密」。それはコーラスがあってこそ成り立つこの曲は観客が歌えるようになるまで封印していたとも言えるのだが、それがなくてもこの曲の力をしっかり伝えることができると思えたからこそこうして解禁されたのだと思うし、この天井が高い会場の4階席や3階席の最上段からステージ目掛けて降ってくるような人間のパワーやエネルギーのようなものは合唱が起きていた時と何ら変わらないようにすら感じた。それはつまり、再び合唱することができるようになった時にはかつてよりもさらに圧倒的な景色を作れるようになるということだ。それはきっともうすぐそこにまで来ていると思う。
そしてホールツアーではオブジェなども使ってコンセプチュアルな演出を作り出していた「東京」もこの日はストレートなバンドサウンドを押し出したものになっている。だからこそ
「愛されていて欲しい人がいる
なんて贅沢な人生だ」
というこの曲を、ビーバーの生き様を象徴するような歌詞がスッと入り込んでくる。すでに「東京流星群」という東京の曲を持つこの東京で生きてきたバンドが歌う「東京」はそこまで東京の情景を歌っている曲じゃない。(強いて言うなら1コーラス目のAメロくらいか)
だからあまり他のアーティストが生み出してきた、それぞれの角度や人生から歌った「東京」というタイトルらしからぬ曲ではあるけれど、それは東京で生きてきたからバンドだからこそ自分たちの本質や生き様を生まれ育った「東京」という場所に重ねたんだと思う。かつて某SNS上に「「東京」というタイトルの曲は名曲が多い」という語り場があったが、今もそれがあったなら間違いなくそこに並ぶべき名曲であるし、そんな曲をこうしてライブでたくさんの同じ思いを持った人たちと一緒に聴いていられるというのは、なんて贅沢な人生だと思う。
そんなライブもいよいよクライマックスへ。渋谷はそれを感じさせるように、
「夢や希望を持っている人は凄いと思います。応援してます。でも夢や希望を持ってない、それが見つからない人も同じように応援してるし、それでいいと思ってます。夢や希望を過大評価しないでいたい。そういうものを持ってない人も置いていかないで手を伸ばしてるんで、ついていきたいなと思ったらこれからもついてきてください」
と言った。それを聞いて、自分の夢や希望ってなんだろうかと思った。こうしてライブに行くことだとは思っているけれど、それは自分がどうこうしているわけじゃなくて、ただチケットを買って見に来ているだけだ。そう考えたら高校生くらいの時からもう自分には夢や希望は存在していなかったのかもしれないし、そんな自分のような人間を「置いていかない」と言ってくれるバンドだからこそここまで惹かれるようになったんだと思うし、きっとこの日この会場にいた人でもこの言葉で同じように救われた人はたくさんいるはずだ。いろんなアーティストを見てきたけれど、こんなことを言ってくれるバンドは他にいなかったから。
そんな言葉に感動しっぱなしの中で観客が両手を高く掲げる中で演奏された「青い春」がまさに渋谷の言葉を音で示しているというのは、この曲が大層な夢や希望を歌うわけではなくて、普遍的な幸せを歌う曲だからだ。その歌詞を渋谷とともに歌っていた柳沢と上杉がこの曲では花道の先に駆け出してその先で演奏する。二人とも正面だけじゃなく、位置を入れ替わりながら左右の観客の姿もしっかり視界に捉えようとする。ギリギリまで花道で間奏のギターソロを弾いていた柳沢がダッシュでマイクスタンドまで戻ろうとする様を
「間に合う?(笑)」
と言っていた渋谷も実に面白い。泣いてしまうくらいに感動するような言葉や曲もたくさんあるけれど、それ以上にやっぱりビーバーのライブは「楽しい」を感じさせてくれるものだということを最後に実感させてくれる。
そんなライブの最後に演奏されたのは、曲中ずっとサビが続くような構成であるだけに観客の腕が1曲通して上がりっぱなしの「最前線」で、炸裂音の特効とともに紙吹雪がステージから舞いまくる。それはこの曲で歌われているようにひたすら最前線を走り続けるこのバンドの生き様を、そしてこの日まで生き抜いてきた我々をも祝福するかのようだった。シンプル極まりない歌詞であるだけに、我々が歌えるようになってもまたこうしてこの曲を最後に演奏して大合唱したいと思うとともに、これからも最前線を駆け抜けていくビーバーを最前線で見ていたいと思っていた。
アンコールでは渋谷が髪を結いて登場。こうした姿だけでも観客を驚かせ、喜ばせるあたりはさすがロックスターであり、その見た目は実にセクシーであるが、その姿のままですぐさま演奏されたのは「東京」のハイライト的な曲と言える「ロマン」。そう感じるのはこの日も渋谷の歌唱がこのバンドの意思やスタンスそのものだと思うくらいの熱量で
「一緒に頑張ろうは なんか違うと ずっと思っている
親愛なるあなたへ 心を込めて 頑張れ」
と歌われているからだ。
松戸で聴いた時も書いたことだが、一緒に頑張ろうと言っても直接的に我々の日々の生活での苦難や苦労をバンドが助けてくれるわけではないし、それは逆もまた然りだ。我々はバンドの活動を直接的に手伝ったりすることはできない。だから頑張るベクトルや方法は全く違う。だからこそこの曲の
「それぞれに頑張って それぞれに頑張って
それぞれに頑張って また会おう
それぞれに頑張って それぞれに頑張って
それぞれに頑張って また笑おう」
というサビのフレーズが我々の明日以降の生活に力を与えてくれる。ビーバーはビーバーで頑張っている。我々は我々で頑張る。そうすればまたすぐに会える時が来る。笑い合える時が来る。そう感じさせてくれるSUPER BEAVERはやはり人生を歌うバンドだ。
アウトロで先に渋谷がステージから去ると、最後に残った藤原が自分の腕などを全て消毒してからスティックを客席に投げ込み、ありったけの投げキスを放ってからステージを去って行った。それは渋谷に「かわい子ちゃん」と言われる所以が少しわかったような気がした。
この有明アリーナで2days、各地のアリーナでも同様に2days。こんな常にツアーファイナルみたいなライブをやっていたらすぐに燃え尽きてしまいそうな感じすらする。でもメンバーが言っていた通りに2週間ライブがなかっただけで違和感を感じてしまうような体質になっている。
それは我々がこうしてライブを見ることで生きている実感を得られているように、メンバーたちもライブをすることで生きている実感を得られているからだろうし、毎回ここまでのライブをやらないともう納得できないんだろうと思う。そうした生き様全てが曲になっている、人間=音楽というバンドだからこそ、今はもう斜に構えるよりもこれだけ真っ直ぐでひたむきな方が圧倒的にカッコいいし、自分もそういう人間になりたいとすら思える。これからもそうして生きる指針であって欲しいから、それぞれに頑張ってまた会おう。
1.東京流星群
2.スペシャル
3.証明
4.ラブソング
5.突破口
6.VS
7.ひたむき
8.名前を呼ぶよ
9.未来の話をしよう
10.人として
11.Your Song
12.美しい日
13.アイラヴユー
14.秘密
15.東京
16.青い春
17.最前線
encore
18.ロマン
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