Hello Sleepwalkers ONE MAN TOUR 「PROJECT」 @渋谷CLUB QUATTRO 12/11
- 2022/12/12
- 20:12
活動復帰してから初めて、つまりはコロナ禍とか飛び越えて今年の9月に久しぶりに見たHello Sleepwalkersの対バンライブは「やっぱりこれがハロスリのライブだ!」と思うには充分なものだった。
そのライブでも収録曲が披露されていた新作アルバム「PROJECT」もやはり「これがハロスリだ!」と思うには充分過ぎるものであり、そのアルバムのリリースツアー5本のうちのセミファイナルがこの日の渋谷CLUB QUATTROであり、2014年の2ndアルバム「Masked Monkey Awakening」のリリースツアーファイナルでもこの渋谷QUATTROでワンマンを見たことを思い出す。
立ち位置指定なしのスタンディングということでたくさんの人が階段下のフロアに詰めかけている中、18時を少し過ぎたあたりで場内が暗転すると観客の手拍子に招かれてメンバー5人がステージに登場すると、いきなりカウントダウンが始まって観客もメンバーと一緒に指を掲げると、シュンタロウ(ボーカル&ギター)とナルミ(ボーカル&ギター)のギターが絡み合うように鳴らされる「猿は木から何処へ落ちる」からスタートし、タソコ(ギター)も加わってのトリプルギターの音圧の凄まじさはこのバンドのものでしかないし、そのギターだけじゃなくてバンドの音の全てが耳を激しく刺激する爆音に聞こえるのは唯一の金髪が眩しいマコト(ベース)と、どんなに激しくて難しいリズムを叩いていても全く表情が変わることがないポーカーフェイスのユウキ(ドラム)というリズム隊の2人の強さがさらに増しているからであろう。
始まりからフルスロットルで爆裂するサウンドはそのまま最新アルバム「PROJECT」収録の、曲が始まったと思ったらあっという間に終わる、このバンドの中においてはショートチューンと言ってもいいような「最終兵器」へ。この曲でのナルミのボーカルもそうであるが、ツアーを経てきていることによって、まだ活動再開してからそこまでライブの本数を重ねているわけではないけれど完全にライブバンドとして仕上がってきているのがわかる。観客もまた過去曲はもちろん、しっかり「PROJECT」を聴き込んできていることがよくわかるくらいにサビでは無数の腕が上がる。
あまりに暑過ぎやしないだろうかと思うくらいに続け様に演奏されるのはタイトルに合わせたかのように真っ赤な照明がメンバーを照らす「Bloody Mary」であり、最初の「猿は〜」とともにこうしてクアトロで聴くことができて実に感慨深いのは、この曲たちが8年前のこの会場でのライブでは新しいアルバムの曲として演奏されていたからだ。そんな曲たちを、休止期間はあったけれども今でもメンバーが変わることがないまま、しかもさらに激しく熱くなった演奏で聴くことができている。当時は客席はめちゃくちゃ激しいモッシュがひたすら起きているみたいな状態だったし、そうなるのもやむを得ないくらいのサウンドであるが、今はやはり情勢的にそうした楽しみ方はできず、拳を上げたり飛び跳ねたりと、観客たちはその場で湧き上がる衝動を放出している。
トリプルギターというのは単に音の厚さを出せるだけではなく、それぞれが違うサウンドを鳴らすことによって普通のバンドなら表現できない音も鳴らせることである、ということを示すのはバンドのサウンドの幅を大きく広げた2014年のEP「Liquid Soul and Solid Blood」収録の「デジ・ボウイ」であり、轟音を鳴らすナルミ、テクニカルなフレーズを弾くシュンタロウ、他のバンドなら同期でまかなうようなブラス的なサウンドをギターで再現するタソコという役割分担はこのバンドでなければできないものであるし、曲作りの面でもキーパーソンとしてこうしたサウンドを積極的に取り入れてきたであろうタソコはもちろんのこと、シュンタロウとナルミもボーカリストでありながら卓越したギターの技術を持っていることがすぐにわかる。その技術はデビュー時から飛び抜けていたが、それがさらに極まってきている感すらある。
そんな飛ばしっぷりであるだけにシュンタロウはすでにシャツが汗でびっしょりになっており、
「暑くないですか?ステージ上はすでにサウナ状態です」
と話し始めるのだが、もちろん客席も全然動いたりモッシュをしたりは全くしなくてもめちゃくちゃ暑い。それは冬だから冷房をつけてなくて…というものではなくてバンドと観客たちの熱量があまりに熱過ぎてそう感じるようになっているのだ。
「我々は「PROJECT」という新しいアルバムを出したんですが、皆さん聴いてくれましたか?(客席から大きく長い拍手が起こる)
めちゃくちゃ良いよね?俺もめちゃくちゃ聴いてる。サブスクの「今年1番聴いた曲」みたいなやつあるじゃん?俺の1位は「流浪奇譚」だった(笑)」
と自分で自分の曲をサブスクで聴きまくっていることを明かすとナルミから
「みんなより聴いてるんじゃない?(笑)」
と突っ込まれる。シュンタロウがかなりの再生回数を稼いでいるのは間違いないだろう。
そんな「PROJECT」のタイトル曲であるのが「プロジェクト」であり、激しいサウンドの中にも観客が手拍子で参加できる部分があったりするのであるが、9月の対バンライブで聴いた時よりもやはりさらにライブでの演奏が仕上がっているというか極まっている。その現代社会への皮肉というか警鐘のような、今までもハロスリが綴ってきた内容の歌詞もさらに鋭さを増しているのだが、そんな「プロジェクト」から続く「アキレスと亀」ではイントロからシュンタロウとタソコのツインタッピングギターが炸裂しまくる。そのテクニカルかつ激情を乗せた演奏が観客をさらに熱くしてくれるのであるが、もう演奏が上手すぎるが故に対バン時にこのバンドの曲をカバーしていたユアネスもまた演奏技術が本当に高いバンドなんだなということがよくわかる。テクニカル過ぎるとひたすら曲を再現する方に向かってしまい、ライブでの熱が感じられなくなるようなこともたまにあるのだが、このバンドは1ミリもそんなことはない。全てがライブの熱さに繋がっている。
しかしそんな空気が少し変わるのは「PROJECT」収録の「生活RHYTHM」であり、デジタルサウンドも取り入れてややドープに始まったかと思ったらギターロック化し、さらにはシュンタロウとナルミの掛け合いによる高速ラップに展開して、
「送料手数料全てコミコミでどぉーん!!!
99,800円」
というフレーズに着地するのだが、シュンタロウのその後の驚き過ぎた人のような声での
「99,800円」
というリフレインは音源を聴いている時は思わず笑ってしまうようなものであり、それも含めて「この曲ライブでどうやるの?」と思っていた曲であるのだが、そんな曲がしっかり再現するだけではない、このバンド、この曲ならではのミクスチャー感とライブ感を感じさせるものになっているのはさすがであるが、デビューした時から「このバンドは1曲に何曲分のアイデアをぶち込んでいるんだろうか」と思っていた展開や構成の凄まじさまでもが今なお進化を遂げているということを感じさせてくれる曲である。
するとシュンタロウとナルミがギターを下ろしてハンドマイクになり、ナルミはタオルを振り回しながら歌うのはライブでおなじみの「Woker Ant」なのだが、この並びで演奏されることによって
「生活リズムがわけわからん
昼夜逆転で阿鼻叫喚」
と「生活RHYTHM」で歌われていたのはこの曲で歌われているように働きすぎだからなんじゃないかと思えてくるのだが、曲中にはナルミが
「今日は日曜日だから明日は月曜日だねー!みんな、働きたくないよねー!」
と首を縦にブンブン振るしかないことを叫び、そんな労働への憂鬱を振り払うかのように観客は飛び跳ねまくり、中にはこの曲のコーラスフレーズである
「もくもく働こう」
という歌詞が書かれたかつてのライブグッズであるタオルを掲げている人もいる。不在期間も長かったけれど、こうしてずっとこのバンドの帰還を待っていた人がいたからこそ、ナルミが
「大変素晴らしい!」
と締めに叫ぶくらいの盛り上がりが生まれていたのだ。この曲に関してはやっぱり次にライブで見る時にはみんなでコーラスフレーズを歌えるようになっていて欲しいと思うけれど。
するとナルミがさすがに暑過ぎて疲労を感じさせながらも笑顔で
「今回のツアーでいろんなとこを回ってて、毎回聞くようにしてるんだけど、Hello Sleepwalkersのライブに初めて来たっていう人はどれくらいいますか?…結構いる!はじめまして!ありがとう!」
と観客とコミュニケーションを図るのであるが、自分のように昔からライブに来ていたであろう人ももちろんいるだろうけれど、およそ半数くらいが初めて来たという人だった。それはやはり若い人ばかりだったのだが、この人たちはどうやってこのバンドに出会ったのだろうか。アニメのタイアップなどをやっていたのももうかなり前の話であるし、活動再開してからそこまで話題になるようなトピックがあったわけでもない。それでもこうして初めてライブに来た人がたくさんいたというのはこれから先もこのバンドがまだまだ広がっていくということ、このバンドのように1曲の中に何曲ものアイデアを融合させるようなアーティストも増えてきたことによってか、今の若い世代の人にもこのバンドの音楽がカッコいいものとして響くということを示している。なんなら客席にはラウドやパンクのイベントやフェスのTシャツを着た人がいたのも、普段そうしたライブに行っている人にも響いているということだ。
さらにナルミは今回のツアーのおすすめグッズとして新しいタオルを紹介したのだが、実は自分の持ってくるべきタオルを家に忘れてきただけに物販のをもらったという。最初はタソコのものを借りようとしていたらしいが、タソコはタオルを頭に巻くようにしてフル活用していただけに当然断ったらしい。ちなみにシュンタロウは「PROJECT」のアートワークを使ったラムネ缶がおすすめとのこと。実際にライブ後には物販に列ができていたためにこの宣伝は効果があったと言えるだろう。
そんなMCを挟んでの後半戦の幕開けを告げるのは「PROJECT」収録の「トワイライト」だったのだが、他の曲ほどのぶっ飛んだ展開がない曲であるだけにこのバンドのメロディの良さがストレートに感じられる曲である。強いて言えばこのバンドのギターロックの中に歌謡曲やダンスミュージックのスパイスをまぶしているかのような。なんならこの曲はシングルリリースしたり、なんらかのタイアップがついてもおかしくないくらいの名曲だと思っている。
そんな「トワイライト」はシュンタロウがメインボーカルであるが、その「トワイライト」よりも展開があるというか、サビにかけてどんどんドラマチックになっていくメロディーをナルミが歌い上げるのは「或る星とモノローグ」であるのだが、どちらかというと歌モノ的なイメージが強かった音源以上にライブ映えするロックさを持つようになっている。後半戦が始まる前に
「ここからぶっ飛ばしていく」
とシュンタロウは宣言していたが、そのぶっ飛ばしていく流れの中にこの曲が入っている意味がライブで聴くことによってよくわかる。
さらにトリプルギターのサウンドがイントロから性急に絡み合い、Aメロ、Bメロでのシュンタロウの歌唱からサビではナルミにスイッチする「新世界」は同タイトルのアルバムの始まりを告げる曲であるだけにまたここからライブが始まっていくかのようにすら感じられるのだが、いろんなアーティストがテーマにしてきた「新世界」はやはりどこかONE PIECE的なものが多かったが、これまでにも宇宙や惑星(それこそこの曲の前に演奏したのも「或る星とモノローグ」であるし)をテーマにした曲を生み出してきたバンドであり、そのギターサウンドがサイバー的な空気を感じさせるだけに、ガンダムや宇宙兄弟的な作品における新世界感を感じさせてくれる。アルバムリリース時に「またこれはとんでもない曲が生まれたな…」と思った衝撃を今もライブで感じられているというのは実に幸せなことである。それくらいに演奏の音の迫力と圧力が凄まじい。
さらにはタイトル通りに週末感やそれに伴うエマージェンシー感を轟音バンドサウンドで表すような「神話崩壊」とこの後半に来て本当にぶっ飛ぶしかないような激しい曲が続く。
「ナンマイダ ナンマイダ ナンマイダ アーメン アーメン」
という呪術的とすら言える早口ボーカル部分がより一層この曲の空気や雰囲気を煽る。そのフレーズとバンドサウンドが完璧に合致しているグルーヴこそがこの5人で続いてきた矜持のようにして鳴らされている。やっぱりこのバンドはスゲェな…と思ってしまうし、きっとコロナ禍じゃなかったら今も客席では激しいモッシュが起きたりしていたんだろうなと思うくらいの衝動を呼び覚ます。
そしてライブならではのメンバーが音を繋げるようなアレンジからシュンタロウが今年1番聴いた楽曲である「流浪奇譚」へ。この曲もまたシュンタロウからナルミへのボーカルのスイッチが声質の違う男女ツインボーカルとしてのキャッチーさを最大限に感じさせ、タソコだけではなくマコトまでもステージ前に出てくるという昂りっぷりを見せてくれるのだが、そんな熱い演奏が展開された間奏明けのCメロでシュンタロウが1フレーズ早くボーカルを歌い始めてしまうという場面も。曲を止めることなくそのまま歌い直したのだが、常に完璧なライブをやっているイメージが強いハロスリでもこうしたことがあるんだなと思っていたらナルミはそのシュンタロウを見てめちゃくちゃ笑っていた。
そんなシュンタロウは
「なかなか俺たちはメンバー全員が素直に「ありがとう」とかって言えるようなタイプの人間じゃない。友達もそんなに多くないし。でも本当に来てくれてありがとうって思ってるし、その思いを込めた曲を最後にやります」
と観客への思いを口にして、「PROJECT」の最後に収録されている「終止記号の先へ」を演奏する。そのタイトルからして実にハロスリらしいものであるが、最後を締めるにふさわしいスケール感でもって
「まだメロディーは続くのさ 終止記号の先へと」
というフレーズは止まった時期もあったけれども、これからもハロスリは止まらずに続いていくという決意として響く。見れなかった、会えなかった期間も長かったけれど、きっとこれからはそんな思いをすることなくこのバンドに向き合い続けていけるはずだ。
アンコールで再びメンバーが登場すると、ナルミの号令によって客席を背にしての写真撮影。ツアー各地で撮影時の言葉は変えているらしいが、逆に何にもないようなこの東京は「スカイツリー」に落ち着いて撮影をすると改めてこの先でのライブでの再会を約束すると、会場をデジタルサウンドが覆い尽くす「電脳の海」へ。
この曲は活動再開してから最初にリリースされた昨年のアルバム「夢遊ノ果テヨリ」収録曲であり、自分はまだその収録曲のほとんどをライブで聴けていないだけに実に嬉しい選曲であるのだが、休止前にもEDM系のフェスにシュンタロウとナルミがボーカルとして参加していたりという経験も確実に生きているダンストラックと言える。それはハンドマイクで歌うシュンタロウがタソコにマイクを向けたり、マコトがタソコの位置まで行ってそちらのマイクでコーラスをしたり、さらには観客が全員飛び跳ねまくっているという景色からも伝わってくる。MVが作られている曲ではあるが、アニメのタイアップになっていたりというわけでもない。そんなアルバムの中に収録されている1曲でここまでの盛り上がりと景色を作ることができる。ハロスリのライブバンドとしての凄まじさをここに来て改めて実感したし、この曲はこれからもライブで定番になって欲しい曲だ。
そしてシュンタロウが再びギターを手にする(アンコール開始前にギターをぶつけてしまう一幕もあったが)と、
「もう1曲」
と言って演奏されたのは間違いなくこのバンドの代表曲の一つだと言える「午夜の待ち合わせ」。
「チクタク 針はチクタクと」
というコーラスフレーズでは歓声を上げることはできなくても観客が腕を高く掲げ、それがサビでのバンドのサウンドのぶつかり合いによって爆発する。やっぱりこれだ、と思えるような凄まじいサウンドをそれぞれが鳴らして、それが衝突し合いながらも一つの曲として調和している。それはハロスリの音楽性を最も体現しているものと言ってもいいかもしれない。
曲も時間も他のアーティストのワンマンに比べたら短いかもしれないけれど、この熱さで2時間以上やったらメンバーも観客も倒れる人が続出するな、と思った。そこはモッシュがないのは違うけれど、8年前にここで見た時にもたしかにそう思っていたことだ。だから最後に並んでステージから去っていくメンバーの表情は完全にやり切ったものになっていた。
自分はよく記憶力だけはいいと言われることがある。確かにそうかもしれないと思うのは、8年前のこの会場で見たこのバンドのライブも今でも鮮明に覚えているからだ。覚えているからこそ、今のハロスリはメジャーデビューしてまだ2年くらいだった若手の頃の衝動や激しさを遥かに上回っている。それを鳴らす音によって示している。ただ帰ってきたんじゃなくて、強くなって帰ってきたのだ。だからこそ、このバンドを今こそかつてよりもたくさんの人に聞いてもらいたいし、ライブを見てもらいたいと思っている。マジでこんな音楽、ライブができるバンドは他にいないと改めて思ったから。
1.猿は木から何処へ落ちる
2.最終兵器
3.Bloody Mary
4.デジ・ボウイ
5.プロジェクト
6.アキレスと亀
7.生活RHYTHM
8.Worker Ant
9.トワイライト
10.或る星とモノローグ
11.新世界
12.神話崩壊
13.流浪奇譚
14.終止記号の先へ
encore
15.電脳の海
16.午夜の待ち合わせ
そのライブでも収録曲が披露されていた新作アルバム「PROJECT」もやはり「これがハロスリだ!」と思うには充分過ぎるものであり、そのアルバムのリリースツアー5本のうちのセミファイナルがこの日の渋谷CLUB QUATTROであり、2014年の2ndアルバム「Masked Monkey Awakening」のリリースツアーファイナルでもこの渋谷QUATTROでワンマンを見たことを思い出す。
立ち位置指定なしのスタンディングということでたくさんの人が階段下のフロアに詰めかけている中、18時を少し過ぎたあたりで場内が暗転すると観客の手拍子に招かれてメンバー5人がステージに登場すると、いきなりカウントダウンが始まって観客もメンバーと一緒に指を掲げると、シュンタロウ(ボーカル&ギター)とナルミ(ボーカル&ギター)のギターが絡み合うように鳴らされる「猿は木から何処へ落ちる」からスタートし、タソコ(ギター)も加わってのトリプルギターの音圧の凄まじさはこのバンドのものでしかないし、そのギターだけじゃなくてバンドの音の全てが耳を激しく刺激する爆音に聞こえるのは唯一の金髪が眩しいマコト(ベース)と、どんなに激しくて難しいリズムを叩いていても全く表情が変わることがないポーカーフェイスのユウキ(ドラム)というリズム隊の2人の強さがさらに増しているからであろう。
始まりからフルスロットルで爆裂するサウンドはそのまま最新アルバム「PROJECT」収録の、曲が始まったと思ったらあっという間に終わる、このバンドの中においてはショートチューンと言ってもいいような「最終兵器」へ。この曲でのナルミのボーカルもそうであるが、ツアーを経てきていることによって、まだ活動再開してからそこまでライブの本数を重ねているわけではないけれど完全にライブバンドとして仕上がってきているのがわかる。観客もまた過去曲はもちろん、しっかり「PROJECT」を聴き込んできていることがよくわかるくらいにサビでは無数の腕が上がる。
あまりに暑過ぎやしないだろうかと思うくらいに続け様に演奏されるのはタイトルに合わせたかのように真っ赤な照明がメンバーを照らす「Bloody Mary」であり、最初の「猿は〜」とともにこうしてクアトロで聴くことができて実に感慨深いのは、この曲たちが8年前のこの会場でのライブでは新しいアルバムの曲として演奏されていたからだ。そんな曲たちを、休止期間はあったけれども今でもメンバーが変わることがないまま、しかもさらに激しく熱くなった演奏で聴くことができている。当時は客席はめちゃくちゃ激しいモッシュがひたすら起きているみたいな状態だったし、そうなるのもやむを得ないくらいのサウンドであるが、今はやはり情勢的にそうした楽しみ方はできず、拳を上げたり飛び跳ねたりと、観客たちはその場で湧き上がる衝動を放出している。
トリプルギターというのは単に音の厚さを出せるだけではなく、それぞれが違うサウンドを鳴らすことによって普通のバンドなら表現できない音も鳴らせることである、ということを示すのはバンドのサウンドの幅を大きく広げた2014年のEP「Liquid Soul and Solid Blood」収録の「デジ・ボウイ」であり、轟音を鳴らすナルミ、テクニカルなフレーズを弾くシュンタロウ、他のバンドなら同期でまかなうようなブラス的なサウンドをギターで再現するタソコという役割分担はこのバンドでなければできないものであるし、曲作りの面でもキーパーソンとしてこうしたサウンドを積極的に取り入れてきたであろうタソコはもちろんのこと、シュンタロウとナルミもボーカリストでありながら卓越したギターの技術を持っていることがすぐにわかる。その技術はデビュー時から飛び抜けていたが、それがさらに極まってきている感すらある。
そんな飛ばしっぷりであるだけにシュンタロウはすでにシャツが汗でびっしょりになっており、
「暑くないですか?ステージ上はすでにサウナ状態です」
と話し始めるのだが、もちろん客席も全然動いたりモッシュをしたりは全くしなくてもめちゃくちゃ暑い。それは冬だから冷房をつけてなくて…というものではなくてバンドと観客たちの熱量があまりに熱過ぎてそう感じるようになっているのだ。
「我々は「PROJECT」という新しいアルバムを出したんですが、皆さん聴いてくれましたか?(客席から大きく長い拍手が起こる)
めちゃくちゃ良いよね?俺もめちゃくちゃ聴いてる。サブスクの「今年1番聴いた曲」みたいなやつあるじゃん?俺の1位は「流浪奇譚」だった(笑)」
と自分で自分の曲をサブスクで聴きまくっていることを明かすとナルミから
「みんなより聴いてるんじゃない?(笑)」
と突っ込まれる。シュンタロウがかなりの再生回数を稼いでいるのは間違いないだろう。
そんな「PROJECT」のタイトル曲であるのが「プロジェクト」であり、激しいサウンドの中にも観客が手拍子で参加できる部分があったりするのであるが、9月の対バンライブで聴いた時よりもやはりさらにライブでの演奏が仕上がっているというか極まっている。その現代社会への皮肉というか警鐘のような、今までもハロスリが綴ってきた内容の歌詞もさらに鋭さを増しているのだが、そんな「プロジェクト」から続く「アキレスと亀」ではイントロからシュンタロウとタソコのツインタッピングギターが炸裂しまくる。そのテクニカルかつ激情を乗せた演奏が観客をさらに熱くしてくれるのであるが、もう演奏が上手すぎるが故に対バン時にこのバンドの曲をカバーしていたユアネスもまた演奏技術が本当に高いバンドなんだなということがよくわかる。テクニカル過ぎるとひたすら曲を再現する方に向かってしまい、ライブでの熱が感じられなくなるようなこともたまにあるのだが、このバンドは1ミリもそんなことはない。全てがライブの熱さに繋がっている。
しかしそんな空気が少し変わるのは「PROJECT」収録の「生活RHYTHM」であり、デジタルサウンドも取り入れてややドープに始まったかと思ったらギターロック化し、さらにはシュンタロウとナルミの掛け合いによる高速ラップに展開して、
「送料手数料全てコミコミでどぉーん!!!
99,800円」
というフレーズに着地するのだが、シュンタロウのその後の驚き過ぎた人のような声での
「99,800円」
というリフレインは音源を聴いている時は思わず笑ってしまうようなものであり、それも含めて「この曲ライブでどうやるの?」と思っていた曲であるのだが、そんな曲がしっかり再現するだけではない、このバンド、この曲ならではのミクスチャー感とライブ感を感じさせるものになっているのはさすがであるが、デビューした時から「このバンドは1曲に何曲分のアイデアをぶち込んでいるんだろうか」と思っていた展開や構成の凄まじさまでもが今なお進化を遂げているということを感じさせてくれる曲である。
するとシュンタロウとナルミがギターを下ろしてハンドマイクになり、ナルミはタオルを振り回しながら歌うのはライブでおなじみの「Woker Ant」なのだが、この並びで演奏されることによって
「生活リズムがわけわからん
昼夜逆転で阿鼻叫喚」
と「生活RHYTHM」で歌われていたのはこの曲で歌われているように働きすぎだからなんじゃないかと思えてくるのだが、曲中にはナルミが
「今日は日曜日だから明日は月曜日だねー!みんな、働きたくないよねー!」
と首を縦にブンブン振るしかないことを叫び、そんな労働への憂鬱を振り払うかのように観客は飛び跳ねまくり、中にはこの曲のコーラスフレーズである
「もくもく働こう」
という歌詞が書かれたかつてのライブグッズであるタオルを掲げている人もいる。不在期間も長かったけれど、こうしてずっとこのバンドの帰還を待っていた人がいたからこそ、ナルミが
「大変素晴らしい!」
と締めに叫ぶくらいの盛り上がりが生まれていたのだ。この曲に関してはやっぱり次にライブで見る時にはみんなでコーラスフレーズを歌えるようになっていて欲しいと思うけれど。
するとナルミがさすがに暑過ぎて疲労を感じさせながらも笑顔で
「今回のツアーでいろんなとこを回ってて、毎回聞くようにしてるんだけど、Hello Sleepwalkersのライブに初めて来たっていう人はどれくらいいますか?…結構いる!はじめまして!ありがとう!」
と観客とコミュニケーションを図るのであるが、自分のように昔からライブに来ていたであろう人ももちろんいるだろうけれど、およそ半数くらいが初めて来たという人だった。それはやはり若い人ばかりだったのだが、この人たちはどうやってこのバンドに出会ったのだろうか。アニメのタイアップなどをやっていたのももうかなり前の話であるし、活動再開してからそこまで話題になるようなトピックがあったわけでもない。それでもこうして初めてライブに来た人がたくさんいたというのはこれから先もこのバンドがまだまだ広がっていくということ、このバンドのように1曲の中に何曲ものアイデアを融合させるようなアーティストも増えてきたことによってか、今の若い世代の人にもこのバンドの音楽がカッコいいものとして響くということを示している。なんなら客席にはラウドやパンクのイベントやフェスのTシャツを着た人がいたのも、普段そうしたライブに行っている人にも響いているということだ。
さらにナルミは今回のツアーのおすすめグッズとして新しいタオルを紹介したのだが、実は自分の持ってくるべきタオルを家に忘れてきただけに物販のをもらったという。最初はタソコのものを借りようとしていたらしいが、タソコはタオルを頭に巻くようにしてフル活用していただけに当然断ったらしい。ちなみにシュンタロウは「PROJECT」のアートワークを使ったラムネ缶がおすすめとのこと。実際にライブ後には物販に列ができていたためにこの宣伝は効果があったと言えるだろう。
そんなMCを挟んでの後半戦の幕開けを告げるのは「PROJECT」収録の「トワイライト」だったのだが、他の曲ほどのぶっ飛んだ展開がない曲であるだけにこのバンドのメロディの良さがストレートに感じられる曲である。強いて言えばこのバンドのギターロックの中に歌謡曲やダンスミュージックのスパイスをまぶしているかのような。なんならこの曲はシングルリリースしたり、なんらかのタイアップがついてもおかしくないくらいの名曲だと思っている。
そんな「トワイライト」はシュンタロウがメインボーカルであるが、その「トワイライト」よりも展開があるというか、サビにかけてどんどんドラマチックになっていくメロディーをナルミが歌い上げるのは「或る星とモノローグ」であるのだが、どちらかというと歌モノ的なイメージが強かった音源以上にライブ映えするロックさを持つようになっている。後半戦が始まる前に
「ここからぶっ飛ばしていく」
とシュンタロウは宣言していたが、そのぶっ飛ばしていく流れの中にこの曲が入っている意味がライブで聴くことによってよくわかる。
さらにトリプルギターのサウンドがイントロから性急に絡み合い、Aメロ、Bメロでのシュンタロウの歌唱からサビではナルミにスイッチする「新世界」は同タイトルのアルバムの始まりを告げる曲であるだけにまたここからライブが始まっていくかのようにすら感じられるのだが、いろんなアーティストがテーマにしてきた「新世界」はやはりどこかONE PIECE的なものが多かったが、これまでにも宇宙や惑星(それこそこの曲の前に演奏したのも「或る星とモノローグ」であるし)をテーマにした曲を生み出してきたバンドであり、そのギターサウンドがサイバー的な空気を感じさせるだけに、ガンダムや宇宙兄弟的な作品における新世界感を感じさせてくれる。アルバムリリース時に「またこれはとんでもない曲が生まれたな…」と思った衝撃を今もライブで感じられているというのは実に幸せなことである。それくらいに演奏の音の迫力と圧力が凄まじい。
さらにはタイトル通りに週末感やそれに伴うエマージェンシー感を轟音バンドサウンドで表すような「神話崩壊」とこの後半に来て本当にぶっ飛ぶしかないような激しい曲が続く。
「ナンマイダ ナンマイダ ナンマイダ アーメン アーメン」
という呪術的とすら言える早口ボーカル部分がより一層この曲の空気や雰囲気を煽る。そのフレーズとバンドサウンドが完璧に合致しているグルーヴこそがこの5人で続いてきた矜持のようにして鳴らされている。やっぱりこのバンドはスゲェな…と思ってしまうし、きっとコロナ禍じゃなかったら今も客席では激しいモッシュが起きたりしていたんだろうなと思うくらいの衝動を呼び覚ます。
そしてライブならではのメンバーが音を繋げるようなアレンジからシュンタロウが今年1番聴いた楽曲である「流浪奇譚」へ。この曲もまたシュンタロウからナルミへのボーカルのスイッチが声質の違う男女ツインボーカルとしてのキャッチーさを最大限に感じさせ、タソコだけではなくマコトまでもステージ前に出てくるという昂りっぷりを見せてくれるのだが、そんな熱い演奏が展開された間奏明けのCメロでシュンタロウが1フレーズ早くボーカルを歌い始めてしまうという場面も。曲を止めることなくそのまま歌い直したのだが、常に完璧なライブをやっているイメージが強いハロスリでもこうしたことがあるんだなと思っていたらナルミはそのシュンタロウを見てめちゃくちゃ笑っていた。
そんなシュンタロウは
「なかなか俺たちはメンバー全員が素直に「ありがとう」とかって言えるようなタイプの人間じゃない。友達もそんなに多くないし。でも本当に来てくれてありがとうって思ってるし、その思いを込めた曲を最後にやります」
と観客への思いを口にして、「PROJECT」の最後に収録されている「終止記号の先へ」を演奏する。そのタイトルからして実にハロスリらしいものであるが、最後を締めるにふさわしいスケール感でもって
「まだメロディーは続くのさ 終止記号の先へと」
というフレーズは止まった時期もあったけれども、これからもハロスリは止まらずに続いていくという決意として響く。見れなかった、会えなかった期間も長かったけれど、きっとこれからはそんな思いをすることなくこのバンドに向き合い続けていけるはずだ。
アンコールで再びメンバーが登場すると、ナルミの号令によって客席を背にしての写真撮影。ツアー各地で撮影時の言葉は変えているらしいが、逆に何にもないようなこの東京は「スカイツリー」に落ち着いて撮影をすると改めてこの先でのライブでの再会を約束すると、会場をデジタルサウンドが覆い尽くす「電脳の海」へ。
この曲は活動再開してから最初にリリースされた昨年のアルバム「夢遊ノ果テヨリ」収録曲であり、自分はまだその収録曲のほとんどをライブで聴けていないだけに実に嬉しい選曲であるのだが、休止前にもEDM系のフェスにシュンタロウとナルミがボーカルとして参加していたりという経験も確実に生きているダンストラックと言える。それはハンドマイクで歌うシュンタロウがタソコにマイクを向けたり、マコトがタソコの位置まで行ってそちらのマイクでコーラスをしたり、さらには観客が全員飛び跳ねまくっているという景色からも伝わってくる。MVが作られている曲ではあるが、アニメのタイアップになっていたりというわけでもない。そんなアルバムの中に収録されている1曲でここまでの盛り上がりと景色を作ることができる。ハロスリのライブバンドとしての凄まじさをここに来て改めて実感したし、この曲はこれからもライブで定番になって欲しい曲だ。
そしてシュンタロウが再びギターを手にする(アンコール開始前にギターをぶつけてしまう一幕もあったが)と、
「もう1曲」
と言って演奏されたのは間違いなくこのバンドの代表曲の一つだと言える「午夜の待ち合わせ」。
「チクタク 針はチクタクと」
というコーラスフレーズでは歓声を上げることはできなくても観客が腕を高く掲げ、それがサビでのバンドのサウンドのぶつかり合いによって爆発する。やっぱりこれだ、と思えるような凄まじいサウンドをそれぞれが鳴らして、それが衝突し合いながらも一つの曲として調和している。それはハロスリの音楽性を最も体現しているものと言ってもいいかもしれない。
曲も時間も他のアーティストのワンマンに比べたら短いかもしれないけれど、この熱さで2時間以上やったらメンバーも観客も倒れる人が続出するな、と思った。そこはモッシュがないのは違うけれど、8年前にここで見た時にもたしかにそう思っていたことだ。だから最後に並んでステージから去っていくメンバーの表情は完全にやり切ったものになっていた。
自分はよく記憶力だけはいいと言われることがある。確かにそうかもしれないと思うのは、8年前のこの会場で見たこのバンドのライブも今でも鮮明に覚えているからだ。覚えているからこそ、今のハロスリはメジャーデビューしてまだ2年くらいだった若手の頃の衝動や激しさを遥かに上回っている。それを鳴らす音によって示している。ただ帰ってきたんじゃなくて、強くなって帰ってきたのだ。だからこそ、このバンドを今こそかつてよりもたくさんの人に聞いてもらいたいし、ライブを見てもらいたいと思っている。マジでこんな音楽、ライブができるバンドは他にいないと改めて思ったから。
1.猿は木から何処へ落ちる
2.最終兵器
3.Bloody Mary
4.デジ・ボウイ
5.プロジェクト
6.アキレスと亀
7.生活RHYTHM
8.Worker Ant
9.トワイライト
10.或る星とモノローグ
11.新世界
12.神話崩壊
13.流浪奇譚
14.終止記号の先へ
encore
15.電脳の海
16.午夜の待ち合わせ