夏フェスなどでも収録曲を連発しまくるという新モードに突入していた[Alexandros]の新作アルバム「But wait. Cats?」のリリースツアーはもうアリーナツアーのファイナルである代々木体育館2daysの2日目になってしまった。それは夏に観に行くはずだったホールツアーの相模原が磯部寛之(ベース)のコロナウイルス感染によって延期になってしまったからであるが、それだけに久しぶりの[Alexandros]のライブである。
巨大な代々木体育館のアリーナには花道が作られているというのはかつて幕張メッセなどでもそうした作りでロックスターのなんたるかを見せつけてきた[Alexandros]ならではであるが、開演前にはメンバーが協賛のパナソニックの洗濯機を使っていることへのコメントの動画が映し出されたりしているのもまた面白い。白井眞輝(ギター)のバージョンはやはり飼っているネコ(そのネコをフィーチャーしたYouTubeもやっている)が可愛い。
平日にしては少し早めの18時30分を少し過ぎたところで軽快なブギー的なBGMが始まるとまだ暗転する前から手拍子が起こるというのは初日の前日も含めてこのツアーにすでに参加している人はこの曲がライブが始まる合図であることをわかっているのだろう。実際に「Burger Queen」のSEが鳴るとステージ背面のLEDスクリーンにはここまでのツアーの足跡的な写真が次々に映し出され、その執着地点がこの日のこの場所であることを感じさせる映像に続いて、ステージすぐ裏にいるメンバーの姿が映る。そこでは磯部が川上洋平(ボーカル&ギター)のシャツに付いているリボン的な部分を直してあげており、そんな姿に客席からは笑いも起きる中でメンバーはそのままステージへ。川上はサングラスをかけており、客席のあらゆる方向に向かって投げキスをする。その姿がこの日をどれだけ楽しみにしていたのかを伝えてくれる。
メンバーが楽器を手にすると、今年リリースされたアルバム「But wait. Cats?」の1曲目にしてアルバムリリース前からライブで演奏されてきたインスト曲「Aleatoric」でスタート。川上がソロ的なギターを弾きまくる中でスクリーンにはメンバーの名前が映し出されるという演出はまさにこれから始まる長編物語の導入であり主人公たちの紹介であるとも言える。
すると白井がギターを鳴らし始めたのは早くも演奏された「Adventure」。これまでにも数々のライブのハイライトを担ってきた曲がここで!?と思うけれど、ハンドマイクでステージを歩き回りながら歌い、おなじみのカメラ目線で歌ってからそのカメラを客席の方へ向けるというロックスター的なパフォーマンスの先にいる我々はこの2daysは声を出すことができる公演になっているために、これまでもアリトアラユル会場で響かせてきたコーラスを合唱することができるのだ。川上はマイクを客席に向け、下手側の通路にまで出て行く磯部も観客に「もっと!」と煽るように腕を動かす。そこには前回のツアーまでのような
「心の中で!」
という言葉は付随していない。白井もマイクに向かって歌ってはいるが、間違いなく本当に久しぶり(およそ3年ぶりくらい)に我々がこの曲のコーラスを歌っていて、その声がアリーナに響き渡っている。[Alexandros]はコロナ禍になって以降のライブでずっと
「次に会う時には皆さんの声が聞こえますように!」
と言ってきた。その時が自分にとってはこの日だった。
コロナ禍になってからアリーナクラスのアーティストとしていち早くZeppで有観客のライブを行い、それ以降もライブハウスだけではなくアリーナなどでライブをやり続けてきた3年近くのこのバンドのライブと活動。その全てがこの日に繋がっていたのだ。もうこのライブ開始10分、まだ2曲目にして涙が止まらなかったのはそうした日々のことが脳内にフラッシュバックしてきたからだ。ここまでのライブも楽しかったし、素晴らしかったけれど、やっぱりこうしてみんなで思いっきり歌う[Alexandros]のライブがなによりも楽しくて、本当に最高なものだったという感覚が一瞬で蘇ってきた。長かったけれど、こうしてこの日を迎えることができて本当に良かったと思った。こんなにカッコいいバンドと一緒に乗り越えることができたのだから。
そんなもうライブが終わったかのような感覚に襲われていると、そんな感傷を切り裂くようにして一気にサウンドがラウドになる「Baby's Alright」でただひたすらにカッコいいロックバンドとしての[Alexandros]の姿に。なんだかんだ言って俺たちがこうして音を鳴らせばそれだけで最強だろ?と言っているかのような演奏の逞しさと完成度はさすがツアーファイナルである。
川上がアコギに持ち替える間にリアド(ドラム)がビートを刻み、磯部が観客を煽ると「オイ!オイ!」という声が響くのだが、
「もっと行けるだろー!」
とさらに観客の声を大きくさせる。マスクこそしているがその声の響き渡りっぷりはコロナ禍になる前にこの曲を聴いていた時と全く変わらないように感じられるのは「Waitress, Waitress!」であり、最後のサビ前にも「オイ!」という声が上がり、観客が一斉に飛び跳ねる。この曲は到底合唱できるような曲ではないけれど、それでも声を出せるということによってその楽しさが声を出せなかった時よりも倍増している。その喜びを随所に感じることができる。
「日本代表に捧げます」
と川上が言って演奏されたのはサッカーアニメのテーマソングになった「無心拍数」であり、手拍子も含めてやはりそのスタジアムにふさわしいスケールのサウンドとコーラスフレーズも合唱という行為が実によく似合うものだ。やはりメンバーもワールドカップを見ていたのだろうし、そんな時期の近くにサッカーアニメの主題歌をやっていたというのはこのバンドはやっぱり持っているバンドである。ワールドカップを見ていてアニメやこの曲が浮かんだ人もいただろうから。
するとここで川上は
「我々の先輩の曲をやってもいいですか!」
と言ったので、先輩バンドのカバーなのは間違いないとは思ったが、その先輩はなんとガンズ&ローゼズというあまりに先輩すぎる先輩であり、そのガンズの代表曲である「Paradise City」が演奏されると、元よりハードロック大好きな白井のギターも含めて、ガンズのハードロックにドロス特有のUKロック感が加わっており、それが川上の滑らかな英語の発音も含めてドロスオリジナルと言ってもいいくらいのクオリティになっているのだが、LEDには拳銃の銃口にバラの花が刺さったイラストが映し出されるというのも自分たちの音楽の影響源への多大なるリスペクトの現れである。
そんなガンズのシンボルと入れ替わるようにLEDには巨大なアンプの写真が映し出される。そのアンプが粉々に爆破されて煙が漂うような映像になるのはそんな映像やタイトルとは裏腹に心地良い浮遊感を感じさせるようなサウンドの「クラッシュ」。それは歌い出しから途中まではキーもトーンも低い川上のボーカルがサビで一気に浮上していくような構成によるものでもあろうけれど、この日(このツアー全て?)のステージにメンバーのアンプが置かれていなかった(袖に置いてあって無線接続だろうか)のはこの曲の映像で爆破されたからという演出だったのだろうか。
川上が再びハンドマイクになると、煌めくような白井のギターの音による「あまりに素敵な夜だから」が演奏され、照明も一気に煌びやかに輝く中で川上は華麗なステップを踏みながら歌うのだが、
「もっと近くまで行っていいですか!」
と川上が言うと間奏部分ではここまでまだ使っていなかった花道へとなんとメンバー全員で歩き出していき、花道には少しコンパクトなドラムセットも浮上してきて、花道の先端のミニステージでのパフォーマンスになる。そこで歌う川上は踊りながらフェイクを連発するというあたり、完全にマイケル・ジャクソンになり切っている感すらあった。
その花道の先でハンドマイクを持った川上が
「今日は長くなりますからね。昨日は1時間くらい押したんだっけ?(笑)関係者席の皆さん、え?みたいな顔しないでください(笑)
普通のバンドだったらこういうミニステージではバラードをやるんでしょうけど、我々もやります(笑)クリスマスも近いし、っていうか冬の曲です」
と言って演奏されたのはもちろんこの肌寒さを感じざるを得ない時期にピッタリの「SNOW SOUND」なのだが、ステージ前後左右からは紙吹雪がまるで雪のように舞いまくる。アリーナ規模にしては映像以外はここまではかなりストイックなバンドサウンドで勝負するような内容になっていたが、やはりこうした演出によって一足早く雪が降っているのを都内で体感できているかのような。今年は雪が降るのだろうか、降るとしたらその景色を見ながらこの曲を聴きたいなとも思いつつ、コロナ禍になる前のアリーナツアーではこの曲のサビを丸々観客に歌わせて、あまりのキーの高さの合唱に川上は歌わせた本人でありながらも爆笑していたということがあったことを思い出した。この日はそれはなかったけれど、それがまたできる日がもう訪れている。ステージ上には姿は見えないが、間違いなくおなじみのサポートキーボーディストのROSEがどこかでリアルタイムで弾いているであろうキーボードのサウンドもこの曲のメロディの美しさには欠かせない要素だ。
曲が終わってもなお降り続く紙吹雪に驚きながらも、スタッフは瞬時に滑らないように花道に残っている紙吹雪を取り払っていたという完璧なメンバーへのサポートっぷりを見せていたのだが、
「次もこのままここでバラード曲をやります!」
と川上は言っているのに白井はフライングVに持ち替え、場内には同期のデジタルサウンドが流れる間にリアドと磯部はステージに戻り、磯部もまたフライングVに持ち替えている。もちろんそれはどこがバラードなんだというような「Kick & Spin」であり、花道のステージに残った川上は同じく残ってギターを弾く白井の足に腕を絡みつかせたりしている。なんとも妖艶な絡みっぷりであるが、この曲のサビ前で川上がマイクを客席に向けて観客が声を出すのも、
「Stay alright, stay alright」
のコーラスパートで川上が
「本気で声出せ!」
と煽って合唱が起きるのも、最強な[Alexandros]のライブが本当に戻ってきたんだなと実感できるものであり、その観客の声はライブが進むにつれてメンバーを呼ぶ声も含めて大きくなっていく。
しかし川上は
「皆さん、まだ硬いですね。もっと自由に、どーでもいいからってくらいに楽しみましょう」
と言うと、リズムに合わせて手拍子が起きる中で川上がモデルのような立ち姿で歌い、スクリーンには歌詞が映し出されていく「どーでもいいから」が演奏される。突き放したようなタイトルでありながらもどこか可愛らしさを含んでいるというあたりが実にこのバンドらしいし、それはカッコよさの中に可愛らしさも持ち合わせているこのバンドのメンバーらしさでもある。それは川上とメンバーの掛け合い的なボーカルとコーラスにも現れている。
そんな川上と磯部が向かい合うようにしてフレーズを乱射し合いまくり、それがLINEのトーク画面のようにスクリーンに映し出されて始まるという演出の時点ですでに驚いていた「Kaiju」は途中からは巨大なネコの怪獣が口から光線を吐き出して街を破壊するという、可愛くて退治できないだろうと思うような映像になるのであるが、サウンドも白井のギターが轟音を鳴らすのではなくて曲を構築するものになったりと、引き算されて削ぎ落とされたサウンドになっている。こうして既存の曲をライブでアレンジしまくってその日、そのライブ、そのツアーだけのものにするというのも[Alexandros]のライブの楽しみの一つであるが、今回のこの「Kaiju」はサウンドによって原曲のゴジラ時なイメージからこの日の映像のネコ的なものに変わっていた。それも含めてのアレンジだったのだろう。
そんな「Kaiju」の曲終わりで川上と白井が一旦ステージから去っていくと残った磯部が改めて観客が声を出せることの喜びを口にし、立ち上がって客席を眺めていたリアドとともにリズム隊のソロ演奏を展開する。高速で低音を刻む磯部と、最終的には拳でシンバルを鳴らしまくるパワーに溢れたリアド。この2人が今の[Alexandros]のライブ、サウンドの核であることを見せつけるようなソロ演奏である。
ギターを持ってステージに戻ってきた白井がオリエンタルなリフを引き始めたのは懐かしの「Wanna Get Out」であるが、リアドによるパワーとスピード感あふれるリズムによってこれまでに聴いてきたこの曲よりも疾走感を感じさせるようになっている。それはそのリズムによって川上の早口英語ボーカルもさらに速くなっているからなのだが、その川上は髪を後ろでまとめて結いているというセクシーな髪型に変貌している。その見た目でアウトロではリフに合わせてカンフー的なポーズを取ったりしているのも気合いが満ちていて曲に入り込んでいるからだろう。
リズムに合わせた手拍子とコーラスパートでの合唱をやはり疾走感あふれるバンドサウンドで生み出す「Claw」という流れは一瞬このツアーが何のツアーなのかを忘れてしまいそうになるが、手拍子が起こるBメロ部分ではスクリーンに歌詞が映し出されていき、「爪」という単語が強調されるように映るのもこの曲ならではだ。川上の歌唱もさらに力を振り絞るようなものになってきているというのは気力で肉体の限界のさらに先へ行こうとしているということがよくわかるのだが、こうした過去曲たちがコロナ禍前と同じように声を出して楽しめるということの幸せを実感することができる。
その激しい歌唱を見せていた川上がギターを持って中央のマイクスタンドの前に立つとスクリーンには水滴が水たまりの中に落ちていくような映像が映し出される。もうこの段階でピンときていた人も多いと思われるのはおそらく今はもう手に入らないであろう「Kill Me If You Can」のシングルカット盤収録(同作収録のPrimal Scream「Accelarator」のカバーも最高)の「Waterdrop」というレア曲にしながらファンの人気も高い曲。それはこのバンド屈指の切ないメロディと正統派UKロック的なサウンドが「Waterdrop」が人の涙のことのように捉えることができるからだ。それはこの日演奏されたことによって、コロナ禍になってからこの日に至るまでのメンバーや我々のものだと言えたかもしれない。
川上がギターを下ろして再びハンドマイクになると、スクリーンにはレコードが回転してオシャレなサウンドが流れ始めるのであるが、それは洗濯機のドラム部分だったということがカメラを引いていくことによってわかるのは開演前からメンバー出演CMで流れまくっていた「日々、織々」であり、川上も口にしていたように観客は手拍子をしながらリラックスして体を揺らして楽しむのであるが、普通のバンドのワンマンなら「同じタイプの曲が並んで、中盤にバラードを数曲やって、最後にアッパーな曲を連発して…」みたいな流れになりがちなものであるが、こうしてこのバンドのライブに来ると似たタイプの曲が連続して演奏されることが全くないということに改めて気付く。それはこのバンドのどんなことをやっても[Alexandros]になるというサウンドの幅の広さ、引き出しの多さを示しているし、だからこそ次に何の曲が演奏されるのか全く予想がつかない。次は何の曲だろう?というドキドキがライブ中にずっと継続しているのだ。
そんなメンバーはここで一息つくようにMCを挟むのだが、やはりその話題の中心は観客が一緒に声を出せることであり、
川上「まだまだ終わったわけじゃないけど、これは大きな一歩だと思ってる。昨日はちょっとまだ恐る恐るみたいな感じもあったけど、昨日よりみんなが声出てるのがわかるしね。全然喋ってる時にヤジとかも飛ばしていいし」
と言うと話し始める前にも飛び交っていたメンバーの名前を呼ぶ声がさらに激しく飛び交い、
川上「うるせー!黙ってろ!(笑)」
というお約束のやり取りも実に久しぶりに行われるのであるが、その「大きな一歩」が説得力に満ちているのはライブ自体は早い段階からこの日の声出しのように有観客への道を自分たちが切り開いていくかのように再開してきたが、声出しなどに関しては時勢を見極めながら本当に慎重に、我慢して我慢して次こそは、次こそは…と言ってきたバンドの姿を見てきたからだ。社会や世の中を無視して好き勝手やるのではなくて、会場や地域やなによりも来てくれる人が安心してライブに来て楽しんでくれるように。そうして戦ってきたこのバンドの姿を見てきた3年近くだったからこそ説得力を感じるのだ。
「この曲を作った時に、みんなで最初から歌えたらなと思って作った。泣きたくなるほど〜のやつです(笑)」
と、すでにその川上の「泣きたくなるほど〜」で曲が始まるのかと思ってしまったくらいにそこから観客も一緒に歌い始め、なんなら川上はマイクから離れるようにして観客の声を聞こうとしていたのは「Rock The World」で、ついにこの曲での合唱が会場に響く。初めてみんなで歌うこの曲は、ただでさえ素晴らしく美しいメロディを持つこの曲が、何万人もの人の歌声が重なることによってさらにその真価を発揮していた。それはこうしたアリーナやスタジアムで大合唱をするアンセムということである。白井のタッピングギターもこの曲がライブで初披露されて以降はすっかりドロスのサウンドの要素の一つになったが、この曲には去年ひたちなかで開催されるはずだったROCK IN JAPAN FES.2021が中止になった発表があった時にすぐに川上がロッキンオンジャパンのインタビュアーの小柳大輔にデモを送り、小柳はそれを聞いて泣いてしまったというエピソードがある。
この日のこの曲の最後に映像として映し出された花火の光景は、かつてこのバンドも自分たちのライブ後にそれを見ていた、メインステージであるGRASS STAGEから見たあの花火だった。あの広大なステージを愛し続けてきて、あのフェスを作っている人に向けて送った曲だからこその演出だったんじゃないだろうか。あの場所でのトリでのライブを見ているから、今もドロスはデカい会場でこそ映えるバンドだと思っている。またいつかあの場所でこのバンドを見れる日が来たらいいなと思うし、メンバーもそれを望んでいるんじゃないかと思う。
またこの日は満月が本当に綺麗に見えていた。そのこの日の満月をそのまま映し出しているかのような巨大な満月がスクリーンに映し出されて演奏されたのはもちろん「ムーンソング」であり、川上のハイトーンボーカルも美しさもありながらもやはり振り絞るような力強さを感じさせる。その演出も含めて、この日に演奏されるべくして演奏されたような。やはりこのバンドは何かを持っている、選ばれたバンドだ。この曲を演奏する日にこんなに美しい満月が出るんだから。
川上が再び花道へ歩き出しながら歌うのはその飛翔感のあるメロディが煌めいて明日への活力になるかのような「明日、また」であるが、原曲のハイパーな同期のサウンドというよりは力強く前を見据えるようなバンドサウンドとなっており、当然コーラスフレーズでは観客が飛び跳ねまくりながら思いっきり歌う。そんな光景全てを受け止めて自身の力にしているかのように川上は躍動感に満ちている。
その「明日、また」のアウトロから繋がるようにリアドが力強い四つ打ちを鳴らし始めると、白井と磯部も前へと歩き出していく。そのダンサブルになったアレンジはこれまでもライブで度重なる変貌を遂げてきた「Girl A」であり、よりサイケデリックさを感じさせるようになったこの日のものはメンバーが敬愛するPrimal Screamをも彷彿とさせるものだ。川上も飛び跳ねながら
「できる範囲で暴れろー!」
と叫ぶのであるが、その川上が誰よりも頭を振りまくって暴れまくっている。
その「Girl A」のアウトロから繋がる形で演奏されたのは「We are still kids & stray cats」で、確かにこの「Girl A」のアレンジと連なるサウンドであるが、先頭の花道の先に川上、その後ろに磯部、さらにその後ろにはサングラスをかけた白井という花道上でのフォーメーションが形成され、サンプラーも操作しながら歌う川上はその場で倒れ込むようにしながら歌うことで観客のさらなる歓声を呼び込むというあたりはロックスターでしかなさすぎる。映像ではタイトルに合わせてたくさんのネコがダンスを踊っていたというのはかわいさよりも怖さのようなものを感じてしまったけれど。
そんなメンバーたちが全員花道からステージに戻ると川上がアコギを弾きながら歌い始めたのは、かつてはドラマ的な映像とともに演奏されていた「Your Song」。今回はスクリーンには演奏するメンバーの姿の横に歌詞が映し出されていくというシンプルなものになっていたが、それがより一層純粋にこの曲のメロディの美しさと、音楽という実態がないものを音楽として歌ったこの曲の歌詞の美しさを感じさせてくれるものになっている。
「I'll be by your side
君の声を乗せるよ
世界中の音がなくなっても
僕を歌えばいい
I'll be by your side because I am your song」
という歌詞は我々が声を出して歌えるようになったからこそより深く響くものであるし、
「I'll be by your side
君のそばで鳴るよ
世界中の誰もが敵でも
僕は味方さ
I'll be by your side because I am your song」
という歌詞はどれだけライブやライブハウスがコロナ禍において悪者かのように報道されてきても、このバンドの音楽はずっと我々の味方でいてくれたんだなと思いを馳せさせる。それはそう思えるような活動をこのバンドがしてきたからだ。
そんな感動的な流れは「But wait. Cats?」の最後を締めるにふさわしい壮大なスケールを持った「awkward」へと繋がっていく。スクリーンに映し出されるのはこのツアー中に撮影したであろう写真や、過去のツアーやライブで撮影したと思われる写真、さらにはメンバーが今より幼かった頃の写真。そうした全ての日々が今このライブ、この瞬間に繋がっている。それを穏やかでありながらも芯の強さを感じさせるようなサウンドが示している。曲の最後にはメンバーが肩を組む写真が映し出され、その下にはこの日の日付と場所が刻まれる。そうしてその日1日、そのライブ1つ1つを特別なものにすることができる曲をこのバンドは手に入れた。そういう意味でもこのアルバムが生まれた意味は本当に大きい。
でもまだライブの最後の曲ではない。すでに23曲も、パンクバンドみたいに曲が短いわけでもないバンドが演奏している。なんなら前日にも同じくらいのボリュームのライブをやっていたと思われるのに、まだ曲を演奏しようとしている。その曲は
「コロナ禍になって最初にリリースした曲であり、リアドが入ってこの4人になって初めてリリースした曲で、本当に大切な曲になった。この曲を作った時に、みんなで歌えるようなコーラスを作ったらこんな状況になってしまった。みんなもこの曲を特別な存在だと思ってくれていたらいいな」
と思いを込めるように川上が語ってから演奏された「閃光」。でもきっともうすでにこの曲はここにいた人たちにとって特別なものになっている。終わりの全く見えなかったコロナ禍に入った当時、この曲のリリースも延期され、主題歌になった映画の公開も何度も延期された。そんな日々を照らす光がこの曲だった。これまでにも数々の名曲を生み出してきた[Alexandros]が今また自分たちの代表曲を更新するような曲を生み出した。その事実が、あまりにパワフルなサウンドによってこの曲に宿るエネルギーが我々のコロナ禍での生活に光を与えてくれていた。ずっと川上が
「声が出せるようになったらみんなで歌おう」
と言ってきたこの曲のコーラスをついに本当にみんなで歌えるようになったこの日は自分にとってはドロスの曲でありハサウェイの曲であったこの曲が、本当に我々みんなの曲になった瞬間だった。「Adventure」で込み上げてきていたものがまた溢れ出しそうになっていた。
観客がスマホライトを点けてメンバーを待つアンコールではメンバーは最初から花道の先のミニステージに現れ、川上がアコギを手にして
「スマホのライト凄くキレイです。みんなで見せてください」
と言って照明の代わりにスマホライトが揺れるのは「空と青」であり、そのメンバーの周りを360°光が包み込む光景は演奏するメンバーも見たいけれど、その光景にも目が行かざるを得ない。白井と磯部も演奏しながらあらゆる方向の客席を眺めていたのだが、タイトル通りに爽やかなこの曲がこんなに暗い空間を照らす光がよく似合う曲だということはこうしてライブで見ないとわからなかったことだ。
すると3人がステージに戻っていきながらも花道に残る川上は
「この会場は代々木公園の中にあるんだけど、我々はデビュー前から代々木公園で路上ライブをしていて。こんな曲をやっていました」
と言ってアコギで「city」のイントロを弾き、「spy」や「Starrrrrrr」も弾き語り的に歌うのであるが、それはそのままこの日は演奏されないということを感じさせて少し切なくもなる。特に観客も歌えるようになったからこその「Starrrrrrr」を川上がワンオクターブ下げて歌っていたのは特にそう思った人も多かったはずだ。
その観客が歌うということに関して言えば、まさにそのために作られた曲であるのが「Philosophy」である。川上がステージに戻りながら歌うと、サビでは川上がマイクを客席に向けたりする場面もあり、磯部もマイクスタンドから離れてベースを弾いているというのは、やはりこのバンドが観客の声を聞きたがっているということであるし、その思いを持っているバンドだからこそこの曲が生まれるきっかけになった企画に賛同したのだろう。
「僕は僕でしかない」
というのはそうした確固たる意識を持つバンドだからこそ説得力を宿らせることができるフレーズであるし、願わくば自分もそうして生きていたいと思える。この曲を聴いているとそんな思いをこのバンドが肯定してくれているように感じられるのだ。
そしてアンコールも3曲目ということはもう終わりの時が近づいているということ。そんなクライマックスに鳴らされるのはやはり白井によるイントロのギターが煌めくような「ワタリドリ」である。川上もハンドマイクを持ってステージを歩き回りながら最後の力を振り絞るようにして思いっきり声を張り上げる。サビのファルセット部分でマイクを向けられると、普段生きていてそんなに高い声を出す機会がまずないし、出す必要もないだけに出そうにないくらいの高さでもこのバンドと一緒ならどこまでも高いところに行けるような気がしてくる。そんな全能感をこのバンドの曲の合唱は与えてくれる。川上もそれをわかってか、アウトロでは
「思いっきり叫べ!」
と言ってマイクを客席に向ける。もう我を忘れて、恥ずかしさなんか全て捨て去って思いっきり叫ぶしかないたくさんの声が重なったこの曲の「Yeah」の大合唱は、単なる合唱じゃなくて本当に大合唱だった。それが否が応でもコロナ禍になる前のあらゆるライブの光景を思い出させてくれた。あの他のどんなものにも変え難い熱狂が本当に戻ってきたんだなと思うには充分過ぎるくらいに、観客の声がこの代々木体育館の屋根に当たって反響していた。
しかしそんなクライマックスを経てもまだメンバーは楽器を下ろさず、むしろ川上はスタッフにギターを持ってきてもらっている。
「まだ終われないでしょ。みんな終電なくなっても知らないからね」
と磯部が言うと、川上が思いっきりギターを掻き鳴らしたのは「Starrrrrrr」のイントロだった。弾き語り的に少し歌っていただけに、この日はやらないと思っていたし、もしかしたらやる予定ではなかったのかもしれない。それくらいにこの曲を演奏する前のメンバーの動きは急遽という感じがしていた。それは声が出せるライブだからこそこの曲をやらなくては、という思いに駆り立てられたものだったはずだ。もう川上に言われなくてもフルボリュームで歌う観客による最後のサビでの
「彷徨って 途方に暮れたって
また明日には 新しい方角へ」
の観客の声だけによる大合唱。きっとメンバーはこれが聴きたくてこの曲を演奏したのだ。自分たちの曲をみんなが歌ってくれるこの瞬間が見たかったのだ。「Adventure」で泣き、「Rock The World」や「閃光」でさらに溢れたものがこの瞬間に決壊してしまった。普段からライブで感動して泣いてしまうことはあれど、解散ライブでもないワンマンライブでこんなに泣いてしまうライブが他にあっただろうか。泣きたくて来たわけじゃない、カッコいいバンドのカッコいいロックを聴きにきた。でもそのカッコよさの一部には確かに我々の歌声という要素があったのだ。それがわかって泣かないわけがない。やっぱりこの曲でもどんなにキーが高くても出ると思っていた声が出なかったのは、泣いてしまうと声を出して歌えなくなってしまうんだなというのがわかったからだ。
しかもそんな感動的な曲を演奏してもなお終わらない。最後の最後、ツアーの締めとして演奏されたのは庄村聡泰が最後にライブでドラムを叩いた曲である「Untitled」だった。それを今この日にこの4人で最後に演奏しているということ。過去を捨て去ったわけでもなければ封印するわけでもない。全てを抱いたままでさらに先へと進んでいく。そんなこのバンドのカッコよさが滲み出ていたし、きっと代々木公園でこの曲を歌っていた過去の自分たちに対して歌っていたという部分もあったはず。路上ライブでは1人で歌っているようなキツい時もあったと言っていた。それでもバンドをやめなかった情熱がこの日、この場所へと繋がっていた。これまでにも何度となく忘れられないライブを見せて来てくれた[Alexandros]による、死ぬまで一生忘れることができないであろうツアーファイナルだった。
でもこのバンドの場合は終わりはまた新たな始まりである。だからやはり袖で演奏に参加していたROSEとMullonのサポートメンバー2人を紹介した後にメンバーがステージから去った後にスクリーンには5月からのライブハウスでの対バンツアーのスケジュールが映し出された。3時間にも及ぶ長時間のライブに飽きる瞬間など一切なかったし、映画のようでもない、ただひたすらにリアルな、ロックバンドのカッコよさを、[Alexandros]の生き様を示した3時間だった。人生においてこんなに有意義な3時間が他にあるかと思うくらいに。
文中にも書いたが、[Alexandros]はイメージ的には「俺たちが音を鳴らせばそれだけで最強にカッコいいんだからそれを見てろ」的なバンドである。それは間違いではないが、でも[Alexandros]は観客たちの発する声のエネルギーやパワーを全て自分たちのものに転換できるバンドでもある。だから自分はライブハウスが好きではあれど、[Alexandros]はライブハウスよりもアリーナやスタジアムや野外フェスのメインステージで観たいバンドだと思っている。
それは人が多ければ多いほど、その人たちのエネルギーを自分たちの音やパフォーマンスに乗せるものも大きくなっていく、元気玉のようなバンドだからだ。この日もやはり川上が花道の先端で叫んだ
「世界一のバンド[Alexandros]だ!覚えとけ!」
は誇張でも何でもない。この3時間は、いや、もしかしたらその後もずっとこのバンドは世界一のバンドだと思えているのだから。
1.Aleatoric
2.Adventure
3.Baby's Alright
4.Waitress, Waitress!
5.無心拍数
6.Paradise City (ガンズ&ローゼズのカバー)
7.クラッシュ
8.あまりに素敵な夜だから
9.SNOW SOUND
10.Kick & Spin
11.どーでもいいから
12.Kaiju
13.Wanna Get Out
14.Craw
15.Waterdrop
16.日々、織々
17.Rock The World
18.ムーンソング
19.明日、また
20.Girl A
21.We are still kids & stray cats
22.Your Song
23.awkward
24.閃光
encore
25.空と青
26.Philosophy
27.ワタリドリ
28.Starrrrrr
29.Untitled