THE SUN ALSO RISES vol.164 -峯田和伸(銀杏BOYZ) / 大木温之(ピーズ)- @F.A.D YOKOHAMA 12/1
- 2022/12/02
- 19:12
最近しょっちゅう来ている気がする横浜中華街のライブハウスF.A.D。その理由はこのライブハウスが主催している対バン企画「THE SUN ALSO RISES」があるからだが、この日は銀杏BOYZの峯田和伸とピーズの大木温之という師弟と言える弾き語り。互いに弾き語り経験も豊富であるが、バンドよりも歌う曲の自由度が高い形態であるがゆえに楽しみである。
なのだが出発するのが遅れてしまったことによって到着した時にはピーズのはるさんこと大木温之のライブがすでに中盤に差し掛かっていた。
・大木温之 (ピーズ)
そんな大木温之の弾き語りはエレキギターを弾きながらのもの。その姿を見ていると普段ピーズではベース&ボーカルであることを忘れてしまいそうなくらいに慣れているものであるが、12月になって一気に冬っぽく寒くなってきたことによって我々を暖かくしようとしてか、
「ビキニ見せてみろー!去年買ってやっただろー!」
と最前の観客に絡んでいる姿は酔っ払いであるかのようだが、はるさんは癌を患って以降は酒を絶っているためにいたってシラフでこの感じである。
そんな夏を取り戻そうとしている感は唱歌「浜辺の歌」のカバーにも現れていたが、飄々としながらもギターも歌声も56歳になったここにきて味を増しながらさらに安定感を感じさせるようになってきているのは酒を絶ったからというのもあるだろうし、近年のピーズは若いメンバーたちと一緒にライブをやっていることも関係していると言っていいだろう。顔はやはりかつてよりは年齢を感じさせるようになってきているけれど、半袖Tシャツ1枚で歌う姿は実に若々しく見える。
そんなはるさんのライブはそうしてカバーを織り交ぜながらも近年のピーズのライブでもおなじみの曲を中心とした内容なのだが、ギター弾き語りという形態で歌うことによって、バンドでのロックさよりもむしろブルース色を強く感じさせるものになっている。それがデビュー以降のピーズの曲から漂ってくるどうしようもなさや寂しさにつながっていることもわかるのであるが、そんな中でも「さらばボディ」はリズムに合わせて観客が手拍子をするくらいに軽快かつご機嫌な曲であり、それもまたピーズの持つ要素でもある。
「時間がさっきから全然進まない!永遠にやれる!(笑)っていうか時計が止まってる!(笑)」
という軽妙なトークで笑わせてくれるのもはるさんならではであるが、峯田和伸にも多大な影響を与えた名盤「とどめをハデにくれ」収録の「手おくれか」、一時期のバンドの活動休止から復活しての「アンチグライダー」収録の「脱線」という名曲も聴けるのはやっぱり嬉しいところである。峯田も楽屋で喜んでいたんじゃないだろうかというくらいに今のピーズの曲と並んでも全く色褪せない楽曲の力がある。
しかし「新型コアラ」という明らかに今の社会状況に影響を受けて作った(「ワクワクチンチン」なんて歌詞も出てくる)であろう曲もあり、どこか俗世から切り離されているというか、厭世観を感じさせるような曲も多く生み出してきたはるさんもやはり今の日本で我々と同じように生きているんだなと思わせてくれる。
そんなライブの最後に演奏されたのはピーズとっておきの名曲…ではなくて現千葉県知事である森田健作のタレント時代の「さらば涙と言おう」のカバー。それは赤羽のイメージが強いピーズが、というかはるさんが千葉県出身であり、同郷の後輩である氣志團やPlastic Treeまであらゆるバンドに影響を与えた存在であり、それは今も千葉に住んでいる自分もそうであって、それが脈々と受け継がれていることを感じさせてくれた。
ピーズのバンドでのライブも見たくなるが、このリラックスしたような空気は弾き語りだからこそでもあるだろう。そしてそれははるさんの名前通りの温かさを感じさせてくれるものでもある。
・峯田和伸 (銀杏BOYZ)
機材の交換がない弾き語りだからこそすぐにステージに現れた、峯田和伸。キャップを被っているというのは弾き語りならではだと感じるのは普段のライブで被っていたら一瞬で落ちてどこかに消えてしまうだろうからである。9月に中野サンプラザでのワンマン、10月にはぴあアリーナでのイベントでも銀杏BOYZのライブは見ているが、弾き語りは実に久しぶりである。
そんな峯田は特にライブが始まりそうな雰囲気とか一切なく、アコギを持っていきなり「二回戦」を歌い始める。10月のイベントの際にもバンドで演奏されていた曲であるが、この曲のもともと持っている静謐さのような雰囲気は弾き語りという形態に実に似合っていると言える。だからかどこかより一層神聖な雰囲気すら感じられるが、当たり前ながらF.A.Dのキャパであるために峯田との距離感が実に近い。本当に目の前で我々に歌ってくれているかのようだ。
「神奈川に来ることってそうそうないんだけど、2006年頃に「この人好きかもな」って思った人と江ノ島に来て以来かな。結局その人とは有耶無耶なままで終わってしまいましたけど、それくらいに神奈川には来る機会がない(笑)」
と、先日横浜のぴあアリーナでライブをしたことをもう忘れているのだろうかとも思うのだが、
「もうはるさんには思い入れがありすぎて。2人ともへびつかい座なんですよ。13星座っていうので言うと、すごく狭い期間の中に2人の誕生日がある」
と言う峯田の誕生日は今月であるだけにあと数日に迫ってきているが、アコギのストロークだけで何の曲かすぐにわかるのは弾き語りであっても曲の原型やメロディは変わっていないからであって、バンドでのライブでもおなじみの「NO FUTURE NO CRY」は叫びまくりのパンクとしてではなく、弾き語りならではのテンポを落としてじっくりと歌うような形に。なので声を張り上げまくるバンドでのライブだと歌い切れないこともあるこの曲をこの日の弾き語りではしっかり歌い切っていた。普段の銀杏BOYZでのライブがどれだけ喉に負担を与えているかということでもあるけれど。
続けてこちらもバンドのライブでもおなじみの「夢で逢えたら」も弾き語りによってより爽やかというか、アコースティックだとそれはこうなるよなぁという形で演奏されるのであるが、この誰も声を出さないけれど一緒に歌いたくなってしまうようなメロディの力こそが銀杏BOYZの、峯田の持つキャッチーさである。峯田は最後のサビでは
「and I miss you」
という普段はバンドメンバーが歌うコーラスも自身で歌う。それを聴いていると夢だけじゃなくて現実でも逢えて本当に良かったなと思う。
「はるさんもカバーやってたけど、俺も大好きな曲のカバーをやろうと思って。高校生の頃にうちは朝日新聞と山形新聞の2つを取ってたんだけど、朝日新聞に
「ユニコーンが今夜のオールナイトニッポンで緊急発表」
っていう広告が出てて。学校に行って音楽が好きな同級生と「あの広告見た?」って話して。「解散じゃないだろう」って言ってたんだけど、夜中の1時にオールナイトニッポンを聞いたら
「今日をもってユニコーンは解散します」
って発表して。前の年にドラムの川西さんが脱退したりしたから、ちょっとおかしな感じはしてたんだけど…。その番組の最後に奥田民生が弾き語りで歌ってくれた曲をやります」
と言って歌い始めたのはユニコーンのカバー「素晴らしい日々」。
「自分の曲の歌詞ですら間違えるのに、10代の頃に聴いていた曲は間違えることなく歌える。それはもう自分の中に入ってるからなんだろうなって。あの10代の時の多感な感じって凄いなと思う」
と峯田は曲終わりで言っていたが、本当に峯田の精神にも体内にもこの曲が刻み込まれていることがよくわかるくらいに自然にこの曲を歌っている。ユニコーンならではの少しおかしな曲の展開も全く気にすることなく。だからこそ奥田民生の少し気怠さを感じるようなボーカルよりも峯田のボーカルによるこの曲は力強さを、パンクさをやはり感じさせる。そうしたエピソードも含めてカバーを聴くことができるのも弾き語りならではだろう。
「俺は自分が全然歳を取ったっていう自覚がなくて。今でも10代のバンドとかラッパー見たらカッコいいな、憧れるなって思うし(笑)」
と続けて口にすると、峯田のまた違う憧れの対象であり、かつてダウンタウンが司会の音楽番組に出演した際にダウンタウンに会えて感激し、次に会ってみたい人として名前を挙げていたビートたけしの「浅草キッド」のカバーへ。菅田将暉もカバーしたことによって話題になった曲であるが、峯田が歌うからこそ
「煮込みしかない鯨屋で」
という庶民的な歌詞にリアリティが宿る。それはどれだけ地上波のドラマに出演したりしても華やかな世界にいる人という感覚がしない峯田だからこそであり、どこか掠れ気味の上手すぎない歌唱だからこそ感じられることでもあるだろう。ビートたけしのラジオ番組のテープをファンの力を借りてダビングしてもらうという企画を久しぶりに思い出してしまった。
バンドでも今はテンポを落としたアレンジになっており、だからこそこの弾き語りでの形の発展形が今のバンドでの演奏につながっているんだなと思う「トラッシュ」はそうしたアレンジになることによって峯田の歌唱もどこか偽悪的というか、ひねくれたように感じられるのが面白い。
「幸せそうな恋人たちを 電動ノコギリでバラバラにしたいよ」
という歌詞がこんなにも似合う人は世界中を探してもきっと峯田だけである。
こちらも今のバンドの形というか、クリープハイプによるカバーと「円光」タイトルでのセルフカバーバージョンに近い形で弾き語りで歌ったのは「援助交際」であるが、やはりこの曲のメロディはいつまでも色褪せることがない名曲だと思っていたら峯田は
「あの娘はどこかの誰かとマッチングアプリ」
と歌詞を現代バージョンにアップデートしていた。不意にそれを聴いた観客は一同爆笑。
「あの娘のショートメールをゲットするため」
と変えていたのもマッチングアプリに即した内容なのだろうか。(やったことがないからわからないけど)
2コーラス目以降は「援助交際」と原曲通りに歌っていたが、「ぽあだむ」が象徴的であるし「ナイトライダー」とかもそうだが銀杏BOYZにはその時の流行りや固有名詞などを使った歌詞の曲がたくさんある。ともすればそれは死語になって何十年か後には「ポケベルが鳴らなくて」みたいに伝わらないものになってしまうかもしれないけれど、逆にその曲が生まれた時の時代や空気を封じ込めたものでもある。だから銀杏BOYZの、それだけではなくて峯田の作った曲を聴いていると一瞬でその曲に出会った時の頃に戻ることができる。今でもそんな感覚を感じさせてくれるのだ。
「ギター弾いたことがある人はわかると思うけど、俺の曲って本当にコードがGばっかりなのね(笑)GかCばっかり。それが弾きやすいんだからしょうがないよね(笑)」
と自身の作る曲の変わらなさを口にしながら、
「今ワールドカップもやってますからね。今晩日本にとっては大事な試合があるしね。サッカー好きな人は日本がドイツ、スペイン、コスタリカと同じグループになって「日本終わった」って言ってたけど、俺はそんな強くない国とやるのはあんまり見たくなくて。スペインやドイツみたいな強豪国と対戦してどこまで食らいつけるのかが見たいっていうか。
この間のコスタリカ戦は色々ありましたけど、ドイツは毎回決勝トーナメントに行くにつれて調子が出るようなチームだから、今回は対戦する順番が良かったね。最初に当たった時のドイツはまだ本調子のドイツじゃないっていうか。
お客さんに「いつからそんなにサッカー好きになったんですか?」って言われたりするんだけど(笑)、音楽も映画もサッカーもまだまだ好きになっていけてるのかなって」
という、だいぶ前から峯田が海外サッカーに詳しくなっていたのはファンには周知の事実であるが、こうもワールドカップについて熱く語られると
「ワールドカップに浮かれる 渋谷のバカどもに爆弾を落とすのさ」
と歌っていたじゃないですか、とツッコミたくもなる。もちろんそれはワールドカップに限らずただ騒ぎたい、ただ悪ノリしたいような人に向けたものであることはわかっているけれど。
そんな今だからこそのMCの後にはアコギだけという形態であっても原曲のポップなダンス要素が聞こえてくるような感じがするのは「GOD SAVE THE わーるど」。弾き語りでやるのは意外な感じもしたけれど、だからこそその原曲の感覚が生きていることが確認できるというか。この曲が聴けて嬉しそうなリアクションを取っていた人が多かったのもそういうことだろう。
そんなライブの最後に歌ったのはやはり「BABY BABY」。バンドでのあのギターのイントロがなくても一瞬でこの曲だということがわかった客席からは拍手が起こるのであるが、
「街はイルミネーション 君はイリュージョン」
という歌い出しのフレーズは横浜の街もクリスマス的なイルミネーションに染まってきているからこそ、よりリアリティを感じることができる。この曲が似合う時期になってきたなと。まだ観客が一緒に歌ったりコーラスをすることはできないけれど、峯田が「10代の頃に聴いていた曲は自分の中に入っている」と言っていたように、この曲は、銀杏BOYZの曲は自分の細胞に刻み込まれている。そのくらいの曲だから何回ライブで聴いても飽きることがないし、きっとこれからだって何回でもこうやって聞くことができるし、聴けるだろうなと思っている。そう思えることこそが我々が生きていく力になっていくのだ。
そんなライブのアンコールでは当たり前のようにマイクスタンドが2本立てられる。ということは当然ながら2人のコラボが展開されるのだが、峯田が
「めちゃ強い侍みたいな人」
と称していたはるさんは自分でエフェクター類を繋げようとしたらすでに繋げてくれていた銀杏BOYZのスタッフの手際の良さに驚きながら、
峯田「新しいアルバム出しましょうよ」
はる「アルバム出すとなると何十曲も作らないといけないからさぁ」
峯田「1992年から1995年の曲の主人公達の今の姿を描いたアンサー的なアルバムが聴きたいなぁ。それなら作りやすいんじゃないですか?」
はる「でも「酒飲んで〜」みたいな曲を作ってた俺がもう酒飲んでないからね(笑)嘘じゃんっていう(笑)
でもライブハウスは飲食店なんで、皆さんは酒が飲めない我々の分まで酒飲んでください」
峯田「日本人の同調圧力的な感じでなかなかやってる最中にバーカウンター行きづらいよね」
と、ずっと2人で活動してきたかのような息のあったトークを展開するのであるが、峯田は本当にはるさんのことが好きで、こうして一緒にライブをやれているのが嬉しくて仕方ないんだろうなとその姿を見ていて思う。自分にとっての峯田という存在が峯田にとってははるさんなんだろうから。
そんなはるさんはせっかくだから銀杏BOYZの曲をやろうとして若い人に何の曲をやるべきか聴いたら瞬時に「SEXTEEN」と返ってきたということで(誰に聞いたんだ)、その「SEXTEEN」をはるさんのギターと峯田の歌唱で演奏するのであるが、峯田は自分の曲なのに歌詞を見ながら歌っているし、最初は明らかに歌とギターのリズムやテンポが合っておらず、どっちがどう合わせるんだこれは、と思っていたら曲が進むうちに合っていき、最後にはしっかり重なるようになっているというのはやはり星座も同じこの2人の呼吸が合っているというか同じだということだろう。
しかもそれだけでは終わらず、今度は自分の曲じゃないのに峯田は歌詞を見ないで完璧に歌えるという自身の言葉を自ら証明するようにピーズの大名曲「日が暮れても彼女と歩いてた」を2人で歌う。オレンジ色の照明が足元から2人を照らすことによって、さらに脳内で想起される情景。どこまで歩けばいいのかわからないけれどただひたすら歩くしかない2人の姿。あてもなく歩き続けた先に何があるのかも全くわからないような日々。ピーズの曲に宿るやるせなさの象徴のような曲。この曲を自分が聴くようになった、好きになったのも峯田が昔に本の中で自身が影響を受けた音楽として紹介していたからだ。もちろんピーズのライブでもかつて聴いたことがあるけれど、そんな曲を知るきっかけになった峯田がはるさんと一緒に歌っている。こんな瞬間を見ることができるということをこの曲を知った高校生の頃の自分に教えてやりたいと思った。つまりそれは、峯田和伸という男は今でも自分にこれ以上ないくらいに生きていて良かったという感覚をくれるということだ。この峯田にとっては2022年最後となるライブも間違いなくそういうものだった。
この日峯田はピーズも銀杏BOYZもアルバムを出そうという話から、
「来年また嬉しい発表もあると思うから」
とも口にしていた。それがリリースなのかライブなのかはわからないけれど、制限がある中でも今年見た銀杏BOYZの何本かのライブはコロナ禍を挟んで久しぶりのものだったり、どんな形であれ自分が峯田に、銀杏BOYZに会いたいと思っていたことを実感させてくれるものだった。
そんな思いをきっとまた来年も感じることができる。それが何よりも嬉しかった。どんなにお互いに歳を取っても状況が変わっても、高校生の時からずっと、かけがえのない愛しい存在であり続けているのだから。
1.二回戦
2.NO FUTURE NO CRY
3.夢で逢えたら
4.素晴らしい日々 (ユニコーン)
5.浅草キッド (ビートたけし)
6.トラッシュ
7.援助交際
8.GOD SAVE THE わーるど
9.BABY BABY
encore
10.SEXTEEN w/大木温之
11.日が暮れても彼女と歩いてた w/大木温之
なのだが出発するのが遅れてしまったことによって到着した時にはピーズのはるさんこと大木温之のライブがすでに中盤に差し掛かっていた。
・大木温之 (ピーズ)
そんな大木温之の弾き語りはエレキギターを弾きながらのもの。その姿を見ていると普段ピーズではベース&ボーカルであることを忘れてしまいそうなくらいに慣れているものであるが、12月になって一気に冬っぽく寒くなってきたことによって我々を暖かくしようとしてか、
「ビキニ見せてみろー!去年買ってやっただろー!」
と最前の観客に絡んでいる姿は酔っ払いであるかのようだが、はるさんは癌を患って以降は酒を絶っているためにいたってシラフでこの感じである。
そんな夏を取り戻そうとしている感は唱歌「浜辺の歌」のカバーにも現れていたが、飄々としながらもギターも歌声も56歳になったここにきて味を増しながらさらに安定感を感じさせるようになってきているのは酒を絶ったからというのもあるだろうし、近年のピーズは若いメンバーたちと一緒にライブをやっていることも関係していると言っていいだろう。顔はやはりかつてよりは年齢を感じさせるようになってきているけれど、半袖Tシャツ1枚で歌う姿は実に若々しく見える。
そんなはるさんのライブはそうしてカバーを織り交ぜながらも近年のピーズのライブでもおなじみの曲を中心とした内容なのだが、ギター弾き語りという形態で歌うことによって、バンドでのロックさよりもむしろブルース色を強く感じさせるものになっている。それがデビュー以降のピーズの曲から漂ってくるどうしようもなさや寂しさにつながっていることもわかるのであるが、そんな中でも「さらばボディ」はリズムに合わせて観客が手拍子をするくらいに軽快かつご機嫌な曲であり、それもまたピーズの持つ要素でもある。
「時間がさっきから全然進まない!永遠にやれる!(笑)っていうか時計が止まってる!(笑)」
という軽妙なトークで笑わせてくれるのもはるさんならではであるが、峯田和伸にも多大な影響を与えた名盤「とどめをハデにくれ」収録の「手おくれか」、一時期のバンドの活動休止から復活しての「アンチグライダー」収録の「脱線」という名曲も聴けるのはやっぱり嬉しいところである。峯田も楽屋で喜んでいたんじゃないだろうかというくらいに今のピーズの曲と並んでも全く色褪せない楽曲の力がある。
しかし「新型コアラ」という明らかに今の社会状況に影響を受けて作った(「ワクワクチンチン」なんて歌詞も出てくる)であろう曲もあり、どこか俗世から切り離されているというか、厭世観を感じさせるような曲も多く生み出してきたはるさんもやはり今の日本で我々と同じように生きているんだなと思わせてくれる。
そんなライブの最後に演奏されたのはピーズとっておきの名曲…ではなくて現千葉県知事である森田健作のタレント時代の「さらば涙と言おう」のカバー。それは赤羽のイメージが強いピーズが、というかはるさんが千葉県出身であり、同郷の後輩である氣志團やPlastic Treeまであらゆるバンドに影響を与えた存在であり、それは今も千葉に住んでいる自分もそうであって、それが脈々と受け継がれていることを感じさせてくれた。
ピーズのバンドでのライブも見たくなるが、このリラックスしたような空気は弾き語りだからこそでもあるだろう。そしてそれははるさんの名前通りの温かさを感じさせてくれるものでもある。
・峯田和伸 (銀杏BOYZ)
機材の交換がない弾き語りだからこそすぐにステージに現れた、峯田和伸。キャップを被っているというのは弾き語りならではだと感じるのは普段のライブで被っていたら一瞬で落ちてどこかに消えてしまうだろうからである。9月に中野サンプラザでのワンマン、10月にはぴあアリーナでのイベントでも銀杏BOYZのライブは見ているが、弾き語りは実に久しぶりである。
そんな峯田は特にライブが始まりそうな雰囲気とか一切なく、アコギを持っていきなり「二回戦」を歌い始める。10月のイベントの際にもバンドで演奏されていた曲であるが、この曲のもともと持っている静謐さのような雰囲気は弾き語りという形態に実に似合っていると言える。だからかどこかより一層神聖な雰囲気すら感じられるが、当たり前ながらF.A.Dのキャパであるために峯田との距離感が実に近い。本当に目の前で我々に歌ってくれているかのようだ。
「神奈川に来ることってそうそうないんだけど、2006年頃に「この人好きかもな」って思った人と江ノ島に来て以来かな。結局その人とは有耶無耶なままで終わってしまいましたけど、それくらいに神奈川には来る機会がない(笑)」
と、先日横浜のぴあアリーナでライブをしたことをもう忘れているのだろうかとも思うのだが、
「もうはるさんには思い入れがありすぎて。2人ともへびつかい座なんですよ。13星座っていうので言うと、すごく狭い期間の中に2人の誕生日がある」
と言う峯田の誕生日は今月であるだけにあと数日に迫ってきているが、アコギのストロークだけで何の曲かすぐにわかるのは弾き語りであっても曲の原型やメロディは変わっていないからであって、バンドでのライブでもおなじみの「NO FUTURE NO CRY」は叫びまくりのパンクとしてではなく、弾き語りならではのテンポを落としてじっくりと歌うような形に。なので声を張り上げまくるバンドでのライブだと歌い切れないこともあるこの曲をこの日の弾き語りではしっかり歌い切っていた。普段の銀杏BOYZでのライブがどれだけ喉に負担を与えているかということでもあるけれど。
続けてこちらもバンドのライブでもおなじみの「夢で逢えたら」も弾き語りによってより爽やかというか、アコースティックだとそれはこうなるよなぁという形で演奏されるのであるが、この誰も声を出さないけれど一緒に歌いたくなってしまうようなメロディの力こそが銀杏BOYZの、峯田の持つキャッチーさである。峯田は最後のサビでは
「and I miss you」
という普段はバンドメンバーが歌うコーラスも自身で歌う。それを聴いていると夢だけじゃなくて現実でも逢えて本当に良かったなと思う。
「はるさんもカバーやってたけど、俺も大好きな曲のカバーをやろうと思って。高校生の頃にうちは朝日新聞と山形新聞の2つを取ってたんだけど、朝日新聞に
「ユニコーンが今夜のオールナイトニッポンで緊急発表」
っていう広告が出てて。学校に行って音楽が好きな同級生と「あの広告見た?」って話して。「解散じゃないだろう」って言ってたんだけど、夜中の1時にオールナイトニッポンを聞いたら
「今日をもってユニコーンは解散します」
って発表して。前の年にドラムの川西さんが脱退したりしたから、ちょっとおかしな感じはしてたんだけど…。その番組の最後に奥田民生が弾き語りで歌ってくれた曲をやります」
と言って歌い始めたのはユニコーンのカバー「素晴らしい日々」。
「自分の曲の歌詞ですら間違えるのに、10代の頃に聴いていた曲は間違えることなく歌える。それはもう自分の中に入ってるからなんだろうなって。あの10代の時の多感な感じって凄いなと思う」
と峯田は曲終わりで言っていたが、本当に峯田の精神にも体内にもこの曲が刻み込まれていることがよくわかるくらいに自然にこの曲を歌っている。ユニコーンならではの少しおかしな曲の展開も全く気にすることなく。だからこそ奥田民生の少し気怠さを感じるようなボーカルよりも峯田のボーカルによるこの曲は力強さを、パンクさをやはり感じさせる。そうしたエピソードも含めてカバーを聴くことができるのも弾き語りならではだろう。
「俺は自分が全然歳を取ったっていう自覚がなくて。今でも10代のバンドとかラッパー見たらカッコいいな、憧れるなって思うし(笑)」
と続けて口にすると、峯田のまた違う憧れの対象であり、かつてダウンタウンが司会の音楽番組に出演した際にダウンタウンに会えて感激し、次に会ってみたい人として名前を挙げていたビートたけしの「浅草キッド」のカバーへ。菅田将暉もカバーしたことによって話題になった曲であるが、峯田が歌うからこそ
「煮込みしかない鯨屋で」
という庶民的な歌詞にリアリティが宿る。それはどれだけ地上波のドラマに出演したりしても華やかな世界にいる人という感覚がしない峯田だからこそであり、どこか掠れ気味の上手すぎない歌唱だからこそ感じられることでもあるだろう。ビートたけしのラジオ番組のテープをファンの力を借りてダビングしてもらうという企画を久しぶりに思い出してしまった。
バンドでも今はテンポを落としたアレンジになっており、だからこそこの弾き語りでの形の発展形が今のバンドでの演奏につながっているんだなと思う「トラッシュ」はそうしたアレンジになることによって峯田の歌唱もどこか偽悪的というか、ひねくれたように感じられるのが面白い。
「幸せそうな恋人たちを 電動ノコギリでバラバラにしたいよ」
という歌詞がこんなにも似合う人は世界中を探してもきっと峯田だけである。
こちらも今のバンドの形というか、クリープハイプによるカバーと「円光」タイトルでのセルフカバーバージョンに近い形で弾き語りで歌ったのは「援助交際」であるが、やはりこの曲のメロディはいつまでも色褪せることがない名曲だと思っていたら峯田は
「あの娘はどこかの誰かとマッチングアプリ」
と歌詞を現代バージョンにアップデートしていた。不意にそれを聴いた観客は一同爆笑。
「あの娘のショートメールをゲットするため」
と変えていたのもマッチングアプリに即した内容なのだろうか。(やったことがないからわからないけど)
2コーラス目以降は「援助交際」と原曲通りに歌っていたが、「ぽあだむ」が象徴的であるし「ナイトライダー」とかもそうだが銀杏BOYZにはその時の流行りや固有名詞などを使った歌詞の曲がたくさんある。ともすればそれは死語になって何十年か後には「ポケベルが鳴らなくて」みたいに伝わらないものになってしまうかもしれないけれど、逆にその曲が生まれた時の時代や空気を封じ込めたものでもある。だから銀杏BOYZの、それだけではなくて峯田の作った曲を聴いていると一瞬でその曲に出会った時の頃に戻ることができる。今でもそんな感覚を感じさせてくれるのだ。
「ギター弾いたことがある人はわかると思うけど、俺の曲って本当にコードがGばっかりなのね(笑)GかCばっかり。それが弾きやすいんだからしょうがないよね(笑)」
と自身の作る曲の変わらなさを口にしながら、
「今ワールドカップもやってますからね。今晩日本にとっては大事な試合があるしね。サッカー好きな人は日本がドイツ、スペイン、コスタリカと同じグループになって「日本終わった」って言ってたけど、俺はそんな強くない国とやるのはあんまり見たくなくて。スペインやドイツみたいな強豪国と対戦してどこまで食らいつけるのかが見たいっていうか。
この間のコスタリカ戦は色々ありましたけど、ドイツは毎回決勝トーナメントに行くにつれて調子が出るようなチームだから、今回は対戦する順番が良かったね。最初に当たった時のドイツはまだ本調子のドイツじゃないっていうか。
お客さんに「いつからそんなにサッカー好きになったんですか?」って言われたりするんだけど(笑)、音楽も映画もサッカーもまだまだ好きになっていけてるのかなって」
という、だいぶ前から峯田が海外サッカーに詳しくなっていたのはファンには周知の事実であるが、こうもワールドカップについて熱く語られると
「ワールドカップに浮かれる 渋谷のバカどもに爆弾を落とすのさ」
と歌っていたじゃないですか、とツッコミたくもなる。もちろんそれはワールドカップに限らずただ騒ぎたい、ただ悪ノリしたいような人に向けたものであることはわかっているけれど。
そんな今だからこそのMCの後にはアコギだけという形態であっても原曲のポップなダンス要素が聞こえてくるような感じがするのは「GOD SAVE THE わーるど」。弾き語りでやるのは意外な感じもしたけれど、だからこそその原曲の感覚が生きていることが確認できるというか。この曲が聴けて嬉しそうなリアクションを取っていた人が多かったのもそういうことだろう。
そんなライブの最後に歌ったのはやはり「BABY BABY」。バンドでのあのギターのイントロがなくても一瞬でこの曲だということがわかった客席からは拍手が起こるのであるが、
「街はイルミネーション 君はイリュージョン」
という歌い出しのフレーズは横浜の街もクリスマス的なイルミネーションに染まってきているからこそ、よりリアリティを感じることができる。この曲が似合う時期になってきたなと。まだ観客が一緒に歌ったりコーラスをすることはできないけれど、峯田が「10代の頃に聴いていた曲は自分の中に入っている」と言っていたように、この曲は、銀杏BOYZの曲は自分の細胞に刻み込まれている。そのくらいの曲だから何回ライブで聴いても飽きることがないし、きっとこれからだって何回でもこうやって聞くことができるし、聴けるだろうなと思っている。そう思えることこそが我々が生きていく力になっていくのだ。
そんなライブのアンコールでは当たり前のようにマイクスタンドが2本立てられる。ということは当然ながら2人のコラボが展開されるのだが、峯田が
「めちゃ強い侍みたいな人」
と称していたはるさんは自分でエフェクター類を繋げようとしたらすでに繋げてくれていた銀杏BOYZのスタッフの手際の良さに驚きながら、
峯田「新しいアルバム出しましょうよ」
はる「アルバム出すとなると何十曲も作らないといけないからさぁ」
峯田「1992年から1995年の曲の主人公達の今の姿を描いたアンサー的なアルバムが聴きたいなぁ。それなら作りやすいんじゃないですか?」
はる「でも「酒飲んで〜」みたいな曲を作ってた俺がもう酒飲んでないからね(笑)嘘じゃんっていう(笑)
でもライブハウスは飲食店なんで、皆さんは酒が飲めない我々の分まで酒飲んでください」
峯田「日本人の同調圧力的な感じでなかなかやってる最中にバーカウンター行きづらいよね」
と、ずっと2人で活動してきたかのような息のあったトークを展開するのであるが、峯田は本当にはるさんのことが好きで、こうして一緒にライブをやれているのが嬉しくて仕方ないんだろうなとその姿を見ていて思う。自分にとっての峯田という存在が峯田にとってははるさんなんだろうから。
そんなはるさんはせっかくだから銀杏BOYZの曲をやろうとして若い人に何の曲をやるべきか聴いたら瞬時に「SEXTEEN」と返ってきたということで(誰に聞いたんだ)、その「SEXTEEN」をはるさんのギターと峯田の歌唱で演奏するのであるが、峯田は自分の曲なのに歌詞を見ながら歌っているし、最初は明らかに歌とギターのリズムやテンポが合っておらず、どっちがどう合わせるんだこれは、と思っていたら曲が進むうちに合っていき、最後にはしっかり重なるようになっているというのはやはり星座も同じこの2人の呼吸が合っているというか同じだということだろう。
しかもそれだけでは終わらず、今度は自分の曲じゃないのに峯田は歌詞を見ないで完璧に歌えるという自身の言葉を自ら証明するようにピーズの大名曲「日が暮れても彼女と歩いてた」を2人で歌う。オレンジ色の照明が足元から2人を照らすことによって、さらに脳内で想起される情景。どこまで歩けばいいのかわからないけれどただひたすら歩くしかない2人の姿。あてもなく歩き続けた先に何があるのかも全くわからないような日々。ピーズの曲に宿るやるせなさの象徴のような曲。この曲を自分が聴くようになった、好きになったのも峯田が昔に本の中で自身が影響を受けた音楽として紹介していたからだ。もちろんピーズのライブでもかつて聴いたことがあるけれど、そんな曲を知るきっかけになった峯田がはるさんと一緒に歌っている。こんな瞬間を見ることができるということをこの曲を知った高校生の頃の自分に教えてやりたいと思った。つまりそれは、峯田和伸という男は今でも自分にこれ以上ないくらいに生きていて良かったという感覚をくれるということだ。この峯田にとっては2022年最後となるライブも間違いなくそういうものだった。
この日峯田はピーズも銀杏BOYZもアルバムを出そうという話から、
「来年また嬉しい発表もあると思うから」
とも口にしていた。それがリリースなのかライブなのかはわからないけれど、制限がある中でも今年見た銀杏BOYZの何本かのライブはコロナ禍を挟んで久しぶりのものだったり、どんな形であれ自分が峯田に、銀杏BOYZに会いたいと思っていたことを実感させてくれるものだった。
そんな思いをきっとまた来年も感じることができる。それが何よりも嬉しかった。どんなにお互いに歳を取っても状況が変わっても、高校生の時からずっと、かけがえのない愛しい存在であり続けているのだから。
1.二回戦
2.NO FUTURE NO CRY
3.夢で逢えたら
4.素晴らしい日々 (ユニコーン)
5.浅草キッド (ビートたけし)
6.トラッシュ
7.援助交際
8.GOD SAVE THE わーるど
9.BABY BABY
encore
10.SEXTEEN w/大木温之
11.日が暮れても彼女と歩いてた w/大木温之
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