WurtS 「WurtS LIVE 2022」 @Zepp DiverCity 11/29
- 2022/11/30
- 21:53
自らを「研究者」と称する若手アーティスト、WurtS。それは大学でポップミュージックの研究をしていたということにもよるだろうけれど、デビューしてすぐにSNSを中心に話題を集め、はっきりとは顔出しをしないままでフェスやイベントなどの出演を果たすようになり、今月に最新EP「MOONRAKER」をリリースしての初のワンマンツアーのファイナルがこの日のZepp DiverCityワンマン。まだライブ経験はそう多くはない中でPEOPLE1とのツアーもあったが初のワンマンがZepp規模、しかも即完というのはやはり只者ではない。
雨が降るお台場は驚くくらいに若い人ばかりで、WurtSの今の客層がどういったものかということを感じさせるのであるが、場内に入るとなんだか遊園地のアトラクションに入り込んだかのような(ディズニーランドのホーンテッドマンション的な?)ステージの作りになっており、動物のうめき声のような音が延々と流れる中、時折アナウンスで
「宇宙開発の旅に出かけましょう」
という声も聞こえる。つまりはなかなかにコンセプチュアルなライブになるであろうことがわかる。
開演時間の19時になったあたりで客席に一気に観客たちがなだれ込んでくると、誰もが気になっていたであろうステージ中央に鎮座する巨大な卵が薄暗い中で光る中、防護服の男性とスイムスーツのような服を着た女性がステージに登場。どうやらこの卵は地底人の卵であり、それを孵化させるためには高い体温が必要で、その体温を高くして孵化させるための実験としてWurtSというアーティストを招いたので我々で熱くして孵化させて欲しいというコンセプトであることが告げられる。地底人というのはWurtSの中でも大事な曲のタイトルになっているが、果たしてどう展開していくのだろうか。
そうしたコンセプト紹介の後にステージにはWurtSのライブではおなじみのピンクのうさぎ(DJ)が登場し、「かわいい〜」という声も客席から漏れる中で新井弘毅(ギター)、是永亮祐(ベース)、吉岡絋希(ドラム)という経験豊富な凄腕バンドメンバーたちが続いて登場し、最後にキャップを目深に被ってやはりはっきりとは顔が見えないWurtSがステージに登場すると大きな拍手が起こる中、「MOONRAKER」収録の「コズミック」からライブはスタートする。コンセプトはあるとはいえやはりサウンド自体は同期を使いながらもストレートなギターロックと言えるものであり、WurtSも歌唱にはエフェクトをかけているものの、シンプルと言っていいライブである。
それをシンプルなままにしないのはうさぎDJの存在であり、曲終わり間際には同期の音に合わせてピアノを弾くような仕草を見せたりというパフォーマンスを見せる。コンセプト的な演出がなかったらひたすらストイックに曲を連発していくと言ってもいいWurtSのライブにおいてこのうさぎDJはエンタメ性を発揮する重要な存在になっていると言えるのかもしれない。
そんなうさぎDJが歌詞や効果音的な同期に合わせて動くのがやはりかわいいと思ってしまうような「魔法のスープ」から、新井がギターを強くストロークするとWurtSの一般社会や世間と上手く迎合できない心境を歌詞にした「僕の個人主義」と自身もギターを弾く前半はギターロックと言えるような曲で飛ばしていくのであるが、そんな心情や感情が繋がるような「オブリビエイト」も含めて、キャッチーなギターロックとはいえそのサウンドはシューゲイザーやグランジの影響まで感じさせるような、つまり全く今の最先端的なものではない。むしろ作品のタイトルに掲げたように1990年代後半にSUPERCARがデビューした時のサウンドを彷彿とさせるような「リバイバル」的なものであり、そんなサウンドの音楽に満員の若い観客が夢中になって腕を挙げている。それはWurtSがリバイバルを引き寄せたとも言えるし、それが2020年代の今に巡ってくるのをわかっていたようにこの音楽を鳴らしているというのはさすが「研究者」である。
「WurtSですー。今日はツアーファイナルですよろしくお願いしますー」
と早くもここで観客に手を振りながらWurtSが挨拶をすると、自身はギターを置いてダンサブルなサウンドへと変化していく流れになることを告げるように「BOY MEETS GIRL」へ。WurtSの歌唱も気だるさをエフェクトするようなものではなくてヒップホップ的な韻を強調するものに曲のサウンドに合わせて変化していくのであるが、アウトロでは絶対に音が出ていないのにうさぎDJが音に合わせてトランペットを吹く仕草を見せるのが面白い。この日はエナジードリンクの会社もライブに花を送っていたのだが、そのタイアップとなったこの曲にさりげなく
「未体験ゾーン」
というタイアップ先のフレーズを忍ばせるあたりはさすがとしか言いようがない。
そんなダンサブルなサウンドとヒップホップ的な歌唱は「NERVEs」へと繋がっていくのであるが、音源ではバンドサウンドとは言い難いようなこうした曲も吉岡のドラムを筆頭にした生のリズムによって実にダイナミックなライブ感を感じさせるものへと変化している。自分はこのメンバーたちをそれぞれシーンに登場した時のバンド(serial TV drama、雨のパレード、plenty)からライブを見て知っているのであるが、やはりそのキャリアと実力によってWurtSのライブが成り立っていると言える。
「何を言おうとしていたか忘れちゃった…(笑)
今年1番バズった曲をやります(笑)」
と、緊張ゆえか逆にテンションが上がりすぎているゆえか、MCの内容を完全に忘れてすっ飛ばしながら演奏された静謐なエレクトリックサウンドの「Talking Box」では
「Dance with me
Dance with you」
というフレーズ部分でリズムに合わせてWurtSが自身で両腕を高く掲げて手拍子をし、それが客席にも広がっていく。ライブ経験はまだまだ浅いがそれでも自分なりにライブを盛り上げよう、来てくれた人に少しでも楽しんでもらおうと思ってライブをしていることが伝わってくる。今年1番バズったのかどうかはわからないけれど。
するとここで一旦ステージが暗転してメンバーが捌けるとステージに鎮座する巨大な卵にヒビが入り始めるのであるが、オープニングに登場した女性が再び現れ、実はこの卵は危険なものであり、絶対に孵化させてはいけないということを口にするのであるが、防護服を着た男性にスタンガン的なもので意識を失わされてしまい、そのまま男性が孵化させるためにさらなる盛り上がりを要求する。
そうしてステージに戻ってきたのはWurtSとうさぎDJの2名だけであり、同期のサウンドと歌唱のみという形でピアノのサウンドとトラップ的なリズム、WurtSのヒップホップ、R&B的な歌唱による「Capital Bible」が演奏されてさらに深いダンスミュージックへと潜っていく。
「Capital Bible is Miracle」
というWurtSによるリフレイン的な歌唱は聴いていて実にクセになるというか、削ぎ落としたようなサウンドだからこそWurtSの音楽に宿る中毒性をどっぷりと感じられる曲である。
するとうさぎDJがステージ前に出てきて今まで以上に観客の手拍子を煽ったりするのはピアノのイントロによって始まるWartS流のEDMと言っていい「SPACESHIP」で、WurtSもマイクを持ってステージを左右に動き回りながら歌う。顔は隠れてはいるが帽子の目元には穴が空いているだけにちゃんと視界は見えているようだ。
バンドメンバーが合流すると、デジタルなサウンドで「3,2,1」というカウントが流れ、そのカウントを合図に観客が飛び跳ね踊りまくるのは「SWAM」と、ピアノやホーンを主体にしたダンスミュージックさをさらに強めた曲が生バンドの演奏によって鳴らされる。よって音源よりもさらに迫力あるロックなダンスサウンドになっているのであるが、こうしてノイジーとも言えるようなギターロックから始まってダンスミュージックへと大胆に舵を切っていくというあたりもSUPERCARが「Futurama」〜「HIGH VISION」でロックとダンスミュージックの融合を図っていた時期のことを思い出させる。
そんなWurtSの現状の最新曲がEPのタイトルにもなっている「MOONRAKER」であり、ジャズやビッグバンド的な音楽の影響を感じるようなホーンのサウンドはいつかは同期ではなくて生の管楽器とバンドサウンドが融合するライブを見てみたいとも思わせてくれる。やはりWurtSはMCをすっ飛ばして、
「MV公開されたばかりなんで見てください」
と告知をしていたが、この短期間でのギターロックからダンスミュージック、そしてこの曲というサウンドの変遷の早さには舌を巻く。それくらいにWurtSは猛スピードで自分のやりたいことを次々に具現化して進化してきているということである。
するとタイトル通りに青紫色の照明がステージを照らす「ブルーベリーハニー」からサウンドがノイジーなギターロックに回帰していく。
「あなたのキスで このまま溶けてしまうよもう」
のフレーズで口に指を当てたり、溶け出しそうなアクションを見せるうさぎDJのアクションも実に微笑ましいが、この瞬時にガラッとサウンドが切り替わるのも、それが全てWurtSだと何の違和感もなく受け入れられるのも凄いことである。
新井がイントロのリフを繰り返し鳴らす時点ですでに手拍子が起こりまくる(うさぎDJも煽っていたし)のはもちろんWurtSの名前を広く世に知らしめた「分かってないよ」であるのだが、是永はぴょんぴょん飛び跳ねながら明らかにオフマイクで歌詞をずっと口ずさみながらベースを弾き、最後のサビ前にはドラムセットのライザーの上から高くジャンプする。是永がこんなにロックなベーシストだったとは、と思っていると、新井もステージ端から是永とともに吉岡のドラムセットの前に集まるようにしてバンドとしての呼吸を合わせるように演奏する。
その姿は完全にサポートメンバーという枠を超えた、バンドメンバーと言っていいくらいのものだ。それくらいにこの経験豊富な3人が骨の髄までWurtSの音楽に浸っていて、それをたくさんの人に届けるために自分自身のライブかのように力を尽くしてくれている。WurtSはソロではあるけれど、こうしてライブを見ているとWurtSというバンドであるということがよくわかる。
するとピアノのイントロが流れる間にうさぎDJが再びステージ前に出てきてハンドマイク姿のWurtSの横に来て踊るのは「リトルダンサー」。この日はPEOPLE 1のItoは参加しなかったけれど、だからこそ1人で全て歌うWurtSを励ますようにしてうさぎDJがWurtSの方を向いて「頑張れ〜」とばかりに拳を握るような仕草を見せるのも実に微笑ましいものである。
新井のギターが再びストロークするとたくさんの腕が上がるのは「SIREN」であり、エフェクトをかけているといっても音源よりも今のWurtSの歌唱がさらに進化していることを示すような曲である。そもそもこうしてほぼ曲間なく歌い続けまくっているというのも凄いのであるが、それはまさにWurtSのライブが「鳴り止まないサイレン」であるということだろうか。
そんなWurtSは一息入れるようにして、
「もう少しでクリスマスですね。まだライブで2回くらいしかやってないんですけど、クリスマスの曲をやっていいですか?」
と言って演奏されたのはもちろんこのお台場も徐々にクリスマス的な電飾などが光るようになってきているのに合わせたような「サンタガール」。新井のカッティングを軸にしたバンドサウンドによって音源よりもさらにロック感、バンド感が増す中、音源に参加しているにしなは来なかったことによってWurtSが全編自身のキーで歌い、うさぎDJが手をゆっくり左右に振る姿に合わせて観客も手を振る。その光景はお台場というデートスポットでもある場所にWurtSという音楽のあかりが灯っていくかのようであった。
そんな「サンタガール」で本編を終えると、防護服を着た男性が再び登場してまだ割れない卵を見て
「お前たち、これが最後のチャンスだぞ」
と言ってから入れ替わりでアンコールでメンバーたちが登場。WurtSはこのツアーの白いTシャツに着替えており、吉岡の激しく力強いドラムが牽引する「ふたり計画」が鳴らされる。うさぎDJが手を揃えるようにして踊る姿もさらにリズミカルになるが、ダンスミュージック色が強くなった「MOONRAKER」においてこの曲が収録されているということがWurtSがこれから先もこうしたギターロックサウンドの曲を鳴らしていくということを示している。
それを証明するようにWurtSはやはり
「MCで言うこと書いてきたのに全部忘れちゃった(笑)」
と言いながら来年のライブハウスツアーの告知を
「今日みたいなコンセプチュアルなものじゃなくて、もっとストイックなものになると思う。今年はリリースばかりしていたけど、来年はもっとライブをやっていこうと思っているんでよろしくお願いします」
と口にし、TikTokでお題を募集して作ったという新曲を披露するのだが、この曲が完全にギターロックサウンドの、サビに向かって一気に浮上するような構成とアレンジになっているというのが承知的だ。というよりそうして自由自在に自身の音楽性を拡張していったり原点に戻っていったりすることができるからこそ、次にはどんな曲が発表されるんだろう?と楽しみになるのである。
そんなライブの最後に演奏されたのは前回のツアーでもアンコールの最後に演奏されていた「地底人」で、てっきりコンセプト的にこの曲で卵が割れて中から地底人が登場するのかと思っていたのだが、演奏後にかすかに割れた卵の中から巨大な目がこちらを覗き込むというさらなるストーリーの続きを感じさせる終わり方となった。
「君と居る世界がどうなって行くのか
君と観る世界
君が居る世界」
と結ばれるこの曲はこれから先もWurtSが今までに我々が見たことのない世界を作って見せてくれるということを示唆しているように感じる。
アウトロでは先にWurtSがステージから去り、バンドメンバーが激しい演奏を見せてキメを打つ。是永がカメラ目線でWマークを作っていく姿も含めてやはりこのメンバーも含めてWurtSというバンドのライブだったし、うさぎDJが最後に観客に向かって手を広げる姿はアトラクションが終わって観客を送り出すかのようだった。
このストーリーの続きは今後のMVなどで明らかにされていくらしいが、おそらくWurtSの頭の中には我々が想像する遥か先の未来までも思い描いているものがあるはず。そのために曲も作っているだろうし、解禁されてないライブもたくさんあるだろう。
間違いなくそうして来年以降はさらに猛スピードで進化を果たしていくのは間違いないが、ライブ自体はまだ数えられるくらいしかライブをやってないとは思えないほどの出来だ。それはメンバーはもちろん、WurtSの声にはエフェクトをかけていてもそこから確かな衝動を感じられるからである。果たしてその進化を果たした後にWurtSは自分がどこまでたどり着くことをイメージしているのだろうか。そんなWurtSの存在と音楽に、僕は夢中。
1.コズミック
2.魔法のスープ
3.僕の個人主義
4.オブリビエイト
5.BOY MEETS GIRL
6.NERVEs
7.Talking Box
8.Capital Bible
9.SPACESHIP
10.SWAM
11.MOONRAKER
12.ブルーベリーハニー
13.分かってないよ
14.リトルダンサー
15.SIREN
16.サンタガール
encore
17.ふたり計画
18.新曲
19.地底人
雨が降るお台場は驚くくらいに若い人ばかりで、WurtSの今の客層がどういったものかということを感じさせるのであるが、場内に入るとなんだか遊園地のアトラクションに入り込んだかのような(ディズニーランドのホーンテッドマンション的な?)ステージの作りになっており、動物のうめき声のような音が延々と流れる中、時折アナウンスで
「宇宙開発の旅に出かけましょう」
という声も聞こえる。つまりはなかなかにコンセプチュアルなライブになるであろうことがわかる。
開演時間の19時になったあたりで客席に一気に観客たちがなだれ込んでくると、誰もが気になっていたであろうステージ中央に鎮座する巨大な卵が薄暗い中で光る中、防護服の男性とスイムスーツのような服を着た女性がステージに登場。どうやらこの卵は地底人の卵であり、それを孵化させるためには高い体温が必要で、その体温を高くして孵化させるための実験としてWurtSというアーティストを招いたので我々で熱くして孵化させて欲しいというコンセプトであることが告げられる。地底人というのはWurtSの中でも大事な曲のタイトルになっているが、果たしてどう展開していくのだろうか。
そうしたコンセプト紹介の後にステージにはWurtSのライブではおなじみのピンクのうさぎ(DJ)が登場し、「かわいい〜」という声も客席から漏れる中で新井弘毅(ギター)、是永亮祐(ベース)、吉岡絋希(ドラム)という経験豊富な凄腕バンドメンバーたちが続いて登場し、最後にキャップを目深に被ってやはりはっきりとは顔が見えないWurtSがステージに登場すると大きな拍手が起こる中、「MOONRAKER」収録の「コズミック」からライブはスタートする。コンセプトはあるとはいえやはりサウンド自体は同期を使いながらもストレートなギターロックと言えるものであり、WurtSも歌唱にはエフェクトをかけているものの、シンプルと言っていいライブである。
それをシンプルなままにしないのはうさぎDJの存在であり、曲終わり間際には同期の音に合わせてピアノを弾くような仕草を見せたりというパフォーマンスを見せる。コンセプト的な演出がなかったらひたすらストイックに曲を連発していくと言ってもいいWurtSのライブにおいてこのうさぎDJはエンタメ性を発揮する重要な存在になっていると言えるのかもしれない。
そんなうさぎDJが歌詞や効果音的な同期に合わせて動くのがやはりかわいいと思ってしまうような「魔法のスープ」から、新井がギターを強くストロークするとWurtSの一般社会や世間と上手く迎合できない心境を歌詞にした「僕の個人主義」と自身もギターを弾く前半はギターロックと言えるような曲で飛ばしていくのであるが、そんな心情や感情が繋がるような「オブリビエイト」も含めて、キャッチーなギターロックとはいえそのサウンドはシューゲイザーやグランジの影響まで感じさせるような、つまり全く今の最先端的なものではない。むしろ作品のタイトルに掲げたように1990年代後半にSUPERCARがデビューした時のサウンドを彷彿とさせるような「リバイバル」的なものであり、そんなサウンドの音楽に満員の若い観客が夢中になって腕を挙げている。それはWurtSがリバイバルを引き寄せたとも言えるし、それが2020年代の今に巡ってくるのをわかっていたようにこの音楽を鳴らしているというのはさすが「研究者」である。
「WurtSですー。今日はツアーファイナルですよろしくお願いしますー」
と早くもここで観客に手を振りながらWurtSが挨拶をすると、自身はギターを置いてダンサブルなサウンドへと変化していく流れになることを告げるように「BOY MEETS GIRL」へ。WurtSの歌唱も気だるさをエフェクトするようなものではなくてヒップホップ的な韻を強調するものに曲のサウンドに合わせて変化していくのであるが、アウトロでは絶対に音が出ていないのにうさぎDJが音に合わせてトランペットを吹く仕草を見せるのが面白い。この日はエナジードリンクの会社もライブに花を送っていたのだが、そのタイアップとなったこの曲にさりげなく
「未体験ゾーン」
というタイアップ先のフレーズを忍ばせるあたりはさすがとしか言いようがない。
そんなダンサブルなサウンドとヒップホップ的な歌唱は「NERVEs」へと繋がっていくのであるが、音源ではバンドサウンドとは言い難いようなこうした曲も吉岡のドラムを筆頭にした生のリズムによって実にダイナミックなライブ感を感じさせるものへと変化している。自分はこのメンバーたちをそれぞれシーンに登場した時のバンド(serial TV drama、雨のパレード、plenty)からライブを見て知っているのであるが、やはりそのキャリアと実力によってWurtSのライブが成り立っていると言える。
「何を言おうとしていたか忘れちゃった…(笑)
今年1番バズった曲をやります(笑)」
と、緊張ゆえか逆にテンションが上がりすぎているゆえか、MCの内容を完全に忘れてすっ飛ばしながら演奏された静謐なエレクトリックサウンドの「Talking Box」では
「Dance with me
Dance with you」
というフレーズ部分でリズムに合わせてWurtSが自身で両腕を高く掲げて手拍子をし、それが客席にも広がっていく。ライブ経験はまだまだ浅いがそれでも自分なりにライブを盛り上げよう、来てくれた人に少しでも楽しんでもらおうと思ってライブをしていることが伝わってくる。今年1番バズったのかどうかはわからないけれど。
するとここで一旦ステージが暗転してメンバーが捌けるとステージに鎮座する巨大な卵にヒビが入り始めるのであるが、オープニングに登場した女性が再び現れ、実はこの卵は危険なものであり、絶対に孵化させてはいけないということを口にするのであるが、防護服を着た男性にスタンガン的なもので意識を失わされてしまい、そのまま男性が孵化させるためにさらなる盛り上がりを要求する。
そうしてステージに戻ってきたのはWurtSとうさぎDJの2名だけであり、同期のサウンドと歌唱のみという形でピアノのサウンドとトラップ的なリズム、WurtSのヒップホップ、R&B的な歌唱による「Capital Bible」が演奏されてさらに深いダンスミュージックへと潜っていく。
「Capital Bible is Miracle」
というWurtSによるリフレイン的な歌唱は聴いていて実にクセになるというか、削ぎ落としたようなサウンドだからこそWurtSの音楽に宿る中毒性をどっぷりと感じられる曲である。
するとうさぎDJがステージ前に出てきて今まで以上に観客の手拍子を煽ったりするのはピアノのイントロによって始まるWartS流のEDMと言っていい「SPACESHIP」で、WurtSもマイクを持ってステージを左右に動き回りながら歌う。顔は隠れてはいるが帽子の目元には穴が空いているだけにちゃんと視界は見えているようだ。
バンドメンバーが合流すると、デジタルなサウンドで「3,2,1」というカウントが流れ、そのカウントを合図に観客が飛び跳ね踊りまくるのは「SWAM」と、ピアノやホーンを主体にしたダンスミュージックさをさらに強めた曲が生バンドの演奏によって鳴らされる。よって音源よりもさらに迫力あるロックなダンスサウンドになっているのであるが、こうしてノイジーとも言えるようなギターロックから始まってダンスミュージックへと大胆に舵を切っていくというあたりもSUPERCARが「Futurama」〜「HIGH VISION」でロックとダンスミュージックの融合を図っていた時期のことを思い出させる。
そんなWurtSの現状の最新曲がEPのタイトルにもなっている「MOONRAKER」であり、ジャズやビッグバンド的な音楽の影響を感じるようなホーンのサウンドはいつかは同期ではなくて生の管楽器とバンドサウンドが融合するライブを見てみたいとも思わせてくれる。やはりWurtSはMCをすっ飛ばして、
「MV公開されたばかりなんで見てください」
と告知をしていたが、この短期間でのギターロックからダンスミュージック、そしてこの曲というサウンドの変遷の早さには舌を巻く。それくらいにWurtSは猛スピードで自分のやりたいことを次々に具現化して進化してきているということである。
するとタイトル通りに青紫色の照明がステージを照らす「ブルーベリーハニー」からサウンドがノイジーなギターロックに回帰していく。
「あなたのキスで このまま溶けてしまうよもう」
のフレーズで口に指を当てたり、溶け出しそうなアクションを見せるうさぎDJのアクションも実に微笑ましいが、この瞬時にガラッとサウンドが切り替わるのも、それが全てWurtSだと何の違和感もなく受け入れられるのも凄いことである。
新井がイントロのリフを繰り返し鳴らす時点ですでに手拍子が起こりまくる(うさぎDJも煽っていたし)のはもちろんWurtSの名前を広く世に知らしめた「分かってないよ」であるのだが、是永はぴょんぴょん飛び跳ねながら明らかにオフマイクで歌詞をずっと口ずさみながらベースを弾き、最後のサビ前にはドラムセットのライザーの上から高くジャンプする。是永がこんなにロックなベーシストだったとは、と思っていると、新井もステージ端から是永とともに吉岡のドラムセットの前に集まるようにしてバンドとしての呼吸を合わせるように演奏する。
その姿は完全にサポートメンバーという枠を超えた、バンドメンバーと言っていいくらいのものだ。それくらいにこの経験豊富な3人が骨の髄までWurtSの音楽に浸っていて、それをたくさんの人に届けるために自分自身のライブかのように力を尽くしてくれている。WurtSはソロではあるけれど、こうしてライブを見ているとWurtSというバンドであるということがよくわかる。
するとピアノのイントロが流れる間にうさぎDJが再びステージ前に出てきてハンドマイク姿のWurtSの横に来て踊るのは「リトルダンサー」。この日はPEOPLE 1のItoは参加しなかったけれど、だからこそ1人で全て歌うWurtSを励ますようにしてうさぎDJがWurtSの方を向いて「頑張れ〜」とばかりに拳を握るような仕草を見せるのも実に微笑ましいものである。
新井のギターが再びストロークするとたくさんの腕が上がるのは「SIREN」であり、エフェクトをかけているといっても音源よりも今のWurtSの歌唱がさらに進化していることを示すような曲である。そもそもこうしてほぼ曲間なく歌い続けまくっているというのも凄いのであるが、それはまさにWurtSのライブが「鳴り止まないサイレン」であるということだろうか。
そんなWurtSは一息入れるようにして、
「もう少しでクリスマスですね。まだライブで2回くらいしかやってないんですけど、クリスマスの曲をやっていいですか?」
と言って演奏されたのはもちろんこのお台場も徐々にクリスマス的な電飾などが光るようになってきているのに合わせたような「サンタガール」。新井のカッティングを軸にしたバンドサウンドによって音源よりもさらにロック感、バンド感が増す中、音源に参加しているにしなは来なかったことによってWurtSが全編自身のキーで歌い、うさぎDJが手をゆっくり左右に振る姿に合わせて観客も手を振る。その光景はお台場というデートスポットでもある場所にWurtSという音楽のあかりが灯っていくかのようであった。
そんな「サンタガール」で本編を終えると、防護服を着た男性が再び登場してまだ割れない卵を見て
「お前たち、これが最後のチャンスだぞ」
と言ってから入れ替わりでアンコールでメンバーたちが登場。WurtSはこのツアーの白いTシャツに着替えており、吉岡の激しく力強いドラムが牽引する「ふたり計画」が鳴らされる。うさぎDJが手を揃えるようにして踊る姿もさらにリズミカルになるが、ダンスミュージック色が強くなった「MOONRAKER」においてこの曲が収録されているということがWurtSがこれから先もこうしたギターロックサウンドの曲を鳴らしていくということを示している。
それを証明するようにWurtSはやはり
「MCで言うこと書いてきたのに全部忘れちゃった(笑)」
と言いながら来年のライブハウスツアーの告知を
「今日みたいなコンセプチュアルなものじゃなくて、もっとストイックなものになると思う。今年はリリースばかりしていたけど、来年はもっとライブをやっていこうと思っているんでよろしくお願いします」
と口にし、TikTokでお題を募集して作ったという新曲を披露するのだが、この曲が完全にギターロックサウンドの、サビに向かって一気に浮上するような構成とアレンジになっているというのが承知的だ。というよりそうして自由自在に自身の音楽性を拡張していったり原点に戻っていったりすることができるからこそ、次にはどんな曲が発表されるんだろう?と楽しみになるのである。
そんなライブの最後に演奏されたのは前回のツアーでもアンコールの最後に演奏されていた「地底人」で、てっきりコンセプト的にこの曲で卵が割れて中から地底人が登場するのかと思っていたのだが、演奏後にかすかに割れた卵の中から巨大な目がこちらを覗き込むというさらなるストーリーの続きを感じさせる終わり方となった。
「君と居る世界がどうなって行くのか
君と観る世界
君が居る世界」
と結ばれるこの曲はこれから先もWurtSが今までに我々が見たことのない世界を作って見せてくれるということを示唆しているように感じる。
アウトロでは先にWurtSがステージから去り、バンドメンバーが激しい演奏を見せてキメを打つ。是永がカメラ目線でWマークを作っていく姿も含めてやはりこのメンバーも含めてWurtSというバンドのライブだったし、うさぎDJが最後に観客に向かって手を広げる姿はアトラクションが終わって観客を送り出すかのようだった。
このストーリーの続きは今後のMVなどで明らかにされていくらしいが、おそらくWurtSの頭の中には我々が想像する遥か先の未来までも思い描いているものがあるはず。そのために曲も作っているだろうし、解禁されてないライブもたくさんあるだろう。
間違いなくそうして来年以降はさらに猛スピードで進化を果たしていくのは間違いないが、ライブ自体はまだ数えられるくらいしかライブをやってないとは思えないほどの出来だ。それはメンバーはもちろん、WurtSの声にはエフェクトをかけていてもそこから確かな衝動を感じられるからである。果たしてその進化を果たした後にWurtSは自分がどこまでたどり着くことをイメージしているのだろうか。そんなWurtSの存在と音楽に、僕は夢中。
1.コズミック
2.魔法のスープ
3.僕の個人主義
4.オブリビエイト
5.BOY MEETS GIRL
6.NERVEs
7.Talking Box
8.Capital Bible
9.SPACESHIP
10.SWAM
11.MOONRAKER
12.ブルーベリーハニー
13.分かってないよ
14.リトルダンサー
15.SIREN
16.サンタガール
encore
17.ふたり計画
18.新曲
19.地底人
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