ACIDMAN presents 「SAITAMA ROCK FESTIVAL "SAI" 2022」day1 @さいたまスーパーアリーナ 11/26
- 2022/11/27
- 22:50
今も様々なフェスやイベントに若手バンドたちと並んで出演するという最前線を走り続けているACIDMANも今年で25周年イヤーを迎えた。その周年にはベスト的な選曲のツアーも開催したりしていたが、その周年イヤーの集大成となるのがさいたまスーパーアリーナでの主催フェス「SAI」であり、20周年の時以来実に5年ぶりの開催である。
その5年前もRADWIMPSやMAN WITH A MISSIONの出演が発表された瞬間にチケットが手に入らなくなるという状況になったため、約1年前の開催発表時点から「ACIDMANを信じろ」を合言葉に2日ともチケットを取ったのだが、それが間違いではなかったことがわかるような、ACIDMANの先輩、同年代、後輩全てが豪華な面々が集結。
そんな大事なフェスなのだがこの日は遅刻してしまい、着いた時にはトップバッターの東京スカパラダイスオーケストラがすでにライブ中。ゲストにメンバーと同じ白スーツを着たACIDMANの大木伸夫が登場して「追憶のライラック」(音源ではハナレグミのボーカル曲)をコラボしている真っ最中。トップバッターのゲストに出演するというあたりは大先輩であるスカパラへのACIDMANからの感謝の現れであるが、GAMO(テナーサックス)による
「どこが1番盛り上がってるんだー!」
と煽る「Paradise Has No Border」でメンバーが左右に展開して朝イチから大入りの客席を盛り上げまくっていた。スクリーンにはパーカッションを叩く大森はじめやハットを被らない姿がめちゃイケメンに見えるNARGO(トランペット)の姿もアップで映るが、それこそがスカパラの持つ幸福な音楽の力と言えるだけに最初から見れなかったのが悔やまれる。去り際には谷中敦(バリトンサックス)が茂木欣一(ドラム)とともに客席を背景に自撮りするというのもスカパラなりの幸福感だった。
11:00〜 DOPING PANDA
ACIDMANとは同世代の盟友でありながらも5年前には出演していなかったのはこのバンドは解散していて活動していなかったから。今年復活してツアーを行った際には
「大木は1番「再結成しろ」って言ってきたのに「SAI」には俺たちを呼んでくれない(笑)」
とMCで言っていたが、その思いが通じたことによってかこうして出演することができるようになった。
ハウス的なSEが流れてから「DOPING PANDA」というバンド名がコールされてメンバーが登場。サングラスをかけてトロピカルな服装のHayato Beat(ドラム)、ピンクのスーツのTaro Hojo(ベース)に続いてYutaka Furukawa(ボーカル&ギター)が登場すると、白スーツ姿なのが若干スカパラに合わせたようにも見えてくる。
そんなFurukawaがギターを弾きながら歌い始めたのは再結成後にリリースされた新作アルバムの1曲目に収録されている「Imagine」なのだが、Furukawaは明らかに緊張しまくっているか、あるいは感極まっているのかというのがわかるくらいにボーカルが不安定だ。自らを「ロックスター」と称するビッグマウスな男であるが、それは自分への自信のなさからくるものであることをもうファンは知っているし、解散してから再結成に至るまでにはその弱い部分も隠すことなく出してきた。だからそのボーカルの不安定さにはFurukawaの人間性がそのまま現れているのだ。
すると早くも背面のスクリーンには「∞」の文字が浮かび上がり、デジタルな声で「∞ダンスタイム」突入の合図が。イントロでセッション的なアレンジが施されるのもこの∞ダンスタイムならではであるが、「The Fire」からはそのノンストップダンスタイムへ。Furukawaは間奏での観客の手拍子を小さくしてから一気に爆発させるように大きくしていくというロックスターっぷりを見せると、リズムに合わせてTaroが手拍子をするとそれが観客にも広がっていく「Hi-Fi」ではFurukawaのタッピングも駆使したギターソロが炸裂し、自身を
「アイムア、ロックスター!」
と称するあたりはさすがだ。少しずつボーカルも調子を戻しつつあるが、コーラスも含めて名前通りにダンサブルなビートを刻み、近年はサウンドチェックの時点で観客に感謝を告げるHayatoの姿や存在により頼もしさを感じる。
さらにはイントロの段階で太陽も踊り出すくらいに夏が戻ってきたかのように情熱的に踊らせまくる「beautiful survivor」と続くとアリーナだけではなくスタンド席の観客たちも踊りまくっている。解散前だったらこうしたアリーナでも満員になりそうなくらいに動員力を誇っていた時期もあったが、今でもドーパンのダンスロックはこうしてたくさんの人を踊らせることができるものだということがわかる。
観客が腕を左右に振って踊りまくる「Transient happiness」と止まらないダンスっぷりはやはり∞ダンスタイムと言えるものであり、これがフェスのドーパンだなと久しぶりに思った人もたくさんいたんじゃないだろうか。再結成してからは意外にもそんなにいろんなフェスに出ているわけではないし、ステージの規模感ではこのフェスが最大レベルと言えるだけに。
そんなこのステージに立っているのはドーパンがミラクルを起こしたからであるということを感じさせてくれるのがデジタルなサウンドを取り入れた「MIRACLE」であり、Furukawaはステージ真ん中に立って足を開いたり閉じたりしながらギターを弾きまくる。その姿から滲み出る華やかなオーラはやはりロックスターだと思えるし、何よりもFurukawaはギターがめちゃくちゃ上手い。ソロ、さらにはBase Ball Bearのサポートギターとギターを弾くことをやめなかったからこそ今でもサビついてないどころか進化しているとすら感じられる。
そんなドーパンの最新形が「Silhouette」であり、今もどこまでもキャッチーだからこそこんなにも踊ることができるバンドであるということを示す曲であるが、この曲がフェスのセトリに、∞ダンスタイムの中に入ってくるというのが今のドーパンなのである。昔の定番曲だけをやるんじゃなく、ちゃんと今の自分たちの曲を作って演奏する。そこにこそ再結成した理由がある。
そんなFurukawaは、
「やっぱりバンドは最高だよ!でもバンドを続けるのって本当に難しいし、本当に大変。俺が言うんだから説得力あるでしょ?(笑)
だからずっと続けてきて、こんな景色を作ることができるあの3人を心から尊敬してます!大木はずっと「再結成しろ」って俺に言ってたけど、今日に間に合って良かった!ありがとうACIDMAN!今度は俺たちが対バンに誘います!今年最後のライブだけど、今日が、これが最後で良かった!」
とACIDMANへの思いを口にする。今こうしてドーパンがこのステージに立っているのはずっと「再結成しろ」と言ってくれた大木のおかげでもあるのだろうし、大木はもしメンバーが険悪だったり、やりたくなさそうならそんなことは絶対に言わない人だ。まだFurukawaの中に、3人の中に燃え尽きていないものがあることをわかっているからそう言っていたのだろう。
だからこそ最後の「Crazy」は早る気持ちによってかテンポが速く感じられるような中で起こる手拍子の中で歌われる
「I am sorry me
ミラクル起こせなくてさ
でもファイヤーは
赤く焦がれ続けてる」
という歌詞がドーパンとACIDMANの2組でミラクルを起こしたように感じられた。それはこのフェスだからこそ感じられたものであるし、こうしてドーパンのダンスロックが今になってアリーナで響いているのを観ていると、あの頃(それこそACIDMANもフェスのメインステージに立っていた頃)に我々が夢中になって踊っていた音楽は今でもカッコいい音楽なんだと確信させてくれる。
1.Imagine
∞ダンスタイム
2.The Fire
3.Hi-Fi
4.beautiful survivor
5.Transient happiness
6.MIRACLE
7.Silhouette
8.Crazy
12:00〜 SiM
この2日間のラインナップの中でもトップクラスに意外な出演者と言える、SiM。それは世代も音楽性も全く違うし、普段から対バンしているような関係性でもないからである。
なのでラウドなSEで登場してもどこかいつもとは少し違う空気というか、アウェーな感じがするというのはこうしたアリーナに当たり前に立つようになったバンドであるだけにどこか新鮮な感じもするのであるが、
「SiMです!頭振れ!」
とMAH(ボーカル)が叫んで演奏された最新EP収録曲「Light it up」のラウドなサウンドはやはり異質なものでありながらもこの上ない強さを感じさせる。照明が光を感じさせるようなものになっているあたりも曲に合わせたものであるが、「Blah Blah Blah」では背面のスクリーンに専用の映像が映し出されるというのもアリーナクラスのバンドならではだ。SINは踊るようにしてベースを弾き、GODRi(ドラム)はコーラスを叩きながら力強いドラムを叩く。SHOW-HATE(ギター)はカメラに近寄って笑顔でカメラ目線を送りながらギターを弾き、その様子がスクリーンに映し出される。MAHも観客が声を出せない状況の中でもステージを左右に歩き回りながら観客を煽りまくっている。
すると妖しげなサウンドと照明によって始まる「Dance in the dark」ではMAHがくねくねと体を動かしながら歌い、タイトル通りに暗闇の中から光に向かって踊るような展開を見せるようにサビに向けてラウドに突き抜けていく。ただラウドなだけではなくてこのバンドの表現力の豊かさを感じるような曲である。
そんな曲を演奏するとMAHは
「おっさんばっかり!右見ても左見てもおっさん!だから18年目なのにこの2日間で最年少!普段はフェスの時はソファに座ってふんぞりかえってるけど、今日は「おはようございます!」って挨拶しててやりづらい!(笑)
でもバンドの格はワンチャン1番上なんじゃないか?って思ってる。だって全米ビルボードチャートで1位を獲ったから。その全米1位の音をお前たちに聴かせてやろう!」
と悪魔キャラ通りに毒づきながら「The Rumbling」へ。スクリーンにはこの曲が世界に広がったきっかけである「進撃の巨人」の映像も映し出されるのであるが、日本とアメリカはウケる音楽が全く違うとはいえ、こんなにタイアップだからキャッチーにしようみたいな感じが一切ない、SiMの重さのみを突き詰めたような曲が全米1位になるって本当に凄いことだと思うし、日本のロックバンドファンとしても誇りに思う。
するとMAHはマイクスタンドに手をかけながら、
「言うの忘れてた。ACIDMAN25周年おめでとうございます。出会ってから10年くらいなんで、どんな道を辿ってきたのかは見てないけど、この2日間のメンツがそれを示してると思います。年下の友達いないんだなぁって(笑)
まぁこれからも頑張ってくれ(笑)」
という先輩に悪態をつくような態度であってもそれがMAHなりの愛情表現だということは袖でそのMCを聴いていた大木が手を振っていたことからもわかるのだが、その後に演奏されたバラード曲「The Sound Of Breath」の映像も含めた壮大なスケールはACIDMANのこうしたバラード曲と通じるものを感じるし、だからこそこうしてこの曲をこの日のセトリに入れたんじゃないかと思う。
そしてMAHは
「さいたまスーパーアリーナにお集まりの暇人の皆さん!笑ってるそこのお前だよ!そんな皆さんに俺だから言っていいような言葉を送ります!死ねー!」
と中指を立てて思いっきり叫んで演奏されたのはもちろん「KiLLiNG ME」。SHOW-HATEもSINも楽器を振り回しまくりながら演奏すると、間奏ではMAHが観客をその場に座らせるのだが、明らかにその座るスピードが遅いのがSiMのライブに慣れてない人が多いことを感じさせる。実際にMAHが
「みんなでジャンプしようぜ!」
と言うとその言葉の直後にジャンプする観客も現れてMAHに
「まだだよ、バカ」
と容赦なく切り捨てられるのだが、そうしてみんなで一斉にジャンプをするとその後の盛り上がりっぷりがガラッと変わった。一気にホームらしくなった。それはかつてはアウェーなライブで戦ってきて勝ってきたからこそこの規模のバンドになったSiMの強さを感じさせるものだった。
演奏が終わってメンバーがステージから去っていくと、え?もう終わり!?と思うくらいに一瞬のうちに終わってしまった感もあったけれど。
1.Light it up
2.Blah Blah Blah
3.Dance in the dark
4.The Rumbling
5.The Sound Of Breath
6.KiLLiNG ME
13:00〜 back number
SiMとはサウンドや立ち位置が全く違うけれど、こちらもこのフェスに出るのは少し意外な気もする、back number。それはかつてCOUNTDOWN JAPANに出演した際にトリ同士で被ったことに大木がショックを受けていたのを見たことがあったからかもしれない。
登場前にはラジオDJの藤田琢己が「あとのまつり」「逃した魚」というこのバンドの作品名を出しながらバンド紹介をしていたが、その中で口にされていたように、今やドームクラスのバンドであるだけにこうしてフェスで見れるのは貴重な機会でもある。
おなじみのサポートメンバーを含めた6人編成でステージに現れると、シャンシャンとした鈴の音のイントロが鳴っただけで大きな拍手が起こる。この会場の周りも徐々にそうしたシーズンになってきていることを告げる、壮大なオーケストラサウンドをキーボード担当のメンバーが鳴らす「クリスマスソング」だ。清水依与吏(ボーカル&ギター)が歌い始めると「こんなに歌上手かったっけ?」と思うくらいの声量の大きさと歌唱力の高さに驚いてしまうのだが、これはバンドからの一足早いクリスマスプレゼントと言える選曲かもしれない。
清水のロマンチックさが炸裂している=それは今や稀代の作詞家と言えるような存在になった、ハートを奪うという意味合いでのラブストーリーを綴った「怪盗」でもその歌唱力は発揮されるのであるが、やはりどこか情けない男らしさが滲んでしまうのはどんなにドームクラスのバンドになってもback numberらしさである。
するとポップだったサウンドが一気にロックに振り切れるのは「MOTTO」であるが、そのロックサウンドの中心にあるのは小島和也(ベース)と栗原寿(ドラム)によるリズムの強さだ。だからこそサポートメンバーたちが脇を固めてくれていても、どこか真ん中の3人がぎゅっと固まっているような音に感じる。あれだけ重いサウンドのSiMの後でもこう感じられるというのは、やはり根がライブハウスから始まったロックバンドということだ。これには自分もそうだけれど「ポップな曲やバラードのラブソングが多いバンド」と思っていた人も驚いたんじゃないだろうか。
そんな中でライブ初披露となったのはリリースしたばかりの新曲「アイラブユー」。てっきり曲タイトルをニュースで見た時にはタイトルフレーズなり「愛してる」なりを連発するような曲なんじゃないかと思っていた。でも全くそんなフレーズは出てこない。それを使わずに日常的な情景の描写だけでそのタイトルを感じさせる心情に行きつくという表現力の凄まじさが極まっている。「よくあるタイトルの曲」なんて一瞬でも思った自分を恥じたいくらいに。
しかし清水はそんな「アイラブユー」で
「1番大事な新曲のサビで歌詞を間違えてしまいました(笑)」
とミスったことを明かすと、
「18歳の時に聴いた「造花が笑う」「アレグロ」「赤橙」。憧れた。俺もああいうバンドをやりたいって思ってバンド始めたものの、あんなにカッコいいバンドにはなれなかった。あんなカッコいい音も言葉も俺からは出てこなかった。出てくるのは「あの子を振り向かせたい」みたいな歌詞ばかりで(笑)
本当は売れる売れないとか関係なく、自分がやりたいことだけをやるようなバンドになりたかった。俺はそうはなれなかったけど、今日ここに呼んでもらったっていうことは、俺がやってきたことは間違ってなかったんだなって思えました」
とACIDMANに憧れてバンドを始めたけれど、そうはなれなかったということを口にする。その後に演奏されたオレンジ色の照明が足元からメンバーを照らす「水平線」は、なりたかったものになれなかった清水の思いが、目標にしていたものがなくなってしまったコロナ禍で学生生活を過ごしてきた人たちの気持ちと重なっていく。元から自分が言うまでもなく素晴らしい曲が、清水の言葉の後に聞くことによってさらに素晴らしいものに思える。このバンドがこれだけ支持を集めている理由がわかったような気がしていた。
そんな最後にはサポートギターの1人(藤田顕ではない方)がタンバリンを叩きながら軽やかに飛び跳ねまくる「高嶺の花子さん」へ。こうして今聴くとポップなのは間違いないが、四つ打ちのキャッチーなダンスロックとしても聴こえるし、完全に今の日本の音楽シーンのアンセムになっているんだなということがわかるくらいにたくさんの人が腕を上げて飛び跳ねている。
やはり恋愛的な歌詞に自分はほぼ共感することはできないけれど、それでもこうして久しぶりに見たback numberのライブはロックバンドでありながらも日本のど真ん中に響く曲を生み出しているバンドであることを感じさせるには充分なものだった。
確かに清水が言う通りにback numberは ACIDMANとは全然違うバンドだ。言われなかったら影響を受けていることに気付かないくらいに。でもこの日のMCは逆にこのバンドが無理してカッコよくしようとしていない、背伸びをした表現をしていない、ただひたすらに自分という人間から出てくるものを音楽にしているということがわかる。
その純度の高さは自分にとっては紛れもなくロックを感じるものであるし、だからこそback numberの曲からは清水の人間性がそのまま響いてくる。そうしたことが今になってわかった。「逃した魚」からCDを買っていて知ってはいたが、自分にとってはこのバンドこそが逃した魚だったのかもしれない。
リハ.日曜日
1.クリスマスソング
2.怪盗
3.MOTTO
4.アイラブユー
5.水平線
6.高嶺の花子さん
14:00〜 氣志團
こちらも名前だけ見るとなかなかこのフェスに出演している理由が見えづらいバンドだったりする、氣志團。おそらくACIDMANは氣志團主催の氣志團万博に出たことがないというあたりもそう感じてしまう理由の一つかもしれない。
ステージにメンバーが登場すると、衣装が日の丸をあしらったかのような胸元に赤い円が描かれた白ランになっており、星グランマニエ(ギター)がアコギを持ち、早乙女光(ダンス&スクリーム)がバスドラを首からかけて叩き鳴らしており、近年のライブではおなじみの「房総魂」からスタートするのであるが、スクリーンにはリアルタイムで演奏しているメンバーの姿とともに曲の歌詞が映し出されるというのはこのフェスからの氣志團への愛を感じる演出である。その歌詞を歌う綾小路翔(ボーカル)は曲中に思いっきり転んでしまい、真面目な歌なのに最後のサビ前で
「こけちゃいました(笑)」
と首を傾げてみせるのが面白い。この曲を聴くとやはり袖ヶ浦に、今年も最高だった氣志團万博に思いを馳せざるを得ないけれど。
重いバンドサウンドとダンサーたちが綾小路翔と早乙女光とともにフラッグを振り回す姿も含めてカッコいいロックバンドとしての氣志團の姿を見せてくれるのはこちらも近年のライブではおなじみの「NIGHT THE KNIGHTS」であるが、やはり西園寺瞳のギターソロなどはこのバンドの持ち前の演奏力の高さを存分に感じさせてくれるものである。スタンド席にはごく少数ではあるがサイリウムを持っている人の姿も見え、氣志團を見るためにこのフェスに足を運んでいる人がいるということが確かにわかる。
そんな真面目な曲が続いた後には、
「今日は全部出すぜ!出し惜しみしねぇぜ!」
と綾小路翔が口にしておなじみのリフが鳴らされて「One Night Carnival」へ。かなりアウェーかと思いきや、普通にアリーナも埋まりきっているし、振り付けを完璧に踊れる人がたくさんいるというのはACIDMANと同じ時代を生きてきたバンドだからと言えるだろうか。そんな曲の最後のサビ前にはかつては観客がサビを大合唱していた部分で無音となり、綾小路翔が
「俺はライブをしている中でこの合唱が1番好きだった。同じ曲の同じフレーズを歌うことでみんなが一つになれることを感じられるから」
と話し始め、その後にはこちらも近年おなじみの内容である、コロナ禍になってライブができなくなり、さらには不要不急と言われるようになったことによって人生で最も凹んでいたことが語られ、同じように凹んでいたであろう音楽が大好きな観客たちに
「お前たちさ氣志團の永遠の2個下の後輩だ。この国では先輩が後輩の面倒を見るのが決まりだ!俺たちは永遠の16歳だから、お前たちは永遠の14歳だ!みんな同級生だから周りに挨拶しとけ。後ろ振り向いて挨拶しとけ。みんなが一斉に後ろ振り向くと後ろの人も後ろを向いてるから挨拶できないけど(笑)
だから先輩がお前たち後輩の疑問を全部解決してやる!お前たちの疑問や悩みはわかってる!
「なんで氣志團今日なの?明日のミスチルかエルレかホルモンと変わればいいのに」
「そもそもなんで氣志團出てるの?」
うるせー!俺たちとACIDMANは同期の桜だ!ずっと一緒に音楽シーンを生きてきたんだ!氣志團とACIDMANはほぼ同じバンドだ!ACIDは酸っていう意味だ。(自分たちの衣装の匂いを嗅いで)酸っぱい匂いがする!だから俺たちも酸マンだ!ACIDDANかKISHIDDMANかわからないけど!」
と言うとほぼ同じバンドであるということを証明するために「One Night Carnival」と「造花が笑う」をマッシュアップした「One Night Carnival 2022 〜造花が踊る〜」が演奏されるのであるが、いつの間にか白鳥松竹梅(ベース)はサングラスを外してキャップを被るというACIDMANの佐藤雅俊と同じ姿になっており、高速でベースを鳴らしまくる。「造花が笑う」の演奏に無理矢理「One Night Carnival」の歌詞(と一部メロディ)を乗せるという、他のアーティストのものと同様のものではあるのだが、どんなアーティストのどんな曲をも演奏できる技術とアレンジ力(特にサポートの叶亜樹良のドラム)は氣志團の持つバンドとしての地力の強さを否が応でも感じざるを得ない。早乙女光は彼なりの造花のコスプレをして笑うというパフォーマンスはやはりコミカルさも兼ねているけれど、これは氣志團にしかできないリスペクトの表明の仕方だ。この日は「One Night Carnival」の最後のサビは掻き消されてしまっていたけれど。
そんな誰しもが「氣志團スゲェな…」と思ったであろうパフォーマンスの後には綾小路翔がギターを鳴らし、早乙女光はブルースハープを鳴らす「落陽」へ。まさかこのフェスでこの曲を演奏するとは思わなかったというのはこの曲もまた「房総魂」同様に袖ヶ浦海浜公園のことを、氣志團万博のことを歌った曲だからだ。マジな氣志團のカッコよさと名曲っぷりを感じさせるこの曲を来年もまたあの何にもない場所でこの照明のようなオレンジの夕日が差し込む中で聴くことができたら、と思う。
そんなライブの最後はフランク・シナトラの名曲の日本語パンクカバーの「MY WAY」。訳詞も本人たちのものではないだけに口調などがやたら丁寧に感じてしまうけれども、その歌詞は氣志團の生き様そのものだからこそこうしてカバーしてリリースし、こうやってライブの最後に演奏されたのだろう。演奏が終わるとそれぞれが退場SEに合わせて踊りながら去っていくのも含めて、カッコいいロックバンドでありながらもエンターテイナーな、自分たちにしかできないやり方でACIDMANの25周年を祝った氣志團のライブだった。
すでに発表されている通りに氣志團は年明けの日本武道館ワンマンをもって綾小路翔の喉の治療のために療養期間に入る。氣志團万博を目標に復帰するらしいが、確かに近年のライブでは喉がキツそうな時もあったし、原曲キーで歌わなくなった部分も多い。
でもそれを完璧に歌えるようにするための治療と休養であり、きっと戻ってきた時にはさらに最強のロックバンドでありエンターテイナーになるのは間違いない。ACIDMANがそうであるように、氣志團もこれから先もずっと続いていくために。
1.房総魂
2.NIGHT THE KNIGHTS
3.One Night Carnival
4.One Night Carnival 2022 〜造花が踊る〜
5.落陽
6.MY WAY
15:00〜 LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS +
ACIDMANよりもシーンに登場した世代が一回り上であるだけに完全に先輩枠になるLOW IQ 01。近年のライブの形態であるRHYTHM MAKERS +という4人編成のバンドでさいたまスーパーアリーナのメインステージに立つ。
ライブ前には中津川THE SOLAR BUDOKANのMCとしてもおなじみのジョー横溝がLOW IQ 01を紹介する。LOW IQ 01はハットもジャケットも黒で統一された相変わらずのおしゃれっぷりであり、髪の襟足を緑色に染めている。その出で立ちは50歳を超えているとは思えないくらいにソロになった時から変わっていないような感じがする。LOW IQ 01はなんらかの能力者だったりするのだろうか。
このRHYTHM MAKERS +はギターに2ステージ目となるフルカワユタカ(DOPING PANDA)だけではなくて渡邊忍(ASPARAGUS)もギターで参加しており、そのツインギターが冴えまくる「Little Giant」からスタート。フルカワはギターソロも弾きまくるロックスターっぷりをドーパンのライブだけではなくこのステージでも遺憾無く発揮する。LOW IQ 01はベースを弾きながらの歌唱であることもあってかあまり声が出ていない感じもするが、「Snowman」ではフルカワと渡邊というどちらも自身のバンドではボーカリストである2人がコーラスとしてしっかりサポートする。笑顔のドラマーのDAZEも含めてやはりこのバンドはスーパーバンドと言っていいくらいのメンバーたちによって固められている。
その2人のギターによるコーラスが伸びやかな「Swear」からLOW IQ 01が
「最年長かと思ったけど、スカパラがいた!」
と最年長ではないことを口にするが、スカパラも含めてこのフェスの出演者の先輩枠はどうしてこんなにも若々しいのだろうかと思う。
凄腕ギタリストが2人いることによってフレーズ、サウンドの弾き分けができる「WAY IT IS」でたくさんの観客の腕が上がるのであるが、最前ブロックではやはり最も腕が上がっているのはそこにLOW IQ 01を見たかった人たちが集まっているからであり、フェスの最前ブロックはそうであって欲しいと思っていると、
「12月に新しいアルバムが出ます!その前に23日に配信で先行でリリースされた曲をやってもいいですか!明日なら2人ともいた、細美武士と宮田俊郎(TOSHI-LOW)が参加してる曲を今日は2人なしでやります!」
と言って披露された新曲「Starting Over」はドがつくくらいにストレートなツービートのパンク・メロコアサウンド。バンド時代にはメロコアシーンの代表格として君臨していたLOW IQ 01が今にしてこうしたサウンドに回帰しているというのは何周も回って辿り着いた感があるし、ライブでも2人がゲストとして歌うのを聴いてみたいと思う。
その2人のうち、細美武士は「Delutions of Grandeur」でもコラボしているのだが、当然ながらこの曲もバンドのみで演奏され、だからこそさらにストレートなパンクの疾走感が際立つ。それはそれぞれがパンク・メロコアのシーンに片足浸かっていたこのメンバーの演奏だからかもしれないが、テンションが高過ぎる渡邊はイントロで不思議な腕の挙げ方のダンスを踊ってLOW IQ 01に
「やめてもらっていいですか?(笑)」
とツッコミを入れられてしまう。
そして「Oh Yeah」とLOW IQ 01とメンバーたちも思いっきり叫ぶ「So Easy」ではLOW IQ 01がそのコーラスを観客にも要求する。声出しを少しならしてもいいことをわかっているからこそであるが、こうしてみんなで一緒に声を上げることによってこの男が作ってきた音楽が、曲がメロコアやパンクを軸にしながらも実にキャッチーなものであることがよくわかるのであるが、そんなLOW IQ 01は
「前回、5年前に開催された時に部外者なのに(前回は出演していない)楽屋で1番酒飲んで酔っ払って、帰りの送迎バスでトイレ行きたくなって「バス停めろー!」って言って細美武士と一緒に立ちションしたのをACIDMANの3人が壁になって囲って守ってくれた(笑)」
というどうしようもないようなACIDMANへの感謝とこのフェスの思い出を口にするのであるが、年長者であってもその20歳の大学生みたいな精神性がこの男の若さに表れているのかもしれない。
最後に演奏された、渡邊がやはりテンション高くステージを走り回りながらギターを弾く「Makin' Magic」はそんなLOW IQ 01の変わらなさ、それはこの男の音楽を求め、ライブに来続けている人も含めて今もマジックを起こし続けていることを示していた。
来月にはアルバム発売とライブの告知もし、その活動っぷりからもやはり50歳を超えているとは思えないだけに、これからもずっと変わらずに我々の前で音を鳴らし続けてくれる予感しかない。
リハ.WHAT'S BORDERLESS?
1.Little Giant
2.Snowman
3.Swear
4.WAY IT IS
5.Starting Over
6.Delutions of Grandeur
7.So Easy
8.Makin' Magic
16:00〜 MAN WITH A MISSION
5年前の開催時にも出演していた、MAN WITH A MISSION。前回は「同世代のアーティストを集める」というラインナップだっただけに、究極の生命体でありながらACIDMANと同世代であることが露見してしまっている。
時間になるとSEが鳴って登場するのではなく、すでにステージ上にメンバーがスタンバイしているというのは短い持ち時間の中でたくさんの曲をやろうという意識によるものだろうけれど、この日はスクリーンに歌詞が映し出され、その歌詞をカミカゼ・ボーイ(ベース)が口にする「Emotions」からスタートという文字通りにエモいオープニングであり、トーキョー・タナカもいきなり観客を「ソイ!ソイ!」と煽りまくる。完全に出だしから戦闘モードに入っていることがよくわかる。
自然界の壮大な映像が流れながら演奏されたのはアリーナクラスのバンドだからこそのスケールと映像に見合った力強さを持った「higher」であり、この曲は「Tales of Purefly」収録曲だけにこうして今になってフェスで演奏されるのが意外な曲でもある。というよりこの曲を聴けると思っていた人がどれだけいたのだろうかというくらいである。
するとスクリーンには稲妻のような映像が流れ、ジャン・ケン・ジョニー(ボーカル&ギター)とE・D・ヴェダー(サポートギター)が鳴らすリフにカミカゼとスペア・リブ(ドラム)のキメのリズムが重なるのは「Thunderstruck」。新作から演奏されるのがこの曲というのはメンバーがどれだけAC/DCをリスペクトしているかということでもある。スクリーンにもAC/DCのロゴ的なものが映し出されるというのはその現れである。
「2日間唯一のペット枠です!よろしくお願いします!」
とジャン・ケンが挨拶するのだが、ペットにしては明らかに強すぎるだろうというのがよくわかるのが「FLY AGAIN」で、タナカとステージ前に出てきたDJサンタモニカに合わせて観客が腕を伸ばして左右に振る。その際にサンタモニカとカミカゼの目が発光するというギミックも屋内会場でのフェスだからこそ発揮できるものである。
すると都会的な夜景の映像の上に曲の歌詞が映し出され、さらにデジタルな映像とも融合していくという演出が底の方から一気に突き抜けていくかのような曲展開の「INTO THE DEEP」。このスケールの大きさは間違いなくこのバンドならではのものであるが、ジャン・ケンは
「こうしてこのイベントが開催されているのはこの2年半以上、あなたたちが我慢してきて勝ち取ったものがあるからです」
と語る。そこには昨年のフジロックなどの、バンドも散々言われたであろうコロナ禍でのライブといういろんな感情や記憶が去来するのであるが、そんな中で演奏された「Remember Me」はやっぱりこうして狼たちが我々にこうして音楽を届けるために戦ってくれてきたことを忘れないよ、と思わせてくれる。それは表情は変わらなくてもジャン・ケンもタナカも声に確かな感情が宿っているからだ。サンタモニカが振る腕に合わせてたくさんの観客が腕を振る光景がより強くそんなことを思わせてくれる。
そんなライブの最後はアガりまくってこの後のバンドたちにバトンを繋ぐような「Get Off Of My Way」。ジャン・ケンが
「人間の皆様、かかってきなさい!」
と叫ぶと観客とサンタモニカは左右の腕を交互に上下させて踊りまくる。その盛り上がりっぷりと最大級の楽しさを生み出した光景こそがACIDMANへのこのバンドからの最高のプレゼントだったはずだ。
1.Emotions
2.higher
3.Thunderstruck
4.FLY AGAIN
5.INTO THE DEEP
6.Remember Me
7.Get Off Of My Way
17:00〜 ストレイテナー
盟友中の盟友として前回の開催時にはトリ前という大事な位置を担った、ストレイテナー。今回も終盤での登場というのが変わらぬACIDMANとの信頼と関係性を感じさせる。
おなじみのSEでメンバーがステージに現れると、ひなっちこと日向秀和(ベース)は口髭を蓄えているだけにどこかワイルドに見え、OJこと大山純(ギター)がハットを被っているのはどこか大木へのリスペクトであるようにも見える。
そんなメンバーが最初に鳴らしたのはバンドを始めた時の光景や心情を今のテナーが描いた「Graffiti」であり、ああきっとACIDMANとテナーはこうした時期を互いに共有して共闘してここまで生きてきたんだろうなと思わせてくれるような心憎い選曲であり、ホリエアツシ(ボーカル&ギター)の変わらない爽やかなボーカルもまたそれを感じさせてくれる要素の一つだ。
「俺たちストレイテナーって言います!」
とホリエが挨拶するとそのままキーボードを弾きながらサビを歌ってからOJがギターのイントロを鳴らし、金髪のナカヤマシンペイ(ドラム)が思いっきりドラムをぶっ叩く「SAD AND BEAUTIFUL WORLD」へ。加入時からスーパーベーシストであったひなっちはもちろん、シンペイのドラムのここに来ての進化っぷりがバンドのさらなる覚醒を感じさせるし、この曲もかつてACIDMANの前で何度も演奏されてきた曲なんだろうと思う。
今度はホリエがギターをかき鳴らしながら歌い始めたのは、やはり今年の夏にいろんな場所でこのバンドのライブを見たことを思い出しながらも、また来年の夏もそうした経験ができますようにと思いを馳せるような「シーグラス」。どちらかというと近年の曲と言ってもいい曲であるが、確かにバンドの衝動を今でも感じられる曲であるし、個人的には最後のサビでひなっちがクルッと回ってから演奏する姿が好きなのである。
「俺たちのフェス「SAI」へようこそ!5年ぶりに開催することができました!」
と盟友過ぎるが故かもはや自分たちが開催したフェスであるかのようにホリエが語ると、そのホリエがキーボードを弾きながら歌うのは「Lightning」。何というか淡々としているようにも感じるくらいに起伏がない展開だけれど、このバンドが持つ神聖さのような力を感じさせてくれるバラード曲である。
「大木君の前で宇宙の話をするのもなんだかって感じなんだけど(笑)、俺たちなりの宇宙の曲をやります」
と言って演奏されたのは「宇宙の夜 二人の朝」で、ACIDMANや大木に影響されたわけではないだろうけれど、やはりこのフェスで演奏すると否が応でも意識してしまうところもあるのだろう。それもまたこのフェスだからこその選曲なのかもしれないが。
同期のリズムの音が流れると、じわじわとバンドの演奏が高まっていくのはこの曲が似合う季節になりつつある「冬の太陽」であり、特にサビでのシンペイのドラムのぶっ叩きっぷりは凄まじさを感じざるを得ないレベルである。でもやっぱりひなっちの演奏しながらの笑顔を見ていると、それすらもバンドが楽しんでいるということがよくわかる。
そんなライブの最後に演奏されたのは、つい先日のKANA-BOONの対バンツアーに呼ばれた際にKANA-BOONが完コピと言っていいくらいのカバーをしていた「TRAIN」今も失われることのないテナーのロックバンドとしてのカッコよさを感じさせてくれ、観客も腕を振り上げて飛び跳ねまくる。その光景を見ていたら、テナーはアリーナクラスのステージも実によく似合うバンドだと思ったし、だからこそここでいつかワンマンを見てみたいと思った。ACIDMANと同期の盟友だからこそ、周年を迎えるタイミングなどでのチャンスはきっとすぐに来る。
最後にメンバーが前に出てきて肩を組んで一礼する姿を見ていたら、同期であるテナーはこうしたフェスをやらないんだろうかとも思った。そういうタイプじゃないのかもしれないし、出演者がほとんど被るかもしれないけれど、テナーが主催するフェスもいつか開催されたらなと思っていた。
1.Graffiti
2.SAD AND BEAUTIFUL WORLD
3.シーグラス
4.Lightning
5.宇宙の夜 二人の朝
6.冬の太陽
7.TRAIN
18:00〜 Dragon Ash
ライブ前にステージに現れたのは、ACIDMANとDragon Ashの大ファンである芸人、フットボールアワーの岩尾望。自身がこのフェスのグッズを自分で予約して購入しているくらいのファンであることを語ると、5年前の開催時にDragon AshがACIDMANの「ある証明」をカバーした時のメロディの変え方が気持ち悪かったというネタを連発して笑いを取る。それをハッキリと覚えているくらいに、彼はガチのファンである。
DJ BOTSが先に登場して音を鳴らすとkj(ボーカル&ギター)が軽やかにステージに現れて歌い始め、HIROKI(ギター)、T$UYO$HI(ベース)、桜井誠(ドラム)と順番にメンバーが登場しての「Entertain」からスタートするというのは3日前のREDLINEの時と同様であるが、
「曖昧な僕達が 明確に存在して
ほら鳴らす事できっと 証になる様に
平凡な僕達の 特別な瞬間を
ほら歌う事できっと 分かち合う様に」
というフレーズをkjが呼びかけるように歌ったように、声を出しても大丈夫な公演ということでコーラス部分では勇壮な声が響く。もちろんメンバーが歌っているというのもあるが、確実に観客の声が乗っているのがわかる。
kjがギターを手にすると、BOTSがビートを鳴らし始めたのは明らかにあの曲のイントロ。え?これフェスでやるの?と思っていると、本当に「Let yourself go, Let myself go」がスタートし、kjはギターを弾きながらラップをする。Dragon Ashの革命の幕開けと言ってもいいこの曲が今になって聴けるとは、とも思うしかつてTV出演時の歌唱では当てぶりであることを揶揄するようなパフォーマンスを取っていたのも今でも鮮明に覚えている。それが衝撃的にカッコ良かったからだ。もちろんサビでは観客のコーラスが乗るのも、この曲を歌えるくらいに聴いてきた人がたくさんいる証拠だ。
BOTSが今度はパーカッションを打ち鳴らすのはサンバ、ラテンの要素を取り入れた「For divers erea」で、こうしたスタンディングの客席に向けて歌った曲であるだけにノリが一気に激しくなっていくと、曲終わりでkjが最前を指差し、
「セキュリティの人、苦しそうなら出してあげて。久しぶりのモッシュピットがキツいのわかるよ。大丈夫になったらまた同じ場所に戻してあげればいいじゃん。
わからない人に理解してもらおうなんて思ってない。俺達が大好きなものを大好きな人にわかってもらえばそれでいい。コロナ禍の方がライブ見やすかったかもしれないけど、俺は小さい頃からロックバンドが好きだったから、汗だくで臭くなってメイク全落ちしても来た時より帰りの方が良い顔になってもらいたい」
と自分たちの生き様を口にする。ワガママと取られるかもしれないけれど、でもそれがやりたくてバンドをやっているし、それを求めてライブに来ている人だってたくさんいる。何よりもそれを貫こうという姿勢がカッコいいと思える。
そんなMCの後に演奏されたのは、メンバーもイントロで手を叩くとそれが客席にも広がっていく「陽はまたのぼりくりかえす」。それは友達と言える存在であるACIDMANに向けられたものであることは間違いないし、この曲の今も全く色褪せることのない名曲っぷりは何度聴いても心が震える。決して激しい曲ではないけれど、Dragon Ashはそうした名曲をも生み出してきたバンドなのだ。
そしてREDLINEでも演奏されて熱狂を生み出した「百合の咲く場所で」がやはりこの日も熱狂を生み出す。その際の客席がスクリーンに映し出されるのは大丈夫なやつなのかとも思うけれど、kjもメンバーもそうした状態になっているのが本当に嬉しそうだ。それは自分たちが鳴らしている音がそうしたくなる衝動を与えることができているのをわかっているからだろう。その衝動が爆発した観客を見てkjは
「靴片方なかったけど大丈夫?そんなやつめちゃ久しぶりに見た!もし靴見つからなかったら俺が買ってやるから!
今日はいくらでも俺たちをサンドバッグにしてやるから!」
と言って「Fantasista」へと突入し、観客が飛び跳ねまくる。近年のフェス、特に若いバンドが多いとアウェーに感じる時も増えてきたけれど、やはりこの曲では一発で持っていくことができる力を持っているし、何よりも声を出せることによってこの曲が持っている熱量が最大限に発揮されている。その光景を見ていて、kjがMCで言っていたように「これなんだよな」と感動すらしてしまっていた。それをさらに体感するために代々木第一体育館のワンマンにも行きたいと思っている。
そんなライブの最後に演奏されたのは、神聖さと轟音を兼ね備えた「New Era」。かつて時代の寵児としてロックシーンを牽引してきたDragon Ashは変わることなくこれからも時代を駆け抜けようとしている。演奏後にメンバーが前に出てきて手を繋いで一礼した時の大きな拍手はその燃えるような衝動が観客に確かに伝わっていたことを示していた。
誰しもが苦悩や葛藤を抱えているだろうし、それはコロナ禍になってより深く、広くなっていると思う。でもDragon Ashのライブを見ていると、そういった抱えているものを最も発散したり昇華したりできるのはロックバンドのライブなんじゃないかと思う。コロナ禍になってかつてないくらいに逆境に立たされたロックバンドの力はむしろ今こそ必要なんじゃないかとすら思う。
「さあ逆襲の時だ」
とこのバンドが歌っているように。
1.Entertain
2.Let yourself go, Let myself go
3.For divers erea
4.陽はまたのぼりくりかえす
5.百合の咲く場所で
6.Fantasista
7.New Era
19:00〜 ACIDMAN
そしてこんな凄いアーティストたちの後に1日を締めるべく登場するのがACIDMANである。この日の出演者や観客からもらった愛情をどうやって返すのか。ライブ前には盟友のジョージ・ウィリアムスも登場して期待を高まらせてくれる。
おなじみのSE「最後の国」が流れて観客の手拍子が起こる中でメンバーが登場。大木がセンター、サトマこと佐藤雅俊(ベース)が下手、浦山一悟(ドラム)が上手という立ち位置で、大木がギターを掻き鳴らして始まったのは大木が矢継ぎ早に言葉を捲し立てまくる歌詞がスクリーンに映し出される「to live」。その歌詞とともに壮大な自然の映像が映し出されると、それがACIDMANがずっと歌ってきた生命の力となって音として我々に届いてくる。その1曲目だけを聴いただけで、やっぱりこのバンドがこの日の主役なんだと思える。
佐藤が高速でベースを刻むのはデビューシングルの「造花が笑う」であるが、すでに先ほど氣志團がカバーしているだけにめちゃシリアスな曲なのに何故か笑えてきてしまうのは氣志團バージョンを思い出してしまうからだ。この日も大木の声は絶好調であるが、やはりこうして本家バージョンを聴いていると氣志團ってめちゃくちゃ演奏上手いんだなということがよくわかる。
一悟によるダンサブルなリズムが曲間を繋ぐと、大木が煌めくようなサウンドのギターを弾いて始まった「FREE STAR」では客席上方にあるミラーボールが美しく光り、大木は前に出てきて客席を隅から隅まで見渡すようにして観客を煽るようにしながらギターを弾く。その姿からしてすでに集まってくれた人への感謝の気持ちが滲み出ているのだが、MCでは
「せっかく声を少し出せるから「大木ー!」って呼んでいいですよ」
と言って客席から大木の名前を呼ぶ声が響くと、
「呼ばれたらそれはそれでうるさいですね(笑)」
と突き放す。しかしこうして観客の声を聞くことができる喜びは大木も間違いなく感じていたはずだ。
そんなACIDMANは昨年フルアルバム「INNOCENCE」をリリースして今も変わらずに前進し続けてきており、それを示すようにそのアルバムの先行シングルの「Rebirth」が演奏される。その観客が飛び跳ねたくなるようなダンサブルなリズムと突き抜けるようなサビのメロディはACIDMANというバンドとそれを愛してきた我々の遺伝子に刻まれているものかもしれない。
さらにはACIDMANの代表曲の一つとも言える「赤橙」が穏やかに鳴らされ、サビへ向かっていくにつれて熱量を増していく。この曲ではタイトルに合わせた赤い照明がステージを照らしたりと、どの曲でも映像を取り入れるわけではないということがわかるのだが、やはりこの日のライブは短い時間の中でもバンドのこれまでを辿るようなものになるということがこのあたりですでにわかる。
そんなACIDMANの精神はそれイコール大木の思考ということであるが、大木はそんなACIDMANと自身を
「宇宙についてのことばっかり考えてるし、歌にしてるけど、星について詳しかったりとかするわけじゃなくて。でもおかしいやつみたいに言われることも多いし、宗教みたいだって言われることもある。けど宗教みたいでもいいと思ってる。だって凄くないですか?この宇宙というものが生まれてから138億年くらい経ってるっていうんですよ?そんな途方もない時間のことを思うと…っていう話を飲みに行ってもよくするんですけど、前に10人くらいの飲み会でこういう話をしたら、対面にいた人以外全員寝てました(笑)そいつだけは寝ないでくれって思いながら、朝4時くらいに素粒子とかの話をしてました(笑)」
と長々と語るのだが、所々に笑いを交えてくるあたりはさすがだ。そんなACIDMANの核になっていると言える曲が「廻る、巡る、その核へ」であり、スクリーンにはこの曲演奏時にはおなじみの生物が生まれてから土に還るまでを描いた壮大な映像が映し出される。このかなり長尺な曲を演奏するのもまた自分たちの表現の芯の部分をしっかり伝えたいという思いからであろうし、その鳴らしている音と歌詞もまた映像とともに物語を作り出している。ちなみに熱が入りまくった演奏を繰り広げていた佐藤はこの曲の段階で被っていたキャップを吹っ飛ばす。
そんな「廻る、巡る、その核へ」とはまた違った壮大さを持つACIDMANのバラード曲としてこの日演奏されたのは「世界が終わる夜」。演奏が始まるとステージ前と客席アリーナのちょうど前ブロックと後ろブロックの電飾が星空を思わせるように光るのが本当にキレイだと思っていたら、上空から星形のメッセージカードが次々に客席に降ってくる。そこにはこの曲の歌詞とともにACIDMANからのメッセージが記されていた。こんな手のかかる演出をしてまで我々に感謝を示してくれる人間性も含めてやはり自分はACIDMANというバンドが大好きだと思う。
そして一悟がリズムを刻んで激しい音が鳴らされると大木が
「5年前の再現をしてもいいですか!この人たちがいなかったら今のACIDMANはありません!」
と言って招かれたのは紫のスーツに着替えた、スカパラの谷中敦と加藤隆志。5年前はスカパラとしては出演しておらず、2人だけで登場したのがこの日は出演者としてライブを終えた後にACIDMANのライブにも登場する。自分たちのライブが終わってから8時間くらいもずっと待っていてくれたというのも愛しかないが、谷中は演奏を始める前に、
「スカパラから谷中と加藤がACIDMANの25周年を祝いにきたよ!ACIDMAN、25周年おめでとうー!」
と思いっきり声を張り上げてからサックスを吹く。その谷中の優しさの極まりっぷりに思わず感動してしまった。ACIDMANだけでなく、一体どれくらいのバンドたちがスカパラのメンバーたちに救われてきたのだろうか。そう思うくらいに両者の音が重なる「ある証明」は本当に素晴らしかったし、コロナ禍では大木が観客の分まで叫んでいた間奏での叫びで
「今日は声を出せるから、叫んでくれー!」
と言って、観客と一緒に叫ぶ。大木の声が大き過ぎて観客の声は聞こえないくらいだけれど、大木が
「みんなが声を出せない分、俺が思いっきり叫ぶから!」
と言ってくれていた思いがこの日に確かに繋がっている。コロナ禍で聴いた「ある証明」のいろんな記憶が蘇ってきて、感動する他なかった。やはりSAIでのこの曲は格別であり特別だったのだ。
そして大木が
「時間の関係でアンコールやらないから、最後の曲です!」
と言って演奏されたのはライブの最後の曲でおなじみ、5年前も最後に鳴らされたACIDMANのパンクと言っていい「Your Song」。スクリーンには演奏するメンバーの姿とともに日本語訳の歌詞が映し出されると、最後のサビ前にはこの日の出演者の名前が入った金テープが発射され、スクリーンにはこの日の出演者のライブ写真と観客の写真が次々に映し出される。今でも5年前のこの曲でこうして観客の姿が映し出されていたのを鮮明に覚えているが、ACIDMANの写真だけではなくて、来てくれた人と出てくれたアーティストの写真だというのが、ACIDMANが何よりも大事にしているものがなんなのかというのがよくわかる。それを見ていて、まだ初日だけれど本当に良い1日であり、最高のフェスだと思えてまた感情が溢れそうになってしまった。
演奏が終わると大木は総合プロデューサーの立場に一瞬にして代わり、この日の出演者を全員呼んで集合写真を撮影する。それが終わるとスクリーンにはエンドロールとしてスタッフとこの日の出演者の名前が映し出された。翌日への期待がさらに高まる、やはりACIDMANのフェスはACIDMANが1番最高のライブを見せてくれるということが見れば必ずわかるようなトリとしてのライブだった。
この日もACIDMANよりも動員力があるアーティストも何組もいる。というかほとんどそうだと言っていいくらいだ。それでもACIDMANの時がどのアーティストの時よりも人が多かった。目当てのアーティストだけ見れたら帰るとかじゃなくて、そのアーティストがこうしてこの日見れている理由はACIDMANが主催しているからで、そのACIDMANが最高のライブを見せてくれるということを誰もが信じていた。その期待にバンドはこれ以上ない形で、自分たちの鳴らす音で応えてみせた。最高の5年ぶりのSAIの初日だった。明日また此処で笑い合おう。
1.to live
2.造花が笑う
3.FREE STAR
4.Rebirth
5.赤橙
6.廻る、巡る、その核へ
7.世界が終わる夜
8.ある証明 w/ 谷中敦、加藤隆志
9.Your Song
その5年前もRADWIMPSやMAN WITH A MISSIONの出演が発表された瞬間にチケットが手に入らなくなるという状況になったため、約1年前の開催発表時点から「ACIDMANを信じろ」を合言葉に2日ともチケットを取ったのだが、それが間違いではなかったことがわかるような、ACIDMANの先輩、同年代、後輩全てが豪華な面々が集結。
そんな大事なフェスなのだがこの日は遅刻してしまい、着いた時にはトップバッターの東京スカパラダイスオーケストラがすでにライブ中。ゲストにメンバーと同じ白スーツを着たACIDMANの大木伸夫が登場して「追憶のライラック」(音源ではハナレグミのボーカル曲)をコラボしている真っ最中。トップバッターのゲストに出演するというあたりは大先輩であるスカパラへのACIDMANからの感謝の現れであるが、GAMO(テナーサックス)による
「どこが1番盛り上がってるんだー!」
と煽る「Paradise Has No Border」でメンバーが左右に展開して朝イチから大入りの客席を盛り上げまくっていた。スクリーンにはパーカッションを叩く大森はじめやハットを被らない姿がめちゃイケメンに見えるNARGO(トランペット)の姿もアップで映るが、それこそがスカパラの持つ幸福な音楽の力と言えるだけに最初から見れなかったのが悔やまれる。去り際には谷中敦(バリトンサックス)が茂木欣一(ドラム)とともに客席を背景に自撮りするというのもスカパラなりの幸福感だった。
11:00〜 DOPING PANDA
ACIDMANとは同世代の盟友でありながらも5年前には出演していなかったのはこのバンドは解散していて活動していなかったから。今年復活してツアーを行った際には
「大木は1番「再結成しろ」って言ってきたのに「SAI」には俺たちを呼んでくれない(笑)」
とMCで言っていたが、その思いが通じたことによってかこうして出演することができるようになった。
ハウス的なSEが流れてから「DOPING PANDA」というバンド名がコールされてメンバーが登場。サングラスをかけてトロピカルな服装のHayato Beat(ドラム)、ピンクのスーツのTaro Hojo(ベース)に続いてYutaka Furukawa(ボーカル&ギター)が登場すると、白スーツ姿なのが若干スカパラに合わせたようにも見えてくる。
そんなFurukawaがギターを弾きながら歌い始めたのは再結成後にリリースされた新作アルバムの1曲目に収録されている「Imagine」なのだが、Furukawaは明らかに緊張しまくっているか、あるいは感極まっているのかというのがわかるくらいにボーカルが不安定だ。自らを「ロックスター」と称するビッグマウスな男であるが、それは自分への自信のなさからくるものであることをもうファンは知っているし、解散してから再結成に至るまでにはその弱い部分も隠すことなく出してきた。だからそのボーカルの不安定さにはFurukawaの人間性がそのまま現れているのだ。
すると早くも背面のスクリーンには「∞」の文字が浮かび上がり、デジタルな声で「∞ダンスタイム」突入の合図が。イントロでセッション的なアレンジが施されるのもこの∞ダンスタイムならではであるが、「The Fire」からはそのノンストップダンスタイムへ。Furukawaは間奏での観客の手拍子を小さくしてから一気に爆発させるように大きくしていくというロックスターっぷりを見せると、リズムに合わせてTaroが手拍子をするとそれが観客にも広がっていく「Hi-Fi」ではFurukawaのタッピングも駆使したギターソロが炸裂し、自身を
「アイムア、ロックスター!」
と称するあたりはさすがだ。少しずつボーカルも調子を戻しつつあるが、コーラスも含めて名前通りにダンサブルなビートを刻み、近年はサウンドチェックの時点で観客に感謝を告げるHayatoの姿や存在により頼もしさを感じる。
さらにはイントロの段階で太陽も踊り出すくらいに夏が戻ってきたかのように情熱的に踊らせまくる「beautiful survivor」と続くとアリーナだけではなくスタンド席の観客たちも踊りまくっている。解散前だったらこうしたアリーナでも満員になりそうなくらいに動員力を誇っていた時期もあったが、今でもドーパンのダンスロックはこうしてたくさんの人を踊らせることができるものだということがわかる。
観客が腕を左右に振って踊りまくる「Transient happiness」と止まらないダンスっぷりはやはり∞ダンスタイムと言えるものであり、これがフェスのドーパンだなと久しぶりに思った人もたくさんいたんじゃないだろうか。再結成してからは意外にもそんなにいろんなフェスに出ているわけではないし、ステージの規模感ではこのフェスが最大レベルと言えるだけに。
そんなこのステージに立っているのはドーパンがミラクルを起こしたからであるということを感じさせてくれるのがデジタルなサウンドを取り入れた「MIRACLE」であり、Furukawaはステージ真ん中に立って足を開いたり閉じたりしながらギターを弾きまくる。その姿から滲み出る華やかなオーラはやはりロックスターだと思えるし、何よりもFurukawaはギターがめちゃくちゃ上手い。ソロ、さらにはBase Ball Bearのサポートギターとギターを弾くことをやめなかったからこそ今でもサビついてないどころか進化しているとすら感じられる。
そんなドーパンの最新形が「Silhouette」であり、今もどこまでもキャッチーだからこそこんなにも踊ることができるバンドであるということを示す曲であるが、この曲がフェスのセトリに、∞ダンスタイムの中に入ってくるというのが今のドーパンなのである。昔の定番曲だけをやるんじゃなく、ちゃんと今の自分たちの曲を作って演奏する。そこにこそ再結成した理由がある。
そんなFurukawaは、
「やっぱりバンドは最高だよ!でもバンドを続けるのって本当に難しいし、本当に大変。俺が言うんだから説得力あるでしょ?(笑)
だからずっと続けてきて、こんな景色を作ることができるあの3人を心から尊敬してます!大木はずっと「再結成しろ」って俺に言ってたけど、今日に間に合って良かった!ありがとうACIDMAN!今度は俺たちが対バンに誘います!今年最後のライブだけど、今日が、これが最後で良かった!」
とACIDMANへの思いを口にする。今こうしてドーパンがこのステージに立っているのはずっと「再結成しろ」と言ってくれた大木のおかげでもあるのだろうし、大木はもしメンバーが険悪だったり、やりたくなさそうならそんなことは絶対に言わない人だ。まだFurukawaの中に、3人の中に燃え尽きていないものがあることをわかっているからそう言っていたのだろう。
だからこそ最後の「Crazy」は早る気持ちによってかテンポが速く感じられるような中で起こる手拍子の中で歌われる
「I am sorry me
ミラクル起こせなくてさ
でもファイヤーは
赤く焦がれ続けてる」
という歌詞がドーパンとACIDMANの2組でミラクルを起こしたように感じられた。それはこのフェスだからこそ感じられたものであるし、こうしてドーパンのダンスロックが今になってアリーナで響いているのを観ていると、あの頃(それこそACIDMANもフェスのメインステージに立っていた頃)に我々が夢中になって踊っていた音楽は今でもカッコいい音楽なんだと確信させてくれる。
1.Imagine
∞ダンスタイム
2.The Fire
3.Hi-Fi
4.beautiful survivor
5.Transient happiness
6.MIRACLE
7.Silhouette
8.Crazy
12:00〜 SiM
この2日間のラインナップの中でもトップクラスに意外な出演者と言える、SiM。それは世代も音楽性も全く違うし、普段から対バンしているような関係性でもないからである。
なのでラウドなSEで登場してもどこかいつもとは少し違う空気というか、アウェーな感じがするというのはこうしたアリーナに当たり前に立つようになったバンドであるだけにどこか新鮮な感じもするのであるが、
「SiMです!頭振れ!」
とMAH(ボーカル)が叫んで演奏された最新EP収録曲「Light it up」のラウドなサウンドはやはり異質なものでありながらもこの上ない強さを感じさせる。照明が光を感じさせるようなものになっているあたりも曲に合わせたものであるが、「Blah Blah Blah」では背面のスクリーンに専用の映像が映し出されるというのもアリーナクラスのバンドならではだ。SINは踊るようにしてベースを弾き、GODRi(ドラム)はコーラスを叩きながら力強いドラムを叩く。SHOW-HATE(ギター)はカメラに近寄って笑顔でカメラ目線を送りながらギターを弾き、その様子がスクリーンに映し出される。MAHも観客が声を出せない状況の中でもステージを左右に歩き回りながら観客を煽りまくっている。
すると妖しげなサウンドと照明によって始まる「Dance in the dark」ではMAHがくねくねと体を動かしながら歌い、タイトル通りに暗闇の中から光に向かって踊るような展開を見せるようにサビに向けてラウドに突き抜けていく。ただラウドなだけではなくてこのバンドの表現力の豊かさを感じるような曲である。
そんな曲を演奏するとMAHは
「おっさんばっかり!右見ても左見てもおっさん!だから18年目なのにこの2日間で最年少!普段はフェスの時はソファに座ってふんぞりかえってるけど、今日は「おはようございます!」って挨拶しててやりづらい!(笑)
でもバンドの格はワンチャン1番上なんじゃないか?って思ってる。だって全米ビルボードチャートで1位を獲ったから。その全米1位の音をお前たちに聴かせてやろう!」
と悪魔キャラ通りに毒づきながら「The Rumbling」へ。スクリーンにはこの曲が世界に広がったきっかけである「進撃の巨人」の映像も映し出されるのであるが、日本とアメリカはウケる音楽が全く違うとはいえ、こんなにタイアップだからキャッチーにしようみたいな感じが一切ない、SiMの重さのみを突き詰めたような曲が全米1位になるって本当に凄いことだと思うし、日本のロックバンドファンとしても誇りに思う。
するとMAHはマイクスタンドに手をかけながら、
「言うの忘れてた。ACIDMAN25周年おめでとうございます。出会ってから10年くらいなんで、どんな道を辿ってきたのかは見てないけど、この2日間のメンツがそれを示してると思います。年下の友達いないんだなぁって(笑)
まぁこれからも頑張ってくれ(笑)」
という先輩に悪態をつくような態度であってもそれがMAHなりの愛情表現だということは袖でそのMCを聴いていた大木が手を振っていたことからもわかるのだが、その後に演奏されたバラード曲「The Sound Of Breath」の映像も含めた壮大なスケールはACIDMANのこうしたバラード曲と通じるものを感じるし、だからこそこうしてこの曲をこの日のセトリに入れたんじゃないかと思う。
そしてMAHは
「さいたまスーパーアリーナにお集まりの暇人の皆さん!笑ってるそこのお前だよ!そんな皆さんに俺だから言っていいような言葉を送ります!死ねー!」
と中指を立てて思いっきり叫んで演奏されたのはもちろん「KiLLiNG ME」。SHOW-HATEもSINも楽器を振り回しまくりながら演奏すると、間奏ではMAHが観客をその場に座らせるのだが、明らかにその座るスピードが遅いのがSiMのライブに慣れてない人が多いことを感じさせる。実際にMAHが
「みんなでジャンプしようぜ!」
と言うとその言葉の直後にジャンプする観客も現れてMAHに
「まだだよ、バカ」
と容赦なく切り捨てられるのだが、そうしてみんなで一斉にジャンプをするとその後の盛り上がりっぷりがガラッと変わった。一気にホームらしくなった。それはかつてはアウェーなライブで戦ってきて勝ってきたからこそこの規模のバンドになったSiMの強さを感じさせるものだった。
演奏が終わってメンバーがステージから去っていくと、え?もう終わり!?と思うくらいに一瞬のうちに終わってしまった感もあったけれど。
1.Light it up
2.Blah Blah Blah
3.Dance in the dark
4.The Rumbling
5.The Sound Of Breath
6.KiLLiNG ME
13:00〜 back number
SiMとはサウンドや立ち位置が全く違うけれど、こちらもこのフェスに出るのは少し意外な気もする、back number。それはかつてCOUNTDOWN JAPANに出演した際にトリ同士で被ったことに大木がショックを受けていたのを見たことがあったからかもしれない。
登場前にはラジオDJの藤田琢己が「あとのまつり」「逃した魚」というこのバンドの作品名を出しながらバンド紹介をしていたが、その中で口にされていたように、今やドームクラスのバンドであるだけにこうしてフェスで見れるのは貴重な機会でもある。
おなじみのサポートメンバーを含めた6人編成でステージに現れると、シャンシャンとした鈴の音のイントロが鳴っただけで大きな拍手が起こる。この会場の周りも徐々にそうしたシーズンになってきていることを告げる、壮大なオーケストラサウンドをキーボード担当のメンバーが鳴らす「クリスマスソング」だ。清水依与吏(ボーカル&ギター)が歌い始めると「こんなに歌上手かったっけ?」と思うくらいの声量の大きさと歌唱力の高さに驚いてしまうのだが、これはバンドからの一足早いクリスマスプレゼントと言える選曲かもしれない。
清水のロマンチックさが炸裂している=それは今や稀代の作詞家と言えるような存在になった、ハートを奪うという意味合いでのラブストーリーを綴った「怪盗」でもその歌唱力は発揮されるのであるが、やはりどこか情けない男らしさが滲んでしまうのはどんなにドームクラスのバンドになってもback numberらしさである。
するとポップだったサウンドが一気にロックに振り切れるのは「MOTTO」であるが、そのロックサウンドの中心にあるのは小島和也(ベース)と栗原寿(ドラム)によるリズムの強さだ。だからこそサポートメンバーたちが脇を固めてくれていても、どこか真ん中の3人がぎゅっと固まっているような音に感じる。あれだけ重いサウンドのSiMの後でもこう感じられるというのは、やはり根がライブハウスから始まったロックバンドということだ。これには自分もそうだけれど「ポップな曲やバラードのラブソングが多いバンド」と思っていた人も驚いたんじゃないだろうか。
そんな中でライブ初披露となったのはリリースしたばかりの新曲「アイラブユー」。てっきり曲タイトルをニュースで見た時にはタイトルフレーズなり「愛してる」なりを連発するような曲なんじゃないかと思っていた。でも全くそんなフレーズは出てこない。それを使わずに日常的な情景の描写だけでそのタイトルを感じさせる心情に行きつくという表現力の凄まじさが極まっている。「よくあるタイトルの曲」なんて一瞬でも思った自分を恥じたいくらいに。
しかし清水はそんな「アイラブユー」で
「1番大事な新曲のサビで歌詞を間違えてしまいました(笑)」
とミスったことを明かすと、
「18歳の時に聴いた「造花が笑う」「アレグロ」「赤橙」。憧れた。俺もああいうバンドをやりたいって思ってバンド始めたものの、あんなにカッコいいバンドにはなれなかった。あんなカッコいい音も言葉も俺からは出てこなかった。出てくるのは「あの子を振り向かせたい」みたいな歌詞ばかりで(笑)
本当は売れる売れないとか関係なく、自分がやりたいことだけをやるようなバンドになりたかった。俺はそうはなれなかったけど、今日ここに呼んでもらったっていうことは、俺がやってきたことは間違ってなかったんだなって思えました」
とACIDMANに憧れてバンドを始めたけれど、そうはなれなかったということを口にする。その後に演奏されたオレンジ色の照明が足元からメンバーを照らす「水平線」は、なりたかったものになれなかった清水の思いが、目標にしていたものがなくなってしまったコロナ禍で学生生活を過ごしてきた人たちの気持ちと重なっていく。元から自分が言うまでもなく素晴らしい曲が、清水の言葉の後に聞くことによってさらに素晴らしいものに思える。このバンドがこれだけ支持を集めている理由がわかったような気がしていた。
そんな最後にはサポートギターの1人(藤田顕ではない方)がタンバリンを叩きながら軽やかに飛び跳ねまくる「高嶺の花子さん」へ。こうして今聴くとポップなのは間違いないが、四つ打ちのキャッチーなダンスロックとしても聴こえるし、完全に今の日本の音楽シーンのアンセムになっているんだなということがわかるくらいにたくさんの人が腕を上げて飛び跳ねている。
やはり恋愛的な歌詞に自分はほぼ共感することはできないけれど、それでもこうして久しぶりに見たback numberのライブはロックバンドでありながらも日本のど真ん中に響く曲を生み出しているバンドであることを感じさせるには充分なものだった。
確かに清水が言う通りにback numberは ACIDMANとは全然違うバンドだ。言われなかったら影響を受けていることに気付かないくらいに。でもこの日のMCは逆にこのバンドが無理してカッコよくしようとしていない、背伸びをした表現をしていない、ただひたすらに自分という人間から出てくるものを音楽にしているということがわかる。
その純度の高さは自分にとっては紛れもなくロックを感じるものであるし、だからこそback numberの曲からは清水の人間性がそのまま響いてくる。そうしたことが今になってわかった。「逃した魚」からCDを買っていて知ってはいたが、自分にとってはこのバンドこそが逃した魚だったのかもしれない。
リハ.日曜日
1.クリスマスソング
2.怪盗
3.MOTTO
4.アイラブユー
5.水平線
6.高嶺の花子さん
14:00〜 氣志團
こちらも名前だけ見るとなかなかこのフェスに出演している理由が見えづらいバンドだったりする、氣志團。おそらくACIDMANは氣志團主催の氣志團万博に出たことがないというあたりもそう感じてしまう理由の一つかもしれない。
ステージにメンバーが登場すると、衣装が日の丸をあしらったかのような胸元に赤い円が描かれた白ランになっており、星グランマニエ(ギター)がアコギを持ち、早乙女光(ダンス&スクリーム)がバスドラを首からかけて叩き鳴らしており、近年のライブではおなじみの「房総魂」からスタートするのであるが、スクリーンにはリアルタイムで演奏しているメンバーの姿とともに曲の歌詞が映し出されるというのはこのフェスからの氣志團への愛を感じる演出である。その歌詞を歌う綾小路翔(ボーカル)は曲中に思いっきり転んでしまい、真面目な歌なのに最後のサビ前で
「こけちゃいました(笑)」
と首を傾げてみせるのが面白い。この曲を聴くとやはり袖ヶ浦に、今年も最高だった氣志團万博に思いを馳せざるを得ないけれど。
重いバンドサウンドとダンサーたちが綾小路翔と早乙女光とともにフラッグを振り回す姿も含めてカッコいいロックバンドとしての氣志團の姿を見せてくれるのはこちらも近年のライブではおなじみの「NIGHT THE KNIGHTS」であるが、やはり西園寺瞳のギターソロなどはこのバンドの持ち前の演奏力の高さを存分に感じさせてくれるものである。スタンド席にはごく少数ではあるがサイリウムを持っている人の姿も見え、氣志團を見るためにこのフェスに足を運んでいる人がいるということが確かにわかる。
そんな真面目な曲が続いた後には、
「今日は全部出すぜ!出し惜しみしねぇぜ!」
と綾小路翔が口にしておなじみのリフが鳴らされて「One Night Carnival」へ。かなりアウェーかと思いきや、普通にアリーナも埋まりきっているし、振り付けを完璧に踊れる人がたくさんいるというのはACIDMANと同じ時代を生きてきたバンドだからと言えるだろうか。そんな曲の最後のサビ前にはかつては観客がサビを大合唱していた部分で無音となり、綾小路翔が
「俺はライブをしている中でこの合唱が1番好きだった。同じ曲の同じフレーズを歌うことでみんなが一つになれることを感じられるから」
と話し始め、その後にはこちらも近年おなじみの内容である、コロナ禍になってライブができなくなり、さらには不要不急と言われるようになったことによって人生で最も凹んでいたことが語られ、同じように凹んでいたであろう音楽が大好きな観客たちに
「お前たちさ氣志團の永遠の2個下の後輩だ。この国では先輩が後輩の面倒を見るのが決まりだ!俺たちは永遠の16歳だから、お前たちは永遠の14歳だ!みんな同級生だから周りに挨拶しとけ。後ろ振り向いて挨拶しとけ。みんなが一斉に後ろ振り向くと後ろの人も後ろを向いてるから挨拶できないけど(笑)
だから先輩がお前たち後輩の疑問を全部解決してやる!お前たちの疑問や悩みはわかってる!
「なんで氣志團今日なの?明日のミスチルかエルレかホルモンと変わればいいのに」
「そもそもなんで氣志團出てるの?」
うるせー!俺たちとACIDMANは同期の桜だ!ずっと一緒に音楽シーンを生きてきたんだ!氣志團とACIDMANはほぼ同じバンドだ!ACIDは酸っていう意味だ。(自分たちの衣装の匂いを嗅いで)酸っぱい匂いがする!だから俺たちも酸マンだ!ACIDDANかKISHIDDMANかわからないけど!」
と言うとほぼ同じバンドであるということを証明するために「One Night Carnival」と「造花が笑う」をマッシュアップした「One Night Carnival 2022 〜造花が踊る〜」が演奏されるのであるが、いつの間にか白鳥松竹梅(ベース)はサングラスを外してキャップを被るというACIDMANの佐藤雅俊と同じ姿になっており、高速でベースを鳴らしまくる。「造花が笑う」の演奏に無理矢理「One Night Carnival」の歌詞(と一部メロディ)を乗せるという、他のアーティストのものと同様のものではあるのだが、どんなアーティストのどんな曲をも演奏できる技術とアレンジ力(特にサポートの叶亜樹良のドラム)は氣志團の持つバンドとしての地力の強さを否が応でも感じざるを得ない。早乙女光は彼なりの造花のコスプレをして笑うというパフォーマンスはやはりコミカルさも兼ねているけれど、これは氣志團にしかできないリスペクトの表明の仕方だ。この日は「One Night Carnival」の最後のサビは掻き消されてしまっていたけれど。
そんな誰しもが「氣志團スゲェな…」と思ったであろうパフォーマンスの後には綾小路翔がギターを鳴らし、早乙女光はブルースハープを鳴らす「落陽」へ。まさかこのフェスでこの曲を演奏するとは思わなかったというのはこの曲もまた「房総魂」同様に袖ヶ浦海浜公園のことを、氣志團万博のことを歌った曲だからだ。マジな氣志團のカッコよさと名曲っぷりを感じさせるこの曲を来年もまたあの何にもない場所でこの照明のようなオレンジの夕日が差し込む中で聴くことができたら、と思う。
そんなライブの最後はフランク・シナトラの名曲の日本語パンクカバーの「MY WAY」。訳詞も本人たちのものではないだけに口調などがやたら丁寧に感じてしまうけれども、その歌詞は氣志團の生き様そのものだからこそこうしてカバーしてリリースし、こうやってライブの最後に演奏されたのだろう。演奏が終わるとそれぞれが退場SEに合わせて踊りながら去っていくのも含めて、カッコいいロックバンドでありながらもエンターテイナーな、自分たちにしかできないやり方でACIDMANの25周年を祝った氣志團のライブだった。
すでに発表されている通りに氣志團は年明けの日本武道館ワンマンをもって綾小路翔の喉の治療のために療養期間に入る。氣志團万博を目標に復帰するらしいが、確かに近年のライブでは喉がキツそうな時もあったし、原曲キーで歌わなくなった部分も多い。
でもそれを完璧に歌えるようにするための治療と休養であり、きっと戻ってきた時にはさらに最強のロックバンドでありエンターテイナーになるのは間違いない。ACIDMANがそうであるように、氣志團もこれから先もずっと続いていくために。
1.房総魂
2.NIGHT THE KNIGHTS
3.One Night Carnival
4.One Night Carnival 2022 〜造花が踊る〜
5.落陽
6.MY WAY
15:00〜 LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS +
ACIDMANよりもシーンに登場した世代が一回り上であるだけに完全に先輩枠になるLOW IQ 01。近年のライブの形態であるRHYTHM MAKERS +という4人編成のバンドでさいたまスーパーアリーナのメインステージに立つ。
ライブ前には中津川THE SOLAR BUDOKANのMCとしてもおなじみのジョー横溝がLOW IQ 01を紹介する。LOW IQ 01はハットもジャケットも黒で統一された相変わらずのおしゃれっぷりであり、髪の襟足を緑色に染めている。その出で立ちは50歳を超えているとは思えないくらいにソロになった時から変わっていないような感じがする。LOW IQ 01はなんらかの能力者だったりするのだろうか。
このRHYTHM MAKERS +はギターに2ステージ目となるフルカワユタカ(DOPING PANDA)だけではなくて渡邊忍(ASPARAGUS)もギターで参加しており、そのツインギターが冴えまくる「Little Giant」からスタート。フルカワはギターソロも弾きまくるロックスターっぷりをドーパンのライブだけではなくこのステージでも遺憾無く発揮する。LOW IQ 01はベースを弾きながらの歌唱であることもあってかあまり声が出ていない感じもするが、「Snowman」ではフルカワと渡邊というどちらも自身のバンドではボーカリストである2人がコーラスとしてしっかりサポートする。笑顔のドラマーのDAZEも含めてやはりこのバンドはスーパーバンドと言っていいくらいのメンバーたちによって固められている。
その2人のギターによるコーラスが伸びやかな「Swear」からLOW IQ 01が
「最年長かと思ったけど、スカパラがいた!」
と最年長ではないことを口にするが、スカパラも含めてこのフェスの出演者の先輩枠はどうしてこんなにも若々しいのだろうかと思う。
凄腕ギタリストが2人いることによってフレーズ、サウンドの弾き分けができる「WAY IT IS」でたくさんの観客の腕が上がるのであるが、最前ブロックではやはり最も腕が上がっているのはそこにLOW IQ 01を見たかった人たちが集まっているからであり、フェスの最前ブロックはそうであって欲しいと思っていると、
「12月に新しいアルバムが出ます!その前に23日に配信で先行でリリースされた曲をやってもいいですか!明日なら2人ともいた、細美武士と宮田俊郎(TOSHI-LOW)が参加してる曲を今日は2人なしでやります!」
と言って披露された新曲「Starting Over」はドがつくくらいにストレートなツービートのパンク・メロコアサウンド。バンド時代にはメロコアシーンの代表格として君臨していたLOW IQ 01が今にしてこうしたサウンドに回帰しているというのは何周も回って辿り着いた感があるし、ライブでも2人がゲストとして歌うのを聴いてみたいと思う。
その2人のうち、細美武士は「Delutions of Grandeur」でもコラボしているのだが、当然ながらこの曲もバンドのみで演奏され、だからこそさらにストレートなパンクの疾走感が際立つ。それはそれぞれがパンク・メロコアのシーンに片足浸かっていたこのメンバーの演奏だからかもしれないが、テンションが高過ぎる渡邊はイントロで不思議な腕の挙げ方のダンスを踊ってLOW IQ 01に
「やめてもらっていいですか?(笑)」
とツッコミを入れられてしまう。
そして「Oh Yeah」とLOW IQ 01とメンバーたちも思いっきり叫ぶ「So Easy」ではLOW IQ 01がそのコーラスを観客にも要求する。声出しを少しならしてもいいことをわかっているからこそであるが、こうしてみんなで一緒に声を上げることによってこの男が作ってきた音楽が、曲がメロコアやパンクを軸にしながらも実にキャッチーなものであることがよくわかるのであるが、そんなLOW IQ 01は
「前回、5年前に開催された時に部外者なのに(前回は出演していない)楽屋で1番酒飲んで酔っ払って、帰りの送迎バスでトイレ行きたくなって「バス停めろー!」って言って細美武士と一緒に立ちションしたのをACIDMANの3人が壁になって囲って守ってくれた(笑)」
というどうしようもないようなACIDMANへの感謝とこのフェスの思い出を口にするのであるが、年長者であってもその20歳の大学生みたいな精神性がこの男の若さに表れているのかもしれない。
最後に演奏された、渡邊がやはりテンション高くステージを走り回りながらギターを弾く「Makin' Magic」はそんなLOW IQ 01の変わらなさ、それはこの男の音楽を求め、ライブに来続けている人も含めて今もマジックを起こし続けていることを示していた。
来月にはアルバム発売とライブの告知もし、その活動っぷりからもやはり50歳を超えているとは思えないだけに、これからもずっと変わらずに我々の前で音を鳴らし続けてくれる予感しかない。
リハ.WHAT'S BORDERLESS?
1.Little Giant
2.Snowman
3.Swear
4.WAY IT IS
5.Starting Over
6.Delutions of Grandeur
7.So Easy
8.Makin' Magic
16:00〜 MAN WITH A MISSION
5年前の開催時にも出演していた、MAN WITH A MISSION。前回は「同世代のアーティストを集める」というラインナップだっただけに、究極の生命体でありながらACIDMANと同世代であることが露見してしまっている。
時間になるとSEが鳴って登場するのではなく、すでにステージ上にメンバーがスタンバイしているというのは短い持ち時間の中でたくさんの曲をやろうという意識によるものだろうけれど、この日はスクリーンに歌詞が映し出され、その歌詞をカミカゼ・ボーイ(ベース)が口にする「Emotions」からスタートという文字通りにエモいオープニングであり、トーキョー・タナカもいきなり観客を「ソイ!ソイ!」と煽りまくる。完全に出だしから戦闘モードに入っていることがよくわかる。
自然界の壮大な映像が流れながら演奏されたのはアリーナクラスのバンドだからこそのスケールと映像に見合った力強さを持った「higher」であり、この曲は「Tales of Purefly」収録曲だけにこうして今になってフェスで演奏されるのが意外な曲でもある。というよりこの曲を聴けると思っていた人がどれだけいたのだろうかというくらいである。
するとスクリーンには稲妻のような映像が流れ、ジャン・ケン・ジョニー(ボーカル&ギター)とE・D・ヴェダー(サポートギター)が鳴らすリフにカミカゼとスペア・リブ(ドラム)のキメのリズムが重なるのは「Thunderstruck」。新作から演奏されるのがこの曲というのはメンバーがどれだけAC/DCをリスペクトしているかということでもある。スクリーンにもAC/DCのロゴ的なものが映し出されるというのはその現れである。
「2日間唯一のペット枠です!よろしくお願いします!」
とジャン・ケンが挨拶するのだが、ペットにしては明らかに強すぎるだろうというのがよくわかるのが「FLY AGAIN」で、タナカとステージ前に出てきたDJサンタモニカに合わせて観客が腕を伸ばして左右に振る。その際にサンタモニカとカミカゼの目が発光するというギミックも屋内会場でのフェスだからこそ発揮できるものである。
すると都会的な夜景の映像の上に曲の歌詞が映し出され、さらにデジタルな映像とも融合していくという演出が底の方から一気に突き抜けていくかのような曲展開の「INTO THE DEEP」。このスケールの大きさは間違いなくこのバンドならではのものであるが、ジャン・ケンは
「こうしてこのイベントが開催されているのはこの2年半以上、あなたたちが我慢してきて勝ち取ったものがあるからです」
と語る。そこには昨年のフジロックなどの、バンドも散々言われたであろうコロナ禍でのライブといういろんな感情や記憶が去来するのであるが、そんな中で演奏された「Remember Me」はやっぱりこうして狼たちが我々にこうして音楽を届けるために戦ってくれてきたことを忘れないよ、と思わせてくれる。それは表情は変わらなくてもジャン・ケンもタナカも声に確かな感情が宿っているからだ。サンタモニカが振る腕に合わせてたくさんの観客が腕を振る光景がより強くそんなことを思わせてくれる。
そんなライブの最後はアガりまくってこの後のバンドたちにバトンを繋ぐような「Get Off Of My Way」。ジャン・ケンが
「人間の皆様、かかってきなさい!」
と叫ぶと観客とサンタモニカは左右の腕を交互に上下させて踊りまくる。その盛り上がりっぷりと最大級の楽しさを生み出した光景こそがACIDMANへのこのバンドからの最高のプレゼントだったはずだ。
1.Emotions
2.higher
3.Thunderstruck
4.FLY AGAIN
5.INTO THE DEEP
6.Remember Me
7.Get Off Of My Way
17:00〜 ストレイテナー
盟友中の盟友として前回の開催時にはトリ前という大事な位置を担った、ストレイテナー。今回も終盤での登場というのが変わらぬACIDMANとの信頼と関係性を感じさせる。
おなじみのSEでメンバーがステージに現れると、ひなっちこと日向秀和(ベース)は口髭を蓄えているだけにどこかワイルドに見え、OJこと大山純(ギター)がハットを被っているのはどこか大木へのリスペクトであるようにも見える。
そんなメンバーが最初に鳴らしたのはバンドを始めた時の光景や心情を今のテナーが描いた「Graffiti」であり、ああきっとACIDMANとテナーはこうした時期を互いに共有して共闘してここまで生きてきたんだろうなと思わせてくれるような心憎い選曲であり、ホリエアツシ(ボーカル&ギター)の変わらない爽やかなボーカルもまたそれを感じさせてくれる要素の一つだ。
「俺たちストレイテナーって言います!」
とホリエが挨拶するとそのままキーボードを弾きながらサビを歌ってからOJがギターのイントロを鳴らし、金髪のナカヤマシンペイ(ドラム)が思いっきりドラムをぶっ叩く「SAD AND BEAUTIFUL WORLD」へ。加入時からスーパーベーシストであったひなっちはもちろん、シンペイのドラムのここに来ての進化っぷりがバンドのさらなる覚醒を感じさせるし、この曲もかつてACIDMANの前で何度も演奏されてきた曲なんだろうと思う。
今度はホリエがギターをかき鳴らしながら歌い始めたのは、やはり今年の夏にいろんな場所でこのバンドのライブを見たことを思い出しながらも、また来年の夏もそうした経験ができますようにと思いを馳せるような「シーグラス」。どちらかというと近年の曲と言ってもいい曲であるが、確かにバンドの衝動を今でも感じられる曲であるし、個人的には最後のサビでひなっちがクルッと回ってから演奏する姿が好きなのである。
「俺たちのフェス「SAI」へようこそ!5年ぶりに開催することができました!」
と盟友過ぎるが故かもはや自分たちが開催したフェスであるかのようにホリエが語ると、そのホリエがキーボードを弾きながら歌うのは「Lightning」。何というか淡々としているようにも感じるくらいに起伏がない展開だけれど、このバンドが持つ神聖さのような力を感じさせてくれるバラード曲である。
「大木君の前で宇宙の話をするのもなんだかって感じなんだけど(笑)、俺たちなりの宇宙の曲をやります」
と言って演奏されたのは「宇宙の夜 二人の朝」で、ACIDMANや大木に影響されたわけではないだろうけれど、やはりこのフェスで演奏すると否が応でも意識してしまうところもあるのだろう。それもまたこのフェスだからこその選曲なのかもしれないが。
同期のリズムの音が流れると、じわじわとバンドの演奏が高まっていくのはこの曲が似合う季節になりつつある「冬の太陽」であり、特にサビでのシンペイのドラムのぶっ叩きっぷりは凄まじさを感じざるを得ないレベルである。でもやっぱりひなっちの演奏しながらの笑顔を見ていると、それすらもバンドが楽しんでいるということがよくわかる。
そんなライブの最後に演奏されたのは、つい先日のKANA-BOONの対バンツアーに呼ばれた際にKANA-BOONが完コピと言っていいくらいのカバーをしていた「TRAIN」今も失われることのないテナーのロックバンドとしてのカッコよさを感じさせてくれ、観客も腕を振り上げて飛び跳ねまくる。その光景を見ていたら、テナーはアリーナクラスのステージも実によく似合うバンドだと思ったし、だからこそここでいつかワンマンを見てみたいと思った。ACIDMANと同期の盟友だからこそ、周年を迎えるタイミングなどでのチャンスはきっとすぐに来る。
最後にメンバーが前に出てきて肩を組んで一礼する姿を見ていたら、同期であるテナーはこうしたフェスをやらないんだろうかとも思った。そういうタイプじゃないのかもしれないし、出演者がほとんど被るかもしれないけれど、テナーが主催するフェスもいつか開催されたらなと思っていた。
1.Graffiti
2.SAD AND BEAUTIFUL WORLD
3.シーグラス
4.Lightning
5.宇宙の夜 二人の朝
6.冬の太陽
7.TRAIN
18:00〜 Dragon Ash
ライブ前にステージに現れたのは、ACIDMANとDragon Ashの大ファンである芸人、フットボールアワーの岩尾望。自身がこのフェスのグッズを自分で予約して購入しているくらいのファンであることを語ると、5年前の開催時にDragon AshがACIDMANの「ある証明」をカバーした時のメロディの変え方が気持ち悪かったというネタを連発して笑いを取る。それをハッキリと覚えているくらいに、彼はガチのファンである。
DJ BOTSが先に登場して音を鳴らすとkj(ボーカル&ギター)が軽やかにステージに現れて歌い始め、HIROKI(ギター)、T$UYO$HI(ベース)、桜井誠(ドラム)と順番にメンバーが登場しての「Entertain」からスタートするというのは3日前のREDLINEの時と同様であるが、
「曖昧な僕達が 明確に存在して
ほら鳴らす事できっと 証になる様に
平凡な僕達の 特別な瞬間を
ほら歌う事できっと 分かち合う様に」
というフレーズをkjが呼びかけるように歌ったように、声を出しても大丈夫な公演ということでコーラス部分では勇壮な声が響く。もちろんメンバーが歌っているというのもあるが、確実に観客の声が乗っているのがわかる。
kjがギターを手にすると、BOTSがビートを鳴らし始めたのは明らかにあの曲のイントロ。え?これフェスでやるの?と思っていると、本当に「Let yourself go, Let myself go」がスタートし、kjはギターを弾きながらラップをする。Dragon Ashの革命の幕開けと言ってもいいこの曲が今になって聴けるとは、とも思うしかつてTV出演時の歌唱では当てぶりであることを揶揄するようなパフォーマンスを取っていたのも今でも鮮明に覚えている。それが衝撃的にカッコ良かったからだ。もちろんサビでは観客のコーラスが乗るのも、この曲を歌えるくらいに聴いてきた人がたくさんいる証拠だ。
BOTSが今度はパーカッションを打ち鳴らすのはサンバ、ラテンの要素を取り入れた「For divers erea」で、こうしたスタンディングの客席に向けて歌った曲であるだけにノリが一気に激しくなっていくと、曲終わりでkjが最前を指差し、
「セキュリティの人、苦しそうなら出してあげて。久しぶりのモッシュピットがキツいのわかるよ。大丈夫になったらまた同じ場所に戻してあげればいいじゃん。
わからない人に理解してもらおうなんて思ってない。俺達が大好きなものを大好きな人にわかってもらえばそれでいい。コロナ禍の方がライブ見やすかったかもしれないけど、俺は小さい頃からロックバンドが好きだったから、汗だくで臭くなってメイク全落ちしても来た時より帰りの方が良い顔になってもらいたい」
と自分たちの生き様を口にする。ワガママと取られるかもしれないけれど、でもそれがやりたくてバンドをやっているし、それを求めてライブに来ている人だってたくさんいる。何よりもそれを貫こうという姿勢がカッコいいと思える。
そんなMCの後に演奏されたのは、メンバーもイントロで手を叩くとそれが客席にも広がっていく「陽はまたのぼりくりかえす」。それは友達と言える存在であるACIDMANに向けられたものであることは間違いないし、この曲の今も全く色褪せることのない名曲っぷりは何度聴いても心が震える。決して激しい曲ではないけれど、Dragon Ashはそうした名曲をも生み出してきたバンドなのだ。
そしてREDLINEでも演奏されて熱狂を生み出した「百合の咲く場所で」がやはりこの日も熱狂を生み出す。その際の客席がスクリーンに映し出されるのは大丈夫なやつなのかとも思うけれど、kjもメンバーもそうした状態になっているのが本当に嬉しそうだ。それは自分たちが鳴らしている音がそうしたくなる衝動を与えることができているのをわかっているからだろう。その衝動が爆発した観客を見てkjは
「靴片方なかったけど大丈夫?そんなやつめちゃ久しぶりに見た!もし靴見つからなかったら俺が買ってやるから!
今日はいくらでも俺たちをサンドバッグにしてやるから!」
と言って「Fantasista」へと突入し、観客が飛び跳ねまくる。近年のフェス、特に若いバンドが多いとアウェーに感じる時も増えてきたけれど、やはりこの曲では一発で持っていくことができる力を持っているし、何よりも声を出せることによってこの曲が持っている熱量が最大限に発揮されている。その光景を見ていて、kjがMCで言っていたように「これなんだよな」と感動すらしてしまっていた。それをさらに体感するために代々木第一体育館のワンマンにも行きたいと思っている。
そんなライブの最後に演奏されたのは、神聖さと轟音を兼ね備えた「New Era」。かつて時代の寵児としてロックシーンを牽引してきたDragon Ashは変わることなくこれからも時代を駆け抜けようとしている。演奏後にメンバーが前に出てきて手を繋いで一礼した時の大きな拍手はその燃えるような衝動が観客に確かに伝わっていたことを示していた。
誰しもが苦悩や葛藤を抱えているだろうし、それはコロナ禍になってより深く、広くなっていると思う。でもDragon Ashのライブを見ていると、そういった抱えているものを最も発散したり昇華したりできるのはロックバンドのライブなんじゃないかと思う。コロナ禍になってかつてないくらいに逆境に立たされたロックバンドの力はむしろ今こそ必要なんじゃないかとすら思う。
「さあ逆襲の時だ」
とこのバンドが歌っているように。
1.Entertain
2.Let yourself go, Let myself go
3.For divers erea
4.陽はまたのぼりくりかえす
5.百合の咲く場所で
6.Fantasista
7.New Era
19:00〜 ACIDMAN
そしてこんな凄いアーティストたちの後に1日を締めるべく登場するのがACIDMANである。この日の出演者や観客からもらった愛情をどうやって返すのか。ライブ前には盟友のジョージ・ウィリアムスも登場して期待を高まらせてくれる。
おなじみのSE「最後の国」が流れて観客の手拍子が起こる中でメンバーが登場。大木がセンター、サトマこと佐藤雅俊(ベース)が下手、浦山一悟(ドラム)が上手という立ち位置で、大木がギターを掻き鳴らして始まったのは大木が矢継ぎ早に言葉を捲し立てまくる歌詞がスクリーンに映し出される「to live」。その歌詞とともに壮大な自然の映像が映し出されると、それがACIDMANがずっと歌ってきた生命の力となって音として我々に届いてくる。その1曲目だけを聴いただけで、やっぱりこのバンドがこの日の主役なんだと思える。
佐藤が高速でベースを刻むのはデビューシングルの「造花が笑う」であるが、すでに先ほど氣志團がカバーしているだけにめちゃシリアスな曲なのに何故か笑えてきてしまうのは氣志團バージョンを思い出してしまうからだ。この日も大木の声は絶好調であるが、やはりこうして本家バージョンを聴いていると氣志團ってめちゃくちゃ演奏上手いんだなということがよくわかる。
一悟によるダンサブルなリズムが曲間を繋ぐと、大木が煌めくようなサウンドのギターを弾いて始まった「FREE STAR」では客席上方にあるミラーボールが美しく光り、大木は前に出てきて客席を隅から隅まで見渡すようにして観客を煽るようにしながらギターを弾く。その姿からしてすでに集まってくれた人への感謝の気持ちが滲み出ているのだが、MCでは
「せっかく声を少し出せるから「大木ー!」って呼んでいいですよ」
と言って客席から大木の名前を呼ぶ声が響くと、
「呼ばれたらそれはそれでうるさいですね(笑)」
と突き放す。しかしこうして観客の声を聞くことができる喜びは大木も間違いなく感じていたはずだ。
そんなACIDMANは昨年フルアルバム「INNOCENCE」をリリースして今も変わらずに前進し続けてきており、それを示すようにそのアルバムの先行シングルの「Rebirth」が演奏される。その観客が飛び跳ねたくなるようなダンサブルなリズムと突き抜けるようなサビのメロディはACIDMANというバンドとそれを愛してきた我々の遺伝子に刻まれているものかもしれない。
さらにはACIDMANの代表曲の一つとも言える「赤橙」が穏やかに鳴らされ、サビへ向かっていくにつれて熱量を増していく。この曲ではタイトルに合わせた赤い照明がステージを照らしたりと、どの曲でも映像を取り入れるわけではないということがわかるのだが、やはりこの日のライブは短い時間の中でもバンドのこれまでを辿るようなものになるということがこのあたりですでにわかる。
そんなACIDMANの精神はそれイコール大木の思考ということであるが、大木はそんなACIDMANと自身を
「宇宙についてのことばっかり考えてるし、歌にしてるけど、星について詳しかったりとかするわけじゃなくて。でもおかしいやつみたいに言われることも多いし、宗教みたいだって言われることもある。けど宗教みたいでもいいと思ってる。だって凄くないですか?この宇宙というものが生まれてから138億年くらい経ってるっていうんですよ?そんな途方もない時間のことを思うと…っていう話を飲みに行ってもよくするんですけど、前に10人くらいの飲み会でこういう話をしたら、対面にいた人以外全員寝てました(笑)そいつだけは寝ないでくれって思いながら、朝4時くらいに素粒子とかの話をしてました(笑)」
と長々と語るのだが、所々に笑いを交えてくるあたりはさすがだ。そんなACIDMANの核になっていると言える曲が「廻る、巡る、その核へ」であり、スクリーンにはこの曲演奏時にはおなじみの生物が生まれてから土に還るまでを描いた壮大な映像が映し出される。このかなり長尺な曲を演奏するのもまた自分たちの表現の芯の部分をしっかり伝えたいという思いからであろうし、その鳴らしている音と歌詞もまた映像とともに物語を作り出している。ちなみに熱が入りまくった演奏を繰り広げていた佐藤はこの曲の段階で被っていたキャップを吹っ飛ばす。
そんな「廻る、巡る、その核へ」とはまた違った壮大さを持つACIDMANのバラード曲としてこの日演奏されたのは「世界が終わる夜」。演奏が始まるとステージ前と客席アリーナのちょうど前ブロックと後ろブロックの電飾が星空を思わせるように光るのが本当にキレイだと思っていたら、上空から星形のメッセージカードが次々に客席に降ってくる。そこにはこの曲の歌詞とともにACIDMANからのメッセージが記されていた。こんな手のかかる演出をしてまで我々に感謝を示してくれる人間性も含めてやはり自分はACIDMANというバンドが大好きだと思う。
そして一悟がリズムを刻んで激しい音が鳴らされると大木が
「5年前の再現をしてもいいですか!この人たちがいなかったら今のACIDMANはありません!」
と言って招かれたのは紫のスーツに着替えた、スカパラの谷中敦と加藤隆志。5年前はスカパラとしては出演しておらず、2人だけで登場したのがこの日は出演者としてライブを終えた後にACIDMANのライブにも登場する。自分たちのライブが終わってから8時間くらいもずっと待っていてくれたというのも愛しかないが、谷中は演奏を始める前に、
「スカパラから谷中と加藤がACIDMANの25周年を祝いにきたよ!ACIDMAN、25周年おめでとうー!」
と思いっきり声を張り上げてからサックスを吹く。その谷中の優しさの極まりっぷりに思わず感動してしまった。ACIDMANだけでなく、一体どれくらいのバンドたちがスカパラのメンバーたちに救われてきたのだろうか。そう思うくらいに両者の音が重なる「ある証明」は本当に素晴らしかったし、コロナ禍では大木が観客の分まで叫んでいた間奏での叫びで
「今日は声を出せるから、叫んでくれー!」
と言って、観客と一緒に叫ぶ。大木の声が大き過ぎて観客の声は聞こえないくらいだけれど、大木が
「みんなが声を出せない分、俺が思いっきり叫ぶから!」
と言ってくれていた思いがこの日に確かに繋がっている。コロナ禍で聴いた「ある証明」のいろんな記憶が蘇ってきて、感動する他なかった。やはりSAIでのこの曲は格別であり特別だったのだ。
そして大木が
「時間の関係でアンコールやらないから、最後の曲です!」
と言って演奏されたのはライブの最後の曲でおなじみ、5年前も最後に鳴らされたACIDMANのパンクと言っていい「Your Song」。スクリーンには演奏するメンバーの姿とともに日本語訳の歌詞が映し出されると、最後のサビ前にはこの日の出演者の名前が入った金テープが発射され、スクリーンにはこの日の出演者のライブ写真と観客の写真が次々に映し出される。今でも5年前のこの曲でこうして観客の姿が映し出されていたのを鮮明に覚えているが、ACIDMANの写真だけではなくて、来てくれた人と出てくれたアーティストの写真だというのが、ACIDMANが何よりも大事にしているものがなんなのかというのがよくわかる。それを見ていて、まだ初日だけれど本当に良い1日であり、最高のフェスだと思えてまた感情が溢れそうになってしまった。
演奏が終わると大木は総合プロデューサーの立場に一瞬にして代わり、この日の出演者を全員呼んで集合写真を撮影する。それが終わるとスクリーンにはエンドロールとしてスタッフとこの日の出演者の名前が映し出された。翌日への期待がさらに高まる、やはりACIDMANのフェスはACIDMANが1番最高のライブを見せてくれるということが見れば必ずわかるようなトリとしてのライブだった。
この日もACIDMANよりも動員力があるアーティストも何組もいる。というかほとんどそうだと言っていいくらいだ。それでもACIDMANの時がどのアーティストの時よりも人が多かった。目当てのアーティストだけ見れたら帰るとかじゃなくて、そのアーティストがこうしてこの日見れている理由はACIDMANが主催しているからで、そのACIDMANが最高のライブを見せてくれるということを誰もが信じていた。その期待にバンドはこれ以上ない形で、自分たちの鳴らす音で応えてみせた。最高の5年ぶりのSAIの初日だった。明日また此処で笑い合おう。
1.to live
2.造花が笑う
3.FREE STAR
4.Rebirth
5.赤橙
6.廻る、巡る、その核へ
7.世界が終わる夜
8.ある証明 w/ 谷中敦、加藤隆志
9.Your Song
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