ACIDMAN presents 「SAITAMA ROCK FESTIVAL "SAI" 2022」day2 @さいたまスーパーアリーナ 11/27
- 2022/11/28
- 22:54
2日目。前日は遅刻してしまったので同じ轍を踏まないように早めに会場に到着。前日は雨が降っていたりしたが、この日は天気が良くて朝からけやき広場の飲食ブースなどは早い時間から賑わいを見せている。この日は行きたくてもチケットが取れずに行けない人がたくさんいただけに人が多かったというのもあるかもしれない。
10:00〜 THE BACK HORN
開演時間前には5年前も前説で登場した、MTVなどでおなじみのboo氏が現れて前説を行い、開演時間になるとおなじみのSEが鳴ってこの日のトップバッターのTHE BACK HORNが登場。紛れもなくACIDMANとは同世代で、かつてフェスなどでは互いにコラボしているくらいの盟友である。
登場時から菅波栄純(ギター)が手拍子をするとそれが客席にも広がっていき、出で立ちが朝イチから男前な山田将司(ボーカル)が
「THE BACK HORNです。朝早くから来てくれてありがとうー」
と挨拶するや否や、すぐさま「刃」を歌い始めるという目覚まし代わりの一撃。岡峰光舟(ベース)も指を高く掲げ、栄純も将司も観客も1曲目から血が滾るようなテンションの高さ。これはこのバンドがトップバッターで正解だ。こんなにも朝の1曲目から我々を熱くしてくれるのだから。
さらには将司がイントロで観客を「来い!来い!」と煽り、栄純も手拍子をする「シンフォニア」とライブ定番のキラーチューンの連発っぷり。モニターに足をかけて前のめりになって歌う将司はやはりカッコいいし、その声も慣れないアリーナ規模でもしっかり響いている。それは
「帰る場所ならSAIにあるから」
と歌詞を変えて歌ったのがはっきりと聞き取れることからもわかる。
すると松田晋二(ドラム)によるおなじみの立ち上がってのMCでは
「ACIDMANと我々は20年来の付き合いで、下北沢とかで対バンしたり、打ち上げしたり、打ち上げしたり、打ち上げしたりしてきました!そんなACIDMANの記念すべき舞台に呼んでいただいてありがとうございます!」
と、とにかく打ち上げをした記憶だけは強く残っていることがわかることを口にし、栄純が性急なイントロのギターを鳴らす「罠」でさらに観客を熱くさせてくれる。この曲で歌われている「命」というテーマは形は違えどACIDMANに通じるものであるし、タイアップの内容を思い返しても開演前や転換中に流れていたユニセフの映像に思いを馳せざるを得なくなる。
そんな中でこの日演奏されたバラード枠は将司が大きく腕を広げるようにして歌う壮大な「空、星、海の夜」。この曲がこの日演奏されたのは間違いなくACIDMANのフェスだからだ。それはかつてJAPAN JAMのコラボなどで大木がこの曲を歌っていたからである。この曲のテーマと世界観もまたACIDMANに通じるものがあると感じられるし、THE BACK HORNが何度も立ってきた武道館だけでなくこうした規模の会場がよく似合うと思わせてくれる。
そんなTHE BACK HORNもACIDMANと同様にコロナ禍の中でも止まることなく活動し続け、今年フルアルバム「アンドロギア」をリリースしているのだが、その先行曲である「希望を鳴らせ」がACIDMANのフェスで演奏されるのがどこか感慨深いのは、かつては生命を歌うことによって死をも感じさせる表現をしてきたACIDMANに対して、THE BACK HORNは日本を代表する鬱バンドの一つとして死をそのまま描くことで生命を感じさせるという真逆な表現をしてきたからだ。そんな両者が今は同じ方向から同じ表現をするようになっているというのをこのフェスだからこそ感じられる。
そして将司が
「ACIDMAN、25周年おめでとうー!これからもよろしく!」
とACIDMANに言葉を送ってから演奏されたのはやはり「コバルトブルー」。朝イチとは思えないくらいに将司も栄純も暴れまくり、将司は汗をしたたらせながら叫ぶ。間奏では光舟のうねりまくるベースソロも披露され、ともに今も最前線で戦い続ける盟友としてのカッコいい姿を見せつけた。
この日が来ていた誰にとっても特別な、素晴らしい1日になったのはこのTHE BACK HORNが流れをしっかり作ってくれたからだ。去り際の栄純が笑顔で手を振る姿も実に清々しかった。
1.刃
2.シンフォニア
3.罠
4.空、星、海の夜
5.希望を鳴らせ
6.コバルトブルー
11:00〜 sumika
前日のSiMと同様にこの日の後輩枠はsumika。今やこのさいたまスーパーアリーナでワンマンをやるクラスのバンドであるが、やはり世代的な違いもあってか始まる前からアウェーに感じざるを得ない感じがする。それでも本気のリハでいつどんなところでも我々を暖かくしてくれる。
須藤優(ベース)、George(キーボード)と女性コーラスというおなじみのゲストメンバーを加えた7人編成で登場すると、演奏を始めるより先に片岡健太(ボーカル&ギター)は、
「高校生の時に衝撃を受けたACIDMAN。なけなしのバイト代で何回もライブに行きました。それから20年、ついにこの日が来ました。いつどんなライブでも100%出し尽くしますが、今日は本当にsumikaの全てをぶつけます!」
とACIDMANからの影響を素直に口にする。この言葉からしてバンドがこの日に並々ならぬ気合いを持って挑んでいることがよくわかる。
そんなライブはACIDMANへの愛情を曲で表すような「Lovers」から始まり、祝祭感溢れるイントロのサウンドが鳴る中で片岡は左右から真ん中を順番に向いてギターを弾き、間奏の小川貴之(キーボード)のソロでは水を小川に飲ませてあげて小川が何とも言えない表情をするというパフォーマンスが憧れの先輩に招いてもらった場でも全く緊張することなく自分たちのライブができているということを感じさせる。その際に片岡のすぐ後ろに黒田隼之介(ギター)がピッタリとくっついているというフォーメーションも抜群である。
「まだまだ始まったばかりだから、皆さんまだまだ元気ですよねー!?…心配だなぁ。先にこの呪文を唱えておきます!」
と言って演奏された「ふっかつのじゅもん」では片岡と黒田がイントロで一気に左右に展開していってギターを弾く。このアッパーなギターロックサウンドはsumikaのロックバンドさを感じさせてくれるし、小川らによる「ヘイ!」のコーラスはまさに我々の元気を復活させてくれる。
片岡がギターを弾きながらすぐさま歌い始めた「ファンファーレ」ではスクリーンに爽やかな青を基調とした映像が映し出され、片岡の
「夜を越えて
闇を抜けて
迎えにゆこう」
というフレーズがこのコロナ禍を生き抜く我々をバンドが迎えに来たかのように響く。片岡のボーカルも顔をしかめながら弾く黒田のギターも感情が篭りまくっているのが実によくわかる。
さらには荒井智之のイントロのドラムのリズムとメンバーによるコーラスフレーズが雄大なスケールを感じさせる「イコール」と代表曲と言えるような曲が続くのは自分たちのライブを初めて見る人が多いだろうということを意識したことによるど真ん中をしっかり見せるという選曲によるものだろう。
そんな中で片岡がハンドマイクになってステージ左右に動き回りながら歌う「Summer Vacation」は時期も含めて少し意外な選曲でもある。片岡が
「リラックスして聞いてください」
と言っていたように、そうして楽しめる曲もあることを示すためであろう選曲であり、片岡がカメラ目線で歌う姿がスクリーンにアップで映し出されるというおなじみのパフォーマンスも健在である。
そんな片岡が再びギターを手にすると、この時期に聴くことによってどこかクリスマスソング的な雰囲気も感じるようなバラード曲「願い」へ。完全にsumikaの持ち得るあらゆる要素を短い時間の中で全て見せようという選曲とパフォーマンス。ライブを見たことがなくてもこれらの曲をテレビなどで聴いたことがあるという人もいるだろうし、例えばこの日出演するミスチルのバラード曲に通じるような部分もある。ロックが好きな人にもポップな歌モノが好きな人にも受け入れてもらえるバンドであるということをフェスのライブでもしっかり示している。
そして片岡は
「ACIDMANから教わったことは、哲学を持つこと。美学を持つこと。その2つを持ち続ければどんな夢だって叶うということ」
と最後に口にする。冒頭の高校生の時のエピソードも含めて、本当にACIDMANが好きじゃなかったらこんな言葉は出てこない。それはACIDMANがまさにその言葉通りに活動してきたバンドであることをファンは知っているからそう思えるのだ。音楽性だけだとあまりACIDMANの影響は感じづらいバンドかもしれないが、きっとsumikaの前に片岡がやっていたバンドのロックさの中にはACIDMANの影響が確かにあったのだろうし、sumikaにもその精神性は確かに引き継がれている。
そんな思いを最高にハッピーな空気にすることによってACIDMANと今ここにいてくれる人に返すのはもちろん「Shake & Shake」。片岡がハンドマイクで激しくステージ上を動き回りながら歌うと、曲中の同期のリズムが流れる部分では荒井や須藤とともに袖でライブを見ていたACIDMANの3人も手を叩いていた。その姿をsumikaのメンバーたちに見せてあげたいと思うくらいに、ACIDMANはsumikaの音楽をちゃんと聴いている上でこのフェスに招いている。全てのライブがsumikaにとって大事なものであるが、その中でも忘れられないものになるはずだし、この曲のコーラスが少しずつ観客も一緒に歌えるようになってきているところにこの上ない希望を感じている。
片岡は自分と同世代であるために、高校生の時にACIDMANを聴いて衝撃を受けたというエピソードもほぼ自分の体験をそのまま聞いているかのような感じすらある。(自分はまだ当時はライブに行くことができず、なけなしのバイト代でACIDMANのCDを買っていた)
去年からのフェスでのMCも含めて、そんな片岡は自分のような奴の代弁者だと思っている。この日のMCも含めて、自分はsumikaのそんな部分に惹かれている。だからこのフェスでsumikaを見ることができて本当に良かったと思っている。
リハ.ソーダ
リハ.フィクション
1.Lovers
2.ふっかつのじゅもん
3.ファンファーレ
4.イコール
5.Summer Vacation
6.願い
7.Shake & Shake
12:00〜 the band apart
ACIDMANとは紛れもなく同世代でありながら前回は出演していなかったために今回が初出演となる、the band apart。
サウンドチェックにメンバー全員が出てきて曲を演奏すると、スキンヘッドになった木暮栄一(ドラム)が
「もうちょっとやっていいですか?」
と言いながら次々に曲を演奏する。そうして出番ギリギリまで演奏していただけにSEもなく捌けることもなくそのままジングルが鳴って本番へと突入していく。
その木暮が軽快なリズムを刻み始めると、原昌和(ベース)のイントロが響いていきなりの「Eric.W」からスタート。川崎亘一と荒井岳史のギターが重なることによってバンアパでしかないアンサンブルとグルーヴが生まれていく。そこに乗る荒井のボーカルもソロ活動などを経たことによってより逞しくなっているが、サビの
「Yeah Yeah Yeah」
のフレーズを皮切りに観客は飛び跳ねまくる。
そこからは日本語歌詞を取り入れて以降の「ピルグリム」「酩酊花火」と、キレがありながらも心地良さも感じるのはバンアパならではのグルーヴであるし、そこにはジャズやフュージョンなどのバンアパの技術力があるからこそできる要素が確かに含まれている。これだけの出演者が揃っていても、ここまで難解なフレーズを軽々と演奏できるバンドは他にいないだろうと思える。
「誰なんだこいつらはと思いの方もいらっしゃると思いますが、ACIDMANとはもう20年くらい前から下北沢や渋谷のライブハウスで対バンしてきた仲です。俺たちthe band apartと言います。よろしくお願いします!」
と荒井が挨拶すると、このバンドのライブの楽しみの一つである原のMCは
「来る時に朝ツイッター見てたら、大宮駅が燃えてるっていうのを見て。大変なことが起きてるなって思って。俺は今は埼玉の奥の方に住んでるから来る時に大宮を通ってきたんだけど、普通に通ってこれて」
と完全に通常運転なあたりはさすがである。
そんな原のベースは見た目通りの重さを感じさせながらも、荒井のボーカルのメロディは実にキャッチーな「DEKU NO BOY」は実にバンアパらしさを感じさせ、そのまま木暮が再びビートで曲を繋ぐと手拍子が起こる中で川崎と荒井のギターが重なる「higher」へ。観客が少しだけでも声が出せることになったことによって最後のサビ前で「ワン、ツー!」というコールが小さくても響くようになったのがバンアパらしいライブが戻ってきていることがわかって嬉しいし、たくさんの観客がタイトル通りに高い場所に向かって腕を伸ばす。やはりACIDMANのフェスであるだけにこの曲を知っている人はたくさんいることがよくわかる。
そして今年リリースの最新アルバム「Ninja of Four」のリード曲である「The Ninja」では木暮がイントロでリズムを刻みながらコーラスをするのであるが、ステージ袖の近くで全然サポートメンバーでもなんでもないスタッフらしき人物がタンバリンやシェイカーなどを振っているのが地味に面白い。しっかり木暮の方を見てリズムを確認しているのも含めてであるが、曲が進むと木暮のコーラスに原のハイトーンコーラスも重なっていく。
「ずっとバンドを続けてきてこんなに凄いバンドを集めてこうしたイベントを開催できるACIDMANを本当に誇りに思っています!」
と荒井が最後にACIDMANへの思いを口にすると、その荒井がギターをカッティングして始まるのはやはり「夜の向こうへ」。もう今では当たり前になっているバンアパの日本語歌詞も、この曲で取り入れた当時はまだ否定的な声もあったりした。でもそんな曲が今では完全にバンアパの代表曲となり、こうしてライブを締めるべき曲になっている。
「夜の向こうへ連れて行ってくれ」
と独特の渋みと包容力を感じさせる荒井のボーカルを聴いていて、ACIDMAN同様にバンアパもいろんな夜を超えて変わることなくこうして続いてきたんだなと思った。
そんな存在がいてくれることを誇りに思うとともに、結果的に中止になって未だに開催されていないバンアパが地元の東京の板橋区で開催しようとしていた主催フェスも開催される日が来るんなら必ず足を運びたいと思った。その時にはバンアパがトリとして、夜の向こうへ連れて行ってくれ。
リハ.ZION TOWN
リハ.SAQAVA
リハ.Photograph
リハ.beautiful vanity
1.Eric.W
2.ピルグリム
3.酩酊花火
4.DEKU NO BOY
5.higher
6.The Ninja
7.夜の向こうへ
13:00〜 マキシマム ザ ホルモン
一気に会場の空気が変わり始めてきているのは客席がスタンド席まで含めて満員になり始めてきているからでもあり、アリーナには一目でこのバンドのものだとわかるようなTシャツを着ている人がたくさんいるからである。マキシマム ザ ホルモンが最近のフェスでは珍しく早い時間帯での登場である。
ダイノジの爆笑の前説を経てからおなじみの賑やかなSEでメンバーが登場すると、いきなりの「maximum the hormone II 〜これからの麺カタコッテリの話をしよう〜」でスクリーンにはこのバンドならではのおなじみの映像が流れる中、これまでとは全く違う轟音・爆音のラウドロックが響き渡る。ナヲ(ドラム)のボーカル部分ではスクリーンに映る姿がリアルタイムで加工されているという演出もこのバンドならではであるが、ドレッドヘアのマキシマムザ亮君(ボーカル&ギター)のボーカルも迫力に満ちている。
ダイスケはん(ボーカル)が
「まだまだ夏を終わらせるな!夏を取り戻せー!」
と言って演奏された「恋のメガラバ」では観客もダイスケはんに合わせて腕を上下に振りながら踊り、間奏では上ちゃん(ベース)の鳴らす重いリズムに合わせてヘドバンが起こりまくるのだが、近年のこの曲では「こんなに使って大丈夫なのか?」と思うくらいに様々なアニメの映像が使われているので毎回そっちにも目線が向いてしまう。
「ACIDMANとは同年代で、大木とは2〜3回熱い夜も過ごして…」
と始まったナヲのMCでは自分で
「今日は桜井さん(ミスチル)もいるんだから!」
とツッコミを入れるのだが、
「同年代でフェスではしょっちゅう一緒になったりしてきたけど、ライブハウスで2組で対バンしたりしたことないから、同級生っていうよりも塾の友達みたいな感じ(笑)
だから今日は塾の友達の誕生日会に来てるみたいな(笑)地元のカッコいい先輩も呼ばれてる感じの」
という例えはやはり秀逸である。
そんなMCの後には爆音と上ちゃんのスラップが炸裂しまくる「「F」」が演奏され、間奏ではフリーザの声による「戦闘力53万です」というセリフも放たれる。最近は亮君がドドリアの立ち位置になったバージョンのセリフもあったけれど、この辺りはどう変えているのだろうか。
さらには「爪爪爪」とラウドな轟音とキャッチーなサビのメロディが融合したキラーチューンが連発され、ステージ上では亮君も暴れるようにして歌うと、ダイスケはんはパーカッションを打ち鳴らしたりとメンバーの演奏や表現が進化しているからこそこうしてシーンのトップに君臨するモンスターバンド足り得ているということがよくわかる。
そんなダイスケはんは大木とは同い年で、かつ近所に住んでいることを明かすと、最近も一緒にご飯を食べに行った際に大木が「ノアの方舟」や「マヤ文明」という話から始まってさらに深い、全く単語を聞いたことがないような話に展開していくも、最後には「島忠最高!」という結論に達したことを明かす。どんな流れで島忠最高に至るのかは全くわからないけれど。
そしてこの会場をさらに燃え上がらせるように真っ赤な照明に照らされる中で演奏された「アカギ」が音源よりもさらに凶悪と言えるような音像に変化している中でもサビの亮君のメロディのキャッチーさは失われていないあたりがホルモンらしさを感じさせてくれる。どんなに激しくてもポップな部分があるのはメンバーの人間性がそのまま出ているとも言える。
そこまで長く喋っていたような印象はなかったのだが、あっという間に最後の曲になってしまい、ダイスケはんが
「最後の曲です。「Tomorrow Never Knows」」
とミスチルの曲タイトルを口にするとナヲも
「ちょっと!それどんなシーソーゲームよ!」
ダイスケはん「ホンマに業の深い生命体やで〜!」
と、ミスチルが好き過ぎて喋りが止まらずにさらに時間がなくなって「恋のおまじない」を説明なしの一発本番で行うと、最後には「恋のスペルマ」が演奏されてやはり観客は手を叩いたりしながら踊りまくる。一気にテンポが速く激しくなる部分でのダイスケはんの「その場で1人で左回り」はあまり発生していなかったが、この曲のMVでのフェスの楽しみ方講座のような景色は少しずつ戻ってきつつある。それはホルモンがライブを続けながら守ってきたものでもある。
存在が目立ち過ぎるだけに本人たちが意図しないところを悪く言われたりすることもあるが、こうして様々なアーティストの主催フェスに出演しては毎回そこでしか見ることができない、最高に楽しいライブを見せてくれるホルモンのメンバーたちはやはり本当に優しい人たちだと自分は思っている。
1.maximum the hormone II 〜これからの麺カタコッテリの話をしよう〜
2.恋のメガラバ
3.「F」
4.爪爪爪
5.アカギ
6.恋のスペルマ
14:00〜 BRAHMAN
5年前にも出演していたBRAHMANが今回もこのフェスに出演。同じフェスに毎回出演するようなバンドではないだけに、こうして連続で出演しているあたりはACIDMANとの強い信頼関係を感じさせる。
スクリーンにはコロナ禍になって以降のバンドのライブのテーマになってきた「暗影演舞」の文字とともに壮大な映像が映し出される中でメンバーがステージに現れると、最初に演奏されたのは「時の鐘」という意外な選曲であるが、ACIDMANがコラボしているビール「COEDO」が作られている埼玉県川越市には「時の鐘」という鐘撞き堂みたいな建物がある。埼玉出身のACIDMANが主催している埼玉のフェスだからこその選曲であることに間違いないし、そこには確かにBRAHMANからのACIDMANへの愛情を感じさせる。
するとスクリーンに歌詞が次々に映し出される「Slow Dance」でTOSHI-LOW(ボーカル)もその強靭な肉体を誇示するかのようにステージ上を軽やかに舞うようにしながら歌う。この曲はコロナ禍以降にリリースされ、その後の新しい形でのBRAHMANのライブでも重要な位置を担ってきた曲だ。
そんな曲を終えると、
「関係ねぇ!アリーナだろうとライブハウスだろうと!関係ねぇ!明日がどうとか昨日がどうとか!あるのは今このステージだけ!ハードコアパンクの精神を持って、BRAHMAN、はじめます!」
とTOSHI-LOWが叫んでから、RONZI(ドラム)、KOHKI(ギター)、MAKOTO(ベース)のハードコアなコーラスも響き、TOSHI-LOWとともにステージを暴れ回るように演奏される「賽の河原」では黄泉の国を思わせるような映像も映し出されるのだが、その「賽の河原」の最後の
「此処に立つ」
という締めのフレーズに繋がるようにして、逆にそのフレーズで始まる「BASIS」へと繋がることによってステージも客席もさらに激しさを増していく。
さらにTOSHI-LOWがステージを左右に歩き回りながら歌う「SEE OFF」はこのバンドのライブを見るのが初めてという人でも高校野球の応援の演奏としておなじみの曲として耳にしたことがある人もたくさんいたんじゃないだろうか。この曲でもBRAHMANのライブでダイブなどが全く起きないというのはコロナ禍になる前の客席全体でケンカしてるかのような激しい光景を思い出すと今でも違和感を感じるものであるが、バンドはそんな状況でもライブをしようとしてきたということである。
さらにRONZIの叩き出すリズムに合わせて手拍子が起こる「BEYOND THE MOUNTAIN」から、メンバーによるハードコアなコーラスが響く「DEEP」と全く曲間なく次々に曲が演奏されていくというストロングスタイルの中で一度落ち着くようにしてKOHKIが穏やかなギターのメロディを鳴らした「ANSWER FOR…」では一気にサビで激しくなるという静と動が同居する中で過去のBRAHMANのライブの光景がスクリーンに映し出される。自分がその場にいたライブもあったし、その光景を心からカッコよくて美しいものだと思うからこそ、BRAHMANのライブでのこの光景がまた戻ってきて欲しいと思う。ステージには大木伸夫も現れ、TOSHI-LOWとともに歌うというのも両者の心からの信頼関係を感じさせる。
そして夜の新宿などの街並みがアニメーション的な映像として映し出された「今夜」ではやはり細美武士がステージに登場。それまではハードコアの化身のような表情で歌っていたTOSHI-LOWもこの時だけは穏やかな笑顔を浮かべており、最後に2人が抱き合う姿も含めて本当にこの2人は心の恋人同士なんだなと思うには充分なものであった。
そして最後の「真善美」へ。この日は持ち時間的にもMCはなしで突き進むのかと思いきや、メンバーが先にステージから去っていくと1人残ってスポットライトを浴びるTOSHI-LOWが
「一度きりの人生!その一度きりの中で3度だけ!大木のハットの中身を見たことがある(笑)
思ったよりも生えてた(笑)」
と急に笑わせたかと思ったら、
「ただ人気者を集めただけじゃねぇ。バラバラの星を誰かが星座って結びつけて物語を作ったように、メジャー、アンダーグラウンド、ハードコア、ポップ。バラバラなものをACIDMANは結びつけて物語を作ろうとしている。毎年3月11日に福島で夜遅くまで酒を飲んでくれるあいつらの仲間で良かったと心から思ってる」
と、今でも両者が東日本大震災の日は福島に行ってライブをしていることを口にする。そうして音楽はもちろん精神で繋がっている両者だからこそ、大木は袖でその言葉を聞いて号泣していた。大木のそんな姿を見ると我々もつられて泣きそうになってしまうのだが、TOSHI-LOWは最後に
「一度きりの意味を、お前たちが問う番だ!」
と叫び、その瞬間にマイクが落ちる音がしてステージが暗転してライブが終わった。
ACIDMANは今でもそうしている。じゃあお前らはどうする?ということを突きつけてくるかのようなライブ。自分はBRAHMANはフェスにおけるジョーカー的な存在だと思っている。出るとその場、その日を完全に掻っ攫っていってしまうくらいのライブをやるからだ。それはACIDMAN主催のフェスでも、これだけの出演者が揃った日でもそうだった。モッシュやダイブがなくとも、BRAHMANのライブはやはり圧倒的過ぎたのだった。
1.時の鐘
2.Slow Dance
3.賽の河原
4.BASIS
5.SEE OFF
6.BEYOND THE MOUNTAIN
7.DEEP
8.ANSWER FOR… w/ 大木伸夫
9.今夜 w/ 細美武士
10.真善美
15:00〜 ASIAN KUNG-FU GENERATION
ACIDMANと同じ下北沢発のギターロックバンドとして2000年代のそのシーンを牽引してきた存在である、アジカン。こちらも前回の5年前に続いての出演である。
SEもなくメンバーがステージに現れると、今年リリースして先日までツアーを行っていた「プラネットフォークス」での、Ropesのアチコ(コーラスなど)とMop Of HeadのGeorge(キーボードなど)を加えた6人編成。Georgeはsumikaに続いてのダブルヘッダーという活躍っぷりである。
伊地知潔(ドラム)が四つ打ちのリズムを刻み始めるといきなりの「君という花」のリフを喜多建介(ギター)とゴッチ(ボーカル&ギター)が鳴らし、客席からは歓声と拍手が起こる。確かに1曲目がこの曲というのはかなり珍しいパターンであるし、そもそも近年はフェスでは演奏されないこともある曲であるだけに。しかも間奏では観客が声を出せることによって観客の「らっせーらっせー」のコールもささやかながら戻ってきた。およそ3年振りのその光景に始まって5分も経たずにすでに感動してしまっていた。
さらには間髪入れずに「リライト」のイントロのギターが掻き鳴らされて再びその段階で観客が湧き上がると、間奏のダブ的な演奏では山田貴洋のベースとともにアチコのコーラスが重要な役割を担っていることがよくわかる。まだこの部分ではかつてのようなコール&レスポンスを行うことはできないけれど、この緩急があるからこそ最後のサビでより爆発力を感じることができるのだ。
さらにはゴッチがイントロのギターを鳴らしただけでまたまた歓声と拍手が起こる「ソラニン」という名曲に次ぐ名曲の連発っぷり。観客の手拍子とともにGeorgeのキーボードもさりげなくであるが欠かせない存在感を発揮しているあたりはさすがである。
そんな中で髪型の中分けっぷりがより強くなってきている感のあるゴッチがACIDMANとは下北沢のライブハウスなどで20年くらい前からずっと一緒にライブをしてきたことを語ると、
「今日の最初に出ていたTHE BACK HORNも初めて対バンしたのは20年くらい前の下北沢シェルターの昼の部のライブで。お客さんなんか全然いなかった。その頃から一緒にやってる仲間が今でもこんな景色を作ってくれているっていうのは本当に感慨深いです」
と、当時のメンバーに聞かせてあげたいくらいに過去に思いを馳せざるを得ない思い出を口にすると、客席からは子供が泣いているような声が響くのであるが、それを聞いたゴッチは
「子供は泣くのが仕事だからね。そういうのを包み込めるような包容力を持つ場所をACIDMANが作れてること」
と言うのであるが、正直自分はすぐ隣でそんな泣かれまくっていたら、「勘弁してくれ〜」と思ってしまうのであるが、そうならないどころか尊重するゴッチとはやはり人間のレベルが違うし、本当にゴッチは優しさに満ち溢れた人間だなと思う。
メンバー紹介も経てそんなゴッチの、アジカンの優しさや包容力がそのまま曲になっているのが「プラネットフォークス」収録の、音源ではROTH BART BARONの三船雅也を迎えた「You To You」であり、やはりアチコのコーラスが三船のパートも務める喜多のハイトーンボイスとともにゴッチのボーカルに重なることによって人間の体温の温かさのようなものを感じさせるものになっている。
ゴッチが歌い始めただけで再び歓声と拍手が沸き上がり、自分としても大好きな曲なので短い持ち時間の中でもセトリに入っているのが嬉しい「荒野を歩け」ではアチコがタンバリンを叩く姿に合わせて手拍子が起きる。それはかつてのシモリョーがサポートで参加していた時期を彷彿とさせるだけに、確かに今のメンバーにもそれが継承されているのがわかって胸が熱くなるのだ。間奏では我らがギターヒーロー喜多が思いっきり足を上げてギターを弾きまくるが、この曲の「ラルラルラ」のコーラスを我々がもっと心置きなく歌うことが早くできたらなと思う。
そしてあっという間に最後の曲として鳴らされたのはゴッチがハンドマイクで歌う「プラネットフォークス」の「Be Alright」。ゴッチは左右の台の上に立つようにして歌うのであるが、この曲の持つメッセージはずっと一緒に戦ってきた仲間を称えるように、そしてこれからも大丈夫だというように鳴らされていた。
演奏が終わると全員がステージ前に並んで肩を組んで観客に一礼する。演奏中の喜多や山田の表情も、終わってからのこの表情もメンバーは本当に嬉しそうだった。それはかつては自分たちが牽引役として開催していたアリーナ規模でのアーティスト主催フェスを今は同世代の仲間がやってくれていて、そこに自分たちも出演することができているという感慨もあったんじゃないだろうか。
1.君という花
2.リライト
3.ソラニン
4.You To You
5.荒野を歩け
6.Be Alright
16:00〜 ELLEGARDEN
アリーナスタンディングもギチギチの満員、スタンドも最上段まで埋め尽くされている。誰もが待っていたELLEGARDENがこのフェスに出演する。5年前には細美武士はthe HIATUSで出演していたが、かつてアジカンらとともに小さなライブハウスで対バンしていたであろうELLEGARDENでの出演。
ステージが暗転すると背面にはおなじみのスカルのバンドロゴが映し出され、大きな拍手に包まれる中でメンバーがステージに登場。黒を基調とした衣装はいつも通りと言えるのであるが、もうこの段階でこの日のこのバンドへの期待度の凄まじさがわかる。
そんなバンドが最初に鳴らすのはまさに銃弾が次々に打ち込まれるような映像の効果がそのままどんな曲なのかを示している「Fire Cracker」。この熱気が、この熱さがこの曲から始まるエルレのライブだと思うし、鳴らしている音がやはり現役感しかないのは復活してはじめてのアルバムも作ったことによって戻ってきた感覚でもあるのだろう。
生形真一がイントロのギターを鳴らしただけで観客が湧き上がるのは「Space Sonic」で、モッシュやダイブが起こらないのがすごいなと思うくらいのスピード感。高田雄一(ベース)は激しく体を揺さぶりながらベースを弾き、すでにBRAHMANのライブにも出演した細美武士(ボーカル&ギター)は最後のサビ前でギターを抱えて思いっきりジャンプする。その姿も本当にあの頃から全く変わらない。それは休止後もthe HIATUSやMONOEYESで細美が、3人もそれぞれのバンドや活動で最前線で戦い続けてきたからだろう。高橋宏貴(ドラム)はやたらと真横を向きながらドラムを叩いていたのだが、それはステージ真横の見切れ席にいる人たちのことを見ていたのだと思う。
さらに細美がいきなり歌い出した後に客席から手拍子が起こったのはこの時期に相応しいタイトルと歌詞の内容の「The Autumn Song」。この曲のサビの突き抜けるようなメロディは今聴いても胸が震えるような感覚になるが、こんな曲がシングルのカップリングに収録されていたというのがthe pillowsの山中さわおとの対談で
「どの曲をシングルのタイトルにするべきか自分では全然わからないんですよ」
と細美が言っていた通りである。
「久しぶりに見る人も初めて見る人もいると思うけど、これからもフェスとかでもっとカッコよくなっていく俺たちに会えると思うから。このまま10-FEETもミスチルもACIDMANもブチ抜いてライブし続けたいけど」
という細美の言葉からはなかなか今はチケットが取れずに見ることができないけれど、これからも何度だってELLEGARDENのライブを見ることができるということを感じさせてくれる。
そんな言葉の後に演奏されたのは日本語歌詞による「風の日」。
「次の日には忘れて 風の日には飛ぼうとしてみる
そんなもんさ 僕らはそんなもんさ」
というフレーズが細美の言葉をリアルなものとして感じさせてくれる。間奏では細美が
「行ってこい、生形ー!」
と叫んで送り出して生形はギターソロを弾きまくる。その鳴らしている音は間違いなく音源やかつてよりも激しくなっている。間違いなくエルレは今になってさらに進化を果たしているのがわかる。少しでもそんなバンドの姿をまだ見れていない多くの人が見ることができるようにと思う。
細美がギターを弾きながらサビのフレーズを歌ってからバンドの演奏に突入していく「Supernova」のスピード感もまた現役感しかないが、細美のボーカルの伸びやかさたるや。the HIATUSの活動で得たボーカリストとしての力は今はこのELLEGARDENのライブにも間違いなく還元されている。
すぐさま突入した「ジターバグ」と、これでもかというくらいのキラーチューンの連打に次ぐ連打であるが、そもそもがそうした曲ばかりのバンドだったからこそ、10年も休止していてもこんなにたくさんの人が待っていてくれたのだ。
「いつだって君の声がこの暗闇を切り裂いてくれてる
いつかそんな言葉が僕のものになりますように
そうなりますように」
というこの曲のフレーズ通りに、今でもこのバンドでの細美の声が我々の暗闇を切り裂いてくれているのだ。細美はそのサビで少しマイクから離れて歌おうとしていたのは、かつてのライブでのこの曲のように我々の声を聴こうとしていたのかもしれない。
燃え上がるような映像がバンドロゴのスカルを焼き尽くすように映し出される「Salamander」でのサビでの爆発っぷりもこの曲の、ELLEGARDENの音楽の力が全く色褪せていないことを感じさせてくれるが、その思いを確かなものとするように細美は
「ライブしてて休止中も俺たちの曲を聴いてくれて、待っててくれたことが伝わってきた」
と言った。もうその一言で感情が決壊してしまいそうでもあったのだが、
「またこの曲をみんなで歌いてーよなー!」
と言って「Make A Wish」を歌い始める。サビで一気に加速する高橋と高田のビート。歌いたいのもそうであるし、サビで一気に最前ブロックに突っ込んでいくような、そんな自分の中にある衝動を全部ぶつけられるようなELLEGARDENのライブを早く見れるようになったらなと思う。
そしてタイトルに合わせたようにピンク色の照明がステージを照らすのは最新曲として配信リリースされた「Strawberry Margarita」。その前に活動再開後に最初にリリースされた「Mountain Top」はどちらかというとミドルテンポの曲だったが、こちらはアッパーなロックサウンドの曲であり、この曲でここまでの曲たちと変わらないくらいにたくさんの拳が上がっていた。それはELLEGARDENが過去の名曲だけを演奏する伝説のバンドではなくて、今を一緒に生きる現役のバンドになったということだ。
それが自分が復活後に見たマリンスタジアムでのライブと、NANA-IRO ELECTRIC TOURでのライブと全く違うものだった。だからその2回はライブ後に感極まってしまっていたのが、この日はライブが終わっても笑顔でいることができた。それは戻ってきたんじゃなくて、これからも続いていくということがわかったからだ。
自分と会いたい存在のお互いがちゃんと生きてさえいれば、そんなふうに思えるような日がきっとくる。死にたいって言うような人が周りにいたならば、自分はこうしてELLEGARDENが現役のバンドとして戻ってきたということを生きていた方がいい理由として例に挙げたいと思うのだ。
1.Fire Cracker
2.Space Sonic
3.The Autumn Song
4.風の日
5.Supernova
6.ジターバグ
7.Salamander
8.Make A Wish
9.Strawberry Margarita
17:00〜 10-FEET
5年前はトップバッターとして出演し、1曲目にACIDMANのコスプレをして「赤橙」を演奏するというパフォーマンスでこのフェスの歴史をスタートさせた、10-FEET。今回はELLEGARDENとミスチルの間というとんでもないタイムテーブルでの出演である。
客席ではタオルを掲げる観客もいる中でメンバーが登場すると、
「なんだってそう!自分のために頑張るのって難しい!だから今日はACIDMANのために頑張る!」
とTAKUMA(ボーカル&ギター)が口にして1曲目はデジタルなサウンドも取り入れた「ハローフィクサー」からスタート。TAKUMAのボーカルの調子も実に良いような感覚を感じるが、それはやはり冒頭の言葉によって自分以外の力が自身の中に備わっているからだろうか。
TAKUMAが曲間でいきなり
「1234!1234!」
とそんな始まり方をする曲は何にもないのに無理矢理その始まり方をしようとし、NAOKI(ベース)とKOUICHI(ドラム)も最初は無理矢理ついていこうとするのだが、結局そのリズムは関係なく「RIVER」が演奏され、荒川、入間川という埼玉バージョンの歌詞に変えて歌われる。
するとTAKUMAは観客をその場に座らせてスマホライトをつけさせるのであるが、曲を演奏せずに
「5年前に出演した時に…」
とMCを始めたためにNAOKIから
「スマホライトは!」
とツッコミを入れられ、
「あ、忘れてた」
という結局何にも使うことなくスマホライトは終わるのだが、それもまた「ある証明」という上手いんだかなんなんだかよくわからないが、5年前にACIDMANのコスプレをした際に最後のACIDMANのライブ時にその格好で参加しようとしたら警備員に止められ、しかもRADWIMPSの野田洋次郎にその一部始終を見られていたという5年前の裏側エピソードを開陳する。
そんなMCの後にはフェスで、しかもこの持ち時間で演奏されるのが実に珍しい「ライオン」が演奏されたので、なんでここでこの曲?と思っていたら曲中でいきなりメロディが5年前にコスプレカバーしていた「赤橙」に変化する。その「赤橙」と同じくらいのテンポだからこそスムーズに繋ぐために「ライオン」を演奏したということがわかる。その周到さ、発想力は指すが10-FEETである。
さらには「その向こうへ」で誰もが抱える思いを全て吹き飛ばすように演奏し、NAOKIはハイキックをかますと、映画スラムダンクのテーマ曲に決定している「第ゼロ感」が披露される。KOUICHIの四つ打ちのリズムを基調とした、10-FEETにしてはかなり意外なサウンドの曲であるが、それが新境地を感じさせるものになっている。リアルタイムで漫画を読んでいた世代としては映画の内容も気になるし、この曲やThe Birthdayの曲がどんなタイミングでどう使われているのかも気になるところだ。
そしてTAKUMAは
「人はいつだって、変わろうと思えばどんなタイミングだって変われると思う。そうするべきタイミングが来たら惚れた人にバシッと決めてください」
と実にTAKUMAらしいことを口にするのであるが、ACIDMANのコスプレセットはこの日は忘れてしまったことを明かし、最後に「ヒトリセカイ」を演奏するとNAOKIは恒例の超開脚奏法も披露し、演奏が終わるとTAKUMAは
「ケンカすんなよ!仲良くやれよ!」
と言った。こうした様々なジャンル、世代、音楽性のアーティストが集まる中でそれを口にするのが実にTAKUMAらしいなと思った。
1.ハローフィクサー
2.RIVER
3.ライオン 〜 赤橙
4.その向こうへ
5.第ゼロ感
6.ヒトリセカイ
18:00〜 Mr.Children
今回の出演者の中で最も驚きだったのはなんといってもこのMr.Childrenの出演だろう。そもそもフェスに出演することもなかなかないだけに初めてライブを見るという人もたくさんいるはず。そんなミスチルが今回のSAIのACIDMANの前を担う。
ライブ前にはACIDMANとはデビュー時からの仲である俳優の斎藤工が登場。何らかのインタビューで古くからの知り合いであることは知っていたが、まさかここで出てくるとは。そしてこんなに饒舌に喋るとは。そのサプライズはミスチルの前というタイミングに実に相応しいものであった。
そんなサプライズを経てミスチルのメンバーがステージに現れるとおなじみのサポートキーボードのSUNNYを含めた5人編成で桜井和寿(ボーカル&ギター)がギターをストロークし始める。それは「終わりなき旅」のイントロであることがすぐにわかり、客席からは歓声と大きな拍手が起こる。この曲が始まった瞬間に全てを持っていってしまうのがこの国を代表するポップザウルスの力だとすでにこの時点で実感するし、桜井の歌唱のなんと力強いこと。自分が初めてミスチルのライブを見た時(2005年のロッキン)もこの曲から始まったのであるが、その時から全く変わらないくらいどころか、むしろ進化している感すらあるくらい。それは実に衝撃的なものである。17年経っても進化していることを感じられるのだから。
「バンドマンに愛されるACIDMANに呼んでもらえて、あなたに会えて本当に嬉しい!」
と桜井が最大限の感謝を口にすると、こちらもギターストロークとともに歓声と大拍手が起こる「名もなき詩」と時代を超えて響く大名曲が続く。桜井の歌唱はやはりキーを落としたりすることも全くないし、やはり音源で聴くよりもはるかに心に響いてくるし、そこまでミスチルは演奏が上手いというイメージではなかった(ワンマンを何回か観てもそういう感じだった)のであるが、田原健一(ギター)、中川敬輔(ベース)、鈴木英哉(ドラム)の3人の演奏がかつての記憶よりも力強く響いてくる。桜井も「年月なら僕らの勝ち」と言っていたが、もう30年間もミスチルのメンバーとして誰にも変わることなく音を鳴らしてきたメンバーだからこその説得力と貫禄がそのメンバーたちの音には宿っている。そのメンバーのサウンドが合わさるミスチルの4人の演奏は人生で初めてさいたまスーパーアリーナが小さく感じた。それくらいのスケールを曲、歌唱、演奏、オーラの全てで放っている。
そんなミスチルも観客が声を出せるライブはコロナ禍に入ってから初めてのようで、曲間などで帰ってくる歓声に、
「これがライブだよなぁ!」
と本当に嬉しそうに口にし、
「あんまり大きな声で言うと後でワーワー言われそうなんで小さな声で言いますが(笑)、皆さんで歌ってください。そんな曲をもちろん用意してあります」
と言ってSUNNYがキーボードの切ないサウンドを鳴らすのは桜井がハンドマイクで歌う「HANABI」。もちろん
「もう1回 もう1回」
のフレーズで桜井はマイクから口を離し、観客の声を求める。自分の横にいた男性はこの曲への思い入れが強すぎるのか、演奏中にずっと泣いていた。そんなに思い入れがある曲ならちゃんとステージ見ておいたほうが、って思うくらいにずっと泣いていた。それくらいにどんな人でも人生のどこかのタイミングで自分を重ねてきた曲が必ずある。そんなミスチルのモンスターバンドたる所以を感じるとともに、そんなモンスターバンドたるミスチルであっても観客の声が聞こえるということにこんなにも喜んでいる。それはミスチルクラスであってもライブは観客と一緒に作り上げてきたものだったということだ。それは自分が普段ライブハウスに観に行くロックバンド、このフェスに出ている他のバンドと何ら変わることはない。ミスチルも紛れもなくロックバンドであり、だからこのフェスのステージに立っているということだ。
さらにはこちらも桜井がハンドマイクで歌う「himawari」と、近年もミスチルが大ヒット曲、大名曲を生み出し続けていることを感じざるを得ないとんでもない流れ。歌詞をオフマイクで口ずさみながら叩く鈴木のドラムもさらに力強さを増しており、ギターをスライドさせる田原も、体全体でリズムを刻むような中川も、メンバー全員がこうしてライブができていることを本当に喜んでいる。紛れもなくライブバンド・ミスチルの姿がそこにはあった。
「30周年なんで年数でいったら僕たちの勝ちですが(笑)、ACIDMANに追い越されないようにこれからも頑張っていきます。
ACIDMANにはいつまでもカッコよくいてもらいたいし、そんな彼らとこれからも一緒にやっていきたいです」
と本当にミスチルがACIDMANのために出てくれたんだなと感じさせることを桜井が口にして最後に演奏されたのは最新曲「生きろ」。映画のタイアップであるが、まだ映画は見ていなくても押し寄せてくる人間というものの強さと業の深さ。それを感じさせるのはもちろん30年間生き続けてきたミスチルというバンドの生命力だ。どんな言葉よりもこの曲をこうして聴くことでこそ明日からの日常を、社会を生きていける力を得ることができるのかもしれない。たった5曲だけだったが、満足度は普通の5曲の比ではない。
かつて「I♡U」のツアーくらいまでは何回もワンマンに行くくらいに子供の頃からミスチルをずっと聴いていたが、自分がロックバンドにハマっていくにつれてミスチルからは離れてしまっていた。でも15年ぶりくらいに見たミスチルのライブはあの頃から何も変わっていない…いや、そうじゃなくて、あの頃からさらに進化していたのだった。
「SOUNDTRACKS」リリース時のインタビューで桜井和寿は
「今のままのパフォーマンスを、ライブをいつまでできるんだろうかって思う年齢になってきた」
と言っていた。でもこの日のライブを見ていたら、今のままのパフォーマンスのライブができなくなる日はまだまだ遥か先どころか、ずっと来ないんじゃないかとすら思う。それくらいにストイックに自分を鍛え続けているからこそ、こうしてこの国のトップにこのバンドは君臨している。今回出てくれて本当にありがとうございました。
1.終わりなき旅
2.名もなき詩
3.HANABI
4.himawari
5.生きろ
19:00〜 ACIDMAN
そんなとんでもないアーティストたちの後にこの日を締めるべく主催のACIDMANへ。ライブ前には冒頭と同じくboo氏の前説が入るのだが、5年前と同様にメンバーでもないのに感極まって泣いてしまっているのがどこか微笑ましくもある。
そんなboo氏が前説で練習させていた手拍子が鳴り響く「最後の国」のSEで登場すると、大木伸夫(ボーカル&ギター)はSEが鳴り止んだ後も少し客席を見渡すように間を置いた。そうしてギターを激しく鳴らして始まったのは「world symphony」。前日の「to live」が映像も含めてその日だけのものだったことがよくわかるようにこの曲では大木がよく言う素粒子を彷彿とさせるような照明と映像の中で演奏されるこの曲は緩急のある展開も大木の極限に挑むかのようなボーカルとギターも含めてスリーピースの限界を超えるような凄まじい曲だ。その全ての要素でもってこの日出演した9組のライブの余韻を塗り替えて行く。もうこの時点でACIDMANが最高のライブを見せてくれるということがよくわかる。
前日より早いタイミングで演奏された「FREE STAR」ではやはりミラーボールが輝き、浦山一悟(ドラム)の叫びと共に大木が間奏で前に出てきて観客の方を向くと、観客が拳で応える。懸念された観客もたくさんの人が残っており、10年前のこの会場でのワンマンや5年前のこのフェスを超えるくらいのACIDMAN主催ライブの最大数の動員なんじゃないかと思うくらいだ。
前日はデビュー曲の「造花が笑う」が演奏されていたが、この日は最新作「INNOCENCE」収録の衝動を炸裂させる激しいギターロック「夜のために」が演奏される。スクリーンには曲の歌詞が次々に映し出されて行くのであるが、
「世界はきっと美しいはずなんだよ」
というフレーズは大木がyamaに提供した「世界は美しいはずなんだ」と同じものだ。この2日間会場に来てライブを見ていたというくらいに曲を提供してもらったことに感謝しているyamaはこの光景を見てどんなことを考えていたのだろうか。もし次にまたこのフェスが開催される日が来たなら、yamaにもステージからこの景色を見てほしいと思う。
「凄くないですか?こんなに凄いアーティストが出てくれてるって。八方美人で良かったなって思いますね。それは人に嫌われるのが怖いからでもあるんですけど、誰にでもそうするわけじゃなくて。でも凄すぎて俺たち霞んでない?見えてる?(笑)」
と笑わせながらも、やはりこの日はACIDMANを祝う日である。それをACIDMANは自分たちの音楽で示してくれる。
前日も演奏された「Rebirth」のダンサブルなリズムが軽やかに我々を踊らせてくれると、そのまま「赤橙」へ。この日は10-FEETがこの曲を演奏していただけにどこか笑ってしまう感覚もあるのだが、やはり前日よりもさらに気合いが入っているというかより力強く感じられるのはこの日は初日と2日目両方に出演したアーティストや来てくれた人たちの力を自分たちの音に還元することができているからだ。というかACIDMANはそうして自分たちの周りにいる人の力を自分たちのものにできるバンドなのだ。だからこんなにも凄いバンドたちが出てくれる。それはもちろんメンバーの人間性によるものであるのももちろん。
この日も大木は宇宙を巡ることを口にしていたのだが、そうしたACIDMANの思考の核を口にした後にはACIDMANの音楽の核というような壮大な映像が流れる「廻る、巡る、その核へ」が演奏されるというのも前日と同様であるが、佐藤雅俊(ベース)は前日とは違ってこの日はここではキャップを落とさず、そのままこの日は曲を入れ替えた「ALMA」が演奏される。
前日は演奏されなかっただけにこの日はまず間違いなく演奏されるだろうと思っていたのはかつて行われたこのバンドの楽曲人気投票で1位を獲得した曲だからであり、そんなACIDMAN屈指の名曲バラードが壮大な映像とともに演奏されると、
「世界の夜に 降り注ぐ星 全ての哀しみ洗う様に
さあ 降り注げ 今、 降り注げ 心が消えてしまう前に」
というフレーズで感情が極まった後のサビでは上空から前日と同様に星形のメッセージカードが降ってくる。そこにはこの日のものにはこの「ALMA」のフレーズが書かれていた。個人的にも大好きなフレーズであるだけにそれを手にできたのが本当に嬉しかった。そのメッセージカードが通路に落ちるとスタッフがすぐに拾って近くの観客に渡していた。そうしたところもACIDMANの意識や精神が行き届いている。
そして大木は
「まだ全然お客さんがいなかったインディーズ時代に、当時まだあんまり普及してなかった最先端の道具であるパソコンを使ってファンの人がバンドのホームページを作ってくれて。本当に嬉しかったなぁ。自分たちにそんなことをしてくれる人たちがいるんだって。それからメジャーに行ったりもしたけど、そこでもいろんな人が僕らのために力を貸してくれて。それは今日も、この2日間もそうです。
この場所にいてくれる、来てくれることが僕らにとってかけがえのない力になっている」
と観客への、関わってくれた全ての人への感謝を告げる。そのホームページを作ったファンは今でもACIDMANのライブを見ているのだろうか。
そんな集大成的なMCから演奏されたのはもちろん「ある証明」で、この日も間奏では大木の声とともに観客も叫ぶのであるが、やっぱり大木の声が大きすぎて観客の声が聞こえることはない。その声の大きさも叫びの長さも、大木のボーカリストとしての今の極まったものがこの日確かに出ていた。そしてそれはそのままACIDMANというスリーピースバンドとしての極まりっぷりでもある。
そしてこの日もアンコールなしで最後に演奏されたのは「Your Song」。前日同様にスクリーンには日本語訳の歌詞が映し出されると、最後のサビではこの日の出演アーティストの名前が刻まれた金テープが射出され、スクリーンにはこの日の出演者のライブ写真とともに観客の写真が映し出される。それを見て、本当に素晴らしい2日間だったと思うと同時に、そんな2日間を作ってくれたACIDMANはやはりこれだけ凄いアーティストを集めてもそのここまでの全てのアーティストのライブを上回るライブを見せてくれるバンドだったのだ。
ライブが終わると大木はすぐさま総合プロデューサーに転身して出演者全員を呼び込んで写真撮影をするのだが、ホルモンや10-FEETがみんなハットを被って登場したり、TOSHI-LOWが熊の着ぐるみを被っていたりと初日をはるかに上回るカオスっぷりで、しかもTOSHI-LOWはミスチルの桜井にハットを被せるというさすがの怖いもの知らずっぷり。それもまたTOSHI-LOWが言っていた、バラバラのものを結びつけるということなのだろうか。
そして大木は
「またいつかやるかもしれません!」
と言いながらステージから去っていった。5年に1回、ACIDMANの周年の時だけでもまたこんな日を作ってくれたら。2日とも最後に一悟が大木を称えるように名前を呼んでいたのが、この3人で変わることなくACIDMANが続いてきた理由だと思った。
自分はACIDMANのツアーやワンマンに可能な限り参加してきたし、そこでACIDMANの凄さを毎回感じてきた。でもこの日感じたそれは今までの比ではない。だってミスチルやエルレやアジカンが出た後にトリをやって、それが1番良いライブだったと思えるバンドが他に存在しているだろうか。ただトリをやるだけじゃなくて、その日の最高を更新してくれるバンドがACIDMANだということだ。
大木の世界を3人で表現するという構造はきっとこれからも変わることはないだろうけれど、そんな凄いバンドがデビューした時からその音楽を聴いてこれて、同じ時代を生きることができて本当に幸せだと思っている。そのACIDMANの凄さに少しでも多くの人が気付いてくれたらと思う。行ける限りは、やってくれる限りはずっと行き続けるから、これから先もどうかよろしく。
1.world symphony
2.FREE STAR
3.夜のために
4.Rebirth
5.赤橙
6.廻る、巡る、その核へ
7.ALMA
8.ある証明
9.Your Song
10:00〜 THE BACK HORN
開演時間前には5年前も前説で登場した、MTVなどでおなじみのboo氏が現れて前説を行い、開演時間になるとおなじみのSEが鳴ってこの日のトップバッターのTHE BACK HORNが登場。紛れもなくACIDMANとは同世代で、かつてフェスなどでは互いにコラボしているくらいの盟友である。
登場時から菅波栄純(ギター)が手拍子をするとそれが客席にも広がっていき、出で立ちが朝イチから男前な山田将司(ボーカル)が
「THE BACK HORNです。朝早くから来てくれてありがとうー」
と挨拶するや否や、すぐさま「刃」を歌い始めるという目覚まし代わりの一撃。岡峰光舟(ベース)も指を高く掲げ、栄純も将司も観客も1曲目から血が滾るようなテンションの高さ。これはこのバンドがトップバッターで正解だ。こんなにも朝の1曲目から我々を熱くしてくれるのだから。
さらには将司がイントロで観客を「来い!来い!」と煽り、栄純も手拍子をする「シンフォニア」とライブ定番のキラーチューンの連発っぷり。モニターに足をかけて前のめりになって歌う将司はやはりカッコいいし、その声も慣れないアリーナ規模でもしっかり響いている。それは
「帰る場所ならSAIにあるから」
と歌詞を変えて歌ったのがはっきりと聞き取れることからもわかる。
すると松田晋二(ドラム)によるおなじみの立ち上がってのMCでは
「ACIDMANと我々は20年来の付き合いで、下北沢とかで対バンしたり、打ち上げしたり、打ち上げしたり、打ち上げしたりしてきました!そんなACIDMANの記念すべき舞台に呼んでいただいてありがとうございます!」
と、とにかく打ち上げをした記憶だけは強く残っていることがわかることを口にし、栄純が性急なイントロのギターを鳴らす「罠」でさらに観客を熱くさせてくれる。この曲で歌われている「命」というテーマは形は違えどACIDMANに通じるものであるし、タイアップの内容を思い返しても開演前や転換中に流れていたユニセフの映像に思いを馳せざるを得なくなる。
そんな中でこの日演奏されたバラード枠は将司が大きく腕を広げるようにして歌う壮大な「空、星、海の夜」。この曲がこの日演奏されたのは間違いなくACIDMANのフェスだからだ。それはかつてJAPAN JAMのコラボなどで大木がこの曲を歌っていたからである。この曲のテーマと世界観もまたACIDMANに通じるものがあると感じられるし、THE BACK HORNが何度も立ってきた武道館だけでなくこうした規模の会場がよく似合うと思わせてくれる。
そんなTHE BACK HORNもACIDMANと同様にコロナ禍の中でも止まることなく活動し続け、今年フルアルバム「アンドロギア」をリリースしているのだが、その先行曲である「希望を鳴らせ」がACIDMANのフェスで演奏されるのがどこか感慨深いのは、かつては生命を歌うことによって死をも感じさせる表現をしてきたACIDMANに対して、THE BACK HORNは日本を代表する鬱バンドの一つとして死をそのまま描くことで生命を感じさせるという真逆な表現をしてきたからだ。そんな両者が今は同じ方向から同じ表現をするようになっているというのをこのフェスだからこそ感じられる。
そして将司が
「ACIDMAN、25周年おめでとうー!これからもよろしく!」
とACIDMANに言葉を送ってから演奏されたのはやはり「コバルトブルー」。朝イチとは思えないくらいに将司も栄純も暴れまくり、将司は汗をしたたらせながら叫ぶ。間奏では光舟のうねりまくるベースソロも披露され、ともに今も最前線で戦い続ける盟友としてのカッコいい姿を見せつけた。
この日が来ていた誰にとっても特別な、素晴らしい1日になったのはこのTHE BACK HORNが流れをしっかり作ってくれたからだ。去り際の栄純が笑顔で手を振る姿も実に清々しかった。
1.刃
2.シンフォニア
3.罠
4.空、星、海の夜
5.希望を鳴らせ
6.コバルトブルー
11:00〜 sumika
前日のSiMと同様にこの日の後輩枠はsumika。今やこのさいたまスーパーアリーナでワンマンをやるクラスのバンドであるが、やはり世代的な違いもあってか始まる前からアウェーに感じざるを得ない感じがする。それでも本気のリハでいつどんなところでも我々を暖かくしてくれる。
須藤優(ベース)、George(キーボード)と女性コーラスというおなじみのゲストメンバーを加えた7人編成で登場すると、演奏を始めるより先に片岡健太(ボーカル&ギター)は、
「高校生の時に衝撃を受けたACIDMAN。なけなしのバイト代で何回もライブに行きました。それから20年、ついにこの日が来ました。いつどんなライブでも100%出し尽くしますが、今日は本当にsumikaの全てをぶつけます!」
とACIDMANからの影響を素直に口にする。この言葉からしてバンドがこの日に並々ならぬ気合いを持って挑んでいることがよくわかる。
そんなライブはACIDMANへの愛情を曲で表すような「Lovers」から始まり、祝祭感溢れるイントロのサウンドが鳴る中で片岡は左右から真ん中を順番に向いてギターを弾き、間奏の小川貴之(キーボード)のソロでは水を小川に飲ませてあげて小川が何とも言えない表情をするというパフォーマンスが憧れの先輩に招いてもらった場でも全く緊張することなく自分たちのライブができているということを感じさせる。その際に片岡のすぐ後ろに黒田隼之介(ギター)がピッタリとくっついているというフォーメーションも抜群である。
「まだまだ始まったばかりだから、皆さんまだまだ元気ですよねー!?…心配だなぁ。先にこの呪文を唱えておきます!」
と言って演奏された「ふっかつのじゅもん」では片岡と黒田がイントロで一気に左右に展開していってギターを弾く。このアッパーなギターロックサウンドはsumikaのロックバンドさを感じさせてくれるし、小川らによる「ヘイ!」のコーラスはまさに我々の元気を復活させてくれる。
片岡がギターを弾きながらすぐさま歌い始めた「ファンファーレ」ではスクリーンに爽やかな青を基調とした映像が映し出され、片岡の
「夜を越えて
闇を抜けて
迎えにゆこう」
というフレーズがこのコロナ禍を生き抜く我々をバンドが迎えに来たかのように響く。片岡のボーカルも顔をしかめながら弾く黒田のギターも感情が篭りまくっているのが実によくわかる。
さらには荒井智之のイントロのドラムのリズムとメンバーによるコーラスフレーズが雄大なスケールを感じさせる「イコール」と代表曲と言えるような曲が続くのは自分たちのライブを初めて見る人が多いだろうということを意識したことによるど真ん中をしっかり見せるという選曲によるものだろう。
そんな中で片岡がハンドマイクになってステージ左右に動き回りながら歌う「Summer Vacation」は時期も含めて少し意外な選曲でもある。片岡が
「リラックスして聞いてください」
と言っていたように、そうして楽しめる曲もあることを示すためであろう選曲であり、片岡がカメラ目線で歌う姿がスクリーンにアップで映し出されるというおなじみのパフォーマンスも健在である。
そんな片岡が再びギターを手にすると、この時期に聴くことによってどこかクリスマスソング的な雰囲気も感じるようなバラード曲「願い」へ。完全にsumikaの持ち得るあらゆる要素を短い時間の中で全て見せようという選曲とパフォーマンス。ライブを見たことがなくてもこれらの曲をテレビなどで聴いたことがあるという人もいるだろうし、例えばこの日出演するミスチルのバラード曲に通じるような部分もある。ロックが好きな人にもポップな歌モノが好きな人にも受け入れてもらえるバンドであるということをフェスのライブでもしっかり示している。
そして片岡は
「ACIDMANから教わったことは、哲学を持つこと。美学を持つこと。その2つを持ち続ければどんな夢だって叶うということ」
と最後に口にする。冒頭の高校生の時のエピソードも含めて、本当にACIDMANが好きじゃなかったらこんな言葉は出てこない。それはACIDMANがまさにその言葉通りに活動してきたバンドであることをファンは知っているからそう思えるのだ。音楽性だけだとあまりACIDMANの影響は感じづらいバンドかもしれないが、きっとsumikaの前に片岡がやっていたバンドのロックさの中にはACIDMANの影響が確かにあったのだろうし、sumikaにもその精神性は確かに引き継がれている。
そんな思いを最高にハッピーな空気にすることによってACIDMANと今ここにいてくれる人に返すのはもちろん「Shake & Shake」。片岡がハンドマイクで激しくステージ上を動き回りながら歌うと、曲中の同期のリズムが流れる部分では荒井や須藤とともに袖でライブを見ていたACIDMANの3人も手を叩いていた。その姿をsumikaのメンバーたちに見せてあげたいと思うくらいに、ACIDMANはsumikaの音楽をちゃんと聴いている上でこのフェスに招いている。全てのライブがsumikaにとって大事なものであるが、その中でも忘れられないものになるはずだし、この曲のコーラスが少しずつ観客も一緒に歌えるようになってきているところにこの上ない希望を感じている。
片岡は自分と同世代であるために、高校生の時にACIDMANを聴いて衝撃を受けたというエピソードもほぼ自分の体験をそのまま聞いているかのような感じすらある。(自分はまだ当時はライブに行くことができず、なけなしのバイト代でACIDMANのCDを買っていた)
去年からのフェスでのMCも含めて、そんな片岡は自分のような奴の代弁者だと思っている。この日のMCも含めて、自分はsumikaのそんな部分に惹かれている。だからこのフェスでsumikaを見ることができて本当に良かったと思っている。
リハ.ソーダ
リハ.フィクション
1.Lovers
2.ふっかつのじゅもん
3.ファンファーレ
4.イコール
5.Summer Vacation
6.願い
7.Shake & Shake
12:00〜 the band apart
ACIDMANとは紛れもなく同世代でありながら前回は出演していなかったために今回が初出演となる、the band apart。
サウンドチェックにメンバー全員が出てきて曲を演奏すると、スキンヘッドになった木暮栄一(ドラム)が
「もうちょっとやっていいですか?」
と言いながら次々に曲を演奏する。そうして出番ギリギリまで演奏していただけにSEもなく捌けることもなくそのままジングルが鳴って本番へと突入していく。
その木暮が軽快なリズムを刻み始めると、原昌和(ベース)のイントロが響いていきなりの「Eric.W」からスタート。川崎亘一と荒井岳史のギターが重なることによってバンアパでしかないアンサンブルとグルーヴが生まれていく。そこに乗る荒井のボーカルもソロ活動などを経たことによってより逞しくなっているが、サビの
「Yeah Yeah Yeah」
のフレーズを皮切りに観客は飛び跳ねまくる。
そこからは日本語歌詞を取り入れて以降の「ピルグリム」「酩酊花火」と、キレがありながらも心地良さも感じるのはバンアパならではのグルーヴであるし、そこにはジャズやフュージョンなどのバンアパの技術力があるからこそできる要素が確かに含まれている。これだけの出演者が揃っていても、ここまで難解なフレーズを軽々と演奏できるバンドは他にいないだろうと思える。
「誰なんだこいつらはと思いの方もいらっしゃると思いますが、ACIDMANとはもう20年くらい前から下北沢や渋谷のライブハウスで対バンしてきた仲です。俺たちthe band apartと言います。よろしくお願いします!」
と荒井が挨拶すると、このバンドのライブの楽しみの一つである原のMCは
「来る時に朝ツイッター見てたら、大宮駅が燃えてるっていうのを見て。大変なことが起きてるなって思って。俺は今は埼玉の奥の方に住んでるから来る時に大宮を通ってきたんだけど、普通に通ってこれて」
と完全に通常運転なあたりはさすがである。
そんな原のベースは見た目通りの重さを感じさせながらも、荒井のボーカルのメロディは実にキャッチーな「DEKU NO BOY」は実にバンアパらしさを感じさせ、そのまま木暮が再びビートで曲を繋ぐと手拍子が起こる中で川崎と荒井のギターが重なる「higher」へ。観客が少しだけでも声が出せることになったことによって最後のサビ前で「ワン、ツー!」というコールが小さくても響くようになったのがバンアパらしいライブが戻ってきていることがわかって嬉しいし、たくさんの観客がタイトル通りに高い場所に向かって腕を伸ばす。やはりACIDMANのフェスであるだけにこの曲を知っている人はたくさんいることがよくわかる。
そして今年リリースの最新アルバム「Ninja of Four」のリード曲である「The Ninja」では木暮がイントロでリズムを刻みながらコーラスをするのであるが、ステージ袖の近くで全然サポートメンバーでもなんでもないスタッフらしき人物がタンバリンやシェイカーなどを振っているのが地味に面白い。しっかり木暮の方を見てリズムを確認しているのも含めてであるが、曲が進むと木暮のコーラスに原のハイトーンコーラスも重なっていく。
「ずっとバンドを続けてきてこんなに凄いバンドを集めてこうしたイベントを開催できるACIDMANを本当に誇りに思っています!」
と荒井が最後にACIDMANへの思いを口にすると、その荒井がギターをカッティングして始まるのはやはり「夜の向こうへ」。もう今では当たり前になっているバンアパの日本語歌詞も、この曲で取り入れた当時はまだ否定的な声もあったりした。でもそんな曲が今では完全にバンアパの代表曲となり、こうしてライブを締めるべき曲になっている。
「夜の向こうへ連れて行ってくれ」
と独特の渋みと包容力を感じさせる荒井のボーカルを聴いていて、ACIDMAN同様にバンアパもいろんな夜を超えて変わることなくこうして続いてきたんだなと思った。
そんな存在がいてくれることを誇りに思うとともに、結果的に中止になって未だに開催されていないバンアパが地元の東京の板橋区で開催しようとしていた主催フェスも開催される日が来るんなら必ず足を運びたいと思った。その時にはバンアパがトリとして、夜の向こうへ連れて行ってくれ。
リハ.ZION TOWN
リハ.SAQAVA
リハ.Photograph
リハ.beautiful vanity
1.Eric.W
2.ピルグリム
3.酩酊花火
4.DEKU NO BOY
5.higher
6.The Ninja
7.夜の向こうへ
13:00〜 マキシマム ザ ホルモン
一気に会場の空気が変わり始めてきているのは客席がスタンド席まで含めて満員になり始めてきているからでもあり、アリーナには一目でこのバンドのものだとわかるようなTシャツを着ている人がたくさんいるからである。マキシマム ザ ホルモンが最近のフェスでは珍しく早い時間帯での登場である。
ダイノジの爆笑の前説を経てからおなじみの賑やかなSEでメンバーが登場すると、いきなりの「maximum the hormone II 〜これからの麺カタコッテリの話をしよう〜」でスクリーンにはこのバンドならではのおなじみの映像が流れる中、これまでとは全く違う轟音・爆音のラウドロックが響き渡る。ナヲ(ドラム)のボーカル部分ではスクリーンに映る姿がリアルタイムで加工されているという演出もこのバンドならではであるが、ドレッドヘアのマキシマムザ亮君(ボーカル&ギター)のボーカルも迫力に満ちている。
ダイスケはん(ボーカル)が
「まだまだ夏を終わらせるな!夏を取り戻せー!」
と言って演奏された「恋のメガラバ」では観客もダイスケはんに合わせて腕を上下に振りながら踊り、間奏では上ちゃん(ベース)の鳴らす重いリズムに合わせてヘドバンが起こりまくるのだが、近年のこの曲では「こんなに使って大丈夫なのか?」と思うくらいに様々なアニメの映像が使われているので毎回そっちにも目線が向いてしまう。
「ACIDMANとは同年代で、大木とは2〜3回熱い夜も過ごして…」
と始まったナヲのMCでは自分で
「今日は桜井さん(ミスチル)もいるんだから!」
とツッコミを入れるのだが、
「同年代でフェスではしょっちゅう一緒になったりしてきたけど、ライブハウスで2組で対バンしたりしたことないから、同級生っていうよりも塾の友達みたいな感じ(笑)
だから今日は塾の友達の誕生日会に来てるみたいな(笑)地元のカッコいい先輩も呼ばれてる感じの」
という例えはやはり秀逸である。
そんなMCの後には爆音と上ちゃんのスラップが炸裂しまくる「「F」」が演奏され、間奏ではフリーザの声による「戦闘力53万です」というセリフも放たれる。最近は亮君がドドリアの立ち位置になったバージョンのセリフもあったけれど、この辺りはどう変えているのだろうか。
さらには「爪爪爪」とラウドな轟音とキャッチーなサビのメロディが融合したキラーチューンが連発され、ステージ上では亮君も暴れるようにして歌うと、ダイスケはんはパーカッションを打ち鳴らしたりとメンバーの演奏や表現が進化しているからこそこうしてシーンのトップに君臨するモンスターバンド足り得ているということがよくわかる。
そんなダイスケはんは大木とは同い年で、かつ近所に住んでいることを明かすと、最近も一緒にご飯を食べに行った際に大木が「ノアの方舟」や「マヤ文明」という話から始まってさらに深い、全く単語を聞いたことがないような話に展開していくも、最後には「島忠最高!」という結論に達したことを明かす。どんな流れで島忠最高に至るのかは全くわからないけれど。
そしてこの会場をさらに燃え上がらせるように真っ赤な照明に照らされる中で演奏された「アカギ」が音源よりもさらに凶悪と言えるような音像に変化している中でもサビの亮君のメロディのキャッチーさは失われていないあたりがホルモンらしさを感じさせてくれる。どんなに激しくてもポップな部分があるのはメンバーの人間性がそのまま出ているとも言える。
そこまで長く喋っていたような印象はなかったのだが、あっという間に最後の曲になってしまい、ダイスケはんが
「最後の曲です。「Tomorrow Never Knows」」
とミスチルの曲タイトルを口にするとナヲも
「ちょっと!それどんなシーソーゲームよ!」
ダイスケはん「ホンマに業の深い生命体やで〜!」
と、ミスチルが好き過ぎて喋りが止まらずにさらに時間がなくなって「恋のおまじない」を説明なしの一発本番で行うと、最後には「恋のスペルマ」が演奏されてやはり観客は手を叩いたりしながら踊りまくる。一気にテンポが速く激しくなる部分でのダイスケはんの「その場で1人で左回り」はあまり発生していなかったが、この曲のMVでのフェスの楽しみ方講座のような景色は少しずつ戻ってきつつある。それはホルモンがライブを続けながら守ってきたものでもある。
存在が目立ち過ぎるだけに本人たちが意図しないところを悪く言われたりすることもあるが、こうして様々なアーティストの主催フェスに出演しては毎回そこでしか見ることができない、最高に楽しいライブを見せてくれるホルモンのメンバーたちはやはり本当に優しい人たちだと自分は思っている。
1.maximum the hormone II 〜これからの麺カタコッテリの話をしよう〜
2.恋のメガラバ
3.「F」
4.爪爪爪
5.アカギ
6.恋のスペルマ
14:00〜 BRAHMAN
5年前にも出演していたBRAHMANが今回もこのフェスに出演。同じフェスに毎回出演するようなバンドではないだけに、こうして連続で出演しているあたりはACIDMANとの強い信頼関係を感じさせる。
スクリーンにはコロナ禍になって以降のバンドのライブのテーマになってきた「暗影演舞」の文字とともに壮大な映像が映し出される中でメンバーがステージに現れると、最初に演奏されたのは「時の鐘」という意外な選曲であるが、ACIDMANがコラボしているビール「COEDO」が作られている埼玉県川越市には「時の鐘」という鐘撞き堂みたいな建物がある。埼玉出身のACIDMANが主催している埼玉のフェスだからこその選曲であることに間違いないし、そこには確かにBRAHMANからのACIDMANへの愛情を感じさせる。
するとスクリーンに歌詞が次々に映し出される「Slow Dance」でTOSHI-LOW(ボーカル)もその強靭な肉体を誇示するかのようにステージ上を軽やかに舞うようにしながら歌う。この曲はコロナ禍以降にリリースされ、その後の新しい形でのBRAHMANのライブでも重要な位置を担ってきた曲だ。
そんな曲を終えると、
「関係ねぇ!アリーナだろうとライブハウスだろうと!関係ねぇ!明日がどうとか昨日がどうとか!あるのは今このステージだけ!ハードコアパンクの精神を持って、BRAHMAN、はじめます!」
とTOSHI-LOWが叫んでから、RONZI(ドラム)、KOHKI(ギター)、MAKOTO(ベース)のハードコアなコーラスも響き、TOSHI-LOWとともにステージを暴れ回るように演奏される「賽の河原」では黄泉の国を思わせるような映像も映し出されるのだが、その「賽の河原」の最後の
「此処に立つ」
という締めのフレーズに繋がるようにして、逆にそのフレーズで始まる「BASIS」へと繋がることによってステージも客席もさらに激しさを増していく。
さらにTOSHI-LOWがステージを左右に歩き回りながら歌う「SEE OFF」はこのバンドのライブを見るのが初めてという人でも高校野球の応援の演奏としておなじみの曲として耳にしたことがある人もたくさんいたんじゃないだろうか。この曲でもBRAHMANのライブでダイブなどが全く起きないというのはコロナ禍になる前の客席全体でケンカしてるかのような激しい光景を思い出すと今でも違和感を感じるものであるが、バンドはそんな状況でもライブをしようとしてきたということである。
さらにRONZIの叩き出すリズムに合わせて手拍子が起こる「BEYOND THE MOUNTAIN」から、メンバーによるハードコアなコーラスが響く「DEEP」と全く曲間なく次々に曲が演奏されていくというストロングスタイルの中で一度落ち着くようにしてKOHKIが穏やかなギターのメロディを鳴らした「ANSWER FOR…」では一気にサビで激しくなるという静と動が同居する中で過去のBRAHMANのライブの光景がスクリーンに映し出される。自分がその場にいたライブもあったし、その光景を心からカッコよくて美しいものだと思うからこそ、BRAHMANのライブでのこの光景がまた戻ってきて欲しいと思う。ステージには大木伸夫も現れ、TOSHI-LOWとともに歌うというのも両者の心からの信頼関係を感じさせる。
そして夜の新宿などの街並みがアニメーション的な映像として映し出された「今夜」ではやはり細美武士がステージに登場。それまではハードコアの化身のような表情で歌っていたTOSHI-LOWもこの時だけは穏やかな笑顔を浮かべており、最後に2人が抱き合う姿も含めて本当にこの2人は心の恋人同士なんだなと思うには充分なものであった。
そして最後の「真善美」へ。この日は持ち時間的にもMCはなしで突き進むのかと思いきや、メンバーが先にステージから去っていくと1人残ってスポットライトを浴びるTOSHI-LOWが
「一度きりの人生!その一度きりの中で3度だけ!大木のハットの中身を見たことがある(笑)
思ったよりも生えてた(笑)」
と急に笑わせたかと思ったら、
「ただ人気者を集めただけじゃねぇ。バラバラの星を誰かが星座って結びつけて物語を作ったように、メジャー、アンダーグラウンド、ハードコア、ポップ。バラバラなものをACIDMANは結びつけて物語を作ろうとしている。毎年3月11日に福島で夜遅くまで酒を飲んでくれるあいつらの仲間で良かったと心から思ってる」
と、今でも両者が東日本大震災の日は福島に行ってライブをしていることを口にする。そうして音楽はもちろん精神で繋がっている両者だからこそ、大木は袖でその言葉を聞いて号泣していた。大木のそんな姿を見ると我々もつられて泣きそうになってしまうのだが、TOSHI-LOWは最後に
「一度きりの意味を、お前たちが問う番だ!」
と叫び、その瞬間にマイクが落ちる音がしてステージが暗転してライブが終わった。
ACIDMANは今でもそうしている。じゃあお前らはどうする?ということを突きつけてくるかのようなライブ。自分はBRAHMANはフェスにおけるジョーカー的な存在だと思っている。出るとその場、その日を完全に掻っ攫っていってしまうくらいのライブをやるからだ。それはACIDMAN主催のフェスでも、これだけの出演者が揃った日でもそうだった。モッシュやダイブがなくとも、BRAHMANのライブはやはり圧倒的過ぎたのだった。
1.時の鐘
2.Slow Dance
3.賽の河原
4.BASIS
5.SEE OFF
6.BEYOND THE MOUNTAIN
7.DEEP
8.ANSWER FOR… w/ 大木伸夫
9.今夜 w/ 細美武士
10.真善美
15:00〜 ASIAN KUNG-FU GENERATION
ACIDMANと同じ下北沢発のギターロックバンドとして2000年代のそのシーンを牽引してきた存在である、アジカン。こちらも前回の5年前に続いての出演である。
SEもなくメンバーがステージに現れると、今年リリースして先日までツアーを行っていた「プラネットフォークス」での、Ropesのアチコ(コーラスなど)とMop Of HeadのGeorge(キーボードなど)を加えた6人編成。Georgeはsumikaに続いてのダブルヘッダーという活躍っぷりである。
伊地知潔(ドラム)が四つ打ちのリズムを刻み始めるといきなりの「君という花」のリフを喜多建介(ギター)とゴッチ(ボーカル&ギター)が鳴らし、客席からは歓声と拍手が起こる。確かに1曲目がこの曲というのはかなり珍しいパターンであるし、そもそも近年はフェスでは演奏されないこともある曲であるだけに。しかも間奏では観客が声を出せることによって観客の「らっせーらっせー」のコールもささやかながら戻ってきた。およそ3年振りのその光景に始まって5分も経たずにすでに感動してしまっていた。
さらには間髪入れずに「リライト」のイントロのギターが掻き鳴らされて再びその段階で観客が湧き上がると、間奏のダブ的な演奏では山田貴洋のベースとともにアチコのコーラスが重要な役割を担っていることがよくわかる。まだこの部分ではかつてのようなコール&レスポンスを行うことはできないけれど、この緩急があるからこそ最後のサビでより爆発力を感じることができるのだ。
さらにはゴッチがイントロのギターを鳴らしただけでまたまた歓声と拍手が起こる「ソラニン」という名曲に次ぐ名曲の連発っぷり。観客の手拍子とともにGeorgeのキーボードもさりげなくであるが欠かせない存在感を発揮しているあたりはさすがである。
そんな中で髪型の中分けっぷりがより強くなってきている感のあるゴッチがACIDMANとは下北沢のライブハウスなどで20年くらい前からずっと一緒にライブをしてきたことを語ると、
「今日の最初に出ていたTHE BACK HORNも初めて対バンしたのは20年くらい前の下北沢シェルターの昼の部のライブで。お客さんなんか全然いなかった。その頃から一緒にやってる仲間が今でもこんな景色を作ってくれているっていうのは本当に感慨深いです」
と、当時のメンバーに聞かせてあげたいくらいに過去に思いを馳せざるを得ない思い出を口にすると、客席からは子供が泣いているような声が響くのであるが、それを聞いたゴッチは
「子供は泣くのが仕事だからね。そういうのを包み込めるような包容力を持つ場所をACIDMANが作れてること」
と言うのであるが、正直自分はすぐ隣でそんな泣かれまくっていたら、「勘弁してくれ〜」と思ってしまうのであるが、そうならないどころか尊重するゴッチとはやはり人間のレベルが違うし、本当にゴッチは優しさに満ち溢れた人間だなと思う。
メンバー紹介も経てそんなゴッチの、アジカンの優しさや包容力がそのまま曲になっているのが「プラネットフォークス」収録の、音源ではROTH BART BARONの三船雅也を迎えた「You To You」であり、やはりアチコのコーラスが三船のパートも務める喜多のハイトーンボイスとともにゴッチのボーカルに重なることによって人間の体温の温かさのようなものを感じさせるものになっている。
ゴッチが歌い始めただけで再び歓声と拍手が沸き上がり、自分としても大好きな曲なので短い持ち時間の中でもセトリに入っているのが嬉しい「荒野を歩け」ではアチコがタンバリンを叩く姿に合わせて手拍子が起きる。それはかつてのシモリョーがサポートで参加していた時期を彷彿とさせるだけに、確かに今のメンバーにもそれが継承されているのがわかって胸が熱くなるのだ。間奏では我らがギターヒーロー喜多が思いっきり足を上げてギターを弾きまくるが、この曲の「ラルラルラ」のコーラスを我々がもっと心置きなく歌うことが早くできたらなと思う。
そしてあっという間に最後の曲として鳴らされたのはゴッチがハンドマイクで歌う「プラネットフォークス」の「Be Alright」。ゴッチは左右の台の上に立つようにして歌うのであるが、この曲の持つメッセージはずっと一緒に戦ってきた仲間を称えるように、そしてこれからも大丈夫だというように鳴らされていた。
演奏が終わると全員がステージ前に並んで肩を組んで観客に一礼する。演奏中の喜多や山田の表情も、終わってからのこの表情もメンバーは本当に嬉しそうだった。それはかつては自分たちが牽引役として開催していたアリーナ規模でのアーティスト主催フェスを今は同世代の仲間がやってくれていて、そこに自分たちも出演することができているという感慨もあったんじゃないだろうか。
1.君という花
2.リライト
3.ソラニン
4.You To You
5.荒野を歩け
6.Be Alright
16:00〜 ELLEGARDEN
アリーナスタンディングもギチギチの満員、スタンドも最上段まで埋め尽くされている。誰もが待っていたELLEGARDENがこのフェスに出演する。5年前には細美武士はthe HIATUSで出演していたが、かつてアジカンらとともに小さなライブハウスで対バンしていたであろうELLEGARDENでの出演。
ステージが暗転すると背面にはおなじみのスカルのバンドロゴが映し出され、大きな拍手に包まれる中でメンバーがステージに登場。黒を基調とした衣装はいつも通りと言えるのであるが、もうこの段階でこの日のこのバンドへの期待度の凄まじさがわかる。
そんなバンドが最初に鳴らすのはまさに銃弾が次々に打ち込まれるような映像の効果がそのままどんな曲なのかを示している「Fire Cracker」。この熱気が、この熱さがこの曲から始まるエルレのライブだと思うし、鳴らしている音がやはり現役感しかないのは復活してはじめてのアルバムも作ったことによって戻ってきた感覚でもあるのだろう。
生形真一がイントロのギターを鳴らしただけで観客が湧き上がるのは「Space Sonic」で、モッシュやダイブが起こらないのがすごいなと思うくらいのスピード感。高田雄一(ベース)は激しく体を揺さぶりながらベースを弾き、すでにBRAHMANのライブにも出演した細美武士(ボーカル&ギター)は最後のサビ前でギターを抱えて思いっきりジャンプする。その姿も本当にあの頃から全く変わらない。それは休止後もthe HIATUSやMONOEYESで細美が、3人もそれぞれのバンドや活動で最前線で戦い続けてきたからだろう。高橋宏貴(ドラム)はやたらと真横を向きながらドラムを叩いていたのだが、それはステージ真横の見切れ席にいる人たちのことを見ていたのだと思う。
さらに細美がいきなり歌い出した後に客席から手拍子が起こったのはこの時期に相応しいタイトルと歌詞の内容の「The Autumn Song」。この曲のサビの突き抜けるようなメロディは今聴いても胸が震えるような感覚になるが、こんな曲がシングルのカップリングに収録されていたというのがthe pillowsの山中さわおとの対談で
「どの曲をシングルのタイトルにするべきか自分では全然わからないんですよ」
と細美が言っていた通りである。
「久しぶりに見る人も初めて見る人もいると思うけど、これからもフェスとかでもっとカッコよくなっていく俺たちに会えると思うから。このまま10-FEETもミスチルもACIDMANもブチ抜いてライブし続けたいけど」
という細美の言葉からはなかなか今はチケットが取れずに見ることができないけれど、これからも何度だってELLEGARDENのライブを見ることができるということを感じさせてくれる。
そんな言葉の後に演奏されたのは日本語歌詞による「風の日」。
「次の日には忘れて 風の日には飛ぼうとしてみる
そんなもんさ 僕らはそんなもんさ」
というフレーズが細美の言葉をリアルなものとして感じさせてくれる。間奏では細美が
「行ってこい、生形ー!」
と叫んで送り出して生形はギターソロを弾きまくる。その鳴らしている音は間違いなく音源やかつてよりも激しくなっている。間違いなくエルレは今になってさらに進化を果たしているのがわかる。少しでもそんなバンドの姿をまだ見れていない多くの人が見ることができるようにと思う。
細美がギターを弾きながらサビのフレーズを歌ってからバンドの演奏に突入していく「Supernova」のスピード感もまた現役感しかないが、細美のボーカルの伸びやかさたるや。the HIATUSの活動で得たボーカリストとしての力は今はこのELLEGARDENのライブにも間違いなく還元されている。
すぐさま突入した「ジターバグ」と、これでもかというくらいのキラーチューンの連打に次ぐ連打であるが、そもそもがそうした曲ばかりのバンドだったからこそ、10年も休止していてもこんなにたくさんの人が待っていてくれたのだ。
「いつだって君の声がこの暗闇を切り裂いてくれてる
いつかそんな言葉が僕のものになりますように
そうなりますように」
というこの曲のフレーズ通りに、今でもこのバンドでの細美の声が我々の暗闇を切り裂いてくれているのだ。細美はそのサビで少しマイクから離れて歌おうとしていたのは、かつてのライブでのこの曲のように我々の声を聴こうとしていたのかもしれない。
燃え上がるような映像がバンドロゴのスカルを焼き尽くすように映し出される「Salamander」でのサビでの爆発っぷりもこの曲の、ELLEGARDENの音楽の力が全く色褪せていないことを感じさせてくれるが、その思いを確かなものとするように細美は
「ライブしてて休止中も俺たちの曲を聴いてくれて、待っててくれたことが伝わってきた」
と言った。もうその一言で感情が決壊してしまいそうでもあったのだが、
「またこの曲をみんなで歌いてーよなー!」
と言って「Make A Wish」を歌い始める。サビで一気に加速する高橋と高田のビート。歌いたいのもそうであるし、サビで一気に最前ブロックに突っ込んでいくような、そんな自分の中にある衝動を全部ぶつけられるようなELLEGARDENのライブを早く見れるようになったらなと思う。
そしてタイトルに合わせたようにピンク色の照明がステージを照らすのは最新曲として配信リリースされた「Strawberry Margarita」。その前に活動再開後に最初にリリースされた「Mountain Top」はどちらかというとミドルテンポの曲だったが、こちらはアッパーなロックサウンドの曲であり、この曲でここまでの曲たちと変わらないくらいにたくさんの拳が上がっていた。それはELLEGARDENが過去の名曲だけを演奏する伝説のバンドではなくて、今を一緒に生きる現役のバンドになったということだ。
それが自分が復活後に見たマリンスタジアムでのライブと、NANA-IRO ELECTRIC TOURでのライブと全く違うものだった。だからその2回はライブ後に感極まってしまっていたのが、この日はライブが終わっても笑顔でいることができた。それは戻ってきたんじゃなくて、これからも続いていくということがわかったからだ。
自分と会いたい存在のお互いがちゃんと生きてさえいれば、そんなふうに思えるような日がきっとくる。死にたいって言うような人が周りにいたならば、自分はこうしてELLEGARDENが現役のバンドとして戻ってきたということを生きていた方がいい理由として例に挙げたいと思うのだ。
1.Fire Cracker
2.Space Sonic
3.The Autumn Song
4.風の日
5.Supernova
6.ジターバグ
7.Salamander
8.Make A Wish
9.Strawberry Margarita
17:00〜 10-FEET
5年前はトップバッターとして出演し、1曲目にACIDMANのコスプレをして「赤橙」を演奏するというパフォーマンスでこのフェスの歴史をスタートさせた、10-FEET。今回はELLEGARDENとミスチルの間というとんでもないタイムテーブルでの出演である。
客席ではタオルを掲げる観客もいる中でメンバーが登場すると、
「なんだってそう!自分のために頑張るのって難しい!だから今日はACIDMANのために頑張る!」
とTAKUMA(ボーカル&ギター)が口にして1曲目はデジタルなサウンドも取り入れた「ハローフィクサー」からスタート。TAKUMAのボーカルの調子も実に良いような感覚を感じるが、それはやはり冒頭の言葉によって自分以外の力が自身の中に備わっているからだろうか。
TAKUMAが曲間でいきなり
「1234!1234!」
とそんな始まり方をする曲は何にもないのに無理矢理その始まり方をしようとし、NAOKI(ベース)とKOUICHI(ドラム)も最初は無理矢理ついていこうとするのだが、結局そのリズムは関係なく「RIVER」が演奏され、荒川、入間川という埼玉バージョンの歌詞に変えて歌われる。
するとTAKUMAは観客をその場に座らせてスマホライトをつけさせるのであるが、曲を演奏せずに
「5年前に出演した時に…」
とMCを始めたためにNAOKIから
「スマホライトは!」
とツッコミを入れられ、
「あ、忘れてた」
という結局何にも使うことなくスマホライトは終わるのだが、それもまた「ある証明」という上手いんだかなんなんだかよくわからないが、5年前にACIDMANのコスプレをした際に最後のACIDMANのライブ時にその格好で参加しようとしたら警備員に止められ、しかもRADWIMPSの野田洋次郎にその一部始終を見られていたという5年前の裏側エピソードを開陳する。
そんなMCの後にはフェスで、しかもこの持ち時間で演奏されるのが実に珍しい「ライオン」が演奏されたので、なんでここでこの曲?と思っていたら曲中でいきなりメロディが5年前にコスプレカバーしていた「赤橙」に変化する。その「赤橙」と同じくらいのテンポだからこそスムーズに繋ぐために「ライオン」を演奏したということがわかる。その周到さ、発想力は指すが10-FEETである。
さらには「その向こうへ」で誰もが抱える思いを全て吹き飛ばすように演奏し、NAOKIはハイキックをかますと、映画スラムダンクのテーマ曲に決定している「第ゼロ感」が披露される。KOUICHIの四つ打ちのリズムを基調とした、10-FEETにしてはかなり意外なサウンドの曲であるが、それが新境地を感じさせるものになっている。リアルタイムで漫画を読んでいた世代としては映画の内容も気になるし、この曲やThe Birthdayの曲がどんなタイミングでどう使われているのかも気になるところだ。
そしてTAKUMAは
「人はいつだって、変わろうと思えばどんなタイミングだって変われると思う。そうするべきタイミングが来たら惚れた人にバシッと決めてください」
と実にTAKUMAらしいことを口にするのであるが、ACIDMANのコスプレセットはこの日は忘れてしまったことを明かし、最後に「ヒトリセカイ」を演奏するとNAOKIは恒例の超開脚奏法も披露し、演奏が終わるとTAKUMAは
「ケンカすんなよ!仲良くやれよ!」
と言った。こうした様々なジャンル、世代、音楽性のアーティストが集まる中でそれを口にするのが実にTAKUMAらしいなと思った。
1.ハローフィクサー
2.RIVER
3.ライオン 〜 赤橙
4.その向こうへ
5.第ゼロ感
6.ヒトリセカイ
18:00〜 Mr.Children
今回の出演者の中で最も驚きだったのはなんといってもこのMr.Childrenの出演だろう。そもそもフェスに出演することもなかなかないだけに初めてライブを見るという人もたくさんいるはず。そんなミスチルが今回のSAIのACIDMANの前を担う。
ライブ前にはACIDMANとはデビュー時からの仲である俳優の斎藤工が登場。何らかのインタビューで古くからの知り合いであることは知っていたが、まさかここで出てくるとは。そしてこんなに饒舌に喋るとは。そのサプライズはミスチルの前というタイミングに実に相応しいものであった。
そんなサプライズを経てミスチルのメンバーがステージに現れるとおなじみのサポートキーボードのSUNNYを含めた5人編成で桜井和寿(ボーカル&ギター)がギターをストロークし始める。それは「終わりなき旅」のイントロであることがすぐにわかり、客席からは歓声と大きな拍手が起こる。この曲が始まった瞬間に全てを持っていってしまうのがこの国を代表するポップザウルスの力だとすでにこの時点で実感するし、桜井の歌唱のなんと力強いこと。自分が初めてミスチルのライブを見た時(2005年のロッキン)もこの曲から始まったのであるが、その時から全く変わらないくらいどころか、むしろ進化している感すらあるくらい。それは実に衝撃的なものである。17年経っても進化していることを感じられるのだから。
「バンドマンに愛されるACIDMANに呼んでもらえて、あなたに会えて本当に嬉しい!」
と桜井が最大限の感謝を口にすると、こちらもギターストロークとともに歓声と大拍手が起こる「名もなき詩」と時代を超えて響く大名曲が続く。桜井の歌唱はやはりキーを落としたりすることも全くないし、やはり音源で聴くよりもはるかに心に響いてくるし、そこまでミスチルは演奏が上手いというイメージではなかった(ワンマンを何回か観てもそういう感じだった)のであるが、田原健一(ギター)、中川敬輔(ベース)、鈴木英哉(ドラム)の3人の演奏がかつての記憶よりも力強く響いてくる。桜井も「年月なら僕らの勝ち」と言っていたが、もう30年間もミスチルのメンバーとして誰にも変わることなく音を鳴らしてきたメンバーだからこその説得力と貫禄がそのメンバーたちの音には宿っている。そのメンバーのサウンドが合わさるミスチルの4人の演奏は人生で初めてさいたまスーパーアリーナが小さく感じた。それくらいのスケールを曲、歌唱、演奏、オーラの全てで放っている。
そんなミスチルも観客が声を出せるライブはコロナ禍に入ってから初めてのようで、曲間などで帰ってくる歓声に、
「これがライブだよなぁ!」
と本当に嬉しそうに口にし、
「あんまり大きな声で言うと後でワーワー言われそうなんで小さな声で言いますが(笑)、皆さんで歌ってください。そんな曲をもちろん用意してあります」
と言ってSUNNYがキーボードの切ないサウンドを鳴らすのは桜井がハンドマイクで歌う「HANABI」。もちろん
「もう1回 もう1回」
のフレーズで桜井はマイクから口を離し、観客の声を求める。自分の横にいた男性はこの曲への思い入れが強すぎるのか、演奏中にずっと泣いていた。そんなに思い入れがある曲ならちゃんとステージ見ておいたほうが、って思うくらいにずっと泣いていた。それくらいにどんな人でも人生のどこかのタイミングで自分を重ねてきた曲が必ずある。そんなミスチルのモンスターバンドたる所以を感じるとともに、そんなモンスターバンドたるミスチルであっても観客の声が聞こえるということにこんなにも喜んでいる。それはミスチルクラスであってもライブは観客と一緒に作り上げてきたものだったということだ。それは自分が普段ライブハウスに観に行くロックバンド、このフェスに出ている他のバンドと何ら変わることはない。ミスチルも紛れもなくロックバンドであり、だからこのフェスのステージに立っているということだ。
さらにはこちらも桜井がハンドマイクで歌う「himawari」と、近年もミスチルが大ヒット曲、大名曲を生み出し続けていることを感じざるを得ないとんでもない流れ。歌詞をオフマイクで口ずさみながら叩く鈴木のドラムもさらに力強さを増しており、ギターをスライドさせる田原も、体全体でリズムを刻むような中川も、メンバー全員がこうしてライブができていることを本当に喜んでいる。紛れもなくライブバンド・ミスチルの姿がそこにはあった。
「30周年なんで年数でいったら僕たちの勝ちですが(笑)、ACIDMANに追い越されないようにこれからも頑張っていきます。
ACIDMANにはいつまでもカッコよくいてもらいたいし、そんな彼らとこれからも一緒にやっていきたいです」
と本当にミスチルがACIDMANのために出てくれたんだなと感じさせることを桜井が口にして最後に演奏されたのは最新曲「生きろ」。映画のタイアップであるが、まだ映画は見ていなくても押し寄せてくる人間というものの強さと業の深さ。それを感じさせるのはもちろん30年間生き続けてきたミスチルというバンドの生命力だ。どんな言葉よりもこの曲をこうして聴くことでこそ明日からの日常を、社会を生きていける力を得ることができるのかもしれない。たった5曲だけだったが、満足度は普通の5曲の比ではない。
かつて「I♡U」のツアーくらいまでは何回もワンマンに行くくらいに子供の頃からミスチルをずっと聴いていたが、自分がロックバンドにハマっていくにつれてミスチルからは離れてしまっていた。でも15年ぶりくらいに見たミスチルのライブはあの頃から何も変わっていない…いや、そうじゃなくて、あの頃からさらに進化していたのだった。
「SOUNDTRACKS」リリース時のインタビューで桜井和寿は
「今のままのパフォーマンスを、ライブをいつまでできるんだろうかって思う年齢になってきた」
と言っていた。でもこの日のライブを見ていたら、今のままのパフォーマンスのライブができなくなる日はまだまだ遥か先どころか、ずっと来ないんじゃないかとすら思う。それくらいにストイックに自分を鍛え続けているからこそ、こうしてこの国のトップにこのバンドは君臨している。今回出てくれて本当にありがとうございました。
1.終わりなき旅
2.名もなき詩
3.HANABI
4.himawari
5.生きろ
19:00〜 ACIDMAN
そんなとんでもないアーティストたちの後にこの日を締めるべく主催のACIDMANへ。ライブ前には冒頭と同じくboo氏の前説が入るのだが、5年前と同様にメンバーでもないのに感極まって泣いてしまっているのがどこか微笑ましくもある。
そんなboo氏が前説で練習させていた手拍子が鳴り響く「最後の国」のSEで登場すると、大木伸夫(ボーカル&ギター)はSEが鳴り止んだ後も少し客席を見渡すように間を置いた。そうしてギターを激しく鳴らして始まったのは「world symphony」。前日の「to live」が映像も含めてその日だけのものだったことがよくわかるようにこの曲では大木がよく言う素粒子を彷彿とさせるような照明と映像の中で演奏されるこの曲は緩急のある展開も大木の極限に挑むかのようなボーカルとギターも含めてスリーピースの限界を超えるような凄まじい曲だ。その全ての要素でもってこの日出演した9組のライブの余韻を塗り替えて行く。もうこの時点でACIDMANが最高のライブを見せてくれるということがよくわかる。
前日より早いタイミングで演奏された「FREE STAR」ではやはりミラーボールが輝き、浦山一悟(ドラム)の叫びと共に大木が間奏で前に出てきて観客の方を向くと、観客が拳で応える。懸念された観客もたくさんの人が残っており、10年前のこの会場でのワンマンや5年前のこのフェスを超えるくらいのACIDMAN主催ライブの最大数の動員なんじゃないかと思うくらいだ。
前日はデビュー曲の「造花が笑う」が演奏されていたが、この日は最新作「INNOCENCE」収録の衝動を炸裂させる激しいギターロック「夜のために」が演奏される。スクリーンには曲の歌詞が次々に映し出されて行くのであるが、
「世界はきっと美しいはずなんだよ」
というフレーズは大木がyamaに提供した「世界は美しいはずなんだ」と同じものだ。この2日間会場に来てライブを見ていたというくらいに曲を提供してもらったことに感謝しているyamaはこの光景を見てどんなことを考えていたのだろうか。もし次にまたこのフェスが開催される日が来たなら、yamaにもステージからこの景色を見てほしいと思う。
「凄くないですか?こんなに凄いアーティストが出てくれてるって。八方美人で良かったなって思いますね。それは人に嫌われるのが怖いからでもあるんですけど、誰にでもそうするわけじゃなくて。でも凄すぎて俺たち霞んでない?見えてる?(笑)」
と笑わせながらも、やはりこの日はACIDMANを祝う日である。それをACIDMANは自分たちの音楽で示してくれる。
前日も演奏された「Rebirth」のダンサブルなリズムが軽やかに我々を踊らせてくれると、そのまま「赤橙」へ。この日は10-FEETがこの曲を演奏していただけにどこか笑ってしまう感覚もあるのだが、やはり前日よりもさらに気合いが入っているというかより力強く感じられるのはこの日は初日と2日目両方に出演したアーティストや来てくれた人たちの力を自分たちの音に還元することができているからだ。というかACIDMANはそうして自分たちの周りにいる人の力を自分たちのものにできるバンドなのだ。だからこんなにも凄いバンドたちが出てくれる。それはもちろんメンバーの人間性によるものであるのももちろん。
この日も大木は宇宙を巡ることを口にしていたのだが、そうしたACIDMANの思考の核を口にした後にはACIDMANの音楽の核というような壮大な映像が流れる「廻る、巡る、その核へ」が演奏されるというのも前日と同様であるが、佐藤雅俊(ベース)は前日とは違ってこの日はここではキャップを落とさず、そのままこの日は曲を入れ替えた「ALMA」が演奏される。
前日は演奏されなかっただけにこの日はまず間違いなく演奏されるだろうと思っていたのはかつて行われたこのバンドの楽曲人気投票で1位を獲得した曲だからであり、そんなACIDMAN屈指の名曲バラードが壮大な映像とともに演奏されると、
「世界の夜に 降り注ぐ星 全ての哀しみ洗う様に
さあ 降り注げ 今、 降り注げ 心が消えてしまう前に」
というフレーズで感情が極まった後のサビでは上空から前日と同様に星形のメッセージカードが降ってくる。そこにはこの日のものにはこの「ALMA」のフレーズが書かれていた。個人的にも大好きなフレーズであるだけにそれを手にできたのが本当に嬉しかった。そのメッセージカードが通路に落ちるとスタッフがすぐに拾って近くの観客に渡していた。そうしたところもACIDMANの意識や精神が行き届いている。
そして大木は
「まだ全然お客さんがいなかったインディーズ時代に、当時まだあんまり普及してなかった最先端の道具であるパソコンを使ってファンの人がバンドのホームページを作ってくれて。本当に嬉しかったなぁ。自分たちにそんなことをしてくれる人たちがいるんだって。それからメジャーに行ったりもしたけど、そこでもいろんな人が僕らのために力を貸してくれて。それは今日も、この2日間もそうです。
この場所にいてくれる、来てくれることが僕らにとってかけがえのない力になっている」
と観客への、関わってくれた全ての人への感謝を告げる。そのホームページを作ったファンは今でもACIDMANのライブを見ているのだろうか。
そんな集大成的なMCから演奏されたのはもちろん「ある証明」で、この日も間奏では大木の声とともに観客も叫ぶのであるが、やっぱり大木の声が大きすぎて観客の声が聞こえることはない。その声の大きさも叫びの長さも、大木のボーカリストとしての今の極まったものがこの日確かに出ていた。そしてそれはそのままACIDMANというスリーピースバンドとしての極まりっぷりでもある。
そしてこの日もアンコールなしで最後に演奏されたのは「Your Song」。前日同様にスクリーンには日本語訳の歌詞が映し出されると、最後のサビではこの日の出演アーティストの名前が刻まれた金テープが射出され、スクリーンにはこの日の出演者のライブ写真とともに観客の写真が映し出される。それを見て、本当に素晴らしい2日間だったと思うと同時に、そんな2日間を作ってくれたACIDMANはやはりこれだけ凄いアーティストを集めてもそのここまでの全てのアーティストのライブを上回るライブを見せてくれるバンドだったのだ。
ライブが終わると大木はすぐさま総合プロデューサーに転身して出演者全員を呼び込んで写真撮影をするのだが、ホルモンや10-FEETがみんなハットを被って登場したり、TOSHI-LOWが熊の着ぐるみを被っていたりと初日をはるかに上回るカオスっぷりで、しかもTOSHI-LOWはミスチルの桜井にハットを被せるというさすがの怖いもの知らずっぷり。それもまたTOSHI-LOWが言っていた、バラバラのものを結びつけるということなのだろうか。
そして大木は
「またいつかやるかもしれません!」
と言いながらステージから去っていった。5年に1回、ACIDMANの周年の時だけでもまたこんな日を作ってくれたら。2日とも最後に一悟が大木を称えるように名前を呼んでいたのが、この3人で変わることなくACIDMANが続いてきた理由だと思った。
自分はACIDMANのツアーやワンマンに可能な限り参加してきたし、そこでACIDMANの凄さを毎回感じてきた。でもこの日感じたそれは今までの比ではない。だってミスチルやエルレやアジカンが出た後にトリをやって、それが1番良いライブだったと思えるバンドが他に存在しているだろうか。ただトリをやるだけじゃなくて、その日の最高を更新してくれるバンドがACIDMANだということだ。
大木の世界を3人で表現するという構造はきっとこれからも変わることはないだろうけれど、そんな凄いバンドがデビューした時からその音楽を聴いてこれて、同じ時代を生きることができて本当に幸せだと思っている。そのACIDMANの凄さに少しでも多くの人が気付いてくれたらと思う。行ける限りは、やってくれる限りはずっと行き続けるから、これから先もどうかよろしく。
1.world symphony
2.FREE STAR
3.夜のために
4.Rebirth
5.赤橙
6.廻る、巡る、その核へ
7.ALMA
8.ある証明
9.Your Song
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