中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2022 DAY1 @中津川公園特設会場 9/23
- 2022/09/26
- 19:02
太陽光発電の力でロックフェスを開催するという合言葉のもとに、シアターブルックのボーカル&ギターの佐藤タイジが旗振り役として岐阜県中津川市の公園で開催されてきた、THE SOLAR BUDOKAN。
しかしながらこの2年間はやはりコロナの影響で(会場がワクチン接種会場になったりしていた)配信での開催となり、その収録ライブも2020年は中野サンプラザ、2021年はZepp Hanedaで行われたのだが、様々な各地のフェスがそうであるようにこのフェスも3年振りに中津川での現地開催が出来ることに。当たり前であるが自分にとっても3年振りの中津川である。
今年はまだ動員も規模も絞っており、基本的にライブが行われるステージも
REVOLUTION STAGE
RESPECT STAGE
REALIZE STAGE
という3つに減らしての開催となっている。
3年前(なんなら配信ライブを中津川の現地収録をした2年前も)までは常に雨予報を吹き飛ばしてきた太陽のフェスであるが、この日は台風などの影響もあって朝から雨。空気も実に澄んでいるというか、関東から来るとその空気を吸い込むだけで「ここは他の場所とは違うものがあるな」というのがわかるのだが、その空気もこの日ばかりは寒さに繋がる要素になっている。
11:00〜 四星球 [Revolution STAGE]
このフェスをはじめとしたライブやイベントなどの司会でおなじみのジョー横溝の前説では
「中津川で開催できない間に佐藤タイジの晴れパワーが弱まった(笑)」
とも言われていたが、そんな雨が降る中で3年振りのこのフェスの始まりを告げるのは徳島が生んだコミックバンドの雄、四星球である。
ステージには法被を着た北島康雄(ボーカル)が最初に現れると、
「今日は電力で動くメンバーを連れてきましたー!」
と言って、U太(ベース)は全身タイツでのPepper君、まさやん(ギター)は昔のというか初期の頃のAIBO、そしてモリス(ドラム)はほぼ全裸でサングラスをかけ、股間はソーラーパネルを貼って隠すというターミネーターで登場し、そのモリスの雨による寒さをも厭わない出で立ちで笑わせてくれることで客席の温度も少し上がっているような感じもする。
そんな人間がロボットを引き連れるような編成で最初に演奏されたのはフェスでは恒例の客席を左右に分けて紅組と白組で対決する「運動会やりたい」なのであるが、このステージに次に出演するのが打首獄門同好会であることを意識して、いきなりのスクワット対決で雨が降る中での朝イチからスクワットを連発するという過酷な状況に。しかも明らかに打首よりもスクワットをする回数が多いのがまたキツいのである。
さらに雨がすでに降っている中での雨避け対決、どの曲よりも一体感を生み出す「YMCA対決」を繰り広げ、人数の圧倒的な差で勝った紅組にはスクワットをもう1セットプレゼントする。その際に出てきたまさやん製の秋の味覚の秋刀魚やフルーツたちはもちろんこの後の伏線になってくる。
いきなりのクライマックスを迎えるように、まさやんがギターを上空に放り投げてはキャッチする様に拍手が湧き上がり、北島のフラフープ芸も披露される「クラーク博士と僕」ではU太がもはやグレーの全身タイツを着ているだけの人みたいな見た目になりながら、抱える衝動を音に込めるように飛び跳ねるようにしながら演奏する姿に面白いだけではないこのバンドの真髄が見える曲である。
そんなバンドの小道具制作を一手に担うまさやんを称える「鋼鉄の段ボーラーまさゆき」では観客がエアギターをしたりその場でグルグル回ったり…そうして夢中になって楽しむことで雨も寒さも忘れてしまえるようになっているあたりはさすがであり、それは「絶対音感彼氏」の曲中にクジを引いて出てきた曲を歌う中で選ばれた布袋寅泰の「スリル」を軽々と演奏できるバンドの技術もそうである。北島は布袋寅泰モデルの幾何学模様のギター(もちろん段ボール製)を持ち、左足を上げながらギターを弾く布袋奏法をコピーしてみせるのだが、その歌唱の滑舌は歌詞をちゃんと覚えていないのか、そういうネタなのか。間違いなく本人が見ている前ではできないパフォーマンスであるだけに、布袋寅泰が別日の出演(この翌日に出演)で良かったなと思う。
そうして雨の中でも曲を連発してきたからか、北島は
「ちょっと疲れてきたな〜」
と言ってステージ上に座り込み、さらには横たわるようになるとまさやんが
「あれ!?生まれたての仔馬じゃない!?」
と言ってまさやんが歌いながら踊ってその仔馬を立ち上がらせようとする「UMA WITH A MISSION」へ。このフェスは持ち時間が長い(このステージは50分もある)からか、立ち上がろうとして倒れ込むというのを2回繰り返した後に「ヒヒーン!」と鳴いて北島が立ち上がるという茶番的なやり取りはバカバカしいが故に笑えてきてしまう。
そうして立ち上がった北島は
「佐藤タイジさん、徳島の先輩でございます。果たして僕らみたいなのが後輩でいいのかとも思いますけど(笑)」
と地元の先輩である佐藤タイジへの想いを口にすると、明らかにブルーハーツの超有名曲をもじったであろう「輪廻」をテーマにした「リンネリンネ」からはこのバンドが根底に持ち合わせているマジの熱いロックバンドらしさが燃え上がっていく。
「ヒロトみたいになりたかったのにこうなってしまった(笑)」
と北島はこの日このステージに出演する甲本ヒロトへの憧れを口にしたが、誰もヒロトのようにはなれない。それは間違いなく北島もわかっているはずだ。でも誰もこのバンドのようにもなれない。そのくらい、カリスマというわけではないけれど唯一無二の存在にこのバンドはなっている。それだけのライブを今までにやってきたということである。
そんな北島は
「音楽には娯楽と芸術っていう2極があると思ってます。ひたすら娯楽をやってきたバンドですけど、その娯楽が振り切って振り切って振り切ったら芸術になるんじゃないかと思ってこのバンドをやっております!」
と熱く語ってから「夜明け」を歌い始める。このバンドのライブは間違いなく娯楽だけれど、その娯楽を突き詰めることでそれを芸術の域にまで昇華してきたと思っている。北島の言葉はそれを自らで言えるくらいのことをやってきたという自負があるということだ。
そして「妖怪泣き笑い」では雨が降ってすでにこのステージの芝生(ちゃんと整地されているので泥になったりしづらいはず)も水が張ってきている中でも観客をいったん座らせてから一気にジャンプさせるというおなじみのパフォーマンスが、そんな地面の冷たさを忘れさせてくれるくらいに文字通りに泣き笑いさせてくれる。
そんなライブの締めはやはり全フレーズが金言そのものである歌詞がストレートなパンクサウンドに乗る「薬草」。どんな状況であれこうしてこの曲が演奏されて、我々が飛び跳ねまくっていればそれでザッツオールなのである。そこにはこのバンドが鳴らすからこそ感じられるエンタメの力が確かにある。
演奏が終わると恒例の小道具を総動員して
「SOLAR BUDOUKAN ダイスキ」
という文字を作るのだが、BUDOUKANのBUDOUの部分をフルーツの中のブドウを持ってくるという飛び道具的な使い方もして、3年振りにこの聖地・中津川で開催された今年のSOLAR BUDOUKANは幕を開けた。その復活にふさわしいトップバッターとしてこの場をいきなり掻っ攫っていくというのが本当にさすが天才集団バンドとしか言えない。
1.運動会やりたい
2.クラーク博士と僕
3.鋼鉄の段ボーラーまさゆき
4.絶対音感彼氏 〜 スリル
5.UMA WITH A MISSION
6.リンネリンネ
7.夜明け
8.妖怪泣き笑い
9.薬草
12:40〜 打首獄門同好会 [Revolution STAGE]
サウンドチェックでは四星球の「クラーク博士と僕」を演奏していた、打首獄門同好会。それはこの日のこのステージの流れが実にわかりやすく繋がっているということを示すものであり、四星球のライブを見ていたということでもある。
先日の氣志團万博では氣志團に合わせた衣装だったが、今回は大澤会長(ボーカル&ギター)は通常の着物姿でメンバーとVJがステージに登場すると、おなじみの「新型コロナウイルスが憎い」でスタートするのだが、その氣志團万博と同様にjunko(ベース)は
「VJも私もかかったし」
と歌詞を変えて歌い、大澤会長も
「第七波も落ち着いてきて」
とその時その時の状況に合わせて歌詞がアップデートされているのだが、果たしてこの曲が演奏されなくなるのはいつになるのだろうか。
するとステージにはレキシの等身大パネルが持ち込まれる。そうして演奏されるのはもちろんレキシとのコラボ曲である「鬼の副長HIZIKATA」。これが雨が降っている中でも暖まるくらいに笑いをもたらしてくれる歌詞の曲になっている。歌詞に合わせて肘や肩を動かすというエクササイズ的な動きも含めてそんな切り口があったのか、と思ってしまうくらいに。
そんなエクササイズ的な動きが極まるのはもちろん「筋肉マイフレンド」でのスクワットであるのだが、大澤会長も
「すでにスクワットをやったと思われるが(笑)」
と言っていたように、四星球の「運動会やりたい」も含めたら多分計30回くらい雨の中でスクワットをやっているというあらゆる意味で過酷な状況になってきている。
そんな我々は基本的には3連休の真っ只中であり、だからこそこうしてこのフェスも3日間開催されているのであるが、まだこの金曜日からは遠い月曜日のことを意識せざるを得ない「はたらきたくない」では可愛らしいアニメーションもスクリーンに映し出され、スクリーンとステージのどちらに目を向けるかで視線が忙しくなる。
そんなバンドは最近配信で立て続けに新曲をリリースしているのだが、そのうちの1曲が推理ものや戦争ものの映画での「死亡フラグ」的なセリフが並ぶことによってクスッと笑ってしまう「死亡フラグを立てないで」であり、スクリーンには広げた状態の本が映り、そこに歌詞が描かれることでしっかりその死亡フラグっぷりを「あるある〜」と噛み締めることができる。そう思うことに意味があるのかはわからないけれど。
「今日は持ち時間がたっぷりあるので、海がない県でも!」
と言って演奏された「島国DNA」は確かに岐阜は海がないし、それゆえかこのフェスの飲食ブースにも魚料理はほとんどというかほぼないという印象だ。だからこそこの曲を聴いてマグロなどの魚料理を食べたいなと思っても食べれないという。
「ここで皆さんに一つ問いたい。「しまじろうのわお!」というアニメ番組があるのだが、我々もその番組に曲を提供していて、その番組の歴代テーマソングの人気投票というのが先日行われた。その番組には「ハッピー・ジャムジャム」という絶対王者的な超人気曲があるのだが、なんと我々の曲が先日の投票でその「ハッピー・ジャムジャム」を抑えて1位になってしまった(笑)(その結果発表の番組ツイートがスクリーンに映る)
果たして我々の曲が本当に1位にふさわしいか、皆さんで確かめてください!」
と、時間があるからこその曲の現在地説明をたっぷりしてから演奏されたのは「カンガルーはどこに行ったのか」であり、しまじろうやカエルを含めた可愛いキャラクターたちがドタバタを繰り広げる映像は間違いなく1位にふさわしい曲である。他の曲を全く知らないというのもあるけれど。
さらにもう1つの新曲「地味な生活」はもはやこうしたフェスを含めておなじみの曲だと言っていいだろうが、河本あす香(ドラム)が細かく刻むサンバのリズムとjunkoとの歌唱はタイトルとは裏腹に派手かつ華やかな曲だ。近い将来にこの曲や「新型コロナウイルス〜」に共感できないような社会になっていて欲しいと、今年は様々なフェスでこの曲を聴いてきただけに切に願う。
そして秋の味覚としてのきのことたけのこの名前を挙げてから演奏されたのは「きのこたけのこ戦争」であり、持ち時間50分というこのフェスだからこそこうして代表曲を余すことなく演奏することができるのである。この曲でのレトロゲーム的な映像が実に好きな世代としてはやはりこの曲が聴けるのが嬉しいのだが、
「チョコを食べた後はちゃんと歯を磨けよー!」
と見事なくらいに曲を繋げた「歯痛くて…」ではDr.COYASSがいないだけに大澤会長自らラップをしてみせるのであるが、GReeeeNやAKB48の曲名などを巧みに取り入れた歌詞は何度聴いても見事だし、クスッとしてしまう。
そんな中でも雨はさらに降り続いたことによってこの雨を恵みの雨として最後に演奏されたのはやはり「日本の米は世界一」で、米が食べたくなりそうなものであるのだが、この日はあまりの雨と寒さによってこの曲を聴いても食欲が湧かないという自然の力を痛感させられるような1日になってしまったのだった。
1.新型コロナウイルスが憎い
2.鬼の副長HIZIKATA
3.筋肉マイフレンド
4.はたらきたくない
5.死亡フラグを立てないで
6.島国DNA
7.カンガルーはどこに行ったのか
8.地味な生活
9.きのこたけのこ戦争
10.歯痛くて…
11.日本の米は世界一
14:20〜 04 Limited Sazabys [Revolution STAGE]
ライブ前には雨が降る中でもRYU-TAとHIROKAZのギタリストコンビが傘をさして会場を散策するという仲の良さを発揮していたフォーリミ。このフェスには4年前も出演しているし、地元名古屋からそう遠くない場所。何よりも実はRYU-TAはマジの中津川出身者であるだけに、HIROKAZに会場の説明なんかをしていたのかもしれない。
おなじみのオリジナルSEでメンバー4人が元気良くステージに登場すると、イントロのギターの音が鳴るとともにKOUHEI(ドラム)がドラムセットから身を乗り出してスティックと指を立てる「fiction」からスタートするという攻めのスタート。雨の中でも客席からは手拍子が起こり、HIROKAZの「オイ!オイ!」の声に合わせて観客は腕を振り上げる。
さらにはGEN(ボーカル&ベース)が思いっきり腕を振り下ろしてから演奏された「monolith」ではそのGENのハイトーンな歌声が薄暗いけれども透き通った空気の中津川の空に響いていき、KOUHEIのドラムが連打される「knife」、さらには「Alien」と、前半からパンクかつハードな曲が次々と演奏されていくというのはこの日はどんなテーマの元に挑んでいたのかが気になる。特段パンクなフェスというわけではないけれども、もしかしたら
「なんと今日はこのステージで1番我々が年下(笑)」
という今となっては珍しい状況だっただけに若さ、フレッシュさを強く出そうという意識があったのかもしれないというのは考えすぎだろうか。
で、やはりこの中津川が地元であるRYU-TAの話題になるのだが、GENは
「さっきこの会場に向かってる時にRYU-TAに色々話を聞いたら、
「あの体育館の部活は地獄だった」
「あそこの動物病院で飼ってた犬が死んだ」
とか、嫌な思い出しかないじゃん(笑)」
とRYU-TAをいじる。その部活で使っていた体育館はこのフェスではクロークや、この日は雨の避難場所としても活用されており、RYU-TAがマジでこの会場が身近な場所であったことがよくわかる。
そんなRYU-TAのコーラスも響く「message」でのKOUHEIのツービートがさらにバンドのサウンドをパンクに走らせると、このフェスでも曲中の手拍子がバッチリ決まる「Kitchen」と続いて雨の中でも我々観客を踊らせまくってくれるのであるが、
「中津川起きてんの!」
とGENが叫んでから演奏された「nem…」が我々の目をさらに覚まさせてくれるというか、状況的には寝たら死ぬぞ的な寒さの雨になってきてすらいるというのもあるのかもしれないが、「今ここでしかない」ということをそのサウンドで感じさせてくれるような「Now here, No where」が演奏されたあたりでは一瞬雨が弱くなり、頭を露出させても大丈夫かなというくらいになり、さすが太陽のフェスだなと思いきやまたその後にすぐに雨が強くなってくるというのはやはり甘くないというか。
GENはこのフェスを
「ファミリー感が強いフェス」
と言っていたが、それはフェスの主催者と出演者たちがそういう関係であるということではなくて、会場の公園の一等地をキッズ・ファミリー広場にし、そこで様々な子供向けの催しが行われているのを過去の出演時にも見てきたからであろう。そうしたこのフェスの部分を
「YON FESにパクれるところを持ち帰りたい(笑)」
と言っていたが、若者だけではなくて家族全員で来れるフェスというあたりにGENは自分たちのフェスの理想形をこのフェスに見ているのかもしれない。
そんな将来の自分たちに向かっても鳴らしているのかのような「Letter」がパンクな曲が多かったこの日なだけに少し切なさを増して響いてくると、今年の春のYON FESでGENが望んだことで微かな合唱が聞こえた「hello」がこのフェスでも演奏される。それによってもう半年近く経つあの日のことを思い出してしまうのであるが、来年はYON FESでもこのフェスでもこの曲をみんなで歌うことができたらなと思う。もちろんその時はこの日とは違って晴れていて欲しいというのは、雨具のフードを被ることなくこの曲での合唱をダイレクトに耳に届けたいからだ。
「大好きな場所なので来年また戻ってこれるように」
とGENもそんなこの場所での来年の再会を約束するように「Terminal」が演奏される。自分にとってもこのフェスは最高な世界を具現化してくれているような場所であるのだが、この曲がこうして聴けることでその思いはより強くなるし、それはこの日はGENのボーカルが実に安定していたからこそよりそう思えるのである。
そんなこの日のライブの最後として演奏されたのは「swim」ではなくてその発展形というか、それを今の自分たちで鳴らすかのような「Just」。HIROKAZの弾く浮遊感のあるキャッチーなフレーズが今のフォーリミらしさを感じさせてくれるが、発売が迫ってきている、そんな今のフォーリミが詰まっているであろう本当に待望のニューアルバムも楽しみな限りである。
しかしそれでもまだ時間があったからか、最後には「Remember」が追加されたことによって、やはりパンクなフォーリミを感じさせてくれたこの日。GENは
「birdさんが大好きなんでライブ見れるのが楽しみ」
と言っていたが、その時にはまさか名古屋駅で新幹線が動かなくて困っている4人が一般人としてインタビューされた姿がニュースで流れるとは思っていなかった。
リハ.escape
リハ.days
1.fiction
2.monolith
3.knife
4.Alien
5.message
6.Kitchen
7.nem…
8.Now here, No where
9.Letter
10.hello
11.Terminal
12.Just
13.Remember
16:00〜 ストレイテナー [Revolution STAGE]
2年前の中野サンプラザでの収録ライブ、昨年のZepp Hanedaでの収録ライブにも出演し、この中津川では開催できなかった期間のこのフェスを支え続けてきたバンドである、ストレイテナー。その2回の収録ライブをクラウドファンディングでのリターンとして現地で見てきただけに、こうしてこの中津川でようやくまたテナーのライブを見れるというのが実に嬉しい。
やはり冷たく強い雨が降る中でメンバーが「STNR Rock and Roll」の勇壮なSEで登場すると、ナカヤマシンペイ(ドラム)はドラムセットの上に立ち上がって客席を眺め、ホリエアツシ(ボーカル&ギター)が
「中津川、3年ぶりの開催おめでとう!俺たちストレイテナーって言います!」
と挨拶してシンペイが美しいウインドチャイムの音を鳴らす「Melodic Storm」からスタートすると、雨が降る中でも観客は腕を振り上げ、ひなっちこと日向秀和(ベース)も満面の笑みでリズムを刻む。OJこと大山純(ギター)がキャップを被っていたのは雨対策によるものもあったのだろうか。
そのバンドのサウンドが一気に激しく、強く変化するのは「From Noon Till Dawn」であるが、この曲では普段会場の場所などに歌詞を変えて歌うのをこの日ホリエはそのまま歌っていた。逆にそれが「間違えた」と思ってしまったのか、ホリエはその後の歌詞を飛ばしてしまって思わず笑っていた。なかなかテナーにとっては珍しいシーンと言えるのかもしれない。
「この2年間の間に中津川で鳴らせなかった曲たちをようやく鳴らせます」
と言って演奏された「宇宙の夜 二人の朝」でのバチバチと激しく音がぶつかり合いながらもこの4人のバンドの音として調和していくかのような演奏はやはり実に見事というか、この4人じゃなきゃ絶対に成し得ないものであるのだが、OJがまさに星が泣き叫ぶようなサウンドをギターで奏でる「叫ぶ星」も含めて、この2年間もテナーがロックバンドとしてのグルーヴを追求してきた曲がこうしてついにこの場所で響いたのである。
「いろんな思いを持って中津川に集まった勇気ある者たちへ」
と目の前にいる人たちへホリエが言葉を送ってからキーボードに向かうと、サウンドもテンポもガラッと変わる「Braver」ではそれまでの曲に比べるとテンポが遅い曲だからこそ、シンペイのドラムの一打一打が本当に凄まじいくらいに強いということがよくわかる。それはシンペイが、テナーが自分たちの抱えている思いを音として放出することができるバンドであるということだ。
この会場はなかなか都心からはアクセスしにくい場所であるだけに、どうしても長旅になりがちであるのだが、そうした長い旅を経てたどり着いた実感を感じさせてくれる「A LONG WAY TO NOWHERE」でホリエがギターに戻ると、確かな演奏技術があるからこそジャジーなサウンドすらも自分たちのロックに取り入れることができる、これもまたタイトルとしても旅という感覚を思わせる「群像劇」と続くのであるが、こうしたアッパーではない曲をちゃんとフェスのライブでも演奏できるのはこのフェスの長い持ち時間によるものだろう。
しかしホリエは降り続く雨を鑑みて
「このフェスは去年も直前になって二転三転したりしながらも諦めなかったど根性フェスだと思ってるけど、みんなはここでど根性使わなくてもいいから(笑)
最後まで楽しんでとは言わないから、自分の無理のないところで。こんなに降ると土砂降りのフジロックを思い出す。俺たちの中でも最も踊れる曲で少しでも暖まれば」
と観客を気遣う優しさを見せてから「DISCOGRAPHY」が演奏されるのであるが、そのサウンドはこれまでにも数え切れないくらいにアップデートを果たしてきたこの曲であるだけに、今のテナーとしてのこの曲へと大幅にアレンジされている。それはかつてよりもはるかにテンポを落として強いだけではないしなやかさを感じられるグルーヴにすることによって観客の体を揺らせるということ。曲中に煌めく色とりどりの照明もこのアレンジだからこそ映えるものである。
そしてホリエがギターを掻き鳴らしながら歌い始めた「シーグラス」が、海がないこの岐阜県であっても切なく響くのは9月も終わろうとしているタイミングだからこそ、夏の終わりをこの曲がここで確かに感じさせてくれるからだ。まだギリギリ夏フェスと言ってもいい時期かもしれないけれど、この曲がその最後として鳴らされるのが毎年このフェスであったらなと思う。演奏しながら満面の笑みを浮かべてクルッとその場で回ったりするひなっちの姿を見ると心からそう思う。
さらに雨が寒さを強くする中でも腕を振り上げたりすることでその寒さを和らげようとするかのようなギターロックな「REMINDER」が演奏されることでクライマックスを迎えるとともに、こんな雨の中津川でテナーのライブを見たこの日のことが遠い記憶になる日が来ても絶対に忘れたりすることはないだろうなと思う。
そんなライブの最後に演奏されたのはホリエがアコギを弾きながら歌う「彩雲」。
「突然の土砂降り」
という歌詞に合わせて最後に選曲されたのかは定かではないが、突然どころじゃないくらいに降り続いてるんですけど、とも思いながらも、今こうして我々がまたこの中津川に戻ってこれたのはこのバンドの功績が本当に大きいと思う。
2年前の中野サンプラザでの収録はバンドにとってもコロナ禍になってはじめての有観客でのライブだった。まだほとんどライブが出来なかったあの時にテナーのライブが見れたことで救われた感覚が確かにあった。だからこそ絶対にまたこの中津川でテナーのライブを見たいと思っていた。雨だろうとなんだろうとそれがこの日ついに叶ったのである。あの時に涙を浮かべながら「海にも行けないんだな…」と思って「シーグラス」を聴いていた自分自身に、ちゃんとこうして中津川でテナーが見れる日が来るからって伝えてやりたい。そんな思いが去来するような、本当に幸せな時間だった。
1.Melodic Storm
2.From Noon Till Dawn
3.宇宙の夜 二人の朝
4.叫ぶ星
5.Braver
6.A LONG WAY TO NOWHERE
7.群像劇
8.DISCOGRAPHY
9.シーグラス
10.REMINDER
11.彩雲
17:50〜 ザ・クロマニヨンズ [Revolution STAGE]
雨は強く冷たくなるばかり。足元の芝生も雨量が増してきたことによって池のように浸水してきている。そんな中でもこのバンドを求める手拍子の音がライブ開始のかなり前から客席では響いている。ザ・クロマニヨンズがこの中津川に降臨するからである。
おなじみの原始人のうめき声のようなSEでメンバー4人が登場するのであるが、驚いたのはそんな雨と寒さの中でも全員が半袖Tシャツといういつもと全く変わらない姿であるということ。ずっと変わらない4人であるけれど、まさかここまで変わらないとは、と思っていると桐田勝治(ドラム)が強くバスドラを踏んでの「クロマニヨン・ストンプ」からスタートして甲本ヒロト(ボーカル)が飛び跳ねまくりながら歌うという姿も変わることが全くない。それは年齢をも感じさせないということでもある。
バンダナ姿も含めてその年齢を重ねたことを全く感じさせない最たる存在であるマーシーこと真島昌利(ギター)がイントロを鳴らす「タリホー」とテンポ良く曲をひたすら連発しまくるというのも全く変わることのないこのバンドのスタイルであり、それは何歳になろうがやりたいのはロックンロールただそれだけであるということをその姿が示しているようですらある。
しかしながら桐田が立ち上がってスティックを振るい、小林勝(ベース)がその桐田の姿に呼応するように腕を振り上げる「雷雨結構」はまさに
「合言葉は雷雨決行」
「引き返す訳にゃ行かないぜ
夢がオレたちを見張ってる」
というフレーズたちがこれ以上ないくらいにこのシチュエーションでのライブのテーマであるかのように響き、だからこそ我々にそんな状況でも諦めることなくライブを見るという精神力の強さを与えてくれている。
リズミカルな「ドライブ GO!」、意外にもこうしてフェスセトリの中に入ってくる曲なのかと思う「光の魔人」と、テーマはそれぞれ異なるけれどシュールな歌詞とストレートなサウンドのロックンロールでしかないという自分たちのスタイルを貫き通しながらヒロトは
「雨以外は全て予定通り!」
と口にする。逆にヒロトもこんなにも雨が降るとは思っていなかったということだろうか。
そのヒロトがブルースハープを吹き鳴らしまくる「どん底」から這い上がるようにロックンロールの化身たる「エルビス」が放たれると、「グリセリン・クイーン」でヒロトはなんとTシャツを脱いで上半身裸になる。確かにそれこそがいつものヒロトのスタイルであるとはいえ、ライブを見て体を動かしていても震えがくるくらいの寒さの中で上半身裸になるとは。いろんな出演者が「風邪ひかないように」と言ってくれていたが、個人的にはヒロトこそ風ひかないようにと思ってしまう。まぁこのくらいの寒さでのライブなんかもう数え切れないくらいにやってきたのかもしれないけれど、それでも
「今日ここに集まってくれたこと、一生忘れんからな!」
と観客の姿を見て口にしていたあたりはやはりヒロトと言えども思うところがあるくらいの状況だったということだろうか。
すると歌詞の通りにまさにジャングルビートな「暴動チャイル (BO CHILE)」がどんなサウンドですらもロックンロールになるというこのメンバーたちの生き様そのものがロックンロールな達人っぷりを示してくれると、サビでヒロトに合わせて観客もゆらゆらと手を振る「紙飛行機」と、怒涛のキラーチューンの出し惜しみない連発っぷりへ。
しかしながらヒロトは「ギリギリガガンガン」を歌いながら突如として雨が当たりまくるであろうステージ前の方へと飛び出して案の定雨に当たると、それだけではなくてそのステージの雨で濡れた部分を転がり回る。それは我々観客だけ濡れてて、一緒にライブをやっている自分たちが濡れないなんておかしいだろうと言ってくれているかのようであった。衝動的なパフォーマンスかもしれないけれど、そこにこそブルーハーツ時代からずっと我々が感じ取ってきたヒロトの優しさを目の前で感じることができるのである。
そんなヒロトの生き様が
「ただ生きる 生きてやる
呼吸をとめてなるものか」
という歌詞に現れている「エイトビート」をヒロトがステージ中央に立って歌う姿はまさにロックンロールの生きる伝説そのものであり、なんでこの人がこんなにカッコいいを振り切ったままでいられているのかが伝わってくるような場面だった。
そしてラストに演奏されたのは、そんなバンドこそがナンバーワンでしかないだろうと思わざるを得ない「ナンバーワン野郎!」。この曲のコーラスを歌うことができないというのは実にもどかしさを感じざるを得ない。でもそんな制限がある中でもクロマニヨンズのカッコよさは変わることがないというか、そうした状況だからこそステージに立って音を鳴らして歌うだけという姿から感じられるこのバンドの説得力の強さを改めて確かめることができるのだ。
ヒロト「また絶対やろうなー!」
マーシー「またね〜」
という演奏後のおなじみの挨拶はまたこの会場でこうしてクロマニヨンズと一緒にロックンロールができるということを感じさせたし、どんなに雨が降っていて寒かろうとこのバンドのライブが見れれば「今日は最高」と思える日になるということを実感させてくれたのだった。セトリはサマソニと全く同じだったけれど、それでもずっと雨の中で見ていられる理由しかなかった。
1.クロマニヨン・ストンプ
2.タリホー
3.生きる
4.雷雨決行
5.ドライブ GO!
6.光の魔人
7.どん底
8.エルビス
9.グリセリン・クイーン
10.暴動チャイル (BO CHILE)
11.紙飛行機
12.ギリギリガガンガン
13.エイトビート
14.ナンバーワン野郎!
19:30〜 ACIDMAN [Revolution STAGE]
3年前にここで開催された時の大トリにして、2年前の配信ライブでもこの中津川で収録したライブ映像が最後に流れたACIDMAN。3年振りのこの中津川での開催でも初日のトリ。もはやSAIとは違ったACIDMANのフェスなんじゃないかとすら思うくらいであるが、それくらいにあらゆる意味でACIDMANがこのフェスを担ってきたということである。
雨はさらに強くなる中でもおなじみのSE「最後の国」が流れて客席からは手拍子が起こると浦山一悟(ドラム)を先頭にメンバー3人がステージに登場。キャップを被った佐藤雅俊(ベース)が観客とともに手拍子をすると、SEが止まった後に大木伸夫(ボーカル&ギター)は音を鳴らすよりも先に
「本当に最後まで残っていてくれてありがとう。無理だけはしないで。自分の体調第一で楽しんでください。俺たちだけ雨が当たらないところにいて申し訳ないけど、電気系統を使っているので雨が当たるとマズいので」
と言ったというあたりからもこの状況の過酷さがわかると思われるが、その大木がギターを鳴らしながら歌い始め、サビに向かうにつれて一悟のドラムが引っ張るようにしてバンドの演奏が高まっていく「灰色の街」から始まるというあたり、バンドのやること、鳴らす音は全く変わることはない。
「こうしてまた僕らは生きてゆくんだよ
小さな花の様に
明けてゆく夜空を信じたなら」
という歌詞もこのフェスで鳴らされるとその場所のテーマであるかのように響くのはACIDMANの音楽が生への祝福であるからだ。それはそのまま諦めなかったこのフェスへの祝福でもある。
大木がその場でイントロのギターの音を1人で重ねるのは佐藤が飛び跳ねながらベースを弾き、一悟が軽快な四つ打ちを刻む「FREE STAR」であるが、「雨に当たれない」と言っていた大木は間奏では自らステージ前の雨に当たる位置にまで踏み出していく。そこであらゆる方向にいる観客の顔を見ながら「ありがとう」とマイクを通さずとも口にする。この瞬間だけでACIDMANがこの日のトリで本当に良かったと思えた。
そんなACIDMANの信念や思想を貫きながらもアニメタイアップとして若い人の耳にも届く曲となった「Rebirth」の
「悲しみの夜を越えて 生まれ変わるのさ」
というフレーズもまたこうしてこの場所で聴いていると不遇の2年間を過ごしたこのフェスがこうして今年まさに今転生しているということを感じさせてくれる。
この真っ暗になったこの会場に真っ赤な照明が映える「赤橙」でも佐藤は飛び跳ねながらベースを弾くことによって、我々観客も雨が強く降り注ぐ中でもその場で飛び跳ねると大木は
「こういう過酷な状況でライブを見たっていうのも後々良い思い出になるから。もう今ここにいる人たちはみんな仲間なんで、どこかで会った時に
「雨の中津川で見てました!」
って言ってくれたら、「イェーイ」ってハイタッチしましょう」
と笑わせながら我々を勇気づけてくれると、昨年リリースされたフルアルバム「INNOCENCE」収録の、佐藤のベースが引っ張り、一悟も激しくぶっ叩くアッパーな「夜のために」が演奏されると、さらにそのアルバムから続けてタイトル曲の「innocence」が演奏される。「Rebirth」同様に生まれ変わるのということをテーマにした、ミドルテンポでありながらも大木のギターは強く歪んでいる曲であるのだが、3年前の大トリでのライブはもちろん、2年前の配信での時にもなかった曲たちがこうしてこの場所で演奏されているというのは、ACIDMANが前に進み続けてきたことの証明であり、我々もともに進んでくることができたということの何よりの証明である。
そして大木はそんな諦めなかったこのフェスとこうして最後までこうしてライブを見てくれていた人に感謝を語り、自分たちの主催フェスの告知をすると(今になって告知してもチケット取れないだろうけど)、ACIDMANだからこそこうしてフェスの持ち時間でも鳴らすことができる壮大なバラード「世界が終わる夜に」を演奏する。その大木の歌唱とバンドの演奏の極まりっぷりはこのシチュエーションまでもがただですらスリーピースバンドの限界を更新し続けてきたこのバンドがさらにそれを更新するための演出としての装置であるかのようだった。
そんなバラードから一転して佐藤が腕を振り上げまくり、その後すぐに被っていたキャップまでをも吹っ飛ばす「ある証明へ」。観客も思いっきり腕を振り上げると、大木は間奏で
「まだみんな声出せないから、その分俺が思いっきり叫ぶから!」
と言ってその通りに強い雨の音すらも搔き消すように思いっきり叫ぶ。かつてはこの曲を歌い切れないくらいにきつそうだったのに、今は全くそんなことはない。大木のボーカルがいつからか曲のスケールを超えるようになった。それは我々の想いを乗せてくれることによってさらに強くなった。もう顔に流れているのが雨か涙かわからないくらいに感動していた。
「みんなキツいだろうから、時間短縮のためにアンコールで引っ込まないでこのままやります!」
と言って最後に演奏されたのは、その選曲が確かにアンコールとして用意していたということがわかる「Your Song」。ツアーなどでも今でも聴いているが、こうしてフェスで鳴らすのが聴けるのはタイムテーブルのトリをACIDMANが担っているからだ。5年前のSAIの最後に演奏された時のスクリーンにその日の観客の笑顔が次々に映し出されていた感動的なフィナーレがフラッシュバックしていたのは、この日のACIDMANのライブがあの時と同じ感動をもたらしてくれたからだ。そんなライブを見せてくれるからこそ、自分はACIDMANをずっと信じている。出演者が誰も発表されていない段階からSAIのチケットを両日申し込んでいる。その信頼に足るバンドであり続けていることを、この日のACIDMANは自分たちの鳴らす音と姿で証明してくれていた。
2年前のこのフェスの配信ライブで最も忘れられないシーンがある。それはトリのACIDMANのライブの最後に大木が
「俺たちは絶対大丈夫!何の確証もないけど、絶対に大丈夫!」
と叫んでいた姿だった。確証は確かに何もなかったし、今も何かが解決したわけでもない。でも大木が言っていたように、我々は大丈夫だったからまたこうしてここで会うことができた。ここにまた来るまでの3年間は本当に長かったけれど、それくらいずっと来たかった場所だからこそ、どんなに雨が強くても寒くても心が折れることなく最後までここにいたのだ。
帰りに電車が大雨の影響で徐行運転してしまったことによって、我々はそんな状況の中でライブを見ていたんだなと思った。それでもやっぱりACIDMANが最後までライブをやれて、そのライブが見れて本当に良かったと思っている。
1.灰色の街
2.FREE STAR
3.Rebirth
4.赤燈
5.夜のために
6.innocence
7.世界が終わる夜に
8.ある証明
9.Your Song
しかしながらこの2年間はやはりコロナの影響で(会場がワクチン接種会場になったりしていた)配信での開催となり、その収録ライブも2020年は中野サンプラザ、2021年はZepp Hanedaで行われたのだが、様々な各地のフェスがそうであるようにこのフェスも3年振りに中津川での現地開催が出来ることに。当たり前であるが自分にとっても3年振りの中津川である。
今年はまだ動員も規模も絞っており、基本的にライブが行われるステージも
REVOLUTION STAGE
RESPECT STAGE
REALIZE STAGE
という3つに減らしての開催となっている。
3年前(なんなら配信ライブを中津川の現地収録をした2年前も)までは常に雨予報を吹き飛ばしてきた太陽のフェスであるが、この日は台風などの影響もあって朝から雨。空気も実に澄んでいるというか、関東から来るとその空気を吸い込むだけで「ここは他の場所とは違うものがあるな」というのがわかるのだが、その空気もこの日ばかりは寒さに繋がる要素になっている。
11:00〜 四星球 [Revolution STAGE]
このフェスをはじめとしたライブやイベントなどの司会でおなじみのジョー横溝の前説では
「中津川で開催できない間に佐藤タイジの晴れパワーが弱まった(笑)」
とも言われていたが、そんな雨が降る中で3年振りのこのフェスの始まりを告げるのは徳島が生んだコミックバンドの雄、四星球である。
ステージには法被を着た北島康雄(ボーカル)が最初に現れると、
「今日は電力で動くメンバーを連れてきましたー!」
と言って、U太(ベース)は全身タイツでのPepper君、まさやん(ギター)は昔のというか初期の頃のAIBO、そしてモリス(ドラム)はほぼ全裸でサングラスをかけ、股間はソーラーパネルを貼って隠すというターミネーターで登場し、そのモリスの雨による寒さをも厭わない出で立ちで笑わせてくれることで客席の温度も少し上がっているような感じもする。
そんな人間がロボットを引き連れるような編成で最初に演奏されたのはフェスでは恒例の客席を左右に分けて紅組と白組で対決する「運動会やりたい」なのであるが、このステージに次に出演するのが打首獄門同好会であることを意識して、いきなりのスクワット対決で雨が降る中での朝イチからスクワットを連発するという過酷な状況に。しかも明らかに打首よりもスクワットをする回数が多いのがまたキツいのである。
さらに雨がすでに降っている中での雨避け対決、どの曲よりも一体感を生み出す「YMCA対決」を繰り広げ、人数の圧倒的な差で勝った紅組にはスクワットをもう1セットプレゼントする。その際に出てきたまさやん製の秋の味覚の秋刀魚やフルーツたちはもちろんこの後の伏線になってくる。
いきなりのクライマックスを迎えるように、まさやんがギターを上空に放り投げてはキャッチする様に拍手が湧き上がり、北島のフラフープ芸も披露される「クラーク博士と僕」ではU太がもはやグレーの全身タイツを着ているだけの人みたいな見た目になりながら、抱える衝動を音に込めるように飛び跳ねるようにしながら演奏する姿に面白いだけではないこのバンドの真髄が見える曲である。
そんなバンドの小道具制作を一手に担うまさやんを称える「鋼鉄の段ボーラーまさゆき」では観客がエアギターをしたりその場でグルグル回ったり…そうして夢中になって楽しむことで雨も寒さも忘れてしまえるようになっているあたりはさすがであり、それは「絶対音感彼氏」の曲中にクジを引いて出てきた曲を歌う中で選ばれた布袋寅泰の「スリル」を軽々と演奏できるバンドの技術もそうである。北島は布袋寅泰モデルの幾何学模様のギター(もちろん段ボール製)を持ち、左足を上げながらギターを弾く布袋奏法をコピーしてみせるのだが、その歌唱の滑舌は歌詞をちゃんと覚えていないのか、そういうネタなのか。間違いなく本人が見ている前ではできないパフォーマンスであるだけに、布袋寅泰が別日の出演(この翌日に出演)で良かったなと思う。
そうして雨の中でも曲を連発してきたからか、北島は
「ちょっと疲れてきたな〜」
と言ってステージ上に座り込み、さらには横たわるようになるとまさやんが
「あれ!?生まれたての仔馬じゃない!?」
と言ってまさやんが歌いながら踊ってその仔馬を立ち上がらせようとする「UMA WITH A MISSION」へ。このフェスは持ち時間が長い(このステージは50分もある)からか、立ち上がろうとして倒れ込むというのを2回繰り返した後に「ヒヒーン!」と鳴いて北島が立ち上がるという茶番的なやり取りはバカバカしいが故に笑えてきてしまう。
そうして立ち上がった北島は
「佐藤タイジさん、徳島の先輩でございます。果たして僕らみたいなのが後輩でいいのかとも思いますけど(笑)」
と地元の先輩である佐藤タイジへの想いを口にすると、明らかにブルーハーツの超有名曲をもじったであろう「輪廻」をテーマにした「リンネリンネ」からはこのバンドが根底に持ち合わせているマジの熱いロックバンドらしさが燃え上がっていく。
「ヒロトみたいになりたかったのにこうなってしまった(笑)」
と北島はこの日このステージに出演する甲本ヒロトへの憧れを口にしたが、誰もヒロトのようにはなれない。それは間違いなく北島もわかっているはずだ。でも誰もこのバンドのようにもなれない。そのくらい、カリスマというわけではないけれど唯一無二の存在にこのバンドはなっている。それだけのライブを今までにやってきたということである。
そんな北島は
「音楽には娯楽と芸術っていう2極があると思ってます。ひたすら娯楽をやってきたバンドですけど、その娯楽が振り切って振り切って振り切ったら芸術になるんじゃないかと思ってこのバンドをやっております!」
と熱く語ってから「夜明け」を歌い始める。このバンドのライブは間違いなく娯楽だけれど、その娯楽を突き詰めることでそれを芸術の域にまで昇華してきたと思っている。北島の言葉はそれを自らで言えるくらいのことをやってきたという自負があるということだ。
そして「妖怪泣き笑い」では雨が降ってすでにこのステージの芝生(ちゃんと整地されているので泥になったりしづらいはず)も水が張ってきている中でも観客をいったん座らせてから一気にジャンプさせるというおなじみのパフォーマンスが、そんな地面の冷たさを忘れさせてくれるくらいに文字通りに泣き笑いさせてくれる。
そんなライブの締めはやはり全フレーズが金言そのものである歌詞がストレートなパンクサウンドに乗る「薬草」。どんな状況であれこうしてこの曲が演奏されて、我々が飛び跳ねまくっていればそれでザッツオールなのである。そこにはこのバンドが鳴らすからこそ感じられるエンタメの力が確かにある。
演奏が終わると恒例の小道具を総動員して
「SOLAR BUDOUKAN ダイスキ」
という文字を作るのだが、BUDOUKANのBUDOUの部分をフルーツの中のブドウを持ってくるという飛び道具的な使い方もして、3年振りにこの聖地・中津川で開催された今年のSOLAR BUDOUKANは幕を開けた。その復活にふさわしいトップバッターとしてこの場をいきなり掻っ攫っていくというのが本当にさすが天才集団バンドとしか言えない。
1.運動会やりたい
2.クラーク博士と僕
3.鋼鉄の段ボーラーまさゆき
4.絶対音感彼氏 〜 スリル
5.UMA WITH A MISSION
6.リンネリンネ
7.夜明け
8.妖怪泣き笑い
9.薬草
12:40〜 打首獄門同好会 [Revolution STAGE]
サウンドチェックでは四星球の「クラーク博士と僕」を演奏していた、打首獄門同好会。それはこの日のこのステージの流れが実にわかりやすく繋がっているということを示すものであり、四星球のライブを見ていたということでもある。
先日の氣志團万博では氣志團に合わせた衣装だったが、今回は大澤会長(ボーカル&ギター)は通常の着物姿でメンバーとVJがステージに登場すると、おなじみの「新型コロナウイルスが憎い」でスタートするのだが、その氣志團万博と同様にjunko(ベース)は
「VJも私もかかったし」
と歌詞を変えて歌い、大澤会長も
「第七波も落ち着いてきて」
とその時その時の状況に合わせて歌詞がアップデートされているのだが、果たしてこの曲が演奏されなくなるのはいつになるのだろうか。
するとステージにはレキシの等身大パネルが持ち込まれる。そうして演奏されるのはもちろんレキシとのコラボ曲である「鬼の副長HIZIKATA」。これが雨が降っている中でも暖まるくらいに笑いをもたらしてくれる歌詞の曲になっている。歌詞に合わせて肘や肩を動かすというエクササイズ的な動きも含めてそんな切り口があったのか、と思ってしまうくらいに。
そんなエクササイズ的な動きが極まるのはもちろん「筋肉マイフレンド」でのスクワットであるのだが、大澤会長も
「すでにスクワットをやったと思われるが(笑)」
と言っていたように、四星球の「運動会やりたい」も含めたら多分計30回くらい雨の中でスクワットをやっているというあらゆる意味で過酷な状況になってきている。
そんな我々は基本的には3連休の真っ只中であり、だからこそこうしてこのフェスも3日間開催されているのであるが、まだこの金曜日からは遠い月曜日のことを意識せざるを得ない「はたらきたくない」では可愛らしいアニメーションもスクリーンに映し出され、スクリーンとステージのどちらに目を向けるかで視線が忙しくなる。
そんなバンドは最近配信で立て続けに新曲をリリースしているのだが、そのうちの1曲が推理ものや戦争ものの映画での「死亡フラグ」的なセリフが並ぶことによってクスッと笑ってしまう「死亡フラグを立てないで」であり、スクリーンには広げた状態の本が映り、そこに歌詞が描かれることでしっかりその死亡フラグっぷりを「あるある〜」と噛み締めることができる。そう思うことに意味があるのかはわからないけれど。
「今日は持ち時間がたっぷりあるので、海がない県でも!」
と言って演奏された「島国DNA」は確かに岐阜は海がないし、それゆえかこのフェスの飲食ブースにも魚料理はほとんどというかほぼないという印象だ。だからこそこの曲を聴いてマグロなどの魚料理を食べたいなと思っても食べれないという。
「ここで皆さんに一つ問いたい。「しまじろうのわお!」というアニメ番組があるのだが、我々もその番組に曲を提供していて、その番組の歴代テーマソングの人気投票というのが先日行われた。その番組には「ハッピー・ジャムジャム」という絶対王者的な超人気曲があるのだが、なんと我々の曲が先日の投票でその「ハッピー・ジャムジャム」を抑えて1位になってしまった(笑)(その結果発表の番組ツイートがスクリーンに映る)
果たして我々の曲が本当に1位にふさわしいか、皆さんで確かめてください!」
と、時間があるからこその曲の現在地説明をたっぷりしてから演奏されたのは「カンガルーはどこに行ったのか」であり、しまじろうやカエルを含めた可愛いキャラクターたちがドタバタを繰り広げる映像は間違いなく1位にふさわしい曲である。他の曲を全く知らないというのもあるけれど。
さらにもう1つの新曲「地味な生活」はもはやこうしたフェスを含めておなじみの曲だと言っていいだろうが、河本あす香(ドラム)が細かく刻むサンバのリズムとjunkoとの歌唱はタイトルとは裏腹に派手かつ華やかな曲だ。近い将来にこの曲や「新型コロナウイルス〜」に共感できないような社会になっていて欲しいと、今年は様々なフェスでこの曲を聴いてきただけに切に願う。
そして秋の味覚としてのきのことたけのこの名前を挙げてから演奏されたのは「きのこたけのこ戦争」であり、持ち時間50分というこのフェスだからこそこうして代表曲を余すことなく演奏することができるのである。この曲でのレトロゲーム的な映像が実に好きな世代としてはやはりこの曲が聴けるのが嬉しいのだが、
「チョコを食べた後はちゃんと歯を磨けよー!」
と見事なくらいに曲を繋げた「歯痛くて…」ではDr.COYASSがいないだけに大澤会長自らラップをしてみせるのであるが、GReeeeNやAKB48の曲名などを巧みに取り入れた歌詞は何度聴いても見事だし、クスッとしてしまう。
そんな中でも雨はさらに降り続いたことによってこの雨を恵みの雨として最後に演奏されたのはやはり「日本の米は世界一」で、米が食べたくなりそうなものであるのだが、この日はあまりの雨と寒さによってこの曲を聴いても食欲が湧かないという自然の力を痛感させられるような1日になってしまったのだった。
1.新型コロナウイルスが憎い
2.鬼の副長HIZIKATA
3.筋肉マイフレンド
4.はたらきたくない
5.死亡フラグを立てないで
6.島国DNA
7.カンガルーはどこに行ったのか
8.地味な生活
9.きのこたけのこ戦争
10.歯痛くて…
11.日本の米は世界一
14:20〜 04 Limited Sazabys [Revolution STAGE]
ライブ前には雨が降る中でもRYU-TAとHIROKAZのギタリストコンビが傘をさして会場を散策するという仲の良さを発揮していたフォーリミ。このフェスには4年前も出演しているし、地元名古屋からそう遠くない場所。何よりも実はRYU-TAはマジの中津川出身者であるだけに、HIROKAZに会場の説明なんかをしていたのかもしれない。
おなじみのオリジナルSEでメンバー4人が元気良くステージに登場すると、イントロのギターの音が鳴るとともにKOUHEI(ドラム)がドラムセットから身を乗り出してスティックと指を立てる「fiction」からスタートするという攻めのスタート。雨の中でも客席からは手拍子が起こり、HIROKAZの「オイ!オイ!」の声に合わせて観客は腕を振り上げる。
さらにはGEN(ボーカル&ベース)が思いっきり腕を振り下ろしてから演奏された「monolith」ではそのGENのハイトーンな歌声が薄暗いけれども透き通った空気の中津川の空に響いていき、KOUHEIのドラムが連打される「knife」、さらには「Alien」と、前半からパンクかつハードな曲が次々と演奏されていくというのはこの日はどんなテーマの元に挑んでいたのかが気になる。特段パンクなフェスというわけではないけれども、もしかしたら
「なんと今日はこのステージで1番我々が年下(笑)」
という今となっては珍しい状況だっただけに若さ、フレッシュさを強く出そうという意識があったのかもしれないというのは考えすぎだろうか。
で、やはりこの中津川が地元であるRYU-TAの話題になるのだが、GENは
「さっきこの会場に向かってる時にRYU-TAに色々話を聞いたら、
「あの体育館の部活は地獄だった」
「あそこの動物病院で飼ってた犬が死んだ」
とか、嫌な思い出しかないじゃん(笑)」
とRYU-TAをいじる。その部活で使っていた体育館はこのフェスではクロークや、この日は雨の避難場所としても活用されており、RYU-TAがマジでこの会場が身近な場所であったことがよくわかる。
そんなRYU-TAのコーラスも響く「message」でのKOUHEIのツービートがさらにバンドのサウンドをパンクに走らせると、このフェスでも曲中の手拍子がバッチリ決まる「Kitchen」と続いて雨の中でも我々観客を踊らせまくってくれるのであるが、
「中津川起きてんの!」
とGENが叫んでから演奏された「nem…」が我々の目をさらに覚まさせてくれるというか、状況的には寝たら死ぬぞ的な寒さの雨になってきてすらいるというのもあるのかもしれないが、「今ここでしかない」ということをそのサウンドで感じさせてくれるような「Now here, No where」が演奏されたあたりでは一瞬雨が弱くなり、頭を露出させても大丈夫かなというくらいになり、さすが太陽のフェスだなと思いきやまたその後にすぐに雨が強くなってくるというのはやはり甘くないというか。
GENはこのフェスを
「ファミリー感が強いフェス」
と言っていたが、それはフェスの主催者と出演者たちがそういう関係であるということではなくて、会場の公園の一等地をキッズ・ファミリー広場にし、そこで様々な子供向けの催しが行われているのを過去の出演時にも見てきたからであろう。そうしたこのフェスの部分を
「YON FESにパクれるところを持ち帰りたい(笑)」
と言っていたが、若者だけではなくて家族全員で来れるフェスというあたりにGENは自分たちのフェスの理想形をこのフェスに見ているのかもしれない。
そんな将来の自分たちに向かっても鳴らしているのかのような「Letter」がパンクな曲が多かったこの日なだけに少し切なさを増して響いてくると、今年の春のYON FESでGENが望んだことで微かな合唱が聞こえた「hello」がこのフェスでも演奏される。それによってもう半年近く経つあの日のことを思い出してしまうのであるが、来年はYON FESでもこのフェスでもこの曲をみんなで歌うことができたらなと思う。もちろんその時はこの日とは違って晴れていて欲しいというのは、雨具のフードを被ることなくこの曲での合唱をダイレクトに耳に届けたいからだ。
「大好きな場所なので来年また戻ってこれるように」
とGENもそんなこの場所での来年の再会を約束するように「Terminal」が演奏される。自分にとってもこのフェスは最高な世界を具現化してくれているような場所であるのだが、この曲がこうして聴けることでその思いはより強くなるし、それはこの日はGENのボーカルが実に安定していたからこそよりそう思えるのである。
そんなこの日のライブの最後として演奏されたのは「swim」ではなくてその発展形というか、それを今の自分たちで鳴らすかのような「Just」。HIROKAZの弾く浮遊感のあるキャッチーなフレーズが今のフォーリミらしさを感じさせてくれるが、発売が迫ってきている、そんな今のフォーリミが詰まっているであろう本当に待望のニューアルバムも楽しみな限りである。
しかしそれでもまだ時間があったからか、最後には「Remember」が追加されたことによって、やはりパンクなフォーリミを感じさせてくれたこの日。GENは
「birdさんが大好きなんでライブ見れるのが楽しみ」
と言っていたが、その時にはまさか名古屋駅で新幹線が動かなくて困っている4人が一般人としてインタビューされた姿がニュースで流れるとは思っていなかった。
リハ.escape
リハ.days
1.fiction
2.monolith
3.knife
4.Alien
5.message
6.Kitchen
7.nem…
8.Now here, No where
9.Letter
10.hello
11.Terminal
12.Just
13.Remember
16:00〜 ストレイテナー [Revolution STAGE]
2年前の中野サンプラザでの収録ライブ、昨年のZepp Hanedaでの収録ライブにも出演し、この中津川では開催できなかった期間のこのフェスを支え続けてきたバンドである、ストレイテナー。その2回の収録ライブをクラウドファンディングでのリターンとして現地で見てきただけに、こうしてこの中津川でようやくまたテナーのライブを見れるというのが実に嬉しい。
やはり冷たく強い雨が降る中でメンバーが「STNR Rock and Roll」の勇壮なSEで登場すると、ナカヤマシンペイ(ドラム)はドラムセットの上に立ち上がって客席を眺め、ホリエアツシ(ボーカル&ギター)が
「中津川、3年ぶりの開催おめでとう!俺たちストレイテナーって言います!」
と挨拶してシンペイが美しいウインドチャイムの音を鳴らす「Melodic Storm」からスタートすると、雨が降る中でも観客は腕を振り上げ、ひなっちこと日向秀和(ベース)も満面の笑みでリズムを刻む。OJこと大山純(ギター)がキャップを被っていたのは雨対策によるものもあったのだろうか。
そのバンドのサウンドが一気に激しく、強く変化するのは「From Noon Till Dawn」であるが、この曲では普段会場の場所などに歌詞を変えて歌うのをこの日ホリエはそのまま歌っていた。逆にそれが「間違えた」と思ってしまったのか、ホリエはその後の歌詞を飛ばしてしまって思わず笑っていた。なかなかテナーにとっては珍しいシーンと言えるのかもしれない。
「この2年間の間に中津川で鳴らせなかった曲たちをようやく鳴らせます」
と言って演奏された「宇宙の夜 二人の朝」でのバチバチと激しく音がぶつかり合いながらもこの4人のバンドの音として調和していくかのような演奏はやはり実に見事というか、この4人じゃなきゃ絶対に成し得ないものであるのだが、OJがまさに星が泣き叫ぶようなサウンドをギターで奏でる「叫ぶ星」も含めて、この2年間もテナーがロックバンドとしてのグルーヴを追求してきた曲がこうしてついにこの場所で響いたのである。
「いろんな思いを持って中津川に集まった勇気ある者たちへ」
と目の前にいる人たちへホリエが言葉を送ってからキーボードに向かうと、サウンドもテンポもガラッと変わる「Braver」ではそれまでの曲に比べるとテンポが遅い曲だからこそ、シンペイのドラムの一打一打が本当に凄まじいくらいに強いということがよくわかる。それはシンペイが、テナーが自分たちの抱えている思いを音として放出することができるバンドであるということだ。
この会場はなかなか都心からはアクセスしにくい場所であるだけに、どうしても長旅になりがちであるのだが、そうした長い旅を経てたどり着いた実感を感じさせてくれる「A LONG WAY TO NOWHERE」でホリエがギターに戻ると、確かな演奏技術があるからこそジャジーなサウンドすらも自分たちのロックに取り入れることができる、これもまたタイトルとしても旅という感覚を思わせる「群像劇」と続くのであるが、こうしたアッパーではない曲をちゃんとフェスのライブでも演奏できるのはこのフェスの長い持ち時間によるものだろう。
しかしホリエは降り続く雨を鑑みて
「このフェスは去年も直前になって二転三転したりしながらも諦めなかったど根性フェスだと思ってるけど、みんなはここでど根性使わなくてもいいから(笑)
最後まで楽しんでとは言わないから、自分の無理のないところで。こんなに降ると土砂降りのフジロックを思い出す。俺たちの中でも最も踊れる曲で少しでも暖まれば」
と観客を気遣う優しさを見せてから「DISCOGRAPHY」が演奏されるのであるが、そのサウンドはこれまでにも数え切れないくらいにアップデートを果たしてきたこの曲であるだけに、今のテナーとしてのこの曲へと大幅にアレンジされている。それはかつてよりもはるかにテンポを落として強いだけではないしなやかさを感じられるグルーヴにすることによって観客の体を揺らせるということ。曲中に煌めく色とりどりの照明もこのアレンジだからこそ映えるものである。
そしてホリエがギターを掻き鳴らしながら歌い始めた「シーグラス」が、海がないこの岐阜県であっても切なく響くのは9月も終わろうとしているタイミングだからこそ、夏の終わりをこの曲がここで確かに感じさせてくれるからだ。まだギリギリ夏フェスと言ってもいい時期かもしれないけれど、この曲がその最後として鳴らされるのが毎年このフェスであったらなと思う。演奏しながら満面の笑みを浮かべてクルッとその場で回ったりするひなっちの姿を見ると心からそう思う。
さらに雨が寒さを強くする中でも腕を振り上げたりすることでその寒さを和らげようとするかのようなギターロックな「REMINDER」が演奏されることでクライマックスを迎えるとともに、こんな雨の中津川でテナーのライブを見たこの日のことが遠い記憶になる日が来ても絶対に忘れたりすることはないだろうなと思う。
そんなライブの最後に演奏されたのはホリエがアコギを弾きながら歌う「彩雲」。
「突然の土砂降り」
という歌詞に合わせて最後に選曲されたのかは定かではないが、突然どころじゃないくらいに降り続いてるんですけど、とも思いながらも、今こうして我々がまたこの中津川に戻ってこれたのはこのバンドの功績が本当に大きいと思う。
2年前の中野サンプラザでの収録はバンドにとってもコロナ禍になってはじめての有観客でのライブだった。まだほとんどライブが出来なかったあの時にテナーのライブが見れたことで救われた感覚が確かにあった。だからこそ絶対にまたこの中津川でテナーのライブを見たいと思っていた。雨だろうとなんだろうとそれがこの日ついに叶ったのである。あの時に涙を浮かべながら「海にも行けないんだな…」と思って「シーグラス」を聴いていた自分自身に、ちゃんとこうして中津川でテナーが見れる日が来るからって伝えてやりたい。そんな思いが去来するような、本当に幸せな時間だった。
1.Melodic Storm
2.From Noon Till Dawn
3.宇宙の夜 二人の朝
4.叫ぶ星
5.Braver
6.A LONG WAY TO NOWHERE
7.群像劇
8.DISCOGRAPHY
9.シーグラス
10.REMINDER
11.彩雲
17:50〜 ザ・クロマニヨンズ [Revolution STAGE]
雨は強く冷たくなるばかり。足元の芝生も雨量が増してきたことによって池のように浸水してきている。そんな中でもこのバンドを求める手拍子の音がライブ開始のかなり前から客席では響いている。ザ・クロマニヨンズがこの中津川に降臨するからである。
おなじみの原始人のうめき声のようなSEでメンバー4人が登場するのであるが、驚いたのはそんな雨と寒さの中でも全員が半袖Tシャツといういつもと全く変わらない姿であるということ。ずっと変わらない4人であるけれど、まさかここまで変わらないとは、と思っていると桐田勝治(ドラム)が強くバスドラを踏んでの「クロマニヨン・ストンプ」からスタートして甲本ヒロト(ボーカル)が飛び跳ねまくりながら歌うという姿も変わることが全くない。それは年齢をも感じさせないということでもある。
バンダナ姿も含めてその年齢を重ねたことを全く感じさせない最たる存在であるマーシーこと真島昌利(ギター)がイントロを鳴らす「タリホー」とテンポ良く曲をひたすら連発しまくるというのも全く変わることのないこのバンドのスタイルであり、それは何歳になろうがやりたいのはロックンロールただそれだけであるということをその姿が示しているようですらある。
しかしながら桐田が立ち上がってスティックを振るい、小林勝(ベース)がその桐田の姿に呼応するように腕を振り上げる「雷雨結構」はまさに
「合言葉は雷雨決行」
「引き返す訳にゃ行かないぜ
夢がオレたちを見張ってる」
というフレーズたちがこれ以上ないくらいにこのシチュエーションでのライブのテーマであるかのように響き、だからこそ我々にそんな状況でも諦めることなくライブを見るという精神力の強さを与えてくれている。
リズミカルな「ドライブ GO!」、意外にもこうしてフェスセトリの中に入ってくる曲なのかと思う「光の魔人」と、テーマはそれぞれ異なるけれどシュールな歌詞とストレートなサウンドのロックンロールでしかないという自分たちのスタイルを貫き通しながらヒロトは
「雨以外は全て予定通り!」
と口にする。逆にヒロトもこんなにも雨が降るとは思っていなかったということだろうか。
そのヒロトがブルースハープを吹き鳴らしまくる「どん底」から這い上がるようにロックンロールの化身たる「エルビス」が放たれると、「グリセリン・クイーン」でヒロトはなんとTシャツを脱いで上半身裸になる。確かにそれこそがいつものヒロトのスタイルであるとはいえ、ライブを見て体を動かしていても震えがくるくらいの寒さの中で上半身裸になるとは。いろんな出演者が「風邪ひかないように」と言ってくれていたが、個人的にはヒロトこそ風ひかないようにと思ってしまう。まぁこのくらいの寒さでのライブなんかもう数え切れないくらいにやってきたのかもしれないけれど、それでも
「今日ここに集まってくれたこと、一生忘れんからな!」
と観客の姿を見て口にしていたあたりはやはりヒロトと言えども思うところがあるくらいの状況だったということだろうか。
すると歌詞の通りにまさにジャングルビートな「暴動チャイル (BO CHILE)」がどんなサウンドですらもロックンロールになるというこのメンバーたちの生き様そのものがロックンロールな達人っぷりを示してくれると、サビでヒロトに合わせて観客もゆらゆらと手を振る「紙飛行機」と、怒涛のキラーチューンの出し惜しみない連発っぷりへ。
しかしながらヒロトは「ギリギリガガンガン」を歌いながら突如として雨が当たりまくるであろうステージ前の方へと飛び出して案の定雨に当たると、それだけではなくてそのステージの雨で濡れた部分を転がり回る。それは我々観客だけ濡れてて、一緒にライブをやっている自分たちが濡れないなんておかしいだろうと言ってくれているかのようであった。衝動的なパフォーマンスかもしれないけれど、そこにこそブルーハーツ時代からずっと我々が感じ取ってきたヒロトの優しさを目の前で感じることができるのである。
そんなヒロトの生き様が
「ただ生きる 生きてやる
呼吸をとめてなるものか」
という歌詞に現れている「エイトビート」をヒロトがステージ中央に立って歌う姿はまさにロックンロールの生きる伝説そのものであり、なんでこの人がこんなにカッコいいを振り切ったままでいられているのかが伝わってくるような場面だった。
そしてラストに演奏されたのは、そんなバンドこそがナンバーワンでしかないだろうと思わざるを得ない「ナンバーワン野郎!」。この曲のコーラスを歌うことができないというのは実にもどかしさを感じざるを得ない。でもそんな制限がある中でもクロマニヨンズのカッコよさは変わることがないというか、そうした状況だからこそステージに立って音を鳴らして歌うだけという姿から感じられるこのバンドの説得力の強さを改めて確かめることができるのだ。
ヒロト「また絶対やろうなー!」
マーシー「またね〜」
という演奏後のおなじみの挨拶はまたこの会場でこうしてクロマニヨンズと一緒にロックンロールができるということを感じさせたし、どんなに雨が降っていて寒かろうとこのバンドのライブが見れれば「今日は最高」と思える日になるということを実感させてくれたのだった。セトリはサマソニと全く同じだったけれど、それでもずっと雨の中で見ていられる理由しかなかった。
1.クロマニヨン・ストンプ
2.タリホー
3.生きる
4.雷雨決行
5.ドライブ GO!
6.光の魔人
7.どん底
8.エルビス
9.グリセリン・クイーン
10.暴動チャイル (BO CHILE)
11.紙飛行機
12.ギリギリガガンガン
13.エイトビート
14.ナンバーワン野郎!
19:30〜 ACIDMAN [Revolution STAGE]
3年前にここで開催された時の大トリにして、2年前の配信ライブでもこの中津川で収録したライブ映像が最後に流れたACIDMAN。3年振りのこの中津川での開催でも初日のトリ。もはやSAIとは違ったACIDMANのフェスなんじゃないかとすら思うくらいであるが、それくらいにあらゆる意味でACIDMANがこのフェスを担ってきたということである。
雨はさらに強くなる中でもおなじみのSE「最後の国」が流れて客席からは手拍子が起こると浦山一悟(ドラム)を先頭にメンバー3人がステージに登場。キャップを被った佐藤雅俊(ベース)が観客とともに手拍子をすると、SEが止まった後に大木伸夫(ボーカル&ギター)は音を鳴らすよりも先に
「本当に最後まで残っていてくれてありがとう。無理だけはしないで。自分の体調第一で楽しんでください。俺たちだけ雨が当たらないところにいて申し訳ないけど、電気系統を使っているので雨が当たるとマズいので」
と言ったというあたりからもこの状況の過酷さがわかると思われるが、その大木がギターを鳴らしながら歌い始め、サビに向かうにつれて一悟のドラムが引っ張るようにしてバンドの演奏が高まっていく「灰色の街」から始まるというあたり、バンドのやること、鳴らす音は全く変わることはない。
「こうしてまた僕らは生きてゆくんだよ
小さな花の様に
明けてゆく夜空を信じたなら」
という歌詞もこのフェスで鳴らされるとその場所のテーマであるかのように響くのはACIDMANの音楽が生への祝福であるからだ。それはそのまま諦めなかったこのフェスへの祝福でもある。
大木がその場でイントロのギターの音を1人で重ねるのは佐藤が飛び跳ねながらベースを弾き、一悟が軽快な四つ打ちを刻む「FREE STAR」であるが、「雨に当たれない」と言っていた大木は間奏では自らステージ前の雨に当たる位置にまで踏み出していく。そこであらゆる方向にいる観客の顔を見ながら「ありがとう」とマイクを通さずとも口にする。この瞬間だけでACIDMANがこの日のトリで本当に良かったと思えた。
そんなACIDMANの信念や思想を貫きながらもアニメタイアップとして若い人の耳にも届く曲となった「Rebirth」の
「悲しみの夜を越えて 生まれ変わるのさ」
というフレーズもまたこうしてこの場所で聴いていると不遇の2年間を過ごしたこのフェスがこうして今年まさに今転生しているということを感じさせてくれる。
この真っ暗になったこの会場に真っ赤な照明が映える「赤橙」でも佐藤は飛び跳ねながらベースを弾くことによって、我々観客も雨が強く降り注ぐ中でもその場で飛び跳ねると大木は
「こういう過酷な状況でライブを見たっていうのも後々良い思い出になるから。もう今ここにいる人たちはみんな仲間なんで、どこかで会った時に
「雨の中津川で見てました!」
って言ってくれたら、「イェーイ」ってハイタッチしましょう」
と笑わせながら我々を勇気づけてくれると、昨年リリースされたフルアルバム「INNOCENCE」収録の、佐藤のベースが引っ張り、一悟も激しくぶっ叩くアッパーな「夜のために」が演奏されると、さらにそのアルバムから続けてタイトル曲の「innocence」が演奏される。「Rebirth」同様に生まれ変わるのということをテーマにした、ミドルテンポでありながらも大木のギターは強く歪んでいる曲であるのだが、3年前の大トリでのライブはもちろん、2年前の配信での時にもなかった曲たちがこうしてこの場所で演奏されているというのは、ACIDMANが前に進み続けてきたことの証明であり、我々もともに進んでくることができたということの何よりの証明である。
そして大木はそんな諦めなかったこのフェスとこうして最後までこうしてライブを見てくれていた人に感謝を語り、自分たちの主催フェスの告知をすると(今になって告知してもチケット取れないだろうけど)、ACIDMANだからこそこうしてフェスの持ち時間でも鳴らすことができる壮大なバラード「世界が終わる夜に」を演奏する。その大木の歌唱とバンドの演奏の極まりっぷりはこのシチュエーションまでもがただですらスリーピースバンドの限界を更新し続けてきたこのバンドがさらにそれを更新するための演出としての装置であるかのようだった。
そんなバラードから一転して佐藤が腕を振り上げまくり、その後すぐに被っていたキャップまでをも吹っ飛ばす「ある証明へ」。観客も思いっきり腕を振り上げると、大木は間奏で
「まだみんな声出せないから、その分俺が思いっきり叫ぶから!」
と言ってその通りに強い雨の音すらも搔き消すように思いっきり叫ぶ。かつてはこの曲を歌い切れないくらいにきつそうだったのに、今は全くそんなことはない。大木のボーカルがいつからか曲のスケールを超えるようになった。それは我々の想いを乗せてくれることによってさらに強くなった。もう顔に流れているのが雨か涙かわからないくらいに感動していた。
「みんなキツいだろうから、時間短縮のためにアンコールで引っ込まないでこのままやります!」
と言って最後に演奏されたのは、その選曲が確かにアンコールとして用意していたということがわかる「Your Song」。ツアーなどでも今でも聴いているが、こうしてフェスで鳴らすのが聴けるのはタイムテーブルのトリをACIDMANが担っているからだ。5年前のSAIの最後に演奏された時のスクリーンにその日の観客の笑顔が次々に映し出されていた感動的なフィナーレがフラッシュバックしていたのは、この日のACIDMANのライブがあの時と同じ感動をもたらしてくれたからだ。そんなライブを見せてくれるからこそ、自分はACIDMANをずっと信じている。出演者が誰も発表されていない段階からSAIのチケットを両日申し込んでいる。その信頼に足るバンドであり続けていることを、この日のACIDMANは自分たちの鳴らす音と姿で証明してくれていた。
2年前のこのフェスの配信ライブで最も忘れられないシーンがある。それはトリのACIDMANのライブの最後に大木が
「俺たちは絶対大丈夫!何の確証もないけど、絶対に大丈夫!」
と叫んでいた姿だった。確証は確かに何もなかったし、今も何かが解決したわけでもない。でも大木が言っていたように、我々は大丈夫だったからまたこうしてここで会うことができた。ここにまた来るまでの3年間は本当に長かったけれど、それくらいずっと来たかった場所だからこそ、どんなに雨が強くても寒くても心が折れることなく最後までここにいたのだ。
帰りに電車が大雨の影響で徐行運転してしまったことによって、我々はそんな状況の中でライブを見ていたんだなと思った。それでもやっぱりACIDMANが最後までライブをやれて、そのライブが見れて本当に良かったと思っている。
1.灰色の街
2.FREE STAR
3.Rebirth
4.赤燈
5.夜のために
6.innocence
7.世界が終わる夜に
8.ある証明
9.Your Song