銀杏BOYZ 特別公演 「君と僕だけが知らない宇宙へ」 @中野サンプラザ 9/22
- 2022/09/24
- 21:13
春にもアコースティックメインのツアーを行っているが、コロナ禍でライブのルールが厳しくなり、頭のおかしいファン(自分もその中に入っているということを自認して)が多い銀杏BOYZがそんな状況の中でもこうしてワンマンを行うことができるようになるとは思っていなかった。
そんな銀杏BOYZの新たなワンマンは「特別公演」と銘打たれた、東京と大阪での2公演。先に行われる東京は中野サンプラザという、かつてワンマンを行った際には「席指定のホールのライブでダイバーが発生する」という治安の悪さが発揮された場所でもある。
そんな中野サンプラザの客席に観客が座って待つ18時30分になると、ステージを覆うスクリーンには都内と思しきどこかのローソン+スリーエフを皮切りに様々な街の光景とともに男女の朗読が始まる。それは「カンパネルラ」「ジョバンニ」という名前が登場することによって、銀杏BOYZにとっても大事な文学作品である「銀河鉄道の夜」であると思われるのだが、読んだのがはるか昔過ぎて「こんな感じの内容だったっけ?」とも思ってしまう。
そんな男女の朗読が重なり合い、絡まり合ってスクリーンが上がると、ステージにはメンバーが座るための椅子が用意されているというのは今年のツアーと同様であり、そのステージに峯田和伸(ボーカル&ギター)が登場して観客に一礼すると、椅子に座ってアコギを弾きながら歌い始めたのはいきなりの「人間」なのだが、曲途中にメンバーが出てきてバンド編成になって…というアレンジではなくて1曲まるまる弾き語りという内容に。これには意表を突かれるというか、メンバーはいつ出てくるんだ?とも思うけれども、やはり峯田の少し掠れた歌唱は聴いていてどこか安心するし、何よりも銀杏BOYZのライブをこうして自分の目で見ることができているという事実がこの上なく嬉しく感じられるのは銀杏BOYZになったばかりの頃から全く変わることはない。
そのまま弾き語りという形で「NO FUTURE NO CRY」へ。峯田は声量にしても音程にしてもブランクを感じざるを得ないのであるが、2コーラス目で下手側からおなじみの山本幹宗(ギター)、藤原寛(ベース)、岡山健二(ドラム)、加藤綾太(ギター)というバンドメンバーたちが登場し、全員が椅子に座り、加藤はアコギという前回のツアーと同じアコースティック編成でのバンド演奏になる。それによってやはりテンポはゆったり目になっているのだが、その分いつもよりゆっくり銀杏BOYZの演奏に浸れるというのは基本的に観客は椅子に座ったままの状態だからである。
「今日は本当にいっぱい曲やるから。今まで銀杏BOYZのライブに来たことがある人はビックリするだろうなってくらいに」
と峯田が宣言したことによって客席からは拍手が起こると、
「もう25年前、GOING STEADYを始めた時に作った曲があって。恥ずかしくて歌えないなって思ってた時期もあったけど、今になると曲の方から「歌ってくれ、歌ってくれ」って言ってるような感じがあって。もうあのバンドを始めた頃の何も知らなかった状態で曲を作ることはできないけれど、あの頃の真っ白だった俺に、今の真っ黒になった俺が歌います」
と言ってアコギを鳴らして歌い始めたのはなんとGOING STEADYのデビューアルバム「BOYS & GIRLS」に収録され、後に銀杏BOYZバージョンとしてセルフカバーされた「YOU & I VS. THE WORLD」。
「今は苦しくても 今は悲しくても
君がいるから そばにいるから 僕にはなんでもできる」
「あの青い空は僕らの空 あの青い海は僕らの海
かけがえのない君と僕はどこへゆくのか」
という、確かにこんなに蒼さを感じるような歌詞は今の峯田からは出てこないだろうなと思うフレーズが否が応でもゴイステばかりを聴いていた学生時代の頃を思い出させる。
GOING STEADYは銀杏BOYZになり、あのメンバーたちは居なくなって、峯田と今のメンバーになった。それと同じように自分も学生から社会人になって、それなりにいろんなことがあったりした。銀杏BOYZばかり聴くようなこともなくなった。それでも、今でもこの頃の曲を聴くと今でも「これは自分のための曲だ」と思える。次はどんな曲が峯田に「歌ってくれ」って言ってくるのだろうか。そんな曲たちがまだライブで聴くことができるっていうだけでも、まだまだ生きるしかないなって思える。それはもしかしたらゴイステの音楽を頼りに生きていたあの頃と自分は変わってないのかもしれない。今の峯田が当時の峯田に歌うと言ったように、今の自分が当時の自分に言ってやりたいことが確かにある。
「大好きな曲。自分でこの曲だけを大好きな曲って言っちゃうのもあんまりよくない気もするけど」
と言って演奏された「夢で逢えたら」がアコースティックをメインとしたサウンドだからこそ、よりポップに響いてくる。峯田がそうであるように、自分も、ここにいたたくさんの人もきっとこの曲が大好きであるはずだ。だから夢だけじゃなくてこうして現実でも逢えているのが嬉しいのである。
「みんな座ってるけど、次の曲は銀杏BOYZの中でも体を揺らしたりして踊れる曲なんで」
と峯田が言うと、岡山の軽快な4つ打ちのリズムに合わせて観客が一斉に全員立ち上がって体を揺らすのは「I DON'T WANNA DIE FOREVER」。アコースティックサウンドであるだけに原曲の暴動と言えるかのような爆発っぷりは抑えられ、とびきりキャッチーなダンスチューンへと生まれ変わっている。
さらにはアコースティックになったことでテンポがもの凄く遅くなったことにより、ブルース的な感覚すら感じる「トラッシュ」では峯田の歌唱が歌詞に合わせたものなのか荒々しいものに変化する。こうした歌唱の変化を楽しめるのはアコースティックならではであるし、藤原と加藤のコーラスもよりハッキリと聴こえる。
そのコーラスも務める加藤がここまでのアコギからエレキに持ち替えてギターを刻むのはなんと人気曲「援助交際」のアコースティックバージョン。
「あの娘のメールアドレスをゲットするため 僕は生まれてきたの」
という歌詞も原曲のままなのは嬉しいが、やはり早口なAメロから辿り着くこの曲のサビは最高にキャッチーである。従来の形とは違ってもこうしてライブで聴けるだけで嬉しいし、鳴らす姿を見て、その音を聴いていろんな想いが込み上げてくる。それくらいにもう人生の長い年月を共にしてきた曲であるということだ。
藤原のゴリゴリの重いベースのイントロは変わることがない「SEXTEEN」ではステージ背面からメンバーを照らす照明の色がまるで血のように赤く染まる。「トラッシュ」同様にアコースティックになるとブルース色が増すというのは実はそうしたメロディを持った曲だということもわかる。
すると峯田はかつてこの会場の中野サンプラザのすぐ近くに住んでいて、この会場の地下にあるスタジオでバンドの練習をしたり、いろんなアーティストのライブをこの会場に観に来た思い出を口にするのだが、
「いなくなった友達…フジファブリックの志村君のお別れ會っていうのもここでやって。俺は妹と一緒に来たんだけど、もう10年以上経ったんだねぇ…」
と志村正彦の思い出を口にすると、一瞬言葉に詰まる。その瞬間に会場も静寂に包まれ、涙を啜るような音も聞こえてくると峯田は
「イノマーさんもね、いなくなっちゃってね…」
と、盟友のイノマーの名前も口にし、久しぶりにやる曲と言って「漂流教室」をアコースティックバージョンで演奏する。
「告別式では泣かなかったんだ
外に出たらもう雨はあがってたんだ
あいつは虹の始まりと終わりをきっと一人で探しにいったのさ」
という歌い出しがどうしても志村やイノマーのことを想起させるのであるが、だからこそ
「今まで出会えた全ての人々に もう一度いつか会えたらどんなに素敵なことだろう
というフレーズがより強い説得力を持って響いてくる。峯田がその人たちに会いたいと思っているということが。きっと峯田にとっては志村もイノマーも「一生の友達」のままなんだろうなと思う。
するとここで峯田以外のメンバーたちが一斉に立ち上がる。でも峯田は座ってアコギを弾いたままというのは変わらないので、完全に通常編成というわけでもなければ完全にアコースティックというわけでもない。その形で演奏された「新訳 銀河鉄道の夜」ではステージ背面に星空を思わせるような電飾が煌めく。それを背景としながら
「シベリア鉄道乗り換え、中野駅で降ります
ハロー、今、君にすばらしい世界がみえますか」
と歌うこの曲はまるでこの日のために生まれた曲なのかと思うくらいだ。この曲をライブで聴けば、世界や自分自身がどんな状況にいようとも、今ここが素晴らしい世界であると思える。サビでミラーボールの光が輝くという演出がより一層そう思わせてくれる。
この日、ステージには岡山のドラムセットと加藤のギターアンプの間にキーボードが設置されていた。なので間違いなく誰かしらが弾きに来るのだろうなと思っていたのだが、ここでDr.Kyonがゲストとして現れ、切なさが極まるフレーズをバンドのサウンドに重ねるのは至上の名曲「東京」。名古屋や大阪にも観に行ったことはあるけど、基本的に自分が銀杏BOYZのライブを観るのはいつも東京の会場だ。しかもこの東京の中でも峯田の思い入れが強い中野サンプラザで響く
「ふたりの夢は空に消えてゆく
ふたりの夢は東京の空に消えてゆく
君はいつも僕の記憶の中で笑っているよ」
というサビ。決して歌が上手いわけでもなければ、声量があるわけでもない。でもやっぱり峯田和伸という人間が歌うからこそ心の奥底にまで響いてくるものが確かにある。この東京という街でこの曲が聴けて本当に幸せだと思う。
その峯田はついにタンバリンを持って立ち上がり、山本のカッティングギターに合わせて体を揺らすというか、あの美しい獣のようなライブ時の峯田そのものというように動き回りながら歌い始めたのは「ぽあだむ」。今までは同期の音も岡山が出しながら演奏されていた曲であるが、引き続きDr.Kyonが参加することによって完全に生演奏という形になる。いわゆるパンクでもなければ轟音でもないポップな曲だけれど、観客がイントロが鳴らされた段階で腕を挙げる姿を見ていると、
「銀杏BOYZみたいにポップになれんだ」
と歌詞を変えて歌うこの曲のポップさも銀杏BOYZというバンドにとっての大きな一つの要素になっていること、それをファンが愛しているということもわかる。その、ただ同じバンド、同じ音楽を愛している人たちがこんなにたくさんいるというだけでも泣きそうになるのだが、
「涙は似合わないぜ 男の子だから」
というフレーズがそれを堰き止めてくれる。あくまで笑顔で体を揺らしていたいと思える。
そんな中で意外な選曲というか、確かに先日の「イノマーロックフェス」でも演奏されていたし、9月ということを考えると今こそこの曲を演奏する時期と言えるかもしれないと思うのは「夜王子と月の姫」。
「3月11日指輪を落とした月の姫」
というようにGOING STEADY時代のアメリカ同時多発テロを受けて書かれた「9月の11日」から東日本大震災を経験した3月11日に銀杏BOYZ仕様として歌詞は変化しているのであるが、その曲を聴きながらたくさんの人が示し合わせたわけでもないのに同じようにリズムに合わせて体を左右に揺らしている。
銀杏BOYZのファンの人を見ていると自分自身を見ているかのような気分になるのであまり見たくなかったりするのであるが、それでもやっぱりこの曲を愛してきた人たちとは、住んでる場所も年齢も性別も思想も全く違うかもしれないけど、どこかしら精神の1番深い部分で通じ合っている気になる。それはきっと自分と同じように峯田和伸という人間の存在と作る音楽に人生を救われたと思った経験を人生の中でしていて、その経験があるから今もこうしてライブに来ていて、それを楽しみにして日々を生きているところがあるのがわかるからだ。そんなことを感じさせるこの曲の光景は今の自分のことも、かつてこの曲がGOING STEADYの両A面シングルとしてリリースされた時の自分のことも救ってくれるかのようだ。
そんな「夜王子と月の姫」のアウトロでは山本を起点にして、Dr.Kyonを含むメンバーが1人ずつ演奏を終えてステージから去っていく。最後に残った峯田と加藤がギターを弾く中でステージには幕が降りてくる。
「え?たくさん曲やるって言ってたのにさすがにこれで終わりってわけじゃないよな?」と思っていると、東京の下町と言えるような場所を歩く峯田の姿が映し出され、BGMとして「二回戦」が流れる。峯田が曲終わりでたどり着いたのはスカイツリーが見える、川沿いの場所。そこで曲が流れ終わると、紗幕越しに聞こえてくる爆音と轟音。幕が上がるとそこには椅子がなくなった、完全に通常のバンド編成の銀杏BOYZの姿。
なので峯田もエレキギターを手にしているのだが、その編成で峯田が
「日本!日本!日本!」
と叫びまくる「若者たち」がスタートする。周りには泣いている人もいた。決して感動するような曲ではないけれど、泣くのは凄くよくわかる。こんな銀杏BOYZの音楽にずっと救われてきたから。だから泣けるような曲じゃなくても、ただ銀杏が銀杏らしく音を鳴らしているだけで泣けてきてしまうのだ。
さらに峯田の挙動が激しくなるのは「駆け抜けて性春」。峯田は1コーラス目で声を張り上げ過ぎて2コーラス目はほとんど歌えなかったし、サビはまるっきり歌えていなかった。それでも歌が聴こえていたような気がするのは豪音で聴こえないからと観客の誰かが歌っていたわけじゃなくて、脳裏にこの曲のメロディが焼き付いていて離れないからだ。
そんなこの曲には音源ではYUKIが歌うパートがある。そこはライブでは基本的には観客がずっと大合唱してきた。涙を堪えながら何度も歌ってきた。でも今はそれがない。だから峯田が自分で歌う。その姿を見ても涙が出てしまうのは、この曲をみんなで歌うことによって、普段生きていたら全く周りにいない銀杏BOYZを好きな人がここに来ればたくさんいる、ここには歌詞を見なくても歌える人ばかりいるということを今までみんなで歌うことで確かめていたからだということに今のこの状況になって気付かされた。声を出せなくてもライブを見れるだけで大丈夫だ、幸せだとコロナ禍になってからずっと思っていたけれど、やっぱりこの曲をみんなで歌いたい、声を出したいと今までで1番強く思った瞬間だった。そりゃあ銀杏BOYZのライブを見た後はただでさえカラオケに行って銀杏の曲を熱唱したくなるのだから。
それはGOING STEADY時代の「DON'T TRUST OVER THIRTY」を今の銀杏BOYZの轟音アレンジにした「大人全滅」ももちろんそうだ。腕を振り上げてサビを全員で大合唱する。それがまた叶った瞬間にはきっと今よりも、僕らが心から笑えるような気がしている。いや、きっとそうなる。
そんな加藤と山本もサビ前に高くジャンプするという爆裂暴動的な銀杏BOYZのライブから一気にバンドサウンドが神聖なものになるのは現状の最新アルバム「ねえみんな大好きだよ」収録の「アーメン・ザーメン・メリーチェイン」。前をまっすぐに見つめながら峯田が歌う
「もうきみのこと すきなんかじゃないよ
愛しているだけ」
という歌詞は初期の曲もたくさん演奏されたこの日だからこそ、当時とは違う今の峯田だからこその表現だなと思う。
そんな中で峯田が
「ドラムの岡山健二が歌います!」
と言って実際に曲始まりを岡山が歌い始めたのは「骨」。てっきり歌い出しの部分だけを岡山が歌うのかと思ったら、なんと全編岡山がドラムを叩きながら歌い、峯田はコーラスという体制に。それはきっとandymori解散後は自身がメインボーカルを務めていたバンドの曲なども聴いた上で、岡山の素朴な、純粋な少年らしさを失っていないと思える歌声がこの曲に似合っているという判断をしたのだろうし、実際にこの曲の歌詞に岡山の歌声は実に良く似合っている。
そんな岡山の歌声の素朴さから繋がるようにサウンドも素朴なのは「恋は永遠」。峯田は時にかなり調子外れな、もっとライブやってくれたらもっと上手く歌えるんだけどなと思うような歌唱ながらも、「駆け抜けて性春」に続くYUKIパートのボーカルも歌う。
すると峯田はアウトロでメンバーに何やら順番に耳打ちをする。全員にしたということはもしかしたら次に演奏された「エンジェルベイビー」は急遽セトリに入れたのかもしれない。「骨」「恋は永遠」に先んじて、今の銀杏BOYZとしてのリリース第一弾になったこの曲は今でも気が引き締まるというか、またここから新しく銀杏BOYZが始まっていくという気分にさせてくれる。それはこの曲が峯田にとってのロックの原体験を歌った曲だからだ。
そんな峯田はこのライブの2週間くらい前からずっとライブの夢を見ていたという。それはかつてのメンバーの時もそうだったようなのだが、
「俺はバンド2つを破滅に追い込んだんですけど(笑)、前の4人の時にもライブの前にはライブの夢を見てた。もうライブ始まる直前で、客席からは「峯田ー!」「死ねー!」みたいな怒号が飛んでて。でも俺たちは1曲目に何の曲をやるか全然決まってない。実際当時はそんな感じだった。「1曲目はこれにしよう」「いや、それじゃねーよ」みたいなやり取りをしてて。で、ライブの時間になるとハッと目が覚める。でも今は今日みたいな光景をずっと夢で見てた。それくらいずっと楽しみにしていたんだ」
と、このライブへの想いを語ってから、そのかつて見ていたという夢がそんな夢だったかのようにアコギを持って弾き語りで
「君が笑う夢を見たよ」
と「光」を歌い始める。それは全編弾き語りだった「人間」とは違って途中からバンドサウンドになるのであるが、その切り替わる瞬間の岡山のドラムの一打を始めとした音のあまりの強さと大きさ。すでにそうした曲をたくさん聴いてきたにも関わらず、身体がビクッと驚くくらいに。この曲から再び加わったDr.Kyonも含めて全員がこの曲はそれくらいに振り切って感情を込めないと演奏できない曲であることをわかっている。峯田はバンドサウンドになるとハンドマイクになるのであるが、そのマイクをゴツゴツと自分の頭にぶつける音でまた驚く。でもそれがずっと変わらない峯田のライブでの表現であり続けてきたのだ。
そうしてDr.Kyonが加わったことによってキーボードのキャッチーなサウンドを加えられるようになり「GOD SAVE THE わーるど」が我々の体を揺らす。そこには「ぽあだむ」に連なるような、銀杏BOYZのライブで幸せを感じられるような感覚が確かにあったのだが、そんな幸せを白昼夢の中に溶け込ませていくかのように峯田がサンプラーを操作してシューゲイザーともドリームポップとも言えるような音を出すのはライブで聞くのは実に久々の「金輪際」。その脳がとろけていくような夢遊感覚は銀杏BOYZのライブでもこの曲だからこそ感じられるものである。
そして峯田がギターを持つと、それを弾きながら歌い始めたのはライブのクライマックスを告げる「BABY BABY」。もう今まで何回この曲をライブで聴いてきただろうか。それでもやはりこの曲のイントロが鳴らされると自然に身体が飛び跳ねてしまう。そのサウンドはDr.Kyonのキーボードによってさらにキャッチーかつ音源に近いものになっている(銀杏BOYZバージョンの音源にはGOING UNDER GROUNDの伊藤洋一が参加している)のであるが、
「何もかもが輝いて手を振って」
のフレーズで観客が手を振ると峯田も同じように振り返す。それが言葉を介さなくても通じる我々とのコミュニケーションになっている。武道館ワンマンなどではロングバージョンで演奏されてもいたが、この日は通常の尺バージョン。
そんなライブの最後を締めるのは今や銀杏のライブではおなじみの「僕たちは世界を変えることができない」。イントロで峯田がステージに立っているメンバーを自身も含めて全員紹介すると、藤原と加藤もコーラスで声を重ねるのだが、
「僕たちは世界を変えられない」
というフレーズはかつて峯田が口にしていたように、でも世界も僕たちを変えることはできないという意味合いも含んでいる。だから峯田は
「あなたがあなたであり続けられますように。また曲いっぱい作ってライブやるから。また会いましょうみたいなことはあんまり言いたくないんだけど、またライブで会いましょう」
と言ったのだ。そう言ってくれることの何と嬉しいことだろうか。峯田に、銀杏BOYZに会えるというのが何よりも自分自身の生きていく力になるということを我々はもうわかっているのだから。
アンコールですぐにメンバーはステージに再び現れた。というかすでに本編だけで3時間以上やっていたのだからそりゃそうだろうと思っていたら、アンコールに出てくるスピードの速さとともに演奏のスピードも音源よりも圧倒的に速く、パンクになった最新シングル曲「少年少女」が加藤と山本がジャンプしながらあっという間に演奏される。それは結局のところこの曲で歌われているテーマも含めて銀杏BOYZは、峯田は変わっていないということなのかもしれないし、我々もそうだということだ。それをこれから先の人生でも何度だって感じながら生きていけたらいいなと思っている。
自分がコロナ禍になってもこうしてライブに行き続けてるのは、自分がライブ観たいからというのがほぼ100%に近い理由を占めているが、それでもほんの少しくらいは、GOING STEADYに出会った10代の頃の自分のような奴が、自分を救ってくれた音楽が目の前で鳴らされてる場所があって欲しいからというのもある。
もうそんな奴はそうそういないかもしれないけれど、自分のツイッターのフォロワーには本当にかつての自分を見ているかのような10代や20歳くらいの銀杏BOYZのファンも少なからずいる。彼ら彼女らが、自分がかつて銀杏BOYZのライブが見れたから生きていけていたように、その場がなくなってしまわないように。
そう思うのは銀杏BOYZを聴いていると、いつでもあの頃の自分が今の自分を後ろから見ているような感覚になるから。お前は胸を張って過去の自分の前に立てるか?と言われているかのような。今でもそう思えているということは、銀杏BOYZが今鳴らしている曲たちはやっぱり今でも自分や、自分のようなやつのための音楽だということなのだ。
1.人間
2.NO FUTURE NO CRY
3.YOU & I VS. THE WORLD
4.夢で逢えたら
5.I DON'T WANNA DIE FOREVER
6.トラッシュ
7.援助交際
8.SEXTEEN
9.漂流教室
10.新訳 銀河鉄道の夜
11.東京
12.ぽあだむ
13.夜王子と月の姫
二回戦
14.若者たち
15.駆け抜けて性春
16.大人全滅
17.アーメン・ザーメン・メリーチェイン
18.骨
19.恋は永遠
20.エンジェルベイビー
21.光
22.GOD SAVE THE わーるど
23.金輪際
24.BABY BABY
25.僕たちは世界を変えることができない
encore
26.少年少女
そんな銀杏BOYZの新たなワンマンは「特別公演」と銘打たれた、東京と大阪での2公演。先に行われる東京は中野サンプラザという、かつてワンマンを行った際には「席指定のホールのライブでダイバーが発生する」という治安の悪さが発揮された場所でもある。
そんな中野サンプラザの客席に観客が座って待つ18時30分になると、ステージを覆うスクリーンには都内と思しきどこかのローソン+スリーエフを皮切りに様々な街の光景とともに男女の朗読が始まる。それは「カンパネルラ」「ジョバンニ」という名前が登場することによって、銀杏BOYZにとっても大事な文学作品である「銀河鉄道の夜」であると思われるのだが、読んだのがはるか昔過ぎて「こんな感じの内容だったっけ?」とも思ってしまう。
そんな男女の朗読が重なり合い、絡まり合ってスクリーンが上がると、ステージにはメンバーが座るための椅子が用意されているというのは今年のツアーと同様であり、そのステージに峯田和伸(ボーカル&ギター)が登場して観客に一礼すると、椅子に座ってアコギを弾きながら歌い始めたのはいきなりの「人間」なのだが、曲途中にメンバーが出てきてバンド編成になって…というアレンジではなくて1曲まるまる弾き語りという内容に。これには意表を突かれるというか、メンバーはいつ出てくるんだ?とも思うけれども、やはり峯田の少し掠れた歌唱は聴いていてどこか安心するし、何よりも銀杏BOYZのライブをこうして自分の目で見ることができているという事実がこの上なく嬉しく感じられるのは銀杏BOYZになったばかりの頃から全く変わることはない。
そのまま弾き語りという形で「NO FUTURE NO CRY」へ。峯田は声量にしても音程にしてもブランクを感じざるを得ないのであるが、2コーラス目で下手側からおなじみの山本幹宗(ギター)、藤原寛(ベース)、岡山健二(ドラム)、加藤綾太(ギター)というバンドメンバーたちが登場し、全員が椅子に座り、加藤はアコギという前回のツアーと同じアコースティック編成でのバンド演奏になる。それによってやはりテンポはゆったり目になっているのだが、その分いつもよりゆっくり銀杏BOYZの演奏に浸れるというのは基本的に観客は椅子に座ったままの状態だからである。
「今日は本当にいっぱい曲やるから。今まで銀杏BOYZのライブに来たことがある人はビックリするだろうなってくらいに」
と峯田が宣言したことによって客席からは拍手が起こると、
「もう25年前、GOING STEADYを始めた時に作った曲があって。恥ずかしくて歌えないなって思ってた時期もあったけど、今になると曲の方から「歌ってくれ、歌ってくれ」って言ってるような感じがあって。もうあのバンドを始めた頃の何も知らなかった状態で曲を作ることはできないけれど、あの頃の真っ白だった俺に、今の真っ黒になった俺が歌います」
と言ってアコギを鳴らして歌い始めたのはなんとGOING STEADYのデビューアルバム「BOYS & GIRLS」に収録され、後に銀杏BOYZバージョンとしてセルフカバーされた「YOU & I VS. THE WORLD」。
「今は苦しくても 今は悲しくても
君がいるから そばにいるから 僕にはなんでもできる」
「あの青い空は僕らの空 あの青い海は僕らの海
かけがえのない君と僕はどこへゆくのか」
という、確かにこんなに蒼さを感じるような歌詞は今の峯田からは出てこないだろうなと思うフレーズが否が応でもゴイステばかりを聴いていた学生時代の頃を思い出させる。
GOING STEADYは銀杏BOYZになり、あのメンバーたちは居なくなって、峯田と今のメンバーになった。それと同じように自分も学生から社会人になって、それなりにいろんなことがあったりした。銀杏BOYZばかり聴くようなこともなくなった。それでも、今でもこの頃の曲を聴くと今でも「これは自分のための曲だ」と思える。次はどんな曲が峯田に「歌ってくれ」って言ってくるのだろうか。そんな曲たちがまだライブで聴くことができるっていうだけでも、まだまだ生きるしかないなって思える。それはもしかしたらゴイステの音楽を頼りに生きていたあの頃と自分は変わってないのかもしれない。今の峯田が当時の峯田に歌うと言ったように、今の自分が当時の自分に言ってやりたいことが確かにある。
「大好きな曲。自分でこの曲だけを大好きな曲って言っちゃうのもあんまりよくない気もするけど」
と言って演奏された「夢で逢えたら」がアコースティックをメインとしたサウンドだからこそ、よりポップに響いてくる。峯田がそうであるように、自分も、ここにいたたくさんの人もきっとこの曲が大好きであるはずだ。だから夢だけじゃなくてこうして現実でも逢えているのが嬉しいのである。
「みんな座ってるけど、次の曲は銀杏BOYZの中でも体を揺らしたりして踊れる曲なんで」
と峯田が言うと、岡山の軽快な4つ打ちのリズムに合わせて観客が一斉に全員立ち上がって体を揺らすのは「I DON'T WANNA DIE FOREVER」。アコースティックサウンドであるだけに原曲の暴動と言えるかのような爆発っぷりは抑えられ、とびきりキャッチーなダンスチューンへと生まれ変わっている。
さらにはアコースティックになったことでテンポがもの凄く遅くなったことにより、ブルース的な感覚すら感じる「トラッシュ」では峯田の歌唱が歌詞に合わせたものなのか荒々しいものに変化する。こうした歌唱の変化を楽しめるのはアコースティックならではであるし、藤原と加藤のコーラスもよりハッキリと聴こえる。
そのコーラスも務める加藤がここまでのアコギからエレキに持ち替えてギターを刻むのはなんと人気曲「援助交際」のアコースティックバージョン。
「あの娘のメールアドレスをゲットするため 僕は生まれてきたの」
という歌詞も原曲のままなのは嬉しいが、やはり早口なAメロから辿り着くこの曲のサビは最高にキャッチーである。従来の形とは違ってもこうしてライブで聴けるだけで嬉しいし、鳴らす姿を見て、その音を聴いていろんな想いが込み上げてくる。それくらいにもう人生の長い年月を共にしてきた曲であるということだ。
藤原のゴリゴリの重いベースのイントロは変わることがない「SEXTEEN」ではステージ背面からメンバーを照らす照明の色がまるで血のように赤く染まる。「トラッシュ」同様にアコースティックになるとブルース色が増すというのは実はそうしたメロディを持った曲だということもわかる。
すると峯田はかつてこの会場の中野サンプラザのすぐ近くに住んでいて、この会場の地下にあるスタジオでバンドの練習をしたり、いろんなアーティストのライブをこの会場に観に来た思い出を口にするのだが、
「いなくなった友達…フジファブリックの志村君のお別れ會っていうのもここでやって。俺は妹と一緒に来たんだけど、もう10年以上経ったんだねぇ…」
と志村正彦の思い出を口にすると、一瞬言葉に詰まる。その瞬間に会場も静寂に包まれ、涙を啜るような音も聞こえてくると峯田は
「イノマーさんもね、いなくなっちゃってね…」
と、盟友のイノマーの名前も口にし、久しぶりにやる曲と言って「漂流教室」をアコースティックバージョンで演奏する。
「告別式では泣かなかったんだ
外に出たらもう雨はあがってたんだ
あいつは虹の始まりと終わりをきっと一人で探しにいったのさ」
という歌い出しがどうしても志村やイノマーのことを想起させるのであるが、だからこそ
「今まで出会えた全ての人々に もう一度いつか会えたらどんなに素敵なことだろう
というフレーズがより強い説得力を持って響いてくる。峯田がその人たちに会いたいと思っているということが。きっと峯田にとっては志村もイノマーも「一生の友達」のままなんだろうなと思う。
するとここで峯田以外のメンバーたちが一斉に立ち上がる。でも峯田は座ってアコギを弾いたままというのは変わらないので、完全に通常編成というわけでもなければ完全にアコースティックというわけでもない。その形で演奏された「新訳 銀河鉄道の夜」ではステージ背面に星空を思わせるような電飾が煌めく。それを背景としながら
「シベリア鉄道乗り換え、中野駅で降ります
ハロー、今、君にすばらしい世界がみえますか」
と歌うこの曲はまるでこの日のために生まれた曲なのかと思うくらいだ。この曲をライブで聴けば、世界や自分自身がどんな状況にいようとも、今ここが素晴らしい世界であると思える。サビでミラーボールの光が輝くという演出がより一層そう思わせてくれる。
この日、ステージには岡山のドラムセットと加藤のギターアンプの間にキーボードが設置されていた。なので間違いなく誰かしらが弾きに来るのだろうなと思っていたのだが、ここでDr.Kyonがゲストとして現れ、切なさが極まるフレーズをバンドのサウンドに重ねるのは至上の名曲「東京」。名古屋や大阪にも観に行ったことはあるけど、基本的に自分が銀杏BOYZのライブを観るのはいつも東京の会場だ。しかもこの東京の中でも峯田の思い入れが強い中野サンプラザで響く
「ふたりの夢は空に消えてゆく
ふたりの夢は東京の空に消えてゆく
君はいつも僕の記憶の中で笑っているよ」
というサビ。決して歌が上手いわけでもなければ、声量があるわけでもない。でもやっぱり峯田和伸という人間が歌うからこそ心の奥底にまで響いてくるものが確かにある。この東京という街でこの曲が聴けて本当に幸せだと思う。
その峯田はついにタンバリンを持って立ち上がり、山本のカッティングギターに合わせて体を揺らすというか、あの美しい獣のようなライブ時の峯田そのものというように動き回りながら歌い始めたのは「ぽあだむ」。今までは同期の音も岡山が出しながら演奏されていた曲であるが、引き続きDr.Kyonが参加することによって完全に生演奏という形になる。いわゆるパンクでもなければ轟音でもないポップな曲だけれど、観客がイントロが鳴らされた段階で腕を挙げる姿を見ていると、
「銀杏BOYZみたいにポップになれんだ」
と歌詞を変えて歌うこの曲のポップさも銀杏BOYZというバンドにとっての大きな一つの要素になっていること、それをファンが愛しているということもわかる。その、ただ同じバンド、同じ音楽を愛している人たちがこんなにたくさんいるというだけでも泣きそうになるのだが、
「涙は似合わないぜ 男の子だから」
というフレーズがそれを堰き止めてくれる。あくまで笑顔で体を揺らしていたいと思える。
そんな中で意外な選曲というか、確かに先日の「イノマーロックフェス」でも演奏されていたし、9月ということを考えると今こそこの曲を演奏する時期と言えるかもしれないと思うのは「夜王子と月の姫」。
「3月11日指輪を落とした月の姫」
というようにGOING STEADY時代のアメリカ同時多発テロを受けて書かれた「9月の11日」から東日本大震災を経験した3月11日に銀杏BOYZ仕様として歌詞は変化しているのであるが、その曲を聴きながらたくさんの人が示し合わせたわけでもないのに同じようにリズムに合わせて体を左右に揺らしている。
銀杏BOYZのファンの人を見ていると自分自身を見ているかのような気分になるのであまり見たくなかったりするのであるが、それでもやっぱりこの曲を愛してきた人たちとは、住んでる場所も年齢も性別も思想も全く違うかもしれないけど、どこかしら精神の1番深い部分で通じ合っている気になる。それはきっと自分と同じように峯田和伸という人間の存在と作る音楽に人生を救われたと思った経験を人生の中でしていて、その経験があるから今もこうしてライブに来ていて、それを楽しみにして日々を生きているところがあるのがわかるからだ。そんなことを感じさせるこの曲の光景は今の自分のことも、かつてこの曲がGOING STEADYの両A面シングルとしてリリースされた時の自分のことも救ってくれるかのようだ。
そんな「夜王子と月の姫」のアウトロでは山本を起点にして、Dr.Kyonを含むメンバーが1人ずつ演奏を終えてステージから去っていく。最後に残った峯田と加藤がギターを弾く中でステージには幕が降りてくる。
「え?たくさん曲やるって言ってたのにさすがにこれで終わりってわけじゃないよな?」と思っていると、東京の下町と言えるような場所を歩く峯田の姿が映し出され、BGMとして「二回戦」が流れる。峯田が曲終わりでたどり着いたのはスカイツリーが見える、川沿いの場所。そこで曲が流れ終わると、紗幕越しに聞こえてくる爆音と轟音。幕が上がるとそこには椅子がなくなった、完全に通常のバンド編成の銀杏BOYZの姿。
なので峯田もエレキギターを手にしているのだが、その編成で峯田が
「日本!日本!日本!」
と叫びまくる「若者たち」がスタートする。周りには泣いている人もいた。決して感動するような曲ではないけれど、泣くのは凄くよくわかる。こんな銀杏BOYZの音楽にずっと救われてきたから。だから泣けるような曲じゃなくても、ただ銀杏が銀杏らしく音を鳴らしているだけで泣けてきてしまうのだ。
さらに峯田の挙動が激しくなるのは「駆け抜けて性春」。峯田は1コーラス目で声を張り上げ過ぎて2コーラス目はほとんど歌えなかったし、サビはまるっきり歌えていなかった。それでも歌が聴こえていたような気がするのは豪音で聴こえないからと観客の誰かが歌っていたわけじゃなくて、脳裏にこの曲のメロディが焼き付いていて離れないからだ。
そんなこの曲には音源ではYUKIが歌うパートがある。そこはライブでは基本的には観客がずっと大合唱してきた。涙を堪えながら何度も歌ってきた。でも今はそれがない。だから峯田が自分で歌う。その姿を見ても涙が出てしまうのは、この曲をみんなで歌うことによって、普段生きていたら全く周りにいない銀杏BOYZを好きな人がここに来ればたくさんいる、ここには歌詞を見なくても歌える人ばかりいるということを今までみんなで歌うことで確かめていたからだということに今のこの状況になって気付かされた。声を出せなくてもライブを見れるだけで大丈夫だ、幸せだとコロナ禍になってからずっと思っていたけれど、やっぱりこの曲をみんなで歌いたい、声を出したいと今までで1番強く思った瞬間だった。そりゃあ銀杏BOYZのライブを見た後はただでさえカラオケに行って銀杏の曲を熱唱したくなるのだから。
それはGOING STEADY時代の「DON'T TRUST OVER THIRTY」を今の銀杏BOYZの轟音アレンジにした「大人全滅」ももちろんそうだ。腕を振り上げてサビを全員で大合唱する。それがまた叶った瞬間にはきっと今よりも、僕らが心から笑えるような気がしている。いや、きっとそうなる。
そんな加藤と山本もサビ前に高くジャンプするという爆裂暴動的な銀杏BOYZのライブから一気にバンドサウンドが神聖なものになるのは現状の最新アルバム「ねえみんな大好きだよ」収録の「アーメン・ザーメン・メリーチェイン」。前をまっすぐに見つめながら峯田が歌う
「もうきみのこと すきなんかじゃないよ
愛しているだけ」
という歌詞は初期の曲もたくさん演奏されたこの日だからこそ、当時とは違う今の峯田だからこその表現だなと思う。
そんな中で峯田が
「ドラムの岡山健二が歌います!」
と言って実際に曲始まりを岡山が歌い始めたのは「骨」。てっきり歌い出しの部分だけを岡山が歌うのかと思ったら、なんと全編岡山がドラムを叩きながら歌い、峯田はコーラスという体制に。それはきっとandymori解散後は自身がメインボーカルを務めていたバンドの曲なども聴いた上で、岡山の素朴な、純粋な少年らしさを失っていないと思える歌声がこの曲に似合っているという判断をしたのだろうし、実際にこの曲の歌詞に岡山の歌声は実に良く似合っている。
そんな岡山の歌声の素朴さから繋がるようにサウンドも素朴なのは「恋は永遠」。峯田は時にかなり調子外れな、もっとライブやってくれたらもっと上手く歌えるんだけどなと思うような歌唱ながらも、「駆け抜けて性春」に続くYUKIパートのボーカルも歌う。
すると峯田はアウトロでメンバーに何やら順番に耳打ちをする。全員にしたということはもしかしたら次に演奏された「エンジェルベイビー」は急遽セトリに入れたのかもしれない。「骨」「恋は永遠」に先んじて、今の銀杏BOYZとしてのリリース第一弾になったこの曲は今でも気が引き締まるというか、またここから新しく銀杏BOYZが始まっていくという気分にさせてくれる。それはこの曲が峯田にとってのロックの原体験を歌った曲だからだ。
そんな峯田はこのライブの2週間くらい前からずっとライブの夢を見ていたという。それはかつてのメンバーの時もそうだったようなのだが、
「俺はバンド2つを破滅に追い込んだんですけど(笑)、前の4人の時にもライブの前にはライブの夢を見てた。もうライブ始まる直前で、客席からは「峯田ー!」「死ねー!」みたいな怒号が飛んでて。でも俺たちは1曲目に何の曲をやるか全然決まってない。実際当時はそんな感じだった。「1曲目はこれにしよう」「いや、それじゃねーよ」みたいなやり取りをしてて。で、ライブの時間になるとハッと目が覚める。でも今は今日みたいな光景をずっと夢で見てた。それくらいずっと楽しみにしていたんだ」
と、このライブへの想いを語ってから、そのかつて見ていたという夢がそんな夢だったかのようにアコギを持って弾き語りで
「君が笑う夢を見たよ」
と「光」を歌い始める。それは全編弾き語りだった「人間」とは違って途中からバンドサウンドになるのであるが、その切り替わる瞬間の岡山のドラムの一打を始めとした音のあまりの強さと大きさ。すでにそうした曲をたくさん聴いてきたにも関わらず、身体がビクッと驚くくらいに。この曲から再び加わったDr.Kyonも含めて全員がこの曲はそれくらいに振り切って感情を込めないと演奏できない曲であることをわかっている。峯田はバンドサウンドになるとハンドマイクになるのであるが、そのマイクをゴツゴツと自分の頭にぶつける音でまた驚く。でもそれがずっと変わらない峯田のライブでの表現であり続けてきたのだ。
そうしてDr.Kyonが加わったことによってキーボードのキャッチーなサウンドを加えられるようになり「GOD SAVE THE わーるど」が我々の体を揺らす。そこには「ぽあだむ」に連なるような、銀杏BOYZのライブで幸せを感じられるような感覚が確かにあったのだが、そんな幸せを白昼夢の中に溶け込ませていくかのように峯田がサンプラーを操作してシューゲイザーともドリームポップとも言えるような音を出すのはライブで聞くのは実に久々の「金輪際」。その脳がとろけていくような夢遊感覚は銀杏BOYZのライブでもこの曲だからこそ感じられるものである。
そして峯田がギターを持つと、それを弾きながら歌い始めたのはライブのクライマックスを告げる「BABY BABY」。もう今まで何回この曲をライブで聴いてきただろうか。それでもやはりこの曲のイントロが鳴らされると自然に身体が飛び跳ねてしまう。そのサウンドはDr.Kyonのキーボードによってさらにキャッチーかつ音源に近いものになっている(銀杏BOYZバージョンの音源にはGOING UNDER GROUNDの伊藤洋一が参加している)のであるが、
「何もかもが輝いて手を振って」
のフレーズで観客が手を振ると峯田も同じように振り返す。それが言葉を介さなくても通じる我々とのコミュニケーションになっている。武道館ワンマンなどではロングバージョンで演奏されてもいたが、この日は通常の尺バージョン。
そんなライブの最後を締めるのは今や銀杏のライブではおなじみの「僕たちは世界を変えることができない」。イントロで峯田がステージに立っているメンバーを自身も含めて全員紹介すると、藤原と加藤もコーラスで声を重ねるのだが、
「僕たちは世界を変えられない」
というフレーズはかつて峯田が口にしていたように、でも世界も僕たちを変えることはできないという意味合いも含んでいる。だから峯田は
「あなたがあなたであり続けられますように。また曲いっぱい作ってライブやるから。また会いましょうみたいなことはあんまり言いたくないんだけど、またライブで会いましょう」
と言ったのだ。そう言ってくれることの何と嬉しいことだろうか。峯田に、銀杏BOYZに会えるというのが何よりも自分自身の生きていく力になるということを我々はもうわかっているのだから。
アンコールですぐにメンバーはステージに再び現れた。というかすでに本編だけで3時間以上やっていたのだからそりゃそうだろうと思っていたら、アンコールに出てくるスピードの速さとともに演奏のスピードも音源よりも圧倒的に速く、パンクになった最新シングル曲「少年少女」が加藤と山本がジャンプしながらあっという間に演奏される。それは結局のところこの曲で歌われているテーマも含めて銀杏BOYZは、峯田は変わっていないということなのかもしれないし、我々もそうだということだ。それをこれから先の人生でも何度だって感じながら生きていけたらいいなと思っている。
自分がコロナ禍になってもこうしてライブに行き続けてるのは、自分がライブ観たいからというのがほぼ100%に近い理由を占めているが、それでもほんの少しくらいは、GOING STEADYに出会った10代の頃の自分のような奴が、自分を救ってくれた音楽が目の前で鳴らされてる場所があって欲しいからというのもある。
もうそんな奴はそうそういないかもしれないけれど、自分のツイッターのフォロワーには本当にかつての自分を見ているかのような10代や20歳くらいの銀杏BOYZのファンも少なからずいる。彼ら彼女らが、自分がかつて銀杏BOYZのライブが見れたから生きていけていたように、その場がなくなってしまわないように。
そう思うのは銀杏BOYZを聴いていると、いつでもあの頃の自分が今の自分を後ろから見ているような感覚になるから。お前は胸を張って過去の自分の前に立てるか?と言われているかのような。今でもそう思えているということは、銀杏BOYZが今鳴らしている曲たちはやっぱり今でも自分や、自分のようなやつのための音楽だということなのだ。
1.人間
2.NO FUTURE NO CRY
3.YOU & I VS. THE WORLD
4.夢で逢えたら
5.I DON'T WANNA DIE FOREVER
6.トラッシュ
7.援助交際
8.SEXTEEN
9.漂流教室
10.新訳 銀河鉄道の夜
11.東京
12.ぽあだむ
13.夜王子と月の姫
二回戦
14.若者たち
15.駆け抜けて性春
16.大人全滅
17.アーメン・ザーメン・メリーチェイン
18.骨
19.恋は永遠
20.エンジェルベイビー
21.光
22.GOD SAVE THE わーるど
23.金輪際
24.BABY BABY
25.僕たちは世界を変えることができない
encore
26.少年少女