中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2022 DAY2 @中津川公園特設会場 9/24
- 2022/09/27
- 21:37
朝から暑いくらいの快晴となり、逆に前日のあの大雨は何だったんだと思うけれども、当初は3日間全て雨予報だったということを考えるとやはりこのフェスには太陽の力が宿っているんじゃないかと思える、中津川 THE SOLAR BUDOUKANの2日目。
しかしながら前日の大雨によってこの日は朝から東海道新幹線が動いていなかったりしたことによって出演者の到着が遅れてタイムテーブルにも変更が出ていた。
自分はというと前日の夜からスマホが充電できなくなるというトラブルに見舞われ、電池が切れてシャトルバスの電子チケットが表示出来なくなってしまったために修理に行ってからの参加に。その影響で3年前に感動するくらいに素晴らしいライブをこのフェスで見せてくれたトップバッターのヤバTに間に合わず。いつかメンバーに会う機会があったらこの日のことを土下座して謝罪したいと思うくらいにヤバTを見たかったのである。
12:25〜 the band apart [RESPECT STAGE]
というわけで会場に着いた頃にはすでにRESPECT STAGEの2番手であるthe band apartのライブも後半に突入していた。会場は焼けるくらいに暑い陽射しが差し込んでいるが、まだ芝生は水を含んでいたりという前日の雨の影響も残っている。
原昌和(ベース)の見た目通りの重いベースのイントロによるリリースされたばかりの最新アルバム「Ninja of Four」収録の「The Ninja」と最初期の代表曲の、やはり原のベースのイントロによって始まる「Eric.W」という最も遠い時期の曲同士をシームレスに繋げるというバンドの演奏力を活かしたアレンジは実に見事でしかないし、荒井岳史(ボーカル&ギター)の歌の安定感がベテランとなった今になってさらに増しているというのはソロとして弾き語りなどを行なってきたという経験によるものもあるだろう。
今や完全にライブでの定番曲になった、川崎亘一(ギター)が煌めくイントロを鳴らす、バンドが日本語歌詞を取り入れていき、それが当たり前のものになっていくきっかけとなった「夜の向こうへ」では間奏でかつてのトレードマークであったモヒカンからスキンヘッドになった木暮栄一(ドラム)が立ち上がってスティックを叩くことによって客席には手拍子が広がっていく。今のバンアパにはこのフェスのピースフルな空気感の中でこうしてみんなで一緒に作り上げるようなライブを見せてくれるのが実に良く似合う。
そんなライブをステージ袖というか完全に真横でLOW IQ 01が見ていたことに荒井はプレッシャーを感じていたようであるが、そこからはLOW IQ 01の後輩への愛情と、そもそもバンアパの音楽が大好きであるという想いを感じさせる中で最後に演奏されたのは「DEKU NO BOY」という選曲。こうしてライブを観るのは結構久しぶりだったのだが、今はこの曲が最後を飾るようになっているのだろうか。逆にライブの前半はどんな曲が演奏されたのを知りたかったという意味でも遅刻せずにこのライブを最初から見たかったし、これからももっとバンアパのライブを観たいと思った。原のMCが聴けなかったという意味でも。
13:10〜 村松拓 (Nothing's Carved In Stone / ABSTRACT MASH) [REALIZE STAGE]
3つあるステージのうち、最も規模が小さいREALIZE STAGEは客席部分が土になっているために前日の雨の影響でかなりこの日はまだ足元がぬかるんでいる。それでも、そんな影響を感じさせないくらいに客席が満員になっているのは、3年前まではNothing's Carved In Stoneや泥酔ボーカリストグループSHIKABANEでもこのフェスに出演し続けてきた、村松拓である。
バンアパが終わってからすぐに向かったもののすでにライブは始まっており、村松拓はサングラスをかけてアコギの弾き語りで、今年ライブ会場限定で販売を開始した自身のソロアルバム収録の曲を歌う。アルバムリリース前から村松は弾き語りをよくやっていたけれど、そのアコギの爪弾き方と弾き語りという形だからこその歌唱法、何よりも日本語の響きというよりもしっかり情景を想起させるような歌詞はバンドのものとは全く異なるものである。かつては弾き語りのライブではよく酒を飲みまくって酔っ払ったりしていたけれど、さすがにまだ昼くらいの時間帯であるだけにこの日はそうはなっていない。
そんな中でもOasis「Stand By Me」のカバーは村松の英語発音の見事さを改めて伝えるものになっているのと同時に、その歌唱力の高さも実感できるカバーだ。村松の影響源としてOasisがいるというのがソロ、弾き語りでのメロディの美しさに繋がっているということも。
ソロアルバムから披露された「ただいま」がどうしても、村松本人も
「大好きな、自分にとって大切な場所」
と口にしたこのフェスに3年振りに帰ってくることができたということを感じさせるのであるが、その曲も収録されているアルバムをライブ会場限定で販売することにした理由を
「実際にライブで聴いてもらって、良いと思ってくれたら買ってもらうっていうのがいいかなって思った」
と語っていたが、それは自身がバンドを始めた時にそうして音源を販売していた時期のことを今一度思い出そうというか、ソロだからこそそうした初心を持って活動しようと思っているのかもしれない。
するとここでスペシャルゲストとしてライブを終えたばかりのthe band apartの荒井岳史を招くのであるが、「the band apart」というバンド名を村松が噛んだことによって荒井もやたら発音良く「Nothing's Carved In Stone」のバンド名を言おうとして噛んだりしつつ、村松は先輩が出てくるとちゃんとサングラスを外すというあたりはさすがである。
そんな2人でまずは村松が大好きだという荒井のソロ作品収録の「次の朝」を2人で歌い分けながら披露するのであるが、同じバンド内に巨漢メンバーの原を擁するバンアパのライブで見るとそうは感じないが、こうして村松と並んでいるのを見ると荒井はマジで身体がデカい。一回りくらいデカいし、なんなら荒井だけ台の上に立っているかのようにすら見えてくるくらいである。さすが自身が「アメフト選手」と言うくらいはある。
そんな体格差を感じながらも、荒井の曲では村松の歌が、「みんな大好きだからこの曲をやりたがる」というNothing's Carved In Stone「Red Light」の2人でのカバーでは荒井の歌が、普段自身が作って歌うようなメロディの曲ではないからこそ実に深い、染み入るような声によるものであることを感じさせてくれる。きっと村松もソロとしてCDをリリースするにあたって荒井に聞いたり相談したことも色々あったんだろうなと思うのはすでに確固たるベースや音楽性を確立しているバンドのボーカリスト同士だからであり、その2人が向かい合って笑いながら歌っている姿を見てそう思っていた。
そうして荒井がステージから去ると、村松1人でやはりソロアルバム収録の「遠くまで行こう」を歌う。そのソロアルバムのリリースにあたってツアーも行われているし、北海道と東北には荒井も出演する。そんなバンドから離れても遠い場所へ歌いに行くという人生を生きている村松の生き様がその曲には確かに刻まれているし、我々もそうして遠くまで行けばこうした最高の環境でこんな特別なライブを見ることができる。
ソロであっても村松はやはりこのフェスに欠かせない存在であるというか、だからこそこうしてNothing'sが一時的にライブをやっていない状況の中でもこのフェスは村松を必要とし、そのタイミングでソロアルバムが生まれた。来年からはバンドでもソロでもSHIKABANEでも、今年翌日にアジカン伊地知潔の料理教室に出たようにいろんなライブのゲストとしてもこのフェスのステージに立ちまくっていて欲しいと思う。
1.アスピリ
2.朝も夜も
3.ラブレター
4.Stand By Me
5.ただいま
6.次の朝 w/ 荒井岳史
7.Red Light w/ 荒井岳史
8.遠くまで行こう
15:00〜 Scoobie Do [REALIZE STAGE]
3年前のこのフェスでもこのREALIZE STAGEに出演し、このステージの大トリを務めたScoobie Do。3年振りの今年はまだ日が照りつける時間帯での出演であるが、サウンドチェックでおなじみの白スーツを着た4人が登場するとこちらもおなじみの山下達郎「RIDE ON TIME」のカバーを演奏して早い時間から集まった観客の腕を左右に揺らしてこの場を一つにすると、コヤマシュウ(ボーカル)は
「この後に本物のScoobie Doが出てくるんで!良い奴らだから拍手で迎えてやってくれよな!」
と別人を強調するあたりも変わらぬこのバンドらしさである。
本番で本物のScoobie Doがステージに現れると、コヤマは
「このフェスでは太陽がミラーボールなんだぜー!」
と見事に晴れた空を指差しながら、真っ昼間であってもそうしてミラーボールがあることによって「真夜中のダンスホール」を演奏する。マツキタイジロウ(ギター)とナガイケジョー(ベース)と揃ってのステップを踏む様はいつもながら見事である。
さらに
「あこがれに手を振ろうぜ」
というサビのフレーズに合わせてコヤマが手を振り、観客も同じように手を振るという「Get Up」というライブ定番曲が続けて演奏されると、コヤマの挨拶も
「ソーラーパワーを愛し、ソーラーパワーに愛された4人組、LIVE CHAMP、またの名をFUNKY 4、Scoobie Doです!」
とこのフェスだからこそのものになっている。それはずっとこのフェスに出演し続けてきたからこそそう言えるものであるし、だからこそこやまは
「中津川ただいまー!」
とこの場所への帰還を口にできるのである。
そんなバンドは先月に最新アルバム「Tough Layer」をリリースしたばかりであり、その収録曲であるアッパーチューン「GEKIJYO」がこれから先もこうしてこのバンドのライブを担っていく曲になることを予感させるような、とてもリリースして1ヶ月しか経っていないとは思えないくらいの馴染みっぷりと完成度の高さで演奏されると、このバンドのファンキーなグルーヴだけではないメロディーの美しさを感じさせてくれる「茜色が燃えるとき」と、この辺りの曲調、あるいは代表曲と新曲の絶妙なバランスはさすがLIVE CHAMPを自認するバンドである。
ここでコヤマはずっと出演し続けているこのフェスだからこそ、自分たちが大ファンであり、同じようにこのフェスに出演し続けていた小坂忠(2年前の配信ライブにも参加していたくらいにこのフェスに毎年出演していたレジェンド)が亡くなってしまったことを追悼して、その小坂忠の「ほうろう」をカバー。これがスクービーの持つブルースさを強く感じさせるという珍しいものになっているのだが、そこからはスクービーが本当に小坂忠をリスペクトしてその音楽を愛してきたということが伝わってくる。
そうしたこのフェスだからこそのカバーから、ここで再び最新アルバム収録曲「明日は手の中に」で未だに尽きない創作・バンド意欲と今の時代と状況だからこそ作れた真っ直ぐなメッセージとメロディーを響かせる。この「Tough Layer」はアルバムを通して聴くとシンプルにスクービーとしての良い曲ばかりが入ったアルバムだなと思うのだが、だからこそこうしてフェスのセトリの中で鳴らしても初めてライブを観る人にも響く曲なんじゃないかと思う。
そんな中でコヤマはおなじみの
「ここに来るまでに費やした、君たちのタイム&マネー&ソウルに感謝します!」
と集まった人たちへの感謝を口にしてから「アウェイ」を演奏するのであるが、このフェスにおけるこのバンドの受け入れられっぷりと輝きっぷりはとてもアウェイとは思えない。むしろ完全にホームと言ってもいいものだ。それはこのバンドが何年もかけて積み上げてきたものであるし、3年振りの開催となっても全く変わることはない。
そしてメジャーリーグにまつわる著作を発表したくらいのメジャーリーグマニアとしても知られる(解説もやったりしている)オカモト"MOBY"タクヤ(ドラム)の叩き出すビートに乗ってコヤマ、マツキ、ナガイケがその場でグルグル回る「Back On」から、ラストはマツキのギターが最高にメロディアスなデビュー曲「夕焼けのメロディー」というスクービー必勝の流れ。
それはやはりこのバンドがソーラーパワーを愛し、ソーラーパワーに愛された4人であるということを感じさせてくれるものであったし、どんな状況や時代であっても自分たちだけで磨き上げてきたグルーヴは決して失われることがないということを示していた。ただひたすらにライブをやり、そこで勝ってきたからこそ「LIVE CHAMP」たり得た4人は今年のこのフェスでも圧勝だったのである。
リハ.RIDE ON TIME
1.真夜中のダンスホール
2.Get Up
3.GEKIJYO
4.茜色が燃えるとき
5.ほうろう (小坂忠のカバー)
6.明日は手の中に
7.アウェイ
8.Back on
9.夕焼けのメロディー
16:00〜 GLIM SPANKY [Revolution STAGE]
このフェスでお馴染みだったアーティストたちが帰還する中でもようやくこのフェスに出演できるアーティストもいる。ということでGLIM SPANKY、初の中津川でのライブである。
おなじみのサポートメンバー3人を加えての5人編成で、赤い髪色と赤いスカートが目を惹く松尾レミ(ボーカル&ギター)がハンドマイクで歌い出したのは先月リリースされたばかりの最新アルバム「Into The Time Hole」収録の「シグナルはいらない」。続く「ドレスを切り裂いて」もそのアルバム収録曲であるが、このバンドの決してテンポが速くないからこそのロックンロールの重さはやはりこのフェスにおいても異彩を放っている。他の出演者たちに先輩が多いだけにこのフェスではまだまだ若手と言ってもいいくらいの立ち位置であるが、鳴らしている音の説得力の強さはこのフェスにおいてもベテランレベルのそれである。
すると一転して松尾がギターを弾きながら歌う、大ヒットアニメのタイアップになった「怒りをくれよ」では間奏で亀本寛貴のギターソロが炸裂する。亀本はうっすら口髭が生えているように見えるだけにどこか少し年齢を重ねてきたことを感じさせるけれど。
そんな2人は長野の出身であるが、その出身地はこの中津川からほど近い場所であるという。関東から来た身としてはなかなかその距離感を図りかねるところもあるけれど、確かに名古屋から中津川に向かう時に乗る電車の有料特急「しなの」は終点が長野であることを考えると確かに近いと言えるのかもしれない。それだけに
「初出演だけど地元に帰ってきたみたいな感じで」
と松尾は口にしていた。
そんな松尾のハスキーかつスモーキーという、このバンドでしか聴くことのできない、ロックンロールを歌うために持って生まれたかのような声がより一層似合う「こんな夜更けは」でアッパーなだけではない、ブルースを強く含んだロックンロールのカッコよさを堪能させてくれると、松尾のソロ名義で発表されていた「A Black Cat (黒猫)」もバンドとして演奏される。こうしてこの曲がGLIM SPANKYのライブで聴けるというのは意外であったが、黒猫という存在はロックバンド、とりわけロックンロールのサウンドや歌詞と相性がいいと思うのはやはりその逸れもの的な存在ゆえだろうか。
MCでは亀本がこのフェスの開催を祝いながら、呼んでくれた佐藤タイジへの感謝を口にするのであるが、ここまでにも凄まじいギターを弾いてきているだけに、亀本はギターセッションをしてきて衝撃を受けた人はほとんどいないというが、それでもまだ今よりも若手時代に佐藤タイジとギターセッションをした時は、その1人でもバンドであるかのような演奏(佐藤タイジはギターを弾きながらバスドラを踏んだりする)に衝撃を受けたという。だからこそそんな凄い人に呼んで貰えるのが嬉しいとも。
そんなGLIM SPANKYとしてのロックがさらに深く鳴らされるのは「愚か者たち」。この曲くらいにテンポが遅くて重いサウンドの曲が代表曲たり得ているロックンロールバンドはこのバンドくらいだろうと思うし、そこには流行りがどうとかではなくて自分たちがやりたいことや好きなサウンドを追求してきた結果が集約されている。
それはしかし「NEXT ONE」では亀本とサポートキーボードによる勇壮なコーラスによって、ただマニアックなこと、渋いことをやっているのではなくて、この音楽がこうした広いステージ、なんならスタジアムクラスで鳴らされるべきものであることを示してくれる。
そんな中でも松尾はこの岐阜と自身の出身地の長野にともに五平餅が名産品として販売されていることに触れるのであるが、両者では形状が違うということをこのフェスに出演したことによって確かめていた。実にローカルなMCである。
しかしながらそのまま松尾はおなじみの
「学生時代から歌っている曲」
と紹介して「大人になったら」を歌い始めるのであるが、松尾も口にしていたように音楽やライブが不要不急と言われてしまうことも多かったコロナ禍を経験したことによって、ただでさえ大名曲であるこの曲の響き方はまた変わった。
「こんなロックは知らない 要らない 聴かない君が
上手に世間を渡っていくけど
聴こえているかい この世の全ては
大人になったら解るのかい」
というサビの歌詞がさらに深く刺さる。音楽を不要不急と言う人にとってはロックは要らない、聴かないものなんだろう。でもそれが正しいわけじゃない。それは大人になっても誰にもわからないことだ。ただ一つ確かなことは、どれだけそんな扱いを受けたとしても、自分やここにいる人たちはロックがあることによって、こうしてライブがあることによって日々を生きていくことができているということだ。最後にさらに強くなるリズムとサウンドはそんなことを確かめさせてくれる。
そして最後に演奏されたのはタイトルや歌詞の通りに循環、ループする時間というものにバンドのグルーヴによって思いを馳せさせる「Circle Of Time」。最後に大ヒット曲や代表曲を持ってくるのではなく、むしろ最もと言っていいくらいに深い曲を持ってくるというあたりが変わらないこのバンドらしさだ。
それはブルースやロックンロールを軸にしたアーティストが多く出演しているこのフェスだからこそより映えるものであるし、この50分という尺で観ると、もうフェスの30分の時間で済むようなバンドじゃないと思う。地元からほど近いということも明らかになっただけに、来年からもこのフェスのこの広いステージでそのロックンロールを響かせて欲しいと思う。
リハ.ワイルド・サイドを行け
1.シグナルはいらない
2.ドレスを切り裂いて
3.怒りをくれよ
4.こんな夜更けは
5.A Black Cat (黒猫)
6.愚か者たち
7.NEXT ONE
8.大人になったら
9.Circle Of Time
17:50〜 10-FEET [Revolution STAGE]
フェスを主催しながらもこんなにあらゆるフェスに出演しまくっているバンドが他にいるんだろうかと思うくらいに、京都大作戦を2週間開催してもなお各地のフェス、こうしてそんなに大規模ではないフェスにまで出演している10-FEET。客席がこのバンドや京都大作戦のTシャツを着た人によって満員になるという、どこにでも出るしどこにでもファンがめちゃいる(あるいはファンがどこにでも行く)ということも実に凄いことである。
なのでおなじみの「そして伝説へ…」のSEが流れると、ステージが見えなくなるくらいにバンドや京都大作戦のタオルが掲げられるというのも他のライブと全く変わらないこのバンドのライブの光景であるが、メンバー3人が登場すると、最近は「RIVER」で始まることが多かった印象だったのが、この日はかつてよく1曲目に演奏されていた、NAOKIのベースのイントロが我々の衝動を煽り、TAKUMA(ボーカル&ギター)のボーカルの
「Jump Around!」
というフレーズ、KOUICHIによる力強いドラムによって観客が飛び跳ねまくる「super stomper」からスタートするというのは持ち時間が長いこのフェスだからこそであるし、あらゆるフェスやイベントに出ながらも毎回違うライブをしてきた10-FEETだからこそでもある。
なので「2%」という今年の京都大作戦の最終日の感動的なフィナーレを思い出させるような選曲が早くもこの序盤で演奏されるのであるが、NAOKIがこの序盤で早くも
「中津川、開催できてよかったなー!」
と叫んだというのは雨の影響などでなくなってしまったライブがあることを3人はわかっているのだろうし、このライブを本当に楽しみにしていたということであろう。
それぞれの音がタイマンを張るようにぶつかり合う最新シングル曲「aRIVAL」のハードなサウンドも今年の夏で10-FEETのライブには欠かせないものになっているが、そんなサウンドがデジタルな同期も取り入れた「ハローフィクサー」にも強さを感じさせるように鳴らされていくと、再び観客が思いっきり飛び跳ねまくる「VIBES BY VIBES」へ。正直まだ芝生は水分をかなり含んでいたのだけれど、そんなことを全く気にさせないくらいに、飛び跳ねざるを得なくなるような力がやっぱり10-FEETのライブにはあるし、このフェスが持つピースフルな空気をTAKUMAも実に気に入っていて楽しんでいるというのが見ていて本当によくわかる。今年見たどのフェスでのライブよりも解放されているというか。
そんなTAKUMAは何故かデスボイスで「ベビーパウダー」「マイナポイント」という単語を口にし、ひとりでに
「デスボイスで口にしたら1番面白い単語は何か」
ということを確かめ始め、しかも結論が出ないままでそのやり取りを終わらせると、インターネット上での誹謗中傷などに心を痛めているような言葉を口にし、そうしたことがなくなることを祈るようにして、
「ここにいる人が今よりも少しだけでも強く優しくなって欲しい」
と願いを込めながら「シエラのように」を演奏する。その言葉が、この曲の演奏が胸に響くのはきっと我々なんかのレベルじゃないくらいに10-FEETの3人がいろんなことを(特に去年の京都大作戦などで)言われてきただろうからで、自分たちのような思いをする人がいなくなるようにという思いも少なからずそこには含まれているだろうからだ。
そんな心が震えるような空気は「ヒトリセカイ」の歌詞にも繋がっていく。というかこの曲の最後の
「嗚呼 言葉のない遥か大昔
それなら今より少しは分かり合えたかな」
というフレーズはTAKUMAの言葉をそのまま歌詞にしたようなものである。NAOKIの超開脚演奏ももちろんこのフェスでも披露され、客席からはそこはかとなく笑いも起きている。
そんな思いを全て抱えた上で吹き飛ばすように「その向こうへ」が演奏され、NAOKIは今度は足を高く上げてキックを蹴り出す。このNAOKIの今にしての身体能力の高さを感じさせるパフォーマンスの数々は 10-FEETがまだまだベテランになっても加齢の影響を感じさせることがないことを示してくれているが、最近は1曲目に演奏されることも多い「RIVER」がこの日は最後に演奏されると、最近恒例の間奏での観客のスマホライトウェーブは行われなかった。というのもTAKUMAは
「今夜君がここにいてくれることがただただ嬉しいんだ」
と歌詞を変えて、観客に語りかけるようにして歌っていたからだ。それくらいにこの日の光景を見て表現したいことがあったということだ。恒例の川の名前も普段は2コーラス目だけを変えるのであるが、この日は1コーラス目を「中津川」、2コーラス目を「木曽川」に両方変えていた。それくらいにこのフェス、この場所をTAKUMAは、3人は愛してくれている。
しかしそんな最後の曲が終わるとTAKUMAは2人と何やら耳打ちをし、
「4分くらい余ってるからもう1曲やります!みんなタオル出して!」
と言ってなんと「CHERRY BLOSSOM」を追加した。しかしながらやはり時間ギリギリを攻めすぎたのか、2コーラス目で
「KOUICHI、もっと急がんと間に合わへんで!」
と言ってテンポをさらに高速というか爆速と言っていいくらいのものにしながら、
「もっと思いっきりタオル投げえや!自分のじゃないタオルが飛んできたら周りで探してあげてや!」
と客席にも気を配りながら演奏するTAKUMAはさすがであり、最後には
「ありがとう!中津川最高!」
と叫んでステージから去っていった。その最高の中津川で見る 10-FEETのライブが本当に最高だったからこそ、スケジュールが大変だろうけれど来年からもまたこのフェスにも出続けて欲しいと思った。いや、必ず来るなこの3人は。それくらいにこの空間全てへの愛が放出されていたライブだった。
1.super stomper
2.2%
3.aRIVAL
4.ハローフィクサー
5.VIBES BY VIBES
6.シエラのように
7.ヒトリセカイ
8.その向こうへ
9.RIVER
10.CHERRY BLOSSOM
19:40〜 リーガルリリー [REALIZE STAGE]
本来は昼過ぎのRESPECT STAGEに出演するはずだった、リーガルリリー。しかしながら交通機関の大幅な遅れでその時間に間に合わずに、このREALIZE STAGEのトリとして出演することに。布袋寅泰の真裏という実に厳しい時間になったが、そうしてアクシデントがあってもこのバンドにライブをさせてくれ、タイムテーブルに空白を作ることもないというこのフェスの対応は本当に素晴らしい。
それでも3人は至っていつも通りにステージに現れるのであるが、上手のゆきやま(ドラム)はだいぶ髪が伸びているのに比べ、下手のたかはしほのか(ボーカル&ギター)はショートカットになったことによって、とっくに二十歳を超えているのに全くそう感じさせない幼い見た目がさらに幼くなり、中学生や小学生にすら見えるくらいになっている。
そうした出で立ちでたかはしのやはり声質も幼いハイトーンのボーカルが響き渡る「たたかわないらいおん」から始まることによって、やはりこの曲が1曲目に収録されている今年リリースのアルバム「Cとし生けるもの」は改めて本当に名盤だよなと思う。この1曲だけでそう感じさせるくらいにメロディーの訴求力が実に強い。
なのだがいかんせんこのバンドがシュールなのはそのアルバムにも収録されている「東京」はタイトルとは裏腹に
「ナイジェリアの風が」
という日本ですらない国の名前で始まるし、さらには
「ホタルイカの素干し」
なんてフレーズも出てくる。本当にたかはしの脳内にはどういう単語が入っていて、どういう風にそれを組み合わせて歌詞を作っているんだろうかと何回聴いても思う。サビではゆきやまのドラムの一打が実に強くなっていき、ライブにおけるバンド感が高まっていく。
むしろ次の
「降り立った東京 1997年の12月」
という歌詞によって始まる「1997」の方がよっぽど「東京」的な歌詞であるのだが、サビでの跳ねるようなリズムに合わせてベースを弾く海の表情が本当にはち切れんばかりの笑顔であり、こうしてこの会場に無事に辿り着いてライブを行うことができているという喜びがその表情には確かに現れているし、この曲のサビの最後でポーズを取るような仕草でギターを鳴らすたかはしの表情も笑顔というわけではないけれども、どこか晴れやかに見える。
最初期の「ぶらんこ」でもゆきやまの細かく刻むハイハットの手数の多さが光る中、それが最新シングル「ノーワー」に繋がっていくというのは生まれたりリリースされた時期がどうあれ、リーガルリリーの表現が一直線に繋がっているということであるが、
「君は全てを体に入れてトイレで吐いた。吐いた。
食べ残すこと許せなかった。
物足りない、今日はまだ終わりじゃないと夜は進んだ。」
という歌い出しからしてメタファー的な意味を強く含んでいると思われるが、サビの
「ノーワーノーワーのごり押しで 対立が始まって
今 手にした形 あまりにも弱すぎて」
というフレーズはウクライナ出身の方を招いて話をしてもらったりしているブースがあるこのフェスで聴くからこそ痛切に響くものが確かにある。それは米軍基地がある福生で育ったたかはしだからこそリアルに感じている思いを自分なりに歌詞にしたのだろうと思うし、なかなか今メジャーでこうした歌詞を書くバンドがいないというところからも、このバンドが自分たちのやりたい表現をひたすらに突き詰めているバンドであるということがよくわかるのだ。
しかしながら「まわるよ」という最新作の曲でもなければ定番曲でもないような曲を演奏できるのは持ち時間の長いこのフェスだからこそのものであり、MCを一切しないというフェスでの戦い方を選んでいて、持ち時間の全てを曲の演奏に費やしているこのバンドだからこそである。とはいえこの選曲をどう決めているのか気になってしまうところであるが。
そのままサビでまさに風が吹くようにスケールを増す「風にとどけ」では海が大きく体を動かすようにしながらグルーヴを生み出し、3人の声が重なっていく。その、この3人がただただ自分たちがやりたいように音を鳴らしていることがあまりにも尊く感じて、それがこの透き通るようなメロディーに乗っているのを聴くことによってまさに、涙が出そうだと思う。
そんな「風にとどけ」のアウトロから激しく続くアレンジの繋ぎが鳴らせると、たかはしがタイトルを口にしたのはもちろんこの曲だけはどんなライブであっても欠かすことができない「リッケンバッカー」。この完全に夜の暗闇の中でサーカス小屋のような小さいステージで鳴らされているこの曲。間奏からサビに向けてさらに手数が多く、強くなるゆきやまのドラム。交通機関が乱れて到着が遅れてしまったことは決して良いことではないけれども、それでもこのバンドをトリとして夜に見ることができたのは前日の大雨のように忘れられないこのフェスの光景の一つになったと思う。暗闇をテーマにしたツアーをやっていたし、それくらいにこのバンドは夜が似合うバンドだからだ。きっと本人たちも初出演にしてこんなにも辿り着くまでに色々あったフェスのことを忘れることはないだろうと思う。
そんな互いにとって忘れられないライブの最後に演奏された「はしるこども」ではまさに海がステージ上を走り回るようにベースを弾くのであるが、まさにその「はしるこども」を体現しているかのように子供らしい見た目のたかはしはいつも以上に思いっきり張り上げるというか、もはや叫ぶようにして歌っていた。それくらいに放出したい感情があって、それを自分の歌に乗せていたのだ。
「また必ず来ます。また来年来ます!」
と珍しいくらいにたかはしが自信たっぷりに言ったのはきっと遅れてしまったことのリベンジを、というわけではない。そんな状況でもライブをやらせてくれて、こうして最後の時間まで待ってくれていた人たちがたくさんいたのを見て、何か確信のようなものをこの場所で掴んだのだろう。このライブを見ることができて、諦めないでここに来てくれて本当にありがとうと思った。
リハ.トランジスタラジオ
リハ.三日月
1.たたかわないらいおん
2.東京
3.1997
4.ぶらんこ
5.ノーワー
6.まわるよ
7.風にとどけ
8.リッケンバッカー
9.はしるこども
このフェスの晴れた日はやはり最高だ。というか前日以外に自分がこのフェスに来た時は全て晴れていただけに毎回このフェスは最高だった。
それはこのフェスならではの素晴らしい音の良さを雨具のフードなどで遮ることなく感じることができるし、この中津川の少しひんやりするような新鮮な空気を存分に吸い込むことができて、その空気がこんなにもピースフルな雰囲気を生み出していることもわかる。
そして会場の広場ではバルーンアートなどの大道芸が始まり、それがたくさんの親子に囲まれて決して通行の邪魔になることなく、子供たちの笑顔に繋がっている。そうして幼い頃からこのフェスに来ている子供たちが大きくなって自発的に来れるようになるまでずっとこのフェスが続いて欲しいと思っているし、そうした光景によって守れるフェスの未来が確かにあるとここに来ると実感することができる。そんな、晴れたことによって最高だった中津川THE SOLAR BUDOUKANの2日目だった。
しかしながら前日の大雨によってこの日は朝から東海道新幹線が動いていなかったりしたことによって出演者の到着が遅れてタイムテーブルにも変更が出ていた。
自分はというと前日の夜からスマホが充電できなくなるというトラブルに見舞われ、電池が切れてシャトルバスの電子チケットが表示出来なくなってしまったために修理に行ってからの参加に。その影響で3年前に感動するくらいに素晴らしいライブをこのフェスで見せてくれたトップバッターのヤバTに間に合わず。いつかメンバーに会う機会があったらこの日のことを土下座して謝罪したいと思うくらいにヤバTを見たかったのである。
12:25〜 the band apart [RESPECT STAGE]
というわけで会場に着いた頃にはすでにRESPECT STAGEの2番手であるthe band apartのライブも後半に突入していた。会場は焼けるくらいに暑い陽射しが差し込んでいるが、まだ芝生は水を含んでいたりという前日の雨の影響も残っている。
原昌和(ベース)の見た目通りの重いベースのイントロによるリリースされたばかりの最新アルバム「Ninja of Four」収録の「The Ninja」と最初期の代表曲の、やはり原のベースのイントロによって始まる「Eric.W」という最も遠い時期の曲同士をシームレスに繋げるというバンドの演奏力を活かしたアレンジは実に見事でしかないし、荒井岳史(ボーカル&ギター)の歌の安定感がベテランとなった今になってさらに増しているというのはソロとして弾き語りなどを行なってきたという経験によるものもあるだろう。
今や完全にライブでの定番曲になった、川崎亘一(ギター)が煌めくイントロを鳴らす、バンドが日本語歌詞を取り入れていき、それが当たり前のものになっていくきっかけとなった「夜の向こうへ」では間奏でかつてのトレードマークであったモヒカンからスキンヘッドになった木暮栄一(ドラム)が立ち上がってスティックを叩くことによって客席には手拍子が広がっていく。今のバンアパにはこのフェスのピースフルな空気感の中でこうしてみんなで一緒に作り上げるようなライブを見せてくれるのが実に良く似合う。
そんなライブをステージ袖というか完全に真横でLOW IQ 01が見ていたことに荒井はプレッシャーを感じていたようであるが、そこからはLOW IQ 01の後輩への愛情と、そもそもバンアパの音楽が大好きであるという想いを感じさせる中で最後に演奏されたのは「DEKU NO BOY」という選曲。こうしてライブを観るのは結構久しぶりだったのだが、今はこの曲が最後を飾るようになっているのだろうか。逆にライブの前半はどんな曲が演奏されたのを知りたかったという意味でも遅刻せずにこのライブを最初から見たかったし、これからももっとバンアパのライブを観たいと思った。原のMCが聴けなかったという意味でも。
13:10〜 村松拓 (Nothing's Carved In Stone / ABSTRACT MASH) [REALIZE STAGE]
3つあるステージのうち、最も規模が小さいREALIZE STAGEは客席部分が土になっているために前日の雨の影響でかなりこの日はまだ足元がぬかるんでいる。それでも、そんな影響を感じさせないくらいに客席が満員になっているのは、3年前まではNothing's Carved In Stoneや泥酔ボーカリストグループSHIKABANEでもこのフェスに出演し続けてきた、村松拓である。
バンアパが終わってからすぐに向かったもののすでにライブは始まっており、村松拓はサングラスをかけてアコギの弾き語りで、今年ライブ会場限定で販売を開始した自身のソロアルバム収録の曲を歌う。アルバムリリース前から村松は弾き語りをよくやっていたけれど、そのアコギの爪弾き方と弾き語りという形だからこその歌唱法、何よりも日本語の響きというよりもしっかり情景を想起させるような歌詞はバンドのものとは全く異なるものである。かつては弾き語りのライブではよく酒を飲みまくって酔っ払ったりしていたけれど、さすがにまだ昼くらいの時間帯であるだけにこの日はそうはなっていない。
そんな中でもOasis「Stand By Me」のカバーは村松の英語発音の見事さを改めて伝えるものになっているのと同時に、その歌唱力の高さも実感できるカバーだ。村松の影響源としてOasisがいるというのがソロ、弾き語りでのメロディの美しさに繋がっているということも。
ソロアルバムから披露された「ただいま」がどうしても、村松本人も
「大好きな、自分にとって大切な場所」
と口にしたこのフェスに3年振りに帰ってくることができたということを感じさせるのであるが、その曲も収録されているアルバムをライブ会場限定で販売することにした理由を
「実際にライブで聴いてもらって、良いと思ってくれたら買ってもらうっていうのがいいかなって思った」
と語っていたが、それは自身がバンドを始めた時にそうして音源を販売していた時期のことを今一度思い出そうというか、ソロだからこそそうした初心を持って活動しようと思っているのかもしれない。
するとここでスペシャルゲストとしてライブを終えたばかりのthe band apartの荒井岳史を招くのであるが、「the band apart」というバンド名を村松が噛んだことによって荒井もやたら発音良く「Nothing's Carved In Stone」のバンド名を言おうとして噛んだりしつつ、村松は先輩が出てくるとちゃんとサングラスを外すというあたりはさすがである。
そんな2人でまずは村松が大好きだという荒井のソロ作品収録の「次の朝」を2人で歌い分けながら披露するのであるが、同じバンド内に巨漢メンバーの原を擁するバンアパのライブで見るとそうは感じないが、こうして村松と並んでいるのを見ると荒井はマジで身体がデカい。一回りくらいデカいし、なんなら荒井だけ台の上に立っているかのようにすら見えてくるくらいである。さすが自身が「アメフト選手」と言うくらいはある。
そんな体格差を感じながらも、荒井の曲では村松の歌が、「みんな大好きだからこの曲をやりたがる」というNothing's Carved In Stone「Red Light」の2人でのカバーでは荒井の歌が、普段自身が作って歌うようなメロディの曲ではないからこそ実に深い、染み入るような声によるものであることを感じさせてくれる。きっと村松もソロとしてCDをリリースするにあたって荒井に聞いたり相談したことも色々あったんだろうなと思うのはすでに確固たるベースや音楽性を確立しているバンドのボーカリスト同士だからであり、その2人が向かい合って笑いながら歌っている姿を見てそう思っていた。
そうして荒井がステージから去ると、村松1人でやはりソロアルバム収録の「遠くまで行こう」を歌う。そのソロアルバムのリリースにあたってツアーも行われているし、北海道と東北には荒井も出演する。そんなバンドから離れても遠い場所へ歌いに行くという人生を生きている村松の生き様がその曲には確かに刻まれているし、我々もそうして遠くまで行けばこうした最高の環境でこんな特別なライブを見ることができる。
ソロであっても村松はやはりこのフェスに欠かせない存在であるというか、だからこそこうしてNothing'sが一時的にライブをやっていない状況の中でもこのフェスは村松を必要とし、そのタイミングでソロアルバムが生まれた。来年からはバンドでもソロでもSHIKABANEでも、今年翌日にアジカン伊地知潔の料理教室に出たようにいろんなライブのゲストとしてもこのフェスのステージに立ちまくっていて欲しいと思う。
1.アスピリ
2.朝も夜も
3.ラブレター
4.Stand By Me
5.ただいま
6.次の朝 w/ 荒井岳史
7.Red Light w/ 荒井岳史
8.遠くまで行こう
15:00〜 Scoobie Do [REALIZE STAGE]
3年前のこのフェスでもこのREALIZE STAGEに出演し、このステージの大トリを務めたScoobie Do。3年振りの今年はまだ日が照りつける時間帯での出演であるが、サウンドチェックでおなじみの白スーツを着た4人が登場するとこちらもおなじみの山下達郎「RIDE ON TIME」のカバーを演奏して早い時間から集まった観客の腕を左右に揺らしてこの場を一つにすると、コヤマシュウ(ボーカル)は
「この後に本物のScoobie Doが出てくるんで!良い奴らだから拍手で迎えてやってくれよな!」
と別人を強調するあたりも変わらぬこのバンドらしさである。
本番で本物のScoobie Doがステージに現れると、コヤマは
「このフェスでは太陽がミラーボールなんだぜー!」
と見事に晴れた空を指差しながら、真っ昼間であってもそうしてミラーボールがあることによって「真夜中のダンスホール」を演奏する。マツキタイジロウ(ギター)とナガイケジョー(ベース)と揃ってのステップを踏む様はいつもながら見事である。
さらに
「あこがれに手を振ろうぜ」
というサビのフレーズに合わせてコヤマが手を振り、観客も同じように手を振るという「Get Up」というライブ定番曲が続けて演奏されると、コヤマの挨拶も
「ソーラーパワーを愛し、ソーラーパワーに愛された4人組、LIVE CHAMP、またの名をFUNKY 4、Scoobie Doです!」
とこのフェスだからこそのものになっている。それはずっとこのフェスに出演し続けてきたからこそそう言えるものであるし、だからこそこやまは
「中津川ただいまー!」
とこの場所への帰還を口にできるのである。
そんなバンドは先月に最新アルバム「Tough Layer」をリリースしたばかりであり、その収録曲であるアッパーチューン「GEKIJYO」がこれから先もこうしてこのバンドのライブを担っていく曲になることを予感させるような、とてもリリースして1ヶ月しか経っていないとは思えないくらいの馴染みっぷりと完成度の高さで演奏されると、このバンドのファンキーなグルーヴだけではないメロディーの美しさを感じさせてくれる「茜色が燃えるとき」と、この辺りの曲調、あるいは代表曲と新曲の絶妙なバランスはさすがLIVE CHAMPを自認するバンドである。
ここでコヤマはずっと出演し続けているこのフェスだからこそ、自分たちが大ファンであり、同じようにこのフェスに出演し続けていた小坂忠(2年前の配信ライブにも参加していたくらいにこのフェスに毎年出演していたレジェンド)が亡くなってしまったことを追悼して、その小坂忠の「ほうろう」をカバー。これがスクービーの持つブルースさを強く感じさせるという珍しいものになっているのだが、そこからはスクービーが本当に小坂忠をリスペクトしてその音楽を愛してきたということが伝わってくる。
そうしたこのフェスだからこそのカバーから、ここで再び最新アルバム収録曲「明日は手の中に」で未だに尽きない創作・バンド意欲と今の時代と状況だからこそ作れた真っ直ぐなメッセージとメロディーを響かせる。この「Tough Layer」はアルバムを通して聴くとシンプルにスクービーとしての良い曲ばかりが入ったアルバムだなと思うのだが、だからこそこうしてフェスのセトリの中で鳴らしても初めてライブを観る人にも響く曲なんじゃないかと思う。
そんな中でコヤマはおなじみの
「ここに来るまでに費やした、君たちのタイム&マネー&ソウルに感謝します!」
と集まった人たちへの感謝を口にしてから「アウェイ」を演奏するのであるが、このフェスにおけるこのバンドの受け入れられっぷりと輝きっぷりはとてもアウェイとは思えない。むしろ完全にホームと言ってもいいものだ。それはこのバンドが何年もかけて積み上げてきたものであるし、3年振りの開催となっても全く変わることはない。
そしてメジャーリーグにまつわる著作を発表したくらいのメジャーリーグマニアとしても知られる(解説もやったりしている)オカモト"MOBY"タクヤ(ドラム)の叩き出すビートに乗ってコヤマ、マツキ、ナガイケがその場でグルグル回る「Back On」から、ラストはマツキのギターが最高にメロディアスなデビュー曲「夕焼けのメロディー」というスクービー必勝の流れ。
それはやはりこのバンドがソーラーパワーを愛し、ソーラーパワーに愛された4人であるということを感じさせてくれるものであったし、どんな状況や時代であっても自分たちだけで磨き上げてきたグルーヴは決して失われることがないということを示していた。ただひたすらにライブをやり、そこで勝ってきたからこそ「LIVE CHAMP」たり得た4人は今年のこのフェスでも圧勝だったのである。
リハ.RIDE ON TIME
1.真夜中のダンスホール
2.Get Up
3.GEKIJYO
4.茜色が燃えるとき
5.ほうろう (小坂忠のカバー)
6.明日は手の中に
7.アウェイ
8.Back on
9.夕焼けのメロディー
16:00〜 GLIM SPANKY [Revolution STAGE]
このフェスでお馴染みだったアーティストたちが帰還する中でもようやくこのフェスに出演できるアーティストもいる。ということでGLIM SPANKY、初の中津川でのライブである。
おなじみのサポートメンバー3人を加えての5人編成で、赤い髪色と赤いスカートが目を惹く松尾レミ(ボーカル&ギター)がハンドマイクで歌い出したのは先月リリースされたばかりの最新アルバム「Into The Time Hole」収録の「シグナルはいらない」。続く「ドレスを切り裂いて」もそのアルバム収録曲であるが、このバンドの決してテンポが速くないからこそのロックンロールの重さはやはりこのフェスにおいても異彩を放っている。他の出演者たちに先輩が多いだけにこのフェスではまだまだ若手と言ってもいいくらいの立ち位置であるが、鳴らしている音の説得力の強さはこのフェスにおいてもベテランレベルのそれである。
すると一転して松尾がギターを弾きながら歌う、大ヒットアニメのタイアップになった「怒りをくれよ」では間奏で亀本寛貴のギターソロが炸裂する。亀本はうっすら口髭が生えているように見えるだけにどこか少し年齢を重ねてきたことを感じさせるけれど。
そんな2人は長野の出身であるが、その出身地はこの中津川からほど近い場所であるという。関東から来た身としてはなかなかその距離感を図りかねるところもあるけれど、確かに名古屋から中津川に向かう時に乗る電車の有料特急「しなの」は終点が長野であることを考えると確かに近いと言えるのかもしれない。それだけに
「初出演だけど地元に帰ってきたみたいな感じで」
と松尾は口にしていた。
そんな松尾のハスキーかつスモーキーという、このバンドでしか聴くことのできない、ロックンロールを歌うために持って生まれたかのような声がより一層似合う「こんな夜更けは」でアッパーなだけではない、ブルースを強く含んだロックンロールのカッコよさを堪能させてくれると、松尾のソロ名義で発表されていた「A Black Cat (黒猫)」もバンドとして演奏される。こうしてこの曲がGLIM SPANKYのライブで聴けるというのは意外であったが、黒猫という存在はロックバンド、とりわけロックンロールのサウンドや歌詞と相性がいいと思うのはやはりその逸れもの的な存在ゆえだろうか。
MCでは亀本がこのフェスの開催を祝いながら、呼んでくれた佐藤タイジへの感謝を口にするのであるが、ここまでにも凄まじいギターを弾いてきているだけに、亀本はギターセッションをしてきて衝撃を受けた人はほとんどいないというが、それでもまだ今よりも若手時代に佐藤タイジとギターセッションをした時は、その1人でもバンドであるかのような演奏(佐藤タイジはギターを弾きながらバスドラを踏んだりする)に衝撃を受けたという。だからこそそんな凄い人に呼んで貰えるのが嬉しいとも。
そんなGLIM SPANKYとしてのロックがさらに深く鳴らされるのは「愚か者たち」。この曲くらいにテンポが遅くて重いサウンドの曲が代表曲たり得ているロックンロールバンドはこのバンドくらいだろうと思うし、そこには流行りがどうとかではなくて自分たちがやりたいことや好きなサウンドを追求してきた結果が集約されている。
それはしかし「NEXT ONE」では亀本とサポートキーボードによる勇壮なコーラスによって、ただマニアックなこと、渋いことをやっているのではなくて、この音楽がこうした広いステージ、なんならスタジアムクラスで鳴らされるべきものであることを示してくれる。
そんな中でも松尾はこの岐阜と自身の出身地の長野にともに五平餅が名産品として販売されていることに触れるのであるが、両者では形状が違うということをこのフェスに出演したことによって確かめていた。実にローカルなMCである。
しかしながらそのまま松尾はおなじみの
「学生時代から歌っている曲」
と紹介して「大人になったら」を歌い始めるのであるが、松尾も口にしていたように音楽やライブが不要不急と言われてしまうことも多かったコロナ禍を経験したことによって、ただでさえ大名曲であるこの曲の響き方はまた変わった。
「こんなロックは知らない 要らない 聴かない君が
上手に世間を渡っていくけど
聴こえているかい この世の全ては
大人になったら解るのかい」
というサビの歌詞がさらに深く刺さる。音楽を不要不急と言う人にとってはロックは要らない、聴かないものなんだろう。でもそれが正しいわけじゃない。それは大人になっても誰にもわからないことだ。ただ一つ確かなことは、どれだけそんな扱いを受けたとしても、自分やここにいる人たちはロックがあることによって、こうしてライブがあることによって日々を生きていくことができているということだ。最後にさらに強くなるリズムとサウンドはそんなことを確かめさせてくれる。
そして最後に演奏されたのはタイトルや歌詞の通りに循環、ループする時間というものにバンドのグルーヴによって思いを馳せさせる「Circle Of Time」。最後に大ヒット曲や代表曲を持ってくるのではなく、むしろ最もと言っていいくらいに深い曲を持ってくるというあたりが変わらないこのバンドらしさだ。
それはブルースやロックンロールを軸にしたアーティストが多く出演しているこのフェスだからこそより映えるものであるし、この50分という尺で観ると、もうフェスの30分の時間で済むようなバンドじゃないと思う。地元からほど近いということも明らかになっただけに、来年からもこのフェスのこの広いステージでそのロックンロールを響かせて欲しいと思う。
リハ.ワイルド・サイドを行け
1.シグナルはいらない
2.ドレスを切り裂いて
3.怒りをくれよ
4.こんな夜更けは
5.A Black Cat (黒猫)
6.愚か者たち
7.NEXT ONE
8.大人になったら
9.Circle Of Time
17:50〜 10-FEET [Revolution STAGE]
フェスを主催しながらもこんなにあらゆるフェスに出演しまくっているバンドが他にいるんだろうかと思うくらいに、京都大作戦を2週間開催してもなお各地のフェス、こうしてそんなに大規模ではないフェスにまで出演している10-FEET。客席がこのバンドや京都大作戦のTシャツを着た人によって満員になるという、どこにでも出るしどこにでもファンがめちゃいる(あるいはファンがどこにでも行く)ということも実に凄いことである。
なのでおなじみの「そして伝説へ…」のSEが流れると、ステージが見えなくなるくらいにバンドや京都大作戦のタオルが掲げられるというのも他のライブと全く変わらないこのバンドのライブの光景であるが、メンバー3人が登場すると、最近は「RIVER」で始まることが多かった印象だったのが、この日はかつてよく1曲目に演奏されていた、NAOKIのベースのイントロが我々の衝動を煽り、TAKUMA(ボーカル&ギター)のボーカルの
「Jump Around!」
というフレーズ、KOUICHIによる力強いドラムによって観客が飛び跳ねまくる「super stomper」からスタートするというのは持ち時間が長いこのフェスだからこそであるし、あらゆるフェスやイベントに出ながらも毎回違うライブをしてきた10-FEETだからこそでもある。
なので「2%」という今年の京都大作戦の最終日の感動的なフィナーレを思い出させるような選曲が早くもこの序盤で演奏されるのであるが、NAOKIがこの序盤で早くも
「中津川、開催できてよかったなー!」
と叫んだというのは雨の影響などでなくなってしまったライブがあることを3人はわかっているのだろうし、このライブを本当に楽しみにしていたということであろう。
それぞれの音がタイマンを張るようにぶつかり合う最新シングル曲「aRIVAL」のハードなサウンドも今年の夏で10-FEETのライブには欠かせないものになっているが、そんなサウンドがデジタルな同期も取り入れた「ハローフィクサー」にも強さを感じさせるように鳴らされていくと、再び観客が思いっきり飛び跳ねまくる「VIBES BY VIBES」へ。正直まだ芝生は水分をかなり含んでいたのだけれど、そんなことを全く気にさせないくらいに、飛び跳ねざるを得なくなるような力がやっぱり10-FEETのライブにはあるし、このフェスが持つピースフルな空気をTAKUMAも実に気に入っていて楽しんでいるというのが見ていて本当によくわかる。今年見たどのフェスでのライブよりも解放されているというか。
そんなTAKUMAは何故かデスボイスで「ベビーパウダー」「マイナポイント」という単語を口にし、ひとりでに
「デスボイスで口にしたら1番面白い単語は何か」
ということを確かめ始め、しかも結論が出ないままでそのやり取りを終わらせると、インターネット上での誹謗中傷などに心を痛めているような言葉を口にし、そうしたことがなくなることを祈るようにして、
「ここにいる人が今よりも少しだけでも強く優しくなって欲しい」
と願いを込めながら「シエラのように」を演奏する。その言葉が、この曲の演奏が胸に響くのはきっと我々なんかのレベルじゃないくらいに10-FEETの3人がいろんなことを(特に去年の京都大作戦などで)言われてきただろうからで、自分たちのような思いをする人がいなくなるようにという思いも少なからずそこには含まれているだろうからだ。
そんな心が震えるような空気は「ヒトリセカイ」の歌詞にも繋がっていく。というかこの曲の最後の
「嗚呼 言葉のない遥か大昔
それなら今より少しは分かり合えたかな」
というフレーズはTAKUMAの言葉をそのまま歌詞にしたようなものである。NAOKIの超開脚演奏ももちろんこのフェスでも披露され、客席からはそこはかとなく笑いも起きている。
そんな思いを全て抱えた上で吹き飛ばすように「その向こうへ」が演奏され、NAOKIは今度は足を高く上げてキックを蹴り出す。このNAOKIの今にしての身体能力の高さを感じさせるパフォーマンスの数々は 10-FEETがまだまだベテランになっても加齢の影響を感じさせることがないことを示してくれているが、最近は1曲目に演奏されることも多い「RIVER」がこの日は最後に演奏されると、最近恒例の間奏での観客のスマホライトウェーブは行われなかった。というのもTAKUMAは
「今夜君がここにいてくれることがただただ嬉しいんだ」
と歌詞を変えて、観客に語りかけるようにして歌っていたからだ。それくらいにこの日の光景を見て表現したいことがあったということだ。恒例の川の名前も普段は2コーラス目だけを変えるのであるが、この日は1コーラス目を「中津川」、2コーラス目を「木曽川」に両方変えていた。それくらいにこのフェス、この場所をTAKUMAは、3人は愛してくれている。
しかしそんな最後の曲が終わるとTAKUMAは2人と何やら耳打ちをし、
「4分くらい余ってるからもう1曲やります!みんなタオル出して!」
と言ってなんと「CHERRY BLOSSOM」を追加した。しかしながらやはり時間ギリギリを攻めすぎたのか、2コーラス目で
「KOUICHI、もっと急がんと間に合わへんで!」
と言ってテンポをさらに高速というか爆速と言っていいくらいのものにしながら、
「もっと思いっきりタオル投げえや!自分のじゃないタオルが飛んできたら周りで探してあげてや!」
と客席にも気を配りながら演奏するTAKUMAはさすがであり、最後には
「ありがとう!中津川最高!」
と叫んでステージから去っていった。その最高の中津川で見る 10-FEETのライブが本当に最高だったからこそ、スケジュールが大変だろうけれど来年からもまたこのフェスにも出続けて欲しいと思った。いや、必ず来るなこの3人は。それくらいにこの空間全てへの愛が放出されていたライブだった。
1.super stomper
2.2%
3.aRIVAL
4.ハローフィクサー
5.VIBES BY VIBES
6.シエラのように
7.ヒトリセカイ
8.その向こうへ
9.RIVER
10.CHERRY BLOSSOM
19:40〜 リーガルリリー [REALIZE STAGE]
本来は昼過ぎのRESPECT STAGEに出演するはずだった、リーガルリリー。しかしながら交通機関の大幅な遅れでその時間に間に合わずに、このREALIZE STAGEのトリとして出演することに。布袋寅泰の真裏という実に厳しい時間になったが、そうしてアクシデントがあってもこのバンドにライブをさせてくれ、タイムテーブルに空白を作ることもないというこのフェスの対応は本当に素晴らしい。
それでも3人は至っていつも通りにステージに現れるのであるが、上手のゆきやま(ドラム)はだいぶ髪が伸びているのに比べ、下手のたかはしほのか(ボーカル&ギター)はショートカットになったことによって、とっくに二十歳を超えているのに全くそう感じさせない幼い見た目がさらに幼くなり、中学生や小学生にすら見えるくらいになっている。
そうした出で立ちでたかはしのやはり声質も幼いハイトーンのボーカルが響き渡る「たたかわないらいおん」から始まることによって、やはりこの曲が1曲目に収録されている今年リリースのアルバム「Cとし生けるもの」は改めて本当に名盤だよなと思う。この1曲だけでそう感じさせるくらいにメロディーの訴求力が実に強い。
なのだがいかんせんこのバンドがシュールなのはそのアルバムにも収録されている「東京」はタイトルとは裏腹に
「ナイジェリアの風が」
という日本ですらない国の名前で始まるし、さらには
「ホタルイカの素干し」
なんてフレーズも出てくる。本当にたかはしの脳内にはどういう単語が入っていて、どういう風にそれを組み合わせて歌詞を作っているんだろうかと何回聴いても思う。サビではゆきやまのドラムの一打が実に強くなっていき、ライブにおけるバンド感が高まっていく。
むしろ次の
「降り立った東京 1997年の12月」
という歌詞によって始まる「1997」の方がよっぽど「東京」的な歌詞であるのだが、サビでの跳ねるようなリズムに合わせてベースを弾く海の表情が本当にはち切れんばかりの笑顔であり、こうしてこの会場に無事に辿り着いてライブを行うことができているという喜びがその表情には確かに現れているし、この曲のサビの最後でポーズを取るような仕草でギターを鳴らすたかはしの表情も笑顔というわけではないけれども、どこか晴れやかに見える。
最初期の「ぶらんこ」でもゆきやまの細かく刻むハイハットの手数の多さが光る中、それが最新シングル「ノーワー」に繋がっていくというのは生まれたりリリースされた時期がどうあれ、リーガルリリーの表現が一直線に繋がっているということであるが、
「君は全てを体に入れてトイレで吐いた。吐いた。
食べ残すこと許せなかった。
物足りない、今日はまだ終わりじゃないと夜は進んだ。」
という歌い出しからしてメタファー的な意味を強く含んでいると思われるが、サビの
「ノーワーノーワーのごり押しで 対立が始まって
今 手にした形 あまりにも弱すぎて」
というフレーズはウクライナ出身の方を招いて話をしてもらったりしているブースがあるこのフェスで聴くからこそ痛切に響くものが確かにある。それは米軍基地がある福生で育ったたかはしだからこそリアルに感じている思いを自分なりに歌詞にしたのだろうと思うし、なかなか今メジャーでこうした歌詞を書くバンドがいないというところからも、このバンドが自分たちのやりたい表現をひたすらに突き詰めているバンドであるということがよくわかるのだ。
しかしながら「まわるよ」という最新作の曲でもなければ定番曲でもないような曲を演奏できるのは持ち時間の長いこのフェスだからこそのものであり、MCを一切しないというフェスでの戦い方を選んでいて、持ち時間の全てを曲の演奏に費やしているこのバンドだからこそである。とはいえこの選曲をどう決めているのか気になってしまうところであるが。
そのままサビでまさに風が吹くようにスケールを増す「風にとどけ」では海が大きく体を動かすようにしながらグルーヴを生み出し、3人の声が重なっていく。その、この3人がただただ自分たちがやりたいように音を鳴らしていることがあまりにも尊く感じて、それがこの透き通るようなメロディーに乗っているのを聴くことによってまさに、涙が出そうだと思う。
そんな「風にとどけ」のアウトロから激しく続くアレンジの繋ぎが鳴らせると、たかはしがタイトルを口にしたのはもちろんこの曲だけはどんなライブであっても欠かすことができない「リッケンバッカー」。この完全に夜の暗闇の中でサーカス小屋のような小さいステージで鳴らされているこの曲。間奏からサビに向けてさらに手数が多く、強くなるゆきやまのドラム。交通機関が乱れて到着が遅れてしまったことは決して良いことではないけれども、それでもこのバンドをトリとして夜に見ることができたのは前日の大雨のように忘れられないこのフェスの光景の一つになったと思う。暗闇をテーマにしたツアーをやっていたし、それくらいにこのバンドは夜が似合うバンドだからだ。きっと本人たちも初出演にしてこんなにも辿り着くまでに色々あったフェスのことを忘れることはないだろうと思う。
そんな互いにとって忘れられないライブの最後に演奏された「はしるこども」ではまさに海がステージ上を走り回るようにベースを弾くのであるが、まさにその「はしるこども」を体現しているかのように子供らしい見た目のたかはしはいつも以上に思いっきり張り上げるというか、もはや叫ぶようにして歌っていた。それくらいに放出したい感情があって、それを自分の歌に乗せていたのだ。
「また必ず来ます。また来年来ます!」
と珍しいくらいにたかはしが自信たっぷりに言ったのはきっと遅れてしまったことのリベンジを、というわけではない。そんな状況でもライブをやらせてくれて、こうして最後の時間まで待ってくれていた人たちがたくさんいたのを見て、何か確信のようなものをこの場所で掴んだのだろう。このライブを見ることができて、諦めないでここに来てくれて本当にありがとうと思った。
リハ.トランジスタラジオ
リハ.三日月
1.たたかわないらいおん
2.東京
3.1997
4.ぶらんこ
5.ノーワー
6.まわるよ
7.風にとどけ
8.リッケンバッカー
9.はしるこども
このフェスの晴れた日はやはり最高だ。というか前日以外に自分がこのフェスに来た時は全て晴れていただけに毎回このフェスは最高だった。
それはこのフェスならではの素晴らしい音の良さを雨具のフードなどで遮ることなく感じることができるし、この中津川の少しひんやりするような新鮮な空気を存分に吸い込むことができて、その空気がこんなにもピースフルな雰囲気を生み出していることもわかる。
そして会場の広場ではバルーンアートなどの大道芸が始まり、それがたくさんの親子に囲まれて決して通行の邪魔になることなく、子供たちの笑顔に繋がっている。そうして幼い頃からこのフェスに来ている子供たちが大きくなって自発的に来れるようになるまでずっとこのフェスが続いて欲しいと思っているし、そうした光景によって守れるフェスの未来が確かにあるとここに来ると実感することができる。そんな、晴れたことによって最高だった中津川THE SOLAR BUDOUKANの2日目だった。