Base Ball Bear TOUR 「LIVE IN LIVE 〜I HUB YOU (Take) 2〜」 対バン:UNISON SQUARE GARDEN @Zepp Haneda 2/24
- 2022/02/25
- 20:22
2年前に開催が予定されていた、Base Ball Bearの対バンツアー(近年は本当に珍しい)がコロナ禍によって中止になった時、「対バン側のスケジュールも厳しいだろうし、きっともうできないだろうな…」と思っていた。
しかしながら今年にその対バンツアーは「Take 2」と題されて帰ってきた。名古屋:the telephones、大阪:KANA-BOON、東京:UNISON SQUARE GARDENという、今までバンドとしては交わって来なかった3バンドとのツアーであるが、大阪はKANA-BOONの古賀がコロナに感染してしまったことによって延期に。(それでも中止ではなくてすでに振替日程が決まっているあたり、両者にとって絶対にやりたいライブなのだろう)
なので元々はファイナルの予定だったこの日はツアー2本目に。
検温と消毒を終えてZepp Hanedaの中に入ると、座席は並んでいるものの、自由席という形。着いたタイミングではもう後方の席しか空いてなかったけれど、それくらいに平日でもたくさんの人が早い時間から来場しているということだ。もちろんチケットはソールドアウト。
・UNISON SQUARE GARDEN
この日のゲスト、UNISON SQUARE GARDEN。ベボベとは紛れもなく同世代(メンバーは関根史織と同い年)であるが、ここまで全く一緒にライブをやったりしたことがないだけに、こうしてゲストに発表されたのは実に意外であった。
19時になると場内が暗転し、おなじみのイズミカワソラ「絵の具」のSEが流れてメンバー3人がステージに登場。鈴木貴雄(ドラム)がパーカーを着ているのも、田淵智也(ベース)が不審な歩き方をして出てくるのも、爽やかという形容詞をそのままギター&ボーカルにしたかのような斎藤宏介もいつもと全く変わらない。
ユニゾンはツアー以外では毎回ガラッとセトリを変えてくるバンドであるし、なんならゴールデンウィーク期間中だけでアラバキ、ビバラ、JAPAN JAMと3回ライブを観た時も全てセトリが変わるというバンドであるだけに、この日もどんな曲を演奏するのか全く予想がつかないのだが、斎藤の目まぐるしいギターサウンドによって始まったのは、
「ああ 青春が止まらない」
という歌い出しが、もしかしたら「青春ギターロック」と評されることも多いベボベがまだまだ止まっていないということを示すメッセージなんじゃないかとすら思える「サイレンインザスパイ」であるのだが、そうした要素も実際に演奏されたからこそわかることであり、この曲がこの日演奏されるということを予想していた人が果たしていたのだろうか。田淵はコーラスも行うためにまだ動きは控えめであるが、その分照明が赤と青に目まぐるしく切り替わっていくのが視界に刺激を与えてくれる。
その田淵がベースを持ったままステージを駆け回るといういつもと変わらぬはしゃぎっぷりと、ベーシストとは思えないくらいの運動量を見せる「10% roll, 10% romance」はその田淵がサビの3連のリズムに合わせて頭や体を動かすのが観ていて実に楽しくなってくるのであるが、斎藤はやたらとイヤモニを気にしているような仕草を見せており、少し歌いづらそうにしているようにも見えるけれど、それでも歌声自体はいつもと全く変わらないレベルと言っていいだろう。
しかしながら斎藤のギターの性急なサウンドによる「オリオンをなぞる」へと、全く曲間を挟むことも、予感させることもなく突入していくと、鈴木が思いっきりドラムの手数と強さを増やしまくり、さらには叫ぶようにしてコーラスを歌う。彼がこのライブを本当に楽しみにしていたというのが本当によくわかるけれども、これすらもユニゾンにおいては通常営業とすら言えるものである。
それでも、斎藤がその「ボーカリストが弾くギターじゃないじゃん」というレベルのギターを弾きながら歌っている姿は、ベボベが3人になってから、かつては湯浅将平が弾いていたギターを自身で弾きながら歌っている小出の姿に重なるものも感じる。それが、あなたにもしわかるのならすごく嬉しいんだ、と思っていた。
するとスタッフが鈴木の頭にヘッドホンを装着して同期のピアノの音が流れるというのもまたおなじみの「mix juiceのいうとおり」では珍しく鈴木がそのスタッフに水を飲ませてもらうという場面もあったのだが、ライブの曲間が全くないバンドであるだけに演奏中にスタッフに飲ませてもらわないとドラマーは水を飲む時間すらないというささやかかつ微笑ましい瞬間が、ユニゾンの凄さをある意味では物語っているとも言えるだろう。この曲のキャッチー極まりないメロディはそうしたライブの光景を差し引いたとしても本当に見ている我々の心を弾ませてくれる。
「こんばんは、UNISON SQUARE GARDENです!」
とだけ斎藤が挨拶すると、昨今のユニゾンのライブでは珍しく観客が手拍子をするフレーズがあったり(それでもメンバーは一切そうしたことを煽ったりしないのがまたユニゾンである)と、次々に曲が展開してはサビで一気にキャッチーに解放されていく「フィクションフリーククライシス」と、もはやこの流れを予想しろというのが無理なくらいの曲が並ぶのであるが、そこに曲が変わるごとに流れがぶった切られるような違和感を全く感じさせないのが、さすがセトリおじさんこと田淵の手腕である。
一転してソリッドな、ストレートなギターロックバンドとしてのユニゾンを、やはりシンプルな照明が照らす様がカッコ良いと思わせてくれる「シューゲイザースピーカー」は、ベボベの持つ下北沢的なギターロックの要素をユニゾンも確かに持っている(インディーズ期は下北沢でもよくライブをやっていたし)ことを示すとともに、
「どんなヒットソングでも 救えない命があること
いい加減気づいてよ ねえ だから音楽は今日も息をするのだろう」
というフレーズが、これまでに息を止めてもおかしくないような経験をしてきたバンド=ベボベがこうしてこの状況でも息をし続けてきたことへの強い敬意を感じさせてくれる。それは考えすぎなのかもしれないけれど、それでも確かに歌と楽器の四重奏の音がそうした意識を感じさせてくれるのだ。
そんな中で田淵の動きがますます激しく&妖しくなっていく「世界はファンシー」では斎藤が「歌いながら弾くギターのレベルじゃない」ということの極地と言うような怒涛の言葉数の歌唱と、自ら
「My fantastic guitar!」
と歌って、思いっきりギターを立てるようにしてソロを弾き始めると、そのフレーズを斎藤に歌わせた張本人である田淵も斎藤の側に寄って、向かい合うようにしてベースを弾く。それに合わせるというよりもさらに際立たせるかのように鈴木は立ち上がって自身のバスドラに描かれたバンドロゴをスティックで擦るようにしたり、原曲以上にはるかにスネアの手数を多く叩きまくっている。曲を詰め込みまくることによって疲れるなんてことがないどころか、むしろ演奏するごとにさらに極まっていく感すらある感覚を感じることができるというユニゾンのライブの在り方は招かれた場でも全く変わることがない。
「Fancy is lonely.」
というフレーズで締められる曲であるだけに、鈴木が再びスタッフにヘッドホンを装着してもらうと、「弥生町ロンリープラネット」へと繋がるのかと思いきや、ここで「シュガーソングとビターステップ」を演奏してくれるというのは、全くそうした素振りは見せないけれども、ベボベのファンの人たちが知ってくれているであろう曲を演奏するというユニゾンなりの招いてくれたバンドのファンへの優しさなんじゃないだろうか。そんな少し感傷的になるようなことすらも、鈴木がおなじみのパーカーのフードを被って自ら視界を封じたままで叩くというスタイルのドラムの凄まじさと楽しさによって更新されてしまうのだけれど。
「ラスト!」
とだけ言うと、最後に斎藤がギターを鳴らし始めたのは「フルカラープログラム」であり、当初から全く招かれた側のバンドとしてのアウェー感がなかったのが、この最後でさらにホーム感を強くする。それは田淵がステージ端まで走り回りながら観客を指さすようにして演奏したり、最後のサビ前で鈴木が
「そうだ
涙キラキラ西の空に光る
モノクロでは説明できない完全無欠のロックンロールを」
という斎藤が歌うフレーズを強調するかのようにドラムの音を敢えて小さくしていた。そのフレーズが指す「完全無欠のロックンロール」をベボベが鳴らしているということを示すかのように。それは最後のサビが終わった後に田淵が袖の方を指差しながら、
「次、ベボベが出てきてキメてくれるから!」
と言っているかのように口を動かしている姿からも感じられた。
つまりは、いつもと全く変わらないユニゾンらしいライブでありながらも、そこには間違いなく同世代であり、先にメジャーの舞台に飛び出していった存在であるベボベから刺激を受けてきたことを感じさせるような、ベボベへの強いリスペクトが音から発せられていた。鈴木が立ち上がってキメを打って演奏を終えると、斎藤は
「次はBase Ball Bearです!」
とだけ言ってステージを去って行った。MCがないのもいつも通りだったけれども、間違いなくベボベの前にユニゾンがライブをやってくれて本当に良かったと思えた。4月にはユニゾン側の対バンツアーの仙台にベボベが出演するのも決まっており、近くを走っているように見えて全く交わらなかったこの2組は、これからさらに深い付き合いをしていくことになるんじゃないだろうか。鈴木の去り際の笑顔を見ていて、もしかしたら楽屋で同世代ならではの楽しい話をしたりしているんじゃないだろうか、なんて思ったりしていた。
何回見ても飽きないというか、飽きるわけがない。きっとこれから先、何十回、何百回ライブを観てもそう思うんだろうな。
1.サイレンインザスパイ
2.10% roll, 10% romance
3.オリオンをなぞる
4.mix juiceのいうとおり
5.フィクションフリーククライシス
6.シューゲイザースピーカー
7.世界はファンシー
8.シュガーソングとビターステップ
9.フルカラープログラム
・Base Ball Bear
ビックリするくらいに手際の良い転換を終えてステージが暗転すると、おなじみのXTCのSEが流れて、元気いっぱいにステージに駆け出してきた堀之内大介(ドラム)を先頭にベボベの3人が登場。出で立ちこそいつもと変わらないけれど、やはりワンマンのライブ開始時とはまた違う、ユニゾンのライブを観た後だからこその気合いをその表情から感じることができる。
「こんばんは、Base Ball Bearです」
と小出祐介(ボーカル&ギター)が挨拶した刹那に鳴らされたギターのサウンド。それはこれまでに数え切れないくらいに聴いてきた「17才」のものであり、近年はこうしてこの曲から始まるライブも多くなっているけれど、なんでこんなにも毎回心の奥の方がゾワッとするような感覚になるのだろうか。それはやはりあらゆる場所でこの曲を聴いてきた記憶や思い出がそのギターのストローク一発で甦ってくるからだろう。観客がリズムに合わせて手拍子をするのはコロナ禍になる前からずっと変わらないこの曲での客席の光景であるが、間奏でも堀之内が手拍子をするタイミングで口を動かしているのがさりげなく手拍子を煽っているかのようで実に微笑ましくなる。
ベボベは昨年にアルバム「DIARY KEY」をリリースし、中野サンプラザから始まったそのアルバムのリリースツアーも無事に完遂しているのであるが、そのアルバムのタイトル曲であり、ベボベが今でもデビュー時から変わらずに瑞々しいギターロックを鳴らしているバンドであることを示すような「DIARY KEY」は
「ifと畏怖があばれて 逃げたい夜
あふれて込み上げる詩を また書き殴っては」
というフレーズなど、小出の詩情や作家性が今なお進化し続けているというくらいの言い回しと言葉選びっぷり。その視点を持てているというのはやはりずっと若者のままというわけではなく、様々なことを経験して大人になったからなんだよな、とも思う。
「UNISON SQUARE GARDENのファンの人からしたら、「ベボベのボーカルの人喋り過ぎててwww」って言われるかもしれない(笑)」
という通りに、全くMCがなかったユニゾンとは対照的にここで早くもMCが入るというのもまたベボベらしさでもある。
「ユニゾンの皆さんは同世代で。関根さんと同い年で、私と堀之内さんの一個下。同じ時期に下北沢とか渋谷でライブをやってきたバンドだろうに、こうも違うバンドになるかと(笑)
今日リハからずっと見させてもらってましたけど、構造も曲作りのやり方もライブの作り方も全く違う。ユニゾンは凝縮されまくりっていうバンドですけど、我々ははみ出してはみ出して…っていうバンドなんで。そんな我々のはみ出しっぷりを堀之内さん、見せてやってください」
と、近年のワンマンでは自身を評する上手さを遺憾なく見せてきた小出は他のバンドを評する、そして自分たちと対比するのも実に上手いし、そこには自分たち自身への深い客観性が備わっているからであるというのもわかるのだが、早速そんなユニゾンとは同じスリーピースのロックバンドでありながらも全く違うということを示すのが、小出から堀之内、そして関根史織(ベース)へと「3」にまつわるフレーズのボーカルをリレーしていくことによって、3人での再出発を力強く宣言した「ポラリス」。
「イーグルとシャークとパンサーか
ファルコンとライオンとドルフィン」
という、未だに子供心を失わない(体はかなり横に大きくなったけど)彼らしい歌詞と、自身の歌うフレーズの最後を叫ぶ堀之内、
「街と海と私の三角関係
三部作くらいじゃ終わりそうもない」
とバンドの過去の歌詞の引用フレーズを歌う関根と、ベボベらしいはみ出しっぷりが炸裂している曲である。
ユニゾンが「この曲やるの!?」というような曲をやるのは驚きもあるけれど、それでもユニゾンというバンドはライブのセトリが「これまでにリリースしてきた曲=セトリの選択肢」と言えるくらいにいつでもどんな曲でも演奏できる準備が出来ているバンドであるから予期せぬセトリが来るのもみんなわかっているのだが、対してベボベはツアー中はもちろん、フェスやイベントでもそうそうやる曲が変わらないバンドである。
それだけに割といつもライブで演奏している曲(ここまでの3曲は割とそうしたタイプの曲だ)が演奏されるのだろうと思っていたが、そんな予想を良い意味で裏切ってくれるのは実に久しぶりの演奏となった「不思議な夜」。この曲が収録されたアルバム「C2」のタームはまだ編成的には4人だったが、あのアルバムで獲得したリズム隊の2人のグルーヴが今に至るベボベの大きな武器になっているということが今になるとよくわかるし、交わりそうでいて今まで交わらなかったこの2組が一緒にライブをやっているこの夜こそが不思議な夜であると思えてくるし、それを意識しての久しぶりの選曲なんじゃないかとも思える。
堀之内の軽快な、彼の人柄がその短いフレーズからも感じられるイントロのビートから続くように小出がギターを鳴らして歌い始めたのはバンド屈指の名曲である「short hair」で、
「オーイェー!」
と曲中で声を張り上げる小出に呼応するように客席からはたくさんの腕が上がるのであるが、それに続くまだバンドがこうした経歴を歩むことになるとは思っていなかった、
「変わり続ける君を、変わらず見ていたいよ」
というフレーズは、変わらなかったユニゾン(ライブのやり方やバンドの意識は変わりながら、固まりながら進んできたけれど)との対バンだからこそ、変わらざるを得なかったベボベをこうして今も見続けていられることの幸せと喜びを感じさせてくれる。それは続く
「たくさん失う 時がながれゆく
それでも僕は、君を待ってる」
というしみじみせざるを得ない名フレーズもまた同じだ。今のベボベのライブは本当にファンがみんなこのライブを待っていた、この日を楽しみにして日々の生活を頑張ってきたというのが実によくわかる。それは登場時や曲間での観客からのバンドへの拍手の大きさや長さに表れている。
「DIARY KEY」リリース前から新たなバンドのアンセムの一つになる予感を感じさせていた「プールサイダー」での、まさにプールサイドで撮影されていたMVの清冽感を感じさせるような青い照明がメンバーを照らす中での、サビの堀之内と関根も声を合わせるコーラスも含めた小出の言葉数を詰め込みまくる歌唱は「あんなのできない」と言っていたユニゾンの曲やライブに確かに重なる部分を感じる。もちろんテンポなどは全く違うけれど、ずっと見てきた身としても特に3人になってからの小出の歌唱とギターも他の人がやろうとしてもできないレベルのものであるよなぁと思う。
そんな中でセッション的な演奏から一気にダークなサウンドのイントロへと繋がっていく「Tabibito In The Dark」は実に久しぶりにライブで聴いた曲であるのだが、サビ前でのブレイクのタメが「こんなに長かったっけ!?」と思うくらいに練り上げられたものになっているし、それがより一層サビでの爆発力につながっている。
「踊れ 踊れ 何もかも忘れて 踊れ 音の中で
笑え 笑え すべてを振り切るように 笑え いま dance and dance」
という歌詞に呼応するかのように、観客は椅子がある状態でもより一層、まさに音の中で踊りまくっている。それによって「暑い」という感覚が確かに感じられた。武道館やホールなどでも数々ライブを行ってきているけれども、この「暑い」という感覚はベボベがライブハウスのバンドであるということをこの状況下でも確かに感じさせてくれる。
それはユニゾンのメンバーたちを
小出「凄く明るい人たちなんだろうなって。そうじゃなきゃあんなに元気な曲や演奏はできない」
と評した後に、
関根「ユニゾンのライブやってるのを見て、歳を取っても落ち着いた大人っぽい演奏にはなりたくないなって思った。ずっとキッズみたいな演奏をしていたい」
と言ったことにも現れている。小出が
「もう40代に差し掛かりつつある」
と口にした時にはかなりハッとさせられたけれど、それでもベボベのライブから感じられる熱さは全く変わることはないし、これからも変わらないんだろうなと思う。何よりも、自分自身が関根と同じように「キッズみたいにライブを楽しみたい」と思えるのは、お互いに学生の年齢だった頃から変わらずにそうしたライブを見せてくれているベボベのような存在がいるからだ。
そのロックバンドとしての熱さをベボベなりの曲と演奏という形で見せてくれるのは、小出がカッティングギターを刻みまくりながら歌うファンキーなサウンドの「十字架 You and I」だ。かつてはメンバーのダンスセクションであった間奏では、それがなくなった寂しさを一切感じさせないくらいに小出がギターソロを弾きまくり、それに続くように関根もベースソロを弾くと、堀之内の一打一打も小出のシャウトと言っていいようなボーカルもさらに激しさを増していく。
そのファンキーさがそのままバンドのグルーヴになっているのは、小出がマイクを片手で持ち、ベースを弾く関根と向かい合うようにしてラップする、こちらも久しぶりの「The Cut」であるが、この曲は盛って隙間を埋めて…という方法論のスリーピースバンドであるユニゾンとは対照的な、削って削ぎ落としてリズムだけでグルーヴしていくスリーピースバンドとしての形を見つけたベボベならではのものだ。ともに15年以上に渡ってシーンの最前線を走り続けてきたバンドは、やはり自分たちなりの戦い方をしっかり持っているし、そこにヒップホップを加えることができたという意味でこの曲が生まれたのは本当に大きかったと思うし、そのグルーヴが練り上がっていくことでサビでの爆発力がさらに凄まじいものになっている。RHYMESTERのラップパートと自身のボーカルパートを全て1人で歌い、ギターまで弾く小出はやはり小出なりに本当に凄いと何回見ても思う。
そして、
「今日はありがとうございました。Base Ball Bearでした」
と言って最後に演奏されたのは、まだまだ寒い日が続く中でも暑いライブハウスの客席をさらに熱く燃え上がらせてくれるベボベの夏ソング「ドラマチック」。少しキツそうにも感じるけれど、それでも声を振り絞って歌う小出の姿はどこか、絶対真似できないけれど、それでも自分なりに負けたくないというユニゾンのライブを観た後だからこそ引き出された力を確かに感じさせた。それは文化系の代表格的な感じすらあるベボベが実は体育会系的なマインドでバンドを動かしてきたことを感じさせるとともに、去年の夏は聴けなかったこの曲を、今年の夏はいろんな場所で聴けますようにと思った。
誰かと運命的な出会いをするみたいな特別なことはなくていい。ただただ夏の野外フェスでベボベのライブが見れてこの曲が聴ける。それだけで自分の夏は何よりもドラマチックなものになるのだから。
アンコールで再び3人がステージに登場すると、
「スポーツ選手のユニフォーム交換のようなもの」
と、バンド名にBase Ballを冠しながらも野球をはじめとしたスポーツのルールすら曖昧な小出が珍しくスポーツで例えたのは、まさにこのライブが両者の試合であるかのような真剣さだったからであろうけれど、その言葉が意味するのは
「ボーカルのキーも演奏の手数も最初から真似しようとしないくらいに絶対に無理なんで、メロディとコードを抽出してガチアレンジした」
というユニゾン「ライドオンタイム」のカバーという、対バンライブだからこそのパフォーマンスでありサービスであった。
ユニゾン版の原曲ではいきなりジェットコースターの急降下部分から始まるようなアッパーさが炸裂する曲なのだが、そこは小出の言っていた通りにベボベなりのシャープなギターサウンドと、テンポを落としたシンプルなリズムに変換されており、イントロを聴いてもこの曲だとはわからないだろうというくらいに生まれ変わっているのだが、サビでコーラスを関根と堀之内も口にしながらも、おそらくは小出が自身のコーラスを重ねているであろうというくらいのまさにガチアレンジは、
「トリビュートアルバムとか出す時は絶対呼べよな!(笑)」
と小出がステージ袖に向かって叫ぶほど。ちなみにこのステージ袖に向かって叫ぶというやり取りはこの日数え切れないくらいに行われていたのだが、カメラが回っていただけにおそらくはこのライブはなんらかの形で映像化するだろうけれど、その際は絶対にこのカバーを入れてもらいたいと思うくらいである。ベボベの対バンライブがあまりに久しぶり過ぎて、こんなことをやってくれるなんて全く想像すらしていなかった。
で、この日こうしたカバーをやったということは4月のユニゾン側が主催する対バンツアーの仙台ではこのベボベからもらったユニフォームをユニゾンが返すという形が見れるんじゃないかということに加えて、名古屋では何をやったんだろうか、大阪では何をやるんだろうかというのが、どちらの対バン相手も大好きなバンドであるだけに気になって仕方がないのだが、名古屋のthe telephonesの時には石毛輝がギターで参加して「changes」をコラボ演奏したという。
それは湯浅が突如として居なくなってしまった時にサポートとしてベボベを支えてくれた石毛だからこそできたコラボだ。そのサポートしてくれた日々があったからこそ、ベボベは止まらないバンドでいることができた。またその4人体制でのライブを見たかったとも思うし、ベボベは基本的にツアー中のセトリは変わらないバンドだけれど、KANA-BOONとの大阪で何をやるのかを観たくなってしまう。
そして関根の重いベースの音が響く中で、
「本当に今日はありがとうございました。Base Ball Bearでした」
と挨拶して演奏されたのは「祭りのあと」。間奏で関根がステージ中央に出てきて観客を煽るようにして大きく足を開いてベースソロを弾くカッコ良さも、その後の堀之内のリズムに合わせて観客が合いの手的な手拍子を打つ楽しさも15年くらい前からずっと変わることはないけれど、ベボベにとって祭りが終わるということは、また新しい祭りが始まるということ。
このアンコール前に開催が発表された、3年ぶりになる日比谷野音でのワンマン。完全抽選である野音を本当にどうやってこんなに引き当てているのかと思うくらいにバンドにとっては聖地と呼べる場所であり、だからこそ発表された時に観客からは驚きと喜びが声になって漏れてしまっていた。それも仕方がないと思うくらいにベボベが野音に帰還するのが嬉しいし、その1本のライブが決まったことをこんなにも喜んでいる人がたくさんいる。きっとその人たち(もちろん自分も)はこれからもずっとこうしてベボベと一緒に歳を重ねていくんだろうと思う。
小出は今まで交わらなかった両者の接点を、
「ロックに憧れて、その憧れが今も持続している」
と言っていた。本当に言語化するんならそれしかないというくらいの言葉であるが、そう思えるのは両バンドのブレーンである小出も田淵も、やろうとすればロックバンド以外の場所で生きていくことができるくらいの人間であり、実際にマテリアルクラブやQ-MHzというアウトプットの場所も持っている。
小出はヒップホップやアイドル、田淵はアニソンなど、ロックバンドだけを聴いているような人じゃない。でもどちらもライブのMCで今でも自身がやりたいのはロックバンドであるということを口にしてきたくらいに、ロックバンドへの憧憬を今でも追いかけ続けて、ロックバンドでしかできない音楽とライブを追求し続けている。だからこんなにも楽しいのにこんなにもバチバチに火花が散るような対バンライブを見せてくれたのだ。
同世代のバンドたちが今でもそうしてロックバンドの力を、魔法を信じ続けていて、それを体現してくれている。自分自身がロックに憧れ続けていることができるのも、ずっと見てきたバンドがそうした姿を見せてくれているからだ。ベボベもユニゾンも忘れられないライブはありすぎるくらいにたくさんあるけど、この日がその最新系であり、これから先も絶対に忘れられないライブになった。
何というか、何ができるのか、どこへ行けるのかは全くわかっていないけれど、まだまだできる、まだまだいけるって思える。同世代としてこの2組の存在を心から誇りに思っている。
1.17才
2.DIARY KEY
3.ポラリス
4.不思議な夜
5.short hair
6.プールサイダー
7.Tabibito In The Dark
8.十字架 You and I
9.The Cut
10.ドラマチック
encore
11.ライドオンタイム
12.祭りのあと
しかしながら今年にその対バンツアーは「Take 2」と題されて帰ってきた。名古屋:the telephones、大阪:KANA-BOON、東京:UNISON SQUARE GARDENという、今までバンドとしては交わって来なかった3バンドとのツアーであるが、大阪はKANA-BOONの古賀がコロナに感染してしまったことによって延期に。(それでも中止ではなくてすでに振替日程が決まっているあたり、両者にとって絶対にやりたいライブなのだろう)
なので元々はファイナルの予定だったこの日はツアー2本目に。
検温と消毒を終えてZepp Hanedaの中に入ると、座席は並んでいるものの、自由席という形。着いたタイミングではもう後方の席しか空いてなかったけれど、それくらいに平日でもたくさんの人が早い時間から来場しているということだ。もちろんチケットはソールドアウト。
・UNISON SQUARE GARDEN
この日のゲスト、UNISON SQUARE GARDEN。ベボベとは紛れもなく同世代(メンバーは関根史織と同い年)であるが、ここまで全く一緒にライブをやったりしたことがないだけに、こうしてゲストに発表されたのは実に意外であった。
19時になると場内が暗転し、おなじみのイズミカワソラ「絵の具」のSEが流れてメンバー3人がステージに登場。鈴木貴雄(ドラム)がパーカーを着ているのも、田淵智也(ベース)が不審な歩き方をして出てくるのも、爽やかという形容詞をそのままギター&ボーカルにしたかのような斎藤宏介もいつもと全く変わらない。
ユニゾンはツアー以外では毎回ガラッとセトリを変えてくるバンドであるし、なんならゴールデンウィーク期間中だけでアラバキ、ビバラ、JAPAN JAMと3回ライブを観た時も全てセトリが変わるというバンドであるだけに、この日もどんな曲を演奏するのか全く予想がつかないのだが、斎藤の目まぐるしいギターサウンドによって始まったのは、
「ああ 青春が止まらない」
という歌い出しが、もしかしたら「青春ギターロック」と評されることも多いベボベがまだまだ止まっていないということを示すメッセージなんじゃないかとすら思える「サイレンインザスパイ」であるのだが、そうした要素も実際に演奏されたからこそわかることであり、この曲がこの日演奏されるということを予想していた人が果たしていたのだろうか。田淵はコーラスも行うためにまだ動きは控えめであるが、その分照明が赤と青に目まぐるしく切り替わっていくのが視界に刺激を与えてくれる。
その田淵がベースを持ったままステージを駆け回るといういつもと変わらぬはしゃぎっぷりと、ベーシストとは思えないくらいの運動量を見せる「10% roll, 10% romance」はその田淵がサビの3連のリズムに合わせて頭や体を動かすのが観ていて実に楽しくなってくるのであるが、斎藤はやたらとイヤモニを気にしているような仕草を見せており、少し歌いづらそうにしているようにも見えるけれど、それでも歌声自体はいつもと全く変わらないレベルと言っていいだろう。
しかしながら斎藤のギターの性急なサウンドによる「オリオンをなぞる」へと、全く曲間を挟むことも、予感させることもなく突入していくと、鈴木が思いっきりドラムの手数と強さを増やしまくり、さらには叫ぶようにしてコーラスを歌う。彼がこのライブを本当に楽しみにしていたというのが本当によくわかるけれども、これすらもユニゾンにおいては通常営業とすら言えるものである。
それでも、斎藤がその「ボーカリストが弾くギターじゃないじゃん」というレベルのギターを弾きながら歌っている姿は、ベボベが3人になってから、かつては湯浅将平が弾いていたギターを自身で弾きながら歌っている小出の姿に重なるものも感じる。それが、あなたにもしわかるのならすごく嬉しいんだ、と思っていた。
するとスタッフが鈴木の頭にヘッドホンを装着して同期のピアノの音が流れるというのもまたおなじみの「mix juiceのいうとおり」では珍しく鈴木がそのスタッフに水を飲ませてもらうという場面もあったのだが、ライブの曲間が全くないバンドであるだけに演奏中にスタッフに飲ませてもらわないとドラマーは水を飲む時間すらないというささやかかつ微笑ましい瞬間が、ユニゾンの凄さをある意味では物語っているとも言えるだろう。この曲のキャッチー極まりないメロディはそうしたライブの光景を差し引いたとしても本当に見ている我々の心を弾ませてくれる。
「こんばんは、UNISON SQUARE GARDENです!」
とだけ斎藤が挨拶すると、昨今のユニゾンのライブでは珍しく観客が手拍子をするフレーズがあったり(それでもメンバーは一切そうしたことを煽ったりしないのがまたユニゾンである)と、次々に曲が展開してはサビで一気にキャッチーに解放されていく「フィクションフリーククライシス」と、もはやこの流れを予想しろというのが無理なくらいの曲が並ぶのであるが、そこに曲が変わるごとに流れがぶった切られるような違和感を全く感じさせないのが、さすがセトリおじさんこと田淵の手腕である。
一転してソリッドな、ストレートなギターロックバンドとしてのユニゾンを、やはりシンプルな照明が照らす様がカッコ良いと思わせてくれる「シューゲイザースピーカー」は、ベボベの持つ下北沢的なギターロックの要素をユニゾンも確かに持っている(インディーズ期は下北沢でもよくライブをやっていたし)ことを示すとともに、
「どんなヒットソングでも 救えない命があること
いい加減気づいてよ ねえ だから音楽は今日も息をするのだろう」
というフレーズが、これまでに息を止めてもおかしくないような経験をしてきたバンド=ベボベがこうしてこの状況でも息をし続けてきたことへの強い敬意を感じさせてくれる。それは考えすぎなのかもしれないけれど、それでも確かに歌と楽器の四重奏の音がそうした意識を感じさせてくれるのだ。
そんな中で田淵の動きがますます激しく&妖しくなっていく「世界はファンシー」では斎藤が「歌いながら弾くギターのレベルじゃない」ということの極地と言うような怒涛の言葉数の歌唱と、自ら
「My fantastic guitar!」
と歌って、思いっきりギターを立てるようにしてソロを弾き始めると、そのフレーズを斎藤に歌わせた張本人である田淵も斎藤の側に寄って、向かい合うようにしてベースを弾く。それに合わせるというよりもさらに際立たせるかのように鈴木は立ち上がって自身のバスドラに描かれたバンドロゴをスティックで擦るようにしたり、原曲以上にはるかにスネアの手数を多く叩きまくっている。曲を詰め込みまくることによって疲れるなんてことがないどころか、むしろ演奏するごとにさらに極まっていく感すらある感覚を感じることができるというユニゾンのライブの在り方は招かれた場でも全く変わることがない。
「Fancy is lonely.」
というフレーズで締められる曲であるだけに、鈴木が再びスタッフにヘッドホンを装着してもらうと、「弥生町ロンリープラネット」へと繋がるのかと思いきや、ここで「シュガーソングとビターステップ」を演奏してくれるというのは、全くそうした素振りは見せないけれども、ベボベのファンの人たちが知ってくれているであろう曲を演奏するというユニゾンなりの招いてくれたバンドのファンへの優しさなんじゃないだろうか。そんな少し感傷的になるようなことすらも、鈴木がおなじみのパーカーのフードを被って自ら視界を封じたままで叩くというスタイルのドラムの凄まじさと楽しさによって更新されてしまうのだけれど。
「ラスト!」
とだけ言うと、最後に斎藤がギターを鳴らし始めたのは「フルカラープログラム」であり、当初から全く招かれた側のバンドとしてのアウェー感がなかったのが、この最後でさらにホーム感を強くする。それは田淵がステージ端まで走り回りながら観客を指さすようにして演奏したり、最後のサビ前で鈴木が
「そうだ
涙キラキラ西の空に光る
モノクロでは説明できない完全無欠のロックンロールを」
という斎藤が歌うフレーズを強調するかのようにドラムの音を敢えて小さくしていた。そのフレーズが指す「完全無欠のロックンロール」をベボベが鳴らしているということを示すかのように。それは最後のサビが終わった後に田淵が袖の方を指差しながら、
「次、ベボベが出てきてキメてくれるから!」
と言っているかのように口を動かしている姿からも感じられた。
つまりは、いつもと全く変わらないユニゾンらしいライブでありながらも、そこには間違いなく同世代であり、先にメジャーの舞台に飛び出していった存在であるベボベから刺激を受けてきたことを感じさせるような、ベボベへの強いリスペクトが音から発せられていた。鈴木が立ち上がってキメを打って演奏を終えると、斎藤は
「次はBase Ball Bearです!」
とだけ言ってステージを去って行った。MCがないのもいつも通りだったけれども、間違いなくベボベの前にユニゾンがライブをやってくれて本当に良かったと思えた。4月にはユニゾン側の対バンツアーの仙台にベボベが出演するのも決まっており、近くを走っているように見えて全く交わらなかったこの2組は、これからさらに深い付き合いをしていくことになるんじゃないだろうか。鈴木の去り際の笑顔を見ていて、もしかしたら楽屋で同世代ならではの楽しい話をしたりしているんじゃないだろうか、なんて思ったりしていた。
何回見ても飽きないというか、飽きるわけがない。きっとこれから先、何十回、何百回ライブを観てもそう思うんだろうな。
1.サイレンインザスパイ
2.10% roll, 10% romance
3.オリオンをなぞる
4.mix juiceのいうとおり
5.フィクションフリーククライシス
6.シューゲイザースピーカー
7.世界はファンシー
8.シュガーソングとビターステップ
9.フルカラープログラム
・Base Ball Bear
ビックリするくらいに手際の良い転換を終えてステージが暗転すると、おなじみのXTCのSEが流れて、元気いっぱいにステージに駆け出してきた堀之内大介(ドラム)を先頭にベボベの3人が登場。出で立ちこそいつもと変わらないけれど、やはりワンマンのライブ開始時とはまた違う、ユニゾンのライブを観た後だからこその気合いをその表情から感じることができる。
「こんばんは、Base Ball Bearです」
と小出祐介(ボーカル&ギター)が挨拶した刹那に鳴らされたギターのサウンド。それはこれまでに数え切れないくらいに聴いてきた「17才」のものであり、近年はこうしてこの曲から始まるライブも多くなっているけれど、なんでこんなにも毎回心の奥の方がゾワッとするような感覚になるのだろうか。それはやはりあらゆる場所でこの曲を聴いてきた記憶や思い出がそのギターのストローク一発で甦ってくるからだろう。観客がリズムに合わせて手拍子をするのはコロナ禍になる前からずっと変わらないこの曲での客席の光景であるが、間奏でも堀之内が手拍子をするタイミングで口を動かしているのがさりげなく手拍子を煽っているかのようで実に微笑ましくなる。
ベボベは昨年にアルバム「DIARY KEY」をリリースし、中野サンプラザから始まったそのアルバムのリリースツアーも無事に完遂しているのであるが、そのアルバムのタイトル曲であり、ベボベが今でもデビュー時から変わらずに瑞々しいギターロックを鳴らしているバンドであることを示すような「DIARY KEY」は
「ifと畏怖があばれて 逃げたい夜
あふれて込み上げる詩を また書き殴っては」
というフレーズなど、小出の詩情や作家性が今なお進化し続けているというくらいの言い回しと言葉選びっぷり。その視点を持てているというのはやはりずっと若者のままというわけではなく、様々なことを経験して大人になったからなんだよな、とも思う。
「UNISON SQUARE GARDENのファンの人からしたら、「ベボベのボーカルの人喋り過ぎててwww」って言われるかもしれない(笑)」
という通りに、全くMCがなかったユニゾンとは対照的にここで早くもMCが入るというのもまたベボベらしさでもある。
「ユニゾンの皆さんは同世代で。関根さんと同い年で、私と堀之内さんの一個下。同じ時期に下北沢とか渋谷でライブをやってきたバンドだろうに、こうも違うバンドになるかと(笑)
今日リハからずっと見させてもらってましたけど、構造も曲作りのやり方もライブの作り方も全く違う。ユニゾンは凝縮されまくりっていうバンドですけど、我々ははみ出してはみ出して…っていうバンドなんで。そんな我々のはみ出しっぷりを堀之内さん、見せてやってください」
と、近年のワンマンでは自身を評する上手さを遺憾なく見せてきた小出は他のバンドを評する、そして自分たちと対比するのも実に上手いし、そこには自分たち自身への深い客観性が備わっているからであるというのもわかるのだが、早速そんなユニゾンとは同じスリーピースのロックバンドでありながらも全く違うということを示すのが、小出から堀之内、そして関根史織(ベース)へと「3」にまつわるフレーズのボーカルをリレーしていくことによって、3人での再出発を力強く宣言した「ポラリス」。
「イーグルとシャークとパンサーか
ファルコンとライオンとドルフィン」
という、未だに子供心を失わない(体はかなり横に大きくなったけど)彼らしい歌詞と、自身の歌うフレーズの最後を叫ぶ堀之内、
「街と海と私の三角関係
三部作くらいじゃ終わりそうもない」
とバンドの過去の歌詞の引用フレーズを歌う関根と、ベボベらしいはみ出しっぷりが炸裂している曲である。
ユニゾンが「この曲やるの!?」というような曲をやるのは驚きもあるけれど、それでもユニゾンというバンドはライブのセトリが「これまでにリリースしてきた曲=セトリの選択肢」と言えるくらいにいつでもどんな曲でも演奏できる準備が出来ているバンドであるから予期せぬセトリが来るのもみんなわかっているのだが、対してベボベはツアー中はもちろん、フェスやイベントでもそうそうやる曲が変わらないバンドである。
それだけに割といつもライブで演奏している曲(ここまでの3曲は割とそうしたタイプの曲だ)が演奏されるのだろうと思っていたが、そんな予想を良い意味で裏切ってくれるのは実に久しぶりの演奏となった「不思議な夜」。この曲が収録されたアルバム「C2」のタームはまだ編成的には4人だったが、あのアルバムで獲得したリズム隊の2人のグルーヴが今に至るベボベの大きな武器になっているということが今になるとよくわかるし、交わりそうでいて今まで交わらなかったこの2組が一緒にライブをやっているこの夜こそが不思議な夜であると思えてくるし、それを意識しての久しぶりの選曲なんじゃないかとも思える。
堀之内の軽快な、彼の人柄がその短いフレーズからも感じられるイントロのビートから続くように小出がギターを鳴らして歌い始めたのはバンド屈指の名曲である「short hair」で、
「オーイェー!」
と曲中で声を張り上げる小出に呼応するように客席からはたくさんの腕が上がるのであるが、それに続くまだバンドがこうした経歴を歩むことになるとは思っていなかった、
「変わり続ける君を、変わらず見ていたいよ」
というフレーズは、変わらなかったユニゾン(ライブのやり方やバンドの意識は変わりながら、固まりながら進んできたけれど)との対バンだからこそ、変わらざるを得なかったベボベをこうして今も見続けていられることの幸せと喜びを感じさせてくれる。それは続く
「たくさん失う 時がながれゆく
それでも僕は、君を待ってる」
というしみじみせざるを得ない名フレーズもまた同じだ。今のベボベのライブは本当にファンがみんなこのライブを待っていた、この日を楽しみにして日々の生活を頑張ってきたというのが実によくわかる。それは登場時や曲間での観客からのバンドへの拍手の大きさや長さに表れている。
「DIARY KEY」リリース前から新たなバンドのアンセムの一つになる予感を感じさせていた「プールサイダー」での、まさにプールサイドで撮影されていたMVの清冽感を感じさせるような青い照明がメンバーを照らす中での、サビの堀之内と関根も声を合わせるコーラスも含めた小出の言葉数を詰め込みまくる歌唱は「あんなのできない」と言っていたユニゾンの曲やライブに確かに重なる部分を感じる。もちろんテンポなどは全く違うけれど、ずっと見てきた身としても特に3人になってからの小出の歌唱とギターも他の人がやろうとしてもできないレベルのものであるよなぁと思う。
そんな中でセッション的な演奏から一気にダークなサウンドのイントロへと繋がっていく「Tabibito In The Dark」は実に久しぶりにライブで聴いた曲であるのだが、サビ前でのブレイクのタメが「こんなに長かったっけ!?」と思うくらいに練り上げられたものになっているし、それがより一層サビでの爆発力につながっている。
「踊れ 踊れ 何もかも忘れて 踊れ 音の中で
笑え 笑え すべてを振り切るように 笑え いま dance and dance」
という歌詞に呼応するかのように、観客は椅子がある状態でもより一層、まさに音の中で踊りまくっている。それによって「暑い」という感覚が確かに感じられた。武道館やホールなどでも数々ライブを行ってきているけれども、この「暑い」という感覚はベボベがライブハウスのバンドであるということをこの状況下でも確かに感じさせてくれる。
それはユニゾンのメンバーたちを
小出「凄く明るい人たちなんだろうなって。そうじゃなきゃあんなに元気な曲や演奏はできない」
と評した後に、
関根「ユニゾンのライブやってるのを見て、歳を取っても落ち着いた大人っぽい演奏にはなりたくないなって思った。ずっとキッズみたいな演奏をしていたい」
と言ったことにも現れている。小出が
「もう40代に差し掛かりつつある」
と口にした時にはかなりハッとさせられたけれど、それでもベボベのライブから感じられる熱さは全く変わることはないし、これからも変わらないんだろうなと思う。何よりも、自分自身が関根と同じように「キッズみたいにライブを楽しみたい」と思えるのは、お互いに学生の年齢だった頃から変わらずにそうしたライブを見せてくれているベボベのような存在がいるからだ。
そのロックバンドとしての熱さをベボベなりの曲と演奏という形で見せてくれるのは、小出がカッティングギターを刻みまくりながら歌うファンキーなサウンドの「十字架 You and I」だ。かつてはメンバーのダンスセクションであった間奏では、それがなくなった寂しさを一切感じさせないくらいに小出がギターソロを弾きまくり、それに続くように関根もベースソロを弾くと、堀之内の一打一打も小出のシャウトと言っていいようなボーカルもさらに激しさを増していく。
そのファンキーさがそのままバンドのグルーヴになっているのは、小出がマイクを片手で持ち、ベースを弾く関根と向かい合うようにしてラップする、こちらも久しぶりの「The Cut」であるが、この曲は盛って隙間を埋めて…という方法論のスリーピースバンドであるユニゾンとは対照的な、削って削ぎ落としてリズムだけでグルーヴしていくスリーピースバンドとしての形を見つけたベボベならではのものだ。ともに15年以上に渡ってシーンの最前線を走り続けてきたバンドは、やはり自分たちなりの戦い方をしっかり持っているし、そこにヒップホップを加えることができたという意味でこの曲が生まれたのは本当に大きかったと思うし、そのグルーヴが練り上がっていくことでサビでの爆発力がさらに凄まじいものになっている。RHYMESTERのラップパートと自身のボーカルパートを全て1人で歌い、ギターまで弾く小出はやはり小出なりに本当に凄いと何回見ても思う。
そして、
「今日はありがとうございました。Base Ball Bearでした」
と言って最後に演奏されたのは、まだまだ寒い日が続く中でも暑いライブハウスの客席をさらに熱く燃え上がらせてくれるベボベの夏ソング「ドラマチック」。少しキツそうにも感じるけれど、それでも声を振り絞って歌う小出の姿はどこか、絶対真似できないけれど、それでも自分なりに負けたくないというユニゾンのライブを観た後だからこそ引き出された力を確かに感じさせた。それは文化系の代表格的な感じすらあるベボベが実は体育会系的なマインドでバンドを動かしてきたことを感じさせるとともに、去年の夏は聴けなかったこの曲を、今年の夏はいろんな場所で聴けますようにと思った。
誰かと運命的な出会いをするみたいな特別なことはなくていい。ただただ夏の野外フェスでベボベのライブが見れてこの曲が聴ける。それだけで自分の夏は何よりもドラマチックなものになるのだから。
アンコールで再び3人がステージに登場すると、
「スポーツ選手のユニフォーム交換のようなもの」
と、バンド名にBase Ballを冠しながらも野球をはじめとしたスポーツのルールすら曖昧な小出が珍しくスポーツで例えたのは、まさにこのライブが両者の試合であるかのような真剣さだったからであろうけれど、その言葉が意味するのは
「ボーカルのキーも演奏の手数も最初から真似しようとしないくらいに絶対に無理なんで、メロディとコードを抽出してガチアレンジした」
というユニゾン「ライドオンタイム」のカバーという、対バンライブだからこそのパフォーマンスでありサービスであった。
ユニゾン版の原曲ではいきなりジェットコースターの急降下部分から始まるようなアッパーさが炸裂する曲なのだが、そこは小出の言っていた通りにベボベなりのシャープなギターサウンドと、テンポを落としたシンプルなリズムに変換されており、イントロを聴いてもこの曲だとはわからないだろうというくらいに生まれ変わっているのだが、サビでコーラスを関根と堀之内も口にしながらも、おそらくは小出が自身のコーラスを重ねているであろうというくらいのまさにガチアレンジは、
「トリビュートアルバムとか出す時は絶対呼べよな!(笑)」
と小出がステージ袖に向かって叫ぶほど。ちなみにこのステージ袖に向かって叫ぶというやり取りはこの日数え切れないくらいに行われていたのだが、カメラが回っていただけにおそらくはこのライブはなんらかの形で映像化するだろうけれど、その際は絶対にこのカバーを入れてもらいたいと思うくらいである。ベボベの対バンライブがあまりに久しぶり過ぎて、こんなことをやってくれるなんて全く想像すらしていなかった。
で、この日こうしたカバーをやったということは4月のユニゾン側が主催する対バンツアーの仙台ではこのベボベからもらったユニフォームをユニゾンが返すという形が見れるんじゃないかということに加えて、名古屋では何をやったんだろうか、大阪では何をやるんだろうかというのが、どちらの対バン相手も大好きなバンドであるだけに気になって仕方がないのだが、名古屋のthe telephonesの時には石毛輝がギターで参加して「changes」をコラボ演奏したという。
それは湯浅が突如として居なくなってしまった時にサポートとしてベボベを支えてくれた石毛だからこそできたコラボだ。そのサポートしてくれた日々があったからこそ、ベボベは止まらないバンドでいることができた。またその4人体制でのライブを見たかったとも思うし、ベボベは基本的にツアー中のセトリは変わらないバンドだけれど、KANA-BOONとの大阪で何をやるのかを観たくなってしまう。
そして関根の重いベースの音が響く中で、
「本当に今日はありがとうございました。Base Ball Bearでした」
と挨拶して演奏されたのは「祭りのあと」。間奏で関根がステージ中央に出てきて観客を煽るようにして大きく足を開いてベースソロを弾くカッコ良さも、その後の堀之内のリズムに合わせて観客が合いの手的な手拍子を打つ楽しさも15年くらい前からずっと変わることはないけれど、ベボベにとって祭りが終わるということは、また新しい祭りが始まるということ。
このアンコール前に開催が発表された、3年ぶりになる日比谷野音でのワンマン。完全抽選である野音を本当にどうやってこんなに引き当てているのかと思うくらいにバンドにとっては聖地と呼べる場所であり、だからこそ発表された時に観客からは驚きと喜びが声になって漏れてしまっていた。それも仕方がないと思うくらいにベボベが野音に帰還するのが嬉しいし、その1本のライブが決まったことをこんなにも喜んでいる人がたくさんいる。きっとその人たち(もちろん自分も)はこれからもずっとこうしてベボベと一緒に歳を重ねていくんだろうと思う。
小出は今まで交わらなかった両者の接点を、
「ロックに憧れて、その憧れが今も持続している」
と言っていた。本当に言語化するんならそれしかないというくらいの言葉であるが、そう思えるのは両バンドのブレーンである小出も田淵も、やろうとすればロックバンド以外の場所で生きていくことができるくらいの人間であり、実際にマテリアルクラブやQ-MHzというアウトプットの場所も持っている。
小出はヒップホップやアイドル、田淵はアニソンなど、ロックバンドだけを聴いているような人じゃない。でもどちらもライブのMCで今でも自身がやりたいのはロックバンドであるということを口にしてきたくらいに、ロックバンドへの憧憬を今でも追いかけ続けて、ロックバンドでしかできない音楽とライブを追求し続けている。だからこんなにも楽しいのにこんなにもバチバチに火花が散るような対バンライブを見せてくれたのだ。
同世代のバンドたちが今でもそうしてロックバンドの力を、魔法を信じ続けていて、それを体現してくれている。自分自身がロックに憧れ続けていることができるのも、ずっと見てきたバンドがそうした姿を見せてくれているからだ。ベボベもユニゾンも忘れられないライブはありすぎるくらいにたくさんあるけど、この日がその最新系であり、これから先も絶対に忘れられないライブになった。
何というか、何ができるのか、どこへ行けるのかは全くわかっていないけれど、まだまだできる、まだまだいけるって思える。同世代としてこの2組の存在を心から誇りに思っている。
1.17才
2.DIARY KEY
3.ポラリス
4.不思議な夜
5.short hair
6.プールサイダー
7.Tabibito In The Dark
8.十字架 You and I
9.The Cut
10.ドラマチック
encore
11.ライドオンタイム
12.祭りのあと
今日も最初で最後。 出演:ハルカミライ / Hump Back / KOTORI / FOMARE @日本武道館 3/4 ホーム
明日に架ける橋 2022 GLIM SPANKY / Rei / ROY(THE BAWDIES) / 伊吹文裕(ds) / 鈴木正人(b) / 西田修大(g) / ハタヤテツヤ(p) MC:みのミュージック @豊洲PIT 2/23