フレデリック × 須田景凪 「ANSWER」 @Zepp DiverCity 2/6
- 2022/02/07
- 19:24
この日の2日前にツアーファイナルを終えたばかりというフレデリックが早くもライブを行うのは、そのツアーでも重要な位置を担っていた曲である「ANSWER」が同じ事務所に所属するシンガーソングライターの須田景凪とのコラボ曲としてリリースされたものであり、この日がその須田景凪との2マンでのライブだからである。
すでに年末に大阪でのフェスで「ANSWER」のコラボは実現しているが、それでも間違いなくそのコラボが見れるというのは貴重な機会である。
2日前のZepp Hanedaは1階席がスタンディングの立ち位置指定だったが、この日は椅子が敷き詰められた全指定席。先日この会場で行われたTHE BAWDIESの時はドリンクにビールがあったのだが、この日はソフトドリンクのみである。
・須田景凪
でフレデリックとはギターとベースが逆(というかフレデリックが特殊なのだが)というステージのセッティングを見るだけで先攻が須田景凪であるということがわかる。
ボカロP・バルーンとして「シャルル」などの大ヒット曲を持っている存在でもあるのだが、まだそう多くはないライブはバンド編成で行われているということは知っていたが、ステージ上も完全なフォーピース編成である。
薄暗い中にサポートメンバーが先に登場し、最後に須田景凪本人であろうシルエットがステージに現れるのがわかると、ステージ中央のマイクスタンドのマイクを手にして、昨年リリースのアルバム「Billow」収録の「MOIL」を歌い始めるとステージに照明があたり、左右に置かれた塔のような建造物やその上にかかるアーチがどこかパリのような雰囲気を醸し出していることに気付く。バンドメンバーはギターがモリシー(Awesome City Club)、ベースが雲丹亀卓人(Sawagi)、ドラムが矢尾拓也(ex.パスピエ)という凄腕かつ自分にとっても馴染みの深い面々で、最初はじっくりと須田景凪の世界に浸るように歌っているのが、
「大人になった 大人になってしまったみたいだ
左様なら 違う世界に交わる 雲にでもなりたい
明日がいつか 記憶になって 些細な言葉になる前に
今、募るこの想いを あなたへと伝えたい」
というサビのフレーズでは一気に照明が明るくなるとともにサウンドも開けていくのだが、そのサビで重なるモリシーと雲丹亀のコーラスがライブにおける重要な役割を担っていることがわかるとともに、須田景凪のライブが「この4人でのバンド」という感覚を強く感じられるものであることがわかる。
それは須田景凪がギターを弾きながら歌う「ANSWER」の音源でフレデリックがカバーした「Veil」でのギターロックでしかないバンドサウンドからもわかるのだが、いつの間にかステージ背面には幕が降りてきており、そこにアニメーションの映像が投影されているというのはまるで須田景凪のワンマンに来たかのような演出である。
さらに須田景凪としての1stアルバム「Quote」に収録された「レド」とアッパーなギターロック曲が続くのだが、こうした性急なリズムの曲の、特に声を強く張るような部分ではまだ少し歌唱がキツそうなようにも感じた。どこか声そのものにヴェールがかかった、でも須田景凪でしかないその魅力的な、自分からしたら「なんでこんな声を持っていながらにして最初から自分で歌おうとせずにボカロPとしてキャリアをスタートさせたんだろう?」と思ってしまうようなそのボーカルは、まだライブにおける筋力をフルに発揮するには至っていないように感じた。
しかしだからといってライブが良くないかと言われればそんなわけでもないというのが、再び須田景凪がハンドマイク歌唱となる「Billow」の1曲目に収録されている「Vanilla」での、雲丹亀がサビでシンセベースになるというサウンドをその曲ごとに最適な形に切り替えて演奏することができるメンバーの演奏力の高さによってわかる。なんならこの前のギターロック感の強い曲で歪んだギターを弾くモリシーの姿を見て、「こんなサウンドを鳴らすモリシーの姿が見れるとは!」と思うくらいにAwesome City Clubのライブではなかなか見ることができない姿も見れるのだが、それも含めて1人だけで作った音楽が信頼できるプレイヤーたちの手によって今、生で鳴らされているものになっている。そこにはこの3人の須田景凪の音楽への圧倒的な信頼があるからこそだ。
「人生初の2マンライブが、ずっと聴いてきたフレデリックとのものになるなんて」
と感慨を滲まさせた須田景凪の喋り声が歌唱時よりもずっと低いキーであるということには少し驚いてしまったが、それが逆に須田景凪の歌声の特殊さに納得させられるというか、そういう歌い方をしようとしてそうなっているのではなく、歌うと自然にそういう声になるという、歌うということを宿命づけられた人であることがわかるのだ。
モリシーがアコギに持ち替えて、そのアコギの音と須田景凪の歌という弾き語り的な形で歌い始めたのは、ここまでの流れと一転してバラード曲と言っていい「はるどなり」であるが、この曲がリリースされる前に、ドラマ主題歌として起用されるという宣伝映像みたいなもので初めて耳にした時に、声は明らかに須田景凪であるとわかるのだが、まさか地上波のドラマ主題歌になるような曲が生まれるとは、と驚いたし、何よりもメロディと歌詞の親和性も含めて本当に美しい曲だと思った。そうしたオーバーグラウンドな、なんならドラマ主題歌であることも含めて、お茶の間でたくさんの人に聴かれるような曲であると。ボカロPというそのシーンが好きな人が聴く存在には留まらないところにまで行ったんだなと思ったし、それはライブで、目の前で鳴らされて歌うことによってより美しさをダイレクトに感じることができる。それは春がもうすぐそこまで来ているんじゃないかという実感を伴って。
「僕はずっと「テイルズ」シリーズをやってきたんですけど、そのエンディングテーマを担当させていただくことができて、しかもオープニングをずっと聴いてきたフレデリックが担当していて、一緒に関わることができて本当に幸せです」
と言って演奏されたのは「ANSWER」に新曲として収録された「リグレット」で、ボカロPとしてではなく、今の生身の須田景凪としてのギターロックというイメージが強い曲なのだが、世代的に「ゲームのエンディングテーマとは?」と思ってしまうくらいにどういうタイミングでこの曲が流れるのかもわからないし、テイルズシリーズをプレイしたこともないので、エンディングにこんなにロックなサウンドの曲が流れるものなのか、とも思う。
そして須田景凪が
「さよならはあなたから言った それなのに頬を濡らしてしまうの」
とアカペラで歌い始めた段階でたくさんの観客の腕が上がり、Aメロでは手拍子が響く。バルーンとして放った「シャルル」の本人歌唱バージョンである。改めてこんなに歌えるならなぜ最初から自分で…とやはり思ってしまうのだが、どれだけカラオケランキング1位になったり、再生回数が上位になったとしても、なかなか実際に本当にそんなにみんながこの曲を聴いていたり、歌ったりするのかはわからない。誰かとカラオケに行くこともほとんどないし、TVに本人が出て歌うこともほぼないからこそ実感がなかなか湧きづらかったのだが、この日初めて目の前で須田景凪がこの曲を歌って、それを聴けた、見れたということを本当に喜んでいる人がたくさんいる光景を見て、ああ、本当にそうしてたくさんの人に聴かれていて、大事な存在の曲になっているんだなということがようやくわかった。それは本当の意味で須田景凪が自分にとってPCの中のバルーンではなくて、目の前で歌い、音を鳴らす須田景凪というリアルなミュージシャンになった瞬間だった。
さらにアニメーションではないMVが公開された時にも話題になった「パレイドリア」と、終盤はアッパーな曲が続くことによって、客席は「熱い」という感覚を感じるようになる。ステージの熱気が確かに椅子があるとはいえ、客席にも伝わってきているし、雲丹亀はキメでベースを抱えてジャンプしたりと、バンドメンバー側もさらに熱いパフォーマンスを見せてくれる。
その雲丹亀の姿を見てモリシーが笑っていることも含めて、それは本当にこの4人でのバンドという感覚を強く感じさせてくれるのであるが、アウトロでは須田景凪が
「踊ってない夜を知らない 踊ってない夜が気に入らない」
とギターを鳴らしながらフレデリック「オドループ」のサビを実に自然に歌ってみせる。そこからはフレデリックへの敬意と、本当にずっとフレデリックを聴いてきたんだなというリスナーとしての愛が確かに溢れていた。
そんなフレデリックへの思いを
「2013年とか2014年くらいからずっと聴いていて。だからこうして一緒に曲を作るのも、一緒にCDをリリースするのも、今日みたいに一緒にライブができるのも本当に信じられないっていうか。初めての2マンがフレデリックとで幸せです。僕もこの後にステージ袖あたりでライブ見てると思うんで、フレデリックのライブを最後まで楽しみましょう」
と言うと、再び幕がステージ背後に現れて、そこにアニメーションのMVとともに歌詞が次々に投影されるという演出とともに演奏されたのは、セルフカバーバージョンが昨年末に配信リリースされた「パメラ」。
サウンドとしては高速のダンスロックという実にボカロミュージック的なものであり、正直自分はボカロとしてのそうした音楽があまり得意ではないのであるが、この日演奏された「パメラ」はMVに「音楽・バルーン」と表示されてはいたけれど、矢尾の高速リズム、やはりキメでジャンプを繰り返す雲丹亀、自身のバンドではまずやらないタイプの曲を実に楽しそうに演奏しているモリシーという3人によって、バーチャルなボカロ曲ではなくて、リアルなバンドとしてのロックに昇華されていた。間違いなくそれこそが、須田景凪がライブアーティストとして求めたものだ。去り際に本人以上に、今や紅白出演アーティストとなったモリシーが本当に楽しかったであろう笑顔を浮かべてステージから去る姿には、これからの須田景凪のライブへの限りない可能性を感じさせた。
多分、これは須田景凪としてデビューした時からいろんな人に言われてきたことだとも思うし、ファンの方からしたら名前を出して比較するなと思われるかもしれないけれど、ライブを見ている時に自分は米津玄師がライブハウスでライブをしていた「Bremen」期までのことを思い出していた。
ボカロPとしての曲をバンドで演奏することも、まだライブ経験の浅い本人を経験豊富かつ凄腕のメンバーたちが支えている構図も、すぐにこの規模じゃ見れなくなるんだろうなという予感も、あらゆる意味であの頃を思い出していた。それはやはり米津玄師も当時はまだボーカリストとしての力をライブで100%以上発揮しているとは言えない頃だったから。
でもそれは幸せなことでもある。例えば自分はフレデリックを「うちゅうにむちゅう」リリース時に知ったが、それ以前のライブを見たことがない。どんなライブをやっていたかも知らないし、今からそれを見ることはどうやってもできない。
でもきっとバルーンから須田景凪を聴いてきた人は、こうしてライブを始めた時、目の前の人に向けて歌い始めた時の姿を見ることができているし、これからライブアーティストとして成長していく姿を、自分たちが年齢を重ねていくのと同じように見続けていくことができる。それは実に羨ましいことでもある。
なかなかライブがしづらい状況ではあるけれども、この2マンをはじめとして、きっとこれから出演するようになるいろんなフェスでも他のアーティストのライブを見て悔しい思いだってたくさんするはず。でもそうした思いがさらにライブアーティストとして成長する糧になる。この日初めて見た須田景凪のライブは、自分もこれからその成長を目にすることができたら、と思えるものだった。
1.MOIL
2.Veil
3.レド
4.Vanilla
5.はるどなり
6.リグレット
7.シャルル
8.パレイドリア 〜 オドループ
9.パメラ
・フレデリック
ビックリするくらいに早い転換(双方のスタッフの方々の仕事の素晴らしさたるや)を経て、2日ぶりのフレデリック。ツアーを終えたばかりということ、持ち時間がワンマンの半分以下ということがどういうライブになるのか脳内で予想したりもするけれども、実に楽しみであることに変わりはない。
ツアー中と同じSEで4人がステージに登場するも、ツアーと違うのは三原健司(ボーカル&ギター)がハンドマイクではなくてギターを持っていること。つまりオープニングがツアーでの「飄々とエモーション」ではないことがこの段階でわかるのだが、
「40分一本勝負、フレデリックはじめます!」
と健司が挨拶すると、ツアーでは「2022年のフレデリックを担う曲」として本編最後に演奏されていた「TOMOSHI BEAT」からスタートするという意表をつくものであり、その灯火のごときビートを担う高橋武(ドラム)は曲中に立ち上がって観客を煽るようにしてバスドラを踏み続ける。その姿に持ち時間が短いからこそ最初から突っ走るというバンドの気概を感じる。
それはやはり高橋のドラムの連打から始まり、健司、赤頭隆児(ギター)、三原康司(ベース)の3人がドラムセットの前に集まって向かい合うようにして音を鳴らし、赤頭がぴょんぴょんと飛び跳ねまくる「KITAKU BEATS」においてもそうなのだが、特に健司の歌唱はもちろん声の伸びも素晴らしいのだが、それ以上にツアーで聴いた時よりもさらに強く感情を込めるようにして歌っているというのがひしひしと伝わってくる。目の前で須田景凪が名曲連発の良いライブを見せてくれたからこそ、より燃え上がっているというか、後に出る立場として絶対に塗り替えてやるという負けず嫌いさがそのままバンドの演奏をさらに強く、熱くしているのがよくわかる。
その「KITAKU BEATS」のアウトロからそのまま繋げるようにイントロへと至るのはやはりツアーではアンコールで演奏されていた、和田アキ子への提供曲である「YONA YONA DANCE」のセルフカバーバージョンなのだが、ただ曲順を変えるだけではなくて、そうして曲順を変えるとともに曲間の新しいアレンジを施して演奏しているというのをツアーが終わってからわずか2日で実践しているというのが本当に凄まじいというかビックリしてしまうし、そうしたアレンジをすることによって、この日だけの忘れられない記憶になる。それはもちろん
「ミラーボール輝いて 心照らしあっていく
暴き出して頂戴表情を」
というフレーズに合わせて客席頭上のミラーボールが輝くという演出も含めてであるが、
「心踊れない毎日なんて 私気に食わないわ」
というフレーズの通りに、こうして体だけではなく心までも踊れる日がないともう生きていけないな、とすら思ってしまう。それは
「音楽大好きだっていう人は手をあげてもらっていいですか!」
という問いかけに思いっきり高く腕を上げて応えるようなタイプの人間だからだ。ツアーとは違うタイミングで手拍子が起こるのもまた曲順とは違った形で新鮮な気持ちにさせてくれるし、それはワンマンではないライブならではだろう。
すると健司は
「須田景凪君がフレデリックのことを知ってくれたきっかけの曲をやります。インディーズの頃の曲ですが」
と言うと、ワンマンでもやっていなかった「峠の幽霊」の幽玄なサウンドをバンドが奏で始める。双子ながらに健司とは全く違うタイプの康司のボーカルもその曲の持つ雰囲気を助長しているが、CDJではやっていたとはいえ、ツアーでセトリに入っていなかった曲をこうしてすぐにセトリに入れることができるフレデリックの周到さたるや。やはり個人的にはこの曲をライブで聴くたびにコロナ禍になる直前の2020年2月の横浜アリーナでのワンマンのことを思い出して、何もかもが変わってしまった世界になってしまったなと切なくもなってしまうのだが。
そんな思いを抱いている間に一瞬の曲間を利用してステージにはシンセベースが運び込まれ、康司はベースからスイッチし、健司もギターを置いて自身の前に置いてある台の上に立ち、
「この流れで新曲やってもいいですか!」
と問いかけると、演奏されたのは3月リリースのフルアルバム「フレデリズム3」収録曲にしてこの翌週に配信されることが決定している新曲「Wanderlust」。やはり編成的にも康司のうねるようなシンセベースのサウンドと、そのシンセベースでヴォコーダーをかけているかのような康司のボーカルが印象的な曲であるが、ハンドマイクで歌うことによって健司のボーカルの伸びやかさやボーカルとしてのオーラの強さもここまでで最も感じられるものになっている。
「音楽で旅しませんか!」
とテーマを問うあたり、歌詞の詳細な内容も気になるところである。
「須田くん、ワンマンかと思うくらいに映像の演出入れて本気やったな」
と健司は須田景凪のライブの感想を口にしていたが、この曲ではフレデリックもツアーで使っていた金の幕に光が乱反射して様々な色の光が輝くというワンマン同様の本気の演出も。ツアーが終わったら赤頭が持ち帰ってカーテンにするという話は延長されたのだろうか。
そのまま健司がハンドマイクで歌うのは一転してハンドマイクだからこそ自由にステージ上を動き回りながら歌うことができるというのをカラフルなサウンドの上で示す「Wake Me Up」であるが、リズムに合わせて観客も飛び跳ねまくり、康司もベースを上下に揺らしながら弾くという踊るような演奏を見せ、さらに間奏で一気にサウンドがラウドになると健司、赤頭、康司がドラムセットの前に集まって合わせるように音を鳴らし、その瞬間を終えて元の位置に戻ると赤頭はその場で目が回ってしまうんじゃないかと思うくらいにグルグルと回りながら演奏する。その姿からこのライブを心から楽しんでいるということが伝わってくる。
そして高橋の疾走するようなビートが曲と曲を繋げながら、
「みんな多分次の曲は知ってるはず。だってさっき須田君が歌ってくれてたから!」
と健司が口にして演奏されたのはもちろん須田景凪が「パレイドリア」のアウトロでサビのフレーズを歌っていた「オドループ」。
再生回数1億回を超えたこの曲、その1億回のうちに同じ人が何回も再生しただろうし、自分自身これまでに数え切れないくらいに見てきたほとんどのフレデリックのライブで(たまにフェスなどではやらない日もある)聴いている。なんなら2日前にだって聴いている。それくらいに聴いても飽きることがないどころか、やっぱりイントロで赤頭のギターの音が鳴るとそれまでよりさらにテンションが上がる。つまりは数え切れないくらいに聴いてもまだまだ体が、心がこの曲を求めている。そう思える曲というのが後世にも残っていく名曲、アンセムと言えるんじゃないかと思う。
その「飽きない」というのをライブで実感させてくれるのが、高橋がこの曲でもところどころで手数を増やしたり、強く叩いたりするというアレンジを加えてくれるからであるが、それは2日前に見た時とも違う、この日だけの、この日のテンションでの「オドループ」になっていた。それはきっとこれからもまた違うライブアレンジでこの曲を何度聴いても新鮮な気持ちで向き合わせてくれるということである。そのこの日だけのテンションというのは高橋だけでなく、
「2マンやけど絶対負けられない戦いがここにあると思ってます!」
と曲中に口にした健司も、両サイドでその言葉を聴いていた赤頭と康司もそうだろう。明らかにツアーとはまた違った種類の気合いが漲っていたし、フレデリックはまだ小さいライブハウスが主戦場だった頃から対バン企画をたくさん組んでいたが、そうした場で他のアーティストのライブを見て自分たちが奮い立ち、成長してきたんだよな、というバンドであることが久しぶりに見た2マンのライブが思い出させてくれる。
その「オドループ」ではやはり間奏で赤頭がステージ中央で思いっきり体を逸らせてギターソロを弾いていたのだが、演奏後には健司が
「ごめん、ギターソロ中に袖で須田くんがめちゃ踊ってたから、そっちばかり見てた(笑)」
と、まさかのギターソロを見ていなかったことを打ち明けるのだが、それはきっとギターソロ中に笑顔で袖の方を見ていた高橋もそうだろう。
そんな2マンライブでのフレデリックのライブの本編の最後。ツアーの本編最後を担っていた「TOMOSHI BEAT」も、アンコールで演奏されていた「YONA YONA DANCE」も、これまでに何度となくその位置を任されてきた「オドループ」もやった。ではここで一体何の曲を?と思っていたら、健司が
「思い出にされるくらいなら 二度とあなたに歌わないよ」
と「名悪役」を歌い始める。ああ、この曲があった。こんなに最後を担える力を持った曲がまだ残っていたことにも驚くが、そんな曲すらもツアーでは前半に演奏していたということにも、ツアーを終えた直後だからこそ驚く。
歌い始めのフレーズではそう歌っているが、健司は演奏前に
「これから先もこの日にフレデリックと須田景凪の2マンを見れたなっていうのがみんなの中で良い思い出として日々を生きる力になってくれたら」
と言っていた。その言葉の中の「良い思い出」というのは過ぎ去ってしまったものではなくて、常に現在進行形で力を与え続けてくれるものということ。そしてそれはこれからもこうしてフレデリックのライブに来ることで更新され、増え続けていく。フレデリックというバンドの凄さを改めてさらに思い知ったこの週末だった。
アンコールで再び4人がステージに現れる。それはそうだ、この日絶対にやらなければならない曲をまだやっていないのだから。というわけで須田景凪を呼び込むと、
健司「須田くんとは知り合ってからはまだ数年だけど感覚が似てるっていうか。音楽だけじゃなくてゲームとか漫画とかも俺が好きなのだったら好きになってくれるだろうし、須田くんがオススメしてくれたものだったら俺も好きになるものだろうし…」
とこのままだと終わらないくらいの相思相愛っぷりとなってしまうので、話をそこそこに切り上げて曲の演奏へ。その曲はもちろんコラボ曲である「ANSWER」。フレデリックのツアーでもアンコールの1番最後にフレデリックのみのバージョンで演奏されていたが、須田景凪がまだ歌わずにステージに立っているというだけで、Aメロのリズムなどは須田景凪の持つボカロ由来のものにも感じられるから不思議であるし、そこにこそこの2組によって作られた曲を2組が揃って演奏することによるマジックがあるのだと思う。
それは健司と須田景凪が分け合うようにして歌うサビで最も強く感じられるものだ。お互いがお互いの歌唱を聴いて、もっと良い歌を歌いたいと思い、それがどこまでも歌の力を高めていく。フレデリックがツアーで演奏していた単独バージョンでも完全に完成しているという感じだったけれど、その完成度とはまた違う、なんなら同じ曲なのに須田景凪が加わることによって別の曲を聴いているかのような感じすらあった。
演奏が終わると5人は特別なことは何もせずにいつもと同じようにライブを終えてステージを去って行った。それくらいに自然体でいられる両者の「とりあえず一区切り」な2マンライブだった。
その「とりあえず一区切り」というのはアンコールで健司と須田景凪がともに口にしていたことであるが、同時に健司は
「今日来てくれたみんなはこれからフェスでフレデリックと須田景凪がタイムテーブルに並んでたら絶対気になるやん?俺が客の立場だったら絶対観に行くもん。今日来てくれたフレデリックのファンの人が須田くんのワンマンに行くようになったりしたらめちゃくちゃ嬉しい」
とも口にしていた。それは健司が毎回言う「音楽大好きな人」としての理想のようにも聞こえた。きっと自分たちがそうやって対バンライブなどで新しいアーティストを知って、そこから聴くようになったりライブを観に行くようになった音楽がさらに自分たちの人生を楽しく、美しく彩るものにしてくれる。この日会場に来た人たちも確かにそう思えた1日だった。それこそ、これで終わりじゃなくて、フェスとかで同じ日に出演した日などにまたこの「ANSWER」コラボが見れたらと思うくらいに、この日ここに居合わせることができて幸せだった。
1.TOMOSHI BEAT
2.KITAKU BEATS
3.YONA YONA DANCE
4.峠の幽霊
5.Wanderlust
6.Wake Me Up
7.オドループ
8.名悪役
encore
9.ANSWER (フレデリック × 須田景凪)
すでに年末に大阪でのフェスで「ANSWER」のコラボは実現しているが、それでも間違いなくそのコラボが見れるというのは貴重な機会である。
2日前のZepp Hanedaは1階席がスタンディングの立ち位置指定だったが、この日は椅子が敷き詰められた全指定席。先日この会場で行われたTHE BAWDIESの時はドリンクにビールがあったのだが、この日はソフトドリンクのみである。
・須田景凪
でフレデリックとはギターとベースが逆(というかフレデリックが特殊なのだが)というステージのセッティングを見るだけで先攻が須田景凪であるということがわかる。
ボカロP・バルーンとして「シャルル」などの大ヒット曲を持っている存在でもあるのだが、まだそう多くはないライブはバンド編成で行われているということは知っていたが、ステージ上も完全なフォーピース編成である。
薄暗い中にサポートメンバーが先に登場し、最後に須田景凪本人であろうシルエットがステージに現れるのがわかると、ステージ中央のマイクスタンドのマイクを手にして、昨年リリースのアルバム「Billow」収録の「MOIL」を歌い始めるとステージに照明があたり、左右に置かれた塔のような建造物やその上にかかるアーチがどこかパリのような雰囲気を醸し出していることに気付く。バンドメンバーはギターがモリシー(Awesome City Club)、ベースが雲丹亀卓人(Sawagi)、ドラムが矢尾拓也(ex.パスピエ)という凄腕かつ自分にとっても馴染みの深い面々で、最初はじっくりと須田景凪の世界に浸るように歌っているのが、
「大人になった 大人になってしまったみたいだ
左様なら 違う世界に交わる 雲にでもなりたい
明日がいつか 記憶になって 些細な言葉になる前に
今、募るこの想いを あなたへと伝えたい」
というサビのフレーズでは一気に照明が明るくなるとともにサウンドも開けていくのだが、そのサビで重なるモリシーと雲丹亀のコーラスがライブにおける重要な役割を担っていることがわかるとともに、須田景凪のライブが「この4人でのバンド」という感覚を強く感じられるものであることがわかる。
それは須田景凪がギターを弾きながら歌う「ANSWER」の音源でフレデリックがカバーした「Veil」でのギターロックでしかないバンドサウンドからもわかるのだが、いつの間にかステージ背面には幕が降りてきており、そこにアニメーションの映像が投影されているというのはまるで須田景凪のワンマンに来たかのような演出である。
さらに須田景凪としての1stアルバム「Quote」に収録された「レド」とアッパーなギターロック曲が続くのだが、こうした性急なリズムの曲の、特に声を強く張るような部分ではまだ少し歌唱がキツそうなようにも感じた。どこか声そのものにヴェールがかかった、でも須田景凪でしかないその魅力的な、自分からしたら「なんでこんな声を持っていながらにして最初から自分で歌おうとせずにボカロPとしてキャリアをスタートさせたんだろう?」と思ってしまうようなそのボーカルは、まだライブにおける筋力をフルに発揮するには至っていないように感じた。
しかしだからといってライブが良くないかと言われればそんなわけでもないというのが、再び須田景凪がハンドマイク歌唱となる「Billow」の1曲目に収録されている「Vanilla」での、雲丹亀がサビでシンセベースになるというサウンドをその曲ごとに最適な形に切り替えて演奏することができるメンバーの演奏力の高さによってわかる。なんならこの前のギターロック感の強い曲で歪んだギターを弾くモリシーの姿を見て、「こんなサウンドを鳴らすモリシーの姿が見れるとは!」と思うくらいにAwesome City Clubのライブではなかなか見ることができない姿も見れるのだが、それも含めて1人だけで作った音楽が信頼できるプレイヤーたちの手によって今、生で鳴らされているものになっている。そこにはこの3人の須田景凪の音楽への圧倒的な信頼があるからこそだ。
「人生初の2マンライブが、ずっと聴いてきたフレデリックとのものになるなんて」
と感慨を滲まさせた須田景凪の喋り声が歌唱時よりもずっと低いキーであるということには少し驚いてしまったが、それが逆に須田景凪の歌声の特殊さに納得させられるというか、そういう歌い方をしようとしてそうなっているのではなく、歌うと自然にそういう声になるという、歌うということを宿命づけられた人であることがわかるのだ。
モリシーがアコギに持ち替えて、そのアコギの音と須田景凪の歌という弾き語り的な形で歌い始めたのは、ここまでの流れと一転してバラード曲と言っていい「はるどなり」であるが、この曲がリリースされる前に、ドラマ主題歌として起用されるという宣伝映像みたいなもので初めて耳にした時に、声は明らかに須田景凪であるとわかるのだが、まさか地上波のドラマ主題歌になるような曲が生まれるとは、と驚いたし、何よりもメロディと歌詞の親和性も含めて本当に美しい曲だと思った。そうしたオーバーグラウンドな、なんならドラマ主題歌であることも含めて、お茶の間でたくさんの人に聴かれるような曲であると。ボカロPというそのシーンが好きな人が聴く存在には留まらないところにまで行ったんだなと思ったし、それはライブで、目の前で鳴らされて歌うことによってより美しさをダイレクトに感じることができる。それは春がもうすぐそこまで来ているんじゃないかという実感を伴って。
「僕はずっと「テイルズ」シリーズをやってきたんですけど、そのエンディングテーマを担当させていただくことができて、しかもオープニングをずっと聴いてきたフレデリックが担当していて、一緒に関わることができて本当に幸せです」
と言って演奏されたのは「ANSWER」に新曲として収録された「リグレット」で、ボカロPとしてではなく、今の生身の須田景凪としてのギターロックというイメージが強い曲なのだが、世代的に「ゲームのエンディングテーマとは?」と思ってしまうくらいにどういうタイミングでこの曲が流れるのかもわからないし、テイルズシリーズをプレイしたこともないので、エンディングにこんなにロックなサウンドの曲が流れるものなのか、とも思う。
そして須田景凪が
「さよならはあなたから言った それなのに頬を濡らしてしまうの」
とアカペラで歌い始めた段階でたくさんの観客の腕が上がり、Aメロでは手拍子が響く。バルーンとして放った「シャルル」の本人歌唱バージョンである。改めてこんなに歌えるならなぜ最初から自分で…とやはり思ってしまうのだが、どれだけカラオケランキング1位になったり、再生回数が上位になったとしても、なかなか実際に本当にそんなにみんながこの曲を聴いていたり、歌ったりするのかはわからない。誰かとカラオケに行くこともほとんどないし、TVに本人が出て歌うこともほぼないからこそ実感がなかなか湧きづらかったのだが、この日初めて目の前で須田景凪がこの曲を歌って、それを聴けた、見れたということを本当に喜んでいる人がたくさんいる光景を見て、ああ、本当にそうしてたくさんの人に聴かれていて、大事な存在の曲になっているんだなということがようやくわかった。それは本当の意味で須田景凪が自分にとってPCの中のバルーンではなくて、目の前で歌い、音を鳴らす須田景凪というリアルなミュージシャンになった瞬間だった。
さらにアニメーションではないMVが公開された時にも話題になった「パレイドリア」と、終盤はアッパーな曲が続くことによって、客席は「熱い」という感覚を感じるようになる。ステージの熱気が確かに椅子があるとはいえ、客席にも伝わってきているし、雲丹亀はキメでベースを抱えてジャンプしたりと、バンドメンバー側もさらに熱いパフォーマンスを見せてくれる。
その雲丹亀の姿を見てモリシーが笑っていることも含めて、それは本当にこの4人でのバンドという感覚を強く感じさせてくれるのであるが、アウトロでは須田景凪が
「踊ってない夜を知らない 踊ってない夜が気に入らない」
とギターを鳴らしながらフレデリック「オドループ」のサビを実に自然に歌ってみせる。そこからはフレデリックへの敬意と、本当にずっとフレデリックを聴いてきたんだなというリスナーとしての愛が確かに溢れていた。
そんなフレデリックへの思いを
「2013年とか2014年くらいからずっと聴いていて。だからこうして一緒に曲を作るのも、一緒にCDをリリースするのも、今日みたいに一緒にライブができるのも本当に信じられないっていうか。初めての2マンがフレデリックとで幸せです。僕もこの後にステージ袖あたりでライブ見てると思うんで、フレデリックのライブを最後まで楽しみましょう」
と言うと、再び幕がステージ背後に現れて、そこにアニメーションのMVとともに歌詞が次々に投影されるという演出とともに演奏されたのは、セルフカバーバージョンが昨年末に配信リリースされた「パメラ」。
サウンドとしては高速のダンスロックという実にボカロミュージック的なものであり、正直自分はボカロとしてのそうした音楽があまり得意ではないのであるが、この日演奏された「パメラ」はMVに「音楽・バルーン」と表示されてはいたけれど、矢尾の高速リズム、やはりキメでジャンプを繰り返す雲丹亀、自身のバンドではまずやらないタイプの曲を実に楽しそうに演奏しているモリシーという3人によって、バーチャルなボカロ曲ではなくて、リアルなバンドとしてのロックに昇華されていた。間違いなくそれこそが、須田景凪がライブアーティストとして求めたものだ。去り際に本人以上に、今や紅白出演アーティストとなったモリシーが本当に楽しかったであろう笑顔を浮かべてステージから去る姿には、これからの須田景凪のライブへの限りない可能性を感じさせた。
多分、これは須田景凪としてデビューした時からいろんな人に言われてきたことだとも思うし、ファンの方からしたら名前を出して比較するなと思われるかもしれないけれど、ライブを見ている時に自分は米津玄師がライブハウスでライブをしていた「Bremen」期までのことを思い出していた。
ボカロPとしての曲をバンドで演奏することも、まだライブ経験の浅い本人を経験豊富かつ凄腕のメンバーたちが支えている構図も、すぐにこの規模じゃ見れなくなるんだろうなという予感も、あらゆる意味であの頃を思い出していた。それはやはり米津玄師も当時はまだボーカリストとしての力をライブで100%以上発揮しているとは言えない頃だったから。
でもそれは幸せなことでもある。例えば自分はフレデリックを「うちゅうにむちゅう」リリース時に知ったが、それ以前のライブを見たことがない。どんなライブをやっていたかも知らないし、今からそれを見ることはどうやってもできない。
でもきっとバルーンから須田景凪を聴いてきた人は、こうしてライブを始めた時、目の前の人に向けて歌い始めた時の姿を見ることができているし、これからライブアーティストとして成長していく姿を、自分たちが年齢を重ねていくのと同じように見続けていくことができる。それは実に羨ましいことでもある。
なかなかライブがしづらい状況ではあるけれども、この2マンをはじめとして、きっとこれから出演するようになるいろんなフェスでも他のアーティストのライブを見て悔しい思いだってたくさんするはず。でもそうした思いがさらにライブアーティストとして成長する糧になる。この日初めて見た須田景凪のライブは、自分もこれからその成長を目にすることができたら、と思えるものだった。
1.MOIL
2.Veil
3.レド
4.Vanilla
5.はるどなり
6.リグレット
7.シャルル
8.パレイドリア 〜 オドループ
9.パメラ
・フレデリック
ビックリするくらいに早い転換(双方のスタッフの方々の仕事の素晴らしさたるや)を経て、2日ぶりのフレデリック。ツアーを終えたばかりということ、持ち時間がワンマンの半分以下ということがどういうライブになるのか脳内で予想したりもするけれども、実に楽しみであることに変わりはない。
ツアー中と同じSEで4人がステージに登場するも、ツアーと違うのは三原健司(ボーカル&ギター)がハンドマイクではなくてギターを持っていること。つまりオープニングがツアーでの「飄々とエモーション」ではないことがこの段階でわかるのだが、
「40分一本勝負、フレデリックはじめます!」
と健司が挨拶すると、ツアーでは「2022年のフレデリックを担う曲」として本編最後に演奏されていた「TOMOSHI BEAT」からスタートするという意表をつくものであり、その灯火のごときビートを担う高橋武(ドラム)は曲中に立ち上がって観客を煽るようにしてバスドラを踏み続ける。その姿に持ち時間が短いからこそ最初から突っ走るというバンドの気概を感じる。
それはやはり高橋のドラムの連打から始まり、健司、赤頭隆児(ギター)、三原康司(ベース)の3人がドラムセットの前に集まって向かい合うようにして音を鳴らし、赤頭がぴょんぴょんと飛び跳ねまくる「KITAKU BEATS」においてもそうなのだが、特に健司の歌唱はもちろん声の伸びも素晴らしいのだが、それ以上にツアーで聴いた時よりもさらに強く感情を込めるようにして歌っているというのがひしひしと伝わってくる。目の前で須田景凪が名曲連発の良いライブを見せてくれたからこそ、より燃え上がっているというか、後に出る立場として絶対に塗り替えてやるという負けず嫌いさがそのままバンドの演奏をさらに強く、熱くしているのがよくわかる。
その「KITAKU BEATS」のアウトロからそのまま繋げるようにイントロへと至るのはやはりツアーではアンコールで演奏されていた、和田アキ子への提供曲である「YONA YONA DANCE」のセルフカバーバージョンなのだが、ただ曲順を変えるだけではなくて、そうして曲順を変えるとともに曲間の新しいアレンジを施して演奏しているというのをツアーが終わってからわずか2日で実践しているというのが本当に凄まじいというかビックリしてしまうし、そうしたアレンジをすることによって、この日だけの忘れられない記憶になる。それはもちろん
「ミラーボール輝いて 心照らしあっていく
暴き出して頂戴表情を」
というフレーズに合わせて客席頭上のミラーボールが輝くという演出も含めてであるが、
「心踊れない毎日なんて 私気に食わないわ」
というフレーズの通りに、こうして体だけではなく心までも踊れる日がないともう生きていけないな、とすら思ってしまう。それは
「音楽大好きだっていう人は手をあげてもらっていいですか!」
という問いかけに思いっきり高く腕を上げて応えるようなタイプの人間だからだ。ツアーとは違うタイミングで手拍子が起こるのもまた曲順とは違った形で新鮮な気持ちにさせてくれるし、それはワンマンではないライブならではだろう。
すると健司は
「須田景凪君がフレデリックのことを知ってくれたきっかけの曲をやります。インディーズの頃の曲ですが」
と言うと、ワンマンでもやっていなかった「峠の幽霊」の幽玄なサウンドをバンドが奏で始める。双子ながらに健司とは全く違うタイプの康司のボーカルもその曲の持つ雰囲気を助長しているが、CDJではやっていたとはいえ、ツアーでセトリに入っていなかった曲をこうしてすぐにセトリに入れることができるフレデリックの周到さたるや。やはり個人的にはこの曲をライブで聴くたびにコロナ禍になる直前の2020年2月の横浜アリーナでのワンマンのことを思い出して、何もかもが変わってしまった世界になってしまったなと切なくもなってしまうのだが。
そんな思いを抱いている間に一瞬の曲間を利用してステージにはシンセベースが運び込まれ、康司はベースからスイッチし、健司もギターを置いて自身の前に置いてある台の上に立ち、
「この流れで新曲やってもいいですか!」
と問いかけると、演奏されたのは3月リリースのフルアルバム「フレデリズム3」収録曲にしてこの翌週に配信されることが決定している新曲「Wanderlust」。やはり編成的にも康司のうねるようなシンセベースのサウンドと、そのシンセベースでヴォコーダーをかけているかのような康司のボーカルが印象的な曲であるが、ハンドマイクで歌うことによって健司のボーカルの伸びやかさやボーカルとしてのオーラの強さもここまでで最も感じられるものになっている。
「音楽で旅しませんか!」
とテーマを問うあたり、歌詞の詳細な内容も気になるところである。
「須田くん、ワンマンかと思うくらいに映像の演出入れて本気やったな」
と健司は須田景凪のライブの感想を口にしていたが、この曲ではフレデリックもツアーで使っていた金の幕に光が乱反射して様々な色の光が輝くというワンマン同様の本気の演出も。ツアーが終わったら赤頭が持ち帰ってカーテンにするという話は延長されたのだろうか。
そのまま健司がハンドマイクで歌うのは一転してハンドマイクだからこそ自由にステージ上を動き回りながら歌うことができるというのをカラフルなサウンドの上で示す「Wake Me Up」であるが、リズムに合わせて観客も飛び跳ねまくり、康司もベースを上下に揺らしながら弾くという踊るような演奏を見せ、さらに間奏で一気にサウンドがラウドになると健司、赤頭、康司がドラムセットの前に集まって合わせるように音を鳴らし、その瞬間を終えて元の位置に戻ると赤頭はその場で目が回ってしまうんじゃないかと思うくらいにグルグルと回りながら演奏する。その姿からこのライブを心から楽しんでいるということが伝わってくる。
そして高橋の疾走するようなビートが曲と曲を繋げながら、
「みんな多分次の曲は知ってるはず。だってさっき須田君が歌ってくれてたから!」
と健司が口にして演奏されたのはもちろん須田景凪が「パレイドリア」のアウトロでサビのフレーズを歌っていた「オドループ」。
再生回数1億回を超えたこの曲、その1億回のうちに同じ人が何回も再生しただろうし、自分自身これまでに数え切れないくらいに見てきたほとんどのフレデリックのライブで(たまにフェスなどではやらない日もある)聴いている。なんなら2日前にだって聴いている。それくらいに聴いても飽きることがないどころか、やっぱりイントロで赤頭のギターの音が鳴るとそれまでよりさらにテンションが上がる。つまりは数え切れないくらいに聴いてもまだまだ体が、心がこの曲を求めている。そう思える曲というのが後世にも残っていく名曲、アンセムと言えるんじゃないかと思う。
その「飽きない」というのをライブで実感させてくれるのが、高橋がこの曲でもところどころで手数を増やしたり、強く叩いたりするというアレンジを加えてくれるからであるが、それは2日前に見た時とも違う、この日だけの、この日のテンションでの「オドループ」になっていた。それはきっとこれからもまた違うライブアレンジでこの曲を何度聴いても新鮮な気持ちで向き合わせてくれるということである。そのこの日だけのテンションというのは高橋だけでなく、
「2マンやけど絶対負けられない戦いがここにあると思ってます!」
と曲中に口にした健司も、両サイドでその言葉を聴いていた赤頭と康司もそうだろう。明らかにツアーとはまた違った種類の気合いが漲っていたし、フレデリックはまだ小さいライブハウスが主戦場だった頃から対バン企画をたくさん組んでいたが、そうした場で他のアーティストのライブを見て自分たちが奮い立ち、成長してきたんだよな、というバンドであることが久しぶりに見た2マンのライブが思い出させてくれる。
その「オドループ」ではやはり間奏で赤頭がステージ中央で思いっきり体を逸らせてギターソロを弾いていたのだが、演奏後には健司が
「ごめん、ギターソロ中に袖で須田くんがめちゃ踊ってたから、そっちばかり見てた(笑)」
と、まさかのギターソロを見ていなかったことを打ち明けるのだが、それはきっとギターソロ中に笑顔で袖の方を見ていた高橋もそうだろう。
そんな2マンライブでのフレデリックのライブの本編の最後。ツアーの本編最後を担っていた「TOMOSHI BEAT」も、アンコールで演奏されていた「YONA YONA DANCE」も、これまでに何度となくその位置を任されてきた「オドループ」もやった。ではここで一体何の曲を?と思っていたら、健司が
「思い出にされるくらいなら 二度とあなたに歌わないよ」
と「名悪役」を歌い始める。ああ、この曲があった。こんなに最後を担える力を持った曲がまだ残っていたことにも驚くが、そんな曲すらもツアーでは前半に演奏していたということにも、ツアーを終えた直後だからこそ驚く。
歌い始めのフレーズではそう歌っているが、健司は演奏前に
「これから先もこの日にフレデリックと須田景凪の2マンを見れたなっていうのがみんなの中で良い思い出として日々を生きる力になってくれたら」
と言っていた。その言葉の中の「良い思い出」というのは過ぎ去ってしまったものではなくて、常に現在進行形で力を与え続けてくれるものということ。そしてそれはこれからもこうしてフレデリックのライブに来ることで更新され、増え続けていく。フレデリックというバンドの凄さを改めてさらに思い知ったこの週末だった。
アンコールで再び4人がステージに現れる。それはそうだ、この日絶対にやらなければならない曲をまだやっていないのだから。というわけで須田景凪を呼び込むと、
健司「須田くんとは知り合ってからはまだ数年だけど感覚が似てるっていうか。音楽だけじゃなくてゲームとか漫画とかも俺が好きなのだったら好きになってくれるだろうし、須田くんがオススメしてくれたものだったら俺も好きになるものだろうし…」
とこのままだと終わらないくらいの相思相愛っぷりとなってしまうので、話をそこそこに切り上げて曲の演奏へ。その曲はもちろんコラボ曲である「ANSWER」。フレデリックのツアーでもアンコールの1番最後にフレデリックのみのバージョンで演奏されていたが、須田景凪がまだ歌わずにステージに立っているというだけで、Aメロのリズムなどは須田景凪の持つボカロ由来のものにも感じられるから不思議であるし、そこにこそこの2組によって作られた曲を2組が揃って演奏することによるマジックがあるのだと思う。
それは健司と須田景凪が分け合うようにして歌うサビで最も強く感じられるものだ。お互いがお互いの歌唱を聴いて、もっと良い歌を歌いたいと思い、それがどこまでも歌の力を高めていく。フレデリックがツアーで演奏していた単独バージョンでも完全に完成しているという感じだったけれど、その完成度とはまた違う、なんなら同じ曲なのに須田景凪が加わることによって別の曲を聴いているかのような感じすらあった。
演奏が終わると5人は特別なことは何もせずにいつもと同じようにライブを終えてステージを去って行った。それくらいに自然体でいられる両者の「とりあえず一区切り」な2マンライブだった。
その「とりあえず一区切り」というのはアンコールで健司と須田景凪がともに口にしていたことであるが、同時に健司は
「今日来てくれたみんなはこれからフェスでフレデリックと須田景凪がタイムテーブルに並んでたら絶対気になるやん?俺が客の立場だったら絶対観に行くもん。今日来てくれたフレデリックのファンの人が須田くんのワンマンに行くようになったりしたらめちゃくちゃ嬉しい」
とも口にしていた。それは健司が毎回言う「音楽大好きな人」としての理想のようにも聞こえた。きっと自分たちがそうやって対バンライブなどで新しいアーティストを知って、そこから聴くようになったりライブを観に行くようになった音楽がさらに自分たちの人生を楽しく、美しく彩るものにしてくれる。この日会場に来た人たちも確かにそう思えた1日だった。それこそ、これで終わりじゃなくて、フェスとかで同じ日に出演した日などにまたこの「ANSWER」コラボが見れたらと思うくらいに、この日ここに居合わせることができて幸せだった。
1.TOMOSHI BEAT
2.KITAKU BEATS
3.YONA YONA DANCE
4.峠の幽霊
5.Wanderlust
6.Wake Me Up
7.オドループ
8.名悪役
encore
9.ANSWER (フレデリック × 須田景凪)
リーガルリリー 東名阪ワンマンツアー 「Cとし生けるもの」 @中野サンプラザ 2/8 ホーム
フレデリック 「FREDERHYTHM TOUR 2021-2022 〜朝日も嫉妬する程に〜」 @Zepp Haneda 2/4