リーガルリリー 東名阪ワンマンツアー 「Cとし生けるもの」 @中野サンプラザ 2/8
- 2022/02/09
- 19:03
先月リリースされたフルアルバム「Cとし生けるもの」はアルバムを全部聴き終わるのを待つまでもなく、これは早くも今年屈指の名盤が生まれたなと思うくらいの傑作である。
そんなアルバムを世に送り出したリーガルリリーのリリースツアーは東名阪のワンマンであり、東京のこの中野サンプラザがファイナルであり、ワンマンでは最大規模。リーガルリリーのライブはいつもどんなものになるのか全く予想がつかないだけに実に楽しみである。それは単にどんな曲を演奏するかというものではなくて、ライブ自体を支配する空気やオーラとして。
検温と消毒を経て中野サンプラザの中に入ると、客席は1席空けたさてディスタンスを保つものになっているのだが、まだ平日にこの規模でワンマンをやるのはちょっと早かったのかもな、とも思う。いや、この規模でやるべきアルバムであり、そうしたライブをやるバンドであるのだが。
開演時間の18時30分を10分ほど過ぎたあたりで場内が暗転して、メンバー3人がステージに登場。薄暗い中でもゆきやま(ドラム)が寒さの厳しい時期でも半袖Tシャツにハーフパンツという動きやすいスタイルであることも、海(ベース)が鮮やかな金髪であることも、たかはしほのか(ボーカル&ギター)がいつもと全く変わらないことも、出てきた順番に上手から下手へというこのバンドならではの立ち位置であることもわかるのだが、観客もその姿を見て一気にではなくて徐々に立ち上がっていくというのがリーガルリリーのホールワンマンという感じがする。
メンバーが楽器を手にすると照明がステージを照らして、「Cとし生けるもの」の1曲目に収録されている「たたかわないらいおん」からスタートするというリリースツアーらしいオープニングであり、たかはしはその少女というか天使のようなボーカルをホールにしっかりと響かせていくのだが、リーガルリリーのライブはいつもメンバーは全く普段通りというか、緊張している感じも全く感じないのだが、むしろ客席の方にどこか緊張感のようなものが確かに漂っている。それはこの日のホールという場所でのライブだからこそ、いつも以上に強く感じられたと言えるかもしれない。
そんな緊張感が少しずつ解れていくというか、消えていくような感覚になるのはたかはしがサビでポーズをとるかのようにギターを鳴らし、思いっきり張り上げるようにして歌う声が観客の感情を震わせる「GOLD TRAIN」から、海のうねりまくるようなベースのイントロから始まり、その海が跳ねるようにして演奏することによってサビで一気に景色が開けていくかのような感覚になり、それを照明の光の使い方でも感じさせてくれる「1997」というライブではおなじみの流れ。ここで体を揺らしたり、腕をあげたりするような観客の姿も目に入るが、リーガルリリーのライブには「みんなで合わせて」的なアクションやパターンが一切ない。本当にそれぞれがそれぞれの楽しみ方で思うように音楽に向き合う。それはメンバーもそのように自分たちなりの向き合い方で音楽を作っていることと決して無関係ではないはずだ。
タイトルの通りに爽やかなバンドサウンドの「風にとどけ」ではサビの最後の
「涙が出そうだ」
というフレーズをファルセットと言っていいのか絶妙なレベルのハイトーンでたかはしが歌い上げるのだが、なんだかその姿を見て、歌声を聴いているだけでまさに涙が出そうになってしまう。それがリーガルリリーというバンドが、たかはしほのかというシンガーが持っている不思議な力であるが、どうにもおかしいというか、何故そうなるのかわからないのは、その声に間違いなく溢れんばかりの感情が乗っているのだが、その感情が決して「伝えたい!」みたいな主張が強いものではないこと。むしろ曲を作ってその曲に導かれるままに歌うとこうなるという、自然体でそう感じさせるというか。その自然体がこんなにこちらの感情を揺さぶるのだから、やっぱりリーガルリリーはとんでもないバンドだよなと納得してしまう。
それは既存曲である、ゆきやまの軽快なビートがバンドのエンジンであることを示すかのようにサウンド全体を引っ張っていく「林檎の花束」の歌唱でも感じられるのだが、もうこの段階でこの日のライブがホールワンマンであっても特別な演出がない、バンドの鳴らす姿と照明の変化のみしか視界に入ってくるものがないというストイックなものであることがわかる。プラネタリウムでその場所の特性を最大限に使うようなライブをしたこともあったが(「Cとし生けるもの」の初回盤にそのライブが収録されている)、それもあくまで曲や歌詞の持つイメージを可視化するようなものだった。それくらいにメンバーとスタッフが、このバンドのライブで何が1番大事で、それをどう見せるべきかをわかっているということだ。
ここまではライブ定番曲も挟んできたが、独りの視点が曲の最後で2人のものに変わる、自分以外の存在である他者がいるということを実感させるという、これまでのリーガルリリーの曲や歌詞とは少し違う感覚を覚える「ほしのなみだ」からは「Cとし生けるもの」の世界へと没入していくのだが、「教室のドアの向こう」を演奏する前にたかはしは、
「8年くらい前に作った時は1番までしか作れなかった。それをちゃんと完成させることができました」
と言うと、ワンコーラス目は弾き語りというような形で、2コーラス目からは海とゆきやまの2人が加わるという形で演奏した。それはこの2人がいて、この3人でのバンドだからこの曲を完成させることができたという、たかはしにとって自分以外の存在が歳を経るにつれてかけがえのないものになってきているということがよくわかる流れになっているし、そこで弾き語り部分で
「中央線は今日も人が死んでしまったね。
あなたはどこにも行かないでね。」
というフレーズが、バンドでの演奏部分で
「パンドラボックスにりぼんは似合わないって笑うかな。
あの日の君は笑うかなぁ」
というフレーズが出てくるというのが実にたかはしらしいというか、「教室」をテーマにした曲でこんな歌詞が出てくる人も他にいないだろうと思うのだが、たかはしはまだ曲が完成していなかった高校時代からこの歌詞を綴っていたのだろうか。
そんな3人のシンプルなバンドだからこそのエイトビートによるストレートなサウンドによる「中央線」というのは歌詞の繋がりを感じざるを得ないし、その「中央線」からたかはしが想起していたイメージが人身事故から
「中央線は今日もまた、叶わぬ恋を繋げてた。
中央線は今日もまた、約束を離さない。」
という2人を繋げるものへと変化しているというあたりに、たかはしの視点の変化というか、大人になったんだなということを感じる。見た目は自分がコンビニ店員でたかはしが酒を買いに来たら確実に年齢確認をしてしまうであろうくらいに幼いままであるけれど。
この中野は中央線が通っている駅であり、その「中央線」からはこの会場で聴くことができている特別な感慨をも感じられるのであるが、バンドがよくライブで「三日月」をカバーしているくるりの「東京」を東京のライブで聴いた時に「東京でこの曲を聴くことができている…」という実感をこのバンドの「東京」では全く感じないのは、この曲が
「ナイジェリアの風が ライターの火に話しかける
君はどこから来たんだ」
という歌い出しで始まるという異国感に溢れているからであり、最初に聴いた時はついつい「この曲タイトル間違ってるのか?」と思ってしまったことを思い出す。サビでは
「ひとり東京凹凸 山の頂から見下ろす東京タワー」
というフレーズもあるのだが、
「闇に撃ち放つ 太陽の照明弾」
というフレーズからはたかはしが歌う東京は東京の中でも米軍基地がある、自身が育った福生市であるのだろうと思う。東京で育った人が歌う東京、というテーマの「東京」という曲もあるけれど、その中でもこんな「東京」を歌った人というか、歌える人は他にいないだろうなと思う。
しかしながらMCではやはり緩いというか、もはやそれさえ通り越して意味不明すぎて(主にというか大半がたかはしが)失笑すら起きてしまうというあたりは全く変わらないリーガルリリーらしさだ。海いわく
「これでもいつも通りですから。絶好調です」
ということであるが、それはここまでの演奏を見ていればわかることでもある。
たかはしはそんな意味不明なことを言っていたかと思いきや、
「皆さんは今日はどんな乗り物に乗ってここに来ましたか?私はウイルスとかも乗り物に乗って移っていくと思っていて。だから体の中っていう乗り物をキレイにしていたいなと思って作った曲です」
と、自身が作った曲の説明はこれ以上ないくらいに自身の言葉でしっかり話すことができるし、その思いを持って作られた「きれいなおと」は、誰しもがまさに今目の前で鳴らされているこの音こそがきれいなおとであると確信していただろうし、
「時代を乗り越えられない僕だった
時間を乗り越えられないって焦っている」
という歌い始めのフレーズも、
「ハイな気持ちを続けて鳴らせれば、きれいなおとになる。
やさしさが、温もりが。」
という締めのフレーズも、全く意味合いは異なるけれど、どちらもリーガルリリーというバンドのことを自身で言い当てていると思う。
しかしながら中盤となるとバンドの持つ深い部分にも潜り、そうした要素をしっかりと見せてくれるのは「そらめカナ」からの、タイトル的に9mm Parabellum Bulletのファンである自分としてはハッとしてしまう「9mmの花」という流れなのだが、この曲のまるでプログレバンドかと思うくらいの、穏やかな前半からの轟音かつ激しいバンドサウンドの切り替わりっぷりがこのバンドの持つ一筋縄ではいかなさというか、わかりやすさを狙って曲を作るなんてことを全く考えてないんだろうなということを示している。
何よりもそのサウンドが切り替わってからのバンドが放つオーラというか、鬼気迫るような雰囲気たるや。バンドマンの顔をよく覚えていて、ライブ会場などで様々なバンドマンを見かけては声をかけたりしてきた自分も、このバンドの3人がフェスなどのたくさんの人がいる場所に紛れていて、そこですれ違ったりしても気付かないかもしれない。それくらいに見た目は普通の女性3人なのだが、こうした演奏をしている姿を見ると、普通の女性のようでいてバンドとしての3人は実際はケルベロスなりキングギドラなりの獰猛な生物の集合体なんじゃないかと思ったりもする。それくらいに普通の人間に見えて、演奏していると全く普通の人間には感じられないのだ。そこにこそ自分がこのバンドから目が離せない理由がある。
そしてワンマンライブではおなじみの曲である「蛍狩り」ではたかはしのポエトリーリーディング的な歌唱というこのバンドならではの予想だにしない展開とともに、メンバーの背後にはまさに無数の蛍が輝いているかのような淡い色の灯りが灯る。もうめっきり生活していて蛍を目にすることはなくなってしまったけれど、リーガルリリーがこうしてライブでこの曲をやっている限りは、自分の記憶の中にある蛍を見た景色を覚えていられるような。
その「蛍狩り」はたかはしによる
「輝きを放て」
という言葉のリフレインによって締められるのだが、まさにその言葉に続くように、バンドのサウンドも照明も輝きを放つようにして演奏されたのは「惑星トラッシュ」で、
「1人の帰り道で 1人の帰り道で 2人が繋がっていたい。」
という切なさも感じさせるキラーフレーズがさらにサウンドと照明を煌めかせると、先行シングルとしてリリースされた「アルケミラ」では緑色の照明がステージを美しく照らし、たかはしのボーカルに海のコーラスが重なることによってサウンドも美しさをもって響いていく。
「そして眠りにつくんだ
おやすみ異世界 おやすみ異世界
さようなら」
というフレーズを音源通りなようでいてさらにそれよりも明らかに力強く、そして感情を込めるようにして歌うたかはしの姿と声にはやはり感情が溢れてしまいそうになるのだが、それは自分としてはずっと真夜中でいいのに。のライブでACAねが声を張り上げるようにして歌う時に感情が震えるのと同じものだな、とわかった。それくらいにたかはしのボーカルは上手いとかそういうレベルを超越した、特別な力を持っている。それはこの日、この規模のライブで「Cとし生けるもの」の曲を歌うのを見て、聴いたことによって感じることができたものかもしれない。
その「Cとし生けるもの」が早くも2022年屈指の名盤と言える理由。それはリーガルリリーが持っているキャッチーなメロディという要素がこれまでで最も発揮されたアルバムだからであるが、それを最も感じさせてくれるのがこの「惑星トラッシュ」からの流れであり、その先に行き着く、たかはしが
「誰しもがそれぞれ怒ったり笑ったり、光ったりする感情の時があると思います。そういう時にどういう顔をしているんだろうなって」
と言って演奏された「セイントアンガー」のサビの
「みんな光りかた探していた」
というフレーズの目の覚めるかのようなメロディの突き抜け方。それがこれまでで最もストレートに曲になっている。もちろんリーガルリリーはこれまでもキャッチーなバンドであったけれど、その予想だにしない方向に飛んでいく展開だったり、一聴しただけではわからないような歌詞だったり、何回も噛み締めるように聴いてわかるという類のものだった。
でもこの「Cとし生けるもの」はほとんどの曲が一聴してキャッチーだなと思える曲ばかりだ。しかしそれも狙ってそうしたわけでは全くなく、たまたま今回作った曲、出来た曲がそういう曲が多くなったというくらいの感じだろう。そうした「こうした方が売れる」みたいな計算ができたり、セルフプロデュースが巧みなバンドだったらもうとっくに大ブレイクしている。でもまだそこまで至ってないのはもっと純粋に、自分たちから出てきた音楽を自分たちが好きなようにアレンジして世に放ってきたバンドだからであるが、そういう姿勢が変わらないからこそこのバンドを信頼しているのだ。
そんな「セイントアンガー」を始めとして、新たなキラーチューンが「Cとし生けるもの」から生まれ、その曲たちがこれからのライブでも中心になっていくんだろうなということを実感していたのであるが、ゆきやまの疾走するようなイントロのビートに導かれるようにしてたかはしが轟音のギターを鳴らし始めて始まったのは最大のキラーチューンである「リッケンバッカー」で、どんなに新しいキラーチューンが生まれてもこの曲が最大のそうした曲であることは変わらないなと思うのは、そもそも一聴して名曲だとすぐにわかるようなこの曲が、こうしてライブで演奏されることによってさらに成長してきた曲であり、だからこそメンバーにもファンにも強い思い入れがある曲になっているからだ。
間奏でゆきやまが一気に手数と強さを増すドラムをぶっ叩きまくると、海も体を捩るようにしてベースを弾く。ソングライターであるたかはしがやはり目立つし、そのMCでのド天然っぷりも含めて最も凄まじい人であるというのがよくわかるけれど、リーガルリリーはその1人だけが凄くてその人が引っ張るバンドという構図では全くない。むしろたかはしと同じように凄まじいプレイヤーである2人がいて、立ち位置と同じように正三角形を描くようなバランスのバンドだからこそ、こんなにも毎回ライブを見て「なんてとんでもないバンドなんだろうか」って思うことができるのだ。これだけ激しい、轟音をバンドが鳴らしていても、客席ではもちろん頭を振ったり、体が動いている人もいるけれども、それ以上にただ立ち尽くしている人が本当に多い。ただ目の前で鳴らされている音を絶対に逃さないように意識を研ぎ澄まして集中しているというような。その一見すると盛り上がっていないかのような光景が逆にこのバンドのライブがどれだけ凄いかを物語っている。
そんな「リッケンバッカー」までの緊張感から解き放たれたかのように、
「今日はありがとうございました」
とたかはしが笑顔で挨拶して頭を下げてから軽快なリズムによって演奏されたのは、
「昔々に君がついた優しい嘘と 今も距離を保って生きてるよ
遠い未来に用はないとはぐらかした 僕らこれから消えてしまうのね」
というフレーズがアルバム全体の物語の、この日のライブのエピローグであるかのように歌われる、穏やかなサウンドの「Candy」で、温かな光に包まれるようにして演奏した3人の姿は見ているこちらの気持ちすらも温かくしてくれた。この「Cとし生けるもの」を軸にした流れのライブを見れて本当に良かったと思った。
アンコールですぐさま3人がステージに戻ってくると、
たかはし「ツアーファイナルなので、発表があります!」
海「いつもファイナルってなんらかの発表してるよね」
と、やはり演奏している時と同じ人たちなのかと思ってしまうほどの緩いやり取りで、春から全国ツアーが開催されることを発表する。アルバムを軸にしたものとは違う、「Light Trap Trip」というタイトルの、コンセプトツアーということになるということであるが、どんなライブになるか予想をしてみても、実際にメンバーがステージに立って演奏するのを見るとその予想が吹っ飛ばされるというのをこの日も含めて体験してきているだけに、ファイナルのZepp DiverCity(恒例の海が加入した記念日である7月5日)に行ってこの目で確かめるしかないなと思う。
そんな発表の後に演奏された「ハンシー」の壮大なサウンドに乗る
「もしかしたら これが最後の歌かもしれなくて
もしかしたら これが最後のギターかもしれなくて」
というフレーズがまさにライブの終わりを感じさせて切なくなってしまう。それはほとんどMCもなしに曲を連発していくというスタイルであり、ひたすらステージに視線と意識を集中して見るというライブだからこそ、本当にあっという間に感じてしまう。
そんなライブの最後に演奏されたのはたかはしが高速でギターを刻む「はしるこども」で、たかはしはギターを弾きながら飛び跳ねるようにして立ち位置の後ろに下がったりし、海も背後のアンプの前から左右に大きく動き回りながらベースを弾き、動けないながらもゆきやまのしなやかな腕の動きによるドラムのビートは音源のはるかに何倍も力強さを感じさせる。
その姿と、そこから放たれる音がそのままダイレクトに感情に突き刺さってくる。たまにテレビの音楽番組で音楽理論を解説してくれたりするのを見ると、実際にそうした理論で良い曲が生まれているのかもしれないけれど、このリーガルリリーの音楽やライブの素晴らしさはそうした理論や理屈では説明できるようなものではないと思う。
その理論や理屈をギター、ベース、ドラムという3つの楽器の音が合わさることによって、それをこの3人が歌い鳴らすことによってはるかに飛び越えてしまう。それこそがロックバンドの持っている魔法のような力であり、このリーガルリリーのライブにいつもそれを強く感じている。
タイトル通りに音が走っているかのような演奏をしているたかはしの姿はまさにこどものようにすら見える。親というほどには自分とメンバーは年齢が離れてないが、その姿を見ていて、どうかこの3人がこれから先も何も余計なことを考えたりすることなく、音を鳴らし続けていられるような世の中でありますように、ということを願っていた。
1.たたかわないらいおん
2.GOLD TRAIN
3.1997
4.風にとどけ
5.林檎の花束
6.ほしのなみだ
7.教室のドアの向こう
8.中央線
9.東京
10.きれいなおと
11.そらめカナ
12.9mmの花
13.蛍狩り
14.惑星トラッシュ
15.アルケミラ
16.セイントアンガー
17.リッケンバッカー
18.Candy
encore
19.ハンシー
20.はしるこども
そんなアルバムを世に送り出したリーガルリリーのリリースツアーは東名阪のワンマンであり、東京のこの中野サンプラザがファイナルであり、ワンマンでは最大規模。リーガルリリーのライブはいつもどんなものになるのか全く予想がつかないだけに実に楽しみである。それは単にどんな曲を演奏するかというものではなくて、ライブ自体を支配する空気やオーラとして。
検温と消毒を経て中野サンプラザの中に入ると、客席は1席空けたさてディスタンスを保つものになっているのだが、まだ平日にこの規模でワンマンをやるのはちょっと早かったのかもな、とも思う。いや、この規模でやるべきアルバムであり、そうしたライブをやるバンドであるのだが。
開演時間の18時30分を10分ほど過ぎたあたりで場内が暗転して、メンバー3人がステージに登場。薄暗い中でもゆきやま(ドラム)が寒さの厳しい時期でも半袖Tシャツにハーフパンツという動きやすいスタイルであることも、海(ベース)が鮮やかな金髪であることも、たかはしほのか(ボーカル&ギター)がいつもと全く変わらないことも、出てきた順番に上手から下手へというこのバンドならではの立ち位置であることもわかるのだが、観客もその姿を見て一気にではなくて徐々に立ち上がっていくというのがリーガルリリーのホールワンマンという感じがする。
メンバーが楽器を手にすると照明がステージを照らして、「Cとし生けるもの」の1曲目に収録されている「たたかわないらいおん」からスタートするというリリースツアーらしいオープニングであり、たかはしはその少女というか天使のようなボーカルをホールにしっかりと響かせていくのだが、リーガルリリーのライブはいつもメンバーは全く普段通りというか、緊張している感じも全く感じないのだが、むしろ客席の方にどこか緊張感のようなものが確かに漂っている。それはこの日のホールという場所でのライブだからこそ、いつも以上に強く感じられたと言えるかもしれない。
そんな緊張感が少しずつ解れていくというか、消えていくような感覚になるのはたかはしがサビでポーズをとるかのようにギターを鳴らし、思いっきり張り上げるようにして歌う声が観客の感情を震わせる「GOLD TRAIN」から、海のうねりまくるようなベースのイントロから始まり、その海が跳ねるようにして演奏することによってサビで一気に景色が開けていくかのような感覚になり、それを照明の光の使い方でも感じさせてくれる「1997」というライブではおなじみの流れ。ここで体を揺らしたり、腕をあげたりするような観客の姿も目に入るが、リーガルリリーのライブには「みんなで合わせて」的なアクションやパターンが一切ない。本当にそれぞれがそれぞれの楽しみ方で思うように音楽に向き合う。それはメンバーもそのように自分たちなりの向き合い方で音楽を作っていることと決して無関係ではないはずだ。
タイトルの通りに爽やかなバンドサウンドの「風にとどけ」ではサビの最後の
「涙が出そうだ」
というフレーズをファルセットと言っていいのか絶妙なレベルのハイトーンでたかはしが歌い上げるのだが、なんだかその姿を見て、歌声を聴いているだけでまさに涙が出そうになってしまう。それがリーガルリリーというバンドが、たかはしほのかというシンガーが持っている不思議な力であるが、どうにもおかしいというか、何故そうなるのかわからないのは、その声に間違いなく溢れんばかりの感情が乗っているのだが、その感情が決して「伝えたい!」みたいな主張が強いものではないこと。むしろ曲を作ってその曲に導かれるままに歌うとこうなるという、自然体でそう感じさせるというか。その自然体がこんなにこちらの感情を揺さぶるのだから、やっぱりリーガルリリーはとんでもないバンドだよなと納得してしまう。
それは既存曲である、ゆきやまの軽快なビートがバンドのエンジンであることを示すかのようにサウンド全体を引っ張っていく「林檎の花束」の歌唱でも感じられるのだが、もうこの段階でこの日のライブがホールワンマンであっても特別な演出がない、バンドの鳴らす姿と照明の変化のみしか視界に入ってくるものがないというストイックなものであることがわかる。プラネタリウムでその場所の特性を最大限に使うようなライブをしたこともあったが(「Cとし生けるもの」の初回盤にそのライブが収録されている)、それもあくまで曲や歌詞の持つイメージを可視化するようなものだった。それくらいにメンバーとスタッフが、このバンドのライブで何が1番大事で、それをどう見せるべきかをわかっているということだ。
ここまではライブ定番曲も挟んできたが、独りの視点が曲の最後で2人のものに変わる、自分以外の存在である他者がいるということを実感させるという、これまでのリーガルリリーの曲や歌詞とは少し違う感覚を覚える「ほしのなみだ」からは「Cとし生けるもの」の世界へと没入していくのだが、「教室のドアの向こう」を演奏する前にたかはしは、
「8年くらい前に作った時は1番までしか作れなかった。それをちゃんと完成させることができました」
と言うと、ワンコーラス目は弾き語りというような形で、2コーラス目からは海とゆきやまの2人が加わるという形で演奏した。それはこの2人がいて、この3人でのバンドだからこの曲を完成させることができたという、たかはしにとって自分以外の存在が歳を経るにつれてかけがえのないものになってきているということがよくわかる流れになっているし、そこで弾き語り部分で
「中央線は今日も人が死んでしまったね。
あなたはどこにも行かないでね。」
というフレーズが、バンドでの演奏部分で
「パンドラボックスにりぼんは似合わないって笑うかな。
あの日の君は笑うかなぁ」
というフレーズが出てくるというのが実にたかはしらしいというか、「教室」をテーマにした曲でこんな歌詞が出てくる人も他にいないだろうと思うのだが、たかはしはまだ曲が完成していなかった高校時代からこの歌詞を綴っていたのだろうか。
そんな3人のシンプルなバンドだからこそのエイトビートによるストレートなサウンドによる「中央線」というのは歌詞の繋がりを感じざるを得ないし、その「中央線」からたかはしが想起していたイメージが人身事故から
「中央線は今日もまた、叶わぬ恋を繋げてた。
中央線は今日もまた、約束を離さない。」
という2人を繋げるものへと変化しているというあたりに、たかはしの視点の変化というか、大人になったんだなということを感じる。見た目は自分がコンビニ店員でたかはしが酒を買いに来たら確実に年齢確認をしてしまうであろうくらいに幼いままであるけれど。
この中野は中央線が通っている駅であり、その「中央線」からはこの会場で聴くことができている特別な感慨をも感じられるのであるが、バンドがよくライブで「三日月」をカバーしているくるりの「東京」を東京のライブで聴いた時に「東京でこの曲を聴くことができている…」という実感をこのバンドの「東京」では全く感じないのは、この曲が
「ナイジェリアの風が ライターの火に話しかける
君はどこから来たんだ」
という歌い出しで始まるという異国感に溢れているからであり、最初に聴いた時はついつい「この曲タイトル間違ってるのか?」と思ってしまったことを思い出す。サビでは
「ひとり東京凹凸 山の頂から見下ろす東京タワー」
というフレーズもあるのだが、
「闇に撃ち放つ 太陽の照明弾」
というフレーズからはたかはしが歌う東京は東京の中でも米軍基地がある、自身が育った福生市であるのだろうと思う。東京で育った人が歌う東京、というテーマの「東京」という曲もあるけれど、その中でもこんな「東京」を歌った人というか、歌える人は他にいないだろうなと思う。
しかしながらMCではやはり緩いというか、もはやそれさえ通り越して意味不明すぎて(主にというか大半がたかはしが)失笑すら起きてしまうというあたりは全く変わらないリーガルリリーらしさだ。海いわく
「これでもいつも通りですから。絶好調です」
ということであるが、それはここまでの演奏を見ていればわかることでもある。
たかはしはそんな意味不明なことを言っていたかと思いきや、
「皆さんは今日はどんな乗り物に乗ってここに来ましたか?私はウイルスとかも乗り物に乗って移っていくと思っていて。だから体の中っていう乗り物をキレイにしていたいなと思って作った曲です」
と、自身が作った曲の説明はこれ以上ないくらいに自身の言葉でしっかり話すことができるし、その思いを持って作られた「きれいなおと」は、誰しもがまさに今目の前で鳴らされているこの音こそがきれいなおとであると確信していただろうし、
「時代を乗り越えられない僕だった
時間を乗り越えられないって焦っている」
という歌い始めのフレーズも、
「ハイな気持ちを続けて鳴らせれば、きれいなおとになる。
やさしさが、温もりが。」
という締めのフレーズも、全く意味合いは異なるけれど、どちらもリーガルリリーというバンドのことを自身で言い当てていると思う。
しかしながら中盤となるとバンドの持つ深い部分にも潜り、そうした要素をしっかりと見せてくれるのは「そらめカナ」からの、タイトル的に9mm Parabellum Bulletのファンである自分としてはハッとしてしまう「9mmの花」という流れなのだが、この曲のまるでプログレバンドかと思うくらいの、穏やかな前半からの轟音かつ激しいバンドサウンドの切り替わりっぷりがこのバンドの持つ一筋縄ではいかなさというか、わかりやすさを狙って曲を作るなんてことを全く考えてないんだろうなということを示している。
何よりもそのサウンドが切り替わってからのバンドが放つオーラというか、鬼気迫るような雰囲気たるや。バンドマンの顔をよく覚えていて、ライブ会場などで様々なバンドマンを見かけては声をかけたりしてきた自分も、このバンドの3人がフェスなどのたくさんの人がいる場所に紛れていて、そこですれ違ったりしても気付かないかもしれない。それくらいに見た目は普通の女性3人なのだが、こうした演奏をしている姿を見ると、普通の女性のようでいてバンドとしての3人は実際はケルベロスなりキングギドラなりの獰猛な生物の集合体なんじゃないかと思ったりもする。それくらいに普通の人間に見えて、演奏していると全く普通の人間には感じられないのだ。そこにこそ自分がこのバンドから目が離せない理由がある。
そしてワンマンライブではおなじみの曲である「蛍狩り」ではたかはしのポエトリーリーディング的な歌唱というこのバンドならではの予想だにしない展開とともに、メンバーの背後にはまさに無数の蛍が輝いているかのような淡い色の灯りが灯る。もうめっきり生活していて蛍を目にすることはなくなってしまったけれど、リーガルリリーがこうしてライブでこの曲をやっている限りは、自分の記憶の中にある蛍を見た景色を覚えていられるような。
その「蛍狩り」はたかはしによる
「輝きを放て」
という言葉のリフレインによって締められるのだが、まさにその言葉に続くように、バンドのサウンドも照明も輝きを放つようにして演奏されたのは「惑星トラッシュ」で、
「1人の帰り道で 1人の帰り道で 2人が繋がっていたい。」
という切なさも感じさせるキラーフレーズがさらにサウンドと照明を煌めかせると、先行シングルとしてリリースされた「アルケミラ」では緑色の照明がステージを美しく照らし、たかはしのボーカルに海のコーラスが重なることによってサウンドも美しさをもって響いていく。
「そして眠りにつくんだ
おやすみ異世界 おやすみ異世界
さようなら」
というフレーズを音源通りなようでいてさらにそれよりも明らかに力強く、そして感情を込めるようにして歌うたかはしの姿と声にはやはり感情が溢れてしまいそうになるのだが、それは自分としてはずっと真夜中でいいのに。のライブでACAねが声を張り上げるようにして歌う時に感情が震えるのと同じものだな、とわかった。それくらいにたかはしのボーカルは上手いとかそういうレベルを超越した、特別な力を持っている。それはこの日、この規模のライブで「Cとし生けるもの」の曲を歌うのを見て、聴いたことによって感じることができたものかもしれない。
その「Cとし生けるもの」が早くも2022年屈指の名盤と言える理由。それはリーガルリリーが持っているキャッチーなメロディという要素がこれまでで最も発揮されたアルバムだからであるが、それを最も感じさせてくれるのがこの「惑星トラッシュ」からの流れであり、その先に行き着く、たかはしが
「誰しもがそれぞれ怒ったり笑ったり、光ったりする感情の時があると思います。そういう時にどういう顔をしているんだろうなって」
と言って演奏された「セイントアンガー」のサビの
「みんな光りかた探していた」
というフレーズの目の覚めるかのようなメロディの突き抜け方。それがこれまでで最もストレートに曲になっている。もちろんリーガルリリーはこれまでもキャッチーなバンドであったけれど、その予想だにしない方向に飛んでいく展開だったり、一聴しただけではわからないような歌詞だったり、何回も噛み締めるように聴いてわかるという類のものだった。
でもこの「Cとし生けるもの」はほとんどの曲が一聴してキャッチーだなと思える曲ばかりだ。しかしそれも狙ってそうしたわけでは全くなく、たまたま今回作った曲、出来た曲がそういう曲が多くなったというくらいの感じだろう。そうした「こうした方が売れる」みたいな計算ができたり、セルフプロデュースが巧みなバンドだったらもうとっくに大ブレイクしている。でもまだそこまで至ってないのはもっと純粋に、自分たちから出てきた音楽を自分たちが好きなようにアレンジして世に放ってきたバンドだからであるが、そういう姿勢が変わらないからこそこのバンドを信頼しているのだ。
そんな「セイントアンガー」を始めとして、新たなキラーチューンが「Cとし生けるもの」から生まれ、その曲たちがこれからのライブでも中心になっていくんだろうなということを実感していたのであるが、ゆきやまの疾走するようなイントロのビートに導かれるようにしてたかはしが轟音のギターを鳴らし始めて始まったのは最大のキラーチューンである「リッケンバッカー」で、どんなに新しいキラーチューンが生まれてもこの曲が最大のそうした曲であることは変わらないなと思うのは、そもそも一聴して名曲だとすぐにわかるようなこの曲が、こうしてライブで演奏されることによってさらに成長してきた曲であり、だからこそメンバーにもファンにも強い思い入れがある曲になっているからだ。
間奏でゆきやまが一気に手数と強さを増すドラムをぶっ叩きまくると、海も体を捩るようにしてベースを弾く。ソングライターであるたかはしがやはり目立つし、そのMCでのド天然っぷりも含めて最も凄まじい人であるというのがよくわかるけれど、リーガルリリーはその1人だけが凄くてその人が引っ張るバンドという構図では全くない。むしろたかはしと同じように凄まじいプレイヤーである2人がいて、立ち位置と同じように正三角形を描くようなバランスのバンドだからこそ、こんなにも毎回ライブを見て「なんてとんでもないバンドなんだろうか」って思うことができるのだ。これだけ激しい、轟音をバンドが鳴らしていても、客席ではもちろん頭を振ったり、体が動いている人もいるけれども、それ以上にただ立ち尽くしている人が本当に多い。ただ目の前で鳴らされている音を絶対に逃さないように意識を研ぎ澄まして集中しているというような。その一見すると盛り上がっていないかのような光景が逆にこのバンドのライブがどれだけ凄いかを物語っている。
そんな「リッケンバッカー」までの緊張感から解き放たれたかのように、
「今日はありがとうございました」
とたかはしが笑顔で挨拶して頭を下げてから軽快なリズムによって演奏されたのは、
「昔々に君がついた優しい嘘と 今も距離を保って生きてるよ
遠い未来に用はないとはぐらかした 僕らこれから消えてしまうのね」
というフレーズがアルバム全体の物語の、この日のライブのエピローグであるかのように歌われる、穏やかなサウンドの「Candy」で、温かな光に包まれるようにして演奏した3人の姿は見ているこちらの気持ちすらも温かくしてくれた。この「Cとし生けるもの」を軸にした流れのライブを見れて本当に良かったと思った。
アンコールですぐさま3人がステージに戻ってくると、
たかはし「ツアーファイナルなので、発表があります!」
海「いつもファイナルってなんらかの発表してるよね」
と、やはり演奏している時と同じ人たちなのかと思ってしまうほどの緩いやり取りで、春から全国ツアーが開催されることを発表する。アルバムを軸にしたものとは違う、「Light Trap Trip」というタイトルの、コンセプトツアーということになるということであるが、どんなライブになるか予想をしてみても、実際にメンバーがステージに立って演奏するのを見るとその予想が吹っ飛ばされるというのをこの日も含めて体験してきているだけに、ファイナルのZepp DiverCity(恒例の海が加入した記念日である7月5日)に行ってこの目で確かめるしかないなと思う。
そんな発表の後に演奏された「ハンシー」の壮大なサウンドに乗る
「もしかしたら これが最後の歌かもしれなくて
もしかしたら これが最後のギターかもしれなくて」
というフレーズがまさにライブの終わりを感じさせて切なくなってしまう。それはほとんどMCもなしに曲を連発していくというスタイルであり、ひたすらステージに視線と意識を集中して見るというライブだからこそ、本当にあっという間に感じてしまう。
そんなライブの最後に演奏されたのはたかはしが高速でギターを刻む「はしるこども」で、たかはしはギターを弾きながら飛び跳ねるようにして立ち位置の後ろに下がったりし、海も背後のアンプの前から左右に大きく動き回りながらベースを弾き、動けないながらもゆきやまのしなやかな腕の動きによるドラムのビートは音源のはるかに何倍も力強さを感じさせる。
その姿と、そこから放たれる音がそのままダイレクトに感情に突き刺さってくる。たまにテレビの音楽番組で音楽理論を解説してくれたりするのを見ると、実際にそうした理論で良い曲が生まれているのかもしれないけれど、このリーガルリリーの音楽やライブの素晴らしさはそうした理論や理屈では説明できるようなものではないと思う。
その理論や理屈をギター、ベース、ドラムという3つの楽器の音が合わさることによって、それをこの3人が歌い鳴らすことによってはるかに飛び越えてしまう。それこそがロックバンドの持っている魔法のような力であり、このリーガルリリーのライブにいつもそれを強く感じている。
タイトル通りに音が走っているかのような演奏をしているたかはしの姿はまさにこどものようにすら見える。親というほどには自分とメンバーは年齢が離れてないが、その姿を見ていて、どうかこの3人がこれから先も何も余計なことを考えたりすることなく、音を鳴らし続けていられるような世の中でありますように、ということを願っていた。
1.たたかわないらいおん
2.GOLD TRAIN
3.1997
4.風にとどけ
5.林檎の花束
6.ほしのなみだ
7.教室のドアの向こう
8.中央線
9.東京
10.きれいなおと
11.そらめカナ
12.9mmの花
13.蛍狩り
14.惑星トラッシュ
15.アルケミラ
16.セイントアンガー
17.リッケンバッカー
18.Candy
encore
19.ハンシー
20.はしるこども
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フレデリック × 須田景凪 「ANSWER」 @Zepp DiverCity 2/6