「まだ早い」と言われ、実際に最上段3列には全く人がいなかった2010年の一回目、その「リベンジ」を掲げて見事に満員にして見せた2014年の2回目を経て、ようやくフラットに臨めるはずだった、NICO Touches the Walls3回目の日本武道館ワンマン。
しかし、昨年末にギターの古村大介が手を骨折し、先に行われるはずだった、大阪城ホールでのワンマンは延期に。年末のフェスへの出演もキャンセルし、この日が復帰一発目のライブという、またしてもこのバンドの武道館は特別な意味合いを持つことになってしまった。
ステージにはライブタイトルにもなっている渦を模したような白い幕が楽器を覆っており、開演前はステージの全貌はわからない。
開演時間の18時半をちょっと過ぎると、その渦のような幕に映像が映し出される。帽子をかぶった男(光村?)が口笛を吹きながら街中を歩いているアニメーション。その男が突如渦の中に吸い込まれていくと…幕が上がってメンバーが音を鳴らし始めるという、明らかに過去2回の武道館とは全く違うコンセプチュアルなオープニング。
光村がマイクから離れるようにして声を出しながらメンバーが音を鳴らしていたのが「渦と渦」のイントロだったので、そのまま「渦と渦」に入るかと思いきや、一度演奏をピタッとストップすると、一曲目は前回の武道館時に明確なリベンジソングとして鳴らされた「天地ガエシ」。スクリーンに4分割されたメンバーの姿が映し出される中、ようやくフラットに演奏できるはずなこの曲だが、やはり気になるのは古村がどれくらいギターを弾けているかということ。スクリーンに映し出される古村が笑顔で歌詞を口ずさみながら間奏に入ると、本当に骨折明けなのか?と思うようなギターソロを弾き、一気にテンポが速くなる。
かつて初めてロッキンでメインステージに出た際、「光村は前日からガチガチに緊張していた」と言われていたが、やはりこの日も最初は緊張していたのか、まだこの曲の時はファルセットの伸びがイマイチだったような印象。
まさに「まっすぐ」なバンドの決意表明ソング的な「まっすぐなうた」から、重心がより低い演奏になったイメージの「ランナー」。久々にライブで聴いた曲だが、正月休みに駅伝を見た直後なだけに実にタイムリー。
さらに「ローハイド」と序盤はストレートなロックサウンドで古村の帰還をアピールし、今回は近年のシングル曲中心になるかと思いきや、
「バカ野郎がちょっと怪我をしてしまったんですけど…」
と古村の怪我に触れて古村も挨拶すると、「チャレンジ」の一回目、「リベンジ」の二回目ときて、今回の武道館のテーマが「アレンジ」であることを告げると、
「踊り狂おうぜ!」
と叫び、「バニーガールとダニーボーイ」からはノンストップメガミックスに突入。各曲大幅なアレンジが加わり、曲と曲が繋がって、このメガミックス中の全曲で1曲のようになっている。1曲1曲はやはりちょっと短くなったりしているが。
過去の武道館でも鳴らされた「N極とN極」「Broken Youth」という曲もこのミックスの中に組み込まれる中、「ストロベリーガール」はもはやイントロから聴いても別の曲と言ってもいいくらいのジャジーな曲に生まれ変わり、「THE BUNGY」では手拍子と大合唱が響き、実に久々に演奏された「夜の果て」はサイケデリックなイントロから、天井に光の粒がきらめくサビで心身ともに浄化されていくよう。
2016年のNICOならではのアレンジを見せた最後の曲は「行方」。最初期の曲が懐かしさではなく、度重なるアップデートを重ねたことにより、ライブ定番曲と並んでも違和感のない曲に進化している。
メガミックスを終えると、光村がこの1月8日はかつてバンドが初のワンマンを行った日であり、その記念すべき日に武道館でワンマンをやれている喜びを語ると、重大発表として、3月16日に3年ぶりのニューアルバム「勇気も愛もないなんて」をリリースすることを発表し、大歓声が送られると、そのアルバムのジャケット写真もスクリーンに映し出されるが、まさかのニワトリの写真ということで若干失笑も起こる。
「前回のネギ、今回のニワトリときて、次はうどんのジャケットにすれば鍋の材料が揃います(笑)」
とは光村の弁。
そしてインパクトの強いアルバムタイトルに込められた意思を伝えると、
「かつてなく明るい内容になるはず」
というアルバムの中から、新曲を演奏。まずはストレートなギターロックナンバーであり、アルバムのリード曲になったとしてもおかしくない「永久ライセンス」。この曲を聴くと確かにアルバムの内容が明るいものになるというのも実によくわかる。
さらにもう1曲の新曲は光村がこの日最初にアコギを弾いたミドルナンバーのラブソング。チョコレートあたりのCM曲として流れていてもおかしくないくらいのポップさ。この2曲を聴くと、初期のバンドの持ち味でもあり、近年もアルバムの中では度々顔を見せていた、ドロドロした部分、濃い部分というのは新作では影をひそめるんじゃないかというイメージも抱く。
するとスクリーンにはオープニングの映像の続きと言えるアニメーションが映し出され、高層ビルが立ち並ぶ渦の街の中を歩く男。その映像の内容に合わせるかのように「TOKYO Dreamer」を演奏すると、さらに雨の映像から「ニワカ雨ニモ負ケズ」。間奏では完全に本調子以上となっている光村がブギーしまくるセッション的なアレンジも挟まれ、この時はすっかり古村が骨折していたのを忘れていた。その古村も含め、地味ながらしっかりバンドの土台を支える坂倉、より一打一打がパワフルになっている対馬と、メンバーによるソロ回しも。
そしてクライマックスは「バイシクル」から「ホログラム」という正統派と言ってもいいような曲が続き、ラストはエンディングのようなアニメーションが映し出された、重厚なイントロから始まる、「渦と渦」。タイトル自体もそうだったが、やはりこの日を締めるべきはこの曲であった。
アンコールではメンバーがこの日の物販で売られていた「1985」というメンバーの生まれ年が描かれたスウェットを着て、光村がアコギを奏でる「僕は30になるけれど」。手拍子とともに、メンバーのリラックスした、全くカッコつけていない自然体の演奏で曲を届けると、あっさりとそのスウェットを脱ぎ、この日の物販で売られていたTシャツ姿に。
この日のアニメーションを作った作家に感謝を告げると(全て手書きというところに、全て人力で演奏するバンドとの共通点を見出していた)、客電が点いて明るくなった中で演奏されたのは「手をたたけ」。近年はライブではアレンジされまくっているこの曲だが、この日はオリジナルバージョンで演奏され、歌の合間に光村も
「このバージョン、久しぶりだな」
と思わずつぶやく。
そんな紛れもなくラストだろうという演出で終わりかと思いきや、光村がアコギを持つと、古村と坂倉は楽器を置いて座り、光村が再びアルバムの思いを伝えた上で、
「まだレコーディングが終わっていなくて(笑)だからライブアレンジもちゃんとできていない」
という理由で、光村の弾き語りで新曲を演奏。
「僕は嘘つき 君が思うよりも」
というサビのフレーズが実に印象的な曲だが、弾き語りですでに完成していると言ってもいいようなこの曲をどうバンドでアレンジするのか。光村の歌を生かしたものになるだろうというのが率直なところだが。
そして弾き語りを終えるとメンバー4人で手をつなぎ、ステージの1番前まで進むと、光村がマイクを通さずに
「次はツアーと、4回目の武道館で会おうぜ!」
と叫んでステージを去って行った。
この日の最大の見所はやはり新曲と、「アレンジの武道館」ならではのメガミックス。あれだけ2016年のNICOだからこそのアレンジしまくったノンストップミックスを軽々と演奏するメンバーも、休みなく歌う光村の喉も凄まじい。もはや「バケモノ」というべきバンド。
それだけアレンジしまくった傍ら、「バイシクル」「ホログラム」というストレートな曲は殆ど原曲のまま。自分たちが作った曲は自分たちが一番良くわかっているという、ロックバンドとして当たり前のことを今のNICOのライブは教えてくれる。
メンバーが去った後のスクリーンにはアルバムのツアーのスケジュールが映し出された。(序盤はまさかのアルバム発売前)
近年は武道館含め、国際フォーラムやNHKホールなどのホールが中心になりつつあったが、今回は久しぶりのライブハウスツアー。きっとそのツアーではまたいろんな曲がアレンジされるだろうし、ツアー中でさらなる成長も感じれるはず。初日とファイナルはともに東京であるというのがその成長を実感できる機会になるはず。
出会ってからもう10年。まさかこんなに毎回のライブが楽しみになるバンドになるなんで、昔は全く思ってなかった。
1.天地ガエシ
2.まっすぐなうた
3.ランナー
4.ローハイド
5.バニーガールとダニーボーイ
6.泥んこドビー
7.N極とN極
8.Broken Youth
9.ストロベリーガール
10.THE BUNGY
11.夜の果て
12.行方
13.永久ライセンス (新曲)
14.新曲
15.TOKYO Dreamer
16.ニワカ雨ニモ負ケズ
17.バイシクル
18.ホログラム
19.渦と渦
encore
20.僕は30になるけれど
21.手をたたけ
22.新曲 (光村弾き語り)
渦と渦
http://youtu.be/Uz6i24MVRsw
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