Panorama Panama Town One-man Live 2021-2022 "Face to Face" @東京キネマ倶楽部 1/14
- 2022/01/15
- 18:28
夏には下北沢にてメンバーの弾き語りやDJによる自主企画フェスを開催し、昨年11月にはミニアルバム「Faces」をリリースした、パノラマパナマタウン。
その「Faces」のリリースライブは兵庫県のクラブ月世界と、東京はキネマ倶楽部という、普段のライブハウスとは少し違った場所での開催ということからも、このアルバムを作ったことでバンドのムードが変わってきたことがわかる。この日は東京のキネマ倶楽部でのワンマンである。
キネマ倶楽部の中は客席に椅子を並べた全席指定席なのだが、椅子が通常のパイプ椅子ではないというあたりに元々はキャバレーであるというキネマ倶楽部らしさを感じる。座っていても体が痛くなりにくそうでもある。
平日なのに18時開演という時間設定になっているのはキネマ倶楽部の終演時間に決まりがあるのかもしれないな、と思いながら待っていると5分くらい過ぎたところで場内が暗転し、Suede「Beautiful Ones」の久々に聴くと本当に名曲だよなぁと思うような美しいメロディに導かれてメンバー3人とサポートドラマーのオオミハヤトがステージに登場すると、この日は横一列にメンバーが並ぶような形。
つまり上手端からオオミハヤト、そこから下手に向かうようにメンバーの田野明彦(ベース)、岩渕想太(ボーカル&ギター)、浪越康平(ギター)が並んでいるのだが、キネマ倶楽部は通常のフォーピースのロックバンドの並びでもライブができるステージであるため、このフォーメーションは今回のライブだからこそであり、メンバーそれぞれを均等に見られるようにという思いによるものだったんじゃないかと思う。
そのメンバーの出で立ちもキネマ倶楽部という場所に合わせてから、これまでは髪色や服装がド派手で目を引いていた田野が黒髪にフォーマルな出で立ちとなっており、一瞬「あれ?」と思ってしまうほど。
そんな4人が最初に鳴らしたのは「Faces」の1曲目に収録されている「King's Eyes」で、ニューウェイヴ要素の強いサウンドをこのバンドが獲得して、それが新たなモードにバンドを向かわせていることがわかる。横一列に並んでいることでメンバーそれぞれの演奏も実に見やすい。
「今日ここに来たみんな、いい趣味してるね」
と岩渕がタイトルを上手く曲に繋げると、一転して最初期の「いい趣味してるね」と時間軸が一気に反転していくのだが、不規則なリズムに岩渕の言葉が乗っていくこの曲はいつ聴いても全くストレートではないというあたりにこのバンドの投げるボールが全て変化するものであることを感じさせるし、だからこそこうして作品を出すたびにガラッとサウンドを変えてきたんだろうなということに合点がいく。それは世界中のありとあらゆる音楽を聴いている音楽マニアとして、やりたいことが次々に溢れ出てくるからかもしれないけれど。
規則的なリズムが心地良さを感じさせる、浪越がギターをアンプに近づけて弾くという姿も新鮮な「Algorithm」から「100yen coffee」という新作曲からはニューウェイヴに加えて浪越のギターがどこかサイケデリックな要素も感じさせてくれる。そこに岩渕の情景描写と心境描写を描いた歌詞がじつによく合うというか、こうしたサウンドだからこそその歌詞にじっくり浸ることができる。個人的には「Algorithm」の
「頭を働かすその前に
飽きるまであっちこっち連れてかれる
無愛想なバーテンが酒を注ぎ
早く飲めよとこっちを睨む」
という「Algorithm」の歌詞と
「喧騒と闇の中 無性に寂しくて
速攻投げ捨てた 100yen coffee」
という「100yen coffee」の歌詞は、身に覚えは全くないけれど、どこか自分自身が経験したことのように感じられるリアリティを持っている。その岩渕の作家性の高さはなんらかの形で評価されるようになって欲しいと思う。
そんな中でも浪越の泣きのギターが唸りをあげる「真夜中の虹」もどこか今のバンドのムードがライブでのアレンジに影響を与えているようにも感じるのだが、序盤はどこかメンバーも緊張していたように感じたし、何よりもいつもとは違う厳かな雰囲気の会場ということで観客側にも緊張感のようなものが漂っていたように感じる。どこか盛り上がっていいのか手探りな感じというか。
しかし岩渕はそんな観客にも
「今日は始まる時間が少し早かったから、みんな仕事を休んだりして来てくれたのかなって。本当にありがとうございます」
と感謝を口にしたが、それは都内の感染者数がとんでもない勢いで増え続けている今の状況でライブに来てくれるということを選んだことへの感謝という意味合いも間違いなくあったはずだ。
そんな言葉から、バンドがスタジオで制作したデモが公開されている「DOGS」でバンドの持つグルーヴの申し子としての部分が顔を出すと、「ラプチャー」でじっくりとそのうねるようなグルーヴを精製し、それが「Faces」のタイトルトラックと言ってもいい「Faceless」のアウトロで爆発するかのような激しさを見せる。持ち合わせているグルーヴの凄まじさとニューウェイヴ的なクールさがこの曲で見事に融合していることによって、ステージも客席も緊張から解き放たれたかのように一気にガラッと空気が変わったのがハッキリとわかる。そのこのバンドでしか鳴らすことのできないサウンドをこの曲で確かに掴んだのだ。それはこのライブのタイトルになっている「Face to Face」の通りに、バンドと観客が顔と顔を見合わせることができるライブという場だからこそだ。月世界の時は逆光で観客の顔が全く見えなかったが、この日はよく見えたという要素ももしかしたらあるのかもしれない。
そのガラッと変わった空気によってバンドの演奏はさらに獰猛になり、観客も飛び跳ねて腕を振り上げるという盛り上がりを見せるようになった「氾濫」から、「Rodeo」では田野がこの曲だけサングラスをかけてステージ前まで出てきてうねりまくるベースを弾く。出で立ちからしてこの日はパリピというよりはミッシェル・ガン・エレファントのようなスーツを着た凄腕ロックンロールバンドのメンバーというようなイメージだ。
そうしたこのバンドの持ち前のグルーヴの強さは「Faces」のタームの始まりと言っていい曲である「Strange Days」を「こんなにライブ映えする曲だったのか」と思うくらいに肉体的なロックサウンドに進化させている。こうしたサウンドを獲得したのはプロデューサーの石毛輝(the telephones / Yap!!!)の手腕によるものが大きいだろうけれど、その石毛のプロデュースとバンドが持っていたものがガッチリと噛み合った結果であるとも言える。
オオミハヤトのドラムも一気に「燃え上がる炎」という歌い出しに合わせるように手数と強さを一気に増す「SO YOUNG」でのタイトル通りに衝動漲るロックサウンドに乗る浪越のノイジーとキャッチーを行き来するようなギターがバンドが今なお持ち続けている野心が全く縮小していないということを示すようにギラつきながら、でもあくまでいつものように浪越はほぼ無表情で鳴り響かせると、「Faces」の中でも屈指のメロディの美しさを持った「Melody Lane」もまたこの流れであるために、あくまでロックバンドとしてのメロディの良さ、キャッチーさを持って響く。ある意味ではSEに使っているSuedeに通じるものも感じる曲であるのだが、そこに乗る歌詞は別れた後の寂寞を感じさせるものになっている。それでも、
「君がいない街で
君がいない明日へ
鳴らし続ける Melody Lane」
という締めのフレーズはそうして自分の見ている景色が変わってしまっても、なんなら自分の生きている世界そのものが変わってしまっても音楽を決して止めることはないというバンドからの力強い宣誓そのものだ。だからそこには微かでも確かなる希望が宿っている。
そして早くも最後の曲として演奏されたのは「Sad Good Night」で、イントロの浪越の泣きを誘うギターから、オオミのリズミカルなドラムで一気に跳ね上がり、岩渕はタイトルフレーズを叫ぶように思いっきり歌う。「Faces」の前にリリースしたEP「Rolling」の曲たちがバンドにとって新たなスタートを切った作品であると同時に実に重要なものであることを思わせつつ、今の世の中になってしまったことによって抱えるようになった、観客それぞれの悲しみをバンドが振り払って前に進んでいくということを示すような演奏だった。まだ「おやすみ」というには早い時間だったけれども。
アンコールで再びメンバーが登場すると、前日にスタジオに入ってリハを行った際に、帰りに岩渕がそこそこ離れているCoCo壱に行ったらそこに田野がおり、2人ともその後に別々に同じ銭湯に行ったというシンクロっぷりを語る。どうにも2人っきりだと気恥ずかしいらしく、熱湯と水風呂に交互に入るという交互浴を、2人がタイミングをずらして別の風呂に入っていたという心理戦が展開されていたという。
ちなみに浪越も2人の勧めで交互浴を行ったことがあるらしいのだが、同じ浴槽に2人ずつしか入れない昨今のご時世上、待っている時の田野が「早く出ろ」的な感じで浴槽の前で仁王立ちしているというエピソードはこの日最も笑いを誘っていた。
そんな何とも微笑ましいメンバーの関係性が伝わってくる中で、「Faces」の中でまだ演奏されていなかった「Seagull Weather」が演奏される。音源では特にリズムがトラック的なイメージも強かった曲であるが、やはりこうして4人でのバンドで演奏されることによってその印象はだいぶ変わる。切ない風景描写による歌詞の曲であるが、岩渕得意の早口歌唱も含まれていたりという点ではこの曲もまた新しく獲得した音楽性と元々バンドが持っていたものがあるからこそ生み出せた曲だと思う。
そして岩渕は告知として、バンド主催フェスである「パナフェス」を今年は神戸と横浜の2箇所で開催することを発表する。出演者はまだ発表されていないが、バンドの地元の神戸だけではなくて関東でも開催するというのは2年前の春に本当にギリギリのギリギリまで迷って中止にならざるを得なかった、日比谷野音での明確なリベンジと言っていいだろう。バンドの状況としてもその時に華々しく岩渕のポリープからの復活を告げるものにしようとしていたであろうだけに。
そんな観客を喜ばせる発表の後に
「昔の曲を」
と言って演奏されたのは、田野が再びステージ前に出てきてベースをうねらせまくる、グルーヴの申し子としてのパノパナを実感させてくれる「MOMO」。やはりこの曲を聴いていると、こうしたグルーヴの強さこそがこのバンドの最大の持ち味なんじゃないかと思うのは、観客が本当に楽しそうに踊りまくっていたから。このグルーヴがあるからこそ、どんなサウンドの曲をやってもパノパナの音楽になる。
そうした、初めてこのバンドのライブを見たSWEET LOVE SHOWERのオープニングアクトでの「これは凄いバンドが出てきたな…」と思った時の衝撃は今も全く失われていない。
すでにアンコールで2曲やっているし、月世界に行った人もその時はここで終わっていたと言っていたので、てっきりこれで終わりかと思っていたら、岩渕がギターを下ろしたのはライブが終わるからではなくてこの日最初で最後のハンドマイクになったからであり、再び田野も浪越もステージ前まで出てきて「世界最後になる夜は」でさらに燃え上がるようなグルーヴを発すると、最初はステージ上で歌っていた岩渕は「いつ使うんだろうか」と思っていたけれど、ここまで全く使っていなかった、下手側にある階段を登って踊り場(ライブによっては登場がここからの場合もある)に立って歌う。自らMCで
「こういう雰囲気の会場に似合うバンドになったかなって。だからまたここでやりたいですね」
と言っていたが、それを自らのパフォーマンスで証明するようなものでありながら、それはかつてフェスでもマイクを持ってステージから飛び降りて客席に突入して歌っていた衝動がやはりまだ全く失われていないということを感じさせてくれた。だからこそ、またこのキネマ倶楽部でライブを見たいと、客席にいた誰もが思っていたはずだ。
コロナ禍になったこともそうであるが、バンドとしても近年はなかなか思うようにいかなかった数年だったと思う。ドラマーの脱退、岩渕のポリープ、そこから復活しようとしたらライブができない世の中になる。
まだ若手とは言えるかもしれないけど、もう新人ではないという微妙な位置にいること、同時期にデビューしたバンドたちの背中が遠くなっていることへの焦りだって少なからずあるはず。
それでもこうしてこのバンドがそうした様々な逆風を乗り越えた上で今も活動している、その中で新しいサウンドに挑戦しているという姿に力を貰って生きている人も間違いなくいる。元々シーン登場時からライブの地力は飛び抜けているバンドであることを当時から顔見せ的に出演してきた様々なフェスやイベントで証明してきただけに、どんな時代になろうとも生き残っていく力があるバンドだと思っている。なかなか新規の人にそのライブを見てもらうのも難しい世の中になってしまったということも実感してしまうけれど、こうして顔を合わせることで伝わることがあるというのはこれから先も変わることはない、それを改めて証明してくれた「Face to Face」というタイトルのライブだった。
1.King's Eyes
2.いい趣味してるね
3.Algorithm
4.100yen coffee
5.月の裏側
6.真夜中の虹
7.DOGS
8.ラプチャー
9.Faceless
10.氾濫
11.Rodeo
12.Strange Days
13.SO YOUNG
14.Melody Lane
15.Sad Good Night
encore
16.Seagull Weather
17.MOMO
18.世界最後になる歌は
その「Faces」のリリースライブは兵庫県のクラブ月世界と、東京はキネマ倶楽部という、普段のライブハウスとは少し違った場所での開催ということからも、このアルバムを作ったことでバンドのムードが変わってきたことがわかる。この日は東京のキネマ倶楽部でのワンマンである。
キネマ倶楽部の中は客席に椅子を並べた全席指定席なのだが、椅子が通常のパイプ椅子ではないというあたりに元々はキャバレーであるというキネマ倶楽部らしさを感じる。座っていても体が痛くなりにくそうでもある。
平日なのに18時開演という時間設定になっているのはキネマ倶楽部の終演時間に決まりがあるのかもしれないな、と思いながら待っていると5分くらい過ぎたところで場内が暗転し、Suede「Beautiful Ones」の久々に聴くと本当に名曲だよなぁと思うような美しいメロディに導かれてメンバー3人とサポートドラマーのオオミハヤトがステージに登場すると、この日は横一列にメンバーが並ぶような形。
つまり上手端からオオミハヤト、そこから下手に向かうようにメンバーの田野明彦(ベース)、岩渕想太(ボーカル&ギター)、浪越康平(ギター)が並んでいるのだが、キネマ倶楽部は通常のフォーピースのロックバンドの並びでもライブができるステージであるため、このフォーメーションは今回のライブだからこそであり、メンバーそれぞれを均等に見られるようにという思いによるものだったんじゃないかと思う。
そのメンバーの出で立ちもキネマ倶楽部という場所に合わせてから、これまでは髪色や服装がド派手で目を引いていた田野が黒髪にフォーマルな出で立ちとなっており、一瞬「あれ?」と思ってしまうほど。
そんな4人が最初に鳴らしたのは「Faces」の1曲目に収録されている「King's Eyes」で、ニューウェイヴ要素の強いサウンドをこのバンドが獲得して、それが新たなモードにバンドを向かわせていることがわかる。横一列に並んでいることでメンバーそれぞれの演奏も実に見やすい。
「今日ここに来たみんな、いい趣味してるね」
と岩渕がタイトルを上手く曲に繋げると、一転して最初期の「いい趣味してるね」と時間軸が一気に反転していくのだが、不規則なリズムに岩渕の言葉が乗っていくこの曲はいつ聴いても全くストレートではないというあたりにこのバンドの投げるボールが全て変化するものであることを感じさせるし、だからこそこうして作品を出すたびにガラッとサウンドを変えてきたんだろうなということに合点がいく。それは世界中のありとあらゆる音楽を聴いている音楽マニアとして、やりたいことが次々に溢れ出てくるからかもしれないけれど。
規則的なリズムが心地良さを感じさせる、浪越がギターをアンプに近づけて弾くという姿も新鮮な「Algorithm」から「100yen coffee」という新作曲からはニューウェイヴに加えて浪越のギターがどこかサイケデリックな要素も感じさせてくれる。そこに岩渕の情景描写と心境描写を描いた歌詞がじつによく合うというか、こうしたサウンドだからこそその歌詞にじっくり浸ることができる。個人的には「Algorithm」の
「頭を働かすその前に
飽きるまであっちこっち連れてかれる
無愛想なバーテンが酒を注ぎ
早く飲めよとこっちを睨む」
という「Algorithm」の歌詞と
「喧騒と闇の中 無性に寂しくて
速攻投げ捨てた 100yen coffee」
という「100yen coffee」の歌詞は、身に覚えは全くないけれど、どこか自分自身が経験したことのように感じられるリアリティを持っている。その岩渕の作家性の高さはなんらかの形で評価されるようになって欲しいと思う。
そんな中でも浪越の泣きのギターが唸りをあげる「真夜中の虹」もどこか今のバンドのムードがライブでのアレンジに影響を与えているようにも感じるのだが、序盤はどこかメンバーも緊張していたように感じたし、何よりもいつもとは違う厳かな雰囲気の会場ということで観客側にも緊張感のようなものが漂っていたように感じる。どこか盛り上がっていいのか手探りな感じというか。
しかし岩渕はそんな観客にも
「今日は始まる時間が少し早かったから、みんな仕事を休んだりして来てくれたのかなって。本当にありがとうございます」
と感謝を口にしたが、それは都内の感染者数がとんでもない勢いで増え続けている今の状況でライブに来てくれるということを選んだことへの感謝という意味合いも間違いなくあったはずだ。
そんな言葉から、バンドがスタジオで制作したデモが公開されている「DOGS」でバンドの持つグルーヴの申し子としての部分が顔を出すと、「ラプチャー」でじっくりとそのうねるようなグルーヴを精製し、それが「Faces」のタイトルトラックと言ってもいい「Faceless」のアウトロで爆発するかのような激しさを見せる。持ち合わせているグルーヴの凄まじさとニューウェイヴ的なクールさがこの曲で見事に融合していることによって、ステージも客席も緊張から解き放たれたかのように一気にガラッと空気が変わったのがハッキリとわかる。そのこのバンドでしか鳴らすことのできないサウンドをこの曲で確かに掴んだのだ。それはこのライブのタイトルになっている「Face to Face」の通りに、バンドと観客が顔と顔を見合わせることができるライブという場だからこそだ。月世界の時は逆光で観客の顔が全く見えなかったが、この日はよく見えたという要素ももしかしたらあるのかもしれない。
そのガラッと変わった空気によってバンドの演奏はさらに獰猛になり、観客も飛び跳ねて腕を振り上げるという盛り上がりを見せるようになった「氾濫」から、「Rodeo」では田野がこの曲だけサングラスをかけてステージ前まで出てきてうねりまくるベースを弾く。出で立ちからしてこの日はパリピというよりはミッシェル・ガン・エレファントのようなスーツを着た凄腕ロックンロールバンドのメンバーというようなイメージだ。
そうしたこのバンドの持ち前のグルーヴの強さは「Faces」のタームの始まりと言っていい曲である「Strange Days」を「こんなにライブ映えする曲だったのか」と思うくらいに肉体的なロックサウンドに進化させている。こうしたサウンドを獲得したのはプロデューサーの石毛輝(the telephones / Yap!!!)の手腕によるものが大きいだろうけれど、その石毛のプロデュースとバンドが持っていたものがガッチリと噛み合った結果であるとも言える。
オオミハヤトのドラムも一気に「燃え上がる炎」という歌い出しに合わせるように手数と強さを一気に増す「SO YOUNG」でのタイトル通りに衝動漲るロックサウンドに乗る浪越のノイジーとキャッチーを行き来するようなギターがバンドが今なお持ち続けている野心が全く縮小していないということを示すようにギラつきながら、でもあくまでいつものように浪越はほぼ無表情で鳴り響かせると、「Faces」の中でも屈指のメロディの美しさを持った「Melody Lane」もまたこの流れであるために、あくまでロックバンドとしてのメロディの良さ、キャッチーさを持って響く。ある意味ではSEに使っているSuedeに通じるものも感じる曲であるのだが、そこに乗る歌詞は別れた後の寂寞を感じさせるものになっている。それでも、
「君がいない街で
君がいない明日へ
鳴らし続ける Melody Lane」
という締めのフレーズはそうして自分の見ている景色が変わってしまっても、なんなら自分の生きている世界そのものが変わってしまっても音楽を決して止めることはないというバンドからの力強い宣誓そのものだ。だからそこには微かでも確かなる希望が宿っている。
そして早くも最後の曲として演奏されたのは「Sad Good Night」で、イントロの浪越の泣きを誘うギターから、オオミのリズミカルなドラムで一気に跳ね上がり、岩渕はタイトルフレーズを叫ぶように思いっきり歌う。「Faces」の前にリリースしたEP「Rolling」の曲たちがバンドにとって新たなスタートを切った作品であると同時に実に重要なものであることを思わせつつ、今の世の中になってしまったことによって抱えるようになった、観客それぞれの悲しみをバンドが振り払って前に進んでいくということを示すような演奏だった。まだ「おやすみ」というには早い時間だったけれども。
アンコールで再びメンバーが登場すると、前日にスタジオに入ってリハを行った際に、帰りに岩渕がそこそこ離れているCoCo壱に行ったらそこに田野がおり、2人ともその後に別々に同じ銭湯に行ったというシンクロっぷりを語る。どうにも2人っきりだと気恥ずかしいらしく、熱湯と水風呂に交互に入るという交互浴を、2人がタイミングをずらして別の風呂に入っていたという心理戦が展開されていたという。
ちなみに浪越も2人の勧めで交互浴を行ったことがあるらしいのだが、同じ浴槽に2人ずつしか入れない昨今のご時世上、待っている時の田野が「早く出ろ」的な感じで浴槽の前で仁王立ちしているというエピソードはこの日最も笑いを誘っていた。
そんな何とも微笑ましいメンバーの関係性が伝わってくる中で、「Faces」の中でまだ演奏されていなかった「Seagull Weather」が演奏される。音源では特にリズムがトラック的なイメージも強かった曲であるが、やはりこうして4人でのバンドで演奏されることによってその印象はだいぶ変わる。切ない風景描写による歌詞の曲であるが、岩渕得意の早口歌唱も含まれていたりという点ではこの曲もまた新しく獲得した音楽性と元々バンドが持っていたものがあるからこそ生み出せた曲だと思う。
そして岩渕は告知として、バンド主催フェスである「パナフェス」を今年は神戸と横浜の2箇所で開催することを発表する。出演者はまだ発表されていないが、バンドの地元の神戸だけではなくて関東でも開催するというのは2年前の春に本当にギリギリのギリギリまで迷って中止にならざるを得なかった、日比谷野音での明確なリベンジと言っていいだろう。バンドの状況としてもその時に華々しく岩渕のポリープからの復活を告げるものにしようとしていたであろうだけに。
そんな観客を喜ばせる発表の後に
「昔の曲を」
と言って演奏されたのは、田野が再びステージ前に出てきてベースをうねらせまくる、グルーヴの申し子としてのパノパナを実感させてくれる「MOMO」。やはりこの曲を聴いていると、こうしたグルーヴの強さこそがこのバンドの最大の持ち味なんじゃないかと思うのは、観客が本当に楽しそうに踊りまくっていたから。このグルーヴがあるからこそ、どんなサウンドの曲をやってもパノパナの音楽になる。
そうした、初めてこのバンドのライブを見たSWEET LOVE SHOWERのオープニングアクトでの「これは凄いバンドが出てきたな…」と思った時の衝撃は今も全く失われていない。
すでにアンコールで2曲やっているし、月世界に行った人もその時はここで終わっていたと言っていたので、てっきりこれで終わりかと思っていたら、岩渕がギターを下ろしたのはライブが終わるからではなくてこの日最初で最後のハンドマイクになったからであり、再び田野も浪越もステージ前まで出てきて「世界最後になる夜は」でさらに燃え上がるようなグルーヴを発すると、最初はステージ上で歌っていた岩渕は「いつ使うんだろうか」と思っていたけれど、ここまで全く使っていなかった、下手側にある階段を登って踊り場(ライブによっては登場がここからの場合もある)に立って歌う。自らMCで
「こういう雰囲気の会場に似合うバンドになったかなって。だからまたここでやりたいですね」
と言っていたが、それを自らのパフォーマンスで証明するようなものでありながら、それはかつてフェスでもマイクを持ってステージから飛び降りて客席に突入して歌っていた衝動がやはりまだ全く失われていないということを感じさせてくれた。だからこそ、またこのキネマ倶楽部でライブを見たいと、客席にいた誰もが思っていたはずだ。
コロナ禍になったこともそうであるが、バンドとしても近年はなかなか思うようにいかなかった数年だったと思う。ドラマーの脱退、岩渕のポリープ、そこから復活しようとしたらライブができない世の中になる。
まだ若手とは言えるかもしれないけど、もう新人ではないという微妙な位置にいること、同時期にデビューしたバンドたちの背中が遠くなっていることへの焦りだって少なからずあるはず。
それでもこうしてこのバンドがそうした様々な逆風を乗り越えた上で今も活動している、その中で新しいサウンドに挑戦しているという姿に力を貰って生きている人も間違いなくいる。元々シーン登場時からライブの地力は飛び抜けているバンドであることを当時から顔見せ的に出演してきた様々なフェスやイベントで証明してきただけに、どんな時代になろうとも生き残っていく力があるバンドだと思っている。なかなか新規の人にそのライブを見てもらうのも難しい世の中になってしまったということも実感してしまうけれど、こうして顔を合わせることで伝わることがあるというのはこれから先も変わることはない、それを改めて証明してくれた「Face to Face」というタイトルのライブだった。
1.King's Eyes
2.いい趣味してるね
3.Algorithm
4.100yen coffee
5.月の裏側
6.真夜中の虹
7.DOGS
8.ラプチャー
9.Faceless
10.氾濫
11.Rodeo
12.Strange Days
13.SO YOUNG
14.Melody Lane
15.Sad Good Night
encore
16.Seagull Weather
17.MOMO
18.世界最後になる歌は
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