まだライブで住んでいる以外の地方に遠征することに凄まじい緊張感というか、後ろめたさのようなものすらあった1年前のこの時期にバンドの地元である愛知県の国際展示場で大規模なワンマンライブ「YON EXPO」を開催し、その地で生まれたロックバンドとしてシーンのヒーローさを感じさせてくれた、04 Limited Sazabys。
今年は運送会社「YON EXPRESS」を立ち上げて、新作シングルを配送する(中にはメンバーが直接配送に行った家もある)という、コロナ禍の中でも家にいながらにして楽しいかつ新しい音楽の届け方を作ってくれたが、そんな活動を経ての今年のYON EXPOは幕張メッセでの2days開催であり、この日は初日となる。
幕張メッセの9〜11ホールを使いながらも、10〜11ホールはストラックアウトや写真撮影スポット、物販などのパビリオンブースや、メンバーのRYU-TAがプロデュースする「麺屋おがた」をはじめとしたフードブースとなっており、ただのワンマンではなく、フォーリミが作り出したテーマパークという趣きとなっているし、それは年々進化しているように感じる。
検温と消毒を経てライブエリアに入ると、ステージの両サイドには大量の段ボールの山や段ボールを荷台に積んだトラックが停車していたりと、YON EXPRESSの車庫というか本社がここであるかのようなステージ設営になっており、客席には大量の椅子が並べられた指定席というのは去年同様であるが、1席空けにはなっていないために、このライブが発表された時の規定人数のギリギリの観客数になっているのだろう。
開演時間の18時になると、ステージを覆っていた紗幕に映像が投影される。字幕付きというやたら豪華なその映像は小さな物流会社であるYON EXPRESSの職場風景であり、社長のKOUHEI(ドラム)、梱包作業に勤しむ寡黙な社員のHIROKAZ(ギター)、同僚の外国人従業員に褒められるくらいにたくさんの段ボール箱を塔のように重ねて持てる新入社員のRYU-TA(ギター)、そして美女を両サイドに侍らせながらも堂々と遅刻してKOUHEIに怒られるエース社員のGEN(ベース&ボーカル)という配役に。去年は航空会社であったが、実在する会社かのようなセットからして、ライブが始まる前からこの映像が劇的に進化しているということがわかる。
社長のKOUHEIの「仕事だ!」を合図にしてメンバーたちが2tトラックの荷台に「YON EXPRESS」のロゴが入った段ボールを積み込み、メンバー自身も車に乗り込むと、お約束のようにRYU-TAが置いていかれる中、トラックは幕張メッセの9〜11ホールから1〜8ホールへ向かう入り口に着車する。
「普通の物流会社ではない。音を届けに行く会社である」
という字幕とともに幕張メッセの中に向かっていくメンバー。GENの持つ段ボールの箱が開くと中から光が溢れて…という、もはや映画を見ているというか、この設定でそういう映画をこのまま作った方がいいんじゃないかと思ってしまうほどのクオリティであるし、実在するんならYON EXPRESSに転職したいとすら思ってしまうくらいだ。
そんな映像が終わると、紗幕には巨大なメンバーの影が映る。映像を見ている間にすでにメンバーがステージにいる。そのシルエットが楽器を演奏するものになった瞬間に紗幕が落ち、YON EXPRESSの制服であるポロシャツを着たメンバー4人が演奏しているのは、実際にYON EXPRESSを立ち上げて届けられた「Just」。キャッチーなフォーリミ節前回のメロディの曲であるが、
「届けたい 今から」
という歌詞はまさにYON EXPRESSとして我々の元にこうして音を届けに行く姿勢そのものだ。GENのボーカルも実に伸びやかであり、やはりこのライブに向けて合わせてきたことが感じられる。
やはりまだ観客は声を出すことはできないけれど、それでもRYU-TAが「オイ!オイ!オイ!オイ!」と観客を煽りまくると、観客が声を出さずに腕を振り上げる「Kitchen」ではフレーズに合わせてパンパンパンと誰もが手拍子をしているのはさすがにフォーリミのワンマンであるし、本当に観客がみんな楽しそうに踊っていて、その姿を見るだけでなんだか感動してしまう。コロナになる前とで楽しみ方が変わらざるを得なかったバンドであるが、その限られた形であってもこうしてフォーリミが目の前で演奏してくれているだけで本当に楽しいということをその光景は証明している。
前半からバンドは飛ばしまくるということを示すのはここで早くも疾走しまくるツービートの「climb」が演奏されたからであるが、HIROKAZとRYU-TAはステージから左右に伸びた通路の、そんな先まで行けるのか!という位置まで歩いて行ってギターを弾いている。そしてステージまで戻ってくると、
「さあ 高く 今 飛び立て」
のフレーズで2人はステージ中央を見合わせるようにギターを抱えて思いっきりジャンプする。その姿を見ていると、こちらもまたもっと高く飛べるかのような。もっともっと行けるような感覚になれる。この曲は、フォーリミのライブは、いつだってそんな感覚を与えてくれるのだ。
GEN「ステージ金かかり過ぎじゃない?劇団四季とか出てくるの?」
という通りに、港湾のコンテナ置き場を彷彿とさせる、重機までもあるステージはかなりの金銭が投じられていると思われるが、それは今回のライブの世界観を作り、来てくれた人をその世界に没頭させるためのものだ。コンテナが世界的に不足しているというニュースも見たりするけれど、ステージに置いてあったのは本物のコンテナなんだろうか。
そんなステージも含めて、
「みんなに光が射しますように!」
と言って早くも演奏されたのは「swim」。観客は手拍子や泳ぐ仕草でこの曲を最大限に楽しんでいる中、「climb」では少し苦しそうに見えた(というか「climb」が難しすぎる)GENのボーカルがこの曲では歌詞を変えることなく、一切の不安を感じさせないどころか、ライブがなくなりつつあった去年からツアーを回れるようになった今年になってライブを重ねてきたことによって、むしろ今が最高潮、絶好調なんじゃないかとすら感じる。そのハイトーンの伸びやかさがそのままこの曲の持つ光をより輝かしいものにしている。コロナ禍で不安だった日々にこの曲を聴いて、未来を信じる力を貰ってきた人もたくさんいるはずだ。
そうして「Just / fade」のリリースツアーも行い、このライブはリリースとは関係ないものであるだけに、毎回果たしてどんな曲が演奏されるのかと観客はセトリも楽しみにしていると思うけれど、やはりこの日もいつもとは一味違うというのがわかるのは実に久しぶりにタイトル通りに甘さを感じさせるメロディの「Brain sugar」が演奏されたからであるが、
「愛を届けられ やめられないよ」
というフレーズは「音を届けに行く」というこのライブのコンセプトに沿ったものであり、今回この曲が演奏されたのはそうした要素もあったのかもしれないと思う。
「先輩からお借りしている曲をやります!」
と言ってGENが歌い始めたのは、東京スカパラダイスオーケストラの「銀河と迷路」のカバーという、これまたこの曲を、しかもこんなに早い位置で演奏するとは!という選曲なのだが、原曲はスカパラの中でも若々しい歌声を持つ永遠の少年ドラマーの茂木欣一が歌っているけれど、「少年性」という共通点を持つとはいえ、GENが歌うと本当にフォーリミの曲になるというか、フォーリミの曲でしかない。パンク、ハードコアの世界で生きてきたRYU-TAのギターがスカのリズムを刻むのも、HIROKAZと KOUHEIがその裏で複雑に構築された演奏を特にアウトロで展開するというのもフォーリミの曲ではあまり見られないものでありながらも、フォーリミのバンドの演奏力とアレンジ力の引き出しと凄まじさを感じさせてくれる。パンクバンド=演奏や歌唱が拙いという一昔前までに持たれ気味であったイメージをフォーリミはアリーナ規模に立つバンドとして塗り替えている。パンク好きとしてはそれが本当に嬉しいし、このバンドの存在をより頼もしく感じさせてくれる。
実に久しぶりに演奏したとメンバーも後に口にしていたのは「swim」がリード曲だったシングル「YON」収録の疾走感あふれるパンクソング「No way」(他の収録曲を改めて見ると、この曲が最もそれまでのフォーリミらしい曲であることがわかる)であるが、照明だけでなく、さりげなくレーザーも照射されているな、と思っていたら、サビでのタイトルフレーズ部分の歌唱になると天井にレーザーで「No way」という文字が映し出されているという、さりげなくもこのアリーナクラスの規模じゃないとできないような演出が。それが久しぶりに演奏されたこの曲をさらに特別なものに感じさせてくれるのだ。
そのアリーナクラスの会場であるこの幕張メッセ9〜11ホールではこれまでにもSATANIC CARNIVALやREDLINEのフェスなどで何度も立っているのだが、こうして自分たちのワンマンで立つのは初めてということで、慣れているようでもあり、やはり幕が落ちる瞬間はドキドキしているということをGENが語るのだが、映像内で社長役だったKOUHEIを日本ハムファイターズの新監督の新庄剛志を習ってGENが「BIGBOSS」と呼び、
GEN「優勝は目指してないから」
KOUHEI「積み重ねた先に優勝があったらっていう感じ(笑)」
と、普段から野球ニュースをよく見ていることがわかる2人の新庄語録の真似が展開されるのだが、当たり前のようにほとんどの観客が全然ピンと来ていない感が凄く出ていた。
そんなMCから、
「未来への、メッセージ」
と、英語歌詞のツービートパンクのショートチューンというフォーリミのサウンドの幅が広がっても軸は全く変わっていないことを示す「message」から、レーザー光線に加えて火柱が吹き上がりまくるという、大きな会場でも演出は控えめというイメージであるパンクバンドのライブの固定概念をひっくり返してみせた「fiction」と、どちらもがサウンド、ライブでの光景ともにフォーリミでしかない曲が続く。
するとGENがベースのイントロを弾きながら歌い始めたのはこちらも実に久しぶりの「Grasshopper」で、それまでは通常の演奏するメンバーの姿が映し出されていた、ステージ左右のモニターにはモノクロに加工されてメンバーの演奏する姿が映し出されている。その演出はこの曲が間違いなくハイライトだった日本武道館でのワンマンを思い出してしまうのだが、この日は
「明日の自分はどうだ?」
のフレーズが映し出されることはないストイックなスタイルだったけれど、タイトルに合わせて終始緑色の照明が照らしていたこの曲の中で、この部分だけは真っ白な光が明滅するという、バンド自身に光が射すような演出がなされていた。
この曲を聴いていると、本来ならばフォーリミが出演するはずだった、しかしコロナによって開催が出来なかった様々な夏の野外フェスでこの曲を演奏する姿が見れたんじゃないだろうかと思ってしまう。それは各地の夏フェスの野外会場の芝生の上で演奏されるのがこれほど似つかわしい曲もないからだ。そんな、失われてしまったフォーリミのライブの景色をこの曲は確かに想起させてくれるし、来年はYON FESをはじめとした様々な野外フェスでフォーリミのライブが見れたら、と思う。
そんな感動的ですらあるこの曲を歌い切ろうかというところで、GENとHIROKAZが
GEN「この曲が終わったらバーン!って次の曲に入るって言ってたじゃないかよ!」
HIROKAZ「いや、それは…」
と言い合いをし始めるのだが、それはおなじみの「Galapagos」の入りであり、そのやり取りがある意味ではコント的だったということがよくわかるくらいにその入り方のタイミングはバッチリ噛み合っているのだが、こちらもおなじみのこの曲の間奏でのやり取りでは何故かGENがのび太でHIROKAZがジャイアンというドラえもんコントが展開されるのだが、ジャイアンにいじめられたのび太がジャイアンから宅配が届いて、プレゼントかと思って箱を開けたら中にはドラえもんの生首が…という何故かやたらグロいコントが展開される。宅配というのはYON EXPRESSに合わせたのかとも思ったが、それを吹き飛ばすくらいのオチの付け方である。
すると一旦曲終わりでステージが真っ暗になり、そこにはスクリーンが現れて、完全に「家ついて行っていいですか?」を真似た2064年の海浜幕張駅近辺の映像という体(2064年とは思えないくらいに駅前が変わっていないということを突っ込むのはナンセンスか)で、老人のメイクを施したHIROKAZの家についていくことに。
かつて人気バンドのメンバーだったというHIROKAZ老人はバンドがのちに国民栄誉賞を受賞し、その後にGENが西川貴教(T.M.Revolution)に憧れてボディビルダーとなり、RYU-TAはビッグダディ化、KOUHEIは iPhone30を発明と、バンド以外の面で活躍したことを明かすが、何故かGENがすでに死去しており、だからバンドを辞めてYON EXPRESSで余生としてバイトをしていると明かす。1番メンバーの中で喋らないイメージのHIROKAZがこんなに老人を演じる力があったのかということに驚いてしまうけれど、
「2021年の幕張メッセのYON EXPOが人生で1番楽しかったのが忘れられないから、今も幕張に住んでいる」
というセリフによって映像が終わり、まさに2021年のYON EXPOであるこの日に戻ると、メンバーはYON EXPRESSの制服からそれぞれバラバラのステージ衣装に着替えてステージに再び現れ、ここからはまたライブの流れが変わるということを感じさせる。
実際に火柱が吹き上がりまくる「fade」からはフォーリミの持つラウドさ、ハードさが際立つ曲が続くのだが、その発火点が最新シングル曲であるこの曲であるというところにバンド側の今回のシングルへの強い自信が伺えるし、実際にすでにライブにおけるキラーチューンになっていると言えるくらいにハードでありながらもキャッチーな曲だ。だからこそ「Just」との両A面にした部分もあるのだろう。
火柱だけでなく、スモークまでもが大量に吹き上がり、なんならメンバーの姿を隠してしまうほどになる「knife」、さらには配信でのジャケットを思わせるような鮮やかな色彩の照明と火柱が融合し、リズミカルなRYU-TAのコーラスも光る「Jumper」とこの中盤と呼べるブロックではフォーリミのライブでの演奏が持つ音の重さを感じさせる曲が続く。それはこのバンドがラウドバンドらが多く出演するイベントやフェスを渡り歩いてきた上で重要な曲たちである。
するとGENがタイトルコールをしただけで驚きの声が客席から上がりそうになっていたのは、GENのベースのイントロからして魅惑的な雰囲気を感じさせる「mahoroba」。その観客のリアクションは間違いなく「この曲までやるの!?」というものだったのだが、その妖しい雰囲気が港湾や物流というステージのイメージをこの瞬間だけは甘い蜜が漏れ出すような深い森の中にいるような感覚になる。フォーリミの中では珍しいタイプの曲と言えるが、そうした曲が人気があるというのは、ただ激しい曲で盛り上がりたいという理由でフォーリミが観客に支持されているわけではないということがわかるような。
曲終わりではGENが意外な名演技を見せたHIROKAZ老人のことを褒めたりしていると、急にステージに警報音が鳴り響く。それは客席ど真ん中に設営されたサブステージへの移動の合図であり、メンバーは通路側の観客からしたら手が届くくらいの位置の客席の通路を歩きながらサブステージまで到達するのだが、その際にGENが「ブスばっかり(笑)」とネタのように言っていたのは影響を受けているであろう先輩の細美武士イズムを感じさせる。
楽器がセッティングされたサブステージ上の椅子にメンバー4人が座ると、近くまで来たことで後ろの方の席の人にも手を振りながら、
「寒くなってきたんで、暖かい曲を」
と言ってアコースティック編成で演奏されたのは、このライブの前に行われた配信トークでRYU-TAが「この曲はやる」と事前に宣言してしまっていた「soup」。そのRYU-TAはアコースティックではベースを弾き、GENがハンドマイクで歌うのだが、それは今年の春にモリコロパークで収録された配信ライブの編成と同様であるだけに、どうしたって聴いているとあの場所に、YON FESに思いを馳せてしまう。もう2年間開催できていないということは、2年間あの場所に行けていないということ。来年の春こそはまたあの場所で…と思うのもこの曲が優しく包み込んでくれるようなサウンドだからだろう。
そんな「soup」なだけに、曲終わりでGENはHIROKAZに
「何のスープが好き?」
と聞くのだが、返ってきた答えは
「鶏ガラスープ」
という、コーンスープとかの予想のはるか上をいくものであり、HIROKAZの発想力の独自さを感じさせる。確かに髪型が鳥っぽいけど、とGENは無理矢理納得しようとしていた。
「コロナになってから我々は封印している曲がある。でも本当はその曲こそ今1番ライブでやりたい曲なのかもしれない」
というGENの言葉には観客も何の曲を言っているのかすぐにわかったはずだ。
その曲はこれまでにもライブでたくさんの人の衝動に火をつけてきた「Buster call」であり、それはこの日はアコースティックという形だったが、実に久しぶりにライブで演奏され、GENも歌い出しのフレーズをこれでもかというくらいに長く伸ばして歌う。そこにこの曲の持つ「一度は離れ離れになった仲間たちがまた集まる」というメッセージを強く乗せるかのように。アレンジとしてはやはりアコースティック、ギターがアコギ1本ということだけあり、オシャレさすら感じる落ち着いた形になっていたのだが、そこには確かに今までこの曲をライブで聴いていた時の衝動が込められていた。きっと元の形のライブができるようになるまでは通常の形では演奏されないのだろうけれど、アコースティックであってもこの曲が聴けたということは、少しずつでもその日が近づいてきているということ、フォーリミが積み重ねてきたものがちゃんと身を結びつつあるということだ。
アコースティックを終えて再び観客の間を通ってメインステージに戻ると、
GEN「いや、ブスなんか今まで言ったことないし、思ったこともないし(笑)」
と弁解しながらも、去年の愛知でのEXPOなどでも口にしていたとおりに、フォーリミの音楽やライブはコロナに強いものであるはずだという話をはじめ、
「いろんなバンドが感染したりしてライブを延期したりしてきた中で、我々はメンバーもスタッフも誰も感染してない。それは俺たちの音楽やライブが本当にコロナに強い、コロナに効くものだって証明できたんじゃないかなって」
と口にしたが、去年のEXPOも、その前に行ったTHE ORAL CIGARETTESとBLUE ENCOUNTとの「ONAKAMA」も、開催するにあたってバンド自身やメンバー自身がいろいろと言われまくってきたはずだ。
それはファンもそうで、「あのバンドのファンなんか絶対無理」みたいなことだって散々言われてきたはず。でも結果的にフォーリミのライブで感染したという結果は出ていないし、こうしてライブに行くとみんながしっかりルールを守っているということがよくわかる。フォーリミが好きな人が、この日のライブに来ていた人が自分のフォロワーにもたくさんいるけれど、その人たちがコロナに感染したということもない。それは散々言われまくってきたフォーリミのファンたちがライブの場だけでなく、日常からちゃんと感染対策をして生活してきたということであり、それがこうしたライブにもつながっているはずだ。何よりも、フォーリミの音楽やライブは自分自身を強くしてくれる。その感覚こそがコロナに効いているんじゃないだろうかと思う。
そんなことを思っていると、GENは
「今日は晴れたから、流星群がよく見えるんじゃないでしょうか!」
と言って何度聴いても全く飽きることのない「midnight cruising」を演奏すると、ステージのあらゆる場所にあるミラーボールが流星の光のように輝き、RYU-TAは間奏で
「みんな、本当に会いたかったよー!」
と叫ぶ。近年、この部分がどんどんシンプルな言葉になっているのは、ライブが少なくなってしまったことによって本当に言いたいことを探した結果がこれだったということなのだろう。こっちだって本当に会いたかった、って口に出して言える日はまだもうちょっと先になってしまっているけれど。
2年前に缶に入ったという独特なリリース形態も話題になった「SEED」収録曲はあまりライブで演奏されず、そもそもその後にコロナ禍になってしまったことによってなかなかライブで聴く機会がなかったのだが、この日はハードな音像の「Puzzle」がここで演奏され、こうしてライブができるようになってきたことによって、この曲もようやくバンドの中にすんなりと入ってくるようになったんじゃないかと思う。何よりもかなり歌うのがキツそうな曲であるのにGENの声が全く乱れないというあたりに、今のGENがストイックに音楽と向き合い、自身の声や喉を鍛えているということがよくわかる。
いつもならばMCや口上を挟んでから演奏されるのがおなじみである「Letter」はそうしたものがなしでいきなり演奏され、RYU-TAの間奏での煽りすらないという形になっていたが、それはその分曲のメッセージに全てを託しているということだろう。実際に飛び跳ねたり腕を上げたりしなかっただけに、
「あんなに通じ合ったのに
路頭に彷徨い途方に暮れる
今でも思い出す温もり」
というフレーズがコロナ禍になってそれ以前のライブをフォーリミが思い返しているようにも聞こえてきたのである。
その想いは観客にも、そしてこの日のステージやライブを作ってくれたスタッフにもメンバーは当然持っている。前日入りして会場内を見て、ステージを作ってくれていた、普段直接言葉を交わしたりはしないスタッフにも感謝を告げるべく、大きな長い拍手を送ってもらうと、
「僕らが活動をすることで生きていける、生活ができる人がいて、こうしてライブをすることでその人たちの生活を支えられて、経済を回して社会に関わっていけている」
とGENは言ったが、音楽などの社会の埒外にあると思われてもおかしくなかったものもやはり社会の影響を直接被るということも強く実感せざるを得なかったこの1〜2年だった。だからこそ、こうした場所を、自分の人生を豊かにしてくれる人たちにどうやって感謝の意を示して、どうやって関わっていくか。そこはコロナ禍になってより意識的になったことかもしれない。それは1人でどうこうしたって変わるものではないかもしれないけれど、そうした場所や活動がなくなってしまった後に嘆くだけでは後悔だけが残ってしまうから。
そんな思いに浸れる曲が
「永久に永久に
ちょうどいい空気で
ふわりふわり
ちょうどいい温度
絶妙な世界をこのまま
貼ろう貼ろう」
という「hello」であり、どこかこの曲の持つ暖かい空気はフォーリミのメンバーの優しさが客席、いや会場全体にまで広がっていって、ここにいる全員が優しくなれるような感覚になる。こんな景色が永久に永久に続けばいいのになって思うくらいに。
そしてこちらもそうした空気を引き継ぐのはなかなかワンマンでないと聞けない「Shine」であり、この後半にきての2曲はフォーリミがただ激しい音を鳴らしているバンドではないという人間らしさを感じさせてくれる。この曲で蓄えたものをこの先にさらに生かしていくかのように。
するとGENは先日新木場STUDIO COASTへ遊びに行き、Zepp Tokyoもなくなってしまうことに触れる。この幕張メッセも含めて、自分たちも50年先まで生きているかわからないと。先ほどのHIROKAZおじいさんの映像の中ではGENは2064年には死去しているという設定だったけれど。だからこそ、
「スマホは便利だけど、自分がこいつを使いこなしているように見えて、実は自分がこいつに支配されてるんじゃないかって思うこともあったり。自分の好きなものを愛していけるように、それを大切にできるように生きていけたら」
と改めて自分の生き方を口にするのだが、GENやメンバーがそうであるように、やはり自分にとっても音楽というものが好きなものであり、これからも1番大切にしていきたいものだ。でも音楽だけじゃなく、それにまつわる人がいてこそだということを去年のEXPOからのフォーリミのライブは感じさせてくれる。スタッフとライブで久しぶりに会っただけで泣きそうになったとも去年GENは言っていたから。
そんな思いを音として昇華するために、さらに強く生まれ変わるべく演奏されたのは、もはやフォーリミのライブのクライマックスを担う曲でしかない「Squall」。ここへ来ての鬼神のごとき強さと支配力を発揮するKOUHEIのドラムも、ステージ前に出てきてギターを弾くHIROKAZとRYU-TAも、ファルセットまでも完璧に乗りこなしてみせるGENも。そんな4人の姿を見るたびに、
「空は 五月雨どうして
不安を流して
立ち上がり 何度も
変われる 進める」
という通りに何度だって立ち上がれるし、これからも進んでいけると思える。目の前にいる4人がそうやって立ち上がって進んできたのだから。
しかしそれでもなおライブは終わらず、ラストに演奏されたのは渾身の「monolith」で、イントロが鳴らされてボーカルに入る直前に爆発音の特効が炸裂し、演出を知っていたメンバーすらも驚いてしまうくらいなので、観客の驚きはそれ以上であり、なんなら耳がおかしくなってしまったのかと思うくらいの音量ですらあったが、それが初めてライブを見た時から今までに数え切れないくらいに聴いてきたこの曲がこの日演奏されたことをより特別なものにしていたし、そうして今までに見てきたライブだってちゃんと覚えているから、30年経っても50年経っても、フォーリミのライブを見てきたことは忘れないから、と思っていた。
アンコールで先にKOUHEI、RYU-TA、HIROKAZの3人が出てくると、GENはスマホを取り出して客席の様子を撮影する。それはなんとインスタライブとして流れていたようであり、実際にGENのボディビルダー姿を作ったスタッフがそれを見ていたという。
KOUHEI「何勝手に撮ってんねん」
というツッコミからもメンバーの関係性が感じられる中、GENは来年はこのEXPOを多分開催しないだろうということを告げる。
今年まで3年連続で開催され、この日も「サーカスとかをオープニングで出してみたい」と言うように、ワンマンではあるけれどなんでもできる日だからこそいろんなアイデアが出てきているのだろうけれど、毎年この時期にこの規模のワンマンがあったら、それを軸にした1年になってしまう。
だからこそそれをやらないということは、それに変わる活動の軸が来年はあるということだ。それは自分としてはYON FESの開催と、アルバムをリリースしての全国ツアーになるんじゃないかと思っている。それは敢えて「やらない」と口にしたからには、違う楽しいことを絶対に考えてくれているだろうというフォーリミへの信頼があるからこそだ。
だからこそ、来年ではない次にまたEXPOを開催できる時にはみんなが声を出せるようになっているように、という願いを込めて再会の曲として演奏されたのはやはり「Terminal」。
去年のEXPOで聴いた時に格別な、特別な意味を持って響いたこの曲も、1年経ってから聴くとやはり少し感じ方が変わる。去年は「最低な世界」真っ只中だった状況が、少しずつ変わってきつつある。
「最高な世界になったら
きっと愛せるんじゃないか
何処にある ここにある
最後は 君といたいから」
まだ最高だと思えるような世界にはなっていない。むしろ、そう思える世界はやってこないかもしれない。でもこうして君=フォーリミと、フォーリミを愛する人たちと同じ空間にいることができる。今はそれだけでも、去年よりもはるかに最高の世界にいることができていると思える。そしてそれを心から愛せている。
そしてGENが
「これからも、一生一緒にいて欲しい!」
と言って演奏されたのは、EXPOのテーマソングと言ってもいいであろう、バンド主催のライブでしか演奏されない「Give me」。曲が始まると両サイドのモニターにはこの日のライブのリハや打ち合わせ、映像の撮影風景というこの日への足跡が映し出されていき、そこにこの日撮っていた客席の映像、そしてパビリオンブースで写真撮影をする観客の映像もが映し出される。ようやく、そうした映像をただただ「楽しかったよなぁ」と振り返れるようになった。去年のEXPOでやはりこの曲が演奏された時に観客のライブ前の姿などが映し出された時は、「そうだ、楽しいと感じることは悪いことじゃない。我々は悪いことなんか何もしていない。ただ音楽が好きで、ライブが観たくてここに来たんだ」という特別な思いを感じた。
それが特別ではなくなってきたということは、これからもこうやってこの曲を聴けていること、周りにいる人たちの楽しそうな姿を見ていられるということが普通のこととして続いていくということ。手拍子が鳴り響くのを聴きながら、このリアリティを一生一緒に感じられるように、と思っていた。
そして演奏が終わると客席を背にしての写真撮影。掛け声を任されたRYU-TAはなぜか「ポン、カン、チー!」と麻雀用語の掛け声を使ったためにあまりみんなピンと来ておらず、最後にGENが去り際に
「普通の男の子に戻ります!」
と言ってマイクをステージに置いて去るという、キャンディーズと山口百恵のラストコンサートのマッシュアップ的な去り方をするのだが、いや、今の20歳くらいの人は絶対知らないだろうと思ったら案の定、最後の最後にぽかーんとした空気が漂っていた。
フォーリミはコロナ禍になる前からアリーナクラスの会場で演出を使ったライブをやるという、ライブハウスのパンクバンドから一歩進んだ活動をしてきた。その経験がコロナ禍になっても生きていると思うのは、楽しみ方が変わってもこの規模で鳴らされるべき曲と音がこの規模にふさわしい形で鳴らされていて、それをこんなにたくさんの人たちが観に来ているから。
きっとYON FESを始めたあたりから何か自分たちで背負うものが出来たんだと思うし、それによって疲弊したり消耗しているように感じる場面も時々見てきた。でも背負ってるものがある人には背負うものがない人とは全く違う覚悟がオーラとしてその姿から、音から感じられる。彼らのリスペクトする10-FEETやアジカンがそうであるように。
今のフォーリミはその背負っているものがあるからこそ、このコロナ禍におけるパンクヒーローとしての姿をより強く感じることができる。コロナに強い、コロナに効く音楽を鳴らしているバンドとそのファンは、コロナ禍を経験してより強くなれた。そんなことを感じた、2021年のYON EXPOだった。
1.Just
2.Kitchen
3.climb
4.swim
5.Brain sugar
6.銀河と迷路
7.No way
8.message
9.fiction
10.Grasshopper
11.Galapagos
12.fade
13.knife
14.Jumper
15.mahoroba
16.soup (Acoustic ver.)
17.Buster call (Acoustic ver.)
18.midnight cruising
19.Puzzle
20.Letter
21.hello
22.Shine
23.Squall
24.monolith
encore
25.Terminal
26.Give me