9mm Parabellum Bullet presents 「カオスの百年」 @KT Zepp Yokohama 9/9
- 2021/09/10
- 17:36
前日の9月8日はクリープハイプの日としてクリープハイプのライブを観たが、翌日であるこの日は9mmの日である、ということで今年の9mmの日は9mm Parabellum Bullet恒例のライブシリーズ「カオスの百年」をバンドの地元地域ともいうようなZepp Yokohamaで開催。
そもそもは去年にこのライブが予定されていたのだが、去年は開催できなかったことにより、9mmのサポートギタリストである為川裕也の所属するfolcaをゲストに迎えるというライブ内容は去年と全く同じものに。つまりは1年前のリベンジというライブである。
検温と消毒に加えて個人情報の記入というのも9mmのライブにおいてはすっかりおなじみであるが、それらを済ませて場内に入ると、ステージから左右に伸びる花道が作られているのが目を惹かざるを得ない。しかも細い花道ではなく、完全にそこで演奏することができることを想定しているような大きさだ。
・folca
平日にしてはめちゃくちゃ早い18時という時間に場内が暗転すると、ゲストのfolcaの4人がステージへ。自分も含めて為川が9mmのサポートギタリストを務めていることによってバンドのことを知った人も多いと思われるが、folcaとしてのライブを観るのは初めてという人も多いのではと思われる。自分自身、サーキットフェスなど(だいたいアルカラやHEREがメインとして絡んでいる)で観れる機会があったにもかかわらず、ちゃんとライブを観るのはこの日が初めてである。
いかにもバンドマンらしい長めの髪型の藤田ケンジ(ベース)が何やら人形なのかぬいぐるみを持って出てきたのはいつものことなのか?というシリアスな雰囲気を和らげるような仕草には可愛さのようなものも感じるが、山下英将(ボーカル&ギター)が
「やり直しの9月9日!日本のロックバンド、folcaです!」
と、やはり明確に昨年のリベンジであることを宣言すると、為川のギター含めて耳が痛くなりそうなくらいのメタリックな爆音が響く。そのライブの始まりを告げる音は9mmのライブが始まる瞬間のあのキメの音であるという至上のリスペクトっぷり。
サポートドラマーの凄まじい手数も含めて、こうして実際にライブを見て曲を聴くと、為川が何故9mmのサポートギターに選ばれたのかがよくわかる。きっと9mmと好きな音楽や影響を受けた音楽が似通っていて、それを自分たちの音楽として昇華している。つまり音楽性としてかなり9mmと近い位置にいるバンドということである。
山下の歌声はどこか艶のような部分を感じさせるものであることが「日本のロックバンド」という言葉に強い説得力を持たせているが、為川はサポートではなくてメインギタリストとなるとこんなにも弾きまくるようなギタリストなのかとも思うし、動きまくるギタリストなのかとも思う。だからこそ9mmでのライブではサポートに徹してくれているということも。
その為川と藤田はアンプにシールドを繋いでいながらも花道まで出て行って転げ回ったり、曲のキメでジャンプするというパフォーマンスにも9mmに近い部分を感じるが、山下による
「大事じゃないライブなんてない。ましてや9月9日に9mmがやるライブなんて本当に大事なものや。そこに俺たちを呼んでくれて本当にありがとうございます。
9mmの関係者やファンの皆様、うちの為川が大変お世話になっております!」
という言葉にはついつい、「いやいや、こちらこそ9mmを助けていただいて本当にありがとうございます」と深く頭を下げたくなる。9mmが止まることなく続くことができたのは為川やHEREの武田がサポートギターとして参加してくれていたから。もしその存在がなかったら我々は滝が復活するまで9mmのライブを観ることが出来なかったかもしれないのだ。
メタリックな曲だけならず、闇のダンスチューンのような曲や歌謡性を感じるバラードまでという曲の幅の広さもまた9mmに通じるところであるが、そんな中で山下が
「去年はいろいろと悪く言われたこともあったけれど、俺たちはいつもライブハウスでライブをやっている。ライブハウスにいるみんなが安心してライブを楽しめるようにって日々頑張っている。誰もがすぐに行けるわけじゃないけれど、行きたいなって思ったらライブハウスに来てください」
と言ったのだが、それはこうしたZepp規模ではない、本当に街の中にあるような小さいライブハウス(去年の春に散々報じられてしまったのもそうしたライブハウスだ)で日々ライブをやっていて、そこで生きる人々の姿を見ているバンドだからこその言葉だ。そこには為川を9mmで観ている時に感じるような、周りにいる人たちのために自分の力を尽くすという人間としての優しさを感じることができる。
そんな山下の、folcaというバンドの人間性を表していたのは、
「バンドマンにはバンドマンならではの感謝の伝え方がある!」
と言って演奏された、9mmの「光の雨が降る夜に」のカバー。本人たちはドキドキしていたと言っていたが、為川だけじゃなくてバンド全体でずっとこの曲を演奏してきたのだろうかと思うくらいのサウンドのハマりっぷり。山下と卓郎のボーカリストとしてのタイプの違いがあるのは確かであるが、9mmトリビュートの第二弾が出ることがあるのならばこの曲はfolcaにお願いしたいと思うくらいに、この曲の、9mmサウンドのカッコいい部分を完全に引き継いだカバーである。
そして最後に演奏されたのは
「俺たちにとって本当に大事な曲」
という「Haguruma」。それは再会を約束するようにも聞こえたのだが、それはつまりきっとこれからもこのバンドのライブを観る機会が何回も巡ってくるであるということであるし、こんなにカッコいいバンドを観ない理由がないなとも思う。
演奏後に藤田が登場時同様にぬいぐるみみたいなものを触りながら去っていくのに笑いそうになったし、「光の雨が降る夜に」のアウトロでおそらくツインペダルを踏んでいたんじゃないかと思わせるドラマーが裸足だったのを見て、マジで!?とビックリして去り際を凝視してしまった。
1.Strain
2.クレイジーショウタイム
3.Wanna Wanna Be
4.オーロラの種
5.光の雨が降る夜に
6.Haguruma
・9mm Parabellum Bullet
この日のライブは生配信も行われていたのだが、配信を見ていた人のコメントによると、場内が暗転して、おなじみのAtari Teenage Riotの「Digital Hardcore」が流れた時間は18時59分だったらしい。それは偶然ではなく、9mmの日だからこその徹底的に「9」という数字にこだわる姿勢だろう。それはこの後のライブで確信に変わるのである。
菅原卓郎(ボーカル&ギター)を先頭に4人が登場すると、かみじょうちひろのドラムセットはやや上手側を向くようにライザーにセッティングされており、そのライザーにもバンド名が記されているというあたり、この部分も含めて自身のドラムセットなのだろう。滝善充(ギター)は短パン姿という機動力を重視したスタイルで、それにより万全の状態であることを伺わせる。中村和彦(ベース)は最後に髪切ったのいつですか?って聞きたくなるくらいに相当伸びているであろう髪を結いているのだが、結いていても尚、長いなと感じてしまうレベルである。
「9mm Parabellum Bulletです」
と卓郎が挨拶すると、いつものようにジャジャジャジャーンというキメに入らないので、あれ?と思っていると、昨年リリースされたインストシングル曲「Blazing Souls」を演奏し始めるという、出だしからしてこちらの予想を心地良く裏切ってくる。ボーカルがないインスト曲であるが故に9mmサウンドの重厚さを存分に堪能できる曲であるが、滝は早くも花道に出て行ったり、ステージ上を歩き回りながらギターを弾いたりという軽やかさを発揮している。
そんなスタートだっただけに、これはどうやら今日は一筋縄ではいかないセトリになりそうだぞ、と配信も含めて見ていた人全員が思っていただろうが、いきなりの「Wildpitch」というまさにこちら側がキャッチできないレア曲という名のボールを投げてくる。
かと思えばfolcaがカバーしてくれた「光の雨が降る夜に」の本家バージョンも披露するのだが、卓郎はどこか間奏で客席を2階席まで見渡すように眺めていたし、滝はやはりガンガン花道に出ていくようにしてギターを弾きまくり、コーラスも明らかに声量が大きい。つまりは絶好調であるということであり、その滝の状態の良さがバンドの状態の良さにダイレクトに直結している。folcaバージョンもハマりまくっていたが、やはりこれが本家だからこそだなという爆裂さと安心感のようなものすら感じる。朝から降っていた雨が開演前にはすっかり止んでいたことも含めて。
観客がイントロのリズムに合わせて腕を振るという場面が、ついつい「オイ!オイ!」というコールが起こっているような熱気を感じさせるような「Scenes」ではかみじょうの一打の強さが否応なしにこちらの体と頭を揺さぶり、間奏では思いっきりエフェクターを噛ませた滝のギターソロとともに凄まじい手数を発揮する。超人ドラマーは年齢を重ねてさらに超人っぷりが増しているのがよくわかるし、この手数による叩く機材の多さはまさに要塞と言えるようなものである。
卓郎の挨拶的なMCと、すでに毎曲驚かされっぱなしの我々にこれからの展開への心の準備として3秒間の時間を与えてからの
「行・け・る・かー!」
で声は出せずとも観客の両腕が上がる熱狂を生み出すと、この間にステージに現れていたサポートギターの武田将幸とともに滝がギターを弾きまくる「Endless Game」という実に久しぶりな曲でバンドの爆裂っぷりはさらに増し、「DEEP BLUE」ではこの曲の前から使用し始めたステージ上に吊るされたLEDが曲の雰囲気に合わせたかのように青く光り、まさに我々全員が深まるブルーの中に取り込まれていくかのよう。
さらには和彦が作曲を手がけたことによって、メタル要素よりもストレートなギターロックとしての9mmという存在が際立つ「ダークホース」ではその作曲者である和彦がラスサビ前のベースソロでピンスポットを一身に浴び、足を高く蹴り上げるような姿も見せる。その姿はまさに
「まっすぐにまっしぐらに突き進んで
一歩ずつ一瞬ずつ刻みつけて」
という歌詞(作詞は卓郎だけど)そのものだ。
その和彦が今度はウッドベースに持ち替える…ということは演奏されるのはもちろん歌謡曲とメタルとパンクとハードロックと…つまりは9mmらしいと言われる要素を全て高純度で闇鍋の中にぶち込みまくったかのような「キャンドルの灯を」。かつてはライブでも定番と言っていいこの曲もなかなか久しぶりに聴くことができたけれど、かつてのようなどこかオシャレさを感じさせるイントロのライブアレンジは省略され、「ダークホース」からのテンポの良い流れの中で演奏されていた。
しかしながらこのレア曲の中でもかなりの爆裂さを誇る曲たちが並んだこの流れは一体どういうコンセプトで?と思ってしまうのは、9mmはライブでその日のセトリに明確なコンセプトを持たせるバンドだからであり、それは2マンライブを行った際には対バン相手のジャンルやサウンドに自分たちのセトリを合わせていくようなことをよくやっていたり、Zepp Tokyoなどの観覧車がある場所では「Termination」を演奏したりしてきたからなのだが、ここで卓郎は
「気付いてる人いるかな?ここまでの4曲はアルバムの9曲目に収録されている曲を演奏しています」
と、自分は言われるまで全く気付いてなかったのだが、あまりにも「9mmの日」でしかないセトリの組み方をしていたのである。
しかし、アルバムが8枚しかリリースされていないからという理由で、9曲目に演奏されたのはバンドにとって9枚目のシングル曲である「サクリファイス」という、昨年に9にまつわることを出来なかった鬱憤を全て晴らすかのような9尽くし。正直言って、「キャンドルの灯を」から「サクリファイス」という流れは通常にセトリを組む時には絶対に考えつかない流れであろうというくらいにガラッと雰囲気が変わる。この曲の作曲者は滝であるが、
「最後に笑うのはおれじゃなくていい そこにおまえがいれば」
というサビのフレーズのキャッチーさとストレートさはむしろ和彦が作曲した「ダークホース」に連なるところもあるな、なんてこともこの流れだからこそ感じることができる。
で、まだ全アルバムの9曲目に収録されている曲を演奏していないだけに、ここからはまだ演奏されていないアルバム9曲目の曲が演奏されるということである。
「キャンドルの灯を」までが爆裂曲が続いていたために、「アルバム9曲目ってそういう立ち位置の曲が入る場所なのか」とも思っていたのだが、どうやらそういう曲だけではなかったようだと感じられたのは「Dawning」の9曲目が9mmには珍しい英語の歌詞のフレーズが登場するロマンチックな「Starlight」だからであるが、今この曲をライブで演奏すると思っていた人がどれくらいいるのだろうか。なんなら「Dawning」のツアー以降で演奏されたことがあるのだろうかとすら思ってしまう。
まだ9mmが若手だった時代の2ndアルバム「VAMPIRE」の9曲目はガラっとサウンドが変わり、リズミカルに刻まれる武田と卓郎によるギターのイントロに合わせて滝が体を揺らすというか、踊っているようにすら見える「悪いクスリ」。「VAMPIRE」というアルバムに通じる雰囲気でもあるのだが、このディストピア感はどこか今の世の中の状況に合致してしまっているような感覚すらある。
さらに遡ってのメジャーデビューアルバムである「Termination」の9曲目に収録されているのは、今になって聴くとよくこんなに捉え所がないような曲を作って、それをメジャーデビューアルバムに入れたな、とすら思える「Butterfly Effect」であるが、どこか音響系と言われるようなバンドたちの影響を感じさせるような、ギターの音の重なりを実験しているかのようなこの曲が、武田を加えてのトリプルギターになったことによってグッと音像が整理されたように聴こえる。というか今後演奏されることがあるのか、とすら思ってしまうこの曲を覚えてライブで演奏してくれる武田は本当に凄いし、本当に9mmというバンドを愛してくれているんだなと思う。
そうしてアルバム9曲目シリーズの最後を飾るのは「BABEL」収録の「ホワイトアウト」なのだが、そもそも夏前には「BABEL」の再現ライブも行っていただけに、この曲が9曲目シリーズの中で最も演奏と歌唱に安定感が感じられた。リリース時は負傷してまだライブが出来なかった滝を加えた形での「BABEL」の再現ツアーという企画がまさかこういう形で生きてくるとは。その完成度の高さが9曲目シリーズのサウンドの幅をよりしっかりと感じさせてくれるとともに、意識はしてないのだろうけれど、9mmのアルバム9曲目が名曲揃いであり、こんなにもファンが待ち望んでいた曲だらけであるということを改めて証明したコンセプトであった。
そうした9曲目シリーズの演奏を終えた卓郎は、
「今日は配信もやってるんだけど、9mm配信やってるならちょっと見てみようかなくらいの人からしたら何の曲をやってるかわからないくらいに渋いんじゃないかと(笑)
夏フェスが今年も我々の元には来なかったけれど、夏フェスでやっているような曲を聴きたい人もたくさんいるんじゃないか、ということで、みんなにも夏を少しでも感じてもらうために、今年の夏フェスに出演していたらやっていた曲をダイジェスト的に演奏したいと思います」
と、さらなるこの日のコンセプトを発表し、滝と和彦がそれぞれ花道に歩み出していくと、滝の強烈なギターのイントロに合わせて観客が腕を振り上げる「太陽が欲しいだけ」を演奏するのだが、ダイジェストでありメドレー形式にしているため、サビがいきなりラスサビになるという短縮形なのだが、それでもやはり夏の野外の痛いくらいに照りつける太陽の下でこの曲を聴きたかったと思う。この曲から始まる9mmの夏フェスのライブは暑さに全く負けないような力をくれるということを知っているから。和彦が花道に立って腕を大きく広げる姿も涙が出そうなくらいに頼もしい。
印象的なというか、曲の骨格部分は残しながらもほぼサビのみの「ハートに火をつけて」から、「Answer and Answer」はビックリしてしまうくらいにサビからいきなり始まり、と曲によって活かし方、残し方は様々であるが、この曲たちをアウトロとイントロを繋げることによって、壮大な1曲にしてしまうかのようなアレンジは本当に見事である。しかしながら実際の夏フェスではフルに演奏していただろうし、今後のライブでもこうしたメドレーをやるようなバンドじゃない。つまりこれは紛れもなく今回1回だけのためのアレンジということだ。
卓郎は
「スタジオでこのメドレーを練習してる時に「これは本当にみんなが喜んでくれるものになっているのだろうか」とも思っていた」
とこの後のMCで口にしていたが、いやいや、こんなこの日のためのアレンジを喜ばないわけがないだろう、と思うし、実際に現地で見ていた人の中にもこのメドレーをもう一回観たくて配信のアーカイブを買うという人もたくさん出てくるはずだ。
メドレーならではの切り替わりにキーがついていかない感もあったのが逆に面白く感じた「Discommunication」から爆裂っぷりしか残っていないかのような、卓郎、滝、武田、和彦がネックを立てる姿を自身もそのパフォーマンスに参加していることもあるfolcaの為川が袖から撮影していた「新しい光」というあたりはこれまでもフェスでハイライトと言えるような場面を作ってきた曲たちであるが、その中に「The World」を久しぶりにフェスセトリの中に入れてきたというのは、
「呼吸を止めて確かめてみる
生きていく苦しみをわずかでも
目を凝らして焼き付けてみる
明日も僕らが生きていく世界を」
というフレーズが今の世界の状況や空気をこれでもかというくらいに言い当ててしまっている部分もあるからだろう。きっとこの曲を今年の夏フェスで聴けていたら、コロナ禍における夏フェスの瞬間として忘れられないものになっていただろうし、この世界を生き抜いていく力を貰えていただろうとも思う。
1コーラスという形になったこちらはどこのフェスのどのステージで演奏されていたのだろうか、と想像してしまう「黒い森の旅人」。夏フェスではないけれど、2年前のARABAKIではメインステージでトリをやったりもした。今の夏フェスで9mmをトリにしてくれる場所があるだろうか。やはりこの曲はMVのイメージもあって、太陽が照りつける昼間よりも夜に聴きたいのだ。
そんな感傷をも力強く前進させてくれる「名もなきヒーロー」も今や9mmのフェスのセトリにおいては欠かせない存在の曲だ。それはこの曲は明確に再会を約束している曲だから。フェスで聴くこの曲は来年もここで会いましょうという約束を与えてくれる。それを毎年繰り返していたかった。夏フェスで9mmのライブを観れなかったという事実に直面し直さざるを得ないこの瞬間だからこそより強くそう思う。
そして夏フェスダイジェストの最後の曲は、卓郎が律儀にフェスのライブのように
「最後の曲です!」
と言ってから滝が花道まで出て行ってギターを唸らせまくる「Living Dying Message」。「Black Market Blues」がここに入って来ないというのは実に意外であったが、メドレー形式にしているからこそ、フェスで演奏される曲の美味しいところのみが怒涛のように押し寄せてくる。今は世の中の状況的に席や立ち位置を指定せざるを得ない形式のライブであるが、むしろ今まで通りのオールスタンディングでこんな流れをやられたら倒れる人が続出しそうなくらいに、椅子がある席指定のライブとは思えないくらいに熱くなっていた。それはメンバーの体力的な負担も相当なものであろうということが容易に察せられるが、スタンディング形式だったら間違いなくTシャツを替えないと帰れないくらいに汗で濡れていただろうなと思う。
この曲数は「今年ロッキンのLAKE STAGEに出演したとしたらやっていたセトリ」だと思っているし、あんなにデビューしてからずっと9mmが出演し続けているフェスもないわけだが、以前、JAPAN JAMに出演した時に卓郎は
「9mmがデビューしてからの歴史はフェスが大きくなっていく歴史と同じタイミングだった」
と言っていた。だからこそまだ黎明期のフェスに学生時代に観客として行っていたということも。
つまり、9mmはフェスとともに大きくなってきたと言ってもいいバンドであるし、そのフェスに出てきた中で忘れられない景色だってたくさんあるはず。それくらいにフェスを愛している、フェスに呼ばれたらまず出る、というスタンスを取ってきたバンドだけにこの2年間の夏は本当にやるせないものだっただろう。それはもしかしたら各地のフェスが中止になっていくことに心を痛める我々以上にそう感じていたのかもしれない。どうか来年はこの曲たちを、メンバーが鳴らしたい場所で鳴らせていますように。
メドレー形式で短くなっているとはいえ、ぶっ続けたということもあるし、すでに20曲以上も演奏している。それでもまだ終わらず、この夏フェスダイジェストの後には前回のツアー来場者に配布された新曲「泡沫」の重厚なサウンドを響かせる。それはここまで激しい曲が続いたためにガラッと雰囲気を変える、箸休め的な曲のようにも感じるが、決してアッパーではないこの曲の中にも9mmの持つ激情は間違いなく備わっている。
「どこまでも沈めてくれ
戻れなくても構わないから」
というフレーズはすでにここまでで9mmの沼にこれ以上ないくらいにハマってしまっている我々の心境そのものであるかのようだ。
さらには
「君に会えなくなって 100年ぐらい経つけど」
「いつか当たり前のような日々に流されて
すべて忘れても君に会いに行くよ」
という歌詞が「名もなきヒーロー」で約束した再会を果たした後の物語のようにすら響く「白夜の日々」と、この近年発表された2曲はフェスで演奏されるような代表曲連発の後に演奏されることによって、その曲たちにも負けることのない、今の9mmだから作れる曲をバンドが今も生み出し続けているということをこの上なく示していた。
しかしそれでも尚もライブは続く。トリプルギターのサウンドの迫力で
「今すぐ聞かせてよ 未来のラヴソングを
誰もが見つめてる 世界のどまんなかで」
と歌う歌詞がまだまだ9mmが未来を目に映して思い描いていて、自分たちの曲を世界のど真ん中で鳴らそうとしていることを示す「Scream For The Future」から、
「終わってたまるか
止まってたまるか
なんとかなんのか
なんとかなんのか」
という歌詞が文字通り爆音の中で呪術的に繰り返される「Mantra」と、予想もしない方向からレア曲が飛び出してくるのだが、それはその歌詞通りにまだこのままこのライブを終わらせられない、終わらせたくないというメンバーの意識が滲んでいたようでもあるが、それはそのままオルゴールの音色のようなイントロが響く「生命のワルツ」でワルツとは思えないくらいの爆音フィナーレへ向かっていく。もちろん武田のサポートあってこそであるが、この曲においても滝が軽やかに飛び跳ねたりしながらギターを弾きまくっている姿を見て、これはもう完全復活と言ってもいいんじゃないか、と思うくらいにこのライブのために合わせてきたと思われる滝のそのエネルギッシュな姿が、そのまま9mmのライブの最強さへと変換されていた。そんな熱演を見せてくれたメンバーへ響く拍手に和彦が1人残って応えていたのが印象的だった。
場内に客電が点いてSEが流れている状態で観客がアンコール待ちをするというのも9mmのライブにおけるおなじみの光景であるが、なかなかすぐに出てこれないというのはやはり本編での怒涛の展開による体力の消耗によるものだろう。なんならアンコールなくても仕方ないと思うくらいであるが、間違いなくアンコールをやるために出てくるだろうと思っていたのは、9にこだわるこの日の内容を考えると、まだ曲数が足りないからである。
ということで武田も含めた5人が疲れの色もなくステージに再び登場すると、卓郎による観客への
「楽しんでもらえましたか?」
という問いかけに大きな拍手が巻き起こる。それがこの日のライブの満足度の高さを物語っていたが、そこにさらに特別感を加えてくるのが、
「9mmはツアーとかでもまだ赤ちゃんというか、幼虫の状態の新曲をライブでやって、それをブラッシュアップしていくということをやってきたんだけど、今日もそういう新曲を」
と言って演奏された、まだメンバー以外に誰も聞いた事が無い新曲。
リズムとしても歌詞にしてもダンサブルな要素を持っている、というのが第一印象であるが、何よりもギターのサウンドなどはラジオなどでタイトルやアーティスト名を言われずに流れてきたとしても完全に9mmの新曲だな、とわかるくらいの9mmらしさ。しかし「泡沫」の儚さとは全く違うベクトルの曲であるだけに、果たしてこれからどんな形で世の中に出ていくのか。その時にはもしかしたらこの印象が変わるアレンジが施されているかもしれないが。
そして卓郎が
「ありがとうございました」
と言うのに合わせて滝はギターを弾き始める。それは9mmのライブの最後の曲としておなじみの「Punishment」のものであるが、もうそれぞれがあまりにも高速化し過ぎて誰のリズムが正しいのか全くわからないという「カオスの百年」にふさわしいカオスっぷりは和彦が花道でベースをぶん回しながら暴れまくり、滝もギターの妖精の本領発揮というようなバンザイギターを披露しながら、最後のサビ前には
「オイ!オイ!オイ!オイ!」
と観客を煽りまくる。それが列ごとに段差になっている2階席の客席から落ちそうになるくらいに我々を昂らせてくれるのだが、武田はそんなメンバーのまさに再現不可能な姿と演奏を見て爆笑していた。
そのあまりにも強烈な残響と余韻を残しながら、滝は足早にステージを去り、武田も観客に笑顔で手を振ってステージから去ると、和彦は上手、中央、下手と3箇所の観客の近くに行って、笑顔を見せながら頭を下げる。かみじょうは自身のスティックを下り坂になっている花道に転がして客席に渡そうとするのだが、客席まで届かずに結局花道まで歩いて行って拾い直して客席へ投げ入れる。その表情は本人もめちゃくちゃ達成感を感じているのがわかるものだった。
そして最後にステージに残った卓郎はいつものように中央に立って、声が出せなくても観客と3回バンザイをする。その際に挙げた腕をずっと挙げていたくなる、それはこんな会心のライブを見れたというガッツポーズをしていたくなるような感覚だった。
9mmのライブはいつも「何に勝ったのかはわからないけど、今日は勝った」という感覚を与えてくれるが、近年の中でも最大級に打線が爆発して圧勝した、というような勝った感覚と爽快感を与えてくれた。もう今までに何回そう思ったのか数え切れないが、この日もやっぱり「9mmマジすげぇ」という他の言葉が出てこないくらいのことを思っていた。初めてライブを見てから15年くらい経ったバンドは今でもそう思わせるライブをやってくれている。
9mmの日だからこその全29曲。それはもう干支が一周するくらい前の、2009年9月9日に行われた、9mm初の日本武道館ワンマン「999(アットブドウカン)」と全く同じ曲数だった。バンド名に冠した9という数字の意味は、こうしてそれにまつわるようなライブや活動をしてきたからこそ、年数を経るごとに大きくなってきている。それは今の9mmを支えてくれている為川のいるfolcaとの対バンという形によって、9mmのこれまでの活動が全て間違いではなかったことを証明していた。
それはそのまま我々ファンが来年のこの日まで生き延びて、またバンドに会いましょうと思える理由になる。そうしてライブを観て笑顔になったり、涙を流したり、ライブが終わった後に爽快感を感じたり。こんな状況の世の中においても、9mmがこうしてライブをやってくれることによって、自分が人間らしく生きれているということを確認することができる。それがハッキリとわかった、2021年の9mmの日。来年以降も、平日だろうと地方だろうと9月9日はこのバンドのライブとともに過ごしたいと思っている。
1.Blazing Souls
2.Wildpitch
3.光の雨が降る夜に
4.Scenes
5.Endless Game
6.DEEP BLUE
7.ダークホース
8.キャンドルの灯を
9.サクリファイス
10.Starlight
11.悪いクスリ
12.Butterfly Effect
13.ホワイトアウト
-あたかも夏フェスメドレー-
14.太陽が欲しいだけ
15.ハートに火をつけて
16.Answer and Answer
17.Discommunication
18.新しい光
19.The World
20.黒い森の旅人
21.名もなきヒーロー
22.Living Dying Message
23.泡沫
24.白夜の日々
25.Scream For The Future
26.Mantra
27.生命のワルツ
encore
28.新曲
29.Punishment
そもそもは去年にこのライブが予定されていたのだが、去年は開催できなかったことにより、9mmのサポートギタリストである為川裕也の所属するfolcaをゲストに迎えるというライブ内容は去年と全く同じものに。つまりは1年前のリベンジというライブである。
検温と消毒に加えて個人情報の記入というのも9mmのライブにおいてはすっかりおなじみであるが、それらを済ませて場内に入ると、ステージから左右に伸びる花道が作られているのが目を惹かざるを得ない。しかも細い花道ではなく、完全にそこで演奏することができることを想定しているような大きさだ。
・folca
平日にしてはめちゃくちゃ早い18時という時間に場内が暗転すると、ゲストのfolcaの4人がステージへ。自分も含めて為川が9mmのサポートギタリストを務めていることによってバンドのことを知った人も多いと思われるが、folcaとしてのライブを観るのは初めてという人も多いのではと思われる。自分自身、サーキットフェスなど(だいたいアルカラやHEREがメインとして絡んでいる)で観れる機会があったにもかかわらず、ちゃんとライブを観るのはこの日が初めてである。
いかにもバンドマンらしい長めの髪型の藤田ケンジ(ベース)が何やら人形なのかぬいぐるみを持って出てきたのはいつものことなのか?というシリアスな雰囲気を和らげるような仕草には可愛さのようなものも感じるが、山下英将(ボーカル&ギター)が
「やり直しの9月9日!日本のロックバンド、folcaです!」
と、やはり明確に昨年のリベンジであることを宣言すると、為川のギター含めて耳が痛くなりそうなくらいのメタリックな爆音が響く。そのライブの始まりを告げる音は9mmのライブが始まる瞬間のあのキメの音であるという至上のリスペクトっぷり。
サポートドラマーの凄まじい手数も含めて、こうして実際にライブを見て曲を聴くと、為川が何故9mmのサポートギターに選ばれたのかがよくわかる。きっと9mmと好きな音楽や影響を受けた音楽が似通っていて、それを自分たちの音楽として昇華している。つまり音楽性としてかなり9mmと近い位置にいるバンドということである。
山下の歌声はどこか艶のような部分を感じさせるものであることが「日本のロックバンド」という言葉に強い説得力を持たせているが、為川はサポートではなくてメインギタリストとなるとこんなにも弾きまくるようなギタリストなのかとも思うし、動きまくるギタリストなのかとも思う。だからこそ9mmでのライブではサポートに徹してくれているということも。
その為川と藤田はアンプにシールドを繋いでいながらも花道まで出て行って転げ回ったり、曲のキメでジャンプするというパフォーマンスにも9mmに近い部分を感じるが、山下による
「大事じゃないライブなんてない。ましてや9月9日に9mmがやるライブなんて本当に大事なものや。そこに俺たちを呼んでくれて本当にありがとうございます。
9mmの関係者やファンの皆様、うちの為川が大変お世話になっております!」
という言葉にはついつい、「いやいや、こちらこそ9mmを助けていただいて本当にありがとうございます」と深く頭を下げたくなる。9mmが止まることなく続くことができたのは為川やHEREの武田がサポートギターとして参加してくれていたから。もしその存在がなかったら我々は滝が復活するまで9mmのライブを観ることが出来なかったかもしれないのだ。
メタリックな曲だけならず、闇のダンスチューンのような曲や歌謡性を感じるバラードまでという曲の幅の広さもまた9mmに通じるところであるが、そんな中で山下が
「去年はいろいろと悪く言われたこともあったけれど、俺たちはいつもライブハウスでライブをやっている。ライブハウスにいるみんなが安心してライブを楽しめるようにって日々頑張っている。誰もがすぐに行けるわけじゃないけれど、行きたいなって思ったらライブハウスに来てください」
と言ったのだが、それはこうしたZepp規模ではない、本当に街の中にあるような小さいライブハウス(去年の春に散々報じられてしまったのもそうしたライブハウスだ)で日々ライブをやっていて、そこで生きる人々の姿を見ているバンドだからこその言葉だ。そこには為川を9mmで観ている時に感じるような、周りにいる人たちのために自分の力を尽くすという人間としての優しさを感じることができる。
そんな山下の、folcaというバンドの人間性を表していたのは、
「バンドマンにはバンドマンならではの感謝の伝え方がある!」
と言って演奏された、9mmの「光の雨が降る夜に」のカバー。本人たちはドキドキしていたと言っていたが、為川だけじゃなくてバンド全体でずっとこの曲を演奏してきたのだろうかと思うくらいのサウンドのハマりっぷり。山下と卓郎のボーカリストとしてのタイプの違いがあるのは確かであるが、9mmトリビュートの第二弾が出ることがあるのならばこの曲はfolcaにお願いしたいと思うくらいに、この曲の、9mmサウンドのカッコいい部分を完全に引き継いだカバーである。
そして最後に演奏されたのは
「俺たちにとって本当に大事な曲」
という「Haguruma」。それは再会を約束するようにも聞こえたのだが、それはつまりきっとこれからもこのバンドのライブを観る機会が何回も巡ってくるであるということであるし、こんなにカッコいいバンドを観ない理由がないなとも思う。
演奏後に藤田が登場時同様にぬいぐるみみたいなものを触りながら去っていくのに笑いそうになったし、「光の雨が降る夜に」のアウトロでおそらくツインペダルを踏んでいたんじゃないかと思わせるドラマーが裸足だったのを見て、マジで!?とビックリして去り際を凝視してしまった。
1.Strain
2.クレイジーショウタイム
3.Wanna Wanna Be
4.オーロラの種
5.光の雨が降る夜に
6.Haguruma
・9mm Parabellum Bullet
この日のライブは生配信も行われていたのだが、配信を見ていた人のコメントによると、場内が暗転して、おなじみのAtari Teenage Riotの「Digital Hardcore」が流れた時間は18時59分だったらしい。それは偶然ではなく、9mmの日だからこその徹底的に「9」という数字にこだわる姿勢だろう。それはこの後のライブで確信に変わるのである。
菅原卓郎(ボーカル&ギター)を先頭に4人が登場すると、かみじょうちひろのドラムセットはやや上手側を向くようにライザーにセッティングされており、そのライザーにもバンド名が記されているというあたり、この部分も含めて自身のドラムセットなのだろう。滝善充(ギター)は短パン姿という機動力を重視したスタイルで、それにより万全の状態であることを伺わせる。中村和彦(ベース)は最後に髪切ったのいつですか?って聞きたくなるくらいに相当伸びているであろう髪を結いているのだが、結いていても尚、長いなと感じてしまうレベルである。
「9mm Parabellum Bulletです」
と卓郎が挨拶すると、いつものようにジャジャジャジャーンというキメに入らないので、あれ?と思っていると、昨年リリースされたインストシングル曲「Blazing Souls」を演奏し始めるという、出だしからしてこちらの予想を心地良く裏切ってくる。ボーカルがないインスト曲であるが故に9mmサウンドの重厚さを存分に堪能できる曲であるが、滝は早くも花道に出て行ったり、ステージ上を歩き回りながらギターを弾いたりという軽やかさを発揮している。
そんなスタートだっただけに、これはどうやら今日は一筋縄ではいかないセトリになりそうだぞ、と配信も含めて見ていた人全員が思っていただろうが、いきなりの「Wildpitch」というまさにこちら側がキャッチできないレア曲という名のボールを投げてくる。
かと思えばfolcaがカバーしてくれた「光の雨が降る夜に」の本家バージョンも披露するのだが、卓郎はどこか間奏で客席を2階席まで見渡すように眺めていたし、滝はやはりガンガン花道に出ていくようにしてギターを弾きまくり、コーラスも明らかに声量が大きい。つまりは絶好調であるということであり、その滝の状態の良さがバンドの状態の良さにダイレクトに直結している。folcaバージョンもハマりまくっていたが、やはりこれが本家だからこそだなという爆裂さと安心感のようなものすら感じる。朝から降っていた雨が開演前にはすっかり止んでいたことも含めて。
観客がイントロのリズムに合わせて腕を振るという場面が、ついつい「オイ!オイ!」というコールが起こっているような熱気を感じさせるような「Scenes」ではかみじょうの一打の強さが否応なしにこちらの体と頭を揺さぶり、間奏では思いっきりエフェクターを噛ませた滝のギターソロとともに凄まじい手数を発揮する。超人ドラマーは年齢を重ねてさらに超人っぷりが増しているのがよくわかるし、この手数による叩く機材の多さはまさに要塞と言えるようなものである。
卓郎の挨拶的なMCと、すでに毎曲驚かされっぱなしの我々にこれからの展開への心の準備として3秒間の時間を与えてからの
「行・け・る・かー!」
で声は出せずとも観客の両腕が上がる熱狂を生み出すと、この間にステージに現れていたサポートギターの武田将幸とともに滝がギターを弾きまくる「Endless Game」という実に久しぶりな曲でバンドの爆裂っぷりはさらに増し、「DEEP BLUE」ではこの曲の前から使用し始めたステージ上に吊るされたLEDが曲の雰囲気に合わせたかのように青く光り、まさに我々全員が深まるブルーの中に取り込まれていくかのよう。
さらには和彦が作曲を手がけたことによって、メタル要素よりもストレートなギターロックとしての9mmという存在が際立つ「ダークホース」ではその作曲者である和彦がラスサビ前のベースソロでピンスポットを一身に浴び、足を高く蹴り上げるような姿も見せる。その姿はまさに
「まっすぐにまっしぐらに突き進んで
一歩ずつ一瞬ずつ刻みつけて」
という歌詞(作詞は卓郎だけど)そのものだ。
その和彦が今度はウッドベースに持ち替える…ということは演奏されるのはもちろん歌謡曲とメタルとパンクとハードロックと…つまりは9mmらしいと言われる要素を全て高純度で闇鍋の中にぶち込みまくったかのような「キャンドルの灯を」。かつてはライブでも定番と言っていいこの曲もなかなか久しぶりに聴くことができたけれど、かつてのようなどこかオシャレさを感じさせるイントロのライブアレンジは省略され、「ダークホース」からのテンポの良い流れの中で演奏されていた。
しかしながらこのレア曲の中でもかなりの爆裂さを誇る曲たちが並んだこの流れは一体どういうコンセプトで?と思ってしまうのは、9mmはライブでその日のセトリに明確なコンセプトを持たせるバンドだからであり、それは2マンライブを行った際には対バン相手のジャンルやサウンドに自分たちのセトリを合わせていくようなことをよくやっていたり、Zepp Tokyoなどの観覧車がある場所では「Termination」を演奏したりしてきたからなのだが、ここで卓郎は
「気付いてる人いるかな?ここまでの4曲はアルバムの9曲目に収録されている曲を演奏しています」
と、自分は言われるまで全く気付いてなかったのだが、あまりにも「9mmの日」でしかないセトリの組み方をしていたのである。
しかし、アルバムが8枚しかリリースされていないからという理由で、9曲目に演奏されたのはバンドにとって9枚目のシングル曲である「サクリファイス」という、昨年に9にまつわることを出来なかった鬱憤を全て晴らすかのような9尽くし。正直言って、「キャンドルの灯を」から「サクリファイス」という流れは通常にセトリを組む時には絶対に考えつかない流れであろうというくらいにガラッと雰囲気が変わる。この曲の作曲者は滝であるが、
「最後に笑うのはおれじゃなくていい そこにおまえがいれば」
というサビのフレーズのキャッチーさとストレートさはむしろ和彦が作曲した「ダークホース」に連なるところもあるな、なんてこともこの流れだからこそ感じることができる。
で、まだ全アルバムの9曲目に収録されている曲を演奏していないだけに、ここからはまだ演奏されていないアルバム9曲目の曲が演奏されるということである。
「キャンドルの灯を」までが爆裂曲が続いていたために、「アルバム9曲目ってそういう立ち位置の曲が入る場所なのか」とも思っていたのだが、どうやらそういう曲だけではなかったようだと感じられたのは「Dawning」の9曲目が9mmには珍しい英語の歌詞のフレーズが登場するロマンチックな「Starlight」だからであるが、今この曲をライブで演奏すると思っていた人がどれくらいいるのだろうか。なんなら「Dawning」のツアー以降で演奏されたことがあるのだろうかとすら思ってしまう。
まだ9mmが若手だった時代の2ndアルバム「VAMPIRE」の9曲目はガラっとサウンドが変わり、リズミカルに刻まれる武田と卓郎によるギターのイントロに合わせて滝が体を揺らすというか、踊っているようにすら見える「悪いクスリ」。「VAMPIRE」というアルバムに通じる雰囲気でもあるのだが、このディストピア感はどこか今の世の中の状況に合致してしまっているような感覚すらある。
さらに遡ってのメジャーデビューアルバムである「Termination」の9曲目に収録されているのは、今になって聴くとよくこんなに捉え所がないような曲を作って、それをメジャーデビューアルバムに入れたな、とすら思える「Butterfly Effect」であるが、どこか音響系と言われるようなバンドたちの影響を感じさせるような、ギターの音の重なりを実験しているかのようなこの曲が、武田を加えてのトリプルギターになったことによってグッと音像が整理されたように聴こえる。というか今後演奏されることがあるのか、とすら思ってしまうこの曲を覚えてライブで演奏してくれる武田は本当に凄いし、本当に9mmというバンドを愛してくれているんだなと思う。
そうしてアルバム9曲目シリーズの最後を飾るのは「BABEL」収録の「ホワイトアウト」なのだが、そもそも夏前には「BABEL」の再現ライブも行っていただけに、この曲が9曲目シリーズの中で最も演奏と歌唱に安定感が感じられた。リリース時は負傷してまだライブが出来なかった滝を加えた形での「BABEL」の再現ツアーという企画がまさかこういう形で生きてくるとは。その完成度の高さが9曲目シリーズのサウンドの幅をよりしっかりと感じさせてくれるとともに、意識はしてないのだろうけれど、9mmのアルバム9曲目が名曲揃いであり、こんなにもファンが待ち望んでいた曲だらけであるということを改めて証明したコンセプトであった。
そうした9曲目シリーズの演奏を終えた卓郎は、
「今日は配信もやってるんだけど、9mm配信やってるならちょっと見てみようかなくらいの人からしたら何の曲をやってるかわからないくらいに渋いんじゃないかと(笑)
夏フェスが今年も我々の元には来なかったけれど、夏フェスでやっているような曲を聴きたい人もたくさんいるんじゃないか、ということで、みんなにも夏を少しでも感じてもらうために、今年の夏フェスに出演していたらやっていた曲をダイジェスト的に演奏したいと思います」
と、さらなるこの日のコンセプトを発表し、滝と和彦がそれぞれ花道に歩み出していくと、滝の強烈なギターのイントロに合わせて観客が腕を振り上げる「太陽が欲しいだけ」を演奏するのだが、ダイジェストでありメドレー形式にしているため、サビがいきなりラスサビになるという短縮形なのだが、それでもやはり夏の野外の痛いくらいに照りつける太陽の下でこの曲を聴きたかったと思う。この曲から始まる9mmの夏フェスのライブは暑さに全く負けないような力をくれるということを知っているから。和彦が花道に立って腕を大きく広げる姿も涙が出そうなくらいに頼もしい。
印象的なというか、曲の骨格部分は残しながらもほぼサビのみの「ハートに火をつけて」から、「Answer and Answer」はビックリしてしまうくらいにサビからいきなり始まり、と曲によって活かし方、残し方は様々であるが、この曲たちをアウトロとイントロを繋げることによって、壮大な1曲にしてしまうかのようなアレンジは本当に見事である。しかしながら実際の夏フェスではフルに演奏していただろうし、今後のライブでもこうしたメドレーをやるようなバンドじゃない。つまりこれは紛れもなく今回1回だけのためのアレンジということだ。
卓郎は
「スタジオでこのメドレーを練習してる時に「これは本当にみんなが喜んでくれるものになっているのだろうか」とも思っていた」
とこの後のMCで口にしていたが、いやいや、こんなこの日のためのアレンジを喜ばないわけがないだろう、と思うし、実際に現地で見ていた人の中にもこのメドレーをもう一回観たくて配信のアーカイブを買うという人もたくさん出てくるはずだ。
メドレーならではの切り替わりにキーがついていかない感もあったのが逆に面白く感じた「Discommunication」から爆裂っぷりしか残っていないかのような、卓郎、滝、武田、和彦がネックを立てる姿を自身もそのパフォーマンスに参加していることもあるfolcaの為川が袖から撮影していた「新しい光」というあたりはこれまでもフェスでハイライトと言えるような場面を作ってきた曲たちであるが、その中に「The World」を久しぶりにフェスセトリの中に入れてきたというのは、
「呼吸を止めて確かめてみる
生きていく苦しみをわずかでも
目を凝らして焼き付けてみる
明日も僕らが生きていく世界を」
というフレーズが今の世界の状況や空気をこれでもかというくらいに言い当ててしまっている部分もあるからだろう。きっとこの曲を今年の夏フェスで聴けていたら、コロナ禍における夏フェスの瞬間として忘れられないものになっていただろうし、この世界を生き抜いていく力を貰えていただろうとも思う。
1コーラスという形になったこちらはどこのフェスのどのステージで演奏されていたのだろうか、と想像してしまう「黒い森の旅人」。夏フェスではないけれど、2年前のARABAKIではメインステージでトリをやったりもした。今の夏フェスで9mmをトリにしてくれる場所があるだろうか。やはりこの曲はMVのイメージもあって、太陽が照りつける昼間よりも夜に聴きたいのだ。
そんな感傷をも力強く前進させてくれる「名もなきヒーロー」も今や9mmのフェスのセトリにおいては欠かせない存在の曲だ。それはこの曲は明確に再会を約束している曲だから。フェスで聴くこの曲は来年もここで会いましょうという約束を与えてくれる。それを毎年繰り返していたかった。夏フェスで9mmのライブを観れなかったという事実に直面し直さざるを得ないこの瞬間だからこそより強くそう思う。
そして夏フェスダイジェストの最後の曲は、卓郎が律儀にフェスのライブのように
「最後の曲です!」
と言ってから滝が花道まで出て行ってギターを唸らせまくる「Living Dying Message」。「Black Market Blues」がここに入って来ないというのは実に意外であったが、メドレー形式にしているからこそ、フェスで演奏される曲の美味しいところのみが怒涛のように押し寄せてくる。今は世の中の状況的に席や立ち位置を指定せざるを得ない形式のライブであるが、むしろ今まで通りのオールスタンディングでこんな流れをやられたら倒れる人が続出しそうなくらいに、椅子がある席指定のライブとは思えないくらいに熱くなっていた。それはメンバーの体力的な負担も相当なものであろうということが容易に察せられるが、スタンディング形式だったら間違いなくTシャツを替えないと帰れないくらいに汗で濡れていただろうなと思う。
この曲数は「今年ロッキンのLAKE STAGEに出演したとしたらやっていたセトリ」だと思っているし、あんなにデビューしてからずっと9mmが出演し続けているフェスもないわけだが、以前、JAPAN JAMに出演した時に卓郎は
「9mmがデビューしてからの歴史はフェスが大きくなっていく歴史と同じタイミングだった」
と言っていた。だからこそまだ黎明期のフェスに学生時代に観客として行っていたということも。
つまり、9mmはフェスとともに大きくなってきたと言ってもいいバンドであるし、そのフェスに出てきた中で忘れられない景色だってたくさんあるはず。それくらいにフェスを愛している、フェスに呼ばれたらまず出る、というスタンスを取ってきたバンドだけにこの2年間の夏は本当にやるせないものだっただろう。それはもしかしたら各地のフェスが中止になっていくことに心を痛める我々以上にそう感じていたのかもしれない。どうか来年はこの曲たちを、メンバーが鳴らしたい場所で鳴らせていますように。
メドレー形式で短くなっているとはいえ、ぶっ続けたということもあるし、すでに20曲以上も演奏している。それでもまだ終わらず、この夏フェスダイジェストの後には前回のツアー来場者に配布された新曲「泡沫」の重厚なサウンドを響かせる。それはここまで激しい曲が続いたためにガラッと雰囲気を変える、箸休め的な曲のようにも感じるが、決してアッパーではないこの曲の中にも9mmの持つ激情は間違いなく備わっている。
「どこまでも沈めてくれ
戻れなくても構わないから」
というフレーズはすでにここまでで9mmの沼にこれ以上ないくらいにハマってしまっている我々の心境そのものであるかのようだ。
さらには
「君に会えなくなって 100年ぐらい経つけど」
「いつか当たり前のような日々に流されて
すべて忘れても君に会いに行くよ」
という歌詞が「名もなきヒーロー」で約束した再会を果たした後の物語のようにすら響く「白夜の日々」と、この近年発表された2曲はフェスで演奏されるような代表曲連発の後に演奏されることによって、その曲たちにも負けることのない、今の9mmだから作れる曲をバンドが今も生み出し続けているということをこの上なく示していた。
しかしそれでも尚もライブは続く。トリプルギターのサウンドの迫力で
「今すぐ聞かせてよ 未来のラヴソングを
誰もが見つめてる 世界のどまんなかで」
と歌う歌詞がまだまだ9mmが未来を目に映して思い描いていて、自分たちの曲を世界のど真ん中で鳴らそうとしていることを示す「Scream For The Future」から、
「終わってたまるか
止まってたまるか
なんとかなんのか
なんとかなんのか」
という歌詞が文字通り爆音の中で呪術的に繰り返される「Mantra」と、予想もしない方向からレア曲が飛び出してくるのだが、それはその歌詞通りにまだこのままこのライブを終わらせられない、終わらせたくないというメンバーの意識が滲んでいたようでもあるが、それはそのままオルゴールの音色のようなイントロが響く「生命のワルツ」でワルツとは思えないくらいの爆音フィナーレへ向かっていく。もちろん武田のサポートあってこそであるが、この曲においても滝が軽やかに飛び跳ねたりしながらギターを弾きまくっている姿を見て、これはもう完全復活と言ってもいいんじゃないか、と思うくらいにこのライブのために合わせてきたと思われる滝のそのエネルギッシュな姿が、そのまま9mmのライブの最強さへと変換されていた。そんな熱演を見せてくれたメンバーへ響く拍手に和彦が1人残って応えていたのが印象的だった。
場内に客電が点いてSEが流れている状態で観客がアンコール待ちをするというのも9mmのライブにおけるおなじみの光景であるが、なかなかすぐに出てこれないというのはやはり本編での怒涛の展開による体力の消耗によるものだろう。なんならアンコールなくても仕方ないと思うくらいであるが、間違いなくアンコールをやるために出てくるだろうと思っていたのは、9にこだわるこの日の内容を考えると、まだ曲数が足りないからである。
ということで武田も含めた5人が疲れの色もなくステージに再び登場すると、卓郎による観客への
「楽しんでもらえましたか?」
という問いかけに大きな拍手が巻き起こる。それがこの日のライブの満足度の高さを物語っていたが、そこにさらに特別感を加えてくるのが、
「9mmはツアーとかでもまだ赤ちゃんというか、幼虫の状態の新曲をライブでやって、それをブラッシュアップしていくということをやってきたんだけど、今日もそういう新曲を」
と言って演奏された、まだメンバー以外に誰も聞いた事が無い新曲。
リズムとしても歌詞にしてもダンサブルな要素を持っている、というのが第一印象であるが、何よりもギターのサウンドなどはラジオなどでタイトルやアーティスト名を言われずに流れてきたとしても完全に9mmの新曲だな、とわかるくらいの9mmらしさ。しかし「泡沫」の儚さとは全く違うベクトルの曲であるだけに、果たしてこれからどんな形で世の中に出ていくのか。その時にはもしかしたらこの印象が変わるアレンジが施されているかもしれないが。
そして卓郎が
「ありがとうございました」
と言うのに合わせて滝はギターを弾き始める。それは9mmのライブの最後の曲としておなじみの「Punishment」のものであるが、もうそれぞれがあまりにも高速化し過ぎて誰のリズムが正しいのか全くわからないという「カオスの百年」にふさわしいカオスっぷりは和彦が花道でベースをぶん回しながら暴れまくり、滝もギターの妖精の本領発揮というようなバンザイギターを披露しながら、最後のサビ前には
「オイ!オイ!オイ!オイ!」
と観客を煽りまくる。それが列ごとに段差になっている2階席の客席から落ちそうになるくらいに我々を昂らせてくれるのだが、武田はそんなメンバーのまさに再現不可能な姿と演奏を見て爆笑していた。
そのあまりにも強烈な残響と余韻を残しながら、滝は足早にステージを去り、武田も観客に笑顔で手を振ってステージから去ると、和彦は上手、中央、下手と3箇所の観客の近くに行って、笑顔を見せながら頭を下げる。かみじょうは自身のスティックを下り坂になっている花道に転がして客席に渡そうとするのだが、客席まで届かずに結局花道まで歩いて行って拾い直して客席へ投げ入れる。その表情は本人もめちゃくちゃ達成感を感じているのがわかるものだった。
そして最後にステージに残った卓郎はいつものように中央に立って、声が出せなくても観客と3回バンザイをする。その際に挙げた腕をずっと挙げていたくなる、それはこんな会心のライブを見れたというガッツポーズをしていたくなるような感覚だった。
9mmのライブはいつも「何に勝ったのかはわからないけど、今日は勝った」という感覚を与えてくれるが、近年の中でも最大級に打線が爆発して圧勝した、というような勝った感覚と爽快感を与えてくれた。もう今までに何回そう思ったのか数え切れないが、この日もやっぱり「9mmマジすげぇ」という他の言葉が出てこないくらいのことを思っていた。初めてライブを見てから15年くらい経ったバンドは今でもそう思わせるライブをやってくれている。
9mmの日だからこその全29曲。それはもう干支が一周するくらい前の、2009年9月9日に行われた、9mm初の日本武道館ワンマン「999(アットブドウカン)」と全く同じ曲数だった。バンド名に冠した9という数字の意味は、こうしてそれにまつわるようなライブや活動をしてきたからこそ、年数を経るごとに大きくなってきている。それは今の9mmを支えてくれている為川のいるfolcaとの対バンという形によって、9mmのこれまでの活動が全て間違いではなかったことを証明していた。
それはそのまま我々ファンが来年のこの日まで生き延びて、またバンドに会いましょうと思える理由になる。そうしてライブを観て笑顔になったり、涙を流したり、ライブが終わった後に爽快感を感じたり。こんな状況の世の中においても、9mmがこうしてライブをやってくれることによって、自分が人間らしく生きれているということを確認することができる。それがハッキリとわかった、2021年の9mmの日。来年以降も、平日だろうと地方だろうと9月9日はこのバンドのライブとともに過ごしたいと思っている。
1.Blazing Souls
2.Wildpitch
3.光の雨が降る夜に
4.Scenes
5.Endless Game
6.DEEP BLUE
7.ダークホース
8.キャンドルの灯を
9.サクリファイス
10.Starlight
11.悪いクスリ
12.Butterfly Effect
13.ホワイトアウト
-あたかも夏フェスメドレー-
14.太陽が欲しいだけ
15.ハートに火をつけて
16.Answer and Answer
17.Discommunication
18.新しい光
19.The World
20.黒い森の旅人
21.名もなきヒーロー
22.Living Dying Message
23.泡沫
24.白夜の日々
25.Scream For The Future
26.Mantra
27.生命のワルツ
encore
28.新曲
29.Punishment
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