[Alexandros] ALEATORIC TOMATO Tour 2021 @Zepp Haneda 6/25
- 2021/06/26
- 09:38
今年3月の幕張メッセでの2daysワンマンにてドラマーの庄村聡泰が勇退し、サポートドラムを務めていたリアドが正式加入と、新しい歴史を歩き始めた[Alexandros]。
そうしてこの4人になっての初めてのツアーが今回の「ALEATORIC TOMATO Tour」。夏以降は各地のアリーナまでをも巡る長いツアーであるが、その前にライブハウスを回るというのも、すでにリアドがサポートメンバーだった頃からツアーを経てきているとはいえ、正式にこの4人になってからのグルーヴをライブを周り、目の前の観客のパワーを貰うことで練り上げていきたいのだろう。
去年まだほとんどのアーティスト(規模の大きい人は特に)が有観客ライブに踏み切っていなかった8月にすでに「THIS SUMMER FESTIVAL」をこのZepp Hanedaで開催していたが、チケットが取れずに配信で見ていたので、ライブハウスで見るのは2018年12月の「Sleepless in Japan Tour」のZepp Tokyo以来、実に2年半ぶりとなる。
検温と消毒を経て客席に椅子が並べられた場内に入り、18時30分の開演時間を少し過ぎるとゆっくりと暗転して観客たちが一斉に立ち上がる。サポートキーボードのROSEがすでに自身の機材の前に座っているが、ステージ背面はそのまま巨大なスクリーンのようになっており、そこに宇宙空間に光る星たちのような映像が映し出されたと思ったら、それは真上から見たこの会場の開場前の椅子が並べられた景色だった。
そこへ開場して観客が少しずつ入って席に座っていく。彼女たち(開場してすぐに入ってきたのは女性ばかりだった)は画面に映るとバンドの象徴でもある[]に挟まれるような加工が施されているのだが、それはこうしてここにいる人たち、この状況下であってもライブハウスにライブを観に来る人たちも[Alexandros]の一員であるという意味も込めているのだろう。
観客がある程度席に座り始めた映像に被せるように今回のツアータイトルの「ALEATORIC TOMATO」という文字が浮かび上がり、メンバー4人がステージに登場。暗い中でも目を惹くのは金髪に派手なシャツを着た白井眞輝(ギター)であるが、川上洋平(ボーカル&ギター)がバッチリスーツ姿でキメたロックスタースタイルであるというのも登場した段階でこの上なくカッコいい。
[Alexandros]のライブのオープニングというと始まりを告げるような「Burger Queen」のSEで登場してそのままその曲を演奏して…というイメージが強いが、今回は静謐なSEとともに登場すると、タイトルのトマトを彷彿とさせる赤いライトがマイクスタンド前でギターを構える川上を照らす。そのまま川上がギターを弾き始めると、5人でのセッション的な演奏が始まる。スクリーンにはメンバー紹介的にそれぞれの演奏する姿と名前が映し出され、磯部寛之(ベース)は川上やリアドの方を見て呼吸を合わせるようにリズムを刻んでいる。この演奏の段階でメンバーが昂っているのがよくわかるし、それを見ている我々観客も徐々にテンションが上がっていく。
リアドの激しいドラムの連打によってセッション的な演奏が締まると、白井がギターを鳴らし始めたのは最新シングル「閃光」のイントロ。まさかこの曲がこんなに早く演奏されるとは思っていなかっただけに驚いてしまった。驚いても声を出すことは出来ないのだが、なんなら曲を重ねてグルーヴが極まりまくったライブ本編の最後の曲や、アンコールで演奏されるものだと思っていたから。
それくらいに新しい[Alexandros]の代表曲となり得るというか、ガンダムの映画作品の最新作(ライブ同様に延期されまくってようやく今月公開された)「閃光のハサウェイ」の主題歌という大型タイアップであることからもそうなるべき曲であるのだが、メンバーも明確にサトヤスをメンバーに迎えての再スタート曲だった「city」を意識した部分があったという。そう思うと新しいこの4人の[Alexandros]のスタートとしてこの曲をライブの最初に鳴らすのは当然のことのように思えてくるし、サビの入りのリアドのスネアの連打はこの4人での[Alexandros]になったからこそ生まれたものであると感じられる。映画を見た時は主人公のハサウェイの人生そのものの曲だなと思ったし、それはかつてリアドが在籍していたBIGMAMAとのツーマンツアーにガンダムOVA作品のタイトルを冠していたくらいにガンダムを愛しているバンドサイド(特にマネージャー)だからこそだなとも思っていたのだが、こうしてライブ、ましてやワンマンで聴くとやはりこのバンドの生き様を歌っている曲だと思う。つまりは最高のライブのスタートということだ。
ROSEのキーボードのサウンドがこのバンドの獰猛なロックさにエレクトロの要素を融合させた「Boo!」では曲のアグレッシブなテンポの良さに合わせてステージ背面に次々に歌詞が映し出されていくのだが、間奏での一気にテンポを落とした、メンバーの動きすらもスローモーションになる部分から再びアッパーに転じていくという構成は1曲の中での静と動を堪能させてくれ、幕張メッセワンマンから春フェスでもおなじみの「Stimulator」では川上がイントロからしゃがみ込んでエフェクターを操作して、よりバンドの枠を超えたサウンドをバンドのサウンドだけで生み出し、そのしゃがみ込んだ体制に合わせた低い位置のマイクで歌い、サビで立ち上がってギターを弾いて歌うというアレンジに。CREW先行でチケットを取った効果か、ステージから6列目という近さだっただけにそうした川上のパフォーマンスをすぐ近くで見ることができるのは全席指定という制約がある中ではあるけれど実に嬉しい。
最新曲「閃光」にはサビ前に
「enemies inside your scope」
というフレーズがある。そこに合わせたのかは定かではないが、ここで演奏されたのは「Schwarzenegger」収録の「Dear Enemies」という実にレアかつ嬉しい選曲。今でも今はなき渋谷AXでアルバムツアーファイナルを見たことを思い出すが、川上のスピード感溢れる英語歌詞は本当にスムーズであるし、こうした曲をまたライブハウスで聴くことができるというのがアルバムを引っ提げてのものではないツアーだからこそだ。きっとこんな状況じゃなかったらサビでたくさんの元気な人たちがステージに向かって人の上を転がっていって、その光景を見たメンバーたちがさらに気合いを入れているんだろうなとも思う。もちろんその光景は見れずともメンバーの演奏はライブハウスだからこそのロックさ、アタック感を存分に感じさせるものになっているが。
それを感じさせるのはイントロのギターの音が鳴っただけで客席から拍手が起こった「city」だろう。リアドがサトヤスの意思を次ぐように[Alexandros]仕様の高い位置に設置されたシンバルを叩きまくり、コロナ禍になる前と同じように手拍子が起こるけれど、川上がどんなに煽っても我々は今は一緒に歌うことは出来ない。それでも川上は
「ここはどこですか
私は誰ですか」
のフレーズでマイクスタンドから離れてステージ最前まで出てきて、すでに汗まみれになって色が変わりつつあるスーツ姿でマイクを通さずにそのフレーズを歌う。それは今までとずっと変わらない光景だ。観客側に制限があってもバンドがやることは全く変わらない。それが[Alexandros]というバンドのライブのスタイルだからであるという強靭な意志がそこから滲み出ている。それをサトヤスが加入して最初の曲だったこの曲を今の4人で演奏していて感じることができるというのが、このバンドはこれからも絶対にカッコいいままでいてくれると心から信頼できる理由である。
「ちょっと早いけど、さわやかな曲やってもいいですか!」
と川上が言い、白井がまさにさわやかなギターを弾いて観客も腕を左右に振るという光景から一転して激しいロックサウンドに雪崩れ込み、川上は曲中でTVではまず放送できない指の動きを見せる「Don't Fuck With Yoohei Kawakami」では間奏でこれでもかというくらいに強烈な、ライブハウスじゃなかったら騒音で訴えられてもしょうがないくらいのギターソロを白井がキメる(その間、川上と磯部が普通に会話をしたり水を飲んだりしているのも面白い)と、そこから最後のパートに突入していくのを白井が思いっきり助走をつけて走り、ドラムセット台から大ジャンプするのが合図になる。白井は演奏している時の表情こそいつも飄々としているが、鳴らしている音やパフォーマンス自体は誰よりも熱い。
そんな熱さをクールダウンさせるかのように雨が降ってきたかのような効果音が流れ、川上がギターを置いて歌い始めたのは「Thunder」なのだが、原曲のファルセットボーカルではなく、かつ川上がシェイカーを振りながら歌う、リアドもサンプリングパッドを連打するというのは昨年の自粛期間中に夜に家で聴いて楽しめるようにという思いで生み出された「Bedroom Joule」のバージョンのさらなる進化系と言ってもいいだろう。いわゆる[Alexandros]の代表曲とは全く違ったタイプのこの曲が人気投票企画だと毎回上位にランクインしてくるというあたりに、ファンはあらゆるタイプの曲を全て[Alexandros]らしさとして捉えていることがわかるし、だからこそバンドもこうしてこの曲を近年よくセトリに入れてくれているのかもしれない。
効果音が曲と曲の間を繋ぐ中、さらに同じ編成で演奏された「Vegue」は昨年リリースの「Beast」のカップリング曲という立ち位置を考えても今だからこそこうしてツアーのセトリに入っていると思っていいだろうし、夜の首都高を走っているような映像と、スーツ姿のままでステージ上を歩き回りながら歌う川上の姿も相まって、[Alexandros]の持つ「洗練」の要素を強く感じさせてくれる。というかこの映像もライブハウスというよりはアリーナクラスで使われて然るべきクオリティのものであり、これから先のアリーナでは果たしてどんなライブを作り出すのかとさらなる期待を抱かせてくれる。
そんな中で川上がアコギを持ち「Oasisの「Wonder Wall」でも歌うかのようなアコギの弾き方だな」と思っていたら本当にワンフレーズ歌い、そのアコギの音がROSEの美しいピアノの音と重なることによって、一瞬「この曲なんだっけ…?」と思ってしまうくらいに「Thunder」「Vague」に並んで演奏されるのにふさわしいアコースティックと言ってもいいアレンジに生まれ変わったのは「Kiss The Damage」。
原曲の重厚なロックサウンドはまさに生々しく、痛々しくもある傷口を感じさせるものだったが、このアレンジはそんな傷口すらも美しいものであるかのように、川上は「Thunder」で使わなかったのをここで使うかのようなファルセットを多用している。こうしてツアーのたびにアレンジを変えるバンドだからこそ、すべてのツアーを体験したいし、映像作品に残して欲しいくらいだ。
そうしてライブならではのアレンジや演奏を加えるバンドなだけに、普通に音源で曲を聴くよりもかなり曲の尺や音を鳴らしている時間は長くなるのだが、それでも全くテンポが悪く感じないというのはMCをほとんど挟まずに突っ走るというスタンスのバンドだからであるが、ここでようやくこの日最初のMC。
川上「声を出したりできないのはもどかしいと思いますけど、来てくれて本当にありがとうございます。コロナになってライブの時に手を挙げたりするのを忘れちゃったっていう人いない?いないね。じゃあ俺が出てたドラマを見て[Alexandros]を好きになってライブを観にきてくれた人は?…3人くらいはいるな(笑)」
磯部「もっと頑張ってプロモーションしてもらってもいいですかね(笑)」
川上「(笑)
でも今回のツアータイトルの「ALEATORIC」っていうのは聞き慣れない単語だと思うんだけど「偶発性の音楽」っていう意味があって。我々は曲を作る時にROSEも入れた5人だけでスタジオに入ってああでもないこうでもないって言って作ってるんだけど、何気なく弾いたフレーズとかが曲に発展していくことがよくあって。それはまさに偶発性の音楽だなって。今はそうやって新曲も作ってます。まだ今日はやらないけど(笑)
で、「トマト」の花言葉は「感謝」だからね。このツアーにピッタリな花言葉じゃないかと」
と、このツアータイトルに込めた意味を説明すると、派手な出で立ちをしているのに一言も喋っていない白井に話を振るというか、
「歌っちゃいますか」
と歌そのものを振る。どうやら今回のツアーはこのMCを白井の歌が締めるのが恒例らしいが、
白井「普段自分がギターを弾く時は洋平のためっていうよりも、バンドやみんなのために弾いている感覚なんだけど、自分で歌うとみんなが俺の歌のために演奏してくれるような感じがする」
川上「俺はいつもみんなが俺のために演奏してくれてるって思ってるけどね(笑)」
磯部「それはよーくわかっております(笑)」
というそれぞれの性格(特に川上)が実によくわかるやり取りから、白井がギターを弾きながら自身のヒーローであるBlanky Jet City「SWEET DAYS」を歌うのだが、歌唱力という意味ではやはり川上には敵わないというか、それは川上が歌がうますぎるからだし、白井すらも上手かったらどうなってるんだこのバンドは、ともなってしまうのだが、白井の歌は本当にベンジー(浅井健一)がめちゃくちゃ好きなんだなというのがよくわかるくらいにベンジーの歌い方をマネている。それはブランキーの曲だからということもあるのだろうけれど、もしかしたら話していた「歌と演奏の意識の違い」をわかったというのはこれからのバンドにとって大きな要素の一つになるのかもしれない。
その白井のギターの音が徐々にアルペジオに変化していくと、そのままイントロへと繋がるというアレンジになって演奏されたのは「You're So Sweet & Love You」。バンドが明確にアリーナ規模で大合唱する景色を想定して生み出されたこの曲でも我々は歌うことはできない。それでも、というかだからこそ白井、磯部、リアドの3人のコーラスがよく聞こえる。磯部は歌えないのをわかっていても自身のマイクスタンドを客席に向けて最前列に置き、観客の心の声を拾おうとする。自身も歌う時はそのマイクの向きに合わせて客席に背を向けていたが、それも今までのライブと全く同じ光景であり、バンドがこうした状況だからといって自分たちが何かを変えるということをしていないのがよくわかる。
アウトロからリアドの4つ打ちとROSEのピアノのメロディがそのままイントロへとつながり、その2人の音がアンセム性の強いこの曲をさらにダンサブルに進化させたのは「This Is Teenage」。白井のサビでのコーラスもよく響いていたが、この曲が今になってこうしてバンドの代表曲を連発する流れに入ってくるというのは今後のこの曲の立ち位置にも期待したくなるし、こうしてこの曲が聴けて嬉しかったという人もたくさんいるはずだ。あまりライブでは演奏されない人気曲であるだけに。
この後半からはアウトロからイントロへと繋がる流れが実に見事にアレンジされ、このライブならではの流れを作っていくのだが、これは間違いなく今回のツアー限りのものだ。フェスなどでも見ることができないような。それをライブハウスで見ることができる。ライブハウスと言っても国内最大キャパのZeppであるが、そもそもがスタジアムやアリーナでライブをやるのが当たり前なバンドであるだけに、このキャパでも本当にすぐ目の前、近くで鳴らされているように感じる。
川上がアコギに持ち替える間もメンバーが繋ぎのアレンジで演奏してから清冽なアコギのイントロが鳴らされて拍手が起きたのは「Starrrrrrr」であるが、間奏では磯部が「東京ー!」と叫びながら感情を解放するようにベースを鳴らすと、白井もステージ前に出てきてギターを弾き、川上もこれまでのライブで大合唱が起きてきたフレーズでマイクスタンドからスッと離れて観客の合唱を煽る。
ここまでと同様にもちろん観客は歌うことができないのだが、それでもなんだか大合唱が聞こえているような気がした。それはもう数え切れないくらいにこの曲の大合唱をライブで聴きまくってきたことで、脳裏に焼き付いている声が脳内で再生されたのかもしれない。どの曲でもなくこの曲でそうなったのは、この曲の合唱パートは川上が歌わなかったら他のメンバーが歌うこともないからである。つまり、我々が大合唱してきた時はいつも我々の声のみがバンドの演奏に乗って響いていた。ライブハウスでも、アリーナでもスタジアムでもフェスでも。そのあらゆる場所で見てきた記憶が自分の脳内でこの曲を歌わせていたのかもしれない。変わらざるを得なかったけれど、その記憶が色褪せることも、またいつかみんなで歌える日が来るという希望が潰えることもない。
「Starrrrrr」のアコギのサウンドをそのまま引き継ぐような爽やかさとロックバンドとしての強さによって、早くもライブでより力が引き立つ曲に成長したのは「風になって」。千葉ロッテの2年目投手の横山陸人が登場曲に使っている曲であるが、風が強く吹くことで知られる球場を本拠地にする選手にピッタリな曲であるし、このバンドがマリンスタジアムでワンマンをやったことを何度でも思い出すことができる。きっと横山だけでなくアスリートでもこの曲や[Alexandros]の音楽に力をもらっている人はたくさんいるはずだ。
リモコンで操作したかのように一気にテンポを落として繋がるという強引なようでいて、そうする理由と意図があったのは次の曲が「Adventure」だったからであるが、川上はハンドマイクでステージを歩き回り、磯部と白井に手を出すような仕草を見せながら
「亜麻色に染まった東京は」
と歌詞を変えて歌う。それによってなかなかライブハウスがここに出来なければ来ないようなこの場所が特別な記憶を有する場所になっていく。また夏にはフェスの大きなステージ(特にロッキン)でこの曲を川上のロックスターでしかないカメラ目線とカメラワークで披露されるのを見れるのが今から楽しみで仕方がない。
曲間ではBGM的に断片的に「Burger Queen」のアナウンス部分が流れたりもするが、すぐ近くが羽田空港という立地の会場であるだけに空港アナウンスとしてこれまでにないくらいのリアリティを持って流れる中で川上は、
「ロックのライブへようこそ!俺たちが自分で作った曲を自分たちだけで鳴らしてます!どっかのプロデューサーが作ってるようなクソみたいなアイドルと一緒にするんじゃねぇぞ!」
と最大級の自分たちへの自信を持っているからこその煽りによって観客を飛び跳ねまくらせながら川上のハンドマイクによって歌われたのはミクスチャーバンドかのような獰猛なサウンドに不敵な歌詞がスクリーンに映し出されていく「Beast」。
「何回人生試したって 何が正解かわからないよ」
とサビでは歌われるが、唯一正解だとわかるのはどれだけモッシュやダイブや合唱が禁止されて楽しみ方が変わっても、ロックバンドはこういう状況でこそ最大限に力を発揮できる形態だということだ。じっくり聞かざるを得ない状況だからこそ、音に向き合わざるを得ない。その音に込められたものを感じられるのは自分たちの意思が音にあるか否かだ。自分たちで作った曲を自分たちで鳴らすロックバンドだからこそそれを他のどんな形態よりも強く感じることができるし、[Alexandros]はロックバンドの中でもよりそれを感じさせる力を持っているからこそ、アリーナやスタジアムに立つのが当たり前の存在になった。きっとこのバンドのこうした姿を見てロックバンドを志す若者もたくさんいる。これからもロックが死ぬことはない。
イントロのデジタルサウンドが流れる中で白井、磯部が2人ともフライングVに持ち替えるというメタル編成で演奏された「Kick & Spin」でも川上はハンドマイクでステージを歩き回り、自身が飛び跳ねまくることによって観客をより飛び跳ねさせる。椅子に当たって狭い思いをした人もたくさんいたことと思われるが、汗が飛び散る川上だけでなくこちらも本当に暑く、熱くなってきている。やはりバンドが発している熱量はこれまでと変わることはないし、今まで以上に我々観客がそれに引っ張られている。川上も今までと同じように
「もっと声出せー!」
と煽りまくる。これだけ煽られても決して声を出すことがない[Alexandros]ファンの意識は本当に凄い。自分たちが好きなバンドのライブをなんとしてでも、いっぺんたりとも批判される要素が発生することなく守ろうとしている。それはこれだけ凄いライブを毎回見せてくれるバンドだからというのも間違いなくあるはずだ。それが伝わったかのように川上はラスサビ前の
「生きていく」
のフレーズを珍しいくらいに叫ぶようにして歌っていた。
イントロで重厚なセッション的な演奏が加わったのは、イントロ部分からドラムセットの台に立っていた白井の鳴らすギターリフも重厚極まりない「Mosquito Bite」であるが、この完全に音と佇まいがライブハウスを飛び越えまくっているスケールの大きさたるや。あらゆる場所の大事なポジションでこうして演奏され続けてきたことによって曲が完璧に育ってきている。間奏では向かい合うようにしてギターを鳴らし合った川上と白井が拳をゴツンと合わせる。何よりも演奏で男同士の友情や絆を感じさせてくれる。そうしたところまで含めてカッコいいのだ、[Alexandros]というバンドは。
そして川上も
「まだ帰りたくない!」
とライブが終わってしまうという切なさも含んで最後に演奏されたのは「PARTY IS OVER」。幕張メッセでのこれまでのバンドのあらゆるシーンの写真が映し出されるという演出こそなかったが、リリース時はフェスで演奏される際も
「あんまりライブでやらない曲」
と言っていたのが、今ではライブの最後に演奏される曲としてすっかりおなじみになった。それは曲中に画面に映し出される「PARTY IS OVER」というタイトルがこの上なく今この瞬間のバンドと我々の心境にリンクするものになっているからであり、
「僕のつまらない場所」
のフレーズでは股間のあたりを抑えるようにしていた川上は
「溢れる涙を 拭きながら 歩こうよ
ひとりきりで
呆れるくらい 真っ白な空 さあ 帰ろうよ
ひとりきりで」
という寂しさや切なさが込み上げてくる情景が描かれたフレーズで腕を左右に振り、観客もそれに合わせる。それが今数少ない、バンドと観客が一緒にできるパフォーマンスでありライブの作り方。曲が鳴り止んだ瞬間に暗転してメンバーがステージから去り、スクリーンの
「PARTY IS OVER」
の文字が光るというのは余韻を吹き飛ばすくらいに実に潔い終わり方であった。
アンコール待ちの時間、スクリーンの「PARTY IS OVER」の文字が「PARTY IS NOT OVER」に変わり、さらに「CLAP」という文字に変わるとそれまで以上に大きな手拍子がメンバーをステージに誘い、5人が再びステージへ。
「メンバー紹介してもいいですか!?」
と言ってそれぞれのソロ回しをしながら川上がメンバーを紹介していくのだが、そのソロ回しの音が重なっていくことによってそれが白井のギターによって始まる「ワタリドリ」のイントロに展開していく。
すでに20曲も歌っているとは思えないくらいに川上のボーカルは実に素晴らしいノビを感じさせるし、最近はフェスなどに出演してもこの「バンドの中で最も有名な曲」をやらないことも多くなった。それでもこうしてワンマンだとやる。それはここに来た人しか見ることができないライブのアレンジも含めて、ただひたすらに曲と音で観客への感謝を形にするというバンドのスタンスである。ファンに媚びることは絶対にしないバンドだけれど、自分たちがやりたいこと=ファンが喜ぶことであることはわかっているバンドだ。
「[Alexandros]唯一のラブソングを!」
と言って「Dracula La」のイントロが始まった時、確かに明確なラブソングというのはないかもしれないと思った。「Leaving Grapefruits」や「Your Song」という曲も解釈的には恋愛というだけではないものも多分に含んでいるだけに。
しかしイントロで今までは合唱が起きていたコーラス部分を川上が歌い、観客にも心で歌わせようとするも、
川上「全然聞こえないぞ!」
磯部「当たり前だろ(笑)」
というやり取りが起こるのだが、
「歌えなくても歌っているような感じで!」
と言って再びコーラスを歌うと、今度は満足したような表情を浮かべてリアドに目線を送って演奏を始めていく。ただ歌えないから川上のコーラスを聞くんじゃなくて、観客たちも思いっきり歌っているかどうかというのが川上には表情を見ればわかるのかもしれないし、もしかしたら川上も脳裏にこれまでのライブで観客が大合唱してきた声や景色が焼き付いているのかもしれない。
「不安を取り除いてくれリアド!」
と川上が言ってのラスサビ前のリアドのドラムの連打はやはりバスドラを連打するサトヤスのものとはまた違うパワーあふれる形になっており、その姿が我々の不安をも取り除いてくれる。
きっと、特にBIGMAMAのファンの人たちは思うところもたくさんあるだろう。ずっと信頼していたドラマーが他のバンド(しかも親交が深いバンド)に移ってしまったのだから。でもそう思われることはリアド本人が1番わかっていただろうし、曲作りの際の骨格を担う[Alexandros]のドラマーはサポートという形では務まらない。どんなに上手い人でもそれだけでは務まらない。技術と愛され続けているサトヤスの後任としてバンドを背負う精神力の両方を備えていないとならない。そうなるとリアドしかいないというのは実によくわかるし、こうしてメンバーになってくれて自分は心から感謝している。
そんな大団円感の強い「Dracula La」でもまだライブは終わらず、浮遊感のあるサウンドが場内を包む中で演奏されたのは「LAST MINUTE」。まさに最後の時間として鳴らされたこの曲で締めるというのは本編の「PARTY IS OVER」での寂寞に似た感じもあるのだが、今のバンドがライブを締めるべきなのはこうした曲、こうした感情ということなのだろう。しかしながらただ普通に演奏するだけではなく、アウトロではこの曲のサビで一気に夜が明けていくような光に包まれていく開放感をさらに強く感じさせるセッション的な演奏がどんどん強度と激しさを増していき、最後にはリアドのドラム連打が合図となって演奏を締めた。さすがというか、本当に素晴らしい演奏とライブの流れだった。川上はアンコールでは何度も客席に向かって拍手をしていたが、終演後の観客からのバンドへの拍手もしっかり届いていてくれただろうか。
メンバーがステージを去るとスクリーンには[Alexandros]のバンドロゴが浮かび上がり、写真撮影タイムを兼ねた規制退場に。規制退場を待つ間にステージの撮影をしてもいいというのはただ待つだけにはならないし、規制退場を無視して早く帰ろうとする人も生まれにくい。そこまで考えているのかどうかはわからないが、それも含めて全てが完璧に噛み合ったツアーの中の前半の一夜だった。
モッシュやダイブというライブハウス的な楽しみ方をライブハウスでできないというのはもちろん、声が出せない、今まで数え切れないくらいに一緒に歌ってきた曲を歌うことができないというのはやはり寂しかったりキツかったり思う瞬間もあるにはある。
でもこんなにカッコいいロックバンドがこの状況の中でもツアーを回っていて、こんなにカッコいいライブを見ることができている。それだけでもいいというか、それが最も大事なことなんじゃないかと思う。この先に続く久しぶりの武道館や横浜アリーナ、各地の夏フェス。いつだって我々を連れて行ってくれ。
1.閃光
2.Boo!
3.Stimulator
4.Dear Enemies
5.City
6.Don't Fuck With Yoohei Kawakami
7.Thunder
8.Vague
9.Kiss The Damage
10.SWEET DAYS (Blanky Jet Cityのカバー、白井ボーカル)
11.You're So Sweet & I Love You
12.This Is Teenage
13.Starrrrrrr
14.風になって
15.Adventure
16.Beast
17.Kick & Spin
18.Mosquito Bite
19.PARTY IS OVER
encore
20.ワタリドリ
21.Dracula La
22.LAST MINUTE
そうしてこの4人になっての初めてのツアーが今回の「ALEATORIC TOMATO Tour」。夏以降は各地のアリーナまでをも巡る長いツアーであるが、その前にライブハウスを回るというのも、すでにリアドがサポートメンバーだった頃からツアーを経てきているとはいえ、正式にこの4人になってからのグルーヴをライブを周り、目の前の観客のパワーを貰うことで練り上げていきたいのだろう。
去年まだほとんどのアーティスト(規模の大きい人は特に)が有観客ライブに踏み切っていなかった8月にすでに「THIS SUMMER FESTIVAL」をこのZepp Hanedaで開催していたが、チケットが取れずに配信で見ていたので、ライブハウスで見るのは2018年12月の「Sleepless in Japan Tour」のZepp Tokyo以来、実に2年半ぶりとなる。
検温と消毒を経て客席に椅子が並べられた場内に入り、18時30分の開演時間を少し過ぎるとゆっくりと暗転して観客たちが一斉に立ち上がる。サポートキーボードのROSEがすでに自身の機材の前に座っているが、ステージ背面はそのまま巨大なスクリーンのようになっており、そこに宇宙空間に光る星たちのような映像が映し出されたと思ったら、それは真上から見たこの会場の開場前の椅子が並べられた景色だった。
そこへ開場して観客が少しずつ入って席に座っていく。彼女たち(開場してすぐに入ってきたのは女性ばかりだった)は画面に映るとバンドの象徴でもある[]に挟まれるような加工が施されているのだが、それはこうしてここにいる人たち、この状況下であってもライブハウスにライブを観に来る人たちも[Alexandros]の一員であるという意味も込めているのだろう。
観客がある程度席に座り始めた映像に被せるように今回のツアータイトルの「ALEATORIC TOMATO」という文字が浮かび上がり、メンバー4人がステージに登場。暗い中でも目を惹くのは金髪に派手なシャツを着た白井眞輝(ギター)であるが、川上洋平(ボーカル&ギター)がバッチリスーツ姿でキメたロックスタースタイルであるというのも登場した段階でこの上なくカッコいい。
[Alexandros]のライブのオープニングというと始まりを告げるような「Burger Queen」のSEで登場してそのままその曲を演奏して…というイメージが強いが、今回は静謐なSEとともに登場すると、タイトルのトマトを彷彿とさせる赤いライトがマイクスタンド前でギターを構える川上を照らす。そのまま川上がギターを弾き始めると、5人でのセッション的な演奏が始まる。スクリーンにはメンバー紹介的にそれぞれの演奏する姿と名前が映し出され、磯部寛之(ベース)は川上やリアドの方を見て呼吸を合わせるようにリズムを刻んでいる。この演奏の段階でメンバーが昂っているのがよくわかるし、それを見ている我々観客も徐々にテンションが上がっていく。
リアドの激しいドラムの連打によってセッション的な演奏が締まると、白井がギターを鳴らし始めたのは最新シングル「閃光」のイントロ。まさかこの曲がこんなに早く演奏されるとは思っていなかっただけに驚いてしまった。驚いても声を出すことは出来ないのだが、なんなら曲を重ねてグルーヴが極まりまくったライブ本編の最後の曲や、アンコールで演奏されるものだと思っていたから。
それくらいに新しい[Alexandros]の代表曲となり得るというか、ガンダムの映画作品の最新作(ライブ同様に延期されまくってようやく今月公開された)「閃光のハサウェイ」の主題歌という大型タイアップであることからもそうなるべき曲であるのだが、メンバーも明確にサトヤスをメンバーに迎えての再スタート曲だった「city」を意識した部分があったという。そう思うと新しいこの4人の[Alexandros]のスタートとしてこの曲をライブの最初に鳴らすのは当然のことのように思えてくるし、サビの入りのリアドのスネアの連打はこの4人での[Alexandros]になったからこそ生まれたものであると感じられる。映画を見た時は主人公のハサウェイの人生そのものの曲だなと思ったし、それはかつてリアドが在籍していたBIGMAMAとのツーマンツアーにガンダムOVA作品のタイトルを冠していたくらいにガンダムを愛しているバンドサイド(特にマネージャー)だからこそだなとも思っていたのだが、こうしてライブ、ましてやワンマンで聴くとやはりこのバンドの生き様を歌っている曲だと思う。つまりは最高のライブのスタートということだ。
ROSEのキーボードのサウンドがこのバンドの獰猛なロックさにエレクトロの要素を融合させた「Boo!」では曲のアグレッシブなテンポの良さに合わせてステージ背面に次々に歌詞が映し出されていくのだが、間奏での一気にテンポを落とした、メンバーの動きすらもスローモーションになる部分から再びアッパーに転じていくという構成は1曲の中での静と動を堪能させてくれ、幕張メッセワンマンから春フェスでもおなじみの「Stimulator」では川上がイントロからしゃがみ込んでエフェクターを操作して、よりバンドの枠を超えたサウンドをバンドのサウンドだけで生み出し、そのしゃがみ込んだ体制に合わせた低い位置のマイクで歌い、サビで立ち上がってギターを弾いて歌うというアレンジに。CREW先行でチケットを取った効果か、ステージから6列目という近さだっただけにそうした川上のパフォーマンスをすぐ近くで見ることができるのは全席指定という制約がある中ではあるけれど実に嬉しい。
最新曲「閃光」にはサビ前に
「enemies inside your scope」
というフレーズがある。そこに合わせたのかは定かではないが、ここで演奏されたのは「Schwarzenegger」収録の「Dear Enemies」という実にレアかつ嬉しい選曲。今でも今はなき渋谷AXでアルバムツアーファイナルを見たことを思い出すが、川上のスピード感溢れる英語歌詞は本当にスムーズであるし、こうした曲をまたライブハウスで聴くことができるというのがアルバムを引っ提げてのものではないツアーだからこそだ。きっとこんな状況じゃなかったらサビでたくさんの元気な人たちがステージに向かって人の上を転がっていって、その光景を見たメンバーたちがさらに気合いを入れているんだろうなとも思う。もちろんその光景は見れずともメンバーの演奏はライブハウスだからこそのロックさ、アタック感を存分に感じさせるものになっているが。
それを感じさせるのはイントロのギターの音が鳴っただけで客席から拍手が起こった「city」だろう。リアドがサトヤスの意思を次ぐように[Alexandros]仕様の高い位置に設置されたシンバルを叩きまくり、コロナ禍になる前と同じように手拍子が起こるけれど、川上がどんなに煽っても我々は今は一緒に歌うことは出来ない。それでも川上は
「ここはどこですか
私は誰ですか」
のフレーズでマイクスタンドから離れてステージ最前まで出てきて、すでに汗まみれになって色が変わりつつあるスーツ姿でマイクを通さずにそのフレーズを歌う。それは今までとずっと変わらない光景だ。観客側に制限があってもバンドがやることは全く変わらない。それが[Alexandros]というバンドのライブのスタイルだからであるという強靭な意志がそこから滲み出ている。それをサトヤスが加入して最初の曲だったこの曲を今の4人で演奏していて感じることができるというのが、このバンドはこれからも絶対にカッコいいままでいてくれると心から信頼できる理由である。
「ちょっと早いけど、さわやかな曲やってもいいですか!」
と川上が言い、白井がまさにさわやかなギターを弾いて観客も腕を左右に振るという光景から一転して激しいロックサウンドに雪崩れ込み、川上は曲中でTVではまず放送できない指の動きを見せる「Don't Fuck With Yoohei Kawakami」では間奏でこれでもかというくらいに強烈な、ライブハウスじゃなかったら騒音で訴えられてもしょうがないくらいのギターソロを白井がキメる(その間、川上と磯部が普通に会話をしたり水を飲んだりしているのも面白い)と、そこから最後のパートに突入していくのを白井が思いっきり助走をつけて走り、ドラムセット台から大ジャンプするのが合図になる。白井は演奏している時の表情こそいつも飄々としているが、鳴らしている音やパフォーマンス自体は誰よりも熱い。
そんな熱さをクールダウンさせるかのように雨が降ってきたかのような効果音が流れ、川上がギターを置いて歌い始めたのは「Thunder」なのだが、原曲のファルセットボーカルではなく、かつ川上がシェイカーを振りながら歌う、リアドもサンプリングパッドを連打するというのは昨年の自粛期間中に夜に家で聴いて楽しめるようにという思いで生み出された「Bedroom Joule」のバージョンのさらなる進化系と言ってもいいだろう。いわゆる[Alexandros]の代表曲とは全く違ったタイプのこの曲が人気投票企画だと毎回上位にランクインしてくるというあたりに、ファンはあらゆるタイプの曲を全て[Alexandros]らしさとして捉えていることがわかるし、だからこそバンドもこうしてこの曲を近年よくセトリに入れてくれているのかもしれない。
効果音が曲と曲の間を繋ぐ中、さらに同じ編成で演奏された「Vegue」は昨年リリースの「Beast」のカップリング曲という立ち位置を考えても今だからこそこうしてツアーのセトリに入っていると思っていいだろうし、夜の首都高を走っているような映像と、スーツ姿のままでステージ上を歩き回りながら歌う川上の姿も相まって、[Alexandros]の持つ「洗練」の要素を強く感じさせてくれる。というかこの映像もライブハウスというよりはアリーナクラスで使われて然るべきクオリティのものであり、これから先のアリーナでは果たしてどんなライブを作り出すのかとさらなる期待を抱かせてくれる。
そんな中で川上がアコギを持ち「Oasisの「Wonder Wall」でも歌うかのようなアコギの弾き方だな」と思っていたら本当にワンフレーズ歌い、そのアコギの音がROSEの美しいピアノの音と重なることによって、一瞬「この曲なんだっけ…?」と思ってしまうくらいに「Thunder」「Vague」に並んで演奏されるのにふさわしいアコースティックと言ってもいいアレンジに生まれ変わったのは「Kiss The Damage」。
原曲の重厚なロックサウンドはまさに生々しく、痛々しくもある傷口を感じさせるものだったが、このアレンジはそんな傷口すらも美しいものであるかのように、川上は「Thunder」で使わなかったのをここで使うかのようなファルセットを多用している。こうしてツアーのたびにアレンジを変えるバンドだからこそ、すべてのツアーを体験したいし、映像作品に残して欲しいくらいだ。
そうしてライブならではのアレンジや演奏を加えるバンドなだけに、普通に音源で曲を聴くよりもかなり曲の尺や音を鳴らしている時間は長くなるのだが、それでも全くテンポが悪く感じないというのはMCをほとんど挟まずに突っ走るというスタンスのバンドだからであるが、ここでようやくこの日最初のMC。
川上「声を出したりできないのはもどかしいと思いますけど、来てくれて本当にありがとうございます。コロナになってライブの時に手を挙げたりするのを忘れちゃったっていう人いない?いないね。じゃあ俺が出てたドラマを見て[Alexandros]を好きになってライブを観にきてくれた人は?…3人くらいはいるな(笑)」
磯部「もっと頑張ってプロモーションしてもらってもいいですかね(笑)」
川上「(笑)
でも今回のツアータイトルの「ALEATORIC」っていうのは聞き慣れない単語だと思うんだけど「偶発性の音楽」っていう意味があって。我々は曲を作る時にROSEも入れた5人だけでスタジオに入ってああでもないこうでもないって言って作ってるんだけど、何気なく弾いたフレーズとかが曲に発展していくことがよくあって。それはまさに偶発性の音楽だなって。今はそうやって新曲も作ってます。まだ今日はやらないけど(笑)
で、「トマト」の花言葉は「感謝」だからね。このツアーにピッタリな花言葉じゃないかと」
と、このツアータイトルに込めた意味を説明すると、派手な出で立ちをしているのに一言も喋っていない白井に話を振るというか、
「歌っちゃいますか」
と歌そのものを振る。どうやら今回のツアーはこのMCを白井の歌が締めるのが恒例らしいが、
白井「普段自分がギターを弾く時は洋平のためっていうよりも、バンドやみんなのために弾いている感覚なんだけど、自分で歌うとみんなが俺の歌のために演奏してくれるような感じがする」
川上「俺はいつもみんなが俺のために演奏してくれてるって思ってるけどね(笑)」
磯部「それはよーくわかっております(笑)」
というそれぞれの性格(特に川上)が実によくわかるやり取りから、白井がギターを弾きながら自身のヒーローであるBlanky Jet City「SWEET DAYS」を歌うのだが、歌唱力という意味ではやはり川上には敵わないというか、それは川上が歌がうますぎるからだし、白井すらも上手かったらどうなってるんだこのバンドは、ともなってしまうのだが、白井の歌は本当にベンジー(浅井健一)がめちゃくちゃ好きなんだなというのがよくわかるくらいにベンジーの歌い方をマネている。それはブランキーの曲だからということもあるのだろうけれど、もしかしたら話していた「歌と演奏の意識の違い」をわかったというのはこれからのバンドにとって大きな要素の一つになるのかもしれない。
その白井のギターの音が徐々にアルペジオに変化していくと、そのままイントロへと繋がるというアレンジになって演奏されたのは「You're So Sweet & Love You」。バンドが明確にアリーナ規模で大合唱する景色を想定して生み出されたこの曲でも我々は歌うことはできない。それでも、というかだからこそ白井、磯部、リアドの3人のコーラスがよく聞こえる。磯部は歌えないのをわかっていても自身のマイクスタンドを客席に向けて最前列に置き、観客の心の声を拾おうとする。自身も歌う時はそのマイクの向きに合わせて客席に背を向けていたが、それも今までのライブと全く同じ光景であり、バンドがこうした状況だからといって自分たちが何かを変えるということをしていないのがよくわかる。
アウトロからリアドの4つ打ちとROSEのピアノのメロディがそのままイントロへとつながり、その2人の音がアンセム性の強いこの曲をさらにダンサブルに進化させたのは「This Is Teenage」。白井のサビでのコーラスもよく響いていたが、この曲が今になってこうしてバンドの代表曲を連発する流れに入ってくるというのは今後のこの曲の立ち位置にも期待したくなるし、こうしてこの曲が聴けて嬉しかったという人もたくさんいるはずだ。あまりライブでは演奏されない人気曲であるだけに。
この後半からはアウトロからイントロへと繋がる流れが実に見事にアレンジされ、このライブならではの流れを作っていくのだが、これは間違いなく今回のツアー限りのものだ。フェスなどでも見ることができないような。それをライブハウスで見ることができる。ライブハウスと言っても国内最大キャパのZeppであるが、そもそもがスタジアムやアリーナでライブをやるのが当たり前なバンドであるだけに、このキャパでも本当にすぐ目の前、近くで鳴らされているように感じる。
川上がアコギに持ち替える間もメンバーが繋ぎのアレンジで演奏してから清冽なアコギのイントロが鳴らされて拍手が起きたのは「Starrrrrrr」であるが、間奏では磯部が「東京ー!」と叫びながら感情を解放するようにベースを鳴らすと、白井もステージ前に出てきてギターを弾き、川上もこれまでのライブで大合唱が起きてきたフレーズでマイクスタンドからスッと離れて観客の合唱を煽る。
ここまでと同様にもちろん観客は歌うことができないのだが、それでもなんだか大合唱が聞こえているような気がした。それはもう数え切れないくらいにこの曲の大合唱をライブで聴きまくってきたことで、脳裏に焼き付いている声が脳内で再生されたのかもしれない。どの曲でもなくこの曲でそうなったのは、この曲の合唱パートは川上が歌わなかったら他のメンバーが歌うこともないからである。つまり、我々が大合唱してきた時はいつも我々の声のみがバンドの演奏に乗って響いていた。ライブハウスでも、アリーナでもスタジアムでもフェスでも。そのあらゆる場所で見てきた記憶が自分の脳内でこの曲を歌わせていたのかもしれない。変わらざるを得なかったけれど、その記憶が色褪せることも、またいつかみんなで歌える日が来るという希望が潰えることもない。
「Starrrrrr」のアコギのサウンドをそのまま引き継ぐような爽やかさとロックバンドとしての強さによって、早くもライブでより力が引き立つ曲に成長したのは「風になって」。千葉ロッテの2年目投手の横山陸人が登場曲に使っている曲であるが、風が強く吹くことで知られる球場を本拠地にする選手にピッタリな曲であるし、このバンドがマリンスタジアムでワンマンをやったことを何度でも思い出すことができる。きっと横山だけでなくアスリートでもこの曲や[Alexandros]の音楽に力をもらっている人はたくさんいるはずだ。
リモコンで操作したかのように一気にテンポを落として繋がるという強引なようでいて、そうする理由と意図があったのは次の曲が「Adventure」だったからであるが、川上はハンドマイクでステージを歩き回り、磯部と白井に手を出すような仕草を見せながら
「亜麻色に染まった東京は」
と歌詞を変えて歌う。それによってなかなかライブハウスがここに出来なければ来ないようなこの場所が特別な記憶を有する場所になっていく。また夏にはフェスの大きなステージ(特にロッキン)でこの曲を川上のロックスターでしかないカメラ目線とカメラワークで披露されるのを見れるのが今から楽しみで仕方がない。
曲間ではBGM的に断片的に「Burger Queen」のアナウンス部分が流れたりもするが、すぐ近くが羽田空港という立地の会場であるだけに空港アナウンスとしてこれまでにないくらいのリアリティを持って流れる中で川上は、
「ロックのライブへようこそ!俺たちが自分で作った曲を自分たちだけで鳴らしてます!どっかのプロデューサーが作ってるようなクソみたいなアイドルと一緒にするんじゃねぇぞ!」
と最大級の自分たちへの自信を持っているからこその煽りによって観客を飛び跳ねまくらせながら川上のハンドマイクによって歌われたのはミクスチャーバンドかのような獰猛なサウンドに不敵な歌詞がスクリーンに映し出されていく「Beast」。
「何回人生試したって 何が正解かわからないよ」
とサビでは歌われるが、唯一正解だとわかるのはどれだけモッシュやダイブや合唱が禁止されて楽しみ方が変わっても、ロックバンドはこういう状況でこそ最大限に力を発揮できる形態だということだ。じっくり聞かざるを得ない状況だからこそ、音に向き合わざるを得ない。その音に込められたものを感じられるのは自分たちの意思が音にあるか否かだ。自分たちで作った曲を自分たちで鳴らすロックバンドだからこそそれを他のどんな形態よりも強く感じることができるし、[Alexandros]はロックバンドの中でもよりそれを感じさせる力を持っているからこそ、アリーナやスタジアムに立つのが当たり前の存在になった。きっとこのバンドのこうした姿を見てロックバンドを志す若者もたくさんいる。これからもロックが死ぬことはない。
イントロのデジタルサウンドが流れる中で白井、磯部が2人ともフライングVに持ち替えるというメタル編成で演奏された「Kick & Spin」でも川上はハンドマイクでステージを歩き回り、自身が飛び跳ねまくることによって観客をより飛び跳ねさせる。椅子に当たって狭い思いをした人もたくさんいたことと思われるが、汗が飛び散る川上だけでなくこちらも本当に暑く、熱くなってきている。やはりバンドが発している熱量はこれまでと変わることはないし、今まで以上に我々観客がそれに引っ張られている。川上も今までと同じように
「もっと声出せー!」
と煽りまくる。これだけ煽られても決して声を出すことがない[Alexandros]ファンの意識は本当に凄い。自分たちが好きなバンドのライブをなんとしてでも、いっぺんたりとも批判される要素が発生することなく守ろうとしている。それはこれだけ凄いライブを毎回見せてくれるバンドだからというのも間違いなくあるはずだ。それが伝わったかのように川上はラスサビ前の
「生きていく」
のフレーズを珍しいくらいに叫ぶようにして歌っていた。
イントロで重厚なセッション的な演奏が加わったのは、イントロ部分からドラムセットの台に立っていた白井の鳴らすギターリフも重厚極まりない「Mosquito Bite」であるが、この完全に音と佇まいがライブハウスを飛び越えまくっているスケールの大きさたるや。あらゆる場所の大事なポジションでこうして演奏され続けてきたことによって曲が完璧に育ってきている。間奏では向かい合うようにしてギターを鳴らし合った川上と白井が拳をゴツンと合わせる。何よりも演奏で男同士の友情や絆を感じさせてくれる。そうしたところまで含めてカッコいいのだ、[Alexandros]というバンドは。
そして川上も
「まだ帰りたくない!」
とライブが終わってしまうという切なさも含んで最後に演奏されたのは「PARTY IS OVER」。幕張メッセでのこれまでのバンドのあらゆるシーンの写真が映し出されるという演出こそなかったが、リリース時はフェスで演奏される際も
「あんまりライブでやらない曲」
と言っていたのが、今ではライブの最後に演奏される曲としてすっかりおなじみになった。それは曲中に画面に映し出される「PARTY IS OVER」というタイトルがこの上なく今この瞬間のバンドと我々の心境にリンクするものになっているからであり、
「僕のつまらない場所」
のフレーズでは股間のあたりを抑えるようにしていた川上は
「溢れる涙を 拭きながら 歩こうよ
ひとりきりで
呆れるくらい 真っ白な空 さあ 帰ろうよ
ひとりきりで」
という寂しさや切なさが込み上げてくる情景が描かれたフレーズで腕を左右に振り、観客もそれに合わせる。それが今数少ない、バンドと観客が一緒にできるパフォーマンスでありライブの作り方。曲が鳴り止んだ瞬間に暗転してメンバーがステージから去り、スクリーンの
「PARTY IS OVER」
の文字が光るというのは余韻を吹き飛ばすくらいに実に潔い終わり方であった。
アンコール待ちの時間、スクリーンの「PARTY IS OVER」の文字が「PARTY IS NOT OVER」に変わり、さらに「CLAP」という文字に変わるとそれまで以上に大きな手拍子がメンバーをステージに誘い、5人が再びステージへ。
「メンバー紹介してもいいですか!?」
と言ってそれぞれのソロ回しをしながら川上がメンバーを紹介していくのだが、そのソロ回しの音が重なっていくことによってそれが白井のギターによって始まる「ワタリドリ」のイントロに展開していく。
すでに20曲も歌っているとは思えないくらいに川上のボーカルは実に素晴らしいノビを感じさせるし、最近はフェスなどに出演してもこの「バンドの中で最も有名な曲」をやらないことも多くなった。それでもこうしてワンマンだとやる。それはここに来た人しか見ることができないライブのアレンジも含めて、ただひたすらに曲と音で観客への感謝を形にするというバンドのスタンスである。ファンに媚びることは絶対にしないバンドだけれど、自分たちがやりたいこと=ファンが喜ぶことであることはわかっているバンドだ。
「[Alexandros]唯一のラブソングを!」
と言って「Dracula La」のイントロが始まった時、確かに明確なラブソングというのはないかもしれないと思った。「Leaving Grapefruits」や「Your Song」という曲も解釈的には恋愛というだけではないものも多分に含んでいるだけに。
しかしイントロで今までは合唱が起きていたコーラス部分を川上が歌い、観客にも心で歌わせようとするも、
川上「全然聞こえないぞ!」
磯部「当たり前だろ(笑)」
というやり取りが起こるのだが、
「歌えなくても歌っているような感じで!」
と言って再びコーラスを歌うと、今度は満足したような表情を浮かべてリアドに目線を送って演奏を始めていく。ただ歌えないから川上のコーラスを聞くんじゃなくて、観客たちも思いっきり歌っているかどうかというのが川上には表情を見ればわかるのかもしれないし、もしかしたら川上も脳裏にこれまでのライブで観客が大合唱してきた声や景色が焼き付いているのかもしれない。
「不安を取り除いてくれリアド!」
と川上が言ってのラスサビ前のリアドのドラムの連打はやはりバスドラを連打するサトヤスのものとはまた違うパワーあふれる形になっており、その姿が我々の不安をも取り除いてくれる。
きっと、特にBIGMAMAのファンの人たちは思うところもたくさんあるだろう。ずっと信頼していたドラマーが他のバンド(しかも親交が深いバンド)に移ってしまったのだから。でもそう思われることはリアド本人が1番わかっていただろうし、曲作りの際の骨格を担う[Alexandros]のドラマーはサポートという形では務まらない。どんなに上手い人でもそれだけでは務まらない。技術と愛され続けているサトヤスの後任としてバンドを背負う精神力の両方を備えていないとならない。そうなるとリアドしかいないというのは実によくわかるし、こうしてメンバーになってくれて自分は心から感謝している。
そんな大団円感の強い「Dracula La」でもまだライブは終わらず、浮遊感のあるサウンドが場内を包む中で演奏されたのは「LAST MINUTE」。まさに最後の時間として鳴らされたこの曲で締めるというのは本編の「PARTY IS OVER」での寂寞に似た感じもあるのだが、今のバンドがライブを締めるべきなのはこうした曲、こうした感情ということなのだろう。しかしながらただ普通に演奏するだけではなく、アウトロではこの曲のサビで一気に夜が明けていくような光に包まれていく開放感をさらに強く感じさせるセッション的な演奏がどんどん強度と激しさを増していき、最後にはリアドのドラム連打が合図となって演奏を締めた。さすがというか、本当に素晴らしい演奏とライブの流れだった。川上はアンコールでは何度も客席に向かって拍手をしていたが、終演後の観客からのバンドへの拍手もしっかり届いていてくれただろうか。
メンバーがステージを去るとスクリーンには[Alexandros]のバンドロゴが浮かび上がり、写真撮影タイムを兼ねた規制退場に。規制退場を待つ間にステージの撮影をしてもいいというのはただ待つだけにはならないし、規制退場を無視して早く帰ろうとする人も生まれにくい。そこまで考えているのかどうかはわからないが、それも含めて全てが完璧に噛み合ったツアーの中の前半の一夜だった。
モッシュやダイブというライブハウス的な楽しみ方をライブハウスでできないというのはもちろん、声が出せない、今まで数え切れないくらいに一緒に歌ってきた曲を歌うことができないというのはやはり寂しかったりキツかったり思う瞬間もあるにはある。
でもこんなにカッコいいロックバンドがこの状況の中でもツアーを回っていて、こんなにカッコいいライブを見ることができている。それだけでもいいというか、それが最も大事なことなんじゃないかと思う。この先に続く久しぶりの武道館や横浜アリーナ、各地の夏フェス。いつだって我々を連れて行ってくれ。
1.閃光
2.Boo!
3.Stimulator
4.Dear Enemies
5.City
6.Don't Fuck With Yoohei Kawakami
7.Thunder
8.Vague
9.Kiss The Damage
10.SWEET DAYS (Blanky Jet Cityのカバー、白井ボーカル)
11.You're So Sweet & I Love You
12.This Is Teenage
13.Starrrrrrr
14.風になって
15.Adventure
16.Beast
17.Kick & Spin
18.Mosquito Bite
19.PARTY IS OVER
encore
20.ワタリドリ
21.Dracula La
22.LAST MINUTE
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KOTORI presents TORI ROCK FESTIVAL'21 @東武動物公園特設ステージ 6/19