2020年ベストディスクなど
- 2020/12/29
- 00:32
本来ならば例年この企画はCOUNTDOWN JAPANの開催前に発表していたものなのだが、こうした状況でCOUNTDOWN JAPANも開催中止になってしまったので、ギリギリまで引っ張っての発表。
まずは2020年のベストディスクTOP20を簡単なレビューも含めて20位から。
20.THE BAND STAR / ハルカミライ
そもそも昨年の1月にフルアルバム「永遠の花」をリリースし、この「THE BAND STAR」をリリースした3月までの間にも数え切れないくらいの本数のライブをやりまくってきているだけに、いったいいつ作っていたんだろうかというハルカミライ。
昨年12月には幕張メッセでもワンマンを行い、もはや日本のパンクシーンの新たな救世主的な存在になっているバンドであるが、コロナ禍の中でも開催されているリリースツアーはそもそもが今のハルカミライの状況からしたらキャパが小さいライブハウスばかりであるのに、さらにその収容人数を減らしているために全くチケットが当たらず、このアルバムリリース以降にライブを観れていない。
だから、果たして去年までのあの最強のライブモンスターであったハルカミライのセトリの中にこのアルバムの曲が入ってくるようなイメージが湧いていない。きっとライブを観ればその思いは消えるだろうし、もっとアルバムの順位も上がる。そういう意味ではコロナの影響をバンドと自分が受けたことによって本領を知ることができなかったアルバム。
19.Make Money / SATETSU
コロナ禍によってライブが出来なくなったり、思い描いていたライブが出来なくなってしまったアーティストがたくさんいる一方で、そんな状況だからこそ生まれたアルバムもある。
a flood of circleの佐々木亮介と青木テツによるユニットSATETSUの1stフルアルバムは、リモートによって制作されたというコロナ禍だからこその事情もありながらも、リード曲となった「Peppermint Candy」のMVからは紛れもなく「対コロナ」への明確なメッセージを感じることができる。それは佐々木亮介をはじめとしたフラッドのメンバーや関係者一同が、このアルバムを作りながらも、この状況を全く良しとはしていないということだ。
フラッド本体に先駆けて8月からライブを行っていたということも、この2人だからこそのユニットの機動力や自由さを感じさせてくれたが、年末には早くも配信にてアルバム「SUPER CHILL」をリリース。これはもうただのフラッドの別働隊としての活動ではない。亮介とテツのユニットだからこその、この2人でしかできない表現である。
18.THE KEBABS / THE KEBABS
19位のSATETSUに続き、佐々木亮介がボーカルを務めるバンド、THE KEBABSのファーストアルバムである。
そうなるとただ単に佐々木亮介のファンだからという視点が入りがちであるが、そもそもアルバムのリリースが待ちわびられていたTHE KEBABSであるし、UNISON SQUARE GARDENを独自の視点と手法によって動かしてきた男である田淵智也が生半可なアルバムをリリースするわけはないのである。
とはいえユニゾンほど歌詞の裏側を読みたくなることもなければ、フラッドほど「ロックンロールとは」ということに向き合うこともない、ただメンバー4人が楽しみながらロックンロールを鳴らしている、それだけのアルバム。だがその4人のバンドであるということが、新井弘毅と鈴木浩之が今なおまだバンドマンであるということを実感させてくれる、絶対に猿ではできないようなアルバム。
17.Just A Boy / LONGMAN
愛媛県のスリーピースパンクバンド、LONGMANのメジャーデビューアルバム。パンクバンドのメジャーデビューは割とインディーズで早い段階から話題になってそのままメジャーへ、というパターンも多いが、このバンドはすでに活動開始から8年も経過しているし、インディーズ期に話題になってからも数年が経過している。
そうして年数が経過したのは、ベース&ボーカルのさわの喉の不調によって1年間ライブができなかったということもあっただろうけれども、このアルバムにはそうした苦い経験のようなものが全く感じられない。このバンドの最大の持ち味であるメロディーの良さが、思いっきり音楽ができるようになったことでこれまでをさらに上回る輝きを放っている。だから聴いていると演奏しているメンバーも、観客も飛び切りの笑顔を浮かべているライブの光景を想像することができる。
メジャーになってもバンドのスタイルは全く変わっていない。だからこそこれからもこのバンドの持つメロディーの輝きは色あせることがないだろうなと思える、これがベストアルバムですと言ってもいいぐらいの、メジャーデビューアルバムにしてバンドの代表作になっていくであろう。
16.おいしいパスタがあると聞いて / あいみょん
爆発的なブレイクを果たしてお茶の間にまで進出したアーティストのメジャー3枚目のアルバムとなると、どうしてもマンネリというか、どんどん守りに入ったものになっていきやすい。
それに当てはまる存在でしかないあいみょんのメジャー3rdアルバム「おいしいパスタがあると聞いて」はタイアップ曲を多数収録していながらも、そのアルバムタイトルと
「愛は全てを解決しない
金があれば何でもできるかもしれない
余裕のある生き方がしたいしたいしたい
でも鐘のなる方へは行かないぞ」
という「黄昏にバカ話をしたあの日を思い出す時を」のフレーズは、これからもあいみょんが耳障りの良いJ-POPラブソングだけを量産するシンガーにはならないことを宣言しているし、このアルバムの収録曲の振れ幅の大きさは見事にそれを実践している。これからもあいみょんへの信頼が揺らがないことに安心感すら抱かせてくれるアルバム。
15.ハリネズミズム / キュウソネコカミ
リリース前、2019年からライブで「Welcome to 西宮」と「冷めない夢」をすでに演奏しており、その段階で「この曲たちが収録されるアルバムは素晴らしいものになるんじゃないだろうか」という予感を抱かせていたが、初期曲の再録もありながら、ミニアルバムであってもその期待を全く裏切らなかった、キュウソネコカミ。
「華麗なる飯」「戯我浪費」というキュウソならではの視点による、思わず笑ってしまうような曲もありながらも、やはり突出しているのは「冷めない夢」の名曲っぷり。COUNTDOWN JAPAN 19/20のメインステージでの年越し時にも感動的な瞬間を生み出した曲であるが、この曲の存在がキュウソがどんなバンドなのかという真価を物語っている。それがあるから、これからこのバンドはもっと凄い曲を生み出して、もっと凄いバンドになると確信できる。バンドやファンの未来に繋がるミニアルバム。
14.millions of oblivion / THE PINBALLS
このベストディスクの記事を書くタイミングの直前、12月16日にリリースされた、2020年のラスボス的なアルバム。
THE PINBALLSは「とりあえず衝動と激しさ」の音楽というイメージを持たれがちなロックンロールというジャンルのバンドの中にあって、「蝙蝠と聖レオンハルト」などのタイトルに代表されるように、まるで小説のような歌詞でロックンロールを鳴らすという唯一無二のバンドである。
今回の「millions of oblivion」もCDに封入されている歌詞カードの、普通に聴く分にはあまりにも読みにくくなっている構成だけでただ単に曲を集めたというアルバムでないことがわかるのだが、そうした聴けば聴くほどに1曲1曲への理解度が深まっていき、それによってアルバム全体の理解度がさらに深まっていくという仕掛けが施されたアルバム。
今年はアコースティックアレンジアルバム「Dress Up」もリリースしており、その元々持っているメロディの良さを改めて知らしめたが、話題のアニメなどの大型タイアップも増えていながら、いつかこのバンドの曲がアニメや映画になる日も来るんじゃないかとすら思える。
13.BURST POP ISLAND / Wienners
先日、SUPER BEAVERがインディーズからメジャーに復帰するというニュースが話題になった。SUPER BEAVERのように長い年月を経たわけではないし、かつてと同じレーベルというわけでもないが、もう1組インディーズからメジャーに復帰したバンドがいる。それがWiennersである。
基本的に音楽性自体はこれまでと変わらない。それはそうである。メンバーが変わった時ですら大胆に音楽性を変えることはなく、ポップでファストでダンサブルなパンクという軸はぶれることなく続いてきたバンドなのだから。しかしながらメジャー復帰作というのは精神的に期するものというか、でんぱ組.incの代表曲を作ってきた人のバンドというイメージでは絶対に終わらないという意気込みも潜在的にあったのであろう。ポップでファストでダンサブルなパンクというすべての要素が過去最高レベルにどの曲においてもメーターを振り切っている。
そんな最新作が最高傑作というバンドとしての理想を当たり前のように体現しているこのアルバムにおいてただ一つの弱点は、このいつまたライブハウスでライブができるのかわからない今の状況において、どうしたってライブハウスでこの曲たちを聞きたくなってしまうということである。
12.朗らかな皮膚とて不服 / ずっと真夜中でいいのに。
昨年フルアルバム「潜潜話」をリリースしているが、その先行作としてリリースされた「正しい偽りからの起床」「今は今で誓いは笑みで」という2枚のミニアルバムで感じた期待度からすると、年間ベストクラスのアルバムになるんじゃないか?という予想からはやや物足りなく感じてしまうものだった。
それはミニアルバムに収録されていた曲のクオリティがあまりにも高すぎるからでもあるのだが、この今年リリースのミニアルバム「朗らかな皮膚とて不服」もミニアルバムだからこそ1枚トータルでのバランスを考えることなくひたすらに強い曲を入れることができるという意味でこれでもかというくらいに全曲がずとまよでしかないくらいに音の情報量が詰め込まれまくったキラーチューンの応酬っぷり。
そうなると2月にリリースされることが発表されている2ndフルアルバム「ぐされ」への期待が高まるところであるが、すでにそこに収録される「暗く黒く」「勘ぐれい」「正しくなれない」という曲が次々に発表されているだけに、1stアルバムで感じた物足りなさを今回は上回ってくるのだろうか?
11.ボイコット / amazarashi
例えばリリースされたばかりの「令和二年」を始め、amazarashiは常に「今のこと」を歌いながらも、ライブでは数年前の曲を、朗読などの演出や前後の曲と組み合わせて響かせることによって「今を描いた曲」として普遍性を与えてきたアーティストである。
この「ボイコット」は3月リリースであり、制作されたのは昨年からだと思われるので、コロナの影響はほとんどというか、全く受けてはいないだろう。だが「帰ってこいよ」「さよならごっこ」という、もう会えないかもしれない別れを描いた曲から、「マスクチルドレン」(マスクの意味合いはコロナとは違うが)「リビングデッド」「死んでるみたいに眠ってる」という、こうした世界になることを予期していたかのような曲まで、amazarashiは今を歌いながらも、その今はその瞬間だけでなく、いついかなる時の今を描いていたということがわかる。
しかしそんな暗さや絶望だけではない。「未来になれなかったあの夜に」「そういう人になりたいぜ」というラスト2曲から感じられるのは、生き延びている我々だからこそ持つことができる希望の光だ。音楽で社会や世の中と戦うことを諦めることができない我々のための叙事詩。
10.盗作 / ヨルシカ
ヨルシカが昨年リリースされた、対になっている2枚のアルバム「だから僕は音楽を辞めた」「エルマ」を2019年の年間ベストアルバムの2位に選出した。
あれだけの大作をリリースしたのだから、次の作品が出るのは当分先になるだろうと思っていたのも束の間、早くも今年にまたもヨルシカはフルアルバムをリリースした。
しかもそのフルアルバムがただ単に出来た曲をまとめたのではなく、前作のようにアルバム1枚を通して1つのストーリーを描くものになっており、首謀者のn-bunaがアルバムのために書き下ろした小説(CD初回盤に同梱。このアルバムを好きな人は絶対読むべき)の存在からも、ヨルシカにとってはそうした、普通に曲を作るよりもはるかに手間や時間や頭を使うと思わざるを得ない作り方がスタンダードなものなのだろう。
サウンドも前作のギターロック的なものからさらに広がりを見せているが、それ以上に驚くのはsuisのボーカルとしての表現力の凄まじい進化っぷり。「昼鳶」での男性視点のボーカルは初めて聴いた時はゲストボーカルが歌っているのかと思ったほど。
その進化についてsuisは前作「エルマ」リリース時のインタビューで
「n-bunaさんの物語を読んで、エルマの気持ちをしっかり理解してから歌うことによって、レコーディングしている時に自分がエルマになったように歌えた」
と語っていた。「盗作」の物語は去年の物語とは全く違う独立したものだが、n-bunaとsuisの2人によるヨルシカという物語は確かにこれまでに作ってきたものと地続きになっている。
9.サンボマスター究極トリビュート ラブ フロム ナカマ / V.A.
2016年の銀杏BOYZの「きれいなひとりぼっちたち」もそうだったが、トリビュートアルバムをこうしたランキングに入れるのはやや反則かもしれない。それはある意味ではベストアルバム的な選曲になるのが当たり前なアルバムだからである。
このサンボマスターのトリビュートアルバムも選曲はベストアルバムと言ってもいいような曲が揃っている。しかしそれを耳に馴染みまくって脳内に焼き付いてる曲ではなく、新たな曲として聴くことができるのは参加したアーティストたちのサンボマスターへの愛と、ただ原曲をそのままなぞるようなカバーにするのではなく、自分たちの曲として解釈するという姿勢あってこそのものだ。
トリビュートの話が持ち上がるはるか前からライブで対バンした時に披露されていた銀杏BOYZ「夜汽車でやってきたアイツ」、男女ツインボーカルという編成はこの曲をカバーするためかのようなハマりっぷりのヤバイTシャツ屋さん「光のロック」など、日本のロックの金字塔とも言える名曲たちに新たな命が吹き込まれているが、とりわけオープニングを飾るSUPER BEAVER「ロックンロール イズ ノットデッド」がまるで打ちのめされてきたバンドの歴史を歌ったオリジナル曲かのような説得力を持っており、これまでにあまり交わることがなかったように見えるサンボマスターとSUPER BEAVERが同じ人間への愛情と熱量を持っていることが伝わる。
ちなみに特典映像ディスクにはサンボマスターと参加アーティストたちが各地のライブハウスで対バンした際のドキュメントが収録されている。彼らが何を見て何を共有していたのか。それがわかる映像集。
8.Chedder Flavor / WANIMA
パンクシーンだけに留まらない支持を得ながらキャリアを重ねてきたパンクバンドは支持だけでなくサウンドもパンクに留まらないものを得ようとする。というかそうして進化しようとする。それは経験や技術を重ねたことでパンク以外のことができるようになるということでもあり、世代的には175Rがそうして幅広いサウンドを獲得していく姿を見てきた。
WANIMAも昨年リリースしたアルバム「COMINATCHA!」はまさにそうしたパンクバンドとしての広がりを求めて辿り着いたものであったが、今年緊急リリースした「Chedder Flavor」は潔いくらいにパンクに回帰している。
とはいえそれが後ろ向きなものなのかと言えば全くそうではない。パンクしかできないからパンクをやっていた初期とは違い、様々なサウンドを鳴らすことができる上でパンクを選んだ。そこには今パンクを鳴らす理由がある。それはもちろん今のコロナ禍に覆われた世の中がそうさせた部分もあるだろうけれど、WANIMAのファンはわかってはいても、世間のイメージとしてはまだ「能天気に明るいパンクバンド」というものが払拭されてはいない。そんなイメージに敢えて抗うというよりも、自分たちの心の内から出る声として、悔しさや辛さなどのネガティブな歌詞をパンクに乗せている。でもそれが前述の通りに後ろ向きなものには全く聴こえないのは、そうしたことも全てリスナーとともに乗り越えていかんとするバンドの精神力の強さゆえ。
なぜWANIMAがこんなにも飛び抜けた、氣志團の綾小路翔をして「誰がこのバンドに勝てるんだ」と言わしめた存在になれたのかという問いに今一度自分たちの原点であるパンクサウンドでもって答えるかのようなアルバム。9曲で30分に満たないスピード感も含めてやはりWANIMAはパンクでしかない。
7.STRAY SHEEP / 米津玄師
今年随一のメガヒットアルバムにして、毎月愛読している某雑誌では年間ベストアルバム1位に輝いた、米津玄師の名前を完全に世の中に浸透させたアルバム。
とはいえ自分は未だに「diorama」の衝撃、「YANKEE」と「Bremen」の楽曲の素晴らしさにどっぷりと浸ったままなので(その3作は全て年間ベスト1位にした)、その頃のサウンドからしたらかなり変化しているが、そもそも米津玄師は近年のライブでのMCにおいて
「変わり続けていくけれど、この船からは誰も落としたくない」
と自身の音楽性が変わり続けていくことについて口にしている。実際にここまで変わっても「感電」のような2020年を代表するような大名曲に加え、菅田将暉に提供した「まちがいさがし」、Foorinに提供した「パプリカ」をガラッとアレンジを変えることによって完全に「米津玄師の曲」にしてしまうのは流石という言葉では足りないくらいだ。
米津玄師はこのアルバムのリリース前、タイミング的にはシングル「馬と鹿」のリリース後にアリーナツアー「HYPE」を開催した。コロナの影響でそれは完遂することは出来なくなってしまったが、それは150人規模のライブハウスから始まって、今まで見てきた米津玄師のどのライブよりも素晴らしい、今の音楽性を手に入れた米津玄師でしかできないものだったことが2020年の数少ない収穫だった。
6.You need the Tank-Top / ヤバイTシャツ屋さん
「珪藻土マット」がニュースになっている。人体に有害な物質を含んでいるものがあると。そのニュースを見た時に真っ先に思い出したのがヤバTの「珪藻土マットが僕に教えてくれたこと」であり、ヤバTメンバーが使っている珪藻土マットは大丈夫だろうか?と思った。それくらいにヤバTの生み出した楽曲が日常に浸透しているということである。
アルバムを予約した人全員にサインをするというトピックスもあったが、結果的にこの「You need the Tank-Top」がオリコン1位を獲得するほどのヒットになったのはそれだけが理由ではない。その日常の視点(「原付」「ジャスコ」など)を名曲に落とし込むことができるこやまたくやの天性のスキルがあってこそである。
そんな中でこのアルバムの軸になっているのは、タンクトップ=パンクロックが世の中に必要であるということをヤバTなりのパンクサウンドで鳴らした「Give me the Tank-top」(MVも必見)と、こやまの親族が亡くなってしまったことをきっかけに作られたという感涙必至の「寿命で死ぬまで」。
初期のヤバTはただ面白いだけのバンドと誤解されることも多かった。しかしそれを自分たちの音楽とライブで覆してきた。その過程で生まれた悔しさが新たなバンドの力になってきた。図らずもコロナ禍ということを意識せざるを得ないような曲になったが、こんなにも曲を聴くだけで涙が溢れてくるパンクバンドがいるだろうか。「寿命で死ぬまで」の、歌唱力よりも声量とエネルギーを重視した(せざるを得なかった)3人の本気のボーカルには、紛れもなくこやまたくや、しばたありぼぼ、もりもりもとの3人の生身の感情が詰まっている。
「音楽の力はマジですごいから」
それを自分たちの音楽で証明できるバンドに、ヤバTはなったのだ。
5.hope / マカロニえんぴつ
先行シングルだけではなく、配信で次々に新曲をリリースできるようになった昨今、その曲たちをまとめたアルバムというものも多い。マカロニえんぴつの「hope」も曲タイトルだけを見るとそう思ったとしてもおかしくないようなアルバムである。
それこそ「Supernova」や「恋人ごっこ」のような先行配信曲から、「レモンパイ」「ブルーベリー・ナイツ」「ヤングアダルト」という昨年リリースのミニアルバムなどに収録されていた曲まで。その情報だけを見ると近年の活動をまとめたようなシングル集的な、ある意味では新曲の少ないアルバムのように映るが、そうした先行リリース曲たちがまるでこのアルバムのこの曲順に収まるために作り出されたかのようにハマっている。そしてそれらが全て2020年を代表するグッドミュージックとして融和している。これをもし狙ってやっていたのだとしたら本当に恐ろしいバンドである。
2年前に自分はこの企画の中でマカロニえんぴつを新人王に選出した。その時点ですでに新人とするには失礼なくらいにライブシーンを席巻しつつあったが、今やこのバンドはそこすらも飛び越えてお茶の間までも巻き込もうとしている。コロナがなければ今頃はアリーナすら…と思ってしまう代表格バンド。
4.ねえみんな大好きだよ / 銀杏BOYZ
6年半前にリリースされた「光の中に立っていてね」「BEACH」という2枚のアルバムは呪いにも似た自身の青春の終わりと、そこからの解放のアルバムだった。ずっと見てきた、ずっと続くと思っていたあの4人の銀杏BOYZとしての最後のアルバムであり、冒頭からのノイズにまみれたサウンドは2005年にリリースされた最初の2枚のアルバムとはバンドが全く違う地平に立っていることが明確だったからだ。
今作に至るまでの6年半の間に峯田和伸は信じられないくらいに存在が市民権を獲得した。NHKの朝ドラ、地上波のドラマでのまさかの石原さとみの相手役、ダウンタウンの番組への出演…銀杏BOYZの存在を知らない人も峯田和伸という人間の存在を知るくらいに峯田はテレビの中でおなじみの存在になった。
そんな峯田の存在が過去最高に認知された状態でリリースされた、この6年半ぶりのアルバム「ねえみんな大好きだよ」で初めて銀杏BOYZの音楽に触れるという人も多いはずだ。そのアルバムの冒頭はノイズも強いが、サウンドとしては完全にパンク。GOING STEADY「さくらの唄」を初めて聞いた時の「アホンダラー!」という峯田の叫びに脳天をバットでフルスイングされたような、今も忘れることができない感覚。それを思い出した。今作で初めて銀杏BOYZの音楽に初めて触れる人もきっとその感覚を体験できるはずだ。
でもそれは過去の焼き直しでも再生産でもない、今の銀杏BOYZだからこそ作れた曲でありアルバムだ。「ぽあだむ」の先を描くようなアレンジが施された「GOD SAVE THE わーるど」の弾き語りで披露されていた時とは全く違う歌詞はそれを最も強く感じさせてくれる。
だからこそ今でも銀杏BOYZの音楽にワクワクできる。それは「さくらの唄」に衝撃を受けた時の自分自身への何よりも強い肯定になる。お前は大丈夫だ、お前は間違ってない。そう声をかけてやりたくなる。だってバンドが変わって、メンバーもいなくなった今でも峯田和伸の作る音楽に生かされているのだから。こんなアルバムが聴けるんだからまだまだ、生きたくってさ。
3.NEW! / the telephones
再生して1曲目「Here We Go!」が流れ出した瞬間、ここから新しいthe telephonesが始まっていくんだなという確信に満たされる。活動休止前の「Bye Bye Hello」以来、実に5年ぶりのアルバムである。
どこからどう聴いても徹底的に過去最高にキャッチーなアルバムであることがすぐにわかるため、これはさぞや「the telephonesの新しい最高傑作を作ろう!」と意気込んで作られたアルバムなのかと思いきや、石毛輝は「今までで1番肩の力が抜けている」と言っていた。
確かに、活動休止前の方が力は入っていたかもしれない。the telephonesはあの時代を、あの世代を自分たちで引っ張っていこうといろんなものを背負っていたから。その重荷を下ろしたからこその解放感がこのキャッチーさにつながっている。
かといって復活したバンドのアルバムによくある「そのバンドらしいとこだけを集めた」という感じは一切しないのは、ロックバンドとしての新しいダンスミュージックを生み出した「New Phase」や、長島涼平が手掛けた「Sleep Walk」という新境地の曲が収録されているから。the telephonesは休止中も確実に進化していた。それは全員がずっと音楽シーンで戦い続けてきたからだ。
昨年はツアーやフェスでも多くライブをする姿を見ては「the telephonesが帰ってきた」という事実を実感してきた。でもこのCDを手に取った時、その時とは全く違う実感が湧いてきた。本当にthe telephonesが帰ってきたのだ。こんなにも、「こういうthe telephonesのアルバムが聴きたかった!」というアルバムを持って。
2.From DROPOUT / 秋山黄色
昨年、5曲しか入っていないミニアルバムながらもこの企画で「Hello my shoes」を3位に選出し、そこで「このクオリティでフルアルバムから年間ベスト、MVPクラス」と書いたくらいに秋山黄色の登場は衝撃的だった。存在が新しいというよりも、聴くと何度も何度もリピートしたくなるようなその楽曲のクオリティをもってして。
その秋山黄色のフルアルバムは予想よりもはるかに早くリリースされたが、その内容は昨年感じた自分の感覚が間違ってはいなかったということを証明してくれるようなものになった。
本人も口にしている通り、音楽性の幅は実に広くなった。「Caffeine」のようなバンドサウンドじゃなくても成立するような曲や、「夕暮れに映して」のようなアコギを基調とした曲、ついに音源化した「スライムライフ」のパンクさ…。雑食と言ってもいいかもしれないし、捉え所がないと言われてもいいかもしれない。それでもこうした幅広いサウンドのアルバムにありがちなとっ散らかった感じが全くしないのは、すべての曲が「秋山黄色だからこそのメロディと歌詞」という軸がどっしりと固められている上で作られているから。だからこれだけ幅広いサウンドにも関わらず、曲による好き嫌いみたいなものが全く出てこない。そんなとんでもないことをいたって自然体で、飄々と成し遂げているあたりにさらなるこの男の伸び代と、どれだけ色んなことをやっても絶対に変わらないんだろうなという安心感を感じる。
すでに2021年にも大型タイアップのリリースが決定している。急に背丈は大きくならないが、秋山黄色というアーティストは渋谷のO-Crestで見ていたのが幻だったんじゃないかと思うくらいに大きくなっていくはず。それがわかっているからこそ、今年目の前で音を鳴らしている姿が見れなかったのが、君がいないのなら何もいらないって思えるくらいに寂しい。
1.2020 / a flood of circle
19位に選出した、佐々木亮介と青木テツによるSATETSUのアルバムは明確に「対コロナ」を意識したアルバムであるということを書いた。タイトルだけ見たらそれ以上に対コロナを意識したように見える本隊のa flood of circleのアルバムであるが、亮介本人も口にしているように、このアルバムからはそうした今の世の中を覆うムードのようなものは漂って来ない。それはフラッドがいつだって「今」を歌いながらも普遍性を持つロックンロールバンドであるということだ。
自分は昨年の「CENTER OF THE EARTH」も1位に選出しているため、2年連続での戴冠であるが、その昨年のアルバムから定ったと思うものがある。佐々木亮介のソロやSATETSUやTHE KEBABSと、アウトプットが増えていくにつれて、フラッド本隊はよりストレートなロックンロールとブルースを鳴らすバンドになったということだ。だからフラッドでは世界の最先端の音楽を取り入れる必要がない。ただただこの4人の中から生まれてきたものをギターとベースとドラムだけで鳴らせばいい。それが最強のa flood of circleの音楽になる。今のフラッドはそれを意識せずともできるような境地に達している。
フラッドはこのコロナ禍であっても何度かライブを行った。そのライブを見るたびにフラッドも、フラッドのロックンロールを信じ続けてきた我々も「間違ってないぜ」と思ってきた。2020年にリリースされた数々の名作アルバムを改めて聴き直しても、このアルバムを1位に選んだのは「間違ってないぜ」って思える。誰が何と言おうとこれをロックンロールと呼ぼう。
惜しくも20位に入らなかったアルバムたち
Patric Vegee / UNISON SQUARE GARDEN
Between the Black and Gray / MONOEYES
健全な社会 / yonige
C3 / Base Ball Bear
Smile / Eve
CEREMONY / King Gnu
Real / flumpool
ストレンジピッチャー / ガガガSP
bedtime story / リーガルリリー
Applause / ストレイテナー
Soundtracks / Mr.Children
me me / TETORA
何者 / ポルカドットスティングレイ
POWERS / 羊文学
Live By The Sea / Gotch
Eleven plus two / Twelve plus one / Helsinki Lambda Club
Q.E.D / BLUE ENCOUNT
Walking On Fire / GLIM SPANKY
THE THIRD SUMMER OF LOVE / ラブリーサマーちゃん
HOPEFUL APPLE / postman
Pink Fog / ステレオガール
SUCK MY WORLD / THE ORAL CIGARETTES
シン・スチャダラ大作戦 / スチャダラパー
Passport & Garcon / Moment Joon
THE PARK / 赤い公園
2020年の20曲
Rollers Anthem / a flood of circle
Super Star / a flood of circle
スライムライフ / 秋山黄色
サーチライト / 秋山黄色
大人全滅 / 銀杏BOYZ
寿命で死ぬまで / ヤバイTシャツ屋さん
恋人ごっこ / マカロニえんぴつ
感電 / 米津玄師
冷めない夢 / キュウソネコカミ
触れたい 確かめたい / ASIAN KUNG-FU GENERATION
正偽 / フレデリック
新世界 / RADWIMPS
MILABO / ずっと真夜中でいいのに。
誰そ彼 / CRYAMY
Peppermint Candy / SATETSU
令和二年 / amazarashi
aranami / tacica
SMILE SMILE / 夜の本気ダンス
STEAL!! / SPARK!!SOUND!!SHOW!!
ミツビシ・マキアート / Helsinki Lambda Club
表彰2020
MVP:a flood of circle
最優秀公演賞:a flood of circle @渋谷CLUB QUATTRO 1/19
新人王:東京初期衝動
1位〜10位はどれも年間ベストクラスのアルバムであり、作品だけで見れば豊作と言えるが、2020年は音楽ファンというか、音楽の力を信じている者としては本当に悔しい1年だった。
それは当然ながらコロナ禍において音楽が、ライブハウスが「不要不急」の最たるものとして扱われてしまっていたからである。
年間130本くらいライブを観に行くような人生になってからというもの「ライブが見れるのは当たり前じゃない」ということを常に意識してライブに行っていた。もう観たくても観れなくなってしまったバンドをたくさん観てきたからだ。
でもそれを今年以上に痛感せざるを得ない年はなかった。本当だったらたくさんの人に見送られて終わりを迎えるはずのバンドが、目の前に人がいないような状況でひっそりとシーンを去っていかなければならない悔しさ。居なくなってしまった、会えなくなってしまった人がいることの悔しさ。
音楽はなくても死なないかもしれない。でもライブがなくなってしまった期間があったことによって、自分がいかにライブがあることを頼りに、生きがいにして日々を乗り越えてきたのかということに気付かされてしまった1年でもあった。ここに名前を挙げたアーティストや、挙げずとも普段から聴いているアーティスト。その人たちの存在によって自分は生かされてきた。自分にとっては音楽は不要なものではないし、その人たちに日々救われて今日も生きていられる。そしてこれからもそうであって欲しい。
そんな1年であっても何回もライブを観ることができて、素晴らしいアルバムを作り上げたa flood of circleが2年連続MVP。自分の中ではもはやケガをしない柳田悠岐、あるいは日本で無双しまくっていた時の田中将大やダルビッシュ有のようなバンド。そしてそれを毎年のように感じさせてくれる。そんなフラッドは僕のスーパースター。
まずは2020年のベストディスクTOP20を簡単なレビューも含めて20位から。
20.THE BAND STAR / ハルカミライ
そもそも昨年の1月にフルアルバム「永遠の花」をリリースし、この「THE BAND STAR」をリリースした3月までの間にも数え切れないくらいの本数のライブをやりまくってきているだけに、いったいいつ作っていたんだろうかというハルカミライ。
昨年12月には幕張メッセでもワンマンを行い、もはや日本のパンクシーンの新たな救世主的な存在になっているバンドであるが、コロナ禍の中でも開催されているリリースツアーはそもそもが今のハルカミライの状況からしたらキャパが小さいライブハウスばかりであるのに、さらにその収容人数を減らしているために全くチケットが当たらず、このアルバムリリース以降にライブを観れていない。
だから、果たして去年までのあの最強のライブモンスターであったハルカミライのセトリの中にこのアルバムの曲が入ってくるようなイメージが湧いていない。きっとライブを観ればその思いは消えるだろうし、もっとアルバムの順位も上がる。そういう意味ではコロナの影響をバンドと自分が受けたことによって本領を知ることができなかったアルバム。
19.Make Money / SATETSU
コロナ禍によってライブが出来なくなったり、思い描いていたライブが出来なくなってしまったアーティストがたくさんいる一方で、そんな状況だからこそ生まれたアルバムもある。
a flood of circleの佐々木亮介と青木テツによるユニットSATETSUの1stフルアルバムは、リモートによって制作されたというコロナ禍だからこその事情もありながらも、リード曲となった「Peppermint Candy」のMVからは紛れもなく「対コロナ」への明確なメッセージを感じることができる。それは佐々木亮介をはじめとしたフラッドのメンバーや関係者一同が、このアルバムを作りながらも、この状況を全く良しとはしていないということだ。
フラッド本体に先駆けて8月からライブを行っていたということも、この2人だからこそのユニットの機動力や自由さを感じさせてくれたが、年末には早くも配信にてアルバム「SUPER CHILL」をリリース。これはもうただのフラッドの別働隊としての活動ではない。亮介とテツのユニットだからこその、この2人でしかできない表現である。
18.THE KEBABS / THE KEBABS
19位のSATETSUに続き、佐々木亮介がボーカルを務めるバンド、THE KEBABSのファーストアルバムである。
そうなるとただ単に佐々木亮介のファンだからという視点が入りがちであるが、そもそもアルバムのリリースが待ちわびられていたTHE KEBABSであるし、UNISON SQUARE GARDENを独自の視点と手法によって動かしてきた男である田淵智也が生半可なアルバムをリリースするわけはないのである。
とはいえユニゾンほど歌詞の裏側を読みたくなることもなければ、フラッドほど「ロックンロールとは」ということに向き合うこともない、ただメンバー4人が楽しみながらロックンロールを鳴らしている、それだけのアルバム。だがその4人のバンドであるということが、新井弘毅と鈴木浩之が今なおまだバンドマンであるということを実感させてくれる、絶対に猿ではできないようなアルバム。
17.Just A Boy / LONGMAN
愛媛県のスリーピースパンクバンド、LONGMANのメジャーデビューアルバム。パンクバンドのメジャーデビューは割とインディーズで早い段階から話題になってそのままメジャーへ、というパターンも多いが、このバンドはすでに活動開始から8年も経過しているし、インディーズ期に話題になってからも数年が経過している。
そうして年数が経過したのは、ベース&ボーカルのさわの喉の不調によって1年間ライブができなかったということもあっただろうけれども、このアルバムにはそうした苦い経験のようなものが全く感じられない。このバンドの最大の持ち味であるメロディーの良さが、思いっきり音楽ができるようになったことでこれまでをさらに上回る輝きを放っている。だから聴いていると演奏しているメンバーも、観客も飛び切りの笑顔を浮かべているライブの光景を想像することができる。
メジャーになってもバンドのスタイルは全く変わっていない。だからこそこれからもこのバンドの持つメロディーの輝きは色あせることがないだろうなと思える、これがベストアルバムですと言ってもいいぐらいの、メジャーデビューアルバムにしてバンドの代表作になっていくであろう。
16.おいしいパスタがあると聞いて / あいみょん
爆発的なブレイクを果たしてお茶の間にまで進出したアーティストのメジャー3枚目のアルバムとなると、どうしてもマンネリというか、どんどん守りに入ったものになっていきやすい。
それに当てはまる存在でしかないあいみょんのメジャー3rdアルバム「おいしいパスタがあると聞いて」はタイアップ曲を多数収録していながらも、そのアルバムタイトルと
「愛は全てを解決しない
金があれば何でもできるかもしれない
余裕のある生き方がしたいしたいしたい
でも鐘のなる方へは行かないぞ」
という「黄昏にバカ話をしたあの日を思い出す時を」のフレーズは、これからもあいみょんが耳障りの良いJ-POPラブソングだけを量産するシンガーにはならないことを宣言しているし、このアルバムの収録曲の振れ幅の大きさは見事にそれを実践している。これからもあいみょんへの信頼が揺らがないことに安心感すら抱かせてくれるアルバム。
15.ハリネズミズム / キュウソネコカミ
リリース前、2019年からライブで「Welcome to 西宮」と「冷めない夢」をすでに演奏しており、その段階で「この曲たちが収録されるアルバムは素晴らしいものになるんじゃないだろうか」という予感を抱かせていたが、初期曲の再録もありながら、ミニアルバムであってもその期待を全く裏切らなかった、キュウソネコカミ。
「華麗なる飯」「戯我浪費」というキュウソならではの視点による、思わず笑ってしまうような曲もありながらも、やはり突出しているのは「冷めない夢」の名曲っぷり。COUNTDOWN JAPAN 19/20のメインステージでの年越し時にも感動的な瞬間を生み出した曲であるが、この曲の存在がキュウソがどんなバンドなのかという真価を物語っている。それがあるから、これからこのバンドはもっと凄い曲を生み出して、もっと凄いバンドになると確信できる。バンドやファンの未来に繋がるミニアルバム。
14.millions of oblivion / THE PINBALLS
このベストディスクの記事を書くタイミングの直前、12月16日にリリースされた、2020年のラスボス的なアルバム。
THE PINBALLSは「とりあえず衝動と激しさ」の音楽というイメージを持たれがちなロックンロールというジャンルのバンドの中にあって、「蝙蝠と聖レオンハルト」などのタイトルに代表されるように、まるで小説のような歌詞でロックンロールを鳴らすという唯一無二のバンドである。
今回の「millions of oblivion」もCDに封入されている歌詞カードの、普通に聴く分にはあまりにも読みにくくなっている構成だけでただ単に曲を集めたというアルバムでないことがわかるのだが、そうした聴けば聴くほどに1曲1曲への理解度が深まっていき、それによってアルバム全体の理解度がさらに深まっていくという仕掛けが施されたアルバム。
今年はアコースティックアレンジアルバム「Dress Up」もリリースしており、その元々持っているメロディの良さを改めて知らしめたが、話題のアニメなどの大型タイアップも増えていながら、いつかこのバンドの曲がアニメや映画になる日も来るんじゃないかとすら思える。
13.BURST POP ISLAND / Wienners
先日、SUPER BEAVERがインディーズからメジャーに復帰するというニュースが話題になった。SUPER BEAVERのように長い年月を経たわけではないし、かつてと同じレーベルというわけでもないが、もう1組インディーズからメジャーに復帰したバンドがいる。それがWiennersである。
基本的に音楽性自体はこれまでと変わらない。それはそうである。メンバーが変わった時ですら大胆に音楽性を変えることはなく、ポップでファストでダンサブルなパンクという軸はぶれることなく続いてきたバンドなのだから。しかしながらメジャー復帰作というのは精神的に期するものというか、でんぱ組.incの代表曲を作ってきた人のバンドというイメージでは絶対に終わらないという意気込みも潜在的にあったのであろう。ポップでファストでダンサブルなパンクというすべての要素が過去最高レベルにどの曲においてもメーターを振り切っている。
そんな最新作が最高傑作というバンドとしての理想を当たり前のように体現しているこのアルバムにおいてただ一つの弱点は、このいつまたライブハウスでライブができるのかわからない今の状況において、どうしたってライブハウスでこの曲たちを聞きたくなってしまうということである。
12.朗らかな皮膚とて不服 / ずっと真夜中でいいのに。
昨年フルアルバム「潜潜話」をリリースしているが、その先行作としてリリースされた「正しい偽りからの起床」「今は今で誓いは笑みで」という2枚のミニアルバムで感じた期待度からすると、年間ベストクラスのアルバムになるんじゃないか?という予想からはやや物足りなく感じてしまうものだった。
それはミニアルバムに収録されていた曲のクオリティがあまりにも高すぎるからでもあるのだが、この今年リリースのミニアルバム「朗らかな皮膚とて不服」もミニアルバムだからこそ1枚トータルでのバランスを考えることなくひたすらに強い曲を入れることができるという意味でこれでもかというくらいに全曲がずとまよでしかないくらいに音の情報量が詰め込まれまくったキラーチューンの応酬っぷり。
そうなると2月にリリースされることが発表されている2ndフルアルバム「ぐされ」への期待が高まるところであるが、すでにそこに収録される「暗く黒く」「勘ぐれい」「正しくなれない」という曲が次々に発表されているだけに、1stアルバムで感じた物足りなさを今回は上回ってくるのだろうか?
11.ボイコット / amazarashi
例えばリリースされたばかりの「令和二年」を始め、amazarashiは常に「今のこと」を歌いながらも、ライブでは数年前の曲を、朗読などの演出や前後の曲と組み合わせて響かせることによって「今を描いた曲」として普遍性を与えてきたアーティストである。
この「ボイコット」は3月リリースであり、制作されたのは昨年からだと思われるので、コロナの影響はほとんどというか、全く受けてはいないだろう。だが「帰ってこいよ」「さよならごっこ」という、もう会えないかもしれない別れを描いた曲から、「マスクチルドレン」(マスクの意味合いはコロナとは違うが)「リビングデッド」「死んでるみたいに眠ってる」という、こうした世界になることを予期していたかのような曲まで、amazarashiは今を歌いながらも、その今はその瞬間だけでなく、いついかなる時の今を描いていたということがわかる。
しかしそんな暗さや絶望だけではない。「未来になれなかったあの夜に」「そういう人になりたいぜ」というラスト2曲から感じられるのは、生き延びている我々だからこそ持つことができる希望の光だ。音楽で社会や世の中と戦うことを諦めることができない我々のための叙事詩。
10.盗作 / ヨルシカ
ヨルシカが昨年リリースされた、対になっている2枚のアルバム「だから僕は音楽を辞めた」「エルマ」を2019年の年間ベストアルバムの2位に選出した。
あれだけの大作をリリースしたのだから、次の作品が出るのは当分先になるだろうと思っていたのも束の間、早くも今年にまたもヨルシカはフルアルバムをリリースした。
しかもそのフルアルバムがただ単に出来た曲をまとめたのではなく、前作のようにアルバム1枚を通して1つのストーリーを描くものになっており、首謀者のn-bunaがアルバムのために書き下ろした小説(CD初回盤に同梱。このアルバムを好きな人は絶対読むべき)の存在からも、ヨルシカにとってはそうした、普通に曲を作るよりもはるかに手間や時間や頭を使うと思わざるを得ない作り方がスタンダードなものなのだろう。
サウンドも前作のギターロック的なものからさらに広がりを見せているが、それ以上に驚くのはsuisのボーカルとしての表現力の凄まじい進化っぷり。「昼鳶」での男性視点のボーカルは初めて聴いた時はゲストボーカルが歌っているのかと思ったほど。
その進化についてsuisは前作「エルマ」リリース時のインタビューで
「n-bunaさんの物語を読んで、エルマの気持ちをしっかり理解してから歌うことによって、レコーディングしている時に自分がエルマになったように歌えた」
と語っていた。「盗作」の物語は去年の物語とは全く違う独立したものだが、n-bunaとsuisの2人によるヨルシカという物語は確かにこれまでに作ってきたものと地続きになっている。
9.サンボマスター究極トリビュート ラブ フロム ナカマ / V.A.
2016年の銀杏BOYZの「きれいなひとりぼっちたち」もそうだったが、トリビュートアルバムをこうしたランキングに入れるのはやや反則かもしれない。それはある意味ではベストアルバム的な選曲になるのが当たり前なアルバムだからである。
このサンボマスターのトリビュートアルバムも選曲はベストアルバムと言ってもいいような曲が揃っている。しかしそれを耳に馴染みまくって脳内に焼き付いてる曲ではなく、新たな曲として聴くことができるのは参加したアーティストたちのサンボマスターへの愛と、ただ原曲をそのままなぞるようなカバーにするのではなく、自分たちの曲として解釈するという姿勢あってこそのものだ。
トリビュートの話が持ち上がるはるか前からライブで対バンした時に披露されていた銀杏BOYZ「夜汽車でやってきたアイツ」、男女ツインボーカルという編成はこの曲をカバーするためかのようなハマりっぷりのヤバイTシャツ屋さん「光のロック」など、日本のロックの金字塔とも言える名曲たちに新たな命が吹き込まれているが、とりわけオープニングを飾るSUPER BEAVER「ロックンロール イズ ノットデッド」がまるで打ちのめされてきたバンドの歴史を歌ったオリジナル曲かのような説得力を持っており、これまでにあまり交わることがなかったように見えるサンボマスターとSUPER BEAVERが同じ人間への愛情と熱量を持っていることが伝わる。
ちなみに特典映像ディスクにはサンボマスターと参加アーティストたちが各地のライブハウスで対バンした際のドキュメントが収録されている。彼らが何を見て何を共有していたのか。それがわかる映像集。
8.Chedder Flavor / WANIMA
パンクシーンだけに留まらない支持を得ながらキャリアを重ねてきたパンクバンドは支持だけでなくサウンドもパンクに留まらないものを得ようとする。というかそうして進化しようとする。それは経験や技術を重ねたことでパンク以外のことができるようになるということでもあり、世代的には175Rがそうして幅広いサウンドを獲得していく姿を見てきた。
WANIMAも昨年リリースしたアルバム「COMINATCHA!」はまさにそうしたパンクバンドとしての広がりを求めて辿り着いたものであったが、今年緊急リリースした「Chedder Flavor」は潔いくらいにパンクに回帰している。
とはいえそれが後ろ向きなものなのかと言えば全くそうではない。パンクしかできないからパンクをやっていた初期とは違い、様々なサウンドを鳴らすことができる上でパンクを選んだ。そこには今パンクを鳴らす理由がある。それはもちろん今のコロナ禍に覆われた世の中がそうさせた部分もあるだろうけれど、WANIMAのファンはわかってはいても、世間のイメージとしてはまだ「能天気に明るいパンクバンド」というものが払拭されてはいない。そんなイメージに敢えて抗うというよりも、自分たちの心の内から出る声として、悔しさや辛さなどのネガティブな歌詞をパンクに乗せている。でもそれが前述の通りに後ろ向きなものには全く聴こえないのは、そうしたことも全てリスナーとともに乗り越えていかんとするバンドの精神力の強さゆえ。
なぜWANIMAがこんなにも飛び抜けた、氣志團の綾小路翔をして「誰がこのバンドに勝てるんだ」と言わしめた存在になれたのかという問いに今一度自分たちの原点であるパンクサウンドでもって答えるかのようなアルバム。9曲で30分に満たないスピード感も含めてやはりWANIMAはパンクでしかない。
7.STRAY SHEEP / 米津玄師
今年随一のメガヒットアルバムにして、毎月愛読している某雑誌では年間ベストアルバム1位に輝いた、米津玄師の名前を完全に世の中に浸透させたアルバム。
とはいえ自分は未だに「diorama」の衝撃、「YANKEE」と「Bremen」の楽曲の素晴らしさにどっぷりと浸ったままなので(その3作は全て年間ベスト1位にした)、その頃のサウンドからしたらかなり変化しているが、そもそも米津玄師は近年のライブでのMCにおいて
「変わり続けていくけれど、この船からは誰も落としたくない」
と自身の音楽性が変わり続けていくことについて口にしている。実際にここまで変わっても「感電」のような2020年を代表するような大名曲に加え、菅田将暉に提供した「まちがいさがし」、Foorinに提供した「パプリカ」をガラッとアレンジを変えることによって完全に「米津玄師の曲」にしてしまうのは流石という言葉では足りないくらいだ。
米津玄師はこのアルバムのリリース前、タイミング的にはシングル「馬と鹿」のリリース後にアリーナツアー「HYPE」を開催した。コロナの影響でそれは完遂することは出来なくなってしまったが、それは150人規模のライブハウスから始まって、今まで見てきた米津玄師のどのライブよりも素晴らしい、今の音楽性を手に入れた米津玄師でしかできないものだったことが2020年の数少ない収穫だった。
6.You need the Tank-Top / ヤバイTシャツ屋さん
「珪藻土マット」がニュースになっている。人体に有害な物質を含んでいるものがあると。そのニュースを見た時に真っ先に思い出したのがヤバTの「珪藻土マットが僕に教えてくれたこと」であり、ヤバTメンバーが使っている珪藻土マットは大丈夫だろうか?と思った。それくらいにヤバTの生み出した楽曲が日常に浸透しているということである。
アルバムを予約した人全員にサインをするというトピックスもあったが、結果的にこの「You need the Tank-Top」がオリコン1位を獲得するほどのヒットになったのはそれだけが理由ではない。その日常の視点(「原付」「ジャスコ」など)を名曲に落とし込むことができるこやまたくやの天性のスキルがあってこそである。
そんな中でこのアルバムの軸になっているのは、タンクトップ=パンクロックが世の中に必要であるということをヤバTなりのパンクサウンドで鳴らした「Give me the Tank-top」(MVも必見)と、こやまの親族が亡くなってしまったことをきっかけに作られたという感涙必至の「寿命で死ぬまで」。
初期のヤバTはただ面白いだけのバンドと誤解されることも多かった。しかしそれを自分たちの音楽とライブで覆してきた。その過程で生まれた悔しさが新たなバンドの力になってきた。図らずもコロナ禍ということを意識せざるを得ないような曲になったが、こんなにも曲を聴くだけで涙が溢れてくるパンクバンドがいるだろうか。「寿命で死ぬまで」の、歌唱力よりも声量とエネルギーを重視した(せざるを得なかった)3人の本気のボーカルには、紛れもなくこやまたくや、しばたありぼぼ、もりもりもとの3人の生身の感情が詰まっている。
「音楽の力はマジですごいから」
それを自分たちの音楽で証明できるバンドに、ヤバTはなったのだ。
5.hope / マカロニえんぴつ
先行シングルだけではなく、配信で次々に新曲をリリースできるようになった昨今、その曲たちをまとめたアルバムというものも多い。マカロニえんぴつの「hope」も曲タイトルだけを見るとそう思ったとしてもおかしくないようなアルバムである。
それこそ「Supernova」や「恋人ごっこ」のような先行配信曲から、「レモンパイ」「ブルーベリー・ナイツ」「ヤングアダルト」という昨年リリースのミニアルバムなどに収録されていた曲まで。その情報だけを見ると近年の活動をまとめたようなシングル集的な、ある意味では新曲の少ないアルバムのように映るが、そうした先行リリース曲たちがまるでこのアルバムのこの曲順に収まるために作り出されたかのようにハマっている。そしてそれらが全て2020年を代表するグッドミュージックとして融和している。これをもし狙ってやっていたのだとしたら本当に恐ろしいバンドである。
2年前に自分はこの企画の中でマカロニえんぴつを新人王に選出した。その時点ですでに新人とするには失礼なくらいにライブシーンを席巻しつつあったが、今やこのバンドはそこすらも飛び越えてお茶の間までも巻き込もうとしている。コロナがなければ今頃はアリーナすら…と思ってしまう代表格バンド。
4.ねえみんな大好きだよ / 銀杏BOYZ
6年半前にリリースされた「光の中に立っていてね」「BEACH」という2枚のアルバムは呪いにも似た自身の青春の終わりと、そこからの解放のアルバムだった。ずっと見てきた、ずっと続くと思っていたあの4人の銀杏BOYZとしての最後のアルバムであり、冒頭からのノイズにまみれたサウンドは2005年にリリースされた最初の2枚のアルバムとはバンドが全く違う地平に立っていることが明確だったからだ。
今作に至るまでの6年半の間に峯田和伸は信じられないくらいに存在が市民権を獲得した。NHKの朝ドラ、地上波のドラマでのまさかの石原さとみの相手役、ダウンタウンの番組への出演…銀杏BOYZの存在を知らない人も峯田和伸という人間の存在を知るくらいに峯田はテレビの中でおなじみの存在になった。
そんな峯田の存在が過去最高に認知された状態でリリースされた、この6年半ぶりのアルバム「ねえみんな大好きだよ」で初めて銀杏BOYZの音楽に触れるという人も多いはずだ。そのアルバムの冒頭はノイズも強いが、サウンドとしては完全にパンク。GOING STEADY「さくらの唄」を初めて聞いた時の「アホンダラー!」という峯田の叫びに脳天をバットでフルスイングされたような、今も忘れることができない感覚。それを思い出した。今作で初めて銀杏BOYZの音楽に初めて触れる人もきっとその感覚を体験できるはずだ。
でもそれは過去の焼き直しでも再生産でもない、今の銀杏BOYZだからこそ作れた曲でありアルバムだ。「ぽあだむ」の先を描くようなアレンジが施された「GOD SAVE THE わーるど」の弾き語りで披露されていた時とは全く違う歌詞はそれを最も強く感じさせてくれる。
だからこそ今でも銀杏BOYZの音楽にワクワクできる。それは「さくらの唄」に衝撃を受けた時の自分自身への何よりも強い肯定になる。お前は大丈夫だ、お前は間違ってない。そう声をかけてやりたくなる。だってバンドが変わって、メンバーもいなくなった今でも峯田和伸の作る音楽に生かされているのだから。こんなアルバムが聴けるんだからまだまだ、生きたくってさ。
3.NEW! / the telephones
再生して1曲目「Here We Go!」が流れ出した瞬間、ここから新しいthe telephonesが始まっていくんだなという確信に満たされる。活動休止前の「Bye Bye Hello」以来、実に5年ぶりのアルバムである。
どこからどう聴いても徹底的に過去最高にキャッチーなアルバムであることがすぐにわかるため、これはさぞや「the telephonesの新しい最高傑作を作ろう!」と意気込んで作られたアルバムなのかと思いきや、石毛輝は「今までで1番肩の力が抜けている」と言っていた。
確かに、活動休止前の方が力は入っていたかもしれない。the telephonesはあの時代を、あの世代を自分たちで引っ張っていこうといろんなものを背負っていたから。その重荷を下ろしたからこその解放感がこのキャッチーさにつながっている。
かといって復活したバンドのアルバムによくある「そのバンドらしいとこだけを集めた」という感じは一切しないのは、ロックバンドとしての新しいダンスミュージックを生み出した「New Phase」や、長島涼平が手掛けた「Sleep Walk」という新境地の曲が収録されているから。the telephonesは休止中も確実に進化していた。それは全員がずっと音楽シーンで戦い続けてきたからだ。
昨年はツアーやフェスでも多くライブをする姿を見ては「the telephonesが帰ってきた」という事実を実感してきた。でもこのCDを手に取った時、その時とは全く違う実感が湧いてきた。本当にthe telephonesが帰ってきたのだ。こんなにも、「こういうthe telephonesのアルバムが聴きたかった!」というアルバムを持って。
2.From DROPOUT / 秋山黄色
昨年、5曲しか入っていないミニアルバムながらもこの企画で「Hello my shoes」を3位に選出し、そこで「このクオリティでフルアルバムから年間ベスト、MVPクラス」と書いたくらいに秋山黄色の登場は衝撃的だった。存在が新しいというよりも、聴くと何度も何度もリピートしたくなるようなその楽曲のクオリティをもってして。
その秋山黄色のフルアルバムは予想よりもはるかに早くリリースされたが、その内容は昨年感じた自分の感覚が間違ってはいなかったということを証明してくれるようなものになった。
本人も口にしている通り、音楽性の幅は実に広くなった。「Caffeine」のようなバンドサウンドじゃなくても成立するような曲や、「夕暮れに映して」のようなアコギを基調とした曲、ついに音源化した「スライムライフ」のパンクさ…。雑食と言ってもいいかもしれないし、捉え所がないと言われてもいいかもしれない。それでもこうした幅広いサウンドのアルバムにありがちなとっ散らかった感じが全くしないのは、すべての曲が「秋山黄色だからこそのメロディと歌詞」という軸がどっしりと固められている上で作られているから。だからこれだけ幅広いサウンドにも関わらず、曲による好き嫌いみたいなものが全く出てこない。そんなとんでもないことをいたって自然体で、飄々と成し遂げているあたりにさらなるこの男の伸び代と、どれだけ色んなことをやっても絶対に変わらないんだろうなという安心感を感じる。
すでに2021年にも大型タイアップのリリースが決定している。急に背丈は大きくならないが、秋山黄色というアーティストは渋谷のO-Crestで見ていたのが幻だったんじゃないかと思うくらいに大きくなっていくはず。それがわかっているからこそ、今年目の前で音を鳴らしている姿が見れなかったのが、君がいないのなら何もいらないって思えるくらいに寂しい。
1.2020 / a flood of circle
19位に選出した、佐々木亮介と青木テツによるSATETSUのアルバムは明確に「対コロナ」を意識したアルバムであるということを書いた。タイトルだけ見たらそれ以上に対コロナを意識したように見える本隊のa flood of circleのアルバムであるが、亮介本人も口にしているように、このアルバムからはそうした今の世の中を覆うムードのようなものは漂って来ない。それはフラッドがいつだって「今」を歌いながらも普遍性を持つロックンロールバンドであるということだ。
自分は昨年の「CENTER OF THE EARTH」も1位に選出しているため、2年連続での戴冠であるが、その昨年のアルバムから定ったと思うものがある。佐々木亮介のソロやSATETSUやTHE KEBABSと、アウトプットが増えていくにつれて、フラッド本隊はよりストレートなロックンロールとブルースを鳴らすバンドになったということだ。だからフラッドでは世界の最先端の音楽を取り入れる必要がない。ただただこの4人の中から生まれてきたものをギターとベースとドラムだけで鳴らせばいい。それが最強のa flood of circleの音楽になる。今のフラッドはそれを意識せずともできるような境地に達している。
フラッドはこのコロナ禍であっても何度かライブを行った。そのライブを見るたびにフラッドも、フラッドのロックンロールを信じ続けてきた我々も「間違ってないぜ」と思ってきた。2020年にリリースされた数々の名作アルバムを改めて聴き直しても、このアルバムを1位に選んだのは「間違ってないぜ」って思える。誰が何と言おうとこれをロックンロールと呼ぼう。
惜しくも20位に入らなかったアルバムたち
Patric Vegee / UNISON SQUARE GARDEN
Between the Black and Gray / MONOEYES
健全な社会 / yonige
C3 / Base Ball Bear
Smile / Eve
CEREMONY / King Gnu
Real / flumpool
ストレンジピッチャー / ガガガSP
bedtime story / リーガルリリー
Applause / ストレイテナー
Soundtracks / Mr.Children
me me / TETORA
何者 / ポルカドットスティングレイ
POWERS / 羊文学
Live By The Sea / Gotch
Eleven plus two / Twelve plus one / Helsinki Lambda Club
Q.E.D / BLUE ENCOUNT
Walking On Fire / GLIM SPANKY
THE THIRD SUMMER OF LOVE / ラブリーサマーちゃん
HOPEFUL APPLE / postman
Pink Fog / ステレオガール
SUCK MY WORLD / THE ORAL CIGARETTES
シン・スチャダラ大作戦 / スチャダラパー
Passport & Garcon / Moment Joon
THE PARK / 赤い公園
2020年の20曲
Rollers Anthem / a flood of circle
Super Star / a flood of circle
スライムライフ / 秋山黄色
サーチライト / 秋山黄色
大人全滅 / 銀杏BOYZ
寿命で死ぬまで / ヤバイTシャツ屋さん
恋人ごっこ / マカロニえんぴつ
感電 / 米津玄師
冷めない夢 / キュウソネコカミ
触れたい 確かめたい / ASIAN KUNG-FU GENERATION
正偽 / フレデリック
新世界 / RADWIMPS
MILABO / ずっと真夜中でいいのに。
誰そ彼 / CRYAMY
Peppermint Candy / SATETSU
令和二年 / amazarashi
aranami / tacica
SMILE SMILE / 夜の本気ダンス
STEAL!! / SPARK!!SOUND!!SHOW!!
ミツビシ・マキアート / Helsinki Lambda Club
表彰2020
MVP:a flood of circle
最優秀公演賞:a flood of circle @渋谷CLUB QUATTRO 1/19
新人王:東京初期衝動
1位〜10位はどれも年間ベストクラスのアルバムであり、作品だけで見れば豊作と言えるが、2020年は音楽ファンというか、音楽の力を信じている者としては本当に悔しい1年だった。
それは当然ながらコロナ禍において音楽が、ライブハウスが「不要不急」の最たるものとして扱われてしまっていたからである。
年間130本くらいライブを観に行くような人生になってからというもの「ライブが見れるのは当たり前じゃない」ということを常に意識してライブに行っていた。もう観たくても観れなくなってしまったバンドをたくさん観てきたからだ。
でもそれを今年以上に痛感せざるを得ない年はなかった。本当だったらたくさんの人に見送られて終わりを迎えるはずのバンドが、目の前に人がいないような状況でひっそりとシーンを去っていかなければならない悔しさ。居なくなってしまった、会えなくなってしまった人がいることの悔しさ。
音楽はなくても死なないかもしれない。でもライブがなくなってしまった期間があったことによって、自分がいかにライブがあることを頼りに、生きがいにして日々を乗り越えてきたのかということに気付かされてしまった1年でもあった。ここに名前を挙げたアーティストや、挙げずとも普段から聴いているアーティスト。その人たちの存在によって自分は生かされてきた。自分にとっては音楽は不要なものではないし、その人たちに日々救われて今日も生きていられる。そしてこれからもそうであって欲しい。
そんな1年であっても何回もライブを観ることができて、素晴らしいアルバムを作り上げたa flood of circleが2年連続MVP。自分の中ではもはやケガをしない柳田悠岐、あるいは日本で無双しまくっていた時の田中将大やダルビッシュ有のようなバンド。そしてそれを毎年のように感じさせてくれる。そんなフラッドは僕のスーパースター。
a flood of circle 15周年記念 「FIFTHTEEN」 @下北沢SHELTER 1/9 ホーム
a flood of circle HISAYO加入10周年"LOVE IS LIKE A Beer!Beer!Beer!" @新宿LOFT 12/25