中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2020 DAY2 9/27
- 2020/09/27
- 23:14
前日に続いての中津川SOLAR BUDOKANのオンラインフェスの2日目。
15時になって中津川の会場が映し出され、主催者の佐藤タイジによる挨拶が始まると、うらやましいくらいの晴天っぷり。前日の夜には雨も降っていたが、やはり太陽のフェスである。
15:00〜 武藤昭平 with ウエノコウジ
佐藤がこの日のトップバッターである、武藤昭平 with ウエノコウジの名前を呼んでもステージに2人はおらず、ドローンカメラが会場内にある室内スペースに寄っていくと、その中から黒スーツを着た2人が出てきてステージに向かうというまるで映画のようなオープニング。
ステージに2人が到着すると、まずはウエノコウジがビールサーバーからビールを注ぐ。前日のトークショーでも酒を飲みながら爆笑トークを届けてくれたが、この日もやはり飲みまくるのは間違いない。
「見てくださいよ、この天気。昨日の怒髪天はなんだったんだっていう。気の毒でしょうがない(笑)
中野サンプラザの収録ライブに出れない2軍の我々なのに、こうしてビールサーバーまで用意してくれて、ドローンまで飛ばしてくれるオープニングという(笑)」
と全然演奏が始まらず、早くも一杯飲み干して2杯目を注ぎ、
「さすがに怒られそうだからそろそろ1曲やっておきますか」
と言ってこのユニットの酒飲みテーマである「レッツ・ブーズ・イット」からスタート。曲中には武藤昭平による飲酒コールも挟まれる。
武藤昭平は癌に侵されていた時期があり、その期間は百々和宏が代わりにボーカル&ギターを務めたりしていたのだが、武藤昭平が闘病から復活したのがこのフェスのステージであり、前日のトークショーでもその瞬間を忘れられない場面として挙げていた。
しかしそんな癌から復帰した身であるためにまだ酒を飲むことができず、武藤が酒を飲むことを促すフレーズではウエノコウジがいちいち
「いや、武藤さんは飲んじゃダメでしょ」
とツッコミを入れまくるのが自由すぎるこのユニットらしさが出ている。
とはいえやはりベテランにして手練れの2人。アコギとアコベだけでリズミカルに、かつダンサブルにアルコールを勧めてくれる「エグジット」ではそんな2人の演奏力を見せてくれる。
ウエノコウジは前日の夜にやはり飲み過ぎてしまい、アイスのピノを買ったのを放置して全部溶けてしまったというやってしまったエピソードを開陳。
ピノはまだマシで、泥酔してカップヌードルにお湯を入れたら3分待たずに寝てしまうという超一流の酒飲みトークを聞かせてくれる。そんな中でもビールを注いでは飲むというあたりは抜かりない。
そんなウエノコウジも
「照明さんも言っていたよ。太陽には勝てないって」
とこの晴れた会場の最高さを存分に味わいながらカズーを吹くのは牧歌的な曲の雰囲気がこの会場の雰囲気に実によく似合う「ウェイブ」。演奏している姿だけではなくドローンカメラで会場全体を映してくれるカット割りがより一層そう思わせてくれる。
ウエノコウジが改めてこの中津川の街を「気のいい街」と評し、ここに向かう時に感じるお祭り感が好きであると語るも、
ウエノコウジ「2軍だけどね(笑)2軍というかもはや育成枠(笑)」
武藤「随分歳いった育成枠だね(笑)もうコーチの世話役っていうか球団関係者くらいだけど(笑)」
ウエノコウジ「でも会場に着くと毎年、お姉さんがお菓子をくれるの。
「ウエノさんだけですよ」
って毎年くれるから良い気になってたら、みんなに同じこと言ってたっていう(笑)」
と、もはや曲とトークのどちらがメインなのかわからないくらいの勢いで喋りまくるが、それがこの2人のスタイルだ。
「ローリン・サーカス」はそんな生き様を音楽にしているし、武藤の歌声も青空に向かっていくように伸びやかである。音楽面に関しては完全復活と言っていいだろう。
しかしながら案の定持ち時間がなくなってきていることにウエノコウジは焦り始めるのだが、そんな状況でもビールを注いで飲むのは忘れないというのはさすが大物というかベテランというかウエノコウジというか。
だからこそ次の曲が乾杯を意味する、アコースティックだからこそラテンの要素を強く感じる「サルー」となるし、それは画面越しに見ている我々にもさらなるアルコールの摂取を促す。ウエノコウジは
「杯をいつも酌み交わしたなら」
というフレーズに合わせて一番搾りの入ったコップを青空に高く掲げてみせるのだった。
時間がなくなってきているのを実感しているのか、すぐに演奏に入った「アミーガ・アミーゴ」では武藤が間奏でアコギをパーカッションのように叩きまくる。このユニットで見ていると忘れてしまいそうになるが、元々は武藤は勝手にしやがれのドラム&ボーカルなのである。武藤がアコギを叩く間にウエノコウジはやはりビールを注いでは
「これだけ一番搾り飲んだらキリンさんも黙ってないでしょう!」
と何かを狙っているかのような発言。そのすぐ後にベースソロを見せてくれるのはさすがであるが。
「配信の難しいところは海外のカバー曲をやるのが難しい。できるとしたら金を払うか、著作権の切れている曲をやるか(笑)
だから配信も凄くいいんだけど、街に行って、お世話になっている人やその街の人の前で歌いたい。だから今年も絶対中津川に行くって言ってこうして来たし、来年もどうなるかわからないけど、我々は絶対中津川に来ますので。また来年必ずここで会いましょう」
というウエノコウジのMCは酒飲みとしてではなく(各地の酒場を巡るという百々和宏的な楽しみもあるだろうけど)、ツアーを続けてきたミュージシャンとしてのプライドのようなもの、何を大事にして今まで音楽をやってきたかということを感じさせてくれる。
最後には「凡人讃歌」を完全に時間オーバーしながらも歌ってくれたが、この2人のライブや存在はこの中津川を特別な場所だと思うようになった自分の感覚が間違っていないんだな、と思わせてくれる。武藤昭平の復活の瞬間をこの会場で目撃した者としても、来年はこの会場で酒を飲みながらこの2人の歌う姿を見たいと心から思う。それはきっと、みんな一緒さ。
1.レッツ・ブーズ・イット
2.エグジット
3.ウェイブ
4.ローリン・サーカス
5.サルー
6.アミーガ・アミーゴ
7.凡人讃歌
15:50〜 ROVO
前日に佐藤タイジが
「ROVOの山本精一(ギター)が自粛期間中に京都のライブハウスで無観客・無配信でライブをやっていた。だから誰も見た人がいない」
と笑わせていた、ROVO。9月11日に行われた横浜THUMBS UPでのライブの配信という形での参加となる。
薄暗いライブハウス。照明もまだついておらず、メンバーはそれぞれ小さく音を出しているというような感じでスタートし、照明がメンバーを照らすと、芳垣安洋と岡部洋一のツインドラムが口火を切るようにリズムを叩き出し、そこに原田仁のベースがうねりを加え、さらにナカコーのiLLとのコラボでも何度もお世話になっている勝井祐二のエレクトリック・ヴァイオリン、プロデューサーとして様々な名盤を手掛けてきた益子樹のシンセ、そして椅子に座って弾く山本精一のギターが「人力トランス」と評される、ROVOだからこそ、このメンバーだからこその音楽とライブを作り上げていく。
徐々に演奏が激しく熱を帯びていくと、各メンバーの一瞬のソロなども交えながら、わずかに会場で見ていた観客はもちろん、原田らも演奏しながら踊るように体を揺らしていく。そりゃあ目の前でこんな演奏が鳴っていたら酩酊せずにはいられないだろうし、夜の中津川でビールを飲みながら見ることができたら最高だろうなと思う。
勝井祐二のヴァイオリンが際立つような曲があれば、ドラムとパーカッションのリズムが強い曲もあり、あらゆる形でグルーヴを練り上げていくことができるのは本当に流石でしかないし、こんな音楽をどうやって作り上げているのだろうかと不思議で仕方がない。まるで宇宙空間を漂うかのようにトランシーな音楽であるが、主要メンバーである山本精一の脳内がそのようなものであるためだろうか。
なぜかROVOはフジロックのイメージが強い(後は朝霧JAMとか)。実際に毎年のように出演しているのだろうし、そこが似合うバンドなのだろうと思うけれども、そんなバンドの演奏とライブに触れられる場所は多い方がいいはず。そういう意味でも来年は中津川でこのバンドのライブを見ることができれば。
16:30〜 The SunPaulo
トップバッターの武藤昭平 with ウエノコウジが喋り過ぎて案の定時間を押したことによって、全体的にタイムテーブルが後ろ倒しになっているこの日。まだ太陽が照る中津川に現れたのは、主催者の佐藤タイジのユニット、The SunPaulo。
前日はシアターブルックとして濃厚なファンク・ソウルロックを展開していたが、民族衣装的なお面を装着したこのThe SanPauloは同じ衣装を身に纏うキーボードの森俊之とともにダンス・エレクトロ的なサウンドのユニットであり、打ち込みのリズムの上に乗るエフェクティブな佐藤タイジのギターと浮遊感のある森のキーボードが実に心地良い。
シアターブルックでは濃すぎる佐藤のボーカルもこのThe SunPauloではあくまでボーカルもサウンドの一つとして捉えているような使い方をしており、全くアウトプットの仕方が違うバンドとユニットを同時に展開している佐藤タイジの器用さと音楽的探究心に改めて感服してしまう。
音楽性的にはROVOと同様に夜の方が似合いそうなものであるが、太陽の出ている中津川こそこのユニットのための場所という感じがするのはそのユニット名と、前日にも太陽を背負って演奏するためにステージの角度を変えたという太陽の申し子である佐藤タイジの存在感あるがゆえだろうか。
「解放せよ!」
という佐藤のボーカルがリフレインする「Release The Floor」ではタイトルフレーズのコーラスも同期音として鳴り響き、見ているこちら側も解放されていくかのようだ。
ROVOもしかり、こうした音楽は目の前で鳴っている音に合わせて体を揺らしたりというリアクションを取るような音楽だと思っているだけに、現地で実際に見ることができないのはつくづく残念である。
佐藤タイジのエフェクトがかかったボーカルによるタイトルフレーズのリフレインが祝祭感をより加速させる「We Love Party」からはシアターブルックの沼澤尚がドラマーとして参加。というか元々沼澤もこのユニットのメンバーでもあっただけに急造感は一切ない溶け込みぶりであるが(出で立ちはさすがに前日のシアターブルックの時のままだが)、その沼澤のドラムが人力のリズムであるが故のダンスミュージックとしての推進力と肉体性を与えると、佐藤タイジは
「SOLAR BUDOKAN 2020!人類初のソーラーでのオンラインフェス!」
と叫んでからラップとバカテクギターソロへとなだれ込んでいく。
「お茶の間の皆さん、The SunPauloは完璧なパーティーバンドです。パーティーは人類に必要なのだー!」
と宣誓すると、森のヴォコーダーを通したボーカルが呪術的な効果音となっていく。
「音楽とパーティーは人類にとって必要なインフラなのだー!」
という佐藤タイジの叫びは切実さというよりもあくまで前向きなものとして中津川の会場に響き、沼澤尚の全く揺らぐことがない、でも間違いなく生ドラムだからこそ出せるビートが体だけでなく心も踊らせてくれる。
さらには前日のシアターブルックのライブにも参加していたパーカッション奏者のオマー・ゲンデファルも参加してよりダンサブルかつパーティー感を強めていくのだが、オマーと向かい合うようにしてドラムを叩く沼澤の表情が実に楽しそうだ。こうしたセッションもまたこういうフェスが開催されるからこそできることである。
佐藤タイジのギターがメロディを奏でる、カーペンターズが歌ったことでもおなじみであるだけに、その音を聴けばすぐにそれとわかる「Close to You」は沼澤のスネアの連打からのハットの4つ打ちとオマーのパーカッションによってこのバンドならではのダンスミュージックとして新生。メンバーそれぞれのソロ回しもありながら、いつの間にか太陽は赤さを帯びていたが、太陽のフェスの主催者であり太陽の男である佐藤タイジのためにこの時間まで太陽が出ていたんじゃないかと思うほどだった。
16:40〜 LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS
ビルボード東京の外に配置されたソーラーパネルを「すげ〜」と言いながら見てからステージへと移動したのは、フルカワユタカ(ギター)、山崎聖之(ドラム)を従えた、LOW IQ 01。
階段を駆け上がってステージに辿り着くまでをカメラが追いかけると、そのまま楽器を手にしてライブを始める。
「暴れろー!」
と観客がいないにもかかわらずLOW IQ 01が叫ぶと、「F.A.Y. 〜Fight Against Yourself〜」からスタートし、無観客だろうと何だろうと普段と全く変わらないストレートかつタイトなパンクサウンドを響かせる。
音源には細美武士も参加した「Delusions of Grandeur」をスリーピースだからこそのダイナミズムを持って鳴らすと、「So Easy」「Makin' Magic」と自身の持つ中でもキャッチーな曲を連発。若干声が出ていないような感じもするが、それはライブであれば逆にいつも通りなような感じでもある。
「室内でもこうしてソーラーパネルを持ってきてやってるこのフェスに心からリスペクト!今年はこういう形になっちゃったけど、みんな最前列で暴れてください!」
と配信だからこそ全員が最前列で見ることができるという利点を理解した挨拶からの「WAY IT IS」は音源の分厚いサウンドとは違うスリーピースのシンプルなサウンドがよりパンクに感じさせるし、フルカワユタカと山崎のコーラスが3人だけでも成立する重要な要素になっている。フルカワユタカの弾くギターを至近距離で見ることができるのも配信ならではである。
「Light up your own fire, your own fire.」
というフレーズはいつもLOW IQ 01の変わることのない音楽への炎を再確認させてくれる。
LOW IQ 01がイントロでベースを弾きながらステージを飛び回る「Swear」においては元々この人がSuper Stupidのベース&ボーカルという形でシーンに出てきたことを思い出させてくれるし、その頃と同じ編成でのバンドをやっているのを見れるのはやはり嬉しい。
パンクにジャズなどのオシャレなコード進行や転調などを取り入れたという意味ではこの日この後に出演するthe band apartらとともにシーンを切り開いたという意味でも重要な意味を持つアーティストであることを再確認させてくれる「Never Shut Up」では、それをダンスロックサイドから果たしていたDOPING PANDAのフルカワユタカと一緒に音を鳴らしているのが実に胸が熱くなる。
LOW IQ 01が景気良く「1,2,3,4!」とカウントを入れて始まった「Snowman」もまた途中から一気にパンクに転調していく曲。フルカワユタカのコーラスの絡みがたまらないし、山崎のドラムを叩く表情も実に楽しそうだ。LOW IQ 01は
「みんな一緒に!」
「クラップ!」
とあくまで普段のライブと全く変わらないように声やアクションを観客に求める。目の前には映らないかもしれないが、このライブを見てくれている人がいるということを本人はよくわかっているようだ。フルカワユタカのさすがと言わざるを得ないギターソロは見事に曲を締めくくる。
「3人揃ってライブができるのがどれだけありがたいことか。来年は是非現地でやりたいね!
元気なのが1番だと思うんで、見てくれて元気出してもらえたら嬉しいね!」
と、実にLOW IQ 01の明るい人柄が伝わってくる挨拶から、このライブをわざわざ見にきた、19歳の時からの先輩である佐藤タイジにも感謝を告げると、
「僕めちゃくちゃ晴れ男なんで、全国のフェス主催者の皆さんは僕を呼んでくれれば晴れますんで!フジロックでも始まる前まで雨降ってたのが晴れたりしたんで!」
とアピールすると、ビルボード東京ならではの背後のカーテンを開けて、この収録日の東京の景色を見せる。やはり晴れている。さすがだ。
自分はかつてROCK IN JAPAN FES.のLAKE STAGEに毎年のように出演していた時にLOW IQ 01のライブをよく見ていた。その時はいつも倒れそうなくらいにめちゃくちゃ暑かった。なのにLOW IQ 01はいつもハットを被ってスーツを着ていた。それは伊達男っぷりをアピールするにしてもさすがに本人もキツくない?とも思っていたのだが、あの頃にいつも晴れていたのはこの男の持つ力だったのかもしれない。
そんな晴れ男の力は「Little Giant」からの、Super Stupid時代の名曲「WHAT'S BORDERLESS?」へと成熟とは無縁とばかりにあくまでパンクにクライマックスを描いていく。
その「WHAT'S BORDERLESS?」しかり、「Makin' Magic」しかり、今の状況だからこそ刺さる曲であるし、能天気なままでもいられないとも思うけれど、パンクバンドたちが普通の形態ではライブをやれなくなっている今、この男がこうして普段と変わらない形でライブをしている姿はパンクバンドたちへの大きな希望やヒントになるんじゃないだろうか。
1.F.A.Y. 〜Fight Against Yourself〜
2.Delusions of Grandeur
3.So Easy
4.Makin' Magic
5.WAY IT IS
6.Swear
7.Never Shut Up
8.Snowman
9.Little Giant
10.WHAT'S BORDERLESS?
18:30〜 the band apart
場面は野外ではあるが中津川ではなくて猪苗代の浜辺。そこにスタンバイするのはthe band apartの面々。必要以上にメンバー同士の間隔を開けてディスタンスを保っているが、PA周りにはソーラーパネルが設置されており、このフェスのための収録であることがよくわかる。
荒井岳史(ボーカル&ギター)はキャップ着用、川崎亘一(ギター)は短パンというあたりが夏らしさを感じさせるが、原昌和(ベース)と木暮栄一(ドラム)は普段と全く変わらない出で立ちで砂浜の上にセッティングされた機材で演奏を始める。バンアパらしいサウンドによる1曲目は日本語歌詞による「ZION TOWN」だ。
収録時間中は完全に昼間で、天気も良くて実に気持ち良さそうなのだが、そんな中で曲間なしに木暮の4つ打ちのドラムから引き継がれるように演奏されるのがかつてFRONTIER BACKYARDに提供した「夜の改札」というあたりが実にバンアパらしい。(今年リリースされた通販限定シングルにセルフカバーバージョンも収録されている)
それぞれの演奏する複雑なアンサンブルが重なっていく「shine on me」はサビの「MAGIC」というフレーズは直前に出演した、バンドにとっての兄貴分的な存在であるLOW IQ 01の「Makin' Magic」との偶発的な関連性を感じさせるが、やはり木暮の4つ打ちドラムからシームレスに始まり、バンドの演奏する姿を見守っていた佐藤タイジも踊りまくる「Eric.W」では荒井が少しメロディを前のめりにして歌うというのもライブならではである。
「メンバーと距離が離れすぎていてどこを目掛けて喋ればいいのか全然わからない(笑)」
と荒井が普段とは全く違う形態に少し戸惑いながら挨拶。MV収録よりもはるかに手が掛かっているとのことだが、それはフェス側がそうしてでもこのバンドに出演して欲しかったということでもある。実際にバンアパはこの猪苗代の野外音楽堂でこのフェスが開催された時にも出演していて、荒井も「ソーラーファミリー」であることを主張していた。
現在バンドは4ヶ月連続シングルリリースの真っ最中であるが、その第一弾としてリリースされた「August E.P」の収録曲である「AVECOBE」はキャッチーなギターリフによるロックサウンド。だけど実はその曲の
「真相は霧の中」
などのフレーズは事実を隠蔽している前政権に向けられているはず。タイトルも実は前首相をもじったものであるし、バンアパはライブでも前首相を批判するような演出や発言をしていた。それは気付かなければわからないことではあるけれど、バンドは明確にその意思をメンバーたちで共有しているし、そこにこのバンドの変わらぬパンクスピリットを感じる。
この環境で演奏されるからこそ、お祭り的な8月ではなくて家でダラダラと過ごしている、そんなフェスもなければどこにも行けない今年の夏のテーマソングであるかのような穏やかなサマーソング「8月」から、タイトル通りにバンアパらしい複雑なアンサンブルのロックというのとはかなり距離感を感じる-それはつまりバンドにとって新しいことにチャレンジし続けているということだが-「9th Grade Bubble Pop」と続くと、そのポップさとロックさというバンアパの持つ2極面が融合したかのような「DEKU NO BOY」へ。荒井の日本語歌詞の単語の連なりの歌唱が実に小気味良くて心地良い。
荒井が改めてこの場所を用意してくれたこのフェスへの感謝を告げ、
「来年また中津川で!…呼ばれるかわからないけど(笑)」
と自虐しながら原にバトンを渡すのだが、原はすぐに荒井に返そうとするも、最後の曲は荒井始まりではないためにイントロを担う木暮にパスして始まったのは「夜の向こうへ」。
この曲がこうして今やライブの最後を担って当たり前になっているのを見ると、バンアパにとって日本語歌詞に挑戦した「街の14景」は本当に大きかったんだなと思うし、それは我々にも新たな景色を見せてくれた。中津川の夜にこの曲を聴けたら、と思っていたら最後に原がバケツの水を頭から被っていた。この収録がいつ行われたのかはわからないが、きっとさぞや暑い日であり、バンアパにとっては今年最高の夏の思い出の日になったんじゃないかと思う。
1.ZION TOWN
2.夜の改札
3.shine on me
4.Eric.W
5.AVECOBE
6.8月
7.9th Grade Bubble Pop
8.DEKU NO BOY
9.夜の向こうへ
19:10〜 Nothing's Carved In Stone
昨年もメインステージに立っており、このフェスを支えているバンドの1組である、Nothing's Carved In Stone。オンラインでの開催である今回ももちろん出演である。
会場はLOW IQ 01と同じくビルボード東京であるが、すでに背後のカーテンがオープンしており、都内の夜景が見えるというのはLOW IQ 01の後に収録したりしたのだろうか。
バンドはメジャーを離れて独立、自主レーベル設立というインディペンデントな活動形態を取っており、そこからの再スタートを切るためのリビルドアルバム「Futures」をリリースしたばかりだが、そのDISC1の1曲目に収録されている「NEW HORIZON」からスタート。タイトルからしてもそのアルバムの1曲目を飾るのに実にふさわしい曲であるが、やはりメンバーの鳴らす音はバチバチにぶつかり合いながらも一つに調和していく。これぞメンバーそれぞれが超絶プレイヤーの集まりでもバンドという生命体であるNothing's Carved In Stoneのライブである。
タイトル通りに蒼さを感じさせるストレートなギターロック「YOUTH City」、村松拓(ボーカル&ギター)がカメラに向かって笑顔で指を立ててから歌い始めた「Spirit Inspiration」と、生形真一(ギター)と大喜多崇規(ドラム)は表情豊かなタイプではないけれど、すでに中野サンプラザでの公開収録ライブにストレイテナーとして出演している、ひなっちこと日向秀和(ベース)は観客はいなくてもこうしてライブができることの喜びを感じさせるような満面の笑みを浮かべながら演奏している。
演奏している背景に映る都内の夜景というシチュエーションに合わせたかのような選曲である(もちろんこれも「Futures」に収録されているけれど)「Midnight Train」は野外フェスではあまり夜の時間帯に見ることができないこのバンドがそのシチュエーションに実に似合うバンドであることを示している。
村松は1度曲間でギターを取り替えたのを曲中にすぐに戻していたのだが、何がしかギターにトラブルのようなものがあったんだろうか。
昨年はこのバンドだけでなく、SHIKABANEとしても出演して見事な酔っ払いおっさんっぷりを披露した村松拓のボーカルが真っ直ぐに伸びているメロディの「Milestone」から、このバンドの演奏力とそれを活かしたアンサンブルを遺憾なく発揮する「Out of Control」へと続いていく。
そして村松が改めて毎年出演しているこのフェスへの感謝を口にすると、「Futures」のDISC2の1曲目に収録されている「Dream in the Dark」へ。
「どこかの街の太陽
想い告げ会おういつか
その日を見て
輝くんだ」
という歌詞は村松の言葉通りに来年のこのフェスでの再会を約束するかのよう。タイトル通りにダークさを感じるようなイントロから一気にサビで希望を感じさせるように飛翔するというのもこのバンドが光と闇を両方持ち合わせているバンドであることを示している。
そしてラストに演奏されたのは「BLUE SHADOW」。これまでのフェスでのセトリを思い返すと意外な選曲のようであるが、「Futures」もDISC2の最後をこの曲で締めている。そのリアレンジバージョンが「この曲はこんなにカッコいい曲だったのか!」と驚くくらいに進化しているのだが、それもひたすらライブをやり、そこでアレンジを加えたり修正したりしてバンドを続けてきた結果だ。
得てして再録盤というのはオリジナル音源に比べると聞かれないことも多い。それは好きな曲やバンドであればあるほどにオリジナルバージョンに思い入れが強くなっているからであるが、「Futures」は再録盤というよりは進化盤と言える。だからこの「BLUE SHADOW」もラストに持ってこれるような曲に進化している。
元からとてつもない演奏力を持っていたメンバーとそのメンバーが集まったバンドが今でも進化を続けている。それがはっきりとわかるのが実に面白いし、それはこのバンドがこれから先も進化し続けていくということでもある。毎年中津川のあのステージでライブをする姿を見ることができれば、それを1年ごとに確認できるはずだ。
「Futures」リリース時、インタビューではやはりこのコロナに見舞われた状況についての話にもなっていったのだが、その際に生形は
「ミュージシャンが希望をなくしちゃいけない。僕らが1番前向きでいないと」
と言っていた。ライブがなくなって、直接的な収入がなくなってしまって最も厳しい状況のはずのアーティストサイドが悲観的にならずに前を向いている。この日のライブの楽しそうな姿はその言葉を体現していたものになっていたし、それを見れるから我々も前を向くことができる。これからもこういうバンドのライブを見て、そう感じながら生きていきたいのだ。
1.NEW HORIZON
2.YOUTH City
3.Spirit Inspiration
4.Midnight Train
5.Milestone
6.Out of Control
7.Dream in the Dark
8.BLUE SHADOW
20:20〜 ACIDMAN
舞台は再び中津川へ。2日目のトリは昨年も素晴らしい大トリを務めた、このフェス皆勤賞バンドのACIDMANである。
おなじみのSE「最後の国」に乗ってメンバー3人が現れると、まだ空は少し赤みが残っている。すでに配信が始まった時間は20時を過ぎているので、これはリアルタイムではなくて少し前の時間に収録したのかもしれない。この快晴っぷりは間違いなくこの日の空の様子であるが。
ステージに3人が立ち、SEのリズムに合わせて佐藤雅俊(ベース)が手を叩くと、昨年の1stアルバム「創」の再現ツアーで新曲として披露されてファンに響めきを与えた「灰色の街」の壮大なメロディが中津川に響き渡っていく。去年のトリのライブを見た時にも思ったが、やはりこの場所とACIDMANの相性は抜群である。
ダンサブルなサウンドとともに暗くなった空を見上げたくなるような「FREE STAR」では間奏で大木伸夫(ボーカル&ギター)がステージを降りて芝生エリアを歩き出して、正面にいるカメラを指差してギターソロを弾く。スクリーンがあるような大きいステージでのライブもたくさんやっているバンドだけれど、大木のこんな姿はなかなか見れない。普段はカメラではなくて客席の方を向いているからだ。そういう意味ではこれは配信だからこそ見れるものなのかもしれない。
すると大木が新曲を披露することを告げる。アニメ主題歌に起用されたことを嬉しそうに口にしていたが、その新曲「Rebirth」は「生まれ変わる」というテーマが期せずしてこの世界に向けて歌われているようであったし、何よりもただひたすらに「良い曲だな」と思える曲。今でもACIDMANからそういう曲が届けられる。それは「赤橙」などの名曲がリリースされた時のドキドキする感覚を思い出させてくれる。
その「赤橙」もライブならではのイントロが追加されたアレンジで演奏され、タイトルに合わせて赤い照明が演奏しているメンバーを照らす。
さらにはドローンカメラがステージから遠く離れて中津川の街一帯を映し出す中で壮大に響き渡ったバラードは「世界が終わる夜」。その映像はそのままカメラからやたら遠いことで話題になっているACIDMANのアー写としても使えそうなくらいにこのバンドの持つ世界観の延長そのもの。この日は去年演奏されて時に会場に感動を巻き起こした「ALMA」は演奏されなかったけれど、この曲がこれからこの場所で新しい歴史を刻んでいくような予感がしていた。
「ここからまた盛り上がっていくぞー!」
と大木が力強く宣言すると、イントロでサトマが自身に寄ってきたカメラに向かっていつもは客席に向かってやるように両腕を上げて煽る「ある証明へ」。浦山一悟のドラムもさらに力強くなり、大木は
「一緒に声を上げてくれー!」
と言うと、画面の向こうで声を上げているであろう誰よりも大きな声で叫ぶ。
「追い掛けた夏の暮れゆく旅路を
未だ果てぬ声 遠ざかる」
今ACIDMANが立っている場所への旅路を今年の夏の暮れに辿ることはもうできない。でも、だとしてもきっと来年にはこの会場に来て、何度でも息を深く吸い込むのだろう。きっと来年もACIDMANはここでライブをしてくれるのだから。
そして大木は
「何の根拠もないけど、俺たちは絶対大丈夫!あなた達も絶対大丈夫!」
と叫んでラストの「Your Song」を演奏した。その叫んだ言葉に、曲に、音に込められた感情が画面を通り越してこちらまで飛んできているかのようだった。今はまだ無理だけれど、来年にはあの会場でこの曲を聴いて去年みたいにモッシュとダイブでもみくちゃになって気持ち良く笑顔で帰っていく。そうなれることを頭の中で来年までずっと思い描いている。
ACIDMANがライブが素晴らしいバンドであるということはわかりきっていることだ。そういうバンドだから20年以上に渡って最前線で戦い続け、今でもこのフェスのメインステージでトリを務め、Zeppクラスが即完するバンドであり続けている。
でもやはりこのフェス、この会場で見るACIDMANはやはり格別だ。もちろんACIDMANは常にどんな時でも100%のライブを見せてくれる。でもこのフェスはこうして全ての年でACIDMANを呼び、こうしてトリを任せている。その期待をバンドが自分たちの力にしている。
そしてバンドが目指す世界とこのフェスが目指す世界が同じものである。そうして自分たちのことを理解してくれている人たちがこのフェスにはたくさんいる。それがこのフェスで見るACIDMANが最高な理由なんじゃないかと思う。来年はまたアンコールも含めて、もうちょっと長い時間、多くの曲を目の前で浴びれますように。
1.灰色の街
2.FREE STAR
3.Rebirth
4.赤橙
5.世界が終わる夜
6.ある証明
7.Your Song
こうして配信でフェスを見るのも楽しい。でもやっぱりあの場所でライブをしているのを見ると、今年あの場所に行けないという事実がのしかかってきてしまって寂しくなってしまう。まだ来週もこのフェスは続くけど、中津川の景色が見れるのは今週だけ。来年は画面越しじゃなくて実際にあの場所で。画面で見ても行った気持ちにはなれないし、ウエノコウジが行っていたように、実際に自分がそこに行くということが1番大事だと思っているから。
15時になって中津川の会場が映し出され、主催者の佐藤タイジによる挨拶が始まると、うらやましいくらいの晴天っぷり。前日の夜には雨も降っていたが、やはり太陽のフェスである。
15:00〜 武藤昭平 with ウエノコウジ
佐藤がこの日のトップバッターである、武藤昭平 with ウエノコウジの名前を呼んでもステージに2人はおらず、ドローンカメラが会場内にある室内スペースに寄っていくと、その中から黒スーツを着た2人が出てきてステージに向かうというまるで映画のようなオープニング。
ステージに2人が到着すると、まずはウエノコウジがビールサーバーからビールを注ぐ。前日のトークショーでも酒を飲みながら爆笑トークを届けてくれたが、この日もやはり飲みまくるのは間違いない。
「見てくださいよ、この天気。昨日の怒髪天はなんだったんだっていう。気の毒でしょうがない(笑)
中野サンプラザの収録ライブに出れない2軍の我々なのに、こうしてビールサーバーまで用意してくれて、ドローンまで飛ばしてくれるオープニングという(笑)」
と全然演奏が始まらず、早くも一杯飲み干して2杯目を注ぎ、
「さすがに怒られそうだからそろそろ1曲やっておきますか」
と言ってこのユニットの酒飲みテーマである「レッツ・ブーズ・イット」からスタート。曲中には武藤昭平による飲酒コールも挟まれる。
武藤昭平は癌に侵されていた時期があり、その期間は百々和宏が代わりにボーカル&ギターを務めたりしていたのだが、武藤昭平が闘病から復活したのがこのフェスのステージであり、前日のトークショーでもその瞬間を忘れられない場面として挙げていた。
しかしそんな癌から復帰した身であるためにまだ酒を飲むことができず、武藤が酒を飲むことを促すフレーズではウエノコウジがいちいち
「いや、武藤さんは飲んじゃダメでしょ」
とツッコミを入れまくるのが自由すぎるこのユニットらしさが出ている。
とはいえやはりベテランにして手練れの2人。アコギとアコベだけでリズミカルに、かつダンサブルにアルコールを勧めてくれる「エグジット」ではそんな2人の演奏力を見せてくれる。
ウエノコウジは前日の夜にやはり飲み過ぎてしまい、アイスのピノを買ったのを放置して全部溶けてしまったというやってしまったエピソードを開陳。
ピノはまだマシで、泥酔してカップヌードルにお湯を入れたら3分待たずに寝てしまうという超一流の酒飲みトークを聞かせてくれる。そんな中でもビールを注いでは飲むというあたりは抜かりない。
そんなウエノコウジも
「照明さんも言っていたよ。太陽には勝てないって」
とこの晴れた会場の最高さを存分に味わいながらカズーを吹くのは牧歌的な曲の雰囲気がこの会場の雰囲気に実によく似合う「ウェイブ」。演奏している姿だけではなくドローンカメラで会場全体を映してくれるカット割りがより一層そう思わせてくれる。
ウエノコウジが改めてこの中津川の街を「気のいい街」と評し、ここに向かう時に感じるお祭り感が好きであると語るも、
ウエノコウジ「2軍だけどね(笑)2軍というかもはや育成枠(笑)」
武藤「随分歳いった育成枠だね(笑)もうコーチの世話役っていうか球団関係者くらいだけど(笑)」
ウエノコウジ「でも会場に着くと毎年、お姉さんがお菓子をくれるの。
「ウエノさんだけですよ」
って毎年くれるから良い気になってたら、みんなに同じこと言ってたっていう(笑)」
と、もはや曲とトークのどちらがメインなのかわからないくらいの勢いで喋りまくるが、それがこの2人のスタイルだ。
「ローリン・サーカス」はそんな生き様を音楽にしているし、武藤の歌声も青空に向かっていくように伸びやかである。音楽面に関しては完全復活と言っていいだろう。
しかしながら案の定持ち時間がなくなってきていることにウエノコウジは焦り始めるのだが、そんな状況でもビールを注いで飲むのは忘れないというのはさすが大物というかベテランというかウエノコウジというか。
だからこそ次の曲が乾杯を意味する、アコースティックだからこそラテンの要素を強く感じる「サルー」となるし、それは画面越しに見ている我々にもさらなるアルコールの摂取を促す。ウエノコウジは
「杯をいつも酌み交わしたなら」
というフレーズに合わせて一番搾りの入ったコップを青空に高く掲げてみせるのだった。
時間がなくなってきているのを実感しているのか、すぐに演奏に入った「アミーガ・アミーゴ」では武藤が間奏でアコギをパーカッションのように叩きまくる。このユニットで見ていると忘れてしまいそうになるが、元々は武藤は勝手にしやがれのドラム&ボーカルなのである。武藤がアコギを叩く間にウエノコウジはやはりビールを注いでは
「これだけ一番搾り飲んだらキリンさんも黙ってないでしょう!」
と何かを狙っているかのような発言。そのすぐ後にベースソロを見せてくれるのはさすがであるが。
「配信の難しいところは海外のカバー曲をやるのが難しい。できるとしたら金を払うか、著作権の切れている曲をやるか(笑)
だから配信も凄くいいんだけど、街に行って、お世話になっている人やその街の人の前で歌いたい。だから今年も絶対中津川に行くって言ってこうして来たし、来年もどうなるかわからないけど、我々は絶対中津川に来ますので。また来年必ずここで会いましょう」
というウエノコウジのMCは酒飲みとしてではなく(各地の酒場を巡るという百々和宏的な楽しみもあるだろうけど)、ツアーを続けてきたミュージシャンとしてのプライドのようなもの、何を大事にして今まで音楽をやってきたかということを感じさせてくれる。
最後には「凡人讃歌」を完全に時間オーバーしながらも歌ってくれたが、この2人のライブや存在はこの中津川を特別な場所だと思うようになった自分の感覚が間違っていないんだな、と思わせてくれる。武藤昭平の復活の瞬間をこの会場で目撃した者としても、来年はこの会場で酒を飲みながらこの2人の歌う姿を見たいと心から思う。それはきっと、みんな一緒さ。
1.レッツ・ブーズ・イット
2.エグジット
3.ウェイブ
4.ローリン・サーカス
5.サルー
6.アミーガ・アミーゴ
7.凡人讃歌
15:50〜 ROVO
前日に佐藤タイジが
「ROVOの山本精一(ギター)が自粛期間中に京都のライブハウスで無観客・無配信でライブをやっていた。だから誰も見た人がいない」
と笑わせていた、ROVO。9月11日に行われた横浜THUMBS UPでのライブの配信という形での参加となる。
薄暗いライブハウス。照明もまだついておらず、メンバーはそれぞれ小さく音を出しているというような感じでスタートし、照明がメンバーを照らすと、芳垣安洋と岡部洋一のツインドラムが口火を切るようにリズムを叩き出し、そこに原田仁のベースがうねりを加え、さらにナカコーのiLLとのコラボでも何度もお世話になっている勝井祐二のエレクトリック・ヴァイオリン、プロデューサーとして様々な名盤を手掛けてきた益子樹のシンセ、そして椅子に座って弾く山本精一のギターが「人力トランス」と評される、ROVOだからこそ、このメンバーだからこその音楽とライブを作り上げていく。
徐々に演奏が激しく熱を帯びていくと、各メンバーの一瞬のソロなども交えながら、わずかに会場で見ていた観客はもちろん、原田らも演奏しながら踊るように体を揺らしていく。そりゃあ目の前でこんな演奏が鳴っていたら酩酊せずにはいられないだろうし、夜の中津川でビールを飲みながら見ることができたら最高だろうなと思う。
勝井祐二のヴァイオリンが際立つような曲があれば、ドラムとパーカッションのリズムが強い曲もあり、あらゆる形でグルーヴを練り上げていくことができるのは本当に流石でしかないし、こんな音楽をどうやって作り上げているのだろうかと不思議で仕方がない。まるで宇宙空間を漂うかのようにトランシーな音楽であるが、主要メンバーである山本精一の脳内がそのようなものであるためだろうか。
なぜかROVOはフジロックのイメージが強い(後は朝霧JAMとか)。実際に毎年のように出演しているのだろうし、そこが似合うバンドなのだろうと思うけれども、そんなバンドの演奏とライブに触れられる場所は多い方がいいはず。そういう意味でも来年は中津川でこのバンドのライブを見ることができれば。
16:30〜 The SunPaulo
トップバッターの武藤昭平 with ウエノコウジが喋り過ぎて案の定時間を押したことによって、全体的にタイムテーブルが後ろ倒しになっているこの日。まだ太陽が照る中津川に現れたのは、主催者の佐藤タイジのユニット、The SunPaulo。
前日はシアターブルックとして濃厚なファンク・ソウルロックを展開していたが、民族衣装的なお面を装着したこのThe SanPauloは同じ衣装を身に纏うキーボードの森俊之とともにダンス・エレクトロ的なサウンドのユニットであり、打ち込みのリズムの上に乗るエフェクティブな佐藤タイジのギターと浮遊感のある森のキーボードが実に心地良い。
シアターブルックでは濃すぎる佐藤のボーカルもこのThe SunPauloではあくまでボーカルもサウンドの一つとして捉えているような使い方をしており、全くアウトプットの仕方が違うバンドとユニットを同時に展開している佐藤タイジの器用さと音楽的探究心に改めて感服してしまう。
音楽性的にはROVOと同様に夜の方が似合いそうなものであるが、太陽の出ている中津川こそこのユニットのための場所という感じがするのはそのユニット名と、前日にも太陽を背負って演奏するためにステージの角度を変えたという太陽の申し子である佐藤タイジの存在感あるがゆえだろうか。
「解放せよ!」
という佐藤のボーカルがリフレインする「Release The Floor」ではタイトルフレーズのコーラスも同期音として鳴り響き、見ているこちら側も解放されていくかのようだ。
ROVOもしかり、こうした音楽は目の前で鳴っている音に合わせて体を揺らしたりというリアクションを取るような音楽だと思っているだけに、現地で実際に見ることができないのはつくづく残念である。
佐藤タイジのエフェクトがかかったボーカルによるタイトルフレーズのリフレインが祝祭感をより加速させる「We Love Party」からはシアターブルックの沼澤尚がドラマーとして参加。というか元々沼澤もこのユニットのメンバーでもあっただけに急造感は一切ない溶け込みぶりであるが(出で立ちはさすがに前日のシアターブルックの時のままだが)、その沼澤のドラムが人力のリズムであるが故のダンスミュージックとしての推進力と肉体性を与えると、佐藤タイジは
「SOLAR BUDOKAN 2020!人類初のソーラーでのオンラインフェス!」
と叫んでからラップとバカテクギターソロへとなだれ込んでいく。
「お茶の間の皆さん、The SunPauloは完璧なパーティーバンドです。パーティーは人類に必要なのだー!」
と宣誓すると、森のヴォコーダーを通したボーカルが呪術的な効果音となっていく。
「音楽とパーティーは人類にとって必要なインフラなのだー!」
という佐藤タイジの叫びは切実さというよりもあくまで前向きなものとして中津川の会場に響き、沼澤尚の全く揺らぐことがない、でも間違いなく生ドラムだからこそ出せるビートが体だけでなく心も踊らせてくれる。
さらには前日のシアターブルックのライブにも参加していたパーカッション奏者のオマー・ゲンデファルも参加してよりダンサブルかつパーティー感を強めていくのだが、オマーと向かい合うようにしてドラムを叩く沼澤の表情が実に楽しそうだ。こうしたセッションもまたこういうフェスが開催されるからこそできることである。
佐藤タイジのギターがメロディを奏でる、カーペンターズが歌ったことでもおなじみであるだけに、その音を聴けばすぐにそれとわかる「Close to You」は沼澤のスネアの連打からのハットの4つ打ちとオマーのパーカッションによってこのバンドならではのダンスミュージックとして新生。メンバーそれぞれのソロ回しもありながら、いつの間にか太陽は赤さを帯びていたが、太陽のフェスの主催者であり太陽の男である佐藤タイジのためにこの時間まで太陽が出ていたんじゃないかと思うほどだった。
16:40〜 LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS
ビルボード東京の外に配置されたソーラーパネルを「すげ〜」と言いながら見てからステージへと移動したのは、フルカワユタカ(ギター)、山崎聖之(ドラム)を従えた、LOW IQ 01。
階段を駆け上がってステージに辿り着くまでをカメラが追いかけると、そのまま楽器を手にしてライブを始める。
「暴れろー!」
と観客がいないにもかかわらずLOW IQ 01が叫ぶと、「F.A.Y. 〜Fight Against Yourself〜」からスタートし、無観客だろうと何だろうと普段と全く変わらないストレートかつタイトなパンクサウンドを響かせる。
音源には細美武士も参加した「Delusions of Grandeur」をスリーピースだからこそのダイナミズムを持って鳴らすと、「So Easy」「Makin' Magic」と自身の持つ中でもキャッチーな曲を連発。若干声が出ていないような感じもするが、それはライブであれば逆にいつも通りなような感じでもある。
「室内でもこうしてソーラーパネルを持ってきてやってるこのフェスに心からリスペクト!今年はこういう形になっちゃったけど、みんな最前列で暴れてください!」
と配信だからこそ全員が最前列で見ることができるという利点を理解した挨拶からの「WAY IT IS」は音源の分厚いサウンドとは違うスリーピースのシンプルなサウンドがよりパンクに感じさせるし、フルカワユタカと山崎のコーラスが3人だけでも成立する重要な要素になっている。フルカワユタカの弾くギターを至近距離で見ることができるのも配信ならではである。
「Light up your own fire, your own fire.」
というフレーズはいつもLOW IQ 01の変わることのない音楽への炎を再確認させてくれる。
LOW IQ 01がイントロでベースを弾きながらステージを飛び回る「Swear」においては元々この人がSuper Stupidのベース&ボーカルという形でシーンに出てきたことを思い出させてくれるし、その頃と同じ編成でのバンドをやっているのを見れるのはやはり嬉しい。
パンクにジャズなどのオシャレなコード進行や転調などを取り入れたという意味ではこの日この後に出演するthe band apartらとともにシーンを切り開いたという意味でも重要な意味を持つアーティストであることを再確認させてくれる「Never Shut Up」では、それをダンスロックサイドから果たしていたDOPING PANDAのフルカワユタカと一緒に音を鳴らしているのが実に胸が熱くなる。
LOW IQ 01が景気良く「1,2,3,4!」とカウントを入れて始まった「Snowman」もまた途中から一気にパンクに転調していく曲。フルカワユタカのコーラスの絡みがたまらないし、山崎のドラムを叩く表情も実に楽しそうだ。LOW IQ 01は
「みんな一緒に!」
「クラップ!」
とあくまで普段のライブと全く変わらないように声やアクションを観客に求める。目の前には映らないかもしれないが、このライブを見てくれている人がいるということを本人はよくわかっているようだ。フルカワユタカのさすがと言わざるを得ないギターソロは見事に曲を締めくくる。
「3人揃ってライブができるのがどれだけありがたいことか。来年は是非現地でやりたいね!
元気なのが1番だと思うんで、見てくれて元気出してもらえたら嬉しいね!」
と、実にLOW IQ 01の明るい人柄が伝わってくる挨拶から、このライブをわざわざ見にきた、19歳の時からの先輩である佐藤タイジにも感謝を告げると、
「僕めちゃくちゃ晴れ男なんで、全国のフェス主催者の皆さんは僕を呼んでくれれば晴れますんで!フジロックでも始まる前まで雨降ってたのが晴れたりしたんで!」
とアピールすると、ビルボード東京ならではの背後のカーテンを開けて、この収録日の東京の景色を見せる。やはり晴れている。さすがだ。
自分はかつてROCK IN JAPAN FES.のLAKE STAGEに毎年のように出演していた時にLOW IQ 01のライブをよく見ていた。その時はいつも倒れそうなくらいにめちゃくちゃ暑かった。なのにLOW IQ 01はいつもハットを被ってスーツを着ていた。それは伊達男っぷりをアピールするにしてもさすがに本人もキツくない?とも思っていたのだが、あの頃にいつも晴れていたのはこの男の持つ力だったのかもしれない。
そんな晴れ男の力は「Little Giant」からの、Super Stupid時代の名曲「WHAT'S BORDERLESS?」へと成熟とは無縁とばかりにあくまでパンクにクライマックスを描いていく。
その「WHAT'S BORDERLESS?」しかり、「Makin' Magic」しかり、今の状況だからこそ刺さる曲であるし、能天気なままでもいられないとも思うけれど、パンクバンドたちが普通の形態ではライブをやれなくなっている今、この男がこうして普段と変わらない形でライブをしている姿はパンクバンドたちへの大きな希望やヒントになるんじゃないだろうか。
1.F.A.Y. 〜Fight Against Yourself〜
2.Delusions of Grandeur
3.So Easy
4.Makin' Magic
5.WAY IT IS
6.Swear
7.Never Shut Up
8.Snowman
9.Little Giant
10.WHAT'S BORDERLESS?
18:30〜 the band apart
場面は野外ではあるが中津川ではなくて猪苗代の浜辺。そこにスタンバイするのはthe band apartの面々。必要以上にメンバー同士の間隔を開けてディスタンスを保っているが、PA周りにはソーラーパネルが設置されており、このフェスのための収録であることがよくわかる。
荒井岳史(ボーカル&ギター)はキャップ着用、川崎亘一(ギター)は短パンというあたりが夏らしさを感じさせるが、原昌和(ベース)と木暮栄一(ドラム)は普段と全く変わらない出で立ちで砂浜の上にセッティングされた機材で演奏を始める。バンアパらしいサウンドによる1曲目は日本語歌詞による「ZION TOWN」だ。
収録時間中は完全に昼間で、天気も良くて実に気持ち良さそうなのだが、そんな中で曲間なしに木暮の4つ打ちのドラムから引き継がれるように演奏されるのがかつてFRONTIER BACKYARDに提供した「夜の改札」というあたりが実にバンアパらしい。(今年リリースされた通販限定シングルにセルフカバーバージョンも収録されている)
それぞれの演奏する複雑なアンサンブルが重なっていく「shine on me」はサビの「MAGIC」というフレーズは直前に出演した、バンドにとっての兄貴分的な存在であるLOW IQ 01の「Makin' Magic」との偶発的な関連性を感じさせるが、やはり木暮の4つ打ちドラムからシームレスに始まり、バンドの演奏する姿を見守っていた佐藤タイジも踊りまくる「Eric.W」では荒井が少しメロディを前のめりにして歌うというのもライブならではである。
「メンバーと距離が離れすぎていてどこを目掛けて喋ればいいのか全然わからない(笑)」
と荒井が普段とは全く違う形態に少し戸惑いながら挨拶。MV収録よりもはるかに手が掛かっているとのことだが、それはフェス側がそうしてでもこのバンドに出演して欲しかったということでもある。実際にバンアパはこの猪苗代の野外音楽堂でこのフェスが開催された時にも出演していて、荒井も「ソーラーファミリー」であることを主張していた。
現在バンドは4ヶ月連続シングルリリースの真っ最中であるが、その第一弾としてリリースされた「August E.P」の収録曲である「AVECOBE」はキャッチーなギターリフによるロックサウンド。だけど実はその曲の
「真相は霧の中」
などのフレーズは事実を隠蔽している前政権に向けられているはず。タイトルも実は前首相をもじったものであるし、バンアパはライブでも前首相を批判するような演出や発言をしていた。それは気付かなければわからないことではあるけれど、バンドは明確にその意思をメンバーたちで共有しているし、そこにこのバンドの変わらぬパンクスピリットを感じる。
この環境で演奏されるからこそ、お祭り的な8月ではなくて家でダラダラと過ごしている、そんなフェスもなければどこにも行けない今年の夏のテーマソングであるかのような穏やかなサマーソング「8月」から、タイトル通りにバンアパらしい複雑なアンサンブルのロックというのとはかなり距離感を感じる-それはつまりバンドにとって新しいことにチャレンジし続けているということだが-「9th Grade Bubble Pop」と続くと、そのポップさとロックさというバンアパの持つ2極面が融合したかのような「DEKU NO BOY」へ。荒井の日本語歌詞の単語の連なりの歌唱が実に小気味良くて心地良い。
荒井が改めてこの場所を用意してくれたこのフェスへの感謝を告げ、
「来年また中津川で!…呼ばれるかわからないけど(笑)」
と自虐しながら原にバトンを渡すのだが、原はすぐに荒井に返そうとするも、最後の曲は荒井始まりではないためにイントロを担う木暮にパスして始まったのは「夜の向こうへ」。
この曲がこうして今やライブの最後を担って当たり前になっているのを見ると、バンアパにとって日本語歌詞に挑戦した「街の14景」は本当に大きかったんだなと思うし、それは我々にも新たな景色を見せてくれた。中津川の夜にこの曲を聴けたら、と思っていたら最後に原がバケツの水を頭から被っていた。この収録がいつ行われたのかはわからないが、きっとさぞや暑い日であり、バンアパにとっては今年最高の夏の思い出の日になったんじゃないかと思う。
1.ZION TOWN
2.夜の改札
3.shine on me
4.Eric.W
5.AVECOBE
6.8月
7.9th Grade Bubble Pop
8.DEKU NO BOY
9.夜の向こうへ
19:10〜 Nothing's Carved In Stone
昨年もメインステージに立っており、このフェスを支えているバンドの1組である、Nothing's Carved In Stone。オンラインでの開催である今回ももちろん出演である。
会場はLOW IQ 01と同じくビルボード東京であるが、すでに背後のカーテンがオープンしており、都内の夜景が見えるというのはLOW IQ 01の後に収録したりしたのだろうか。
バンドはメジャーを離れて独立、自主レーベル設立というインディペンデントな活動形態を取っており、そこからの再スタートを切るためのリビルドアルバム「Futures」をリリースしたばかりだが、そのDISC1の1曲目に収録されている「NEW HORIZON」からスタート。タイトルからしてもそのアルバムの1曲目を飾るのに実にふさわしい曲であるが、やはりメンバーの鳴らす音はバチバチにぶつかり合いながらも一つに調和していく。これぞメンバーそれぞれが超絶プレイヤーの集まりでもバンドという生命体であるNothing's Carved In Stoneのライブである。
タイトル通りに蒼さを感じさせるストレートなギターロック「YOUTH City」、村松拓(ボーカル&ギター)がカメラに向かって笑顔で指を立ててから歌い始めた「Spirit Inspiration」と、生形真一(ギター)と大喜多崇規(ドラム)は表情豊かなタイプではないけれど、すでに中野サンプラザでの公開収録ライブにストレイテナーとして出演している、ひなっちこと日向秀和(ベース)は観客はいなくてもこうしてライブができることの喜びを感じさせるような満面の笑みを浮かべながら演奏している。
演奏している背景に映る都内の夜景というシチュエーションに合わせたかのような選曲である(もちろんこれも「Futures」に収録されているけれど)「Midnight Train」は野外フェスではあまり夜の時間帯に見ることができないこのバンドがそのシチュエーションに実に似合うバンドであることを示している。
村松は1度曲間でギターを取り替えたのを曲中にすぐに戻していたのだが、何がしかギターにトラブルのようなものがあったんだろうか。
昨年はこのバンドだけでなく、SHIKABANEとしても出演して見事な酔っ払いおっさんっぷりを披露した村松拓のボーカルが真っ直ぐに伸びているメロディの「Milestone」から、このバンドの演奏力とそれを活かしたアンサンブルを遺憾なく発揮する「Out of Control」へと続いていく。
そして村松が改めて毎年出演しているこのフェスへの感謝を口にすると、「Futures」のDISC2の1曲目に収録されている「Dream in the Dark」へ。
「どこかの街の太陽
想い告げ会おういつか
その日を見て
輝くんだ」
という歌詞は村松の言葉通りに来年のこのフェスでの再会を約束するかのよう。タイトル通りにダークさを感じるようなイントロから一気にサビで希望を感じさせるように飛翔するというのもこのバンドが光と闇を両方持ち合わせているバンドであることを示している。
そしてラストに演奏されたのは「BLUE SHADOW」。これまでのフェスでのセトリを思い返すと意外な選曲のようであるが、「Futures」もDISC2の最後をこの曲で締めている。そのリアレンジバージョンが「この曲はこんなにカッコいい曲だったのか!」と驚くくらいに進化しているのだが、それもひたすらライブをやり、そこでアレンジを加えたり修正したりしてバンドを続けてきた結果だ。
得てして再録盤というのはオリジナル音源に比べると聞かれないことも多い。それは好きな曲やバンドであればあるほどにオリジナルバージョンに思い入れが強くなっているからであるが、「Futures」は再録盤というよりは進化盤と言える。だからこの「BLUE SHADOW」もラストに持ってこれるような曲に進化している。
元からとてつもない演奏力を持っていたメンバーとそのメンバーが集まったバンドが今でも進化を続けている。それがはっきりとわかるのが実に面白いし、それはこのバンドがこれから先も進化し続けていくということでもある。毎年中津川のあのステージでライブをする姿を見ることができれば、それを1年ごとに確認できるはずだ。
「Futures」リリース時、インタビューではやはりこのコロナに見舞われた状況についての話にもなっていったのだが、その際に生形は
「ミュージシャンが希望をなくしちゃいけない。僕らが1番前向きでいないと」
と言っていた。ライブがなくなって、直接的な収入がなくなってしまって最も厳しい状況のはずのアーティストサイドが悲観的にならずに前を向いている。この日のライブの楽しそうな姿はその言葉を体現していたものになっていたし、それを見れるから我々も前を向くことができる。これからもこういうバンドのライブを見て、そう感じながら生きていきたいのだ。
1.NEW HORIZON
2.YOUTH City
3.Spirit Inspiration
4.Midnight Train
5.Milestone
6.Out of Control
7.Dream in the Dark
8.BLUE SHADOW
20:20〜 ACIDMAN
舞台は再び中津川へ。2日目のトリは昨年も素晴らしい大トリを務めた、このフェス皆勤賞バンドのACIDMANである。
おなじみのSE「最後の国」に乗ってメンバー3人が現れると、まだ空は少し赤みが残っている。すでに配信が始まった時間は20時を過ぎているので、これはリアルタイムではなくて少し前の時間に収録したのかもしれない。この快晴っぷりは間違いなくこの日の空の様子であるが。
ステージに3人が立ち、SEのリズムに合わせて佐藤雅俊(ベース)が手を叩くと、昨年の1stアルバム「創」の再現ツアーで新曲として披露されてファンに響めきを与えた「灰色の街」の壮大なメロディが中津川に響き渡っていく。去年のトリのライブを見た時にも思ったが、やはりこの場所とACIDMANの相性は抜群である。
ダンサブルなサウンドとともに暗くなった空を見上げたくなるような「FREE STAR」では間奏で大木伸夫(ボーカル&ギター)がステージを降りて芝生エリアを歩き出して、正面にいるカメラを指差してギターソロを弾く。スクリーンがあるような大きいステージでのライブもたくさんやっているバンドだけれど、大木のこんな姿はなかなか見れない。普段はカメラではなくて客席の方を向いているからだ。そういう意味ではこれは配信だからこそ見れるものなのかもしれない。
すると大木が新曲を披露することを告げる。アニメ主題歌に起用されたことを嬉しそうに口にしていたが、その新曲「Rebirth」は「生まれ変わる」というテーマが期せずしてこの世界に向けて歌われているようであったし、何よりもただひたすらに「良い曲だな」と思える曲。今でもACIDMANからそういう曲が届けられる。それは「赤橙」などの名曲がリリースされた時のドキドキする感覚を思い出させてくれる。
その「赤橙」もライブならではのイントロが追加されたアレンジで演奏され、タイトルに合わせて赤い照明が演奏しているメンバーを照らす。
さらにはドローンカメラがステージから遠く離れて中津川の街一帯を映し出す中で壮大に響き渡ったバラードは「世界が終わる夜」。その映像はそのままカメラからやたら遠いことで話題になっているACIDMANのアー写としても使えそうなくらいにこのバンドの持つ世界観の延長そのもの。この日は去年演奏されて時に会場に感動を巻き起こした「ALMA」は演奏されなかったけれど、この曲がこれからこの場所で新しい歴史を刻んでいくような予感がしていた。
「ここからまた盛り上がっていくぞー!」
と大木が力強く宣言すると、イントロでサトマが自身に寄ってきたカメラに向かっていつもは客席に向かってやるように両腕を上げて煽る「ある証明へ」。浦山一悟のドラムもさらに力強くなり、大木は
「一緒に声を上げてくれー!」
と言うと、画面の向こうで声を上げているであろう誰よりも大きな声で叫ぶ。
「追い掛けた夏の暮れゆく旅路を
未だ果てぬ声 遠ざかる」
今ACIDMANが立っている場所への旅路を今年の夏の暮れに辿ることはもうできない。でも、だとしてもきっと来年にはこの会場に来て、何度でも息を深く吸い込むのだろう。きっと来年もACIDMANはここでライブをしてくれるのだから。
そして大木は
「何の根拠もないけど、俺たちは絶対大丈夫!あなた達も絶対大丈夫!」
と叫んでラストの「Your Song」を演奏した。その叫んだ言葉に、曲に、音に込められた感情が画面を通り越してこちらまで飛んできているかのようだった。今はまだ無理だけれど、来年にはあの会場でこの曲を聴いて去年みたいにモッシュとダイブでもみくちゃになって気持ち良く笑顔で帰っていく。そうなれることを頭の中で来年までずっと思い描いている。
ACIDMANがライブが素晴らしいバンドであるということはわかりきっていることだ。そういうバンドだから20年以上に渡って最前線で戦い続け、今でもこのフェスのメインステージでトリを務め、Zeppクラスが即完するバンドであり続けている。
でもやはりこのフェス、この会場で見るACIDMANはやはり格別だ。もちろんACIDMANは常にどんな時でも100%のライブを見せてくれる。でもこのフェスはこうして全ての年でACIDMANを呼び、こうしてトリを任せている。その期待をバンドが自分たちの力にしている。
そしてバンドが目指す世界とこのフェスが目指す世界が同じものである。そうして自分たちのことを理解してくれている人たちがこのフェスにはたくさんいる。それがこのフェスで見るACIDMANが最高な理由なんじゃないかと思う。来年はまたアンコールも含めて、もうちょっと長い時間、多くの曲を目の前で浴びれますように。
1.灰色の街
2.FREE STAR
3.Rebirth
4.赤橙
5.世界が終わる夜
6.ある証明
7.Your Song
こうして配信でフェスを見るのも楽しい。でもやっぱりあの場所でライブをしているのを見ると、今年あの場所に行けないという事実がのしかかってきてしまって寂しくなってしまう。まだ来週もこのフェスは続くけど、中津川の景色が見れるのは今週だけ。来年は画面越しじゃなくて実際にあの場所で。画面で見ても行った気持ちにはなれないし、ウエノコウジが行っていたように、実際に自分がそこに行くということが1番大事だと思っているから。
THE PINBALLS 「Acoustic Session Live "Dress Up 2 You"」 @Blue Motion YOKOHAMA 10/3 ホーム
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