我々ファンですら知る由もない大学生の頃に結成しているとはいえ、バンドとしてもう20周年を迎えた、サンボマスター。
かつて「究極ベスト」という名のベストアルバムをリリースしているだけに、果たしてこの周年タイミングのアイテムは?と思っていたら、届いたのは昨年2マンツアーを回ったアーティストたちを中心とした(ある意味ではツアー自体がこのアルバムへの布石だったと言える)、トリビュートアルバム。
「レーベルの垣根を超えた」という枕詞はトリビュートアルバムには当たり前のものであるが、それにしてもこのメンツが集まるのはサンボマスターのトリビュートだからこそなんじゃないかというくらいに豪華な12組のアーティストによる12曲。今回はそれを1曲ずつレビューしていこうと思う。
1.ロックンロール イズ ノットデッド / SUPER BEAVER
始まりを告げるのは、明らかに柳沢亮太のものであることが一瞬でわかるギターのフレーズによってわかる、SUPER BEAVERの「ロックンロール イズ ノットデッド」。
このアルバム付属のツアードキュメンタリーDVDにて、SUPER BEAVERと対バンした際に山口隆がステージ袖で渋谷龍太のライブ中のMCをずっと聞いている姿が映し出されていたが、
「何度だって立ち上がるんだよ 君よもう悲しまないでくれ」
というフレーズは、サンボマスターによる続かなかったバンドや形が変わってしまったバンド、いなくなってしまった人たちへ向けたメッセージであるが、それは紆余曲折、普通ならば全員が音楽を辞めていたとしてもおかしくないような歴史を辿ってきながらも、ロックバンドであるということを決して諦めなかったSUPER BEAVERというバンドそのもののメッセージでもある。
だからこそアルペジオとコードを行き来する柳沢のギターと、上杉研太(ベース)と藤原広明(ドラム)によるコーラスが、この曲をサンボマスターの曲でありながらもSUPER BEAVERのものとして昇華している。
「君の不安を終わらせにきた」
という、SUPER BEAVERバージョンだからこそ繰り返し渋谷が歌うフレーズは、音楽性というよりも精神性でこの2組が同じものを共有しているということがよくわかる。
サンボマスターが鳴らしてきたこの曲に何度となく涙を流してきた人も、SUPER BEAVERの真っ直ぐな正攻法に胸を打たれてきた人にも間違いなく響く、初っ端から涙が視界を曇らせる、ロックンロールミュージックを鳴らしてきた人間と、ロックンロールミュージックを聴いてきた全ての人への賛歌。
2.できっこないを やらなくちゃ / BiSH
おそらくこのトリビュートへの誘いが来た時に、1番本人たちがビックリしたであろう、BiSH。
もはや地上波のバラエティ番組で特集が組まれるくらいの存在になっているが、「楽器を持たないパンクバンド」というキャッチコピーの通りのパンクサウンド、でもやはりスリーピースバンドのサンボマスターによる原曲よりも煌びやかな、実にBiSHとしてのストレート(それはこのバンドたちが並ぶ中では変化球のようにすら感じる)を投げ込んでいるアレンジ。
今や日本中の様々なロックフェスに出演するようになった存在であるが、それでも出始めた時はアイドルとして(リスペクトを込めて敢えてそう呼ぶ)そうしたステージに立つこと、そのステージを大きなものにしていくことは側からみれば「できっこない」ものだったかもしれない。
でも彼女たちはサンボマスターから受け継いだ「やらなくちゃ」精神によって、自分たちがいることができる場所を増やしていった。
それはインディーズデビュー時に明らかにどこにも属する場所がなかったのが、音楽とメンバーの人間としての力でいることができる場所を作っていった、若き日のサンボマスターのようだ。誰か1人が歌うのではなく、6人全員による歌唱のリレーで歌うサンボマスターの曲も、BiSHにしかできない新鮮さに満ちている。
3.光のロック / ヤバイTシャツ屋さん
イントロからして完コピである。紛れもなく「光のロック」でしかない。きっとヤバTの3人は編成が同じであるということもあるだろうけれど、サークルの部室でこうしてサンボマスターの曲をコピーしていたんだろうな、ということが実によくわかるくらいの潔い完コピっぷり。
でもこれは間違いなくサンボマスターではなくてヤバTの「光のロック」である。それを感じさせるのが、こやまたくや(ボーカル&ギター)としばたありぼぼ(ベース&ボーカル)による、男女混声のハーモニー。
このトリビュートに先駆けてリリースされた、ROTTENGRAFFTYのトリビュートアルバムの「D.A.N.C.E」においてもそうだったが、サンボマスターもロットンもヤバTも、サウンド自体は実にパンクかつラウドなバンドである。でもヤバTはそれをポップに感じさせるように鳴らすことができる。それを可能にしている最大の要因は、実はしばたのボーカルであるということがこのトリビュート2作品を聴くとよくわかるし、それはもはや当たり前のように慣れてしまっているが、ヤバT自身の曲をポップたらしめている要素でもある。
そしてほぼ完コピにも関わらず、この曲のドラムは音だけを聴いていても、木内泰史のドラムではなく、もりもとのドラムであることがわかる。もう音からもりもとが叩いている姿が見えるのだ。ただキャラが強いだけではなくて、その音に自分たちの人間性を宿らせることができる。
なぜヤバTがここまで巨大なバンドになれたのかということを浮き彫りにするカバーであると同時に、その発明と言っていいくらいの言語センスとバンドとしての独自の在り方で新しき日本語ロックの道と光を切り開きながら進むヤバTが「光のロック」をカバーすることを選んだのは紛れもなく必然なのである。
4.青春狂騒曲 / MONGOL800
なんだこのサンボマスターらしからぬレイドバックしたサウンドは!?と思っていたら、響いてくるのは穏やかかつ安心感に満ちたキヨサク(ボーカル&ベース)の声。あ、モンパチか!と納得してしまうくらいにホーンをはじめとした賑々しいサウンドが彩る形に姿を変えた「青春狂騒曲」である。
そもそも同世代であり、世の中に登場したタイミングも(モンパチのほうが早かったとはいえ)ほとんど一緒、当時からお互いに刺激し合ってきたであろう両者なだけに、モンパチがやるんならば当時を思い返すかのようなストレートなパンクアレンジになるのかと思いきや、そこは沖縄のバンドとしてのモンパチを強く感じさせるものになった。
だがその選択が、この豪華なアーティストたちの中にあってモンパチだからこそできるアレンジとして鳴っている。ずっと同じ形で続いてきたサンボマスターと、形が変わらざるを得なくなったモンパチ。同じように一瞬にして世の中に知れ渡る存在になった両バンドが、青春と呼べる時代を共有しながらも、幼少の頃から見てきた景色はまるっきり違うということを感じさせる。それは山口隆がボーカルで近藤洋一がプロデュースを務めた、猪苗代湖ズ「I love you & I need you ふくしま」を聴くとより明らかであるが、まさかキヨサクが山口隆よりも太るなんて、「MESSAGE」が国民的ヒットアルバムになった頃は予想だにしていなかった。
5.世界はそれを愛と呼ぶんだぜ / Fear, and Loathing in Las Vegas
イントロを聴いてもなんの曲のカバーなのか全くわからないくらいのトランスアレンジ。でも誰がカバーしているのかは一瞬でわかる。それくらいに、なんちゃらラスベガスこと、Fear, and Loathing in Las Vegasは一音で自分たちの音楽であるということをわからせることができるバンドである。
オートチューン越しとはいえ、いつも以上にはっきりと聞き取れるSoのボーカルと、Minami(シンセ)のデスボイスによる「愛と平和」コール、さらには原曲にはないけれど、サンボマスターへの溢れる愛ゆえにねじ込んだかのような、山口隆の語り口そのもののTaiki(ギター)によるメッセージ。その全てが、このバンドがサンボマスターの名曲たちの中で最も世の中に知られた存在と言えるこの曲をこのバンドかカバーすることの理由になっている。
山口隆は昨年の「100m走」というタイトルの通りでしかないくらいに、全力で走ることしかできないこのバンドとのデカスロンツアーの新木場での対バンの際に、
「俺は最近の若手バンドの中ではTomonori(ドラム)ほど可愛がってる奴はいない!」
と口にしていた。サウンドアプローチも、年代も全く違う。でも確かに通じるものがあるからこそ、サンボマスターはこのバンドのことを大切な存在に思っているのだろうし、その際にサンボマスターは急逝した前ベーシストのKeiに「ロックンロール イズ ノットデッド」を捧げた。
これからも一緒にライブをやりたいからこそ、バンドを続けていて欲しい。そんなサンボマスターの想いに音で100%応えるような、ラスベガスだからこそできる素晴らしい愛と平和の象徴。
6.夜汽車でやってきたアイツ / 銀杏BOYZみねたかずのV
おそらくこのトリビュートの中では最も早くライブでコラボして披露されていた、銀杏BOYZの峯田和伸による「夜汽車でやってきたアイツ」。
そもそもまだサンボマスターがインディーズでデビューした当時から一緒にライブをやり、山口隆をして
「俺もファンのみんなみたいに、銀杏BOYZを夢中で追いかけたかった」
と言うくらいに両者は仲間という枠を超えた特別な存在である。(初回盤DVDのドキュメンタリーで峯田は山口に「月に咲く花のようになるの」を「思い入れがあるから」という理由でリクエストしている)
だからこそ出会った当時から演奏していたこの曲を峯田は選んだのだろうが、峯田の弾き語りで始まり、ノイズにまみれたアレンジのアルバム「BEACH」を彷彿とさせるサウンドに変化していく。
それは「エンジェルベイビー」や「骨」の近年なポップな曲とは全く異なるものであり、それが銀杏BOYZ名義ではなく「銀杏BOYZみねたかずのV」という名義での参加になったことがわかるが、それは銀杏BOYZとしての音源としてのデビュー曲となった、エレファントカシマシのトリビュートアルバムに収録された「悲しみの果て」を彷彿とさせる。
そんな近い距離にいた両者も、サンボマスターがお茶の間にまで知られるような存在となり、峯田も役者としての才覚を発揮するようになって、数年前までは少し離れたような印象があった。でも近年、サンボマスターは銀杏BOYZの「NO FUTURE NO CRY」をトリビュートアルバムでカバーし、峯田はこうして「夜汽車でやってきたアイツ」をカバーしている。それを両者の対バンという形でライブの場で実際に見ることができる。
「山口くん、近ちゃん、木内くん。俺たちは誰に後ろめたいことをしてきたわけじゃないよねぇ!」
と、峯田はこの曲をサンボマスターとともに演奏した時に口にした。その両者のことをずっと見てきた我々ファンも、誰に後ろめたいことをしてきたわけではなく、イタリアの映画みたいに愛し合ってたんだ。
7.ラブソング / My Hair is Bad
ドキュメンタリーDVDで「対バンし過ぎている」と言われているくらいに、年代は違えど相思相愛なサンボマスターとMy Hair is Bad。
かつて椎木知仁(ボーカル&ギター)はフェスに出始めるようになった頃に、
「たくさんの本物のアーティストたちを実際にこの目で見た」
と口にしており、エレファントカシマシや銀杏BOYZと並んでサンボマスターの名前も挙げていた。
歌詞にしてきた言葉はまるっきり違えど、自身の衝動を音にするスリーピースバンドという点では間違いなくサンボマスターの影響を受けているだろうけれど、果たしてそんなマイヘアが選ぶサンボマスターの曲は?と思っていたらそれは曲目だけを見た時はかなり意外に思えた「ラブソング」。
しかし実際に聴いてみると、逆にサンボマスターがカバーしたMy Hair is Badの「いつか結婚しても」(限定盤DISC2に収録。対バン時にライブでも演奏されている)に連なるような、マイヘアの懐の広さ、おおらかさを感じさせるようなアレンジに。
そもそも今ではマイヘア屈指の名曲の一つと言っていいくらいの位置になった「いつか結婚しても」も、リリース当時は「丸くなった」「トゲがなくなった」とも言われていた。でもそれはマイヘアが変わったのではなくて、もともと持っていた要素であるということがこの「ラブソング」を聴くとよくわかる。だってマイヘアはずっとこの曲を聴いて育ってきたのだから。今や涙なしでは聴けないサンボマスターの切実さとはまた違った魅力を椎木の声とバンドの演奏は確かに持っている。
8.世界をかえさせておくれよ / 打首獄門同好会
意外なような参加アーティストのようでいて、曲を聴くとすぐに納得できるのはきっとサンボマスターのトリビュートだけではあるまい、という意味ではバンドとして実に美味しい立ち位置にいる、打首獄門同好会。
そもそも歌詞やキャラクターはコミカルであるけれども、サウンドはラウド・パンクなバンドであるだけにこの曲を打首流のパンクに仕立て上げていることも納得であるが、サンボマスターのライブでのみこの曲を聴いていると忘れそうになるけれど、この曲の原曲には女性ボーカル(伊藤歩)が参加している。
その女性ボーカルのフレーズをjunko(ベース)と河本あす香(ドラム)が歌うことによって、大澤敦史(ボーカル&ギター)特有のドスの効いたボーカル以上に打首らしさとなっていく。女性メンバー2人の声質の違いも曲をポップに、カラフルに彩る要素になっている。
その3人でのボーカルの歌い分けを活かせるからこそのこの選曲であるかもしれないが、自分たちだけのやり方で音楽シーンの傍道を無理矢理本道にしようとしてきた打首獄門同好会だからこそ、「世界をかえさせておくれよ」はサンボマスターであり打首のバンドとしてのメッセージとなっている。
両バンドのメンバーたちが並んでいるのを見ると、楽屋や打ち上げで楽しそうにワイワイやっているような情景が浮かぶ。きっとこれから何度となく一緒にライブをやる存在になっていくのだろう。
9.さよならベイビー / 10-FEET
銀杏BOYZ、MONGOL800とともにインディーズ時代からの盟友である、10-FEET。かつてサンボマスターの「男どアホウサンボマスター」に出演した時にはドラムのKOUICHIが
「俺、木内のことが大好きやねん!」
と言って、木内のかわりにドラムを叩いたり、ロッキンオンジャパン誌での2万字インタビューでのTAKUMAの第一声が
「前のサンボマスターのやつ(山口隆の2万字インタビュー)、めちゃくちゃ面白かった」
というものだったり、10-FEET主催の京都大作戦にサンボマスターが何回も出演していたりと、両者の結びつきは非常に強い。
それはサンボマスターの中でも初期の曲である「さよならベイビー」という選曲からも、この曲が両者にとって思い入れのある曲であることは想像に難くないが、10-FEETはライブでのイメージ以上に音源では3人の楽器以外の音もふんだんに取り入れており、それはこの曲においてもそうである。
タイミング的にはいわゆる青春パンクブームの渦中で注目されて認知されてきた両バンドであるが、今のそれぞれの活動を見ているとそんな感じは全くしない。やはり当時からそのシーンに片足踏み込んでいるように見えて、パンクだけにとどまらない(サンボマスターならばソウルミュージック、10-FEETならばミクスチャーなど)音楽性の幅広さを持っていた。
それに加えて、両バンドのボーカリスト同士が持つ、優しさや人間性を感じさせるライブでのMC。今回のカバーでは山口の曲中での語り口はオミットされているが、それはTAKUMAは山口と同じようなことをしても敵わないことをわかっているからだろう。どちらの言葉からも生きていく力や感動をもらえるけれど、その力の湧き方はどこか違う。
そうしてバンドとしての音楽性やタイプは違えど、同じスリーピースバンドとして、ともにずっと形が変わらずに続いてきた。その姿にどちらも大きな刺激をもらってきたのだろう。これからもどんなことがバンドに降りかかってきても、この曲があれば悲しみにさよならすることができる。
10.二人ぼっちの世界 / 岡崎体育
この曲の情報を知らない人がラジオとかでいきなり聴いたら、岡崎体育がサンボマスターの曲を歌っているということに全く気づかないであろうくらいに、イメージとしての岡崎体育らしさ、コミックさやギミックのような全くない。どストレートに曲を歌いあげている。(岡崎体育にとってはそれが変化球というか、投球の95%以上がナックルボールを投げるナックルボーラーがたまに投げるストレートのような)
つまり普段の岡崎体育の音楽を聴く時の面白さはないわけだが、なのに聴いていると何故か胸を打たれるような、切ない気持ちになる。それはこの曲の持つ力でもあり、岡崎体育の純粋なシンガーとしての力に気付かされるものでもある。
そもそもがシングル曲でもなければ、サンボマスターが「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」がヒットした直後の混迷の時期に、制作予算を大幅にオーバーして作られた大作アルバム「僕と君の全てをロックンロールと呼べ」に収録されているこの曲をチョイスするというあたり、岡崎体育がかなりコアなファンであることが窺える。
それはもしかしたら1人で実家でサンボマスターの曲を聴いていた少年期の岡崎体育の原風景なのかもしれないし、今の岡崎体育の世間に広がったパブリックイメージと自身とのギャップの発露としての選曲なのかもしれない。
岡崎体育も出演したデカスロンツアーではファンも演奏されたことにビックリするくらいに実に久しぶりにライブでも演奏された曲であるが、
「僕ら二人 世界で二人だけ」
というフレーズのメロディ、サウンド、歌詞が銀杏BOYZ「東京」のフレーズの一部にそっくりだと当時両バンドのファン同士がざわついていたのも今となっては良い思い出である。その人たちも今こうしてこのアルバムを聴いてくれているのだろうか。
11.美しき人間の日々 / Ichiro Yamaguchi + Setsuya Kurotaki
数年前にTOKIOの山口達也が事件を起こして「山口メンバー」と報道されるようになった時、マキシマム ザ ホルモンのナヲは
「サンボマスターとサカナクションがうらやましい!」
とライブのMCで言っていた。山口という姓のメンバーがいればいじることができるからであるが、当時は名字が同じということ以外はかけ離れた存在であったサンボマスターとサカナクションがこうして邂逅することを誰が想像していただろうか。
そんな山口一郎がソロ名義でカバーすることを選んだのはサンボマスターのメジャーデビューシングルであり、多くのロックファンに衝撃を与えた「美しき人間の日々」。
山口隆の熱苦しいボーカルとバンドの演奏をそのままカバーするわけではなく、当たり前のように山口一郎ならではのスタイリッシュなダンスミュージックとして生まれ変わっている。
かねがね、山口隆は「ロックンロールはダンスミュージックである」ということを口にしてきた。ダンスの仕方は違うかもしれないけれど、バンドとしてダンスミュージックを追求してきたサカナクションの山口一郎とサンボマスターがこうして交わるようになることは必然だったのかもしれない。
12.そのぬくもりに用がある / 奥田民生
豪華なアーティストたちによる、幅広いサンボマスターの音楽の再解釈の旅もいよいよ最終地点。最後を飾るのはこのアルバムの参加アーティストの中では唯一の先輩と言っていい存在である、奥田民生。
これまでも数々のトリビュートやカバーを夜に送り出してきた奥田民生によるアレンジには様々な選択肢や方法論があるわけだが、この曲のカバーについてはシンプルなバンドサウンド。
しかし実態は演奏をサンボマスターの3人が担当している、つまりトリビュートされる側が参加しているという、奥田民生だからこそ許されるような超反則技をいつものように飄々と行っている。
そうした理由はサンボマスターの始まりの曲と言っていいこの曲を今のバンドとしての演奏に生まれ変わらせ、自身とともにレコーディングすることで、サンボマスターに新しい技術や知恵を伝授しようという狙いもあったはず。
奥田民生とともにユニコーンのメンバーであるABEDONがデビュー時の氣志團(またサンボマスターの盟友でもある)のプロデュースを担当することになった際に
「氣志團には自分がこれまで培ってきたもの全てを伝授しようと思った」
と言っていたが、ユニコーンのメンバーは数々のバンドに影響を与えてきただけでなく、実際に自分たちがともに演奏や活動をすることで、日本のロックシーンのレベルをさらに引き上げようとしている。
この音源では山口隆がギターソロまでも弾いているが、ライブでのコラボ時には奥田民生がギターソロを弾いていた。かつて山口はこの曲のギターソロ前に、
「俺は言葉にならないからギターを弾くわけですよ!」
と言ってから弾いていたが、奥田民生はそう言わずにギターソロを弾く。言わないけれど、奥田民生も決して自分の音楽を事細かに言葉にしたりしないアーティストだ。
このトリビュートアルバムでは若手バンドたちがサンボマスターから受け継いだものを自分たちの音楽として表現してくれたが、最後にはサンボマスターが先輩から受け継いだものを自らの音で表現している。
どれだけ時代が変わっても、決して変わることはない音楽の循環と螺旋。やっぱり、そのぬくもりにだけ用があったのだ。
全12曲。聴いているとやっぱりサンボマスターのライブを見たくなるし、会いたくなる。ドキュメンタリーDVDにも子供を連れてライブハウスに来た家族がインタビューされたりしていたが、かつてはおじさんがメインの客層だったサンボマスターの客層は今や本当に広くなった。
そんな老若男女がみんなで「愛と平和」を叫ぶ。その光景が呼び起こす感動。
ライブに行くことができないこの状況が終わって、本当ならスタートしているサンボマスターの20周年ツアーに行ってライブを見ることができたら、客席は号泣する人で溢れるだろう。そのために、山口隆が常々口にしてきたように、我々はこの事態を乗り越えて、生き続けなければいけないのだ。