愛しておくれ pre. "承認欲求と初期衝動バレンタインSP" 愛しておくれ / 東京初期衝動 @下北沢SHELTER 2/14
- 2020/02/15
- 00:42
この日、2/14はバレンタインデーである。ということでおそらく各地のライブ会場ではそれに応じたというか乗っかったようなライブも多く開催されていると思われる(以前はVIVA LA ROCKの主催者の鹿野淳も「VALENTINE ROCK」というイベントを開催していた)が、下北沢SHELTERでのライブもやはりバレンタインSPというタイトルが冠されている。
この日のライブは愛しておくれと東京初期衝動の対バン。バンド名からしてGOING STEADYの影響を強く受けているであろう、愛しておくれと、銀杏BOYZのライブに行くとメンバーの姿をよく見かけるという、峯田和伸からの影響を強く受けている東京初期衝動との2マン。
峯田和伸の作る音楽に人生を変えられたと言っていい自分にとっては親近感が湧く対バンである。
・東京初期衝動
先攻はVIVA LA ROCKへの出演も決まっており、すでにBAYCAMPも出演を果たしている、インディーズでは話題になっている4人組ガールズバンド、東京初期衝動。
19時半を少し過ぎた頃にTommy february6「Je T'aime☆Je T'aime」のSE(この選曲も素晴らしいセンスだと思う)で、なお(ドラム)、かほ(ベース)、希(ギター)の3人がステージに登場すると、最後に椎名ちゃん(ボーカル&ギター)が走って登場。もれなくジャージというラフな姿である。
「ハッピーバレンタイン!」
と椎名ちゃんが長い髪を振り乱しながら叫び、「Because あいらぶゆー」でスタートすると、語りかけるような歌い出しからサビでは
「殺しておけばよかった 殺しておけばよかった」
という一気にパンクに転じるサビでは早くも椎名ちゃんは演奏しているメンバーを横目にギターを置いて客席にダイブを連発。この曲の
「ハロー素晴らしい世界なんて見えないよ」
というフレーズは間違いなく「銀河鉄道の夜」への、最後の
「私は幻なんかじゃなかった」
というフレーズは「駆け抜けて性春」のYUKIのパートの歌詞へのこのバンドなりのアンサーであり、銀杏BOYZへのリスペクトをサウンドだけでなく言葉選びからも強く感じる。
続く「高円寺ブス集合」でも椎名ちゃんは客席にダイブしながら、
「愛しておくれの中山に任せたぜ」
と歌詞を変えつつ、都心を歩いていると嫌でも耳にする求人トラック「バニラの求人」のフレーズを爆音パンクにして鳴らす。
「Because あいらぶゆー」もそうだが、このバンドには歌詞に制約が全くない。「誰も傷つかないように」というあらゆる面に気を使って書いた歌詞は確かに聴いて傷ついたりする人はいないかもしれないが、全ての音楽がそうした歌詞ばかりになってしまったら、全ての音楽が漂白されたような、刺激のないものばかりになってしまう。
でも聖人君子でもない限り、誰しもがそうした想いを抱いたことが生きていれば一度くらいはあるはずで、このバンドの歌詞は聴いている自分自身のそうした瞬間のことを思い出させるし、そこに自分たちを良く見せようというような、キレイなように見えるようでいて実は邪念のようなものが全くない。
だからこそ、演奏は実に荒いという原石のような印象のライブであっても、何かキラキラと輝いているものを感じるのである。
椎名ちゃんがギターを手にすると、現状ではライブでのみ演奏されている「商店街」ではメンバーの「大嫌い」というコーラスが強く印象に残る。この「商店街」が銀杏BOYZファンには聖地となっている、高円寺の純情商店街のことをモチーフにしているのかわからないが、イントロにきらめくような同期のサウンドを使った「流星」も同様に、聴き手それぞれの脳内に情景を思い浮かばせる。
椎名ちゃんがパーカーを脱いでバンドのTシャツ姿になると、歌詞のタイトルフレーズと
「君との時間どんくらい?」
などの言葉遊びがキャッチーなメロディをさらに際立たせる「BABY DON'T CRY」、椎名ちゃんの弾き語り的な形から途中でバンドサウンドになるというアレンジの「中央線」から、GOING STEADYの曲の中では同タイトルの曲が好きなんだろうかと思う「STAND BY ME」と続くのだが、基本的には轟音、爆音のパンクロックなのだが、その音の奥にはポップかつキャッチーなメロディがある。というか、そうしたサウンドだからこそそのポップさ、キャッチーさがより強く感じられるというのはこれまでのロックの歴史が証明してきたことでもあるが、それはメロディメーカーと呼べる存在がバンドにいるからこそ。そしてそれは割と資質として備わっているというか、誰しもがやろうとしてできるようなことではないと思っている。
自分はこのバンドのライブを見るのは初めてだったのだが、なんだかイメージとしてはもっとMCで喋ったりして観客とコミュニケーションを取るようなバンドだと思っていた。
でもMC一切なしでひたすら曲を連発するという驚くくらいにストイックな展開だったのだが、そんな中でキラーチューン揃いの持ち曲の中でも最大のキラーチューンと言っていい「再生ボタン」では椎名ちゃんが再びギターを置いて客席に飛び込んで行こうとするのだが、上手く飛べずに歌詞をも飛ばしてしまうという不完全燃焼な形になってしまう。
そこには少し精神が不安定なんだろうかというような心配もしてしまったのだが、
「もう一回、もう一回「再生ボタン」やろう」
と言って、再び「再生ボタン」を演奏すると、椎名ちゃんのボーカルが一瞬でガラッと変わった。何が変わったと言われるとなんとも説明しがたいのだが、声の出し方と飛距離がまるっきり変わった。1回目の「再生ボタン」やそれまでよりも、生々しさと生命力が比べ物にならないくらいに増した。たった一瞬で。
しかもそれによってバンドの演奏全体がリザードがリザードンに急に進化したかのように一気に音の強さと説得力が増した。よく「バンドは生き物」と言うし、実際にその時のメンバーの精神状態やテンションなどで同じ曲を演奏していても全く違うものになるというバンドマジックの瞬間を何度となく体感してきたが、この日の東京初期衝動のライブもそれを実感させてくれるものだったし、このバンドがただやりたい放題暴れているだけのバンドなんかではなくて、何かとてつもない力を持っているんじゃないだろうかとすら感じた。
だからこそとても掲載できないであろう歌詞のファストパンクな「兆楽」では荒い中で最も安定感とそもそも持っていたであろう技術をなおのドラムが感じさせ、ラストの「ロックン・ロール」ではどこかそれまでよりもかほも希も演奏しているのが楽しそうに見えた。何よりも、見えない何かと戦っているような感じすらある気迫を感じさせた椎名ちゃんが、歌い終わった後に一瞬笑顔を浮かべていた。演奏が終わった瞬間、メンバーはステージからすぐに去っていったけれど。
客席はパンクが好きそうな男性がメインであったが、その男性たちの表情やモッシュをしまくって楽しんでいるような姿からは、このバンドへの強い期待を感じさせた。何より、数え切れないくらいにたくさんのバンドを見てきたであろう鹿野淳やP青木(キュウソネコカミのライブの前説などでおなじみのBAYCAMP主催者)が自分たちのフェスやイベントにこのバンドを呼んでいるのがライブを見てわかった気がした。
もう10代の頃のような、得体の知れない衝動のようなものが我々にはあるわけじゃない。でも社会の中で行儀良くしたり、愛想良くしていたりしていないといけないような息苦しさをこのバンドは開放してくれるような、そんなロマンが確かに宿っている。どこか危うさすら感じるくらいにこれからどうなっていくのかが全くわからないが、どうか長く、広くこの音楽が鳴り響くように。
1.Because あいらぶゆー
2.高円寺ブス集合
3.商店街
4.流星
5.BABY DON'T CRY
6.中央線
7.STAND BY ME
8.再生ボタン
9.再生ボタン
10.兆楽
11.ロックン・ロール
再生ボタン
https://youtu.be/vST8frtRZUw
・愛しておくれ
中山卓哉(ボーカル&ギター)、小畑哲平(ギター)、中沢犬助(ベース)、高原星美(ドラム)の4人組である、愛しておくれ。バンド名は間違いなくGOING STEADYの同名曲から取っていると思われるが、小畑以外の3人はこのバンドの前にグッバイフジヤマというバンドをやっていて、自分はそのバンドのライブを何度か見たことがある。
グッバイフジヤマが解散し、昨年6月から活動を開始したこのバンドになってからはライブを見るのは初めてであるが、黒髪マッシュヘアのイメージだった(だからこそ東京初期衝動の「高円寺ブス集合」で歌詞を使われた)中山は金髪に変わり、
「すべての死にたい夜を超えてここへ来てくれたあなたたちに捧げます」
と言って新曲の「ユー・アー・ノット・アローン」からスタートすると、ビックリした。グッバイフジヤマの時は天然というか無垢な感じすらする、ポップなバンドというイメージ(あえて名前を挙げるならサニーデイ・サービス的な)だったのが、完全に青春パンクに振り切っている。
中山はギターを持ってもすぐに下ろして客席にダイブしまくり、さらには最前の観客の女性(ビックリするくらいに東京初期衝動の時と最前の観客が入れ替わっていた)の頭をわしゃわしゃと撫でたりするのだが、メガネをかけてひょろりとした体型の、いかにも文系ロックバンドマンというような風体をしている小畑もギターを持ったまま客席最前の柵に足をかけながらギターを弾くのだが、さらにマイクを口に咥えてコーラスというか、もはや叫ばずにはいられないような衝動を炸裂させる。同じようにクールなイメージだった中沢も叫ぶようにコーラスをしていたりと、バンド名が変わったことによってメンバーの人格すらも変わってしまったかのような感じすらする。
バレンタインだからということで、中山はライブ前に買い込んできた3000円分のお菓子をメンバーとともに客席にばら撒くもややネタとしてはスベり気味だったのだが(バレンタインだからうまい棒は甘いシュガーラスク味なのを高原に突っ込まれていた)、曲を聴いていると前のバンドの時とはサウンドだけでなく、歌詞もかなり変わったように感じる。
グッバイフジヤマの時はロマンチックなというか、風景描写が得意なソングライターというイメージで中山のことを見ていた。でも愛しておくれの歌詞にそうしたものはほとんどない。歌っているのは情けない自分のこと。だからこそ届かないあの子のこと。自分でそうした自分自身のことを認めて、肯定することができたからこそ、こうした歌詞の曲を歌えるようになったんだろうし、そうした自分自身をストレートに伝えるためのサウンドとしてのパンクロック。
中山の少し不器用な話し方と歌い方、そして何度もギターを持ってはすぐに下ろして客席にダイブしていくという衝動の炸裂させ方はこうしたサウンドが実によく似合っている。あるべきところに自身がしっかりハマったというか。
とはいえメンバーは青春という時代はとっくに通り過ぎている年齢であるし、結成したばかりとはいえ全然若手と言えるような年齢でもない。新作CDを会場限定販売にした理由をなかは
「大人は信用できないから」
と言っては高原に
「俺たちより年下の大人ももういっぱいいるぞ」
と突っ込まれていたが、そういう年齢の男たちが今になって新しく始めたのが青春パンクバンドという事実が、青春パンクは過ぎ去っていくものではなくてずっと衝撃を受けたその人の中に存在し続けていくものであることを証明している。
終盤には中沢のモータウン的なリズムから一気に加速したりと、グッバイフジヤマ時代から長く経験と技術を重ねてきたバンドだからこその衝動だけではない部分もしっかりと見せてくれる。というかこうした青春パンクと言えるようなバンドの中ではかなり高い演奏技術を持ったバンドであると思う。だからこそ、パンクは必ずしも演奏が上手くない人がやる音楽ではないというかのような。
こちらもたまに中山のMCを挟みながらも、アンコールまで含めて一気に駆け抜けるようなライブ。だからこそ高原はかなり体力がキツそうな感じもあったが、バンドのパフォーマンスの熱量も、それを受け取る観客の盛り上がりも全く衰えることはなかった。グッバイフジヤマを初めて見たときは「緩い雰囲気のバンドだな」と思っていたが、愛しておくれはそんなことは全く思わないくらいに熱くてカッコいいバンドになっていた。
アイ・スタンド・ヒア
https://youtu.be/rBnV7y1bCig
昔、GOING STEADYや銀杏BOYZの影響を受けているであろうバンドがあんまり好きじゃなかった。自分のことを見ているような感じがして、どうにもイタいというか、小っ恥ずかしい感じがしていたのだ。
でもこの日、愛しておくれの中山が「きっと俺は嫌われている」と東京初期衝動について話しながらも(どこまでが本当なのかは観客である我々はわからないが)、
「分かり合えないのはしょうがない。本当はわかりたいし、わかって欲しいけれど」
と言っていた。同じように峯田和伸の作った音楽に影響を受けた者であっても、中山も椎名ちゃんも、自分もきっと全然違う人間だ。同じ音楽から影響を受けているというだけで、きっと分かり合えないこともたくさんある。昔はわからなかったそのことが、今は少しわかるようになった。違うからこそ表現の仕方や、表現をしようとする側とそうはならなかった側、それぞれの方法で音楽を楽しむことができている。
そして同じ音楽が好きな者同士として、彼ら彼女らがバンドのままで長く好きな音楽を鳴らせているところを見ることができたら。
ということをスピーカーがデカくて位置が近い下北沢SHELTERのライブ後ならではの耳がキーンとする感覚の中で思ったりしていた。
Next→ 2/15 Mrs. GREEN APPLE @代々木体育館
この日のライブは愛しておくれと東京初期衝動の対バン。バンド名からしてGOING STEADYの影響を強く受けているであろう、愛しておくれと、銀杏BOYZのライブに行くとメンバーの姿をよく見かけるという、峯田和伸からの影響を強く受けている東京初期衝動との2マン。
峯田和伸の作る音楽に人生を変えられたと言っていい自分にとっては親近感が湧く対バンである。
・東京初期衝動
先攻はVIVA LA ROCKへの出演も決まっており、すでにBAYCAMPも出演を果たしている、インディーズでは話題になっている4人組ガールズバンド、東京初期衝動。
19時半を少し過ぎた頃にTommy february6「Je T'aime☆Je T'aime」のSE(この選曲も素晴らしいセンスだと思う)で、なお(ドラム)、かほ(ベース)、希(ギター)の3人がステージに登場すると、最後に椎名ちゃん(ボーカル&ギター)が走って登場。もれなくジャージというラフな姿である。
「ハッピーバレンタイン!」
と椎名ちゃんが長い髪を振り乱しながら叫び、「Because あいらぶゆー」でスタートすると、語りかけるような歌い出しからサビでは
「殺しておけばよかった 殺しておけばよかった」
という一気にパンクに転じるサビでは早くも椎名ちゃんは演奏しているメンバーを横目にギターを置いて客席にダイブを連発。この曲の
「ハロー素晴らしい世界なんて見えないよ」
というフレーズは間違いなく「銀河鉄道の夜」への、最後の
「私は幻なんかじゃなかった」
というフレーズは「駆け抜けて性春」のYUKIのパートの歌詞へのこのバンドなりのアンサーであり、銀杏BOYZへのリスペクトをサウンドだけでなく言葉選びからも強く感じる。
続く「高円寺ブス集合」でも椎名ちゃんは客席にダイブしながら、
「愛しておくれの中山に任せたぜ」
と歌詞を変えつつ、都心を歩いていると嫌でも耳にする求人トラック「バニラの求人」のフレーズを爆音パンクにして鳴らす。
「Because あいらぶゆー」もそうだが、このバンドには歌詞に制約が全くない。「誰も傷つかないように」というあらゆる面に気を使って書いた歌詞は確かに聴いて傷ついたりする人はいないかもしれないが、全ての音楽がそうした歌詞ばかりになってしまったら、全ての音楽が漂白されたような、刺激のないものばかりになってしまう。
でも聖人君子でもない限り、誰しもがそうした想いを抱いたことが生きていれば一度くらいはあるはずで、このバンドの歌詞は聴いている自分自身のそうした瞬間のことを思い出させるし、そこに自分たちを良く見せようというような、キレイなように見えるようでいて実は邪念のようなものが全くない。
だからこそ、演奏は実に荒いという原石のような印象のライブであっても、何かキラキラと輝いているものを感じるのである。
椎名ちゃんがギターを手にすると、現状ではライブでのみ演奏されている「商店街」ではメンバーの「大嫌い」というコーラスが強く印象に残る。この「商店街」が銀杏BOYZファンには聖地となっている、高円寺の純情商店街のことをモチーフにしているのかわからないが、イントロにきらめくような同期のサウンドを使った「流星」も同様に、聴き手それぞれの脳内に情景を思い浮かばせる。
椎名ちゃんがパーカーを脱いでバンドのTシャツ姿になると、歌詞のタイトルフレーズと
「君との時間どんくらい?」
などの言葉遊びがキャッチーなメロディをさらに際立たせる「BABY DON'T CRY」、椎名ちゃんの弾き語り的な形から途中でバンドサウンドになるというアレンジの「中央線」から、GOING STEADYの曲の中では同タイトルの曲が好きなんだろうかと思う「STAND BY ME」と続くのだが、基本的には轟音、爆音のパンクロックなのだが、その音の奥にはポップかつキャッチーなメロディがある。というか、そうしたサウンドだからこそそのポップさ、キャッチーさがより強く感じられるというのはこれまでのロックの歴史が証明してきたことでもあるが、それはメロディメーカーと呼べる存在がバンドにいるからこそ。そしてそれは割と資質として備わっているというか、誰しもがやろうとしてできるようなことではないと思っている。
自分はこのバンドのライブを見るのは初めてだったのだが、なんだかイメージとしてはもっとMCで喋ったりして観客とコミュニケーションを取るようなバンドだと思っていた。
でもMC一切なしでひたすら曲を連発するという驚くくらいにストイックな展開だったのだが、そんな中でキラーチューン揃いの持ち曲の中でも最大のキラーチューンと言っていい「再生ボタン」では椎名ちゃんが再びギターを置いて客席に飛び込んで行こうとするのだが、上手く飛べずに歌詞をも飛ばしてしまうという不完全燃焼な形になってしまう。
そこには少し精神が不安定なんだろうかというような心配もしてしまったのだが、
「もう一回、もう一回「再生ボタン」やろう」
と言って、再び「再生ボタン」を演奏すると、椎名ちゃんのボーカルが一瞬でガラッと変わった。何が変わったと言われるとなんとも説明しがたいのだが、声の出し方と飛距離がまるっきり変わった。1回目の「再生ボタン」やそれまでよりも、生々しさと生命力が比べ物にならないくらいに増した。たった一瞬で。
しかもそれによってバンドの演奏全体がリザードがリザードンに急に進化したかのように一気に音の強さと説得力が増した。よく「バンドは生き物」と言うし、実際にその時のメンバーの精神状態やテンションなどで同じ曲を演奏していても全く違うものになるというバンドマジックの瞬間を何度となく体感してきたが、この日の東京初期衝動のライブもそれを実感させてくれるものだったし、このバンドがただやりたい放題暴れているだけのバンドなんかではなくて、何かとてつもない力を持っているんじゃないだろうかとすら感じた。
だからこそとても掲載できないであろう歌詞のファストパンクな「兆楽」では荒い中で最も安定感とそもそも持っていたであろう技術をなおのドラムが感じさせ、ラストの「ロックン・ロール」ではどこかそれまでよりもかほも希も演奏しているのが楽しそうに見えた。何よりも、見えない何かと戦っているような感じすらある気迫を感じさせた椎名ちゃんが、歌い終わった後に一瞬笑顔を浮かべていた。演奏が終わった瞬間、メンバーはステージからすぐに去っていったけれど。
客席はパンクが好きそうな男性がメインであったが、その男性たちの表情やモッシュをしまくって楽しんでいるような姿からは、このバンドへの強い期待を感じさせた。何より、数え切れないくらいにたくさんのバンドを見てきたであろう鹿野淳やP青木(キュウソネコカミのライブの前説などでおなじみのBAYCAMP主催者)が自分たちのフェスやイベントにこのバンドを呼んでいるのがライブを見てわかった気がした。
もう10代の頃のような、得体の知れない衝動のようなものが我々にはあるわけじゃない。でも社会の中で行儀良くしたり、愛想良くしていたりしていないといけないような息苦しさをこのバンドは開放してくれるような、そんなロマンが確かに宿っている。どこか危うさすら感じるくらいにこれからどうなっていくのかが全くわからないが、どうか長く、広くこの音楽が鳴り響くように。
1.Because あいらぶゆー
2.高円寺ブス集合
3.商店街
4.流星
5.BABY DON'T CRY
6.中央線
7.STAND BY ME
8.再生ボタン
9.再生ボタン
10.兆楽
11.ロックン・ロール
再生ボタン
https://youtu.be/vST8frtRZUw
・愛しておくれ
中山卓哉(ボーカル&ギター)、小畑哲平(ギター)、中沢犬助(ベース)、高原星美(ドラム)の4人組である、愛しておくれ。バンド名は間違いなくGOING STEADYの同名曲から取っていると思われるが、小畑以外の3人はこのバンドの前にグッバイフジヤマというバンドをやっていて、自分はそのバンドのライブを何度か見たことがある。
グッバイフジヤマが解散し、昨年6月から活動を開始したこのバンドになってからはライブを見るのは初めてであるが、黒髪マッシュヘアのイメージだった(だからこそ東京初期衝動の「高円寺ブス集合」で歌詞を使われた)中山は金髪に変わり、
「すべての死にたい夜を超えてここへ来てくれたあなたたちに捧げます」
と言って新曲の「ユー・アー・ノット・アローン」からスタートすると、ビックリした。グッバイフジヤマの時は天然というか無垢な感じすらする、ポップなバンドというイメージ(あえて名前を挙げるならサニーデイ・サービス的な)だったのが、完全に青春パンクに振り切っている。
中山はギターを持ってもすぐに下ろして客席にダイブしまくり、さらには最前の観客の女性(ビックリするくらいに東京初期衝動の時と最前の観客が入れ替わっていた)の頭をわしゃわしゃと撫でたりするのだが、メガネをかけてひょろりとした体型の、いかにも文系ロックバンドマンというような風体をしている小畑もギターを持ったまま客席最前の柵に足をかけながらギターを弾くのだが、さらにマイクを口に咥えてコーラスというか、もはや叫ばずにはいられないような衝動を炸裂させる。同じようにクールなイメージだった中沢も叫ぶようにコーラスをしていたりと、バンド名が変わったことによってメンバーの人格すらも変わってしまったかのような感じすらする。
バレンタインだからということで、中山はライブ前に買い込んできた3000円分のお菓子をメンバーとともに客席にばら撒くもややネタとしてはスベり気味だったのだが(バレンタインだからうまい棒は甘いシュガーラスク味なのを高原に突っ込まれていた)、曲を聴いていると前のバンドの時とはサウンドだけでなく、歌詞もかなり変わったように感じる。
グッバイフジヤマの時はロマンチックなというか、風景描写が得意なソングライターというイメージで中山のことを見ていた。でも愛しておくれの歌詞にそうしたものはほとんどない。歌っているのは情けない自分のこと。だからこそ届かないあの子のこと。自分でそうした自分自身のことを認めて、肯定することができたからこそ、こうした歌詞の曲を歌えるようになったんだろうし、そうした自分自身をストレートに伝えるためのサウンドとしてのパンクロック。
中山の少し不器用な話し方と歌い方、そして何度もギターを持ってはすぐに下ろして客席にダイブしていくという衝動の炸裂させ方はこうしたサウンドが実によく似合っている。あるべきところに自身がしっかりハマったというか。
とはいえメンバーは青春という時代はとっくに通り過ぎている年齢であるし、結成したばかりとはいえ全然若手と言えるような年齢でもない。新作CDを会場限定販売にした理由をなかは
「大人は信用できないから」
と言っては高原に
「俺たちより年下の大人ももういっぱいいるぞ」
と突っ込まれていたが、そういう年齢の男たちが今になって新しく始めたのが青春パンクバンドという事実が、青春パンクは過ぎ去っていくものではなくてずっと衝撃を受けたその人の中に存在し続けていくものであることを証明している。
終盤には中沢のモータウン的なリズムから一気に加速したりと、グッバイフジヤマ時代から長く経験と技術を重ねてきたバンドだからこその衝動だけではない部分もしっかりと見せてくれる。というかこうした青春パンクと言えるようなバンドの中ではかなり高い演奏技術を持ったバンドであると思う。だからこそ、パンクは必ずしも演奏が上手くない人がやる音楽ではないというかのような。
こちらもたまに中山のMCを挟みながらも、アンコールまで含めて一気に駆け抜けるようなライブ。だからこそ高原はかなり体力がキツそうな感じもあったが、バンドのパフォーマンスの熱量も、それを受け取る観客の盛り上がりも全く衰えることはなかった。グッバイフジヤマを初めて見たときは「緩い雰囲気のバンドだな」と思っていたが、愛しておくれはそんなことは全く思わないくらいに熱くてカッコいいバンドになっていた。
アイ・スタンド・ヒア
https://youtu.be/rBnV7y1bCig
昔、GOING STEADYや銀杏BOYZの影響を受けているであろうバンドがあんまり好きじゃなかった。自分のことを見ているような感じがして、どうにもイタいというか、小っ恥ずかしい感じがしていたのだ。
でもこの日、愛しておくれの中山が「きっと俺は嫌われている」と東京初期衝動について話しながらも(どこまでが本当なのかは観客である我々はわからないが)、
「分かり合えないのはしょうがない。本当はわかりたいし、わかって欲しいけれど」
と言っていた。同じように峯田和伸の作った音楽に影響を受けた者であっても、中山も椎名ちゃんも、自分もきっと全然違う人間だ。同じ音楽から影響を受けているというだけで、きっと分かり合えないこともたくさんある。昔はわからなかったそのことが、今は少しわかるようになった。違うからこそ表現の仕方や、表現をしようとする側とそうはならなかった側、それぞれの方法で音楽を楽しむことができている。
そして同じ音楽が好きな者同士として、彼ら彼女らがバンドのままで長く好きな音楽を鳴らせているところを見ることができたら。
ということをスピーカーがデカくて位置が近い下北沢SHELTERのライブ後ならではの耳がキーンとする感覚の中で思ったりしていた。
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