フジファブリック 15th anniversary SPECIAL LIVE at 大阪城ホール 2019 IN MY TOWN @大阪城ホール 10/20
- 2019/10/21
- 17:04
初めて曲を聴いたのは「桜の季節」が出た時だからもう15年前。青春パンクに取って替わるようにギターロックがロックシーンの覇権を握るようになった頃。他のバンドとは違う「和」の要素を強く感じさせるサウンドやシュールなMVはそれだけで異彩を放っていた。
そんなフジファブリックも今年で15周年を迎えた。周年イヤーらしくアルバム「F」のリリースをはじめとした様々な活動が活発化し、初めてミュージックステーションに出演するなど、周年イヤーはさらにたくさんの人にこのバンドの音楽を広めようという活動が目立っている。
そんな中で15周年イヤーのライブの集大成となるのがこの日の大阪城ホールでの初ワンマン。山内総一郎(ボーカル&ギター)の喋り方からも察せられることだが、この大阪という地は山内の地元である。それだけに記念の日を祝うために全国からファンが集結。普段のフジファブリックのライブでは考えられないくらいに物販も長蛇の列で、ファンみんながこの日を心待ちにしていたのがよくわかる。
関東民からしたら西の武道館的なイメージが強い(実際にそうして武道館と大阪城ホールという日程でライブをやるアーティストも多い)大阪城ホールであるが、実際に中に入ってみると構造や雰囲気は武道館というよりも横浜アリーナや幕張メッセイベントホールに近い。それは割と内装が新しめであり、武道館のような独特の圧力みたいなものを感じないからかもしれないが。
自分の座った座席はステージから真正面のスタンド最後列だったのだがそれでもステージはよく見えるし1万人キャパというほどの距離感も感じない。が、アリーナや他のスタンド席までも全て見えるだけにこの広い会場をフジファブリックが満員にしているという凄さを実感せざるを得ない。
開演時間の17時になるとメンバーが登場する先にステージ両サイドのスクリーンに映像が映し出される。2年前の大阪でのワンマン時に山内総一郎が
「地元である大阪城ホールでワンマンをやるっていう夢ができた」
と語った瞬間から、1年半前に実際にこの日の大阪城ホールでのワンマンの開催を発表した瞬間、そしてこの日の朝から開演前までの大阪城に集ったファンたちの様子という、あまりにも早すぎる編集にびっくりしてしまう。
その映像が終わるとメンバーがステージに登場するのだが、記念ライブらしく3人とも厳かな赤いスーツを着用しており、金澤ダイスケ(キーボード)はハット、加藤慎一(ベース)もハットを被っている。この日のサポートドラムはあらゆるアーティストのサポートを務めている玉田豊夢。
果たしてこの日の1曲目はなんなんだろうか。開演前からファンはその予想をしていた。アッパーな曲で始まるのか、代表曲で始まるのか…。しかし実際に金澤がイントロのキーボードを弾き始めたのはなんと「若者のすべて」。ミュージックステーションでも演奏された、今やフジファブリック最大の代表曲であるこの曲でスタートするというのはあまりに意外というか、自分もそうだがきっと多くの人はこの曲をクライマックスに置いて、そこに至るまでの流れを作るようなセットリストにするであろうと思っていたはずだ。
しかしそんなこの曲を1曲目に演奏してきたというのは大事な曲であるこの曲が決してフジファブリックの全てではないということを証明するために実に最適な選択だったと言える。真夏のピークはとっくに過ぎ去ったように思えるが、「大阪って10月でもこんなに暑いのか」と思ってしまうようなこの日の気候はこの曲の持つ夏の終わりの空気が連れてきたものなのかもしれない。
しかし自分は気づかなかったのだが、17時開演だから「夕方5時のチャイム」というフレーズのあるこの曲を1曲目に演奏したらしい。
「フジファブリックです!」
と山内が挨拶すると、一転して3人になってからの「はじまりのうた」のコーラスで観客の合唱を求める。
また、この日は物販で7色に光るペンライトが販売されていたのだが、この序盤からそのペンライト(売り切れたらしい)が客席では輝いていて、雄大なバラード曲「Green Bird」ではタイトルに合わせて客席一面が緑色に輝く。色は持ち手が調整できるということであり、この辺りはさすがにフジファブリックのために集まったファンたちである。
金澤がキーボードではなくギターを弾く「SUPER!!」では間奏で山内、金澤、加藤の3人がステージ中央に並んでそれぞれのネックをリズムに合わせて振るという微笑ましいパフォーマンスもあるのだが、この日はそれに加えて金澤がアウトロで山内の前に出てきて膝をついてギターを弾きまくるという一面も。その際に金澤は山内の前から伸びている花道に足を踏み入れ、普段のライブでは存在しないそのステージ設営にこの後どんな展開になるのか期待が高まる。
山内がこの日会場に来てくれた観客への感謝を込めた挨拶的なMCを挟むと、山内のギターがボーカル&ギターのものではなくギタリストの時のままで歌いながら演奏されるという、山内の技術の高さを感じざるを得ない「星降る夜になったら」、野球ファンにはもはや「スカパーの野球中継のテーマ曲を何曲も担当しているバンド」としてもおなじみの存在になっているバンドの最新曲であり、山内が京セラドームでの試合で始球式を行ったりもしているだけに、これまでの野球中継のテーマ曲の中でも最も歌詞が野球の風景を描き出すようになっている「オーバーライト」と新旧の曲を組み合わせていく。
それにしてもバンドの演奏も「フジファブリックってこんなにもライブが良いバンドだったっけ」と思ってしまうくらいに素晴らしい(それは緩急自在にして手数も自在の玉田という凄腕ドラマーの存在も大きいけれど)し、何よりも山内のボーカルの伸びが本当に素晴らしい。この日のためにしっかりとバンドが練習してきて、最高のコンディションを整えて臨んでいるのがよくわかる。
すると山内が口を開き、このバンドを作った男である志村正彦(ボーカル&ギター)のことを語る。志村の音楽の才能と目力の強さに惚れ込んでフジファブリックのメンバーとなった3人であるが、同時に志村の天然な部分もたくさん見てきたようで、金澤は
「志村は俺の一個下なんだけど、俺にお願いするときだけ俺のことを「イケメン先生」って呼んでた(笑)
「イケメン」と「先生」っていうプラス同士のワードが合わさるなんとも言えない空気感(笑)
だから「イケメン先生、醤油取って」って言われたり、「イケメン先生、この曲のイントロを考えてくれませんか」って言われたり(笑)」
と志村にいじられまくっていた時のことを懐かしそうに、でもどこかつい先日のことのように話すと、そこからはその志村が作った曲を今のバンドで歌い継いでいくゾーンへ。
志村の抱える心の葛藤をポップなサウンドに乗せた「バウムクーヘン」から、スクリーンには志村の姿が映し出される中で演奏されたのは「赤黄色の金木犀」。客席ではそれまで振られていたライトを振る人が全くいなくなっていた。それくらいの集中力の高さで客席がこの曲に向き合っていたのだが、自分は申し訳ないことに毎回フジファブリックのツアーに参加してきた人間ではない。だからこうした志村が作った曲はその当時、もう10年以上前のままで止まってしまっている、今のフジファブリックのライブでは聴いていない曲もたくさんある。
この曲も紛れもなくそういう曲なのだが、この日のバンドの演奏、何よりも山内の歌唱は止まってしまっていた自分の中のこの曲の時間を動き出させるだけでなく、明確にあの頃を「超えたな」と思わせるに足る素晴らしいものだった。そこにあるのはもちろん志村が作った名曲たちを自分たちがこれからも歌い継いでいく、この曲たちの素晴らしさをもっとたくさんの人に知ってもらいたいという3人の意志の強さによるものだ。
そしてその後に演奏された「ECHO」は志村が作った曲ではなく、山内が作曲、山内と加藤の作詞によるものだが、
「情けないくらい声からして
そうさ街の音にかき消されないほど強く鳴らせるなら
離れていたって届くように
今ありったけの想いをのせて君に 君に捧ぐよ」
というこの曲のフレーズは紛れもなくこの日も3人がフジファブリックとしてライブを行っている姿を見てくれているであろう志村に向けて呼びかけるように演奏されたものだった。
すると山内、金澤、加藤の3人が赤いジャケットを脱いで花道の先の小さなステージに集まると、山内がアコギ、金澤がアコーディオン、加藤がウッドベースというアコースティック編成で「ブルー」を演奏するのだが、ドラム不在という編成であるにもかかわらず、3人はそれぞれが客席を見ながら演奏している。ああ、そうか、もうこの3人のフジファブリックになってから10年。15周年のうちの2/3の長い時間をこの3人で過ごしてきたんだよな、と思うくらいに顔を見なくても合わせることができる阿吽の呼吸を感じさせた。
するとここで加藤による「カトーク」のコーナーへ。加藤が喋るというよりは観客からお題をもらって謎かけをするというコーナーなのだが、観客から「たこ焼き」という大阪ならではのテーマを出されると、しばし後ろを向いて考える加藤。その姿がしっかりカメラに捉えられていたのが面白いが、
「たこ焼きとかけまして、桃太郎とときます。そのこころは、どちらも「きじ」(生地と雉)が必要でしょう」
としっかり謎かけをやり切れたのはさすがである。
すると山内が大阪らしい曲のアコースティックカバーを、と言って挟まれたのは「探偵ナイトスクープ」のテーマソングである円広志の「ハートスランプ二人ぼっち」。正直、関東民からすればあまりというかほとんど馴染みがないのだが、関西の人はみんな知っている曲なんだろうか。
そして「透明」ではアウトロのコーラスを山内が観客全員に合唱させるのだが、いきなりマイクを加藤に向けて加藤が戸惑ってリズムがズレるという場面もあったが、山内はアコースティック時に
「やっぱり3人だとリズムが少し寂しいですね。僕らがどれだけ豊夢くんに頼っているか。僕らは2ndアルバムを出した後からずっとサポートの方にドラムをお願いしてるんですけど、今までに参加してくれた全てのドラマーに感謝します」
と言って大きな歓声を浴びていたが、メンバーだった足立房文(この日、花を贈っていた)をはじめとして、城戸紘志(unkie)、刃田綴色(ex.東京事変)、BOBO、あらきゆうこ、森信行という山内がサポートを務めたことのあるくるりからの人脈のメンバーや、この日の玉田や近年サポートをすることのある岡本啓佑(黒猫チェルシー)など。その全ての人が15年に渡るフジファブリックの歴史を作ってきた。その誰もが超凄腕ドラマーであるというのがフジファブリックがどんなバンドなのかということを物語っている。
アコースティックを終えてステージに3人が戻るタイミングで玉田も合流すると、山内は
「みんな普段学校や仕事や家事や育児があるだろうけど、僕たちの音楽がみんなの生活の後押しをできたら」
というメッセージの後に演奏された、まさに生活のことを歌った「LIFE」からは後半戦へ。
「徒然モノクローム」では間奏で山内と加藤が左右に伸びた通路に展開して、はるかに原曲より長い演奏を見せる。そこでも主役は山内のギターであり、とてもボーカリストのギターソロとは思えないものであるが、ギターを弾き倒した後に急いでマイクの前まで戻る様はやはり今は山内がこのバンドのボーカリストであることを感じさせてくれる。
祭囃子が鳴り響く最新アルバム「F」収録の「Feverman」では今度は加藤が間奏で花道の先に1人で進んで行って、
「両の手を振って返し押して返し」
というフレーズに合わせて阿波踊りのように両手を頭上でひらひらと振る。それに合わせて観客も踊る様はこの曲がこれからのフジファブリックのダンスサイドとしてライブで重要な曲になっていく予感がする。
そして山内の天然っぷりをキッカケにして生まれた「東京」ではその山内のハンドマイク状態による、これまでのバンドの名曲のタイトルやフレーズをふんだんに取り入れた小粋なラップも挟まれるが、そのフレーズ通りに華やぐような金澤のシンセの音に乗せて最後に山内は
「華やぐ 大阪」
とやはり歌詞を変えて歌った。
ステージには流星のようにきらめく光が降り注ぐ「STAR」では玉田も含めたメンバーによるソロ回しも行われる。かつて4人だった時代には「虹」などでよくこうしてソロ回しをしていたが、年代も変わって演奏する曲が変わってもそうしたフジファブリックらしさを感じさせるライブパフォーマンスは新しい曲たちに受け継がれている。
そしてなによりも山内のボーカルである。ボーカルになった当時、山内は率直に言って歌が下手だった。それまで聴いていた人たちですらも「大丈夫だろうか?」と思っていたし、まだ当時はボーカリストの歌い方ではなかった。
それが新作「F」の曲たちにおいてもそうであるが、今の山内はボーカリストとして素晴らしい声の伸びを見せている。あくまでポップであるフジファブリックの音楽においてメロディである歌は本当に大事な要素であるが、山内の歌がそのポップさ、ひいてはバンドの音楽の素晴らしさを引っ張り上げている。
歌の上手さというのは自分はある程度先天的なものもあると思っている。ジャイアンはどんなにボイストレーニングをしても歌手にはなれないだろうし、バンドのボーカルというのももともと上手さを感じるような人がトレーニングなどによって一気に伸びることはあっても、下手な人が上手いと思えるようになることはそうそうないと思っている。
でも今の山内の歌は上手いし、その歌でもってライブを見ている我々を感動させるような力すらを宿している。フジファブリックのメンバーは基本的に苦しさや辛さみたいなことを感じさせない人たちだ。それは志村が居なくなった後ですらそうだった。悲しむ我々を他所に3人は凄まじいスピードで次へ次へと向かってきた。
そんな人たちだとしても、この15年、3人になってからの10年の間にどれだけ血の滲むような努力をしてきたんだろうか。それは我々の知る由もないところであるけれど、ステージに立っている姿からは確かにそうしたものを感じさせる。
で、その力になっているのがこうして集まってくれる人たちであり、ずっと応援し続けてきてくれた人たちだ。山内は饒舌ではあるけれども喋ることをまとめるのは上手くないのでMCはついダラっとしてしまったり、長くなってしまいがちだが、最後に感謝を告げた言葉と演奏された「手紙」の
「さよならだけが人生だったとしても
部屋の匂いのようにいつか慣れていく
変わってくことは誰の仕業でもないから
変わらない街でもずっと笑っていてほしい」
というフレーズはバンドの歴史を踏まえた上で聴くと涙を堪えるのが本当に難しいし、それをファルセットまで綺麗に歌い切る山内の歌が助長する。そして最後には
「じゃれながら笑いながらも同じ夢追いかけて
旅路はこれからもずっと続きそうな夕暮れ」
と歌う。ここは夢ではあったかもしれないけど、ゴールでもなければ終わりでもない。まだまだフジファブリックの旅は続いていく。リリースされた時から名曲と言われていた「手紙」はこの日、忘れられないくらいに大事な曲になった。
アンコールではこの日のライブTシャツに着替えた山内が1人で登場し、花道の先に移動すると、
「よくお手紙をいただくんですけど、最近お子さんから手紙を貰うことが増えて。この前も
「そうくん、おおさかじょうホール、プレミアムシートでみます」
って書いてくれた子供がいたんだけど、今日来てるかな?(手を挙げた姿を見つけて)君か!ありがとう〜!
あの子はお母さんがずっと僕らのことを好きでいてくれて。今はお子さんも一緒に聴いてくれてる。15年ってそれくらいの時間なんだなって」
と自分たちのファンが自分たちと一緒に年齢を重ね、家族という形になっても向き合ってくれていることを語る。そこには山内が言う通りにバンドの歴史の長さを感じさせるし、音楽が世代を超えて受け継がれていくというのは何もアーティストたち同士だけではなくて、我々聴いている側もそうであるということを実感させてくれた瞬間だった。
そしてそんな、誰しもが誰かの贈り物であるということを歌にした新曲「プレゼント」を弾き語りで披露するのだが、山内が鳴らしたメトロノームのリズムはそのままそれが時間の流れを示しているかのようだった。ちなみにこの曲はこの日の来場者には特典としてQRコードをダウンロードして聴くことができるという、まさにバンドから我々にとってのプレゼントであった。
金澤、加藤、玉田の3人が合流すると、金澤が
「来年の我々の活動の発表があります。ステージ両サイドのスクリーンをご覧ください」
と言って映し出された映像はなぜかパイロット姿の金澤がスカイダイビングするというものだったのだが、その金澤の40歳の誕生日である2月9日にEX THEATERで生誕祭ライブをやることを発表。
「今年のフジファブリックは今日を中心に活動してきたけど、来年のフジファブリックはこの生誕祭を中心にして活動していく」
とも金澤は言っていたが、すぐに加藤からその生誕祭の直後に始まる全国ツアーの告知も。やはりこのバンドは一切止まることをしないようだ。
そして演奏されたのは「桜の季節」。全てを理解しているかのように客席のペンライトはピンク色に変わる中、どこか淡々としたように感じるリズムはこの曲でデビューした当時のフジファブリックがよく「変態的」と形容されていたことを思い出す。そうした要素を感じさせていたのはやはり志村の生み出す曲だったわけだが、この日のこの曲からはそうした部分が3人にも強く根付いているということを感じさせた。
そして飛び切りポップな「会いに」は山内の
「また会いに行くよ!」
という言葉通りに再会を約束する曲として鳴らされると山内は
「10周年の武道館の時に出来なかったこと。僕たちのことを支え続けてきてくれたマネージャーやレーベルスタッフ、今日のライブを作ってくれた人たちに大きな拍手をください!」
とフジファブリックというバンドを支え続けてきてくれた人たちへの感謝を示した。
もしバンドが続けるつもりであったとしても、周りの人達が少しでも「もう無理だ」と思ってしまっていたら、ここまで続いていなかったかもしれない。バンドと同じ意志を持ったチームだったからこそバンドはずっと続いてきた。さらに山内は
「さっきも言ったけれど、僕らだけじゃなくて、あなたもあなたもあなたもあなたも、みんながフジファブリックなんです。みんな、自分自身に拍手を!」
と言って観客自身に拍手を送らせた。それは日々いろいろなことがあってもそれをなんとか乗り越えて、それぞれがそれぞれのドラマの一つの到達点としてこの日ここに来ることができた。それを肯定してくれているとともに、自分自身で肯定できるようになるものだった。
そして、
「フジファブリックは志村くんが作ってくれたバンドで、それが15年も続いてきた。それがどういうことか。このバンドは絶対に解散しないバンドっていうことです!」
と山内は言った。どんなバンドにも絶対に終わりは来る。でもこのバンドの終わり方は解散という形ではない。それが果たしてどんな形なのかはわからない。まだその日は来ないから。でもこの日この場所にいた人たちはきっとその瞬間までずっとこのバンドのことを見続けるはずだし、このバンドと同じように悲しみを背負うことになってしまった後進のバンドたちにとって、フジファブリックが歩んでいる道は光そのものだ。続けてさえいれば、続けようという意志さえ失わなければ、いつかこんな素晴らしい景色を見ることができるということをフジファブリックはその身をもって示してくれているのだから。
そんな泣いてしまってもおかしくないような言葉を並べた後に演奏されたのは、
「また笑顔のライブで会いましょう」
と山内が言った「破顔」。「F」を最初に聴いた時に自分が明らかに山内のボーカルが変わったな、と思った曲。
でも自分は最後は「虹」をやると思っていた。それに「夜明けのBEAT」や「銀河」という代表曲もこの日は演奏されていない。15周年記念というこれまでの歴史を網羅する、集大成のような内容になるのが当たり前に思えるライブでこのバンドはそうはしなかった。結果的に3人になってからの、今のフジファブリックの形を見せるようなライブになった。
家でセトリだけを見ていたら、「あんまり昔の曲やらないんだな」っていうくらいで終わっていたかもしれない。しかしこの日、その曲たちを演奏するメンバーの姿からは、今のフジファブリックが最高のフジファブリックであるということを何よりも雄弁に示していた。
そしてそれはそのまま、今のフジファブリックがこれからも素晴らしい音楽を生み出して、素晴らしいライブを見せてくれるという予感に満ち溢れていた。きっと、昔の曲ばかりを演奏していたらそうは感じなかったはずだ。この日、1番嬉しく感じたのはそこである。このバンドはまだまだ続いていくし、これからも最高を更新し続けていくということ。自分が今まで見てきたフジファブリックのライブの中で間違いなくベストと言えるものだった。
演奏が終わると観客を背に写真を撮ったりしていたが、名残惜しいのかさらに喋ろうとする山内。さすがに長くなりすぎていると思ったのか、それを軽く流そうとする金澤。しかし山内は少し涙ぐんでいるようにも見えた。集大成でもなければ、終わりでもない。これからも続いていくフジファブリックの一つの夢であり、このバンドのことをずっと見続けてきた人たちの夢でもあった1日だった。
開催が発表された時、このキャパが完売すると思っていた人はそう多くはないだろう。だが結果的にこのライブは完売して、フェスでも今のフジファブリックはステージに人が収まりきらないくらいの状態になっている。デビュー15年目を迎えて、同時期にデビューしたバンドたちが徐々にマイペースな活動にシフトしていく中で、フジファブリックはここにきてさらに上が見えてきている。そんなバンドはなかなかいないし、それがどういうことかというと、また新しい夢をみんなで見れるということ。
それでもきっとこの日のライブのことは、何年経っても思い出してしまうなぁ。
1.若者のすべて
2.はじまりのうた
3.Green Bird
4.SUPER!!
5.星降る夜になったら
6.オーバーライト
7.バウムクーヘン
8.赤黄色の金木犀
9.ECHO
アコースティック
10.ブルー
11.ハートスランプ二人ぼっち
12.透明
13.LIFE
14.徒然モノクローム
15.Feverman
16.東京
17.STAR
18.手紙
encore
19.プレゼント (新曲)
20.桜の季節
21.会いに
22.破顔
手紙
https://youtu.be/pQlDS7qap2U
Next→ 10/22 ティッシュタイム @豊洲PIT
そんなフジファブリックも今年で15周年を迎えた。周年イヤーらしくアルバム「F」のリリースをはじめとした様々な活動が活発化し、初めてミュージックステーションに出演するなど、周年イヤーはさらにたくさんの人にこのバンドの音楽を広めようという活動が目立っている。
そんな中で15周年イヤーのライブの集大成となるのがこの日の大阪城ホールでの初ワンマン。山内総一郎(ボーカル&ギター)の喋り方からも察せられることだが、この大阪という地は山内の地元である。それだけに記念の日を祝うために全国からファンが集結。普段のフジファブリックのライブでは考えられないくらいに物販も長蛇の列で、ファンみんながこの日を心待ちにしていたのがよくわかる。
関東民からしたら西の武道館的なイメージが強い(実際にそうして武道館と大阪城ホールという日程でライブをやるアーティストも多い)大阪城ホールであるが、実際に中に入ってみると構造や雰囲気は武道館というよりも横浜アリーナや幕張メッセイベントホールに近い。それは割と内装が新しめであり、武道館のような独特の圧力みたいなものを感じないからかもしれないが。
自分の座った座席はステージから真正面のスタンド最後列だったのだがそれでもステージはよく見えるし1万人キャパというほどの距離感も感じない。が、アリーナや他のスタンド席までも全て見えるだけにこの広い会場をフジファブリックが満員にしているという凄さを実感せざるを得ない。
開演時間の17時になるとメンバーが登場する先にステージ両サイドのスクリーンに映像が映し出される。2年前の大阪でのワンマン時に山内総一郎が
「地元である大阪城ホールでワンマンをやるっていう夢ができた」
と語った瞬間から、1年半前に実際にこの日の大阪城ホールでのワンマンの開催を発表した瞬間、そしてこの日の朝から開演前までの大阪城に集ったファンたちの様子という、あまりにも早すぎる編集にびっくりしてしまう。
その映像が終わるとメンバーがステージに登場するのだが、記念ライブらしく3人とも厳かな赤いスーツを着用しており、金澤ダイスケ(キーボード)はハット、加藤慎一(ベース)もハットを被っている。この日のサポートドラムはあらゆるアーティストのサポートを務めている玉田豊夢。
果たしてこの日の1曲目はなんなんだろうか。開演前からファンはその予想をしていた。アッパーな曲で始まるのか、代表曲で始まるのか…。しかし実際に金澤がイントロのキーボードを弾き始めたのはなんと「若者のすべて」。ミュージックステーションでも演奏された、今やフジファブリック最大の代表曲であるこの曲でスタートするというのはあまりに意外というか、自分もそうだがきっと多くの人はこの曲をクライマックスに置いて、そこに至るまでの流れを作るようなセットリストにするであろうと思っていたはずだ。
しかしそんなこの曲を1曲目に演奏してきたというのは大事な曲であるこの曲が決してフジファブリックの全てではないということを証明するために実に最適な選択だったと言える。真夏のピークはとっくに過ぎ去ったように思えるが、「大阪って10月でもこんなに暑いのか」と思ってしまうようなこの日の気候はこの曲の持つ夏の終わりの空気が連れてきたものなのかもしれない。
しかし自分は気づかなかったのだが、17時開演だから「夕方5時のチャイム」というフレーズのあるこの曲を1曲目に演奏したらしい。
「フジファブリックです!」
と山内が挨拶すると、一転して3人になってからの「はじまりのうた」のコーラスで観客の合唱を求める。
また、この日は物販で7色に光るペンライトが販売されていたのだが、この序盤からそのペンライト(売り切れたらしい)が客席では輝いていて、雄大なバラード曲「Green Bird」ではタイトルに合わせて客席一面が緑色に輝く。色は持ち手が調整できるということであり、この辺りはさすがにフジファブリックのために集まったファンたちである。
金澤がキーボードではなくギターを弾く「SUPER!!」では間奏で山内、金澤、加藤の3人がステージ中央に並んでそれぞれのネックをリズムに合わせて振るという微笑ましいパフォーマンスもあるのだが、この日はそれに加えて金澤がアウトロで山内の前に出てきて膝をついてギターを弾きまくるという一面も。その際に金澤は山内の前から伸びている花道に足を踏み入れ、普段のライブでは存在しないそのステージ設営にこの後どんな展開になるのか期待が高まる。
山内がこの日会場に来てくれた観客への感謝を込めた挨拶的なMCを挟むと、山内のギターがボーカル&ギターのものではなくギタリストの時のままで歌いながら演奏されるという、山内の技術の高さを感じざるを得ない「星降る夜になったら」、野球ファンにはもはや「スカパーの野球中継のテーマ曲を何曲も担当しているバンド」としてもおなじみの存在になっているバンドの最新曲であり、山内が京セラドームでの試合で始球式を行ったりもしているだけに、これまでの野球中継のテーマ曲の中でも最も歌詞が野球の風景を描き出すようになっている「オーバーライト」と新旧の曲を組み合わせていく。
それにしてもバンドの演奏も「フジファブリックってこんなにもライブが良いバンドだったっけ」と思ってしまうくらいに素晴らしい(それは緩急自在にして手数も自在の玉田という凄腕ドラマーの存在も大きいけれど)し、何よりも山内のボーカルの伸びが本当に素晴らしい。この日のためにしっかりとバンドが練習してきて、最高のコンディションを整えて臨んでいるのがよくわかる。
すると山内が口を開き、このバンドを作った男である志村正彦(ボーカル&ギター)のことを語る。志村の音楽の才能と目力の強さに惚れ込んでフジファブリックのメンバーとなった3人であるが、同時に志村の天然な部分もたくさん見てきたようで、金澤は
「志村は俺の一個下なんだけど、俺にお願いするときだけ俺のことを「イケメン先生」って呼んでた(笑)
「イケメン」と「先生」っていうプラス同士のワードが合わさるなんとも言えない空気感(笑)
だから「イケメン先生、醤油取って」って言われたり、「イケメン先生、この曲のイントロを考えてくれませんか」って言われたり(笑)」
と志村にいじられまくっていた時のことを懐かしそうに、でもどこかつい先日のことのように話すと、そこからはその志村が作った曲を今のバンドで歌い継いでいくゾーンへ。
志村の抱える心の葛藤をポップなサウンドに乗せた「バウムクーヘン」から、スクリーンには志村の姿が映し出される中で演奏されたのは「赤黄色の金木犀」。客席ではそれまで振られていたライトを振る人が全くいなくなっていた。それくらいの集中力の高さで客席がこの曲に向き合っていたのだが、自分は申し訳ないことに毎回フジファブリックのツアーに参加してきた人間ではない。だからこうした志村が作った曲はその当時、もう10年以上前のままで止まってしまっている、今のフジファブリックのライブでは聴いていない曲もたくさんある。
この曲も紛れもなくそういう曲なのだが、この日のバンドの演奏、何よりも山内の歌唱は止まってしまっていた自分の中のこの曲の時間を動き出させるだけでなく、明確にあの頃を「超えたな」と思わせるに足る素晴らしいものだった。そこにあるのはもちろん志村が作った名曲たちを自分たちがこれからも歌い継いでいく、この曲たちの素晴らしさをもっとたくさんの人に知ってもらいたいという3人の意志の強さによるものだ。
そしてその後に演奏された「ECHO」は志村が作った曲ではなく、山内が作曲、山内と加藤の作詞によるものだが、
「情けないくらい声からして
そうさ街の音にかき消されないほど強く鳴らせるなら
離れていたって届くように
今ありったけの想いをのせて君に 君に捧ぐよ」
というこの曲のフレーズは紛れもなくこの日も3人がフジファブリックとしてライブを行っている姿を見てくれているであろう志村に向けて呼びかけるように演奏されたものだった。
すると山内、金澤、加藤の3人が赤いジャケットを脱いで花道の先の小さなステージに集まると、山内がアコギ、金澤がアコーディオン、加藤がウッドベースというアコースティック編成で「ブルー」を演奏するのだが、ドラム不在という編成であるにもかかわらず、3人はそれぞれが客席を見ながら演奏している。ああ、そうか、もうこの3人のフジファブリックになってから10年。15周年のうちの2/3の長い時間をこの3人で過ごしてきたんだよな、と思うくらいに顔を見なくても合わせることができる阿吽の呼吸を感じさせた。
するとここで加藤による「カトーク」のコーナーへ。加藤が喋るというよりは観客からお題をもらって謎かけをするというコーナーなのだが、観客から「たこ焼き」という大阪ならではのテーマを出されると、しばし後ろを向いて考える加藤。その姿がしっかりカメラに捉えられていたのが面白いが、
「たこ焼きとかけまして、桃太郎とときます。そのこころは、どちらも「きじ」(生地と雉)が必要でしょう」
としっかり謎かけをやり切れたのはさすがである。
すると山内が大阪らしい曲のアコースティックカバーを、と言って挟まれたのは「探偵ナイトスクープ」のテーマソングである円広志の「ハートスランプ二人ぼっち」。正直、関東民からすればあまりというかほとんど馴染みがないのだが、関西の人はみんな知っている曲なんだろうか。
そして「透明」ではアウトロのコーラスを山内が観客全員に合唱させるのだが、いきなりマイクを加藤に向けて加藤が戸惑ってリズムがズレるという場面もあったが、山内はアコースティック時に
「やっぱり3人だとリズムが少し寂しいですね。僕らがどれだけ豊夢くんに頼っているか。僕らは2ndアルバムを出した後からずっとサポートの方にドラムをお願いしてるんですけど、今までに参加してくれた全てのドラマーに感謝します」
と言って大きな歓声を浴びていたが、メンバーだった足立房文(この日、花を贈っていた)をはじめとして、城戸紘志(unkie)、刃田綴色(ex.東京事変)、BOBO、あらきゆうこ、森信行という山内がサポートを務めたことのあるくるりからの人脈のメンバーや、この日の玉田や近年サポートをすることのある岡本啓佑(黒猫チェルシー)など。その全ての人が15年に渡るフジファブリックの歴史を作ってきた。その誰もが超凄腕ドラマーであるというのがフジファブリックがどんなバンドなのかということを物語っている。
アコースティックを終えてステージに3人が戻るタイミングで玉田も合流すると、山内は
「みんな普段学校や仕事や家事や育児があるだろうけど、僕たちの音楽がみんなの生活の後押しをできたら」
というメッセージの後に演奏された、まさに生活のことを歌った「LIFE」からは後半戦へ。
「徒然モノクローム」では間奏で山内と加藤が左右に伸びた通路に展開して、はるかに原曲より長い演奏を見せる。そこでも主役は山内のギターであり、とてもボーカリストのギターソロとは思えないものであるが、ギターを弾き倒した後に急いでマイクの前まで戻る様はやはり今は山内がこのバンドのボーカリストであることを感じさせてくれる。
祭囃子が鳴り響く最新アルバム「F」収録の「Feverman」では今度は加藤が間奏で花道の先に1人で進んで行って、
「両の手を振って返し押して返し」
というフレーズに合わせて阿波踊りのように両手を頭上でひらひらと振る。それに合わせて観客も踊る様はこの曲がこれからのフジファブリックのダンスサイドとしてライブで重要な曲になっていく予感がする。
そして山内の天然っぷりをキッカケにして生まれた「東京」ではその山内のハンドマイク状態による、これまでのバンドの名曲のタイトルやフレーズをふんだんに取り入れた小粋なラップも挟まれるが、そのフレーズ通りに華やぐような金澤のシンセの音に乗せて最後に山内は
「華やぐ 大阪」
とやはり歌詞を変えて歌った。
ステージには流星のようにきらめく光が降り注ぐ「STAR」では玉田も含めたメンバーによるソロ回しも行われる。かつて4人だった時代には「虹」などでよくこうしてソロ回しをしていたが、年代も変わって演奏する曲が変わってもそうしたフジファブリックらしさを感じさせるライブパフォーマンスは新しい曲たちに受け継がれている。
そしてなによりも山内のボーカルである。ボーカルになった当時、山内は率直に言って歌が下手だった。それまで聴いていた人たちですらも「大丈夫だろうか?」と思っていたし、まだ当時はボーカリストの歌い方ではなかった。
それが新作「F」の曲たちにおいてもそうであるが、今の山内はボーカリストとして素晴らしい声の伸びを見せている。あくまでポップであるフジファブリックの音楽においてメロディである歌は本当に大事な要素であるが、山内の歌がそのポップさ、ひいてはバンドの音楽の素晴らしさを引っ張り上げている。
歌の上手さというのは自分はある程度先天的なものもあると思っている。ジャイアンはどんなにボイストレーニングをしても歌手にはなれないだろうし、バンドのボーカルというのももともと上手さを感じるような人がトレーニングなどによって一気に伸びることはあっても、下手な人が上手いと思えるようになることはそうそうないと思っている。
でも今の山内の歌は上手いし、その歌でもってライブを見ている我々を感動させるような力すらを宿している。フジファブリックのメンバーは基本的に苦しさや辛さみたいなことを感じさせない人たちだ。それは志村が居なくなった後ですらそうだった。悲しむ我々を他所に3人は凄まじいスピードで次へ次へと向かってきた。
そんな人たちだとしても、この15年、3人になってからの10年の間にどれだけ血の滲むような努力をしてきたんだろうか。それは我々の知る由もないところであるけれど、ステージに立っている姿からは確かにそうしたものを感じさせる。
で、その力になっているのがこうして集まってくれる人たちであり、ずっと応援し続けてきてくれた人たちだ。山内は饒舌ではあるけれども喋ることをまとめるのは上手くないのでMCはついダラっとしてしまったり、長くなってしまいがちだが、最後に感謝を告げた言葉と演奏された「手紙」の
「さよならだけが人生だったとしても
部屋の匂いのようにいつか慣れていく
変わってくことは誰の仕業でもないから
変わらない街でもずっと笑っていてほしい」
というフレーズはバンドの歴史を踏まえた上で聴くと涙を堪えるのが本当に難しいし、それをファルセットまで綺麗に歌い切る山内の歌が助長する。そして最後には
「じゃれながら笑いながらも同じ夢追いかけて
旅路はこれからもずっと続きそうな夕暮れ」
と歌う。ここは夢ではあったかもしれないけど、ゴールでもなければ終わりでもない。まだまだフジファブリックの旅は続いていく。リリースされた時から名曲と言われていた「手紙」はこの日、忘れられないくらいに大事な曲になった。
アンコールではこの日のライブTシャツに着替えた山内が1人で登場し、花道の先に移動すると、
「よくお手紙をいただくんですけど、最近お子さんから手紙を貰うことが増えて。この前も
「そうくん、おおさかじょうホール、プレミアムシートでみます」
って書いてくれた子供がいたんだけど、今日来てるかな?(手を挙げた姿を見つけて)君か!ありがとう〜!
あの子はお母さんがずっと僕らのことを好きでいてくれて。今はお子さんも一緒に聴いてくれてる。15年ってそれくらいの時間なんだなって」
と自分たちのファンが自分たちと一緒に年齢を重ね、家族という形になっても向き合ってくれていることを語る。そこには山内が言う通りにバンドの歴史の長さを感じさせるし、音楽が世代を超えて受け継がれていくというのは何もアーティストたち同士だけではなくて、我々聴いている側もそうであるということを実感させてくれた瞬間だった。
そしてそんな、誰しもが誰かの贈り物であるということを歌にした新曲「プレゼント」を弾き語りで披露するのだが、山内が鳴らしたメトロノームのリズムはそのままそれが時間の流れを示しているかのようだった。ちなみにこの曲はこの日の来場者には特典としてQRコードをダウンロードして聴くことができるという、まさにバンドから我々にとってのプレゼントであった。
金澤、加藤、玉田の3人が合流すると、金澤が
「来年の我々の活動の発表があります。ステージ両サイドのスクリーンをご覧ください」
と言って映し出された映像はなぜかパイロット姿の金澤がスカイダイビングするというものだったのだが、その金澤の40歳の誕生日である2月9日にEX THEATERで生誕祭ライブをやることを発表。
「今年のフジファブリックは今日を中心に活動してきたけど、来年のフジファブリックはこの生誕祭を中心にして活動していく」
とも金澤は言っていたが、すぐに加藤からその生誕祭の直後に始まる全国ツアーの告知も。やはりこのバンドは一切止まることをしないようだ。
そして演奏されたのは「桜の季節」。全てを理解しているかのように客席のペンライトはピンク色に変わる中、どこか淡々としたように感じるリズムはこの曲でデビューした当時のフジファブリックがよく「変態的」と形容されていたことを思い出す。そうした要素を感じさせていたのはやはり志村の生み出す曲だったわけだが、この日のこの曲からはそうした部分が3人にも強く根付いているということを感じさせた。
そして飛び切りポップな「会いに」は山内の
「また会いに行くよ!」
という言葉通りに再会を約束する曲として鳴らされると山内は
「10周年の武道館の時に出来なかったこと。僕たちのことを支え続けてきてくれたマネージャーやレーベルスタッフ、今日のライブを作ってくれた人たちに大きな拍手をください!」
とフジファブリックというバンドを支え続けてきてくれた人たちへの感謝を示した。
もしバンドが続けるつもりであったとしても、周りの人達が少しでも「もう無理だ」と思ってしまっていたら、ここまで続いていなかったかもしれない。バンドと同じ意志を持ったチームだったからこそバンドはずっと続いてきた。さらに山内は
「さっきも言ったけれど、僕らだけじゃなくて、あなたもあなたもあなたもあなたも、みんながフジファブリックなんです。みんな、自分自身に拍手を!」
と言って観客自身に拍手を送らせた。それは日々いろいろなことがあってもそれをなんとか乗り越えて、それぞれがそれぞれのドラマの一つの到達点としてこの日ここに来ることができた。それを肯定してくれているとともに、自分自身で肯定できるようになるものだった。
そして、
「フジファブリックは志村くんが作ってくれたバンドで、それが15年も続いてきた。それがどういうことか。このバンドは絶対に解散しないバンドっていうことです!」
と山内は言った。どんなバンドにも絶対に終わりは来る。でもこのバンドの終わり方は解散という形ではない。それが果たしてどんな形なのかはわからない。まだその日は来ないから。でもこの日この場所にいた人たちはきっとその瞬間までずっとこのバンドのことを見続けるはずだし、このバンドと同じように悲しみを背負うことになってしまった後進のバンドたちにとって、フジファブリックが歩んでいる道は光そのものだ。続けてさえいれば、続けようという意志さえ失わなければ、いつかこんな素晴らしい景色を見ることができるということをフジファブリックはその身をもって示してくれているのだから。
そんな泣いてしまってもおかしくないような言葉を並べた後に演奏されたのは、
「また笑顔のライブで会いましょう」
と山内が言った「破顔」。「F」を最初に聴いた時に自分が明らかに山内のボーカルが変わったな、と思った曲。
でも自分は最後は「虹」をやると思っていた。それに「夜明けのBEAT」や「銀河」という代表曲もこの日は演奏されていない。15周年記念というこれまでの歴史を網羅する、集大成のような内容になるのが当たり前に思えるライブでこのバンドはそうはしなかった。結果的に3人になってからの、今のフジファブリックの形を見せるようなライブになった。
家でセトリだけを見ていたら、「あんまり昔の曲やらないんだな」っていうくらいで終わっていたかもしれない。しかしこの日、その曲たちを演奏するメンバーの姿からは、今のフジファブリックが最高のフジファブリックであるということを何よりも雄弁に示していた。
そしてそれはそのまま、今のフジファブリックがこれからも素晴らしい音楽を生み出して、素晴らしいライブを見せてくれるという予感に満ち溢れていた。きっと、昔の曲ばかりを演奏していたらそうは感じなかったはずだ。この日、1番嬉しく感じたのはそこである。このバンドはまだまだ続いていくし、これからも最高を更新し続けていくということ。自分が今まで見てきたフジファブリックのライブの中で間違いなくベストと言えるものだった。
演奏が終わると観客を背に写真を撮ったりしていたが、名残惜しいのかさらに喋ろうとする山内。さすがに長くなりすぎていると思ったのか、それを軽く流そうとする金澤。しかし山内は少し涙ぐんでいるようにも見えた。集大成でもなければ、終わりでもない。これからも続いていくフジファブリックの一つの夢であり、このバンドのことをずっと見続けてきた人たちの夢でもあった1日だった。
開催が発表された時、このキャパが完売すると思っていた人はそう多くはないだろう。だが結果的にこのライブは完売して、フェスでも今のフジファブリックはステージに人が収まりきらないくらいの状態になっている。デビュー15年目を迎えて、同時期にデビューしたバンドたちが徐々にマイペースな活動にシフトしていく中で、フジファブリックはここにきてさらに上が見えてきている。そんなバンドはなかなかいないし、それがどういうことかというと、また新しい夢をみんなで見れるということ。
それでもきっとこの日のライブのことは、何年経っても思い出してしまうなぁ。
1.若者のすべて
2.はじまりのうた
3.Green Bird
4.SUPER!!
5.星降る夜になったら
6.オーバーライト
7.バウムクーヘン
8.赤黄色の金木犀
9.ECHO
アコースティック
10.ブルー
11.ハートスランプ二人ぼっち
12.透明
13.LIFE
14.徒然モノクローム
15.Feverman
16.東京
17.STAR
18.手紙
encore
19.プレゼント (新曲)
20.桜の季節
21.会いに
22.破顔
手紙
https://youtu.be/pQlDS7qap2U
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