BIGMAMA presents 「mummy's day」 @Zepp Tokyo 5/12
- 2019/05/13
- 00:01
BIGMAMA恒例の母の日ライブ。今年は直前にリリースされたシングル「mummy mummy」に合わせて「mummy's day」と題したものに。
かつては毎年のように来ていたこの母の日ライブも参加するのはおそらく3〜4年ぶり。フェスやイベントなどではよくライブを見ているが、ワンマンを見るのもそれ以来。(だから2年前の日本武道館も行っていない)
そこに至るまでには様々な理由があったのだが、そうした諸々を吹き飛ばしてくれるようなライブを期待したいところだ。
客席に入ると、ステージにはシャンデリアやカーネーションの花束、さらにメンバーの後ろはバンドロゴとともに鏡面の壁が巡らせてあるという超豪華なセットになっているのは母の日ライブならではである。
「No.9」のSEでメンバーがステージに登場すると金井政人が手を上に掲げ、
「あなたの全てに」
とだけ言い、ここに集まった全ての人たちを肯定するかのような「YESMAN」からスタート。
するとすぐさま東出真緒のヴァイオリンの旋律がパンクなビートの上に乗る、バンド初期からの代表曲「the cookie crumbles」でダイバーが続出。リアド偉武のドラムは単純にスピードが速いツービートという感じのパンクさではなく、一発一発の重さを重視した叩き方になっているところにバンドの曲への向き合い方への変化を感じるし、こうした叩き方が腰を痛めて休養せざるを得なくなった[ALEXANDROS]のサトヤスの代打として求められた部分でもあり、そこの経験によって得たものという相互作用でもあるのだろう。
しかしながら最新アルバム「-11°C」収録の「POPCORN STAR」、ヴァイオリンのメンバーを擁するこのバンドだからこそできたロック(というかメロディックパンク)とクラシックの融合「Roclassick」収録の「走れエロス」と序盤からパンクな曲が続くと次々と発生するダイバーたち。
この日、先行物販に並んでいる時は久しぶりにこのバンドのワンマンに参加するがゆえ、客層が幅広くなったというか、もはやデビューして10年を超えたバンドであるがゆえに若い観客ばかりではないという客層の広がりを感じさせたのだが、こうした曲で見える景色はかつてとなんら変わっていなかった。やっぱりBIGMAMAはパンクバンドなんだよな、と感じるには充分なものであったし、自分はそういう部分に触れてこのバンドが好きになっただけに、今でもそう思えたのが本当に嬉しかった。
金井がギターを弾きながらいきなり歌い始めた「最後の一口」はファンから非常に人気が高い曲であるだけにその部分で歓声が上がり、リアドもその歓声をさらに煽るように立ち上がって
「ウォー!」
と叫ぶ。同じハイトーンな声ではあるが金井とはまたタイプが違う柿沼広也とのツインボーカルと言っていいサビのメロディがこの曲を名曲たらしめているが、かつての騒動の時には金井は自らの手でこの大切な子供と言っていい存在を葬り去ろうとしていただけに今でもこうして聴けて本当に幸せだし、もしかしたら苦かったり辛い記憶がある曲かもしれないが、こうして観客が喜んでいる姿でそれを少しでも良い記憶に上書きすることができたら、とも思う。
近年のこのバンドはフェスでは一言も発しない時もあるくらいにMCをしなくなっており、それは前回のツアーでもそうだったらしいのだが、
「過去は変えることはできない。でも未来は自分の手で変えることができる。3秒間、たったそれだけあれば」
と観客に言っているようにも、自身に言い聞かせるようにも見えた言葉を金井は口にしてから「神様も言う通りに」を演奏した。
そもそも金井は言葉の人である。独特な歌詞の曲、その曲が集まることでストーリーが繋がってアルバム1枚を通して一つの物語を描くという手法も、そのアルバムにかつて添えてあった金井自身による曲解説も、MUSICAの連載や、あるいはこの日物販で販売されたエッセイにおいてもそう感じさせてきたし、こうした曲を演奏する前に発した金井の言葉によって曲がさらに輝いたり、違う意味を持って聞こえてきたことも何度もあった。
それだけに全く喋らないスタイルというのはもったいなくも感じていたのだが、この曲をはじめとした何曲かではこのように金井は言葉を添えてから演奏していた。曲の持つメッセージやその曲を通して言いたいことをしっかり伝えるように。そうしてその曲が特別な存在になっていくことも知っている。
先日のJAPAN JAMに出演した時は「Roclassick」収録曲を連発して観客を驚かせていたので、この日のセトリの中にも久しく聞けていないそれらの曲が入るのだろうか、と思っていたのだが、やはり「虹を食べたアイリス」「テレーゼのため息」が披露される。改めてこれらの曲を聴くとクラシックのメロディとパンクサウンドの相性の良さを感じるし、原曲のタイトルを活かしたままで自身ならではの歌詞を乗せる金井の作詞家としての能力には脱帽である。
再びダイバーが続出、最後のサビ前では観客の一面の手拍子に加えてリフトする観客が数えきれないくらいに発生した「秘密」と、飛ばしまくった前半戦から、かつてはライブのクライマックスを飾っていた「Cinderella 〜計算高いシンデレラ〜」ではかつてのようにコーラス部分で合唱を煽るようなことはなかった。それはここがクライマックスや終わりではなくてライブがまだまだ続くということを示しているようでもあったのだが、それでも起こった合唱に合わせようとすると、男性が歌うにはあまりにキーが高すぎることに改めて気づく。メインでそのパートを歌っている金井と柿沼も男なのだが。
東出がヴァイオリンからキーボードに移動すると、クールなサウンドと青白い照明が曲の美しさを醸し出す、やはり「Roclassick 2」収録の「Royalize」からはパンクだったモードからは随分変わる。
「あなたの心が晴れますように、一点の曇りもなく!」
と曲のサビのフレーズを改めて観客に向けて放った「CRYSTAL CLEAR」から、金井がアコギに持ち替え、
「色とりどりの無数の意図が張り巡ってる」
という歌い出しのフレーズに合わせてステージには色とりどりの照明が降り注ぎ、それが曲後半にはタイトルに合わせた真っ赤なものに変わる「A KITE」はアコースティックバージョンと言ってもいいようなアレンジに。それがどこか少しの温もりというか、バンドと我々を繋ぐ赤い糸が決して途切れていないような感覚にさせる。
「春は風のように」
とタイトルだけ言って演奏された「春は風のように」だが、この曲は演奏される時期に合わせて演奏前のフレーズを変える曲なだけに、母の日が改めて春の時期であることを感じさせてくれると、金井がアコギから再びエレキに持ち替え、柿沼の重厚なギターサウンドと勇壮なコーラスが響くグランジ・オルタナなBIGMAMAの一面を見せる「ファビュラ・フィビュラ」は
「革命の合図を」
と言ってから演奏され、ここから再びモードが変わることを予感させる。
その通りに「Roclassick 2」収録の「Perfect Gray」では再びダイバーが出現して後半戦へと突入していくことを感じさせると、ステージの端という地味な位置で、しかし堅実にほかのメンバーの顔を見ながら低音を支えきた安井英人のベースが一気にゴリゴリと主張を強くする「Swan Song」と「Roclassick」シリーズの曲が続く。
その流れで演奏された「Strawberry Feels」はやはり「-11°C」の中でもパンクなサウンドの曲で、「Roclassick」シリーズとの相性の良さを感じさせるのだが、その直後に披露された最新シングル曲にして今回のライブのタイトルにもなった「mummy mummy」はタイアップに合わせた部分もあってか、不穏なというかおどろおどろしい雰囲気を持った曲。
メンバー頭上のシャンデリアに紫などの暗い色を中心とした照明が当たると、あれだけ煌びやかに見えていたステージが一転してサスペンスやホラーに出てくるような洋館のように変化していくのも実に面白いし、このセットはむしろこの曲サイドのために作られたんじゃないかという気もしてくる。
SEにも使われている「No.9」では合唱が起こる中で金井が途中からギターを置いてハンドマイクで飛び跳ねながら歌う。そのまま曲間なしで繋ぐようにして演奏された「Sweet Dreams」でも金井は全編ハンドマイクでステージ左右に動きながら歌う。その姿からは笑顔が見れる。そこに心から安心する。
「Sweet Dreams」のコーラスがそのまま繋がるように「MUTOPIA」のものになるという、MCなしでひたすら曲を連発するスタイルだからこそできるようになったこうしたアレンジを見ていると、このスタイルになったのは悪いことではないかもしれないと思うし、ここまで休憩とか一切なしに曲を連発できるメンバーの体力は素晴らしいと思う。ここまでできるようになるまでにはさぞや大変な努力や練習を重ねたんだろうというのも想像に難くない。
「皆様に先に謝っておきます。こんな特別な日に最後に演奏するのは新曲です。まだメンバーしか聞いていない曲です。でもすごく大事な曲になりそうだし、皆様にもそうなってくれたら嬉しいと思います」
と演奏された新曲は「チャンスは1回使い切り」というフレーズが強いインパクトを残す、リアドの高速4つ打ちのリズムによるダンスミュージックの要素も含んだロックチューン。直前に演奏された「MUTOPIA」のようにEDMな要素を含んでいるわけではないが、そうした曲を作ってきたからこそできた、今のこのバンドだからこその曲だという経験や歴史も感じさせる。金井の言葉を聞いた限りだと次なるシングルでリリースされそうな予感だがどうだろうか。
これで最後かと思いきや、柿沼は急いでギターを変える。よってもう1曲、自発的なアンコールのように演奏されたのは「荒狂曲"シンセカイ"」。最後のサビ前にはステージが見えなくなるくらいの大量のリフトが発生する。それは見えないことによるストレスになりそうでもあるのだが、そうは感じなかった。それはこの景色がかつてこのバンドのワンマンに毎回来ていた時に見ていた景色と同じものだったからである。変わった部分もたくさんあるけれど、変わっていない部分もある。その変わっていない部分とは、BIGMAMAがパンクバンドであるという事実だ。
演奏が終わると次々にステージを去るメンバーたち。最後に残ったリアドは両手を挙げて観客の歓声に応えていた。リアドのドラムはそのさらにワイルドになった見た目も含めて、今や叩いてる時にこの5人の中で最もラスボス感を感じさせるオーラを発しているし、もともとパワータイプのドラマーだったのがそれ以外の表現の幅がものすごく広がっていて、スーパードラマーと言ってもいいような領域に達している。つまり今のこのバンドのサウンドの芯であり軸はリアドのドラムなわけで、そんな男の笑顔は過去最高に頼もしさを感じさせた。
メンバーがいなくなるとアンコールをやらない代わりに終演SEとして「母に贈る歌」が流れた。その音に合わせて大合唱する観客。バンドが演奏するのを聴くことはできなかったが、だからこそこのバンドとこの日を大事にする観客たちの合唱はもしかしたらバンドの演奏以上に感動的なものだったかもしれない。
そもそも自分がこの日このライブを見ることにしたのは、最近見たフェスでのライブを見て久しぶりにワンマンを見てみたいと思ったからだが、それはある意味で最終通告というか、楽しみではあったけれど、それだけではない不安もあった。
あの騒動があってからどうもライブが楽しく感じなくなってしまったのだ。別に騒動自体は自分にとってはなんのマイナスにもならないからいいんだけれども、金井が喋らなくなったりしたのも含めて、本当にライブをするのが楽しいんだろうか?ステージに立ったり、そこで言葉を発するのが怖かったりしていないだろうか?と思っていた。
そう思ってしまったのはこのバンドのそれまでのライブが本当に楽しいものだったから。「and yet , it moves 〜正しい地球の廻し方〜」までのパンクな熱さと激しさも、「君がまたブラウスのボタンを留めるまで」以降の多幸感溢れるサウンドへの拡張も、ライブで見るとどちらも楽しかった。
だからこそ騒動以降の空気をキツく感じていたし、先日見たビバラでのライブでも、かつては贈られた誕生日ケーキに顔を突っ込んだりしていたのが、今年はケーキを贈られるや否やすぐにステージから去ってしまったりというシーンに不安を感じてしまっていた。
でもこの日のライブからはそんな不安を感じさせるような暇を一切与えなかった。それは曲間なしでひたすら曲を連発するという今のスタイルだからこそのものだったし、何よりもバンドとファンの絆というか、揺らがない信頼関係を感じさせた。その姿を見て、自分はこれまでに何度もライブを見てきたこのバンドのことを信じきれていなかったんだな、と思った。
自分が感じた楽しくなくなってしまった感覚というのも間違ってはいないと思う。実際にかつてはチケットが取れないレベルだったこの会場でのこのイベントは今年はソールドアウトしなかった。それはキャリアを重ねたからとかではない理由や要素があって離れた人がいたからで(武道館まではソールドアウトしていただけに)、自分以外にもそう感じていた人がいたからだと思う。
でもこの日の金井の笑顔は見ているこちらからすれば最も嬉しくなるような姿だったし、それを見ていたら何年も距離を置いてしまったのを申し訳なく感じてしまった。それくらいに今でもBIGMAMAのライブはカッコいいし、この日のキャリアを総括するようなセトリはこのバンドがどれだけたくさんの名曲を生み出してきたかを示していた。
GWのどの日が何の日で休みなのかを何年生きていても全く覚えられない。それは別に何の日かなんて大した問題ではないから、そもそも覚えようとすらしていない。でもこの時期のこの日が母の日であるということは覚えている。このバンドの母の日ライブに何度も来たことがあるから。
もはやかつて金井が様々なフェスで口にしていたような、メインステージを狙えるような立ち位置にはもういないし、この日口にしたように過去を変えることはできない。あの騒動をなかったことにはできないし、このバンドから離れてしまいかけていた何年間かを変えることもできない。でも未来は変えることができる。こうして良い曲を世に出して、良いライブを続けてさえいれば、自分みたいに離れてしまった人たちが来年以降この場所に戻ってくる可能性がある気がする。気がする?いや、できるはず。
1.YESMAN
2.the cookie crumbles
3.POPCORN STAR
4.走れエロス
5.最後の一口
6.神様も言う通りに
7.虹を食べたアイリス
8.テレーゼのため息
9.Step-out Shepherd
10.秘密
11.Cinderella 〜計算高いシンデレラ〜
12.Royalize
13.CRYSTAL CLEAR
14.A KITE
15.春は風のように
16.ファビュラ・フィビュラ
17.アリギリス
18.Perfect Gray
19.Swan Song
20.Strawberry Feels
21.mummy mummy
22.No.9
23.Sweet Dreams
24.MUTOPIA
25.St. Light (新曲)
26.荒狂曲"シンセカイ"
mummy mummy
https://youtu.be/vcgVLM6CDrA
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かつては毎年のように来ていたこの母の日ライブも参加するのはおそらく3〜4年ぶり。フェスやイベントなどではよくライブを見ているが、ワンマンを見るのもそれ以来。(だから2年前の日本武道館も行っていない)
そこに至るまでには様々な理由があったのだが、そうした諸々を吹き飛ばしてくれるようなライブを期待したいところだ。
客席に入ると、ステージにはシャンデリアやカーネーションの花束、さらにメンバーの後ろはバンドロゴとともに鏡面の壁が巡らせてあるという超豪華なセットになっているのは母の日ライブならではである。
「No.9」のSEでメンバーがステージに登場すると金井政人が手を上に掲げ、
「あなたの全てに」
とだけ言い、ここに集まった全ての人たちを肯定するかのような「YESMAN」からスタート。
するとすぐさま東出真緒のヴァイオリンの旋律がパンクなビートの上に乗る、バンド初期からの代表曲「the cookie crumbles」でダイバーが続出。リアド偉武のドラムは単純にスピードが速いツービートという感じのパンクさではなく、一発一発の重さを重視した叩き方になっているところにバンドの曲への向き合い方への変化を感じるし、こうした叩き方が腰を痛めて休養せざるを得なくなった[ALEXANDROS]のサトヤスの代打として求められた部分でもあり、そこの経験によって得たものという相互作用でもあるのだろう。
しかしながら最新アルバム「-11°C」収録の「POPCORN STAR」、ヴァイオリンのメンバーを擁するこのバンドだからこそできたロック(というかメロディックパンク)とクラシックの融合「Roclassick」収録の「走れエロス」と序盤からパンクな曲が続くと次々と発生するダイバーたち。
この日、先行物販に並んでいる時は久しぶりにこのバンドのワンマンに参加するがゆえ、客層が幅広くなったというか、もはやデビューして10年を超えたバンドであるがゆえに若い観客ばかりではないという客層の広がりを感じさせたのだが、こうした曲で見える景色はかつてとなんら変わっていなかった。やっぱりBIGMAMAはパンクバンドなんだよな、と感じるには充分なものであったし、自分はそういう部分に触れてこのバンドが好きになっただけに、今でもそう思えたのが本当に嬉しかった。
金井がギターを弾きながらいきなり歌い始めた「最後の一口」はファンから非常に人気が高い曲であるだけにその部分で歓声が上がり、リアドもその歓声をさらに煽るように立ち上がって
「ウォー!」
と叫ぶ。同じハイトーンな声ではあるが金井とはまたタイプが違う柿沼広也とのツインボーカルと言っていいサビのメロディがこの曲を名曲たらしめているが、かつての騒動の時には金井は自らの手でこの大切な子供と言っていい存在を葬り去ろうとしていただけに今でもこうして聴けて本当に幸せだし、もしかしたら苦かったり辛い記憶がある曲かもしれないが、こうして観客が喜んでいる姿でそれを少しでも良い記憶に上書きすることができたら、とも思う。
近年のこのバンドはフェスでは一言も発しない時もあるくらいにMCをしなくなっており、それは前回のツアーでもそうだったらしいのだが、
「過去は変えることはできない。でも未来は自分の手で変えることができる。3秒間、たったそれだけあれば」
と観客に言っているようにも、自身に言い聞かせるようにも見えた言葉を金井は口にしてから「神様も言う通りに」を演奏した。
そもそも金井は言葉の人である。独特な歌詞の曲、その曲が集まることでストーリーが繋がってアルバム1枚を通して一つの物語を描くという手法も、そのアルバムにかつて添えてあった金井自身による曲解説も、MUSICAの連載や、あるいはこの日物販で販売されたエッセイにおいてもそう感じさせてきたし、こうした曲を演奏する前に発した金井の言葉によって曲がさらに輝いたり、違う意味を持って聞こえてきたことも何度もあった。
それだけに全く喋らないスタイルというのはもったいなくも感じていたのだが、この曲をはじめとした何曲かではこのように金井は言葉を添えてから演奏していた。曲の持つメッセージやその曲を通して言いたいことをしっかり伝えるように。そうしてその曲が特別な存在になっていくことも知っている。
先日のJAPAN JAMに出演した時は「Roclassick」収録曲を連発して観客を驚かせていたので、この日のセトリの中にも久しく聞けていないそれらの曲が入るのだろうか、と思っていたのだが、やはり「虹を食べたアイリス」「テレーゼのため息」が披露される。改めてこれらの曲を聴くとクラシックのメロディとパンクサウンドの相性の良さを感じるし、原曲のタイトルを活かしたままで自身ならではの歌詞を乗せる金井の作詞家としての能力には脱帽である。
再びダイバーが続出、最後のサビ前では観客の一面の手拍子に加えてリフトする観客が数えきれないくらいに発生した「秘密」と、飛ばしまくった前半戦から、かつてはライブのクライマックスを飾っていた「Cinderella 〜計算高いシンデレラ〜」ではかつてのようにコーラス部分で合唱を煽るようなことはなかった。それはここがクライマックスや終わりではなくてライブがまだまだ続くということを示しているようでもあったのだが、それでも起こった合唱に合わせようとすると、男性が歌うにはあまりにキーが高すぎることに改めて気づく。メインでそのパートを歌っている金井と柿沼も男なのだが。
東出がヴァイオリンからキーボードに移動すると、クールなサウンドと青白い照明が曲の美しさを醸し出す、やはり「Roclassick 2」収録の「Royalize」からはパンクだったモードからは随分変わる。
「あなたの心が晴れますように、一点の曇りもなく!」
と曲のサビのフレーズを改めて観客に向けて放った「CRYSTAL CLEAR」から、金井がアコギに持ち替え、
「色とりどりの無数の意図が張り巡ってる」
という歌い出しのフレーズに合わせてステージには色とりどりの照明が降り注ぎ、それが曲後半にはタイトルに合わせた真っ赤なものに変わる「A KITE」はアコースティックバージョンと言ってもいいようなアレンジに。それがどこか少しの温もりというか、バンドと我々を繋ぐ赤い糸が決して途切れていないような感覚にさせる。
「春は風のように」
とタイトルだけ言って演奏された「春は風のように」だが、この曲は演奏される時期に合わせて演奏前のフレーズを変える曲なだけに、母の日が改めて春の時期であることを感じさせてくれると、金井がアコギから再びエレキに持ち替え、柿沼の重厚なギターサウンドと勇壮なコーラスが響くグランジ・オルタナなBIGMAMAの一面を見せる「ファビュラ・フィビュラ」は
「革命の合図を」
と言ってから演奏され、ここから再びモードが変わることを予感させる。
その通りに「Roclassick 2」収録の「Perfect Gray」では再びダイバーが出現して後半戦へと突入していくことを感じさせると、ステージの端という地味な位置で、しかし堅実にほかのメンバーの顔を見ながら低音を支えきた安井英人のベースが一気にゴリゴリと主張を強くする「Swan Song」と「Roclassick」シリーズの曲が続く。
その流れで演奏された「Strawberry Feels」はやはり「-11°C」の中でもパンクなサウンドの曲で、「Roclassick」シリーズとの相性の良さを感じさせるのだが、その直後に披露された最新シングル曲にして今回のライブのタイトルにもなった「mummy mummy」はタイアップに合わせた部分もあってか、不穏なというかおどろおどろしい雰囲気を持った曲。
メンバー頭上のシャンデリアに紫などの暗い色を中心とした照明が当たると、あれだけ煌びやかに見えていたステージが一転してサスペンスやホラーに出てくるような洋館のように変化していくのも実に面白いし、このセットはむしろこの曲サイドのために作られたんじゃないかという気もしてくる。
SEにも使われている「No.9」では合唱が起こる中で金井が途中からギターを置いてハンドマイクで飛び跳ねながら歌う。そのまま曲間なしで繋ぐようにして演奏された「Sweet Dreams」でも金井は全編ハンドマイクでステージ左右に動きながら歌う。その姿からは笑顔が見れる。そこに心から安心する。
「Sweet Dreams」のコーラスがそのまま繋がるように「MUTOPIA」のものになるという、MCなしでひたすら曲を連発するスタイルだからこそできるようになったこうしたアレンジを見ていると、このスタイルになったのは悪いことではないかもしれないと思うし、ここまで休憩とか一切なしに曲を連発できるメンバーの体力は素晴らしいと思う。ここまでできるようになるまでにはさぞや大変な努力や練習を重ねたんだろうというのも想像に難くない。
「皆様に先に謝っておきます。こんな特別な日に最後に演奏するのは新曲です。まだメンバーしか聞いていない曲です。でもすごく大事な曲になりそうだし、皆様にもそうなってくれたら嬉しいと思います」
と演奏された新曲は「チャンスは1回使い切り」というフレーズが強いインパクトを残す、リアドの高速4つ打ちのリズムによるダンスミュージックの要素も含んだロックチューン。直前に演奏された「MUTOPIA」のようにEDMな要素を含んでいるわけではないが、そうした曲を作ってきたからこそできた、今のこのバンドだからこその曲だという経験や歴史も感じさせる。金井の言葉を聞いた限りだと次なるシングルでリリースされそうな予感だがどうだろうか。
これで最後かと思いきや、柿沼は急いでギターを変える。よってもう1曲、自発的なアンコールのように演奏されたのは「荒狂曲"シンセカイ"」。最後のサビ前にはステージが見えなくなるくらいの大量のリフトが発生する。それは見えないことによるストレスになりそうでもあるのだが、そうは感じなかった。それはこの景色がかつてこのバンドのワンマンに毎回来ていた時に見ていた景色と同じものだったからである。変わった部分もたくさんあるけれど、変わっていない部分もある。その変わっていない部分とは、BIGMAMAがパンクバンドであるという事実だ。
演奏が終わると次々にステージを去るメンバーたち。最後に残ったリアドは両手を挙げて観客の歓声に応えていた。リアドのドラムはそのさらにワイルドになった見た目も含めて、今や叩いてる時にこの5人の中で最もラスボス感を感じさせるオーラを発しているし、もともとパワータイプのドラマーだったのがそれ以外の表現の幅がものすごく広がっていて、スーパードラマーと言ってもいいような領域に達している。つまり今のこのバンドのサウンドの芯であり軸はリアドのドラムなわけで、そんな男の笑顔は過去最高に頼もしさを感じさせた。
メンバーがいなくなるとアンコールをやらない代わりに終演SEとして「母に贈る歌」が流れた。その音に合わせて大合唱する観客。バンドが演奏するのを聴くことはできなかったが、だからこそこのバンドとこの日を大事にする観客たちの合唱はもしかしたらバンドの演奏以上に感動的なものだったかもしれない。
そもそも自分がこの日このライブを見ることにしたのは、最近見たフェスでのライブを見て久しぶりにワンマンを見てみたいと思ったからだが、それはある意味で最終通告というか、楽しみではあったけれど、それだけではない不安もあった。
あの騒動があってからどうもライブが楽しく感じなくなってしまったのだ。別に騒動自体は自分にとってはなんのマイナスにもならないからいいんだけれども、金井が喋らなくなったりしたのも含めて、本当にライブをするのが楽しいんだろうか?ステージに立ったり、そこで言葉を発するのが怖かったりしていないだろうか?と思っていた。
そう思ってしまったのはこのバンドのそれまでのライブが本当に楽しいものだったから。「and yet , it moves 〜正しい地球の廻し方〜」までのパンクな熱さと激しさも、「君がまたブラウスのボタンを留めるまで」以降の多幸感溢れるサウンドへの拡張も、ライブで見るとどちらも楽しかった。
だからこそ騒動以降の空気をキツく感じていたし、先日見たビバラでのライブでも、かつては贈られた誕生日ケーキに顔を突っ込んだりしていたのが、今年はケーキを贈られるや否やすぐにステージから去ってしまったりというシーンに不安を感じてしまっていた。
でもこの日のライブからはそんな不安を感じさせるような暇を一切与えなかった。それは曲間なしでひたすら曲を連発するという今のスタイルだからこそのものだったし、何よりもバンドとファンの絆というか、揺らがない信頼関係を感じさせた。その姿を見て、自分はこれまでに何度もライブを見てきたこのバンドのことを信じきれていなかったんだな、と思った。
自分が感じた楽しくなくなってしまった感覚というのも間違ってはいないと思う。実際にかつてはチケットが取れないレベルだったこの会場でのこのイベントは今年はソールドアウトしなかった。それはキャリアを重ねたからとかではない理由や要素があって離れた人がいたからで(武道館まではソールドアウトしていただけに)、自分以外にもそう感じていた人がいたからだと思う。
でもこの日の金井の笑顔は見ているこちらからすれば最も嬉しくなるような姿だったし、それを見ていたら何年も距離を置いてしまったのを申し訳なく感じてしまった。それくらいに今でもBIGMAMAのライブはカッコいいし、この日のキャリアを総括するようなセトリはこのバンドがどれだけたくさんの名曲を生み出してきたかを示していた。
GWのどの日が何の日で休みなのかを何年生きていても全く覚えられない。それは別に何の日かなんて大した問題ではないから、そもそも覚えようとすらしていない。でもこの時期のこの日が母の日であるということは覚えている。このバンドの母の日ライブに何度も来たことがあるから。
もはやかつて金井が様々なフェスで口にしていたような、メインステージを狙えるような立ち位置にはもういないし、この日口にしたように過去を変えることはできない。あの騒動をなかったことにはできないし、このバンドから離れてしまいかけていた何年間かを変えることもできない。でも未来は変えることができる。こうして良い曲を世に出して、良いライブを続けてさえいれば、自分みたいに離れてしまった人たちが来年以降この場所に戻ってくる可能性がある気がする。気がする?いや、できるはず。
1.YESMAN
2.the cookie crumbles
3.POPCORN STAR
4.走れエロス
5.最後の一口
6.神様も言う通りに
7.虹を食べたアイリス
8.テレーゼのため息
9.Step-out Shepherd
10.秘密
11.Cinderella 〜計算高いシンデレラ〜
12.Royalize
13.CRYSTAL CLEAR
14.A KITE
15.春は風のように
16.ファビュラ・フィビュラ
17.アリギリス
18.Perfect Gray
19.Swan Song
20.Strawberry Feels
21.mummy mummy
22.No.9
23.Sweet Dreams
24.MUTOPIA
25.St. Light (新曲)
26.荒狂曲"シンセカイ"
mummy mummy
https://youtu.be/vcgVLM6CDrA
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