NICO Touches the Walls TOUR
- 2019/03/26
- 23:47
このツアー自体はかなり前から開催が発表されていたが、ツアータイトルすら割と直前になるまで発表されずに、ファンの間でも
「いったいなんのツアーなんだ?」
と謎を呼んでいた、NICO Touches the Wallsの前日からスタートしたツアーは、やはり開催直前になって、6月にニューアルバム「QUIZMASTER」のリリースが発表され、アルバムに収録される新曲のお披露目的なツアーという予想になった。
5月まで続く長いツアー(6月の追加公演も発表された)は各地全て2daysという日程になっているのだが、初日は通常のNICO Touches the Walls、2日目はアコースティック編成のACO Touches the Wallsという変則的な形のものになっている。この日はツアー1箇所目である東京はEX THEATER ROPPONGIでの2daysの2日目。ACO Touches the Wallsの日である。
2日通してチケットはソールドアウトということでアリーナから指定席まで満員の観客が待ちわびる中、ノリのいいブギなBGMの音が徐々に大きくなってきた19時ちょうどくらいに場内が暗転してメンバーが登場。アコースティックということで楽器のセッティングも普段よりも簡素、並びもドラムの対馬がステージ中央を向く形で1番上手側になり、中央にいる光村との間に古村がいるといういつもとは違ったもの。坂倉の下手の立ち位置は変わらないが。
「Howdy〜!」
と白いシャツを着て首元にバンダナを巻いた出で立ちで統一したメンバーたちがACOならではの挨拶をすると、やはり全員がアコースティック楽器を演奏して始まったのは、ACO名義のアルバムに収録されていた軽快な「口笛吹いて、こんにちは」。坂倉に合わせて早くも客席は手拍子をするのだが、その手拍子をさらにリズミカルかつ大きな音にしていくのは続く「手をたたけ」なのだが、対馬がドラムセットの椅子の上に立って手拍子を煽っていると、古村と坂倉は座ってカホンを叩くという編成に。ドラム系の音以外は光村のアコギのみという削ぎ落とされたサウンドであるが、それがメロディの美しさと光村のボーカルの伸びやかさを引き立たせている。カホンくらいなら当たり前のように演奏できてしまう2人も実は凄いのだが。
一転してジャカジャカとアコギをかき鳴らす「まっすぐなうた」はタイトル通りにまっすぐなアレンジで、アコースティックではあるけれどロックバンドというNICOなりのアコースティックでのアイデンティティを感じさせる。
しかしMCでは
「NICO Touches the Wallsの皆さんを心から尊敬している、ACO Touches the Wallsです(笑)」
と別バンドであることを強調。ステージ背面のアコギの絵が描かれたACO専用のバックドロップをNICOが用意してくれたことに感謝を示しながら、
「10月のライブで2回目の無期活動休止を宣言したのに、半年も経たずに戻って参りました(笑)」
とACOという設定を演じているからか、いつものライブよりもリラックスした、朗らかな一面を見せてくれる。
NICO本隊では光村がのっけから叫ぶロックモード全開な「VIBRIO VULNIFICUS」も同じ曲とは思えないくらいにムーディーなアレンジに。続く「SHOW」も含めて直近の作品である「TWISTER」「OYSTER」のEPは全く同じ曲をNICO本隊とACOで演奏した2枚組になっており、そもそもはそこに収録されているのだが、もうそのバージョンともまた違うアレンジが施されている。NICOはライブで音源とは違うアレンジをガンガン施していくバンドなのだが、アルバムを作っているという状況でありながらもACO編成ですらそうしてくるというのはいったいいつどうやってその練習なりリハなりをしているのだろうか。
光村「今回は「MACHIGAISAGASHI TOUR」ということで、僕が何回歌詞を間違えたかみなさんに数えていただいて…(笑)」
と「SHOW」で歌詞を間違えたことを正直に白状すると、
光村「我々ACOは最大キャパが渋谷のクアトロなもんで、いきなりNICOのみなさんにこんな広い会場を用意していただいて」
対馬「(訛りながら)ここが六本木か〜。あれがヒルズか?」
と、ACOになるとなぜか地方出身者(メンバーは千葉県北西部出身なので訛りは一切ない)になってしまうらしく、そんな田舎者たちが六本木という大都会に放り出されてしまったのを助けるべく、おなじみのスーパーサポートメンバー・浅野尚志がメンバーと同じ白シャツにバンダナを首に巻いた姿で登場。ステージ最も下手側にキーボードが最初からセッティングされていたので、出てくるだろうなぁとは思っていたが、ACOだといなくても違和感が全くないけれど、前日のNICO本隊でのライブは浅野がずっと客席で見ていたというから、実に久しぶりの4人編成でのライブだったらしい。そう聞くと前日見に行かなかったのが非常に悔やまれる。
浅野が美しいピアノのイントロを奏でたのは「夢1号」で、浅野のピアノだけでなく、古村と対馬のハイトーンなコーラスも光村のボーカルとアコギに重なっていく。2人とも兼ねてからコーラス経験は豊富だが、本隊に比べるとコーラスがよりはっきりと聞こえるACO編成においても素直に「めちゃくちゃ上手いな…」と思えるくらいにコーラスが上達している。これくらいコーラスできるんなら普通にボーカルもできそうな気すらする。(カレキーズ名義で歌っているけれど)
浅野尚志はそこから全て参加するというわけではなく、曲によって参加したりしなかったりという形なので、1曲弾いただけで早くもステージから去る。普通は参加する曲を参加するゾーンで固めるものなのだが、そうしたステージ上の都合よりも前後の曲と曲の繋がりを意識した選曲ということだろうか。
実際に「ホログラム」では坂倉がタンバリンとウィンドチャイムという形で演奏するというベースレス編成にしていたあたり、やはり編成で曲順を決めていないと見るのが正しいだろう。
囁くようなボーカルとそれをそっと支えるような黒子に徹した演奏による「芽」を終えると、
「やっぱりNICOのみなさんの曲は良い曲ばかりですね」
と同意するしかないことを言うのだが、曲のボーカルにつられてか、なぜかMCも囁くようなボリュームに。しかも光村だけでなく対馬も古村もそうなっているくらいに「芽」の演奏に入り込んでいた。
そのボーカルの聞かせ方の違いは「芽」のようなそもそもが聞かせるタイプの曲だけではなく、リリース当時は光村が歌いきれないくらいに思いっきり声を張り上げていた「Diver」もどこか余裕すら感じるような歌い方に。歌唱力だけでなく、サウンドに合わせた歌い方ができる表現力も格段に向上しているというのがACO編成だと非常によくわかる。
ここまではどちからかというと支える側というか、地味にすら感じる役回りを演じていた坂倉の力強いアコースティックベースのイントロからスタートした「mujina」は再び浅野のピアノも加わってNICOでのロック感がムーディーな空気に変換されていく。原曲では光村に合わせて手を叩く間奏部分では対馬に続いてイントロ同様に坂倉のベースがフィーチャーされており、歌を引き立たせるためのアコースティックアレンジに見えるが、実際はメンバーそれぞれの演奏を引き立たせるようなアレンジになっていることがわかる。
「ピアノ、浅野尚志!」
とソロ回しではピアノを華麗に弾いた浅野を紹介したかと思いきや、
「からの!」
と言うと浅野がピアノからヴァイオリンに持ち替え、「Funny Side Up!!」を原曲とはまた違う華やかさで彩ってみせる。NICO本隊では浅野がヴァイオリンを持つ=「THE BUNGY」という割と展開が見える要素でもあるので、この日もそうかと思いきやしっかりとこちらの予想を気持ちよく裏切ってくれる。
「NICOのみなさんが6月に新しいアルバムを出すということで。我々も「TWISTER」「OYSTER」に続いて全曲のアコースティックアレンジで参加させていただきます。まだNICOのみなさんから新曲が全部降りてきてないんですが、昨日のライブでやっていて、カッコいいな、と思った曲をやってみたいと思います(笑)」
と、やはりACOでも新曲を2曲演奏。1曲目はジャジーなアレンジのサウンドに、「闇」という単語が耳を惹きながら、
「君は永遠に僕のもの」
と歌う、ダークなラブソング。とはいえ本隊の演奏だと全く違う曲になっている可能性もじゅうぶんあるわけで、やはり前日もどんなに無理をしてでも見に来れば良かったと思った次第。
2曲目は光村のルーツの一つである歌謡曲の影響を感じさせるサウンドに、
「時代 時代 時代」
など、言葉数が多く、歯切れの良いリズムで歌われた曲。とはいえこちらも本隊の演奏を聴いたら全く違う印象を抱く可能性も大いにあるわけで…(以下略)
新曲たちではメンバーそれぞれの担当楽器で演奏されていただけに、終盤の「ニワカ雨ニモ負ケズ」「天地ガエシ」もその流れに。アコースティックであるが故の横揺れという意味でのダンサブルなアレンジになった「ニワカ雨ニモ負ケズ」、メンバーのコーラスの重なり方が本隊のライブでの加速し続けるクライマックス感とは全く異なる、綺麗に幕を下ろすようなアレンジに。セトリだけを見たら普段のライブと同じような終わり方をしていると思ってしまうかもしれないが、本編が終わった後に残った余韻は全く逆であると言ってもいいものだった。
アンコールでは光村とともに、ACOのグッズであるTシャツに身を包んだ古村と2人だけがステージに現れ、古村がシェイカーを振り、光村がアコギとボーカルという弾き語りに近い形で演奏されたのは「ランナー」。その編成ゆえに決して疾走感を感じさせるようなサウンドではないし、光村はマラソンランナーでもない、いわゆるフィクション的な視点の曲なんだけど、
「俺はランナー 孤独なランナー」
と歌う光村のボーカルは1人走っている姿が脳裏に浮かんでくるくらいの表現力を纏っていた。それはやはりアコースティックの削ぎ落とされたサウンドゆえというのもあるだろうけれど、もともとこの世代のなかでは頭一つ抜けた歌唱力を持つボーカリストだった光村はさらに一つ上の段階に突入した感すらあるし、ACOは自分たちの好きなように楽しくアレンジして演奏しているという無邪気なように見えてメンバー各々の力量をさらに上げるための形であるということもわかってくる。
対馬と坂倉も加わり、坂倉は古村からシェイカーを受け取ると、
「これからツアーに行ってきます!」
と光村が宣言してから演奏されたのはグループサウンズ的なアレンジがアコースティック楽器に変わることでさらに軽快さを増した「来世で逢いましょう」。間奏で光村と古村が前に出てきて並んでアコギを弾くのだが、弾くのに夢中になったからか最後のサビが始まる前に慌ててマイクスタンドに戻る光村の姿がACOならではの風通しの良さを感じさせて、実に微笑ましかった。
演奏が終わると4人が並んでステージ前に出て一礼し、古村はやたらとデカい(古いタイプ)カメラで他のメンバーは客席の写真を撮っていた。ツイッター公式アカウントに載っていた「今日の思い出」と題された写真はこのカメラで撮影したものだったのだろうか。
一応名前も変えているし、設定も別バンドというのもあるだろうが、やはりNICOのアコースティックは普通のバンドにありがちな、ただ楽器をアコースティックに変えて演奏しました、というアコースティックでは全くなく、歌詞とメロディだけを残し(曲によってはメロディも変わってる部分もあるけど)、アレンジを0から再構築するという、まさに別バンドと言っていいような形になっている。
それができるのはメンバーの演奏技術とアレンジセンス、さらには自分たちの音楽と作った曲でどれだけ遊べるか?という好奇心があってこそ。
近年のNICOのワンマンを見ていると、もはや中堅と呼ばれてもいい時期に差し掛かったバンドだからこその状況に想いを馳せたり、色々と考えてしまうようなことも多いのだが、ただただ演奏を楽しめたというのはアコースティックという普段とは異なる編成だから。
たまにはこうしたライブを見るのも実に新鮮だが、本文中であれだけ通常の編成との対比でACOについて書いているのにもかかわらず、前日のNICOとしてのライブを見れていないというのは2019年最初にして、平成最後の大後悔である。きっと前日も見ていた方がACOの凄さがより一層わかるだろうし、何よりも「QUIZMASTER」の期待値もはるかに高くなっていたと思うだけに。
1.口笛吹いて、こんにちは
2.手をたたけ
3.まっすぐなうた
4.VIBRIO VULNIFICUS
5.SHOW
6.夢1号
7.ホログラム
8.芽
9.Diver
10.mujina
11.Funny Side Up!!
12.新曲
13.新曲
14.ニワカ雨ニモ負ケズ
15.天地ガエシ
encore
16.ランナー
17.来世で逢いましょう
Next→ 3/31 ツタロック @幕張メッセ
「いったいなんのツアーなんだ?」
と謎を呼んでいた、NICO Touches the Wallsの前日からスタートしたツアーは、やはり開催直前になって、6月にニューアルバム「QUIZMASTER」のリリースが発表され、アルバムに収録される新曲のお披露目的なツアーという予想になった。
5月まで続く長いツアー(6月の追加公演も発表された)は各地全て2daysという日程になっているのだが、初日は通常のNICO Touches the Walls、2日目はアコースティック編成のACO Touches the Wallsという変則的な形のものになっている。この日はツアー1箇所目である東京はEX THEATER ROPPONGIでの2daysの2日目。ACO Touches the Wallsの日である。
2日通してチケットはソールドアウトということでアリーナから指定席まで満員の観客が待ちわびる中、ノリのいいブギなBGMの音が徐々に大きくなってきた19時ちょうどくらいに場内が暗転してメンバーが登場。アコースティックということで楽器のセッティングも普段よりも簡素、並びもドラムの対馬がステージ中央を向く形で1番上手側になり、中央にいる光村との間に古村がいるといういつもとは違ったもの。坂倉の下手の立ち位置は変わらないが。
「Howdy〜!」
と白いシャツを着て首元にバンダナを巻いた出で立ちで統一したメンバーたちがACOならではの挨拶をすると、やはり全員がアコースティック楽器を演奏して始まったのは、ACO名義のアルバムに収録されていた軽快な「口笛吹いて、こんにちは」。坂倉に合わせて早くも客席は手拍子をするのだが、その手拍子をさらにリズミカルかつ大きな音にしていくのは続く「手をたたけ」なのだが、対馬がドラムセットの椅子の上に立って手拍子を煽っていると、古村と坂倉は座ってカホンを叩くという編成に。ドラム系の音以外は光村のアコギのみという削ぎ落とされたサウンドであるが、それがメロディの美しさと光村のボーカルの伸びやかさを引き立たせている。カホンくらいなら当たり前のように演奏できてしまう2人も実は凄いのだが。
一転してジャカジャカとアコギをかき鳴らす「まっすぐなうた」はタイトル通りにまっすぐなアレンジで、アコースティックではあるけれどロックバンドというNICOなりのアコースティックでのアイデンティティを感じさせる。
しかしMCでは
「NICO Touches the Wallsの皆さんを心から尊敬している、ACO Touches the Wallsです(笑)」
と別バンドであることを強調。ステージ背面のアコギの絵が描かれたACO専用のバックドロップをNICOが用意してくれたことに感謝を示しながら、
「10月のライブで2回目の無期活動休止を宣言したのに、半年も経たずに戻って参りました(笑)」
とACOという設定を演じているからか、いつものライブよりもリラックスした、朗らかな一面を見せてくれる。
NICO本隊では光村がのっけから叫ぶロックモード全開な「VIBRIO VULNIFICUS」も同じ曲とは思えないくらいにムーディーなアレンジに。続く「SHOW」も含めて直近の作品である「TWISTER」「OYSTER」のEPは全く同じ曲をNICO本隊とACOで演奏した2枚組になっており、そもそもはそこに収録されているのだが、もうそのバージョンともまた違うアレンジが施されている。NICOはライブで音源とは違うアレンジをガンガン施していくバンドなのだが、アルバムを作っているという状況でありながらもACO編成ですらそうしてくるというのはいったいいつどうやってその練習なりリハなりをしているのだろうか。
光村「今回は「MACHIGAISAGASHI TOUR」ということで、僕が何回歌詞を間違えたかみなさんに数えていただいて…(笑)」
と「SHOW」で歌詞を間違えたことを正直に白状すると、
光村「我々ACOは最大キャパが渋谷のクアトロなもんで、いきなりNICOのみなさんにこんな広い会場を用意していただいて」
対馬「(訛りながら)ここが六本木か〜。あれがヒルズか?」
と、ACOになるとなぜか地方出身者(メンバーは千葉県北西部出身なので訛りは一切ない)になってしまうらしく、そんな田舎者たちが六本木という大都会に放り出されてしまったのを助けるべく、おなじみのスーパーサポートメンバー・浅野尚志がメンバーと同じ白シャツにバンダナを首に巻いた姿で登場。ステージ最も下手側にキーボードが最初からセッティングされていたので、出てくるだろうなぁとは思っていたが、ACOだといなくても違和感が全くないけれど、前日のNICO本隊でのライブは浅野がずっと客席で見ていたというから、実に久しぶりの4人編成でのライブだったらしい。そう聞くと前日見に行かなかったのが非常に悔やまれる。
浅野が美しいピアノのイントロを奏でたのは「夢1号」で、浅野のピアノだけでなく、古村と対馬のハイトーンなコーラスも光村のボーカルとアコギに重なっていく。2人とも兼ねてからコーラス経験は豊富だが、本隊に比べるとコーラスがよりはっきりと聞こえるACO編成においても素直に「めちゃくちゃ上手いな…」と思えるくらいにコーラスが上達している。これくらいコーラスできるんなら普通にボーカルもできそうな気すらする。(カレキーズ名義で歌っているけれど)
浅野尚志はそこから全て参加するというわけではなく、曲によって参加したりしなかったりという形なので、1曲弾いただけで早くもステージから去る。普通は参加する曲を参加するゾーンで固めるものなのだが、そうしたステージ上の都合よりも前後の曲と曲の繋がりを意識した選曲ということだろうか。
実際に「ホログラム」では坂倉がタンバリンとウィンドチャイムという形で演奏するというベースレス編成にしていたあたり、やはり編成で曲順を決めていないと見るのが正しいだろう。
囁くようなボーカルとそれをそっと支えるような黒子に徹した演奏による「芽」を終えると、
「やっぱりNICOのみなさんの曲は良い曲ばかりですね」
と同意するしかないことを言うのだが、曲のボーカルにつられてか、なぜかMCも囁くようなボリュームに。しかも光村だけでなく対馬も古村もそうなっているくらいに「芽」の演奏に入り込んでいた。
そのボーカルの聞かせ方の違いは「芽」のようなそもそもが聞かせるタイプの曲だけではなく、リリース当時は光村が歌いきれないくらいに思いっきり声を張り上げていた「Diver」もどこか余裕すら感じるような歌い方に。歌唱力だけでなく、サウンドに合わせた歌い方ができる表現力も格段に向上しているというのがACO編成だと非常によくわかる。
ここまではどちからかというと支える側というか、地味にすら感じる役回りを演じていた坂倉の力強いアコースティックベースのイントロからスタートした「mujina」は再び浅野のピアノも加わってNICOでのロック感がムーディーな空気に変換されていく。原曲では光村に合わせて手を叩く間奏部分では対馬に続いてイントロ同様に坂倉のベースがフィーチャーされており、歌を引き立たせるためのアコースティックアレンジに見えるが、実際はメンバーそれぞれの演奏を引き立たせるようなアレンジになっていることがわかる。
「ピアノ、浅野尚志!」
とソロ回しではピアノを華麗に弾いた浅野を紹介したかと思いきや、
「からの!」
と言うと浅野がピアノからヴァイオリンに持ち替え、「Funny Side Up!!」を原曲とはまた違う華やかさで彩ってみせる。NICO本隊では浅野がヴァイオリンを持つ=「THE BUNGY」という割と展開が見える要素でもあるので、この日もそうかと思いきやしっかりとこちらの予想を気持ちよく裏切ってくれる。
「NICOのみなさんが6月に新しいアルバムを出すということで。我々も「TWISTER」「OYSTER」に続いて全曲のアコースティックアレンジで参加させていただきます。まだNICOのみなさんから新曲が全部降りてきてないんですが、昨日のライブでやっていて、カッコいいな、と思った曲をやってみたいと思います(笑)」
と、やはりACOでも新曲を2曲演奏。1曲目はジャジーなアレンジのサウンドに、「闇」という単語が耳を惹きながら、
「君は永遠に僕のもの」
と歌う、ダークなラブソング。とはいえ本隊の演奏だと全く違う曲になっている可能性もじゅうぶんあるわけで、やはり前日もどんなに無理をしてでも見に来れば良かったと思った次第。
2曲目は光村のルーツの一つである歌謡曲の影響を感じさせるサウンドに、
「時代 時代 時代」
など、言葉数が多く、歯切れの良いリズムで歌われた曲。とはいえこちらも本隊の演奏を聴いたら全く違う印象を抱く可能性も大いにあるわけで…(以下略)
新曲たちではメンバーそれぞれの担当楽器で演奏されていただけに、終盤の「ニワカ雨ニモ負ケズ」「天地ガエシ」もその流れに。アコースティックであるが故の横揺れという意味でのダンサブルなアレンジになった「ニワカ雨ニモ負ケズ」、メンバーのコーラスの重なり方が本隊のライブでの加速し続けるクライマックス感とは全く異なる、綺麗に幕を下ろすようなアレンジに。セトリだけを見たら普段のライブと同じような終わり方をしていると思ってしまうかもしれないが、本編が終わった後に残った余韻は全く逆であると言ってもいいものだった。
アンコールでは光村とともに、ACOのグッズであるTシャツに身を包んだ古村と2人だけがステージに現れ、古村がシェイカーを振り、光村がアコギとボーカルという弾き語りに近い形で演奏されたのは「ランナー」。その編成ゆえに決して疾走感を感じさせるようなサウンドではないし、光村はマラソンランナーでもない、いわゆるフィクション的な視点の曲なんだけど、
「俺はランナー 孤独なランナー」
と歌う光村のボーカルは1人走っている姿が脳裏に浮かんでくるくらいの表現力を纏っていた。それはやはりアコースティックの削ぎ落とされたサウンドゆえというのもあるだろうけれど、もともとこの世代のなかでは頭一つ抜けた歌唱力を持つボーカリストだった光村はさらに一つ上の段階に突入した感すらあるし、ACOは自分たちの好きなように楽しくアレンジして演奏しているという無邪気なように見えてメンバー各々の力量をさらに上げるための形であるということもわかってくる。
対馬と坂倉も加わり、坂倉は古村からシェイカーを受け取ると、
「これからツアーに行ってきます!」
と光村が宣言してから演奏されたのはグループサウンズ的なアレンジがアコースティック楽器に変わることでさらに軽快さを増した「来世で逢いましょう」。間奏で光村と古村が前に出てきて並んでアコギを弾くのだが、弾くのに夢中になったからか最後のサビが始まる前に慌ててマイクスタンドに戻る光村の姿がACOならではの風通しの良さを感じさせて、実に微笑ましかった。
演奏が終わると4人が並んでステージ前に出て一礼し、古村はやたらとデカい(古いタイプ)カメラで他のメンバーは客席の写真を撮っていた。ツイッター公式アカウントに載っていた「今日の思い出」と題された写真はこのカメラで撮影したものだったのだろうか。
一応名前も変えているし、設定も別バンドというのもあるだろうが、やはりNICOのアコースティックは普通のバンドにありがちな、ただ楽器をアコースティックに変えて演奏しました、というアコースティックでは全くなく、歌詞とメロディだけを残し(曲によってはメロディも変わってる部分もあるけど)、アレンジを0から再構築するという、まさに別バンドと言っていいような形になっている。
それができるのはメンバーの演奏技術とアレンジセンス、さらには自分たちの音楽と作った曲でどれだけ遊べるか?という好奇心があってこそ。
近年のNICOのワンマンを見ていると、もはや中堅と呼ばれてもいい時期に差し掛かったバンドだからこその状況に想いを馳せたり、色々と考えてしまうようなことも多いのだが、ただただ演奏を楽しめたというのはアコースティックという普段とは異なる編成だから。
たまにはこうしたライブを見るのも実に新鮮だが、本文中であれだけ通常の編成との対比でACOについて書いているのにもかかわらず、前日のNICOとしてのライブを見れていないというのは2019年最初にして、平成最後の大後悔である。きっと前日も見ていた方がACOの凄さがより一層わかるだろうし、何よりも「QUIZMASTER」の期待値もはるかに高くなっていたと思うだけに。
1.口笛吹いて、こんにちは
2.手をたたけ
3.まっすぐなうた
4.VIBRIO VULNIFICUS
5.SHOW
6.夢1号
7.ホログラム
8.芽
9.Diver
10.mujina
11.Funny Side Up!!
12.新曲
13.新曲
14.ニワカ雨ニモ負ケズ
15.天地ガエシ
encore
16.ランナー
17.来世で逢いましょう
Next→ 3/31 ツタロック @幕張メッセ