Base Ball Bear TOUR LIVE IN LIVE 「17才から17年やってますツアー」 @Zepp Diver City 3/15
- 2019/03/16
- 07:17
3人編成でライブを行うようになってからちょうど1年くらい。Base Ball Bearの恒例のライブツアー「LIVE IN LIVE」の今回のタイトルは「17才から17年やってますツアー」ということで、2ndアルバムにしてバンドの立ち位置を一気にメインストリームに押し上げた名盤「十七歳」が冠されている。
場内には中村一義「キャノンボール」、くるり「ばらの花」、SUPERCAR「STROBOLIGHTS」、NUMBER GIRL「NUM-AMI-DABUTZ」、RIZE「日本刀」、ZEEBRA feat.AKTION「Neva Enuff」など、まさに17年前にリリースされた名曲たちが流れているという徹底っぷり。かつてのLIVE IN LIVEではバンドの原点であるSUPERCARの初期曲ばかりが流れていた時もあった。
19時を過ぎるとそのBGMが止まって場内が暗転し、おなじみのXTCのSEが流れる中でメンバー3人が登場。ギター&ボーカルの小出が下手、ベースの関根が上手というのはスリーピースではかなり珍しい立ち位置だ。(通常はギターが上手が多い)
普段は堀之内のドラムセットの前に小出と関根が集まる、いわゆる「堀之内会議」を行なってから各々の位置について演奏を始めるのだが、この日は堀之内がサウンドチェックをするかのようにドラムを叩く間に小出と関根が位置につき、小出がギターをジャーンと鳴らしたのは「17才」のイントロ。最近はフェスなどでもよく演奏されているとはいえ、やはりこの曲を最初に持ってくるあたりにこのツアーが「十七歳」のアルバムを主体にしたものであることが伝わってくる。「十七歳」のオープニングもこの曲である。
この日はツアーとしてはまだ中盤なのだが、(ファイナルはなぜか香川だった)直前の名古屋を小出の喉の不調によって延期しているだけに、ライブは楽しみなのだが果たして大丈夫なのだろうか?と思うところもあったのだが、声は普通に出ている。しかし今までよりもリバーブが強くかかっているかのような感じがしたのだが、これは小出が後のMCで言っていたように、
「花粉症になってしまって、鼻声になってる気がする」
という理由によるものだろう。実際に歌っていくにつれてそのイメージはなくなっていったし、そもそも不調を訴えていたことすらも忘れるくらいの通常営業っぷりだった。
3人になってから獲得したというか、関根がベーシストとして新たな扉を開いたからこその強く重いグルーヴがうねりまくる「試される」は今年リリースされたEP「ポラリス」収録曲であり、最新作のリリースツアーと「十七歳」の曲を演奏するという2つの軸でこのツアーが成り立っていることを示す。
「試される 試される やたら僕ら試される」
というこの曲のサビのフレーズはまさにこのバンドが「この状況になってもこのバンドを続けることができるか?」と試されているような曲を作っていたであろう時を示唆しているかのよう。
「十七歳」からは懐かしの「ヘヴンズドアー・ガールズ」、さらには実に久しぶりの「抱きしめたい」までも演奏されるのだが、「抱きしめたい」はあえてリードギターのフレーズを小出が弾かないという削ぎ落とされまくった、3人の素で演奏しているかのようなアレンジに。だからこそ4人じゃなくて3人になったという現実に改めて直面させられるのだが、そこに悲壮感が全く感じられないのは、主に堀之内が手数を増やすことによって曲がもったりとしないようにしているから。ギターがいない穴を埋めるのは同じ楽器じゃなくていい、ということが実によくわかるアレンジだし、削ぎ落とされたことでメロディと歌詞はより一層しっかりと聞こえてくる。
最新作収録の「Flame」も今の「抱きしめたい」同様に、「3人での削ぎ落とされたサウンド」に振り切った曲。もしかしたらこの曲を作ったことが「抱きしめたい」のアレンジに繋がっているのかもしれない、と考えると今のベボベはライブと制作が切り離されているのではなくて相互的に作用しているというようにも捉えることができる。
関根がベースから、3人編成になってから導入した新兵器・チャップマンスティックに持ち替えると「Transfer Girl」が演奏されるのだが、小出は従来通りのギターを弾いているのにリードのリフが聞こえてくる。
これは同期を使っているのではなくて、チャップマンスティックは名前の通りに棒状の楽器なのだが、片手で抑えて片手で弾くというギターやベースとは違い、片手の指何本かで抑えながら他の指で弾くのを両手でするという楽器であり、左手でベースの低音を、右手でリードギターのメロディを奏でることができるというとんでもない楽器である。(扱いが難しいからか、日本ではほとんど弾く人がいない)
つまり関根は一人でギターとベースの二役を担っているのだが、両手をしっかりと見ていないと演奏できない特性上、前を見てコーラスをすることができない。(サビでは前を向く部分もあったが)
じゃあコーラスはなくして、となるのではなくて、そこを埋めるのはドラムを叩きながらハイトーンのコーラスをも担えるようになった堀之内。4人の時の音が欲しい曲は全て小出がリードギターを弾きながら歌うのではなくて、一人一人ができることを増やすことで演奏できるようにする。
ベボベはデビュー当初から「このメンバー以外が演奏しているのが考えられないバンド」だったが、一人一人がミュージシャンとしての技術を磨き、武器を増やすことによってより一層代わりがきかない存在になっている。それが3つ重なることによって、今のバンドは過去最強の状態であるというオーラが出まくっている。
見た目はデビュー当時からほとんど変わらないように見える(ずっと見続けてきたから変化に気づかないだけかもしれないけど)が、内面は本当に頼もしいミュージシャンに成長し続けている。
恒例の3人でのトークコーナーは
「17歳の時の話か、「十七歳」をリリースした時の話、バンド結成17年の裏話」
というテーマが設けられたのだが、3公演目でとっておきの話をしてしまっただけに、もう話すネタがないということで、
「17歳×3で51歳の時にどういう大人になっていたいか」
という未来の話に。
小出は「タイトめな服から徐々にダボっとした服に移行する」
関根は「歳をとるのを受け入れて偏屈婆さんになる」
堀之内は「変わらないままでいたい」
とその目標は三者三様。ここまでバラバラな3人が高校生の時からずっと一緒にバンドをやり続けていて、演奏中は何一つバラバラなところが見えない。そう考えるとこのバンドは奇跡的なバランスで成り立っているのかもしれない。
「「十七歳」というアルバムは青春とかスクール感の強いもので、僕ら自身もそれを出そうとしていたところがあるんですけど、中には当時からしたらちょっと背伸びをしたような曲もあって。それを今の形で聞いてください」
と言って演奏されたのは「FUTATSU NO SEKAI」。確かに「十七歳」のなかでは異質なタイプの、自己の葛藤を強く感じさせる曲。それが関根の力強いベースソロを含めた、今だからこそライブで真価を発揮できる曲に生まれ変わらせている。この曲はリリース当時よりも今の方が間違いなく良い。
一転して青春らしさを感じさせる「初恋」は青春を過ぎた人たちによる俯瞰した青春らしさを感じさせ、「ポラリス」収録曲の中で最もファンを驚かせたゴリゴリのヒップホップ(とはいえミクスチャー色が強いが)「PARK」で小出がマテリアルクラブでも披露しているラップを炸裂させると、
「今の我々は運気とかも含めて、大きなタイミングに来ている。レーベルも立ち上げましたが、我々3人がしっかりと周りの人たちを引っ張っていかないといけないと3人それぞれ思ってるはずです」
と小出が口にし、堀之内も関根も同意。
かなり抽象的というか、具体的にどんなことが待ち受けていたり、予定されているのかは全くわからなかったが、3人全員がそのビジョンをしっかり共有しているから、具体性がなくてもそこにネガティブな予想は全く出てこない。やはり自主レーベルを持つというのはそれまでとは全く違う責任が芽生えるものなのだろうか。
その思いを共有しているからこそ、3人であることをテーマにし、小出→堀之内→関根とボーカルがリレーしていく「ポラリス」はより強く輝く。堀之内のボーカルパートでは小出と関根がドラム台に乗って堀之内のことを凝視しながら演奏し、
「街と海と私の三角関係」
という、かつての「GIRL OF ARMS」の歌詞の引用が出てくる関根パートでは小出は関根を立たせるためか、ドラムセットに腰掛けて目立たずにギターを弾く。この曲のこうしたボーカル回しや演奏はこうして3人にならなければ思いつくことすらなかっただろう。そして関根のボーカル力の向上はもちろん、堀之内も全然歌えるドラマーであるというのは新たな発見であるし、バンドとしての可能性はさらに広がっている。
「星がほしい」からの後半はさらにギアを上げ、客席の温度も一気に上昇していく。小出のカッティングギターのイントロが過去最高のテンポの速さを更新する「青い春.虚無」は
「嗤った 彼らの声に」
「夕方 感じた傷の」
というフレーズの部分が最近再結成を発表したNUMBER GIRLからこのバンドに受け継がれてきたものを強く感じさせる。
観客が小出とともにカウントをする事でさらなる熱狂を生み出す「LOVE MATHEMATICS」は今ではどの曲よりもライブ定番曲になっているし、3人編成になってからは「The CUT」もそうなのだが、RHYMESTERのパートも小出がラップし、関根と堀之内のビートだけでグルーヴを作り出すというスタイルは新作の「PARK」に繋がっていると思う。小出と関根が向かい合いながら演奏する姿にもファンとしては胸が熱くなる。
そしてラストは
「我々Base Ball Bearとみなさんの人生がこんな感じでありますように」
と言って演奏された「ドラマチック」で来るべき今年の夏もこうしてこのバンドのライブを見て、このバンドが生み出してきた夏の名曲を聴いて思い出に変わっていけたら、と思っていた。気づいたら小出が喉の不調で直前のライブを飛ばしていることを完全に忘れ去っていた。
アンコールではメンバー全員がツアーグッズに着替えて登場。関根はキャップまで被っており、その見た目は未だに大学生くらいのようにも見える。
そして堀之内の考案した物販を小出がいじり倒しながら、
「さっきも言いましたけど、「十七歳」の中には結構背伸びをした曲も入っていて。その頃に僕の親友が結婚して、すぐに子供も生まれて。そいつのために作った曲があって、親友なんで結婚式に呼ばれてそこでこの曲を歌うんだろうなと思ってたんだけど、今流行りの親族のみで式をやるっていうやつで。親友だけど親族ではないんで呼ばれなかったっていう可哀想な曲を最後にやります。今日はありがとうございました!」
というエピソードを語ってから演奏されたのは「協奏曲」。
「いつも傍で笑ってよ いつも傍で笑わせてあげるよ」
という新郎新婦に向けたであろうフレーズは小出が普通に歌詞を書いたら間違いなく出てこないようなものであり、確かにそのエピソードを踏まえると「十七歳」というテーマからはすこし逸れている曲だ。しかしながら今になってこの曲が聴けるなんて思ってなかった。
もう「十七歳」がリリースされてから10年くらい。当時はこのZepp DiverCityはまだ存在しておらず、今はなくなってしまった渋谷AXなどでよくこのアルバムに入ってる曲を聴いていた。あの頃に戻りたいとは全く思わないけど、当時はツアーの中でセトリが変わることはない、フェスでも夏フェス期間中はセトリ固定(まだ当時は若手らしくライブハウスの4〜5組出演するイベントにはよく出ていたが、春フェスという概念はほぼなかった)というスタイルだったこのバンドのライブ1本1本を、今ならもっと大事に見ることができるような気がする。そんなファンたちみんなが
「このセトリ飽きてきたから変えてくれないかな…」
と言っていたライブでさえ、もう二度と見ることができないという現実を我々はもう知ってしまっているから。
客電がついてBGMが流れても全く帰ることなくさらなるアンコールを求める観客に応えるように、ダブルアンコール。ベボベはなんならメジャーデビューをしてワンマンをやれるようになってからずっとダブルアンコールに応えてくれるバンドであったし(メジャー1stアルバム「C」のリリースツアーファイナルの渋谷クアトロでダブルアンコールをやったのは今でもよく覚えている)、多分今でもずっとツアーに参加している人はやってくれるってわかっていた人ばかりだっただろうけど、この日は本当に観客が惰性でなくて心からアンコールを求めていたし、堀之内は出てきてからその想いに応えるように何度も
「ありがとうー!」
と叫んでいた。小出をはじめ、このバンドのメンバーはいつも飄々としているから、あまり熱くなったり、気合いが入っていたりということがよくわからなかったりする。
でもこの瞬間、確かにバンドとファンが通じ合っているような、17年のバンド歴の中で作り上げてきた絆や信頼のようなものを確かに感じることができた。そもそもが喉の不調でライブを延期した直後のライブだ。キツそうだったら小出のことを気遣ってここまで歌ってくれとも思わない。でも我々も本人も「まだいける」とライブを見ていて思ったからこそのダブルアンコール。
そこで演奏された、おそらく17年前から演奏されてきたであろう(自分がこのバンドに出会った当時からずっと演奏している)「夕方ジェネレーション」は近年の曲と比べるとはるかにシンプルであるがゆえに3人で演奏されているのが「もとからこのスタイルだったんじゃないか?」って思うほどに違和感がなかったし(ちょっとライブだからこそのテンポの速さはあったし、それが良かったのだけど)、こうしてこの曲を聴いていると今でもこのバンドのメンバーたちは
「切なげなメロディーがお似合いのジェネレーション」
だと思う。
「10年バンドをやっていたら無傷ではいられない」
と言っていたのは、自身もバンドを解散した後に湯浅離脱直後のこのバンドのサポートメンバーを買って出てくれたフルカワユタカである。
確かに、ベボベももう結成から17年経って、全く無傷のバンドではない。むしろ今回の小出の喉の件によって、実は満身創痍状態なんじゃないかとすら思うようにもなってきた。
でもそうして傷を抱えながらも自分たちの技術や武器を今でも強化し続け、今なお「今が1番凄いな」と思わせてくれる。それが同じくらいの年月を生きてきて(紛れも無い同世代である)、同じような景色を見てきて(千葉県の高校出身。彼らの母校を受験しようかと思ったけど私立だったからやめた)、同じような音楽を聴いてきて(開演前のBGMはすべてわかる)、同じようなカルチャーに触れて(小出が口にする特撮や漫画やアニメもだいたい知ってる)きたメンバーたちのバンドから感じることができる。
それはほかのどんな人間よりも自分に力を与えてくれる。ベボベは直接的に聴き手を勇気付けたりしないし、むしろそういうことを意識的に避けているようにすら感じるが、こうしてバンドを続けるだけでその姿から生きる力をもらっている人がたくさんいるはず。
17年のうちの13〜14年。止まることが1度もなかったから、お互いに二十歳くらいの頃からずっと一緒に生きてきた。今でもこうしてライブを見るたびに、これからも一緒に歳を重ねていきたいと思える。お互いに51歳になった時にはどんな感じになってるんだろうな。変わらなそうだ、この3人は。
1.17才
2.試される
3.ヘヴンズドアー・ガールズ
4.抱きしめたい
5.Flame
6.Transfer Girl
7.FUTATSU NO SEKAI
8.初恋
9.PARK
10.ポラリス
11.星がほしい
12.青い春.虚無
13.LOVE MATHEMATICS
14.The CUT
15.ドラマチック
encore1
16.協奏曲
encore2
17.夕方ジェネレーション
ポラリス (2019.3.2)
https://youtu.be/x6qtHJHDR-4
Next→ 3/16 the telephones × BRAHMAN @釜石PIT
場内には中村一義「キャノンボール」、くるり「ばらの花」、SUPERCAR「STROBOLIGHTS」、NUMBER GIRL「NUM-AMI-DABUTZ」、RIZE「日本刀」、ZEEBRA feat.AKTION「Neva Enuff」など、まさに17年前にリリースされた名曲たちが流れているという徹底っぷり。かつてのLIVE IN LIVEではバンドの原点であるSUPERCARの初期曲ばかりが流れていた時もあった。
19時を過ぎるとそのBGMが止まって場内が暗転し、おなじみのXTCのSEが流れる中でメンバー3人が登場。ギター&ボーカルの小出が下手、ベースの関根が上手というのはスリーピースではかなり珍しい立ち位置だ。(通常はギターが上手が多い)
普段は堀之内のドラムセットの前に小出と関根が集まる、いわゆる「堀之内会議」を行なってから各々の位置について演奏を始めるのだが、この日は堀之内がサウンドチェックをするかのようにドラムを叩く間に小出と関根が位置につき、小出がギターをジャーンと鳴らしたのは「17才」のイントロ。最近はフェスなどでもよく演奏されているとはいえ、やはりこの曲を最初に持ってくるあたりにこのツアーが「十七歳」のアルバムを主体にしたものであることが伝わってくる。「十七歳」のオープニングもこの曲である。
この日はツアーとしてはまだ中盤なのだが、(ファイナルはなぜか香川だった)直前の名古屋を小出の喉の不調によって延期しているだけに、ライブは楽しみなのだが果たして大丈夫なのだろうか?と思うところもあったのだが、声は普通に出ている。しかし今までよりもリバーブが強くかかっているかのような感じがしたのだが、これは小出が後のMCで言っていたように、
「花粉症になってしまって、鼻声になってる気がする」
という理由によるものだろう。実際に歌っていくにつれてそのイメージはなくなっていったし、そもそも不調を訴えていたことすらも忘れるくらいの通常営業っぷりだった。
3人になってから獲得したというか、関根がベーシストとして新たな扉を開いたからこその強く重いグルーヴがうねりまくる「試される」は今年リリースされたEP「ポラリス」収録曲であり、最新作のリリースツアーと「十七歳」の曲を演奏するという2つの軸でこのツアーが成り立っていることを示す。
「試される 試される やたら僕ら試される」
というこの曲のサビのフレーズはまさにこのバンドが「この状況になってもこのバンドを続けることができるか?」と試されているような曲を作っていたであろう時を示唆しているかのよう。
「十七歳」からは懐かしの「ヘヴンズドアー・ガールズ」、さらには実に久しぶりの「抱きしめたい」までも演奏されるのだが、「抱きしめたい」はあえてリードギターのフレーズを小出が弾かないという削ぎ落とされまくった、3人の素で演奏しているかのようなアレンジに。だからこそ4人じゃなくて3人になったという現実に改めて直面させられるのだが、そこに悲壮感が全く感じられないのは、主に堀之内が手数を増やすことによって曲がもったりとしないようにしているから。ギターがいない穴を埋めるのは同じ楽器じゃなくていい、ということが実によくわかるアレンジだし、削ぎ落とされたことでメロディと歌詞はより一層しっかりと聞こえてくる。
最新作収録の「Flame」も今の「抱きしめたい」同様に、「3人での削ぎ落とされたサウンド」に振り切った曲。もしかしたらこの曲を作ったことが「抱きしめたい」のアレンジに繋がっているのかもしれない、と考えると今のベボベはライブと制作が切り離されているのではなくて相互的に作用しているというようにも捉えることができる。
関根がベースから、3人編成になってから導入した新兵器・チャップマンスティックに持ち替えると「Transfer Girl」が演奏されるのだが、小出は従来通りのギターを弾いているのにリードのリフが聞こえてくる。
これは同期を使っているのではなくて、チャップマンスティックは名前の通りに棒状の楽器なのだが、片手で抑えて片手で弾くというギターやベースとは違い、片手の指何本かで抑えながら他の指で弾くのを両手でするという楽器であり、左手でベースの低音を、右手でリードギターのメロディを奏でることができるというとんでもない楽器である。(扱いが難しいからか、日本ではほとんど弾く人がいない)
つまり関根は一人でギターとベースの二役を担っているのだが、両手をしっかりと見ていないと演奏できない特性上、前を見てコーラスをすることができない。(サビでは前を向く部分もあったが)
じゃあコーラスはなくして、となるのではなくて、そこを埋めるのはドラムを叩きながらハイトーンのコーラスをも担えるようになった堀之内。4人の時の音が欲しい曲は全て小出がリードギターを弾きながら歌うのではなくて、一人一人ができることを増やすことで演奏できるようにする。
ベボベはデビュー当初から「このメンバー以外が演奏しているのが考えられないバンド」だったが、一人一人がミュージシャンとしての技術を磨き、武器を増やすことによってより一層代わりがきかない存在になっている。それが3つ重なることによって、今のバンドは過去最強の状態であるというオーラが出まくっている。
見た目はデビュー当時からほとんど変わらないように見える(ずっと見続けてきたから変化に気づかないだけかもしれないけど)が、内面は本当に頼もしいミュージシャンに成長し続けている。
恒例の3人でのトークコーナーは
「17歳の時の話か、「十七歳」をリリースした時の話、バンド結成17年の裏話」
というテーマが設けられたのだが、3公演目でとっておきの話をしてしまっただけに、もう話すネタがないということで、
「17歳×3で51歳の時にどういう大人になっていたいか」
という未来の話に。
小出は「タイトめな服から徐々にダボっとした服に移行する」
関根は「歳をとるのを受け入れて偏屈婆さんになる」
堀之内は「変わらないままでいたい」
とその目標は三者三様。ここまでバラバラな3人が高校生の時からずっと一緒にバンドをやり続けていて、演奏中は何一つバラバラなところが見えない。そう考えるとこのバンドは奇跡的なバランスで成り立っているのかもしれない。
「「十七歳」というアルバムは青春とかスクール感の強いもので、僕ら自身もそれを出そうとしていたところがあるんですけど、中には当時からしたらちょっと背伸びをしたような曲もあって。それを今の形で聞いてください」
と言って演奏されたのは「FUTATSU NO SEKAI」。確かに「十七歳」のなかでは異質なタイプの、自己の葛藤を強く感じさせる曲。それが関根の力強いベースソロを含めた、今だからこそライブで真価を発揮できる曲に生まれ変わらせている。この曲はリリース当時よりも今の方が間違いなく良い。
一転して青春らしさを感じさせる「初恋」は青春を過ぎた人たちによる俯瞰した青春らしさを感じさせ、「ポラリス」収録曲の中で最もファンを驚かせたゴリゴリのヒップホップ(とはいえミクスチャー色が強いが)「PARK」で小出がマテリアルクラブでも披露しているラップを炸裂させると、
「今の我々は運気とかも含めて、大きなタイミングに来ている。レーベルも立ち上げましたが、我々3人がしっかりと周りの人たちを引っ張っていかないといけないと3人それぞれ思ってるはずです」
と小出が口にし、堀之内も関根も同意。
かなり抽象的というか、具体的にどんなことが待ち受けていたり、予定されているのかは全くわからなかったが、3人全員がそのビジョンをしっかり共有しているから、具体性がなくてもそこにネガティブな予想は全く出てこない。やはり自主レーベルを持つというのはそれまでとは全く違う責任が芽生えるものなのだろうか。
その思いを共有しているからこそ、3人であることをテーマにし、小出→堀之内→関根とボーカルがリレーしていく「ポラリス」はより強く輝く。堀之内のボーカルパートでは小出と関根がドラム台に乗って堀之内のことを凝視しながら演奏し、
「街と海と私の三角関係」
という、かつての「GIRL OF ARMS」の歌詞の引用が出てくる関根パートでは小出は関根を立たせるためか、ドラムセットに腰掛けて目立たずにギターを弾く。この曲のこうしたボーカル回しや演奏はこうして3人にならなければ思いつくことすらなかっただろう。そして関根のボーカル力の向上はもちろん、堀之内も全然歌えるドラマーであるというのは新たな発見であるし、バンドとしての可能性はさらに広がっている。
「星がほしい」からの後半はさらにギアを上げ、客席の温度も一気に上昇していく。小出のカッティングギターのイントロが過去最高のテンポの速さを更新する「青い春.虚無」は
「嗤った 彼らの声に」
「夕方 感じた傷の」
というフレーズの部分が最近再結成を発表したNUMBER GIRLからこのバンドに受け継がれてきたものを強く感じさせる。
観客が小出とともにカウントをする事でさらなる熱狂を生み出す「LOVE MATHEMATICS」は今ではどの曲よりもライブ定番曲になっているし、3人編成になってからは「The CUT」もそうなのだが、RHYMESTERのパートも小出がラップし、関根と堀之内のビートだけでグルーヴを作り出すというスタイルは新作の「PARK」に繋がっていると思う。小出と関根が向かい合いながら演奏する姿にもファンとしては胸が熱くなる。
そしてラストは
「我々Base Ball Bearとみなさんの人生がこんな感じでありますように」
と言って演奏された「ドラマチック」で来るべき今年の夏もこうしてこのバンドのライブを見て、このバンドが生み出してきた夏の名曲を聴いて思い出に変わっていけたら、と思っていた。気づいたら小出が喉の不調で直前のライブを飛ばしていることを完全に忘れ去っていた。
アンコールではメンバー全員がツアーグッズに着替えて登場。関根はキャップまで被っており、その見た目は未だに大学生くらいのようにも見える。
そして堀之内の考案した物販を小出がいじり倒しながら、
「さっきも言いましたけど、「十七歳」の中には結構背伸びをした曲も入っていて。その頃に僕の親友が結婚して、すぐに子供も生まれて。そいつのために作った曲があって、親友なんで結婚式に呼ばれてそこでこの曲を歌うんだろうなと思ってたんだけど、今流行りの親族のみで式をやるっていうやつで。親友だけど親族ではないんで呼ばれなかったっていう可哀想な曲を最後にやります。今日はありがとうございました!」
というエピソードを語ってから演奏されたのは「協奏曲」。
「いつも傍で笑ってよ いつも傍で笑わせてあげるよ」
という新郎新婦に向けたであろうフレーズは小出が普通に歌詞を書いたら間違いなく出てこないようなものであり、確かにそのエピソードを踏まえると「十七歳」というテーマからはすこし逸れている曲だ。しかしながら今になってこの曲が聴けるなんて思ってなかった。
もう「十七歳」がリリースされてから10年くらい。当時はこのZepp DiverCityはまだ存在しておらず、今はなくなってしまった渋谷AXなどでよくこのアルバムに入ってる曲を聴いていた。あの頃に戻りたいとは全く思わないけど、当時はツアーの中でセトリが変わることはない、フェスでも夏フェス期間中はセトリ固定(まだ当時は若手らしくライブハウスの4〜5組出演するイベントにはよく出ていたが、春フェスという概念はほぼなかった)というスタイルだったこのバンドのライブ1本1本を、今ならもっと大事に見ることができるような気がする。そんなファンたちみんなが
「このセトリ飽きてきたから変えてくれないかな…」
と言っていたライブでさえ、もう二度と見ることができないという現実を我々はもう知ってしまっているから。
客電がついてBGMが流れても全く帰ることなくさらなるアンコールを求める観客に応えるように、ダブルアンコール。ベボベはなんならメジャーデビューをしてワンマンをやれるようになってからずっとダブルアンコールに応えてくれるバンドであったし(メジャー1stアルバム「C」のリリースツアーファイナルの渋谷クアトロでダブルアンコールをやったのは今でもよく覚えている)、多分今でもずっとツアーに参加している人はやってくれるってわかっていた人ばかりだっただろうけど、この日は本当に観客が惰性でなくて心からアンコールを求めていたし、堀之内は出てきてからその想いに応えるように何度も
「ありがとうー!」
と叫んでいた。小出をはじめ、このバンドのメンバーはいつも飄々としているから、あまり熱くなったり、気合いが入っていたりということがよくわからなかったりする。
でもこの瞬間、確かにバンドとファンが通じ合っているような、17年のバンド歴の中で作り上げてきた絆や信頼のようなものを確かに感じることができた。そもそもが喉の不調でライブを延期した直後のライブだ。キツそうだったら小出のことを気遣ってここまで歌ってくれとも思わない。でも我々も本人も「まだいける」とライブを見ていて思ったからこそのダブルアンコール。
そこで演奏された、おそらく17年前から演奏されてきたであろう(自分がこのバンドに出会った当時からずっと演奏している)「夕方ジェネレーション」は近年の曲と比べるとはるかにシンプルであるがゆえに3人で演奏されているのが「もとからこのスタイルだったんじゃないか?」って思うほどに違和感がなかったし(ちょっとライブだからこそのテンポの速さはあったし、それが良かったのだけど)、こうしてこの曲を聴いていると今でもこのバンドのメンバーたちは
「切なげなメロディーがお似合いのジェネレーション」
だと思う。
「10年バンドをやっていたら無傷ではいられない」
と言っていたのは、自身もバンドを解散した後に湯浅離脱直後のこのバンドのサポートメンバーを買って出てくれたフルカワユタカである。
確かに、ベボベももう結成から17年経って、全く無傷のバンドではない。むしろ今回の小出の喉の件によって、実は満身創痍状態なんじゃないかとすら思うようにもなってきた。
でもそうして傷を抱えながらも自分たちの技術や武器を今でも強化し続け、今なお「今が1番凄いな」と思わせてくれる。それが同じくらいの年月を生きてきて(紛れも無い同世代である)、同じような景色を見てきて(千葉県の高校出身。彼らの母校を受験しようかと思ったけど私立だったからやめた)、同じような音楽を聴いてきて(開演前のBGMはすべてわかる)、同じようなカルチャーに触れて(小出が口にする特撮や漫画やアニメもだいたい知ってる)きたメンバーたちのバンドから感じることができる。
それはほかのどんな人間よりも自分に力を与えてくれる。ベボベは直接的に聴き手を勇気付けたりしないし、むしろそういうことを意識的に避けているようにすら感じるが、こうしてバンドを続けるだけでその姿から生きる力をもらっている人がたくさんいるはず。
17年のうちの13〜14年。止まることが1度もなかったから、お互いに二十歳くらいの頃からずっと一緒に生きてきた。今でもこうしてライブを見るたびに、これからも一緒に歳を重ねていきたいと思える。お互いに51歳になった時にはどんな感じになってるんだろうな。変わらなそうだ、この3人は。
1.17才
2.試される
3.ヘヴンズドアー・ガールズ
4.抱きしめたい
5.Flame
6.Transfer Girl
7.FUTATSU NO SEKAI
8.初恋
9.PARK
10.ポラリス
11.星がほしい
12.青い春.虚無
13.LOVE MATHEMATICS
14.The CUT
15.ドラマチック
encore1
16.協奏曲
encore2
17.夕方ジェネレーション
ポラリス (2019.3.2)
https://youtu.be/x6qtHJHDR-4
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