夕方5時のチャイムからのクボの宵 出演:クボケンジ @富士吉田市民会館小ホール 3/9
- 2019/03/10
- 12:07
世間的には、そして音楽好きとしてはこの日はレミオロメンの日である。そんなこの日に訪れたのは、山梨県富士吉田市にある市民会館。
メレンゲのボーカリストであるクボケンジの弾き語りなのだが、なぜわざわざこんな場所で、というのはクボの親友であるフジファブリックの志村正彦の出身地がこの富士吉田だからである。
会場は本当に市民会館の中の小さいホールであり、全席指定の200ほどの椅子席といった感じだが、まだ建物が新しいのかかなり綺麗な会場である。
開演前には富士吉田の火まつりや機織り、地元の飲み屋街などを紹介する映像や、プロレスラーの武藤敬司が主演の「吉田うどんの映画」の宣伝というシュール極まりない映像が流れる。
すると場内が暗転すると同時にまだ14時という時間であるが、チャイムが鳴り始める。そのチャイムのメロディはフジファブリック「若者のすべて」のサビのものであり、この日この場所でクボケンジがライブをやろうと思った理由がこの段階でわかる。
チャイムが鳴ってすぐに出てくるのかと思いきや、何分か経ってからクボケンジに加えて、メレンゲのライブでもおなじみの山本健太(キーボード)、さらにはかつてa flood of circleでサポートギターを務めていた曽根巧も登場するという3人編成。
「なんでそんな静かに待ってたん?(笑)
喋ってればいいのに」
とクボはいつもの通りに軽口を叩いていたが、みんな暗転したからすぐに始まると思って喋らずに待ってたのに、という思いが笑いという形になって返されると、弾き語りではおなじみの「CAMPFIRE」からスタートし、髪型がかつてよりさっぱりとしたように見える曽根がギターをスライドさせることによってバンド編成と同様にアイリッシュなサウンドをもたらす「ルゥリィ」と続くと、
「曽根さんは怖い」
とクボがこの日のサポート2人を紹介してから、山本健太がキーボードを弾きながら左足でキックを踏むことによってウワモノの楽器しかないにもかかわらずリズムを刻み出すというマルチな活躍を見せた「hole」でトラブルが発生。
クボのアコギがノイズを発するようになり、クボは途中からアコギを弾かずに歌を歌うだけに。
「やっぱり今日はなんかいるな〜」
と言いながらギターをチェックすると、どうやらシールドを刺す部分が緩くなっており、そこからノイズが発生してしまっていたらしい。直そうとすると一旦弦を全部取り外さないといけないということで、修復を曽根に任せてその間はクボと山本の2人だけのコーナーへ。
「なんかいるな〜」
の「なんか」は、かつて同じマンションに住んでいて、深夜にクボの部屋のチャイムを連打しまくっては
「お前それうるさいからやめろ」
と言われていた、イタズラ好きの志村正彦のことだろう。
「クボさんこれやられたら困るかな?」
と意地悪そうに笑みを浮かべる志村の顔が目に浮かぶようだ。
山本健太のキーボードの上でクボは歌唱に専念する、かつて新垣結衣に提供された「うつし絵」、削ぎ落とされたサウンドがメロディを際立たせる「まぶしい朝」と歌うと、見事にギターの修復を果たした曽根がステージに帰還。a flood of circleのサポートを完遂した時も「ナイスサポート」と評され、当時は正式メンバー化を望む声もあったが、そのナイスサポートっぷりはここでも健在。
クボは
「今日この会場でやろうと思ったのは、ここが志村の故郷だからで。ここ10年の間にこの富士吉田に来る機会も多くなって、ご家族の方とも仲良くさせていただいていて。志村家からもお花をいただきましたが、僕のライブを見てもらいたかったし、ここでやりたいなぁと思っていたのが、いろんな人たちの協力で叶いました。次にやる曲は僕なりに故郷を思って作った曲です」
と言って3人編成で演奏された「underworld」はメレンゲのライブ同様に間奏でテンポアップするようなアレンジがあくまでこのミニマムな編成だからこそささやかに施され、やや季節外れだが都会というよりもこうした街の情景が浮かぶ「8月、落雷のストーリー」、
「今日は3人別々に車で来たんですけど、高速の道を間違えて新潟方面に向かおうとしてしまいました(笑)
そんな高速道路を夜に運転するのが好きっていう曲です」
と前置きされた、クボケンジのソロCD収録の「highway & castle」と形態的には弾き語り+αという形だからこそのテンポの良さで曲を丁寧に演奏していく。心なしかクボの声もいつもよりも伸びやかで、ハイトーン部分までしっかり出ているように感じるのはやはりこの場所だからこその不思議な力のようなものもあるのだろうか。
再び曽根がいったん捌けると、山本との2人編成で実にレアな「再会のテーマ」を歌いあげたのだが、
「諦めてたんだ もう会えないって思ってたから
でもこうして会えた ずっと思ってたからこうして会えた」
というフレーズが歌われるこの曲は
「なんかいるな〜」
と言ってしまうくらいに志村の存在を近くに感じることができるこの場所だからこそ歌えたものなのだろう。
クボケンジはソロ名義のライブではカバー曲も演奏しており、それは山本のキーボードと自身の歌唱というシンプルな形態だからこそできるものであるが、選曲は松田聖子という自身が幼少の頃から聴いてきた曲から、SUPERCARという同世代のバンド(SUPERCARのメンバーであり今はプロデューサーとして活躍するいしわたり淳治はメレンゲの「暗いところで待ち合わせ」に作詞で参加したこともある)まで多岐に渡るのだが、この日最初に演奏されたのは幼少期に聴いていたサイドの曲であろう、大澤誉志幸「そして僕は途方に暮れる」でJ-POPの王道からの影響を感じさせると、なんの前振りもなく演奏されたのはフジファブリックの「タイムマシン」。
「大きな声で 歌えば届くかと
できるだけ歌うんだ」
というフレーズに合わせるかのようにクボはことさら大きな声を出して歌っているように見えたし、
「戻れるかな タイムマシンのように
同じように 笑えるかい」
という志村と過ごした日々を思い起こさせるようなフレーズは、メレンゲ自身で
「もしか僕に猫型ロボットがいて
タイムマシーンを使えるなら
君にすぐ 会いにいく」
と歌った「タイムマシーンについて」と重なる。それは偶然だろうし、クボ自身も志村を
「掴みきれないやつだった。あんな変な曲作れる人っていないし、同じ音楽を聴いていても自分とはアウトプットが全く違うんだなって」
と評していたが、やはりこの2人が親友になったのはどこかしら、何かしら重なる部分が2人にはあったのだ。
それが最も強く現れたのは曽根も再合流しての、この日のライブのタイトルにもなっている
「夕方5時のチャイム」
というフレーズがある、今やフジファブリックを代表する名曲となった「若者のすべて」。この曲を歌っている時のクボは本当に志村に見えた。何かが憑依しているかのような。
かつてフジファブリックのサポートドラマーを務めていた城戸紘志が、志村が亡くなった直後の富士急ハイランドでのフジファブリックのフジフジ富士Qの映像を家で見ている時に、まだ志村がいないことを理解できていなかった幼い息子さんが
「なんで志村くんはいないの?」
と問いかけてきた時に、何も言うことができなかったという。しかし奥田民生やハナレグミ、藤井フミヤなどの様々なボーカリストに混じってクボケンジが「バウムクーヘン」と「赤黄色の金木犀」を歌った後に、
「今の、志村くんだったね!」
と言ったという。子供の純粋な心だからこそ見えたのかもしれないけれど、やはりクボケンジと志村正彦はどこか似ていた。作る曲や歌い方はこうして志村の曲をクボが歌うと違うことがわかるのだが、それでも確かに重なるところがあったし、何か特別な2人だけにしかわからない想いを共有していた。だからこそこの日のクボもあの時と同じように志村のように見えた。この曲をこの場所でやるのはわかりきっていたけれど、それでもやはりハンカチで涙を拭っている人がたくさんいた。
きっとこの日ここにいた人たちはこれからこの曲を聴くたびにこの日のことを、何年経っても思い出してしまうんだろうなぁ。
そんな感動的なシーンの後にもかかわらず、
「みんな本当に俺のファン?(笑)」
「一時期、道を歩いている人が全員俺の悪口を言っていると思っていた時期があった(笑)」
とMCはクボの自虐的なものになっていくのだが、本編ラストはそれまではじっと曲に聴き入っていた観客たちも手拍子をして曲に参加する事でこの日のライブが楽しいものに変化していく、
「東名を越えて 極東の先の富士吉田へと!」
と歌詞をまさに東名高速を越えた先にあるこの街に変えた「クラシック」、「ビスケット」というメレンゲ本隊のライブでもおなじみの曲。なんだか、これらの曲はこうして遠出してくる時に実によく似合う。「ビスケット」は手拍子がずっとあったことによって手を叩くフレーズがわかりづらい感じになってしまっていたが。
アンコールでは3人とも「クボの宵」Tシャツに着替えて登場するという仲の良さを見せると、曽根のギターがバンドサウンド時と変わらぬ重厚さを見せる「火の鳥」。リリース時に
「この曲は志村のことを歌っているんじゃないか?」
と言われていたが、この日この場所でこのアンコールという位置で演奏されたことがその予想への明確な答えであろう。
「もう、本当にこれ以上は何にも用意してないから。最後は、笑ってサヨナラ」
と言って最後に演奏されたのも志村が作ったフジファブリックの「笑ってサヨナラ」だった。
「笑ってサヨナラしてから間違い探しをしていた
ここ何週間か僕は独りで色々考えてた」
というフレーズは、志村が居なくなった後に様々な仲間や先輩たちがコメントを出す中で、しばらくはなんの言葉も発信することがなかったクボの当時の心境を歌っていたかのよう。
その時は2人の関係性はフジファブリックのファンも、
「クボさんのコメントは…まだいいよな…」
とクボの心中を察しているかのようだった。
あれから10年経って、直後には心配になるくらいになんの音沙汰もなかったクボはこうして志村との思い出などを口にできるようになって、志村の故郷で志村が作った曲を歌えるようになった。
遺されたものだからこそできること。志村と親友だった人だからこそできること。この日のライブからはクボからの志村と志村が育った街への愛情と、何よりも前を向いて、居なくなった人のことを決して忘れずに未来へと進んでいくという、いつものライブとは違う、この日この場所だからこその意志を感じた。
クボは
「次は僕の故郷でもやりたいと思うんで、その時はまたみんな絶対来てください!」
と言っていたが、その時にはこの日ここにいたであろうクボの親友もまたイタズラをしにやってくるはず。
ライブ後、富士山の絶景を眺められる観光スポットで志村の育った街を見降ろしながら、この街に鳴る夕方5時のチャイムを聴いた。それは残念ながらこの日はフジファブリックの曲ではなかったけれど、またいつかその曲が夕方5時に流れる時期に。
1.CAMPFIRE
2.ルゥリィ
3.hole
4.うつし絵
5.まぶしい朝
6.underworld
7.水槽
8.8月、落雷のストーリー
9.highway & castle
10.再会のテーマ
11.そして僕は途方に暮れる
12.タイムマシン
13.若者のすべて
14.東京にいる理由
15.クラシック
16.ビスケット
encore
17.火の鳥
18.笑ってサヨナラ
Next→ 3/10 米津玄師 @幕張メッセ
メレンゲのボーカリストであるクボケンジの弾き語りなのだが、なぜわざわざこんな場所で、というのはクボの親友であるフジファブリックの志村正彦の出身地がこの富士吉田だからである。
会場は本当に市民会館の中の小さいホールであり、全席指定の200ほどの椅子席といった感じだが、まだ建物が新しいのかかなり綺麗な会場である。
開演前には富士吉田の火まつりや機織り、地元の飲み屋街などを紹介する映像や、プロレスラーの武藤敬司が主演の「吉田うどんの映画」の宣伝というシュール極まりない映像が流れる。
すると場内が暗転すると同時にまだ14時という時間であるが、チャイムが鳴り始める。そのチャイムのメロディはフジファブリック「若者のすべて」のサビのものであり、この日この場所でクボケンジがライブをやろうと思った理由がこの段階でわかる。
チャイムが鳴ってすぐに出てくるのかと思いきや、何分か経ってからクボケンジに加えて、メレンゲのライブでもおなじみの山本健太(キーボード)、さらにはかつてa flood of circleでサポートギターを務めていた曽根巧も登場するという3人編成。
「なんでそんな静かに待ってたん?(笑)
喋ってればいいのに」
とクボはいつもの通りに軽口を叩いていたが、みんな暗転したからすぐに始まると思って喋らずに待ってたのに、という思いが笑いという形になって返されると、弾き語りではおなじみの「CAMPFIRE」からスタートし、髪型がかつてよりさっぱりとしたように見える曽根がギターをスライドさせることによってバンド編成と同様にアイリッシュなサウンドをもたらす「ルゥリィ」と続くと、
「曽根さんは怖い」
とクボがこの日のサポート2人を紹介してから、山本健太がキーボードを弾きながら左足でキックを踏むことによってウワモノの楽器しかないにもかかわらずリズムを刻み出すというマルチな活躍を見せた「hole」でトラブルが発生。
クボのアコギがノイズを発するようになり、クボは途中からアコギを弾かずに歌を歌うだけに。
「やっぱり今日はなんかいるな〜」
と言いながらギターをチェックすると、どうやらシールドを刺す部分が緩くなっており、そこからノイズが発生してしまっていたらしい。直そうとすると一旦弦を全部取り外さないといけないということで、修復を曽根に任せてその間はクボと山本の2人だけのコーナーへ。
「なんかいるな〜」
の「なんか」は、かつて同じマンションに住んでいて、深夜にクボの部屋のチャイムを連打しまくっては
「お前それうるさいからやめろ」
と言われていた、イタズラ好きの志村正彦のことだろう。
「クボさんこれやられたら困るかな?」
と意地悪そうに笑みを浮かべる志村の顔が目に浮かぶようだ。
山本健太のキーボードの上でクボは歌唱に専念する、かつて新垣結衣に提供された「うつし絵」、削ぎ落とされたサウンドがメロディを際立たせる「まぶしい朝」と歌うと、見事にギターの修復を果たした曽根がステージに帰還。a flood of circleのサポートを完遂した時も「ナイスサポート」と評され、当時は正式メンバー化を望む声もあったが、そのナイスサポートっぷりはここでも健在。
クボは
「今日この会場でやろうと思ったのは、ここが志村の故郷だからで。ここ10年の間にこの富士吉田に来る機会も多くなって、ご家族の方とも仲良くさせていただいていて。志村家からもお花をいただきましたが、僕のライブを見てもらいたかったし、ここでやりたいなぁと思っていたのが、いろんな人たちの協力で叶いました。次にやる曲は僕なりに故郷を思って作った曲です」
と言って3人編成で演奏された「underworld」はメレンゲのライブ同様に間奏でテンポアップするようなアレンジがあくまでこのミニマムな編成だからこそささやかに施され、やや季節外れだが都会というよりもこうした街の情景が浮かぶ「8月、落雷のストーリー」、
「今日は3人別々に車で来たんですけど、高速の道を間違えて新潟方面に向かおうとしてしまいました(笑)
そんな高速道路を夜に運転するのが好きっていう曲です」
と前置きされた、クボケンジのソロCD収録の「highway & castle」と形態的には弾き語り+αという形だからこそのテンポの良さで曲を丁寧に演奏していく。心なしかクボの声もいつもよりも伸びやかで、ハイトーン部分までしっかり出ているように感じるのはやはりこの場所だからこその不思議な力のようなものもあるのだろうか。
再び曽根がいったん捌けると、山本との2人編成で実にレアな「再会のテーマ」を歌いあげたのだが、
「諦めてたんだ もう会えないって思ってたから
でもこうして会えた ずっと思ってたからこうして会えた」
というフレーズが歌われるこの曲は
「なんかいるな〜」
と言ってしまうくらいに志村の存在を近くに感じることができるこの場所だからこそ歌えたものなのだろう。
クボケンジはソロ名義のライブではカバー曲も演奏しており、それは山本のキーボードと自身の歌唱というシンプルな形態だからこそできるものであるが、選曲は松田聖子という自身が幼少の頃から聴いてきた曲から、SUPERCARという同世代のバンド(SUPERCARのメンバーであり今はプロデューサーとして活躍するいしわたり淳治はメレンゲの「暗いところで待ち合わせ」に作詞で参加したこともある)まで多岐に渡るのだが、この日最初に演奏されたのは幼少期に聴いていたサイドの曲であろう、大澤誉志幸「そして僕は途方に暮れる」でJ-POPの王道からの影響を感じさせると、なんの前振りもなく演奏されたのはフジファブリックの「タイムマシン」。
「大きな声で 歌えば届くかと
できるだけ歌うんだ」
というフレーズに合わせるかのようにクボはことさら大きな声を出して歌っているように見えたし、
「戻れるかな タイムマシンのように
同じように 笑えるかい」
という志村と過ごした日々を思い起こさせるようなフレーズは、メレンゲ自身で
「もしか僕に猫型ロボットがいて
タイムマシーンを使えるなら
君にすぐ 会いにいく」
と歌った「タイムマシーンについて」と重なる。それは偶然だろうし、クボ自身も志村を
「掴みきれないやつだった。あんな変な曲作れる人っていないし、同じ音楽を聴いていても自分とはアウトプットが全く違うんだなって」
と評していたが、やはりこの2人が親友になったのはどこかしら、何かしら重なる部分が2人にはあったのだ。
それが最も強く現れたのは曽根も再合流しての、この日のライブのタイトルにもなっている
「夕方5時のチャイム」
というフレーズがある、今やフジファブリックを代表する名曲となった「若者のすべて」。この曲を歌っている時のクボは本当に志村に見えた。何かが憑依しているかのような。
かつてフジファブリックのサポートドラマーを務めていた城戸紘志が、志村が亡くなった直後の富士急ハイランドでのフジファブリックのフジフジ富士Qの映像を家で見ている時に、まだ志村がいないことを理解できていなかった幼い息子さんが
「なんで志村くんはいないの?」
と問いかけてきた時に、何も言うことができなかったという。しかし奥田民生やハナレグミ、藤井フミヤなどの様々なボーカリストに混じってクボケンジが「バウムクーヘン」と「赤黄色の金木犀」を歌った後に、
「今の、志村くんだったね!」
と言ったという。子供の純粋な心だからこそ見えたのかもしれないけれど、やはりクボケンジと志村正彦はどこか似ていた。作る曲や歌い方はこうして志村の曲をクボが歌うと違うことがわかるのだが、それでも確かに重なるところがあったし、何か特別な2人だけにしかわからない想いを共有していた。だからこそこの日のクボもあの時と同じように志村のように見えた。この曲をこの場所でやるのはわかりきっていたけれど、それでもやはりハンカチで涙を拭っている人がたくさんいた。
きっとこの日ここにいた人たちはこれからこの曲を聴くたびにこの日のことを、何年経っても思い出してしまうんだろうなぁ。
そんな感動的なシーンの後にもかかわらず、
「みんな本当に俺のファン?(笑)」
「一時期、道を歩いている人が全員俺の悪口を言っていると思っていた時期があった(笑)」
とMCはクボの自虐的なものになっていくのだが、本編ラストはそれまではじっと曲に聴き入っていた観客たちも手拍子をして曲に参加する事でこの日のライブが楽しいものに変化していく、
「東名を越えて 極東の先の富士吉田へと!」
と歌詞をまさに東名高速を越えた先にあるこの街に変えた「クラシック」、「ビスケット」というメレンゲ本隊のライブでもおなじみの曲。なんだか、これらの曲はこうして遠出してくる時に実によく似合う。「ビスケット」は手拍子がずっとあったことによって手を叩くフレーズがわかりづらい感じになってしまっていたが。
アンコールでは3人とも「クボの宵」Tシャツに着替えて登場するという仲の良さを見せると、曽根のギターがバンドサウンド時と変わらぬ重厚さを見せる「火の鳥」。リリース時に
「この曲は志村のことを歌っているんじゃないか?」
と言われていたが、この日この場所でこのアンコールという位置で演奏されたことがその予想への明確な答えであろう。
「もう、本当にこれ以上は何にも用意してないから。最後は、笑ってサヨナラ」
と言って最後に演奏されたのも志村が作ったフジファブリックの「笑ってサヨナラ」だった。
「笑ってサヨナラしてから間違い探しをしていた
ここ何週間か僕は独りで色々考えてた」
というフレーズは、志村が居なくなった後に様々な仲間や先輩たちがコメントを出す中で、しばらくはなんの言葉も発信することがなかったクボの当時の心境を歌っていたかのよう。
その時は2人の関係性はフジファブリックのファンも、
「クボさんのコメントは…まだいいよな…」
とクボの心中を察しているかのようだった。
あれから10年経って、直後には心配になるくらいになんの音沙汰もなかったクボはこうして志村との思い出などを口にできるようになって、志村の故郷で志村が作った曲を歌えるようになった。
遺されたものだからこそできること。志村と親友だった人だからこそできること。この日のライブからはクボからの志村と志村が育った街への愛情と、何よりも前を向いて、居なくなった人のことを決して忘れずに未来へと進んでいくという、いつものライブとは違う、この日この場所だからこその意志を感じた。
クボは
「次は僕の故郷でもやりたいと思うんで、その時はまたみんな絶対来てください!」
と言っていたが、その時にはこの日ここにいたであろうクボの親友もまたイタズラをしにやってくるはず。
ライブ後、富士山の絶景を眺められる観光スポットで志村の育った街を見降ろしながら、この街に鳴る夕方5時のチャイムを聴いた。それは残念ながらこの日はフジファブリックの曲ではなかったけれど、またいつかその曲が夕方5時に流れる時期に。
1.CAMPFIRE
2.ルゥリィ
3.hole
4.うつし絵
5.まぶしい朝
6.underworld
7.水槽
8.8月、落雷のストーリー
9.highway & castle
10.再会のテーマ
11.そして僕は途方に暮れる
12.タイムマシン
13.若者のすべて
14.東京にいる理由
15.クラシック
16.ビスケット
encore
17.火の鳥
18.笑ってサヨナラ
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米津玄師 2019 TOUR / 脊椎がオパールになる頃 @幕張メッセ展示ホール4〜6 3/10 ホーム
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