キュウソネコカミ DMCC REAL ONEMAN TOUR 2019 -Despair Makes Cowards Courageous- 〜ギリ平成〜 @千葉LOOK 1/22
- 2019/01/23
- 08:12
昨年末に平成最後のオリジナルアルバムとなる「ギリ平成」をリリースした、キュウソネコカミ。すでにアルバムリリース前にはMVのライブ収録も兼ねた東名阪のワンマンツアーも行っているが、リリースツアーはこの日の千葉LOOKが初日。
個人的にこの千葉LOOKでキュウソネコカミを見るのは、2013年11月にQUATTROと或るミイを迎えて行われた「がんばれ!!光彦 ツアー」以来である。
最近は千葉LOOKのライブでは即完しないようなライブばかり見ていたので、まずは超満員の千葉LOOKでのステージの見づらさを味わうのも久しぶり。ステージ背面には「DMCC」のバックドロップのみという簡素さもこのキャパならではだろうか。
19時になると、おなじみのライブプロデューサー・P青木がステージに現れ、こちらもおなじみの噛みまくりの前説。最後には
「心の準備でお願いします!」
というわけのわからないことを口走っていた。
前説から少し経つと、SEが鳴ってメンバーが登場。先頭で現れたセイヤが早くも千葉LOOK特有の台に上がって右腕を高く突き上げるとほかのメンバーたちも持ち場につき、
「西宮から来た、キュウソネコカミです」
とおなじみのあいさつをしてから「ギリ平成」のオープニングを飾る「推しのいる生活」からスタート。Aメロのヨコタのコールに合わせて早くも「オイ!オイ!」という声が響く中、キュウソ節とも言えるキャッチーなキーボードのリフに合わせる
「わっしょい わっしょい」
のあまりにも口に出したくなるサビのフレーズの大合唱の光景はリリースされたばかりのアルバムのツアーとはいえ、この曲が新たなキュウソのアンセムになっていることをうかがわせる。
フェスなどではクライマックスを担っていた、今のキュウソにとっての最重要曲の一つである「The band」もアルバムの曲順とおりにこの2曲目という極めて早い段階で演奏される。この曲を最後の軸にしたアルバムを作ろうと思えばいくらでも作れるというのは同じく自身の思いを暑苦しいくらいにストレートに綴り、熱血キュウソ路線を決定づけた「わかってんだよ」を最後の曲に据えた前作アルバム「にゅ〜うぇいぶ」からもわかることであるが、そうしなかったというのはこの後にさらなる重要曲が控えているからである。
しかしやはりこのキャパのライブハウスで生で聴く
「ライブハウスは最高だね」
というフレーズ、それを奏でる
「ロックバンドは最高だね」
そして新作アルバムの曲をライブで聴けるという
「新曲ありがとぉぉぉ!!!」
というキラーフレーズの数々はたまらないものがあるし、まさにこうした瞬間のために作られた曲である。
最初に書いたとおりに、千葉LOOKは客席から見てステージが実に低いだけに、最前列付近じゃないとステージにいるメンバーが全く見えないということもザラにあるのだが、この序盤からヨコタはもちろん、オカザワとカワクボも演奏しながら台の上に立って後ろの観客までしっかり見渡す。ドラムという動けない立場上、ソゴウの姿は全く見えないけれど。
「良いDJ」「メンヘラちゃん」というフェスなどでもおなじみのキュウソの代表曲が続くと、さらに「ファントムバイブレーション」も演奏されるのだが、セイヤが明らかに2番のサビを1番と全く同じ歌詞で歌ってしまい、コーラスを入れるヨコタがビックリしてセイヤの方を見ると、当のセイヤも間違えて歌ったことを自覚していたようで、苦笑いを浮かべながら歌う。キュウソは歌詞の分量が非常に多いバンドではあるが、セイヤがこうして歌詞を間違えるというのは珍しいことである。
「ブスでも可愛い子にモテる」
という理由をつらつらと並べる「ただしイケメンには限らない」では、セイヤが即興で
「クルーザーを持ってる」
「足が速い」
「人によるかもしれんけど、体毛が薄い」
「Can speak English」
と次々にモテる要素を口にしていくのだが、最後の方は口に出すまでに多少の時間を要しており、リアルにその場で考えているというのがよくわかる。それだけにツアーの各会場でどんな変化を見せるのかが見ものの曲と言える。
最後には
「やっぱり、こみゅ力」
と「こみゅ力」につなげて見せるあたりは、まるで「こみゅ力」がアルバムの中でこの流れで収録されているかのようですらある。しかしセイヤはまたしても歌詞を飛ばしてしまい、今度はごにょごにょと何を言っているかわからないような歌唱方で乗り切ろうとするも、その後のMCで完全にメンバーにも観客にもバレていた。
いわく、
「こういうのはツアー初日ならではですよ」
ということだが、セイヤは「ファントムバイブレーション」で歌詞を間違えたのを、あたかも間違えたのはヨコタのコーラスだ、というかのように歌っていたことを明かし、しかもそれはヨコタにも完全にバレていた。セイヤにはそうした「明らかに自分のせいなのに他の人になすりつけようとする癖」があるらしい。
「さっき歌詞間違えたけど、次の曲は絶対噛む!」
となぜか宣言してから始まった「KENKO不KENKO」では宣言とおりに曲が始まってすぐに噛んでしまい、客席からも笑いが漏れるのだが、この曲のソゴウのドラムの力強さからはこのバンドがこうして小さいライブハウスから叩き上げてきたからこその強さを持っていることがわかる。
この日のセトリの中で最も意外な選曲であった「死なんかなー」はインディーズ期の、怒りや毒を撒き散らしまくるという、尖っていた時期のキュウソらしさを最大限に味わえる曲であるが、続けて演奏された最新作の「ピクピク」もまた怒りが原動力になって書かれた曲であるだけにあえてつなげたのだろう。怒りの受け止め方や発散の仕方は歌詞を見るとかなり変わっていることもわかる。
セイヤがギターを置くと不穏な演奏が始まり、セイヤが観客の上を転がる「TOSHI-LOWさん」へ。やはり女性の観客も多いだけに突入してすぐのタイミングではかなり左右に流されてしまっていたのだが、両足を突っ張り棒のようにして天井に密着させることでその場に止まるという、天井の低い会場での転がり方をセイヤは完全に熟知しているため、すぐに足元を安定させて観客に支えられながら立ち上がることができる。
これはひとえに日本全国のさまざまなライブハウスでライブをするという経験をしてきたからこそできることであるが、今やあらゆるフェスでメインステージに出られるような存在になっても、自分たちで機材の搬入と搬出を行う小箱ツアーを行っていて、カンが鈍らないようにしているという活動方針によるところも大きい。
人の上に立っている時のセイヤはあまりにもカッコ良すぎて、まるでTOSHI-LOWそのもののようですらあった。
セイヤがいったんステージに戻ると「きらきら星」のイントロとともに客席の中央に空間を作らせ、ウォールオブデスを発生させたのは「炊き上がれ召し上がれ」。完全にウォールオブデスをさせるための曲であるが、そのまま米への至上の愛を伝える「米米米米」へと繋がる流れは「ギリ昭和」のアルバム内でも、このワンマンの中でも大事な位置を担っており、だからこそ「家」も「マイマイマイ!」と歌詞を合わせて「米」にアレンジされて演奏された。「マイ!」という叫びはどことなく「オイ!」というコールにも似ており、そこらあたりは「家」を「イェー!」に聞こえるように歌った発想力の凄まじさがさらに進化している。
するとここでいったんBGMが流れながらの休憩タイム。メンバーも各々水を飲んだりという本当に休憩タイムだが、落し物があるんならこのタイミングで、というと「赤いピアス」を落としたという声が上がり、客席の照明を点けてみんなで探すも見つからず。こうして観客の声にキチンと向き合ってくれるというのは本当に心優しいメンバーたちだなと思うし、キュウソのライブのテーマである
「楽しくても思いやりとマナーを忘れるな」
を最も実践しているのはこうして思いやりを見せてくれるメンバー自身である。
そうして休憩を入れたのはここからさらにライブが勢いを増していくからだが、「MEGA SHAKE IT!!」で休憩後の体と脳を目覚めさせると、「KMTR645」の「ペディグリー」のフレーズはなぜか「ファービー」に変更され、実際にデカデカとしたファービーの写真がヨコタによって掲げられる。
こういう人いるよなぁと誰もが思うコミュニケーションの難しさを描いた「馬乗りマウンティング」ではまさにマウントを取るかのように両サイドの台にオカザワとカワクボが立って互いを指差しながら演奏するというパフォーマンスも。そうした視覚的な要素がさらに曲に説得力を与えている。
「KMDT25」では間奏の盆踊りパートでの恒例の盆踊りサークルがあまりにも会場が狭すぎるからか発生せずに終わろうとするも、ヨコタが
「明日のZepp DiverCityからしたらこじんまりとしてるかもしれないけど、もっといけるでしょ!もっとグチャってなりましょう!」
と煽り、盆踊りの大合唱とともにさらに激しいモッシュが展開されていき、その激しさは「越えていけ」のストレートな熱さに集約されていく。気づけばセイヤは全身汗まみれだが、その汗を飛ばしながら歌う姿がこの曲には非常によく似合う。やっぱりこういう泥臭いバンドなのである。
しかしやはり面白さも健在で、マネージャーのはいからさんが先日の神戸ワールド記念ホールでのライブの時に全参加者の中で唯一足の靭帯を負傷するという怪我をしたことを明かす(怪我したのはセイヤを支えてたかららしい)のだが、はいからさんは決して痛みを人に見せないタイプなので、足にテープを巻いてその日の仕事を全うしたという凄まじい精神力の強さを見せたらしい。
だがその精神力の強さゆえ、メンバーたちが苦くて飲めないような罰ゲーム用のジュースを平然とした顔でゴクゴク飲んだり、セイヤが痛かった電流が全く効かなかったりと、リアクションを大袈裟にしたメンバーがスベることになるというボケ殺しであるエピソードも語られる。
結局ははいからさんのことをメンバーたちは心から信頼しているからこそこうした話もできるし、
「もうはいからさんは6匹目のネズミですからね」
と言って「5RATS」を演奏することもできるのである。
終盤はやはり代表曲も惜しみなく並べられ、「DQNなりたい、40代で死にたい」ではセイヤが再び客席に突入し、観客に支えられながら客席中央にある、低い天井がより一層低くなっている部分に自らの顔を押し付け、
「千葉LOOKでここに顔を押し付けた人はいないでしょう!」
と満足そうな顔を見せ、最後は「涅槃のポーズ」と言って横になって頭に手を合わせ、そのままの状態でステージまで運ばれていった。
そして本編最後は「わかってんだよ」からの「真面目に」というまさに真面目にしか生きていけないことをわかってると宣誓するかのような流れに。サウンド的にはツービートのメロコア的な「真面目に」は初日だからか、それともこのキャパでは空気が薄いからか、セイヤはかなり歌うのが苦しそうなところもあったのだが、それを勢いと熱さで乗り越えていく。そこにはこのバンドの軸であり真髄のようなものが見えたのだった。
アンコールでメンバーが再び登場すると、初日ならではのどんなライブになるかわからない感じもあったが、メンバーは大きな手応えをこの日のライブで確かに感じたことを語ると、
セイヤ「ホテルに泊まってると、隣の部屋からギターをピロピロ弾いてる音が流れてくんねん。それでオカザワが隣の部屋や、ってわかる(笑)
しかも送ったばっかりのまだ誰も知らない新曲を弾いてたりするから、そこから流出してる(笑)
あと最近iPhoneを最新のにしたんだけど、そうすると近くにいる知り合いがWi-Fiにつなぐと、iPhoneが
「○○さんがこのWi-Fiに接続しました」
って教えてくれるようになったんだけど、ソゴウはWi-Fiにつなぐのがめちゃ早い!まだ俺が部屋に入って荷物を下ろすくらいのタイミングで、
「ソゴウさんがこのWi-Fiに接続しました」
って出てくんねん(笑)」
とツアーならではのメンバーの話を開陳。ソゴウは一回泊まったことのあるホテルだからすでに一回接続してるWi-Fiに自動的に接続されている、ということを強調しており、Wi-Fiにつないでウィニングイレブンをやっていると話していたのだが、
ヨコタ「夜のウイニングイレブン?夜のオウンゴール?」
と徐々に会話が怪しい方向に進み始めたため、慌てて曲へ。
この日も噛みまくりの前説をしたP青木や、ライブ中に怪我をしたのをやせ我慢しているはいからさんなど、キュウソの周りにいる愛すべき人たちのことを歌った「ハッピーポンコツ」はそのままファンのことを愛していると表明するためのハッピーなダンスナンバーとして響き渡ると、最後に演奏されたのはヨコタがショルダーキーボードを持って動き回りながら弾くという新境地も見せる、アルバムの最後に収録されている「ギリ昭和」。ギリギリ昭和という時代に産まれながらもゆとり世代として平成を生き、その平成が終わってまた新たな年号を生きていく。
「世界的に見ても日本だけいまだに年号制採用」
を始め、こんなに「年号」をテーマにキラーフレーズを並べることができるセイヤの作詞能力は本当に素晴らしい。かつてともにスペシャ列伝ツアーを回ったgo! go! vanillasの「平成ペイン」に触発されて作られた曲らしいが、メンバー全員が平成生まれのバニラズとはまた違う、生年月日に「昭和」という時代が刻まれている男たちだからこその時代を愛する曲。
演奏が終わると恒例の写真撮影を「ギリ平成!」のアルバムタイトルのコールで終えたと思いきや、
「あと1曲やりたい!」
とセイヤが思い立ち、メンバーも楽器を急遽持つと、かつては「千葉踊る」などその土地に合わせたバージョンで演奏されていた「ネコ踊る」で特大の「ニャー!」の大合唱を巻き起こした。これはファンへのサービス的な側面も大きかったとも思うが、こうして新作のリリースツアーであってもかつての代表曲がこうしてライブで聴けるのは本当に嬉しい。
アルバムというのは実際に音源で聴いた時と、ライブで聴いた時ではイメージが変わることも多い。メンバーも
「やる前はどうなるかわからなかった」
と言いながらも、
「お互いに厳しいセトリのツアーになった」
と言っていた通り、今や巨大なフェスのメインステージからアリーナやホールでまでもライブを行うようなところまでキュウソは来ているが、「ギリ平成」はやはりライブハウスで演奏されるためのアルバムであったということが実によくわかるツアー初日だった。
かつてこの規模でライブをしまくっていた頃、キュウソは
「このくらいの小さいライブハウスでは強いけど、大きいところでは自分たちの持ち味を発揮できないだろう」
と言われていた。それが見当違いの意見だったということをメンバーたちはこれまでの活動で証明してきたわけだが、かつて「強い」と言われてきた理由はダンボールにダイブしたりというパフォーマンスがあってこそのものだった。
でも今はそうしたパフォーマンスがなくても、ひたすらに自分たちの音楽だけでかつてよりも「強い」と思わせてくれる。果たしてこのツアーが終わった時にはどんなバンドになっているのだろうか。そして
「かなりやることを変える」
と言っていた翌日のZepp DiverCityではどんな景色を描いてみせるのだろうか。
1.推しのいる生活
2.The band
3.良いDJ
4.メンヘラちゃん
5.ファントムバイブレーション
6.ただしイケメンに限らない
7.こみゅ力
8.KENKO不KENKO
9.死なんかなー
10.ピクピク
11.TOSHI-LOWさん
12.炊き上がれ召し上がれ
13.米米米米
14.米
15.MEGA SHAKE IT!!
16.KMTR645
17.馬乗りマウンティング
18.KMDT25
19.越えていけ
20.5RATS
21.ビビった
22.DQNなりたい、40代で死にたい
23.わかってんだよ
24.真面目に
encore
25.ハッピーポンコツ
26.ギリ昭和
encore2
27.ネコ踊る
推しのいる生活
https://youtu.be/wKiaze13E2c
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個人的にこの千葉LOOKでキュウソネコカミを見るのは、2013年11月にQUATTROと或るミイを迎えて行われた「がんばれ!!光彦 ツアー」以来である。
最近は千葉LOOKのライブでは即完しないようなライブばかり見ていたので、まずは超満員の千葉LOOKでのステージの見づらさを味わうのも久しぶり。ステージ背面には「DMCC」のバックドロップのみという簡素さもこのキャパならではだろうか。
19時になると、おなじみのライブプロデューサー・P青木がステージに現れ、こちらもおなじみの噛みまくりの前説。最後には
「心の準備でお願いします!」
というわけのわからないことを口走っていた。
前説から少し経つと、SEが鳴ってメンバーが登場。先頭で現れたセイヤが早くも千葉LOOK特有の台に上がって右腕を高く突き上げるとほかのメンバーたちも持ち場につき、
「西宮から来た、キュウソネコカミです」
とおなじみのあいさつをしてから「ギリ平成」のオープニングを飾る「推しのいる生活」からスタート。Aメロのヨコタのコールに合わせて早くも「オイ!オイ!」という声が響く中、キュウソ節とも言えるキャッチーなキーボードのリフに合わせる
「わっしょい わっしょい」
のあまりにも口に出したくなるサビのフレーズの大合唱の光景はリリースされたばかりのアルバムのツアーとはいえ、この曲が新たなキュウソのアンセムになっていることをうかがわせる。
フェスなどではクライマックスを担っていた、今のキュウソにとっての最重要曲の一つである「The band」もアルバムの曲順とおりにこの2曲目という極めて早い段階で演奏される。この曲を最後の軸にしたアルバムを作ろうと思えばいくらでも作れるというのは同じく自身の思いを暑苦しいくらいにストレートに綴り、熱血キュウソ路線を決定づけた「わかってんだよ」を最後の曲に据えた前作アルバム「にゅ〜うぇいぶ」からもわかることであるが、そうしなかったというのはこの後にさらなる重要曲が控えているからである。
しかしやはりこのキャパのライブハウスで生で聴く
「ライブハウスは最高だね」
というフレーズ、それを奏でる
「ロックバンドは最高だね」
そして新作アルバムの曲をライブで聴けるという
「新曲ありがとぉぉぉ!!!」
というキラーフレーズの数々はたまらないものがあるし、まさにこうした瞬間のために作られた曲である。
最初に書いたとおりに、千葉LOOKは客席から見てステージが実に低いだけに、最前列付近じゃないとステージにいるメンバーが全く見えないということもザラにあるのだが、この序盤からヨコタはもちろん、オカザワとカワクボも演奏しながら台の上に立って後ろの観客までしっかり見渡す。ドラムという動けない立場上、ソゴウの姿は全く見えないけれど。
「良いDJ」「メンヘラちゃん」というフェスなどでもおなじみのキュウソの代表曲が続くと、さらに「ファントムバイブレーション」も演奏されるのだが、セイヤが明らかに2番のサビを1番と全く同じ歌詞で歌ってしまい、コーラスを入れるヨコタがビックリしてセイヤの方を見ると、当のセイヤも間違えて歌ったことを自覚していたようで、苦笑いを浮かべながら歌う。キュウソは歌詞の分量が非常に多いバンドではあるが、セイヤがこうして歌詞を間違えるというのは珍しいことである。
「ブスでも可愛い子にモテる」
という理由をつらつらと並べる「ただしイケメンには限らない」では、セイヤが即興で
「クルーザーを持ってる」
「足が速い」
「人によるかもしれんけど、体毛が薄い」
「Can speak English」
と次々にモテる要素を口にしていくのだが、最後の方は口に出すまでに多少の時間を要しており、リアルにその場で考えているというのがよくわかる。それだけにツアーの各会場でどんな変化を見せるのかが見ものの曲と言える。
最後には
「やっぱり、こみゅ力」
と「こみゅ力」につなげて見せるあたりは、まるで「こみゅ力」がアルバムの中でこの流れで収録されているかのようですらある。しかしセイヤはまたしても歌詞を飛ばしてしまい、今度はごにょごにょと何を言っているかわからないような歌唱方で乗り切ろうとするも、その後のMCで完全にメンバーにも観客にもバレていた。
いわく、
「こういうのはツアー初日ならではですよ」
ということだが、セイヤは「ファントムバイブレーション」で歌詞を間違えたのを、あたかも間違えたのはヨコタのコーラスだ、というかのように歌っていたことを明かし、しかもそれはヨコタにも完全にバレていた。セイヤにはそうした「明らかに自分のせいなのに他の人になすりつけようとする癖」があるらしい。
「さっき歌詞間違えたけど、次の曲は絶対噛む!」
となぜか宣言してから始まった「KENKO不KENKO」では宣言とおりに曲が始まってすぐに噛んでしまい、客席からも笑いが漏れるのだが、この曲のソゴウのドラムの力強さからはこのバンドがこうして小さいライブハウスから叩き上げてきたからこその強さを持っていることがわかる。
この日のセトリの中で最も意外な選曲であった「死なんかなー」はインディーズ期の、怒りや毒を撒き散らしまくるという、尖っていた時期のキュウソらしさを最大限に味わえる曲であるが、続けて演奏された最新作の「ピクピク」もまた怒りが原動力になって書かれた曲であるだけにあえてつなげたのだろう。怒りの受け止め方や発散の仕方は歌詞を見るとかなり変わっていることもわかる。
セイヤがギターを置くと不穏な演奏が始まり、セイヤが観客の上を転がる「TOSHI-LOWさん」へ。やはり女性の観客も多いだけに突入してすぐのタイミングではかなり左右に流されてしまっていたのだが、両足を突っ張り棒のようにして天井に密着させることでその場に止まるという、天井の低い会場での転がり方をセイヤは完全に熟知しているため、すぐに足元を安定させて観客に支えられながら立ち上がることができる。
これはひとえに日本全国のさまざまなライブハウスでライブをするという経験をしてきたからこそできることであるが、今やあらゆるフェスでメインステージに出られるような存在になっても、自分たちで機材の搬入と搬出を行う小箱ツアーを行っていて、カンが鈍らないようにしているという活動方針によるところも大きい。
人の上に立っている時のセイヤはあまりにもカッコ良すぎて、まるでTOSHI-LOWそのもののようですらあった。
セイヤがいったんステージに戻ると「きらきら星」のイントロとともに客席の中央に空間を作らせ、ウォールオブデスを発生させたのは「炊き上がれ召し上がれ」。完全にウォールオブデスをさせるための曲であるが、そのまま米への至上の愛を伝える「米米米米」へと繋がる流れは「ギリ昭和」のアルバム内でも、このワンマンの中でも大事な位置を担っており、だからこそ「家」も「マイマイマイ!」と歌詞を合わせて「米」にアレンジされて演奏された。「マイ!」という叫びはどことなく「オイ!」というコールにも似ており、そこらあたりは「家」を「イェー!」に聞こえるように歌った発想力の凄まじさがさらに進化している。
するとここでいったんBGMが流れながらの休憩タイム。メンバーも各々水を飲んだりという本当に休憩タイムだが、落し物があるんならこのタイミングで、というと「赤いピアス」を落としたという声が上がり、客席の照明を点けてみんなで探すも見つからず。こうして観客の声にキチンと向き合ってくれるというのは本当に心優しいメンバーたちだなと思うし、キュウソのライブのテーマである
「楽しくても思いやりとマナーを忘れるな」
を最も実践しているのはこうして思いやりを見せてくれるメンバー自身である。
そうして休憩を入れたのはここからさらにライブが勢いを増していくからだが、「MEGA SHAKE IT!!」で休憩後の体と脳を目覚めさせると、「KMTR645」の「ペディグリー」のフレーズはなぜか「ファービー」に変更され、実際にデカデカとしたファービーの写真がヨコタによって掲げられる。
こういう人いるよなぁと誰もが思うコミュニケーションの難しさを描いた「馬乗りマウンティング」ではまさにマウントを取るかのように両サイドの台にオカザワとカワクボが立って互いを指差しながら演奏するというパフォーマンスも。そうした視覚的な要素がさらに曲に説得力を与えている。
「KMDT25」では間奏の盆踊りパートでの恒例の盆踊りサークルがあまりにも会場が狭すぎるからか発生せずに終わろうとするも、ヨコタが
「明日のZepp DiverCityからしたらこじんまりとしてるかもしれないけど、もっといけるでしょ!もっとグチャってなりましょう!」
と煽り、盆踊りの大合唱とともにさらに激しいモッシュが展開されていき、その激しさは「越えていけ」のストレートな熱さに集約されていく。気づけばセイヤは全身汗まみれだが、その汗を飛ばしながら歌う姿がこの曲には非常によく似合う。やっぱりこういう泥臭いバンドなのである。
しかしやはり面白さも健在で、マネージャーのはいからさんが先日の神戸ワールド記念ホールでのライブの時に全参加者の中で唯一足の靭帯を負傷するという怪我をしたことを明かす(怪我したのはセイヤを支えてたかららしい)のだが、はいからさんは決して痛みを人に見せないタイプなので、足にテープを巻いてその日の仕事を全うしたという凄まじい精神力の強さを見せたらしい。
だがその精神力の強さゆえ、メンバーたちが苦くて飲めないような罰ゲーム用のジュースを平然とした顔でゴクゴク飲んだり、セイヤが痛かった電流が全く効かなかったりと、リアクションを大袈裟にしたメンバーがスベることになるというボケ殺しであるエピソードも語られる。
結局ははいからさんのことをメンバーたちは心から信頼しているからこそこうした話もできるし、
「もうはいからさんは6匹目のネズミですからね」
と言って「5RATS」を演奏することもできるのである。
終盤はやはり代表曲も惜しみなく並べられ、「DQNなりたい、40代で死にたい」ではセイヤが再び客席に突入し、観客に支えられながら客席中央にある、低い天井がより一層低くなっている部分に自らの顔を押し付け、
「千葉LOOKでここに顔を押し付けた人はいないでしょう!」
と満足そうな顔を見せ、最後は「涅槃のポーズ」と言って横になって頭に手を合わせ、そのままの状態でステージまで運ばれていった。
そして本編最後は「わかってんだよ」からの「真面目に」というまさに真面目にしか生きていけないことをわかってると宣誓するかのような流れに。サウンド的にはツービートのメロコア的な「真面目に」は初日だからか、それともこのキャパでは空気が薄いからか、セイヤはかなり歌うのが苦しそうなところもあったのだが、それを勢いと熱さで乗り越えていく。そこにはこのバンドの軸であり真髄のようなものが見えたのだった。
アンコールでメンバーが再び登場すると、初日ならではのどんなライブになるかわからない感じもあったが、メンバーは大きな手応えをこの日のライブで確かに感じたことを語ると、
セイヤ「ホテルに泊まってると、隣の部屋からギターをピロピロ弾いてる音が流れてくんねん。それでオカザワが隣の部屋や、ってわかる(笑)
しかも送ったばっかりのまだ誰も知らない新曲を弾いてたりするから、そこから流出してる(笑)
あと最近iPhoneを最新のにしたんだけど、そうすると近くにいる知り合いがWi-Fiにつなぐと、iPhoneが
「○○さんがこのWi-Fiに接続しました」
って教えてくれるようになったんだけど、ソゴウはWi-Fiにつなぐのがめちゃ早い!まだ俺が部屋に入って荷物を下ろすくらいのタイミングで、
「ソゴウさんがこのWi-Fiに接続しました」
って出てくんねん(笑)」
とツアーならではのメンバーの話を開陳。ソゴウは一回泊まったことのあるホテルだからすでに一回接続してるWi-Fiに自動的に接続されている、ということを強調しており、Wi-Fiにつないでウィニングイレブンをやっていると話していたのだが、
ヨコタ「夜のウイニングイレブン?夜のオウンゴール?」
と徐々に会話が怪しい方向に進み始めたため、慌てて曲へ。
この日も噛みまくりの前説をしたP青木や、ライブ中に怪我をしたのをやせ我慢しているはいからさんなど、キュウソの周りにいる愛すべき人たちのことを歌った「ハッピーポンコツ」はそのままファンのことを愛していると表明するためのハッピーなダンスナンバーとして響き渡ると、最後に演奏されたのはヨコタがショルダーキーボードを持って動き回りながら弾くという新境地も見せる、アルバムの最後に収録されている「ギリ昭和」。ギリギリ昭和という時代に産まれながらもゆとり世代として平成を生き、その平成が終わってまた新たな年号を生きていく。
「世界的に見ても日本だけいまだに年号制採用」
を始め、こんなに「年号」をテーマにキラーフレーズを並べることができるセイヤの作詞能力は本当に素晴らしい。かつてともにスペシャ列伝ツアーを回ったgo! go! vanillasの「平成ペイン」に触発されて作られた曲らしいが、メンバー全員が平成生まれのバニラズとはまた違う、生年月日に「昭和」という時代が刻まれている男たちだからこその時代を愛する曲。
演奏が終わると恒例の写真撮影を「ギリ平成!」のアルバムタイトルのコールで終えたと思いきや、
「あと1曲やりたい!」
とセイヤが思い立ち、メンバーも楽器を急遽持つと、かつては「千葉踊る」などその土地に合わせたバージョンで演奏されていた「ネコ踊る」で特大の「ニャー!」の大合唱を巻き起こした。これはファンへのサービス的な側面も大きかったとも思うが、こうして新作のリリースツアーであってもかつての代表曲がこうしてライブで聴けるのは本当に嬉しい。
アルバムというのは実際に音源で聴いた時と、ライブで聴いた時ではイメージが変わることも多い。メンバーも
「やる前はどうなるかわからなかった」
と言いながらも、
「お互いに厳しいセトリのツアーになった」
と言っていた通り、今や巨大なフェスのメインステージからアリーナやホールでまでもライブを行うようなところまでキュウソは来ているが、「ギリ平成」はやはりライブハウスで演奏されるためのアルバムであったということが実によくわかるツアー初日だった。
かつてこの規模でライブをしまくっていた頃、キュウソは
「このくらいの小さいライブハウスでは強いけど、大きいところでは自分たちの持ち味を発揮できないだろう」
と言われていた。それが見当違いの意見だったということをメンバーたちはこれまでの活動で証明してきたわけだが、かつて「強い」と言われてきた理由はダンボールにダイブしたりというパフォーマンスがあってこそのものだった。
でも今はそうしたパフォーマンスがなくても、ひたすらに自分たちの音楽だけでかつてよりも「強い」と思わせてくれる。果たしてこのツアーが終わった時にはどんなバンドになっているのだろうか。そして
「かなりやることを変える」
と言っていた翌日のZepp DiverCityではどんな景色を描いてみせるのだろうか。
1.推しのいる生活
2.The band
3.良いDJ
4.メンヘラちゃん
5.ファントムバイブレーション
6.ただしイケメンに限らない
7.こみゅ力
8.KENKO不KENKO
9.死なんかなー
10.ピクピク
11.TOSHI-LOWさん
12.炊き上がれ召し上がれ
13.米米米米
14.米
15.MEGA SHAKE IT!!
16.KMTR645
17.馬乗りマウンティング
18.KMDT25
19.越えていけ
20.5RATS
21.ビビった
22.DQNなりたい、40代で死にたい
23.わかってんだよ
24.真面目に
encore
25.ハッピーポンコツ
26.ギリ昭和
encore2
27.ネコ踊る
推しのいる生活
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