2018年ベストディスクなど
- 2018/12/27
- 22:18
今年も残すところあとわずか。個人的にも残るライブは28日からのCOUNTDOWN JAPAN4日間のみということで、毎年恒例にしている今年のベストディスク20やらなんやらを。
まずは2018年ベストディスク、20位から順に。
20. 時の肋骨 / THE PINBALLS
ロックンロールバンドのアルバムというと荒々しい曲をとりあえず10曲くらい並べてもの、というイメージを持たれがちであるが、インディーズ期にも「四季」をテーマにしたりと、フルアルバムを作る際はキッチリとコンセプトを持たせていた、THE PINBALLSのメジャー移籍後は初となるアルバムは12曲入りで、それぞれが時間を示し、1枚アルバムを聴き終えると1日が終わっているという見事なまでのコンセプトアルバム。
だからこそタロットカード風の歌詞カードも含め、「配信やストリーミングが主流になりつつある今この時代にCDとしてアルバムを出す意味」を徹底的に突き詰めながらも、コンセプトのみが先行するような企画盤ではなく、あくまでロックンロールバンド・THE PINBALLSのカッコよさと、「ヤンシュバイクマイエルの午後」など古川貴之の独自の言語センスや脳内世界を感じさせてくれる。
とはいえ、昨年リリースの「NUMBER SEVEN」に収録されていた「蝙蝠と聖レオンハルト」クラスの名曲があればさらに順位は上がっていたはず。
アダムの肋骨
https://youtu.be/08h001_ma0E
19. 重力と呼吸 / Mr. Children
自分が中学生や高校生の頃にこういう企画をやっていたら(ネットとか一切なかったからやりようなかったけど)「IT'S A WONDERFUL WORLD」あたりまでは毎作ミスチルを1位に選んでいただろう。
それくらいに日本を代表するくらいの名盤を世に送り出し続けてきたバンドであるし、それは自分にとってもそうなのだが、リリース形態が話題を呼んだ前作も含め、近作は「とりあえず聴いておく」というくらいの位置のアーティストになってしまっていた。
それは自分自身の音楽的な趣向の変化もあったのかもしれないが、今や若手バンドのプロデューサーに名前が挙がると嫌な予感しかしないくらいにアレルギー的な存在になっている小林武史から離れた19枚目のオリジナルアルバム「重力と呼吸」は鈴木の「ワン、ツー、スリー、フォー」というカウントから始まる、この4人のロックバンドによるまごうことなきロックアルバムになっている。
もちろん曲もサウンドも全然違うのだが、聴いていて思い出したのは、リリース時(まだネットとかなかったけど)に賛否両論を呼びまくった「深海」や「DISCOVERY」。まだ10代だった自分はそれらのアルバムをカッコいいロックバンドのものとして受け取っていた。あれから20年くらい経っても、今でもミスチルがそういうバンドであると思い出させてくれた1枚。久しぶりにライブを観に行きたくなった。
Your Song
https://youtu.be/ieQRDtBpBdY
18. ネリネ / KANA-BOON
そもそもリリースも年内ギリギリ(12月19日リリース)だし、5曲しか入ってないミニアルバムだし、特に話題にもなっていないし…ということで聴く前の期待値はお世辞にも高いとは言えなかった。
しかしそのコンパクトなサイズを逆手に取るかのように、全曲シングルでリリースできるレベルの、しかも「冬」というコンセプトで統一された曲のみが並んだ。MUSICAの連載でも証明しているとおりに、リスペクトを寄せるアジカンのゴッチの次を担う「ロックバンド界の詩人」は谷口鮪であるということがよくわかる、聴いていて脳内に風景や情景が浮かび上がるような歌詞の数々。
とりわけ「湯気」は曲のタイトルだけを見るとどうしても自分が大好きな某バンドの性急なギターサウンドが聴こえてきてしまうようなイメージを塗り替えるような、演奏も歌もじっくりと聴かせる落ち着いた仕上がり。
ほかの曲も、かつてのKANA-BOONの代名詞であった「高速4つ打ちダンスロック」的なものも、派手な曲も全くない。「TIME」や「Origin」の時はそうしたイメージから意識的に遠ざかろうとしていて、でも他のことができるような知識も経験も技術もない、というように見えていた。
でも今はちゃんとそれがバンドに備わっている。だから無理をしている感じが全くないし、今やりたいこととしっかり噛み合っている。もう流行を生み出せるような存在ではないし、状況は厳しくなりつつあるが、夏盤「アスター」やカップリング集に収録された「夜の窓辺から」とともに「ネリネ」は、そしてKANA-BOONはこれからも長く付き合っていける存在になりそうだ。
ネリネ
https://youtu.be/EiWQkj2GcU4
17. -11°C / BIGMAMA
色々騒動もあったし、それによってなのかわからないけどライブのスタンスの変化によって楽しさを感じなくなってしまったし、何よりも近作アルバムが好きになれないものが続いていただけに、「もう買わなくてもいいバンドなのかもしれない」と思いながら、なんやかんやで全部アルバム持ってるしな、という惰性で購入した、ほとんど期待していなかったアルバム。
しかし聴いていると、かつて「Dowsing For The Future」や「and yet, it moves 〜正しい地球の廻し方〜」を聴いた時の感覚を思い出した。ああ、BIGMAMAってそもそもパンク・メロコアにヴァイオリンが入ったバンドだったんだ、と。それと同時に「アルバム1枚で1つの物語を描く」というコンセプトアルバムを作るのに最も秀でたバンドであったということも。
そうした原点回帰感はメジャーに移籍してから初のアルバムということも影響しているからなのかもしれないし、今年見たライブからはまだトンネルを抜けたという感覚にはならなかった。それでもこのアルバムを聴いていると、ファンが笑顔で人の上を転がっていく光景が想像できる。だからこそ、
「会いたい気持ちは蓋して鍵をかけたまま」(「POPCORN STAR」)
ではなく、このバンドに会いたい、ライブを見たいという気持ちにさせてくれる。タイトルはクールそのものだが、内包している熱量は火傷しそうなくらいに熱い。
Step-out Shepherd
https://youtu.be/URilDwjjV08
16.ANTI ANTI GENERATION / RADWIMPS
いたるところで言われているとおり、前作「人間開花」は「君の名は。」の大ヒットによってバンドが最も開放されたモードで作られた、陽のエネルギーに溢れた名盤であった。
それから2年ぶりのアルバムとなる今作「ANTI ANTI GENERATION」はONE OK ROCK・Taka、あいみょん、Miyachiとタブゾンビというゲストを迎えた曲や、「18FES」のために作られた合唱曲、さらには近年の野田洋次郎の趣向が反映されたであろうヒップホップ色の強い曲など、アルバムの幅広さとバラエティは過去随一と言っていい。
そんな中で最も強烈なのはなんと言っても9曲目の「PAPARAZZI 〜*この物語はフィクションです〜」。洋次郎には言いたいことが明確にあって、それを自分の音楽で言う。自分はメンバーと同い年であり、「RADWIMPS 2 〜発展途上〜」から全てのアルバムをリアルタイムで聴いてきた。お互いに30歳を超えた今というのは、つい守りに入ってしまう年代だ。実際自分もそうなりつつある時もあるし、周りを見ていてもそう感じる。
でもRADWIMPSは一切守りに入ることをしない。ひたすらに自分たちの持つダークさや苛立ちを自分たちの音楽として表現する。「なんちって」や「五月の蝿」という曲でもその攻め続けるスタンスを示してきたが、それ以降もさまざまな経験をしてきたのを見てきたからこそ、今この曲でその姿勢を見せてくれることに本当に大きな力をもらえるし、まだまだ攻める気持ちを忘れてはいけないな、と思わせてくれる。
っていう聴き方、感じ方を「PAPARAZZI 〜*この物語はフィクションです〜」でしている人が自分以外にいるんだろうか、と思ったりもするけれど。
「PAPARAZZI 〜*この物語はフィクションです〜」
https://youtu.be/tZcJRFc15LY
15. Sleepless in Brooklyn / [ALEXANDROS]
[Champagne]時代から[ALEXANDROS]はアルバムごとに新たな音楽性を取り入れながら変化し、その度にスケールをも拡大してきたバンドであり、前作「EXIST!」では「Feel Like」や「Aoyama」という曲で洗練されたサウンドに挑戦し、見事に自分たちの音楽として鳴らしてみせた。
ではそれから2年経った今作「Sleepless in Brooklyn」で取り入れたものは?というと、先行シングル「KABUTO」や「Mosquito Bite」に顕著だったとおり、リフをメインにしたロック。
そのサウンドを導いたのはタイトルとおりにレコーディングされた場所がアメリカであり、明確にスタジアムで鳴らされることを想定して作られているし、それは8月16日のZOZOマリンスタジアムでのワンマンライブでまさにスタジアムで鳴らされるべきロックサウンドであるという素晴らしい成果を見せた。
おそらくこれまでのアルバムの中で最も賛否というか好き嫌いがハッキリ分かれるようなサウンドであるが、年明けに始まる初のアリーナツアーでこのアルバムの真価は発揮されていくのだろうし、「ハナウタ」や「Your Song」という曲ではこのバンドの核がメロディであることを示しながら、どんなサウンドでも[ALEXANDROS]の音楽にできてしまうのを証明してきた、というのがこのバンドが立つであろうスタジアムのさらに先の景色を想像させてくれる。
アルペジオ
https://youtu.be/uHxwO3mGpLU
14. ホームタウン / ASIAN KUNG-FU GENERATION
各媒体などでも語られているとおりに、欧米のポップミュージックにおける低音の強さに日本のロックバンドとして向き合うべく、抜本的なサウンドの刷新を図ったアルバム。
とはいえサウンド面の変化となると「どうせ素人なんだから聴いてもそこまで違いがわからないだろうな…」と思ってしまう。しかし今までアジカンを聴いてきた人も、このアルバムで初めてアジカンの音楽に接する人でも、ベースとドラムの音のクリアさは聴いていて感じることができるはずだ。
だから聴いていると、何がどうそこまで変わってそうなっているのかはわからないが、いつのまにか自分の手や足がリズムを刻んでいる。今まで「ブルートレイン」などでの伊地知潔の独特なリズムパターンを体が刻むことはあったが、こんなにもシンプルと言えるようなリズムに体が反応するようなアジカンのアルバムはなかった。
デビューしてから15年、その音楽や姿勢でロックシーンを引っ張ってきたアジカンが今でもこうして日本のロックシーンを引き上げるべく新たな挑戦を果たしていて、それを自分たちだけのものではなく、日本の音楽の共通財産として鳴らしている。NANO-MUGEN FES.とはまた違った形で日本のロックシーンに刺激を与えている姿は本当に頼もしい。
とはいえ、賛否両論が強かった「ランドマーク」も年間4位、「Wonder Future」は(確か)1位に選出している。アジカンはそうして「アルバム出せば毎回年間ベストクラス」というアルバムしか作ってこなかったが、サウンドを抜きにした楽曲などの作品の内容という面で言うと過去最高に好みが分かれそうなアルバムなんじゃないかと思う。
ホームタウン
https://youtu.be/7z-7klgUSyU
13. ギリ平成 / キュウソネコカミ
もはやキュウソネコカミを「ただ面白いバンド」だと思っている人はいないだろうし、実際にアルバムに先立ってリリースされた「越えていけ / The band」ではこのバンドの本質である熱いロックバンドとしての面を見せるものだった。
なのでアルバムもそうした方向に寄せたものになるのかな?と思ったりもしたのだが、やはりキュウソは1枚も2枚も上手だった。「米米米米」で「ベイマイベイベー」と読ませる米賛歌のようなラブソングがあり、その前の「炊き上がれ召し上がれ」がウォールオブデスをするために作られたかのような曲であったりと、その天才的な発想力を自分たちの音楽に昇華することができて、しかもそれがどっからどう聴いてもキュウソネコカミのものになっているという本格的にとんでもないバンドになり始めている。
メンバーもこのアルバムの初回盤についているDVDの副音声で
「今でも好きなバンドが新曲を出してくれると本当に嬉しい」
と口にしていたが、そうしたキッズの時の気持ちを今も持ち続けているからこそこのバンドの熱い部分は説得力があるし、何よりも自分たちが「新曲ありがとぉぉぉ!!!」とたくさんの人に思われるバンドにちゃんとなれている。
シーンに登場した当時は「コミックバンド」「すぐ消える」と散々言われていたが、こんなすごいバンドがそんなに容易く消えるわけがないという確信はリリースを重ねる度に強くなってきている。
推しのいる生活
https://youtu.be/wKiaze13E2c
12. 泣きたくなるほど嬉しい日々に / クリープハイプ
前作「世界観」は「同じやり方で超えられないなら新しいやり方でこれまでを超える」とばかりに「鬼」でのブラックミュージックのエッセンスを取り入れたりという一大変化作であり、その試みは見事に成功しただけに、今作もそうした新しい音楽性を取り入れた変化作になるのかと思いきや、意外にもストレートなギターロックに回帰した作品となった。
そのストレートさは歌詞にも現れており、「今今ここに君とあたし」では昔話という体を取りながら、様々な騒動などもあって批判されることも多かったこのバンドのファンとの絆を感じさせるものになっており、「ロックシーンきっての捻くれ者」というイメージの強い尾崎世界観の心境や人との向き合い方が変化してきていることがよくわかる。
そんな、軟投派のようでいてストレートを投げてみたら意外にも速くて空振りが取れた、という尾崎の好きなヤクルトのピッチャーで言うならサイドスローであるが故に技巧派なイメージだが実はストレートも速い秋吉亮(日本ハムにトレードで移籍することが決定した)的なアルバムとも言えるようなクリープハイプ節な中で最もど真ん中にズバッと決まっているのが、もともとはFM802の企画曲としてロックシーンのオールスター的なボーカリストたちによって歌われていた「栞」。
FM802バージョンをそのまま尾崎ボーカルに差し替えた、というのではなく、新たにクリープハイプバージョンとしてギターロック色をさらに強めたアレンジにしており、その試みがこの曲の持つポテンシャルをさらに引き上げ、アルバム全体の印象をさらに強いものにしている。
だからこそ「栞」のように山田哲人が1人でガンガンチームを引っ張っているように見えるのだが、このアルバムには青木宣親もいるし、坂口智隆もいるし、雄平もいる。後ろには近藤一樹や石山泰稚もいる。今年2位に躍進したヤクルトを支えたのはそうしたメンバーたちだった。このアルバムを名盤たらしめているのも、リード曲でもシングル曲でもない曲たちである。
栞
https://youtu.be/j4XsCJHfplg
11. ONE / ネクライトーキー
そもそもがコンテンポラリーな生活のメンバーに女性ボーカルのもっさが加わった、という編成だけで楽曲のクオリティは保証されているようなものである。曲を手がける朝日は石風呂名義でボカロPでも活動していたし、コンテンポラリーな生活はKANA-BOONとともに関西のライブハウスシーンを支えてきたバンドでもある。
しかしコンテンポラリーな生活はそのポップさをもってしてもなかなか広いところには届いていかなかった。朝日としてもそこには悔しい思いがあったはずだし、「こんなもんじゃない」という気持ちを誰よりも持っていたはず。
その朝日のポップセンスはもっさというボーカルを迎えた新バンド、ネクライトーキーのデビューフルアルバムとなる「ONE」で完全に開花することになる。逆に言えば曲のポップさを伝えるという部分でボーカリストの声やキャラクターが担っているものの大きさというものを改めて実感させられるわけだが、かつてとびきりキャッチーなメロディーに
「彼らは鉄腕ナインティーン」
という意味不明過ぎる歌詞を載せて歌っていた朝日の独特のポップセンスはこのバンドでさらに進化を果たし、コンテンポラリーな生活の活動中もグルーヴィーなベースを弾いていた女性ベーシスト藤田の存在感は編成が3人から4人になっても増すばかり。1度聴いただけで覚えてしまうくらいにキャッチーな曲ばかりの、まるで1stにしてベスト的なアルバム。
オシャレ大作戦
https://youtu.be/Aw1Awul1818
10. Bichorme / Monochrome / Yap!!!
石毛輝の新バンド、Yap!!!の新しいアクションはコラボ盤と新曲盤という2枚のミニアルバムでのリリース。2枚で1つの作品的な意味合いもあるので、今回は2枚合わせてのランクイン。
結成から1年。Yap!!!は新人らしく若手バンドばかり出るようなイベントやフェスにも出演し、ライブを繰り返す中で
「この3人でやるべきこと、できること」
を探ってきた。どちらかといえばサウンド的にはthe telephonesに近いダンスロックではあるが、Yap!!!は「DISCO」などのキーワードにとらわれることなく、自由な創作形態を取り、盟友である菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)や小出祐介(Base Ball Bear)、自身よりはるかに若いCHAI、MONJOE(DATS,yahyel)、師匠であるナカコーを招き、それぞれのゲストが参加しているからこそこういう曲になる、という必然的な曲を作り上げた。
ただ、そうしたゲストの参加は話題性を呼んで注目を集めようというものでは全くない。石毛輝はリリース時のMUSICAのインタビューで
「自分の感性が若いリスナーに通用するのかを試したかった」
と語っていた。己の音楽家としての挑戦。そして「若いリスナーに」というのはかつての石毛少年が音楽を聴いて人生が変わったように、またthe telephonesのライブに通っていた若者たちがそうだったように、ロックはユースカルチャーのものであるという意識が今も頭にあるのだろう。
石毛くらいのキャリアのミュージシャンとなると「コアなファンにさえ届けばいい」という方向にシフトしてもおかしくない。師匠のナカコーの近年のソロ活動はそう感じるものになりつつあるし、実際に石毛はソロでリリースした作品でそういうことができるということを証明している。
でもまだロックシーンのメインストリームに新しいバンドで切り込んで行こうとしているし、この2枚の作品にはそれが音になって現れている。かつてthe telephonesで
「シーンを変えよう」「世界を変えよう」
と口にし、そこに共鳴してきた身としては、それから10年近く経った今でも石毛の音楽からその意志を感じられるのが何より嬉しいのだ。
Ahhh!!!
https://youtu.be/PWmx9NTCtDU
9. The Insulate World / DIR EN GREY
結成20年を超えたバンドの10枚目のアルバム。しかしそうした情報から感じるベテランらしさはサウンドからは一切感じられない。ラウドというよりもはやヘヴィロックと言ってもいい、ダークかつ重いバンドサウンド。
そもそもV系のバンドとそうしたラウドやヘヴィサウンドというのは実に相性が良いものであるため、今やロックフェスにもそうした音楽を鳴らすV系バンドも出るようになってきている。
しかしDIR EN GREYのこの「The Insulate World」には「なぜそんなにダークで重いサウンドを鳴らしているのか」という意志がものすごくハッキリと現れている。社会の歪さや人間の醜さ。そういった、目を背けてしまいたくなるようなものを歌うための音。だからこそ京のボーカルもデスボイスを多用してそれを表現している。
ではなぜこのバンドがそんな社会の歪さや人間の醜さを音楽にするのか。それはそうしたものは決してこの世からなくなるものではないとわかっていながらも、そうしたものが存在しない世界を諦めていないから。だからこそこのアルバムは「Rununculus」という、それまでとは全く質感の違う曲で最後を迎える。まるでこの曲が描く世界を目指しているかのように。
独特なメイクから近寄りがたい空気をひしひしと感じるような出で立ちだが、このアルバム、このバンドには人間らしさをどうしても感じてしまう。それが極まったのがこの「The Insulate World」。だから聴き終わった時には感動すら覚えてしまう。
すでにその長いキャリアの中で海外でも高い評価を得ているバンドだが、それはいわゆるV系ファンの人たちをメインに聴かれるだけの存在ではないことを示している。
しかしギタリストの薫は今作のインタビューで
「バンドに残されている時間はそう長くはない」
とこのバンドが永遠ではないことを自覚し始めてきている。
いつか来るその終わりの時を過ぎる前に1人でも多くの人に出会ってもらいたい、異形でありながらあまりにも美しい名盤。
Ranunculus
https://youtu.be/aeN6LqawRB4
8. EMSEMBLE / Mrs. GREEN APPLE
代表曲である「StaRt」と「サママ・フェスティバル!」と「WanteD! WanteD!」を聴き比べればわかる通り、これは本当に同じソングライターで同じメンバーのバンドが作った曲なのか、と思ってしまうくらいに、Mrs. GREEN APPLEはこれまでにアルバムごとに音楽性をガラッと変えながら成長してきたバンドである。
アメリカのティーンポップ・ボーイズグループのサウンドを取り入れ、もはやバンドという形態にすら拘らなくなったセルフタイトルの前作を経た今作「EMSEMBLE」のサウンドを引っ張るのは、先行シングルとしてリリースされた「Love me, Love you」に顕著な、ミュージカル的とも言えるビッグバンドサウンド。
とはいえ、1曲1曲をじっくり聴いていくと、そうした1つのサウンドのテーマを貫いているというよりは、前作で会得したティーンポップにヒップホップを掛け合わせたような「Reverse」やムーディーな「Coffee」、初期を彷彿とさせるギターロック色の強い「アウフヘーベン」、MONGOL800のキヨサクを迎えたまさかの青春パンクな「はじまり」、そうした全ての要素を1曲に集約したかのような「PARTY」と、振れ幅、バラエティは過去2作の比ではない。
まるでミュージカルの場面が変わるとその場面で流れる音楽が変わるように、そして1日や人生のあらゆる場面で聴きたい曲が常に変わっていくように。そうした音楽における「流れ」をMrs. GREEN APPLEはまだ3枚目、20代前半という若さで見事に体得し、これだけ幅が広いととっ散らかったような印象を持たれがちであるが、そのどれもをMrs. GREEN APPLEの音楽でしかない、と思うくらいに自然に鳴らしている。
そしてそれをしっかりエンターテイメントとしてみせることができるライブの地力の強さは今作のツアーファイナルの幕張メッセ2daysにおいて極まった感すらあるが、彼らはその後に行われたライブハウスツアーでは原点回帰を掲げてギターロックをまっすぐに鳴らした。ある意味ではこのランキングに入っているバンドの中で次のアルバムがどうなるのか最もわからない存在である。
未だに「1stが1番良かった」という人もたくさんいるし、インディーズ期のこのバンドの音楽に衝撃を受けただけにその気持ちもよくわかる。しかし単なるギターロックバンドのままでは感じることが出来なかったような感情や驚きを今のMrs. GREEN APPLEからは感じることができる。
Love me, Love you
https://youtu.be/FmDBhP4apbs
7. Tank-top Festival in JAPAN / ヤバイTシャツ屋さん
まさかの2018年2枚目となるフルアルバム。年始リリースの前作で完全にヤバTらしさを確立した感があるが、今作ではさらにそれを推し進めているというか、こやまたくやの天才っぷりがさらに際立っている。
その象徴が「本来なら6曲目に収録されるはずだった曲が大人の事情で収録できなくなったために急遽作った」という「大人の事情」。まさにその説明の曲でしかないのだが、そもそもそのネタで1曲作れる、しかもそれが名曲でしかないというのは、人間にとってはどんなマイナスな出来事があっても自分次第でそれをプラスに変えることができるという明確なメッセージにもなっている。(そこまで考えているのかどうかはわからないけど)
そして映画主題歌としてバズりまくっている「かわE」のこやま以外の日本人の語彙力を総動員しても絶対に出てこないような歌詞によるラブソングと、その歌詞のメロディへの「この歌詞、この単語、この語感でしかない」というくらいのハマりっぷりに感心していると、ラストの「ゆとりロック」の、望んだわけでもないのに「ゆとり世代」としての人生を歩むことになったヤバT世代の人々の切なさを感じさせる。
あと、すでに先行シングルのカップリングに収録されていた「君はクプアス」はSUPERCAR「Lucky」に並ぶくらいの日本のロックシーンを代表する男女デュエットソングだと自分は思っている。
11月から、[ALEXANDROS]、アジカン、RADWIMPS、キュウソネコカミなどが次々にアルバムをリリースするという忙しい年末になったが、2018年のラスボスとして立ちはだかったのは、2018年の始まりを「Galaxy of the Tank-top」で鳴らしたヤバイTシャツ屋さんだった。ヤバTではじまり、ヤバTで終わった2018年。
かわE
https://youtu.be/ciFOh2KN99U
6. Everybody!! / WANIMA
もうこんな解説とかどうでもいいから、とにかく歌詞カードを見ながらアルバムを聴いてくれ、聴けばわかるはず、という1枚。
それくらいに今やWANIMAはイメージが固まっている存在だろうし、人によってはそのイメージは「チャラい」「パリピ」みたいにいいものではないかもしれない。
でもWANIMAの3人がそんな人たちだったとしたら、自分はこのバンドの音楽を聴いてライブに行ったりすることはなかっただろう。それくらい、WANIMAの音楽からは他になんにも持っているものがなくて、ただパンクやロックに人生を捧げた、決して楽しい人生を歩んできたわけではない人たちの逆噴射感を今でも感じる。
そうした思いは紅白歌合戦にも出演し、お茶の間にも存在を轟かせたあとにリリースされたこの2ndアルバム「Everybody!!」の中の「ヒューマン」や「シグナル」という曲にも強く表出しているが、なぜWANIMAがそうしたお茶の間に響くくらいの存在になり、ドームまでも制したのかというとやっぱりそこなのだ。
日々、仕事や学校で苦しかったり辛かったりする思いをしている人たちへの音楽としてのエール。それをただ能天気に「頑張れ」と言うのではなく、「そういう悔しい思いをこれまでにたくさんしてきた俺たちだってここまで来れたんだぜ」という説得力を自身が音を鳴らす姿から見せてくれる。
今となっては信じられないが、まだドラムのFujiが加入する前、WANIMAはガラッガラのライブハウスで先の見えない孤独な戦いを続けていた。その頃のKENTAとKO-SHINにとって、きっと最も必要とされていた、自分たち自身が聞きたかったであろう音楽。それはもはやメンバーだけのものではなく、完全にこの社会を生きるみんなの歌になっている。
シグナル
https://youtu.be/DSZUUnaeWFQ
5. SOIL / 04 Limited Sazabys
04 Limited Sazabysに持たれているイメージってどういうものだろうか。やはり「パンク」「メロコア」「若い」というものだろうか。
それは確かにその通りではあるのだが、フォーリミは2015年のメジャー1stフルアルバム「CAVU」、翌年の2ndアルバム「eureka」でそうしたイメージだけには止まらないような幅広いサウンドに挑戦してきた。なかでも「eureka」の「mahoroba」はこのバンドがやらなかったらパンクなイメージが全く湧かないくらいに歌謡性すら感じる異色の曲だった。
そうしたアルバムを作ってきたのは、GENをはじめとした4人がアメリカのオルタナティブアーティストであるBECKの来日公演を観に行ったり、自身の主催フェスであるYON FESに自分たちとは全くジャンルの異なる存在であるDATSを呼んだりという、リスナーとしての幅の広さがあるからこそだった。
しかし最新作の「SOIL」は徹頭徹尾、まるでインディーズ時代のような紛れも無いパンクナンバーで貫かれている。そのきっかけになったのは自分たちがバンドを始めたきっかけであるHi-STANDARDとの対バンや「ビデオテープが擦り切れるくらい見た」というハイスタ主催のフェス、AIR JAMに出演したりと、自分たちが音楽を始めるキッカケや、始めた時の心境に立ち帰れるような出来事があったからだろう。
そうしてパンクに振り切ることによって、アルバム全体も非常に統一感の強い、焦点が絞れたものになったし、何よりもフォーリミの最大の持ち味であるメロディの良さをこれまでで最も感じることのできるものになっている。
ともにONAKAMAを形成するバンドたちを始め、フォーリミと同世代のバンドたちはいろんな音楽を吸収して、それを自分たちのものにできる技術や器用さを持っている。しかしそれはアルバムのイメージとしては散漫な印象を受けてしまう恐れもある。そんな中で逆にパンク一点突破に賭けたことにより、この「SOIL」は2010年代後半を代表する「パンクアルバム」と言ってもいいものになり、個人的にもフォーリミというバンドの存在感がさらに突き抜けたとすら思える最高傑作。
Milestone
https://youtu.be/LTVZfrxsT9U
4. BI / FINLANDS
ボーカル&ギター、ベースという女性2人組のバンド、FINLANDS。バンド名の通りに北欧に住む人々のような厚手のコートや帽子を常に身につけているという出で立ちもさることながら、このアルバムから鳴っているのは男女の違いという性差などないんじゃないか、と思うくらいのひたすらにカッコいいロックンロールだ。
そう感じさせるのは印象的なリフを量産するギターもそうだが、何よりもやはり塩入冬湖のハスキーなボーカルである。
「こんな声で歌えたらめちゃくちゃカッコいいけど声帯手術をしたとしてもこんな声で歌うことはできないだろうな」
という意味ではTHE BAWDIESのROYに通じるところもあるが、まさにそんなロックンロールバンドをやるために生まれてきたような歌声。この声を持つ人が本当にロックンロールバンドをやることを選んだことには感謝しかない。
とはいえ、ただ声がカッコいいだけではアルバムをこんなに上位に選出したりしない。この「BI」をここまで評価しているのは、前述のギターリフを含め、楽曲がロックンロールとしてのカッコよさと広いロックシーンに打って出ていけることが想像できるキャッチーさを兼ね備えていること。ロックンロールバンドというスタイルでその二つを兼ね備えているバンドは案外少ないし、だからこそなかなかメインストリームに浮上してくるようなバンドが現れない。そんな状況を塗り替えてくれるような期待をこのアルバムを聴くと抱いてしまう。
しかし個性的な声というのはどうしても好き嫌いというものが生まれる。だが自分はこのアルバムを聴く前は
「ちょっと会いたいんだ」
というバンドへの心象だったが聴いたあとは
「すごく会いたいんだ」
とどうしてもライブで聴きたいというくらいの中毒性で何度もアルバムをリピートした。
歌詞カードを見ずして聴き取るのは困難な歌い方であるが、そうした心情の些細な移り変わりをしたためるフレーズが次々に登場するのも塩入が弾き語りでも活動しているがゆえか。
やっぱり何回聴いてもこのガールフレンズたちに、すごく会いたいんだ。
ガールフレンズ
https://youtu.be/1VOhAoDW0F8
3. a flood of circle / a flood of circle
もうメジャーでのフルアルバムも8枚目となると、a flood of circleのアルバムはある程度内容のパターンが見えてくる。「この曲はライブ定番の盛り上がる曲」「この曲は佐々木亮介が客席に突入する曲」「ブルース色が強い曲」「ライブでアコギを弾くであろうバラード」みたいな感じで。
前作からわずか1年というスパンでリリースされた今作もそのフラッドの王道パターンに乗ったものであるが、そうした流れを踏襲しながらも今回のアルバムはこれまでのアルバムとは全く違う。
それは今作を2度目のセルフタイトルアルバムにしたことからも顕著だが、なんと言っても青木テツが正式に加入し、再びフラッドが4人のバンドになったからである。
だからこそその音の強度や説得力が前作までとは全く違う。それはある種概念的なものと言えるのだが、加入してすぐに脱退したDuranの時とは違い、テツは
「もうこのバンドのギタリストは変わりません!」
と、このバンドに骨を埋めるくらいの覚悟を持って入ってきた。その想いの強さや信念みたいなものは確実にこのアルバムのギターの音から発せられているし、4人でレコーディングをしたことによって、亮介、渡邊一丘、HISAYOの長く3人で続いてきたこのバンドのアンサンブルに新しい刺激が加わった。
いわばこのアルバムはフラッドからの意思表示的なアルバムである。古くからの仲であるUNISON SQUARE GARDENの田淵智也もプロデューサーとして「ミッドナイト・クローラー」を手がけているが、このアルバムのポイントはそこではない。ただひたすらにこのバンドがこの4人でこれから転がっていくという意志の表明。それをしっかり世の中に打ち出していくためのアルバムである。
バンドの形が変わって、アルバムが変わったら、やっぱりライブも変わった。出会ってから10年以上が経ち、曽根巧やキョウスケという最強のサポートギタリストがいた時代も「今が最高!」だと思っていたが、その最高を易々と飛び越えてしまった。それはロックバンドというものが人間によって変わる、人間だからこその音楽形態であるという何よりの証明。
そうしたいろんなものが変わりながらも、すでに年明けには新作アルバムがリリースされるという凄まじい創作意欲は全く変わらない。その姿からは曲以上に
「心配ないぜ」(「Wink Song」)
と言われているかのようだ。
ああ、そうだ、心配ないんだ。俺が確かに君のカッコよさを知ってるから。
ミッドナイト・クローラー
https://youtu.be/-WyoEnUmY44
2. Galaxy of the Tank-Top / ヤバイTシャツ屋さん
前作「We love Tank-top」を2016年の年間ベストアルバムに選出しながらも、やはり「次のアルバムがこれからのバンドの行く末を決めるだろうな」とまだそのポテンシャルに伸び代があるのか、という部分においては半信半疑であった。
それから1年と2ヶ月。年明け早々にリリースされたヤバイTシャツ屋さんの2ndアルバム「Galaxy of the Tank-top」はヤバイTシャツ屋さんが一発屋で終わるどころか、これからさらなる進化を遂げていくモンスターバンドになることを証明する、2018年最初の名盤となった。
そもそも「あつまれ!パーティーピーポー」という2010年代ロックシーンをさらに更新するアンセムを世に送り出しておきながら、このアルバムにはそんな曲をさらに上回るかのような「ヤバみ」「ハッピーウェディング前ソング」という大ヒット曲が収録されている。
普通ならそれだけでも名盤認定間違いなしなのだが、このアルバムを名盤たらしめているのは、ある意味では「ふざけてるのか」と思われがちな軽さを一切感じさせない、こやまたくやの心情をストレートに描いた「気をつけなはれや」「サークルバンドに光を」という2曲が収録されているところである。
この2曲を聴くと、実はヤバTはそうしたいわゆる「普通の名曲」的なものを作ろうとすればいくらでも作れるバンドであるというのがすぐにわかる。実際、そういう方向にシフトしていたら聴かず嫌いをしたり、甘く見るような人は減っていたかもしれない。しかしヤバTはそうした曲が作れるにもかかわらず、そうした曲ばかりを作るようなことはしない。あくまで自身のやり方で、「眠いオブザイヤー受賞」や「Universal Serial Bus」など、誰も歌ったことのない言葉を歌詞にして歌う。それこそが自分たちのスタイルであり、なおかつ日本のロックをさらに進化させることであると信じているからである。
かつて、アジカンの後藤正文が
「正直、サウンドに関しては画期的なものは出尽くしている。まるっきり新しい楽器とかが開発されない限りは。でも日本語の歌詞にはまだまだ新しい可能性があるはず」
と口にしていたが、その新しい可能性は2018年にこのヤバイTシャツ屋さんによってついに切り開かれた。
「誰でもわかる、でも絶対にほかの誰にも作れない音楽」。このアルバムにコピーをつけるとしたらそんな感じだろうか。1stアルバムを年間ベストに選んだ際、自分は
「パンク・メロコアの最新進化系」
と評したが、パンク・メロコアだけにとどまらず、ヤバイTシャツ屋さんは日本の音楽の最新進化系だった。
ハッピーウェディング前ソング
https://youtu.be/lVIHyj9qVy0
1. 手 / teto
昨年、自分はこの年間ベストの中でtetoを2017年の新人王に選出したのだが、その時のコメントは
「上園啓史と金刃憲人が争い、結果的に8勝を挙げた上園が新人王を獲得した、2007年のセ・リーグのようだ」
というものだった。
それは要するに「他に飛び抜けた新人王候補がいなかった」ということだし、実際に上園も金刃もその年がキャリアハイと言ってもいいくらいにその後、ルーキーイヤーを上回ったと言えるような活躍はできなかった。(なんの因果か2人はともに現役最後に楽天イーグルスでチームメイトとなり、金刃は左のワンポイントとしてチームに貢献した)
では昨年新人王に選んだtetoもいわゆる2年目のジンクスというやつにハマったのか?というと全くの逆。なんなら18勝くらいしてチームのエースに君臨した、というくらいの飛躍を見せたのが初の全国流通フルアルバムとなる「手」である。
すでに廃盤になっているインディーズ期の曲も多く収録されているが、
「言いたいことはめちゃくちゃありますね」
というくらいに新曲における小池貞利の歌詞はそれまで以上に鋭さを増し、その言葉を言いたい相手も実に明確になっている。ただそれがプロテストソングにはならず、あくまでポップさは失われていない。それは
「自分の中から出てくるものを大切にした」
という曲の作り方によるものが大きいのだろう。
しかしこのアルバムのハイライトはそうした鋭い言葉が並ぶ曲ではなく、ラストのタイトル曲「手」である。前半では明らかに安倍晋三をはじめとする「市の商人たち」の「洗脳教育」によって作られた社会に唾を吐き、「奴隷の唄」を歌わざるを得ないような生活を送っている。でもそうしたクソみたいな大人たちが大手を振るいながらも、果たしてこの世の全てがクソなのだろうか?その問いに対するtetoの回答が、
「馬鹿馬鹿しい平坦な日常がいつまでも続いて欲しいのに」
「でもあなたの、あなたの手がいつも温かかったから 目指した明日、明後日もわかってもらえるよう歩くよ」
「まだ見ぬ時代に会いたい 会って直接臆せず触れていきたい
あなたの手がそうだったように 辛うじてまだ自由に動くこの手で」
という、前に歩いていくことをやめないという意志。そして
「今まで出会えた人たちへ 刹那的な生き方、眩しさなど求めていないから
浅くてもいいから息をし続けてくれないか」(「拝啓」)
と、せめて自分たちの周りにいる人たちくらいは幸せであって欲しい、生きていて欲しいと願う。
それはともすると衝動を炸裂させまくるというスタイルゆえに刹那的な輝きを放って消えてしまいそうなこのバンドの存在に我々リスナーが抱く気持ちでもある。バカ売れしなかったとしても、色々なめんどくさいことがあっても、バンドとして息をし続けていて欲しい。我々がこのバンドに「拝啓」という書き出しで手紙を書くなら、間違いなくそれを願う。
どれだけ刺激的な、辛辣な言葉を社会に向けても、自分は幸せにはなれない。ではどうするべきか。それなら周りにいる、愛を持って接することができる人たちと一緒に生きていく、歩いていく。それが何よりも幸せなことであるということに改めて気づかせてくれる、聴いた人の心の支えになるようなアルバムだ。
ただのパクりバンドには絶対作ることができない、バンドの刹那の美しさといつ聴いても色褪せることがないであろう普遍性が同時に封じ込まれた、2018年最大の名盤にして、新時代の金字塔。
拝啓
https://youtu.be/588QHYk7YUA
・ベスト20から漏れた主な作品
MODE MOOD MODE / UNISON SQUARE GARDEN
歓声前夜 / SUPER BEAVER
Boys just want to be culture / PELICAN FANCLUB
好きなら問わない / ゲスの極み乙女。
じゃぱみゅ / きゃりーぱみゅぱみゅ
個人作品集1992-2017 「デも/demo #2」 / 有村竜太朗
Life In The Sun / HEY-SMITH
正しい偽りからの起床 / ずっと真夜中でいいのに。
GOLD / Age Factory
Helix / CRYSTAL LAKE
こうして選んだTOP20を見て驚いた。バンドしかいない。もちろんバンドしか聴いていないわけじゃないし、意図的にバンドだけを選んだわけじゃないけれど、やっぱりこうなってしまうのは、どれだけバンドが時代遅れなものになっても、バンドだからこそ宿る力を何よりも信じているということ。
「幅が狭い」とか「時代遅れ」と言われるかもしれないが、自分はロックバンドに今でも夢を見ているし、そこに自分なりの美学みたいなものを持っているつもりである。そういう部分も含めて、自分が音楽に何を求めているかというのがわかるランキングにはなったんじゃないかと思う。
・2018年の10曲 (順不同、アルバムの方にあまりに時間がかかり過ぎたのでコメントは割愛)
トリーバーチの靴 / teto
手 / teto
リボルバー / yonige
ガールフレンズ / FINLANDS
栞 / クリープハイプ
Lemon / 米津玄師
夏の砂漠 / a flood of circle
My HERO / 04 Limited Sazabys
The band / キュウソネコカミ
君はクプアス / ヤバイTシャツ屋さん
・表彰2018
MVP:ヤバイTシャツ屋さん
なぜ自分がこんなにもヤバTを推しているのか。それは楽曲のクオリティもさることながら、ヤバTの行動や活動には「なぜそうするのか」というバンドの意志や理由がしっかりと見えるからである。
2daysのライブ(「Galaxy of the Tank-top」のリリースツアーの東京はZepp Tokyo 2daysだった)でセトリをまるっきり入れ替えるのも、アルバムが出た際にメンバーが何度も「CDを買って欲しい」というのも、実際にライブに行ったり、CDを手に取ったりすると、なぜそうするのか、そう言うのかというのがちゃんとわかる。
で、それは彼らの発する音や歌詞にもちゃんと現れている。そうした姿勢で作ったフルアルバムを2枚もリリースし、どちらもTOP10に入る作品だった。このバンドがMVPじゃなかったら誰をMVPにすべきなんだろうか、というくらいに巨人の菅野智之が沢村賞に選ばれたのと同じレベルの圧勝っぷり。
新人王:マカロニえんぴつ
今年リリースされたのはシングル「レモンパイ」のみ。本来なら「CHOSHOKU」がリリースされた去年のタイミングで選出するべきだったのかもしれない。しかしリリースが12月で、自分が聴いたのが年が明けてからという遅いタイミングだった上に、ライブを初めて見たのも今年になってからだったので、しっかりとこのバンドを評価しているし、期待しているということを表すべく、今回の選出となった。
バンド歴やディスコグラフィーを見ても新人というカテゴリーに入るかどうかは微妙ではあるが、日本ハムの高梨裕稔(今オフ、クリープハイプのレビューで触れた秋吉亮とのトレードでヤクルトに移籍)も新人王に輝いたのは、大卒で入団してから3年目、26歳という決して若くはないシーズンだった。
その高梨は来年からは新天地で心機一転を期す。これまでの活動の中で
「ナメられるような名前のバンドですけど」
という悔しさを味わってきたこのバンドの持つポップセンスとロックさも、新しくてもっと広い場所で響いて欲しい。というか間違いなくそうなるはず。
最優秀公演賞:ELLEGARDEN @ZOZOマリンスタジアム 8/15
10年ぶりのライブ。その時の思いはライブレポとして書きまくっただけに、
(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-531.html?sp)
それを見ていただきたいのだが、結局は2018年は自分にとってはもう2度と見ることができないと思っていた、願うことすらもしていなかったこのバンドの4人がまたステージに立って音楽を鳴らすのが見れたという1年だった。またいつか観れる日が来るのならば、10年でも20年でも生きて待ち続けるよ。
行ったライブの数:108本 (COUNTDOWN JAPAN 18/19 4days含む)
聴いたアルバムの数:およそ200枚
という2018年でした。
こうして音楽にまみれていられるうちは、自分にとってはいい1年だったと振り返ることができる。「載ってないけどこのアルバム良かったぞ!」っていうのがあったら教えてください。
Next→ 12/28 COUNTDOWN JAPAN 18/19 @幕張メッセ
まずは2018年ベストディスク、20位から順に。
20. 時の肋骨 / THE PINBALLS
ロックンロールバンドのアルバムというと荒々しい曲をとりあえず10曲くらい並べてもの、というイメージを持たれがちであるが、インディーズ期にも「四季」をテーマにしたりと、フルアルバムを作る際はキッチリとコンセプトを持たせていた、THE PINBALLSのメジャー移籍後は初となるアルバムは12曲入りで、それぞれが時間を示し、1枚アルバムを聴き終えると1日が終わっているという見事なまでのコンセプトアルバム。
だからこそタロットカード風の歌詞カードも含め、「配信やストリーミングが主流になりつつある今この時代にCDとしてアルバムを出す意味」を徹底的に突き詰めながらも、コンセプトのみが先行するような企画盤ではなく、あくまでロックンロールバンド・THE PINBALLSのカッコよさと、「ヤンシュバイクマイエルの午後」など古川貴之の独自の言語センスや脳内世界を感じさせてくれる。
とはいえ、昨年リリースの「NUMBER SEVEN」に収録されていた「蝙蝠と聖レオンハルト」クラスの名曲があればさらに順位は上がっていたはず。
アダムの肋骨
https://youtu.be/08h001_ma0E
19. 重力と呼吸 / Mr. Children
自分が中学生や高校生の頃にこういう企画をやっていたら(ネットとか一切なかったからやりようなかったけど)「IT'S A WONDERFUL WORLD」あたりまでは毎作ミスチルを1位に選んでいただろう。
それくらいに日本を代表するくらいの名盤を世に送り出し続けてきたバンドであるし、それは自分にとってもそうなのだが、リリース形態が話題を呼んだ前作も含め、近作は「とりあえず聴いておく」というくらいの位置のアーティストになってしまっていた。
それは自分自身の音楽的な趣向の変化もあったのかもしれないが、今や若手バンドのプロデューサーに名前が挙がると嫌な予感しかしないくらいにアレルギー的な存在になっている小林武史から離れた19枚目のオリジナルアルバム「重力と呼吸」は鈴木の「ワン、ツー、スリー、フォー」というカウントから始まる、この4人のロックバンドによるまごうことなきロックアルバムになっている。
もちろん曲もサウンドも全然違うのだが、聴いていて思い出したのは、リリース時(まだネットとかなかったけど)に賛否両論を呼びまくった「深海」や「DISCOVERY」。まだ10代だった自分はそれらのアルバムをカッコいいロックバンドのものとして受け取っていた。あれから20年くらい経っても、今でもミスチルがそういうバンドであると思い出させてくれた1枚。久しぶりにライブを観に行きたくなった。
Your Song
https://youtu.be/ieQRDtBpBdY
18. ネリネ / KANA-BOON
そもそもリリースも年内ギリギリ(12月19日リリース)だし、5曲しか入ってないミニアルバムだし、特に話題にもなっていないし…ということで聴く前の期待値はお世辞にも高いとは言えなかった。
しかしそのコンパクトなサイズを逆手に取るかのように、全曲シングルでリリースできるレベルの、しかも「冬」というコンセプトで統一された曲のみが並んだ。MUSICAの連載でも証明しているとおりに、リスペクトを寄せるアジカンのゴッチの次を担う「ロックバンド界の詩人」は谷口鮪であるということがよくわかる、聴いていて脳内に風景や情景が浮かび上がるような歌詞の数々。
とりわけ「湯気」は曲のタイトルだけを見るとどうしても自分が大好きな某バンドの性急なギターサウンドが聴こえてきてしまうようなイメージを塗り替えるような、演奏も歌もじっくりと聴かせる落ち着いた仕上がり。
ほかの曲も、かつてのKANA-BOONの代名詞であった「高速4つ打ちダンスロック」的なものも、派手な曲も全くない。「TIME」や「Origin」の時はそうしたイメージから意識的に遠ざかろうとしていて、でも他のことができるような知識も経験も技術もない、というように見えていた。
でも今はちゃんとそれがバンドに備わっている。だから無理をしている感じが全くないし、今やりたいこととしっかり噛み合っている。もう流行を生み出せるような存在ではないし、状況は厳しくなりつつあるが、夏盤「アスター」やカップリング集に収録された「夜の窓辺から」とともに「ネリネ」は、そしてKANA-BOONはこれからも長く付き合っていける存在になりそうだ。
ネリネ
https://youtu.be/EiWQkj2GcU4
17. -11°C / BIGMAMA
色々騒動もあったし、それによってなのかわからないけどライブのスタンスの変化によって楽しさを感じなくなってしまったし、何よりも近作アルバムが好きになれないものが続いていただけに、「もう買わなくてもいいバンドなのかもしれない」と思いながら、なんやかんやで全部アルバム持ってるしな、という惰性で購入した、ほとんど期待していなかったアルバム。
しかし聴いていると、かつて「Dowsing For The Future」や「and yet, it moves 〜正しい地球の廻し方〜」を聴いた時の感覚を思い出した。ああ、BIGMAMAってそもそもパンク・メロコアにヴァイオリンが入ったバンドだったんだ、と。それと同時に「アルバム1枚で1つの物語を描く」というコンセプトアルバムを作るのに最も秀でたバンドであったということも。
そうした原点回帰感はメジャーに移籍してから初のアルバムということも影響しているからなのかもしれないし、今年見たライブからはまだトンネルを抜けたという感覚にはならなかった。それでもこのアルバムを聴いていると、ファンが笑顔で人の上を転がっていく光景が想像できる。だからこそ、
「会いたい気持ちは蓋して鍵をかけたまま」(「POPCORN STAR」)
ではなく、このバンドに会いたい、ライブを見たいという気持ちにさせてくれる。タイトルはクールそのものだが、内包している熱量は火傷しそうなくらいに熱い。
Step-out Shepherd
https://youtu.be/URilDwjjV08
16.ANTI ANTI GENERATION / RADWIMPS
いたるところで言われているとおり、前作「人間開花」は「君の名は。」の大ヒットによってバンドが最も開放されたモードで作られた、陽のエネルギーに溢れた名盤であった。
それから2年ぶりのアルバムとなる今作「ANTI ANTI GENERATION」はONE OK ROCK・Taka、あいみょん、Miyachiとタブゾンビというゲストを迎えた曲や、「18FES」のために作られた合唱曲、さらには近年の野田洋次郎の趣向が反映されたであろうヒップホップ色の強い曲など、アルバムの幅広さとバラエティは過去随一と言っていい。
そんな中で最も強烈なのはなんと言っても9曲目の「PAPARAZZI 〜*この物語はフィクションです〜」。洋次郎には言いたいことが明確にあって、それを自分の音楽で言う。自分はメンバーと同い年であり、「RADWIMPS 2 〜発展途上〜」から全てのアルバムをリアルタイムで聴いてきた。お互いに30歳を超えた今というのは、つい守りに入ってしまう年代だ。実際自分もそうなりつつある時もあるし、周りを見ていてもそう感じる。
でもRADWIMPSは一切守りに入ることをしない。ひたすらに自分たちの持つダークさや苛立ちを自分たちの音楽として表現する。「なんちって」や「五月の蝿」という曲でもその攻め続けるスタンスを示してきたが、それ以降もさまざまな経験をしてきたのを見てきたからこそ、今この曲でその姿勢を見せてくれることに本当に大きな力をもらえるし、まだまだ攻める気持ちを忘れてはいけないな、と思わせてくれる。
っていう聴き方、感じ方を「PAPARAZZI 〜*この物語はフィクションです〜」でしている人が自分以外にいるんだろうか、と思ったりもするけれど。
「PAPARAZZI 〜*この物語はフィクションです〜」
https://youtu.be/tZcJRFc15LY
15. Sleepless in Brooklyn / [ALEXANDROS]
[Champagne]時代から[ALEXANDROS]はアルバムごとに新たな音楽性を取り入れながら変化し、その度にスケールをも拡大してきたバンドであり、前作「EXIST!」では「Feel Like」や「Aoyama」という曲で洗練されたサウンドに挑戦し、見事に自分たちの音楽として鳴らしてみせた。
ではそれから2年経った今作「Sleepless in Brooklyn」で取り入れたものは?というと、先行シングル「KABUTO」や「Mosquito Bite」に顕著だったとおり、リフをメインにしたロック。
そのサウンドを導いたのはタイトルとおりにレコーディングされた場所がアメリカであり、明確にスタジアムで鳴らされることを想定して作られているし、それは8月16日のZOZOマリンスタジアムでのワンマンライブでまさにスタジアムで鳴らされるべきロックサウンドであるという素晴らしい成果を見せた。
おそらくこれまでのアルバムの中で最も賛否というか好き嫌いがハッキリ分かれるようなサウンドであるが、年明けに始まる初のアリーナツアーでこのアルバムの真価は発揮されていくのだろうし、「ハナウタ」や「Your Song」という曲ではこのバンドの核がメロディであることを示しながら、どんなサウンドでも[ALEXANDROS]の音楽にできてしまうのを証明してきた、というのがこのバンドが立つであろうスタジアムのさらに先の景色を想像させてくれる。
アルペジオ
https://youtu.be/uHxwO3mGpLU
14. ホームタウン / ASIAN KUNG-FU GENERATION
各媒体などでも語られているとおりに、欧米のポップミュージックにおける低音の強さに日本のロックバンドとして向き合うべく、抜本的なサウンドの刷新を図ったアルバム。
とはいえサウンド面の変化となると「どうせ素人なんだから聴いてもそこまで違いがわからないだろうな…」と思ってしまう。しかし今までアジカンを聴いてきた人も、このアルバムで初めてアジカンの音楽に接する人でも、ベースとドラムの音のクリアさは聴いていて感じることができるはずだ。
だから聴いていると、何がどうそこまで変わってそうなっているのかはわからないが、いつのまにか自分の手や足がリズムを刻んでいる。今まで「ブルートレイン」などでの伊地知潔の独特なリズムパターンを体が刻むことはあったが、こんなにもシンプルと言えるようなリズムに体が反応するようなアジカンのアルバムはなかった。
デビューしてから15年、その音楽や姿勢でロックシーンを引っ張ってきたアジカンが今でもこうして日本のロックシーンを引き上げるべく新たな挑戦を果たしていて、それを自分たちだけのものではなく、日本の音楽の共通財産として鳴らしている。NANO-MUGEN FES.とはまた違った形で日本のロックシーンに刺激を与えている姿は本当に頼もしい。
とはいえ、賛否両論が強かった「ランドマーク」も年間4位、「Wonder Future」は(確か)1位に選出している。アジカンはそうして「アルバム出せば毎回年間ベストクラス」というアルバムしか作ってこなかったが、サウンドを抜きにした楽曲などの作品の内容という面で言うと過去最高に好みが分かれそうなアルバムなんじゃないかと思う。
ホームタウン
https://youtu.be/7z-7klgUSyU
13. ギリ平成 / キュウソネコカミ
もはやキュウソネコカミを「ただ面白いバンド」だと思っている人はいないだろうし、実際にアルバムに先立ってリリースされた「越えていけ / The band」ではこのバンドの本質である熱いロックバンドとしての面を見せるものだった。
なのでアルバムもそうした方向に寄せたものになるのかな?と思ったりもしたのだが、やはりキュウソは1枚も2枚も上手だった。「米米米米」で「ベイマイベイベー」と読ませる米賛歌のようなラブソングがあり、その前の「炊き上がれ召し上がれ」がウォールオブデスをするために作られたかのような曲であったりと、その天才的な発想力を自分たちの音楽に昇華することができて、しかもそれがどっからどう聴いてもキュウソネコカミのものになっているという本格的にとんでもないバンドになり始めている。
メンバーもこのアルバムの初回盤についているDVDの副音声で
「今でも好きなバンドが新曲を出してくれると本当に嬉しい」
と口にしていたが、そうしたキッズの時の気持ちを今も持ち続けているからこそこのバンドの熱い部分は説得力があるし、何よりも自分たちが「新曲ありがとぉぉぉ!!!」とたくさんの人に思われるバンドにちゃんとなれている。
シーンに登場した当時は「コミックバンド」「すぐ消える」と散々言われていたが、こんなすごいバンドがそんなに容易く消えるわけがないという確信はリリースを重ねる度に強くなってきている。
推しのいる生活
https://youtu.be/wKiaze13E2c
12. 泣きたくなるほど嬉しい日々に / クリープハイプ
前作「世界観」は「同じやり方で超えられないなら新しいやり方でこれまでを超える」とばかりに「鬼」でのブラックミュージックのエッセンスを取り入れたりという一大変化作であり、その試みは見事に成功しただけに、今作もそうした新しい音楽性を取り入れた変化作になるのかと思いきや、意外にもストレートなギターロックに回帰した作品となった。
そのストレートさは歌詞にも現れており、「今今ここに君とあたし」では昔話という体を取りながら、様々な騒動などもあって批判されることも多かったこのバンドのファンとの絆を感じさせるものになっており、「ロックシーンきっての捻くれ者」というイメージの強い尾崎世界観の心境や人との向き合い方が変化してきていることがよくわかる。
そんな、軟投派のようでいてストレートを投げてみたら意外にも速くて空振りが取れた、という尾崎の好きなヤクルトのピッチャーで言うならサイドスローであるが故に技巧派なイメージだが実はストレートも速い秋吉亮(日本ハムにトレードで移籍することが決定した)的なアルバムとも言えるようなクリープハイプ節な中で最もど真ん中にズバッと決まっているのが、もともとはFM802の企画曲としてロックシーンのオールスター的なボーカリストたちによって歌われていた「栞」。
FM802バージョンをそのまま尾崎ボーカルに差し替えた、というのではなく、新たにクリープハイプバージョンとしてギターロック色をさらに強めたアレンジにしており、その試みがこの曲の持つポテンシャルをさらに引き上げ、アルバム全体の印象をさらに強いものにしている。
だからこそ「栞」のように山田哲人が1人でガンガンチームを引っ張っているように見えるのだが、このアルバムには青木宣親もいるし、坂口智隆もいるし、雄平もいる。後ろには近藤一樹や石山泰稚もいる。今年2位に躍進したヤクルトを支えたのはそうしたメンバーたちだった。このアルバムを名盤たらしめているのも、リード曲でもシングル曲でもない曲たちである。
栞
https://youtu.be/j4XsCJHfplg
11. ONE / ネクライトーキー
そもそもがコンテンポラリーな生活のメンバーに女性ボーカルのもっさが加わった、という編成だけで楽曲のクオリティは保証されているようなものである。曲を手がける朝日は石風呂名義でボカロPでも活動していたし、コンテンポラリーな生活はKANA-BOONとともに関西のライブハウスシーンを支えてきたバンドでもある。
しかしコンテンポラリーな生活はそのポップさをもってしてもなかなか広いところには届いていかなかった。朝日としてもそこには悔しい思いがあったはずだし、「こんなもんじゃない」という気持ちを誰よりも持っていたはず。
その朝日のポップセンスはもっさというボーカルを迎えた新バンド、ネクライトーキーのデビューフルアルバムとなる「ONE」で完全に開花することになる。逆に言えば曲のポップさを伝えるという部分でボーカリストの声やキャラクターが担っているものの大きさというものを改めて実感させられるわけだが、かつてとびきりキャッチーなメロディーに
「彼らは鉄腕ナインティーン」
という意味不明過ぎる歌詞を載せて歌っていた朝日の独特のポップセンスはこのバンドでさらに進化を果たし、コンテンポラリーな生活の活動中もグルーヴィーなベースを弾いていた女性ベーシスト藤田の存在感は編成が3人から4人になっても増すばかり。1度聴いただけで覚えてしまうくらいにキャッチーな曲ばかりの、まるで1stにしてベスト的なアルバム。
オシャレ大作戦
https://youtu.be/Aw1Awul1818
10. Bichorme / Monochrome / Yap!!!
石毛輝の新バンド、Yap!!!の新しいアクションはコラボ盤と新曲盤という2枚のミニアルバムでのリリース。2枚で1つの作品的な意味合いもあるので、今回は2枚合わせてのランクイン。
結成から1年。Yap!!!は新人らしく若手バンドばかり出るようなイベントやフェスにも出演し、ライブを繰り返す中で
「この3人でやるべきこと、できること」
を探ってきた。どちらかといえばサウンド的にはthe telephonesに近いダンスロックではあるが、Yap!!!は「DISCO」などのキーワードにとらわれることなく、自由な創作形態を取り、盟友である菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)や小出祐介(Base Ball Bear)、自身よりはるかに若いCHAI、MONJOE(DATS,yahyel)、師匠であるナカコーを招き、それぞれのゲストが参加しているからこそこういう曲になる、という必然的な曲を作り上げた。
ただ、そうしたゲストの参加は話題性を呼んで注目を集めようというものでは全くない。石毛輝はリリース時のMUSICAのインタビューで
「自分の感性が若いリスナーに通用するのかを試したかった」
と語っていた。己の音楽家としての挑戦。そして「若いリスナーに」というのはかつての石毛少年が音楽を聴いて人生が変わったように、またthe telephonesのライブに通っていた若者たちがそうだったように、ロックはユースカルチャーのものであるという意識が今も頭にあるのだろう。
石毛くらいのキャリアのミュージシャンとなると「コアなファンにさえ届けばいい」という方向にシフトしてもおかしくない。師匠のナカコーの近年のソロ活動はそう感じるものになりつつあるし、実際に石毛はソロでリリースした作品でそういうことができるということを証明している。
でもまだロックシーンのメインストリームに新しいバンドで切り込んで行こうとしているし、この2枚の作品にはそれが音になって現れている。かつてthe telephonesで
「シーンを変えよう」「世界を変えよう」
と口にし、そこに共鳴してきた身としては、それから10年近く経った今でも石毛の音楽からその意志を感じられるのが何より嬉しいのだ。
Ahhh!!!
https://youtu.be/PWmx9NTCtDU
9. The Insulate World / DIR EN GREY
結成20年を超えたバンドの10枚目のアルバム。しかしそうした情報から感じるベテランらしさはサウンドからは一切感じられない。ラウドというよりもはやヘヴィロックと言ってもいい、ダークかつ重いバンドサウンド。
そもそもV系のバンドとそうしたラウドやヘヴィサウンドというのは実に相性が良いものであるため、今やロックフェスにもそうした音楽を鳴らすV系バンドも出るようになってきている。
しかしDIR EN GREYのこの「The Insulate World」には「なぜそんなにダークで重いサウンドを鳴らしているのか」という意志がものすごくハッキリと現れている。社会の歪さや人間の醜さ。そういった、目を背けてしまいたくなるようなものを歌うための音。だからこそ京のボーカルもデスボイスを多用してそれを表現している。
ではなぜこのバンドがそんな社会の歪さや人間の醜さを音楽にするのか。それはそうしたものは決してこの世からなくなるものではないとわかっていながらも、そうしたものが存在しない世界を諦めていないから。だからこそこのアルバムは「Rununculus」という、それまでとは全く質感の違う曲で最後を迎える。まるでこの曲が描く世界を目指しているかのように。
独特なメイクから近寄りがたい空気をひしひしと感じるような出で立ちだが、このアルバム、このバンドには人間らしさをどうしても感じてしまう。それが極まったのがこの「The Insulate World」。だから聴き終わった時には感動すら覚えてしまう。
すでにその長いキャリアの中で海外でも高い評価を得ているバンドだが、それはいわゆるV系ファンの人たちをメインに聴かれるだけの存在ではないことを示している。
しかしギタリストの薫は今作のインタビューで
「バンドに残されている時間はそう長くはない」
とこのバンドが永遠ではないことを自覚し始めてきている。
いつか来るその終わりの時を過ぎる前に1人でも多くの人に出会ってもらいたい、異形でありながらあまりにも美しい名盤。
Ranunculus
https://youtu.be/aeN6LqawRB4
8. EMSEMBLE / Mrs. GREEN APPLE
代表曲である「StaRt」と「サママ・フェスティバル!」と「WanteD! WanteD!」を聴き比べればわかる通り、これは本当に同じソングライターで同じメンバーのバンドが作った曲なのか、と思ってしまうくらいに、Mrs. GREEN APPLEはこれまでにアルバムごとに音楽性をガラッと変えながら成長してきたバンドである。
アメリカのティーンポップ・ボーイズグループのサウンドを取り入れ、もはやバンドという形態にすら拘らなくなったセルフタイトルの前作を経た今作「EMSEMBLE」のサウンドを引っ張るのは、先行シングルとしてリリースされた「Love me, Love you」に顕著な、ミュージカル的とも言えるビッグバンドサウンド。
とはいえ、1曲1曲をじっくり聴いていくと、そうした1つのサウンドのテーマを貫いているというよりは、前作で会得したティーンポップにヒップホップを掛け合わせたような「Reverse」やムーディーな「Coffee」、初期を彷彿とさせるギターロック色の強い「アウフヘーベン」、MONGOL800のキヨサクを迎えたまさかの青春パンクな「はじまり」、そうした全ての要素を1曲に集約したかのような「PARTY」と、振れ幅、バラエティは過去2作の比ではない。
まるでミュージカルの場面が変わるとその場面で流れる音楽が変わるように、そして1日や人生のあらゆる場面で聴きたい曲が常に変わっていくように。そうした音楽における「流れ」をMrs. GREEN APPLEはまだ3枚目、20代前半という若さで見事に体得し、これだけ幅が広いととっ散らかったような印象を持たれがちであるが、そのどれもをMrs. GREEN APPLEの音楽でしかない、と思うくらいに自然に鳴らしている。
そしてそれをしっかりエンターテイメントとしてみせることができるライブの地力の強さは今作のツアーファイナルの幕張メッセ2daysにおいて極まった感すらあるが、彼らはその後に行われたライブハウスツアーでは原点回帰を掲げてギターロックをまっすぐに鳴らした。ある意味ではこのランキングに入っているバンドの中で次のアルバムがどうなるのか最もわからない存在である。
未だに「1stが1番良かった」という人もたくさんいるし、インディーズ期のこのバンドの音楽に衝撃を受けただけにその気持ちもよくわかる。しかし単なるギターロックバンドのままでは感じることが出来なかったような感情や驚きを今のMrs. GREEN APPLEからは感じることができる。
Love me, Love you
https://youtu.be/FmDBhP4apbs
7. Tank-top Festival in JAPAN / ヤバイTシャツ屋さん
まさかの2018年2枚目となるフルアルバム。年始リリースの前作で完全にヤバTらしさを確立した感があるが、今作ではさらにそれを推し進めているというか、こやまたくやの天才っぷりがさらに際立っている。
その象徴が「本来なら6曲目に収録されるはずだった曲が大人の事情で収録できなくなったために急遽作った」という「大人の事情」。まさにその説明の曲でしかないのだが、そもそもそのネタで1曲作れる、しかもそれが名曲でしかないというのは、人間にとってはどんなマイナスな出来事があっても自分次第でそれをプラスに変えることができるという明確なメッセージにもなっている。(そこまで考えているのかどうかはわからないけど)
そして映画主題歌としてバズりまくっている「かわE」のこやま以外の日本人の語彙力を総動員しても絶対に出てこないような歌詞によるラブソングと、その歌詞のメロディへの「この歌詞、この単語、この語感でしかない」というくらいのハマりっぷりに感心していると、ラストの「ゆとりロック」の、望んだわけでもないのに「ゆとり世代」としての人生を歩むことになったヤバT世代の人々の切なさを感じさせる。
あと、すでに先行シングルのカップリングに収録されていた「君はクプアス」はSUPERCAR「Lucky」に並ぶくらいの日本のロックシーンを代表する男女デュエットソングだと自分は思っている。
11月から、[ALEXANDROS]、アジカン、RADWIMPS、キュウソネコカミなどが次々にアルバムをリリースするという忙しい年末になったが、2018年のラスボスとして立ちはだかったのは、2018年の始まりを「Galaxy of the Tank-top」で鳴らしたヤバイTシャツ屋さんだった。ヤバTではじまり、ヤバTで終わった2018年。
かわE
https://youtu.be/ciFOh2KN99U
6. Everybody!! / WANIMA
もうこんな解説とかどうでもいいから、とにかく歌詞カードを見ながらアルバムを聴いてくれ、聴けばわかるはず、という1枚。
それくらいに今やWANIMAはイメージが固まっている存在だろうし、人によってはそのイメージは「チャラい」「パリピ」みたいにいいものではないかもしれない。
でもWANIMAの3人がそんな人たちだったとしたら、自分はこのバンドの音楽を聴いてライブに行ったりすることはなかっただろう。それくらい、WANIMAの音楽からは他になんにも持っているものがなくて、ただパンクやロックに人生を捧げた、決して楽しい人生を歩んできたわけではない人たちの逆噴射感を今でも感じる。
そうした思いは紅白歌合戦にも出演し、お茶の間にも存在を轟かせたあとにリリースされたこの2ndアルバム「Everybody!!」の中の「ヒューマン」や「シグナル」という曲にも強く表出しているが、なぜWANIMAがそうしたお茶の間に響くくらいの存在になり、ドームまでも制したのかというとやっぱりそこなのだ。
日々、仕事や学校で苦しかったり辛かったりする思いをしている人たちへの音楽としてのエール。それをただ能天気に「頑張れ」と言うのではなく、「そういう悔しい思いをこれまでにたくさんしてきた俺たちだってここまで来れたんだぜ」という説得力を自身が音を鳴らす姿から見せてくれる。
今となっては信じられないが、まだドラムのFujiが加入する前、WANIMAはガラッガラのライブハウスで先の見えない孤独な戦いを続けていた。その頃のKENTAとKO-SHINにとって、きっと最も必要とされていた、自分たち自身が聞きたかったであろう音楽。それはもはやメンバーだけのものではなく、完全にこの社会を生きるみんなの歌になっている。
シグナル
https://youtu.be/DSZUUnaeWFQ
5. SOIL / 04 Limited Sazabys
04 Limited Sazabysに持たれているイメージってどういうものだろうか。やはり「パンク」「メロコア」「若い」というものだろうか。
それは確かにその通りではあるのだが、フォーリミは2015年のメジャー1stフルアルバム「CAVU」、翌年の2ndアルバム「eureka」でそうしたイメージだけには止まらないような幅広いサウンドに挑戦してきた。なかでも「eureka」の「mahoroba」はこのバンドがやらなかったらパンクなイメージが全く湧かないくらいに歌謡性すら感じる異色の曲だった。
そうしたアルバムを作ってきたのは、GENをはじめとした4人がアメリカのオルタナティブアーティストであるBECKの来日公演を観に行ったり、自身の主催フェスであるYON FESに自分たちとは全くジャンルの異なる存在であるDATSを呼んだりという、リスナーとしての幅の広さがあるからこそだった。
しかし最新作の「SOIL」は徹頭徹尾、まるでインディーズ時代のような紛れも無いパンクナンバーで貫かれている。そのきっかけになったのは自分たちがバンドを始めたきっかけであるHi-STANDARDとの対バンや「ビデオテープが擦り切れるくらい見た」というハイスタ主催のフェス、AIR JAMに出演したりと、自分たちが音楽を始めるキッカケや、始めた時の心境に立ち帰れるような出来事があったからだろう。
そうしてパンクに振り切ることによって、アルバム全体も非常に統一感の強い、焦点が絞れたものになったし、何よりもフォーリミの最大の持ち味であるメロディの良さをこれまでで最も感じることのできるものになっている。
ともにONAKAMAを形成するバンドたちを始め、フォーリミと同世代のバンドたちはいろんな音楽を吸収して、それを自分たちのものにできる技術や器用さを持っている。しかしそれはアルバムのイメージとしては散漫な印象を受けてしまう恐れもある。そんな中で逆にパンク一点突破に賭けたことにより、この「SOIL」は2010年代後半を代表する「パンクアルバム」と言ってもいいものになり、個人的にもフォーリミというバンドの存在感がさらに突き抜けたとすら思える最高傑作。
Milestone
https://youtu.be/LTVZfrxsT9U
4. BI / FINLANDS
ボーカル&ギター、ベースという女性2人組のバンド、FINLANDS。バンド名の通りに北欧に住む人々のような厚手のコートや帽子を常に身につけているという出で立ちもさることながら、このアルバムから鳴っているのは男女の違いという性差などないんじゃないか、と思うくらいのひたすらにカッコいいロックンロールだ。
そう感じさせるのは印象的なリフを量産するギターもそうだが、何よりもやはり塩入冬湖のハスキーなボーカルである。
「こんな声で歌えたらめちゃくちゃカッコいいけど声帯手術をしたとしてもこんな声で歌うことはできないだろうな」
という意味ではTHE BAWDIESのROYに通じるところもあるが、まさにそんなロックンロールバンドをやるために生まれてきたような歌声。この声を持つ人が本当にロックンロールバンドをやることを選んだことには感謝しかない。
とはいえ、ただ声がカッコいいだけではアルバムをこんなに上位に選出したりしない。この「BI」をここまで評価しているのは、前述のギターリフを含め、楽曲がロックンロールとしてのカッコよさと広いロックシーンに打って出ていけることが想像できるキャッチーさを兼ね備えていること。ロックンロールバンドというスタイルでその二つを兼ね備えているバンドは案外少ないし、だからこそなかなかメインストリームに浮上してくるようなバンドが現れない。そんな状況を塗り替えてくれるような期待をこのアルバムを聴くと抱いてしまう。
しかし個性的な声というのはどうしても好き嫌いというものが生まれる。だが自分はこのアルバムを聴く前は
「ちょっと会いたいんだ」
というバンドへの心象だったが聴いたあとは
「すごく会いたいんだ」
とどうしてもライブで聴きたいというくらいの中毒性で何度もアルバムをリピートした。
歌詞カードを見ずして聴き取るのは困難な歌い方であるが、そうした心情の些細な移り変わりをしたためるフレーズが次々に登場するのも塩入が弾き語りでも活動しているがゆえか。
やっぱり何回聴いてもこのガールフレンズたちに、すごく会いたいんだ。
ガールフレンズ
https://youtu.be/1VOhAoDW0F8
3. a flood of circle / a flood of circle
もうメジャーでのフルアルバムも8枚目となると、a flood of circleのアルバムはある程度内容のパターンが見えてくる。「この曲はライブ定番の盛り上がる曲」「この曲は佐々木亮介が客席に突入する曲」「ブルース色が強い曲」「ライブでアコギを弾くであろうバラード」みたいな感じで。
前作からわずか1年というスパンでリリースされた今作もそのフラッドの王道パターンに乗ったものであるが、そうした流れを踏襲しながらも今回のアルバムはこれまでのアルバムとは全く違う。
それは今作を2度目のセルフタイトルアルバムにしたことからも顕著だが、なんと言っても青木テツが正式に加入し、再びフラッドが4人のバンドになったからである。
だからこそその音の強度や説得力が前作までとは全く違う。それはある種概念的なものと言えるのだが、加入してすぐに脱退したDuranの時とは違い、テツは
「もうこのバンドのギタリストは変わりません!」
と、このバンドに骨を埋めるくらいの覚悟を持って入ってきた。その想いの強さや信念みたいなものは確実にこのアルバムのギターの音から発せられているし、4人でレコーディングをしたことによって、亮介、渡邊一丘、HISAYOの長く3人で続いてきたこのバンドのアンサンブルに新しい刺激が加わった。
いわばこのアルバムはフラッドからの意思表示的なアルバムである。古くからの仲であるUNISON SQUARE GARDENの田淵智也もプロデューサーとして「ミッドナイト・クローラー」を手がけているが、このアルバムのポイントはそこではない。ただひたすらにこのバンドがこの4人でこれから転がっていくという意志の表明。それをしっかり世の中に打ち出していくためのアルバムである。
バンドの形が変わって、アルバムが変わったら、やっぱりライブも変わった。出会ってから10年以上が経ち、曽根巧やキョウスケという最強のサポートギタリストがいた時代も「今が最高!」だと思っていたが、その最高を易々と飛び越えてしまった。それはロックバンドというものが人間によって変わる、人間だからこその音楽形態であるという何よりの証明。
そうしたいろんなものが変わりながらも、すでに年明けには新作アルバムがリリースされるという凄まじい創作意欲は全く変わらない。その姿からは曲以上に
「心配ないぜ」(「Wink Song」)
と言われているかのようだ。
ああ、そうだ、心配ないんだ。俺が確かに君のカッコよさを知ってるから。
ミッドナイト・クローラー
https://youtu.be/-WyoEnUmY44
2. Galaxy of the Tank-Top / ヤバイTシャツ屋さん
前作「We love Tank-top」を2016年の年間ベストアルバムに選出しながらも、やはり「次のアルバムがこれからのバンドの行く末を決めるだろうな」とまだそのポテンシャルに伸び代があるのか、という部分においては半信半疑であった。
それから1年と2ヶ月。年明け早々にリリースされたヤバイTシャツ屋さんの2ndアルバム「Galaxy of the Tank-top」はヤバイTシャツ屋さんが一発屋で終わるどころか、これからさらなる進化を遂げていくモンスターバンドになることを証明する、2018年最初の名盤となった。
そもそも「あつまれ!パーティーピーポー」という2010年代ロックシーンをさらに更新するアンセムを世に送り出しておきながら、このアルバムにはそんな曲をさらに上回るかのような「ヤバみ」「ハッピーウェディング前ソング」という大ヒット曲が収録されている。
普通ならそれだけでも名盤認定間違いなしなのだが、このアルバムを名盤たらしめているのは、ある意味では「ふざけてるのか」と思われがちな軽さを一切感じさせない、こやまたくやの心情をストレートに描いた「気をつけなはれや」「サークルバンドに光を」という2曲が収録されているところである。
この2曲を聴くと、実はヤバTはそうしたいわゆる「普通の名曲」的なものを作ろうとすればいくらでも作れるバンドであるというのがすぐにわかる。実際、そういう方向にシフトしていたら聴かず嫌いをしたり、甘く見るような人は減っていたかもしれない。しかしヤバTはそうした曲が作れるにもかかわらず、そうした曲ばかりを作るようなことはしない。あくまで自身のやり方で、「眠いオブザイヤー受賞」や「Universal Serial Bus」など、誰も歌ったことのない言葉を歌詞にして歌う。それこそが自分たちのスタイルであり、なおかつ日本のロックをさらに進化させることであると信じているからである。
かつて、アジカンの後藤正文が
「正直、サウンドに関しては画期的なものは出尽くしている。まるっきり新しい楽器とかが開発されない限りは。でも日本語の歌詞にはまだまだ新しい可能性があるはず」
と口にしていたが、その新しい可能性は2018年にこのヤバイTシャツ屋さんによってついに切り開かれた。
「誰でもわかる、でも絶対にほかの誰にも作れない音楽」。このアルバムにコピーをつけるとしたらそんな感じだろうか。1stアルバムを年間ベストに選んだ際、自分は
「パンク・メロコアの最新進化系」
と評したが、パンク・メロコアだけにとどまらず、ヤバイTシャツ屋さんは日本の音楽の最新進化系だった。
ハッピーウェディング前ソング
https://youtu.be/lVIHyj9qVy0
1. 手 / teto
昨年、自分はこの年間ベストの中でtetoを2017年の新人王に選出したのだが、その時のコメントは
「上園啓史と金刃憲人が争い、結果的に8勝を挙げた上園が新人王を獲得した、2007年のセ・リーグのようだ」
というものだった。
それは要するに「他に飛び抜けた新人王候補がいなかった」ということだし、実際に上園も金刃もその年がキャリアハイと言ってもいいくらいにその後、ルーキーイヤーを上回ったと言えるような活躍はできなかった。(なんの因果か2人はともに現役最後に楽天イーグルスでチームメイトとなり、金刃は左のワンポイントとしてチームに貢献した)
では昨年新人王に選んだtetoもいわゆる2年目のジンクスというやつにハマったのか?というと全くの逆。なんなら18勝くらいしてチームのエースに君臨した、というくらいの飛躍を見せたのが初の全国流通フルアルバムとなる「手」である。
すでに廃盤になっているインディーズ期の曲も多く収録されているが、
「言いたいことはめちゃくちゃありますね」
というくらいに新曲における小池貞利の歌詞はそれまで以上に鋭さを増し、その言葉を言いたい相手も実に明確になっている。ただそれがプロテストソングにはならず、あくまでポップさは失われていない。それは
「自分の中から出てくるものを大切にした」
という曲の作り方によるものが大きいのだろう。
しかしこのアルバムのハイライトはそうした鋭い言葉が並ぶ曲ではなく、ラストのタイトル曲「手」である。前半では明らかに安倍晋三をはじめとする「市の商人たち」の「洗脳教育」によって作られた社会に唾を吐き、「奴隷の唄」を歌わざるを得ないような生活を送っている。でもそうしたクソみたいな大人たちが大手を振るいながらも、果たしてこの世の全てがクソなのだろうか?その問いに対するtetoの回答が、
「馬鹿馬鹿しい平坦な日常がいつまでも続いて欲しいのに」
「でもあなたの、あなたの手がいつも温かかったから 目指した明日、明後日もわかってもらえるよう歩くよ」
「まだ見ぬ時代に会いたい 会って直接臆せず触れていきたい
あなたの手がそうだったように 辛うじてまだ自由に動くこの手で」
という、前に歩いていくことをやめないという意志。そして
「今まで出会えた人たちへ 刹那的な生き方、眩しさなど求めていないから
浅くてもいいから息をし続けてくれないか」(「拝啓」)
と、せめて自分たちの周りにいる人たちくらいは幸せであって欲しい、生きていて欲しいと願う。
それはともすると衝動を炸裂させまくるというスタイルゆえに刹那的な輝きを放って消えてしまいそうなこのバンドの存在に我々リスナーが抱く気持ちでもある。バカ売れしなかったとしても、色々なめんどくさいことがあっても、バンドとして息をし続けていて欲しい。我々がこのバンドに「拝啓」という書き出しで手紙を書くなら、間違いなくそれを願う。
どれだけ刺激的な、辛辣な言葉を社会に向けても、自分は幸せにはなれない。ではどうするべきか。それなら周りにいる、愛を持って接することができる人たちと一緒に生きていく、歩いていく。それが何よりも幸せなことであるということに改めて気づかせてくれる、聴いた人の心の支えになるようなアルバムだ。
ただのパクりバンドには絶対作ることができない、バンドの刹那の美しさといつ聴いても色褪せることがないであろう普遍性が同時に封じ込まれた、2018年最大の名盤にして、新時代の金字塔。
拝啓
https://youtu.be/588QHYk7YUA
・ベスト20から漏れた主な作品
MODE MOOD MODE / UNISON SQUARE GARDEN
歓声前夜 / SUPER BEAVER
Boys just want to be culture / PELICAN FANCLUB
好きなら問わない / ゲスの極み乙女。
じゃぱみゅ / きゃりーぱみゅぱみゅ
個人作品集1992-2017 「デも/demo #2」 / 有村竜太朗
Life In The Sun / HEY-SMITH
正しい偽りからの起床 / ずっと真夜中でいいのに。
GOLD / Age Factory
Helix / CRYSTAL LAKE
こうして選んだTOP20を見て驚いた。バンドしかいない。もちろんバンドしか聴いていないわけじゃないし、意図的にバンドだけを選んだわけじゃないけれど、やっぱりこうなってしまうのは、どれだけバンドが時代遅れなものになっても、バンドだからこそ宿る力を何よりも信じているということ。
「幅が狭い」とか「時代遅れ」と言われるかもしれないが、自分はロックバンドに今でも夢を見ているし、そこに自分なりの美学みたいなものを持っているつもりである。そういう部分も含めて、自分が音楽に何を求めているかというのがわかるランキングにはなったんじゃないかと思う。
・2018年の10曲 (順不同、アルバムの方にあまりに時間がかかり過ぎたのでコメントは割愛)
トリーバーチの靴 / teto
手 / teto
リボルバー / yonige
ガールフレンズ / FINLANDS
栞 / クリープハイプ
Lemon / 米津玄師
夏の砂漠 / a flood of circle
My HERO / 04 Limited Sazabys
The band / キュウソネコカミ
君はクプアス / ヤバイTシャツ屋さん
・表彰2018
MVP:ヤバイTシャツ屋さん
なぜ自分がこんなにもヤバTを推しているのか。それは楽曲のクオリティもさることながら、ヤバTの行動や活動には「なぜそうするのか」というバンドの意志や理由がしっかりと見えるからである。
2daysのライブ(「Galaxy of the Tank-top」のリリースツアーの東京はZepp Tokyo 2daysだった)でセトリをまるっきり入れ替えるのも、アルバムが出た際にメンバーが何度も「CDを買って欲しい」というのも、実際にライブに行ったり、CDを手に取ったりすると、なぜそうするのか、そう言うのかというのがちゃんとわかる。
で、それは彼らの発する音や歌詞にもちゃんと現れている。そうした姿勢で作ったフルアルバムを2枚もリリースし、どちらもTOP10に入る作品だった。このバンドがMVPじゃなかったら誰をMVPにすべきなんだろうか、というくらいに巨人の菅野智之が沢村賞に選ばれたのと同じレベルの圧勝っぷり。
新人王:マカロニえんぴつ
今年リリースされたのはシングル「レモンパイ」のみ。本来なら「CHOSHOKU」がリリースされた去年のタイミングで選出するべきだったのかもしれない。しかしリリースが12月で、自分が聴いたのが年が明けてからという遅いタイミングだった上に、ライブを初めて見たのも今年になってからだったので、しっかりとこのバンドを評価しているし、期待しているということを表すべく、今回の選出となった。
バンド歴やディスコグラフィーを見ても新人というカテゴリーに入るかどうかは微妙ではあるが、日本ハムの高梨裕稔(今オフ、クリープハイプのレビューで触れた秋吉亮とのトレードでヤクルトに移籍)も新人王に輝いたのは、大卒で入団してから3年目、26歳という決して若くはないシーズンだった。
その高梨は来年からは新天地で心機一転を期す。これまでの活動の中で
「ナメられるような名前のバンドですけど」
という悔しさを味わってきたこのバンドの持つポップセンスとロックさも、新しくてもっと広い場所で響いて欲しい。というか間違いなくそうなるはず。
最優秀公演賞:ELLEGARDEN @ZOZOマリンスタジアム 8/15
10年ぶりのライブ。その時の思いはライブレポとして書きまくっただけに、
(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-531.html?sp)
それを見ていただきたいのだが、結局は2018年は自分にとってはもう2度と見ることができないと思っていた、願うことすらもしていなかったこのバンドの4人がまたステージに立って音楽を鳴らすのが見れたという1年だった。またいつか観れる日が来るのならば、10年でも20年でも生きて待ち続けるよ。
行ったライブの数:108本 (COUNTDOWN JAPAN 18/19 4days含む)
聴いたアルバムの数:およそ200枚
という2018年でした。
こうして音楽にまみれていられるうちは、自分にとってはいい1年だったと振り返ることができる。「載ってないけどこのアルバム良かったぞ!」っていうのがあったら教えてください。
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