Yap!!! Bichrome & Monochrome Release Tour ~Everyone Let's Dance~ @渋谷SPACE ODD 12/14
- 2018/12/15
- 11:24
先月の北浦和KYARAからスタートした、Yap!!!の「Bichrome」と「Monochrome」のリリースツアーもついにファイナル。そもそもが「Bichrome」がコラボアルバムであるだけに、ゲスト参加者を中心に、石毛輝と交流の深いアーティストを招いたツアーのファイナルには、やはりともに「Bichrome」に参加している菅原卓郎のキツネツキ、MONJOEのDATSが出演。さらにはその2人以外にも特別ゲストの参加がアナウンスされており、実にファイナルらしい豪華さになっている。
・キツネツキ
こちらは先月にツアーファイナルを迎えた、9mm Parabellum Bulletの菅原卓郎と滝善充によるユニット、キツネツキ。本隊である9mmが公式サイトにて謎のカウントダウンを始めるという動きも見せているが、来年はあまりライブをしない(9mmが15周年で忙しいから)と宣言しているだけに、ツアーが終わった今となっては貴重なライブと言っていいだろう。
この日はやたらと開場が遅れていた(19時に会場に着いたらようやく開場したタイミングだった)ので、19時15分くらいに場内が暗転すると、卓郎と滝の2人がステージに登場。「ふたりはサイコ」からボーカル&ギターとドラム(このバンドにおいては滝はドラマーである)というロックバンドの最小限編成だからこその爆音ロックンロールをぶっ放していくのだが、このSPACE ODDがクラブ的な作りだからか、サウンドも普段よりも滝のドラムの音が強く聞こえる。逆に卓郎のボーカルはかなり抑え目な印象だが、楽器自体の音は爆音と言っていいレベルである。
ツアーでは取り憑かれメンバーという名のサポートメンバーを加え、滝はドラムのみならずギターも弾いていたが、今回はひたすらに2人だけで爆音を鳴らしていく。
「過ぎ去っていった秋を偲んで」
と言って、完全に真冬に突入した都内で演奏された「小さい秋みつけた」からは童謡モードに。そこには9mmのメロディの大きな要素であり、また菅原卓郎のソロのテーマである「歌謡」というエッセンスを強く感じる。超爆音ではあれど。
するといつのまにかステージの卓郎と滝の間にはするっと石毛輝が現れる。
「大事なゲストを紹介しないっていうね(笑)」
と卓郎は確信犯的に呼び込まずにステージに登場させたことを明かすのだが、なんと石毛が手にしているのはギターではなくベース。ベースを弾くのを選んだ理由は
「いないから、ベースがいた方がいいかと思って」
という当たり前極まりないものであったが、これはめちゃくちゃレアな光景である。
「輝(卓郎は石毛のことを輝と呼ぶ)は俺たち同年代の中では1番多様性がある男で。みんなもそれはわかるでしょ?今日はそんな輝のパンクな一面を見てもらいたいと思います」
と卓郎は石毛について語っていたが、それはやはりthe telephonesから今に至るまでにずっと石毛輝のあらゆる音楽表現を見て、聴いてきた人だからこその評である。
そしてそんな多様性の中で今回選んだのは「パンク」ということで、「ケダモノダモノ」から石毛のベースを加えてさらにサウンドは激しさを増していくが、石毛はやはりベースも上手い。そもそもがソロではあらゆる楽器を駆使して音楽を作っているだけに、弾けるのは当たり前と言えば当たり前なのだが、音を聴いていると珍しい光景を見ているという違和感が全くないし、見事にキツネツキのツーピースだからこその音の隙間を埋めている。またこの2人と一緒に演奏できている(石毛は9mmのサポートギターも務めたことがある)喜びを演奏中の表情から感じるし、石毛とともにリズムを刻む滝はそれまでよりもさらに笑顔でドラムを叩いている。滝はステージ上では言葉で感情を表すことはしないが、その表情は何よりも楽しく感じていることを表している。
「バンド名を決める時に、ピエール中野氏に「キツネツキっていう名前は不吉だからやめた方がいい」って言われたんだけど、「じゃあ頭脳警察とか日本脳炎っていうバンド名はいいのか(ともに実在のバンド)」って思ったんだけど、本人にそれを言わないまま今に至ってます(笑)」
と、両者ともに仲のいいピエール中野の名前まで出てきて笑わせると、石毛がベースのみならずコーラスまでも務める「ハイカラちゃん」では卓郎が
「あなたのせいよ こうなったのは」
という歌詞を
「輝のせいよ こうなったのは」
と石毛を指差して歌う。この辺りのアドリブの強さは9mmのライブでも毎回その会場やイベントの名前を入れてきた卓郎ならではである。
そしてラストは卓郎とともに石毛もステージ前まで出てきてベースを弾きまくった爆裂インスト曲「CC Odoshi」。演奏が終わると仲良くステージを去る3人はまるでこのメンバーによるスリーピースバンドのようにすら見えた。
石毛輝はライブでベースを弾くのはこの日が初めてだという。(ドラムは高校生の時にBRAHMANのコピバンで叩いていたらしい)
その事実だけで本当に見れて良かったと思うし、このコラボからは両者の関係性の深さとともに、キツネツキというツーピースバンドだからこそのこれからの新たな可能性も感じさせた。
そりゃあ9mm本隊のライブが見たいけど、卓郎言うところの「サイドプロジェクト」のままではちょっと勿体なさすぎる気がする。
1.ふたりはサイコ
2.てんぐです
3.小さい秋みつけた
4.子ぎつね
5.証城寺の狸囃子
取り憑かれメンバー 石毛輝登場
6.ケダモノダモノ
7.かぞえうた
8.ハイカラちゃん
9.CC Odoshi
・DATS
転換中にメンバーがステージに出てきてセッティング&サウンドチェックを始めると、SEもなくいきなりステージが暗転し、ヘッドホンを装着した大井一彌(ドラム)のみならず、吉田巧(ギター)と早川知輝(ベース)の2人もそれぞれの楽器を背負ったままでフロアタムを連打するというオープニングで一気に観客を引き込んだ、DATS。
Yap!!!の「Bichrome」にも参加したMONJOEこと杉本亘(ボーカル&シンセ)がステージに現れると、吉田と早川はギターとベースを手にして「Mobile」で深淵なエレクトロサウンドが会場を包んで行く。
CDで聴いた時にはロックバンドというよりもダンスミュージックユニットというイメージが強かったのだが、ライブを見てみるとそれを覆すくらいにロックバンドのライブである。それは打ち込みの浮遊感あるサウンドとともにこのバンドの上物を担う吉田のギターからそう感じるのかもしれないが、それよりも早川のうねりまくるようなベースと、正確無比なリズムを刻みながらも実に力強い、コントロールがありながらも速球派的な大井のドラムから感じることなのかもしれない。
そしてそれはこの会場の音づくりに非常にマッチしており、リズムに合わせて体が動き出してしまう。そのリズムもこうしたダンスミュージックを主体にしたバンドにありがちなシンプルなものではなく、フレーズごとにリズムが変わるという、ノリづらそうなんだけど体が揺れるという絶妙なポイントを攻めている。
主に英語歌詞を歌いながらシンセや打ち込みを操るMONJOEは一見クールに見えるが、汗を流しながら歌う姿からはロックバンドの熱量を感じさせる。04 Limited Sazabysの主催フェスに呼ばれているのもこうした姿をいろんなバンドに見てもらっているからだろう。
日本語をメインにした新曲からは徐々にこのバンドの持つポップな面も顔を覗かせるのだが、コーラスを観客に委ねた「Heart」ではミラーボールが照明を反射しながら美しく輝き出し、ラストの「Message」ではオープニング同様に吉田と早川がタムを叩くと、MONJOEは自身の背後に置いてある「DATS」と書かれたバスドラを叩きまくるという、重低音にこだわりを持つバンドだからこそのパフォーマンスを見せ、
「たくさん新しい人と出会えた1年だった」
という通りにこの日も新しい人に強烈なインパクトを残した。
このバンドの音楽からはやはりどこか石毛輝の作ってきた音楽からの影響を感じさせるが、最も共通点を感じるのは、
「これからも新しいことにチャレンジするのを恐れずに音楽をやっていきたい」
という音楽に対する意志。それは石毛輝がこれまでの活動の中で示してきたことでもあるし、このDATSとともにyahyelというアウトプットも持つMONJOEの活動の仕方そのものでもある。
これまで決して熱心に聴いてきたバンドではないか、そういう部分がライブを見るとハッキリとわかるために、機会があればこれからもライブを見てみたいし、何よりもMONJOEが今の石毛くらいの年齢になった時にどんな音楽家になっているかを見てみたい。
・Yap!!!
そしてステージ背面のLEDビジョン(常設のものなのだろうか)にはYap!!!のバンドロゴが映し出され、サウンドチェックにメンバー自らが登場すると、石毛は9mmの「Discommunication」のイントロのギターを弾いたりというサービス精神を見せるが、弾いた後に恥ずかしくなったのか顔を抑える仕草をするのが面白い。
メンバー3人が本番でステージに登場すると、石毛とマグナムこと汐碇真也がシンセを弾くという、SE代わりの生演奏。これにはいきなり驚かされるというか、ツアー初日の北浦和の時はこんなことしてなかったはずだけどな?という部分からして、このツアーを回ってきて培ったものが形になって現れている。
初日では「If I'm A Hero」で叙情的に始まっていたが、この日のファイナルでは石毛のギターと汐碇のベースがユニゾンし、垣内宏介のパワー溢れるドラムもそのユニゾンに合わさる形のイントロの「Ahhh!!!」でスタート。個人的にこのイントロはものすごくテンションが上がるというか、息が合っている3人だからこそのダイナミズムを感じることができるので、「Monochrome」のオープニングナンバーということもあるが、ライブの1曲目にももってこいのキラーチューンだと思っている。
「Story of a boring man」では曲が終わったかと思いきや、アウトロにセッション的なアレンジが追加されていて、石毛はことあるごとにギターを抱えたままジャンプを連発する。その姿や歌唱時のいつにも増してハイテンションな歌い方なども含め、石毛のYap!!!のボーカリスト、フロントマンとしての技術や能力がさらにパワーアップしているのがすぐにわかる。ここに至るまでに様々な経験をしてきたのに、今になっても進化・成長しているというのはバンドというものはやはり生き物であり、限界のないものでもあるということを実感する。
そうしたツアーを回ってきてさらに強くなったバンドとしてのグルーヴや演奏はダイレクトに客席にも伝わっており、初日の北浦和でのまだ様子見的な雰囲気はこの日は一切なく、バンドの演奏が素晴らしくて、思わず体が踊り出してしまうというライブバンドとしての客席との化学反応がしっかりと起きていて、それが本当に楽しかった。今までのYap!!!のライブも素晴らしかったけど、楽しさという意味ではこの日が間違いなく最高を更新してくれた。
デビューミニアルバム収録の「Kick the Door」から「Now or never」へという流れはこのバンドのポップサイドと言ってもいい、華やかな打ち込みのサウンドが心地良い曲たちなのだが、「Now or never」での柿内のドラムの凄まじさの魂のこもりっぷりはその姿と音でなぜか泣けてきてしまうほど。石毛のギターも泣きのフレーズを奏でているというのもあると思うけれど、メンバー全員に確かな進化が見て取れるというのは本当に良いバンドになっていると思う。
「今日はリハが押して寒い中待たせてしまって本当に申し訳ない。でもスタッフはみんなオンタイムで始めようと頑張ってたので…みんな「殺すぞ」っていう目をしてるけど(笑)」
と、石毛がこの日の開場が遅れてしまったことによって寒い中をずっと並ぶことになってしまったのを心から詫びると、中盤で早くもかねてから告知されていた、ゲストを迎えるコーナーへ。まずはCHAIからマナ&カナがいつものように揃いのピンクの衣装を着て登場し、コラボ曲のMV撮影時の話で盛り上がるのだが、2人ともハンドマイクという状態なだけに、普段のライブとは違ってどちらがマナでどちらがカナなのかわからなくなってしまい、一卵性双生児の神秘を図らずも感じてしまう。
そうして披露された「Summer time chill out」は初日では打ち込みだったマナ&カナのパートを2人が体を左右に揃えて揺らしながら歌い、そこに石毛のハイトーンボイスが乗っかることで、完全に季節は夏に巻き戻る。それはハイテンションな夏ではなく、外に出る気もしないような気だるい夏の午後。マナ&カナの声はハイテンションな夏の曲でも全然歌える気がするが、こうしたサウンドの曲を歌うことによって2人の新しい面を見ることができる。2人にとってもこれは非常に大きな経験になるはずだし、CHAIの未来に繋がっていくと思う。
続いて石毛と汐碇がシンセを弾き、CHAIの時とは全く異なるドープな雰囲気の中で出番を終えたばかりのMONJOEがステージに登場し、「The light」を歌うのだが、曲途中ではこの曲のもう1人のコラボ者である、ラッパーの呂布もステージに現れてラップを披露。後半になるにつれてそのラップはどんどんフリースタイル的になっていくのだが、石毛輝のライブにラッパーが入るというのは初めてのことらしい。
ヒップホップなどのブラックミュージックにも造詣が深いとはいえ、確かに「バンド」という形態にこだわり続けてきただけに初めてというのは意外なようであり、そうだよな、とも思うのだが、これまでにもBase Ball Bearの曲などでロックバンドの中でもラップをしてきた呂布のキレ味と存在感は打ち込みとはやはり全く迫力が違う。そういう意味では新作のなかでは最もダウナーな曲ではあるが、ライブで1番化けたのはこの曲だと言えるかもしれない。
そして最後のコラボはやはりこの男、菅原卓郎。
「ずっと昔から一緒に遊んでたら、髪型まで似てきてしまった(笑)」
という通りに確かに石毛と卓郎の髪型はよく似ているが、そんな2人がデュエットする曲は
「偶然はいつでも必然」
という、バンドを続ける中で様々な困難や危機に直面してきた2人(プラス音源ではベボベ小出も)が歌うことでより一層言葉に意味が宿る「Everyone let's go」。
卓郎は
「俺が入った曲だけアルバムの中で暑苦しくない?(笑)」
と言っていたが、やはりそれは同年代の3人が揃うことで滲み出てしまうものであるし、それくらいにライブからそうした人間性を感じさせることができるミュージシャンたちであるということでもある。
こうしたコラボは話題性先行の戦略的なものだと捉われがちだが、Yap!!!のこのコラボにはそうした面を全く感じない。ただ自分たちがその人たちと音楽をやるとしたらどういうものが作れるか?という音楽家として純粋な衝動によって作られた曲たちである。
そもそもが戦略を重視するようなバンドやメンバーだったとしたら「the telephonesの石毛輝の新バンド!」的に大々的に大手メジャーで宣伝をガンガン打って売り出したり、石毛の幅広い交友関係を使ってアリーナやスタジアムクラスのバンドのゲストとして広い会場でライブをやるという手法もできたはずだが、一切そうしたことをせずに、新人バンドのように小さいライブハウスを廻るツアーを重ねるという地道な道をこのバンドは選んだ。
今やネットなどでバズらせてブレイクするというバンドが増えているし、時代性を考えたらそうしたことを考えられるようなバンドの方が売れる可能性は高いかもしれない。でもそうしたバンドはその方法論が古くなってしまった時に曲を聴き続けられるか?というと自信を持って首を縦には振れない。でもライブハウスでライブの力を磨き続けているバンドはずっとライブを見ていられるし、そこで鍛え上げられてきた曲たちは何年経ってもずっと聴いていられると思うし、the telephonesのラストパーティーの時に石毛が「どこまでも不器用な4人組」と自分たちを形容していたように、不器用だとしても戦略よりも、「この人たちは本当に音楽が大好きで仕方ないんだな」と思えるようなバンドが長く続けていられるようなシーンであって欲しい。自分はそういう感情や熱意を持ったバンドに影響を受けてこれまで生きてきたし、
「俺たちはオーディション番組とかじゃなくて、ライブハウスから出てきたバンドでいられて本当に良かったです」
と言っていた石毛の率いるYap!!!は間違いなくそうしたバンドだと思っているから。
ゲスト陣とのコラボが終わると、夢から現実に戻ったかのようにもなるが、まだまだ夢見心地なのはゲストがいない状態でも充分過ぎるほどのライブの力をこのバンドが持っているから。
歌詞に合わせて石毛が腕を振ったりすると観客もそれについていこうとする「Too Young for Love」は石毛がサビ以外ではほとんどギターを弾かず、汐碇と柿内のリズムのみが引っ張るのだが、それが成立するのは2人がグルーヴだけで曲を成立させることができるプレイヤーだからだし、石毛が曲中により自由になっているのはこの2人の演奏への絶大な信頼感があるからだと思う。やはりこの曲での汐碇のベースは本当にグルーヴィーで体も心も踊り出してしまう。
初日の観客の硬さはなんだったのか?と思ってしまうくらいの狂熱を生み出した「Dancing in Midnight」ではこのバンドが描き出したかった景色はこういうものだったんじゃないだろうか、とすら思え、ラストの「Wake me up!!!」ではその狂騒的なサウンドで観客の目をさらに覚ますとともに、Yap!!!というバンドがこのツアーでまさに目覚めたということを示し、演奏を終えたメンバーたちは実に充実したような表情でステージを去っていった。
アンコールではメンバーがツアーグッズに着替えて登場し、石毛が汐碇と柿内の2人をいじりながら、来年はthe telephonesがツアーを行ったりもするが、Yap!!!も今以上に精力的な活動を続けるということを告げると、大きな歓声が起こった。the telephonesが見れるのも嬉しいけれど、ここにいた人たちはみんなYap!!!というバンドの存在と音楽を心から愛していて、こうしてライブを観れるのを本当に楽しみにしている。卓郎も口にしていたが、メンバーの熱量や意気込みも、観客のバンドへの向き合い方も全くサイドプロジェクトのそれではない。ということは「the telephonesの石毛の新しいバンド」ではなくて、Yap!!!とthe telephonesは大谷翔平における二刀流のようなものだ。
MCが「長くなった」と言っていたのも、日本全国を回ったこのツアーが終わってしまうのが本当に名残惜しかったのだろう。それだけ実り多きツアーだったということが表情や言葉の端々から感じられた。
そして演奏されたのは来年のこのバンドの活動がさらに楽しみになる新曲。
「My name is ○○」
という歌い出しの叙情的な空気から、
「Life is short. No regret」
と喪失感を感じさせる歌詞でありながらもサウンドはYap!!!史上最高にポップなこの曲は北浦和での初日でも演奏されていたが、さらにポップさに磨きがかかり、より整理されたような印象を受けたのは自分がこの曲を聴くのが2回目だからというのもあるだろうけれど、毎回ツアーで演奏されたことによって細かい部分を改善したりアレンジしたりしてきたという要素も間違いなくあると思う。
そしてラストはこのバンドの中で最もスケールの大きなバラード曲「If I'm A Hero」。我々にとって間違いなくヒーローである石毛輝が歌う「もし僕がヒーローだったら」という独白。でもそれはこれまでに聴いたどんなライブよりも自信に満ちていた。音楽を作り、それを各地に住んでいる人に届けに行く。それがちゃんと届いている。これからも歌い続けていくことによって、石毛はこのYap!!!でも我々のヒーローになるはず。いや、この日の姿はまさにヒーローそのものだった。
もちろん素晴らしいライブだったんだけど、ただ「良いライブだった」っていうだけじゃなくて、バンドがツアーを回るというのはどういうことか、というのを示してくれたライブだった。それは自分が初日とファイナルを見に行ったことによって如実にそれを感じからかもしれないが、各地で様々なバンドやアーティストと共演してそこから刺激をもらい、自分たちがどんなライブをしていくべきかというのを毎回ライブごとに見つめ直して(スタッフと毎回ライブ後にミーティングという名の飲み会をしていたと語っていた)、それを次のライブに生かしていく。
その中でずっと一緒に生活をしていくメンバー同士の呼吸やグルーヴがさらに強固なものになっていく。石毛輝の音楽活動は必ず「この人と一緒にやる理由や必然」というものがあるが、始動して1年ちょっと経ったこの日のYap!!!のライブからはこのバンドがこのメンバーであることの理由と、その3人が同じ意志を持ち、同じ方向を見ていて、同じ歩幅で進化しているというものがわかるものだった。
石毛も
「またバンドが始まった時の楽しさを感じることができた、本当に良いツアーだった」
と振り返っていたが、石毛輝が新しいことに挑戦して、それが始まったばかりの0だった状態から石毛自身もバンドそのものも成長していく姿をこの目で見ることができる。そんなに幸せなことはないし、それはthe telephonesだけをやっていたら絶対に見ることができなかったものだ。ツアー初日のレポで自分は
「このバンドは間違いなくもっと強く、大きくなる」
と評したが、その確信がこれまでで最も大きくなった一夜だった。
1.Ahhh!!!
2.Story of a boring man
3.Kick the Door
4.Now or never
5.Summer time chill out feat. マナ&カナ(CHAI)
6.The light feat. MONJOE(DATS)&呂布
7.Everyone let's go feat. 菅原卓郎
8.Too Young for Love
9.Dancing in Midnight
10.Wake me up!!!
encore
11.新曲
12.If I'm A Hero
ここからは完全に余談的なものになるのだが、Yap!!!のメンバーの方々には毎回このライブのレポを見てもらっている。そうした中で初日のレポを見ていただいた後に石毛さんは
「このブログに本当に力をもらっている」
と言ってくれた。もしかしたら、初日の時点ではまだ不安もあったのかもしれないし、それまでに悔しい思いもしてきたのかもしれない。
でも自分は見てもらっているからといって、良くないものを無理矢理褒めちぎることはできないし、感じたことしか書けない。だからこうして「ライブが素晴らしかった」と書けるのは本心そのものだし、そのライブをしている姿からメンバーのいろんな感情や思いを感じるからこうして長々とレポを書くことができる。
だから「力をもらっている」のは本当にこっちなんですよ、と思っているし、そう言ってもらえるのは未だにちょっと現実なのかどうかわからなくなる時もあるんだけれど、まだ20歳過ぎの、the telephonesのライブに行きまくるようになった頃の自分に「今信じているものを信じ続けてれば必ず良いことがある」って言ってあげたい。
何よりも、自分は石毛輝という男の音楽に向き合う姿や姿勢から、本当に色々な力をもらってここまで生きてきた。石毛輝の今までの活動で知ったり出会えた音楽もたくさんあるし、新しいことや新しいものへのアンテナが鈍くなってしまうような年齢になっても、これまでと変わらず、いやこれまで以上にアンテナを研ぎ澄ましていたいと思えるのは、石毛輝が誰よりも熱心な音楽リスナーだからである。
「音楽は素晴らしい!」
と石毛は「If I'm A Hero」の最後のサビ前に叫んだが、それこそが自分が石毛輝という男から教わった、最も大事なことである。そしてこれからもずっとそう思っていられるような人生を、石毛輝の新しい音楽を聴きながら送っていきたいのである。
Next→ 12/15 サンボマスター @Zepp DiverCity
・キツネツキ
こちらは先月にツアーファイナルを迎えた、9mm Parabellum Bulletの菅原卓郎と滝善充によるユニット、キツネツキ。本隊である9mmが公式サイトにて謎のカウントダウンを始めるという動きも見せているが、来年はあまりライブをしない(9mmが15周年で忙しいから)と宣言しているだけに、ツアーが終わった今となっては貴重なライブと言っていいだろう。
この日はやたらと開場が遅れていた(19時に会場に着いたらようやく開場したタイミングだった)ので、19時15分くらいに場内が暗転すると、卓郎と滝の2人がステージに登場。「ふたりはサイコ」からボーカル&ギターとドラム(このバンドにおいては滝はドラマーである)というロックバンドの最小限編成だからこその爆音ロックンロールをぶっ放していくのだが、このSPACE ODDがクラブ的な作りだからか、サウンドも普段よりも滝のドラムの音が強く聞こえる。逆に卓郎のボーカルはかなり抑え目な印象だが、楽器自体の音は爆音と言っていいレベルである。
ツアーでは取り憑かれメンバーという名のサポートメンバーを加え、滝はドラムのみならずギターも弾いていたが、今回はひたすらに2人だけで爆音を鳴らしていく。
「過ぎ去っていった秋を偲んで」
と言って、完全に真冬に突入した都内で演奏された「小さい秋みつけた」からは童謡モードに。そこには9mmのメロディの大きな要素であり、また菅原卓郎のソロのテーマである「歌謡」というエッセンスを強く感じる。超爆音ではあれど。
するといつのまにかステージの卓郎と滝の間にはするっと石毛輝が現れる。
「大事なゲストを紹介しないっていうね(笑)」
と卓郎は確信犯的に呼び込まずにステージに登場させたことを明かすのだが、なんと石毛が手にしているのはギターではなくベース。ベースを弾くのを選んだ理由は
「いないから、ベースがいた方がいいかと思って」
という当たり前極まりないものであったが、これはめちゃくちゃレアな光景である。
「輝(卓郎は石毛のことを輝と呼ぶ)は俺たち同年代の中では1番多様性がある男で。みんなもそれはわかるでしょ?今日はそんな輝のパンクな一面を見てもらいたいと思います」
と卓郎は石毛について語っていたが、それはやはりthe telephonesから今に至るまでにずっと石毛輝のあらゆる音楽表現を見て、聴いてきた人だからこその評である。
そしてそんな多様性の中で今回選んだのは「パンク」ということで、「ケダモノダモノ」から石毛のベースを加えてさらにサウンドは激しさを増していくが、石毛はやはりベースも上手い。そもそもがソロではあらゆる楽器を駆使して音楽を作っているだけに、弾けるのは当たり前と言えば当たり前なのだが、音を聴いていると珍しい光景を見ているという違和感が全くないし、見事にキツネツキのツーピースだからこその音の隙間を埋めている。またこの2人と一緒に演奏できている(石毛は9mmのサポートギターも務めたことがある)喜びを演奏中の表情から感じるし、石毛とともにリズムを刻む滝はそれまでよりもさらに笑顔でドラムを叩いている。滝はステージ上では言葉で感情を表すことはしないが、その表情は何よりも楽しく感じていることを表している。
「バンド名を決める時に、ピエール中野氏に「キツネツキっていう名前は不吉だからやめた方がいい」って言われたんだけど、「じゃあ頭脳警察とか日本脳炎っていうバンド名はいいのか(ともに実在のバンド)」って思ったんだけど、本人にそれを言わないまま今に至ってます(笑)」
と、両者ともに仲のいいピエール中野の名前まで出てきて笑わせると、石毛がベースのみならずコーラスまでも務める「ハイカラちゃん」では卓郎が
「あなたのせいよ こうなったのは」
という歌詞を
「輝のせいよ こうなったのは」
と石毛を指差して歌う。この辺りのアドリブの強さは9mmのライブでも毎回その会場やイベントの名前を入れてきた卓郎ならではである。
そしてラストは卓郎とともに石毛もステージ前まで出てきてベースを弾きまくった爆裂インスト曲「CC Odoshi」。演奏が終わると仲良くステージを去る3人はまるでこのメンバーによるスリーピースバンドのようにすら見えた。
石毛輝はライブでベースを弾くのはこの日が初めてだという。(ドラムは高校生の時にBRAHMANのコピバンで叩いていたらしい)
その事実だけで本当に見れて良かったと思うし、このコラボからは両者の関係性の深さとともに、キツネツキというツーピースバンドだからこそのこれからの新たな可能性も感じさせた。
そりゃあ9mm本隊のライブが見たいけど、卓郎言うところの「サイドプロジェクト」のままではちょっと勿体なさすぎる気がする。
1.ふたりはサイコ
2.てんぐです
3.小さい秋みつけた
4.子ぎつね
5.証城寺の狸囃子
取り憑かれメンバー 石毛輝登場
6.ケダモノダモノ
7.かぞえうた
8.ハイカラちゃん
9.CC Odoshi
・DATS
転換中にメンバーがステージに出てきてセッティング&サウンドチェックを始めると、SEもなくいきなりステージが暗転し、ヘッドホンを装着した大井一彌(ドラム)のみならず、吉田巧(ギター)と早川知輝(ベース)の2人もそれぞれの楽器を背負ったままでフロアタムを連打するというオープニングで一気に観客を引き込んだ、DATS。
Yap!!!の「Bichrome」にも参加したMONJOEこと杉本亘(ボーカル&シンセ)がステージに現れると、吉田と早川はギターとベースを手にして「Mobile」で深淵なエレクトロサウンドが会場を包んで行く。
CDで聴いた時にはロックバンドというよりもダンスミュージックユニットというイメージが強かったのだが、ライブを見てみるとそれを覆すくらいにロックバンドのライブである。それは打ち込みの浮遊感あるサウンドとともにこのバンドの上物を担う吉田のギターからそう感じるのかもしれないが、それよりも早川のうねりまくるようなベースと、正確無比なリズムを刻みながらも実に力強い、コントロールがありながらも速球派的な大井のドラムから感じることなのかもしれない。
そしてそれはこの会場の音づくりに非常にマッチしており、リズムに合わせて体が動き出してしまう。そのリズムもこうしたダンスミュージックを主体にしたバンドにありがちなシンプルなものではなく、フレーズごとにリズムが変わるという、ノリづらそうなんだけど体が揺れるという絶妙なポイントを攻めている。
主に英語歌詞を歌いながらシンセや打ち込みを操るMONJOEは一見クールに見えるが、汗を流しながら歌う姿からはロックバンドの熱量を感じさせる。04 Limited Sazabysの主催フェスに呼ばれているのもこうした姿をいろんなバンドに見てもらっているからだろう。
日本語をメインにした新曲からは徐々にこのバンドの持つポップな面も顔を覗かせるのだが、コーラスを観客に委ねた「Heart」ではミラーボールが照明を反射しながら美しく輝き出し、ラストの「Message」ではオープニング同様に吉田と早川がタムを叩くと、MONJOEは自身の背後に置いてある「DATS」と書かれたバスドラを叩きまくるという、重低音にこだわりを持つバンドだからこそのパフォーマンスを見せ、
「たくさん新しい人と出会えた1年だった」
という通りにこの日も新しい人に強烈なインパクトを残した。
このバンドの音楽からはやはりどこか石毛輝の作ってきた音楽からの影響を感じさせるが、最も共通点を感じるのは、
「これからも新しいことにチャレンジするのを恐れずに音楽をやっていきたい」
という音楽に対する意志。それは石毛輝がこれまでの活動の中で示してきたことでもあるし、このDATSとともにyahyelというアウトプットも持つMONJOEの活動の仕方そのものでもある。
これまで決して熱心に聴いてきたバンドではないか、そういう部分がライブを見るとハッキリとわかるために、機会があればこれからもライブを見てみたいし、何よりもMONJOEが今の石毛くらいの年齢になった時にどんな音楽家になっているかを見てみたい。
・Yap!!!
そしてステージ背面のLEDビジョン(常設のものなのだろうか)にはYap!!!のバンドロゴが映し出され、サウンドチェックにメンバー自らが登場すると、石毛は9mmの「Discommunication」のイントロのギターを弾いたりというサービス精神を見せるが、弾いた後に恥ずかしくなったのか顔を抑える仕草をするのが面白い。
メンバー3人が本番でステージに登場すると、石毛とマグナムこと汐碇真也がシンセを弾くという、SE代わりの生演奏。これにはいきなり驚かされるというか、ツアー初日の北浦和の時はこんなことしてなかったはずだけどな?という部分からして、このツアーを回ってきて培ったものが形になって現れている。
初日では「If I'm A Hero」で叙情的に始まっていたが、この日のファイナルでは石毛のギターと汐碇のベースがユニゾンし、垣内宏介のパワー溢れるドラムもそのユニゾンに合わさる形のイントロの「Ahhh!!!」でスタート。個人的にこのイントロはものすごくテンションが上がるというか、息が合っている3人だからこそのダイナミズムを感じることができるので、「Monochrome」のオープニングナンバーということもあるが、ライブの1曲目にももってこいのキラーチューンだと思っている。
「Story of a boring man」では曲が終わったかと思いきや、アウトロにセッション的なアレンジが追加されていて、石毛はことあるごとにギターを抱えたままジャンプを連発する。その姿や歌唱時のいつにも増してハイテンションな歌い方なども含め、石毛のYap!!!のボーカリスト、フロントマンとしての技術や能力がさらにパワーアップしているのがすぐにわかる。ここに至るまでに様々な経験をしてきたのに、今になっても進化・成長しているというのはバンドというものはやはり生き物であり、限界のないものでもあるということを実感する。
そうしたツアーを回ってきてさらに強くなったバンドとしてのグルーヴや演奏はダイレクトに客席にも伝わっており、初日の北浦和でのまだ様子見的な雰囲気はこの日は一切なく、バンドの演奏が素晴らしくて、思わず体が踊り出してしまうというライブバンドとしての客席との化学反応がしっかりと起きていて、それが本当に楽しかった。今までのYap!!!のライブも素晴らしかったけど、楽しさという意味ではこの日が間違いなく最高を更新してくれた。
デビューミニアルバム収録の「Kick the Door」から「Now or never」へという流れはこのバンドのポップサイドと言ってもいい、華やかな打ち込みのサウンドが心地良い曲たちなのだが、「Now or never」での柿内のドラムの凄まじさの魂のこもりっぷりはその姿と音でなぜか泣けてきてしまうほど。石毛のギターも泣きのフレーズを奏でているというのもあると思うけれど、メンバー全員に確かな進化が見て取れるというのは本当に良いバンドになっていると思う。
「今日はリハが押して寒い中待たせてしまって本当に申し訳ない。でもスタッフはみんなオンタイムで始めようと頑張ってたので…みんな「殺すぞ」っていう目をしてるけど(笑)」
と、石毛がこの日の開場が遅れてしまったことによって寒い中をずっと並ぶことになってしまったのを心から詫びると、中盤で早くもかねてから告知されていた、ゲストを迎えるコーナーへ。まずはCHAIからマナ&カナがいつものように揃いのピンクの衣装を着て登場し、コラボ曲のMV撮影時の話で盛り上がるのだが、2人ともハンドマイクという状態なだけに、普段のライブとは違ってどちらがマナでどちらがカナなのかわからなくなってしまい、一卵性双生児の神秘を図らずも感じてしまう。
そうして披露された「Summer time chill out」は初日では打ち込みだったマナ&カナのパートを2人が体を左右に揃えて揺らしながら歌い、そこに石毛のハイトーンボイスが乗っかることで、完全に季節は夏に巻き戻る。それはハイテンションな夏ではなく、外に出る気もしないような気だるい夏の午後。マナ&カナの声はハイテンションな夏の曲でも全然歌える気がするが、こうしたサウンドの曲を歌うことによって2人の新しい面を見ることができる。2人にとってもこれは非常に大きな経験になるはずだし、CHAIの未来に繋がっていくと思う。
続いて石毛と汐碇がシンセを弾き、CHAIの時とは全く異なるドープな雰囲気の中で出番を終えたばかりのMONJOEがステージに登場し、「The light」を歌うのだが、曲途中ではこの曲のもう1人のコラボ者である、ラッパーの呂布もステージに現れてラップを披露。後半になるにつれてそのラップはどんどんフリースタイル的になっていくのだが、石毛輝のライブにラッパーが入るというのは初めてのことらしい。
ヒップホップなどのブラックミュージックにも造詣が深いとはいえ、確かに「バンド」という形態にこだわり続けてきただけに初めてというのは意外なようであり、そうだよな、とも思うのだが、これまでにもBase Ball Bearの曲などでロックバンドの中でもラップをしてきた呂布のキレ味と存在感は打ち込みとはやはり全く迫力が違う。そういう意味では新作のなかでは最もダウナーな曲ではあるが、ライブで1番化けたのはこの曲だと言えるかもしれない。
そして最後のコラボはやはりこの男、菅原卓郎。
「ずっと昔から一緒に遊んでたら、髪型まで似てきてしまった(笑)」
という通りに確かに石毛と卓郎の髪型はよく似ているが、そんな2人がデュエットする曲は
「偶然はいつでも必然」
という、バンドを続ける中で様々な困難や危機に直面してきた2人(プラス音源ではベボベ小出も)が歌うことでより一層言葉に意味が宿る「Everyone let's go」。
卓郎は
「俺が入った曲だけアルバムの中で暑苦しくない?(笑)」
と言っていたが、やはりそれは同年代の3人が揃うことで滲み出てしまうものであるし、それくらいにライブからそうした人間性を感じさせることができるミュージシャンたちであるということでもある。
こうしたコラボは話題性先行の戦略的なものだと捉われがちだが、Yap!!!のこのコラボにはそうした面を全く感じない。ただ自分たちがその人たちと音楽をやるとしたらどういうものが作れるか?という音楽家として純粋な衝動によって作られた曲たちである。
そもそもが戦略を重視するようなバンドやメンバーだったとしたら「the telephonesの石毛輝の新バンド!」的に大々的に大手メジャーで宣伝をガンガン打って売り出したり、石毛の幅広い交友関係を使ってアリーナやスタジアムクラスのバンドのゲストとして広い会場でライブをやるという手法もできたはずだが、一切そうしたことをせずに、新人バンドのように小さいライブハウスを廻るツアーを重ねるという地道な道をこのバンドは選んだ。
今やネットなどでバズらせてブレイクするというバンドが増えているし、時代性を考えたらそうしたことを考えられるようなバンドの方が売れる可能性は高いかもしれない。でもそうしたバンドはその方法論が古くなってしまった時に曲を聴き続けられるか?というと自信を持って首を縦には振れない。でもライブハウスでライブの力を磨き続けているバンドはずっとライブを見ていられるし、そこで鍛え上げられてきた曲たちは何年経ってもずっと聴いていられると思うし、the telephonesのラストパーティーの時に石毛が「どこまでも不器用な4人組」と自分たちを形容していたように、不器用だとしても戦略よりも、「この人たちは本当に音楽が大好きで仕方ないんだな」と思えるようなバンドが長く続けていられるようなシーンであって欲しい。自分はそういう感情や熱意を持ったバンドに影響を受けてこれまで生きてきたし、
「俺たちはオーディション番組とかじゃなくて、ライブハウスから出てきたバンドでいられて本当に良かったです」
と言っていた石毛の率いるYap!!!は間違いなくそうしたバンドだと思っているから。
ゲスト陣とのコラボが終わると、夢から現実に戻ったかのようにもなるが、まだまだ夢見心地なのはゲストがいない状態でも充分過ぎるほどのライブの力をこのバンドが持っているから。
歌詞に合わせて石毛が腕を振ったりすると観客もそれについていこうとする「Too Young for Love」は石毛がサビ以外ではほとんどギターを弾かず、汐碇と柿内のリズムのみが引っ張るのだが、それが成立するのは2人がグルーヴだけで曲を成立させることができるプレイヤーだからだし、石毛が曲中により自由になっているのはこの2人の演奏への絶大な信頼感があるからだと思う。やはりこの曲での汐碇のベースは本当にグルーヴィーで体も心も踊り出してしまう。
初日の観客の硬さはなんだったのか?と思ってしまうくらいの狂熱を生み出した「Dancing in Midnight」ではこのバンドが描き出したかった景色はこういうものだったんじゃないだろうか、とすら思え、ラストの「Wake me up!!!」ではその狂騒的なサウンドで観客の目をさらに覚ますとともに、Yap!!!というバンドがこのツアーでまさに目覚めたということを示し、演奏を終えたメンバーたちは実に充実したような表情でステージを去っていった。
アンコールではメンバーがツアーグッズに着替えて登場し、石毛が汐碇と柿内の2人をいじりながら、来年はthe telephonesがツアーを行ったりもするが、Yap!!!も今以上に精力的な活動を続けるということを告げると、大きな歓声が起こった。the telephonesが見れるのも嬉しいけれど、ここにいた人たちはみんなYap!!!というバンドの存在と音楽を心から愛していて、こうしてライブを観れるのを本当に楽しみにしている。卓郎も口にしていたが、メンバーの熱量や意気込みも、観客のバンドへの向き合い方も全くサイドプロジェクトのそれではない。ということは「the telephonesの石毛の新しいバンド」ではなくて、Yap!!!とthe telephonesは大谷翔平における二刀流のようなものだ。
MCが「長くなった」と言っていたのも、日本全国を回ったこのツアーが終わってしまうのが本当に名残惜しかったのだろう。それだけ実り多きツアーだったということが表情や言葉の端々から感じられた。
そして演奏されたのは来年のこのバンドの活動がさらに楽しみになる新曲。
「My name is ○○」
という歌い出しの叙情的な空気から、
「Life is short. No regret」
と喪失感を感じさせる歌詞でありながらもサウンドはYap!!!史上最高にポップなこの曲は北浦和での初日でも演奏されていたが、さらにポップさに磨きがかかり、より整理されたような印象を受けたのは自分がこの曲を聴くのが2回目だからというのもあるだろうけれど、毎回ツアーで演奏されたことによって細かい部分を改善したりアレンジしたりしてきたという要素も間違いなくあると思う。
そしてラストはこのバンドの中で最もスケールの大きなバラード曲「If I'm A Hero」。我々にとって間違いなくヒーローである石毛輝が歌う「もし僕がヒーローだったら」という独白。でもそれはこれまでに聴いたどんなライブよりも自信に満ちていた。音楽を作り、それを各地に住んでいる人に届けに行く。それがちゃんと届いている。これからも歌い続けていくことによって、石毛はこのYap!!!でも我々のヒーローになるはず。いや、この日の姿はまさにヒーローそのものだった。
もちろん素晴らしいライブだったんだけど、ただ「良いライブだった」っていうだけじゃなくて、バンドがツアーを回るというのはどういうことか、というのを示してくれたライブだった。それは自分が初日とファイナルを見に行ったことによって如実にそれを感じからかもしれないが、各地で様々なバンドやアーティストと共演してそこから刺激をもらい、自分たちがどんなライブをしていくべきかというのを毎回ライブごとに見つめ直して(スタッフと毎回ライブ後にミーティングという名の飲み会をしていたと語っていた)、それを次のライブに生かしていく。
その中でずっと一緒に生活をしていくメンバー同士の呼吸やグルーヴがさらに強固なものになっていく。石毛輝の音楽活動は必ず「この人と一緒にやる理由や必然」というものがあるが、始動して1年ちょっと経ったこの日のYap!!!のライブからはこのバンドがこのメンバーであることの理由と、その3人が同じ意志を持ち、同じ方向を見ていて、同じ歩幅で進化しているというものがわかるものだった。
石毛も
「またバンドが始まった時の楽しさを感じることができた、本当に良いツアーだった」
と振り返っていたが、石毛輝が新しいことに挑戦して、それが始まったばかりの0だった状態から石毛自身もバンドそのものも成長していく姿をこの目で見ることができる。そんなに幸せなことはないし、それはthe telephonesだけをやっていたら絶対に見ることができなかったものだ。ツアー初日のレポで自分は
「このバンドは間違いなくもっと強く、大きくなる」
と評したが、その確信がこれまでで最も大きくなった一夜だった。
1.Ahhh!!!
2.Story of a boring man
3.Kick the Door
4.Now or never
5.Summer time chill out feat. マナ&カナ(CHAI)
6.The light feat. MONJOE(DATS)&呂布
7.Everyone let's go feat. 菅原卓郎
8.Too Young for Love
9.Dancing in Midnight
10.Wake me up!!!
encore
11.新曲
12.If I'm A Hero
ここからは完全に余談的なものになるのだが、Yap!!!のメンバーの方々には毎回このライブのレポを見てもらっている。そうした中で初日のレポを見ていただいた後に石毛さんは
「このブログに本当に力をもらっている」
と言ってくれた。もしかしたら、初日の時点ではまだ不安もあったのかもしれないし、それまでに悔しい思いもしてきたのかもしれない。
でも自分は見てもらっているからといって、良くないものを無理矢理褒めちぎることはできないし、感じたことしか書けない。だからこうして「ライブが素晴らしかった」と書けるのは本心そのものだし、そのライブをしている姿からメンバーのいろんな感情や思いを感じるからこうして長々とレポを書くことができる。
だから「力をもらっている」のは本当にこっちなんですよ、と思っているし、そう言ってもらえるのは未だにちょっと現実なのかどうかわからなくなる時もあるんだけれど、まだ20歳過ぎの、the telephonesのライブに行きまくるようになった頃の自分に「今信じているものを信じ続けてれば必ず良いことがある」って言ってあげたい。
何よりも、自分は石毛輝という男の音楽に向き合う姿や姿勢から、本当に色々な力をもらってここまで生きてきた。石毛輝の今までの活動で知ったり出会えた音楽もたくさんあるし、新しいことや新しいものへのアンテナが鈍くなってしまうような年齢になっても、これまでと変わらず、いやこれまで以上にアンテナを研ぎ澄ましていたいと思えるのは、石毛輝が誰よりも熱心な音楽リスナーだからである。
「音楽は素晴らしい!」
と石毛は「If I'm A Hero」の最後のサビ前に叫んだが、それこそが自分が石毛輝という男から教わった、最も大事なことである。そしてこれからもずっとそう思っていられるような人生を、石毛輝の新しい音楽を聴きながら送っていきたいのである。
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