[ALEXANDROS] 「Sleepless in Japan Tour」 @Zepp Tokyo 12/11
- 2018/12/12
- 00:41
今年は夏に初のスタジアムライブを行い、また一つ上の段階へ進んだことを証明した、[ALEXANDROS]。
今年リリースされたシングル曲がリフを中心とした、海外を射程に入れたものであったためにアルバムは変化作になるだろうと予測されていたが、ついに先月リリースされたアルバム「Sleepless in Brooklyn」とそのツアーは我々にどんな景色を見せるのか。
ファンクラブ会員限定ライブに続くライブハウスツアーは先週の名古屋から始まり、2月まで続く。チケットは当然全公演ソールドアウトとなっているだけに、こうしてライブハウスで見れるというのは感謝でしかない。
ステージには背面に「Sleepless in Tokyo」というこの日ならではの文字がこのバンドの象徴とも言える[]に挟まれて記されているが、やはりライブハウスだからということか、一見シンプルなステージ作りに見える。
ビリー・ジョエル「Piano Man」がBGMとして場内に流れているのが後半に徐々に音が大きくなると、暗転してサポートキーボードのROSEを含めたメンバーが登場。川上洋平はジャケットから黒で統一され、白井は物販で売っている黒いパーカーを袖をまくって着用。サトヤスはいつものようにサングラスをかけてドレッドヘアだが、磯部が夏までの結わいていた長髪から、かつてのような真ん中で分ける髪型に戻っている。これは久しぶりに見る姿であるが、どことなく懐かしさとともに安心感も感じる。
暗闇を幻想的に青い照明が照らし、背面の文字が黄色く光ると、アルバム発売前からあらゆる場所で演奏されていただけに、新曲感が全くない「LAST MINUTE」の静謐なサウンドと川上のハイトーンボイスが会場を包んで行く。川上は最初はハンドマイクで歌い、途中からギターを弾きながら歌うというスタイルにチェンジするのだが、「Sleepless in Brooklyn」の1曲目を担っている曲とはいえ、ワンマンの1曲目にこうしたタイプの曲が来るというのは新鮮である。
しかしすぐさま川上がまたギターを置くと、白井のギターがきらめく「ワタリドリ」で川上も観客も飛び跳ねまくる。川上は歌詞に合わせて身振り手振りをしながら歌うのだが、
「あなたを踊らせたいから〜」
と歌詞をライブバージョンに変えることによって観客はより一層踊りまくる。2daysの2日目という状態でも川上のボーカルは全く不安定さがなく、むしろより仕上がっている感じすらするのは恐ろしさすら感じる。
サトヤスがエイトビートのドラムのイントロを刻み始め、ギターを手にした川上が
「ワン、ツー、スリー、フォー」
とカウントしたので、てっきり「Dracula La」かと思いきや、始まったのは「Famous Day」。しかしこの曲からは次々にダイバーが出現し、その様子がダイレクトに見えるというのがライブハウスならではの熱さに繋がっていく。川上はフェスなどでもダイバーが出ると嬉しそうな表情を浮かべるのだが、この日もそうしたバンドと観客の相互作用が確かに発生していた。
川上がマイクを離れて観客の大合唱を促す「Starrrrrrr」はもはやこのバンドの代表曲というよりも、日本のロックシーンにおけるアンセムと言ってもいいかのような風格を見せ、スタジアムワンマンで観客を驚愕させた磯部がパーカッションを叩くという新機軸を見せる「I Don't Believe In You」は今回のツアーでも健在。
白井が観客に「オイ!オイ!」というコールを煽りまくり、「全然足りない!」とばかりに首を横にブンブン振る横で川上がアコギのカッティングを刻む「Waitress,Waitress!」と、「LAST MINUTE」で始まった時は前半はそうしたムーディーな空気で進むのかと思っていたが、全く真逆だったし、この辺りはどれもライブでの定番曲にしてバンドの代表曲であるだけに、ついついアルバムのリリースツアーではなくてライブハウスでの特別なワンマンに来たかのように錯覚してしまう。
しかしここまで聴いていると、リズムの低音が実に強い。久しぶりにライブハウスで見るからそう感じるのか、音作りも変えているのか、とも思うが、それはタイトル通りにアルバムをアメリカで作り上げたことによる成果と言えるだろう。それくらい、特に磯部のベースは力強さと主張の強さを増していて、これまでよりも一層ロックバンドとしての強さと重さを感じさせる。
それは新作の中では最もこのバンドのイメージに近いサウンドの「spit!」においてもそうなのだが、「Cat2」ではさりげなくブレイクの瞬間を追加したりしながら、川上が
「あそこが反応しない」
とこの日は歌詞通りに歌いながらジャケットをめくって股間のあたりを強調すると、女性の観客からは悲鳴にも似たような歓声が上がる。男が見てもそう感じてしまうくらいにいちいちカッコいい男なだけに、そこに嫌味は一切感じない。やはりそれがロックスターたる所以だろうか。
そうして飛ばしまくった前半から一転して、音数を絞ったシンプルなリズムが昨今のアメリカのオルタナティブなR&Bからの影響を強く感じさせる「Come Closer」からはテンポチェンジ。しかしそれは聴かせるモードというよりはサウンド、特にリズムに浸らせるというイメージ。この辺りの曲のサウンドは今作のタームで得てきたもの(やはりアメリカに行ったことが大きかったのだろう)だが、そうした世界の音楽の最先端的な要素を取り入れても借り物感がまるでないというか、どっからどう聴いても[ALEXANDROS]のものにしか感じないその咀嚼力と消化、昇華の仕方はとてつもないものがある。そしてそれをライブで音源以上に表現できる技術と精神力の強さ。やはりこのバンドは全員が只者ではない。
川上がドラムセットの前に座って水を飲む間にセッション的なインストが差し込まれてから演奏された「PARTY IS OVER」で幕が閉じたような気分になったのも束の間、
「クリスマスソングを」
と言って演奏されたのはCMでも大量オンエアされた「SNOW SOUND」。もはや関東地方も暖冬とはいずこへ、というくらいに厳しい寒さに襲われているが、この曲を聴いているとそれもまた悪くないというか、雪が降っている景色を見たくなってくる。ライブハウスの中は一切の寒さを感じないくらいにTシャツを着た人ばかりという暑さと熱さであるが。
近年のこのバンドのライブはMCがほとんどなく、時間のある限りに曲を演奏するというスタイルなので(だからこそ持ち時間が短いフェスでは全く喋らないこともある)、実にテンポが良いし、曲と曲を繋ぐライブならではのアレンジも随所に見せるのだが、ここで川上が白井の着ているパーカーに触れ、まくっている袖を伸ばすよう促すと、ちょうど手首のあたりに[ALEXANDROS]という文字が出現。こうしてメンバー自らが着ていてその魅力を見せてくれると思わず買ってしまいたくなるが、川上は
「今日は白井君が脱ぐかもしれません。白井君の裸が見れるかどうかはみんなの熱気次第です」
と、パーカーのみならず衣服を全て脱がそうとする。白井は脱ぐ気がなさそうで、実際に最後までパーカーを着たままだったが。
小休止を挟むと、「なんだこの曲?」と思うようなセッションを展開してから、不穏なサウンドの「Kaiju」へ。川上はセッションしていた時は弾いていたギターを下ろしてハンドマイクで歌うのだから、曲中に磯部の方へ寄っていって肩を組んだりと実にご機嫌。それくらいにバンドの調子や状態がいいのが伝わってくる。
白井の重いギターのリフが会場を切り裂く「MILK」からは「KABUTO」とリフで持っていくシングル収録曲を連発するのだが、そもそもはスタジアムで鳴らされるのが最も似合うようなタイプの曲たちだと思っていたのが完全に曲のポテンシャルをナメていたというか、ライブハウスでもそのスケールの大きさを充分に感じさせ、アルバムの中で最もライブで化けたセクションだとすら思えた。
それを最も如実に感じたのは、白井の重厚なリフが鳴るイントロの間にサトヤスが仁王立ちして客席を眺める画が信じられないくらいにカッコよかったです「Mosquito Bite」。曲終わりでは川上、白井、磯部の3人が真ん中に集まって楽器を合わせるように音を鳴らす姿からも、この曲の真価がうかがえた。
こうしたリフ主体の曲やR&B的なサウンドの曲はきっとファンの中である程度好き嫌いが分かれるような曲だと思う。もっとメロディが立った曲や疾走感のある曲を聴きたいという人も少なからずいるはず。でもライブで観るとそんな意見を全て無効化するくらいにその場の全て、思考や感情の全てをかっさらっていってしまう。それはその音の全てにバンド、メンバーの意志が込められているからこそ。ただ上手かったり表現力があるだけでない、それがあるからこのバンドはライブという誤魔化しが一切きかない場所で勝ち上がってこれたのである。
アリーナやスタジアムでは花道を使って演奏されたのも記憶に新しい「Kick & Spin」はライブハウスならではの接近戦。それはバンドと観客でもそうだし、メンバー同士でもそう。だからこそ川上はハンドマイクで歌いながら白井に近づいてコーラス部分では白井にマイクを向けて叫ばせたり、演奏している磯部の肩に腕を回したりする。その度にやはり客席からは大きな歓声が上がるのだった。
まるで弾き語りのようにテンポを落とし、リズムもメロディに添えるだけというくらいにシンプルな形で、しかも全英語歌詞で歌われた「明日、また」のアレンジは、新作の特典にネタ明かし的なデモ音源も付いていたこのバンドの曲が生まれた形はこういうものなのかもしれない、とも思うし、その後に従来のアレンジで演奏されるからこそよりドラマチックに、祝祭感を増して聞こえてくる。このライブが終わってしまった後の明日さえも肯定できるかのように。
演出一切なしであるがゆえか、この曲でさえも!?と思うくらいにダイバーが続出した「ムーンソング」、川上が客席にマイクを向けると
「死んでたまるか」
のフレーズの大合唱が響き、その後の
「大声で歌って笑ってたまに泣いて」
という歌詞の通りに生きていきたいよな、とすらたった一瞬で思わされる、4つ打ち感が強くなってよりダンサブルなアレンジとなった「Run Away」と怒涛の連打っぷり。もはやこれは新作のリリースツアーというよりもこれまでの集大成であると言っても差し支えないような内容。
川上がアコギを手にすると、客席の上できらめくミラーボールとラテンテイストなサウンドが朝までバカ騒ぎした一夜を思い出させる「Fish Tacos Party」へ。感触としては「Waitress,Waitress!」にも似ているが、アルバム内に「PARTY IS OVER」も入っているだけに、いつかパーティーは終わってしまうということをわかっているかのような切なさも感じさせる。
そしてライブはクライマックスへ。そこを担うのは文句なしの大名曲「Your Song」、大合唱が起きた「Adventure」、そして「アルペジオ」という、メロディの良さが際立つ曲たち。しかもそのうちの2曲は新作に収録されているという事実が、どんなに新たな音楽的なトライアルを実践していても、[ALEXANDROS]の最も核の部分にあるのはメロディの良さなのだ、ということを知らしめてくる。そしてそれはこれからも一生変わることはないということも。
アンコールでは「Burger Queen」が流れてまたここからライブが始まるのか、という空気に満ちた中でそのまま「Burger Queen」を途中から演奏し、
「はじめまして![ALEXANDROS]です!」
とバンド名が[Champagne]から[Alexandros]に変わったことを発表した、初の日本武道館ワンマンの瞬間を彷彿とさせるように「Droshky!」のどう猛なサウンドがZeppを揺らしまくる。
すると川上が来年の春まで続くこのツアーを終えた後もライブをやりまくることを宣言。今年は夏フェスはある程度選んで出ていたような感じがしたが、来年はまたいつものようにいろんな場所でこのバンドのライブが見れそうだ。
そしてアメリカに行った時にサトヤスが着いた瞬間からアメリカ人に絡まれたりしまくってすぐに友達ができていた、というエピソードを話すと、デビュー時はダサかった3人をカッコよくしてくれたのはサトヤスである、とステージ上でサトヤスへの感謝を告げる。
川上がサトヤスを口説き落としてバンドに加入させたエピソードは有名だし、以前川上は
「バンドはドラムがしっかりしていればなんとかなる」
と言っていたが、それはサトヤスの凄さを最も良く知っているからだろう。実際に自分もサトヤスが加入する前の[Champagne]にはそこまで惹かれていなかった。それが一気に変わったのはサトヤスが入って「city」がリリースされた時。だからこそ川上はアコギで「city」のサビを弾き、観客に大合唱させてから「ハナウタ」を演奏するという形を取ってみせた。
なので「city」は今回はお預けか、と思っていたらきっちりその次に演奏された。しかも最後のサビ前にリフトしてダイブ待機する観客たちを見て、川上は本当に嬉しそうに
「お前たち最高だー!」
と叫んだ。ライブの楽しみ方は人それぞれだし、そこに正解はない。でもダイブしたりして楽しむような人たちも、メンバーにやる気がなかったり、演奏が酷いものだったら到底ダイブなんかする気にならないはず。でもこれだけ巨大な存在になったことでかつてライブハウスを生きる場所にしていた頃よりもはるかに客層は広がったにもかかわらず、その頃と同じようにダイバーが続出しているのは、バンドの演奏によって抑えきれない衝動がそうした楽しみ方として現れているから。だからこのバンドのライブで視界が遮られるくらいにダイバーがたくさんいても全く不快にならないどころか、そりゃあそうなるよなぁ、とすら思えてくる。
そしてラストは爽やかなイントロから一転、川上のマシンガンのような歌詞が放たれる「Don't Fuck With Yoohei Kawakami」。間奏では川上が教組を称える信者のように白井の方を向いて頭を下げると、手が攣るんじゃないかと思うくらいにギターを弾きまくった白井は、
「みんな!一緒に死んでくれぇぇぇ!!!」
と絶叫してマイクスタンドを蹴り倒し、ドラムセットから高くジャンプする。まるでダイバーが何も考えられなくなっているかのように、白井も衝動を炸裂させていた。
普段なら川上が最後までステージに残ってエフェクターを操作してから帰っていくのに、ほかのメンバーたちと同じタイミングでステージから去っていったので、珍しいな?と思っていたらやはり川上が1人でステージに再登場。しかしすぐ帰る素振りを見せたりして観客を煽ると、スタッフと何やら相談してからアコギを持ち、1人で歌いはじめたのは川上が敬愛するOasisの名曲「Wonderwall」。川上は割としょっちゅうOasisのカバーをやるので、リアム・ギャラガーのボーカルと比べても全く違和感がないが、途中で磯部を呼び出すと、まさか呼ばれるとは思っていなかったであろう磯部がダッシュでステージに戻ってきてコーラスとシェイカーで参加するという相棒っぷりを見せ、歌い終わると2人は肩を組んで笑顔を浮かべ、最後には川上の投げキス連発に女性だけでなく男も完全に、あなたの虜になってしまったのだった。
自分は[Champagne]時代からライブハウスでこのバンドがずっとライブをしてきたのを幸運なことに見てくることができたが、当時のまだライブハウスでしかライブができなかった頃と、今このバンドがライブハウスでライブをするのは同じようでいて全然違う。アリーナやスタジアムでやる時の演出や方法論を一切使っていないんだけど、アリーナやスタジアムでライブをしてきたからこその強さがライブハウスでもこれでもかというくらいに出ている。そもそもが29曲、2時間40分というボリュームはツアーの中のライブハウスの1公演ではまずありえない。普通のバンドなら初の武道館か初のアリーナでやるような内容である。それを2日連続でやっているというこのバンドの体力と努力はもはや我々凡人では理解できないレベルにまで到達してしまっている。
で、何よりもメンバーが楽しそうでしかないというのがまた凄いし、バンドには夢があるよなぁと思わせてくれる。そしてライブを観ると「Sleepless in Brooklyn」というアルバムが何倍にも増して素晴らしいものだというのがわかる。
[ALEXANDROS]は自分が好きなバンドの中でもトップクラスに「ステージ遠くてもいいからデカいとこで見たい」と思うバンドなのだが、それはそういう会場でのライブに特化しているのではなく、ライブハウスをはるかに凌駕するスケールと筋力を持ってるバンドだからというのが改めてわかった一夜となった。
「やっぱりライブハウスで見るこのバンドのライブは最高だな!」と思うのだけど、きっとアリーナワンマンを見たら「やっぱりアリーナがめちゃくちゃ似合うバンドだ!」と間違いなく思っているだろうな、ということが予見できるくらいに[ALEXANDROS]は最高を更新し続けている。こんなライブを見たらそりゃあSleeplessにもなるって。
1.LAST MINUTE
2.ワタリドリ
3.Famous Day
4.Starrrrrrr
5.I Don't Believe In You
6.Waitress,Waitress!
7.spit!
8.Cat2
9.Come Closer
10.PARTY IS OVER
11.SNOW SOUND
12.Kaiju
13.MILK
14.KABUTO
15.Mosquito Bite
16.Kick & Spin
17.明日、また
18.ムーンソング
19.Run Away
20.Fish Tacos Party
21.Your Song
22.Adventure
23.アルペジオ
encore
24.Burger Queen
25.Droshky!
26.ハナウタ
27.city
28.Don't Fuck With Yoohei Kawakami
encore2
29.Wonderwall
Mosquito Bite
https://youtu.be/hNHbnRVolPo
Next→ 12/14 Yap!!! × キツネツキ × DATS @渋谷SPACE ODD
今年リリースされたシングル曲がリフを中心とした、海外を射程に入れたものであったためにアルバムは変化作になるだろうと予測されていたが、ついに先月リリースされたアルバム「Sleepless in Brooklyn」とそのツアーは我々にどんな景色を見せるのか。
ファンクラブ会員限定ライブに続くライブハウスツアーは先週の名古屋から始まり、2月まで続く。チケットは当然全公演ソールドアウトとなっているだけに、こうしてライブハウスで見れるというのは感謝でしかない。
ステージには背面に「Sleepless in Tokyo」というこの日ならではの文字がこのバンドの象徴とも言える[]に挟まれて記されているが、やはりライブハウスだからということか、一見シンプルなステージ作りに見える。
ビリー・ジョエル「Piano Man」がBGMとして場内に流れているのが後半に徐々に音が大きくなると、暗転してサポートキーボードのROSEを含めたメンバーが登場。川上洋平はジャケットから黒で統一され、白井は物販で売っている黒いパーカーを袖をまくって着用。サトヤスはいつものようにサングラスをかけてドレッドヘアだが、磯部が夏までの結わいていた長髪から、かつてのような真ん中で分ける髪型に戻っている。これは久しぶりに見る姿であるが、どことなく懐かしさとともに安心感も感じる。
暗闇を幻想的に青い照明が照らし、背面の文字が黄色く光ると、アルバム発売前からあらゆる場所で演奏されていただけに、新曲感が全くない「LAST MINUTE」の静謐なサウンドと川上のハイトーンボイスが会場を包んで行く。川上は最初はハンドマイクで歌い、途中からギターを弾きながら歌うというスタイルにチェンジするのだが、「Sleepless in Brooklyn」の1曲目を担っている曲とはいえ、ワンマンの1曲目にこうしたタイプの曲が来るというのは新鮮である。
しかしすぐさま川上がまたギターを置くと、白井のギターがきらめく「ワタリドリ」で川上も観客も飛び跳ねまくる。川上は歌詞に合わせて身振り手振りをしながら歌うのだが、
「あなたを踊らせたいから〜」
と歌詞をライブバージョンに変えることによって観客はより一層踊りまくる。2daysの2日目という状態でも川上のボーカルは全く不安定さがなく、むしろより仕上がっている感じすらするのは恐ろしさすら感じる。
サトヤスがエイトビートのドラムのイントロを刻み始め、ギターを手にした川上が
「ワン、ツー、スリー、フォー」
とカウントしたので、てっきり「Dracula La」かと思いきや、始まったのは「Famous Day」。しかしこの曲からは次々にダイバーが出現し、その様子がダイレクトに見えるというのがライブハウスならではの熱さに繋がっていく。川上はフェスなどでもダイバーが出ると嬉しそうな表情を浮かべるのだが、この日もそうしたバンドと観客の相互作用が確かに発生していた。
川上がマイクを離れて観客の大合唱を促す「Starrrrrrr」はもはやこのバンドの代表曲というよりも、日本のロックシーンにおけるアンセムと言ってもいいかのような風格を見せ、スタジアムワンマンで観客を驚愕させた磯部がパーカッションを叩くという新機軸を見せる「I Don't Believe In You」は今回のツアーでも健在。
白井が観客に「オイ!オイ!」というコールを煽りまくり、「全然足りない!」とばかりに首を横にブンブン振る横で川上がアコギのカッティングを刻む「Waitress,Waitress!」と、「LAST MINUTE」で始まった時は前半はそうしたムーディーな空気で進むのかと思っていたが、全く真逆だったし、この辺りはどれもライブでの定番曲にしてバンドの代表曲であるだけに、ついついアルバムのリリースツアーではなくてライブハウスでの特別なワンマンに来たかのように錯覚してしまう。
しかしここまで聴いていると、リズムの低音が実に強い。久しぶりにライブハウスで見るからそう感じるのか、音作りも変えているのか、とも思うが、それはタイトル通りにアルバムをアメリカで作り上げたことによる成果と言えるだろう。それくらい、特に磯部のベースは力強さと主張の強さを増していて、これまでよりも一層ロックバンドとしての強さと重さを感じさせる。
それは新作の中では最もこのバンドのイメージに近いサウンドの「spit!」においてもそうなのだが、「Cat2」ではさりげなくブレイクの瞬間を追加したりしながら、川上が
「あそこが反応しない」
とこの日は歌詞通りに歌いながらジャケットをめくって股間のあたりを強調すると、女性の観客からは悲鳴にも似たような歓声が上がる。男が見てもそう感じてしまうくらいにいちいちカッコいい男なだけに、そこに嫌味は一切感じない。やはりそれがロックスターたる所以だろうか。
そうして飛ばしまくった前半から一転して、音数を絞ったシンプルなリズムが昨今のアメリカのオルタナティブなR&Bからの影響を強く感じさせる「Come Closer」からはテンポチェンジ。しかしそれは聴かせるモードというよりはサウンド、特にリズムに浸らせるというイメージ。この辺りの曲のサウンドは今作のタームで得てきたもの(やはりアメリカに行ったことが大きかったのだろう)だが、そうした世界の音楽の最先端的な要素を取り入れても借り物感がまるでないというか、どっからどう聴いても[ALEXANDROS]のものにしか感じないその咀嚼力と消化、昇華の仕方はとてつもないものがある。そしてそれをライブで音源以上に表現できる技術と精神力の強さ。やはりこのバンドは全員が只者ではない。
川上がドラムセットの前に座って水を飲む間にセッション的なインストが差し込まれてから演奏された「PARTY IS OVER」で幕が閉じたような気分になったのも束の間、
「クリスマスソングを」
と言って演奏されたのはCMでも大量オンエアされた「SNOW SOUND」。もはや関東地方も暖冬とはいずこへ、というくらいに厳しい寒さに襲われているが、この曲を聴いているとそれもまた悪くないというか、雪が降っている景色を見たくなってくる。ライブハウスの中は一切の寒さを感じないくらいにTシャツを着た人ばかりという暑さと熱さであるが。
近年のこのバンドのライブはMCがほとんどなく、時間のある限りに曲を演奏するというスタイルなので(だからこそ持ち時間が短いフェスでは全く喋らないこともある)、実にテンポが良いし、曲と曲を繋ぐライブならではのアレンジも随所に見せるのだが、ここで川上が白井の着ているパーカーに触れ、まくっている袖を伸ばすよう促すと、ちょうど手首のあたりに[ALEXANDROS]という文字が出現。こうしてメンバー自らが着ていてその魅力を見せてくれると思わず買ってしまいたくなるが、川上は
「今日は白井君が脱ぐかもしれません。白井君の裸が見れるかどうかはみんなの熱気次第です」
と、パーカーのみならず衣服を全て脱がそうとする。白井は脱ぐ気がなさそうで、実際に最後までパーカーを着たままだったが。
小休止を挟むと、「なんだこの曲?」と思うようなセッションを展開してから、不穏なサウンドの「Kaiju」へ。川上はセッションしていた時は弾いていたギターを下ろしてハンドマイクで歌うのだから、曲中に磯部の方へ寄っていって肩を組んだりと実にご機嫌。それくらいにバンドの調子や状態がいいのが伝わってくる。
白井の重いギターのリフが会場を切り裂く「MILK」からは「KABUTO」とリフで持っていくシングル収録曲を連発するのだが、そもそもはスタジアムで鳴らされるのが最も似合うようなタイプの曲たちだと思っていたのが完全に曲のポテンシャルをナメていたというか、ライブハウスでもそのスケールの大きさを充分に感じさせ、アルバムの中で最もライブで化けたセクションだとすら思えた。
それを最も如実に感じたのは、白井の重厚なリフが鳴るイントロの間にサトヤスが仁王立ちして客席を眺める画が信じられないくらいにカッコよかったです「Mosquito Bite」。曲終わりでは川上、白井、磯部の3人が真ん中に集まって楽器を合わせるように音を鳴らす姿からも、この曲の真価がうかがえた。
こうしたリフ主体の曲やR&B的なサウンドの曲はきっとファンの中である程度好き嫌いが分かれるような曲だと思う。もっとメロディが立った曲や疾走感のある曲を聴きたいという人も少なからずいるはず。でもライブで観るとそんな意見を全て無効化するくらいにその場の全て、思考や感情の全てをかっさらっていってしまう。それはその音の全てにバンド、メンバーの意志が込められているからこそ。ただ上手かったり表現力があるだけでない、それがあるからこのバンドはライブという誤魔化しが一切きかない場所で勝ち上がってこれたのである。
アリーナやスタジアムでは花道を使って演奏されたのも記憶に新しい「Kick & Spin」はライブハウスならではの接近戦。それはバンドと観客でもそうだし、メンバー同士でもそう。だからこそ川上はハンドマイクで歌いながら白井に近づいてコーラス部分では白井にマイクを向けて叫ばせたり、演奏している磯部の肩に腕を回したりする。その度にやはり客席からは大きな歓声が上がるのだった。
まるで弾き語りのようにテンポを落とし、リズムもメロディに添えるだけというくらいにシンプルな形で、しかも全英語歌詞で歌われた「明日、また」のアレンジは、新作の特典にネタ明かし的なデモ音源も付いていたこのバンドの曲が生まれた形はこういうものなのかもしれない、とも思うし、その後に従来のアレンジで演奏されるからこそよりドラマチックに、祝祭感を増して聞こえてくる。このライブが終わってしまった後の明日さえも肯定できるかのように。
演出一切なしであるがゆえか、この曲でさえも!?と思うくらいにダイバーが続出した「ムーンソング」、川上が客席にマイクを向けると
「死んでたまるか」
のフレーズの大合唱が響き、その後の
「大声で歌って笑ってたまに泣いて」
という歌詞の通りに生きていきたいよな、とすらたった一瞬で思わされる、4つ打ち感が強くなってよりダンサブルなアレンジとなった「Run Away」と怒涛の連打っぷり。もはやこれは新作のリリースツアーというよりもこれまでの集大成であると言っても差し支えないような内容。
川上がアコギを手にすると、客席の上できらめくミラーボールとラテンテイストなサウンドが朝までバカ騒ぎした一夜を思い出させる「Fish Tacos Party」へ。感触としては「Waitress,Waitress!」にも似ているが、アルバム内に「PARTY IS OVER」も入っているだけに、いつかパーティーは終わってしまうということをわかっているかのような切なさも感じさせる。
そしてライブはクライマックスへ。そこを担うのは文句なしの大名曲「Your Song」、大合唱が起きた「Adventure」、そして「アルペジオ」という、メロディの良さが際立つ曲たち。しかもそのうちの2曲は新作に収録されているという事実が、どんなに新たな音楽的なトライアルを実践していても、[ALEXANDROS]の最も核の部分にあるのはメロディの良さなのだ、ということを知らしめてくる。そしてそれはこれからも一生変わることはないということも。
アンコールでは「Burger Queen」が流れてまたここからライブが始まるのか、という空気に満ちた中でそのまま「Burger Queen」を途中から演奏し、
「はじめまして![ALEXANDROS]です!」
とバンド名が[Champagne]から[Alexandros]に変わったことを発表した、初の日本武道館ワンマンの瞬間を彷彿とさせるように「Droshky!」のどう猛なサウンドがZeppを揺らしまくる。
すると川上が来年の春まで続くこのツアーを終えた後もライブをやりまくることを宣言。今年は夏フェスはある程度選んで出ていたような感じがしたが、来年はまたいつものようにいろんな場所でこのバンドのライブが見れそうだ。
そしてアメリカに行った時にサトヤスが着いた瞬間からアメリカ人に絡まれたりしまくってすぐに友達ができていた、というエピソードを話すと、デビュー時はダサかった3人をカッコよくしてくれたのはサトヤスである、とステージ上でサトヤスへの感謝を告げる。
川上がサトヤスを口説き落としてバンドに加入させたエピソードは有名だし、以前川上は
「バンドはドラムがしっかりしていればなんとかなる」
と言っていたが、それはサトヤスの凄さを最も良く知っているからだろう。実際に自分もサトヤスが加入する前の[Champagne]にはそこまで惹かれていなかった。それが一気に変わったのはサトヤスが入って「city」がリリースされた時。だからこそ川上はアコギで「city」のサビを弾き、観客に大合唱させてから「ハナウタ」を演奏するという形を取ってみせた。
なので「city」は今回はお預けか、と思っていたらきっちりその次に演奏された。しかも最後のサビ前にリフトしてダイブ待機する観客たちを見て、川上は本当に嬉しそうに
「お前たち最高だー!」
と叫んだ。ライブの楽しみ方は人それぞれだし、そこに正解はない。でもダイブしたりして楽しむような人たちも、メンバーにやる気がなかったり、演奏が酷いものだったら到底ダイブなんかする気にならないはず。でもこれだけ巨大な存在になったことでかつてライブハウスを生きる場所にしていた頃よりもはるかに客層は広がったにもかかわらず、その頃と同じようにダイバーが続出しているのは、バンドの演奏によって抑えきれない衝動がそうした楽しみ方として現れているから。だからこのバンドのライブで視界が遮られるくらいにダイバーがたくさんいても全く不快にならないどころか、そりゃあそうなるよなぁ、とすら思えてくる。
そしてラストは爽やかなイントロから一転、川上のマシンガンのような歌詞が放たれる「Don't Fuck With Yoohei Kawakami」。間奏では川上が教組を称える信者のように白井の方を向いて頭を下げると、手が攣るんじゃないかと思うくらいにギターを弾きまくった白井は、
「みんな!一緒に死んでくれぇぇぇ!!!」
と絶叫してマイクスタンドを蹴り倒し、ドラムセットから高くジャンプする。まるでダイバーが何も考えられなくなっているかのように、白井も衝動を炸裂させていた。
普段なら川上が最後までステージに残ってエフェクターを操作してから帰っていくのに、ほかのメンバーたちと同じタイミングでステージから去っていったので、珍しいな?と思っていたらやはり川上が1人でステージに再登場。しかしすぐ帰る素振りを見せたりして観客を煽ると、スタッフと何やら相談してからアコギを持ち、1人で歌いはじめたのは川上が敬愛するOasisの名曲「Wonderwall」。川上は割としょっちゅうOasisのカバーをやるので、リアム・ギャラガーのボーカルと比べても全く違和感がないが、途中で磯部を呼び出すと、まさか呼ばれるとは思っていなかったであろう磯部がダッシュでステージに戻ってきてコーラスとシェイカーで参加するという相棒っぷりを見せ、歌い終わると2人は肩を組んで笑顔を浮かべ、最後には川上の投げキス連発に女性だけでなく男も完全に、あなたの虜になってしまったのだった。
自分は[Champagne]時代からライブハウスでこのバンドがずっとライブをしてきたのを幸運なことに見てくることができたが、当時のまだライブハウスでしかライブができなかった頃と、今このバンドがライブハウスでライブをするのは同じようでいて全然違う。アリーナやスタジアムでやる時の演出や方法論を一切使っていないんだけど、アリーナやスタジアムでライブをしてきたからこその強さがライブハウスでもこれでもかというくらいに出ている。そもそもが29曲、2時間40分というボリュームはツアーの中のライブハウスの1公演ではまずありえない。普通のバンドなら初の武道館か初のアリーナでやるような内容である。それを2日連続でやっているというこのバンドの体力と努力はもはや我々凡人では理解できないレベルにまで到達してしまっている。
で、何よりもメンバーが楽しそうでしかないというのがまた凄いし、バンドには夢があるよなぁと思わせてくれる。そしてライブを観ると「Sleepless in Brooklyn」というアルバムが何倍にも増して素晴らしいものだというのがわかる。
[ALEXANDROS]は自分が好きなバンドの中でもトップクラスに「ステージ遠くてもいいからデカいとこで見たい」と思うバンドなのだが、それはそういう会場でのライブに特化しているのではなく、ライブハウスをはるかに凌駕するスケールと筋力を持ってるバンドだからというのが改めてわかった一夜となった。
「やっぱりライブハウスで見るこのバンドのライブは最高だな!」と思うのだけど、きっとアリーナワンマンを見たら「やっぱりアリーナがめちゃくちゃ似合うバンドだ!」と間違いなく思っているだろうな、ということが予見できるくらいに[ALEXANDROS]は最高を更新し続けている。こんなライブを見たらそりゃあSleeplessにもなるって。
1.LAST MINUTE
2.ワタリドリ
3.Famous Day
4.Starrrrrrr
5.I Don't Believe In You
6.Waitress,Waitress!
7.spit!
8.Cat2
9.Come Closer
10.PARTY IS OVER
11.SNOW SOUND
12.Kaiju
13.MILK
14.KABUTO
15.Mosquito Bite
16.Kick & Spin
17.明日、また
18.ムーンソング
19.Run Away
20.Fish Tacos Party
21.Your Song
22.Adventure
23.アルペジオ
encore
24.Burger Queen
25.Droshky!
26.ハナウタ
27.city
28.Don't Fuck With Yoohei Kawakami
encore2
29.Wonderwall
Mosquito Bite
https://youtu.be/hNHbnRVolPo
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