the HIATUS Monochrome Film Tour 2018 @恵比寿ガーデンホール 11/27
- 2018/11/28
- 00:26
今年はELLEGARDENの復活というロックシーンの一大トピックを生み出した細美武士。
もちろんそれは細美だけの力によるものではなく、生形、高田、高橋のメンバー3人やONE OK ROCKのTakaの尽力という要素が大きかったわけだが、2008年にELLEGARDENが活動休止した後に細美のファーストアクションとして始動したthe HIATUSもツアーを開催。
昨年から新曲をライブで披露してはいるものの、リリースは2016年のアルバム「Hands Of Gravity」が最後となっており、次なるアクションが見えるライブになるのか、それともリリースが絡まないツアーということで幅広い曲が聴けるライブとなるのか。この日はツアーファイナルとなる恵比寿ガーデンホール2daysの初日となる。
そもそも恵比寿ガーデンプレイスの一角にあるという立地や内装のスーツ着た人が来るようなきらびやかな感じはTシャツを着てタオルを首に巻くというライブキッズの出で立ちが実に浮いてしまうような雰囲気だが、客席の中に足を踏み入れると、天井にはシャンデリアとそれを囲むような布が、ステージにも四隅に布で覆われた照明の塔と、中央にはロウソクまでもが飾り付けられており、フェスのCandle Juneが手掛けたステージみたいだな、と思っていたら、本当に装飾はCandle Juneの手によるものであった。
18:30を少し過ぎた頃、場内が暗転してメンバーが登場すると、それぞれの立ち位置がいつもとは違い、下手にキーボードの伊澤一葉、そこから順に細美武士、ウエノコウジ、柏倉隆史、masasucksと上手に向かっていく。つまり中央に細美ではなくてウエノという並び。これはブルーノートなどアコースティックでライブを行った時の立ち位置と同じであり、この段階でこのツアーが通常のものとは違うものになるということがわかる。
細美がシンセを操作してダークな電子音が会場に広がっていく「Roller Coaster Ride Memories」からスタートするというのもまた今までにはない立ち上がりであるが、メンバー背面いっぱいのスクリーンにはメンバーが演奏する姿がまるでモノクロのフィルムを写しているかのように映し出される。それも全体を捉えるというモニターとしての役割というよりも、メンバーを至近距離で写すのをスイッチしていくというそれぞれの演奏中の肖像を重ねていくというもので、その姿から連想されるのは3rdアルバム「A World Of Pandemonium」リリース後の2012年に行われた、バンド初のホールツアーである「The Afterglow Tour」。それまではひたすらにライブハウスにこだわり続けてきたように見えた細美武士がなぜホールでライブをすることを選んだのか、という理由があのツアーのバンドの演奏と演出からはハッキリと伺えたが、この段階でこのツアーもそうしたものである予感が溢れている。
それまではハンドマイクで歌っていた細美が「Thirst」の1コーラス目を歌うと腕を高く掲げて観客に挨拶し、最後のフレーズを歌うタイミングでアコギを手にすると、打ち込みのサウンドとアコギを中心としたオーガニックなサウンドが溶け合っていく「Shimmer」へ。さらにまだ関東地方では雪こそ降っていないが、この季節が似合う曲である「Snowflakes」ではメンバーの演奏する姿に雪が舞い散るようなエフェクトが施されている。これは細美が後で言っていたことでもあるが、録画ではなくリアルタイムの演奏にVJがエフェクトを追加しているという。それゆえに演奏している姿と映し出される姿に若干の誤差が発生してしまうらしいが。
細美は高音部分こそ時折キツそうかつ、音程を取るのに苦慮しているような感じも受けたが、じわじわと温度が高まっていく「Clone」からバンドのサウンドはさらに白熱を増していく。
そんな中でも細美が今回のライブの内容について話していると、客席にいる赤ん坊が泣き出してしまい、その声が響いてしまったのだが、
「the LOW-ATUSの時もそうだけど、俺が喋りはじめると赤ん坊が泣き出すんだよなぁ(笑)何か邪悪なものを声から感じ取っているのか(笑)」
と細美が笑い話にしてくれたことで、そうした泣き声を不快に感じるような人の気持ちを和らげ、そうした子供や連れてきた親も一切否定しないという懐の深さを感じさせた。
「Snowflakes」とは真逆に炎が燃え上がるような赤いエフェクトが施された「Let Me Fall」と続くと、柏倉の「これはどうやったらこんなリズムが生まれるのか、そもそもどうやったらこんなにも複雑なリズムを叩けるのか」というドラムがより一層の凄みを増すのが「Twisted Maple Tree」。そんなに盛り上がるようなタイプの曲では全くないのだが、アウトロのセッションと言ってもいいくらいの凄まじい演奏と、それを引っ張る柏倉のドラム(まさに雷様と言っていい表情)に、曲が終わると次の曲に至るまでのわずかな時間、もうこの曲でライブが終わったのかと錯覚してしまうくらいの大きな拍手が「Sunset Off The Coastline」のイントロが始まる寸前まで、本当に長く続いていた。音で感情を揺さぶられるとはまさにこの瞬間のようなことを言うんじゃないだろうか。
「石の上にも10年。来年で俺たち10周年を迎えます。愛だの恋だのを歌いたいわけじゃない。速ければロックなのか?ギターが歪んでいればロックなのか?というのを問い続けて9年。2年目に出したシングルのタイトルは「不眠症」(Insomnia)でした(笑)
そんな俺たちをずっと応援し続けてくれて本当にありがとう!」
とこうしてずっとライブに来てくれる観客への感謝を告げた細美のボーカルと伊澤のピアノのみから徐々にメンバーの音が重なっていくというスタイルにそれぞれのメンバーの音の記名性の高さと説得力の強さを感じさせる「Tree Rings」、さらには「Notes Of Remembrance」とやはりこの日はいわゆる定番というような、フェスなどで毎回演奏されるような曲は全くやらないという、the HIATUSのオルタナティブさ、先進性をこれでもかと感じさせるような選曲。東京以外の会場が全て指定席の会場だったというのも納得である。
浮遊感のあるサウンドに合わせて細美が気持ち良さそうに揺れながら歌う「Something Ever After」を演奏すると、前髪のみを切ったのか、伊澤に「髪型が可愛い」といじられたmasasucksがツアー前に肋骨を骨折したことを話し始めるのだが、それはBRAHMANのTOSHI-LOWと「男のボディーブロー合戦」をしていたら折れた、というもので一方的に殴られたりボコされたりしたわけではないというのがわかるくらいにネタ的に話すのだが、この日はそのTOSHI-LOWがライブを見に来ており、
「ごめーん!」
と2階席からTOSHI-LOWの声が響くと場内は爆笑。
細美がそのTOSHI-LOWと深い関係になったのは2011年の東日本大震災以降である、というのはよく語られているとおりであるが、
「こうして深い関係になれたっていうことは、何かあったんだと思うよ、前世とかでも。こうして来てくれるお前らもそう。ありがとう!」
と、我々がこうしてthe HIATUSの音楽を求め続け、ライブに行き続けているのは偶然でも、ましてや惰性でもなくて、何かしらの必然であり運命なんじゃないか、とすら思えてくるような気持ちにさせると、細美がアコギで弾き語りのようにして
「がれきの海で夢を見ていた」
という、曲がリリースされたのは震災前であるが、これほどまでに震災が起こること、
「ただ少し笑って ただ少し叫んで ただ少し重ねて ただ少し抱き合って
ただ少し許して ただ少し焦がして ただ少しやさしく 夜が明ける」
とそこからみんなで少しずつでも前に進もうとすることを言い当ててしまった「西門の昧爽」を聞くと、細美のスピチュアルに感じるような発言も真実のように思えてくる。それは細美本人が震災後に行ってきた活動などによる説得力がもたらすものでもあるが、アコースティックバージョンと言ってもいいこの曲のサウンドは原曲よりもさらに優しさを感じさせた。
アウトロで激しくそれぞれの音がぶつかり合いながらも調和していく「Walking Like A Man」、一転して柔らかくて温かい音像の「 Catch You Later」と終盤でも通常のツアーのように激しい曲でぶち上げるというようなことはせずに、ひたすらじっくりと丁寧に、でも熱量が迸っているという演奏を続けると、細美がシャドーボクシングのような動きすらも見せながら飛び跳ねて歌う「Waiting For The Sun」から、ラストは細美の熱唱が響き渡る「Burn To Shine」で静かに、しかし確かにバンドの演奏も観客も燃え上がっていた。
今や誰もが認めざるを得ない細美のボーカルの凄さが最もわかるのは個人的にはthe HIATUSの時だと思っている。この日はライブのコンセプトや楽曲のアレンジからその圧倒的な歌唱力をぶつける、というものではなかったが、本編最後のこの曲の時には確かにその感覚を味わうことができた。この演奏ができるメンバーに負けないような歌声を持つのはやはり細美しかいないと思う。
アンコールで再びメンバーが登場すると、細美がサビで観客の合唱を促す「Radio」で、細美が酔っ払っているという(ライブ中にワインを飲んでいた)状態だからか、本編の演奏中の集中力の高さと比べるとより一層親密というか、距離を近く感じる。
「新曲っていうか、去年からやってる曲なんだけど、去年のCOUNTDOWN JAPANでもやって。人間はもともと赤道の近くにしか住んでなくて、そこには鬱蒼と生い茂る緑の木々とか、姿を隠す気が一切ないような派手な色の鳥がいたりして。そういう風に人間がそもそも見ていた景色は極彩色なんじゃないか、って思って「極彩色の人生=Life In Technicolor」っていう曲を作った、ってドヤ顔で言ったんだけど、そしたらラジオとかに「coldplayに同じタイトルの曲がありますよ」っていう声がいっぱい届いて(笑)
まぁcoldplayのパクりじゃねぇし、2年目に「不眠症」ってタイトルの曲で「助けてくれ」って歌ってたバンドが「極彩色の人生」って歌うようになったんだぜ!?」
と曲の説明をしてから映し出されるメンバーの姿がまさに極彩色のようにサーモグラフィー的に加工される中で演奏された「Life In Technicolor」は確かに去年からライブで演奏していた曲ではあるが、このライブだからなのかより一層ジャズの要素が強くなっているイメージ。また、来年が10周年ということでアルバムを作るとのことらしいが、ミニアルバムになるかもしれないし、シングルになるかもしれないし、1曲だけ配信になるかもしれないという。早くこの曲をいつでも聴けるようになりたいものであるが。
客電が点いてもアンコールを求める声は止まず、さらにメンバーがステージへ。
「ホールツアーでオーケストラと一緒にやったのが良かったからまたやってください!みたいに言われることがあるんだけど、俺たちが変えられるのは未来だけ。過去は変えられない。だから一回やったことと同じことはやらない。それは今回もそう」
と、これだけの完成度を見せたライブですらももう同じことはやらないと宣言したのだが、この言葉こそがthe HIATUSというバンドがどういうバンドなのかというのを最もよく表している。だからこのバンドはアルバムを出すたびにガラッと変わる。同じことをやるのならこのメンバーでバンドをやる意味がないから。もっと頭に浮かんだことや、このメンバーならこういうことができる、ということをやり続ける。それが求められていようとなかろうと。いや、細美が歌ってこのメンバーが演奏すればどんなに先鋭的なものであってもこうして求める人はたくさんいるのだ。だから細美は最後に
「昔、よく同じ夢を見ていた。大きな神殿みたいな会場でライブをやってるんだけど、やってるうちにどんどん人がいなくなっていって、しまいには俺たちだけになっている。でもこの4年くらいかな?そんな夢は全く見なくなりました!」
と言った。深く、強く結びついている人たちがちゃんといるということをわかっているから。ELLEGARDENのボーカルのバンドではなく、ひたすらに自分のやりたい音楽を追求するthe HIATUSのバンドのボーカルとして自分を見てくれている人がいるのをわかっているから。
だから最後に演奏された「不眠症」こと「Insomnia」は、不眠症の真っ只中で助けを求めて絶唱するのではなくて、不眠症が治ったあとに当時はこういう感じだったよな〜と回想しているかのような温もりがあった。それは演奏のアレンジによるものでもあり、細美の歌い方によるものでもあり、そしてこの会場の空気によるものでもあり。ふと2階席を見上げると、TOSHI-LOWやスコット・マーフィーが立ち上がってライブを見ていた。かつて助けを求めていた細美武士は、今はこんなに頼りになる仲間たちに囲まれている。やっぱりもう不眠症ではないのだ。
MCで細美はこの会場でライブをやることにした理由を
「ほかの会場が取れなかったから」
と言っていたが、それは本気でもあり、半分冗談でもあると思う。
実際、自分もライブを見るまでは「こんなにオシャレなところじゃなくて、いつもみたいに新木場でいいじゃん」と思っていた。しかし今回のツアースケジュールに並んだ、見慣れない会場の名前の数々。この恵比寿ガーデンホールを含め、そうした会場を選んだ意味が、ライブを見ればすぐにわかった。同じことはやらないけれど、これからthe HIATUSはこうした方向に進化していくのかもしれないと思うし、数えきれないくらいのフォロワーを生んだELLEGARDENとは異なり、誰も真似することすらできないというか、真似しようとも思えないような芸術と言える音楽の境地に達している。
「The Flare」も「The Ivy」も「べテルギウスの灯を」も「紺碧の夜に」も「Silver Birch」もない、だから暴れたりはしゃいだりという楽しみ方は一切できなかったけれど、それでも満足度しか残っていない。きっともう見ることができないライブであるだけに、この日の一瞬一瞬全てをモノクロのフィルムにして脳内に焼き付けておきたいと思う一夜だった。
ELLEGARDENに涙し、MONOEYESに燃え、そしてthe HIATUSで今まで経験したことのないことを経験したり、見たことがないものを見れる。それらを1年の内に全て見ることができる。こんなに幸せなことがほかにあるのだろうかと思うし、細美武士の音楽に出会ってからこんなに楽しい一年があっただろうか。
1.Roller Coaster Ride Memories
2.Thirst
3.Shimmer
4.Snowflakes
5.Clone
6.Let Me Fall
7.Twisted Maple Trees
8.Sunset Off The Coastline
9.Tree Rings
10.Notes of Remembrance
11.Something Ever After
12.西門の昧爽
13.Walking Like A Man
14.Catch You Later
15.Waiting For The Sun
16.Burn To Shine
encore
17.Radio
18.Life In Technicolor
encore2
19.Insomnia
https://youtu.be/h9aLBoHFeOQ
Next→ 12/1 THE PINBALLS @青山月見ル君想フ
もちろんそれは細美だけの力によるものではなく、生形、高田、高橋のメンバー3人やONE OK ROCKのTakaの尽力という要素が大きかったわけだが、2008年にELLEGARDENが活動休止した後に細美のファーストアクションとして始動したthe HIATUSもツアーを開催。
昨年から新曲をライブで披露してはいるものの、リリースは2016年のアルバム「Hands Of Gravity」が最後となっており、次なるアクションが見えるライブになるのか、それともリリースが絡まないツアーということで幅広い曲が聴けるライブとなるのか。この日はツアーファイナルとなる恵比寿ガーデンホール2daysの初日となる。
そもそも恵比寿ガーデンプレイスの一角にあるという立地や内装のスーツ着た人が来るようなきらびやかな感じはTシャツを着てタオルを首に巻くというライブキッズの出で立ちが実に浮いてしまうような雰囲気だが、客席の中に足を踏み入れると、天井にはシャンデリアとそれを囲むような布が、ステージにも四隅に布で覆われた照明の塔と、中央にはロウソクまでもが飾り付けられており、フェスのCandle Juneが手掛けたステージみたいだな、と思っていたら、本当に装飾はCandle Juneの手によるものであった。
18:30を少し過ぎた頃、場内が暗転してメンバーが登場すると、それぞれの立ち位置がいつもとは違い、下手にキーボードの伊澤一葉、そこから順に細美武士、ウエノコウジ、柏倉隆史、masasucksと上手に向かっていく。つまり中央に細美ではなくてウエノという並び。これはブルーノートなどアコースティックでライブを行った時の立ち位置と同じであり、この段階でこのツアーが通常のものとは違うものになるということがわかる。
細美がシンセを操作してダークな電子音が会場に広がっていく「Roller Coaster Ride Memories」からスタートするというのもまた今までにはない立ち上がりであるが、メンバー背面いっぱいのスクリーンにはメンバーが演奏する姿がまるでモノクロのフィルムを写しているかのように映し出される。それも全体を捉えるというモニターとしての役割というよりも、メンバーを至近距離で写すのをスイッチしていくというそれぞれの演奏中の肖像を重ねていくというもので、その姿から連想されるのは3rdアルバム「A World Of Pandemonium」リリース後の2012年に行われた、バンド初のホールツアーである「The Afterglow Tour」。それまではひたすらにライブハウスにこだわり続けてきたように見えた細美武士がなぜホールでライブをすることを選んだのか、という理由があのツアーのバンドの演奏と演出からはハッキリと伺えたが、この段階でこのツアーもそうしたものである予感が溢れている。
それまではハンドマイクで歌っていた細美が「Thirst」の1コーラス目を歌うと腕を高く掲げて観客に挨拶し、最後のフレーズを歌うタイミングでアコギを手にすると、打ち込みのサウンドとアコギを中心としたオーガニックなサウンドが溶け合っていく「Shimmer」へ。さらにまだ関東地方では雪こそ降っていないが、この季節が似合う曲である「Snowflakes」ではメンバーの演奏する姿に雪が舞い散るようなエフェクトが施されている。これは細美が後で言っていたことでもあるが、録画ではなくリアルタイムの演奏にVJがエフェクトを追加しているという。それゆえに演奏している姿と映し出される姿に若干の誤差が発生してしまうらしいが。
細美は高音部分こそ時折キツそうかつ、音程を取るのに苦慮しているような感じも受けたが、じわじわと温度が高まっていく「Clone」からバンドのサウンドはさらに白熱を増していく。
そんな中でも細美が今回のライブの内容について話していると、客席にいる赤ん坊が泣き出してしまい、その声が響いてしまったのだが、
「the LOW-ATUSの時もそうだけど、俺が喋りはじめると赤ん坊が泣き出すんだよなぁ(笑)何か邪悪なものを声から感じ取っているのか(笑)」
と細美が笑い話にしてくれたことで、そうした泣き声を不快に感じるような人の気持ちを和らげ、そうした子供や連れてきた親も一切否定しないという懐の深さを感じさせた。
「Snowflakes」とは真逆に炎が燃え上がるような赤いエフェクトが施された「Let Me Fall」と続くと、柏倉の「これはどうやったらこんなリズムが生まれるのか、そもそもどうやったらこんなにも複雑なリズムを叩けるのか」というドラムがより一層の凄みを増すのが「Twisted Maple Tree」。そんなに盛り上がるようなタイプの曲では全くないのだが、アウトロのセッションと言ってもいいくらいの凄まじい演奏と、それを引っ張る柏倉のドラム(まさに雷様と言っていい表情)に、曲が終わると次の曲に至るまでのわずかな時間、もうこの曲でライブが終わったのかと錯覚してしまうくらいの大きな拍手が「Sunset Off The Coastline」のイントロが始まる寸前まで、本当に長く続いていた。音で感情を揺さぶられるとはまさにこの瞬間のようなことを言うんじゃないだろうか。
「石の上にも10年。来年で俺たち10周年を迎えます。愛だの恋だのを歌いたいわけじゃない。速ければロックなのか?ギターが歪んでいればロックなのか?というのを問い続けて9年。2年目に出したシングルのタイトルは「不眠症」(Insomnia)でした(笑)
そんな俺たちをずっと応援し続けてくれて本当にありがとう!」
とこうしてずっとライブに来てくれる観客への感謝を告げた細美のボーカルと伊澤のピアノのみから徐々にメンバーの音が重なっていくというスタイルにそれぞれのメンバーの音の記名性の高さと説得力の強さを感じさせる「Tree Rings」、さらには「Notes Of Remembrance」とやはりこの日はいわゆる定番というような、フェスなどで毎回演奏されるような曲は全くやらないという、the HIATUSのオルタナティブさ、先進性をこれでもかと感じさせるような選曲。東京以外の会場が全て指定席の会場だったというのも納得である。
浮遊感のあるサウンドに合わせて細美が気持ち良さそうに揺れながら歌う「Something Ever After」を演奏すると、前髪のみを切ったのか、伊澤に「髪型が可愛い」といじられたmasasucksがツアー前に肋骨を骨折したことを話し始めるのだが、それはBRAHMANのTOSHI-LOWと「男のボディーブロー合戦」をしていたら折れた、というもので一方的に殴られたりボコされたりしたわけではないというのがわかるくらいにネタ的に話すのだが、この日はそのTOSHI-LOWがライブを見に来ており、
「ごめーん!」
と2階席からTOSHI-LOWの声が響くと場内は爆笑。
細美がそのTOSHI-LOWと深い関係になったのは2011年の東日本大震災以降である、というのはよく語られているとおりであるが、
「こうして深い関係になれたっていうことは、何かあったんだと思うよ、前世とかでも。こうして来てくれるお前らもそう。ありがとう!」
と、我々がこうしてthe HIATUSの音楽を求め続け、ライブに行き続けているのは偶然でも、ましてや惰性でもなくて、何かしらの必然であり運命なんじゃないか、とすら思えてくるような気持ちにさせると、細美がアコギで弾き語りのようにして
「がれきの海で夢を見ていた」
という、曲がリリースされたのは震災前であるが、これほどまでに震災が起こること、
「ただ少し笑って ただ少し叫んで ただ少し重ねて ただ少し抱き合って
ただ少し許して ただ少し焦がして ただ少しやさしく 夜が明ける」
とそこからみんなで少しずつでも前に進もうとすることを言い当ててしまった「西門の昧爽」を聞くと、細美のスピチュアルに感じるような発言も真実のように思えてくる。それは細美本人が震災後に行ってきた活動などによる説得力がもたらすものでもあるが、アコースティックバージョンと言ってもいいこの曲のサウンドは原曲よりもさらに優しさを感じさせた。
アウトロで激しくそれぞれの音がぶつかり合いながらも調和していく「Walking Like A Man」、一転して柔らかくて温かい音像の「 Catch You Later」と終盤でも通常のツアーのように激しい曲でぶち上げるというようなことはせずに、ひたすらじっくりと丁寧に、でも熱量が迸っているという演奏を続けると、細美がシャドーボクシングのような動きすらも見せながら飛び跳ねて歌う「Waiting For The Sun」から、ラストは細美の熱唱が響き渡る「Burn To Shine」で静かに、しかし確かにバンドの演奏も観客も燃え上がっていた。
今や誰もが認めざるを得ない細美のボーカルの凄さが最もわかるのは個人的にはthe HIATUSの時だと思っている。この日はライブのコンセプトや楽曲のアレンジからその圧倒的な歌唱力をぶつける、というものではなかったが、本編最後のこの曲の時には確かにその感覚を味わうことができた。この演奏ができるメンバーに負けないような歌声を持つのはやはり細美しかいないと思う。
アンコールで再びメンバーが登場すると、細美がサビで観客の合唱を促す「Radio」で、細美が酔っ払っているという(ライブ中にワインを飲んでいた)状態だからか、本編の演奏中の集中力の高さと比べるとより一層親密というか、距離を近く感じる。
「新曲っていうか、去年からやってる曲なんだけど、去年のCOUNTDOWN JAPANでもやって。人間はもともと赤道の近くにしか住んでなくて、そこには鬱蒼と生い茂る緑の木々とか、姿を隠す気が一切ないような派手な色の鳥がいたりして。そういう風に人間がそもそも見ていた景色は極彩色なんじゃないか、って思って「極彩色の人生=Life In Technicolor」っていう曲を作った、ってドヤ顔で言ったんだけど、そしたらラジオとかに「coldplayに同じタイトルの曲がありますよ」っていう声がいっぱい届いて(笑)
まぁcoldplayのパクりじゃねぇし、2年目に「不眠症」ってタイトルの曲で「助けてくれ」って歌ってたバンドが「極彩色の人生」って歌うようになったんだぜ!?」
と曲の説明をしてから映し出されるメンバーの姿がまさに極彩色のようにサーモグラフィー的に加工される中で演奏された「Life In Technicolor」は確かに去年からライブで演奏していた曲ではあるが、このライブだからなのかより一層ジャズの要素が強くなっているイメージ。また、来年が10周年ということでアルバムを作るとのことらしいが、ミニアルバムになるかもしれないし、シングルになるかもしれないし、1曲だけ配信になるかもしれないという。早くこの曲をいつでも聴けるようになりたいものであるが。
客電が点いてもアンコールを求める声は止まず、さらにメンバーがステージへ。
「ホールツアーでオーケストラと一緒にやったのが良かったからまたやってください!みたいに言われることがあるんだけど、俺たちが変えられるのは未来だけ。過去は変えられない。だから一回やったことと同じことはやらない。それは今回もそう」
と、これだけの完成度を見せたライブですらももう同じことはやらないと宣言したのだが、この言葉こそがthe HIATUSというバンドがどういうバンドなのかというのを最もよく表している。だからこのバンドはアルバムを出すたびにガラッと変わる。同じことをやるのならこのメンバーでバンドをやる意味がないから。もっと頭に浮かんだことや、このメンバーならこういうことができる、ということをやり続ける。それが求められていようとなかろうと。いや、細美が歌ってこのメンバーが演奏すればどんなに先鋭的なものであってもこうして求める人はたくさんいるのだ。だから細美は最後に
「昔、よく同じ夢を見ていた。大きな神殿みたいな会場でライブをやってるんだけど、やってるうちにどんどん人がいなくなっていって、しまいには俺たちだけになっている。でもこの4年くらいかな?そんな夢は全く見なくなりました!」
と言った。深く、強く結びついている人たちがちゃんといるということをわかっているから。ELLEGARDENのボーカルのバンドではなく、ひたすらに自分のやりたい音楽を追求するthe HIATUSのバンドのボーカルとして自分を見てくれている人がいるのをわかっているから。
だから最後に演奏された「不眠症」こと「Insomnia」は、不眠症の真っ只中で助けを求めて絶唱するのではなくて、不眠症が治ったあとに当時はこういう感じだったよな〜と回想しているかのような温もりがあった。それは演奏のアレンジによるものでもあり、細美の歌い方によるものでもあり、そしてこの会場の空気によるものでもあり。ふと2階席を見上げると、TOSHI-LOWやスコット・マーフィーが立ち上がってライブを見ていた。かつて助けを求めていた細美武士は、今はこんなに頼りになる仲間たちに囲まれている。やっぱりもう不眠症ではないのだ。
MCで細美はこの会場でライブをやることにした理由を
「ほかの会場が取れなかったから」
と言っていたが、それは本気でもあり、半分冗談でもあると思う。
実際、自分もライブを見るまでは「こんなにオシャレなところじゃなくて、いつもみたいに新木場でいいじゃん」と思っていた。しかし今回のツアースケジュールに並んだ、見慣れない会場の名前の数々。この恵比寿ガーデンホールを含め、そうした会場を選んだ意味が、ライブを見ればすぐにわかった。同じことはやらないけれど、これからthe HIATUSはこうした方向に進化していくのかもしれないと思うし、数えきれないくらいのフォロワーを生んだELLEGARDENとは異なり、誰も真似することすらできないというか、真似しようとも思えないような芸術と言える音楽の境地に達している。
「The Flare」も「The Ivy」も「べテルギウスの灯を」も「紺碧の夜に」も「Silver Birch」もない、だから暴れたりはしゃいだりという楽しみ方は一切できなかったけれど、それでも満足度しか残っていない。きっともう見ることができないライブであるだけに、この日の一瞬一瞬全てをモノクロのフィルムにして脳内に焼き付けておきたいと思う一夜だった。
ELLEGARDENに涙し、MONOEYESに燃え、そしてthe HIATUSで今まで経験したことのないことを経験したり、見たことがないものを見れる。それらを1年の内に全て見ることができる。こんなに幸せなことがほかにあるのだろうかと思うし、細美武士の音楽に出会ってからこんなに楽しい一年があっただろうか。
1.Roller Coaster Ride Memories
2.Thirst
3.Shimmer
4.Snowflakes
5.Clone
6.Let Me Fall
7.Twisted Maple Trees
8.Sunset Off The Coastline
9.Tree Rings
10.Notes of Remembrance
11.Something Ever After
12.西門の昧爽
13.Walking Like A Man
14.Catch You Later
15.Waiting For The Sun
16.Burn To Shine
encore
17.Radio
18.Life In Technicolor
encore2
19.Insomnia
https://youtu.be/h9aLBoHFeOQ
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