歌声喫茶るっく 〜晩秋スペシャル〜 村松拓(Nothing's Carved In Stone) 佐々木亮介(a flood of circle) 蒼山幸子(ねごと) @千葉LOOK 11/20
- 2018/11/21
- 18:04
普段から全国区から無名アマチュアまで様々なアーティストが出演する「千葉のライブハウスといえばここ!」という老舗ライブハウス、千葉LOOK。
その千葉LOOKがこの日は3人の弾き語りによって、ライブハウスではなく歌声喫茶に変貌。その3人とは村松拓(Nothing's Carved In Stone)、佐々木亮介(a flood of circle)、蒼山幸子(ねごと)というバンドのボーカリスト3人。県内の高校の仲間で結成され、デビュー時から千葉出身ということを打ち出していた、ねごとの蒼山はもちろん、実は3人とも一応千葉出身であり、地元であるだけに馴染み深いであろう千葉LOOKに凱旋である。
・佐々木亮介
19時になるとステージに現れたのは、いつもの通りに革ジャンを着て登場した、a flood of circleの佐々木亮介。椅子に座ってアコギを手に取ると、弾き語りではおなじみのその日限りの即興的な歌詞のブルースを
「たっきゅんは八千代出身 さっちゃんは成田出身 俺はちょっとニセモノの幕張本郷中出身」
と3人が千葉出身である内容で歌い始めるが、生粋の千葉出身である2人に対し、亮介は幼稚園と中学校の6年間だけ千葉に住んでいたというわかりやすいプロフィール紹介をするのだが、キチンと韻を踏むのを意識した歌詞にしており、即興的ではあれど実は事前にしっかり構築して歌っているのかもしれない。
「弾き語りだけどみんな立ち見 でもいつもと変わらないぜ〜」
と立ち上がってマイクの前に出てきてギターをかき鳴らしすというパフォーマンスは普段のバンドのライブでも客席に突入しまくる亮介らしいもの。エフェクターをかませているのか、アコギではあれどエレキのような音を鳴らしながら、そのままマイク通さないで歌える声量もやはり凄い。
歌詞に「だりー」というフレーズがあるため、
「1番手は酒をあんまり飲んでない状態だからだりー」
「たっきゅんは飛行機で札幌から移動してきたからだりーような見た目をしてる〜」
とフレーズを追加して笑わせたのは昨年リリースしたソロアルバム「LEO」収録の「Blanket Song」。これもまたかなり即興的な流れで歌っているため、元の形からはかなり変化している。
「俺は夏でも冬でも革ジャン着てるけど、寒くなってきたから冬の歌を」
と言って歌ったのはフラッドの「ホットチョコレート」で、弾き語りはやはり亮介の様々な形態の曲を聴くことができる。
「俺は幕張本郷中出身なんだけど、ほかの有名人は嵐の相葉くんや劇団ひとりがいて(笑)
一昨日もギリ千葉から東京になる葛飾のフードフェスティバルにLiLiCoさんと一緒に出て。その時にLINEを交換したりして。LiLiCoさんはスウェーデン生まれの葛飾育ちなんだけど、千葉で6年間過ごした俺はやっぱり千葉の歌を歌いたいと思って。嵐の曲にしようか、幕張本郷中の校歌にしようか迷ったんだけど、千葉出身の人が歌ってる曲を」
と言って歌い始めたのは、なんとSMAPの「らいおんハート」。これは木村拓哉が千葉出身だからだと思われるが、亮介が歌うとこの曲ですらも濃厚なブルースに変貌してしまうため、亮介は本当の意味でBlues Manだと思う。
現在亮介のソロライブおよびフラッドの物販では会場限定でソロの最新作「大脱走 E.P. / The Great Escape E.P.」が販売されているのだが、メンフィスでレコーディングされたことによってブルースやヒップホップ色が強かった「LEO」からはガラッと変わり、トラップやオルタナティブR&Bというアメリカの最先端のサウンドを軸にした作品となっているため、これに収録されている曲はライブでどうやるのか、そもそもライブでやるのか、というくらいの変化作となっているのだが、その中では1番弾き語りできそうな曲だという「ラブリー・アワー」をやはりブルース色の強い、CDとは全く違うアレンジで弾き語りし、
「今日初めてこの曲を聴いた人はCDでも聴いてみて欲しい。驚くくらいに全然違うから(笑)」
と言っていたので、もしかしたらCDとライブは別物、という作品になるのかもしれない。
しかし自分はなかなかこうした現行のアメリカの最先端の音楽はなかなか得意ではないのだが、亮介が歌うとすんなり聴ける。それはもちろん亮介のファンだからというのもあるだろうけれど、海外のものをそのままやるのではなく、自分なりのエッセンスであるロックンロールやブルースをそこに入れていたり、入れようとしていなくても滲み出てしまうからこそ素直に受け止められるのだと思う。
そもそも亮介はMUSICAでビックリするくらいに様々なアーティストの新譜のレビューを書いているだけに、ロックンロール殉教者のイメージが強いけれど、ほかのロックンロールバンドよりもはるかに多い引き出しを持っている。それを自由に発揮できるのがソロという場であり、それは明確にフラッドと区分けができているからこうして活発にソロも行なっているのだろう。
そしてこの千葉LOOKの斎藤店長(亮介は妖精と呼んでいる)がこの3人で東北にツアーに行こうと言ってくれたことで、
「ここからまた何かが変わる気がする」
と言って東北ライブハウス大作戦のタオルを掲げ、東北ライブハウス大作戦の概要と、
「難しいだろうけど、来週のこのイベントの東北公演も是非見にきて欲しい。だって東北は最高に良い場所だから。2011年3月11日から7年経って、まだまだ元どおりにはなってないけど、みんな前進するのをやめてない。だから元気を与えようなんて大層なことを思ってなくても、俺が東北から元気を貰っている」
と震災後に何度もライブしに行っている東北への想いを口にすると、最後に演奏されたのはフラッドの「Honey Moon Song」。
「やろうと思えばなんだってできるんだぜ。だって人類は月に行ったことだってあるんだから」
という言葉は未だ復興の道半ばでありながらも諦めることなく自分たちの生きてきた街で生きていこうとする東北に住んでいる人たちに向けられていた。
酒を飲みながら弾き語りするのは変わっていないが、そうしたリラックスした空気もありながらも、亮介には自分が音楽でやりたいこと、やろうとしていることがちゃんとあって、それを自らの音楽と言葉と姿勢で示している。それはある意味では今が最強であることに間違いないフラッドのライブの時よりも頼もしく見える。
1.歌声喫茶のブルース
2.Blanket Song
3.ホットチョコレート
4.らいおんハート
5.ラブリー・アワー
6.Honey Moon Song
・蒼山幸子
ステージにはギターではなくてピアノがセッティングされており、こうしたバンドのボーカルが弾き語りをするとなるとアコギで、という感じになるのだが、やはりそこは普段からキーボード&ボーカルとして活動してるがゆえ、このスタイルでの弾き語りとなる、ねごとの蒼山幸子。
バンドバージョンでは飛び跳ねるようにポップな「彗星シロップ」を実に落ち着いた雰囲気に変貌させて歌うのは
「ピアノなんで盛り上げたりとかはできないんですけど」
と言っている通りだが、このピアノとボーカルのみという形は体がちょっと震えるくらいに素晴らしく、どこか神秘的な印象さえ与えられる。
「佐々木さんがさっき寒くなってきたから冬の曲を、と言って「ホットチョコレート」をやってましたけど、私は逆でこういう季節だから夏の曲を」
と言って穏やかなピアノのイントロが演奏されたのは松任谷由実の「ひこうき雲」のカバーで、これはバンドのライブではなく弾き語りだからこそのチョイスと言えるが、続けて披露された七尾旅人「サーカスナイト」のカバーが本当に素晴らしく、まるで蒼山自身が作った曲であるかのようにハマっていた。
「ねごとは千葉県の同級生で結成されたバンドで、千葉LOOKは千葉のバンドからしたら憧れの場所なんですけど、高校生が出るにはちょっと敷居が高くて。だから私は京成千葉駅の前で路上ライブをよくやっていたし、このすぐ近くにあるスタジオでよくリハをしていて。その時にABSTRACT MASHをやってた村松拓さんに挨拶させていただいたことがあるんですけど、本人にさっき聞いたらやっぱり覚えてなかった(笑)」
という千葉出身だからこその千葉トークで千葉県と千葉LOOKへの思い出を語ると、青白い照明と蒼山の歌声がまるでこの会場が水の中にあるかのような錯覚に陥らせる「水中都市」。
正直、ねごとはデビュー当時はそこまでライブが良いバンドではなくて、それ故にメンバーが悔しい思いをしてきた場面もたくさん見ているのだが、そのライブがそこまで良くないと感じていた理由であり、バンドがイマイチ突き抜けきれなかった(それこそ当時はポスト・チャットモンチーの最右翼と言われていた)理由でもあったのは、蒼山のボーカルがライブでは真価を発揮できていない場面が多かったからだと思っていたのだが、10代でメジャーデビューしてもう10年経ち、場数と経験を重ねたことによって、自分の歌とピアノだけでその場の空気を染め上げることができるシンガーに変貌している。
それはバンドのライブよりも弾き語りを見る方がダイレクトに伝わってくるのだが、そうした成長がはっかりと見えるからこそ、久しぶりにねごとのライブで当時の曲を聴いてみたいと思う。
他の2人がライブ前からガンガン酒を飲んでいるというスタイルであるが、自身の声を尊重してライブ前は飲んでいないとはいえ、実は見た目のイメージとは異なり、ねごとはかなりの酒好きバンドであり、最近はバーに行って酒を飲むこともあるという蒼山がバーで飲んだカクテルをテーマに作ったという新曲「SEVENTH HEAVEN」は、好きなカクテルの名前でもあるというが、カクテルの色がキレイな緑色ということに合わせて緑色の照明が甘さと爽やかさを感じさせる歌声の蒼山を照らす。
果たしてこの今までの曲とは全く違う視点で書かれたこの曲はどういった形で音源化されるのだろうか。
そして
「私の地元の最寄駅はすごい田舎で。その駅からトトロの道みたいなところを通って学校に通っていて。その時のことを歌った曲です」
と紹介して歌ったのは
「駅まで続く小さい道 ここにいるのはぼくと風だけ」
という歌い出しのフレーズがその時の情景を想起させる「ふわりのこと」。
メジャー1stフルアルバムに収録されている曲であるが、ライブはイマイチであっても、ねごとの曲のクオリティは当時は他の同世代のバンドよりも突出していた。それは今聴いてもそう思うし、やはり久々にねごとのライブが見たくなる。そう思う、きみは素敵だった。
東北ライブハウス大作戦のライブハウスによく赴いている亮介や村松とは異なり、蒼山とねごとにはあまりそういうイメージはない。だからこそ、来週から3人で訪れる東北のライブハウスで、蒼山はどんなことを思うのか。そこで自分の新たな可能性や引き出しや力に気付くこともあるかもしれないし、ある意味ではドサ回り的なツアーを経たら、蒼山のボーカリストとしての力はさらに増すと思う。
1.彗星シロップ
2.ひこうき雲
3.サーカスナイト
4.水中都市
5.SEVENTH HEAVEN
6.ふわりのこと
・村松拓
転換が終わって暗転する前からステージに登場し、すでに椅子に座っていた、村松拓。普段のNothing's Carved In Stoneのライブとは異なり、メガネを着用しているのでパッと見では誰だかわからないような容姿になっている。
村松は亮介、9mmの菅原卓郎、THE BACK HORNの山田将司とともに「SHIKABANE」というバンドのボーカリストによる弾き語り集団を形成しているし、リリースこそしていないが定期的に弾き語りをしているので、最初に歌い始めたNothing'sの1stアルバム「PARALLEL LIVES」収録の「Diachronic」は弾き語りではおなじみの曲。
さらに「青の雫」と「シナプスの砂浜」という、Nothing'sの曲のなかではどちらかというとじっくりと聴かせるような、弾き語りに向いてそうな曲を続けるのだが、そうした曲であってもNothing's Carved In Stoneは生形真一、日向秀和、大喜多崇規という日本のロックバンドきってのスタープレイヤーたちの音のぶつかり合いがバンドの音を作り上げていくというスタイルであるだけに、普段はメロディと歌詞のみに注力できる時間というのはほとんどない。弾き語りというのはそこをしっかりと噛み締められる貴重な時間である。
なのだが、村松はいきなりマイクに向かってどデカいゲップをかましたり、
「10月に武道館でワンマンやって、先週大阪でワンマンやって。その間が1ヶ月くらいライブがなかったから、やることがなんにもなくて、ひたすら酒飲んでタバコ吸って寝てるだけの生活ですよ」
という生活の通りに、この日は珍しいくらいの酔っ払いっぷり。ちなみにこの日、亮介が言っていたように北海道から飛行機で移動してここまで来るというスケジュールの設定を全て自分でやったところ、大遅刻をしたとのこと。
蒼山がこの近くのスタジオで挨拶してくれた10年前のことを、
「当時、ねごとはすごい勢いがあって。そのスタジオにドラムの小夜子ちゃんのスネアの皮に書いたサインが飾ってあったりして。そんなバンドが俺たちなんかのことを知ってて挨拶してくれたわけがない、って思ってたから覚えてないんだと思う(笑)」
と言い訳しながら、その当時、まだNothing's Carved In Stone結成前の村松がもともとやっており、最近になって活動再開を果たしたバンド、ABSTRACT MASHの復帰作から「Silent Wheel」を弾き語りで披露するというなかなかレアな場面も。全英語詞であり、弾き語りで聴くと他のNothing'sの曲との境目を全く感じないが、それは村松の歌がどちらのバンドでも変わることがないということの証明でもある。
無理矢理観客に手拍子させようと煽る「Perfect Sound」はこの日の中で最も明るい形で演奏されると、ただでさえ酔っているのが丸わかりなのに、歌いながらさらに酒を飲んでいるため、歌が途中で止まったり、チューニングがぼろぼろになるという弊害が出始めるというくらいにPerfectじゃないSoundになっていき、明らかに持ち時間を超えるくらいの勢いで喋りまくる(内容もいきなり話が飛んだりするし、酔いすぎてオチも用意できない)と、ようやく時間を気にして最後の「朱い群青」へ。あれだけ酔っているのに歌声は全くかすれたりひっくり返ったりしないのはすごいことであるが。
歌い終わっても村松はそのままステージに残り、
「もうなんていうかさぁ、俺は歌いたくてライブやってるし、君たちも楽しみたかったり、盛り上がりたいからライブ来てるんでしょ?だったら「行けるか!」とか言わなくて良くない?(笑)
盛り上がりたいなら煽らなくても盛り上がればいいじゃん!(笑)」
と完全に酔って絡むオヤジになり、
「元気があればなんでもできる!元気があれば何ができる?」
と猪木のモノマネでなぜか客席に問いかけるのだが、いきなりそんなフリをされても何も客席から出てくるわけもなく、ただひたすら猪木のモノマネをし続ける人みたいになってるのを見かねてか、佐々木亮介がステージに登場し、
「マジで今日ヤバいっすね(笑)」
と言われながら、続いて蒼山幸子を呼び込むと、
佐々木「さすが千葉に君臨してる男は違いますね(笑)」
村松「君臨とか言うとめちゃ悪いみたいだからやめて!」
蒼山「あそこのスタジオにサイン飾られてるの知らなかったです」
村松「そこのスタジオにねごとの小夜子ちゃんのサインが飾ってあるって言ったじゃん?スタジオの店員が知り合いだから、
「なんでねごとのサインはあるのに俺のサインを置かないんだ!」
って全然売れてない時に言って、自分でサイン書いて無理矢理置かせてた(笑)」
佐々木「頼まれてないのにサインしたんですか!?それは全然君臨してないですね!(笑)」
蒼山「今度そのサイン見に行きがてら、3人であのスタジオ入りましょう!」
村松「あ、今はもう2人ともサインなくなってるから(笑)」
蒼山「えー!?」
と亮介に村松がひたすらいじられながら、3人とも東北にツアーに行くことの意志を確かめながら、このライブと東北ツアーの発起人である千葉LOOKの妖精こと斎藤店長が1番好きな曲だという、ドゥービーブラザーズ「Listen To The Music」をセッション。それぞれボーカルを回して歌い、最後には観客も含めての大合唱となると、亮介は
「それじゃ、東北に行ってきます!」
と力強く言い放ち、泥酔した村松は完全にダウンしていた。
1.Diachronic
2.青の雫
3.シナプスの砂浜
4.Silent Wheel
5.Perfect Sound
6.朱い群青
encore
7.Listen To The Music
ライブ後にフラッドのスタッフが亮介の「らいおんハート」の映像を公開していたのを見ると、この日は「地元の千葉でこの3人がライブをすることの意義」を感じさせるものだった。
これから東北にツアーを周り、そこでは現地で活動するシンガーもオープニングアクトで出るという。きっとそこにはそこでしか歌えない歌があるはず。できることなら、それを確かめに東北に行きたいけれど、なかなか難しい。
でも、今まで数えきれないくらいにライブを見てきたこの3人のことを、ほんの少しであっても身近に感じることができる。自分は千葉県民として生きてこれて本当に幸せだ、と思えた一夜だった。
Next→ 11/21 キュウソネコカミ @新木場STUDIO COAST
その千葉LOOKがこの日は3人の弾き語りによって、ライブハウスではなく歌声喫茶に変貌。その3人とは村松拓(Nothing's Carved In Stone)、佐々木亮介(a flood of circle)、蒼山幸子(ねごと)というバンドのボーカリスト3人。県内の高校の仲間で結成され、デビュー時から千葉出身ということを打ち出していた、ねごとの蒼山はもちろん、実は3人とも一応千葉出身であり、地元であるだけに馴染み深いであろう千葉LOOKに凱旋である。
・佐々木亮介
19時になるとステージに現れたのは、いつもの通りに革ジャンを着て登場した、a flood of circleの佐々木亮介。椅子に座ってアコギを手に取ると、弾き語りではおなじみのその日限りの即興的な歌詞のブルースを
「たっきゅんは八千代出身 さっちゃんは成田出身 俺はちょっとニセモノの幕張本郷中出身」
と3人が千葉出身である内容で歌い始めるが、生粋の千葉出身である2人に対し、亮介は幼稚園と中学校の6年間だけ千葉に住んでいたというわかりやすいプロフィール紹介をするのだが、キチンと韻を踏むのを意識した歌詞にしており、即興的ではあれど実は事前にしっかり構築して歌っているのかもしれない。
「弾き語りだけどみんな立ち見 でもいつもと変わらないぜ〜」
と立ち上がってマイクの前に出てきてギターをかき鳴らしすというパフォーマンスは普段のバンドのライブでも客席に突入しまくる亮介らしいもの。エフェクターをかませているのか、アコギではあれどエレキのような音を鳴らしながら、そのままマイク通さないで歌える声量もやはり凄い。
歌詞に「だりー」というフレーズがあるため、
「1番手は酒をあんまり飲んでない状態だからだりー」
「たっきゅんは飛行機で札幌から移動してきたからだりーような見た目をしてる〜」
とフレーズを追加して笑わせたのは昨年リリースしたソロアルバム「LEO」収録の「Blanket Song」。これもまたかなり即興的な流れで歌っているため、元の形からはかなり変化している。
「俺は夏でも冬でも革ジャン着てるけど、寒くなってきたから冬の歌を」
と言って歌ったのはフラッドの「ホットチョコレート」で、弾き語りはやはり亮介の様々な形態の曲を聴くことができる。
「俺は幕張本郷中出身なんだけど、ほかの有名人は嵐の相葉くんや劇団ひとりがいて(笑)
一昨日もギリ千葉から東京になる葛飾のフードフェスティバルにLiLiCoさんと一緒に出て。その時にLINEを交換したりして。LiLiCoさんはスウェーデン生まれの葛飾育ちなんだけど、千葉で6年間過ごした俺はやっぱり千葉の歌を歌いたいと思って。嵐の曲にしようか、幕張本郷中の校歌にしようか迷ったんだけど、千葉出身の人が歌ってる曲を」
と言って歌い始めたのは、なんとSMAPの「らいおんハート」。これは木村拓哉が千葉出身だからだと思われるが、亮介が歌うとこの曲ですらも濃厚なブルースに変貌してしまうため、亮介は本当の意味でBlues Manだと思う。
現在亮介のソロライブおよびフラッドの物販では会場限定でソロの最新作「大脱走 E.P. / The Great Escape E.P.」が販売されているのだが、メンフィスでレコーディングされたことによってブルースやヒップホップ色が強かった「LEO」からはガラッと変わり、トラップやオルタナティブR&Bというアメリカの最先端のサウンドを軸にした作品となっているため、これに収録されている曲はライブでどうやるのか、そもそもライブでやるのか、というくらいの変化作となっているのだが、その中では1番弾き語りできそうな曲だという「ラブリー・アワー」をやはりブルース色の強い、CDとは全く違うアレンジで弾き語りし、
「今日初めてこの曲を聴いた人はCDでも聴いてみて欲しい。驚くくらいに全然違うから(笑)」
と言っていたので、もしかしたらCDとライブは別物、という作品になるのかもしれない。
しかし自分はなかなかこうした現行のアメリカの最先端の音楽はなかなか得意ではないのだが、亮介が歌うとすんなり聴ける。それはもちろん亮介のファンだからというのもあるだろうけれど、海外のものをそのままやるのではなく、自分なりのエッセンスであるロックンロールやブルースをそこに入れていたり、入れようとしていなくても滲み出てしまうからこそ素直に受け止められるのだと思う。
そもそも亮介はMUSICAでビックリするくらいに様々なアーティストの新譜のレビューを書いているだけに、ロックンロール殉教者のイメージが強いけれど、ほかのロックンロールバンドよりもはるかに多い引き出しを持っている。それを自由に発揮できるのがソロという場であり、それは明確にフラッドと区分けができているからこうして活発にソロも行なっているのだろう。
そしてこの千葉LOOKの斎藤店長(亮介は妖精と呼んでいる)がこの3人で東北にツアーに行こうと言ってくれたことで、
「ここからまた何かが変わる気がする」
と言って東北ライブハウス大作戦のタオルを掲げ、東北ライブハウス大作戦の概要と、
「難しいだろうけど、来週のこのイベントの東北公演も是非見にきて欲しい。だって東北は最高に良い場所だから。2011年3月11日から7年経って、まだまだ元どおりにはなってないけど、みんな前進するのをやめてない。だから元気を与えようなんて大層なことを思ってなくても、俺が東北から元気を貰っている」
と震災後に何度もライブしに行っている東北への想いを口にすると、最後に演奏されたのはフラッドの「Honey Moon Song」。
「やろうと思えばなんだってできるんだぜ。だって人類は月に行ったことだってあるんだから」
という言葉は未だ復興の道半ばでありながらも諦めることなく自分たちの生きてきた街で生きていこうとする東北に住んでいる人たちに向けられていた。
酒を飲みながら弾き語りするのは変わっていないが、そうしたリラックスした空気もありながらも、亮介には自分が音楽でやりたいこと、やろうとしていることがちゃんとあって、それを自らの音楽と言葉と姿勢で示している。それはある意味では今が最強であることに間違いないフラッドのライブの時よりも頼もしく見える。
1.歌声喫茶のブルース
2.Blanket Song
3.ホットチョコレート
4.らいおんハート
5.ラブリー・アワー
6.Honey Moon Song
・蒼山幸子
ステージにはギターではなくてピアノがセッティングされており、こうしたバンドのボーカルが弾き語りをするとなるとアコギで、という感じになるのだが、やはりそこは普段からキーボード&ボーカルとして活動してるがゆえ、このスタイルでの弾き語りとなる、ねごとの蒼山幸子。
バンドバージョンでは飛び跳ねるようにポップな「彗星シロップ」を実に落ち着いた雰囲気に変貌させて歌うのは
「ピアノなんで盛り上げたりとかはできないんですけど」
と言っている通りだが、このピアノとボーカルのみという形は体がちょっと震えるくらいに素晴らしく、どこか神秘的な印象さえ与えられる。
「佐々木さんがさっき寒くなってきたから冬の曲を、と言って「ホットチョコレート」をやってましたけど、私は逆でこういう季節だから夏の曲を」
と言って穏やかなピアノのイントロが演奏されたのは松任谷由実の「ひこうき雲」のカバーで、これはバンドのライブではなく弾き語りだからこそのチョイスと言えるが、続けて披露された七尾旅人「サーカスナイト」のカバーが本当に素晴らしく、まるで蒼山自身が作った曲であるかのようにハマっていた。
「ねごとは千葉県の同級生で結成されたバンドで、千葉LOOKは千葉のバンドからしたら憧れの場所なんですけど、高校生が出るにはちょっと敷居が高くて。だから私は京成千葉駅の前で路上ライブをよくやっていたし、このすぐ近くにあるスタジオでよくリハをしていて。その時にABSTRACT MASHをやってた村松拓さんに挨拶させていただいたことがあるんですけど、本人にさっき聞いたらやっぱり覚えてなかった(笑)」
という千葉出身だからこその千葉トークで千葉県と千葉LOOKへの思い出を語ると、青白い照明と蒼山の歌声がまるでこの会場が水の中にあるかのような錯覚に陥らせる「水中都市」。
正直、ねごとはデビュー当時はそこまでライブが良いバンドではなくて、それ故にメンバーが悔しい思いをしてきた場面もたくさん見ているのだが、そのライブがそこまで良くないと感じていた理由であり、バンドがイマイチ突き抜けきれなかった(それこそ当時はポスト・チャットモンチーの最右翼と言われていた)理由でもあったのは、蒼山のボーカルがライブでは真価を発揮できていない場面が多かったからだと思っていたのだが、10代でメジャーデビューしてもう10年経ち、場数と経験を重ねたことによって、自分の歌とピアノだけでその場の空気を染め上げることができるシンガーに変貌している。
それはバンドのライブよりも弾き語りを見る方がダイレクトに伝わってくるのだが、そうした成長がはっかりと見えるからこそ、久しぶりにねごとのライブで当時の曲を聴いてみたいと思う。
他の2人がライブ前からガンガン酒を飲んでいるというスタイルであるが、自身の声を尊重してライブ前は飲んでいないとはいえ、実は見た目のイメージとは異なり、ねごとはかなりの酒好きバンドであり、最近はバーに行って酒を飲むこともあるという蒼山がバーで飲んだカクテルをテーマに作ったという新曲「SEVENTH HEAVEN」は、好きなカクテルの名前でもあるというが、カクテルの色がキレイな緑色ということに合わせて緑色の照明が甘さと爽やかさを感じさせる歌声の蒼山を照らす。
果たしてこの今までの曲とは全く違う視点で書かれたこの曲はどういった形で音源化されるのだろうか。
そして
「私の地元の最寄駅はすごい田舎で。その駅からトトロの道みたいなところを通って学校に通っていて。その時のことを歌った曲です」
と紹介して歌ったのは
「駅まで続く小さい道 ここにいるのはぼくと風だけ」
という歌い出しのフレーズがその時の情景を想起させる「ふわりのこと」。
メジャー1stフルアルバムに収録されている曲であるが、ライブはイマイチであっても、ねごとの曲のクオリティは当時は他の同世代のバンドよりも突出していた。それは今聴いてもそう思うし、やはり久々にねごとのライブが見たくなる。そう思う、きみは素敵だった。
東北ライブハウス大作戦のライブハウスによく赴いている亮介や村松とは異なり、蒼山とねごとにはあまりそういうイメージはない。だからこそ、来週から3人で訪れる東北のライブハウスで、蒼山はどんなことを思うのか。そこで自分の新たな可能性や引き出しや力に気付くこともあるかもしれないし、ある意味ではドサ回り的なツアーを経たら、蒼山のボーカリストとしての力はさらに増すと思う。
1.彗星シロップ
2.ひこうき雲
3.サーカスナイト
4.水中都市
5.SEVENTH HEAVEN
6.ふわりのこと
・村松拓
転換が終わって暗転する前からステージに登場し、すでに椅子に座っていた、村松拓。普段のNothing's Carved In Stoneのライブとは異なり、メガネを着用しているのでパッと見では誰だかわからないような容姿になっている。
村松は亮介、9mmの菅原卓郎、THE BACK HORNの山田将司とともに「SHIKABANE」というバンドのボーカリストによる弾き語り集団を形成しているし、リリースこそしていないが定期的に弾き語りをしているので、最初に歌い始めたNothing'sの1stアルバム「PARALLEL LIVES」収録の「Diachronic」は弾き語りではおなじみの曲。
さらに「青の雫」と「シナプスの砂浜」という、Nothing'sの曲のなかではどちらかというとじっくりと聴かせるような、弾き語りに向いてそうな曲を続けるのだが、そうした曲であってもNothing's Carved In Stoneは生形真一、日向秀和、大喜多崇規という日本のロックバンドきってのスタープレイヤーたちの音のぶつかり合いがバンドの音を作り上げていくというスタイルであるだけに、普段はメロディと歌詞のみに注力できる時間というのはほとんどない。弾き語りというのはそこをしっかりと噛み締められる貴重な時間である。
なのだが、村松はいきなりマイクに向かってどデカいゲップをかましたり、
「10月に武道館でワンマンやって、先週大阪でワンマンやって。その間が1ヶ月くらいライブがなかったから、やることがなんにもなくて、ひたすら酒飲んでタバコ吸って寝てるだけの生活ですよ」
という生活の通りに、この日は珍しいくらいの酔っ払いっぷり。ちなみにこの日、亮介が言っていたように北海道から飛行機で移動してここまで来るというスケジュールの設定を全て自分でやったところ、大遅刻をしたとのこと。
蒼山がこの近くのスタジオで挨拶してくれた10年前のことを、
「当時、ねごとはすごい勢いがあって。そのスタジオにドラムの小夜子ちゃんのスネアの皮に書いたサインが飾ってあったりして。そんなバンドが俺たちなんかのことを知ってて挨拶してくれたわけがない、って思ってたから覚えてないんだと思う(笑)」
と言い訳しながら、その当時、まだNothing's Carved In Stone結成前の村松がもともとやっており、最近になって活動再開を果たしたバンド、ABSTRACT MASHの復帰作から「Silent Wheel」を弾き語りで披露するというなかなかレアな場面も。全英語詞であり、弾き語りで聴くと他のNothing'sの曲との境目を全く感じないが、それは村松の歌がどちらのバンドでも変わることがないということの証明でもある。
無理矢理観客に手拍子させようと煽る「Perfect Sound」はこの日の中で最も明るい形で演奏されると、ただでさえ酔っているのが丸わかりなのに、歌いながらさらに酒を飲んでいるため、歌が途中で止まったり、チューニングがぼろぼろになるという弊害が出始めるというくらいにPerfectじゃないSoundになっていき、明らかに持ち時間を超えるくらいの勢いで喋りまくる(内容もいきなり話が飛んだりするし、酔いすぎてオチも用意できない)と、ようやく時間を気にして最後の「朱い群青」へ。あれだけ酔っているのに歌声は全くかすれたりひっくり返ったりしないのはすごいことであるが。
歌い終わっても村松はそのままステージに残り、
「もうなんていうかさぁ、俺は歌いたくてライブやってるし、君たちも楽しみたかったり、盛り上がりたいからライブ来てるんでしょ?だったら「行けるか!」とか言わなくて良くない?(笑)
盛り上がりたいなら煽らなくても盛り上がればいいじゃん!(笑)」
と完全に酔って絡むオヤジになり、
「元気があればなんでもできる!元気があれば何ができる?」
と猪木のモノマネでなぜか客席に問いかけるのだが、いきなりそんなフリをされても何も客席から出てくるわけもなく、ただひたすら猪木のモノマネをし続ける人みたいになってるのを見かねてか、佐々木亮介がステージに登場し、
「マジで今日ヤバいっすね(笑)」
と言われながら、続いて蒼山幸子を呼び込むと、
佐々木「さすが千葉に君臨してる男は違いますね(笑)」
村松「君臨とか言うとめちゃ悪いみたいだからやめて!」
蒼山「あそこのスタジオにサイン飾られてるの知らなかったです」
村松「そこのスタジオにねごとの小夜子ちゃんのサインが飾ってあるって言ったじゃん?スタジオの店員が知り合いだから、
「なんでねごとのサインはあるのに俺のサインを置かないんだ!」
って全然売れてない時に言って、自分でサイン書いて無理矢理置かせてた(笑)」
佐々木「頼まれてないのにサインしたんですか!?それは全然君臨してないですね!(笑)」
蒼山「今度そのサイン見に行きがてら、3人であのスタジオ入りましょう!」
村松「あ、今はもう2人ともサインなくなってるから(笑)」
蒼山「えー!?」
と亮介に村松がひたすらいじられながら、3人とも東北にツアーに行くことの意志を確かめながら、このライブと東北ツアーの発起人である千葉LOOKの妖精こと斎藤店長が1番好きな曲だという、ドゥービーブラザーズ「Listen To The Music」をセッション。それぞれボーカルを回して歌い、最後には観客も含めての大合唱となると、亮介は
「それじゃ、東北に行ってきます!」
と力強く言い放ち、泥酔した村松は完全にダウンしていた。
1.Diachronic
2.青の雫
3.シナプスの砂浜
4.Silent Wheel
5.Perfect Sound
6.朱い群青
encore
7.Listen To The Music
ライブ後にフラッドのスタッフが亮介の「らいおんハート」の映像を公開していたのを見ると、この日は「地元の千葉でこの3人がライブをすることの意義」を感じさせるものだった。
これから東北にツアーを周り、そこでは現地で活動するシンガーもオープニングアクトで出るという。きっとそこにはそこでしか歌えない歌があるはず。できることなら、それを確かめに東北に行きたいけれど、なかなか難しい。
でも、今まで数えきれないくらいにライブを見てきたこの3人のことを、ほんの少しであっても身近に感じることができる。自分は千葉県民として生きてこれて本当に幸せだ、と思えた一夜だった。
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