a flood of circle a flood of circleの3日間の悪夢 @渋谷CLUB QUATTRO 11/17
- 2018/11/18
- 14:02
今や7月から始まり、9月末まで続く夏フェスシーズン。毎週のごとくどこかのフェスに足を運んではさまざまなアーティストのライブを見まくった、今年のその夏フェスシーズン期間の中でのベストアクトは、ROCK IN JAPAN FES.における、a flood of circleのライブだった。
正式に4人編成になってからの初出演。決してラインナップに毎年名前が並ぶ存在ではないし(現に年末のCOUNTDOWN JAPANには名前がない)、出るステージも大きいわけではない。そんな、決してそのフェスの何かを背負っているわけではないし、もはやデビューしてから10年の月日が経ち、若手バンドと違ってこれから存在をアピールしていくという立場ではない。そんなバンドがあの巨大なフェスで
「ROCK IN JAPANに来ると毎年考える。ロックって何!?」
と問いかけ、あのフェスのROCKの部分を背負おうとしていた。その意志が、精神が音に乗り移っていた。15年通い続けているロッキンにおいて、今まであの会場で見てきた中でTOP5に入るくらいの素晴らしいライブだった。
そのロッキンのライブ時に披露されていた新曲「夏の砂漠」を含め、3曲全てを佐々木亮介の盟友であるUNISON SQUARE GARDENの田淵智也がプロデュースしたニューシングル「13分間の悪夢」のリリースツアーは東名阪の3会場を回るものになり、この日の渋谷CLUB QUATTROがツアーファイナル。割とこれまではこのくらいのキャパが適正、的な感じではあったが、今回は即完となり、いよいよ4人になっていろんなことの足並みが揃ってきた感じがする。
18時になると場内が暗転し、おなじみのSEとともにメンバーが登場。先にステージに現れたアオキテツ(ギター)、HISAYO(ベース)、渡邊一丘(ドラム)の3人はシャツなど真っ白な衣装で統一されており、では亮介もやはり白?と思っていると、赤い革ジャンを着ているという己の道を突き進む姿勢をこういうところでも見せている。
バンドが音を出し始めると、最初思わず「あれ?この曲なんだっけ?」と思ってしまったくらいに久々に演奏された「ZOOMANITY」収録の「百鬼夜行」からスタートというあまりにも意外すぎる展開。間奏では早くもテツがステージ前に出てギターソロを弾きまくり、ものすごく久しぶりにライブで聴いた曲もこの4人のものになっている、という事実に胸が熱くなる。
さらに続けざまに「PARADOX PARADE」収録の「Ghost」と、演奏されるなんて思いもよらなかった曲が続く。そもそもこの曲はメジャー1stフルアルバムの「BUFFALO SOUL」のリリースツアーファイナル(初代ギタリストの岡庭が直前に失踪し、このバンドの運命を決定付けたライブでもある)の代官山UNITでなんの紹介もされずに演奏され、「あの曲はなんだったのか」と来場者の話題になったことを思い出す。
あの時の何をやっても盛り上がることのない異様な空気とは異なり、メンバーの熱さが飛び散るような演奏もあり、久しぶりに聴けた嬉しさもあり、客席も早くも熱い盛り上がりを見せている。
「おはようございます、a flood of circleです!」
とここでようやく亮介が自己紹介をすると、「Dancing Zombiez」ではおなじみの熱い演奏のアウトロが追加され、テツだけでなく亮介とHISAYOもステージ前に出てさらなる熱さを煽るように演奏。
テツがもはやカッティングの鬼となった「Dirty Pretty Carnival Night」と序盤から恐ろしいほどの勢いで駆け抜けると、前回のツアーのタイトルにもなり、そのツアーではイントロに打ち込みの音を追加していた「Where Is My Freedom」へ。今回はオリジナルバージョンの演奏だったが、ミクスチャー色の強いサウンドに合わせて亮介はハンドマイクで客席に突入していき、最後には観客の上に倒れこむような形に。
そのまま亮介の愛する酒のテーマ曲とも言える「鬼殺し」でも亮介は客席に突入し、
「馬鹿野郎!」
という飲み過ぎを戒めるような大合唱。ついつい亮介の方ばかりに目がいってしまうが、その亮介を音で支える一丘のドラムの力強さがさらに増している。普通のバンドなら安定感が求められるところであるが、このバンドにおいて求められるのは音の強度である。
亮介がタンバリンを手にして叩きながら歌う「Sweet Home Battle Field」では亮介がタンバリンをテツの顔に押し付けたりという微笑ましい場面を見せてくれたので、客席にもその空気が伝わったのか、曲間にはメンバーをいじるような歓声が飛ぶと、
「うるせぇ!ぶっ飛ばすぞ!」
と過激なリアクションを見せながら実に嬉しそうな顔を見せる亮介。この日は喉の調子が万全ではなさそうだったが、観客が楽しんでくれているのを見てさらにライブを楽しんでいる様子。
「11月だけど、この曲。今日は色々と狂わせていくから。狂って帰ってくれ!」
と季節外れな曲をやることを紹介したので、なんの曲が来るのかと思いきや、演奏されたのはまさかの「春の嵐」。これまでは3月か4月のライブのアンコールくらいでしか演奏されていなかったこの曲がここで演奏されるのだからそれは狂っても仕方がない。
またこの曲はAメロの前半にギターが入っていないので、歴代のギタリストたちは変なポーズを取ったり、クールに自分のパートを待ったりしていたのだが、テツはどうかというと、Aメロからギターを弾きまくっている。つまり、ただ単に既存の曲を今の4人でやっている、というわけではなく、この4人だからこその最新形として曲を進化させている。昔の曲ばかりやるのはともすれば今や未来への否定に繋がってしまうパターンもあるが、このバンドにおいてはそれが全くない。過去の曲すらもバンドの進化を示すものになっている。そもそもがデビューから10年を迎えたバンドとは思えないくらいのリリースペースを維持している、未来に突き進みまくってきたバンドなだけに、後ろ向きなことなんかするわけがないのである。
春の次の季節は夏。ということで続いては最新シングル「夏の砂漠」。
「冒険者たちは進む 新しい水を求めて」
とバンドがこれからも進み続ける強い意志を砂漠を進むキャラバンに例え、フラッド史上最も開けたメロディが広がる。フラッドの居場所はやはりライブハウスだけれど、この曲を聴くと夏の野外の大きなステージ(それこそあのフェスの大き過ぎるようなメインステージでも)でこのバンドのライブを見たくなる。決して状況が劇的に上向いているわけではないけれど、こうして新しい曲が出るたびに、まだまだそこを目指せると思えるし、このバンドにそこまで連れて行って欲しい、と本気で願っている。
亮介がギターを交換すると、一転してブルージーな雰囲気に。フラッドの切なさサイドの極みとでもいうような名曲「コインランドリー・ブルース」から、ブルージーなようでいて、亮介のロマンチックさが炸裂している、個人的にこのバンドの曲でトップクラスにポップな曲だと思っている「Honey Moon Song」を終えると、もうライブが終わりなんじゃないかというような気分になってしまう。それくらいにこの曲はライブを締め上げる力を持っている名曲だと思う。
現在映画が大ヒットを記録しているQueenの「We will rock you」のリズムと、亡くなったアレサ・フランクリンの曲へのオマージュだと思われる「DEAR MY ROCKSTEADY」ではそれこそQueenを思わせる壮大なコーラスの大合唱が起こり、この曲がこれからもライブの場で大きな曲になっていくであろうことを予感させる。
テツが物販で販売されている水筒に入った水を飲むと、
テツ「a flood of circleもサコッシュなり水筒なり、生活に密着したロックバンドとしてのグッズを出していて…」
一丘「それで飲むと美味いの?」
テツ「そりゃあもちろん。a flood of circleの水筒だからね!」
とテレビショッピングのような物販紹介をするも、結局はHISAYOの
「ビールを水筒に入れる」
という酒飲みの極み的な発想に全て持っていかれてしまい、悔しがるテツ。それを見て
「テツは本当に可愛い」
と言うHISAYO。すぐさま客席からはHISAYOへの可愛いコールが起こっていたが、亮介も言っていたとおりに、テツが入ったことによってライブの雰囲気は明らかに変わった。ステージと客席の精神的な距離がさらに近くなった。演者と観客というよりも、同じロックンロールを愛する同士というか。それは狙ってやっても作ることができるものではない。テツがもたらしたものは演奏面もそうだが、そうした人柄によるものも大きい。実際にテツは物販にいるときに喋ったりすると、本当に好青年という印象しか出てこない。
そんなテツがギターをスティールギターのような持ち方をしてかき鳴らしまくると、その直前の穏やかな空気を切り裂くような「Blood & Bones」から再びロックンロールに振り切れていき、この後半になってダイバーが続出。でもフラッドの観客はなんでも盛り上がる曲だから飛ぶ、というような人はいなくて、この日のこの曲のように、あまりにもバンドの演奏が良すぎてテンションが昂ぶってしまい、気づいたら飛んでる、という人ばかりだ。その感覚はメジャーデビュー直後から(当時はダイブする人はいなかったけど)あったとはいえ、ここに来てさらに強くなっている。それもそのはず、このバンドは紛れもなく今が最強なのだから。
「何かを失くしながらそれでも行かなくちゃ」
という歌詞が後のバンドの運命を自ら予言しているかのような「ロシナンテ」はまさに喪失と再出発の繰り返しという歴史を持ってしまったこのバンドのテーマソングと言ってもいい存在だが、今はそこよりも
「それでも行かなくちゃ」
という、ひたすらに止まることなく進み続けてきたことすらも予見していたかのようなポジティブな部分を強く感じさせる。それはこのバンドのこれまでの活動によってそう思うようになった。こうして10年以上前の曲たちの持つ意味がその都度変わっていくというのも実に面白いし、なによりバンドの歴史を改めて実感させる。
止まることなく駆け抜けていく「ミッドナイト・クローラー」を終えると、亮介、テツ、HISAYOの3人がドラムセットに集まってイントロを合わせる。紛れもなく「プシケ」だ。観客の手拍子に合わせたおなじみのメンバー紹介では
「ドラム、渡邊一丘!」
「ベース、HISAYO!」
「ギター、アオキテツ!」
「ボーカル、佐々木亮介!」
と1人ずつスポットライトが当たり、その度に最初はドラムだけだった音にそれぞれの音が順番に乗っかり、最後に
「a flood of circle!」
と亮介が叫ぶと、それはこの4人と我々のものになる。ある意味では正式に4人になり、最強の形にバンド自身がなったことによって、インディーズ時代からずっとライブでやり続けてきたこの曲もついに完全体となったのである。実際、今まで見てきた中で最も素晴らしい「プシケ」だった。
そして
「俺たちとあんたらの明日に捧げます!」
というおなじみの曲フリによって始まった「シーガル」では亮介がマイクを客席に向け、サビを観客に大合唱させる。その合唱がこれまでで最も胸を打つものだったのは、バンドと客席の距離の近さによって、1人1人の歌声が合わさって、a flood of circleという決して世の中においては有名ではないバンドを愛し続けてきた人たちがこんなにたくさんいて、思わず喉が痛くなってしまうくらいの声量を出してしまうくらいにこのバンドのライブが過去をはるかに上回るくらいに素晴らしいものだったから。昔、初めてこの曲を聴いた時はこんな曲になるなんて全く思ってなかった。これもまた続けてきたバンドの歴史がこの曲をこうしてバンドとファンの絆を感じさせる曲に成長させたのである。
そしてラストは今回のツアータイトルにもなっている、まさかのドラマのタイアップ曲「美しい悪夢」。イントロのキメ連発にこそUNISON SQUARE GARDENの田淵がプロデューサーだからこそ、という感じがするが、今回のシングル3曲の中で最もライブで真価を発揮していたのはこの曲だ。それは最後のグルーヴが極まった状態で演奏されたからこそそう思ったのかもしれないが、冒頭の「百鬼夜行」のようなおどろおどろしい和のテイストを含みながら、この曲はこうして最後に演奏されるべくして演奏されている。なぜなら「逆転満塁ホームラン」も「0-2からのハットトリック」も、最後に決まるからこそより劇的だからである。だからこの曲のように、劇的な大逆転劇を見せてくれた後に、最期にこのバンドと我々ファンは今よりもはるかに高いところで笑うことができているはずだ。その確信が、今は過去最高にある。
アンコールではまずは亮介とツアーTシャツに着替えたテツがステージに出てきて、向かい合ってブルージーなギターを弾き合い(テツがアドリブっぽく「笑点のテーマ」らしきフレーズを弾いていた)、
「a flood of circleの新しいアルバム〜 3月6日に出る〜」
と、いきなりのニューアルバムリリースを発表。前作が出たのが今年の2月なので、やはりとんでもないペース。しかしながら亮介からしたら
「アメリカのヒップホップアーティストは年に6枚くらいミックステープ出してる。ロックンロールバンドだけがリリースあんまりしなくていいっていうことはない」
と、音楽だけでなく活動スタイルからも世界のさまざまなアーティストからの影響を受けていることを語ると、
「テツが入ってきて、ナベちゃんが守り続けてきてくれて、姐さんが支え続けてくれて、今も心の片隅に置いてくれているあんたらのおかげで昔の曲がやれている」
と、やはり今まではやりたくてもなかなか過去の曲をできなかったが、今ならできるというバンドの状態を改めて語ると、冒頭の「百鬼夜行」同様に「ZOOMANITY」収録の「最後の晩餐」とまたしても観客を驚かせるような選曲で自身の言葉を身をもって証明すると、テツが一丘にイントロのリズムを求めるも一丘がなかなかOKを出さず、最後には観客とテツが一緒になって「カモン!」と叫ぶと満足そうな表情を見せた一丘が叩き出したのは4つ打ちのダンスビート。
観客のリズムに合わせた手拍子がさらに楽しさを加速させる中で演奏されたのは「世界は君のもの」。観客が実に楽しそうに踊りまくる中、ラストのサビ前のフレーズで亮介は観客に歌を任せる。そして響いた
「飛ぶだけ!!!」
の大合唱。その瞬間、世界は間違いなく我々のものだった。
やはりメンバーが変わってバンドの形が変わるということは、側から見ると停滞感を感じさせる。新しいメンバーとバンドのグルーヴを一から構築していかないといけないし、いきなり全ての曲をライブでできるわけもなく、とりあえずは定番曲、代表曲の連発という形になりがちだからであるし、そうして出入りが続くと「あの編成の頃によく見に行ってた」「あのメンバーの時は良かった」と、変化に対応できずに脱落していく人もたくさん出てくる。(実際に様々なバンドでそうしてライブに来なくなる人を見てきた)
フラッドの歴史はその繰り返しだった。入ってはいなくなり、また入ってライブをある程度できるようになったらいなくなり…。そうした過程はやはりメンバーがずっと変わらずに活動しているバンドのように常に右肩上がりの曲線を描けるような活動ではなかった、と今でも思うし、それが本当に悔しくてもったいないと思うのだけど、フラッドはこれから間違いなくその軌道に乗っていける。
今までも事あるごとに「今のフラッドが1番最強」と言い続けてきただけに、もはやなにやってもそう言うんじゃないか、と思われるだろうけれど、それでもやっぱり今のフラッドが1番最強なのである。10年以上ずっと見てきて、今になってそう言えるっていうのは本当に幸せなことだし、きっとさらに10年後も同じことが言えているはず。だからこのバンドのライブに行くのはもうやめられない。
だから今、あんまり音楽が詳しくない人に
「今1番ライブ見た方がいいバンドって誰?」
と聞かれたら迷わず
「a flood of circle」
と答えるし、冒頭に書いたROCK IN JAPAN FES.での
「ROCKって何!?」
という問いにも自分ならこう答える。
「a flood of circleというバンドのことだ」
と。
1.百鬼夜行
2.Ghost
3.Dancing Zombiez
4.Dirty Pretty Carnival Night
5.Where Is My Freedom
6.鬼殺し
7.Sweet Home Battle Field
8.春の嵐
9.夏の砂漠
10.コインランドリー・ブルース
11.Honey Moon Song
12.DEAR MY ROCKSTEADY
13.Blood & Bones
14.ロシナンテ
15.ミッドナイト・クローラー
16.プシケ
17.シーガル
18.美しい悪夢
encore
19.最後の晩餐
20.世界は君のもの
美しい悪夢
https://youtu.be/0UH5cHztaME
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正式に4人編成になってからの初出演。決してラインナップに毎年名前が並ぶ存在ではないし(現に年末のCOUNTDOWN JAPANには名前がない)、出るステージも大きいわけではない。そんな、決してそのフェスの何かを背負っているわけではないし、もはやデビューしてから10年の月日が経ち、若手バンドと違ってこれから存在をアピールしていくという立場ではない。そんなバンドがあの巨大なフェスで
「ROCK IN JAPANに来ると毎年考える。ロックって何!?」
と問いかけ、あのフェスのROCKの部分を背負おうとしていた。その意志が、精神が音に乗り移っていた。15年通い続けているロッキンにおいて、今まであの会場で見てきた中でTOP5に入るくらいの素晴らしいライブだった。
そのロッキンのライブ時に披露されていた新曲「夏の砂漠」を含め、3曲全てを佐々木亮介の盟友であるUNISON SQUARE GARDENの田淵智也がプロデュースしたニューシングル「13分間の悪夢」のリリースツアーは東名阪の3会場を回るものになり、この日の渋谷CLUB QUATTROがツアーファイナル。割とこれまではこのくらいのキャパが適正、的な感じではあったが、今回は即完となり、いよいよ4人になっていろんなことの足並みが揃ってきた感じがする。
18時になると場内が暗転し、おなじみのSEとともにメンバーが登場。先にステージに現れたアオキテツ(ギター)、HISAYO(ベース)、渡邊一丘(ドラム)の3人はシャツなど真っ白な衣装で統一されており、では亮介もやはり白?と思っていると、赤い革ジャンを着ているという己の道を突き進む姿勢をこういうところでも見せている。
バンドが音を出し始めると、最初思わず「あれ?この曲なんだっけ?」と思ってしまったくらいに久々に演奏された「ZOOMANITY」収録の「百鬼夜行」からスタートというあまりにも意外すぎる展開。間奏では早くもテツがステージ前に出てギターソロを弾きまくり、ものすごく久しぶりにライブで聴いた曲もこの4人のものになっている、という事実に胸が熱くなる。
さらに続けざまに「PARADOX PARADE」収録の「Ghost」と、演奏されるなんて思いもよらなかった曲が続く。そもそもこの曲はメジャー1stフルアルバムの「BUFFALO SOUL」のリリースツアーファイナル(初代ギタリストの岡庭が直前に失踪し、このバンドの運命を決定付けたライブでもある)の代官山UNITでなんの紹介もされずに演奏され、「あの曲はなんだったのか」と来場者の話題になったことを思い出す。
あの時の何をやっても盛り上がることのない異様な空気とは異なり、メンバーの熱さが飛び散るような演奏もあり、久しぶりに聴けた嬉しさもあり、客席も早くも熱い盛り上がりを見せている。
「おはようございます、a flood of circleです!」
とここでようやく亮介が自己紹介をすると、「Dancing Zombiez」ではおなじみの熱い演奏のアウトロが追加され、テツだけでなく亮介とHISAYOもステージ前に出てさらなる熱さを煽るように演奏。
テツがもはやカッティングの鬼となった「Dirty Pretty Carnival Night」と序盤から恐ろしいほどの勢いで駆け抜けると、前回のツアーのタイトルにもなり、そのツアーではイントロに打ち込みの音を追加していた「Where Is My Freedom」へ。今回はオリジナルバージョンの演奏だったが、ミクスチャー色の強いサウンドに合わせて亮介はハンドマイクで客席に突入していき、最後には観客の上に倒れこむような形に。
そのまま亮介の愛する酒のテーマ曲とも言える「鬼殺し」でも亮介は客席に突入し、
「馬鹿野郎!」
という飲み過ぎを戒めるような大合唱。ついつい亮介の方ばかりに目がいってしまうが、その亮介を音で支える一丘のドラムの力強さがさらに増している。普通のバンドなら安定感が求められるところであるが、このバンドにおいて求められるのは音の強度である。
亮介がタンバリンを手にして叩きながら歌う「Sweet Home Battle Field」では亮介がタンバリンをテツの顔に押し付けたりという微笑ましい場面を見せてくれたので、客席にもその空気が伝わったのか、曲間にはメンバーをいじるような歓声が飛ぶと、
「うるせぇ!ぶっ飛ばすぞ!」
と過激なリアクションを見せながら実に嬉しそうな顔を見せる亮介。この日は喉の調子が万全ではなさそうだったが、観客が楽しんでくれているのを見てさらにライブを楽しんでいる様子。
「11月だけど、この曲。今日は色々と狂わせていくから。狂って帰ってくれ!」
と季節外れな曲をやることを紹介したので、なんの曲が来るのかと思いきや、演奏されたのはまさかの「春の嵐」。これまでは3月か4月のライブのアンコールくらいでしか演奏されていなかったこの曲がここで演奏されるのだからそれは狂っても仕方がない。
またこの曲はAメロの前半にギターが入っていないので、歴代のギタリストたちは変なポーズを取ったり、クールに自分のパートを待ったりしていたのだが、テツはどうかというと、Aメロからギターを弾きまくっている。つまり、ただ単に既存の曲を今の4人でやっている、というわけではなく、この4人だからこその最新形として曲を進化させている。昔の曲ばかりやるのはともすれば今や未来への否定に繋がってしまうパターンもあるが、このバンドにおいてはそれが全くない。過去の曲すらもバンドの進化を示すものになっている。そもそもがデビューから10年を迎えたバンドとは思えないくらいのリリースペースを維持している、未来に突き進みまくってきたバンドなだけに、後ろ向きなことなんかするわけがないのである。
春の次の季節は夏。ということで続いては最新シングル「夏の砂漠」。
「冒険者たちは進む 新しい水を求めて」
とバンドがこれからも進み続ける強い意志を砂漠を進むキャラバンに例え、フラッド史上最も開けたメロディが広がる。フラッドの居場所はやはりライブハウスだけれど、この曲を聴くと夏の野外の大きなステージ(それこそあのフェスの大き過ぎるようなメインステージでも)でこのバンドのライブを見たくなる。決して状況が劇的に上向いているわけではないけれど、こうして新しい曲が出るたびに、まだまだそこを目指せると思えるし、このバンドにそこまで連れて行って欲しい、と本気で願っている。
亮介がギターを交換すると、一転してブルージーな雰囲気に。フラッドの切なさサイドの極みとでもいうような名曲「コインランドリー・ブルース」から、ブルージーなようでいて、亮介のロマンチックさが炸裂している、個人的にこのバンドの曲でトップクラスにポップな曲だと思っている「Honey Moon Song」を終えると、もうライブが終わりなんじゃないかというような気分になってしまう。それくらいにこの曲はライブを締め上げる力を持っている名曲だと思う。
現在映画が大ヒットを記録しているQueenの「We will rock you」のリズムと、亡くなったアレサ・フランクリンの曲へのオマージュだと思われる「DEAR MY ROCKSTEADY」ではそれこそQueenを思わせる壮大なコーラスの大合唱が起こり、この曲がこれからもライブの場で大きな曲になっていくであろうことを予感させる。
テツが物販で販売されている水筒に入った水を飲むと、
テツ「a flood of circleもサコッシュなり水筒なり、生活に密着したロックバンドとしてのグッズを出していて…」
一丘「それで飲むと美味いの?」
テツ「そりゃあもちろん。a flood of circleの水筒だからね!」
とテレビショッピングのような物販紹介をするも、結局はHISAYOの
「ビールを水筒に入れる」
という酒飲みの極み的な発想に全て持っていかれてしまい、悔しがるテツ。それを見て
「テツは本当に可愛い」
と言うHISAYO。すぐさま客席からはHISAYOへの可愛いコールが起こっていたが、亮介も言っていたとおりに、テツが入ったことによってライブの雰囲気は明らかに変わった。ステージと客席の精神的な距離がさらに近くなった。演者と観客というよりも、同じロックンロールを愛する同士というか。それは狙ってやっても作ることができるものではない。テツがもたらしたものは演奏面もそうだが、そうした人柄によるものも大きい。実際にテツは物販にいるときに喋ったりすると、本当に好青年という印象しか出てこない。
そんなテツがギターをスティールギターのような持ち方をしてかき鳴らしまくると、その直前の穏やかな空気を切り裂くような「Blood & Bones」から再びロックンロールに振り切れていき、この後半になってダイバーが続出。でもフラッドの観客はなんでも盛り上がる曲だから飛ぶ、というような人はいなくて、この日のこの曲のように、あまりにもバンドの演奏が良すぎてテンションが昂ぶってしまい、気づいたら飛んでる、という人ばかりだ。その感覚はメジャーデビュー直後から(当時はダイブする人はいなかったけど)あったとはいえ、ここに来てさらに強くなっている。それもそのはず、このバンドは紛れもなく今が最強なのだから。
「何かを失くしながらそれでも行かなくちゃ」
という歌詞が後のバンドの運命を自ら予言しているかのような「ロシナンテ」はまさに喪失と再出発の繰り返しという歴史を持ってしまったこのバンドのテーマソングと言ってもいい存在だが、今はそこよりも
「それでも行かなくちゃ」
という、ひたすらに止まることなく進み続けてきたことすらも予見していたかのようなポジティブな部分を強く感じさせる。それはこのバンドのこれまでの活動によってそう思うようになった。こうして10年以上前の曲たちの持つ意味がその都度変わっていくというのも実に面白いし、なによりバンドの歴史を改めて実感させる。
止まることなく駆け抜けていく「ミッドナイト・クローラー」を終えると、亮介、テツ、HISAYOの3人がドラムセットに集まってイントロを合わせる。紛れもなく「プシケ」だ。観客の手拍子に合わせたおなじみのメンバー紹介では
「ドラム、渡邊一丘!」
「ベース、HISAYO!」
「ギター、アオキテツ!」
「ボーカル、佐々木亮介!」
と1人ずつスポットライトが当たり、その度に最初はドラムだけだった音にそれぞれの音が順番に乗っかり、最後に
「a flood of circle!」
と亮介が叫ぶと、それはこの4人と我々のものになる。ある意味では正式に4人になり、最強の形にバンド自身がなったことによって、インディーズ時代からずっとライブでやり続けてきたこの曲もついに完全体となったのである。実際、今まで見てきた中で最も素晴らしい「プシケ」だった。
そして
「俺たちとあんたらの明日に捧げます!」
というおなじみの曲フリによって始まった「シーガル」では亮介がマイクを客席に向け、サビを観客に大合唱させる。その合唱がこれまでで最も胸を打つものだったのは、バンドと客席の距離の近さによって、1人1人の歌声が合わさって、a flood of circleという決して世の中においては有名ではないバンドを愛し続けてきた人たちがこんなにたくさんいて、思わず喉が痛くなってしまうくらいの声量を出してしまうくらいにこのバンドのライブが過去をはるかに上回るくらいに素晴らしいものだったから。昔、初めてこの曲を聴いた時はこんな曲になるなんて全く思ってなかった。これもまた続けてきたバンドの歴史がこの曲をこうしてバンドとファンの絆を感じさせる曲に成長させたのである。
そしてラストは今回のツアータイトルにもなっている、まさかのドラマのタイアップ曲「美しい悪夢」。イントロのキメ連発にこそUNISON SQUARE GARDENの田淵がプロデューサーだからこそ、という感じがするが、今回のシングル3曲の中で最もライブで真価を発揮していたのはこの曲だ。それは最後のグルーヴが極まった状態で演奏されたからこそそう思ったのかもしれないが、冒頭の「百鬼夜行」のようなおどろおどろしい和のテイストを含みながら、この曲はこうして最後に演奏されるべくして演奏されている。なぜなら「逆転満塁ホームラン」も「0-2からのハットトリック」も、最後に決まるからこそより劇的だからである。だからこの曲のように、劇的な大逆転劇を見せてくれた後に、最期にこのバンドと我々ファンは今よりもはるかに高いところで笑うことができているはずだ。その確信が、今は過去最高にある。
アンコールではまずは亮介とツアーTシャツに着替えたテツがステージに出てきて、向かい合ってブルージーなギターを弾き合い(テツがアドリブっぽく「笑点のテーマ」らしきフレーズを弾いていた)、
「a flood of circleの新しいアルバム〜 3月6日に出る〜」
と、いきなりのニューアルバムリリースを発表。前作が出たのが今年の2月なので、やはりとんでもないペース。しかしながら亮介からしたら
「アメリカのヒップホップアーティストは年に6枚くらいミックステープ出してる。ロックンロールバンドだけがリリースあんまりしなくていいっていうことはない」
と、音楽だけでなく活動スタイルからも世界のさまざまなアーティストからの影響を受けていることを語ると、
「テツが入ってきて、ナベちゃんが守り続けてきてくれて、姐さんが支え続けてくれて、今も心の片隅に置いてくれているあんたらのおかげで昔の曲がやれている」
と、やはり今まではやりたくてもなかなか過去の曲をできなかったが、今ならできるというバンドの状態を改めて語ると、冒頭の「百鬼夜行」同様に「ZOOMANITY」収録の「最後の晩餐」とまたしても観客を驚かせるような選曲で自身の言葉を身をもって証明すると、テツが一丘にイントロのリズムを求めるも一丘がなかなかOKを出さず、最後には観客とテツが一緒になって「カモン!」と叫ぶと満足そうな表情を見せた一丘が叩き出したのは4つ打ちのダンスビート。
観客のリズムに合わせた手拍子がさらに楽しさを加速させる中で演奏されたのは「世界は君のもの」。観客が実に楽しそうに踊りまくる中、ラストのサビ前のフレーズで亮介は観客に歌を任せる。そして響いた
「飛ぶだけ!!!」
の大合唱。その瞬間、世界は間違いなく我々のものだった。
やはりメンバーが変わってバンドの形が変わるということは、側から見ると停滞感を感じさせる。新しいメンバーとバンドのグルーヴを一から構築していかないといけないし、いきなり全ての曲をライブでできるわけもなく、とりあえずは定番曲、代表曲の連発という形になりがちだからであるし、そうして出入りが続くと「あの編成の頃によく見に行ってた」「あのメンバーの時は良かった」と、変化に対応できずに脱落していく人もたくさん出てくる。(実際に様々なバンドでそうしてライブに来なくなる人を見てきた)
フラッドの歴史はその繰り返しだった。入ってはいなくなり、また入ってライブをある程度できるようになったらいなくなり…。そうした過程はやはりメンバーがずっと変わらずに活動しているバンドのように常に右肩上がりの曲線を描けるような活動ではなかった、と今でも思うし、それが本当に悔しくてもったいないと思うのだけど、フラッドはこれから間違いなくその軌道に乗っていける。
今までも事あるごとに「今のフラッドが1番最強」と言い続けてきただけに、もはやなにやってもそう言うんじゃないか、と思われるだろうけれど、それでもやっぱり今のフラッドが1番最強なのである。10年以上ずっと見てきて、今になってそう言えるっていうのは本当に幸せなことだし、きっとさらに10年後も同じことが言えているはず。だからこのバンドのライブに行くのはもうやめられない。
だから今、あんまり音楽が詳しくない人に
「今1番ライブ見た方がいいバンドって誰?」
と聞かれたら迷わず
「a flood of circle」
と答えるし、冒頭に書いたROCK IN JAPAN FES.での
「ROCKって何!?」
という問いにも自分ならこう答える。
「a flood of circleというバンドのことだ」
と。
1.百鬼夜行
2.Ghost
3.Dancing Zombiez
4.Dirty Pretty Carnival Night
5.Where Is My Freedom
6.鬼殺し
7.Sweet Home Battle Field
8.春の嵐
9.夏の砂漠
10.コインランドリー・ブルース
11.Honey Moon Song
12.DEAR MY ROCKSTEADY
13.Blood & Bones
14.ロシナンテ
15.ミッドナイト・クローラー
16.プシケ
17.シーガル
18.美しい悪夢
encore
19.最後の晩餐
20.世界は君のもの
美しい悪夢
https://youtu.be/0UH5cHztaME
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