キツネツキ 1st ALBUMリリースツアー「こんこん古今東西ツアー2018」 対バン:teto @渋谷CLUB QUATTRO 11/3
- 2018/11/04
- 15:31
元々は腕を負傷して9mm Parabellum Bulletの滝がステージに立てる場所を作りたいという菅原卓郎の思いによって、滝がギタリストではなくドラマーとして(今となっては信じられないが、滝は元々ドラマーだった)リハビリ的に卓郎と2人で組んだバンドである、キツネツキ。
しかしながらライブごとに変わる取り憑かれメンバーことサポートメンバーを加えながら活動は本格化し、ついに1stフルアルバム「キツネノマド」をリリースするくらいに。そしてそのアルバムのリリースツアーのファイナルとなるのが、この日の渋谷CLUB QUATTRO。今回のツアーは対バンツアーであるが、この日の対バンは今、自分が最も評価している若手バンドと言っていい存在のteto。
・teto
先攻、ゲストのteto。おなじみNirvana「Silver」のSEで登場すると、ギターの山崎のアフロヘアがさらに巨大化し、さながらGOING STEADY末期の頃の峯田和伸のようですらある。(当時の峯田同様にジャージを着ている)
最後に黒いジャケットを着用した小池(ボーカル&ギター)が登場すると、そのまま客席に突入し、
「キツネツキ、イェーイ!今日という日をめちゃくちゃ楽しみにしてきました!」
と挨拶してから、もはや何を歌っているのかわからないくらいのレベルのテンションの高過ぎる歌い方での「高層ビルと人工衛星」からスタートし、冒頭から小池のみならずメンバー4人全員の衝動が炸裂しまくっている。
「我々は、この会場を温めなければならない!俺を捨てたあの子の体温と同じくらいに!」
と「36.4°C」につなぐあたりは実にうまいが、小池は事あるごとに客席に飛び込みまくり、あろうことかステージを撮影していたカメラマンのカメラを奪取して客席を撮りまくるというパフォーマンスには唖然としてしまう。
キャッチーなコーラス部分では小池が促した通りに合唱が起こった「Pain Pain Pain」と畳み掛けながら小池は
「ニューヨークに行きたいかー!」
と、かなり世代を選ぶコール&レスポンスを実行するのだが、なぜいきなりウルトラクイズなのかは全くわからない。ニューヨークを感じさせる曲もフレーズも全くないだけに、ただ衝動に任せて出てきたのがこの言葉だったのかもしれない。
しかしながらこちらも待望の1stフルアルバム「手」をリリースし、そのツアーの真っ最中ということもあってか、バンドのライブのレベルそのものが夏フェス期間よりさらに上に上がっている。
それを証明するのが「手」に収録された新曲たちなのだが、
「土曜日の渋谷にいる、24時間営業みたいなパーティーピーポーたちが僕は好きじゃありません!汚い手で金を稼ぐ商人の大人はもっと好きじゃありません!」
という「市の商人たち」「洗脳教育」はまさにその進化を示すパート。
tetoはひたすらに言いたいことを詰め込みまくるような小池の歌唱スタイルだが、ただ闇雲に言葉を並べるのではなく、インタビューでも明言している通りに、言いたいこと、言いたい相手が明確に存在しているし、その言葉は現代の社会や政治に向けられているのがよくわかるのがこの2曲。
とりわけ「市の商人たち」は歌詞では
「死の商人」
と表記されており、これは人を殺すための武器を他国に輸出することで利益を得ようという我が国の首相をはじめとした政府が「死の商人」と呼ばれたことから浮かんだ歌詞であることは間違いない。
また「洗脳教育」ではどこか銀杏BOYZ「メス豚」を彷彿とさせるコーラスパートがあるが、曲のテーマや歌詞の内容は重くても、そうしたキャッチーなフックが、どこまでもこのバンドの持つ「メロディーの素晴らしさ」を引き立たせている。
もう今日の短い持ち時間で何回ダイブした?って思ってしまうくらいに小池がダイブしまくった「暖かい都会から」を終えると、さっきまで
「ニューヨークに行きたいかー!」
と言っていた男の言葉とは思えない、
「自分が今までに傷つけてきた人とか、犯した罪とかが十字架のようにのしかかりながら生きていて。そういう曲です」
というシリアスな思いを込めた「溶けた銃口」ではそれまでの曲からははるかにBPMを落とし、勢いや衝動よりもメロディーや歌詞のメッセージをしっかりと聴かせるように演奏していく。
そしてラストは
「今日のこの日のことは絶対忘れたくないです!いや、忘れません!」
という小池の曲前の言葉が
「今日のキツネツキとの渋谷QUATTRO」
と、忘れたくないこととして歌詞にも登場した「忘れた」。
tetoの中でも最も聴かせるタイプの曲であるが、演奏が終わると激しいキメが追加され、山崎はギターを頭に乗せながら何度もピースしていた。小池は髪をかきあげたりするとかなり顔のイメージが変わって見えるのだが、最後には元に戻っていた。
この後、卓郎にも
「親近感の湧くライブと山崎くんの髪型」
と言われていたが、パンクやグランジ、オルタナという要素が強いtetoの音楽にはメタルや歌謡の要素が強い9mmの直接的な影響は感じられないが、世代的には間違いなく9mmを聴いてきただろうし、そうした憧れの人たちのツアーに呼んでもらえているという喜びが表情や演奏から強く感じられた。
12月のファイナルまでまだ1ヶ月以上ツアーを回りながら、来週には銀杏BOYZのツアーの対バンも務める。そうした、レジェンドクラスの先輩たちと同じステージに立つことによって、このバンドはさらに強くなる。「手」は2018年きっての名盤であると思っているが、このバンドはそのクオリティにライブの力がしっかり伴っている。
1.高層ビルと人工衛星
2.36.4°C
3.Pain Pain Pain
4.市の商人たち
5.洗脳教育
6.暖かい都会から
7.溶けた銃口
8.忘れた
・キツネツキ
普通、この規模であったり、アマチュアや完全インディーなバンドでもないかぎり、ライブではスタッフが転換を行い、サウンドチェックもスタッフが行う。
しかしながらキツネツキは普通にメンバーが出てきてサウンドチェックを行い、なんならセッション的な演奏までもしてしまう。これは9mmのライブなどではあり得ないことであり、こうした部分からも、このバンドの持つ空気が9mmとは全く違うものであることがわかる。実はライブを見るのは初めてだったりするのだが。
ステージの下手に卓郎のマイクスタンド、上手にドラムセットと、やはり実にシンプルな、というか卓郎と滝というメンバーの規模から考えるとかなり小さいと言ってもいいこのQUATTROのステージがやけに広く見える。
2人がステージに登場すると、滝はキャップを被ってドラムセットに座り、2人が口笛を吹くイントロ的な「キツネツキのテーマ」からスタートし、ギターとドラムのみというロックバンドの最小編成によるシンプルかつストレートなサウンドが炸裂していく。
「All Winner Ring Sun」
という観客も含めての大コーラスが「おいなりさん」にしか聞こえない(というかそれに似た英語を無理矢理当てはめている)「ふたりはサイコ」と、ドラマーであるためステージからは動けない滝であるが、そのドラムのぶっ叩き方と音がギターを弾いている時と同じくらいに爆裂している。やはり急造のドラマーではなく、ドラムを叩いてきたミュージシャンであるというのを感じさせるくらいに上手い。
最後のキメの寸前でスティックを落としてしまうという、卓郎いわく「ツアーファイナルっぽい」アクシデントもあったが、それはどうやらシンバルの取り付けがかなり緩かったらしく、取り憑かれメンバーの1人であるロッキーこと渡部宏生(heaven in her arms)がサポートドラマーとして登場すると、早速シンバルを取り付け直すという間が生まれていた。
サポートドラマーが登場したということは、滝は?と思っていると、卓郎とドラムセットの真ん中でフライングVを手にし、早くもドラムからギターにパートチェンジし、卓郎がアルバム「キツネノマド」の語源を解説し、妖怪かどうかを見破るためのポーズを観客に伝授すると、
「ここは妖怪ばかりですね…。みなさん、天狗ですか?」
という問いかけにより、自ら「アルバムの中でも1番の問題曲」と評した「てんぐです」へ。
「渋谷QUATTROは」
と歌詞を変えながら「てんぐです!」というサビのフレーズを観客に歌わせると、滝がフライングVのボディの裏側を客席に見せると、見事なきつね色ということで、童謡「子ぎつね」の爆裂ロックカバーへ。まさかこの歳になってこの曲を金銭と時間を費やしてまで聴くことになるなんて全く想像していなかった。
キツネなのにタヌキの歌という、まるでカップうどんに合わせているのか、と思う
「ぽんぽこぽんのぽん」
という脱力必至のフレーズすらもカッコいいロックに仕上げてしまう「証城寺の狸囃子」から、このバンドがお遊びや息抜きではなく(そうした要素があるのは間違いないが)シーンに本当の意味で登場したことを宣言した「ケダモノダモノ」のスリーピースロックバンドとしてのカッコよさに、ついついさっきまで童謡を歌っていたバンドであることを忘れてしまう。
9mmとはそもそもの編成も違うし、最も違うのは歌詞であると自分は捉えているのだが、今の9mmの歌詞が様々な苦難や試練を乗り越えても続けていこうとする意志を感じさせたり、そうした意味や裏側を読み解きたくなるものになっているのに対して、キツネツキの歌詞はどこまでも意味がない。ひたすらに言葉の響きのみで作られているし、そこに遊び心を持たせているからこそ、童謡のカバーと同列にアルバムに収録することができる。
その全くタイプの違う歌詞を書ける、ということから、9mmの初期は「何にも言いたいことがなかった」と自身で回顧するくらいに歌詞に対する意識が低かった卓郎が、もはや名作詞家と言っていいレベルにまで達しているという事実をまざまざと実感させられる。
するとなんの紹介もなく、スッとステージに現れてそのまま演奏に参加しようという人が。それはこの日2人目の取り憑かれメンバーである、BIGMAMAの東出真緒。ヴァイオリニストであるため、当然ヴァイオリンでの参加となるのだが、ベース不在でヴァイオリンとギターがいるという編成は実に珍しい、というか他にいるのだろうか。
「見つけに行こうぜ!」
と東出を加えた4人編成で演奏されたのは童謡カバー第2弾「小さい秋見つけた」。この曲の持つ切なさのようなものが東出のヴァイオリンの音で増幅されているし、何よりも爆音ロックアレンジが実にカッコいい。今後もこのバンドが活動することによって、こうしていろんな童謡にカッコよさを感じるようになっていくのだろうか。
タイトルそのまんまな歌詞の「かぞえうた」からはなんと滝もヴァイオリンになり、ボーカル&ギター、ドラム、ヴァイオリン×2というとんでもない編成に。しかも普通にヴァイオリンもめちゃくちゃ上手いのが凄すぎる。滝はどんな楽器でも弾けるのだろうか。東出がドラムに寄っていってキメを打つという、即席バンドとは思えない息の合った演奏を見せる。
ヴァイオリン2人という編成でのセッションからのインスト曲「It and Moment」を演奏すると、卓郎がメンバー紹介をしながら滝がヴァイオリンで「魔女の宅急便」の曲を演奏すると、それに反応した卓郎のリクエストにより「もののけ姫」、さらには9mmの「新しい光」までも演奏し、
「なんでもできるんだな〜」
とメンバーからも関心されるヴァイオリンの技術の高さを見せつける。
「9mmのライブではここでいつも呪文を唱えているんだが…キツネツキの時は「行けますか?」みたいに言ってるんだけど(笑)
今日は…渋谷、行けるかー!!」
と卓郎おなじみの煽りがこの日のキツネツキのライブでも発動すると、卓郎、滝、東出の3人がステージ前方まで出てきてコーラスの合唱を煽った「Go-Hong Zone」ではBIGMAMAのライブ同様に東出がヴァイオリンの弓を指揮棒のように振り、
「ハイカラだとかアルカラだとか」
と言葉遊びの極みのような「ハイカラちゃん」でさらに熱狂は増し(アルカラの下上はキツネツキの取り憑かれメンバーの1人でもある)、このバンドの中で最もまともなメッセージを持った「まなつのなみだ」ではこの日最大の寂寞感が会場を包み込んでいく。ある意味最も9mmでもできそうな曲であるが、それをこのバンドのものにしているのはやはり東出と滝のヴァイオリンの音。まるでこの編成で演奏されるのを予期していたかのようですらある。
そしてラストは爆裂インスト曲「QB」でそれぞれが思いっきり力を込めた音での演奏を叩きつけて本編は終了したが、「このバンドのライブってこんなに盛り上がるものなのか」と驚いてしまうくらいの熱狂っぷりだったし、観客がみんなキメ連発のタイミングを完璧にわかっているところに、この会場にいた人たちはみんなこのバンドに取り憑かれているな、と思った。
アンコールではまずは4人で「キツネツキのテーマ2」を演奏すると、この日の対バン相手であるtetoの山崎陸もステージに登場し、卓郎とのツインギター、さらに滝はステージ中央に置かれたドラムセットに座り、ツインドラムという5人編成に。
「キツネツキの曲は簡単だから、こうしていろんな人が参加できる」
という卓郎の言葉を表すかのようにこの日2回目の「ケダモノダモノ」は本編でのスリーピースでの演奏とは全く違う表情を見せる。ある意味でこの形はものすごく画期的であるし、各地のツアーでも取り憑かれメンバーや対バン相手によって全く違う曲になっていたのだろう。
「来年は9mmが15周年だから、キツネツキはあんまり活動しないと思うけど、8月じゃなくてもまた会いましょう。あ、12月にまだライブあるか(笑)」
と卓郎が「まなつのなみだ」の歌詞を引用するうまさを見せながら天然っぷりを発揮すると、ラストは全員が視覚的にも聴覚的にも暴れまくる「CC Odoshi」で、1時間ちょっとという短い時間でありながら現状の持ち曲を全て演奏した。
去り際に山崎が客席に投げキスをしまくるというお茶目さと、このライブに参加できたことの嬉しさ、楽しさを爆発させると、卓郎は中央の滝のドラムセットに座り、終演SEに合わせてドラムを叩き始めるという実にレアな姿を見せてくれ、最後には
「9mm、レコーディング始まります!」
と嬉しい告知をしてからステージを去った。
「キツネツキは温泉旅館みたいなバンド」
と例えたように、本気の演奏やライブを見せながらも肩の力が入った感じが一切ない、実に楽しい空間を作り出していた。
卓郎と滝の2人によるバンド、というと4.5mm Parabellum Bulletであるが、取り憑かれメンバーや対バンのメンバーも参加することで、その4.5mmが何倍にも増幅されるという、このバンドだからこその形と可能性をしっかり感じさせてくれた。
それはもはやこのバンドが9mmの息抜きプロジェクトどころではないことを示していたし、9mm本隊があって、アコースティックのAC 9mmがあって、このバンドがあって、菅原卓郎のソロまである。全て追いかけるのは大変でもあるけれど、どれもが全く違う感動を与えてくれるし、その中でもキツネツキはステージに立っている側も観客も本当に楽しそうだ。そうした相互作用は挙げたあらゆる形態に派生していくと思うし、やはり9mmと出会えたことは本当に幸せなことだよな、と思える。
1.キツネツキのテーマ
2.Odoro Odoro
3.ふたりはサイコ
4.てんぐです
5.子ぎつね
6.証城寺の狸囃子
7.ケダモノダモノ
8.小さい秋みつけた
9.かぞえうた
10.It and moment
11.Go-hong Zone
12.ハイカラちゃん
13.まなつのなみだ
14.QB
encore
15.キツネツキのテーマ2
16.ケダモノダモノ
17.CC Odoshi
ケダモノダモノ
https://youtu.be/e1-kM5Lgsa8
Next→ 11/4 NICO Touches the Walls @幕張メッセイベントホール
しかしながらライブごとに変わる取り憑かれメンバーことサポートメンバーを加えながら活動は本格化し、ついに1stフルアルバム「キツネノマド」をリリースするくらいに。そしてそのアルバムのリリースツアーのファイナルとなるのが、この日の渋谷CLUB QUATTRO。今回のツアーは対バンツアーであるが、この日の対バンは今、自分が最も評価している若手バンドと言っていい存在のteto。
・teto
先攻、ゲストのteto。おなじみNirvana「Silver」のSEで登場すると、ギターの山崎のアフロヘアがさらに巨大化し、さながらGOING STEADY末期の頃の峯田和伸のようですらある。(当時の峯田同様にジャージを着ている)
最後に黒いジャケットを着用した小池(ボーカル&ギター)が登場すると、そのまま客席に突入し、
「キツネツキ、イェーイ!今日という日をめちゃくちゃ楽しみにしてきました!」
と挨拶してから、もはや何を歌っているのかわからないくらいのレベルのテンションの高過ぎる歌い方での「高層ビルと人工衛星」からスタートし、冒頭から小池のみならずメンバー4人全員の衝動が炸裂しまくっている。
「我々は、この会場を温めなければならない!俺を捨てたあの子の体温と同じくらいに!」
と「36.4°C」につなぐあたりは実にうまいが、小池は事あるごとに客席に飛び込みまくり、あろうことかステージを撮影していたカメラマンのカメラを奪取して客席を撮りまくるというパフォーマンスには唖然としてしまう。
キャッチーなコーラス部分では小池が促した通りに合唱が起こった「Pain Pain Pain」と畳み掛けながら小池は
「ニューヨークに行きたいかー!」
と、かなり世代を選ぶコール&レスポンスを実行するのだが、なぜいきなりウルトラクイズなのかは全くわからない。ニューヨークを感じさせる曲もフレーズも全くないだけに、ただ衝動に任せて出てきたのがこの言葉だったのかもしれない。
しかしながらこちらも待望の1stフルアルバム「手」をリリースし、そのツアーの真っ最中ということもあってか、バンドのライブのレベルそのものが夏フェス期間よりさらに上に上がっている。
それを証明するのが「手」に収録された新曲たちなのだが、
「土曜日の渋谷にいる、24時間営業みたいなパーティーピーポーたちが僕は好きじゃありません!汚い手で金を稼ぐ商人の大人はもっと好きじゃありません!」
という「市の商人たち」「洗脳教育」はまさにその進化を示すパート。
tetoはひたすらに言いたいことを詰め込みまくるような小池の歌唱スタイルだが、ただ闇雲に言葉を並べるのではなく、インタビューでも明言している通りに、言いたいこと、言いたい相手が明確に存在しているし、その言葉は現代の社会や政治に向けられているのがよくわかるのがこの2曲。
とりわけ「市の商人たち」は歌詞では
「死の商人」
と表記されており、これは人を殺すための武器を他国に輸出することで利益を得ようという我が国の首相をはじめとした政府が「死の商人」と呼ばれたことから浮かんだ歌詞であることは間違いない。
また「洗脳教育」ではどこか銀杏BOYZ「メス豚」を彷彿とさせるコーラスパートがあるが、曲のテーマや歌詞の内容は重くても、そうしたキャッチーなフックが、どこまでもこのバンドの持つ「メロディーの素晴らしさ」を引き立たせている。
もう今日の短い持ち時間で何回ダイブした?って思ってしまうくらいに小池がダイブしまくった「暖かい都会から」を終えると、さっきまで
「ニューヨークに行きたいかー!」
と言っていた男の言葉とは思えない、
「自分が今までに傷つけてきた人とか、犯した罪とかが十字架のようにのしかかりながら生きていて。そういう曲です」
というシリアスな思いを込めた「溶けた銃口」ではそれまでの曲からははるかにBPMを落とし、勢いや衝動よりもメロディーや歌詞のメッセージをしっかりと聴かせるように演奏していく。
そしてラストは
「今日のこの日のことは絶対忘れたくないです!いや、忘れません!」
という小池の曲前の言葉が
「今日のキツネツキとの渋谷QUATTRO」
と、忘れたくないこととして歌詞にも登場した「忘れた」。
tetoの中でも最も聴かせるタイプの曲であるが、演奏が終わると激しいキメが追加され、山崎はギターを頭に乗せながら何度もピースしていた。小池は髪をかきあげたりするとかなり顔のイメージが変わって見えるのだが、最後には元に戻っていた。
この後、卓郎にも
「親近感の湧くライブと山崎くんの髪型」
と言われていたが、パンクやグランジ、オルタナという要素が強いtetoの音楽にはメタルや歌謡の要素が強い9mmの直接的な影響は感じられないが、世代的には間違いなく9mmを聴いてきただろうし、そうした憧れの人たちのツアーに呼んでもらえているという喜びが表情や演奏から強く感じられた。
12月のファイナルまでまだ1ヶ月以上ツアーを回りながら、来週には銀杏BOYZのツアーの対バンも務める。そうした、レジェンドクラスの先輩たちと同じステージに立つことによって、このバンドはさらに強くなる。「手」は2018年きっての名盤であると思っているが、このバンドはそのクオリティにライブの力がしっかり伴っている。
1.高層ビルと人工衛星
2.36.4°C
3.Pain Pain Pain
4.市の商人たち
5.洗脳教育
6.暖かい都会から
7.溶けた銃口
8.忘れた
・キツネツキ
普通、この規模であったり、アマチュアや完全インディーなバンドでもないかぎり、ライブではスタッフが転換を行い、サウンドチェックもスタッフが行う。
しかしながらキツネツキは普通にメンバーが出てきてサウンドチェックを行い、なんならセッション的な演奏までもしてしまう。これは9mmのライブなどではあり得ないことであり、こうした部分からも、このバンドの持つ空気が9mmとは全く違うものであることがわかる。実はライブを見るのは初めてだったりするのだが。
ステージの下手に卓郎のマイクスタンド、上手にドラムセットと、やはり実にシンプルな、というか卓郎と滝というメンバーの規模から考えるとかなり小さいと言ってもいいこのQUATTROのステージがやけに広く見える。
2人がステージに登場すると、滝はキャップを被ってドラムセットに座り、2人が口笛を吹くイントロ的な「キツネツキのテーマ」からスタートし、ギターとドラムのみというロックバンドの最小編成によるシンプルかつストレートなサウンドが炸裂していく。
「All Winner Ring Sun」
という観客も含めての大コーラスが「おいなりさん」にしか聞こえない(というかそれに似た英語を無理矢理当てはめている)「ふたりはサイコ」と、ドラマーであるためステージからは動けない滝であるが、そのドラムのぶっ叩き方と音がギターを弾いている時と同じくらいに爆裂している。やはり急造のドラマーではなく、ドラムを叩いてきたミュージシャンであるというのを感じさせるくらいに上手い。
最後のキメの寸前でスティックを落としてしまうという、卓郎いわく「ツアーファイナルっぽい」アクシデントもあったが、それはどうやらシンバルの取り付けがかなり緩かったらしく、取り憑かれメンバーの1人であるロッキーこと渡部宏生(heaven in her arms)がサポートドラマーとして登場すると、早速シンバルを取り付け直すという間が生まれていた。
サポートドラマーが登場したということは、滝は?と思っていると、卓郎とドラムセットの真ん中でフライングVを手にし、早くもドラムからギターにパートチェンジし、卓郎がアルバム「キツネノマド」の語源を解説し、妖怪かどうかを見破るためのポーズを観客に伝授すると、
「ここは妖怪ばかりですね…。みなさん、天狗ですか?」
という問いかけにより、自ら「アルバムの中でも1番の問題曲」と評した「てんぐです」へ。
「渋谷QUATTROは」
と歌詞を変えながら「てんぐです!」というサビのフレーズを観客に歌わせると、滝がフライングVのボディの裏側を客席に見せると、見事なきつね色ということで、童謡「子ぎつね」の爆裂ロックカバーへ。まさかこの歳になってこの曲を金銭と時間を費やしてまで聴くことになるなんて全く想像していなかった。
キツネなのにタヌキの歌という、まるでカップうどんに合わせているのか、と思う
「ぽんぽこぽんのぽん」
という脱力必至のフレーズすらもカッコいいロックに仕上げてしまう「証城寺の狸囃子」から、このバンドがお遊びや息抜きではなく(そうした要素があるのは間違いないが)シーンに本当の意味で登場したことを宣言した「ケダモノダモノ」のスリーピースロックバンドとしてのカッコよさに、ついついさっきまで童謡を歌っていたバンドであることを忘れてしまう。
9mmとはそもそもの編成も違うし、最も違うのは歌詞であると自分は捉えているのだが、今の9mmの歌詞が様々な苦難や試練を乗り越えても続けていこうとする意志を感じさせたり、そうした意味や裏側を読み解きたくなるものになっているのに対して、キツネツキの歌詞はどこまでも意味がない。ひたすらに言葉の響きのみで作られているし、そこに遊び心を持たせているからこそ、童謡のカバーと同列にアルバムに収録することができる。
その全くタイプの違う歌詞を書ける、ということから、9mmの初期は「何にも言いたいことがなかった」と自身で回顧するくらいに歌詞に対する意識が低かった卓郎が、もはや名作詞家と言っていいレベルにまで達しているという事実をまざまざと実感させられる。
するとなんの紹介もなく、スッとステージに現れてそのまま演奏に参加しようという人が。それはこの日2人目の取り憑かれメンバーである、BIGMAMAの東出真緒。ヴァイオリニストであるため、当然ヴァイオリンでの参加となるのだが、ベース不在でヴァイオリンとギターがいるという編成は実に珍しい、というか他にいるのだろうか。
「見つけに行こうぜ!」
と東出を加えた4人編成で演奏されたのは童謡カバー第2弾「小さい秋見つけた」。この曲の持つ切なさのようなものが東出のヴァイオリンの音で増幅されているし、何よりも爆音ロックアレンジが実にカッコいい。今後もこのバンドが活動することによって、こうしていろんな童謡にカッコよさを感じるようになっていくのだろうか。
タイトルそのまんまな歌詞の「かぞえうた」からはなんと滝もヴァイオリンになり、ボーカル&ギター、ドラム、ヴァイオリン×2というとんでもない編成に。しかも普通にヴァイオリンもめちゃくちゃ上手いのが凄すぎる。滝はどんな楽器でも弾けるのだろうか。東出がドラムに寄っていってキメを打つという、即席バンドとは思えない息の合った演奏を見せる。
ヴァイオリン2人という編成でのセッションからのインスト曲「It and Moment」を演奏すると、卓郎がメンバー紹介をしながら滝がヴァイオリンで「魔女の宅急便」の曲を演奏すると、それに反応した卓郎のリクエストにより「もののけ姫」、さらには9mmの「新しい光」までも演奏し、
「なんでもできるんだな〜」
とメンバーからも関心されるヴァイオリンの技術の高さを見せつける。
「9mmのライブではここでいつも呪文を唱えているんだが…キツネツキの時は「行けますか?」みたいに言ってるんだけど(笑)
今日は…渋谷、行けるかー!!」
と卓郎おなじみの煽りがこの日のキツネツキのライブでも発動すると、卓郎、滝、東出の3人がステージ前方まで出てきてコーラスの合唱を煽った「Go-Hong Zone」ではBIGMAMAのライブ同様に東出がヴァイオリンの弓を指揮棒のように振り、
「ハイカラだとかアルカラだとか」
と言葉遊びの極みのような「ハイカラちゃん」でさらに熱狂は増し(アルカラの下上はキツネツキの取り憑かれメンバーの1人でもある)、このバンドの中で最もまともなメッセージを持った「まなつのなみだ」ではこの日最大の寂寞感が会場を包み込んでいく。ある意味最も9mmでもできそうな曲であるが、それをこのバンドのものにしているのはやはり東出と滝のヴァイオリンの音。まるでこの編成で演奏されるのを予期していたかのようですらある。
そしてラストは爆裂インスト曲「QB」でそれぞれが思いっきり力を込めた音での演奏を叩きつけて本編は終了したが、「このバンドのライブってこんなに盛り上がるものなのか」と驚いてしまうくらいの熱狂っぷりだったし、観客がみんなキメ連発のタイミングを完璧にわかっているところに、この会場にいた人たちはみんなこのバンドに取り憑かれているな、と思った。
アンコールではまずは4人で「キツネツキのテーマ2」を演奏すると、この日の対バン相手であるtetoの山崎陸もステージに登場し、卓郎とのツインギター、さらに滝はステージ中央に置かれたドラムセットに座り、ツインドラムという5人編成に。
「キツネツキの曲は簡単だから、こうしていろんな人が参加できる」
という卓郎の言葉を表すかのようにこの日2回目の「ケダモノダモノ」は本編でのスリーピースでの演奏とは全く違う表情を見せる。ある意味でこの形はものすごく画期的であるし、各地のツアーでも取り憑かれメンバーや対バン相手によって全く違う曲になっていたのだろう。
「来年は9mmが15周年だから、キツネツキはあんまり活動しないと思うけど、8月じゃなくてもまた会いましょう。あ、12月にまだライブあるか(笑)」
と卓郎が「まなつのなみだ」の歌詞を引用するうまさを見せながら天然っぷりを発揮すると、ラストは全員が視覚的にも聴覚的にも暴れまくる「CC Odoshi」で、1時間ちょっとという短い時間でありながら現状の持ち曲を全て演奏した。
去り際に山崎が客席に投げキスをしまくるというお茶目さと、このライブに参加できたことの嬉しさ、楽しさを爆発させると、卓郎は中央の滝のドラムセットに座り、終演SEに合わせてドラムを叩き始めるという実にレアな姿を見せてくれ、最後には
「9mm、レコーディング始まります!」
と嬉しい告知をしてからステージを去った。
「キツネツキは温泉旅館みたいなバンド」
と例えたように、本気の演奏やライブを見せながらも肩の力が入った感じが一切ない、実に楽しい空間を作り出していた。
卓郎と滝の2人によるバンド、というと4.5mm Parabellum Bulletであるが、取り憑かれメンバーや対バンのメンバーも参加することで、その4.5mmが何倍にも増幅されるという、このバンドだからこその形と可能性をしっかり感じさせてくれた。
それはもはやこのバンドが9mmの息抜きプロジェクトどころではないことを示していたし、9mm本隊があって、アコースティックのAC 9mmがあって、このバンドがあって、菅原卓郎のソロまである。全て追いかけるのは大変でもあるけれど、どれもが全く違う感動を与えてくれるし、その中でもキツネツキはステージに立っている側も観客も本当に楽しそうだ。そうした相互作用は挙げたあらゆる形態に派生していくと思うし、やはり9mmと出会えたことは本当に幸せなことだよな、と思える。
1.キツネツキのテーマ
2.Odoro Odoro
3.ふたりはサイコ
4.てんぐです
5.子ぎつね
6.証城寺の狸囃子
7.ケダモノダモノ
8.小さい秋みつけた
9.かぞえうた
10.It and moment
11.Go-hong Zone
12.ハイカラちゃん
13.まなつのなみだ
14.QB
encore
15.キツネツキのテーマ2
16.ケダモノダモノ
17.CC Odoshi
ケダモノダモノ
https://youtu.be/e1-kM5Lgsa8
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