メレンゲ 初恋のテサキ2018 @新代田FEVER 10/31
- 2018/11/01
- 00:55
夏にはボーカル・クボケンジのソロツアーもあり、バンドとしての活動は実にゆるやかになっているが、ずっと止まっていそうで実は全然止まっていなかったバンド、メレンゲのツアー。
「宇宙兄弟」のタイアップ曲「クレーター」や「ピンポン」のタイアップ曲「僕らについて」を収録したアルバム「CAMPFIRE」のリリースからもう4年が経過しているが、それ以降リリースは途絶えており、特に新曲や新作のリリースもない今回のツアー「初恋のテサキ」は、「CDを取り出そうとするとジャケットがすぐ破れる紙ジャケの初回盤」でおなじみのデビューミニアルバム「ギンガ」の曲を全曲演奏することをあらかじめ告知したコンセプトのツアー。
自分自身、メレンゲのライブを見るのは実に久しぶりだ。(調べたら2014年の下北沢Queで見たワンマン以来)
折しもこの日はハロウィン当日ということで、新代田に来るために乗り換えた渋谷の駅周辺はとんでもないことになっていたのだが、そんな喧騒とは100万光年くらい距離があるような人たちが集まった新代田FEVERは意外にもソールドアウトの満員。さすがにかつては今はなき渋谷AXや赤坂BLITZ、日比谷野音に渋谷公会堂などでもワンマンを行なっていたバンドだ。そしてどこか男性客が増えているような気がする。かつてはクボケンジに「隠れキリシタン」と言われるくらいに、男性客は数えられるくらいしかいなかったのに。
そんな、かつてとはちょっと雰囲気が違う客席の中、19時ちょっと過ぎにステージが暗転すると、タケシタツヨシ(ベース)を筆頭にメンバーたちがステージに登場。近年のメレンゲを支えるギターの松江潤、クボケンジのソロライブにも参加している山本健太(キーボード)に加え、右側は長めの金髪で左側は刈り上げているというメレンゲのメンバーらしからぬ出で立ちのドラマーは今回のツアーで初めてサポートを務める小野田尚史(ドラム)。ちなみに山本と小野田はかつてオトナモードというバンドで一緒に活動していた仲間同士である。
最後にクボケンジがステージに現われてアコギを手にすると、歌い始めたのは「CAMPFIRE」。ソロライブの時も演奏していた曲であるが、2コーラス目から小野田のドラムを始めとしたバンドの演奏が加わり、タケシタと松江のコーラスがクボケンジの儚い歌声に重なっていく。ソロではなく、メレンゲというバンドのライブを自分が見れているということを実感する。
イントロで山本のキーボードが浮遊感を醸し出した2曲目は早くもバンドの代表曲の一つと言える「きらめく世界」。聴いている自分でもなければ、クボケンジが主人公でもない。
「ジョバンニも憧れた純文学ギターロック」
とかつて評されたように、まるで小説のような、
「とても暗い海の底に引き戻されるのが怖いの。」
という、キラーフレーズしかない歌詞で紡がれた、男性と女性の物語。こうした、初期のメレンゲの要素やイメージを最も示している曲と言っていい曲だ。
ソロライブでもそうだが、やはりクボケンジの声はかつてより変わってきている。もとからそこまで伸びやかな声だったりしたわけではないタイプだが、歳を重ねたことでより一層声を張って歌うのはキツくなってきていると思う。
しかしそうした変化をカバーするかのような穏やかかつ慈悲深さを含んだファルセットを出せるようになっているのはやはり経験がなせる技だろう。150kmのストレートを投げようとしたフォームで投げていたピッチャーが、腕を下げて横に変化するボールでバッターを打ち取ろうという軟投派にモデルチェンジしていくように。
田中麗奈主演映画のタイアップ曲としてバンドの存在を広く世に知らしめた「underworld」では、かつては2サビ後にドラムのテンポが一気に倍になるというライブならではのアレンジがなされていたので、この編成になって果たしてどうなっているだろうか?と思っていたのだが、メンバーが変わってもそのアレンジは変わることはなかったので、原曲バージョンよりもむしろこっちの方が自然な形ということなのだろうか。
「もう会えなくても大丈夫さ」
という最後のフレーズは、ライブの本数がかなり少なくなった今のバンドの状況からすると、「もっと会いたいんだよ」と思ってしまうが。
クボケンジがギターを置き、ハンドマイクとなった状態で、原曲よりもさらにクラブミュージックの要素が強いアレンジで演奏された「フィナーレ」では暗闇の中で客席のミラーボールが回り、さらに一応最も近年の楽曲に位置する「楽園」では80年代のテレビドラマ主題歌のような(実際にかなりドロドロした昼ドラの主題歌だった)サウンドへと変化し、決して活動やリリースのペースこそ早くはないが、メレンゲが多彩な音楽の要素を取り込んで進化してきたということを改めて実感させてくれる。
クボケンジは新垣結衣など、様々な人に曲を提供しているが、そうしたオファーに応えられるのもこうした引き出しの多さがあって、どんなサウンドの曲であっても等しく名曲に仕上げることができる技術や知識や経験を持っているからこそ。
今回からメンバーに加わった小野田を10代の頃から知る、同じバンドで活動していた山本が紹介したり、
「おととい名古屋でライブだったんだけど、台湾ラーメンの味仙でみんなでラーメン食べようとしたら、小野田と山本だけ台湾ラーメンじゃない普通のラーメン食べてた(笑)
2人とも唐辛子が好きじゃないっていう(笑)」
と、やはり元メンバー同士だからこその似た者感を感じさせるエピソードも披露される。
すると今回のツアーの目玉である「ギンガ」の全曲演奏パートへ。
「フキノトウ」が演奏された段階で曲順通りに演奏されるであろうことは明白であったが、ストレートなギターロック曲としてファンからの人気も高い「チーコ」ではサビで観客の腕が上がり、そうして観客が楽しんだり、この曲が聴けるのを喜んでいる様子を見たタケシタがとびきりの笑顔でベースを弾き、その顔を見ていると我々観客側もメンバーが楽しそうで嬉しくなる、という幸せな循環が生まれていた。
「ここはアトムが夢に見た星 昼と夜のオセロの世界」
というこの曲のフレーズは今聴いても実に詩的な、素晴らしい名フレーズだと思う。
重いギターサウンドが初期のメレンゲのギターロックへの標榜を強く表している「ソト」は今の世の中と照らし合わせて聴くと引きこもりの曲でしかないのだが、タイトル的にプロ野球のDeNAベイスターズで今年ホームラン王に輝いたネフタリ・ソト選手の名前を見ると脳内で勝手にこの曲が再生されるので、個人的にはソト選手の登場曲をこの曲にしてくれないだろうか、と願っている。
クボケンジがラストサビ前のブレイクでタメまくって焦らしながら、
「俺がいく?」
的なことをタケシタに問いかけてサビに突入した「ムシノユメ」はメレンゲの中でも最もソリッドなギターロック曲。
のちの「シンセやキーボードを取り入れた浮遊感のあるポップソング」というメレンゲの一つの持ち味の最初期バージョンとも言える「ライト」から、「ギンガ」の最後を飾るのは、
「真夜中のシーンで月を2人追いかけて」
などのフレーズが否が応でも頭の中に情景を想像させる「ストロボ」。
かつて日比谷野音でこの曲が演奏された時の、
「ストロボのシーンで目を離した隙に消えてる」
のフレーズに合わせてストロボのような照明が明滅する演出が今でも忘れられないので、いつかまたあんな大きなステージでメレンゲがライブをやる姿を見てみたい。
しかし今回のツアーでこうした「アルバム再現」的な内容を見せられると、他の可能性も期待したくなるのがファン心理。それを読んでいるかのようにクボケンジは
「いやー、久しぶりの曲もやっぱりいいですね。「星の屑」とかも最近やってないからやりたいですね。でもすぐにはやらないですよ。徐々にコンプリートしていくように(笑)」
と、今後のコンセプチュアルなライブの開催に含みを持たせたが、
タケシタ「僕は「ギンガ」を聴いて、メレンゲって凄くいいバンドだな、って思ったんですよ」
クボケンジ「それでなんかの打ち上げで「実はベース弾けるんだよね〜」って言ってきて加入したんだよな(笑)」
タケシタ「…それ以上は言わないように(笑)」
とタケシタ加入秘話までもが開陳された。
クボが再びハンドマイクになり、観客に手拍子を促した上で演奏された爽やかな「予報通りに晴れた空」からはさらに楽しい雰囲気が広がっていき、「クラシック」ではクボケンジがコーラス部分で客席にマイクを向けるとしっかりと聴こえる合唱が響いて満足そうな顔を見せ、続けざまにタケシタにもマイクを向けると、
「思い出したんだ」
という最後のフレーズをタケシタが歌うという、ステージ上の中でメレンゲとして生きてきた2人の絆を感じさせるパフォーマンスを見せてくれる。
もともとはカップリング曲だったとは思えないくらいに、表題曲(「うつし絵」のカップリング)を上回るレベルでライブ定番曲になっている「ラララ」からはハイパーなビートとサウンドを取り入れた「バンドワゴン」、さらにはクボケンジの熱唱が響く「エース」と畳み掛けていくのだが、バンドは明らかにこの部分をピークに持ってくるようにライブの流れを作っていた。それは小野田も
「「バンドワゴン」から「エース」は手数も展開も多くてマジでキツいっす(笑)」
と言っていたが、クボケンジも
「「エース」はめちゃくちゃ歌うのキツい。でも当時はもっと売れると思ってたから頑張って歌ってた。もう40歳になりましたけどね、こうやって歌ってみたら、まだやれるよ」
と口にする。
「まだやれるよ」
という一言の中に含まれたものは本当に大きい。バンドの形が変わって、大切な人がいなくなって、活動してるんだかしてないんだかわからないような期間の方が長くなって、今は年に3本〜5本くらいしかワンマンをやらなくなったバンドが言う「まだやれるよ」という言葉からはいろんなものが溢れ出てきそうになったし、それと同時にメレンゲがまだまだこの先も続けていこうとしている意志が感じられて、本当に嬉しかった。
そしてラストはまさに「切なさが加速して飛び散る」かのような「ユキノミチ」。今はなき渋谷AXや、COUNTDOWN JAPANに唯一出演した2007年の元日(この年だけ元日にも開催されていた)のGALAXY STAGEでこの曲を演奏していた時のことが今でも頭をよぎる。あんなデカいステージにメレンゲが立っていて、ちゃんと客席が埋まっていた。あれは決して夢でも幻でもなくて、メレンゲの音楽を聴いていた人や、メレンゲというバンドに興味を持っていた人がたくさんいたことの証しだった。もうフェスに出ることもほとんどなくなってしまったけど、あの時に「フェスに毎年出るような活動をするバンド」にメレンゲが舵を取っていたら、今頃どんな存在になっていたのだろうか。
アンコールでもやはり先陣を切って登場したのはタケシタ。今回のツアーTシャツに着替えており、サポートメンバーたちもツアーTシャツを着ているのだが、クボケンジだけは着替えていない。どうやら松江がツアーTシャツを忘れてきたらしく、クボが貸したために逆にクボがツアーTシャツを着れなくなったらしい。
「また来年はデカいことをやろうと思っているので」
と、気になって仕方がなくなる予告をしてから演奏されたのは、クボの親友だった志村正彦(フジファブリック)のことを歌ったと言われている「火の鳥」でしんみりと終わるかと思いきや、
「もう1曲だけ!」
と言ってクボがステージ前まで出てきてギターをかき鳴らしてから演奏されたのは「夕凪」。初めてこのバンドのライブを見た2006年のROCK IN JAPAN FES.で最初に演奏されていたのがこの曲だった。
だから「ユキノミチ」が冬の景色を思い描かせる曲であるならば、「夕凪」を聴くとあの暑かった夏の風景を思い出す。実際、メレンゲはその景色によく似合うバンドだった。ポップな曲が多いバンドだし、そうした方向の方があってるのかもしれないが、この曲をライブで聴くといつも「カッコいいバンドだよな」って思う。そう、やっぱり自分にとってメレンゲは「ギターポップ」じゃなくて、「ギターロック」なバンドなんだ。
それでもまだ鳴り止まぬアンコールを求める声に応じてクボケンジが登場すると、
「もうやれる曲がない」
ということで、バンドとしてではなく山本と2人で新曲「愛のうた」を演奏。
「大阪から同じくらいの時期に一緒に東京に出てきたやつが、今日のライブを見にきていて。そいつに向けて歌うわけじゃないんだけど(笑)、そいつも子供が産まれたりして、そういうことを思って作った」
という通りに、こうして会ったり話したりすることができる大事な人間への愛に溢れた曲。この日、客席にはスネオヘアーがライブを見にきていたのだが、クボの言葉はもしかしたら同じように紆余曲折を経ながらもともに今でも音を鳴らす人生を歩んでいるスネオヘアーに向けられていたのだろうか。
演奏が終わるとクボは
「またライブで」
と言ってステージを後にした。またライブが見れる。これからもライブが見れる。そしてメレンゲの名曲をたくさん聞ける。見れない時間も長かったからこそ、その言葉が持つ意味をちゃんとこの場所にいたみんなはわかっているはず。
音楽には流行りとか賞味期限のようなものが少なからずあって、キッズの時期だからこそ刺さるような音楽もあるし、時代の言葉を歌詞に入れて共感を呼ぶような音楽もある。
でもメレンゲの音楽はそういうものじゃなくて、「普遍性」という言葉を音楽にしたらこういうものになるんじゃないだろうか、というくらいに10年以上前から聞いている曲も全く色褪せていない。だからこそ当時から今にいたるまで「知る人ぞ知る」的な存在であることに納得したことがない。もっと聴く人や時代を選ばない音楽として、たくさんの人に聞いて欲しいバンドだって、今でも思っているし、それくらいにメレンゲの音楽を信じている。
バンドの語源となった「メレンゲ」は泡のような、触れたらすぐに崩れてしまうようなものだ。だからこそ大切に、壊すことなくずっと見ていたい。いつかもうちょっとでも膨張して大きくなるように。
1.CAMPFIRE
2.きらめく世界
3.アルカディア
4.まぶしい朝
5.underworld
6.フィナーレ
7.楽園
8.フキノトウ
9.チーコ
10.ソト
11.ムシノユメ
12.ライト
13.ストロボ
14.予報通りに晴れた空
15.クラシック
16.ラララ
17.バンドワゴン
18.エース
19.ユキノミチ
encore
20.火の鳥
21.夕凪
encore2
22.愛のうた (新曲)
夕凪
https://youtu.be/XVXV1jQQv_c
きらめく世界
https://youtu.be/u9PgLqiSz6Q
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「宇宙兄弟」のタイアップ曲「クレーター」や「ピンポン」のタイアップ曲「僕らについて」を収録したアルバム「CAMPFIRE」のリリースからもう4年が経過しているが、それ以降リリースは途絶えており、特に新曲や新作のリリースもない今回のツアー「初恋のテサキ」は、「CDを取り出そうとするとジャケットがすぐ破れる紙ジャケの初回盤」でおなじみのデビューミニアルバム「ギンガ」の曲を全曲演奏することをあらかじめ告知したコンセプトのツアー。
自分自身、メレンゲのライブを見るのは実に久しぶりだ。(調べたら2014年の下北沢Queで見たワンマン以来)
折しもこの日はハロウィン当日ということで、新代田に来るために乗り換えた渋谷の駅周辺はとんでもないことになっていたのだが、そんな喧騒とは100万光年くらい距離があるような人たちが集まった新代田FEVERは意外にもソールドアウトの満員。さすがにかつては今はなき渋谷AXや赤坂BLITZ、日比谷野音に渋谷公会堂などでもワンマンを行なっていたバンドだ。そしてどこか男性客が増えているような気がする。かつてはクボケンジに「隠れキリシタン」と言われるくらいに、男性客は数えられるくらいしかいなかったのに。
そんな、かつてとはちょっと雰囲気が違う客席の中、19時ちょっと過ぎにステージが暗転すると、タケシタツヨシ(ベース)を筆頭にメンバーたちがステージに登場。近年のメレンゲを支えるギターの松江潤、クボケンジのソロライブにも参加している山本健太(キーボード)に加え、右側は長めの金髪で左側は刈り上げているというメレンゲのメンバーらしからぬ出で立ちのドラマーは今回のツアーで初めてサポートを務める小野田尚史(ドラム)。ちなみに山本と小野田はかつてオトナモードというバンドで一緒に活動していた仲間同士である。
最後にクボケンジがステージに現われてアコギを手にすると、歌い始めたのは「CAMPFIRE」。ソロライブの時も演奏していた曲であるが、2コーラス目から小野田のドラムを始めとしたバンドの演奏が加わり、タケシタと松江のコーラスがクボケンジの儚い歌声に重なっていく。ソロではなく、メレンゲというバンドのライブを自分が見れているということを実感する。
イントロで山本のキーボードが浮遊感を醸し出した2曲目は早くもバンドの代表曲の一つと言える「きらめく世界」。聴いている自分でもなければ、クボケンジが主人公でもない。
「ジョバンニも憧れた純文学ギターロック」
とかつて評されたように、まるで小説のような、
「とても暗い海の底に引き戻されるのが怖いの。」
という、キラーフレーズしかない歌詞で紡がれた、男性と女性の物語。こうした、初期のメレンゲの要素やイメージを最も示している曲と言っていい曲だ。
ソロライブでもそうだが、やはりクボケンジの声はかつてより変わってきている。もとからそこまで伸びやかな声だったりしたわけではないタイプだが、歳を重ねたことでより一層声を張って歌うのはキツくなってきていると思う。
しかしそうした変化をカバーするかのような穏やかかつ慈悲深さを含んだファルセットを出せるようになっているのはやはり経験がなせる技だろう。150kmのストレートを投げようとしたフォームで投げていたピッチャーが、腕を下げて横に変化するボールでバッターを打ち取ろうという軟投派にモデルチェンジしていくように。
田中麗奈主演映画のタイアップ曲としてバンドの存在を広く世に知らしめた「underworld」では、かつては2サビ後にドラムのテンポが一気に倍になるというライブならではのアレンジがなされていたので、この編成になって果たしてどうなっているだろうか?と思っていたのだが、メンバーが変わってもそのアレンジは変わることはなかったので、原曲バージョンよりもむしろこっちの方が自然な形ということなのだろうか。
「もう会えなくても大丈夫さ」
という最後のフレーズは、ライブの本数がかなり少なくなった今のバンドの状況からすると、「もっと会いたいんだよ」と思ってしまうが。
クボケンジがギターを置き、ハンドマイクとなった状態で、原曲よりもさらにクラブミュージックの要素が強いアレンジで演奏された「フィナーレ」では暗闇の中で客席のミラーボールが回り、さらに一応最も近年の楽曲に位置する「楽園」では80年代のテレビドラマ主題歌のような(実際にかなりドロドロした昼ドラの主題歌だった)サウンドへと変化し、決して活動やリリースのペースこそ早くはないが、メレンゲが多彩な音楽の要素を取り込んで進化してきたということを改めて実感させてくれる。
クボケンジは新垣結衣など、様々な人に曲を提供しているが、そうしたオファーに応えられるのもこうした引き出しの多さがあって、どんなサウンドの曲であっても等しく名曲に仕上げることができる技術や知識や経験を持っているからこそ。
今回からメンバーに加わった小野田を10代の頃から知る、同じバンドで活動していた山本が紹介したり、
「おととい名古屋でライブだったんだけど、台湾ラーメンの味仙でみんなでラーメン食べようとしたら、小野田と山本だけ台湾ラーメンじゃない普通のラーメン食べてた(笑)
2人とも唐辛子が好きじゃないっていう(笑)」
と、やはり元メンバー同士だからこその似た者感を感じさせるエピソードも披露される。
すると今回のツアーの目玉である「ギンガ」の全曲演奏パートへ。
「フキノトウ」が演奏された段階で曲順通りに演奏されるであろうことは明白であったが、ストレートなギターロック曲としてファンからの人気も高い「チーコ」ではサビで観客の腕が上がり、そうして観客が楽しんだり、この曲が聴けるのを喜んでいる様子を見たタケシタがとびきりの笑顔でベースを弾き、その顔を見ていると我々観客側もメンバーが楽しそうで嬉しくなる、という幸せな循環が生まれていた。
「ここはアトムが夢に見た星 昼と夜のオセロの世界」
というこの曲のフレーズは今聴いても実に詩的な、素晴らしい名フレーズだと思う。
重いギターサウンドが初期のメレンゲのギターロックへの標榜を強く表している「ソト」は今の世の中と照らし合わせて聴くと引きこもりの曲でしかないのだが、タイトル的にプロ野球のDeNAベイスターズで今年ホームラン王に輝いたネフタリ・ソト選手の名前を見ると脳内で勝手にこの曲が再生されるので、個人的にはソト選手の登場曲をこの曲にしてくれないだろうか、と願っている。
クボケンジがラストサビ前のブレイクでタメまくって焦らしながら、
「俺がいく?」
的なことをタケシタに問いかけてサビに突入した「ムシノユメ」はメレンゲの中でも最もソリッドなギターロック曲。
のちの「シンセやキーボードを取り入れた浮遊感のあるポップソング」というメレンゲの一つの持ち味の最初期バージョンとも言える「ライト」から、「ギンガ」の最後を飾るのは、
「真夜中のシーンで月を2人追いかけて」
などのフレーズが否が応でも頭の中に情景を想像させる「ストロボ」。
かつて日比谷野音でこの曲が演奏された時の、
「ストロボのシーンで目を離した隙に消えてる」
のフレーズに合わせてストロボのような照明が明滅する演出が今でも忘れられないので、いつかまたあんな大きなステージでメレンゲがライブをやる姿を見てみたい。
しかし今回のツアーでこうした「アルバム再現」的な内容を見せられると、他の可能性も期待したくなるのがファン心理。それを読んでいるかのようにクボケンジは
「いやー、久しぶりの曲もやっぱりいいですね。「星の屑」とかも最近やってないからやりたいですね。でもすぐにはやらないですよ。徐々にコンプリートしていくように(笑)」
と、今後のコンセプチュアルなライブの開催に含みを持たせたが、
タケシタ「僕は「ギンガ」を聴いて、メレンゲって凄くいいバンドだな、って思ったんですよ」
クボケンジ「それでなんかの打ち上げで「実はベース弾けるんだよね〜」って言ってきて加入したんだよな(笑)」
タケシタ「…それ以上は言わないように(笑)」
とタケシタ加入秘話までもが開陳された。
クボが再びハンドマイクになり、観客に手拍子を促した上で演奏された爽やかな「予報通りに晴れた空」からはさらに楽しい雰囲気が広がっていき、「クラシック」ではクボケンジがコーラス部分で客席にマイクを向けるとしっかりと聴こえる合唱が響いて満足そうな顔を見せ、続けざまにタケシタにもマイクを向けると、
「思い出したんだ」
という最後のフレーズをタケシタが歌うという、ステージ上の中でメレンゲとして生きてきた2人の絆を感じさせるパフォーマンスを見せてくれる。
もともとはカップリング曲だったとは思えないくらいに、表題曲(「うつし絵」のカップリング)を上回るレベルでライブ定番曲になっている「ラララ」からはハイパーなビートとサウンドを取り入れた「バンドワゴン」、さらにはクボケンジの熱唱が響く「エース」と畳み掛けていくのだが、バンドは明らかにこの部分をピークに持ってくるようにライブの流れを作っていた。それは小野田も
「「バンドワゴン」から「エース」は手数も展開も多くてマジでキツいっす(笑)」
と言っていたが、クボケンジも
「「エース」はめちゃくちゃ歌うのキツい。でも当時はもっと売れると思ってたから頑張って歌ってた。もう40歳になりましたけどね、こうやって歌ってみたら、まだやれるよ」
と口にする。
「まだやれるよ」
という一言の中に含まれたものは本当に大きい。バンドの形が変わって、大切な人がいなくなって、活動してるんだかしてないんだかわからないような期間の方が長くなって、今は年に3本〜5本くらいしかワンマンをやらなくなったバンドが言う「まだやれるよ」という言葉からはいろんなものが溢れ出てきそうになったし、それと同時にメレンゲがまだまだこの先も続けていこうとしている意志が感じられて、本当に嬉しかった。
そしてラストはまさに「切なさが加速して飛び散る」かのような「ユキノミチ」。今はなき渋谷AXや、COUNTDOWN JAPANに唯一出演した2007年の元日(この年だけ元日にも開催されていた)のGALAXY STAGEでこの曲を演奏していた時のことが今でも頭をよぎる。あんなデカいステージにメレンゲが立っていて、ちゃんと客席が埋まっていた。あれは決して夢でも幻でもなくて、メレンゲの音楽を聴いていた人や、メレンゲというバンドに興味を持っていた人がたくさんいたことの証しだった。もうフェスに出ることもほとんどなくなってしまったけど、あの時に「フェスに毎年出るような活動をするバンド」にメレンゲが舵を取っていたら、今頃どんな存在になっていたのだろうか。
アンコールでもやはり先陣を切って登場したのはタケシタ。今回のツアーTシャツに着替えており、サポートメンバーたちもツアーTシャツを着ているのだが、クボケンジだけは着替えていない。どうやら松江がツアーTシャツを忘れてきたらしく、クボが貸したために逆にクボがツアーTシャツを着れなくなったらしい。
「また来年はデカいことをやろうと思っているので」
と、気になって仕方がなくなる予告をしてから演奏されたのは、クボの親友だった志村正彦(フジファブリック)のことを歌ったと言われている「火の鳥」でしんみりと終わるかと思いきや、
「もう1曲だけ!」
と言ってクボがステージ前まで出てきてギターをかき鳴らしてから演奏されたのは「夕凪」。初めてこのバンドのライブを見た2006年のROCK IN JAPAN FES.で最初に演奏されていたのがこの曲だった。
だから「ユキノミチ」が冬の景色を思い描かせる曲であるならば、「夕凪」を聴くとあの暑かった夏の風景を思い出す。実際、メレンゲはその景色によく似合うバンドだった。ポップな曲が多いバンドだし、そうした方向の方があってるのかもしれないが、この曲をライブで聴くといつも「カッコいいバンドだよな」って思う。そう、やっぱり自分にとってメレンゲは「ギターポップ」じゃなくて、「ギターロック」なバンドなんだ。
それでもまだ鳴り止まぬアンコールを求める声に応じてクボケンジが登場すると、
「もうやれる曲がない」
ということで、バンドとしてではなく山本と2人で新曲「愛のうた」を演奏。
「大阪から同じくらいの時期に一緒に東京に出てきたやつが、今日のライブを見にきていて。そいつに向けて歌うわけじゃないんだけど(笑)、そいつも子供が産まれたりして、そういうことを思って作った」
という通りに、こうして会ったり話したりすることができる大事な人間への愛に溢れた曲。この日、客席にはスネオヘアーがライブを見にきていたのだが、クボの言葉はもしかしたら同じように紆余曲折を経ながらもともに今でも音を鳴らす人生を歩んでいるスネオヘアーに向けられていたのだろうか。
演奏が終わるとクボは
「またライブで」
と言ってステージを後にした。またライブが見れる。これからもライブが見れる。そしてメレンゲの名曲をたくさん聞ける。見れない時間も長かったからこそ、その言葉が持つ意味をちゃんとこの場所にいたみんなはわかっているはず。
音楽には流行りとか賞味期限のようなものが少なからずあって、キッズの時期だからこそ刺さるような音楽もあるし、時代の言葉を歌詞に入れて共感を呼ぶような音楽もある。
でもメレンゲの音楽はそういうものじゃなくて、「普遍性」という言葉を音楽にしたらこういうものになるんじゃないだろうか、というくらいに10年以上前から聞いている曲も全く色褪せていない。だからこそ当時から今にいたるまで「知る人ぞ知る」的な存在であることに納得したことがない。もっと聴く人や時代を選ばない音楽として、たくさんの人に聞いて欲しいバンドだって、今でも思っているし、それくらいにメレンゲの音楽を信じている。
バンドの語源となった「メレンゲ」は泡のような、触れたらすぐに崩れてしまうようなものだ。だからこそ大切に、壊すことなくずっと見ていたい。いつかもうちょっとでも膨張して大きくなるように。
1.CAMPFIRE
2.きらめく世界
3.アルカディア
4.まぶしい朝
5.underworld
6.フィナーレ
7.楽園
8.フキノトウ
9.チーコ
10.ソト
11.ムシノユメ
12.ライト
13.ストロボ
14.予報通りに晴れた空
15.クラシック
16.ラララ
17.バンドワゴン
18.エース
19.ユキノミチ
encore
20.火の鳥
21.夕凪
encore2
22.愛のうた (新曲)
夕凪
https://youtu.be/XVXV1jQQv_c
きらめく世界
https://youtu.be/u9PgLqiSz6Q
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キツネツキ 1st ALBUMリリースツアー「こんこん古今東西ツアー2018」 対バン:teto @渋谷CLUB QUATTRO 11/3 ホーム
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