Base Ball Bear Tour 「LIVE IN LIVE ~I HUB YOU~」 「日比谷ノンフィクションVII」 @日比谷野外大音楽堂 10/21
- 2018/10/21
- 23:53
有名無名かかわらず全てのアーティストが抽選に当たらないと会場を抑えられない上に、使えるのが春から秋の土日のみという特性を持つだけに、やりたくてもなかなかやることができないというアーティストも多い日比谷野音においてライブを行うのは7回目という、この場所に愛されすぎているバンド、Base Ball Bear。
今回の「日比谷ノンフィクションVII」は対バンツアー「LIVE IN LIVE」の東京公演という位置づけであり、この会場で対バンライブを行うのは、サカナクションのキャリア唯一の野音ライブとなっている2010年の「日比谷ノンフィクションII」以来。
そして初回からBase Ball Bearの野音ライブはどんなに雨予報だったり、梅雨の時期であっても雨が降ったことはない。それは秋晴れとはこの日のこと、とでも言うような快晴のこの日もそう。
ちなみに先日、Base Ball Bearについて語る座談会も開催したので、そちらもよかったら目を通していただきたい。
http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-553.html?sp
・ペトロールズ
17:30の開演時間の段階ですでに陽が落ちた日比谷野音のステージに最初に登場したのは、元・東京事変の浮雲(最近は星野源のギターも弾いている)こと長岡亮介率いるスリーピースバンド、ペトロールズ。
暗闇の中で長岡がジャカジャカとフライングVを弾き始めると、三浦淳悟(ベース)と河村俊秀(ドラム)によるリズム隊もファンキーなグルーヴを刻み始め…と思ったら途端にムーディーかつアダルトな長岡のボーカルに合わせたようにサウンドもそうしたものに。
そうしたブラックミュージックを軸にした、体を揺らす、というような楽しみ方のサウンドはこの都会の中のオアシス的な野音の雰囲気とは実に相性が良いが、アウトロだけ三浦がスラップ奏法でベースを弾いたりと、突如としてファンキーになるという展開はなかなか一筋縄ではいかないし、さすがにあらゆるバンドやアーティストからリスペクトを受けるバンドならでは。
基本的に長岡のボーカルに三浦と河村のコーラスが乗るので、リズム隊のコーラス比率も実に高いが、河村が「ヘイ!」というコーラスを入れる「Fuel」では長岡が曲終盤でいきなり
「「ヘイ!」って言ってもらっていいですか?」
と言うと、観客にコーラスを委ねる。おそらくほとんどの人が(自分を含む)がこのバンドのライブを見るのは初めてであろう空気だっただけに、演奏中のリアクションは良いとは言えなかったが、このコーラスに観客が参加することによってそうした雰囲気はほぐれていき、長岡も
「あ〜いいですね〜!」
というくらいに大きな「ヘイ!」コールが生まれ、曲が終わると長岡は客席に向けて拍手をしていた。
ZAZEN BOYS「Asobi」と同じテーマなだけにその影響も伺えるラストの「ASB」では最後に長岡が
「日比谷野音で遊びたい」
「LIVE IN LIVEで遊びたい」
と歌詞をこの日ならではのものに変えて歌い、大歓声を浴びながらステージを去っていった。
今ではBase Ball Bearとペトロールズは同じスリーピース編成であるが、ベボベは「4人だった時の曲を3人でも成立させられるように隙間を埋める」というものに対し、ペトロールズは極限までそうした隙間を削ぎ落とすという、スリーピースの成り立ちからしてサウンドの構築の仕方は真逆とも言える。
でもライブを見ていると、真逆なようでいて2組には確かに通じるものがある。それは聴いてきたり、影響を受けた音楽もそうだし、この後に明かされた小出と長岡の関係性もそう。短い時間であったが、確かにそれを感じることができるライブだった。
1.ホロウェイ
2.闖入者
3.コメカミ
4.KAMOME
5.Fuel
6.ASB
・RHYMESTER
暗いステージの上にDJ JINがスタンバイし、音が流れ出すと宇多丸、Mummy-DのMC2人もステージに登場。コラボ曲もあるし、これまでにも何度となく共演(過去のこの「日比谷ノンフィクション」でも)しているだけに、ヒップホップという形態ではありながら、RHYMESTERにとってはBase Ball Bearとの対バンは全くアウェーではない。
MC2人が「マイクの細道」の最後のカウントダウン部分のみをラップすると、
宇多丸「今何時ですか?18:25。というわけでこんな曲!」
と言って自身のラジオ番組のテーマ曲である「After 6」で宇多丸は飛び跳ねたり走り回ったりと、年齢を感じさせない機動力を見せる一方、今やBRAHMANのTOSHI-LOWらとともに地上波で流れるCMにも出演するようになったMummy-Dは実に気持ちいい韻の踏み方で、高速というわけではないが、流れるようにスムーズなラップを披露していく。
「ゆれろ」で文字通りに観客に腕を揺れさせると、宇多丸によるコール&レスポンスから、ペトロールズとベボベとともに自身もバンドであり、その演奏という部分を担っているのが2枚使いのDJ JINである、とメンバー紹介につなげ、そのまま自己紹介的な「ライムスターイズインザハウス」へ、という流れもさすがである。
「ペトロールズみたいに喋らないでライブをするバンドもかっこいいけど、我々はマイクが武器なんで、武器は最大限に使う」
という通り、RHYMESTERにとっては宇多丸の爆笑MCとMummy-Dの鋭いツッコミも間違いなくライブの一部だ。
この日比谷野音と、ペトロールズが醸し出した空気に合わせるようなメロウな「ちょうどいい」からのアッパーな「Back&Forth」でペトロールズとベボベとを接続するという役割をしっかりと果たすと、
宇多丸「ペトロールズのあのカッコよさの後はやりづらいですよ〜。こいちゃん(小出)も同じこと言ってたけど。でも今日はベボベのイベントですからね!フェスとかだと盛り上がろうと盛り上がらまいと「そんなん知ったことか!」ってギャラ貰って帰ればいいんですけど、自分たちのイベントですから。さぞや盛り上げてくれると思いますよ!」
Mummy-D「伝説の夜になりますね!」
となぜかベボベのハードルをこれでもかというくらいに上げまくると、
宇多丸「みんなで繋がっていこうぜ、っていうキレイな日本語の曲です」
と嘯き、全く真逆の、怒り爆発な「余計なお世話だ バカヤロウ」で野音いっぱいの「バカヤロウ」コールを炸裂させると、ベボベにしっかり温まった状態でバトンを渡すべく、最後に再びコール&レスポンスで声を出させ、ベボベのライブを見る準備を最大限に整えた。
RHYMESTERは「The CUT」でコラボするためだけに日比谷野音に来たり、近年はBase Ball BearがRHYMESTERの主催フェスに出演したりしているが、2014年には六本木EX THEATERでこの2組で対バンもしている。その時にはアンコールでの2組のコラボで「余計なお世話だ バカヤロウ」を披露したのだが、関根史織が「ハゲハゲ〜」という宇多丸いじりのコーラスをしたりする中、普段は全く喋ることのなかった、湯浅将平にMCの2人がマイクを向け、
「最後に湯浅も言ってみよう!」
と言うと、湯浅が「バカヤロウー!」と叫ぶという一幕もあった。まだあれから4年しか経っていないが、もう2度と見れなくなってしまったその時のことを思い出してしみじみしていたが、またこうしてこの2組が交わるのを見れているのは本当に幸せなことだった。
1.マイクの細道 (カウントダウンのみ)
2.After 6
3.ゆれろ
4.ライムスターイズインザハウス
5.ちょうどいい
6.Back&Forth
7.余計なお世話だ バカヤロウ
・Base Ball Bear
そしてトリのBase Ball Bear。前回の日比谷ノンフィクションではキーボードとホーン隊というサポートメンバーたちを加えた編成でのライブだったが、今回はサポートメンバーなしの、半年以上ライブを行って鍛え上げてきた、3人だけの編成でのライブ。
しかしながら3人の中でも下手に位置する小出の後ろにはRHYMESTERのDJブースがあり、おなじみのXTCのSEでメンバーが登場すると、鳴らし始めた音はやはり「The CUT」のイントロで、小出がギターカッティングをする中でRHYMESTERの3人が再びステージに登場し、いきなりの「The CUT」のコラボからスタート。
「The CUT」自体は近年は小出がRHYMESTERのMC2人のラップパートも全て担うというスリーピースならではの、関根と堀之内のリズム隊のグルーヴを生かしたアレンジで演奏されているが、RHYMESTERのコラボによって小出はボーカルパート以外はギターの演奏に専念でき、さらに間奏ではDJ JINがこれでもかというくらいにスクラッチを連発するという、原曲そのままのアレンジで披露された。3人バージョンもフェスなどでは驚きをもたらすくらいのカッコよさで披露されているが、やはりこの曲はRHYMESTERがいてこそ生まれた曲なんだな、ということがよくわかる。
観客が小出とカウントをする「LOVE MATHEMATICS」ではこれまでとは異なり、アウトロで小出のギターソロが炸裂しまくる。これは定番曲と言っていいこの曲すらもこれからはこうしてライブならではのアレンジが加えられていくということだろうか。
関根が3人編成になってから導入した、ベースとギターの機能を兼ね備えた新兵器である弦楽器「チャップマンスティック」に持ち替えて演奏されたのは、原曲はバンド以外の電子音が鳴っているので、タイトルが被るこの「日比谷ノンフィクション」においてもあまり演奏されることのない「君はノンフィクション」。やはりステージにいるメンバーの鳴らす音だけで曲を演奏するというベボベの姿勢は変わらないし、この曲でその掟を守り抜けるのは関根がチャップマンスティックをマスターしたからこそ。楽器の特性上、うつむき気味ではあるがいつものように飄々と弾いているけれど、それはとんでもない努力の結晶なんだろうな、と思うくらいに見ているだけで弾きこなすのがめちゃくちゃ難しい楽器であることがわかる。
「いやー、降らないねぇ!」
と7回目にして8公演目(サカナクションが出演した2010年のIIの時だけ2daysだった)の日比谷ノンフィクションが今回も雨が降らなかったというこのバンドの太陽神伝説が継続したことを誇らしげに小出が語ると、このツアーの「I HUB YOU」というタイトルを
「パソコンとかをつなぐHUBみたいに、僕らとRHYMESTERとペトロールズ、それぞれを好きなお客さんとを繋ぐようになりたいと思って。まぁ僕が中学一年生の時にハブられてた、っていうのもあるんですけど(笑)
でも同じ言葉でこんなに真逆の意味っていうのもすごくないですか?」
と説得力のありすぎる自身の過去を用いて説明してから、現状の最新作である「光源」収録の「SHINE」へ。
この曲が演奏されるといつもライブのハイライトとして記憶されるのは、やはりこの曲は3人で演奏されるのを想定されて作った曲だからである。(サポートギターが演奏していたりもしたけれど)
だからこそバンドのグルーヴをライブという場で最大限に感じさせるし、4人時代は尊敬するNUMBER GIRLの中尾憲太郎の影響でダウンピッキングのルート弾きがメインであった関根がとんでもなくうねるようなベースを弾くようになっている。
小出のギターがけたたましいサウンドを発してから淡々としたメロディになり、サビ前には観客を煽りまくるような演奏となった「Tabibito In The Dark」、かつては湯浅がシンセかと思うようなサウンドをギターで弾いていた「yoakemae」と、以前はライブでの定番曲だったシングル曲2曲を3人バージョンで披露。湯浅のギターパートがなくなったことで曲の表情もかなりソリッドなギターロックに変貌。それは小出によるギターサウンドによるものが大きいのだが、先日の座談会の時に「3人になってからライブではやらなくなった曲もある」という話をしたし、その曲はこれらの曲を指していたのだが、それを3人でやるとこうなるんだ!というのを自分たちの演奏で実践している。
初期の曲よりも3人で演奏するというハードルがはるかに高いこれらの曲をこうして演奏できるのは、今もベボベの3人がミュージシャンとして進化を続けていないと絶対にできないことだ。しかし、もう30代半ばに差し掛かり、同年代のスポーツ選手たちは「体力や技術の衰え」という理由で次々に引退していく。そうしたコメントや姿を見ていると、同年代である我々も同じように衰えてきている年齢であることを自覚せざるを得ないし、新しいことを始めたり、攻めにいく姿勢を忘れてしまったり、恐れてしまったりする。
でも、ベボベがこうして年齢を重ねてさらにミュージシャンとして成長している姿を見ると、「我々の世代もまだまだいけるじゃないか」と思わざるを得ないし、その思いは間違いなく翌日からの生活の力になっていく。それはベボベかわ1度はバンドが終わるかもしれない、という事実が頭をよぎるような経験を経ても決して止まらずに進み続けるという活動を選んだからに他ならない。
きっともっと年上だったり、逆に年下だったりしても同じように感じれるバンドはいたかもしれないが、この世代はSNSとかでメンバーを集めたりすることがまだできなかった最後の世代として、学生時代からずっと一緒に生きてきたメンバーで結成されたバンドたちだった。だからこそ、誰かがいなくなったら終わるだろうな、とも感じていた。でも実際に1人がいなくなっても終わらなかった。いや、終われなかったんだ。自分はベボベのメンバーたちと同世代として、学生時代から一緒に歳を重ねることができて、ほとんど同じくらいの長さの人生を歩んでこれて本当に良かったと思っている。
そしてラストは肌寒さすら感じるような気候のこの日であっても、小出がこの曲を歌えば季節は夏に戻る「ドラマチック」。小出は
「譲れないものがある」
のフレーズを歌う際にちょっと喉がキツそうな感じもあったが、
「80歳になるまでこのバンドは続いていくんで、あと50年、よろしくお願いします!」
と言っていた通りに、このバンドが見せてくれるこの景色は「永遠に続きそう」な感じがしていた。
アンコールでは黒いツアーTシャツを着て登場した小出が関根と堀之内ではなくて、ゲストを呼び込むと、ステージに現れたのはペトロールズの長岡亮介。
「「真夏の条件」のMVで使っていた赤いモズライトを御茶ノ水に一緒に買いに行ったり、共通の友人の結婚式で、僕が手紙をポエトリーリーディングして、亮ちゃんがギターで伴奏した」
と、実は10年来の付き合いである長岡と一緒に演奏したのは、ライブで演奏されるのは実に久々な、「C2」収録の「どうしよう」。ブラックミュージックの影響が色濃く出たアルバムの中でもそのエッセンスが強い曲だが、それをギター1本で表現してしまう長岡はやはり凄い。最後にはかつてライブで湯浅がやっていたように、長岡がリズムに合わせて観客に手拍子を促すという、気心が知れた中だからこそのコラボを見せてくれた。
すると今度は再びRHYMESTERの3人がステージに。自身が中学生の時にこの日比谷野音で行われていた「さんぴんキャンプ」に出演していたRHYMESTERを見て衝撃を受け、そんな憧れの存在と、その映像の中と同じステージで共演できているという喜びを語ると、
宇多丸「いやいや、我々もう友達じゃないか!」
と実に嬉しい言葉が。実際に両者にはシンクロしているかのごとくに同じテーマの曲があるし、2014年の2マンの時にはベボベの「歌ってるんだBaby」とRHYMESTER「そしてまた歌い出す」のマッシュアップバージョンを披露していたが、今回特別に披露されたのは、RHYMESTERの主催フェスのタイトルでもある「人間交差点」とベボベ「スクランブル」のマッシュアップ。Mummy-Dは思いっきり歌詞を見ながらラップしていたが、ついつい分断して捉えてしまいがちなロックとヒップホップはこんなにも自然に融合することができる、というのを示すコラボであった。
それは音楽だけでなく、様々なカルチャーを通じて、年齢がかなり離れていても「友達」と言い合えるようになったこの2組だからこそできることだと思うけれど。
小出がなぜか関根と堀之内を出口で送り出す、という去り方をしてもさらなるアンコールを求める声は止まず、なんとダブルアンコールへ。
「みんなが時間巻いてくれたからダブルアンコールする時間ができました!」
と、肌寒いから転換を短めにしたというのが実に喜ばしい結果を生み、最後に演奏されたのはこれまでに何度も日比谷ノンフィクションで響き渡ってきた「祭りのあと」。今になって「C」に収録された原曲を聴くとあまりのテンポの違いに驚いてしまうために、そろそろ今の編成での再録バージョンを作って欲しいと思うくらいに、今のこの曲のライブは本当にカッコいい。そして小出はやはり関根と堀之内を出口で送り出すようにしていた。意味は全くわからないけれど。
キーボードやホーンというサポートメンバーを入れて、これからのバンドの自由度を見せた「VI」、フルカワユタカや石毛輝など、様々なサポートギタリストを迎えてバンドがこれからも続いていく意志を見せた「V」と、近年の「日比谷ノンフィクション」はBase Ball Bearのこれから先の形であったり、バンドの本質を他のどのライブよりも見せてくれるような場となってきた。
では果たして今回は?というと、2010年にサカナクションと対バンを果たしたりと、コンセプチュアルな「3.5th」のミニアルバム2枚が出たタイミングで、山口一郎、福岡晃子、呂布と、
「数少ない友達を総動員した」
と言っていた小出の周りには、あれから8年も止まらずに活動を続けてきたことで、当時とは比べ物にならないくらいにたくさんの仲間が周りにいるということを示した「日比谷ノンフィクション」だった。それは必ずこれからバンドが活動を続けていく上で大きな存在になるし、この日の伝説のライブにおけるとても大きな要素になっていた。
今まで数え切れないくらいにこの日比谷野音でライブを見てきたし、いわゆる「野音に似合う」と言われる音楽性のバンドもたくさんいるけれど、やっぱり自分にとって日比谷野音はBase Ball Bearのイメージだ。それは13年連続で出ているROCK IN JAPAN FES.もそう。やっぱりそれはベボベがずっと続けてきたからそう思えることなのである。お互い80歳になっても、こうしてライブが見れていれますように。
1.The CUT feat.RHYMESTER
2.LOVE MATHEMATICS
3.君はノンフィクション
4.SHINE
5.Tabibito In The Dark
6.yoakemae
7.ドラマチック
encore1
8.どうしよう (小出祐介 with 長岡亮介)
9.スクランブル × 人間交差点 feat.RHYMESTER
encore2
10.祭りのあと
The CUT
https://youtu.be/_gzOzwaRA2E
Next→ 10/27 米津玄師 @幕張メッセ
今回の「日比谷ノンフィクションVII」は対バンツアー「LIVE IN LIVE」の東京公演という位置づけであり、この会場で対バンライブを行うのは、サカナクションのキャリア唯一の野音ライブとなっている2010年の「日比谷ノンフィクションII」以来。
そして初回からBase Ball Bearの野音ライブはどんなに雨予報だったり、梅雨の時期であっても雨が降ったことはない。それは秋晴れとはこの日のこと、とでも言うような快晴のこの日もそう。
ちなみに先日、Base Ball Bearについて語る座談会も開催したので、そちらもよかったら目を通していただきたい。
http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-553.html?sp
・ペトロールズ
17:30の開演時間の段階ですでに陽が落ちた日比谷野音のステージに最初に登場したのは、元・東京事変の浮雲(最近は星野源のギターも弾いている)こと長岡亮介率いるスリーピースバンド、ペトロールズ。
暗闇の中で長岡がジャカジャカとフライングVを弾き始めると、三浦淳悟(ベース)と河村俊秀(ドラム)によるリズム隊もファンキーなグルーヴを刻み始め…と思ったら途端にムーディーかつアダルトな長岡のボーカルに合わせたようにサウンドもそうしたものに。
そうしたブラックミュージックを軸にした、体を揺らす、というような楽しみ方のサウンドはこの都会の中のオアシス的な野音の雰囲気とは実に相性が良いが、アウトロだけ三浦がスラップ奏法でベースを弾いたりと、突如としてファンキーになるという展開はなかなか一筋縄ではいかないし、さすがにあらゆるバンドやアーティストからリスペクトを受けるバンドならでは。
基本的に長岡のボーカルに三浦と河村のコーラスが乗るので、リズム隊のコーラス比率も実に高いが、河村が「ヘイ!」というコーラスを入れる「Fuel」では長岡が曲終盤でいきなり
「「ヘイ!」って言ってもらっていいですか?」
と言うと、観客にコーラスを委ねる。おそらくほとんどの人が(自分を含む)がこのバンドのライブを見るのは初めてであろう空気だっただけに、演奏中のリアクションは良いとは言えなかったが、このコーラスに観客が参加することによってそうした雰囲気はほぐれていき、長岡も
「あ〜いいですね〜!」
というくらいに大きな「ヘイ!」コールが生まれ、曲が終わると長岡は客席に向けて拍手をしていた。
ZAZEN BOYS「Asobi」と同じテーマなだけにその影響も伺えるラストの「ASB」では最後に長岡が
「日比谷野音で遊びたい」
「LIVE IN LIVEで遊びたい」
と歌詞をこの日ならではのものに変えて歌い、大歓声を浴びながらステージを去っていった。
今ではBase Ball Bearとペトロールズは同じスリーピース編成であるが、ベボベは「4人だった時の曲を3人でも成立させられるように隙間を埋める」というものに対し、ペトロールズは極限までそうした隙間を削ぎ落とすという、スリーピースの成り立ちからしてサウンドの構築の仕方は真逆とも言える。
でもライブを見ていると、真逆なようでいて2組には確かに通じるものがある。それは聴いてきたり、影響を受けた音楽もそうだし、この後に明かされた小出と長岡の関係性もそう。短い時間であったが、確かにそれを感じることができるライブだった。
1.ホロウェイ
2.闖入者
3.コメカミ
4.KAMOME
5.Fuel
6.ASB
・RHYMESTER
暗いステージの上にDJ JINがスタンバイし、音が流れ出すと宇多丸、Mummy-DのMC2人もステージに登場。コラボ曲もあるし、これまでにも何度となく共演(過去のこの「日比谷ノンフィクション」でも)しているだけに、ヒップホップという形態ではありながら、RHYMESTERにとってはBase Ball Bearとの対バンは全くアウェーではない。
MC2人が「マイクの細道」の最後のカウントダウン部分のみをラップすると、
宇多丸「今何時ですか?18:25。というわけでこんな曲!」
と言って自身のラジオ番組のテーマ曲である「After 6」で宇多丸は飛び跳ねたり走り回ったりと、年齢を感じさせない機動力を見せる一方、今やBRAHMANのTOSHI-LOWらとともに地上波で流れるCMにも出演するようになったMummy-Dは実に気持ちいい韻の踏み方で、高速というわけではないが、流れるようにスムーズなラップを披露していく。
「ゆれろ」で文字通りに観客に腕を揺れさせると、宇多丸によるコール&レスポンスから、ペトロールズとベボベとともに自身もバンドであり、その演奏という部分を担っているのが2枚使いのDJ JINである、とメンバー紹介につなげ、そのまま自己紹介的な「ライムスターイズインザハウス」へ、という流れもさすがである。
「ペトロールズみたいに喋らないでライブをするバンドもかっこいいけど、我々はマイクが武器なんで、武器は最大限に使う」
という通り、RHYMESTERにとっては宇多丸の爆笑MCとMummy-Dの鋭いツッコミも間違いなくライブの一部だ。
この日比谷野音と、ペトロールズが醸し出した空気に合わせるようなメロウな「ちょうどいい」からのアッパーな「Back&Forth」でペトロールズとベボベとを接続するという役割をしっかりと果たすと、
宇多丸「ペトロールズのあのカッコよさの後はやりづらいですよ〜。こいちゃん(小出)も同じこと言ってたけど。でも今日はベボベのイベントですからね!フェスとかだと盛り上がろうと盛り上がらまいと「そんなん知ったことか!」ってギャラ貰って帰ればいいんですけど、自分たちのイベントですから。さぞや盛り上げてくれると思いますよ!」
Mummy-D「伝説の夜になりますね!」
となぜかベボベのハードルをこれでもかというくらいに上げまくると、
宇多丸「みんなで繋がっていこうぜ、っていうキレイな日本語の曲です」
と嘯き、全く真逆の、怒り爆発な「余計なお世話だ バカヤロウ」で野音いっぱいの「バカヤロウ」コールを炸裂させると、ベボベにしっかり温まった状態でバトンを渡すべく、最後に再びコール&レスポンスで声を出させ、ベボベのライブを見る準備を最大限に整えた。
RHYMESTERは「The CUT」でコラボするためだけに日比谷野音に来たり、近年はBase Ball BearがRHYMESTERの主催フェスに出演したりしているが、2014年には六本木EX THEATERでこの2組で対バンもしている。その時にはアンコールでの2組のコラボで「余計なお世話だ バカヤロウ」を披露したのだが、関根史織が「ハゲハゲ〜」という宇多丸いじりのコーラスをしたりする中、普段は全く喋ることのなかった、湯浅将平にMCの2人がマイクを向け、
「最後に湯浅も言ってみよう!」
と言うと、湯浅が「バカヤロウー!」と叫ぶという一幕もあった。まだあれから4年しか経っていないが、もう2度と見れなくなってしまったその時のことを思い出してしみじみしていたが、またこうしてこの2組が交わるのを見れているのは本当に幸せなことだった。
1.マイクの細道 (カウントダウンのみ)
2.After 6
3.ゆれろ
4.ライムスターイズインザハウス
5.ちょうどいい
6.Back&Forth
7.余計なお世話だ バカヤロウ
・Base Ball Bear
そしてトリのBase Ball Bear。前回の日比谷ノンフィクションではキーボードとホーン隊というサポートメンバーたちを加えた編成でのライブだったが、今回はサポートメンバーなしの、半年以上ライブを行って鍛え上げてきた、3人だけの編成でのライブ。
しかしながら3人の中でも下手に位置する小出の後ろにはRHYMESTERのDJブースがあり、おなじみのXTCのSEでメンバーが登場すると、鳴らし始めた音はやはり「The CUT」のイントロで、小出がギターカッティングをする中でRHYMESTERの3人が再びステージに登場し、いきなりの「The CUT」のコラボからスタート。
「The CUT」自体は近年は小出がRHYMESTERのMC2人のラップパートも全て担うというスリーピースならではの、関根と堀之内のリズム隊のグルーヴを生かしたアレンジで演奏されているが、RHYMESTERのコラボによって小出はボーカルパート以外はギターの演奏に専念でき、さらに間奏ではDJ JINがこれでもかというくらいにスクラッチを連発するという、原曲そのままのアレンジで披露された。3人バージョンもフェスなどでは驚きをもたらすくらいのカッコよさで披露されているが、やはりこの曲はRHYMESTERがいてこそ生まれた曲なんだな、ということがよくわかる。
観客が小出とカウントをする「LOVE MATHEMATICS」ではこれまでとは異なり、アウトロで小出のギターソロが炸裂しまくる。これは定番曲と言っていいこの曲すらもこれからはこうしてライブならではのアレンジが加えられていくということだろうか。
関根が3人編成になってから導入した、ベースとギターの機能を兼ね備えた新兵器である弦楽器「チャップマンスティック」に持ち替えて演奏されたのは、原曲はバンド以外の電子音が鳴っているので、タイトルが被るこの「日比谷ノンフィクション」においてもあまり演奏されることのない「君はノンフィクション」。やはりステージにいるメンバーの鳴らす音だけで曲を演奏するというベボベの姿勢は変わらないし、この曲でその掟を守り抜けるのは関根がチャップマンスティックをマスターしたからこそ。楽器の特性上、うつむき気味ではあるがいつものように飄々と弾いているけれど、それはとんでもない努力の結晶なんだろうな、と思うくらいに見ているだけで弾きこなすのがめちゃくちゃ難しい楽器であることがわかる。
「いやー、降らないねぇ!」
と7回目にして8公演目(サカナクションが出演した2010年のIIの時だけ2daysだった)の日比谷ノンフィクションが今回も雨が降らなかったというこのバンドの太陽神伝説が継続したことを誇らしげに小出が語ると、このツアーの「I HUB YOU」というタイトルを
「パソコンとかをつなぐHUBみたいに、僕らとRHYMESTERとペトロールズ、それぞれを好きなお客さんとを繋ぐようになりたいと思って。まぁ僕が中学一年生の時にハブられてた、っていうのもあるんですけど(笑)
でも同じ言葉でこんなに真逆の意味っていうのもすごくないですか?」
と説得力のありすぎる自身の過去を用いて説明してから、現状の最新作である「光源」収録の「SHINE」へ。
この曲が演奏されるといつもライブのハイライトとして記憶されるのは、やはりこの曲は3人で演奏されるのを想定されて作った曲だからである。(サポートギターが演奏していたりもしたけれど)
だからこそバンドのグルーヴをライブという場で最大限に感じさせるし、4人時代は尊敬するNUMBER GIRLの中尾憲太郎の影響でダウンピッキングのルート弾きがメインであった関根がとんでもなくうねるようなベースを弾くようになっている。
小出のギターがけたたましいサウンドを発してから淡々としたメロディになり、サビ前には観客を煽りまくるような演奏となった「Tabibito In The Dark」、かつては湯浅がシンセかと思うようなサウンドをギターで弾いていた「yoakemae」と、以前はライブでの定番曲だったシングル曲2曲を3人バージョンで披露。湯浅のギターパートがなくなったことで曲の表情もかなりソリッドなギターロックに変貌。それは小出によるギターサウンドによるものが大きいのだが、先日の座談会の時に「3人になってからライブではやらなくなった曲もある」という話をしたし、その曲はこれらの曲を指していたのだが、それを3人でやるとこうなるんだ!というのを自分たちの演奏で実践している。
初期の曲よりも3人で演奏するというハードルがはるかに高いこれらの曲をこうして演奏できるのは、今もベボベの3人がミュージシャンとして進化を続けていないと絶対にできないことだ。しかし、もう30代半ばに差し掛かり、同年代のスポーツ選手たちは「体力や技術の衰え」という理由で次々に引退していく。そうしたコメントや姿を見ていると、同年代である我々も同じように衰えてきている年齢であることを自覚せざるを得ないし、新しいことを始めたり、攻めにいく姿勢を忘れてしまったり、恐れてしまったりする。
でも、ベボベがこうして年齢を重ねてさらにミュージシャンとして成長している姿を見ると、「我々の世代もまだまだいけるじゃないか」と思わざるを得ないし、その思いは間違いなく翌日からの生活の力になっていく。それはベボベかわ1度はバンドが終わるかもしれない、という事実が頭をよぎるような経験を経ても決して止まらずに進み続けるという活動を選んだからに他ならない。
きっともっと年上だったり、逆に年下だったりしても同じように感じれるバンドはいたかもしれないが、この世代はSNSとかでメンバーを集めたりすることがまだできなかった最後の世代として、学生時代からずっと一緒に生きてきたメンバーで結成されたバンドたちだった。だからこそ、誰かがいなくなったら終わるだろうな、とも感じていた。でも実際に1人がいなくなっても終わらなかった。いや、終われなかったんだ。自分はベボベのメンバーたちと同世代として、学生時代から一緒に歳を重ねることができて、ほとんど同じくらいの長さの人生を歩んでこれて本当に良かったと思っている。
そしてラストは肌寒さすら感じるような気候のこの日であっても、小出がこの曲を歌えば季節は夏に戻る「ドラマチック」。小出は
「譲れないものがある」
のフレーズを歌う際にちょっと喉がキツそうな感じもあったが、
「80歳になるまでこのバンドは続いていくんで、あと50年、よろしくお願いします!」
と言っていた通りに、このバンドが見せてくれるこの景色は「永遠に続きそう」な感じがしていた。
アンコールでは黒いツアーTシャツを着て登場した小出が関根と堀之内ではなくて、ゲストを呼び込むと、ステージに現れたのはペトロールズの長岡亮介。
「「真夏の条件」のMVで使っていた赤いモズライトを御茶ノ水に一緒に買いに行ったり、共通の友人の結婚式で、僕が手紙をポエトリーリーディングして、亮ちゃんがギターで伴奏した」
と、実は10年来の付き合いである長岡と一緒に演奏したのは、ライブで演奏されるのは実に久々な、「C2」収録の「どうしよう」。ブラックミュージックの影響が色濃く出たアルバムの中でもそのエッセンスが強い曲だが、それをギター1本で表現してしまう長岡はやはり凄い。最後にはかつてライブで湯浅がやっていたように、長岡がリズムに合わせて観客に手拍子を促すという、気心が知れた中だからこそのコラボを見せてくれた。
すると今度は再びRHYMESTERの3人がステージに。自身が中学生の時にこの日比谷野音で行われていた「さんぴんキャンプ」に出演していたRHYMESTERを見て衝撃を受け、そんな憧れの存在と、その映像の中と同じステージで共演できているという喜びを語ると、
宇多丸「いやいや、我々もう友達じゃないか!」
と実に嬉しい言葉が。実際に両者にはシンクロしているかのごとくに同じテーマの曲があるし、2014年の2マンの時にはベボベの「歌ってるんだBaby」とRHYMESTER「そしてまた歌い出す」のマッシュアップバージョンを披露していたが、今回特別に披露されたのは、RHYMESTERの主催フェスのタイトルでもある「人間交差点」とベボベ「スクランブル」のマッシュアップ。Mummy-Dは思いっきり歌詞を見ながらラップしていたが、ついつい分断して捉えてしまいがちなロックとヒップホップはこんなにも自然に融合することができる、というのを示すコラボであった。
それは音楽だけでなく、様々なカルチャーを通じて、年齢がかなり離れていても「友達」と言い合えるようになったこの2組だからこそできることだと思うけれど。
小出がなぜか関根と堀之内を出口で送り出す、という去り方をしてもさらなるアンコールを求める声は止まず、なんとダブルアンコールへ。
「みんなが時間巻いてくれたからダブルアンコールする時間ができました!」
と、肌寒いから転換を短めにしたというのが実に喜ばしい結果を生み、最後に演奏されたのはこれまでに何度も日比谷ノンフィクションで響き渡ってきた「祭りのあと」。今になって「C」に収録された原曲を聴くとあまりのテンポの違いに驚いてしまうために、そろそろ今の編成での再録バージョンを作って欲しいと思うくらいに、今のこの曲のライブは本当にカッコいい。そして小出はやはり関根と堀之内を出口で送り出すようにしていた。意味は全くわからないけれど。
キーボードやホーンというサポートメンバーを入れて、これからのバンドの自由度を見せた「VI」、フルカワユタカや石毛輝など、様々なサポートギタリストを迎えてバンドがこれからも続いていく意志を見せた「V」と、近年の「日比谷ノンフィクション」はBase Ball Bearのこれから先の形であったり、バンドの本質を他のどのライブよりも見せてくれるような場となってきた。
では果たして今回は?というと、2010年にサカナクションと対バンを果たしたりと、コンセプチュアルな「3.5th」のミニアルバム2枚が出たタイミングで、山口一郎、福岡晃子、呂布と、
「数少ない友達を総動員した」
と言っていた小出の周りには、あれから8年も止まらずに活動を続けてきたことで、当時とは比べ物にならないくらいにたくさんの仲間が周りにいるということを示した「日比谷ノンフィクション」だった。それは必ずこれからバンドが活動を続けていく上で大きな存在になるし、この日の伝説のライブにおけるとても大きな要素になっていた。
今まで数え切れないくらいにこの日比谷野音でライブを見てきたし、いわゆる「野音に似合う」と言われる音楽性のバンドもたくさんいるけれど、やっぱり自分にとって日比谷野音はBase Ball Bearのイメージだ。それは13年連続で出ているROCK IN JAPAN FES.もそう。やっぱりそれはベボベがずっと続けてきたからそう思えることなのである。お互い80歳になっても、こうしてライブが見れていれますように。
1.The CUT feat.RHYMESTER
2.LOVE MATHEMATICS
3.君はノンフィクション
4.SHINE
5.Tabibito In The Dark
6.yoakemae
7.ドラマチック
encore1
8.どうしよう (小出祐介 with 長岡亮介)
9.スクランブル × 人間交差点 feat.RHYMESTER
encore2
10.祭りのあと
The CUT
https://youtu.be/_gzOzwaRA2E
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