Mrs. GREEN APPLE ENSEMBLE TOUR ~ソワレ・ドゥ・ラ・ブリュ~ @幕張メッセ国際展示場 9/9
- 2018/09/10
- 01:10
若手ギターロックバンドとしての到達点的な2016年の「TWELVE」、USティーンポップと共振した一大変化作「Mrs. GREEN APPLE」と全くタイプの違う傑作アルバムを世に放ちながら変化してきたMrs. GREEN APPLEが今年リリースした、それまでの集大成的な内容のアルバム「ENSEMBLE」。
そのリリースツアーのファイナルはバンド史上最大規模となる、幕張メッセでの2days。とはいえ、通常のロックバンドがワンマンで挑む9~11ホールではなく、3ホールをライブ、2ホールを物販や飲食エリアとして使うという、昨年のNICO Touches the Wallsの主催フェスと同じ規模。だが2daysでのべ2万人を動員(チケット即完につき、機材席も開放された)、物販もほぼ全種類ソールドアウトというのは今このバンドがどれだけたくさんの人に支持され、期待されているかというのを表している。
今回は前方中央エリアが「VIPスタンディング」、サイドから後方にかけてが指定席という変則的な構成。VIPスタンディングエリアには客席内に明らかにメンバーが通るであろう通路が設けられている。前日の初日とは異なるサブタイトルがついているだけに、ファイナルとなるこの日は前日とはまた違う内容になる予感。
しかし開演時間の17時を過ぎても全く開演する気配がない。どうやらこれは会場の最寄りである海浜幕張駅を通る京葉線が運転見合わせをしていたことによる措置であったそうで、17時30分くらいにようやく場内が暗転し、SEが鳴り始めるとステージに張られた紗幕に映像が映し出され、それに続いて紗幕にはポーズを決めた巨大なメンバーのシルエットが。
紗幕が落ちると巨大なピアノなどの装飾が「ENSEMBLE」の世界観を醸し出す中、ステージ最後方の台にビッグバンド風の衣装を着たメンバーが立っており、各々が立ち位置に着くと、「ENSEMBLE」の華やかなテーマを決定付けた「Love me, Love you」からスタート。大森はハンドマイクで、2日連続のワンマンとは思えないくらいに力強い歌声を響かせている。また藤澤はキーボードだけでなく白いピアノもセッティングされていて、そのキーボードとは違う温もりを感じさせるピアノの音がこのライブの中で大きなポイントとなっていた。
間奏でガラッとリズムが変わると、なんとそのまま「キコリ時計」に繋がるというアレンジ。「キコリ時計」は「TWELVE」収録曲でありながら華やかかつポップなサウンドの曲であり、「ENSEMBLE」とは非常に相性が良い曲であるとも言えるが、それにしてもまるでこの流れのままでアルバムに収録されていたかのようにスムーズ。
大森と若井のギターサウンドがロックバンドとしてのダイナミズムを感じさせる、初期のライブ定番曲「愛情と矛先」ではキメに合わせてメンバーが足や向きを合わせるというパフォーマンスがさらに進化し、ただ演奏力を向上させるだけではないという一種の余裕すら感じさせるが、大合唱が起きた「StaRt」、さらに時系列を遡る「HeLLo」と、華やかな装飾やステージを生かすというよりもひたすらに自分たちの鳴らす音をぶつけていくという姿は、一瞬この日のライブは過去曲をガンガンやっていくっていうコンセプトだっけ?と思うくらいに「ENSEMBLE」のツアーであることを忘れさせていた。
ダンサブルではなくあくまでポップになるようにエレクトロサウンドを取り入れた「Oz」では可愛らしいダンサーたちが登場し、藤澤とともに花道に飛び出してダンスを踊る。合わせて踊れる藤澤も相当練習してきたんだろうな、ということがよくわかるが、今やメンバーの中で1番やんちゃに見える彼の出で立ち(ちょっと前までは全員派手な服や髪色をしていたが、今回のツアーのテーマに合わせたのかだいぶ落ち着いている)やキャラクターは実にダンサーとしての役割に似合っているし、ダンサーだけではなくメンバーも一緒に踊ることによって目線もそちらに動く。何よりも花道がVIPスタンディングエリアの客席の目の前であることに本当に驚く。今やこうしてアリーナクラスでもライブをするようになったこのバンドにおいて、こんなに至近距離で見れる機会が他にあるんだろうか、というくらいに。
しかしそうした華やかなかつポップな世界観をひたすらに見せていくライブになるのかと思いきや、「日々と君」、さらには
「その度に何かを欲しがって 人は自分の為に傷を負わす
醜いなりに心に宿る 優しさを精一杯に愛そうと 醜さを精一杯に愛そうと」
という、今でも大森が10代の時に書いたとは思えないくらいに達観した目線でシリアスに世界や人間を描いた「パブリック」という、初期の深く鋭いメッセージを持った曲たちが演奏されたことによってまたも「ENSEMBLE」のツアーであることを忘れてしまいそうになったが、その流れで演奏された「ENSEMBLE」収録の「アウフヘーベン」もそうしたタイプのギターロック曲であり、「ENSEMBLE」がただ華やかなかつポップなだけではない作品であるということを改めて思い知らされる。
すると再びステージには紗幕が張られ、そこには薄くカフェというよりはバーのような映像が投影される。その向こう側にいるメンバーのうち、最初は歌う大森とそれに合わせてピアノを弾く藤澤の2人にスポットライトが当たっていたのだが、2コーラス目から山中のドラムと高野のウッドベース、そして登場した時に立っていた台に続く階段に座ってギターを弾く若井の全員にスポットライトが当たると、まるでバーの中で5人が演奏しているかのようなムーディーさで「Coffee」へ。実に振れ幅が大きいが、そうした変化は実に自然であって、こうした演出を多用したライブにありがちなテンポの悪いものに全くなっていない。この辺りはメンバーの努力はもちろん、スタッフサイドの力も非常に大きい。
バーから一気に海の底でメンバーが演奏しているような紗幕の演出がなされたのは、数々のアーティストのプロデュースを務める蔦谷好位置が関ジャムで
「車を運転していたらラジオで流れてきて、あまりにビックリして車を停車して聴き入ってしまった」
とこの曲に出会った時の衝撃を語っていた壮大なバラード「鯨の唄」。ファルセットを多用した、歌うのが実に難しい曲であるが、大森のボーカルの力の凄さはむしろこの曲で1番発揮されていたように思う、というくらいに声量も伸びも素晴らしい。
紗幕が取り払われる間にイントロがすでに流れていた「FACTORY」から、大森が醜い大人たちを断罪していくハードな音像の「ツキマシテハ」と、この曲もやるのか!というような曲まで聴けるというのは実に嬉しいし、バンドが初のアリーナに合わせてしっかり準備してきたこと、たくさんの曲を来てくれた人に聴いてほしいというサービス精神、さらにはこの日のライブがかなりのボリュームになりそうなことが伝わってくる。
するとメンバーが横一列に並ぶ編成に切り替わり(山中は2台目のドラムを使用)、大森が観客を男子、女子に分けてコール&レスポンスさせ、まだまだ女子の方が多いとはいえど、規模が大きくなるにつれて着実に男子の数が増えていることに喜び、そうして出させた声をより一層出させる「WanteD! WanteD!」からは狂騒的なEDMサウンドを取り入れた曲で踊らせまくり、ハンドマイクの大森、ギターの若井とベースの高野、さらには藤澤もショルダーキーボードで花道に次々と駆け出していき、観客のすぐ近くで演奏するが、そうしたパフォーマンスができるのはこうしたサウンドの曲だからであろうし、山中がステージでサウンドの土台を支えているからである。ただの紅一点メンバーというだけではなく、演奏自体も実に頼もしくなった。
狂騒のダンスパートで客席の温度を一気に上げると、一転して大森の生命の終わりに対する視点が描かれた「L.P」から、ヒップホップダンサーとともになんと大森も一緒に踊る「REVERSE」へ。これもまた相当練習したであろうことがわかるくらいのクオリティで、一朝一夕で身につけたものではなく、このツアーでこの曲をやると決めた時からすでに頭にあったのであろう。他のダンサーとの絡み具合もまるでアメリカのティーンポップアーティストのそれを彷彿とさせる。
踊ったことによって息を切らしながら大森が、
「夏は終わってしまいましたけど、夏が始まった合図をしてもらっていいですか!」
と煽ってから演奏されたのはもちろん最新シングルの「青と夏」。
このバンドにはこの日大森が、
「リリースしたら、変わったね、ポップになったね、って言われるようになった」
と自ら語る「サママ・フェスティバル!」という夏の名曲があるが、ひたすら無邪気に夏を謳歌するような「サママ・フェスティバル!」とは違い、「青と夏」は夏があっという間に過ぎ去っていくのをもうわかっていながらも、夏に何かを変えよう、何かを始めようという気分にしてくれる、ちょっとだけ視点が大人になったことを感じさせるが、自分はこの日この曲を聴きながら、徳島やロッキンやスタジアム、ドーム、ラブシャと巡っていった今年の夏の記憶、とりわけこの曲を初めてライブで聴いたロッキンの夜のLAKE STAGEでのライブの記憶が頭の中を駆け巡って、思わず涙してしまった。そうして聴く人の情景や感情を呼び起こす力がミセスの曲とライブには宿っている。
そして毎回のようにライブで未発表の新曲を演奏してきた(「うブ」や「愛情と矛先」も発表のはるか前からライブで演奏されていた)ミセスの今回の新曲は「青と夏」に連なるようなアッパーかつポップな曲。果たしてどのような形でリリースされるのかはまだ全くわからない曲だが、こうしてライブで演奏されるということはまた次々と新曲が生まれているということだろう。
弾けるようなポップなサウンドの「SPLASH!!」は「ENSEMBLE」においても終盤に配置された曲なので、ライブのクライマックスも近いことを感じさせたが、まだまだ行くぞと言わんばかりにスクリーンに歌詞が映し出された「Speaking」で大合唱を巻き起こすと、
「「TWELVE」の頃までは身を削るようにして音楽を作っていて、楽しく音楽を作ろうと思って「サママ・フェスティバル!」みたいな曲が出来て。「ENSEMBLE」も華やかでポップで楽しいアルバムができたと思うんだけど、でも昔みたいに身を削りながら作るやり方に戻ってしまっていて。「ENSEMBLE」の中で最もそうやって作った曲」
と言って演奏された「They are」は最初は大森がピアノを弾く藤澤と向かい合うような形で歌い、大森が後ろを向いて山中に合図をするとメンバー3人が入るという構成に。確かに「Love me, Love you」あたりとは全く違うタイプの曲であるが、そうした作り方に立ち返っていたとは。そして何の因果か、そうして身を削るようにして作られた曲はどれも名曲であるというのが大森の表現者としての運命を決定づけているのかもしれない。
そして「これは何曲ぶんのアイデアを1曲にまとめたんだ?」というくらいに激しく展開していく「PARTY」では今度はMVに出てくるサーカス団のようなダンサーが登場し、さらに最後に演奏されたこの日2回目の「Love me, Love you」ではMVに出演している、大森と若井の同級生のダンサーまでもがステージに登場したのだが、最初と最後に「Love me, Love you」を演奏することによって、一つの大きなショーを見たかのようであった。なのにそこまでガチガチに窮屈なコンセプトだった、というわけではないのもまた凄い。
アンコールでは観客がスマホライトを掲げるという光の中で「光のうた」を演奏。ステージにはスモークが焚かれるという幻想的な景色の中で、大森の歌とバンドの演奏が希望という名の光を描き出す。
するとスクリーンには重大発表の文字が現れ、「ナニヲナニヲ」が流れる中、早くも年内に行われるライブハウスツアーの発表が。ツアーファイナルを迎えたばかりとは思えないくらいに本数の多いタイトな日程ではあるが、日付けと場所が発表される度に大きな歓声が上がる客席を見て、メンバーたちは本当に嬉しそうにしていた。
するとここで初期の大事な曲である「CONFLICT」を演奏。「パブリック」もそうだが、かつてはここぞ、というライブ以外の時はほぼ封印していると言っていたくらいに、大森の過去のキツかった時期のことを思い起こさせる曲であるが、この日こうして演奏されたということはこの日がそのここぞ、という時だったのか、それともかつてよりはフラットな視点でこの曲たちと向き合うことができるようになったのだろうか。それはこれからのツアーに参加しないとわからないことであるが。
「もう28曲くらい歌っているから、喉がキツいです!なのでみなさんの声を貸してください!」
と、確かに喋り声は徐々に涸れ気味になっているものの、まだまだ歌えそうなようにしか見えない大森が観客の力を借りて最後に歌ったのは、山中のツービートのドラムが2000年前半の青春パンクを思い出させるのも当然であるようにMONGOL800のキヨサクが音源に参加している「はじまり」。大森が小学生の時に初めて作った曲を展開させた曲らしいが、そうしたバンドというよりも大森元貴という人間の原点的な曲で最後を締めるということにこの5年間のバンドの集大成的な側面を感じることができるが、それ以上に、スクリーンに映し出されたこのツアーでのメンバーの移動やライブ、さらには各地で触れ合ったファンとの映像がこのツアーの素晴らしさと楽しさを何よりも物語っていた。
ファイナルなだけにゲストにキヨサクが出てくるかも?とも思ったし、他のゲストミュージシャンが出てくるかもしれない、とも思っていたが、ミセスは最後まで5人だけでライブをやり切ってみせた。その姿は何よりもこの5人でMrs. GREEN APPLEである、ということを証明していたような気がしてならないのである。
しかしそれでもまだアンコールを求める声は止まず、再びメンバーが登場。藤澤だけが遅れてステージに来たが、その合間にメンバー一人一人が観客へ感謝を告げる。話し始めようとしたら藤澤が戻ってきて、話をぶった切られそうになった最年長・高野のいじられっぷりも健在。
そして大森は
「明日からの生活への大きな力になれたでしょうか!?頑張れよ、諦めんなよ!」
と言わずもがなな言葉で1万人ではなく、あくまで1対1で背中を力強く押すと、最後の最後に演奏されたのはこのバンドのはじまりの曲である「我逢人」。今と比べるとはるかにシンプルな演奏で、若井と高野は最後のブレイクで大ジャンプをする。かつて毎回のようにこの曲を演奏していた頃と同じように。
自分がこのバンドを知ったのもこの曲からだった。その時から「これはとんでもないバンドが出てきた!」と思い、すぐさま新代田や渋谷の小さなライブハウスにライブを見に行くようになった。すでに楽曲もライブパフォーマンスもまだ大森が10代だった当時から凄まじい完成度を誇っていただけに、この規模まではすぐに来るだろうと思っていた。実際にたどり着いてみると、こんな道程を辿るとは思わなかったが、その道程に一切の回り道はなかった。結局、否定的な意見も多かったバンドのサウンドの変化という選択は全て正しかったのだ。それは我々のような世代よりも、10代や20歳前後の、これからもこのバンドと一緒に年齢を重ねていくであろう人たちのキラキラした笑顔が何よりも物語っていた。
演奏が終わると、ダンサーも登場して写真撮影。人数をみると、1人2役とかもやっていたであろう人もいるのがわかるが、こうした広いステージや花道を使った内容だっただけに、彼らの貢献は本当に大きかった。
そして最後にはマイクを通さずに「ありがとうございました!」と頭を下げたメンバーがあらゆる方向の観客に手を振りながらステージを去っていった。
エンターテイメントに振り切れていくと、ライブのダイナミズムは引き換えに失われていくことが多い。だがこの日のミセスは徹底してこのバンドにしかできないエンターテイメントに振り切れていながらも、決してライブのダイナミズムを失わなかった。というか、最大限にそれを両立させるような、このバンドにしかできないライブをやってみせた。それは間違いなくこれから日本の音楽シーンに刻まれていくであろう、新しいライブの在り方だった。
もし、時間を自由に操ることができたら?そんな、この歳になると話すことすらない空想。だがもしそれが叶うのならば、自分は10代の頃の自分を今に連れてきて、ミセスの音楽を聴かせて、ミセスのライブに連れて行きたい。そこで10代の頃の自分がどう思うのかを知りたい。
いや、その答えはわかっているのだ。きっと、このバンドの存在を心の支えにして日々を生きていくようになると。だから、今10代くらいでミセスのライブを見れている人たちが少し羨ましくあるんだ。
もう我々の世代と今のミセスのファンのメインであるであろう層の人では、バンドの存在の捉え方も、曲を聴いた時に抱く感情も違うはず。でも、そこが違っていても、ミセスの作る音楽と、ミセスのライブが素晴らしいという感じ方だけはここにいた誰もが変わらないはず。それを再確認させてくれたこの日のライブは間違いなく今まで見てきたミセスのライブの中で最も素晴らしいものだったし、改めてこのバンドの持つポテンシャルに恐ろしさすら感じた。
色々なことがある世の中だけど、こうしていつまでもこのバンドのライブが見れる、世界で在ってほしいな。
1.Love me, Love you
2.キコリ時計
3.愛情と矛先
4.StaRt
5.HeLLo
6.Oz
7.日々と君
8.パブリック
9.アウフヘーベン
10.Coffee
11.鯨の唄
12.FACTORY
13.ツキマシテハ
14.WanteD! WanteD!
15.うブ
16.WHOO WHOO WHOO
17.L.P
18.REVERSE
19.青と夏
20.新曲
21.SPLASH!!
22.Speaking
23.They are
24.PARTY
25.Love me, Love you
encore
26.光のうた
27.CONFLICT
28.はじまり
encore2
29.我逢人
青と夏
https://youtu.be/m34DPnRUfMU
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そのリリースツアーのファイナルはバンド史上最大規模となる、幕張メッセでの2days。とはいえ、通常のロックバンドがワンマンで挑む9~11ホールではなく、3ホールをライブ、2ホールを物販や飲食エリアとして使うという、昨年のNICO Touches the Wallsの主催フェスと同じ規模。だが2daysでのべ2万人を動員(チケット即完につき、機材席も開放された)、物販もほぼ全種類ソールドアウトというのは今このバンドがどれだけたくさんの人に支持され、期待されているかというのを表している。
今回は前方中央エリアが「VIPスタンディング」、サイドから後方にかけてが指定席という変則的な構成。VIPスタンディングエリアには客席内に明らかにメンバーが通るであろう通路が設けられている。前日の初日とは異なるサブタイトルがついているだけに、ファイナルとなるこの日は前日とはまた違う内容になる予感。
しかし開演時間の17時を過ぎても全く開演する気配がない。どうやらこれは会場の最寄りである海浜幕張駅を通る京葉線が運転見合わせをしていたことによる措置であったそうで、17時30分くらいにようやく場内が暗転し、SEが鳴り始めるとステージに張られた紗幕に映像が映し出され、それに続いて紗幕にはポーズを決めた巨大なメンバーのシルエットが。
紗幕が落ちると巨大なピアノなどの装飾が「ENSEMBLE」の世界観を醸し出す中、ステージ最後方の台にビッグバンド風の衣装を着たメンバーが立っており、各々が立ち位置に着くと、「ENSEMBLE」の華やかなテーマを決定付けた「Love me, Love you」からスタート。大森はハンドマイクで、2日連続のワンマンとは思えないくらいに力強い歌声を響かせている。また藤澤はキーボードだけでなく白いピアノもセッティングされていて、そのキーボードとは違う温もりを感じさせるピアノの音がこのライブの中で大きなポイントとなっていた。
間奏でガラッとリズムが変わると、なんとそのまま「キコリ時計」に繋がるというアレンジ。「キコリ時計」は「TWELVE」収録曲でありながら華やかかつポップなサウンドの曲であり、「ENSEMBLE」とは非常に相性が良い曲であるとも言えるが、それにしてもまるでこの流れのままでアルバムに収録されていたかのようにスムーズ。
大森と若井のギターサウンドがロックバンドとしてのダイナミズムを感じさせる、初期のライブ定番曲「愛情と矛先」ではキメに合わせてメンバーが足や向きを合わせるというパフォーマンスがさらに進化し、ただ演奏力を向上させるだけではないという一種の余裕すら感じさせるが、大合唱が起きた「StaRt」、さらに時系列を遡る「HeLLo」と、華やかな装飾やステージを生かすというよりもひたすらに自分たちの鳴らす音をぶつけていくという姿は、一瞬この日のライブは過去曲をガンガンやっていくっていうコンセプトだっけ?と思うくらいに「ENSEMBLE」のツアーであることを忘れさせていた。
ダンサブルではなくあくまでポップになるようにエレクトロサウンドを取り入れた「Oz」では可愛らしいダンサーたちが登場し、藤澤とともに花道に飛び出してダンスを踊る。合わせて踊れる藤澤も相当練習してきたんだろうな、ということがよくわかるが、今やメンバーの中で1番やんちゃに見える彼の出で立ち(ちょっと前までは全員派手な服や髪色をしていたが、今回のツアーのテーマに合わせたのかだいぶ落ち着いている)やキャラクターは実にダンサーとしての役割に似合っているし、ダンサーだけではなくメンバーも一緒に踊ることによって目線もそちらに動く。何よりも花道がVIPスタンディングエリアの客席の目の前であることに本当に驚く。今やこうしてアリーナクラスでもライブをするようになったこのバンドにおいて、こんなに至近距離で見れる機会が他にあるんだろうか、というくらいに。
しかしそうした華やかなかつポップな世界観をひたすらに見せていくライブになるのかと思いきや、「日々と君」、さらには
「その度に何かを欲しがって 人は自分の為に傷を負わす
醜いなりに心に宿る 優しさを精一杯に愛そうと 醜さを精一杯に愛そうと」
という、今でも大森が10代の時に書いたとは思えないくらいに達観した目線でシリアスに世界や人間を描いた「パブリック」という、初期の深く鋭いメッセージを持った曲たちが演奏されたことによってまたも「ENSEMBLE」のツアーであることを忘れてしまいそうになったが、その流れで演奏された「ENSEMBLE」収録の「アウフヘーベン」もそうしたタイプのギターロック曲であり、「ENSEMBLE」がただ華やかなかつポップなだけではない作品であるということを改めて思い知らされる。
すると再びステージには紗幕が張られ、そこには薄くカフェというよりはバーのような映像が投影される。その向こう側にいるメンバーのうち、最初は歌う大森とそれに合わせてピアノを弾く藤澤の2人にスポットライトが当たっていたのだが、2コーラス目から山中のドラムと高野のウッドベース、そして登場した時に立っていた台に続く階段に座ってギターを弾く若井の全員にスポットライトが当たると、まるでバーの中で5人が演奏しているかのようなムーディーさで「Coffee」へ。実に振れ幅が大きいが、そうした変化は実に自然であって、こうした演出を多用したライブにありがちなテンポの悪いものに全くなっていない。この辺りはメンバーの努力はもちろん、スタッフサイドの力も非常に大きい。
バーから一気に海の底でメンバーが演奏しているような紗幕の演出がなされたのは、数々のアーティストのプロデュースを務める蔦谷好位置が関ジャムで
「車を運転していたらラジオで流れてきて、あまりにビックリして車を停車して聴き入ってしまった」
とこの曲に出会った時の衝撃を語っていた壮大なバラード「鯨の唄」。ファルセットを多用した、歌うのが実に難しい曲であるが、大森のボーカルの力の凄さはむしろこの曲で1番発揮されていたように思う、というくらいに声量も伸びも素晴らしい。
紗幕が取り払われる間にイントロがすでに流れていた「FACTORY」から、大森が醜い大人たちを断罪していくハードな音像の「ツキマシテハ」と、この曲もやるのか!というような曲まで聴けるというのは実に嬉しいし、バンドが初のアリーナに合わせてしっかり準備してきたこと、たくさんの曲を来てくれた人に聴いてほしいというサービス精神、さらにはこの日のライブがかなりのボリュームになりそうなことが伝わってくる。
するとメンバーが横一列に並ぶ編成に切り替わり(山中は2台目のドラムを使用)、大森が観客を男子、女子に分けてコール&レスポンスさせ、まだまだ女子の方が多いとはいえど、規模が大きくなるにつれて着実に男子の数が増えていることに喜び、そうして出させた声をより一層出させる「WanteD! WanteD!」からは狂騒的なEDMサウンドを取り入れた曲で踊らせまくり、ハンドマイクの大森、ギターの若井とベースの高野、さらには藤澤もショルダーキーボードで花道に次々と駆け出していき、観客のすぐ近くで演奏するが、そうしたパフォーマンスができるのはこうしたサウンドの曲だからであろうし、山中がステージでサウンドの土台を支えているからである。ただの紅一点メンバーというだけではなく、演奏自体も実に頼もしくなった。
狂騒のダンスパートで客席の温度を一気に上げると、一転して大森の生命の終わりに対する視点が描かれた「L.P」から、ヒップホップダンサーとともになんと大森も一緒に踊る「REVERSE」へ。これもまた相当練習したであろうことがわかるくらいのクオリティで、一朝一夕で身につけたものではなく、このツアーでこの曲をやると決めた時からすでに頭にあったのであろう。他のダンサーとの絡み具合もまるでアメリカのティーンポップアーティストのそれを彷彿とさせる。
踊ったことによって息を切らしながら大森が、
「夏は終わってしまいましたけど、夏が始まった合図をしてもらっていいですか!」
と煽ってから演奏されたのはもちろん最新シングルの「青と夏」。
このバンドにはこの日大森が、
「リリースしたら、変わったね、ポップになったね、って言われるようになった」
と自ら語る「サママ・フェスティバル!」という夏の名曲があるが、ひたすら無邪気に夏を謳歌するような「サママ・フェスティバル!」とは違い、「青と夏」は夏があっという間に過ぎ去っていくのをもうわかっていながらも、夏に何かを変えよう、何かを始めようという気分にしてくれる、ちょっとだけ視点が大人になったことを感じさせるが、自分はこの日この曲を聴きながら、徳島やロッキンやスタジアム、ドーム、ラブシャと巡っていった今年の夏の記憶、とりわけこの曲を初めてライブで聴いたロッキンの夜のLAKE STAGEでのライブの記憶が頭の中を駆け巡って、思わず涙してしまった。そうして聴く人の情景や感情を呼び起こす力がミセスの曲とライブには宿っている。
そして毎回のようにライブで未発表の新曲を演奏してきた(「うブ」や「愛情と矛先」も発表のはるか前からライブで演奏されていた)ミセスの今回の新曲は「青と夏」に連なるようなアッパーかつポップな曲。果たしてどのような形でリリースされるのかはまだ全くわからない曲だが、こうしてライブで演奏されるということはまた次々と新曲が生まれているということだろう。
弾けるようなポップなサウンドの「SPLASH!!」は「ENSEMBLE」においても終盤に配置された曲なので、ライブのクライマックスも近いことを感じさせたが、まだまだ行くぞと言わんばかりにスクリーンに歌詞が映し出された「Speaking」で大合唱を巻き起こすと、
「「TWELVE」の頃までは身を削るようにして音楽を作っていて、楽しく音楽を作ろうと思って「サママ・フェスティバル!」みたいな曲が出来て。「ENSEMBLE」も華やかでポップで楽しいアルバムができたと思うんだけど、でも昔みたいに身を削りながら作るやり方に戻ってしまっていて。「ENSEMBLE」の中で最もそうやって作った曲」
と言って演奏された「They are」は最初は大森がピアノを弾く藤澤と向かい合うような形で歌い、大森が後ろを向いて山中に合図をするとメンバー3人が入るという構成に。確かに「Love me, Love you」あたりとは全く違うタイプの曲であるが、そうした作り方に立ち返っていたとは。そして何の因果か、そうして身を削るようにして作られた曲はどれも名曲であるというのが大森の表現者としての運命を決定づけているのかもしれない。
そして「これは何曲ぶんのアイデアを1曲にまとめたんだ?」というくらいに激しく展開していく「PARTY」では今度はMVに出てくるサーカス団のようなダンサーが登場し、さらに最後に演奏されたこの日2回目の「Love me, Love you」ではMVに出演している、大森と若井の同級生のダンサーまでもがステージに登場したのだが、最初と最後に「Love me, Love you」を演奏することによって、一つの大きなショーを見たかのようであった。なのにそこまでガチガチに窮屈なコンセプトだった、というわけではないのもまた凄い。
アンコールでは観客がスマホライトを掲げるという光の中で「光のうた」を演奏。ステージにはスモークが焚かれるという幻想的な景色の中で、大森の歌とバンドの演奏が希望という名の光を描き出す。
するとスクリーンには重大発表の文字が現れ、「ナニヲナニヲ」が流れる中、早くも年内に行われるライブハウスツアーの発表が。ツアーファイナルを迎えたばかりとは思えないくらいに本数の多いタイトな日程ではあるが、日付けと場所が発表される度に大きな歓声が上がる客席を見て、メンバーたちは本当に嬉しそうにしていた。
するとここで初期の大事な曲である「CONFLICT」を演奏。「パブリック」もそうだが、かつてはここぞ、というライブ以外の時はほぼ封印していると言っていたくらいに、大森の過去のキツかった時期のことを思い起こさせる曲であるが、この日こうして演奏されたということはこの日がそのここぞ、という時だったのか、それともかつてよりはフラットな視点でこの曲たちと向き合うことができるようになったのだろうか。それはこれからのツアーに参加しないとわからないことであるが。
「もう28曲くらい歌っているから、喉がキツいです!なのでみなさんの声を貸してください!」
と、確かに喋り声は徐々に涸れ気味になっているものの、まだまだ歌えそうなようにしか見えない大森が観客の力を借りて最後に歌ったのは、山中のツービートのドラムが2000年前半の青春パンクを思い出させるのも当然であるようにMONGOL800のキヨサクが音源に参加している「はじまり」。大森が小学生の時に初めて作った曲を展開させた曲らしいが、そうしたバンドというよりも大森元貴という人間の原点的な曲で最後を締めるということにこの5年間のバンドの集大成的な側面を感じることができるが、それ以上に、スクリーンに映し出されたこのツアーでのメンバーの移動やライブ、さらには各地で触れ合ったファンとの映像がこのツアーの素晴らしさと楽しさを何よりも物語っていた。
ファイナルなだけにゲストにキヨサクが出てくるかも?とも思ったし、他のゲストミュージシャンが出てくるかもしれない、とも思っていたが、ミセスは最後まで5人だけでライブをやり切ってみせた。その姿は何よりもこの5人でMrs. GREEN APPLEである、ということを証明していたような気がしてならないのである。
しかしそれでもまだアンコールを求める声は止まず、再びメンバーが登場。藤澤だけが遅れてステージに来たが、その合間にメンバー一人一人が観客へ感謝を告げる。話し始めようとしたら藤澤が戻ってきて、話をぶった切られそうになった最年長・高野のいじられっぷりも健在。
そして大森は
「明日からの生活への大きな力になれたでしょうか!?頑張れよ、諦めんなよ!」
と言わずもがなな言葉で1万人ではなく、あくまで1対1で背中を力強く押すと、最後の最後に演奏されたのはこのバンドのはじまりの曲である「我逢人」。今と比べるとはるかにシンプルな演奏で、若井と高野は最後のブレイクで大ジャンプをする。かつて毎回のようにこの曲を演奏していた頃と同じように。
自分がこのバンドを知ったのもこの曲からだった。その時から「これはとんでもないバンドが出てきた!」と思い、すぐさま新代田や渋谷の小さなライブハウスにライブを見に行くようになった。すでに楽曲もライブパフォーマンスもまだ大森が10代だった当時から凄まじい完成度を誇っていただけに、この規模まではすぐに来るだろうと思っていた。実際にたどり着いてみると、こんな道程を辿るとは思わなかったが、その道程に一切の回り道はなかった。結局、否定的な意見も多かったバンドのサウンドの変化という選択は全て正しかったのだ。それは我々のような世代よりも、10代や20歳前後の、これからもこのバンドと一緒に年齢を重ねていくであろう人たちのキラキラした笑顔が何よりも物語っていた。
演奏が終わると、ダンサーも登場して写真撮影。人数をみると、1人2役とかもやっていたであろう人もいるのがわかるが、こうした広いステージや花道を使った内容だっただけに、彼らの貢献は本当に大きかった。
そして最後にはマイクを通さずに「ありがとうございました!」と頭を下げたメンバーがあらゆる方向の観客に手を振りながらステージを去っていった。
エンターテイメントに振り切れていくと、ライブのダイナミズムは引き換えに失われていくことが多い。だがこの日のミセスは徹底してこのバンドにしかできないエンターテイメントに振り切れていながらも、決してライブのダイナミズムを失わなかった。というか、最大限にそれを両立させるような、このバンドにしかできないライブをやってみせた。それは間違いなくこれから日本の音楽シーンに刻まれていくであろう、新しいライブの在り方だった。
もし、時間を自由に操ることができたら?そんな、この歳になると話すことすらない空想。だがもしそれが叶うのならば、自分は10代の頃の自分を今に連れてきて、ミセスの音楽を聴かせて、ミセスのライブに連れて行きたい。そこで10代の頃の自分がどう思うのかを知りたい。
いや、その答えはわかっているのだ。きっと、このバンドの存在を心の支えにして日々を生きていくようになると。だから、今10代くらいでミセスのライブを見れている人たちが少し羨ましくあるんだ。
もう我々の世代と今のミセスのファンのメインであるであろう層の人では、バンドの存在の捉え方も、曲を聴いた時に抱く感情も違うはず。でも、そこが違っていても、ミセスの作る音楽と、ミセスのライブが素晴らしいという感じ方だけはここにいた誰もが変わらないはず。それを再確認させてくれたこの日のライブは間違いなく今まで見てきたミセスのライブの中で最も素晴らしいものだったし、改めてこのバンドの持つポテンシャルに恐ろしさすら感じた。
色々なことがある世の中だけど、こうしていつまでもこのバンドのライブが見れる、世界で在ってほしいな。
1.Love me, Love you
2.キコリ時計
3.愛情と矛先
4.StaRt
5.HeLLo
6.Oz
7.日々と君
8.パブリック
9.アウフヘーベン
10.Coffee
11.鯨の唄
12.FACTORY
13.ツキマシテハ
14.WanteD! WanteD!
15.うブ
16.WHOO WHOO WHOO
17.L.P
18.REVERSE
19.青と夏
20.新曲
21.SPLASH!!
22.Speaking
23.They are
24.PARTY
25.Love me, Love you
encore
26.光のうた
27.CONFLICT
28.はじまり
encore2
29.我逢人
青と夏
https://youtu.be/m34DPnRUfMU
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