サンボマスター 「男どアホウ サンボマスター 夏の選手権」 @新木場STUDIO COAST 9/8
- 2018/09/09
- 00:13
サンボマスターによる毎年恒例の対バンイベント「男どアホウ サンボマスター」。タイトル通りに「男どアホウ甲子園」(原作:佐々木守、漫画:水島新司による野球漫画)をテーマにした、これでもかというくらいに高校野球をコンセプトにしたイベントである。
これまでにも銀杏BOYZ、キュウソネコカミ、10-FEET、東京スカパラダイスオーケストラ、SPECIAL OTHERSなどの強豪校と熱戦を繰り広げてきた、サボ日大学園(このイベントの時のサンボマスターの名前)だが、今回の対戦校は近年急速に力をつけて全国区の存在となっている、My Hair is Bad。大阪桐蔭のごとき圧倒的なライブの強さを持ちながらも毎年大敗しているサボ日大学園は果たして今年こそ勝利を手にすることができるのか。
ライブ前にはスタッフによるグラウンド整備のトンボかけが行われ、完全に高校野球の試合前のようなアナウンスの後には出場校のVTR紹介、さらにはサボ日大学園の木内泰史による選手宣誓。サンボマスターの曲タイトルや歌詞、さらには近頃世間を騒がせた様々な出来事を取り入れた選手宣誓は毎年長く、そして確実に上手くなっている。
さらには今年の夏の甲子園でも100回大会を記念して、かつての甲子園のヒーローたちがレジェンド始球式として登場したが、なんと2013年にこのイベントに出演した、10-FEETのKOUICHIがユニフォーム着用、さらにはグローブまでつけて始球式を行うというサプライズ。2013年に出演した時にサンボマスターとコラボしたKOUICHIは
「俺、木内が大好きやねん!」
と何度も言っていたが、その時の言葉を証明するかのような友情っぷり。
・マイヘア メイクアップアーチスト専門学校 (My Hair is Bad)
先攻は新潟県代表のマイヘア メイクアップアーチスト専門学校。審判のプレイボールと試合開始をつげるサイレンが鳴った後にメンバーが登場すると、3人とも練習用ユニフォームを着ている。ベースのバヤリースはすぐに脱いだが、椎木は帽子まで着用し、ユニフォームに「椎木」と書かれているくらい、さすがに野球をやっていたことを公言するだけあって、実によく似合っている。
「ドキドキしようぜ!」
とおなじみ「アフターアワー」でスタートすると、やや声が涸れ気味であった椎木が
「初回からホームラン打ってやる!」
と、先輩相手に堂々と宣言。
その熱量のまんまで「熱狂を終え」では椎木が帽子を客席に投げ込み、やまじゅんはドラムセットから立ち上がってスティックで客席を指す。完全に全員野球で勝ちに行こうという姿勢がよくわかる。
「中学校までずっと野球をやってたんだけど、色気付いて坊主になるのが嫌でバットをギターに持ち替えて、同じ教室にいた1人と、違う学校にいた1人を誘って始めたのが、マイヘア メイクアップアーチスト専門学校です。そんな俺をまたグラウンドに立たせてくれてありがとうございます!」
とこのライブの設定に忠実なMCをする椎木。
ラブシャでは演奏しなかった「真赤」で9月ではあっても夏の匂いを感じさせると、
「新木場STUDIO COASTで1番短いラブソングを!」
という「クリサンセマム」から、やまじゅんの4つ打ちのリズムがさらに加速する「元彼氏として」では椎木が
「野球辞めてバンド初めても結構稼げるようになってるし!」
と歌詞を変えて歌う中、ブレイク部分でバヤリースがぐるっと回りながらジャンプすると、ベースのシールド周りに何らかあったらしく、ローディーが直し、頭を下げ、さらにベースが入り始めるタイミングでやまじゅんに向かって武道家のように手を合わせるという場面もあり、ホームランを狙いながらもスタンドプレーに走ることなく、チームワークを大事にしている。個々の力が強ければ強いほどにまとまりがなくなっていくチームもあるが、全くそうはならないマイヘア メイクアップアーチスト専門学校は強い。
かと思えば椎木はアウトロでステージ袖からグラウンド整備用のトンボを持ち出し、ギターを弾かずにそれでエアギターを始め、
「これってこういうことでしょ!?」
と音楽好きな野球部員が一度はやったことがあるであろう行為をこの大舞台でやってみせる。
「野球やってた時はレギュラーだったし、県選抜にも選ばれたこともあるし。
でも監督に言われていた、「椎木、三振してきてもいい!でも見逃し三振はするな!振って帰ってこい!」と。
チームのために、なんていうプレーは俺にはできない!フォアボールやデッドボールで塁に出てもヒットと同じなのはわかってる!でも俺はホームランが打ちたい!」
と野球少年だったからこそ、この日はひたすらに野球に特化した言葉を並べまくった「フロムナウオン」から、
「父とやったキャッチボール 公園のスコップ
ちょっとでも褒めてもらいたかったんだ
真っ黒になった僕に 母は優しかった
きっと愛されていたんだ」
という歌詞が並ぶ「戦争を知らない大人たち」はその椎木が野球をやっていた当時の原風景が垣間見えるし、この曲全体が持つメッセージの強さは地震や台風などの災害に見舞われ続けている今の日本全体に向けられているようにも感じる。(基本的にそこまで毎回ライブでやるような曲ではないだけに)
そして幸せな空気を醸し出す「いつか結婚しても」から、
「俺の悩みとかを聞いてくれて、ちゃんとしたアドバイスをくれるのは山口さんだけです」
とサンボマスターへの感謝を告げ、ラストはダイバーが飛び交う「告白」。序盤はあまり調子が良さそうではなかった椎木のボーカルも歌い続けていたことでビックリするくらいちゃんと出るようになっていた。
基本的にツアーのタイトルに「ホームラン」というタイトルをつけ続けてきたバンドであるし、前回のツアーは「セーフティーバントツアー」というそれまでのホームラン狙いとは異なる機動力を生かしたものであった。
ホームラン狙いのフルスイングをしながらも、機動力も備えている。それはマイヘアのライブそのもののようだが、このバンドはロックシーンの柳田悠岐(ソフトバンク)か、それとも山田哲人(ヤクルト)だろうか。
1.アフターアワー
2.熱狂を終え
3.運命
4.ドラマみたいだ
5.真赤
6.クリサンセマム
7.元彼氏として
8.フロムナウオン
9.戦争を知らない大人たち
10.いつか結婚しても
11.告白
いつか結婚しても
https://youtu.be/xXAJy4OtcZo
・サボ日大学園 (サンボマスター)
そして後攻、待望の初勝利を目指すサボ日大学園。おなじみの「モンキー・マジック」のSEが始まると、今年のこのイベントで販売されている、グレーを基調としたユニフォーム(サンボマスターの物販とは思えないくらいにセンスがいい)をメンバー全員が着用し、山口は同じく物販で販売されているキャップをかぶって登場。
「お前ら準備できてんのかー!」
と叫ぶと、仮に準備ができていなくても盛上がらざるを得ない「世界をかえさせておくれよ」でスタートし、さらに「光のロック」というのっけからのフルスイングっぷり。バンドの演奏と山口のボーカルも初勝利を目指す気合いに満ち溢れているし、やはり観客側の気合いも凄まじい。長い持ち時間でのライブは昨年の武道館以来であるだけに、この日を待ち焦がれていた人がたくさんいることが伝わってくる。
なぜか「KOUICHI!KOUICHI!」「やまじゅん!やまじゅん!」とドラマーの名前ばっかり連呼しながら、この日この会場にいた全ての人を10代後半にして踊らせまくる「青春狂騒曲」、この日のライブのキーワードとなった「一発逆転」すなわちミラクルを叫びまくった「ミラクルをキミとおこしたいんです」、さらにはロックンロールを信じ続ける人のためのアンセム(このブログのURLはこの曲からいただいている)「ロックンロール イズ ノットデッド」をこの段階で早くも演奏。これまではアンコールであったり、ライブのクライマックスを担ってきたこの曲がこの早さで演奏されるというあたりに後半への期待がさらに高まる。
山口独特の軽快な語り口でのMCから、その山口が飛び跳ねながら歌う(跳んでいる時は当然マイクから離れるので歌が聴こえにくくなるのだが、木内と近藤のコーラスと観客の大合唱がカバーしている)「オレたちのすすむ道を悲しみで閉ざさないで」、イントロのギターのフレーズだけで大歓声が起きるくらいに待たれていた名曲(最近あまりフェスなどではやらなくなってきている)「そのぬくもりに用がある」を演奏すると、
「今、日本では地震とか色々な災害が起こってるけど、明日AIR JAMとかあって、今日も風とロックとかやってて、大変なことがある中でみんなで前に進んでいこうとしてるのが、なんかすごい良いなぁって思うんだよなぁ。俺はみんなに幸せになって欲しいんだよな。泣かないで聴いてくれ」
と言って演奏されたのはこの日唯一のバラード曲「ラブソング」。
それまでは天井知らずの盛り上がりを見せていた客席もこの曲の時はただじっと曲に聴き入る。最後のサビ前の長いブレイク部分でも声をあげたりする人は誰もいない。ただひたすらに山口が歌い始めるのを待っている。というかそうせざるを得ないくらいに山口の心情が伝わってくるのだ。本来なら考えすぎなくてもいいような、日本中、世界中のいろんな場所で起こっている災害や争いで傷ついている人たちのこと。でも山口はそういうことを考えてしまう男だし、その気持ちが歌に乗っかっているから、どんなに「泣かないで笑顔で聴いてくれ」と言われても心の奥からいろんな感情が込み上げてきてしまう。だからこの日も涙をすするような音がいたるところから聞こえてきた。
そんなここにいる全ての人の感情を受け止めて前向きに放つような「YES」から、
「お前らできないって思ってんのか。できるんだぞ。お前らミラクル起こしてるんだからな!」
とおなじみの展開から突入したのは「できっこないを やらなくちゃ」だが、今やこの曲はサンボマスター最大のキラーチューンにして代表曲と言っていいレベルの曲である。恐らくはマイヘアを見に来た、という若い人もたくさんいる中で(実際、マイヘアのTシャツを着た人もたくさんいたし、この日のチケットが即完したのはマイヘアが出たことが大きい)、どちらのファンであるとか一切関係なく、みんなで最初から最後まで腕を振り上げて大合唱することができるし、
「アイワナビーア 君のすべて!」
とみんなで叫べば、本当にできないことなんて何もないんじゃないか、というくらいの全能感に満ちてくる。リリース時はこんなすごい曲になるとは思っていなかったが、ライブでやり続けることによってここまで成長したのである。その成長を導いたのは間違いなくサンボマスターのライブの凄まじさによるものだが。
そして畳み掛けるように「愛と平和!」の大合唱が響き渡る「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」へ。リリースされた時よりも、年数を経ていくごとに、その「愛と平和」と叫ぶことがリアルになってきている。それは山口自身が発信しているように、世界や日本の政治や社会がどんどん良くない方向に進んでしまっているからなのだが、そんな世の中であっても、サンボマスターがこうしてライブをして、ロックンロールを愛する人たちが「愛と平和!」って叫ぶことができさえすれば大丈夫なんじゃないだろうか、と思う。
「俺たちにあんたらがどう見えてるのかわかってるのか。俺たちにはあんたらが、輝いて見えてます!」
という山口の前フリから最後に演奏されたのは、最新シングル曲「輝きだして走ってく」。タイトル通りの疾走感と希望に溢れ、言葉はさらにシンプルかつストレートに。この曲はタイアップもあってたくさんの人に聞かれる曲になるのは間違いないが、これからのライブでもこうしてクライマックスを担う曲になっていくのだろうか。
このイベントでは毎回コラボが行われてきたが、今回はアンコールで山口が
「めちゃくちゃ緊張してる(笑)
近藤くんが「ドラムに合わせれば大丈夫ですから」って。このチームにいて良かったー!」
と言いながら譜面台を使って演奏を始めたのは、マイヘアの「いつか結婚しても」のカバー。山口によるソウルフルなボーカルと近藤、木内によるツボを抑えた演奏により、曲間で拍手が起こるくらいに完全にサンボマスターの曲になっている。普段のライブでは当たり前過ぎて忘れてしまうサンボマスターの実力の高さを改めて思い知らされるとともに、是非ともこのカバーバージョンを音源化していただきたいと思う。
そしてラストは「可能性」。この曲もそうだが、近年のサンボマスターはシングル曲やアルバムのリード曲に大規模なタイアップがついて、いろんな人が聞いてくれるような状況になっている。そうして曲を聴いた若い人たちがフェスなどでサンボマスターのライブを見て、ライブの凄さを実感し、こうしてライブハウスにも足を運ぶという、理想的な流れが出来つつある。それができるのはやはりサンボマスターの圧倒的なライブの地力の高さによるもの。サウンドやスタイルの流行りや人気は時代とともに移り変わっていくが、ライブの良さそのものはどれだけ時代や世代が変わっても変わることはない。サンボマスターが大ブレイクから10年以上経った今でもこうして武道館などをはじめとした大きな会場でライブができている理由はそこだと思う。
ライブが終わると、マイヘアのメンバーにKOUICHI、さらにはウグイス嬢役を務めた田中美里もステージに登場し、記念撮影。そしてサインボールの投げ込み(椎木はバットでボールを遠くまで飛ばそうとするも、最前にいた観客に直撃してしまう)の後には、両出演者が整列して試合結果の発表。
結果は13-2という大差でマイヘア メイクアップアーチスト専門学校の勝利となり、サボ日大学園の初勝利はまたもお預けとなったが、そのスコア以上に壮絶な打撃戦となった、2018年の男どアホウサンボマスター夏の選手権であった。
1.世界をかえさせておくれよ
2.光のロック
3.青春狂騒曲
4.ミラクルをキミとおこしたいんです
5.ロックンロール イズ ノットデッド
6.オレたちのすすむ道を悲しみで閉ざさないで
7.そのぬくもりに用がある
8.ラブソング
9.YES
10.できっこないを やらなくちゃ
11.世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
12.輝きだして走ってく
encore
13.いつか結婚しても (マイヘアのカバー)
14.可能性
輝きだして走ってく
https://youtu.be/KM0SrqFBt38
自分は最初にマイヘアを聴いた時は「めちゃエモくなったback number」的なバンドだと思っていた。だがライブを見た後に思い浮かんだ感想は「ラブソングに特化したサンボマスター」というものだった。その両者の対戦にはやはり音楽面というよりも精神面での共通点を感じることができたし、そうしたサンボマスターの精神をしっかり継承しているバンドがさらに大きいところまで手をかけているという状況は実に嬉しい。
世界ではヒップホップやR&Bに取って代わられるようにロックバンド不況が叫ばれて久しいが、日本がそうした世界の流れに飲み込まれることなく、ロックバンドシーンが元気なままなのは、こういうバンドたちがいるからなんじゃないのかな、と思えるし、どんな形態よりもロックバンドを愛するものとして、今のこの日本で生きていることを幸せに思える。
Next→ 9/9 Mrs. GREEN APPLE @幕張メッセ
これまでにも銀杏BOYZ、キュウソネコカミ、10-FEET、東京スカパラダイスオーケストラ、SPECIAL OTHERSなどの強豪校と熱戦を繰り広げてきた、サボ日大学園(このイベントの時のサンボマスターの名前)だが、今回の対戦校は近年急速に力をつけて全国区の存在となっている、My Hair is Bad。大阪桐蔭のごとき圧倒的なライブの強さを持ちながらも毎年大敗しているサボ日大学園は果たして今年こそ勝利を手にすることができるのか。
ライブ前にはスタッフによるグラウンド整備のトンボかけが行われ、完全に高校野球の試合前のようなアナウンスの後には出場校のVTR紹介、さらにはサボ日大学園の木内泰史による選手宣誓。サンボマスターの曲タイトルや歌詞、さらには近頃世間を騒がせた様々な出来事を取り入れた選手宣誓は毎年長く、そして確実に上手くなっている。
さらには今年の夏の甲子園でも100回大会を記念して、かつての甲子園のヒーローたちがレジェンド始球式として登場したが、なんと2013年にこのイベントに出演した、10-FEETのKOUICHIがユニフォーム着用、さらにはグローブまでつけて始球式を行うというサプライズ。2013年に出演した時にサンボマスターとコラボしたKOUICHIは
「俺、木内が大好きやねん!」
と何度も言っていたが、その時の言葉を証明するかのような友情っぷり。
・マイヘア メイクアップアーチスト専門学校 (My Hair is Bad)
先攻は新潟県代表のマイヘア メイクアップアーチスト専門学校。審判のプレイボールと試合開始をつげるサイレンが鳴った後にメンバーが登場すると、3人とも練習用ユニフォームを着ている。ベースのバヤリースはすぐに脱いだが、椎木は帽子まで着用し、ユニフォームに「椎木」と書かれているくらい、さすがに野球をやっていたことを公言するだけあって、実によく似合っている。
「ドキドキしようぜ!」
とおなじみ「アフターアワー」でスタートすると、やや声が涸れ気味であった椎木が
「初回からホームラン打ってやる!」
と、先輩相手に堂々と宣言。
その熱量のまんまで「熱狂を終え」では椎木が帽子を客席に投げ込み、やまじゅんはドラムセットから立ち上がってスティックで客席を指す。完全に全員野球で勝ちに行こうという姿勢がよくわかる。
「中学校までずっと野球をやってたんだけど、色気付いて坊主になるのが嫌でバットをギターに持ち替えて、同じ教室にいた1人と、違う学校にいた1人を誘って始めたのが、マイヘア メイクアップアーチスト専門学校です。そんな俺をまたグラウンドに立たせてくれてありがとうございます!」
とこのライブの設定に忠実なMCをする椎木。
ラブシャでは演奏しなかった「真赤」で9月ではあっても夏の匂いを感じさせると、
「新木場STUDIO COASTで1番短いラブソングを!」
という「クリサンセマム」から、やまじゅんの4つ打ちのリズムがさらに加速する「元彼氏として」では椎木が
「野球辞めてバンド初めても結構稼げるようになってるし!」
と歌詞を変えて歌う中、ブレイク部分でバヤリースがぐるっと回りながらジャンプすると、ベースのシールド周りに何らかあったらしく、ローディーが直し、頭を下げ、さらにベースが入り始めるタイミングでやまじゅんに向かって武道家のように手を合わせるという場面もあり、ホームランを狙いながらもスタンドプレーに走ることなく、チームワークを大事にしている。個々の力が強ければ強いほどにまとまりがなくなっていくチームもあるが、全くそうはならないマイヘア メイクアップアーチスト専門学校は強い。
かと思えば椎木はアウトロでステージ袖からグラウンド整備用のトンボを持ち出し、ギターを弾かずにそれでエアギターを始め、
「これってこういうことでしょ!?」
と音楽好きな野球部員が一度はやったことがあるであろう行為をこの大舞台でやってみせる。
「野球やってた時はレギュラーだったし、県選抜にも選ばれたこともあるし。
でも監督に言われていた、「椎木、三振してきてもいい!でも見逃し三振はするな!振って帰ってこい!」と。
チームのために、なんていうプレーは俺にはできない!フォアボールやデッドボールで塁に出てもヒットと同じなのはわかってる!でも俺はホームランが打ちたい!」
と野球少年だったからこそ、この日はひたすらに野球に特化した言葉を並べまくった「フロムナウオン」から、
「父とやったキャッチボール 公園のスコップ
ちょっとでも褒めてもらいたかったんだ
真っ黒になった僕に 母は優しかった
きっと愛されていたんだ」
という歌詞が並ぶ「戦争を知らない大人たち」はその椎木が野球をやっていた当時の原風景が垣間見えるし、この曲全体が持つメッセージの強さは地震や台風などの災害に見舞われ続けている今の日本全体に向けられているようにも感じる。(基本的にそこまで毎回ライブでやるような曲ではないだけに)
そして幸せな空気を醸し出す「いつか結婚しても」から、
「俺の悩みとかを聞いてくれて、ちゃんとしたアドバイスをくれるのは山口さんだけです」
とサンボマスターへの感謝を告げ、ラストはダイバーが飛び交う「告白」。序盤はあまり調子が良さそうではなかった椎木のボーカルも歌い続けていたことでビックリするくらいちゃんと出るようになっていた。
基本的にツアーのタイトルに「ホームラン」というタイトルをつけ続けてきたバンドであるし、前回のツアーは「セーフティーバントツアー」というそれまでのホームラン狙いとは異なる機動力を生かしたものであった。
ホームラン狙いのフルスイングをしながらも、機動力も備えている。それはマイヘアのライブそのもののようだが、このバンドはロックシーンの柳田悠岐(ソフトバンク)か、それとも山田哲人(ヤクルト)だろうか。
1.アフターアワー
2.熱狂を終え
3.運命
4.ドラマみたいだ
5.真赤
6.クリサンセマム
7.元彼氏として
8.フロムナウオン
9.戦争を知らない大人たち
10.いつか結婚しても
11.告白
いつか結婚しても
https://youtu.be/xXAJy4OtcZo
・サボ日大学園 (サンボマスター)
そして後攻、待望の初勝利を目指すサボ日大学園。おなじみの「モンキー・マジック」のSEが始まると、今年のこのイベントで販売されている、グレーを基調としたユニフォーム(サンボマスターの物販とは思えないくらいにセンスがいい)をメンバー全員が着用し、山口は同じく物販で販売されているキャップをかぶって登場。
「お前ら準備できてんのかー!」
と叫ぶと、仮に準備ができていなくても盛上がらざるを得ない「世界をかえさせておくれよ」でスタートし、さらに「光のロック」というのっけからのフルスイングっぷり。バンドの演奏と山口のボーカルも初勝利を目指す気合いに満ち溢れているし、やはり観客側の気合いも凄まじい。長い持ち時間でのライブは昨年の武道館以来であるだけに、この日を待ち焦がれていた人がたくさんいることが伝わってくる。
なぜか「KOUICHI!KOUICHI!」「やまじゅん!やまじゅん!」とドラマーの名前ばっかり連呼しながら、この日この会場にいた全ての人を10代後半にして踊らせまくる「青春狂騒曲」、この日のライブのキーワードとなった「一発逆転」すなわちミラクルを叫びまくった「ミラクルをキミとおこしたいんです」、さらにはロックンロールを信じ続ける人のためのアンセム(このブログのURLはこの曲からいただいている)「ロックンロール イズ ノットデッド」をこの段階で早くも演奏。これまではアンコールであったり、ライブのクライマックスを担ってきたこの曲がこの早さで演奏されるというあたりに後半への期待がさらに高まる。
山口独特の軽快な語り口でのMCから、その山口が飛び跳ねながら歌う(跳んでいる時は当然マイクから離れるので歌が聴こえにくくなるのだが、木内と近藤のコーラスと観客の大合唱がカバーしている)「オレたちのすすむ道を悲しみで閉ざさないで」、イントロのギターのフレーズだけで大歓声が起きるくらいに待たれていた名曲(最近あまりフェスなどではやらなくなってきている)「そのぬくもりに用がある」を演奏すると、
「今、日本では地震とか色々な災害が起こってるけど、明日AIR JAMとかあって、今日も風とロックとかやってて、大変なことがある中でみんなで前に進んでいこうとしてるのが、なんかすごい良いなぁって思うんだよなぁ。俺はみんなに幸せになって欲しいんだよな。泣かないで聴いてくれ」
と言って演奏されたのはこの日唯一のバラード曲「ラブソング」。
それまでは天井知らずの盛り上がりを見せていた客席もこの曲の時はただじっと曲に聴き入る。最後のサビ前の長いブレイク部分でも声をあげたりする人は誰もいない。ただひたすらに山口が歌い始めるのを待っている。というかそうせざるを得ないくらいに山口の心情が伝わってくるのだ。本来なら考えすぎなくてもいいような、日本中、世界中のいろんな場所で起こっている災害や争いで傷ついている人たちのこと。でも山口はそういうことを考えてしまう男だし、その気持ちが歌に乗っかっているから、どんなに「泣かないで笑顔で聴いてくれ」と言われても心の奥からいろんな感情が込み上げてきてしまう。だからこの日も涙をすするような音がいたるところから聞こえてきた。
そんなここにいる全ての人の感情を受け止めて前向きに放つような「YES」から、
「お前らできないって思ってんのか。できるんだぞ。お前らミラクル起こしてるんだからな!」
とおなじみの展開から突入したのは「できっこないを やらなくちゃ」だが、今やこの曲はサンボマスター最大のキラーチューンにして代表曲と言っていいレベルの曲である。恐らくはマイヘアを見に来た、という若い人もたくさんいる中で(実際、マイヘアのTシャツを着た人もたくさんいたし、この日のチケットが即完したのはマイヘアが出たことが大きい)、どちらのファンであるとか一切関係なく、みんなで最初から最後まで腕を振り上げて大合唱することができるし、
「アイワナビーア 君のすべて!」
とみんなで叫べば、本当にできないことなんて何もないんじゃないか、というくらいの全能感に満ちてくる。リリース時はこんなすごい曲になるとは思っていなかったが、ライブでやり続けることによってここまで成長したのである。その成長を導いたのは間違いなくサンボマスターのライブの凄まじさによるものだが。
そして畳み掛けるように「愛と平和!」の大合唱が響き渡る「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」へ。リリースされた時よりも、年数を経ていくごとに、その「愛と平和」と叫ぶことがリアルになってきている。それは山口自身が発信しているように、世界や日本の政治や社会がどんどん良くない方向に進んでしまっているからなのだが、そんな世の中であっても、サンボマスターがこうしてライブをして、ロックンロールを愛する人たちが「愛と平和!」って叫ぶことができさえすれば大丈夫なんじゃないだろうか、と思う。
「俺たちにあんたらがどう見えてるのかわかってるのか。俺たちにはあんたらが、輝いて見えてます!」
という山口の前フリから最後に演奏されたのは、最新シングル曲「輝きだして走ってく」。タイトル通りの疾走感と希望に溢れ、言葉はさらにシンプルかつストレートに。この曲はタイアップもあってたくさんの人に聞かれる曲になるのは間違いないが、これからのライブでもこうしてクライマックスを担う曲になっていくのだろうか。
このイベントでは毎回コラボが行われてきたが、今回はアンコールで山口が
「めちゃくちゃ緊張してる(笑)
近藤くんが「ドラムに合わせれば大丈夫ですから」って。このチームにいて良かったー!」
と言いながら譜面台を使って演奏を始めたのは、マイヘアの「いつか結婚しても」のカバー。山口によるソウルフルなボーカルと近藤、木内によるツボを抑えた演奏により、曲間で拍手が起こるくらいに完全にサンボマスターの曲になっている。普段のライブでは当たり前過ぎて忘れてしまうサンボマスターの実力の高さを改めて思い知らされるとともに、是非ともこのカバーバージョンを音源化していただきたいと思う。
そしてラストは「可能性」。この曲もそうだが、近年のサンボマスターはシングル曲やアルバムのリード曲に大規模なタイアップがついて、いろんな人が聞いてくれるような状況になっている。そうして曲を聴いた若い人たちがフェスなどでサンボマスターのライブを見て、ライブの凄さを実感し、こうしてライブハウスにも足を運ぶという、理想的な流れが出来つつある。それができるのはやはりサンボマスターの圧倒的なライブの地力の高さによるもの。サウンドやスタイルの流行りや人気は時代とともに移り変わっていくが、ライブの良さそのものはどれだけ時代や世代が変わっても変わることはない。サンボマスターが大ブレイクから10年以上経った今でもこうして武道館などをはじめとした大きな会場でライブができている理由はそこだと思う。
ライブが終わると、マイヘアのメンバーにKOUICHI、さらにはウグイス嬢役を務めた田中美里もステージに登場し、記念撮影。そしてサインボールの投げ込み(椎木はバットでボールを遠くまで飛ばそうとするも、最前にいた観客に直撃してしまう)の後には、両出演者が整列して試合結果の発表。
結果は13-2という大差でマイヘア メイクアップアーチスト専門学校の勝利となり、サボ日大学園の初勝利はまたもお預けとなったが、そのスコア以上に壮絶な打撃戦となった、2018年の男どアホウサンボマスター夏の選手権であった。
1.世界をかえさせておくれよ
2.光のロック
3.青春狂騒曲
4.ミラクルをキミとおこしたいんです
5.ロックンロール イズ ノットデッド
6.オレたちのすすむ道を悲しみで閉ざさないで
7.そのぬくもりに用がある
8.ラブソング
9.YES
10.できっこないを やらなくちゃ
11.世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
12.輝きだして走ってく
encore
13.いつか結婚しても (マイヘアのカバー)
14.可能性
輝きだして走ってく
https://youtu.be/KM0SrqFBt38
自分は最初にマイヘアを聴いた時は「めちゃエモくなったback number」的なバンドだと思っていた。だがライブを見た後に思い浮かんだ感想は「ラブソングに特化したサンボマスター」というものだった。その両者の対戦にはやはり音楽面というよりも精神面での共通点を感じることができたし、そうしたサンボマスターの精神をしっかり継承しているバンドがさらに大きいところまで手をかけているという状況は実に嬉しい。
世界ではヒップホップやR&Bに取って代わられるようにロックバンド不況が叫ばれて久しいが、日本がそうした世界の流れに飲み込まれることなく、ロックバンドシーンが元気なままなのは、こういうバンドたちがいるからなんじゃないのかな、と思えるし、どんな形態よりもロックバンドを愛するものとして、今のこの日本で生きていることを幸せに思える。
Next→ 9/9 Mrs. GREEN APPLE @幕張メッセ
Mrs. GREEN APPLE ENSEMBLE TOUR ~ソワレ・ドゥ・ラ・ブリュ~ @幕張メッセ国際展示場 9/9 ホーム
SWEET LOVE SHOWER 2018 day3 @山中湖交流プラザきらら 9/2