前日のELLEGARDENに続いてのZOZOマリンスタジアムでのライブ。昨年は名古屋で開催された、[ALEXANDROS]恒例のVIPワンマン、今年はバンド初のスタジアムワンマンとして、ZOZOマリンスタジアムでの開催。すでにSUMMER SONICでこのマリンスタジアムのステージに立っており、その時から、いつかここでワンマンを見たいと思うくらいのスケールを持ったバンドだっただけに、ついにその日がやってきたのである。
この日限定のVIPカクテルが販売されるなど、球場外周の飲食ブースなどはサマソニのインフラを使っていることもあって、さながらフェスのような賑やかさ。前日のELLEGARDENと違うのは、明らかに平均年齢が10ほどは低い客層だろうか。
ステージには前日はなかった、客席中央のPAブースに向かって伸びる花道が設置されている。これはサマソニでも見たことがない、このバンドがこの会場でワンマンを行うためだけの設営だろう。
かなり遅れての開演直前にはステージに先におなじみのストリングス隊である村田一族がスタンバイして音を鳴らし始めると、まずは赤い服に身を包んだサトヤスがステージの後ろ側から出現し、ドラムを叩き始める。その後にベース磯部、ギター白井がステージに現れると、アリーナ最後方の通路からPAテントに入っていくのが見えていた川上洋平はPAテントから出てきてそのまま花道の先にあるサブステージに上がり、ストリングスを加えてさらに壮大になった「ワタリドリ」からスタートするという、これまでのファン感謝祭的な内容のVIPからすると逆に意外な展開。しかしながらこれだけたくさんの人がこの曲で飛び跳ねたり歌ったりしている姿は実に壮観。黒のタンクトップを着た川上洋平も実に調子が良さそうで、序盤から珍しく笑顔が見える白井らメンバーも含めて、今年は夏フェスの本数も絞ってまでこの日に合わせてきたということがわかる。
「ワタリドリ」のアウトロで観客にコール&レスポンスさせると、ステージから尋常じゃない量のスモークが炊き上がり、ステージが見えないレベルに。ようやくスモークが消えるとそこにすでにメンバーの姿はなく、スクリーンにはこれまでに開催されてきたVIPの歴史と歩みが映し出され、さっきのはイントロで、ここからが本番です、とばかりにメンバーが再登場し、UK直流の、初期のギターロック曲が続く。
「For Freedom」では磯部が
「行くぞマリンスタジアムー!」
と叫んでからアウトロに突入し、この日、この場所が本当に[ALEXANDROS]のスタジアムワンマンであることを実感させる。
バンドが持つ熱量が爆発するかのような「city」、獰猛な曲と白井タイムでのギターソロの弾きまくりっぷりとは対照的に、スクリーンに映し出された猫たちの映像が実にほんわかした空気にさせる「Cat2」はもちろん「白井が反応しない」バージョン。
サトヤスの独特かつ力強いドラムのリズムと、川上のリズミカルかつラテン的な要素溢れるアコギのカッティングが光る「Waitress,Waitress!」の後は再び村田一族が登場し、本来ならこのバージョンで収録したかったんじゃないか、と思わせるくらいにスタジアムを包み込むようなスケールを手に入れた「Spy」、逆に実にシンプルな形で演奏された「Forever Young」…曲が進み、スクリーンに映し出された収録アルバムのジャケットなどの映像が映し出されると、徐々に客席も
「これは過去から徐々に現在に向かってきている流れだ」
ということに気づいていく。その流れになることによって、否が応でもこの初のスタジアムワンマンはバンドのこれまでの集大成的なものになっていく。
そして「Starrrrrrr」でスタジアムいっぱいの大合唱を轟かせると、スクリーンにはシャンパンの入ったグラスが割れる映像が流れ始め、続けて2014年の3月に行った、[Champagne]から[ALEXANDROS]への改名を発表したライブのシーンが映し出される。
新しいバンド名を高らかに告げる川上の姿と、[ALEXANDROS]となって初めて演奏された当時の新曲「Droshky!」。その映像と重なるように、今まさにステージにいるメンバーが[ALEXANDROS]として「Droshky!」を鳴らす。交錯して重なり合う過去と現在。自分もあの日、確かにあの場所にいて、改名の瞬間をこの目で見届けていた。ついこの間のことだったようなあの武道館ワンマンも、もう4年前の出来事だ。そう考えると、自分が思っているよりもはるかに長い時間と歴史をこのバンドとともに重ねてきたことに気づかされる。
不穏なビートの上に白井が「ワタリドリ」のリフを乗せるという遊び心溢れるアレンジとなった「Run Away」は、これまでもダンサブルなアレンジになったりと、常にバンドの最新のモードを示すようにライブで演奏されてきた。その今の形がこの日のアレンジ。果たしてそれはこの後にすでに予定されているツアーでもまた変化・進化を見せるのだろうか。
不穏なデジタルサウンドに合わせて川上がジャンプしまくる「Girl A」から、空には月が見えないが、スクリーンに巨大な満月が映し出されながら川上の美しいファルセットが響いた「ムーンソング」と、ひたすらに代表曲を連発しながら、時間軸は徐々に今に移っていく。
しかしながらこうして過去から現在に向かっていくような流れだと、近年の曲はもちろん、過去の曲もこのスタジアムの規模に見合ったスケールを持っているということに改めて驚かされる。まだ小さなライブハウスで活動していた頃から、メンバーたちにはこの景色が見えていて、この規模で鳴らされるべき曲を作っていたのである。
すると花道の先でスタッフが慌ただしく動く中、スクリーンにはこのライブの開催が決定した時に募集していた、リクエストによる人気曲を演奏するということが告げられると、メンバーたちは花道の先にセッティングされたサブステージに集結。そこでリクエストの上位10曲をカウントダウン方式で演奏するという、基本的にファンの期待を良い方向に裏切るようなことばかりやってきたバンドが見せる、過去最高のファンサービス。
ここまではひたすらにノンストップで曲間もないアレンジで演奏し続けてきたので、ここでこの日初めてのMC。サブステージでメンバー同士の距離が近くなる中、磯部が
「この景色を見たらもっとデカいとこでやりたくなりますね~。そう、東京ドームとかね」
とまだ初スタジアムワンマンの途中にもかかわらず、さらなる野望を口にする。この規模ですらこのバンドにとっては通過点に過ぎないということだろうが、このタイミングでこんなことを言ってしまえるのは、常に上だけを見て突き進んできたこのバンドだけであろう。
そしてお待ちかねのリクエストコーナーでは投票結果10位の「Oblivion」から、この日のためだけのアレンジを施したメドレー形式で上位の曲に向かっていく。メドレー形式なので、ワンコーラスだけであったり、サビだけであったりと様々な切り取り方をして組み込まれていたのだが、欲を言えば全曲フルで聴きたかった、というくらいにこの辺りはさすがにVIPでしか聴けないような曲たちである。
過去にもこうしたリクエストは実施したことはあるが、そのたびに強さを見せつける「Waterdrop」「Thunder」という曲に合わせるかのように、この屋根のないサブステージに移動してから急に雨が強くなってきたのだが、かつて「魔方陣グルグル」というギャグファンタジー漫画に、大地の力を使うという話があって、その時の例えに
「ロックスターの野外ライブでは必ず雨が降る!」
というものがあったのだが、サブステージでの演奏中にだけ雨が降るというタイミングを考えると、[ALEXANDROS]はもはや大地の力を手に入れているバンドなのかもしれない、というくらいにこのバンドはスタジアムに立つべきロックスターのオーラに満ちている。
しかしながら上位10曲のはずが、8曲だけしか演奏されずにメドレーが止まると、
「実は「Starrrrrrr」が3位にランクインしてたんだけど、もう先に演奏しちゃったから」
という理由で飛ばされたことを語るが、観客からの要請によって急遽「Starrrrrrr」をもう一度サビから演奏…と思いきやすぐ演奏をやめてしまったのだが、観客が続きを大合唱してサビを丸々歌い切る(最後の方はちょっと歌詞にバラつきがあったが)という、磯部も
「演奏やめて「えー!」ってなると思ってたから…感動してしまいました」
と言うくらいにバンドとファン、ファンと楽曲の信頼関係を垣間見れるような瞬間を描き出していた。
そしてリクエスト1位の曲である「Leaving Grapefruits」は唯一フルで演奏される。
「みんな失恋の曲が好きだね」
と川上は言っていたが、こうしたリクエスト企画においてはとかくライブでやったことがなかったり、ほとんどの人が聞いたことがないような初期曲やレア曲が選ばれがちだが(割とそういう曲も多くランクインしている)、決してレア曲でもなければ、割と近年の曲に入るこの曲が1位になったということが、この曲がみんなが聴きたいと思うくらいの名曲であり、多くの人達がこの曲に自分の恋愛や人生や生活を重ねているということがよくわかる。
リクエストコーナーが終わると、メインステージに戻り、秋に発売されるアルバムに収録される、いわば最新の[ALEXANDROS]のモードを見せつけるような曲のコーナーに。
村田一族も参加しての「Last Minute」はもはやライブではおなじみのムーディーなラブソング。スクリーンには全ての歌詞が映し出されていたので、新曲といえどももう完成している曲と言っていいだろう。
COUNTDOWN JAPAN 17/18において、2018年の始まりを告げる曲となった、銀テープが発射された「明日、また」の新たな1日を迎えるための生命力に満ちたハイパーなサウンドで観客を飛び跳ねさせると、ハンドマイクになって花道を歩きながら歌う川上が何度も磯部を指差して紹介し、その磯部がパーカッションを叩くことによってトライバル感がさらに増したデジタルロック「I Don't Believe In You」へ。「Last Minute」からこの曲に至るまでは全てスクリーンに歌詞が映し出されていた。それだけに、新しいアルバムは「言葉」という面もさらに強化・進化させたものになるのかもしれないし、それは初めてバンド外部の人と歌詞を作ったという経験が大きいのかもしれない。
そしてラストに演奏されたのは重厚なギターリフが轟く「Mosquite Bite」。この日は演奏されなかった(なぜ?)「KABUTO」を含めた直近のシングル2枚は、ついに日本だけでなく、海外のスタジアムすらも視界に捉えてきたな、と思うくらいに、これまでのこのバンドの最大の武器であったメロディではなく、サウンドの強さでスタジアム級のスケールを描き出す曲。このあたりの曲がアルバムの軸になるのでは?と予想しているのだが、前作でも「Aoyama」のように全く予期せぬサウンドの曲がアルバムの軸を担っていただけに、このバンドは実際にアルバムの全てを聴くまで全く予断を許さない。
川上がギターとエフェクターを操作しまくってありったけの残響を残してステージから去ると、観客がスマホライトを掲げ、出てきたメンバー(全員ツアーグッズに着替えていた)がその光景に感動し、
「1曲、照明落としてこのままやっていいですか?」
と急遽スマホライトの明かりのみという中で「ハナウタ」をライブでフルバージョン初披露。同じシングルに収録された「KABUTO」とは対照的に、小林武史プロデュース、最果タヒが作詞に参加というポップ要素しかないような曲。だからこそスタジアムでそのメロディが広く大きく伸びていくのだが、果たしてアルバムに入るとしたらどんな位置を担うことになるのだろうか。
川上がハンドマイクでステージを歩き回り、カメラマンを自分の顔のアップから客席へ誘導するという、巨大フェスでもおなじみのロックスターっぷりを見せる「Adventure」では何度も何度もコーラス部分を合唱させ、曲最後の
「いつだって僕たちは君を連れてくんだ」
というフレーズの「君を」の部分でサブステージのど真ん中にいた川上がすべての方角にいる観客をぐるりと指差す。ここにいる人たちをこれから先、もっと大きな場所、素晴らしい景色が見える場所に連れて行くことを約束するかのように。
そしていよいよラストの「Kick & Spin」では川上の姿を追うように白井が花道を駆け出してギターを弾き、磯部も花道の真ん中にマイクスタンドを置いてコーラスしながらベースを弾く。
川上は
「もっと声出せ!」
と最後の力を振り絞り、また観客たちにも振り絞らせるような圧巻のパフォーマンス。もう開演から2時間半近く経っているのに、川上の喉は全く消耗している感じかしないというのが恐ろしい。その川上は
「生きていけぇぇぇぇぇ!!!!!!」
と、もはや歌うというよりは叫ぶというくらい、最後の最後に最高沸点を何倍も更新するくらいの素晴らしいパフォーマンスを見せた。これが最後の曲なんだから、この日のライブそのものも当然素晴らしかったという気持ちにしかならない。
サトヤスも含めてメンバー全員が花道に集まると、スタッフからグラスが渡され、全員がシャンパンを飲むという、まるでライブ直後の打ち上げを見ているかのような光景に。本来ならここで前日のELLEGARDENと同じように花火が上がるはずだったのだが、風が強いために打ち上げることができず(通常の野球の試合でもナイターの時は花火が上がるのだが、風向きがホーム方向に吹いていて強いと中止になる)、代わりにアリーナからスタンドへのウェーブを5回繰り返すという、よくわからない締め方に。
しかしながら本当の意味でこのライブを締めたのは、その観客のウェーブでもメンバーが去ってから流れたおなじみの小芝居風なアリーナツアーの告知(山田孝之出演!)やエンドロール的な映像でもなく、川上がマイクを通さずに、スタンド席の1番上までしっかり聞こえるように叫んだ、
「愛してるぜ!」
という一言だった。
前述のように、[ALEXANDROS]は[Champagne]時代のごく初期からこのスタジアムで響くべきスケールの曲だけを持っていたバンドであったことを証明したライブとなったが、個人的には前日に同じ会場でELLEGARDENの復活ライブを見ているという、あまりにも高過ぎるハードルがあったにもかかわらず、曲、歌唱、サウンド、パフォーマンスなどの全ての要素をスタジアムに立つべきロックスターとして全開にすることでそのハードルを見事に飛び越えてみせた。
そんなことができるバンドは他に思い浮かばないし、新たに決定したアリーナワンマンですらももはやこのバンドには小さく見えるのかもしれない、というくらいにやはり[ALEXANDROS]は会場が大きくなれば大きくなるほどにその真価を発揮できるバンドだったのだ。
1.ワタリドリ
2.For Freedom
3.city
4.Cat2
5.Waitress,Waitress!
6.Spy
7.Forever Young
8.Starrrrrrr
9.Droshky!
10.Run Away
11.Girl A
12.ムーンソング
13.リクエストメドレー
Oblivion
This Is Teenage
Wanna Get Out
Famous Day
Kill Me If You Can
Waterdrop
Thunder
Travel
Starrrrrrr
14.Leaving Grapefruits
15.Last Minute
16.明日、また
17.I Don't Believe In You
18.Mosquite Bite
encore
19.ハナウタ
20.Adventure
21.Kick & Spin
Mosquite Bite
https://youtu.be/hNHbnRVolPo
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