今年の日本のロックシーン最大のニュースはELLEGARDENの復活と言って間違いないだろう。その時の心境についてはすでに書いたが、
(It's time for a ride 音楽で生きるということ - ELLEGARDEN復活-
http://rocknrollisnotdead.blog.fc2.com/blog-entry-494.html?sp)
そのELLEGARDENの復活ツアーはやはりとんでもないくらいのチケット大争奪戦に。
すでに新木場STUDIO COASTと仙台PITのライブハウス2本は終えているが、普段行われている千葉ロッテマリーンズの試合では年に1日か2日しか売り切れることのない、キャパ38000人という規模のこの日のZOZOマリンスタジアムでさえもチケットが取れない人が非常に多く、音漏れを聴きにきた人も含めて、近隣になにもない、野球の試合がない時は人っ子ひとりいないスタジアムの周りはとんでもなく多くの人で溢れかえっている。
ロッテの試合はおろか、この会場で開催されているSUMMER SONICでもこんなにたくさんの人がこの場所に集まるのは見たことがない。
自分も当初は音漏れを聴きにいくつもりだったのだが、奇跡的に開場前に同行させてもらえることになり、10年ぶりにELLEGARDENのライブをこの目で見れることに。
・ONE OK ROCK
今回のツアーには全て同じオープニングアクトが出演することがアナウンスされていたが、そのオープニングアクトは、細美武士が
「ELLEGARDENが復活したのはTakaのおかげ」というくらいに、今回のエルレ復活劇の立役者である、ONE OK ROCK。すでにスタジアムクラス、日本で最も巨大なバンドの一つとなっているこのバンドが日本のバンドのオープニングアクトという位置で出てくるというのが今回のツアーのとんでもなさを物語っている。
SEが鳴ると、Tomoyaが最初にステージに現れてドラムを叩き始め、続いて他のメンバーがステージに。緑色のNirvanaのTシャツを着たTakaは短髪になっているのがより精悍な印象を与えるが、
「敬意を込めて、ONE OK ROCKです!」
と言ってスタートするも、冒頭の「Taking off」から一切の遠慮はない。自分たちのベストのライブをやるのがELLEGARDENへの最大のリスペクトだ、と言わんばかりの気合いの入りっぷりである。
かつてTakaは細美武士とROCK IN JAPAN FES.の増刊号で対談をしているのだが、そこでTakaはELLEGARDENへの愛とリスペクトを語り、細美はTakaを
「今、日本で唯一負けてるかもしれないと思うボーカリスト」
と評していたが、「Clock Strikes」でのTakaの実に伸びやかな歌唱を見ていると、そう評したのもあながち間違いではないくらいの歌唱力の高さだし、楽曲のサウンドやメンバーのスケールなど、ありとあらゆる面でスタジアムクラスのライブをしているバンドであり、アウェー感がないどころか、まるでこのバンドのワンマンを見に来たかのような錯覚に陥る。
「普段はステージに立ったら先輩後輩関係ないと思ってるんだけど、今日だけはそうもいかない(笑)」
と自分たちのライブの姿勢は貫きながらもエルレへのリスペクトは忘れないTakaが、
「ロックバンドには時代を代表する存在がいて。俺たちが10代の頃はそれがELLEGARDENでした。みんなと同じようにエルレの曲に救われ、力をもらってきました。こうしてエルレが見れるんだから感謝しろよ!(笑)
でも実際に復活するって決まった時、チケット取れないだろうな、と思って(笑)なんとか潜り込みたかったから、オープニングアクトで使ってくれって言って(笑)
3本やってきて、今日が最後だけど、終わって欲しくない!もう1本くらいツアーやって欲しい!」
と、まるでこの日客席にいた全ての人の気持ちを代弁するかのような思いをELLEGARDENにぶつけると、それまでもToruとRyotaとともにステージサイドに伸びる花道を走りながら歌っていたTakaがステージから飛び降りてアリーナスタンディングの間の通路を全力疾走。3塁ベンチの上まで行くと、そこで寝転ぶようにしながら「We are」を演奏し、ラストは左右とステージ奥にあるモニターに英語詞の部分のフレーズが映し出されたキラーチューン「完全感覚Dreamer」で締め、Takaはこの後は観客とともにELLEGARDENのライブを楽しむことを告げた。
「ELLEGARDENに大きな影響を受けた」と言っているが、ONE OK ROCKの音楽を聴いていても、ELLEGARDENから大きな影響を受けたバンドだとは思いにくい。
そりゃあそうだ、ELLEGARDENに影響を受けて、ELLEGARDENと同じようなことをやっても、ELLEGARDENには絶対勝てないことをONE OK ROCKの4人は本当によくわかっている。
だからこそELLEGARDENとは全く違う、ラウド・ミクスチャーという自身のスタイルを貫き、それをこうして同じステージに立てるくらいに磨き上げ続けてきた。それで日本で大きなステージどころか、海外にも進出しているのだから、本当にすごいことだ。
Taka自身も
「ロックバンドにはその時代を代表するバンドが必ずいる」
と言っていたが、その時代を代表するバンドが今はこのバンドであることを彼らはよく理解していると思うし、きっとワンオクに憧れてステージに立つことを選んだ、ワンオクとは全く違う音楽をやるバンドがまたこうして時代を代表するバンドになっていくはず。そうしてロックはさらに先の世代に継承されていく。
細美武士にELLEGARDENをやるようにずっとせっついてくれて、この日を迎えることができて、本当にありがとう。
1.Taking off
2.The Beginning
3.Crock Strikes
4.Take Want You Want
5.I Was King
6.Mighty Long Fall
7.We Are
8.完全感覚Dreamer
・ELLEGARDEN
そしてついに10年ぶりのELLEGARDENのライブ。しかしこの待ち時間、本当にELLEGARDENが見れるのか、この日、この状況は現実なのだろうか、とふわふわした気持ちだった。
だからこそ、あのSEが流れ、スクリーンにスカルのロゴで「ELLEGARDEN」という文字が映し出された時、ステージに黒い服で統一された(そう、エルレはやっぱり黒のイメージなんだ)4人がステージに現れた時、本当にこれが現実なんだ、我々の目の前にELLEGARDENが帰ってきたんだ、とこれが夢でも幻でもない、紛れもなく現実の景色であることを理解した。
細美武士がギターを手にしてサビのフレーズを歌ってからイントロのギターが鳴らされるというかつてと同じアレンジの「Supernova」からスタート。ついに始まった。細美が言っていたように「Supernova」から始まるライブ。前の方は早くもダイバーが続出してぐちゃぐちゃになっているが、みんな本当に楽しそうで、最後に見た10年前の「バンドが終わってしまう」という空気ではなく、「本当にELLEGARDENのライブを見れている」という幸せな空気に満ちている。
それは客席だけでなくステージもそう。活動休止直前はどこかピリピリした、緊張感にあふれた空気があったのだが、この日は全然そんな空気がなかった。何よりも、歌う細美、コーラスをする生形、マイクを通さないながらも歌詞を口ずさんでいる高田と高橋。
the HIATUSとMONOEYESの細美でもない、Nothing's Carved In Stoneの生形でもない、MEANINGの高田でもない、Scars BoroughとTHE PREDATORSの高橋でもない、ELLEGARDENの4人がそこにいた。
細美がタメにタメて「Pepperoni Quattro」という大合唱が起こった「Pizza Man」に顕著だが、ELLEGARDENの曲は本当に大きな声で歌いたくなる。ライブにおいてそれは快く思わない人もいるというのはわかっているし、歌詞が単純ではない英語歌詞なので歌うのは実に難しいのだけど、そうさせるような力がELLEGARDENのメロディには宿っているし、その曲、メロディの力こそが似たようなバンドがたくさんいた中でELLEGARDENがここまで飛び抜けた存在になれた理由である。ELLEGARDENの存在が日本のメロディック、パンクシーンにおいて「ひたすらにメロディを磨き上げる」というバンドのスタイルの最高峰であると思うし、そうした流れを作った存在だと思っている。(そのスタイルとは違うバンドは「他のジャンルのサウンドを取り入れて進化する」という方法を選ぶ)
ここまでは初期~中期のパンクの要素が強い、高橋のツービートと高田のルート弾きが引っ張るような曲が続いたが、「Fire Cracker」「Space Sonic」という後期に当たる曲ではパンクというよりもオルタナさを感じさせ、そう長くはない期間を駆け抜けたバンドの音楽性の変遷を感じさせる。
「こんばんは、ELLEGARDENです!」
という細美の挨拶。今でも聞き慣れた、
「MONOEYESです!」
でも
「the HIATUSです!」
でもなく、「ELLEGARDENです!」という言葉に改めて、自分たちが今ELLEGARDENのライブを見ているという事実を噛み締めざるを得ないが、細美はいったん客席からの歓声を制し、
「外にいるやつら、聞こえてるかー!お前らも怪我すんなよ!」
と、この日チケットが手に入らずに球場の周りにいた音漏れ参加者にも呼びかけていたのだが、曲は聴こえてもMCはほとんど聞こえなかったという音漏れ参加者にもこの声だけはしっかり届いていたという。
ちなみにそんなに喋ることはないらしく、細美は高田にMCを振っていたが、高田も
「特にないです」
とのこと。でも、ファンはツイッターが炎上しまくりながらも、高田がフェスに1人だけで出演した時にELLEGARDENの曲をベースのみで弾くというバンドへの愛に満ちた活動をしていたのを知っているし、そうした一つ一つがこの日に繋がっている。キャラ的にそうした発言をしていたのだろうが、本当は伝えたいことや言いたいこともたくさんあっただろうというのは想像に難くない。
後期の名曲「高架線」「Missing」と激しさではない、歌とメロディを聴かせる普遍的な曲も演奏されたが、改めて活動休止前のライブ映像を見てからこの日のライブを見ると、細美の歌が信じられないくらいに上手くなっていることに気づく。確かに、ELLEGARDENの頃は細美はそこまで歌が評価されているボーカリストではなかった。(英語の上手さは初期から評価されていたが)
それがthe HIATUSという、歌が上手くなければ成り立たないような、凄腕メンバーたちによってしっかりと構築された音楽のバンドで歌ってきたことによって、10年前までに何度も見たどのライブよりも細美の歌が上手くなっていて、曲の魅力を過去最高に引き出せるようになっていた。確かに、ELLEGARDEN不在の10年を過ごすことになったが、その10年という長い月日は決して無駄なものでは全くなく、個々人のミュージシャンとしてのはるかなレベルアップを果たした、大切な10年だったということがよくわかる。
「こんな星の夜は全てを投げ出したって どうしても君に会いたいと思った」
というフレーズがまさに全てを投げ出してでもELLEGARDENに会いたかった我々の心境のように響いた「スターフィッシュ」では思わず夜空を見上げた。星は見えなかったが、久しぶりに夜空の下で聴くこの曲はたまらなくロマンチックだった。
「10年も経つなんて俺たちも思ってなかった。長い間待たして悪かったな。他になんも言うことはないな~。今日はきっと、この後めちゃくちゃ酒飲んで、二日酔いだか三日酔いの後に4人で飯食いに行って、今日がどんな日だったのか考えるから」
と細美が言っていたように、やはりまだこれからの活動は何も決まっていないようだが、この日のライブが2年前から決まっていたことを明かすと、
「俺たちは活動休止するまでも、ずっとロックスターみたいなものになろうとしていなかった。そういう存在じゃねぇから。でも、ELLEGARDENの最初で最後のスタジアムワンマン。いっちょ、ロックスターでやってみねえか」
とメンバーに細美が問いかけた。本人たちはずっと小さいライブハウスのバンドのままかもしれないが、こうしてライブを見ていた人たちからすれば、ELLEGARDENは紛れもなくロックスターだった。だから10年経った今でもこんなに多くの人がその存在を求めている。それがロックスターじゃなくてなんだというのだろうか。
あまりにあっさりと演奏された「The Autumn Song」、この曲があるゆえにこの日は風が強かったんじゃないかとすら思えた「風の日」。ELLEGARDENは巨大な存在なバンドなのはかつても今でも間違いはないのだが、実はそこまで「売れた」というくらいのレベルだったのは、「RIOT ON THE GRILL」以降、シングルで言うと「Space Sonic」と「Salamander」の2曲しかオリコンTOP10に入った曲はない。なのにどの曲も38000人もの人がイントロから大歓声を上げ、ミリオンヒットを飛ばした曲であるかのような盛り上がりを見せる。それはELLEGARDENの音楽が一過性の青春のきらめき的なものではなく、今でもたくさんの人の心に響くようなものであるということの何よりの証明だった。
「なんか、お前らの顔を見てると懐かしい気もするんだけど、初めましての人もたくさんいると思うんだよな。多分半分くらいは、親が好きで車の中でよく聴いてて、高校生くらいになったらライブに行ってみたいなって思ってたら活動休止してた、っていう人たちだと思うんだよな。そういうやつらに、ここにいる俺たちがELLEGARDENです。以降お見知り置きを!
そんで、いつまで経っても綺麗事とかに馴染めないバカなオールドファンに捧げます」
と客席を見渡してから演奏された「Middle of Nowhere」はただ激しく暴れるだけではない、1人で自分自身や社会や世間と対峙し、向き合うための曲。こうしたシリアスな空気を持ったこの曲で会場の空気はガラッと変わっていた。
10年前に最後に見たROCK IN JAPAN FES.2008のライブではアンコールの最後の最後に、
「湿っぽく終わるのってらしくないよね!?」
と言って演奏された「Surfrider Association」で再びパンクに、アッパーに振り切れ、極上のメロディに切ない歌詞が乗る「Marry Me」では細美が
「You're an idol in high school」
というフレーズで、お前がアイドルだ、と言わんばかりに客席の女性を指差し、「Lonsome」では演奏中に細美と高田、細美と高橋が目を合わせながら笑顔で曲を鳴らしている。数々のメンバー同士による不和の噂が全て嘘だったかのような笑顔。やらされているのでもこなしているのでもなく、自分たちがやりたくてこのステージに立っている。その思いが垣間見れた、本当にファンがずっと望んでいた一瞬だった。
「この曲の歌詞を書いた時、これが全て真実だって思うようなことが書けたと思ってた。でもこの世は本当は正直者がバカを見るような世の中なんじゃないかって思うこともあったけど、俺たちは10年間ずっと正直に生きてきた」
と前置きされたのは、細美が弾き語りでもよく歌ってきた「金星」。
「ねえ この夜が終わる頃 僕らも消えていく」
というフレーズが、今日だけは本当にならないでくれ、ずっと消えずに目の前にいてくれ、と思いながら、
「はっきりと言わない言葉は傷つける 恨まれることさえ出来ない」
というかつて細美が思いを託した言葉たちを噛み締めながら聴いていた。
まさかこの真夏の野外に聴けるとは思っていなかった「サンタクロース」、
「そういう二つとない宝物を集めて
優しくも揺れてる声と合わせて
一つ一つ片付けてく僕らは
不確かなまま駆けてく」
というフレーズがまさにELLEGARDENのいる今ここ、を実感させてくれる「モンスター」と続くと、最後のMCでは
「カメラとかいっぱい入ってるけど、円盤(DVD)にはならねえから。この3本のワンオクとのツアー、俺たちはすごく楽しい旅だったんだけど、お前らにはお前らのこの日までの10年があって、その本当の最後の最後に今日がある。そんなお前らそれぞれの10年の歴史を、俺たちの旅の記憶で上書きするわけにはいかない。お前らの人生はお前ら1人1人が主人公だろ」
と、誰もが望んでいたであろうこの日のライブの映像化はないことを細美が告げると、メンバー1人1人に話を振る。
すでに
「このバンドはすぐそこの船橋で結成されて、船橋のスタジオで毎週3日、8時間リハやってたんだけど、細美さんがこの辺に住んでたから、スタジオ終わりで車で送ったりしていて。そういうのをすごい思い出しました」
というバンドの歴史を語っていた生形は
「本当に来てくれてありがとう」
とだけ告げ、高橋は
「みんなには休止って約束したけど、俺は心のどこかで、もうELLEGARDENのライブをやることは一生ないんじゃないか、って思ってた。だから今日こうしてここに立って…まぁ俺は座ってるけど(笑)
っていうのが本当に信じられない」
と何も隠すことなく、休止後の10年に感じていた素直な心境を明かした。
自分も、活動休止を発表して、最後にライブを見た時は「もうELLEGARDENのライブを見れる日は来ないだろうな」と思っていた。ましてやメンバーそれぞれのバンドがELLEGARDENからかなり離れた音楽性を確立して、それを本人たちが楽しみながらやっているのを見るたびに、ELLEGARDENの復活を期待するのはもう野暮なことなのかも、自分のワガママなのかもしれない、とすら思うようになっていただけに、「ELLEGARDENが見たい」と口に出すことすらなくなっていた。
でも実際にELLEGARDENは約束通りに再び集まって、全員がELLEGARDENであることを楽しみながら音を鳴らしている。高橋が言うように、ここに至るまでには数え切れないくらいの困難や葛藤があったと思うが、ずっと心のどこかでは「もう見れないかもしれない」という思いと同じくらいに、「またELLEGARDENを見たい」という気持ちがあったのだ。
かと思えば高田は、
「最近はずっと初台WALLでしかライブをやっていなかったので…今後は初台WALLのブッキングを断わっていこうかと思っています(笑)」
という、あまりにも局地的過ぎて全く伝わらないようなことを言うが、ある意味では炎上しようがないだけにこれで良かったのかもしれない。締めとしてはなんとも微妙な空気感ではあったけれど。
そして待ってました、とばかりに客席がさらに最高沸点をさらに更新する「Red Hot」からラストスパートへ。燃え上がるようなサウンドの「Salamander」ではスクリーンにリアルタイムで加工された4人の演奏する姿が映り、
「いつだって君の声がこの暗闇を切り裂いてくれてる
いつかそんな言葉が僕のものになりますように そうなりますように」
という疾走感溢れるパンクサウンドに乗るフレーズが今でも我々の背中を押し続ける「ジターバグ」へ。自分がCDTVのテーマソングとして流れていた時に初めてELLEGARDENと出会った曲。それが15年くらい経った今でもこうしてライブで聴けて、同じようにこの曲に背中を押され続けてきた人たちが周りにこんなにたくさんいる。心の奥底でわずかながら願っていたことは、やっぱり少しも間違ってはいなかったし、このバンドとあのタイミングで、この曲でリアルタイムで出会えたことにも一切の間違いはなかったのだ。
「ラスト1曲!」
と細美が言った時に、いろんな人の中でどの曲のイントロが鳴るイメージだったのだろうか。果たしてその答えは
「積み重ねた思い出とか 音を立てて崩れたって 僕らはまた今日を記憶に変えていける」
という、この日の経験や思い出があれば、これから先もずっとELLEGARDENと一緒に生きていけると思える「虹」だった。
「間違いとかすれ違いが僕らを切り離したって 僕らはまた今日を記憶に変えていける」
というフレーズを、細美と生形だけでなく、高田と高橋も口ずさみながら演奏していた意味。それは10年という長い月日を経ても、この4人が再び集まったことを4人全員が自らの身と曲と音をもってして赦したかのようだった。
高田が去り際に無駄に顔を作りながら掃けていく姿に苦笑が起こる中、すぐさま再登場したアンコールでは
「8月15日、俺たちのツアーファイナルにして、73回目の終戦記念日。子供の頃とかは一切そんなこと気にしなかったし、普段は気にしないやつもたくさんいると思う。
でもやっぱり俺たちミュージシャンは愛と平和を歌うべきなんだ。今、お前らの隣にいる奴らが1人にならないように、お前らが帰りに寂しくならないように。この3分間だけは俺たちに預けてください!」
と細美がこの日に自分たちがこの4人で、この曲をライブで演奏する意味と必然を語ってから演奏された「Make A Wish」。大合唱が轟く中、2コーラス目では一気にテンポが上がるサウンドに合わせてダイバーが続出し、巨大なサークルが発生する。その光景は、今までに何度となく聞いてきた、見てきたこの曲の中でも最も美しく、この曲をバンドのメンバーやELLEGARDENを信じてきた人たちみんなで歌えることの幸せに満ち溢れていた。
「もう1曲だけやらせてくれ!」
と言っての「月」では最後のサビ前に観客を
「全員座れるまで待つから」
と、スタンド席だけでなくアリーナの人たちも全員座らせてから一気にジャンプさせるのが最大の一体感を描き出す「月」。雲が多い日ではあったけれど、ジャンプした時に見上げた空には確かに月が見えていた。この曲をここでこうして聞くためであるかのように。
しかしそれでもまだ終わらず、細美が上半身裸でステージに現れると、ツービートのリズムがモッシュピットやダイブに向かうのをこの上なく助長する「BBQ Riot Song」。個人的に、ELLEGARDENの中で最も何にも考えずにはしゃぎたくなる曲。でもラストの
「I remember you
See you some time on the beach」
というフレーズは、他のどの場所でもなく、この場所(この会場のすぐ裏には幕張のビーチがある)でのいつかの再会の日を約束しているかのようで、その後に打ち上がった花火は、きっとどの花火大会に行って見るそれよりも、もしかしたらこんなに美しい花火はもう見れないかもしれない、と思うくらいに美しかった。
終わった後に写真撮影をしたのは、これで一区切りということなんだろうか。実際にELLEGARDENのこれからはまだ何も決まっていない。でも、我々は確かに10年も待って、こうしてELLEGARDENのライブをまた見ることができた。それは、メンバーが誰1人いなくならずにこの日を迎えて、我々もあれから10年、いろんなことを経てきてもこの日まで生きてきたからなのだ。そう思えば、次がいつになるかはわからないけれど、またこうして会うことができる日まで待つことができる。
「もう2度と見れないかもしれない」んじゃなくて、少年たちは少年たちのままで、この街に、千葉というこのバンドが生まれた地に帰ってきたのだから。
でも、こうしてここまで特別な感情をたくさんの人に抱かせる、ELLEGARDENとはなんなんだろうか。ただ単に「曲がいい」「カッコいい」とか、そうした感覚を超えたところにELLEGARDENは存在していたし、今も存在している。その理由は、やはり4人の人間としての力や魅力にあると思う。この規模でのワンオクとの対バンが4500円という値段なのも、Tシャツが一切高いと感じないのも、すべてそこには明確な意志と理由がある。(だからこそそれを私欲のために利用するような人も出てくる)
そうした人間としての力が、音や発言から確かに感じられるから、自分のように、
「お前らみたいな音楽ヒッピーみたいなやつがたくさんいたら、世の中はもっとよくなる気がする」
という言葉に感化されて、自分の人生なんだから、自分の気持ちに嘘をつくことなく、生きたいように生きていきたい、という生き方を選ぶ人間まで出てきてしまう。
でもそこには全く後悔はないし、きっとそのまま敷かれたレールの上に乗っているよりもはるかに楽しいであろう人生を自分は送っている。
2018年の8月15日は、そうしてこれまでELLEGARDENが不在の期間に生きてきた10年間と、今の己の人生の答え合わせをするかのような1日だった。そして、できることならば、そんな日がもっとたくさんの人に訪れることになりますように。年月を経ればいろんなことが変わるけれど、ステージに立って演奏されれば、ELLEGARDENの残してきた音楽のきらめきは一切変わることはないのだから。
1.Supernova
2.No.13
3.Pizza Man
4.Fire Cracker
5.Space Sonic
6.高架線
7.Missing
8.スターフィッシュ
9.The Autumn Song
10.風の日
11.Middle of Nowhere
12.Surfrider Association
13.Marry Me
14.Lonesome
15.金星
16.サンタクロース
17.モンスター
18.Red Hot
19.Salamander
20.ジターバグ
21.虹
encore
22.Make A Wish
23.月
encore2
24.BBQ Riot Song
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