NICO Touches the Walls ”N X A” TOUR -Lake Side- @河口湖ステラシアター 大ホール 7/29
- 2018/07/30
- 00:24
6月のZepp Tokyoからスタートした、NICO Touches the Wallsの「Electric Side」「Acoustic Side」というバンドの二つの形態を交互に行う今回のツアー。形態に合わせてライブハウスとホールという会場を使い分けてきたツアーだが、当初はツアーファイナル的な位置であった、この河口湖ステラシアター大ホールでのワンマンは「Lake Side」と銘打たれ、ツアーの他の公演とは全く違う内容になることがうかがえる。
会場の河口湖ステラシアターは河口湖のすぐ近くにある公園にあるキャパ3000人くらいの野外会場で、日比谷野音のようでもあるが、客席には可動式の屋根があり、石の階段状のかなり傾斜のある座席、なによりもステージの背面は普通に公園の景色が広がっているなど、映画「グラディエーター」に出てきそうな雰囲気である。
なかなか普段はなじみのない会場であるが、スターダストレビューはここでよくライブを行なっているらしい。(前日もスターダストレビューのワンマンがあったが、台風の影響で延期になっている)
さすがにずっと石の座席に座っているのはキツいからか、入場と同時にスタッフからクッションが配られるというのもなかなか新鮮な体験で、開演時間の16:30になるとまだBGMが鳴る中でメンバーが普通にステージに登場。もはやすっかり第5のメンバーとして欠かせぬ存在になった、サポートの浅野尚志とともに、光村は未だに鮮やかな金髪を継続中で、古村も髪を赤く染めている。リズム隊は見た目は全然変化はない。
メンバー全員が高音コーラスを重ね合わせてから、光村がアコギを手にすると、テンポを落として音数をより絞ったアレンジによってそのコーラスがより一層曲の核になっている「ストラト」からスタート。メンバーのコーラスはもちろんだが、光村のボーカルもこの会場からかなり遠くに離れていても聞こえるんじゃないか?というくらいに伸びやか。ツアーを経てきて演奏がさらにビルドアップされたのはもちろん、しっかりとこの日にバンドが照準を合わせてきたのがよくわかる状態の良さ。
「新曲じゃありませんよ(笑)」
と後に光村が紹介した「夏の雪」はこの日、この会場だからこその選曲であろう、超レアなカップリング曲。見事に晴れ渡ったこの日の気候に実によく合う曲だし、こちらも音数を絞った、さらに爽やかなアレンジになっている。
各々がアコースティック楽器(対馬もスティックを変えていた)に持ち替えるという、エレクトリックとアコースティックを両立させるライブになることがわかる「Broken Youth」のアコースティックバージョンは、原曲の迸るような熱量をあえて封じ込め、まるでこの会場を見てからアレンジを決めたかのような爽やかさ。すでにこの曲はACOバージョンがCDに収録されているが、それよりもさらに爽やかさに振り切っている。
古村と坂倉が楽器を置いてカホンを叩き、浅野もタンバリンのみという、光村のアコギ以外はすべてリズム楽器という驚愕のアレンジが施されたことにより、観客の手拍子がより一層重要な音になる「手をたたけ」は、ACOならぬHACOバージョンの初お披露目。もはやNICOはただのバンドマンというよりも音楽家の集団と言っていいくらいに、各々が担当楽器以外も演奏できるマルチプレイヤーと化している。
間奏で光村のスキャットとともに各メンバーのソロがアコースティックバージョンで堪能できる「ニワカ雨ニモ負ケズ」はエレクトリックと変わらぬ白熱した演奏を展開。
ちなまにこの時、ステージ背面の公園に外国人の女性が自転車に乗って突っ切ろうとしているのが見えたのがめちゃくちゃ面白かった。
古村、坂倉、浅野の3人がステージ袖に下がり、光村と対馬の2人だけになると、対馬がシェイカーを持って光村のマイクに近づき、なんと一つのマイクで光村がボーカル&アコギ、対馬がコーラス&シェイカーというボーカルデュオのような編成になっての「夏の大三角形」へ。夏の野外会場ということでこの曲はやるだろうとは思っていたが、まさかこんな形で演奏されることになるとは。2人は当然超至近距離で歌うのだが、2番のサビの歌詞を対馬が間違えてしまい、苦笑いする声までもしっかりマイクに拾われていた。
エレクトリックに戻るものの、激しい演奏というよりはじっくりと音を鳴らしていくという印象の「勇気も愛もないなんて」「bud end」というツアーでも中盤の転換点となるタイミングで演奏されていた曲を終えると、昨年リリースの「OYSTER」の中でも屈指の名曲である「Ginger lily」へ。光村いわく
「こういう曲は書こうと思えばいくらでも書ける」(MUSICA8月号のインタビューより)
とのことだが、このレベルの曲をそんなやすやすと書けるというのが光村の才能の凄まじさを物語っている。
「台風がかなりひねくれた動きをしていまして(笑)」
と、今回の台風の進路に自分たちの進んでいる方向を重ね合わせるようなMCからは、ツアー中にすでに披露していた「TWISTER」の収録曲をリリース後というタームになって演奏。
「俺の歌で誰も泣かない」
という「何を言っているのか?」と思わず本人を問い詰めたくなるようなフレーズが印象的な「SHOW」から、完全に振り切ったモードに突入したことを示した「TWISTER」のオープニングを飾る、NICOのロックの中にヒップホップなど、光村の雑食リスナーとしての様々な音楽性をごった煮にしたような「VIBRIO VULNIFICUS」(この意味不明なタイトルはメキシコの牡蠣に潜んでいる凶悪なウイルスのことらしい)は「これはやってくれた!」とCDを聴いた時にもガッツポーズしたくなるくらいにカッコいいロックナンバーだが、ライブで聴くとその何十倍もカッコいい。
この曲に顕著なように、今のNICOは完全に「自分たちのやりたいことをやりたいようにやるからそれについてこい」モードに突入している。それはインディーズの青盤や赤盤の頃に戻ったような感じもするが、戻ったのではなく、様々な経験を経て、あの頃とは比べものにならないくらいの技術を得て、進化した結果が今である。インディーズの頃もやりたいようにやっていたが、まだ今ほどそれを具現化できるような力がメンバーたちには備わっていなかった。でも今ならできる。それはこの曲や、もはやCDとおりに演奏している曲はほとんどないんじゃないか?と思うようなアレンジからもわかることである。
間奏のブレイクをこの日は「18回」という回数を重ねた「mujina」、ダンサブルなリズムの「FRITTER」は
「ぜんぶ一回忘れちゃいな」(「mujina」)
「どうだっていいんじゃない?
それ どうだっていいんじゃない?」(「FRITTER」)
という、開き直り的な無責任感が炸裂しているロックであるが、もはや30歳をとっくに超えたメンバーの世代(我々の世代)としては、普通の社会においてそうして好き勝手に生きるのは実に難しい。というか自営業でもない限りはまず無理なことだ。しかしNICOのメンバーたちがそうして生きている姿というのは実に心強く、そしてカッコよく見える。完全に自分たちの生き様を貫き通しているという意味では、NICOは精神的に実にパンクなバンドである。
原曲通りに演奏されるというアレンジが逆にレアにすら思えてくる「ローハイド」でさらにバンドの演奏が加速すると、光村がハンドマイクで踊りながら歌う→途中でギターを持って弾きながら歌うという形で光村も踊りまくる「Funny Side Up!」では銀テープが客席に向かって放たれ、あっという間のラストは歌詞に「ツイスト&シャウト」というフレーズが出てくるようにグループサウンズ的なサウンドに、光村も「「N極とN極」の続きを作ろうと思った」というように
「僕らはお互いあんなに似てたのに」
というフレーズが登場する「来世で逢いましょう」は、
「嫁に行っちゃった」
という歌い出しから始まるように、30代になり、周りの友人たちが結婚してきているリアルさを醸し出しているのがまだ20代前半であった「N極とN極」とは全く違う。とはいえこの曲はこうして本編の最後に演奏されるのも納得なくらいにメロディがキャッチーな曲であるが。
アンコールではメンバーがツアーTシャツに着替えて登場し、
「今回の「TWISTER」も2枚組で、2枚目にはアコースティックバージョンが収録されております。配信では聴けないので、ぜひCDを買ってください。そしてそのアコースティックバージョンがあまりに良過ぎるので、アコースティックバージョンでも演奏してみたいと思います」
と言って、ラテンテイスト溢れるダンサブルなアコースティックアレンジの「VIBRIO VULNIFICUS」はエレクトリックとはまた全く違う、どちらを原曲と呼んでいいのかわからなくなるくらいにアコースティックが単なるオマケではなく、曲の違う魅力を引き出すアレンジであることを見せつける。アコースティックというと単に原曲をアコースティック楽器に変えて演奏しました、というものも多いのだが、NICOの場合は曲の構造からガラッと変えており、もはやアコースティックがバンドの一つの軸になっている。
ステージの後ろには富士山が少し顔を見せ、
「日頃の行いがいいから」
と満足気な表情を見せながら、今回のツアーではおなじみになっている、「本来のアンコールの意味」通りのおかわりタイムでは、観客の1人のリクエストに応え、「ニワカ雨ニモ負ケズ」のACOバージョンをもう一度演奏。当然メンバーのソロ回しも含めて行われるのだが、浅野はアコギだけでなくキーボードのソロも見せ、メンバーも驚きと笑いを見せていただけに、このソロセッションは決まりがないフリーキーなものであることがわかる。なによりもメンバーたちが本当に楽しそうな顔をしていたのがたまらなく嬉しい。
これで終わりかと思いきや、
「最後は爆音で終わりたくないですか!?」
とメンバーがエレクトリックに楽器を持ち替え。アンコールが始まった時は見えていた富士山は雲に隠れて見えなくなっており、
「富士山よりも俺たちを見ろっていうことだよ!」
と、図らずも対馬の名言を生み出す結果に。
そうして演奏された「天地ガエシ」では曲の後半でステージ背面の公園から花火が打ち上がるという、この会場でしか見ることができないであろう特別な演出が。古村、坂倉、浅野は演奏しながら花火を見て、光村は演奏が終わると客席に向かって何度も投げキスをしてから、メンバー全員で肩を組んでステージを後にした。この場所に来た人たちだけが目にすることができた、「僕らだけの秘密の大勝利」であった。
野外でのライブというと真っ先に思い浮かぶのは夏の野外フェスである。NICOも当然、1番小さいステージからスタートして、ライブの実力と売り上げと知名度を上げながら、メインステージに立つような存在になった。つまり、NICOはまぎれもなく野外フェスで勝ってきたバンドである。
しかしながら同じ野外のライブであっても、野外フェスではこの日のような内容のライブをやることはない。フェスというのはどうしたって誰もが知るヒット曲を求められる場所であるし、実際にNICOはそういう場所で演奏できるヒット曲を持っているバンドだから。
しかしながら今回のツアーや「TWISTER」の内容からすると、いよいよNICOはフェスではなく、ワンマンに行かないとその真価を見ることができないバンドになってきている。それだけ自分たちだけのやり方や見せ方、世界を確立してきたということだ。もったいないことに、この日は場所の問題もあってか満員にはならなかっただけに、フェスで見た人に少しでもワンマンに足を運んでもらいたい。フェスのイメージしかなかったら絶対ビックリするはずだから。
先週、NICOがかつてカバーしたこともある、同世代の盟友チャットモンチーが活動を終えた。もうメジャーデビューして10年以上。そんな歴を誇るバンドで、今も全く形が変わらずに、なおかつ自分たちのやりたいことをやりながら変わらぬ規模で最前線に立ち続けているバンドは、NICOとUNISON SQUARE GARDENくらいしか思い浮かばない。さらに上にはメンバーが変わることも止まることもなく続けてきたバンドがまだまだたくさんいる。その領域に挑める権利を持った、数少ないバンドになっただけに、これからも変わらずに攻め続けるNICOの姿を見ていたい。
ライブ後、まだ明るさが残りながらも肌寒くなった、富士山の近くだからこその冷たい空気がそう思わせた。また来月にはこのすぐ近くの会場でライブが見れるのだ。
1.ストラト
2.夏の雪
3.Broken Youth (ACO)
4.手をたたけ (HACO)
5.ニワカ雨ニモ負ケズ (ACO)
6.夏の大三角形 (光村&対馬)
7.勇気も愛もないなんて
8.bud end
9.Ginger lily
10.SHOW
11.バケモノ
12.VIBRIO VULNIFICUS
13.mujina
14.FRITTER
15.ローハイド
16.Funny Side Up!
17.来世で逢いましょう
encore
18.VIBRIO VULNIFICUS (ACO)
19.ニワカ雨ニモ負ケズ (ACO)
20.天地ガエシ
TWISTER ep
https://youtu.be/OXDVum8jcu0
Next→ 8/4 ROCK IN JAPAN FES.2018 day1 @国営ひたち海浜公園
会場の河口湖ステラシアターは河口湖のすぐ近くにある公園にあるキャパ3000人くらいの野外会場で、日比谷野音のようでもあるが、客席には可動式の屋根があり、石の階段状のかなり傾斜のある座席、なによりもステージの背面は普通に公園の景色が広がっているなど、映画「グラディエーター」に出てきそうな雰囲気である。
なかなか普段はなじみのない会場であるが、スターダストレビューはここでよくライブを行なっているらしい。(前日もスターダストレビューのワンマンがあったが、台風の影響で延期になっている)
さすがにずっと石の座席に座っているのはキツいからか、入場と同時にスタッフからクッションが配られるというのもなかなか新鮮な体験で、開演時間の16:30になるとまだBGMが鳴る中でメンバーが普通にステージに登場。もはやすっかり第5のメンバーとして欠かせぬ存在になった、サポートの浅野尚志とともに、光村は未だに鮮やかな金髪を継続中で、古村も髪を赤く染めている。リズム隊は見た目は全然変化はない。
メンバー全員が高音コーラスを重ね合わせてから、光村がアコギを手にすると、テンポを落として音数をより絞ったアレンジによってそのコーラスがより一層曲の核になっている「ストラト」からスタート。メンバーのコーラスはもちろんだが、光村のボーカルもこの会場からかなり遠くに離れていても聞こえるんじゃないか?というくらいに伸びやか。ツアーを経てきて演奏がさらにビルドアップされたのはもちろん、しっかりとこの日にバンドが照準を合わせてきたのがよくわかる状態の良さ。
「新曲じゃありませんよ(笑)」
と後に光村が紹介した「夏の雪」はこの日、この会場だからこその選曲であろう、超レアなカップリング曲。見事に晴れ渡ったこの日の気候に実によく合う曲だし、こちらも音数を絞った、さらに爽やかなアレンジになっている。
各々がアコースティック楽器(対馬もスティックを変えていた)に持ち替えるという、エレクトリックとアコースティックを両立させるライブになることがわかる「Broken Youth」のアコースティックバージョンは、原曲の迸るような熱量をあえて封じ込め、まるでこの会場を見てからアレンジを決めたかのような爽やかさ。すでにこの曲はACOバージョンがCDに収録されているが、それよりもさらに爽やかさに振り切っている。
古村と坂倉が楽器を置いてカホンを叩き、浅野もタンバリンのみという、光村のアコギ以外はすべてリズム楽器という驚愕のアレンジが施されたことにより、観客の手拍子がより一層重要な音になる「手をたたけ」は、ACOならぬHACOバージョンの初お披露目。もはやNICOはただのバンドマンというよりも音楽家の集団と言っていいくらいに、各々が担当楽器以外も演奏できるマルチプレイヤーと化している。
間奏で光村のスキャットとともに各メンバーのソロがアコースティックバージョンで堪能できる「ニワカ雨ニモ負ケズ」はエレクトリックと変わらぬ白熱した演奏を展開。
ちなまにこの時、ステージ背面の公園に外国人の女性が自転車に乗って突っ切ろうとしているのが見えたのがめちゃくちゃ面白かった。
古村、坂倉、浅野の3人がステージ袖に下がり、光村と対馬の2人だけになると、対馬がシェイカーを持って光村のマイクに近づき、なんと一つのマイクで光村がボーカル&アコギ、対馬がコーラス&シェイカーというボーカルデュオのような編成になっての「夏の大三角形」へ。夏の野外会場ということでこの曲はやるだろうとは思っていたが、まさかこんな形で演奏されることになるとは。2人は当然超至近距離で歌うのだが、2番のサビの歌詞を対馬が間違えてしまい、苦笑いする声までもしっかりマイクに拾われていた。
エレクトリックに戻るものの、激しい演奏というよりはじっくりと音を鳴らしていくという印象の「勇気も愛もないなんて」「bud end」というツアーでも中盤の転換点となるタイミングで演奏されていた曲を終えると、昨年リリースの「OYSTER」の中でも屈指の名曲である「Ginger lily」へ。光村いわく
「こういう曲は書こうと思えばいくらでも書ける」(MUSICA8月号のインタビューより)
とのことだが、このレベルの曲をそんなやすやすと書けるというのが光村の才能の凄まじさを物語っている。
「台風がかなりひねくれた動きをしていまして(笑)」
と、今回の台風の進路に自分たちの進んでいる方向を重ね合わせるようなMCからは、ツアー中にすでに披露していた「TWISTER」の収録曲をリリース後というタームになって演奏。
「俺の歌で誰も泣かない」
という「何を言っているのか?」と思わず本人を問い詰めたくなるようなフレーズが印象的な「SHOW」から、完全に振り切ったモードに突入したことを示した「TWISTER」のオープニングを飾る、NICOのロックの中にヒップホップなど、光村の雑食リスナーとしての様々な音楽性をごった煮にしたような「VIBRIO VULNIFICUS」(この意味不明なタイトルはメキシコの牡蠣に潜んでいる凶悪なウイルスのことらしい)は「これはやってくれた!」とCDを聴いた時にもガッツポーズしたくなるくらいにカッコいいロックナンバーだが、ライブで聴くとその何十倍もカッコいい。
この曲に顕著なように、今のNICOは完全に「自分たちのやりたいことをやりたいようにやるからそれについてこい」モードに突入している。それはインディーズの青盤や赤盤の頃に戻ったような感じもするが、戻ったのではなく、様々な経験を経て、あの頃とは比べものにならないくらいの技術を得て、進化した結果が今である。インディーズの頃もやりたいようにやっていたが、まだ今ほどそれを具現化できるような力がメンバーたちには備わっていなかった。でも今ならできる。それはこの曲や、もはやCDとおりに演奏している曲はほとんどないんじゃないか?と思うようなアレンジからもわかることである。
間奏のブレイクをこの日は「18回」という回数を重ねた「mujina」、ダンサブルなリズムの「FRITTER」は
「ぜんぶ一回忘れちゃいな」(「mujina」)
「どうだっていいんじゃない?
それ どうだっていいんじゃない?」(「FRITTER」)
という、開き直り的な無責任感が炸裂しているロックであるが、もはや30歳をとっくに超えたメンバーの世代(我々の世代)としては、普通の社会においてそうして好き勝手に生きるのは実に難しい。というか自営業でもない限りはまず無理なことだ。しかしNICOのメンバーたちがそうして生きている姿というのは実に心強く、そしてカッコよく見える。完全に自分たちの生き様を貫き通しているという意味では、NICOは精神的に実にパンクなバンドである。
原曲通りに演奏されるというアレンジが逆にレアにすら思えてくる「ローハイド」でさらにバンドの演奏が加速すると、光村がハンドマイクで踊りながら歌う→途中でギターを持って弾きながら歌うという形で光村も踊りまくる「Funny Side Up!」では銀テープが客席に向かって放たれ、あっという間のラストは歌詞に「ツイスト&シャウト」というフレーズが出てくるようにグループサウンズ的なサウンドに、光村も「「N極とN極」の続きを作ろうと思った」というように
「僕らはお互いあんなに似てたのに」
というフレーズが登場する「来世で逢いましょう」は、
「嫁に行っちゃった」
という歌い出しから始まるように、30代になり、周りの友人たちが結婚してきているリアルさを醸し出しているのがまだ20代前半であった「N極とN極」とは全く違う。とはいえこの曲はこうして本編の最後に演奏されるのも納得なくらいにメロディがキャッチーな曲であるが。
アンコールではメンバーがツアーTシャツに着替えて登場し、
「今回の「TWISTER」も2枚組で、2枚目にはアコースティックバージョンが収録されております。配信では聴けないので、ぜひCDを買ってください。そしてそのアコースティックバージョンがあまりに良過ぎるので、アコースティックバージョンでも演奏してみたいと思います」
と言って、ラテンテイスト溢れるダンサブルなアコースティックアレンジの「VIBRIO VULNIFICUS」はエレクトリックとはまた全く違う、どちらを原曲と呼んでいいのかわからなくなるくらいにアコースティックが単なるオマケではなく、曲の違う魅力を引き出すアレンジであることを見せつける。アコースティックというと単に原曲をアコースティック楽器に変えて演奏しました、というものも多いのだが、NICOの場合は曲の構造からガラッと変えており、もはやアコースティックがバンドの一つの軸になっている。
ステージの後ろには富士山が少し顔を見せ、
「日頃の行いがいいから」
と満足気な表情を見せながら、今回のツアーではおなじみになっている、「本来のアンコールの意味」通りのおかわりタイムでは、観客の1人のリクエストに応え、「ニワカ雨ニモ負ケズ」のACOバージョンをもう一度演奏。当然メンバーのソロ回しも含めて行われるのだが、浅野はアコギだけでなくキーボードのソロも見せ、メンバーも驚きと笑いを見せていただけに、このソロセッションは決まりがないフリーキーなものであることがわかる。なによりもメンバーたちが本当に楽しそうな顔をしていたのがたまらなく嬉しい。
これで終わりかと思いきや、
「最後は爆音で終わりたくないですか!?」
とメンバーがエレクトリックに楽器を持ち替え。アンコールが始まった時は見えていた富士山は雲に隠れて見えなくなっており、
「富士山よりも俺たちを見ろっていうことだよ!」
と、図らずも対馬の名言を生み出す結果に。
そうして演奏された「天地ガエシ」では曲の後半でステージ背面の公園から花火が打ち上がるという、この会場でしか見ることができないであろう特別な演出が。古村、坂倉、浅野は演奏しながら花火を見て、光村は演奏が終わると客席に向かって何度も投げキスをしてから、メンバー全員で肩を組んでステージを後にした。この場所に来た人たちだけが目にすることができた、「僕らだけの秘密の大勝利」であった。
野外でのライブというと真っ先に思い浮かぶのは夏の野外フェスである。NICOも当然、1番小さいステージからスタートして、ライブの実力と売り上げと知名度を上げながら、メインステージに立つような存在になった。つまり、NICOはまぎれもなく野外フェスで勝ってきたバンドである。
しかしながら同じ野外のライブであっても、野外フェスではこの日のような内容のライブをやることはない。フェスというのはどうしたって誰もが知るヒット曲を求められる場所であるし、実際にNICOはそういう場所で演奏できるヒット曲を持っているバンドだから。
しかしながら今回のツアーや「TWISTER」の内容からすると、いよいよNICOはフェスではなく、ワンマンに行かないとその真価を見ることができないバンドになってきている。それだけ自分たちだけのやり方や見せ方、世界を確立してきたということだ。もったいないことに、この日は場所の問題もあってか満員にはならなかっただけに、フェスで見た人に少しでもワンマンに足を運んでもらいたい。フェスのイメージしかなかったら絶対ビックリするはずだから。
先週、NICOがかつてカバーしたこともある、同世代の盟友チャットモンチーが活動を終えた。もうメジャーデビューして10年以上。そんな歴を誇るバンドで、今も全く形が変わらずに、なおかつ自分たちのやりたいことをやりながら変わらぬ規模で最前線に立ち続けているバンドは、NICOとUNISON SQUARE GARDENくらいしか思い浮かばない。さらに上にはメンバーが変わることも止まることもなく続けてきたバンドがまだまだたくさんいる。その領域に挑める権利を持った、数少ないバンドになっただけに、これからも変わらずに攻め続けるNICOの姿を見ていたい。
ライブ後、まだ明るさが残りながらも肌寒くなった、富士山の近くだからこその冷たい空気がそう思わせた。また来月にはこのすぐ近くの会場でライブが見れるのだ。
1.ストラト
2.夏の雪
3.Broken Youth (ACO)
4.手をたたけ (HACO)
5.ニワカ雨ニモ負ケズ (ACO)
6.夏の大三角形 (光村&対馬)
7.勇気も愛もないなんて
8.bud end
9.Ginger lily
10.SHOW
11.バケモノ
12.VIBRIO VULNIFICUS
13.mujina
14.FRITTER
15.ローハイド
16.Funny Side Up!
17.来世で逢いましょう
encore
18.VIBRIO VULNIFICUS (ACO)
19.ニワカ雨ニモ負ケズ (ACO)
20.天地ガエシ
TWISTER ep
https://youtu.be/OXDVum8jcu0
Next→ 8/4 ROCK IN JAPAN FES.2018 day1 @国営ひたち海浜公園
