クボノヨイ 2018 LIVE:クボケンジ @代官山UNIT 7/27
- 2018/07/28
- 01:00
メレンゲのボーカルであり、作詞作曲を手がけるクボケンジのソロツアー「クボノヨイ」。月初の名古屋からスタートし、この日の代官山UNITがファイナル。
今やメレンゲ本隊が年に数回しかライブを行っていないという、シーンの流れから完全に外れた活動をしている中、果たしてメレンゲではないソロという形でどんな音楽を鳴らすのか。メレンゲの曲をやるのか、それ以外の曲もクボケンジの声で歌うのか、と思うと実に楽しみな公演である。
メレンゲのライブはかつてメンバー本人たちに「隠れキリシタン」と言われるくらいに男性客が少ない、つまり常に観客の95%以上は女性という構図なのだが、ソロになってもやはりそれは変わらず。客席は割とゆとりがあるのだが、それでも端から埋まっていくというあたりがメレンゲファンの奥ゆかさを示している。当然、女性ばかりなので後ろの方で見ていても視界は非常に良好。
19時を少し過ぎると、アコギを手にしたクボケンジとともに、サポートキーボードの山本健太(ex.オトナモード。かつてアジカンのサポートもしていた)もステージに。今回のツアーはこの2人編成である。
クボケンジは基本的にアコギを弾きながら歌い、山本健太はキーボードという実にシンプル極まりない編成。だからこそ、「ルゥリィ」から始まる、基本的にメレンゲの曲を装飾を全て取り払った形で演奏するというこの形でのライブは、メレンゲのメロディの素晴らしさと、はっきり聴き取れることによって、クボケンジの歌詞の素晴らしさを改めて思い知らせてくれる。
バンドで演奏されることはほとんどない「フクロウの恋」というあたりの曲が聴けるのは弾き語りならでは。クボケンジの歌声はさらに憂いとを増しながら、独特の揺らぎを含んでいるのは年月を経ても全く変わっていない。
「さよならもう会えないな」
という歌い出しのAメロの歌詞が、最後にはサビの頭の歌詞にもなっている、というクボケンジの作詞家としての素晴らしさを改めて実感させられる「声」はバンドバージョンのギターロック感はなくなり、代わりにメロディと切なさが一層際立つ。本当にいい曲だ。
クボケンジ「こんな広いとこだと緊張するな~」
山本「みんな立ってるからダラダラ喋ってたら怒られますよ」
と弾き語りスタイルならではのリラックスした雰囲気と年相応の面白いおじさん的な一面もあるが、いざ歌い始めると表情は一気にステージに立つ側に選ばれたシンガーのものに一変する。
弾き語りというスタイルはともすれば飽きてしまいがちだし、本人も
「最近ライブを見にいくと疲れて7~8曲くらいで「早く終わらないかな~」って思う(笑)」
と言っていたが、飽きさせないようにする、集中力を持続させる最大の方法は、目を反らせないくらいに歌に引き込むということである。なので、着席スタイルの他の会場と比べるとMCは少なめにしていたと思うのだけど、ある意味では力技で観客をねじ伏せていくような感じであった。そうした体育会系的なマッチョイズムはメレンゲの曲からは一切感じない要素であるが。
CDになっていないという「ロンダリン」はクボケンジが「長くて怠い曲」と紹介したように、メレンゲの曲の中に入ったらトップクラスで長尺な曲であるが、そうして長くなるのは曲に、歌詞にしっかりとしたストーリーがあるから。この曲におけるストーリーは男女のすれ違う瞬間、離れていく心境を綴ったものであるが、それを1曲の中で完結させるためにはそれくらいの長さが必要なのである。
イントロ的な「untitled」~「夢の続き」というシームレスな流れはミニアルバム「アポリア」に収録されたもののままで、それは弾き語りでも変わらないどころか、よりスムーズにすら感じる。
クボケンジ「ツイッターを最近またやろうと思ってるんですけど、ライブの当日にしかつぶやくことがなくて…」
山本「ライブのツイートはもっと早くやった方がいいでしょ(笑)
当日にいきなり誘うタイプでしょ?(笑)」
クボケンジ「そういうタイプ(笑)
で、DMがたまに来るんですよ。この曲やって欲しい、みたいな。そんな中でも割とよくそう言われる曲」
と、ファンからの人気が高いことをうかがわせた「魔法」はメレンゲならではのファンタジーな要素を含んだラブソング。メレンゲは中期まではラブソングが非常に多いバンドだったが、そのラブソングの歌詞に単調だったり安易なものは一つもなかった。だからこそ自分のような、いわゆるJ-POP的なラブソングが全く聴けないような人間でも飽きずに聴くことができたし、今でもずっと聴ける。それは逆に売れているラブソングにありがちな「共感」という要素を持つことが出来なかった、というメレンゲが素晴らしい音楽を作っているにもかかわらず、今ひとつ結果を出せなかった理由の一つでもあると思うのだが。
クボケンジが1人キャンプを行っているくらいにキャンプが好きな山本と一緒に今年キャンプに行こうとしている、という話から、
山本「男の子はキャンプ用のナイフとか、道具を揃えるのが楽しくて仕方ないからね」
クボケンジ「修学旅行で木刀とか買った?」
山本「買ったよ(笑)全く使ってないけど、多分実家にある(笑)」
クボケンジ「そんな広島にいた僕が、今は東京に住んでます」
と、かなり無理矢理曲タイトルに繋げた「東京にいる理由」からは何方かと言えば近年の曲と言える曲へ。
クボケンジのソロシングルに収録されている「highway & castle」は助手席に女性を乗せて車を運転している様子が実に巧みな風景描写を取り入れながら描いている。「Sleeping」など、サビのフレーズがシンプルながらも韻を踏んだ英単語なのも印象的。
それまではクボケンジがアコギを弾きながら歌っていたのだが、アコギを下ろして椅子に座ると、
「カバーをやりたいと思います。僕の大好きな、岡村靖幸さんの曲を」
と言って、キーボードとクボケンジの声のみで演奏された岡村靖幸のカバーは「カルアミルク」。Mr.Childrenの桜井和寿とプロデューサーの小林武史によるbank bandなどもカバーしている名バラードだが、
「あともう一回」
という歌い出しのフレーズに合わせるかのように、クボケンジは痰を絡ませてしまい、もう一回歌い直すというアクシデントに見舞われる。岡村靖幸の声が持つセクシーさはクボケンジの声にはないが、だからこそクボケンジの声で歌われると、カバーではなく元からクボケンジが作った曲であるかのように聴こえる。
ちなみにクボケンジはミュージシャンになった際に、目立たないように髪を伸ばして顔を隠したりしていたが、岡村靖幸は全く逆に髪が伸びても顔をしっかり見せるというスタンスだったため、ずっと被っていたハットを取って髪をかきあげるという一幕も。案の定、すぐにやめていたが。
クボケンジ「松田聖子ちゃんがアイドル全盛期の時に見てみたかったんですよ。僕はテレビのチャンネルがダイヤル回すタイプだった時から技術の進化をリアルタイムで見てきた世代ではありますけど、そこに関してはもうちょっと早く生まれたかった(笑)」
と、松田聖子全盛期をリアルタイムで体験していないクボケンジが歌う松田聖子の「瑠璃色の地球」も、クボケンジ以上に松田聖子の全盛期を知らない自分にとってはクボケンジの曲にしか聞こえないくらいのハマりっぷり。テンションが上がったのか、クボケンジは歌詞を
「代官山UNIT!」
とこの日この場所だからこそのものに変えて歌う。
ちなみに山本はクボケンジに、自身が「世界で5番以内に入るくらい良い曲」だというZARDの「永遠」を歌って欲しいらしいが、やっぱり「負けないで」とかを歌うイメージではないらしい。一方のクボケンジはビーイング系ならWANDSが好きだったらしいが、ボーカルの上杉昇のWANDS後のカオスなバンド人生を案じているらしい。
「CDだとアウトロがフェードアウトで難しいから、ライブではあんまりやりたくない」
と身もふたもない(そういうアレンジにしたのはクボケンジ自身である)ことを言っているものの、名曲過ぎるので是非これからもライブでやり続けて欲しい「ストロボ」のあとの「流れ星」ではクボケンジが声をつまらせる一幕も。「カルアミルク」の時の歌い出しのように、なにか喉に引っかかったのか、それとも感極まるような要素がこの曲にはあったのだろうか。それは本人にしかわからないことであるが。
そしてクボケンジが再びアコギを下ろし、椅子に座って歌ったラストは「うつし絵」。この曲はもともとは新垣結衣の音楽活動時に提供した曲であるため、作曲こそクボケンジだが、作詞はクボケンジではない。しかしやはりこの曲もクボケンジが歌うと、完全にクボケンジの、メレンゲの曲になる。それくらいにクボケンジの声には個性と独特の魅力がある。だからこそこうしてメレンゲではないライブであっても足を運ぶ人がたくさんいるのだ。
すぐさま登場したアンコールでは、
「アンコールがきたらやろうと思ってた曲」
と言って、クボケンジがアコギを弾きながら歌い始めたのは、まさかのSUPERCAR「PLANET」のカバー。クボケンジは
「本当に良い曲、良い歌詞」
と評していたが、クボケンジはメレンゲの「暗いところで待ち合わせ」という、女優の田中麗奈が朗読をした曲の歌詞を、SUPERCARで作詞をしていた、いしわたり淳治(今は関ジャムにも出演しているプロデューサー)に依頼している。その歌詞も本当に素晴らしいものだったために、自身も素晴らしい作詞家であるクボケンジですら、いしわたり淳治の歌詞は評価せざるを得ないものなのだろう。
もうすでにSUPERCARは解散してから10年以上経っている。ボーカルだったナカコーは今はたまにソロでSUPERCARの曲をやっているが、この曲はやっていないはず。でもこうして曲を好きな人が歌い継いでいくことによって、さらに下の世代、SUPERCARとリアルタイムで出会えなかった世代にまで、曲は受け継がれていく。解散したバンドの曲をカバーするというのはそういうことであるし、まさかクボケンジの声でこの曲が聴けるなんて思ってもみなかった。まるで夢の中にいるかのような、幸せな時間だった。いつか音源化してくれないだろうか。
そんな幸せな時間ももう終わりを迎えつつある。最後になんの曲をやるかを観客に問いかけると、
「若者のすべて」
という声がさりげなく返ってくる。しかしながら当然いきなりカバーをやることはできず、
「それは次の時に」
と予告してから、山本と曲を選び、どちらが聴きたいかを観客に選んでもらおうとするも、結局その候補であったであろう2曲、かつてファンの人気投票で1位に選ばれた大名曲「すみか」と、この日唯一手拍子が鳴り響くという楽しい空気を作り出した「クラシック」の両方を演奏した。それは期待から背を背けているようにも見えるようなクボケンジが、実はファンの期待にしっかり応えようとしているのを証明していた瞬間であった。
先日、メレンゲを好きな人たちと「メレンゲを語る会」を行なった。
(https://www.ongakunojouhou.com/entry/2018/07/15/120127)
その会でも散々、なぜメレンゲは売れなかったのか、ということについて話していたのだが、やはり売れている音楽に比べると、歌詞も曲も一聴しただけで全てをわかるのは難しいのかもしれない。だが、そんなバンドの音楽をずっと聴き続けている人たちは、曲と歌詞をしっかりと噛み締めて、自分の中で脳内に自分だけの情景を思い浮かべながらメレンゲの曲を聴いている。そうすることで、曲に深い思い入れが生まれるから、活動ペースが緩やかになってもライブに来ることをやめることはない。
それに、クボケンジが家で作った形をそのまま演奏しているかのようなこの最小限の編成でのライブは、改めてメレンゲの曲と歌詞の素晴らしさを実感できるものだった。だからこそ、もうちょっと数多くライブやってほしいな、とも思う。この日この会場にいた人たちは、ライブあれば何回でも見に行くと思うんだよなぁ。
1.ルゥリィ
2.フクロウの恋
3.水槽
4.声
5.CAMPFIRE
6.ロンダリン
7.untitled
8.夢の続き
9.魔法
10.東京にいる理由
11.highway & castle
12.Ladybird
13.カルアミルク (岡村靖幸)
14.瑠璃色の地球 (松田聖子)
15.ストロボ
16.流れ星
17.ゴミの日
18.うつし絵
encore
19.PLANET (SUPERCAR)
20.すみか
21.クラシック
すみか
https://youtu.be/LFjb5supmyk
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今やメレンゲ本隊が年に数回しかライブを行っていないという、シーンの流れから完全に外れた活動をしている中、果たしてメレンゲではないソロという形でどんな音楽を鳴らすのか。メレンゲの曲をやるのか、それ以外の曲もクボケンジの声で歌うのか、と思うと実に楽しみな公演である。
メレンゲのライブはかつてメンバー本人たちに「隠れキリシタン」と言われるくらいに男性客が少ない、つまり常に観客の95%以上は女性という構図なのだが、ソロになってもやはりそれは変わらず。客席は割とゆとりがあるのだが、それでも端から埋まっていくというあたりがメレンゲファンの奥ゆかさを示している。当然、女性ばかりなので後ろの方で見ていても視界は非常に良好。
19時を少し過ぎると、アコギを手にしたクボケンジとともに、サポートキーボードの山本健太(ex.オトナモード。かつてアジカンのサポートもしていた)もステージに。今回のツアーはこの2人編成である。
クボケンジは基本的にアコギを弾きながら歌い、山本健太はキーボードという実にシンプル極まりない編成。だからこそ、「ルゥリィ」から始まる、基本的にメレンゲの曲を装飾を全て取り払った形で演奏するというこの形でのライブは、メレンゲのメロディの素晴らしさと、はっきり聴き取れることによって、クボケンジの歌詞の素晴らしさを改めて思い知らせてくれる。
バンドで演奏されることはほとんどない「フクロウの恋」というあたりの曲が聴けるのは弾き語りならでは。クボケンジの歌声はさらに憂いとを増しながら、独特の揺らぎを含んでいるのは年月を経ても全く変わっていない。
「さよならもう会えないな」
という歌い出しのAメロの歌詞が、最後にはサビの頭の歌詞にもなっている、というクボケンジの作詞家としての素晴らしさを改めて実感させられる「声」はバンドバージョンのギターロック感はなくなり、代わりにメロディと切なさが一層際立つ。本当にいい曲だ。
クボケンジ「こんな広いとこだと緊張するな~」
山本「みんな立ってるからダラダラ喋ってたら怒られますよ」
と弾き語りスタイルならではのリラックスした雰囲気と年相応の面白いおじさん的な一面もあるが、いざ歌い始めると表情は一気にステージに立つ側に選ばれたシンガーのものに一変する。
弾き語りというスタイルはともすれば飽きてしまいがちだし、本人も
「最近ライブを見にいくと疲れて7~8曲くらいで「早く終わらないかな~」って思う(笑)」
と言っていたが、飽きさせないようにする、集中力を持続させる最大の方法は、目を反らせないくらいに歌に引き込むということである。なので、着席スタイルの他の会場と比べるとMCは少なめにしていたと思うのだけど、ある意味では力技で観客をねじ伏せていくような感じであった。そうした体育会系的なマッチョイズムはメレンゲの曲からは一切感じない要素であるが。
CDになっていないという「ロンダリン」はクボケンジが「長くて怠い曲」と紹介したように、メレンゲの曲の中に入ったらトップクラスで長尺な曲であるが、そうして長くなるのは曲に、歌詞にしっかりとしたストーリーがあるから。この曲におけるストーリーは男女のすれ違う瞬間、離れていく心境を綴ったものであるが、それを1曲の中で完結させるためにはそれくらいの長さが必要なのである。
イントロ的な「untitled」~「夢の続き」というシームレスな流れはミニアルバム「アポリア」に収録されたもののままで、それは弾き語りでも変わらないどころか、よりスムーズにすら感じる。
クボケンジ「ツイッターを最近またやろうと思ってるんですけど、ライブの当日にしかつぶやくことがなくて…」
山本「ライブのツイートはもっと早くやった方がいいでしょ(笑)
当日にいきなり誘うタイプでしょ?(笑)」
クボケンジ「そういうタイプ(笑)
で、DMがたまに来るんですよ。この曲やって欲しい、みたいな。そんな中でも割とよくそう言われる曲」
と、ファンからの人気が高いことをうかがわせた「魔法」はメレンゲならではのファンタジーな要素を含んだラブソング。メレンゲは中期まではラブソングが非常に多いバンドだったが、そのラブソングの歌詞に単調だったり安易なものは一つもなかった。だからこそ自分のような、いわゆるJ-POP的なラブソングが全く聴けないような人間でも飽きずに聴くことができたし、今でもずっと聴ける。それは逆に売れているラブソングにありがちな「共感」という要素を持つことが出来なかった、というメレンゲが素晴らしい音楽を作っているにもかかわらず、今ひとつ結果を出せなかった理由の一つでもあると思うのだが。
クボケンジが1人キャンプを行っているくらいにキャンプが好きな山本と一緒に今年キャンプに行こうとしている、という話から、
山本「男の子はキャンプ用のナイフとか、道具を揃えるのが楽しくて仕方ないからね」
クボケンジ「修学旅行で木刀とか買った?」
山本「買ったよ(笑)全く使ってないけど、多分実家にある(笑)」
クボケンジ「そんな広島にいた僕が、今は東京に住んでます」
と、かなり無理矢理曲タイトルに繋げた「東京にいる理由」からは何方かと言えば近年の曲と言える曲へ。
クボケンジのソロシングルに収録されている「highway & castle」は助手席に女性を乗せて車を運転している様子が実に巧みな風景描写を取り入れながら描いている。「Sleeping」など、サビのフレーズがシンプルながらも韻を踏んだ英単語なのも印象的。
それまではクボケンジがアコギを弾きながら歌っていたのだが、アコギを下ろして椅子に座ると、
「カバーをやりたいと思います。僕の大好きな、岡村靖幸さんの曲を」
と言って、キーボードとクボケンジの声のみで演奏された岡村靖幸のカバーは「カルアミルク」。Mr.Childrenの桜井和寿とプロデューサーの小林武史によるbank bandなどもカバーしている名バラードだが、
「あともう一回」
という歌い出しのフレーズに合わせるかのように、クボケンジは痰を絡ませてしまい、もう一回歌い直すというアクシデントに見舞われる。岡村靖幸の声が持つセクシーさはクボケンジの声にはないが、だからこそクボケンジの声で歌われると、カバーではなく元からクボケンジが作った曲であるかのように聴こえる。
ちなみにクボケンジはミュージシャンになった際に、目立たないように髪を伸ばして顔を隠したりしていたが、岡村靖幸は全く逆に髪が伸びても顔をしっかり見せるというスタンスだったため、ずっと被っていたハットを取って髪をかきあげるという一幕も。案の定、すぐにやめていたが。
クボケンジ「松田聖子ちゃんがアイドル全盛期の時に見てみたかったんですよ。僕はテレビのチャンネルがダイヤル回すタイプだった時から技術の進化をリアルタイムで見てきた世代ではありますけど、そこに関してはもうちょっと早く生まれたかった(笑)」
と、松田聖子全盛期をリアルタイムで体験していないクボケンジが歌う松田聖子の「瑠璃色の地球」も、クボケンジ以上に松田聖子の全盛期を知らない自分にとってはクボケンジの曲にしか聞こえないくらいのハマりっぷり。テンションが上がったのか、クボケンジは歌詞を
「代官山UNIT!」
とこの日この場所だからこそのものに変えて歌う。
ちなみに山本はクボケンジに、自身が「世界で5番以内に入るくらい良い曲」だというZARDの「永遠」を歌って欲しいらしいが、やっぱり「負けないで」とかを歌うイメージではないらしい。一方のクボケンジはビーイング系ならWANDSが好きだったらしいが、ボーカルの上杉昇のWANDS後のカオスなバンド人生を案じているらしい。
「CDだとアウトロがフェードアウトで難しいから、ライブではあんまりやりたくない」
と身もふたもない(そういうアレンジにしたのはクボケンジ自身である)ことを言っているものの、名曲過ぎるので是非これからもライブでやり続けて欲しい「ストロボ」のあとの「流れ星」ではクボケンジが声をつまらせる一幕も。「カルアミルク」の時の歌い出しのように、なにか喉に引っかかったのか、それとも感極まるような要素がこの曲にはあったのだろうか。それは本人にしかわからないことであるが。
そしてクボケンジが再びアコギを下ろし、椅子に座って歌ったラストは「うつし絵」。この曲はもともとは新垣結衣の音楽活動時に提供した曲であるため、作曲こそクボケンジだが、作詞はクボケンジではない。しかしやはりこの曲もクボケンジが歌うと、完全にクボケンジの、メレンゲの曲になる。それくらいにクボケンジの声には個性と独特の魅力がある。だからこそこうしてメレンゲではないライブであっても足を運ぶ人がたくさんいるのだ。
すぐさま登場したアンコールでは、
「アンコールがきたらやろうと思ってた曲」
と言って、クボケンジがアコギを弾きながら歌い始めたのは、まさかのSUPERCAR「PLANET」のカバー。クボケンジは
「本当に良い曲、良い歌詞」
と評していたが、クボケンジはメレンゲの「暗いところで待ち合わせ」という、女優の田中麗奈が朗読をした曲の歌詞を、SUPERCARで作詞をしていた、いしわたり淳治(今は関ジャムにも出演しているプロデューサー)に依頼している。その歌詞も本当に素晴らしいものだったために、自身も素晴らしい作詞家であるクボケンジですら、いしわたり淳治の歌詞は評価せざるを得ないものなのだろう。
もうすでにSUPERCARは解散してから10年以上経っている。ボーカルだったナカコーは今はたまにソロでSUPERCARの曲をやっているが、この曲はやっていないはず。でもこうして曲を好きな人が歌い継いでいくことによって、さらに下の世代、SUPERCARとリアルタイムで出会えなかった世代にまで、曲は受け継がれていく。解散したバンドの曲をカバーするというのはそういうことであるし、まさかクボケンジの声でこの曲が聴けるなんて思ってもみなかった。まるで夢の中にいるかのような、幸せな時間だった。いつか音源化してくれないだろうか。
そんな幸せな時間ももう終わりを迎えつつある。最後になんの曲をやるかを観客に問いかけると、
「若者のすべて」
という声がさりげなく返ってくる。しかしながら当然いきなりカバーをやることはできず、
「それは次の時に」
と予告してから、山本と曲を選び、どちらが聴きたいかを観客に選んでもらおうとするも、結局その候補であったであろう2曲、かつてファンの人気投票で1位に選ばれた大名曲「すみか」と、この日唯一手拍子が鳴り響くという楽しい空気を作り出した「クラシック」の両方を演奏した。それは期待から背を背けているようにも見えるようなクボケンジが、実はファンの期待にしっかり応えようとしているのを証明していた瞬間であった。
先日、メレンゲを好きな人たちと「メレンゲを語る会」を行なった。
(https://www.ongakunojouhou.com/entry/2018/07/15/120127)
その会でも散々、なぜメレンゲは売れなかったのか、ということについて話していたのだが、やはり売れている音楽に比べると、歌詞も曲も一聴しただけで全てをわかるのは難しいのかもしれない。だが、そんなバンドの音楽をずっと聴き続けている人たちは、曲と歌詞をしっかりと噛み締めて、自分の中で脳内に自分だけの情景を思い浮かべながらメレンゲの曲を聴いている。そうすることで、曲に深い思い入れが生まれるから、活動ペースが緩やかになってもライブに来ることをやめることはない。
それに、クボケンジが家で作った形をそのまま演奏しているかのようなこの最小限の編成でのライブは、改めてメレンゲの曲と歌詞の素晴らしさを実感できるものだった。だからこそ、もうちょっと数多くライブやってほしいな、とも思う。この日この会場にいた人たちは、ライブあれば何回でも見に行くと思うんだよなぁ。
1.ルゥリィ
2.フクロウの恋
3.水槽
4.声
5.CAMPFIRE
6.ロンダリン
7.untitled
8.夢の続き
9.魔法
10.東京にいる理由
11.highway & castle
12.Ladybird
13.カルアミルク (岡村靖幸)
14.瑠璃色の地球 (松田聖子)
15.ストロボ
16.流れ星
17.ゴミの日
18.うつし絵
encore
19.PLANET (SUPERCAR)
20.すみか
21.クラシック
すみか
https://youtu.be/LFjb5supmyk
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