チャットモンチー CHATMONCHY LAST ONEMAN LIVE ~I Love CHATMONCHY~ @日本武道館 7/4
- 2018/07/05
- 01:44
すでにチャットモンチーが完結を発表した時に、自分の想いの丈は書いた。
「足を引っ張らずに、手を引っ張って -チャットモンチー完結-
(http://rocknrollisnotdead.blog.fc2.com/blog-entry-446.html?sp)
完結発表した時点では、まだまだ先のことだと思っていた、日本武道館での最後のワンマンライブ。チャットモンチーがガールズバンドとして史上最速で2daysライブをした初日の、2008年3月31日。アンコールでの「サラバ青春」によって、自分は学生生活を終え、翌日から社会人になった。その後、2015年に男女それぞれのサポートメンバーを迎えた武道館ワンマンも見たし、そもそもが何回ライブを見てきたか数えきれないくらいたくさんの思い出と思い入れがあるとともに、かつては女性が歌う音楽を全く聴かなかった自分が、女性ボーカルの音楽を聴くきっかけになったバンド。そんなバンドの最後のワンマンライブ。
360°全方向に客席があり(ステージ背面上段だけはさすがに客席にしていない)、あらゆる方向からもステージが見えるようにモニターがいくつも設置されている。そのステージは幕で覆われており、どんなセットなのかは開演前はまだわからない。
開演時間の18時30分を10分くらい過ぎた頃、場内が暗転し、ステージを覆う幕とスクリーンには
「チャットモンチーのこれまでと、あなたたちのこれからが交差する、かけがえのない1日になりますように」
というチャットモンチーからのメッセージが映し出され、幕が上がると、リリースされたばかりの最新アルバム「誕生」のイントロ的な位置を担う「CHATMONCHY MECHA」が流れ始め、ステージやや後方の、通常のバンドセットならばドラムセットが置いてある場所あたりに「CHATMONCHY」というロゴのオブジェが作られていて、そのロゴが両開きになると、下から橋本絵莉子と福岡晃子の2人が手を繋いでせり上がってくる。橋本は赤、福岡は黄色のようなビロードを纏っている。
2人がそのオブジェの後ろ、ちょうどステージの真後ろに作られた花道を歩いてファンの歓声に応えながらステージまでたどり着くと、ステージには昨年のツアーと同様、メカ編成の機材が。
2人がヘッドホンを装着し、橋本がボーカルのみ、福岡がキーボードという最小限編成で始まったのは、「誕生」のリード曲である「たったさっきから3000年までの話」。最後のアルバムのリード曲でありながら、
「あなたがかなりおじいさんになる頃 どんな日本なのでしょう」
「あいも変わらず地震大国で 北朝鮮とアメリカの狭間で揺れているのでしょうか」
という橋本の歌詞の鋭さはかつてないレベルで増している。
序盤は続く「the key」で橋本がギターになったり、パーカッションを叩き、福岡がキーボードを弾きながらドラムを叩いたり、ベースになるというメカ編成ならではの自由さを見せながら、メカ編成で作られた、メカ編成である理由を感じさせる、「誕生」の曲が続く。
福岡が橋本のことを書いた「裸足の街のスター」、
「同じクラスだったら 友達にはなってないだろうな
ジャンル違いのオタクだもん プリント回すだけの関係さ」
という2人のことを思い描きながら、元メンバーである高橋久美子が歌詞を書いた「砂鉄」と、「誕生」は「最後だからっていうのは意識してない」と言いながらも、間違いなく最後だから作れた曲が並んでいる。
そんな中でそうした哀愁を一切感じさせない「誕生」の収録曲が、DJみそしるとMCごはんをフィーチャリングした「クッキング・ララ」では福岡がショルダーキーボードを担ぎながら、同期のサウンドも使い、DJみそしるとMCごはんも含めた3人で先ほど登場した時に使った花道を歩きながら、「すだち」「キャラメルプリン」など、これまでにチャットモンチーの曲の歌詞にも登場してきたフレーズを使って合唱を促しながら歌う。
しかしながらやはりラストライブ(ワンマンとしては最後だが、ラストライブ自体は7/20,7/21の地元徳島での主催フェス。とはいえこの日がライブを見れるのが最後という人もたくさんいるはず)の空気というのは独特である。おそらく「クッキング・ララ」も通常のツアーだったらもうちょっと朗らかな空気でコール&レスポンスが起きるだろうが、やはり緊張感に満ちている。それはそうだ、今日でライブで聴けるのが最後っていう曲ばかりなんだから。ましてや「誕生」の曲はこの日しかライブで聴けないという人が大半のはずだ。
メカからアコースティック編成になって、暗闇の中で演奏された「惚たる蛍」では橋本の一点の曇りもないくらいに伸びやかなボーカルが響く中、客席ではこの日の物販で販売されていたリングライトの光がまるで蛍の光のように儚く輝く。蛍が光るのは一瞬であるように、このリングライトが輝きを放つのも本当に一瞬、この日この場所のみだろう。
そして福岡がベースからドラムにチェンジすると、そのシンプルなドラムセットを激しくぶっ叩く「染まるよ」の演奏中、アウトロで幕が上から降りてきて、ちょうど曲が終わるタイミングで2人を包み込んでしまう。客席から「?」と拍手がないまぜにステージに向けられると、デビューから今に至るまでの、主にライブのバックステージの様子が幕に映し出される。もちろんかつての3人時代から順を追って、徐々に現在に向かっていくのだが、全く変わらないイメージが強いチャットモンチーも、13年経つと見た目が実はかなり変わっていることに気付く。福岡の1年ごとによく変わる髪型もそうだが、何よりも2人になった直後のお互いがお互いを支え合う姿と、近年の母親になった橋本の姿がそれをより強く感じさせる。
映像が終わると、幕には指揮者のようなシルエットと、明らかにメンバーではない、弦楽器を演奏する人のシルエットが。幕が開くとその指揮者は福岡で、橋本の後ろには6人のストリングス隊が。名付けてチャットモンチー・アンサンブルというらしいが、間違いなくこの日限りのこの編成は、集大成的なライブになるだろうという安易な予想をしていた、我々のはるか先を行っていた。
常に自分たちがやりたいように、興味を持つ方に。2人になって以降のチャットモンチーの推進力になってきた音楽的な探究心は最後の最後まで全く変わることはなかった。
当然、ストリングスが入ることによって曲のイメージはガラッと変わる。演奏がストリングス隊のみという「majority blues」はシンプルながら壮大に、2人がパーカッションを演奏する「ウィークエンドのまぼろし」は民族音楽的なテイストが強くなり、「たとえば」はまるでこの曲でこのライブが終わってもおかしくないくらいの包容力で武道館を包み込んでいく。
もしもチャットモンチーが完結しないでこのまま続いていたら、こうした編成でのライブが見れるようになっていたのかもしれない。それこそホールくらいの規模で、こうしてみんなが着席しながら観覧するスタイルで。最後のワンマンであるにもかかわらず、そうやって未来のことを思い描いてしまうのは、このチャットモンチー・アンサンブルが急場しのぎのものではなく、この日のために数えきれないくらいに練習したりアレンジをしたりしてきたんだろうな、というのが一瞬でわかるくらいに完成度の高いものだったからである。
「ピザ職人」「寿司職人」など、もはや演奏家ですらなくなるようなあだ名を2人がつけながらのチャットモンチー・アンサンブルのメンバー紹介をすると、さらにドラマーとして、かつての男陣でもドラマーを務めていた恒岡章(Hi-STANDARD)を呼び込み、
「私たちが東京に出てきた当時の曲をやります」
と言い、10年前の初武道館2daysの2日目の時には
「これから新しい生活が始まる人へ」
というメッセージとともに演奏された「東京ハチミツオーケストラ」を、恒岡を加えての3ピースバンド+ストリングス隊という編成で演奏。つまりは橋本がギターで福岡がベースという、3人組だった頃と同じ姿になるわけだが、ストリングス隊がステージから去ると、恒岡との完全スリーピース編成に。
その編成で演奏されるのは、「さよならGoodbye」「どなる、でんわ、どしゃぶり」というメジャー1stフルアルバム「耳鳴り」の収録曲たち。こうしてスリーピースで聴くのはいつ以来だろうか。とはいえ「さよならGoodbye」はもちろん、
「さようなら あなた これで何もかも終わったね でもさっきから 泣いてばかり」
という歌詞の「どなる、でんわ、どしゃぶり」もこの状況下で聴くと、バンドとの別れを連想させてしまう。
それは「3人がおばあちゃんになって最後のライブを行う」という、かつて我々ファン全員が思い描いていたラストライブの形だったMVの「Last Love Letter」も同じだが、結果的にチャットモンチーはそこまでいくことはできなかった。ただ、あの頃よりも圧倒的に進化していたのは、2人の演奏力。とりわけ橋本のギターはリリース当時はやや危ういというか、毎回綱渡り的なギターソロであったが、今は本当に軽々とギターを弾きこなしながら歌っている。2人になってからはドラムやキーボードなど、ギター以外の楽器も演奏してきたが、そうした音楽的な好奇心と探究心はもともとの専任楽器であったギターの演奏力の向上にも繋がっている。
息を呑むようにして橋本がギターを弾きながら歌い出したのは「真夜中遊園地」。セカンドアルバム「生命力」収録の、ファンから非常に人気の高い曲だが、この曲をスリーピース編成で演奏したということが、「常に自分たちのやりたいことをやりたいようにやってきた」という2人になってから以降の活動方針を貫いてきたチャットモンチーが、初めてなんじゃないかというくらいに「これをやったらみんなが喜んでくれるだろうし、みんなが望んでいることだろう」ということをわかっていたように見えた。それは紛れもなく最後だからという特別な機会がそうさせたのだろうけど、
「幸せが両手広げて抱きしめてくれるというのに」
というフレーズを両手を広げて抱きしめるように歌う橋本の姿は母性に満ち溢れていた。
「最後に、私たちのデビュー曲を…」
と、福岡がついに声に詰まりながら、ストリングス隊を再びステージに呼び込む。ストリングス隊のメンバーがギニュー特戦隊みたいなポーズを取りながら下からせり上がってくるという図が、この日限りとは思えない全員の絆を感じさせながら演奏された「ハナノユメ」では銀テープが客席に放たれた。自分が、「chatmonchy has come」のリリース前にM-ON! TVの新人紹介的なコーナーでMVを見て、チャットモンチーに出会い、衝撃を与えられた曲。
「薄い紙で指を切って 赤い赤い血が滲む」
という根っからの詩人であるがゆえにバンドとは違う人生を選んだ高橋久美子による歌い出しのフレーズと、イントロのギターリフの衝撃は13年経った今も全く色褪せていなかった。最後のサビ前にはコール&レスポンスも行われたが、やはり新曲よりもはるかに声が大きかった。みんな、何度となくライブでコール&レスポンスをしてきたこの曲も、こうしてレスポンスを返せるのはこの日で最後なのだから。
DJみそしるとMCごはんも招いて、ステージに立ったメンバー全員で観客に挨拶して、大歓声に包まれながら本編は終了。あの曲も、この曲も、まだまだ聴きたい曲がたくさんあった、本当にあっという間の時間であった。
アンコールではライブTシャツ姿に着替えた2人と恒岡章が登場し、スリーピースであのイントロが流れ、手拍子が発生する「シャングリラ」へ。間奏では恒岡も含めたそれぞれのソロも挟まれるのだが、橋本によるギターソロでは「長い目で見て」のフレーズも挟まれるという嬉しいサプライズ。
そして「風吹けば恋」ではスリーピースでのタイトな演奏が極まりを見せる。10年前の3人での初武道館時は新曲として演奏された、まだ誰も知らない曲だった。それが10年経ったこの場所ではチャットモンチーを代表する名曲として演奏されている。2人になったり、初武道館の10年から本当に色々あった。それはバンドもそうだし、その姿をずっと見てきた我々もそうだ。人生において変わらなければいけない瞬間というのが、10年も生きていれば必ずやってくる。
この曲で恒岡はステージを去る。この日、Hi-STANDARDのメンバーである難波章浩のNAMBA69とKen Yokoyamaの対バンライブがあるというのにこの日のサポートドラマーを務め、
「もはやチャットモンチーの血の方が濃い」
とまで福岡に言われるくらいに、恒岡もチャットモンチーを愛しながら支えていた。3人の中の1人になるというのは、男陣としてサポートしていた時よりもはるかに重圧や責任を感じることだっただろうし(ましてや最後のワンマンでドラムを叩いた人になるわけだし)、そうした葛藤はHi-STANDARDの活動の中でも十分に味わってきたはず。だけどこの日、本当に久しぶりに、そして最後にスリーピースでのチャットモンチーのライブを観れたのは、そうして恒岡が全てを引き受けてくれたからだ。
恒岡も、乙女団でドラムを叩いていた北野愛子も、きっと2人が頼めば、久美子が脱退した後もずっとサポートドラマーとして叩き続けてくれていたはず。でも2人はあえてそれを選ばなかった。それは常にファンの期待のはるか先を行くという選択の連続だったし、それを選んだからこそ、チャットモンチーは通常のガールズバンドではない、この2人とあの3人のチャットモンチーであり続けたのだ。
2人と抱き合ってから恒岡が去ると、福岡が
「まぁ座れよ」
と橋本とともにステージ最前に腰かけ、
福岡「えっちゃん、ヤバくなかった?」
橋本「歌うのに必死だった」
と、やはり感極まっていたことを明かすと、次の瞬間には福岡が人目も憚らずに涙を流し、橋本もついに涙を流してしまう。
チャットモンチーの2人はどんな時だって絶対に泣かなかった。高橋が抜けた時も、2人になった時も。もしかしたら裏では泣いた時もあったのかもしれないけれど、我々はその姿を見たことがなかった。常に「見てろよ!」と言わんばかりにステージに立つその様は、本当にカッコよくて強い女性の理想像として写っていた。そんな2人が見せた涙なのだから、ずっとその姿を追ってきたファン達が我慢できるわけがない。会場中からすすり泣くような声が止まらなかった。それは、本当に最後の時間がすぐそこまでやってきていることの知らせでもあった。
ステージにはバンドセットではなく、ピアノと椅子が。それを見た瞬間、次にやる曲がなんなのか。そしてそれが最後の曲であることがわかった。
「歌詞がモニターに出るので…歌いきれないと思うので、みんなで歌ってください」
と、橋本が初めて弱気に見える発言をして、福岡が学校のチャイムの音をピアノで弾いてから始まったのは、そしてラストワンマンの最後に選ばれたのは、やはり「サラバ青春」だった。
橋本が言うようにモニターには歌詞が映し出されると、途中で橋本が感極まって歌えなくなってしまう。観客も決して大合唱というわけではなかった。みんな泣いていたから。
10年前の初武道館のアンコールで演奏された時は、自分の青春の終わりとして鳴らされた(ような気になっていた)この曲が、この瞬間、チャットモンチーの終わりとして鳴らされている。あの時も自分は「もうこうして好きなだけライブに行くようなことはできないのかもしれない」と思いながら泣いてしまったのだけれど、あの時とは全く違う、あの時よりもはるかに重い涙が流れてしまった。この曲が終わったら、もうチャットモンチーのワンマンを見ることはできない。そう思うと、涙を止めることができなかった。
演奏を終えた2人はやはり涙目であったが、観客に頭を下げる時は清々しさも感じた。福岡は
「みんな、本当によう着いてきてくれたねぇ」
と、普通ならみんなが離れていってしまってもおかしくないくらいの変化を続けながらも着いてきてくれたファンへの感謝の気持ちを述べていたが、「音楽と人」でのラストインタビューでも、
「「誕生」はインディーズの時のアルバムと同じように、何にも気にしないで自分たちのやりたいように作った。
でも一つだけ違うのは、あの頃はまだ誰も私たちのことを知らなかったけど、今の私たちは聴いてくれていた、ライブに来てくれていたみんなの顔を知っているんです。ずっと見てきましたから」
と言っていた。そんな、チャットモンチーをずっと見てきた人たちが最後に見れたワンマンライブ。
でも、まだ自分には徳島での「こなそんフェス」という、チャットモンチーのライブを見れる機会が2日もある。その2日間が終わるまでは、「さようなら」って言えそうにないなあ。
1.たったさっきから3000年までの話
2.the key
3.裸足の街のスター
4.砂鉄
5.クッキング・ララ feat.DJみそしるとMCごはん
6.惚たる蛍
7.染まるよ
-転換-
8.majority blues feat.チャットモンチーアンサンブル
9.ウィークエンドのまぼろし feat.チャットモンチーアンサンブル
10.たとえば feat.チャットモンチーアンサンブル
11.東京ハチミツオーケストラ feat.チャットモンチーアンサンブル,恒岡章
12.さよならGoodbye feat.恒岡章
13.どなる、でんわ、どしゃぶり feat.恒岡章
14.Last Love Letter feat.恒岡章
15.真夜中遊園地 feat.恒岡章
16.ハナノユメ feat.チャットモンチーアンサンブル,恒岡章
encore
17.シャングリラ feat.恒岡章
18.風吹けば恋 feat.恒岡章
19.サラバ青春
たったさっきから3000年までの話
https://youtu.be/z3oquceNwh4
Next→ 7/5 リーガルリリー @渋谷CLUB QUATTRO
「足を引っ張らずに、手を引っ張って -チャットモンチー完結-
(http://rocknrollisnotdead.blog.fc2.com/blog-entry-446.html?sp)
完結発表した時点では、まだまだ先のことだと思っていた、日本武道館での最後のワンマンライブ。チャットモンチーがガールズバンドとして史上最速で2daysライブをした初日の、2008年3月31日。アンコールでの「サラバ青春」によって、自分は学生生活を終え、翌日から社会人になった。その後、2015年に男女それぞれのサポートメンバーを迎えた武道館ワンマンも見たし、そもそもが何回ライブを見てきたか数えきれないくらいたくさんの思い出と思い入れがあるとともに、かつては女性が歌う音楽を全く聴かなかった自分が、女性ボーカルの音楽を聴くきっかけになったバンド。そんなバンドの最後のワンマンライブ。
360°全方向に客席があり(ステージ背面上段だけはさすがに客席にしていない)、あらゆる方向からもステージが見えるようにモニターがいくつも設置されている。そのステージは幕で覆われており、どんなセットなのかは開演前はまだわからない。
開演時間の18時30分を10分くらい過ぎた頃、場内が暗転し、ステージを覆う幕とスクリーンには
「チャットモンチーのこれまでと、あなたたちのこれからが交差する、かけがえのない1日になりますように」
というチャットモンチーからのメッセージが映し出され、幕が上がると、リリースされたばかりの最新アルバム「誕生」のイントロ的な位置を担う「CHATMONCHY MECHA」が流れ始め、ステージやや後方の、通常のバンドセットならばドラムセットが置いてある場所あたりに「CHATMONCHY」というロゴのオブジェが作られていて、そのロゴが両開きになると、下から橋本絵莉子と福岡晃子の2人が手を繋いでせり上がってくる。橋本は赤、福岡は黄色のようなビロードを纏っている。
2人がそのオブジェの後ろ、ちょうどステージの真後ろに作られた花道を歩いてファンの歓声に応えながらステージまでたどり着くと、ステージには昨年のツアーと同様、メカ編成の機材が。
2人がヘッドホンを装着し、橋本がボーカルのみ、福岡がキーボードという最小限編成で始まったのは、「誕生」のリード曲である「たったさっきから3000年までの話」。最後のアルバムのリード曲でありながら、
「あなたがかなりおじいさんになる頃 どんな日本なのでしょう」
「あいも変わらず地震大国で 北朝鮮とアメリカの狭間で揺れているのでしょうか」
という橋本の歌詞の鋭さはかつてないレベルで増している。
序盤は続く「the key」で橋本がギターになったり、パーカッションを叩き、福岡がキーボードを弾きながらドラムを叩いたり、ベースになるというメカ編成ならではの自由さを見せながら、メカ編成で作られた、メカ編成である理由を感じさせる、「誕生」の曲が続く。
福岡が橋本のことを書いた「裸足の街のスター」、
「同じクラスだったら 友達にはなってないだろうな
ジャンル違いのオタクだもん プリント回すだけの関係さ」
という2人のことを思い描きながら、元メンバーである高橋久美子が歌詞を書いた「砂鉄」と、「誕生」は「最後だからっていうのは意識してない」と言いながらも、間違いなく最後だから作れた曲が並んでいる。
そんな中でそうした哀愁を一切感じさせない「誕生」の収録曲が、DJみそしるとMCごはんをフィーチャリングした「クッキング・ララ」では福岡がショルダーキーボードを担ぎながら、同期のサウンドも使い、DJみそしるとMCごはんも含めた3人で先ほど登場した時に使った花道を歩きながら、「すだち」「キャラメルプリン」など、これまでにチャットモンチーの曲の歌詞にも登場してきたフレーズを使って合唱を促しながら歌う。
しかしながらやはりラストライブ(ワンマンとしては最後だが、ラストライブ自体は7/20,7/21の地元徳島での主催フェス。とはいえこの日がライブを見れるのが最後という人もたくさんいるはず)の空気というのは独特である。おそらく「クッキング・ララ」も通常のツアーだったらもうちょっと朗らかな空気でコール&レスポンスが起きるだろうが、やはり緊張感に満ちている。それはそうだ、今日でライブで聴けるのが最後っていう曲ばかりなんだから。ましてや「誕生」の曲はこの日しかライブで聴けないという人が大半のはずだ。
メカからアコースティック編成になって、暗闇の中で演奏された「惚たる蛍」では橋本の一点の曇りもないくらいに伸びやかなボーカルが響く中、客席ではこの日の物販で販売されていたリングライトの光がまるで蛍の光のように儚く輝く。蛍が光るのは一瞬であるように、このリングライトが輝きを放つのも本当に一瞬、この日この場所のみだろう。
そして福岡がベースからドラムにチェンジすると、そのシンプルなドラムセットを激しくぶっ叩く「染まるよ」の演奏中、アウトロで幕が上から降りてきて、ちょうど曲が終わるタイミングで2人を包み込んでしまう。客席から「?」と拍手がないまぜにステージに向けられると、デビューから今に至るまでの、主にライブのバックステージの様子が幕に映し出される。もちろんかつての3人時代から順を追って、徐々に現在に向かっていくのだが、全く変わらないイメージが強いチャットモンチーも、13年経つと見た目が実はかなり変わっていることに気付く。福岡の1年ごとによく変わる髪型もそうだが、何よりも2人になった直後のお互いがお互いを支え合う姿と、近年の母親になった橋本の姿がそれをより強く感じさせる。
映像が終わると、幕には指揮者のようなシルエットと、明らかにメンバーではない、弦楽器を演奏する人のシルエットが。幕が開くとその指揮者は福岡で、橋本の後ろには6人のストリングス隊が。名付けてチャットモンチー・アンサンブルというらしいが、間違いなくこの日限りのこの編成は、集大成的なライブになるだろうという安易な予想をしていた、我々のはるか先を行っていた。
常に自分たちがやりたいように、興味を持つ方に。2人になって以降のチャットモンチーの推進力になってきた音楽的な探究心は最後の最後まで全く変わることはなかった。
当然、ストリングスが入ることによって曲のイメージはガラッと変わる。演奏がストリングス隊のみという「majority blues」はシンプルながら壮大に、2人がパーカッションを演奏する「ウィークエンドのまぼろし」は民族音楽的なテイストが強くなり、「たとえば」はまるでこの曲でこのライブが終わってもおかしくないくらいの包容力で武道館を包み込んでいく。
もしもチャットモンチーが完結しないでこのまま続いていたら、こうした編成でのライブが見れるようになっていたのかもしれない。それこそホールくらいの規模で、こうしてみんなが着席しながら観覧するスタイルで。最後のワンマンであるにもかかわらず、そうやって未来のことを思い描いてしまうのは、このチャットモンチー・アンサンブルが急場しのぎのものではなく、この日のために数えきれないくらいに練習したりアレンジをしたりしてきたんだろうな、というのが一瞬でわかるくらいに完成度の高いものだったからである。
「ピザ職人」「寿司職人」など、もはや演奏家ですらなくなるようなあだ名を2人がつけながらのチャットモンチー・アンサンブルのメンバー紹介をすると、さらにドラマーとして、かつての男陣でもドラマーを務めていた恒岡章(Hi-STANDARD)を呼び込み、
「私たちが東京に出てきた当時の曲をやります」
と言い、10年前の初武道館2daysの2日目の時には
「これから新しい生活が始まる人へ」
というメッセージとともに演奏された「東京ハチミツオーケストラ」を、恒岡を加えての3ピースバンド+ストリングス隊という編成で演奏。つまりは橋本がギターで福岡がベースという、3人組だった頃と同じ姿になるわけだが、ストリングス隊がステージから去ると、恒岡との完全スリーピース編成に。
その編成で演奏されるのは、「さよならGoodbye」「どなる、でんわ、どしゃぶり」というメジャー1stフルアルバム「耳鳴り」の収録曲たち。こうしてスリーピースで聴くのはいつ以来だろうか。とはいえ「さよならGoodbye」はもちろん、
「さようなら あなた これで何もかも終わったね でもさっきから 泣いてばかり」
という歌詞の「どなる、でんわ、どしゃぶり」もこの状況下で聴くと、バンドとの別れを連想させてしまう。
それは「3人がおばあちゃんになって最後のライブを行う」という、かつて我々ファン全員が思い描いていたラストライブの形だったMVの「Last Love Letter」も同じだが、結果的にチャットモンチーはそこまでいくことはできなかった。ただ、あの頃よりも圧倒的に進化していたのは、2人の演奏力。とりわけ橋本のギターはリリース当時はやや危ういというか、毎回綱渡り的なギターソロであったが、今は本当に軽々とギターを弾きこなしながら歌っている。2人になってからはドラムやキーボードなど、ギター以外の楽器も演奏してきたが、そうした音楽的な好奇心と探究心はもともとの専任楽器であったギターの演奏力の向上にも繋がっている。
息を呑むようにして橋本がギターを弾きながら歌い出したのは「真夜中遊園地」。セカンドアルバム「生命力」収録の、ファンから非常に人気の高い曲だが、この曲をスリーピース編成で演奏したということが、「常に自分たちのやりたいことをやりたいようにやってきた」という2人になってから以降の活動方針を貫いてきたチャットモンチーが、初めてなんじゃないかというくらいに「これをやったらみんなが喜んでくれるだろうし、みんなが望んでいることだろう」ということをわかっていたように見えた。それは紛れもなく最後だからという特別な機会がそうさせたのだろうけど、
「幸せが両手広げて抱きしめてくれるというのに」
というフレーズを両手を広げて抱きしめるように歌う橋本の姿は母性に満ち溢れていた。
「最後に、私たちのデビュー曲を…」
と、福岡がついに声に詰まりながら、ストリングス隊を再びステージに呼び込む。ストリングス隊のメンバーがギニュー特戦隊みたいなポーズを取りながら下からせり上がってくるという図が、この日限りとは思えない全員の絆を感じさせながら演奏された「ハナノユメ」では銀テープが客席に放たれた。自分が、「chatmonchy has come」のリリース前にM-ON! TVの新人紹介的なコーナーでMVを見て、チャットモンチーに出会い、衝撃を与えられた曲。
「薄い紙で指を切って 赤い赤い血が滲む」
という根っからの詩人であるがゆえにバンドとは違う人生を選んだ高橋久美子による歌い出しのフレーズと、イントロのギターリフの衝撃は13年経った今も全く色褪せていなかった。最後のサビ前にはコール&レスポンスも行われたが、やはり新曲よりもはるかに声が大きかった。みんな、何度となくライブでコール&レスポンスをしてきたこの曲も、こうしてレスポンスを返せるのはこの日で最後なのだから。
DJみそしるとMCごはんも招いて、ステージに立ったメンバー全員で観客に挨拶して、大歓声に包まれながら本編は終了。あの曲も、この曲も、まだまだ聴きたい曲がたくさんあった、本当にあっという間の時間であった。
アンコールではライブTシャツ姿に着替えた2人と恒岡章が登場し、スリーピースであのイントロが流れ、手拍子が発生する「シャングリラ」へ。間奏では恒岡も含めたそれぞれのソロも挟まれるのだが、橋本によるギターソロでは「長い目で見て」のフレーズも挟まれるという嬉しいサプライズ。
そして「風吹けば恋」ではスリーピースでのタイトな演奏が極まりを見せる。10年前の3人での初武道館時は新曲として演奏された、まだ誰も知らない曲だった。それが10年経ったこの場所ではチャットモンチーを代表する名曲として演奏されている。2人になったり、初武道館の10年から本当に色々あった。それはバンドもそうだし、その姿をずっと見てきた我々もそうだ。人生において変わらなければいけない瞬間というのが、10年も生きていれば必ずやってくる。
この曲で恒岡はステージを去る。この日、Hi-STANDARDのメンバーである難波章浩のNAMBA69とKen Yokoyamaの対バンライブがあるというのにこの日のサポートドラマーを務め、
「もはやチャットモンチーの血の方が濃い」
とまで福岡に言われるくらいに、恒岡もチャットモンチーを愛しながら支えていた。3人の中の1人になるというのは、男陣としてサポートしていた時よりもはるかに重圧や責任を感じることだっただろうし(ましてや最後のワンマンでドラムを叩いた人になるわけだし)、そうした葛藤はHi-STANDARDの活動の中でも十分に味わってきたはず。だけどこの日、本当に久しぶりに、そして最後にスリーピースでのチャットモンチーのライブを観れたのは、そうして恒岡が全てを引き受けてくれたからだ。
恒岡も、乙女団でドラムを叩いていた北野愛子も、きっと2人が頼めば、久美子が脱退した後もずっとサポートドラマーとして叩き続けてくれていたはず。でも2人はあえてそれを選ばなかった。それは常にファンの期待のはるか先を行くという選択の連続だったし、それを選んだからこそ、チャットモンチーは通常のガールズバンドではない、この2人とあの3人のチャットモンチーであり続けたのだ。
2人と抱き合ってから恒岡が去ると、福岡が
「まぁ座れよ」
と橋本とともにステージ最前に腰かけ、
福岡「えっちゃん、ヤバくなかった?」
橋本「歌うのに必死だった」
と、やはり感極まっていたことを明かすと、次の瞬間には福岡が人目も憚らずに涙を流し、橋本もついに涙を流してしまう。
チャットモンチーの2人はどんな時だって絶対に泣かなかった。高橋が抜けた時も、2人になった時も。もしかしたら裏では泣いた時もあったのかもしれないけれど、我々はその姿を見たことがなかった。常に「見てろよ!」と言わんばかりにステージに立つその様は、本当にカッコよくて強い女性の理想像として写っていた。そんな2人が見せた涙なのだから、ずっとその姿を追ってきたファン達が我慢できるわけがない。会場中からすすり泣くような声が止まらなかった。それは、本当に最後の時間がすぐそこまでやってきていることの知らせでもあった。
ステージにはバンドセットではなく、ピアノと椅子が。それを見た瞬間、次にやる曲がなんなのか。そしてそれが最後の曲であることがわかった。
「歌詞がモニターに出るので…歌いきれないと思うので、みんなで歌ってください」
と、橋本が初めて弱気に見える発言をして、福岡が学校のチャイムの音をピアノで弾いてから始まったのは、そしてラストワンマンの最後に選ばれたのは、やはり「サラバ青春」だった。
橋本が言うようにモニターには歌詞が映し出されると、途中で橋本が感極まって歌えなくなってしまう。観客も決して大合唱というわけではなかった。みんな泣いていたから。
10年前の初武道館のアンコールで演奏された時は、自分の青春の終わりとして鳴らされた(ような気になっていた)この曲が、この瞬間、チャットモンチーの終わりとして鳴らされている。あの時も自分は「もうこうして好きなだけライブに行くようなことはできないのかもしれない」と思いながら泣いてしまったのだけれど、あの時とは全く違う、あの時よりもはるかに重い涙が流れてしまった。この曲が終わったら、もうチャットモンチーのワンマンを見ることはできない。そう思うと、涙を止めることができなかった。
演奏を終えた2人はやはり涙目であったが、観客に頭を下げる時は清々しさも感じた。福岡は
「みんな、本当によう着いてきてくれたねぇ」
と、普通ならみんなが離れていってしまってもおかしくないくらいの変化を続けながらも着いてきてくれたファンへの感謝の気持ちを述べていたが、「音楽と人」でのラストインタビューでも、
「「誕生」はインディーズの時のアルバムと同じように、何にも気にしないで自分たちのやりたいように作った。
でも一つだけ違うのは、あの頃はまだ誰も私たちのことを知らなかったけど、今の私たちは聴いてくれていた、ライブに来てくれていたみんなの顔を知っているんです。ずっと見てきましたから」
と言っていた。そんな、チャットモンチーをずっと見てきた人たちが最後に見れたワンマンライブ。
でも、まだ自分には徳島での「こなそんフェス」という、チャットモンチーのライブを見れる機会が2日もある。その2日間が終わるまでは、「さようなら」って言えそうにないなあ。
1.たったさっきから3000年までの話
2.the key
3.裸足の街のスター
4.砂鉄
5.クッキング・ララ feat.DJみそしるとMCごはん
6.惚たる蛍
7.染まるよ
-転換-
8.majority blues feat.チャットモンチーアンサンブル
9.ウィークエンドのまぼろし feat.チャットモンチーアンサンブル
10.たとえば feat.チャットモンチーアンサンブル
11.東京ハチミツオーケストラ feat.チャットモンチーアンサンブル,恒岡章
12.さよならGoodbye feat.恒岡章
13.どなる、でんわ、どしゃぶり feat.恒岡章
14.Last Love Letter feat.恒岡章
15.真夜中遊園地 feat.恒岡章
16.ハナノユメ feat.チャットモンチーアンサンブル,恒岡章
encore
17.シャングリラ feat.恒岡章
18.風吹けば恋 feat.恒岡章
19.サラバ青春
たったさっきから3000年までの話
https://youtu.be/z3oquceNwh4
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